説明

電動車両制御装置・制御方法・および電動車両

【課題】 適切なスリップ防止が行えて、タイヤのグリップ力を最大限に利用できる電動車両の制御装置、制御方法、および電動車両を提供する。
【解決手段】 上位制御手段21より与えられるトルク指令値に従い走行用のモータ8の駆動を制御するインバータ装置22を備える。モータ8で駆動される車輪の角加速度を検出する回転検出手段39を設ける。インバータ装置22に、前記の検出された角加速度の上限値を車両重量と出力トルクとの関数として設定し、この設定された上限値を、前記回転検出手段39で検出された角加速度が超えた場合に、トルク指令値を低減させるスリップ対応制御手段40を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動のモータで走行駆動される電気自動車等の電動車両の制御装置・制御方法・および電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等の電動車両では、内燃機関に比べて応答性の高いモータが用いられる。特に、インホイールモータ型の電気自動車では、各輪独立に応答性の高いモータが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−172935公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動車両は、上記のように駆動を応答性の良いモータで行うため、トルク制御による車両の安定走行化が容易と考えられている。特にスリップ制御に関しては、高速なトルク応答性を活かして、ブレーキで制御する以上の高度な制御が可能である。一般的にはタイヤの角加速度が一定値を超えた場合にスリップと判断し、トルクを低減させる制御が行われている。しかし、その方法では、駆動トルクの違いによるスリップ時の角加速度の違いを吸収できず、余裕を大きく取った安全側の閾値設定となり、タイヤのグリップ力を上限まで使うことができない。
【0005】
この発明の目的は、適切なスリップ防止が行えて、タイヤのグリップ力を最大限に利用できる電動車両の制御装置、制御方法、および電動車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この電動車両制御装置は、加減速の操作手段38の出力する指令を基にして上位制御手段21より与えられるトルク指令値に従い走行用のモータ8の駆動を制御するモータ制御装置22を備えた電動車両制御装置において、
前記モータ8で駆動される車輪の角加速度を検出する回転検出手段39を設け、前記モータ制御装置22に、前記回転検出手段39で検出された角加速度の上限値を車両重量と出力トルクとの関数として設定し、この設定された上限値を、前記回転検出手段39で検出された角加速度が超えた場合に、前記トルク指令値を低減させるスリップ対応制御手段40を設けたことを特徴とする。
【0007】
この構成によると、スリップ対応制御手段40は、スリップ判断のための車輪の角加速度の上限値を、車両重量と出力トルクとの関数として設定し、この上限値を超えた場合に、スリップが発生したと判断してトルク指令値を低減させる。そのため、スリップ判断のための角加速度の上限値、つまり閾値を最適な値に設定することができて、無駄に安全側に大きくした閾値とならず、タイヤのグリップ力を最大限に利用することができる。
【0008】
この発明において、前記スリップ対応制御手段40は、車両重量を固定値とし、出力トルクのみによって角加速度の上限値を決定し設定するようにしても良い。車両重量を固定値とすれば、スリップ対応制御手段40が簡易となり、また車両重量を測定するためのセンサ類が不要となる。
【0009】
この発明において、車両の2つの前輪および2つの後輪のそれぞれの車輪用軸受に荷重センサ41を設け、前記スリップ対応制御手段40は、前記各荷重センサ41によりリアルタイムで車両重量を測定し、この測定された車両重量を用いて前記上限値を決定し、設定しても良い。
この構成の場合、乗員数や積載荷物等により変化する車両重量を、リアルタイムで測定し、スリップ判断のための上限値を決定するため、より適切な上限値の設定が可能となり、タイヤのグリップ力をより一層最大限に利用することができる。
【0010】
この発明において、前記スリップ対応制御手段40は、車輪の角加速度が前記上限値を超えた程度に応じてトルクの低減量を変化させるようにしても良い。スリップ対応制御手段40によるトルクの低減量は固定値としてもスリップ制御が可能であるが、上限値を超えた程度に応じてトルクの低減量を変化させることで、無駄にトルク低下させることなく、より一層適切なスリップ制御が行える。
【0011】
この発明において、2輪以上の車輪を独立して駆動するモータおよび前記モータ制御装置を備えた電動車輪において、前記スリップ対応制御手段を各輪独立して制御可能に設けても良い。
車輪のスリップは車輪個別に起こることが多いため、2輪以上の車輪を独立して駆動するモータを有する場合は、各輪独立してスリップ制御することで、無駄に走行駆動力を低減させずに済む。なお、スリップ制御は、スリップが生じてタイヤグリップ力が低下した車輪につき、タイヤグリップ力が生じるように行う制御であるため、左右の片方の車輪のみトルク指令値を低下させるようにしても、左右の走行駆動力のバランスは、スリップが生じている場合よりも良好となる。
【0012】
この発明の電動車両は、この発明の上記いずれかの構成の電動車両制御装置を備えたものである。この電動車両によると、この発明の電動車両制御装置によるスリップ制御により、スリップ判断のための角加速度の上限値が無駄に安全側に大きくした閾値とならず、タイヤのグリップ力を最大限に利用することができて、無駄に速度低下を生じさせることなく、スリップの少ない安定した走行が行える。
【0013】
この発明の電動車両のスリップ対応制御方法は、加減速の操作手段の出力する指令を基にして上位制御手段より与えられるトルク指令値に従い走行用のモータの駆動を制御する電動車両において、前記モータで駆動される車輪の角加速度を検出し、この検出された角加速度を用いて角加速度の上限値を車両重量と出力トルクとの関数として設定し、この設定された上限値を、検出された車輪の角加速度が超えた場合に、前記トルク指令値を低減させる方法である。
この方法によると、この発明の電動車両制御装置につき説明したと同様に、適切なスリップ防止が行えて、タイヤのグリップ力を最大限に利用することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の電動車両制御装置は、加減速の操作手段の出力する指令を基にして上位制御手段より与えられるトルク指令値に従い走行用のモータの駆動を制御するモータ制御装置を備えた電動車両制御装置において、前記モータで駆動される車輪の角加速度を検出する回転検出手段を設け、前記モータ制御装置に、前記回転検出手段で検出された角加速度の上限値を車両重量と出力トルクとの関数として設定し、この設定された上限値を、前記回転検出手段で検出された角加速度が超えた場合に、前記トルク指令値を低減させるスリップ対応制御手段を設けたため、適切なスリップ防止が行えて、タイヤのグリップ力を最大限に利用することができる。
【0015】
この発明の電動車両は、この発明の電動車両制御装置を備えるため、タイヤのグリップ力を最大限に利用したスリップ防止が行えて、無駄に速度低下を生じさせることなく、スリップの少ない安定した走行が行える。
【0016】
この発明の電動車両のスリップ対応制御方法は、加減速の操作手段の出力する指令を基にして上位制御手段より与えられるトルク指令値に従い走行用のモータの駆動を制御する電動車両において、前記モータで駆動される車輪の角加速度を検出し、この検出された角加速度を用いて角加速度の上限値を車両重量と出力トルクとの関数として設定し、この設定された上限値を、検出された車輪の角加速度が超えた場合に、前記トルク指令値を低減させる方法であるため、適切なスリップ防止が行えて、タイヤのグリップ力を最大限に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の一実施形態に係る電動車両を平面図で示す概念構成のブロック図である。
【図2】同電動車両のインホイールモータユニットの概念構成を示すブロック図である。
【図3】同電動車両におけるインバータ装置およびスリップ対応制御手段の概念構成を示すブロック図である。
【図4】同インバータ装置に設けられたスリップ対応制御手段による制御例を示すグラフである。
【図5】同電気自動車におけるインホイールモータ駆動装置の破断正面図である。
【図6】図5のVI− VI 線断面図である。
【図7】図6の部分拡大断面図である。
【図8】同電動車両における車輪用軸受の外方部材の側面図と荷重検出用の信号処理ユニットとを組み合わせた図である。
【図9】同電動車両におけるセンサユニットの拡大平面図である。
【図10】同センサユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の一実施形態を図1ないし図12と共に説明する。この電動車両は、車体1の左右の後輪となる車輪2が駆動輪とされ、左右の前輪となる車輪3が従動輪の操舵輪とされた4輪の自動車である。駆動輪および従動輪となる車輪2,3は、いずれもタイヤを有し、それぞれ車輪用軸受4,5を介して車体1に支持されている。車輪用軸受4,5は、図1ではハブベアリングの略称「H/B」を付してある。左右の駆動輪である車輪2,2は、それぞれ独立の走行用のモータ6,6により駆動される。モータ6の回転は、減速機7および車輪用軸受4を介して車輪2に伝達される。これらモータ6、減速機7、および車輪用軸受4は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ駆動装置8を構成しており、インホイールモータ駆動装置8は、一部または全体が駆動輪2内に配置される。モータ6は、減速機7を介さずに直接に駆動輪2を回転駆動するものであっても良い。各インホイールモータ駆動装置8は、後述のインバータ装置22と共に、インホイールモータユニット30を構成する。各駆動輪および従動輪である車輪2,3には、電動式等の摩擦ブレーキである機械式のブレーキ9,10がそれぞれ設けられている。
【0019】
左右の前輪となる操舵輪である車輪3,3は、転舵機構11を介して転舵可能であり、操舵機構12により操舵される。転舵機構11は、タイロッド11aを左右移動させることで、車輪用軸受5を保持した左右のナックルアーム11bの角度を変える機構であり、操舵機構12の指令によりEPS(電動パワーステアリング)モータ13を駆動させ、回転・直線運動変換機構(図示せず)を介して左右移動させられる。操舵角は操舵角センサ15で検出し、このセンサ出力はECU21に出力され、その情報は左右輪の加速・減速指令等に使用される。
【0020】
制御系を説明する。自動車全般の制御を行う電気制御ユニットであるメインのECU21と、このECU21の指令に従って走行用のモータ6の制御を行うモータ制御装置であるインバータ装置22と、ブレーキコントローラ23とが、車体1に搭載されている。ECU21は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。
【0021】
ECU21は、機能別に大別すると駆動に関する制御を行う駆動制御部21aと、その他の制御を行う一般制御部21bとに分けられる。駆動制御部21aは、トルク配分手段48を有していて、トルク配分手段48は、アクセル操作部16の出力する加速指令と、ブレーキ操作部17の出力する減速指令と、操舵角センサ15の出力する旋回指令とから、左右輪の走行用モータ6,6に与える加速・減速指令をトルク指令値として生成し、インバータ装置22へ出力する。前記アクセル操作部16およびブレーキ操作部17が加減速の操作手段38(図3)となる。図1において、トルク配分手段48は、ブレーキ操作部17の出力する減速指令があったときに、モータ6を回生ブレーキとして機能させる制動トルク指令値と、機械式のブレーキ9,10を動作させる制動トルク指令値とに配分する機能を持つ。回生ブレーキとして機能させる制動トルク指令値は、前記左右輪の走行用モータ6,6に与える加速・減速指令をトルク指令値に反映させる。機械式のブレーキ9,10を動作させる制動トルク指令値は、ブレーキコントローラ23へ出力する。トルク配分手段48は、上記の他に、出力する加速・減速指令を、各車輪2,3の車輪用軸受4,5に設けられた回転センサ24,24Aから得られるタイヤ回転数の情報や、車載の各センサの情報を用いて補正する機能を有していても良い。アクセル操作部16は、アクセルペダルとその踏み込み量を検出して前記加速指令を出力するセンサ16aとでなる。ブレーキ操作部17は、ブレーキペダルとその踏み込み量を検出して前記減速指令を出力するセンサ17aとでなる。
【0022】
ECU21の一般制御部21bは、各種の補機システム25を制御する機能、コンソールの操作パネル26からの入力指令を処理する機能、表示手段27に表示を行う機能などを有する。前記補機システム25は、例えば、エアコン、ライト、ワイパー、GPS、エアバッグ等であり、ここでは代表して一つのブロックとして示す。
【0023】
ブレーキコントローラ23は、ECU21から出力される制動指令に従って、各駆動輪2,従動輪3の機械式のブレーキ9,10に制動指令を与える手段であり、制動専用のECUとなる電子回路やマイコン等により構成される。メインのECU21から出力される制動指令には、ブレーキ操作部17の出力する減速指令によって生成される指令の他に、ECU21の持つ安全性向上のための手段によって生成される指令がある。ブレーキコントローラ23は、この他にアンチロックブレーキシステムを備える。
【0024】
インバータ装置22は、各モータ6に対して設けられたパワー回路部28と、このパワー回路部28を制御するモータコントロール部29とで構成される。モータコントロール部29は、各パワー回路部28に対して共通して設けられていても、別々に設けられていても良いが、共通して設けられた場合であっても、各パワー回路部28は、例えば互いにモータトルクが異なるように独立して制御可能なものとされる。モータコントロール部29は、このモータコントロール部29が持つインホイールモータ8に関する各検出値や制御値等の各情報(「IWMシステム情報」と称す)をECU21に出力する機能を有する。
この実施形態では、モータコントロール部29は、各パワー回路部28に対して別々に設けられ、これらパワー回路部28とモータコントロール部29とでなるインバータ装置22と、その制御対象のモータ6を含むインホイールモータ駆動装置8とで、前述のようにインホイールモータユニット30が構成される。
【0025】
図2は、インホイールモータユニット30の概念構成を示すブロック図である。インバータ装置22のパワー回路部28は、バッテリ19の直流電力をモータ6の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ31と、このインバータ31を制御するPWMドライバ32とで構成される。モータ6は3相の同期モータ、例えばIPM型(埋込磁石型)同期モータ等からなる。インバータ31は、複数の半導体スイッチング素子(図示せず)で構成され、PWMドライバ32は、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0026】
モータコントロール部29は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成される。モータコントロール部29は、上位制御手段であるECU21から与えられる加速・減速指令となるトルク指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部28のPWMドライバ32に電流指令を与える。また、モータコントロール部29は、インバータ31からモータ6に流すモータ電流値を電流センサ35から得て、電流フィードバック制御を行う。この電流制御では、モータ6のロータの回転角を角度センサ36から得て、ベクトル制御等の回転角に応じた制御を行う。
【0027】
この実施形態は、図3に示すように、インバータ装置22のモータコントロール部29におけるモータコントロール主部37の上位に、次のスリップ対応制御手段40を設けている。また、車輪の角加速度を検出する回転検出手段39を設けている。モータコントロール主部37は、上記のECU21から与えられるトルク指令に従い、パワー回路部28へ与える電流指令を、ベクトル制御等の回転角に応じた制御で行う手段である。回転検出手段39は、モータ8のロータの角加速度を検出し、車輪の角加速度に換算して出力する。回転検出手段39は、例えばレゾルバとその検出信号を処理する手段とでなるが、前記角度センサ36を車輪の角加速度の検出用の回転検出手段39として用いても良い。なお、上記のスリップ対応制御手段40は、個々の車輪のモータ8に対するインバータ装置22に、互いに独立して制御可能に設けられる。
【0028】
スリップ対応制御手段40は、上限値計算部42と、角速度変化判断部43と、加算部44とで構成される。上限値計算部42は、回転検出手段39で検出された角加速度の上限値を、車両重量と出力トルクとの関数として計算し、計算結果となる上限値を閾値として設定する手段である。出力トルクの値は、インバータ装置22におけるモータコントロール部29で、電流計の電流検出値等から認識している現在のモータ駆動トルクの値を使用する。
【0029】
角速度変化判断部43は、上限値計算部42で計算された上限値を、回転検出手段39で検出された角加速度が超えたか否かを判定し、超えた場合に、上位のECU21からのトルク指令値を低減させるトルク補正値を出力する手段である。加算部44は、ECU21からのトルク指令値に、角速度変化判断部43が出力したトルク補正値を加算する手段である。
【0030】
スリップ対応制御手段40の上限値計算部42は、車両重量を固定値として、検出値としては出力トルクのみを用いて角加速度の上限値を決定し設定するものであっても良く、また車両の2つの前輪3および2つの後輪2(図1)のそれぞれの車輪用軸受4,5に荷重センサ41(図3)を設け、各荷重センサ41によりリアルタイムにより車両重量を測定してその測定された車両重量を用いて前記上限値を決定し設定するものであっても良い。
【0031】
スリップ対応制御手段40における角加速度判断部43は、車輪の角加速度が前記上限値を超えた程度に応じて、出力するトルク補正値であるトルクの低減量を変化させるものとしている。前記上限値を超えた程度に応じたトルクの低減量は、比例的、つまり直線的に変化させるようにしても、また定められた曲線に応じて、あるいは段階的に変化させるようにしても良い。なお、角加速度判断部43は、出力するトルク補正値を一定としても良い。
【0032】
上記構成によるスリップ対応制御の方法を説明する。駆動輪となる各車輪の角速度の変化、すなわち回転検出手段39から出力される角速度の変化を、角加速度判定部43で監視する。角加速度判定部43により、角速度の変化が、上限値計算部42で車両重量とトルクから後述のように換算される上限値である閾値(Δω0 )よりも大きい場合には、タイヤがスリップしていると判断し、トルク補正値を出力し、加算部44によってトルク指令値に加算する。この場合に、角加速度判定部43は、トルク指令値+トルク補正値の値が徐々に小さくなるようにトルク補正値を出力する。図4は、そのトルク補正値の変化例を示す。
【0033】
角加速度判定部43は、上記のようにタイヤがスリップしていると判断して補正値を出力した後、タイヤがスリップしていないと判断した場合、つまり角速度の変化が上限値である閾値(Δω0 )以下になったと判断した場合には、加算するトルク補正値を小さくして行き、トルク指令値+トルク補正値がトルク指令値と同じになるように、すなわちトルク指令値が徐々に低下して零となるように動作する。
【0034】
次に、スリップ判断の閾値(Δω0 )を車両重量と出力トルクとの関数とすることの適切性を、計算式と共に説明する。ここで、
車両満載時質量:W(kg)、
車軸トルク:T (Nm) 、
モータトルク:TO (Nm)、
タイヤ有効半径:R(m) 、
タイヤ角速度:ω(rad/s) 、
モータ角速度:ω(rad/s)、
タイヤ接地部の推力:F (N)、
車両加速度:α(m/s2)、
車両速度:V(m/s) 、
重力加速度:g (m/s2) 、
減速比:N、
とする。
【0035】
車両の運動則は、次の通りである。
F=T/R=N*TO /R=W*g*α (1)
V=R*ω=α*t (2)
ω=ω/N (3)
(2)、(3)式より
α=R*ω/(N*t) (4)
(1)、(4)式より
ω=N*T*W*g*t/R(5)
(5)式より、モータ角加速度は
ω’=N*T*W*g/R[rad/s2] (6)
(6)式より、実モータの角加速度Δω0は
Δω0<N*T*W*g/R(7)
となるはずである。
(Δω0:車両重量とトルクから換算できる最大の角速度変化)
【0036】
モータ回転角の検出手段であるレゾルバのモータ1回転あたりの分割数は、 レゾルバの分解能×極対数 とすると、ビット換算した回転角速度変化は、
Δωr=レゾルバの分解能×N*T*W*g/R
Δωr∝K*T*W(K=レゾルバの分解能×N*g/R)(8)
(8)式よりω∝K*T
片輪あたりのトルク出力は、T=2*T(T:片輪のトルク)なので
ω∝K*T
【0037】
モータトルクT1に対して、K*T以上のビット換算した回転角速度変化が検出された場合にはスリップと判断でき、角速度変化判断部43はモータトルクを低減させるトルク補正値を出力する。
また上式より、この角速度変化の上限値は、車両の重量の関数であることがわかる。よって、車両の4輪の車軸荷重をリアルタイムで測定し、総和を常識のWとすれば、最適制御が行える。
【0038】
上記構成の電動車両制御装置によると、このようにして適切なスリップ防止が行えて、タイヤのグリップ力を最大限に利用することができる。
【0039】
次に、図5〜図7と共に、前記インホイールモータ駆動装置8の具体例を示す。このインホイールモータ駆動装置8は、車輪用軸受4とモータ6との間に減速機7を介在させ、車輪用軸受4で支持される駆動輪2のハブベアリングとモータ6の回転出力軸74とを同軸心上で連結してある。減速機7は、サイクロイド減速機であって、モータ6の回転出力軸74に同軸に連結される回転入力軸82に偏心部82a,82bを形成し、偏心部82a,82bにそれぞれ軸受85を介して曲線板84a,84bを装着し、曲線板84a,84bの偏心運動を車輪用軸受4へ回転運動として伝達する構成である。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0040】
車輪用軸受4は、内周に複列の転走面53を形成した外方部材51と、これら各転走面53に対向する転走面54を外周に形成した内方部材52と、これら外方部材51および内方部材52の転走面53,54間に介在した複列の転動体55とで構成される。内方部材52は、駆動輪を取り付けるハブを兼用する。この車輪用軸受4は、複列のアンギュラ玉軸受とされていて、転動体55はボールからなり、各列毎に保持器56で保持されている。上記転走面53,54は断面円弧状であり、各転走面53,54は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材51と内方部材52との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材57でシールされている。
【0041】
外方部材51は静止側軌道輪となるものであって、減速機7のアウトボード側のハウジング83bに取り付けるフランジ51aを有し、全体が一体の部品とされている。フランジ51aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔64が設けられている。また、ハウジング83bには,ボルト挿通孔64に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔94が設けられている。ボルト挿通孔94に挿通した取付ボルト65をボルト螺着孔94に螺着させることにより、外方部材51がハウジング83bに取り付けられる。
【0042】
内方部材52は回転側軌道輪となるものであって、車輪取付用のハブフランジ59aを有するアウトボード側材59と、このアウトボード側材59の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材59に一体化されたインボード側材60とでなる。これらアウトボード側材59およびインボード側材60に、前記各列の転走面54が形成されている。インボード側材60の中心には貫通孔61が設けられている。ハブフランジ59aには、周方向複数箇所にハブボルト66の圧入孔67が設けられている。アウトボード側材59のハブフランジ59aの根元部付近には、駆動輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部63がアウトボード側に突出している。このパイロット部63の内周には、前記貫通孔61のアウトボード側端を塞ぐキャップ68が取り付けられている。
【0043】
減速機7は、上記したようにサイクロイド減速機であり、図6のように外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板84a,84bが、それぞれ軸受85を介して回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着してある。これら各曲線板84a,84bの偏心運動を外周側で案内する複数の外ピン86を、それぞれハウジング83bに差し渡して設け、内方部材2のインボード側材60に取り付けた複数の内ピン88を、各曲線板84a,84bの内部に設けられた複数の円形の貫通孔89に挿入状態に係合させてある。回転入力軸82は、モータ6の回転出力軸74とスプライン結合されて一体に回転する。なお、回転入力軸82はインボード側のハウジング83aと内方部材52のインボード側材60の内径面とに2つの軸受90で両持ち支持されている。
【0044】
モータ6の回転出力軸74が回転すると、これと一体回転する回転入力軸82に取り付けられた各曲線板84a,84bが偏心運動を行う。この各曲線板84a,84bの偏心運動が、内ピン88と貫通孔89との係合によって、内方部材52に回転運動として伝達される。回転出力軸74の回転に対して内方部材52の回転は減速されたものとなる。例えば、1段のサイクロイド減速機で1/10以上の減速比を得ることができる。
【0045】
前記2枚の曲線板84a,84bは、互いに偏心運動が打ち消されるように180°位相をずらして回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着され、各偏心部82a,82bの両側には、各曲線板84a,84bの偏心運動による振動を打ち消すように、各偏心部82a,82bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト91が装着されている。
【0046】
図7に拡大して示すように、前記各外ピン86と内ピン88には軸受92,93が装着され、これらの軸受92,93の外輪92a,93aが、それぞれ各曲線板84a,84bの外周と各貫通孔89の内周とに転接するようになっている。したがって、外ピン86と各曲線板84a,84bの外周との接触抵抗、および内ピン88と各貫通孔89の内周との接触抵抗を低減し、各曲線板84a,84bの偏心運動をスムーズに内方部材52に回転運動として伝達することができる。
【0047】
図5において、モータ6は、円筒状のモータハウジング72に固定したモータステータ73と、回転出力軸74に取り付けたモータロータ75との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のIPMモータである。回転出力軸74は、減速機7のインボード側のハウジング83aの筒部に2つの軸受76で片持ち支持されている。
【0048】
モータステータ73は、軟質磁性体からなるステータコア部77とコイル78とでなる。ステータコア部77は、その外周面がモータハウジング72の内周面に嵌合して、モータハウジング72に保持されている。モータロータ75は、モータステータ73と同心に回転出力軸74に外嵌するロータコア部79と、このロータコア部79に内蔵される複数の永久磁石80とでなる。
【0049】
モータ6には、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を検出する角度センサ36が設けられる。角度センサ36は、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を表す信号を検出して出力する角度センサ本体70と、この角度センサ本体70の出力する信号から角度を演算する角度演算回路71とを有する。角度センサ本体70は、回転出力軸74の外周面に設けられる被検出部70aと、モータハウジング72に設けられ前記被検出部70aに例えば径方向に対向して近接配置される検出部70bとでなる。被検出部70aと検出部70bは軸方向に対向して近接配置されるものであっても良い。ここでは、各角度センサ36として、磁気エンコーダまたはレゾルバが用いられる。モータ6の回転制御は上記モータコントール部29(図1,2)により行われる。このモータ6では、その効率を最大にするため、角度センサ42の検出するモータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度に基づき、モータステータ73のコイル78へ流す交流電流の各波の各相の印加タイミングを、モータコントール部29のモータ駆動制御部33によってコントロールするようにされている。
なお、インホイールモータ駆動装置8のモータ電流の配線や各種センサ系,指令系の配線は、モータハウジング72等に設けられたコネクタ99により纏めて行われる。
【0050】
図2に示す前記荷重センサ41は、例えば図8に示す複数のセンサユニット120と、これらセンサユニット120の出力信号を処理する信号処理ユニット130とで構成される。センサユニット120は、車輪用軸受4における静止側軌道輪である外方部材51の外径面の4か所に設けられる。図8は、外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示す。ここでは、これらのセンサユニット120が、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる外方部材51における外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に設けられている。信号処理ユニット130は、外方部材51に設けられていても良く、インバータ装置22のモータコントロール部29に設けられていても良い。
【0051】
信号処理ユニット130は、上記4箇所のセンサユニット120の出力を比較し、定められた演算式に従って、車輪用軸受4に作用する各荷重、具体的には、車輪2の路面・タイヤ間で作用荷重となる垂直方向荷重Fz 、駆動力や制動力となる車両進行方向荷重Fx 、および軸方向荷重Fy を演算し、出力する。前記センサユニット120を4つ設け、各センサユニット120を、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる外方部材51の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に円周方向90度の位相差で等配しているので、車輪用軸受4に作用する垂直方向荷重Fz 、車両進行方向荷重Fx 、軸方向荷重Fy を精度良く推定することができる。垂直方向荷重Fz は、上下2つのセンサユニット120の出力を比較することで得られ、車両進行方向荷重Fx は、前後2つのセンサユニット120の出力を比較することで得られる。軸方向荷重Fy は、4つのセンサユニット120の出力を比較することで得られる。信号処理ユニット130による上記各荷重Fx ,Fy ,Fz の演算は、試験やシミュレーションで求められた値を基に、演算式やパラメータを設定しておくことで、精度良く行うことができる。なお、より具体的には、上記の演算には各種の補正を行うが、補正については説明を省略する。
【0052】
上記各センサユニット120は、例えば、図9および図10に拡大平面図および拡大断面図で示すように、歪み発生部材121と、この歪み発生部材121に取り付けられて歪み発生部材121の歪みを検出する歪みセンサ122とでなる。歪み発生部材121は、鋼材等の弾性変形可能な金属製の厚さ3mm以下の薄板材からなり、平面概形が全長にわたり均一幅の帯状で中央の両側辺部に切欠き部121bを有する。また、歪み発生部材121は、外輪1の外径面にスペーサ123を介して接触固定される2つの接触固定部121aを両端部に有する。歪みセンサ122は、歪み発生部材121における各方向の荷重に対して歪みが大きくなる箇所に貼り付けられる。ここでは、その箇所として、歪み発生部材121の外面側で両側辺部の切欠き部121bで挟まれる中央部位が選ばれており、歪みセンサ122は切欠き部121bの周辺の周方向の歪みを検出する。
【0053】
前記センサユニット120は、その歪み発生部材121の2つの接触固定部121aが、外輪1の軸方向に同寸法の位置で、かつ両接触固定部121aが互いに円周方向に離れた位置に来るように配置され、これら接触固定部121aがそれぞれスペーサ123を介してボルト124により外輪1の外径面に固定される。前記各ボルト124は、それぞれ接触固定部121aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔125からスペーサ123のボルト挿通孔126に挿通し、外方部材51の外周部に設けられたねじ孔127に螺合させる。このように、スペーサ123を介して外方部材51の外径面に接触固定部121aを固定することにより、薄板状である歪み発生部材121における切欠き部121bを有する中央部位が外輪1の外径面から離れた状態となり、切欠き部121bの周辺の歪み変形が容易となる。接触固定部121aが配置される軸方向位置として、ここでは外方部材51のアウトボード側列の転走面53の周辺となる軸方向位置が選ばれる。ここでいうアウトボード側列の転走面53の周辺とは、インボード側列およびアウトボード側列の転走面53の中間位置からアウトボード側列の転走面53の形成部までの範囲である。外方部材51の外径面における前記スペーサ123が接触固定される箇所には平坦部1bが形成される。
【0054】
歪みセンサ122としては、種々のものを使用することができる。例えば、歪みセンサ122を金属箔ストレインゲージで構成することができる。その場合、通常、歪み発生部材121に対しては接着による固定が行われる。また、歪みセンサ122を歪み発生部材121上に厚膜抵抗体にて形成することができる。
【0055】
なお、上記実施形態では、図1,2に示すように、モータコントール部29をインバータ装置22に設けたが、モータコントール部29はメインのECU21に設けても良い。また、ECU21とインバータ装置22とは、この実施形態では分けて設けているが、一体化した制御装置として設けても良い。
また、上記実施形態は、インホイールモータ駆動装置8を備える電動車両に適用した場合につき説明したが、この発明は、オンボード形式のモータで左右の車輪を独立して駆動する電動車両や、1台のモータで左右の車輪を駆動する電動車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…車体
2,3…車輪
4,5…車輪用軸受
6…モータ
7…減速機
8…インホイールモータ駆動装置
21…ECU
22…インバータ装置(モータ制御装置)
24,24A…回転センサ
28…パワー回路部
29…モータコントール部
30…インホイールモータユニット
31…インバータ
32…PWMドライバ
33…モータ駆動制御部
36…角度センサ
38…操作手段
39…回転検出手段
40…スリップ対応制御手段
41…荷重センサ
42…上限値計算部
43…角加速度変化判定部
44…加算部
45…摩擦係数推定手段
46…許容最大トルク演算手段
47…モータトルク指令値制限手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加減速の操作手段の出力する指令を基にして上位制御手段より与えられるトルク指令値に従い走行用のモータの駆動を制御するモータ制御装置を備えた電動車両制御装置において、
前記モータで駆動される車輪の角加速度を検出する回転検出手段を設け、前記モータ制御装置に、前記回転検出手段で検出された角加速度の上限値を車両重量と出力トルクとの関数として設定し、この設定された上限値を、前記回転検出手段で検出された角加速度が超えた場合に、前記トルク指令値を低減させるスリップ対応制御手段を設けたことを特徴とする電動車両制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記スリップ対応制御手段は、車両重量を固定値とし、出力トルクのみによって角加速度の上限値を決定し設定する電動車両制御装置。
【請求項3】
請求項1において、車両の2つの前輪および2つの後輪のそれぞれの車輪用軸受に荷重センサを設け、前記スリップ対応制御手段は、前記各荷重センサによりリアルタイムで車両重量を測定し、この測定された車両重量を用いて前記上限値を決定し設定する電動車両制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記スリップ対応制御手段は、車輪の角加速度が前記上限値を超えた程度に応じてトルクの低減量を変化させる電動車両制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、2輪以上の車輪を独立して駆動するモータおよび前記モータ制御装置を備えた電動車輪において、前記スリップ対応制御手段を各輪独立して制御可能に設けた電動車両制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電動車両制御装置を備えた電動車両。

【請求項7】
加減速の操作手段の出力する指令を基にして上位制御手段より与えられるトルク指令値に従い走行用のモータの駆動を制御する電動車両において、
前記モータで駆動される車輪の角加速度を検出し、この検出された角加速度を用いて角加速度の上限値を車両重量のと出力トルクとの関数として設定し、この設定された上限値を、検出された車輪の角加速度が超えた場合に、前記トルク指令値を低減させる電動車両のスリップ対応制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−116029(P2013−116029A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263401(P2011−263401)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】