説明

電動弁のトルク調整用アダプタ及び該アダプタを用いたトルク調整方法

【課題】電動弁のトルク調整を、電気品箱を開く作業を伴うことなく、電動弁の外部から簡単に行うことを可能とするトルク調整用アダプタ、及びこのアダプタを用いたトルク調整方法を提案する。
【解決手段】電動弁の弁体駆動部の外端面に取付けられるアダプタの内部に、スプリングカートリッジの圧縮方向の一端側を支持する支持体を設けるとともに、該支持体をアダプタの外部から変更手段により変更可能とする。係る構成によれば、電動弁のトルクの調整を、弁体駆動部の外端面に取付けられたアダプタに設けられた変更手段を外部から操作することで行うことができ、例えば、電気品箱を開いて、その内部に収納配置されたトルクスイッチを調整する手法に比して、トルクの調整作業を、より簡単な作業で、迅速且つ容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動弁のトルクの調整を外部から行い得るようにしたトルク調整用アダプタ、及びこのアダプタを用いたトルク調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動弁においては、配管内通路を開閉する弁体と、モータにより回転駆動されるウォームと、該ウォームの回転力を受けて前記弁体を開閉作動させる弁体駆動部と、複数枚の皿バネを予め所定の圧縮力を付与した状態(このときの圧縮力を「張込荷重」という)で組付けて構成され、前記弁体側から前記ウォームの軸方向に作用する反力により圧縮されるスプリングカートリッジを備え、前記弁体駆動部に付与される回転力によって前記弁体を開閉させる一方、前記スプリングカートリッジの圧縮量が予め設定した圧縮量(「設定トルク」に対応する圧縮量)に達した時点で、トルクスイッチが作動して前記モータを停止させるように構成されている(特許文献1、特許文献2 参照)。
【0003】
そして、このようにトルクスイッチによって前記モータが強制的に停止されることで、開弁及び閉弁状態における適正な弁体保持力が確保され信頼性の高い弁機能が担保されるとともに、弁体側への過大な入力が阻止され弁体駆動系の損傷が未然に防止され、さらにモータの過負荷運転が防止される、等の効果が得られるものである。
【0004】
ところで、上述のように、電動弁においては、その弁機能の確保上、設定トルク(即ち、スプリングカートリッジが圧縮されその圧縮量が所定値に達してトルクスイッチが作動し、ウォーム駆動用モータの運転が停止された時点において、ウォームホイールにかかっているトルクであって、例えば、閉弁時にあっては弁体がバルブシートに押付けられてそのまま保持されているときの締付トルク)が適正に維持されることが最も重要である。
【0005】
しかし、この設定トルクは、スプリングカートリッジの張込荷重の変化や、スプリングカートリッジの取替え時とか分解を伴うメンテナンス時における組付誤差や、該スプリングカートリッジの圧縮に伴って作動するトルクスイッチの作動特性の変化等によって経年的に変化する可能性のあるものである。
【0006】
例えば、スプリングカートリッジの張込荷重の変化に関しては、図7に示す電動弁の閉作動時のトルク曲線を参照して説明すれば、以下の通りである。即ち、同図に実線図示するトルク曲線L2は当初設定の適正なトルク曲線であり、スプリングカートリッジ圧縮量の増大変化に伴ってトルクが増大変化するもので、トルクT02がスプリングカートリッジの張込荷重に対応している。そして、スプリングカートリッジにかかる圧縮力が張込荷重に達した時点(トルクT02の時点)から実際にスプリングカートリッジの圧縮が開始され、その圧縮量がS2に達した時点でトルクスイッチが作動する。このときのトルクT2が設定トルクであり、且つ弁体の締付トルクである。
【0007】
ここで、張込荷重がトルクT02に対応する荷重からトルクT01に対応する荷重まで減少変化した場合には、トルク曲線はL2からL1に変化する。そして、スプリングカートリッジ圧縮量S2の位置でトルクスイッチが作動したとき、本来はトルクがT2であるべきところが、T1となり、設定トルクがT2からT1へ減少変化し、その結果、弁体の締切トルクが不足して、例えば、漏水等の問題の発生が懸念されることになる。
【0008】
また、張込荷重がトルクT02に対応する荷重からトルクT03に対応する荷重まで増大変化した場合には、トルク曲線はL2からL3に変化する。そして、ウォーム移動量S2の位置でトルクスイッチが作動したとき、本来はトルクがT2であるべきところが、T3となり、設定トルクがT2からT3へ増大変化し、その結果、設定トルクが過大となり、例えば、バルブシートへの弁体の噛付きとか、弁体駆動系の損壊の発生等が懸念されることになる。
【0009】
このような張込荷重の低下の原因としては、例えば、メンテナンス時におけるスプリングカートリッジの張込荷重の設定(即ち、スプリングカートリッジの初期圧縮量の設定)が不適当であった場合とか、長期の使用中において皿バネが摩滅し、スプリングカートリッジの初期圧縮量の設定は維持されているにも拘わらず、同一圧縮力に対応する各皿バネの圧縮変形量が減少した場合、等が考えられる。
【0010】
一方、トルクスイッチの作動特性の変化に関しては、図8に示す電動弁の閉作動時のトルク曲線を参照して説明すれば、以下の通りである。即ち、トルクスイッチがスプリングカートリッジ圧縮量S1の位置で作動したときには設定トルクはT1となり(第1の作動特性)、トルクスイッチがスプリングカートリッジ圧縮量S2の位置で作動したときには設定トルクはT2となり(第2の作動特性)、さらにトルクスイッチがスプリングカートリッジ圧縮量S3の位置で作動したときには設定トルクはT3となる(第3の作動特性)。
【0011】
ここで、例えば、当初設定の作動特性が前記「第2の作動特性」であったとすると、前記「第1の作動特性」では、設定トルクが減少変化し、弁体の締切トルクが不足して、例えば、漏水等の問題の発生が懸念されることになる。また、前記「第3の作動特性」では、設定トルクが増大変化してこれが過大となり、例えば、バルブシートへの弁体の噛付きとか、弁体駆動系の損壊の発生等が懸念されることになる。
【0012】
このようなトルクスイッチの作動特性の変化の原因としては、例えば、トルクスイッチの作動点(即ち、ウォーム軸の軸方向変位を受けてトルクスイッチの作動子が変位し、接点が閉成又は開成される場合の作動タイミングであって、スプリングカートリッジの圧縮量で規定される)の設定が経年的に変化した場合や、当初設定時点での調整が不適当であった場合(即ち、トルクスイッチの内部調整に起因するもの)のほか、特にトルクスイッチとしてレバー式のトルクスイッチ(例えば、特許文献3、特許文献4参照)を採用したものにあっては、該トルクスイッチとこれに係合するウォーム側の係合部との相対位置の設定が当初から不適切であった場合とか、当初の設定状態から経年的に変化した場合(即ち、トルクスイッチの取付精度に起因するもの)等が考えられる。
【0013】
ここで、レバー式のトルクスイッチを用いた場合における該トルクスイッチとウォーム側の係合部との相対位置関係について、図9を参照して説明すると、以下の通りである。即ち、図9において、符号41はウォームであり、該ウォーム41には凹溝状の係合部42が設けられている。そして、この係合部42には、トルクスイッチの作動子50が係入されている。この作動子50は、前記ウォームがその軸方向へ移動することに伴って、前記係合部42と係合して矢印A−B方向へ傾動され、該各方向への傾動量が所定値に達した時点(即ち、前記スプリングカートリッジが所定の圧縮量になった時点)で接点を開成あるいは閉成させてウォーム駆動用モータを停止させるようになっている。
【0014】
そして、前記ウォームが中立位置(即ち、ウォームが閉作動方向と開作動方向の何れの方向へも動いていないときの位置)にあるとき、前記作動子50は同図に実線図示するように前記係合部42の略中央位置に位置設定されているのが適正であるが、これが誤って、例えば、符号50a1を付した鎖線図示位置、あるいは符号50a2を付した鎖線図示位置に設定されていたとすれば、例えば閉作動時においては、前者の設定ではウォームの移動に対してトルクスイッチの作動点が遅れ側(即ち、スプリングカートリッジ圧縮量増大側)に変化し、逆に後者の設定では作動点が進み側(即ち、スプリングカートリッジ圧縮量減少側)に変化し、これら何れの場合にも、設定トルクの変化を招来するものである。
【0015】
一方、トルクスイッチは、特許文献1及び特許文献5に示されるように、電動弁の弁体駆動部の側方に設けられた電気品箱内に収納された状態で設けられるのが通例である。
【0016】
【特許文献1】特開平7―310845号公報
【特許文献2】特開2003―161661号公報
【特許文献3】特開平1―6547号公報
【特許文献4】特開2001ー336598号公報
【特許文献5】特開平9―15099号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上のように、電動弁においては、設定トルクに変化が生じた場合には、これを調整して適正化することが必要となる。また、この他に、設定トルクに変化は生じていないが、何らかの外的要因によって、設定トルクを変更することが必要になる場合もある。これら何れの場合にも、トルクスイッチ側の調整によってトルク調整を行うのが通例であった。
【0018】
例えば、スプリングカートリッジの張込荷重の変化に起因して設定トルクに変化が生じた場合であるが、この場合には、本来なれば、スプリングカートリッジを電動弁から取り外して張込荷重を直接的に調整するべきであるが、このような調整作業は体駆動部の分解・組立を伴うもので、作業コスト的に好ましくなく、このため一般には、トルクスイッチの作動点を変化させることで対処していた。
【0019】
具体的には、張込荷重がT02からT01へ減少変化した場合には、図7に示すように、トルクスイッチの作動点を、スプリングカートリッジ圧縮量S2からS3へ変化させて設定トルクT2を確保するようにし、また逆に、張込荷重がT02からT03へ増大変化した場合には、トルクスイッチの作動点を、スプリングカートリッジ圧縮量S2からS1へ変化させて設定トルクT2を確保するようにしている。
【0020】
一方、トルクスイッチの作動特性の不適切に起因して設定トルクに変化が生じた場合には、図8に示すように、トルクスイッチの作動点を、スプリングカートリッジ圧縮量S1からS2へ、あるいはスプリングカートリッジ圧縮量S3からS2へ、それぞれ変更することで、これら何れの場合においても適正な設定トルクT2が得られるようにするのが通例である。
【0021】
ところが、このように設定トルクの変化を、トルクスイッチ側の調整によって回復させる手法によれば、目視や経験によるため、その調整作業が煩雑で、作業コストが高くつくという問題があった。即ち、上述のように、一般に、トルクスイッチは、電動弁の弁体駆動部の側方に設けられた電気品箱内に収納された状態で設けられているため、トルクスイッチの調整を行う場合には、電気品箱の蓋を開いて行う必要がある。しかし、このように電気品箱の蓋を開いてトルクスイッチの調整を行う作業においては、作業に際しては電気信号の地絡や短絡を防止する必要があること、さらに、電気品箱にはトルクスイッチのみならず、他の各種電気品も納められておりその形状が大きく、蓋も大形で且つ大重量であること、等のことから、作業が煩雑で、作業性が悪く、作業コストが高くつくことになる。
【0022】
そこで本願発明では、電動弁のトルク調整を、電気品箱を開く作業を伴うことなく、電動弁の外部から簡単に行うことを可能とするトルク調整用アダプタ、及びこのアダプタを用いたトルク調整方法を提案することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本願発明では、かかる課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0024】
本願の第1の発明に係る電動弁のトルク調整用アダプタは、回転駆動力が付与されたウォームの回転駆動力を利用して弁体を開閉駆動する弁体駆動部と、該弁体駆動部の前記弁体側から前記ウォームの軸方向に作用する反力により圧縮されるスプリングカートリッジを備えた電動弁の前記弁体駆動部の外端面に取付けられるアダプタであって、該アダプタの内部にその軸方向へ移動可能に取付けられてその前端により前記スプリングカートリッジの圧縮方向の一端側を支持する支持体と、前記スプリングカートリッジの圧縮方向における前記支持体の前端位置を前記アダプタの外部から変更可能とする変更手段を備えたことを特徴としている。
【0025】
本願の第2の発明に係る電動弁のトルク調整用アダプタは、前記第1の発明に係るトルク調整用アダプタにおいて、前記変更手段を、前記アダプタに対して、該アダプタを軸方向に貫通し且つその前端を前記支持体の後方側に対向させた状態で取付けられた螺合体で構成したことを特徴としている。
【0026】
本願の第3の発明に係る電動弁のトルク調整用アダプタは、前記第1の発明に係るトルク調整用アダプタにおいて、前記変更手段を、前記アダプタと前記支持体の後端側との間に着脱自在に介装される調整用板材で構成したことを特徴としている。
【0027】
本願の第4の発明に係る電動弁のトルク調整用アダプタは、前記第1、第2又は第3の発明に係るトルク調整用アダプタにおいて、前記支持体の最大移動範囲を規制する規制手段を備えたことを特徴としている。
【0028】
本願の第5の発明に係る電動弁のトルク調整用アダプタは、前記第1、第2、第3又は第4の発明に係るトルク調整用アダプタにおいて、前記支持体の軸方向位置を前記アダプタの外部から視認可能に表示する表示手段を備えたことを特徴としている。
【0029】
本願の第6の発明に係る電動弁のトルク調整方法は、回転駆動力が付与されたウォームの回転駆動力を利用して弁体を開閉駆動する弁体駆動部と、該弁体駆動部の前記弁体側から前記ウォームの軸方向に作用する反力により圧縮されるスプリングカートリッジを備えた電動弁において、前記弁体駆動部の外端面に取付けられたアダプタの内部に備えられて前記スプリングカートリッジの軸方向の一端側を支持する支持体の軸方向位置を、前記アダプタに取付けられた変更手段によって該アダプタの外部から変更することで前記スプリングカートリッジの圧縮量に対応するトルクを調整することを特徴としている。
【0030】
本願の第7の発明に係る電動弁のトルク調整方法は、前記第6の発明に係るトルク調整方法において、基準トルク値と計測により取得した計測トルク値を対比し、該計測トルク値を前記基準トルク値に変更するに必要とする前記スプリングカートリッジの圧縮量の調整量を、前記スプリングカートリッジの圧縮量とトルクの相関関係に基づいて取得し、該調整量を、前記変更手段による前記支持体の軸方向位置の必要変更量としてトルク調整を行うことを特徴としている。
【0031】
ここで、「基準トルク値」としては、電動弁の設計上において設定された設計値のほか、例えば、過去の電動弁診断時において計測により求められたトルク値を採用することもできる。また、「計測トルク値」とは、今回の電動弁診断において計測にて求めたトルク値である。さらに、「スプリングカートリッジの圧縮量とトルクの相関関係」は、今回の電動弁診断における計測データに基づいて取得される相関関係であって、前記スプリングカートリッジ圧縮量の調整量の算出に用いられるものである。
【0032】
本願の第8の発明に係る電動弁のトルク調整方法は、前記第6の発明に係るトルク調整方法において、予め計測にて取得した前記スプリングカートリッジの圧縮量とトルクの相関データベースを保有し、前記弁体側への出力トルク値を変更する必要が生じたとき、そのトルク変更量を得るに必要とする前記スプリングカートリッジの圧縮量の調整量を、前記相関データベースを参照して求め、該調整量を、前記変更手段による前記支持体の軸方向位置の必要変更量としてトルク調整を行うことを特徴としている。
【0033】
ここで、「弁体側への出力トルク値を変更する必要が生じたとき」とは、例えば、弁棒の摺動部に取付けられたパッキンを、既設のパッキンよりも硬めのパッキンに取り替えた結果、該パッキン部分における前記弁棒の摺動抵抗が増加し、弁体の締切トルクが低下すると考えられるような場合(即ち、外的要因によって弁体側への出力トルク値が変化すると考えられる場合)のほか、弁体側において締切トルクが低下していることが知見され、そのトルク低下の原因の如何に拘わらず、トルクを高める必要があると考えられる場合、等である。
【発明の効果】
【0034】
(イ) 本願の第1の発明に係る電動弁のトルク調整用アダプタによれば、電動弁の弁体駆動部の外端面に取付けられたアダプタの外部から、該アダプタに設けられた調整手段を操作して、該アダプタの内部に設けられた支持体を軸方向へ移動させることで、該支持体によってその圧縮方向の一端側が支持されたスプリングカートリッジの軸方向長さ(即ち、初期圧縮長さ)が増減変更され、その結果、トルクスイッチの作動点が増減調整される。
【0035】
従って、例えば、電動弁の設定トルクが皿バネの摩滅に起因する張込荷重の低下に伴って変化している場合、即ち、図7においてトルク曲線がトルク曲線L2からトルク曲線L1に変化している場合には、従来のようにトルクスイッチを直接調整してその作動点を変更するのではなく、前記変更手段により前記支持体を軸方向へ移動させて、トルク曲線L1におけるトルクスイッチの作動点を、スプリングカートリッジ圧縮量S2の位置からS3の位置へ変化させる(即ち、トルクスイッチを間接的に調整する)ことで、当初設定の適正な設定トルクT2を得ることができる。
【0036】
また、電動弁の設定トルクが何らかの原因によって当初設定値から増大側へ変化している場合、即ち、図7においてトルク曲線がトルク曲線L2からトルク曲線L3に変化しているような場合にも、従来のようにトルクスイッチを直接調整してその作動点を変更するのではなく、前記変更手段により前記支持体を軸方向へ移動させて、トルク曲線L3におけるトルクスイッチの作動点を、スプリングカートリッジ圧縮量S2の位置からS1の位置へ変化させる(即ち、トルクスイッチを間接的に調整する)ことで、当初設定の適正な設定トルクT2を得ることができる。
【0037】
さらに、電動弁の設定トルクがトルクスイッチの作動特性の不適切に起因して変化している場合、即ち、図8においてトルクスイッチの作動点が適正位置であるスプリングカートリッジ圧縮量S2の位置に設定されずに、スプリングカートリッジ圧縮量S1あるいはS3の位置に設定され、その結果、設定トルクが適正なトルクT2ではなく、トルクT1あるいはトルクT3に変化しているような場合には、従来のようにトルクスイッチの作動点を変更することなく、前記変更手段により前記支持体を軸方向へ移動させて、トルク曲線L1におけるトルクスイッチの作動点を、スプリングカートリッジ圧縮量S1の位置からS2の位置へ、あるいはスプリングカートリッジ圧縮量S3の位置からS2の位置へ変化させることで、当初設定の適正な設定トルクT2を得ることができる。
【0038】
このように、この第1の発明に係るトルク調整用アダプタを用いれば、弁体駆動部の外端面に取付けられたアダプタに設けた変更手段を外部から操作することで、電動弁のトルクの変更を行うことができるものであり、従来のように弁体駆動部の側方に設けられた電気品箱を開いて、その内部に収納配置されたトルクスイッチを調整する手法に比して、トルクの調整作業を、より簡単な作業で、迅速且つ容易に行うことができ、延いては、トルク調整の作業コストの低廉化が図れるとともに、電動弁のトルクに関する適正な機能が維持されその信頼性が向上することにもなる。
【0039】
(ロ) 本願の第2の発明に係る電動弁のトルク調整用アダプタによれば、前記(イ)に記載の効果に加えて以下のような特有の効果が得られる。即ち、この第2の発明では、前記変更手段を、前記アダプタに対して、該アダプタを軸方向に貫通し且つその前端を前記支持体の後方側に対向させた状態で取付けられた螺合体で構成しているので、該変更手段の構造がシンプルでありトルク調整用アダプタをより安価に提供できるとともに、その調整作業に際しては、前記螺合体を螺回操作すれば良く、その作業性が一段と向上することになる。
【0040】
(ハ) 本願の第3の発明に係る電動弁のトルク調整用アダプタによれば、前記(イ)に記載の効果に加えて以下のような特有の効果が得られる。即ち、この第3の発明では、前記変更手段を、前記アダプタと前記支持体の後端側との間に着脱自在に介装される調整用板材で構成しているので、該変更手段の構造がシンプルでありトルク調整用アダプタをより安価に提供できるとともに、その調整作業に際しては、前記調整用板材を前記アダプタと前記支持体の後端側との間に介装させるという簡単な作業で良く、作業性が一段と向上することになる。
【0041】
(ニ) 本願の第4の発明に係る電動弁のトルク調整用アダプタによれば、前記(イ)、(ロ)又は(ハ)に記載の効果に加えて以下のような特有の効果が得られる。即ち、この第4の発明では、前記支持体の最大移動範囲を規制する規制手段を備えているので、万一、調整作業において誤作業があったとしても、また調整作業後の運転に伴って前記支持体の固定部分に緩みが生じたとしても、前記規制手段によって、前記支持体が過度に移動され設定トルクが過大あるいは過小に設定されるという事態の発生が未然に且つ確実に防止され、電動弁の安全性及び信頼性が確保される。
【0042】
(ホ) 本願の第5の発明に係る電動弁のトルク調整用アダプタによれば、前記(イ)、(ロ)、(ハ)又は(ニ)に記載の効果に加えて以下のような特有の効果が得られる。即ち、この第5の発明では、前記支持体の軸方向位置を前記アダプタの外部から視認可能に表示する表示手段を備えているので、トルク調整作業に際しては、前記支持体の軸方向位置を確認しながら作業を行うことができ、例えば、前記支持体の位置の確認を作業者の勘に頼って行う場合に比して、トルク調整をより正確に且つ容易に行うことができる。また、例えば、予め保有するスプリングカートリッジのバネ特性に対応してトルク調整を行う場合、即ち、前記支持体の軸方向位置の変化量とトルクの変化量の相関関係が既知である場合には、前記表示手段によって前記支持体の位置を確認しながら調整作業を行うことで、高水準の調整精度を得ることができる。
【0043】
(ヘ) 本願の第6の発明に係る電動弁のトルク調整方法によれば、電動弁のトルクの調整を、弁体駆動部の外端面に取付けられたアダプタの変更手段を外部から操作して行うものであることから、例えば、従来のように弁体駆動部の側方に設けられた電気品箱を開いて、その内部に収納配置されたトルクスイッチを調整するトルク調整方法に比して、トルク調整作業を、より簡単な作業で、迅速且つ容易に行うことができ、延いては、トルク調整の作業コストの低廉化が図れるとともに、電動弁のトルクに関する適正な機能が維持されその信頼性が向上することになる。
【0044】
(ト) 本願の第7の発明に係る電動弁のトルク調整方法によれば、前記(ヘ)に記載の効果に加えて以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、基準トルク値と計測トルク値を対比し、且つスプリングカートリッジの圧縮量とトルクの相関関係を参照することで、トルク調整に必要なスプリングカートリッジの圧縮量の調整量を取得し、該調整量を、前記支持体の軸方向位置の必要変更量として、該必要変更量だけ前記変更手段により前記支持体の軸方向位置を変更することで、容易且つ簡便に、トルク値を適正な値に回復させることができることから、電動弁のトルクに関する機能維持が確実となり、電動弁の信頼性が格段に向上することになる。
【0045】
また、前記基準トルク値として、電動弁の設計時に設定された設計値、あるいは過去の電動弁診断時に取得されたトルク値を用いることで、電動弁の診断時には、予めスプリングカートリッジの圧縮量とトルクの相関関係をデータベースとして保有していなくとも、今回の電動弁診断により取得されるスプリングカートリッジの圧縮量とトルクの相関関係と今回の計測により得られる計測トルク値のみに基づいてトルク調整を行うことができ、トルク調整作業の簡便性がさらに促進されることになる。
【0046】
(チ) 本願の第8の発明に係る電動弁のトルク調整方法によれば、前記(ヘ)に記載の効果に加えて以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、予め計測にて取得した前記スプリングカートリッジの圧縮量とトルクの相関データベースを保有し、前記弁体側への出力トルク値を変更する必要が生じたとき、そのトルク変更量を得るに必要とする前記スプリングカートリッジの圧縮量の調整量を前記相関データベースを参照して求め、該調整量を、前記変更手段による前記支持体の軸方向位置の必要変更量としてトルク調整を行うことから、例えば、弁棒用パッキンの交換に伴う摺動抵抗の増加とか、弁棒摺動部分の油切れとか弁棒の変形等による摺動抵抗の増加等に起因して、弁体の締切トルクが低下している、あるいは低下すると予想される場合には、このトルク低下の回復に必要なトルク変更量を適宜設定し、このトルク変更量に対応するスプリングカートリッジの圧縮量の調整量を前記相関データベースに基づいて求め、この調整量だけ前記支持体の軸方向位置を変更することで容易にトルク調整を行うことができる。
【0047】
さらに、この発明のトルク調整方法によれば、前記相関データベースを保有していれば、その後のトルク調整は必ずしも電動弁診断時に行う必要はなく、任意の時期に行えることから、トルク調整作業の任意性が確保されるとともに、実際にトルク計測を行うことなくトルクの変化を予想してトルク調整を行うこともできることから、トルク調整作業の簡便性が促進されることにもなる。また、必要とするトルク変更量が、計測データに基づくものではなく、外的要因等を考慮して、予想の下に設定されたものであっても、前記支持体の軸方向位置の変更は、前記相関データベースに基づいて正確に行われることから、トルク調整の信頼性が確保され、トルク調整作業の簡便化と高精度化の両立が可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0049】
I:第1の実施形態
図1には、本願発明の第1の実施形態に係るトルク調整用アダプタ20を備えた電動弁の要部を示しており、同図において符号1は電動弁のケーシングである。このケーシング1には、該ケーシング1の外端面1a上にその一端が開口する大径穴2と該大径穴2の他端に連続する小径穴3が同軸上に設けられ、且つ大径穴2と小径穴3の連続部は肩部9とされている。
【0050】
前記大径穴2と小径穴3内には、これら両者間に跨ってコア12が配置されている。このコア12は、大径筒状の筒部12aと該筒部12aの一端側に連続する中空軸状の軸部12bで構成され、前記筒部12aを前記小径穴3部分に、前記軸部12bを前記大径穴2部分に、それぞれ対応させた状態で配置されている。そして、このコア12は、前記筒部12aが軸受16を介してウォーム軸10の端部10aに回転自在に支承されるとともに、軸方向においては前記ウォーム軸10と連結され、該ウォーム軸10が軸方向へ移動する場合、これと一体的に移動するようになっている。
【0051】
前記ウォーム軸10は、中空軸状形体をもち、その他端側にはウォーム(図示省略)が一体的に形成されるとともに、その内周側には、モータ(図示省略)によって回転駆動される駆動軸11がスプライン結合されており、回転方向においては該駆動軸11と一体化される一方、軸方向においては該駆動軸11に対して相対移動し得るようになっている。また、このウォーム軸10に設けられた前記ウォームにはウォームホイール(図示省略)が噛合されており、該ウォームの回転力は前記ウォームホイール及びこのウォームホイールに連結されたステムナット(図示省略)を介して、弁棒にその昇降力として伝達され、該弁棒の昇降によって、該弁棒の下端に備えられた弁体(図示省略)が昇降することで、電動弁が開弁あるいは閉弁される。
【0052】
そして、前記弁体がその昇降によって、バルブシートあるいはバックシートにシートタッチしそれ以上に昇降することができなくなった時点で、該弁体側からの反力が前記ウォーム軸10にその軸方向力(推力)として作用し、この軸方向への反力を受けて前記ウォーム軸10が軸方向へ移動するとき、これと一体に前記コア12が軸方向へ移動することになる。
【0053】
また、前記ウォーム軸10の軸方向への移動(即ち、後述するスプリングカートリッジ4の圧縮変位)を所定移動量で強制的に停止させるべく、前記ウォーム軸10に設けた係合溝13には、トルクスイッチ14の作動子14aが係入されている。このトルクスイッチ14は、所謂「レバー式トルクスイッチ」で構成され、前記作動子14aの傾動量が所定値を超えた時点で作動して、前記モータを停止させるように作用する。そして、このトルクスイッチ14は、前記ケーシング1の側方に設けた電気品箱(図示省略)内に収納された状態となっており、その調整等の作業は該電気品箱を開いてその外部から行われる。
【0054】
一方、前記コア12の軸部12b部分には、次述のスプリングカートリッジ4が取付けられている。このスプリングカートリッジ4は、前記軸部12b部分に、複数枚の皿バネ5を表裏交互に対向配置してなるもので、前記筒部12aの端部に設けた第1ワッシャ6と、ナット8によって後方支持された第2ワッシャ7の間に所定の圧縮力(これが、張込荷重である)を掛けた状態で縮装されている。
【0055】
また、前記第1ワッシャ6は、前記ケーシング1側の前記肩部9に当接係合することで図中左方への移動が規制され、また前記第2ワッシャ7は、次述するアダプタ20側の支持体21の前端面21dに当接係合することで図中右方への移動が規制されるようになっている。従って、図1に示す状態から、前記ウォーム軸10が図中左方へ移動する場合(即ち、電動弁の開作動時)には、前記第1ワッシャ6の移動が前記肩部9によって規制されるので、前記スプリングカートリッジ4の各皿バネ5は前記第2ワッシャ7側からの圧縮力を受けて圧縮される。これに対して、図1に示す状態から、前記ウォーム軸10が図中右方へ移動する場合(即ち、電動弁の閉作動時)には、前記第2ワッシャ7の移動が前記支持体21の前端面21dによって規制されるので、前記スプリングカートリッジ4の各皿バネ5は前記第1ワッシャ6側からの圧縮力を受けて圧縮される。
【0056】
前記アダプタ20は、平板状のフランジ部20aと、その一端にインロー部20cを備えた筒状の本体部20bと、該本体部20bの他端側に設けられた端壁部20dを備えて構成され、前記インロー部20cを前記ケーシング1の大径穴2に嵌合させた状態で、前記フランジ部20aを固定ボルト31によって前記ケーシング1の外端面1aに締着固定することで、該ケーシング1側に着脱自在に取付けられる。
【0057】
前記アダプタ20の本体部20bの内周面側には、次述の支持体21が嵌挿配置されている。この支持体21は、前記本体部20bの内周面内に摺動可能に嵌挿される第1筒部21aと第2筒部21bを同軸上に連設するとともに、これら両筒部21a,21bの境部に壁部21cを設けて構成され、前記アダプタ20の本体部20bの内周側においてその軸方向へ移動可能とされている。そして、前記第1筒部21aの前端が前記支持体21の前端面21dとなり、この前端面21dによって前記スプリングカートリッジ4側の前記第2ワッシャ7を支持するようになっている。
【0058】
また、前記支持体21の最大移動範囲を規制するために、前記アダプタ20の本体部20bの内周面には該アダプタ20の軸方向に所定の幅寸法をもつ周溝28が形成される一方、前記支持体21の第2筒部21bの後端には前記周溝28に係入可能な突起29が、その周方向に所定ピッチで適数個設けられており、前記支持体21は、前記周溝28の幅寸法と前記突起29の幅寸法の差分に相当する距離だけ軸方向へ移動可能とされている。
【0059】
尚、上記アダプタ20への上記支持体21の組付けを可能とするために、前記アダプタ20の本体部20bの内周面には、該本体部20bの端面から前記周溝28に向かって延びる挿入溝27を、前記突起29の形成数だけ設けている。この実施形態では、前記アダプタ20側の前記周溝28と前記支持体21側の前記突起29によって、特許請求の範囲中の「規制手段」が構成される。
【0060】
一方、前記アダプタ20と前記支持体21の間には、次述の螺合体22が取付けられている。この螺合体22は、特許請求の範囲中の「変更手段」に該当するものであって、前記支持体21の第2筒部21bの内周面側に嵌入可能な大きさをもつ頭部22aと、該頭部22aの一方の側面に連続してその軸方向へ延びる所定長さのボルト部22bを備えてなる。尚、前記ボルト部22bの先端部は、工具掛止用の面摺部22cとされている。
【0061】
前記螺合体22は、前記頭部22aを、軸受25を介して前記支持体21の壁部21cに当接可能とするとともに、前記ボルト部22bを前記アダプタ20の端壁部20dに設けたネジ孔34に螺合させることで、前記アダプタ20に取付けられる。そして、前記ボルト部22bは、その先端側を前記アダプタ20の外方へ延出させており、この外部延出部分には、ロックナット23が螺合されるとともに、キャップ24が取付けられる。
【0062】
尚、後述するように、前記螺合体22の螺回操作は、電動弁を開弁させた状態で行う場合には前記支持体21には前記スプリングカートリッジ4側からの荷重は掛かっていないため、前記軸受25を設けなくても容易に操作することができるので、この点からは前記軸受25の設置は不要である。しかし、電動弁を閉弁させた状態で行う場合には前記支持体21に対して前記スプリングカートリッジ4側からの荷重が掛かっているので、軽快な操作を確保するためには、前記軸受25の設置が必要となる。
【0063】
ここで、前記スプリングカートリッジ4と前記アダプタ20側の前記支持体21及び螺合体22の相互関係を説明する。図1に示すように、電動弁への前記スプリングカートリッジ4及び前記アダプタ20等の組み付けは、前記ウォーム軸10に弁体側からの反力がかかっていない状態において行う。そして、この際、図1に示すように、前記第1ワッシャ6が前記ケーシング1側の前記肩部9に当接し、また前記支持体21の前端面21dが前記スプリングカートリッジ4側の前記第2ワッシャ7に当接した状態において、前記支持体21側の前記突起29が、前記アダプタ20側の前記周溝28の幅方向略中央に位置するように、前記螺合体22の軸方向位置を設定し、且つこの状態で前記ロックナット23を締め込んでこれをロックする。
【0064】
従って、このセット状態では、前記スプリングカートリッジ4は所定の張込荷重が付与された状態で、その一端側は前記第1ワッシャ6を介して前記ケーシング1の肩部9によって、他端側は前記第2ワッシャ7を介して前記支持体21及び前記螺合体22によって、それぞれ支持された状態となっている。
【0065】
この状態において前記電動弁が閉作動あるいは開作動されると、その閉作動終期あるいは開作動終期において、弁体側から前記ウォーム軸10側にシートタッチに伴う反力が入力され、閉作動時には、前記ウォーム軸10の図中右方向への移動に伴って、前記コア12により前記スプリングカートリッジ4が図中右方向に押し込まれて圧縮される。逆に、開作動時には、前記ウォーム軸10の図中左方向への移動に伴って、前記スプリングカートリッジ4は前記ナット8側から図中左方向に押し込まれて圧縮される。そして、これら何れの方向への作動であっても、前記ウォーム軸10の移動量、即ち、前記スプリングカートリッジ4の圧縮量が所定値に達すると、前記トルクスイッチ14が作動して前記モータが停止され、弁体は、その時点のトルク、即ち、設定トルクでバルブシートあるいはバックシートにシートタッチした状態で保持される。
【0066】
ところで、当初設定の設定トルクが、電動弁の長期の使用においても変化することなく維持されていれば、電動弁の機能上、何等問題ない。しかし、この設定トルクに変化があり、これが電動弁の機能維持上、看過し得ない程度まで進むと、これを放置することはできず、トルク調整によって適正な設定トルクを回復させることが必要となる。そこで、このトルク調整の方法を、トルクの変化の原因等に対応して、いくつか説明する。
I−A:データベースの取得
先ず、トルク調整に際して参照される電動弁のトルクに関するデータベースの取得について説明する。
【0067】
通常、電動弁においては、定期的に、あるいは必要に応じて、機能診断が行われるが、その際のトルクに関する診断に先立って、前記スプリングカートリッジ4の作動特性として、トルク曲線を取得する。即ち、電動弁の診断に際し、電動弁側から前記アダプタ20を取り外し、該アダプタ20に代えて、例えば、前記スプリングカートリッジ4の圧縮量(即ち、前記ウォーム軸10の移動量)と圧縮力の計測機能を備えた診断装置を装着し、該スプリングカートリッジ4の圧縮量と圧縮力を計測により取得し、この取得された計測データを用いて演算にて、スプリングカートリッジ圧縮量とトルク(圧縮力とウォームホイール半径の積として求められる)の相関をトルク曲線(図7、図8参照)として取得し、且つ必要に応じて、これを電動弁のトルクに関するデータベースとして保有する。
I−B:トルク調整形態
一方、トルク調整形態としては、以下の二つの形態が考えられる。第1のトルク調整形態は、主として電動弁の診断時に行われるトルク調整である。これに対して、第2のトルク調整形態は、電動弁の診断時に限らず、必要荷応じて任意時期に行われるトルク調整である。以下、これら各トルク調整形態のそれぞれについて、トルク調整方法を説明する。
I−B−1:第1のトルク調整形態
第1のトルク調整形態は、主として電動弁の診断時に行われるトルク調整であって、基準トルク値と、診断時のデータ取得作業において計測にて取得された計測トルク値とを対比し、基準トルク値と計測トルク値の間に許容範囲以上の変化が認められた場合に行われるトルク調整である。このような所定以上のトルク値の変化が生じる原因としては、既述のように、
(a)長期の使用によって前記スプリングカートリッジ4の皿バネ5に摩滅が生じ、該スプリングカートリッジ4の軸方向長さ(即ち、前記第1ワッシャ6と第2ワッシャ7の間隔)は当初設定状態に維持されているものの、各皿バネ5においてはその圧縮変形量が減少し、その結果、図7に示すように、トルク曲線が当初のトルク曲線L2から、トルク曲線L1あるいはトルク曲線L3に変化し、トルクスイッチ14の作動点に対応するスプリングカートリッジ圧縮量が、圧縮量S2から圧縮量S1へ、あるいは圧縮量S2から圧縮量S3へ、それぞれ移動した場合、
(b)前記トルクスイッチ14の接点の設定が、経年的に変化した場合、あるいは当初から不適切であった場合、
(c)前記トルクスイッチ14がレバー式のトルクスイッチであって、ウォーム軸10の軸方向における取付位置が、経年的に変化した場合、あるいは当初から不適切であった場合、
等である。
【0068】
尚、ここで、前記(b)においてトルクスイッチ14の接点の設定が当初から不適切であった場合と、前記(c)においてトルクスイッチ14のウォーム軸10に対する取付位置が当初から不適切であった場合は、共に診断時の計測データからは判断できないものであるが、実際の電動弁の運転においては、設定トルクの不足、あるいは設定トルクの過大として客観的に判断できる場合も有り得るため、この「第1のトルク調整形態」に含めている。
【0069】
これら何れの場合であっても、設定トルクの変化が認められたときには、電動弁を開作動状態で、望ましくは開弁保持状態で停止させる。そして、前記キャップ24を前記螺合体22側から取り外し、さらに前記ロックナット23を緩めて前記螺合体22の螺回操作を可能とする。しかる後、前記螺合体22を、その面摺部22c部分を直接手によって、あるいは適宜の工具を用いて、螺回操作し、前記支持体21を現時点の位置よりも前方へ、あるいは後方へ所要量だけ移動させる。そして、前記支持体21の移動操作の完了後、前記ロックナット23を締め込んで前記螺合体22をロックしてその不用意な螺回を防止するとともに、前記キャップ24を取付け、これトルク調整作業を完了する。
I−B−1−1:支持体21を前進させてのトルク調整
図2には、図1に示す当初設定状態から、前記支持体21を所要量だけ前進させた状態を示している。ここで、当初設定状態においては、前述のように、前記第2ワッシャ7と前記支持体21の前端面21dは当接し、これら両者間にはガタが存在しないことが理想であるが、現実的には前記ガタが不可避的に生じるものである。従って、ここでは、このガタがある場合と、ガタが無い場合のそれぞれについて、前記支持体21を所要量だけ前進させたときの作動等について説明する。
I−B−1−1−a:ガタが無い場合
前記ガタが無いとした場合には、前記螺合体22によって前記支持体21を前方へ移動させると、この支持体21の移動量だけ前記スプリングカートリッジ4における前記第1ワッシャ6と第2ワッシャ7の間隔が減少し、その分だけ該スプリングカートリッジ4がさらに圧縮される。このとき、前記支持体21の前進に伴う前記スプリングカートリッジ4の追加的な圧縮量に相当する隙間が前記第2ワッシャ7と前記ナット8の間に生じている。
【0070】
従って、この状態の下では、前記ウォーム軸10が図中右方へ移動する電動弁の閉作動時には、前記スプリングカートリッジ4の圧縮量増加分だけ、設定トルクが上昇方向に調整される。
【0071】
これに対して、前記ウォーム軸10が図中左方へ移動する電動弁の開作動時には、前記スプリングカートリッジ4の圧縮量増加分に相当する前記隙間が存在するものの、前記トルクスイッチ14は当初設定状態の場合よりも、この隙間分だけ早い段階で作動することとからこれら両者が相殺され、結果的に設定トルクは、トルク調整前と変わらないことになる。即ち、電動弁の開作動時においては、トルク調整機能は生じない。
I−B−1−1−b:ガタが有る場合
前記ガタが存在する場合には、前記螺合体22によって前記支持体21を前方へ移動させたとき、この支持体21の移動量から前記ガタを差し引いた量だけ前記スプリングカートリッジ4における前記第1ワッシャ6と第2ワッシャ7の間隔が減少する。従って、前記スプリングカートリッジの圧縮量は、前記ガタが無い場合よりも、該ガタの分だけ少なくなり、また、これに対応して、前記第2ワッシャ7と前記ナット8の間に生じる隙間も小さくなっている。
【0072】
従って、この状態の下では、前記ウォーム軸10が図中右方へ移動する電動弁の閉作動時には、前記スプリングカートリッジ4の圧縮量増加分だけ、設定トルクが上昇方向に調整されるが、その上昇量は、前記ガタが存在しない場合よりも小さいものとなる。
【0073】
これに対して、前記ウォーム軸10が図中左方へ移動する電動弁の開作動時には、前記スプリングカートリッジ4の圧縮量増加分に相当する前記隙間が存在しているものの、前記トルクスイッチ14が当初設定状態の場合よりも、この隙間分だけ早い段階で作動することからこれら両者が相殺され、結果的に設定トルクは、トルク調整前と変わらないことになる。
【0074】
尚、ここでは、前記支持体21の移動量が前記ガタよりも大きい場合を想定して説明したが、これとは逆に、前記支持体21の移動量が前記ガタよりも小さい場合も有り得る。しかし、この場合には、前記支持体21の移動によって前記スプリングカートリッジ4が圧縮されることはないため、電動弁の開作動時には何等影響せず、電動弁の閉作動時においてのみ、前記支持体21の移動量に対応する分だけ前記トルクスイッチ14の作動点が遅れ側へ移行し、その分だけ設定トルクが高められるが、その上昇幅は極めて小さく実用上無視し得るものである。
I−B−1−2:支持体21を後退させてのトルク調整
一方、図3には、図1に示す当初設定状態から、前記支持体21を所要量だけ後退させた状態を示している。ここでも、前記第2ワッシャ7と前記支持体21の前端面21d間にガタが無い場合と、ガタがある場合のそれぞれについて、前記支持体21を所要量だけ前進させたときの作動等について説明する。
I−B−1−2−a:ガタが無い場合
前記ガタが無いとした場合には、前記螺合体22によって前記支持体21を後退させても、前記スプリングカートリッジ4の軸方向長さはトルク調整前と変わりないが、この後退量だけ前記第2ワッシャ7と前記支持体21の前端面21dの間に隙間が生じることになる。
【0075】
従って、この状態の下では、前記ウォーム軸10が図中右方へ移動する電動弁の閉作動時には、前記隙間が存在することから、この隙間分だけ前記トルクスイッチ14が早い段階で作動し、設定トルクは低下方向へ調整されることになる。これに対して、前記ウォーム軸10が図中左方へ移動する電動弁の開作動時には、前記スプリングカートリッジ4は前記支持体21の後退による影響を全く受けないため、設定トルクに変化は生じない。即ち、電動弁の開作動時においては、トルク調整機能は生じない。
I−B−1−2−b:ガタが有る場合
前記ガタが存在する場合には、前記螺合体22によって前記支持体21を後退させると、前記スプリングカートリッジ4の軸方向長さはトルク調整前と変わりらないが、この後退量に前記ガタを加えた量に相当する大きさの隙間が、前記第2ワッシャ7と前記支持体21の前端面21dの間に生じることになる。
【0076】
従って、この状態の下では、前記ウォーム軸10が図中右方へ移動する電動弁の閉作動時には、前記隙間が存在することから、この隙間分だけ前記トルクスイッチ14が早い段階で作動し、設定トルクは低下方向へ調整されることになり、しかもこの低下方向への調整量は、前記ガタが無い場合よりも前記隙間が大きい分だけ大きくなり、従って、設定トルクはより低下方向へ調整されることになる。
【0077】
これに対して、前記ウォーム軸10が図中左方へ移動する電動弁の開作動時には、前記スプリングカートリッジ4は前記支持体21の後退による影響を全く受けないため、設定トルクに変化は生じない。即ち、電動弁の開作動時においては、トルク調整機能は生じない。
【0078】
尚、前記支持体21の移動量は、基準トルク値と、今回の電動弁診断において計測により取得された計測トルク値との対比結果から、今回の電動弁診断において取得されたスプリングカートリッジ圧縮量とトルクの相関関係を参照して求められるものである。また、前記基準トルク値としては、電動弁の設計時におけるトルクの設計値とか、過去の電動弁診断において取得されたトルク値等が用いられる。
【0079】
さらに、前記支持体21を前記必要変更量に相当する寸法だけ移動させるに際しては、前記螺合体22のボルト部22bに設けられたネジのピッチは既知であるため、該ピッチと前記必要変更量とに基づいて、演算により前記支持体21の回転操作量を求めれば良い。
【0080】
以上のように、この第1のトルク調整形態においては、基準トルク値と、診断時のデータ取得作業において計測にて取得された計測トルク値とを対比し、基準トルク値と計測トルク値の間に許容範囲以上の変化が認められた場合に行われるトルク調整であって、基準トルク値と計測トルク値の対比結果に基づいて、トルク調整に必要なスプリングカートリッジ4の圧縮量の調整量を、スプリングカートリッジ4の圧縮量とトルクの相関関係に基づいて取得し、該調整量を、前記支持体21の軸方向位置の必要変更量とし、該必要変更量だけ前記螺合体22により前記支持体21の軸方向位置を変更することで、容易且つ簡便に、トルク値を適正な値に回復させることができるものであり、その結果、電動弁のトルクに関する機能維持が確実となり、電動弁の信頼性が格段に向上することになる。
【0081】
また、前記基準トルク値として、電動弁の設計時に設定された設計値、あるいは過去の電動弁診断時に取得されたトルク値を用いることで、電動弁の診断時には、予めスプリングカートリッジ4の圧縮量とトルクの相関関係をデータベースとして保有していなくとも、今回の電動弁診断により取得されるスプリングカートリッジ4の圧縮量とトルクの相関関係と今回の計測により得られる計測トルク値のみに基づいてトルク調整を行うことができ、トルク調整作業の簡便性がさらに促進されることになる。
I−B−2:第2のトルク調整形態
第2のトルク調整形態は、弁体側への出力トルク値を変更する必要が生じたときに行われるトルク調整である。例えば、弁棒の摺動部分の油切れとか、弁棒の曲がりが生じた場合、あるいは弁棒の摺動部分に設けられたパッキンを既設のものより硬い材質のパッキンに取り替えたような場合には、弁棒部分の摺動抵抗が大きくなり、その分だけ弁体側へ伝達されるトルクが低下し、該弁体の締切トルクの低下を招来する恐れがある。従って、このような状況が検知された場合、あるいはこのような状況に陥ることが予想される場合には、トルク低下を回復するに適当と思われる値だけトルクを増大方向に調整するものである。そして、ここで設定したトルクの増大量を確保するに必要とされるスプリングカートリッジ4の圧縮量の調整量を、予め計測にて取得し保有するスプリングカートリッジ圧縮量とトルクの相関データベースを参照して求め、ここで求められた調整量に相当する移動量だけ前記支持体21を移動させることで、前記トルクスイッチ14の調整に依ることなく、トルクを増大させるものである。
【0082】
ここで、弁体側への出力トルク値を変更する必要性の有無は、例えば、弁体駆動部側へ入力されるトルク値と該弁体駆動部から弁体側へ伝達されるトルク値を対比することで、あるいは弁体側への出力トルク値のみを計測することで、さらには何等の計測も行うことなく外的要因のみを考慮することで、判断される。
【0083】
尚、入力トルク値と出力トルク値を対比する場合は入力トルク値は、例えば、前記モータあるいは該モータの給電線等に配置した電磁センサの計測値に基づいて取得し、前記弁体側への出力トルク値は、例えば、電動弁のヨークに配置した歪センサの計測値として取得することができる。また、弁体側への出力トルク値のみを計測する場合は、例えば、電動弁のヨークに配置した歪センサの計測値として取得すればよい。さらに、外的要因としては、例えば、パッキン交換状態におけるパッキン材質の変更が考えられる。
【0084】
この第2のトルク調整形態においては、例えば、弁棒パッキンの交換に伴う摺動抵抗の増加とか、弁棒部分の油切れとか弁棒の変形等による摺動抵抗の増加に起因して弁体の締切トルクが低下している、あるいは低下すると予想される場合には、このトルク低下の回復に必要なトルク変更量を適宜設定し、このトルク変更量に対応するスプリングカートリッジの圧縮量の調整量を前記相関データベースに基づいて求め、この調整量だけ前記支持体の軸方向位置を変更することで容易にトルク調整を行うことができる。
【0085】
また、この第2のトルク調整形態においては、トルク調整を必ずしも電動弁診断時に行う必要はなく、必要に応じて任意の時期に行えることから、トルク調整作業の任意性が確保されるとともに、実際にトルク計測を行うことなくトルクの変化を予想してトルク調整を行うことができることから、トルク調整作業の簡便性が促進されることにもなる。また、トルク変更量が予想の下に設定されたものであっても、前記支持体の軸方向位置の調整は、前記相関データベースに基づいて正確に行われることから、トルク調整の信頼性が確保されるものである。
【0086】
この第1の実施形態では、前記第1のトルク調整形態及び第2のトルク調整形態のそれぞれに特有な作用効果のほかに、以下のような基本的な作用効果も得られるものである。即ち、この実施形態では、電動弁に前記アダプタ20を取付け、該アダプタ20に設けられた前記螺合体22を電動弁の外部から操作することで、電動弁のトルクの調整を行うことができるものであり、従来のように弁体駆動部の側方に設けられた電気品箱を開いて、その内部に収納配置されたトルクスイッチを調整する手法に比して、トルクの調整作業を、より簡単な作業で、迅速且つ容易に行うことができ、延いては、トルク調整の作業コストの低廉化が図れるとともに、電動弁のトルクに関する適正な機能が維持されその信頼性が向上することになる。
【0087】
また、前記支持体21を、前記アダプタ20側に設けた前記螺合体22によって移動させる構成であることから、その構造がシンプルであり、前記アダプタ20をより安価に提供できるとともに、トルク調整作業に際しては、前記螺合体22を螺回操作すれば良く、その作業性が一段と向上することになる。
【0088】
さらに、前記アダプタ20においては、前記支持体21の最大移動範囲を、前記アダプタ20側の前記周溝28と前記支持体21側の前記突起29とによって規制するようにしているので、万一、トルク調整作業において誤作業があったとしても、また調整作業後の運転に伴って前記支持体21の固定に緩みが生じたとしても、前記支持体21が過度に移動して設定トルクが過大あるいは過小に設定されることが未然に且つ確実に防止され、電動弁の安全性及び信頼性が確保されることになる。
【0089】
II:第2の実施形態
図4及び図5には、本願発明の第2の実施形態に係るトルク調整用アダプタ20を備えた電動弁の要部を示している。この実施形態の電動弁は、前記第1の実施形態電動弁とその基本構成を同一とするものであって、これと異なる点は、アダプタ20側の構成のみである。従って、以下においては、このアダプタ20部分の構成のみを詳述し、それ以外の構成については前記第1の実施形態の該当説明を援用し、ここでの説明は省略する。
II−A:アダプタ20の構成等
前記アダプタ20は、平板状のフランジ部20aと、その一端にインロー部20cを備えた筒状の本体部20bを備えて構成され、前記インロー部20cを前記ケーシング1の大径穴2に嵌合させた状態で、前記フランジ部20aを固定ボルト31によって前記ケーシング1の外端面1aに締着固定することで、該ケーシング1側に着脱自在に取付けられる。
【0090】
前記アダプタ20の本体部20bの内周面側には、次述の支持体21が嵌挿配置されている。この支持体21は、前記本体部20bの内周面内に摺動可能に嵌挿される筒部21aと該筒部21aの一端側を閉塞する壁部21cを備えた有底筒状形体をもつもので、前記アダプタ20の本体部20bの内周側においてその軸方向へ移動可能とされている。そして、前記筒部21aの前端面21dによって前記スプリングカートリッジ4側の前記第2ワッシャ7を支持し得るようになっている。
【0091】
また、前記支持体21の最大移動範囲を規制するために、前記アダプタ20の本体部20bの内周面には該アダプタ20の軸方向に所定の幅寸法をもつ周溝28が形成される一方、前記支持体21の前記筒部21bの外周面には、前記周溝28に係入可能な突起29が、その周方向に所定ピッチで適数個設けられており、前記支持体21は、前記周溝28の幅寸法と前記突起29の幅寸法の差分に相当する距離だけ軸方向へ移動可能とされている。
【0092】
尚、上記アダプタ20への上記支持体21の組付けを可能とするために、前記アダプタ20の本体部20bの内周面には、該本体部20bの端面から前記周溝28に向かって延びる挿入溝27を、前記突起29の形成数だけ設けている。この実施形態では、前記アダプタ20側の前記周溝28と前記支持体21側の前記突起29によって、特許請求の範囲中の「規制手段」が構成されている。
【0093】
一方、前記アダプタ20の本体部20bの外端側には、押え部材26が螺着されている。この押え部材26は、前記アダプタ20の本体部20bの内周側に螺嵌合される押圧部26aと、前記アダプタ20の本体部20bの外端面に衝合されるフランジ部26bを備えて構成され、その軸心部には、前記支持体21の壁部21cに取付けた植え込みボルト32が貫通配置される。そして、この押え部材26は、その内端面26cと前記支持体21の壁部21cとの間に次述のシム33を介装せしめた状態で、前記植え込みボルト32の延出端側に螺合されたロックナット35を締め込むことで、前記支持体21と一体的に連結される。
【0094】
前記シム33は、特許請求の範囲中の「調整用板材」に該当するものであって、所定厚さの板材で構成され、その積層枚数によって前記押圧部26aの内端面26cと前記支持体21の壁部21cとの間隔、換言すれば、前記支持体21の前端面21dの軸方向における位置を増減調整することができるものである。
【0095】
尚、この実施形態では、図4に示すように、前記シム33を三枚介装した状態を基本形態とし、この基本形態においては、前記支持体21の前端面21dが中立状態にある前記スプリングカートリッジ4側の前記第2ワッシャ7に当接するように、前記押え部材26とシム33及び支持体21の寸法が設定されている。
【0096】
このように、前記支持体21の前端面21dと前記スプリングカートリッジ4側の前記第2ワッシャ7とが当接しこれらの間にガタが存在しないことが理想ではあるが、現実的にはこれら両者間に前記ガタが不可避的に生じるものである。従って、以下においては、このガタがある場合と、ガタが無い場合のそれぞれについて、前記支持体21を後退及び前進させたときの作動等についてそれぞれ説明する。
II−B:作動説明
II−B−1:ガタが無い場合
II−B−1−a:支持体21を後退させてのトルク調整
前記ガタが無い場合において、図4に示す状態から、前記シム33を一枚ずつ取り除くと、前記支持体21が順次段階的に前記押え部材26側へ後退し、前記第2ワッシャ7と前記支持体21の前端面21dの間に、取り除かれた前記シム33の厚さの合計値に相当する大きさの隙間が生じる。そして、この隙間が存在することで、前記ウォーム軸10が図中右方向へ移動する電動弁の閉作動時においては、該隙間分だけ、前記ウォーム軸10が移動しても、前記スプリングカートリッジ4が圧縮されないという作動領域が生じる。その結果、前記トルクスイッチ14の作動点(即ち、ウォーム軸の軸方向変位を受けてトルクスイッチの作動子が変位し、接点が閉成又は開成される場合の作動タイミング)が一定に維持されているとすれば、前記トルクスイッチ14が作動する時点における前記スプリングカートリッジ4の圧縮量は、前記隙間に相当する分だけ減少方向に変化し、これに伴って設定トルクが低下方向に調整されることになる。
【0097】
これに対して、前記ウォーム軸10が図中左方向へ移動する電動弁の開作動時においては、前記スプリングカートリッジ4は前記支持体21と非当接とされるので、該スプリングカートリッジ4の張込荷重及び設定トルクについては、何等の調整機能も発揮しない。
II−B−1−b:支持体21を前進させてのトルク調整
一方、図4に示す状態から、前記シム33をさらに一枚ずつ追加的に介装すると、図5に示すように、この追加されたシム33の厚さの合計値に相当する寸法だけ前記支持体21の前端部21dの位置が前記スプリングカートリッジ4側へ移動し、該スプリングカートリッジ4は前記支持体21の移動量に相当する寸法だけさらに圧縮された状態となり、前記第2ワッシャ7と前記ナット8の間には前記支持体21の移動量に相当する寸法の隙間が生じる
この結果、前記ウォーム軸10が図中右方へ移動する電動弁の閉作動時には、前記スプリングカートリッジ4の圧縮量増加分だけ、設定トルクが上昇側に調整されることになる。
【0098】
これに対して、前記ウォーム軸10が図中左方へ移動する電動弁の開作動時においては、前記第2ワッシャ7と前記ナット8の間に前記隙間が存在することから、前記スプリングカートリッジ4の圧縮量が増加していても、前記トルクスイッチ14は当初設定状態の場合よりも、前記隙間分だけ早い段階で作動することからこれら両者が相殺され、結果的に設定トルクは、トルク調整前と変わらないことになる。即ち、電動弁の開作動時においては、トルク調整機能は生じない。
II−B−2:ガタが有る場合
II−B−2−a:支持体21を後退させてのトルク調整
前記ガタが存在する場合には、前記シム33の数を減少させて前記支持体21を後退させると、前記スプリングカートリッジ4の軸方向長さはトルク調整前と変わりないが、この後退量に前記ガタを加えた量に相応する大きさの隙間が、前記第2ワッシャ7と前記支持体21の前端面21dの間に生じることになる。
【0099】
従って、この状態の下では、前記ウォーム軸10が図中右方へ移動する電動弁の閉作動時には、前記隙間が存在することから、この隙間分だけ前記トルクスイッチ14が早い段階で作動し、設定トルクは低下方向へ調整されることになり、しかもこの低下方向への調整量は、前記ガタが無い場合よりも前記隙間が大きい分だけ大きくなり、設定トルクはより低下方向へ調整されることになる。
【0100】
これに対して、前記ウォーム軸10が図中左方へ移動する電動弁の開作動時には、前記スプリングカートリッジ4は前記支持体21の後退による影響を全く受けないため、設定トルクに変化は生じない。即ち、電動弁の開作動時においては、トルク調整機能は生じない。
II−B−2−b:支持体21を前進させてのトルク調整
一方、前記シム33の数を増加させて前記支持体21を前進させると、前記スプリングカートリッジ4は、この追加されたシム33の厚さの合計値から前記ガタを差し引いた寸法だけ、さらに圧縮された状態となり、前記第2ワッシャ7と前記ナット8の間には前記スプリングカートリッジ4の圧縮量増加分に相当する寸法の隙間が生じる
従って、この状態から前記ウォーム軸10が図中右方へ移動する電動弁の閉作動時には、前記スプリングカートリッジ4の圧縮量増加分だけ、設定トルクが上昇側に調整されることになるが、この上昇方向へのトルク調整量は、前記ガタが無い場合よりも前記隙間が小さい分だけ小さなものとなる。
【0101】
これに対して、前記ウォーム軸10が図中左方へ移動する電動弁の開作動時においては、前記スプリングカートリッジ4の圧縮量が増加していても、前記第2ワッシャ7と前記ナット8の間に前記隙間が存在することから、前記トルクスイッチ14は当初設定状態の場合よりも、前記隙間分だけ早い段階で作動することから、これら両者が相殺され、結果的に設定トルクは、トルク調整前と変わらず、トルク調整機能は生じない
以上のように、この実施形態においては、上記アダプタ20の内部に嵌挿された前記支持体21と、前記アダプタ20に螺着された前記押え部材26の間に、前記シム33を所定枚数介装することでトルクの調整を行うことができるものであり、しかも、この場合、トルク調整を、前記押え部材26の着脱作業と前記シム33の介装作業のみで行うことができ、従来のように、弁体駆動部の側方に設けられた電気品箱を開いて前記トルクスイッチ14の調整を行う場合に比して、トルク調整作業が簡便且つ容易となるものである。
【0102】
尚、これ以外の作用効果については、前記第1の実施形態の場合と同様であるため、該第1の実施形態における該当説明を援用し、ここでの説明を省略する。
III−第3の実施形態」
図6には、本願発明の第3の実施形態に係るトルク調整用アダプタ20を備えた電動弁の要部を示している。この実施形態の電動弁は、前記第1及び第2の実施形態電動弁とその基本構成を同一とするものであって、これと異なる点は、前記アダプタ20側の構成のみである。従って、以下においては、このアダプタ20部分の構成のみを詳述し、それ以外の構成については前記第1及び第2の実施形態の該当説明を援用し、ここでの説明は省略する。
【0103】
前記アダプタ20は、平板状のフランジ部20aと、その一端にインロー部を備えた筒状の本体部20bと、該本体部20bの端部を閉塞する端壁部20cを備えて構成され、前記インロー部を前記ケーシング1の大径穴2に嵌合させた状態で、前記フランジ部20aを固定ボルト31によって前記ケーシング1の外端面に締着固定することで、該ケーシング1側に着脱自在に取付けられる。
【0104】
前記アダプタ20の本体部20bの内周面側には、次述の支持体21が嵌挿配置されている。この支持体21は、前記本体部20bの内周面内に摺動可能に嵌挿される筒部21aと該筒部21aの一端側を閉塞する壁部21cを備えた有底筒状形体をもつもので、前記アダプタ20の本体部20bの内周側においてその軸方向へ移動可能とされている。そして、前記筒部21aの前端面21dによって前記スプリングカートリッジ4側の前記第2ワッシャ7を支持し得るようになっている。
【0105】
また、前記アダプタ20の端壁部20cの外周寄り位置には、次述の引きボルト37と押しボルト38が該アダプタ20の周方向に所定間隔で複数個(例えば、それぞれ2個ずつ)配置される一方、前記端壁部20cの軸心位置には次述のマイクロメータ36が配置されている。
【0106】
前記引きボルト37は、前記支持体21の壁部21cに植え込み状態で螺着され、その外端側が、前記アダプタ20の端壁部20cに設けた貫通孔を通して外方へ延出されるとともに、その延出端側にはロックナット機能をもつ調整ナット39が螺合されている。従って、この調整ナット39を締め込むことで、前記引きボルト37を介して前記支持体21が前記端壁部20c側に引き寄せられることになる。
【0107】
前記押しボルト38は、前記アダプタ20の端壁部20cに螺合され、その先端側が前記支持体21の壁部21cに対向されるとともに、前記端壁部20cから外側へ延出した延出端側にはロックナット40が螺合されている。従って、このロックナット40を緩めて、前記押しボルト38を締め込むことで、前記支持体21を前記第2ワッシャ7側へ押し込むことができる。
【0108】
前記マイクロメータ36は、特許請求の範囲中の「表示手段」に該当するもので、その接触子36aを前記支持体21の壁部21cに設けた当接部42に対向させるようにして、前記アダプタ20の端壁部20cに取付けられている。そして、操作部36bを螺回操作して前記接触子36aを前記支持体21側の前記当接部42に当接させることで、該支持体21の移動量を前記アダプタ20の外部から容易に視認することができるようになっている。
【0109】
このように、この実施形態の電動弁においては、前記引きボルト37に螺合された前記調整ナット39を締め込んで該引きボルト37によって前記支持体21を前記アダプタ20側に引き寄せることで、前記第2ワッシャ7と前記支持体21の前端面21dの間に前記支持体21の引き寄せ量に相当する大きさの隙間が生じ、これによって設定トルクが低下方向に調整されることになる。
【0110】
逆に、前記引きボルト37側の調整ナット39を緩めた状態で、前記押しボルト38を締め込むことで、この締め込み量に相当する寸法だけ前記支持体21の前端部21dの位置が前記スプリングカートリッジ4側へ移動し、該スプリングカートリッジ4は前記支持体21の移動量に相当する寸法だけさらに圧縮された状態となり、設定トルクが上昇側に調整されることになる。
【0111】
このような前記支持体21をその軸方向へ移動させることによる設定トルクの調整機能は、前記第1及び第2の実施形態の場合と同様であるので、これら各軸方向の該当説明を援用することで、これ以上の説明を省略する。
【0112】
ところで、この実施形態の電動弁においては、上述のように、前記アダプタ20の端壁部20cに前記マイクロメータ36を取付けているので、トルク調整作業に際しては、前記支持体21の軸方向位置を前記マイクロメータ36で測定してこれを確認しながら作業を行うことができる。この結果、例えば、前記支持体21の軸方向位置の確認を作業者の勘に頼って行う場合に比して、トルク調整をより正確に且つ容易に行うことができる。
【0113】
また、例えば、予め保有するスプリングカートリッジ4のバネ特性に対応してトルク調整を行う場合、即ち、前記支持体21の軸方向位置の変化量とトルクの変化量の相関関係が既知である場合には、前記マイクロメータ36によって前記支持体21の位置を確認しながら調整作業を行うことで、高水準の調整精度を得ることができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本願発明の第1の実施形態に係るトルク調整用アダプタを備えた電動弁の通常運転状態における構造及び作動状態を示す断面図である。
【図2】図1に示したトルク調整用アダプタによるトルク調整状態を示す断面図である。
【図3】図1に示したトルク調整用アダプタによるトルク調整状態を示す断面図である。
【図4】本願発明の第2の実施形態に係るトルク調整用アダプタを備えた電動弁の通常運転状態における構造及び作動状態を示す断面図である。
【図5】図4に示したトルク調整用アダプタによるトルク調整状態を示す断面図である。
【図6】本願発明の第3の実施形態に係るトルク調整用アダプタを備えた電動弁の通常運転状態における構造及び作動状態を示す断面図である。
【図7】スプリングカートリッジの張込荷重の変化に起因する電動弁の作動特性の変化状態説明図である。
【図8】トルクスイッチの不適切に起因する電動弁の作動特性の変化状態の説明図である。
【図9】トルクスイッチの取付位置の説明図である。
【符号の説明】
【0115】
1 ・・ケーシング
2 ・・大径穴
3 ・・小径穴
4 ・・スプリングカートリッジ
5 ・・皿バネ
6 ・・第1ワッシャ
7 ・・第2ワッシャ
8 ・・ナット
9 ・・肩部
10 ・・ウォーム軸
11 ・・駆動軸
12 ・・コア
13 ・・係合溝
14 ・・トルクスイッチ
15 ・・ナット
16 ・・軸受
20 ・・アダプタ
21 ・・支持体
22 ・・螺合体(螺合体)
23 ・・ロックナット
24 ・・キャップ
25 ・・軸受
26 ・・押え部材
27 ・・挿入溝
28 ・・周溝
29 ・・突起
31 ・・固定ボルト
32 ・・固定ボルト
33 ・・シム(調整用板材)
36 ・・マイクロメータ
37 ・・引きボルト
38 ・・押しボルト
39 ・・調製ナット
40 ・・ロックナット
42 ・・当接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動力が付与されたウォームの回転駆動力を利用して弁体を開閉駆動する弁体駆動部と、該弁体駆動部の前記弁体側から前記ウォームの軸方向に作用する反力により圧縮されるスプリングカートリッジを備えた電動弁において、
前記弁体駆動部の外端面に取付けられるアダプタであって、該アダプタの内部にその軸方向へ移動可能に取付けられてその前端により前記スプリングカートリッジの圧縮方向の一端側を支持する支持体と、前記スプリングカートリッジの圧縮方向における前記支持体の前端位置を前記アダプタの外部から変更可能とする変更手段を備えたことを特徴とする電動弁のトルク調整用アダプタ。
【請求項2】
請求項1において、
前記変更手段が、前記アダプタに対して、該アダプタを軸方向に貫通し且つその前端を前記支持体の後側に対向させた状態で取付けられた螺合体で構成されていることを特徴とする電動弁のトルク調整用アダプタ。
【請求項3】
請求項1において、
前記変更手段が、前記アダプタと前記支持体の後端側との間に着脱自在に介装される調整用板材で構成されていることを特徴とする電動弁のトルク調整用アダプタ。
【請求項4】
請求項1、2又は3において、
前記支持体の最大移動範囲を規制する規制手段が備えられていることを特徴とする電動弁のトルク調整用アダプタ。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4において、
前記支持体の軸方向位置を前記アダプタの外部から視認可能に表示する表示手段が備えられていることを特徴とする電動弁のトルク調整用アダプタ。
【請求項6】
回転駆動力が付与されたウォームの回転駆動力を利用して弁体を開閉駆動する弁体駆動部と、該弁体駆動部の前記弁体側から前記ウォームの軸方向に作用する反力により圧縮されるスプリングカートリッジを備えた電動弁におけるトルク調整方法であって、
前記弁体駆動部の外端面に取付けられたアダプタの内部に備えられて前記スプリングカートリッジの軸方向の一端側を支持する支持体の軸方向位置を、前記アダプタに取付けられた変更手段によって該アダプタの外部から変更することで前記スプリングカートリッジの圧縮量に対応するトルクを調整することを特徴とする電動弁のトルク調整方法。
【請求項7】
請求項6において、
基準トルク値と計測により取得した計測トルク値を対比し、該計測トルク値を前記基準トルク値に変更するに必要とする前記スプリングカートリッジの圧縮量の調整量を、前記スプリングカートリッジの圧縮量とトルクの相関関係に基づいて取得し、該調整量を、前記変更手段による前記支持体の軸方向位置の必要変更量としてトルク調整を行うことを特徴とする電動弁のトルク調整方法。
【請求項8】
請求項6において、
予め計測にて取得した前記スプリングカートリッジの圧縮量とトルクの相関データベースを保有し、
前記弁体側への出力トルク値を変更する必要が生じたとき、そのトルク変更量を得るに必要とする前記スプリングカートリッジの圧縮量の調整量を前記相関データベースを参照して求め、該調整量を、前記変更手段による前記支持体の軸方向位置の必要変更量としてトルク調整を行うことを特徴とする電動弁のトルク調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−224970(P2007−224970A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44878(P2006−44878)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】