説明

電動旋回装置

【課題】 空気室を形成するために減速機構の軸方向へのサイズアップを行わず、高速回転する電動モータを用いて旋回装置におけるエネルギーの回収を効率的に行える電動旋回装置を提供する。
【解決手段】 電動モータ5の下部側には、モータ駆動軸5aの回転を減速する減速機10が設けられ、減速機10の一部である第一減速機11と第二減速機12との間には、メカニカルブレーキ15が配設されている。電動旋回装置4の外部に設けたバッファタンク25は第3連通路23を介して第2連通路22と第1連通路21とに接続している。第1連通路21は減速機10に対して潤滑油を供給する管として構成されており、初期油面レベルLsよりも下方の位置に配設され、上部空間29内で溢れた潤滑油を、連通路30を介してバッファタンク25に導く第二連通路22は、初期油面レベルLsよりも上方の位置に配設されている。この構成により、上部空間29を拡大したと同様の機能を奏することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを駆動源として作業車両の上部旋回体を旋回させる電動旋回装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、油圧ショベル等の自走式作業機械では、上部旋回体を下部走向体に対して旋回させるため、駆動源として減速機付き油圧モータを供えた旋回装置が用いられている。この種の旋回装置としては、旋回用の減速機付き油圧モータ装置(特許文献1参照。)などが提案されている。特許文献1に記載された減速機付き油圧モータ装置を本発明における従来例1として、図7にはその全体図を示している。
【0003】
図7に示すように、旋回用の減速機付き油圧モータ装置50は、斜板式油圧モータ55を有する油圧モータ部51と、二段階の遊星歯車減速機構53、54を有する減速機部52と、メカニカルブレーキ58とを備えた構成となっている。油圧モータ部55内に収められた油圧モータ55の回転は、二段階の遊星歯車減速機構53、54によって減速され、その減速された回転が最終的には出力ピニオン59に伝達される。出力ピニオン59は、図示せぬ下部走向体側に固定された内輪のリング歯車60と噛合している。
【0004】
二段階の遊星歯車減速機構53、54を備える減速機部52は、ハウジング56とリング歯車用筒体61とで外郭が構成されている。減速機部52のハウジング56は上部旋回体62上に固定されており、旋回用の減速機付き油圧モータ装置50も上部旋回体62側に固定されている。
下部走向体は接地しており、接地面に対する回転が規制されているので、出力ピニオン59が回転することによって上部旋回体62は、図示せぬ下部走向体に対して相対的に回動して旋回することができる。
【0005】
減速機部52における歯車の潤滑を行うため、ハウジング56内には潤滑油が溜められている。ハウジング56内に溜められている潤滑油の油量としては、低温始動時にも最上段の歯車まで浸せる初期油面レベルに設定されている。その一方で定常使用時には油温の上昇による潤滑油の体積膨張によって、油面レベルの上昇が引き起こされる。油面レベルの上昇に伴って、吹きこぼれが生じないようにするため、油圧モータ部51のハウジング64と減速機部52のハウジング56との連結部において、十分な空気室63が設けられている。
【0006】
空気室63には図示せぬブリーザが設置されており、空気室63内の内圧は大気圧相当に管理されている。この構成によって、油温の上昇に伴って油面レベルの上昇が起きても、吹きこぼれ等によって潤滑油がハウジング56の外部に排出されない構造となっている。また、空気室のもう一つの機能としては、駆動時の油逃げを防止する機能もある。
【0007】
このように油圧ショベルやクレーン等の旋回式作業機械では、旋回駆動源として特許文献1に示されるような油圧モータを用い、この油圧モータを油圧ポンプからの吐出圧油によって駆動する油圧モータ駆動方式が多用されてきた。ところが最近では、上部旋回体の旋回制動時において絞り捨てられていた油圧エネルギーを効率良く回収するため、旋回駆動源として電動モータを用いる電動モータ駆動方式が提案され始めてきている。
【0008】
上部旋回体を下部走向体に対して旋回させる旋回装置の駆動源として、電動モータを用いたものとしては、作業機の旋回制御装置(特許文献2参照。)等が提案されている。特許文献2に記載された作業機を本発明における従来例2として、図8にはその全体構成図を示している。
【0009】
図8に示すように、クローラ式の下部走行体71に対して旋回自在に搭載された上部旋回体72には、エンジン76と、このエンジン76によって駆動される油圧ポンプ77及び発電機78と、バッテリ79と、旋回用電動モータ73及び旋回用減速機構74を備えている。電動モータ73は、図示せぬメカニカルブレーキを介して減速機構74に連結しており、減速機構74は旋回駆動機構75に連結されている。そして、メカニカルブレーキが解除された状態で電動モータ73の回転力が、減速機構74経由で上部旋回体72に伝えられ、上部旋回体72全体を下部走行体71に対して旋回動させることができる。
【0010】
特許文献2における減速機構74の構成及び電動モータの構成については詳述されていないので、それらの構成については想像するしかないが、減速機構74としては従来例1に示したような減速機部を有しており、電動モータ73としては従来からの油圧モータと同じ回転数とトルクとの動力特性を有する電動モータを用いているものと考えることができる。
【0011】
また、電動モータを用いるに当たって、減速機構74として従来例1に示したような減速機部に対して更に追加の減速手段を組み合わせた構成とすることで、従来からの油圧モータの回転数よりも高速回転する電動モータを用いていることも考えられる。そして、減速手段を追加した構成としたことで、従来の油圧モータを用いた場合に得られる出力トルク・回転数を出力ピニオンに与えている構成も考えられる。
【特許文献1】特開2002−357260号公報
【特許文献2】特開2004−36304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来例1に記載したような油圧モータを用いた場合には、油温の上昇や減速歯車の回転に伴う油面レベルの上昇を十分に吸収することのできる空気室63を設けておくことができる。しかし、上部旋回体62の旋回制動時においては、油圧エネルギーは絞り捨てられていたため、油圧エネルギーが無駄に消費されていた。
【0013】
これに対して特許文献2に記載されているような電動モータ73を用いた場合には、上部旋回体72の旋回制動時には回生電力として取り出して蓄圧等を行って、有効に利用することができる。しかし、電動モータ73では、モータ回転を行うためステータ巻線とロータとの間で電磁反力を発生させる構成をとることになる。ステータ巻線とロータとの配置構成としては、ステータ巻線をロータの外側に配列した構成やステータ巻線の外側にロータを配列した構成が用いられることになる。
【0014】
このため、電動モータ73の出力軸及びその軸受けの外側周囲のスペースに巻線端部が張出す構造となる。その結果、電動モータ73を用いた場合には、油圧モータを用いたときのような十分な大きさの空気室を減速機構74の上部において形成しておくことが難しくなる。空気室が小さい場合には、油温の上昇に伴う潤滑油の体積膨張により潤滑油の漏れが生じる恐れがある。
【0015】
これの解決方法として、例えば、電動モータの出力軸の長さを伸ばして、伸ばして形成した空間部を空気室に構成しておくことが考えられるが、このような構成にすると無駄に大きなハウジングを有する結果となり、電動旋回装置によって大きな場積が占有されてしまうことになる。更に、旋回装置の電動モータ化に当たっては、一般に減速機構に追加の減速手段を組み合わせた構成としたり、減速機構における減速比を大きくとった構成とすることで、高速回転する電動モータを用いることが望ましい構成となる。
【0016】
しかし、高速回転する電動モータを用いるために、これらの構成を採用すると減速機構の軸方向へのサイズアップが避けられなくなる。減速機構の軸方向への更なる大型化は、旋回装置の電動モータ化に当たって、旋回装置を搭載する上での大きな制約となっていた。
【0017】
本願発明では、上述したような従来の問題点を解決し、空気室を形成するために減速機構の軸方向へのサイズアップを行わず、高速回転する電動モータを用いて旋回装置におけるエネルギーの回収を効率的に行える電動旋回装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明の課題は請求項1〜4に記載された各発明により達成することができる。
即ち、本願発明では、電動モータを駆動源として作業車両の上部旋回体を旋回させる電動旋回装置において、上部に配した前記電動モータからの回転を減速する減速機と、前記減速機内の潤滑油室に潤滑油を供給する第1連通路と、前記潤滑油室上部と連通する第2連通路と、を備え、
前記第1連通路が、前記潤滑油室内に溜められる潤滑油の初期油面レベルよりも下方に配設され、前記第2連通路が、前記初期油面レベルよりも上方に配設され、前記第1連通路及び前記第2連通路が、前記電動旋回装置の外部に配設したバッファタンクに接続されてなることを最も主要な特徴となしている。
【0019】
また、本願発明では上述した発明に加えて、前記第2連通路の配設部位として、潤滑油室内に溜められている潤滑油の静止時における油面レベルよりも上方に配設された構成を特定したことを主要な特徴となしている。
【0020】
更に、本願発明では上述した発明に、前記潤滑油室上部における空間が、前記減速機内における空気室であることを特定したことを主要な特徴となしている。
更にまた、本願発明では上述した発明に、前記第2連通路が、前記減速機の上部に配設された減速歯車が前記減速機の停止時において潤滑油で浸される面よりも上方に配設されてなる構成を特定したことを主要な特徴となしている。
【発明の効果】
【0021】
本願発明では、減速機の潤滑油室上部を電動旋回装置の外部に配設したバッファタンクと連通させておくことができる。しかも、潤滑油室上部に容積の大きな空気室を構成することなしに、電動旋回装置の外部に配設したバッファタンクを空気室として使用することができる。これによって、高速回転をする電動モータを用いたとしても、潤滑油室上部に空気室を構成するために更なる減速機構の軸方向へのサイズアップを行わなくてすむ。
【0022】
また、バッファタンクの容量としては、自由にその容量を調整しておくことができるようになり、例えば、油温の上昇に伴う膨張油体積や減速機の上部に配設された減速歯車の回転に伴って発生する遠心力による油面上昇を吸収できる容量に、バッファタンクの容量を構成しておくことができる。しかもバッファタンクを電動旋回装置の外部に配設しておくことができるので、上部旋回体内での配置構成に対する設計の自由度を大幅に向上させることができる。
【0023】
第2連通路を、潤滑油の初期油面レベルよりも高い位置に配設しておくことができるので、第2連通路を介して減速機の上部部位から空気を効率的に抜き取ることができる。しかも、油面レベルの上昇時には、上昇した油は第2連通路を通してバッファタンク内に逃がしておくことができる。電動モータの回転が停止した場合や、油温度が低下した場合には、バッファタンク内に逃がした油を、第1連通路を用いて減速機内に戻すことができる。
【0024】
このとき、第2連通路は潤滑油の初期油面レベルよりも高い位置に配設されているので、バッファタンクから戻される油によって第2連通路内に油が充満してしまった状態となることはない。また、バッファタンクとしては、潤滑油の注油管、潤滑油の油面レベルを検出する検油管としての機能を兼用させておくこともできる。
【0025】
また、潤滑油の油温が上昇した場合には、潤滑油の体積膨張によって油面レベルが上昇する。このときには、潤滑油が静止している状態であっても、潤滑油室上部に潤滑油が充満してしまい、空気室が形成されない状況が発生する。そこで本発明では、第2連通路を潤滑油の静止時における油面レベルよりも高い位置に配設しておくことができる。
【0026】
このように構成することにより、潤滑油の油温上昇に伴って潤滑油の油面レベルが上昇したとしても、第2連通路を通して潤滑油室内の潤滑油をバッファタンク内に逃がさなくてもすむ。
【0027】
このときにおける静止時の油面レベルとしては、潤滑油室内に溜められている潤滑油の総量に、温度上昇による体積膨張率を掛けて求めた値と、潤滑油室内に潤滑油を溜めたときの潤滑油室の容積寸法とから、ほぼ推定しておくことが可能である。また、潤滑油の油温が上昇する温度としては、定常稼動時における潤滑油の温度を調べることにより特定しておくことができる。
【0028】
このように、油温上昇に伴う油面レベルの上昇分をバッファタンク内に逃がさずに、潤滑油室内における潤滑油の総量を減少させなくてすむので、油温が低下すれば潤滑油室内の油面レベルを初期油面レベルにまで迅速に戻すことができる。
【0029】
本発明では、第2連通路が、減速機の上部に配設された減速歯車が前記減速機の停止時において潤滑油で浸される面よりも高い位置に配設しておくことができる。これによって、油面レベルの上昇時には、減速機の上部部位から空気を効率的に抜き取ることができ、しかも、上昇した油は第2連通路を通してバッファタンク内に逃がしておくことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本願発明の電動旋回装置の構成としては、以下で説明する形状、配置構成以外にも本願発明の課題を解決することができる形状、配置構成であれば、それらの形状、配置構成を採用することができるものである。このため、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、多様な変更が可能である。
【実施例1】
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係わる電動旋回装置の縦断面図である。図2〜図4は、潤滑油の油面状態を説明するための電動旋回装置の要部縦断面図である。図1に示すように、電動旋回装置4は、電動モータ5と減速機10とを備えて構成されている。
【0032】
電動モータ5は、図示せぬ旋回制御装置からの制御によって、所定の電力が供給されて回転駆動する。電動モータ5は、従来の油圧モータとほぼ同じ大きさのものを用いているが、従来の油圧モータと異なる大きさのものを用いることもできる。従来の油圧モータよりも大きな場積を占める電動モータを用いた場合には、電動旋回装置4を配設するのに必要な場積が大きくなってしまい、逆に従来の油圧モータよりも小さな場積を占める電動モータを用いた場合には、電動モータの出力トルクが小さくなってしまう問題が発生する。このため、電動モータ5としては、従来の油圧モータとほぼ同じ大きさのものを用いておくことが望ましい構成となる。
【0033】
また、電動モータ5は、従来の油圧モータに相当する出力トルクを生じさせるために、油圧モータに比べて高速回転型のモータを用いている。電動モータ5の下部側には、モータ駆動軸5aの回転を減速する減速機10が設けられている。減速機10は、三段階の減速機として構成されている。三段階の減速機としては、電動モータ5からの回転を最初に減速する第一減速機11、第一減速機11で減速した回転を更に減速する第二減速機12、及び第二減速機12で減速した回転を更にもう一度減速して出力ピニオン14を回転させる第三減速機13から構成されている。そして、第一減速機11と第二減速機12との間には、メカニカルブレーキ15が配設されている。
【0034】
電動旋回装置4は上部旋回体2に固定され、スイングサークル3は下部走向体1に固定されている。また、上部旋回体2にはスイングサークル3に対して外接して相対回転できるように同芯円状の外輪8(左側断面の図示は省略)が固定されている。外輪8とスイングサークル3との間で相対回転が行えるように、外輪8とスイングサークル3との間にはベアリング8aが介在されている。
【0035】
そして、第三減速機13からの出力で回転される出力ピニオン14は、下部走向体1に設けたスイングサークル3に形成された内歯に噛合しており、出力ピニオン14が回転することによって、上部旋回体2は下部走向体1に対して旋回動することができる。
【0036】
次に減速機10の構成及びメカニカルブレーキ15の構成について説明するが、減速機10としては三段階の減速機に限定されるものではなく、一段階の減速機を含む適宜の段数を備えた減速機を用いることができる。また、遊星歯車機構以外の減速機を用いることもできる。メカニカルブレーキ15の構成としては、以下で説明するブレーキ機構に限定されるものではなく、周知のブレーキ機構を用いることができる。また、ブレーキ機構を配設する部位としては、第一減速機11と第二減速機12との間の部位に限定されるものではない。
【0037】
減速機10及びメカニカルブレーキ15は、上武旋回体2に固定された円筒状のケーシング7内に収納されている。ケーシング7は、上方から順に、内部に第一減速機11が配設される第1ケーシング7aと、内部にメカニカルブレーキ15が配設されるブレーキケーシング7bと、内部に第二減速機12及び第三減速機13の一部が配設される第2ケーシング7cと、内部に第三減速機13の残りの部分が配設される第3ケーシング7dとから構成されている。各ケーシング7a〜7dは、例えばボルト等の固定手段により隣接するケーシング同士が固定されている。
【0038】
第1ケーシング7aの上端部には、電動モータ5が固定されており、第3ケーシング7dの下端部は、上部旋回体2に固定されている。図示例では、電動モータ5は、水冷ジャケット19内に配設されている。
【0039】
第一減速機11は、モータ駆動軸5aに設けた第一太陽歯車11aの回転を減速して、駆動トルクを増大させて第一駆動軸11fから出力させる構成となっている。第一太陽歯車11aの回転は、第一太陽歯車11aと第1ケーシング7aの内周面に形成した第一リング歯車11eとに噛合している第一遊星歯車11bに伝えられる。第一太陽歯車11aからの回転によって、第一遊星歯車11bは自転するとともに第一太陽歯車11aの外周を公転する。
【0040】
第一遊星歯車11bの公転運動は、第一遊星歯車11bを回転自在に支障している第一キャリア11dの回転として取り出すことができる。第一キャリア11dの回転速度は、第一太陽歯車11aの外周を公転する第一遊星歯車11bの公転速度となり、第一太陽歯車11aの回転速度よりも減速される。そして、第一キャリア11dの回転は、第一キャリア11dとスプライン結合している第一駆動軸11fに伝えられる。
【0041】
第二減速機12は、第一駆動軸11fに設けた第二太陽歯車12aの回転を減速して、駆動トルクを増大させて第二駆動軸12fから出力させる構成となっている。第二太陽歯車12aの回転は、第二太陽歯車12aと第2ケーシング7cの内周面に形成した第二リング歯車12eとに噛合している第二遊星歯車12bに伝えられる。第二太陽歯車12aからの回転によって、第二遊星歯車12bは自転するとともに第二太陽歯車12aの外周を公転する。
【0042】
第二遊星歯車12bの公転運動は、第二遊星歯車12bを回転自在に支障している第二キャリア12dの回転として取り出すことができる。第二キャリア12dの回転速度は、第二太陽歯車12aの外周を公転する第二遊星歯車12bの公転速度となり、第二太陽歯車12aの回転速度よりも減速される。そして、第二キャリア12dの回転は、第二キャリア12dにスプライン結合している第二駆動軸12fに伝えられる。
【0043】
第三減速機13は、第二駆動軸12fに設けた第三太陽歯車13aの回転を減速して、駆動トルクを増大させて第三駆動軸13fから出力させる構成となっている。第三太陽歯車13aの回転は、第三太陽歯車13aと第2ケーシング7cの内周面に形成した第三リング歯車13eとに噛合している第三遊星歯車13bに伝えられる。第三太陽歯車13aからの回転によって、第三遊星歯車13bは自転するとともに第三太陽歯車13aの外周を公転する。
【0044】
第三遊星歯車13bの公転運動は、第三遊星歯車13bを回転自在に支障している第三キャリア13dの回転として取り出すことができる。第三キャリア13dの回転速度は、第三太陽歯車13aの外周を公転する第三遊星歯車13bの公転速度となり、第三太陽歯車13aの回転速度よりも減速される。そして、第三キャリア13dの回転は、第三キャリア13dにスプライン結合している第三駆動軸13fに伝えられる。第三駆動軸13fの回転は、出力ピニオン14を回転させる回転力として用いられることになる。
【0045】
このように高速回転していた電動モータ5の回転は、減速機10によって減速されて、高出力トルクの状態となって出力ピニオン14を回転させることができる。また、第一太陽歯車11a〜第三太陽歯車13aの構成及び出力ピニオン14の構成としては、それぞれモータ駆動軸5aの先端部、第一駆動軸11fの先端部、第二駆動軸12fの先端部、第三駆動軸13fの先端部を歯車形状に加工して、それぞれの軸5a、11f、12f、13fと一体に形成しておくこともできる。また、それぞれの軸5a、11f、12f、13fに対して回転不可の状態で嵌合させた構成としておくこともできる。
【0046】
メカニカルブレーキ15は、第一減速機11と第二減速機12との間に配設され、第一減速機11の出力軸である第一駆動軸11fの回転を制動する構成となっている。即ち、メカニカルブレーキ15は、第一駆動軸11fに接合されたブレーキディスク15bを、ブレーキパッド15を介して昇降動制御されるブレーキピストン16で挟圧保持したり挟圧保持を解除したりすることができる構成となっている。この構成により、第一駆動軸11fの回転に対して制動を加えたり、制動の解除を行うことができる。
【0047】
ブレーキディスク15bは、第一駆動軸11fにスプライン接合やセレーション接合などによって接合されたブレーキ連結部15aの外周部に設けられている。ブレーキパッド15cは、ブレーキディスク15bの上下両面に対向する位置に一対設けられている。一対のブレーキパッド15cのうちでブレーキディスク15bの下方側の面に対向して設けられるブレーキパッド15cは、ブレーキケーシング7bのパッド固定部に固定されており、ブレーキディスク15bの上方側の面に対向して設けられるブレーキパッド15cは、ブレーキピストン16の下端部に取り付けられている。
【0048】
ブレーキピストン16は、略環状に形成され、ブレーキケーシング7bの段差部分に対向した形状の段差部分を備えている。そして、ブレーキケーシング7bの段差部分とブレーキピストン16の段差部分とによって油圧室17が形成されている。また、ブレーキピストン16は、上部に設けたバネ18によって下方への付勢力が与えられている。尚、図2〜図5には、油圧室17を拡大した概略図を示している。
【0049】
油圧室17に対して圧油の給排を行うことで、ブレーキピストン16の上下方向への摺動を制御することができる。油圧室17への圧油の給排は、ブレーキケーシング7bに形成した油圧ポート17aから行うことができる。油圧室17に圧油が供給されると、ブレーキピストン16はバネ18を圧縮しながら上方側に押し上げられる。これにより、ブレーキピストン16によるブレーキディスク15bの挟圧保持状態が解除され、第一駆動軸11fの回転は制動されない状態となる。
【0050】
油圧室17から圧油が排出されると、ブレーキピストン16はバネ18の付勢力によって下方側に押し下げられる。これにより、ブレーキディスク15bはブレーキピストン16によって挟圧保持され、第一駆動軸11fの回転は制動されることになる。
【0051】
尚、本実施例において、1枚のブレーキディスク15bを用いた例を説明したが、この構成に限定されるものではなく、複数枚のブレーキディスクを用いた構成や他の周知の構成によるブレーキ機構を採用しても良い。また、ブレーキディスク15bを用いる場合に、ブレーキパッド15cをブレーキディスク15b側に設けた構成とすることもできる。
【0052】
第一減速機11と電動モータ5との間には、上部空間29が形成されている。上部空間29は空気室として利用することができるものであるが、減速機10内の潤滑油室24に溜められている潤滑油の温度上昇に伴う潤滑油の体積膨張を吸収するには、上部空間29の容積は小さなものとなっている。潤滑油室24における上部空間29の容積を大きく構成することができないのは、電動モータ5の上端部の高さ位置を高くしないで、電動モータ5のステータ巻線における巻線端部を第一減速機11と電動モータ5との間に収納させているため、上部空間29を小さく構成している。
【0053】
温度上昇に伴う潤滑油の体積膨張を吸収するため、本発明では、潤滑油室24における上部空間29に連通する連通路30を第一減速機11と電動モータ5との間に形成し、第1ケーシング7aには連通路30と連通するとともに、外部に配設したバッファタンク25に連通した第2連通路22を形成している。尚、図1では、第2連通路22は紙面に対して垂直方向に形成されている。
【0054】
本発明に係わるバッファタンク25、第2連通路22等の構成については、電動旋回装置4の要部縦断面図を示す図2〜図4を用いて説明する。図2〜図5の要部縦断面図では、本発明に係わる電動旋回装置4の要部を概略図で示している。図2には、電動モータ5が停止しているときの潤滑油の油面レベルの状態、あるいは、メカニカルブレーキ15が第一駆動軸11fを制動しているときの潤滑油の油面レベルの状態を示している。図2〜図5においては、潤滑油を破線状の横線で示している。
【0055】
図2に示すように、バッファタンク25は第3連通路23を介して第2連通路22と第1連通路21とに接続している。第1連通路21は減速機10に対して潤滑油を供給する管として構成されている。また、第1連通路21を介して減速機10に対して潤滑油を供給するときの空気抜きとして、連通路30に連通した連通路32が形成されており、連通路32は空気抜きプラグによって閉塞させておくことができる。
【0056】
図2に示す構成例では、説明を行い易くするためにバッファタンク25の上部を開口させた構成を示しているが、バッファタンク25内に塵埃、雨水等が入り込まないように、図5に示すようにバッファタンク25の上部開口を塞いだ構成としておくことが望ましい。バッファタンク25を潤滑油の供給用のタンクとして兼用させる構成とする場合には、図5に示すように注油口を兼ねたブリーザキャップ27をバッファタンク25の天井側に設けておくことができる。また、検油棒26をバッファタンク25に設けておくこともできる。ブリーザキャップ27を設けておくことによって、バッファタンク25内の内圧は大気圧相当に管理しておくことができる。
【0057】
バッファタンク25に検油棒26を設けておく場合には、検油棒26の先端部位が少なくとも後述する初期油面レベルLs位置よりも下方まで到達できるように構成しておくことが必要である。図5では、検油棒26をバッファタンク25に設けた構成を示しているが、検油棒26をバッファタンク25とは別構成としておくこともできる。
【0058】
電動旋回装置4の停止時等における初期油面レベルLsとなるように、注油口から供給された潤滑油をバッファタンク25、第3連通路23を介して第1連通路21から減速機10内に供給することができる。このとき、空気抜きプラグ31を外して、減速機10内に潤滑油が入り易くしておくことができる。
【0059】
そして、減速機10内の潤滑油室24に溜めておく潤滑油が、第一遊星歯車11bの底面に浸かっている油面レベルを下限油面レベルLlとし、第一遊星歯車11bの上面に浸かっている油面レベルを上限油面レベルLmとして、初期油面レベルLsを上限油面レベルLmと下限油面レベルLlとの間における油面レベルとして、各種電動旋回装置に対応させて予め設定しておくことができる。
【0060】
第1連通路21の配設位置は、初期油面レベルLsよりも下方の位置とし、第2連通路22の配設位置は、初期油面レベルLsよりも上方の位置とし配設させておくことができる。必要に応じて、第2連通路22の配設位置を、上限油面レベルLmよりも上方の位置とし配設させておくこともできる。
【0061】
尚、第1連通路21の配設位置について、例えば、第1連通路21の横断面形状が円形断面であったとした場合を例に挙げて更に説明すると、初期油面レベルLsよりも下方の位置にあるということは、少なくとも円形断面の下端部の位置が初期油面レベルLsよりも下方に位置している状態を意味する。即ち、第1連通路21が初期油面レベルLsよりも下方の位置にあるということは、第1連通路21の円形断面の中に初期油面レベルLsよりも下方にある部位が存在し、同部位を通って常に潤滑油を流すことにできることを意味している。
【0062】
同様に、第2連通路22の配設位置について、例えば、第2連通路22の横断面形状が円形断面であったとした場合を例に挙げて更に説明すると、初期油面レベルLsよりも上方の位置にあるということは、少なくとも円形断面の上端部の位置が初期油面レベルLsよりも上方に位置している状態を意味する。即ち、減速機10内における潤滑油の油面レベルが初期油面レベルLsにあったとき、第2連通路22が初期油面レベルLsよりも上方の位置にあるということは、第2連通路22の円形断面の中に初期油面レベルLsよりも上方にある部位が存在し、同部位を通って空気を上部空間29との間で流通させることができることを意味している。
【0063】
図3、図5は、図2で示す状態から潤滑油の温度が上昇して、潤滑油の体積膨張が発生した状態を示している。体積膨張した潤滑油は、上部空間29、連通路30、第2連通路22及び第3連通路23を通って、バッファタンク25内に導入されて、退避しておくことができる。この構成により、上部空間29を拡大したと同様の機能を奏することができる。図示例では、第3連通路23は、第1ケーシング7a及びブレーキケーシング7bに外付けされた部材内に形成されている。しかし、連通路23としては、第1ケーシング7aやブレーキケーシング7bに外付けされる部材内に形成しておく代わりに、直接、第1連通路21、第2連通路22と接続した油路管として構成しておくこともできる。
【0064】
しかも、バッファタンク25は電動旋回装置4の外部に配設されているので、所望の容積を有するバッファタンク25の形状を任意の形状として構成しておくことができる。バッファタンク25の底面位置としては、第2連通路22の配設高さ位置以上の高さ位置としておくことが望ましい。
【0065】
また、潤滑油の温度が低下した場合には、バッファタンク25内に退避していた潤滑油は第1連通路21、第2連通路22を通って減速機10内に戻っていくことができる。このとき、第1連通路21、第2連通路22から潤滑油を吸引しながら、潤滑油の油面レベルを下げていくことになる。しかも、第2連通路22が初期油面レベルLsあるいは、上限油面レベルLmよりも高い位置に配設されているので、油面レベルが第2連通路22上端位置よりも下がると、第2連通路22を空気通路として使用することができるようになり、油面レベルを初期油面レベルLsに戻す速度を速めることができる。
【0066】
図4は、第一太陽歯車11aの回転、第一遊星歯車11bの公転に伴って、潤滑油が供回り回転を誘起され潤滑油の油面がすり鉢形状に形成された状態を示している。すり鉢形状が急峻な形状となったときに、上部空間29の高さ位置を越えた潤滑油は、連通路30、第2連通路22、第3連通路23を通ってバッファタンク25内に導入されて、退避することができる。また、このとき、第一遊星歯車11bはすり鉢形状となった潤滑油中を通ることができるので、第一遊星歯車11bの歯面には潤滑油膜を形成しておくことができる。このため、潤滑油膜を形成した第一遊星歯車11bに噛合している第一太陽歯車11aの歯面に対しても、潤滑油を供給しておくことができる。
【0067】
第一太陽歯車11aの回転が停止した場合には、図3、図5を用いて温度していた潤滑油の温度が低下した場合について説明したと同様に、バッファタンク25内に退避していた潤滑油は第1連通路21、第2連通路22を通って減速機10内に戻すことができる。油面レベルが第2連通路22よりも低下すると、第2連通路22は空気通路として利用されることになる。
【実施例2】
【0068】
図6を用いて本発明に係わる別の電動旋回装置について説明する。図6は、別の電動旋回装置の要部を示した概略縦断面図である。図6で示す実施例2では、潤滑油室24内の上部空間29とバッファタンク25との間を連通させる第2連通路22が、バッファタンク25側ではバッファタンク25の上部空気層と連通した配置構成となっている。また、第3連通路23には第2連通路22は接続されておらず、第1連通路21のみが接続した構成となっている。
【0069】
他の構成は、実施例1における構成と同様の構成を備えることができる。そのため、実施例1と同様の構成については、実施例1において用いた部材符号と同じ部材符号を用いることでその説明を省略する。
【0070】
図6に示すように、潤滑油室24内の上部における空気室29は、第2連通路22を介してバッファタンク25内における上部空気層に連通させておくことができる。この構成によって、第2連通路22の配設部位としては、油温の状態に係わらず潤滑油の静止時における油面レベルよりも上方に配設しておくことができる。
【0071】
尚、この油面レベルとしては、潤滑油室内に溜められている潤滑油の総量に、温度上昇による体積膨張率を掛けることによってほぼ推定することが可能であり、油温が上昇する温度としては、定常稼動時における潤滑油の温度を調べることにより特定することができる。
【0072】
このように、第2連通路22を配設しておくことにより、油温上昇に伴う油面レベルの上昇分をバッファタンク内に逃がしておかなくてすみ、油温が上昇したとしても、潤滑油室内における潤滑油の総量は減少することがない。これによって、油温が低下すれば潤滑油室24内の油面レベルは初期油面レベルにまで迅速に復帰することができる。
【0073】
また、電動旋回装置4による旋回動作に伴って、空気室29で潤滑油の油面がすり鉢形状に形成されていったとしても、すり鉢形状が急峻な形状となったときに、上部空間29の高さ位置を越えた潤滑油は、第2連通路22を通ってバッファタンク25の上部からバッファタンク25内に排出することができる。
【0074】
電動旋回装置4による旋回動作が停止すると、バッファタンク25内に排出されていた潤滑油は、第3連通路23及び第1連通油路21を通って、減速機10内に戻されることになる。しかも、第3連通路23及び第1連通油路21を通ってバッファタンク25内に排出されていた潤滑油が、減速機10内に戻されるときには、第2連通路22は一端が大気に開放された空気通路として機能するので、潤滑油の戻りをスムーズに行わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本願発明は、本願発明の技術思想を適用することができる装置等に対しては、本願発明の技術思想を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】電動旋回装置の全体構成図である。(実施例1)
【図2】電動旋回装置の要部を拡大した概略図である。(実施例1)
【図3】潤滑油の油面状態を説明する図である。(実施例1)
【図4】他の潤滑油の油面状態を説明する図である。(実施例1)
【図5】バッファタンクの他の構成を示す図である。(実施例1)
【図6】連通路に係わる他の構成を拡大して示した概略図である。(実施例2)
【図7】減速機付き油圧モータ装置の全体図である。(従来例1)
【図8】電動モータを用いた作業機の全体構成図である。(従来例2)
【符号の説明】
【0077】


1・・・下部走向体、
2・・・上部旋回体、
3・・・スイングサークル、
4・・・電動旋回装置、
5・・・電動モータ、
7・・・ケーシング、
10・・・減速機、
11・・・第一減速機、
12・・・第2減速機、
13・・・第三減速機、
14・・・出力ピニオン、
15・・・メカニカルブレーキ、
21・・・第1連通路、
22・・・第2連通路、
23・・・第3連通路、
24・・・潤滑油室、
25・・・バッファタンク、
29・・・上部空間、
30・・・連通路、
50・・・油圧モータ装置、
51・・・油圧モータ部、
52・・・減速機部、
53、54・・・遊星歯車減速機構、
58・・・メカニカルブレーキ、
59・・・出力ピニオン、
60・・・リング歯車、
62・・・上部旋回体、
63・・・空気室、
71・・・下部走向体、
72・・・上部旋回体、
73・・・電動モータ、
74・・・減速機構、
75・・・旋回駆動機構、
Lm・・・上限油面レベル、
Ls・・・初期油面レベル、
Ll・・・下限油面レベル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを駆動源として作業車両の上部旋回体を旋回させる電動旋回装置において、
上部に配した前記電動モータからの回転を減速する減速機と、
前記減速機内の潤滑油室に潤滑油を供給する第1連通路と、
前記潤滑油室上部と連通する第2連通路と、
を備え、
前記第1連通路が、前記潤滑油室内に溜められる潤滑油の初期油面レベルよりも下方に配設され、
前記第2連通路が、前記初期油面レベルよりも上方に配設され、
前記第1連通路及び前記第2連通路が、前記電動旋回装置の外部に配設したバッファタンクに接続されてなることを特徴とする電動旋回装置。
【請求項2】
前記第2連通路が、前記潤滑油の静止時における油面レベルよりも上方に配設されてなることを特徴とする請求項1記載の電動旋回装置。
【請求項3】
前記潤滑油室上部における空間が、前記減速機内における空気室であることを特徴とする請求項1又は2記載の電動旋回装置。
【請求項4】
前記第2連通路が、前記減速機の上部に配設された減速歯車が前記減速機の停止時において潤滑油で浸される面よりも上方に配設されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電動旋回装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−232269(P2008−232269A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72788(P2007−72788)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】