説明

電動工具

【課題】往復運動に伴う振動を抑制しつつ、その往復運動の運動量を有効活用することで、被削材に対する刃物の作用を高めることができる電動工具を提供する。
【解決手段】刃物2が取り付けられる一方のスライダ9と、カウンターウェイトとしての他方のスライダ10とが逆位相で往復運動することで、往復運動に伴う振動が抑制される。また、一方のスライダ9と他方のスライダ10とが、運動の方向と直交する方向で離間する位置に配置され、一方のスライダ9及び刃物2の運動による回転モーメントと、他方のスライダ10の運動による回転モーメントとが、一方のスライダ9及び刃物2の往復運動のうち、刃物2を被削材に作用させる方向での運動中に、被削材に向かって作用するようにすることで、被削材に対する刃物の作用が高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ等の駆動源による回転運動を往復運動に変換する往復運動機構を備えたレシプロソー、ジグソー等の電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動工具として、例えば特許文献1に記載されたものが提案されている。これは、モータ等の駆動源によって回転される回転スリーブが設けられ、該回転スリーブに一対のスライダが回転規制状態で内挿及び外装され、回転スリーブと各スライダとが、何れか一方に一体に設けられるボールと、他方に設けられてボールが嵌合し、回転スリーブの軸線に対して傾斜する環状溝とを介して連結されるものである。
【0003】
かかる構成によれば、回転スリーブの回転に伴って環状溝内をボールが移動することで、回転スリーブに内挿された一方のスライダが往復運動し、これに伴い、該一方のスライダに取り付けられた刃物(鋸)が往復運動する一方、回転スリーブに外装された他方のスリーブが一方のスライダと逆位相で往復運動する。このため、一方のスライダ及び刃物の運動量とカウンターウェイトとしての他方のスライダの運動量とが互いに打ち消し合い、これにより、一方のスライダ及び刃物の往復運動に伴う振動を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−291762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された電動工具は、一対のスライダが筒状体の同軸上で往復運動するため、省スペースによるコンパクト化を図ることができる。しかしながら、かかる電動工具が達成できる効果はこれにとどまる。
【0006】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたもので、往復運動に伴う振動を抑制しつつ、その往復運動の運動量を有効活用することで、被削材に対する刃物の作用を高めることができる電動工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、駆動源によって回転される回転軸と、回転規制状態で設けられる一対のスライダとを備え、回転軸と各スライダとが、何れか一方に設けられるボールと、他方に設けられてボールが嵌合し、回転軸の軸線に対して傾斜する環状溝とを介して連結され、回転軸が回転することで、刃物が取り付けられる一方のスライダと、カウンターウェイトとしての他方のスライダとが逆位相で往復運動するよう構成される電動工具において、一方のスライダ及び刃物の運動による回転モーメントと、他方のスライダの運動による回転モーメントとが、一方のスライダ及び刃物の往復運動のうち、刃物を被削材に作用させる方向での運動中に、被削材に向かって作用するよう、一方のスライダと他方のスライダとが、運動の方向と直交する方向で離間する位置に配置されることを特徴とする。
【0008】
かかる構成によれば、刃物が取り付けられる一方のスライダと、カウンターウェイトとしての他方のスライダとが逆位相で往復運動することで、一方のスライダ及び刃物の運動量と他方のスライダの運動量とが互いに打ち消し合う。これにより、一方のスライダ及び刃物の往復運動に伴う振動を抑制することができる。
【0009】
また、一方のスライダと他方のスライダとが、運動の方向と直交する方向で離間する位置に配置され、一方のスライダ及び刃物の運動による回転モーメントと、他方のスライダの運動による回転モーメントとが、一方のスライダ及び刃物の往復運動のうち、刃物を被削材に作用させる方向での運動中に、被削材に向かって作用するようにすることで、刃物を被削材に作用させる際、回転モーメントの作用が加えられる。これにより、被削材に対する刃物の作用を高めることができる。
【0010】
ここで、本発明においては、刃物は、引き切り鋸であり、一方のスライダが被削材側となるように配置される構成を採用することができる。かかる構成によれば、一方のスライダ及び刃物の運動による回転モーメントと、他方のスライダの運動による回転モーメントとが、刃物が被削材を引き切る方向での運動中に、被削材に向かって作用することで、刃物が被削材を引き切る際、被削材の切削部分に対する刃物の荷重が増す。これにより、刃の掛かり具合(食い込み具合)が良くなり、切削性を向上することができる(被削材に対する刃物の作用を高めることができる)。
【0011】
また、本発明においては、環状溝が回転軸の外周に形成され、一方のスライダに設けられるボールと他方のスライダに設けられるボールとが同じ環状溝の反対位置に配置されるようにして、一方のスライダと他方のスライダとが回転軸を挟んで反対位置に配置される構成を採用するのが好ましい。かかる構成によれば、一方のスライダと他方のスライダとを一つの環状溝で往復運動させることができ、構造が簡単になるため、製造コストを低減することができ、また、メンテナンス、修理を容易に行うことができる。
【0012】
また、本発明においては、環状溝は、回転軸の軸線方向における一端から他端までの形状と、他端から一端までの形状とが非対称となるように形成される構成を採用することができる。かかる構成によれば、一方のスライダ及び他方のスライダの往復運動の設計の自由度を高め、より良い切削条件を追求することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上、本発明によれば、往復運動に伴う振動を抑制しつつ、その往復運動の運動量を有効活用することで、被削材に対する刃物の作用を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る電動工具としてのレシプロソーの一部断面を含む側面図を示す。
【図2】同レシプロソーの要部であって、(a)は、一部断面を含む側面図、(b)は、下面図、を示す。
【図3】同レシプロソーにおける回転軸であって、(a)は、上面図、(b)は、側面図、を示す。
【図4】同レシプロソーの要部の一部断面を含む側面図であって、(a)は、鋸刃が押された状態、(b)は、鋸刃が引かれた状態、を示す。
【図5】同レシプロソーにおける回転軸の外周に形成される環状溝のプロフィール、即ち、回転軸の回転角度と鋸刃のストローク量(回転軸の軸線方向における環状溝の変位量)との関係を表すグラフであって、(a)、(d)は、回転軸の軸線方向における環状溝の一端から他端までの形状と、他端から一端までの形状とが対称となるパターン、(b)、(c)は、非対称となるパターン、を示す。
【図6】他実施形態に係るレシプロソーの一部断面を含む側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電動工具の一実施形態として、切削工具であるレシプロソーについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係るレシプロソーは、図1に示す如く、一方向に伸びる本体部1と、該本体部1の先端に取り付けられ、本体部1が伸びる方向に沿って往復運動する刃物としての鋸刃2とを備える。本体部1は、大きく分けると、基端部1aと、該基端部1aに接続される中間部1bと、該中間部1bに接続される先端部1cとで構成される。
【0017】
基端部1aは、モータ3の本体部3aを収容する。より詳しくは、基端部1aは、モータ3の駆動軸3bの軸線が、本体部1が伸びる方向に沿って配置されるよう、モータ3の本体部3aを収容する。また、基端部1aからは、電源コード4が延出され、該電源コード4を介して電源(家庭用電源や工業用電源)から電力供給を受けて、モータ3が駆動する。
【0018】
中間部1bは、モータ3の駆動軸3bと、該駆動軸3bに接続される中間軸5とを収容する。より詳しくは、中間部1bは、モータ3の駆動軸3bの軸線が、本体部1が伸びる方向に沿って配置されるよう、モータ3の駆動軸3bを収容し、また、中間軸5の軸線が、本体部1が伸びる方向に沿って配置されるよう、中間軸5を収容する。中間軸5は、その軸線がモータ3の駆動軸3bの軸線と一致するように配置される。即ち、中間軸5は、モータ3の駆動軸3bと同軸で回転する。
【0019】
中間部1bは、本体部1を作業者が持つ際のグリップ部にもなっている。このため、中間部1bの外形状は、人間工学的に握りやすい形状となっている。また、中間部1bの先端には、スイッチ6が設けられる。スイッチ6は、作業者が、鋸刃2の刃が下を向くようにして(鋸刃2の刃が作業者から遠ざかる方向に位置するようにして)本体部1(中間部1b)を握った際、作業者の指先にスイッチ6が掛かるよう、本体部1(中間部1b)の下側向き(鋸刃2の刃側の向き)に設けられる。
【0020】
先端部1cは、往復運動機構7を収容する。該往復運動機構7は、図2にも示す如く、中間軸5に接続される回転軸8と、回転規制状態で設けられる第一スライダ9と、同じく回転規制状態で設けられる第二スライダ10とを備える。より詳しくは、先端部1cは、回転軸8の軸線が、本体部1が伸びる方向に沿って配置されるよう、回転軸8を収容し、また、第一スライダ9の軸線が、本体部1が伸びる方向に沿って配置されるよう、第一スライダ9を収容し、また、第二スライダ10の軸線が、本体部1が伸びる方向に沿って配置されるよう、第二スライダ10を収容する。回転軸8は、その軸線がモータ3の駆動軸3bの軸線(及び中間軸5の軸線)と一致するように配置される。即ち、回転軸8は、モータ3の駆動軸3b(及び中間軸5)と同軸で回転する。
【0021】
第一スライダ9及び第二スライダ10は、いずれもブロック状であり、本体部1が伸びる方向(即ち、鋸刃2が往復運動する方向)と直交する方向で(平行に)離間する位置に配置される。より詳しくは、第一スライダ9及び第二スライダ10は、回転軸8を挟んで反対位置に配置される。好ましくは、第一スライダ9及び第二スライダ10は、回転軸8を中心として対称位置に配置される。さらに詳しくは、回転軸8に対し、第一スライダ9は、被削材に近い方に配置され、第二スライダ10は、被削材から遠い方に配置される。
【0022】
第一スライダ9の一面(回転軸8側の面)には、略半球状に凹設された凹部にボール11が配置される。第二スライダ10の一面(回転軸8側の面)にも、略半球状に凹設された凹部にボール12が配置される。一方、回転軸8の外周には、環状溝8aが形成される(図3参照)。そして、ボール11,12が環状溝8aに嵌合することで、回転軸8と各スライダ9,10とが作動的に連結される。
【0023】
環状溝8aは、回転軸8の軸線に対して傾斜するように形成される。より詳しくは、環状溝8aは、回転軸8の軸線方向における環状溝8aの一端(環状溝8aの接線が回転軸8の軸線方向と直交する方向となる点、以下、便宜上、「上死点」ということがある)から他端(環状溝8aの接線が回転軸8の軸線方向と直交する方向となるもう一つの点、以下、便宜上、「下死点」ということがある)までの形状と、他端から一端までの形状とが対称となるプロフィールを有する(図5(a)参照)。従って、ボール11とボール12は、環状溝8aの反対位置に配置される。
【0024】
第一スライダ9には、その軸線方向に沿って貫通孔が形成され、刃物取付部材13の軸部13aが挿通される。そして、例えば、第一スライダ9に螺合するビス(図示しない)を締め込むことにより、第一スライダ9が刃物取付部材13の軸部13aに固定される。また、刃物取付部材13の軸部13aは、離間した二箇所で、先端部1cに内挿、固定された軸受(メタルブッシュ)14,15によりスライド自在に支持される。即ち、刃物取付部材13の軸部13aは、本体部1(の先端部1c)内の離間する位置に配置される一対の軸受14,15を介して、本体部1(の先端部1c)にスライド自在に支持される。従って、回転軸8の回転に伴って環状溝8a内をボール11が移動することで、第一スライダ9及び該第一スライダ9と一体化された刃物取付部材13は、本体部1が伸びる方向に沿って往復運動する。
【0025】
刃物取付部材13の軸部13aは、先端側が先端部1cから突出する長さとなっている。より詳しくは、先端部1cの先端に抜け止め用ブッシュ16が取り付けられ、該抜け止め用ブッシュ16に形成された挿通孔に刃物取付部材13の軸部13aが挿通された状態で、刃物取付部材13の軸部13aの先端側が先端部1cから突出する。刃物取付部材13の軸部13aの突出量は、第一スライダ9が最も引かれた位置、即ち、第一スライダ9が先端部1cの先端から最も離れた位置において最小となる。
【0026】
刃物取付部材13の軸部13aの先端には、取付具13bが取り付けられる。該取付具13bは、鋸刃2の根本部分を挿入するためのスリット(図示しない)と、該スリットに鋸刃2の根本部分が挿入された状態で、鋸刃2を固定するための固定ネジ13cとを備える。取付具13bは、幅サイズが大きくならないよう、幅方向に偏平状に形成される(図2(b)参照)。
【0027】
第二スライダ10には、その軸線方向に沿って貫通孔が形成され、該貫通孔に軸受(メタルブッシュ)17が装着される。また、第二スライダ10のためのガイド軸18は、軸受17に挿通され、両端が先端部1c内の要素によって支持、固定されるようにして、先端部1cに内挿される。従って、回転軸8の回転に伴って環状溝8a内をボール12が移動することで、第二スライダ10は、ガイド軸18に沿って(即ち、本体部1が伸びる方向に沿って)往復運動する。しかも、上述の如く、第一スライダ9のボール11と第二スライダ10のボール12とが環状溝8aの反対位置に配置されるため、第二スライダ10は、第一スライダ9と逆位相で往復運動する。
【0028】
尚、中間軸5と回転軸8との間に減速部19が設けられる。このため、回転軸8は、モータ3の駆動軸3bよりも低速で回転する。これにより、第一スライダ9及び第二スライダ10、並びに、第一スライダ9に(刃物取付部材13を介して)着脱自在に取り付けられる鋸刃2を所望の速度で往復運動させることができる。減速部19は、中間軸5の軸線周りに配置される複数の遊星ギア19a,…からなり、該遊星ギア19a,…は、回転軸8の基端に形成されたハウジング部8b(図3参照)内に配置される。
【0029】
因みに、符号20の構成は、本体部1の先端部1cの先端、より正確には、抜け止め用ブッシュ16に取り付けられる、鋸刃2のガードバーである。符号21の構成は、本体部1(の先端部1c)内において、回転軸8(の先端及び基端)を回転自在に支持し、且つ、回転軸8の軸線方向の移動を規制するための軸受(ベアリング)である。符号22の構成は、本体部1(の先端部1c)内において、中間軸5(の先端)を回転自在に支持するための軸受(ベアリング)である。符号23の構成は、本体部1(の基端部1aあるいは中間部1b)内において、モータ3の駆動軸3bを回転自在に支持し、且つ、回転軸8の軸線方向の移動を規制するための軸受(ベアリング)である。
【0030】
以上のとおり、本実施形態に係るレシプロソーによれば、回転軸8が半回転(0〜180度回転)する間は、第一スライダ9、刃物取付部材13及び鋸刃2が往動する一方、これらの運動量に見合った第二スライダ10が反対方向に往動する。また、回転軸8がもう半回転(180〜360度回転)する間は、第一スライダ9、刃物取付部材13及び鋸刃2が復動する一方、第二スライダ10が反対方向に復動する。即ち、鋸刃2が(刃物取付部材13を介して)取り付けられる第一スライダ9と、カウンターウェイトとしての第二スライダ10とが逆位相で往復運動することで、第一スライダ9(、刃物取付部材13)及び鋸刃2の運動量と第二スライダ10の運動量とが互いに打ち消し合う。このため、本実施形態に係るレシプロソーによれば、第一スライダ9(、刃物取付部材13)及び鋸刃2の往復運動に伴う振動を抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態に係るレシプロソーによれば、図4に示す如く、第一スライダ9が被削材Xに近い方に配置され、第二スライダ10が被削材Xから遠い方に配置されるため、鋸刃2を被削材Xに作用させる方向での運動中、即ち、鋸刃2が被削材Xを引き切る方向での運動中(図4(a)から図4(b)に移行する過程)に、第二スライダ10よりも本体部1の先端側に位置する第一スライダ9(、刃物取付部材13)及び鋸刃2の運動による回転モーメントM1と、第一スライダ9よりも本体部1の基端側に位置する第二スライダ10の運動による回転モーメントM2との合成回転モーメントM3が、被削材Xに向かって作用する。即ち、鋸刃2が被削材Xを引き切る際、被削材Xの切削部分に対する鋸刃2の荷重が増す。このため、本実施形態に係るレシプロソーによれば、往復運動の運動量(回転モーメントM1,M2)を合成回転モーメントM3という形で有効活用することで、鋸刃2の掛かり具合(食い込み具合)が良くなり、切削性を向上することができる。
【0032】
そして、鋸刃2が被削材Xを引き切る際、被削材Xの切削部分に対する鋸刃2の荷重が増すため、作業者が鋸刃2を被削材Xに押え付ける力を緩めることができ、作業者の疲労を低減することができる。
【0033】
また、本実施形態に係るレシプロソーによれば、第一スライダ9が被削材Xに近い方に配置され、第二スライダ10が被削材Xから遠い方に配置されるため、鋸刃2を被削材Xに作用させる方向と反対の方向での運動中、即ち、鋸刃2が被削材Xを引き切る前の状態に戻される方向での運動中(図4(b)から図4(a)に移行する過程)に、第二スライダ10よりも本体部1の基端側に位置する第一スライダ9(、刃物取付部材13)及び鋸刃2の運動による回転モーメントM1’と、第一スライダ9よりも本体部1の先端側に位置する第二スライダ10の運動による回転モーメントM2’との合成回転モーメントM3’が、被削材Xから離れる方向に作用する。即ち、鋸刃2が被削材Xを引き切る前の状態に戻される際、被削材Xの切削部分に対する鋸刃2の荷重が大幅に減るか若しくは無くなる。このため、本実施形態に係るレシプロソーによれば、作業者へのキックバック(鋸刃2が被削材Xに引っ掛かり、その反力で鋸刃2が作業者側に跳ね返る現象)を低減するか若しくは無くすことができる。
【0034】
そして、鋸刃2が被削材Xを引き切る前の状態に戻される際、被削材Xの切削部分に対する鋸刃2の荷重が大幅に減るか若しくは無くなるため、モータ3に対する負荷を低減し、消費電力を抑えることができる。
【0035】
また、本実施形態に係るレシプロソーによれば、第一スライダ9に設けられるボール11と第二スライダ10に設けられるボール12とが同じ環状溝8aの反対位置に配置されるようにして、第一スライダ9と第二スライダ10とが回転軸8を挟んで反対位置に配置されるため、第一スライダ9と第二スライダ10とを一つの環状溝8で往復運動させることができ、構造が簡単になる。このため、本実施形態に係るレシプロソーによれば、製造コストを低減することができ、また、メンテナンス、修理を容易に行うことができる。
【0036】
また、本実施形態に係るレシプロソーによれば、第一スライダ9、回転軸8及び第二スライダ10が、鋸刃2が往復運動する方向と直交する方向に沿った面上に並ぶ配置となっているため、図2(b)から明らかなように、先端部1cの幅サイズが小さく、幅方向に偏平状に形成される。このため、被削材の切削部分の近傍に例えば壁があり(壁際に被削材の切削部分が位置し)、壁に先端部1cが当たるような環境であっても、被削材を円滑に切削することができる。これに対し、上記特許文献1に記載された電動工具であれば、回転スリーブに一対のスライダが回転規制状態で内挿及び外装されるため、先端部の幅サイズが大きくなる。このため、先端部が壁に当たって邪魔になり、鋸刃2を大きく曲げる等しないと壁際の被削材を切削することができず、切削作業が円滑に進まないという問題がある。
【0037】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態では、引き切り鋸が用いられるため、第一スライダ9が被削材Xに近い方に配置され、第二スライダ10が被削材Xから遠い方に配置されるが、第一スライダ9が被削材Xから遠い方に配置され、第二スライダ10が被削材Xに近い方に配置されることで、押し切り鋸を採用することができる。
【0039】
また、上記実施形態では、一つの環状溝8によって第一スライダ9と第二スライダ10とが逆位相で往復運動するようになっているが、第一スライダ9用と第二スライダ10用のそれぞれ別々の環状溝が回転軸8の外周に形成されるようにしてもよい。かかる構成によれば、第一スライダ9の往復運動(刃物の往復運動)と、第二スライダ10の往復運動とを、別々にして(独立的に)設計することができ、設計の自由度を高めることができる。但し、構造が複雑になり、高い部品精度が要求され、製造コストが上がり、メンテナンス、修理が複雑になる等の理由で、一つの環状溝8によって第一スライダ9と第二スライダ10とが往復運動する構成の方が好ましい。
【0040】
また、上記実施形態では、図5(a)に示す如く、環状溝8aの形状として、上死点から下死点までの形状と、下死点から上死点までの形状とが対称となるプロフィールが採用されるが、図5(b)に示す如く、上死点が下死点と反対位置(180度位置)から一方側にシフトするようなプロフィールであってもよい。かかる構成によれば、鋸刃2を被削材に作用させる方向と反対の方向での運動、即ち、鋸刃2が被削材を引き切る前の状態に戻される方向での運動(図4(b)から図4(a)に移行する過程:押し切り時)は、図5(a)の標準パターンに比べ、移動時間が短くなるため、移動速度が速くなり、その反対方向での運動(図4(a)から図4(b)に移行する過程:引き切り時)は、図5(a)の標準パターンに比べ、移動時間が長くなるため、移動速度が遅くなる。このため、引き切り時の屑吐け性が良い。また、軽切削の場合、押し切り時の切削性能が高い。重切削の場合は、引き切り時の速度が標準パターンに比べて遅くなるものの、トルクが高いため、切削性能が高い。
【0041】
逆に、図5(c)に示す如く、上死点が下死点と反対位置(180度位置)から他方側にシフトするようなプロフィールであってもよい。かかる構成によれば、鋸刃2を被削材に作用させる方向での運動、即ち、鋸刃2が被削材を引き切る方向での運動(図4(a)から図4(b)に移行する過程:引き切り時)は、図5(a)の標準パターンに比べ、移動時間が短くなるため、移動速度が速くなり、その反対方向での運動(図4(b)から図4(a)に移行する過程:押し切り時)は、図5(a)の標準パターンに比べ、移動時間が長くなるため、移動速度が遅くなる。このため、軽切削の場合、引き切り時の切削性能が高い。重切削の場合は、押し切り時の速度が標準パターンに比べて遅くなるものの、トルクが高いため、切削性能が高い。
【0042】
尚、本実施形態に係るレシプロソーでは、モータ3を正転させて鋸刃2を往復運動させることができるし、モータ3を逆転させて鋸刃2を往復運動させることもできる。従って、図5(c)のプロフィールは、図5(b)のプロフィールにおいて、モータ3を逆転させる場合と同じとなる。
【0043】
または、図5(d)に示す如く、回転軸8の回転角度に対するストローク量の変化率が大きくなるプロフィールであってもよい。かかる構成によれば、鋸刃2を被削材に作用させる方向での運動、即ち、鋸刃2が被削材を引き切る方向での運動(図4(a)から図4(b)に移行する過程:引き切り時)も、その反対方向での運動(図4(b)から図4(a)に移行する過程:押し切り時)も、図5(a)の標準パターンに比べ、移動時間が短くなるため、移動速度が速くなる。このため、軽切削の場合、切削性能が高い。また、上死点及び下死点(運動方向の転換点)の前後において移動速度が十分に落ちているため、上死点及び下死点(運動方向の転換点)において環状溝がボールから受ける衝撃が低減され、耐久性が向上する。
【0044】
また、上記実施形態では、図5(a)に示す如く、環状溝8aの形状として、上死点から下死点までの形状、下死点から上死点までの形状が、それぞれ、点対称となるプロフィールが採用されるため、運動の加速時の加速度の絶対値と、減速時の加速度の絶対値とが同じ値となるが、加速時の加速度(の絶対値)が減速時の加速度(の絶対値)よりも大きくなるようにしたり、逆に、減速時の加速度(の絶対値)が加速時の加速度(の絶対値)よりも大きくなるようにしてもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、第二スライダ10をガイドするガイド軸18は、両端が先端部1c内の要素によって支持、固定されるようになっているが、ガイド軸18が固定されず、第一スライダ10と刃物取付部材13の軸部13aとの関係と同様、第二スライダ10にガイド軸18が固定され、第二スライダ10と共にガイド軸18が往復運動するようにしてもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、減速部19が中間軸5と回転軸8との間に配置されるが、図6に示す如く、図1の中間軸5に相当する基端側部分8cと、図1の回転軸8に相当する先端側部分8dとが一体化した回転軸8を採用し、モータ3の駆動軸3bと回転軸8との間に減速部19が配置されるようにしてもよい。かかる構成によれば、軸の周りに遊星ギア19a,…が配置されるためにどうしても幅サイズが大きくなってしまう減速部19が本体部1の先端部1cからさらに離れるため、先端部1cの偏平形状がさらに延長されることとなり、この分、壁際の被削材の切削作業等をさらに円滑に行うことができる。
【符号の説明】
【0047】
1…本体部、1a…基端部、1b…中間部、1c…先端部、2…鋸刃(刃物)、3…モータ(駆動源)、3a…本体部、3b…駆動軸、4…電源コード、5…中間軸、6…スイッチ、7…往復運動機構、8…回転軸、8a…環状溝、8b…ハウジング部、8c…基端側部分、8d…先端側部分、9…第一スライダ(一方のスライダ)、10…第二スライダ(他方のスライダ)、11,12…ボール、13…刃物取付部材、13a…軸部、13b…取付具、13c…固定ネジ、14,15…軸受、16…抜け止め用ブッシュ、17…軸受、18…ガイド軸、19…減速部、19a…遊星ギア、20…ガードバー、21〜23…軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源によって回転される回転軸と、回転規制状態で設けられる一対のスライダとを備え、回転軸と各スライダとが、何れか一方に設けられるボールと、他方に設けられてボールが嵌合し、回転軸の軸線に対して傾斜する環状溝とを介して連結され、回転軸が回転することで、刃物が取り付けられる一方のスライダと、カウンターウェイトとしての他方のスライダとが逆位相で往復運動するよう構成される電動工具において、一方のスライダ及び刃物の運動による回転モーメントと、他方のスライダの運動による回転モーメントとが、一方のスライダ及び刃物の往復運動のうち、刃物を被削材に作用させる方向での運動中に、被削材に向かって作用するよう、一方のスライダと他方のスライダとが、運動の方向と直交する方向で離間する位置に配置されることを特徴とする電動工具。
【請求項2】
刃物は、引き切り鋸であり、一方のスライダが被削材側となるように配置される請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
環状溝が回転軸の外周に形成され、一方のスライダに設けられるボールと他方のスライダに設けられるボールとが同じ環状溝の反対位置に配置されるようにして、一方のスライダと他方のスライダとが回転軸を挟んで反対位置に配置される請求項1又は請求項2に記載の電動工具。
【請求項4】
環状溝は、回転軸の軸線方向における一端から他端までの形状と、他端から一端までの形状とが非対称となるように形成される請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−218082(P2012−218082A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83520(P2011−83520)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000006943)リョービ株式会社 (471)
【Fターム(参考)】