説明

電子プローブマイクロアナライザにおけるデータ処理方法及び電子プローブマイクロアナライザ

【課題】本発明はEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)におけるX線像データ処理方法及び装置に関し、異なるシーケンスで取得し位置ずれが存在しているX線像データ同士であっても、相関演算処理を正確に行なうことができるようにすることを目的としている。
【解決手段】 EPMAを用いて試料の同一領域について異なるタイミングでそれぞれX線像のデータを取得して記憶する場合において、各タイミングで前記領域について2次電子又は反射電子検出に基づく電子像データを併せて取得して記憶し、異なるタイミングで取得した電子像データを比較して位置ずれ量を算出し、算出した位置ずれ量に基づき、前記異なるタイミングで得た各X線像データに対して、各X線像データに共通して存在する領域を切り出す処理を施すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)に関し、さらに詳しくは、同一領域について取得した複数のX線像データについて散布図処理などのデータ処理を行う方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
EPMAでは、細く絞った電子線を試料に照射し、試料より放射される特性X線の波長と強度を波長分散型X線分光器(WDS)で測定し、試料の微小部に含まれている元素を定性分析又は定量分析する。WDSの検出波長を特定元素の特性X線に固定すると共に、電子線を試料上の分析領域内で二次元走査することにより、分析領域についての前記特定元素の分布を示すX線像データ(マッピングデータ)を得ることができる。WDSは、必要に応じて最高で5基(5チャンネル)程度まで同時装着することができ、5基装着した場合、5種の元素についてのX線像データを一度の測定で得ることができる。
【0003】
図1は従来のEPMAの構成例を示す図である。図において、1は電子線EBを発生する電子銃、2は電子銃1から発生した電子線EBを試料3に細く絞って照射させる集束レンズ、4は電子線EBを試料3上で走査あるいは任意の位置に位置決めして照射させるための電子線走査コイルである。
【0004】
5は試料3から発生する2次電子を検出する2次電子検出器、6は該2次電子検出器5の出力を受けて所定の増幅、A/D変換などの所定の処理を施して制御回路12へ送る2次電子信号処理回路である。7は試料3から放射される特性X線を検出するWDSであり、特性X線を分光する分光器8と、分光されたX線を検出するX線検出器9と、分光器8を駆動して波長走査を行ったり検出波長を指定する分光器制御部10と、X線検出器9からのX線検出信号を受けて増幅、A/D変換などの所定の処理を施して制御回路12へ送るX線信号処理回路11とから構成される。
【0005】
制御回路12は、前記分光器制御部10を制御する他、X線信号処理回路11から送られた特性X線検出信号をデータメモリ13に記憶する、記憶されたデータをデータ処理手段14に送って分析処理を行うなどの処理を行い、分析結果や各種像データを表示部15に送って表示させる。この制御回路12及びデータ処理手段14は、例えばコンピュータ17によって構成される。
【0006】
このように構成された装置において、指定分析領域について元素AのX線像を取得する場合、制御回路12は、前記分光器制御部10を制御して分光器8を駆動し、分析目的元素Aの特性X線が検出器9に入射して検出されるように設定する。この状態で、電子線が電子線走査コイル4により試料11上の指定分析領域で走査され、制御回路12は、X線検出器9から得られたX線検出信号を走査位置に対応させてデータメモリ13に記憶する。その結果、データメモリ13には、指定分析領域について元素Aの分布を表す2次元のX線像データが得られることになる。
【0007】
同じ指定領域について2つの元素A,BのX線像を取得する必要がある場合には、元素Bの特性X線が検出器9に入射して検出されるように分光器8を設定した上で、X線像データの取得作業(シーケンス)をもう1回行う。
【0008】
上記説明では1基のWDSを備えた場合について説明したが、先に述べたように5基のWDSを備えたEPMAの場合、5基のWDSを全て使用すれば5種の元素についてのX線像データを一度に取得することができ、2回のシーケンスを行えば最大で合計10種の元素についてのX線像データを取得することができる。
【0009】
このようにして、同一分析領域について取得された複数の元素のX線像データに基づく分析手法の一つとして相分析があり、各元素のX線像データを用いて、各元素の相関や組成比を調べることができる。図5は、鉄Feと珪素Siの各X線像データを用いて作成した散布図の一例を示している。このような散布図は、2元素の各X線像データ(例えば256×256ピクセル)より、256×256の各ピクセルのデータ(X線強度又は濃度)をFe−Siの2元散布図にプロットすることにより作成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−231717
【特許文献2】特開2006−125952
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
X線像データの取得には長時間かかることがしばしばある。その長時間かかるX線像取得を複数回のシーケンスで行うとX線像取得に更に長い時間がかかることとなる。長時間に及ぶ測定を行なうと、温度の変化やステージドリフト等により、1回目のシーケンスと2回目のシーケンスで微小であるが分析領域がずれることがある。
【0012】
前述した散布図を2元素のX線像データより作成する場合、各X線像データは同一分析領域についてのものであることが前提であるので、2元素のX線像データに領域のずれがあると、散布図の信頼性は大きく低下してしまう結果となる。
【0013】
2元素のX線像データが同一シーケンスで得られたものである場合には、同一領域について同時に測定したデータであるので得られる散布図に問題はないが、異なるシーケンスで得られたものであり領域のずれが無視できない場合には、散布図の信頼性は大きく低下してしまう。近年EPMAの高分解能化が進み、高倍率で取得する機会が多くなり、この問題が顕在化してきている。
【0014】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、異なるシーケンスで取得したX線像でも、同じ領域のX線像を得ることができるX線像データ処理方法及びEPMAを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するための本発明の構成は、以下の通りである。
【0016】
(1)請求項1記載の発明は、EPMAを用いて試料の同一領域について異なるタイミングでX線像のデータを取得して記憶する場合において、各タイミングで前記領域についての2次電子又は反射電子検出に基づく電子像データを併せて取得して記憶し、異なるタイミングで取得した電子像データを比較して位置ずれ量を算出し、算出した位置ずれ量に基づき、前記異なるタイミングで得た各X線像データに対して、各X線像データに共通して存在する領域を切り出す処理を施すことを特徴とする。
【0017】
(2)請求項2記載の発明は、前記異なるタイミングで取得した電子像データからの位置ずれ量の算出は、フーリエ変換により行なうことを特徴とする。
【0018】
(3)請求項3記載の発明は、前記各X線像データに共通して存在する領域を切り出す処理を施した後の各X線データに基づき、散布図を求めるようにしたことを特徴とする。
【0019】
(4)請求項4記載の発明は、試料の同一領域について異なるタイミングでX線像のデータを取得して記憶するEPMAにおいて、各タイミングで前記同一領域についての2次電子又は反射電子検出に基づく電子像データを併せて取得して記憶する手段と、異なるタイミングで取得した電子像データを比較して位置ずれ量を算出する算出手段と、算出した位置ずれ量に基づき、前記異なるタイミングで得た各X線像データに対して、各X線データに共通して存在する領域を切り出す処理を施すデータ処理手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は以下に示すような効果を奏する。
【0021】
(1)請求項1記載の発明によれば、同一領域について異なるタイミングでX線像のデータを取得して記憶する場合に、各タイミングで前記領域についての2次電子像又は反射電子像を取得し、異なるタイミングで取得した電子像データを比較して位置ずれ量を算出して、各X線像データに対して共通して存在する領域を切り出す処理を施すことにより、異なるシーケンスで取得したX線像でも、同じ領域のX線像を得ることができる。
【0022】
(2)請求項2記載の発明によれば、2次電子像又は反射電子像(電子像データ)の位置ずれをFFT(高速フーリエ変換)を用いることにより、差分の量及び方向を得ることができる。
【0023】
(3)請求項3記載の発明によれば、切り出された各X線像データに共通して存在する領域の各X線像データに基づいて散布図を求めるようにしたので、位置ずれによる影響のない正確な散布図を取得することが可能となる。
【0024】
(4)請求項4記載の発明によれば、試料の同一領域について異なるタイミングでX線像のデータを取得して記憶するEPMAにおいて、各タイミングで前記同一領域についての2次電子又は反射電子検出に基づく電子像データを併せて取得して記憶する手段と、異なるタイミングで取得した電子像データを比較して位置ずれ量を算出する算出手段と、算出した位置ずれ量に基づき、前記異なるタイミングで得た各X線像データに対して、各X線像データに共通して存在する領域を切り出す処理を施すデータ処理手段を備えることにより、異なるシーケンスで取得した複数のX線像から、同じ領域のX線像を得ることができるEPMAが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来装置及び本発明装置の一実施例を示す構成図である。
【図2】データメモリへの2次電子像データとX線像データの格納の様子を説明するための図である。
【図3】本発明装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図4】2次電子像データに基づくずれ量算出及びずれ量に基づく2つのX線像データへの処理の様子を説明するための図である。
【図5】散布図の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施例について詳細に説明する。図1は本発明装置の一実施例を示す構成図である。先に図1を用いて従来装置の構成例を説明したが、本発明装置の一実施例としては、各シーケンスにおけるX線像データの取得と同時に2次電子像データを取得してシーケンスと関連付けて記憶することと、データ処理手段14において2次電子像データを利用したデータ処理を行うところが異なる。本発明装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0027】
図1において、電子銃1から発生した電子線EBは、集束レンズ2により試料3に細く絞って照射されると共に、電子線走査コイル4により試料3上で走査されたり、任意の位置に位置決めされて照射される。
【0028】
試料3の電子線照射点からは、2次電子、反射電子、特性X線が発生するが、2次電子は、2次電子検出器5によって検出される。得られた2次電子検出信号は、2次電子信号処理回路6による増幅、A/D変換などの所定の処理を受けて制御回路12へ送られ、付属するデータメモリ13に記憶される。
【0029】
一方、特性X線はWDS7によって検出される。WDS7は、特性X線を分光する分光器8と、分光されたX線を検出するX線検出器9と、分光器8を駆動して波長走査を行ったり検出波長を指定する分光器制御部10と、X線検出器9から得られたX線検出信号に増幅、A/D変換などの所定の処理を施して制御回路12へ送るX線信号処理回路11とから構成され、X線信号処理回路11から制御回路12へ送られたX線検出信号は、付属するデータメモリ13に記憶される。
【0030】
制御回路12は、前記分光器制御部10の制御を含めたEPMA全体の制御を行う他、測定によって得られデータメモリ13に記憶されたデータをデータ処理手段14に送って分析処理を行わせ、その分析結果や各種像データを表示部15に送って表示させる。
【0031】
前述したように、指定分析領域について1回目のシーケンスで元素AのX線像を取得する場合、制御回路12は、前記分光器制御部10を制御して分光器8を駆動し、分析目的元素Aの特性X線が検出器9に入射して検出されるように設定する。この状態で、電子線が電子線走査コイル4により試料11上の指定分析領域で走査され、制御回路12は、X線検出器9から得られたX線検出信号を走査位置に対応させてデータメモリ13に記憶する。その結果、データメモリ13には、指定分析領域について元素Aの分布を表すX線像データが得られることになる。この1回目のシーケンスの際、同時に得られる2次電子像データZ1が、データメモリ13に格納される。
【0032】
同一指定分析領域について2回目のシーケンスで元素BのX線像を取得する場合、元素Bの特性X線が検出器9に入射して検出されるように分光器8が設定された上で、もう1回行われ、指定分析領域について元素Bの分布を表すX線像データが得られる。 この2回目のシーケンスの際、同時に得られる2次電子像データZ2は、データメモリ13に格納される。
【0033】
この結果、2回のシーケンスが終わった時点では、データメモリ13には、指定分析領域について元素A,Bの分布を表す各X線像データと、1回目のシーケンスの際の2次電子像データZ1と2回目のシーケンスの際の2次電子像データZ2が記憶されている。上記はWDSが1基の場合であるが、5基のWDSを備えたEPMAの場合、1シーケンスで最大5種類の元素、2回のシーケンスで合計最大10種類の元素についてのX線像データを取得することができ、これらのデータは、データメモリ13内に、シーケンスとWDSのチャンネルに関連付けされて、例えば図2に示すように格納される。
【0034】
図3は、データ処理手段14における散布図を求めるデータ処理の一例を示すフローチャートである。EPMAが5基のWDSを備えており、データメモリ13の中に元素A,Bを含む合計10種類の元素についてのX線像データが、図2に示すように格納されているものとして説明を行う。
【0035】
先ず散布図処理が開始されると、ステップS0において、散布図を求めるための対象とすべき2つの元素のX線像データの指定が要求される。
【0036】
オペレータが、図示しない入力装置を使用して10種類の元素の中から例えば元素A,Bを指定すると、ステップS1において、指定された元素A,Bの各X線像データが同一シーケンスで取得したデータかどうかのチェックが行われる。
【0037】
例えば、元素A,C、あるいは元素B,Gのように同一シーケンスで取得したデータである場合には、前述した位置ずれが無いため、そのままステップS4に移行し、元素A,Cあるいは元素B,Gの各X線像データを用いた散布図処理が行われるが、元素A,Bは同一シーケンスで取得したデータでないので、ステップS2に進む。ステップS2においては、データメモリ13に記憶されている元素AのX線像データを取得した1回目のシーケンスで同時取得された2次電子像データZ1と、元素BのX線像データを取得した2回目のシーケンスで取得された2次電子像データZ2とがデータメモリ13から図4(a),(b)に示すように読み出される。
【0038】
そして、例えばZ1をスタンダード像、Z2をリファレンス像として、2つの2次電子像のずれ量が算出される。2次電子像は、表面形状を良く反映するので、2次電子像を用いることにより、ずれ量を正確に求めることができるが、反射電子検出器を用いて検出した反射電子像を用いてもずれ量を求めることができることは言うまでもない。
【0039】
ずれ量を求める方法としては、相関演算などの既存の技術が用いられ、例えばFFT(高速フーリエ変換)が用いられる。高速フーリエ変換を行なうと、図4(c)に示すように、Z1を基準としたZ2のX,Y2方向のずれ量ΔX,ΔYが求められる。求められたずれ量のデータΔX,ΔYはデータメモリ13に記憶される。
【0040】
次のステップS3において、2次電子像に基づいて得られたずれ量のデータΔX,ΔYを用いて、元素AのX線像データと元素BのX線像データから、両方のX線像データに共通して存在する領域の切り出しが行われる。すなわち、データメモリ13から読み出された図4(d)に示す元素AのX線像データと、図4(e)に示す元素BのX線像データについて、前記ずれ量のデータΔX,ΔYを用いて、元素AのX線像データから元素BのX線像データに存在しない右端ΔX、下端ΔYの斜線を施した領域を削除し、元素BのX線像データから元素AのX線像データに存在しない左端ΔX、上端ΔYの斜線を施した領域を削除する。
【0041】
その結果、図4(f) 、図4(g)に示すように、削除された分狭くなったものの、両方のX線像データに共通して存在する領域のデータが残ることになり、この2つのX線像データに基づき、ステップS4において散布図処理が行われる。散布図処理を受ける2つのX線像データは、領域が一致したデータとなっているため、適正な散布図が得られることとなる。
【0042】
2次電子像や反射電子像はX線像に比べてはるかに表面からの情報が多く、また分解能も高い。そのため、正確なずれ量の算出が可能である。
【0043】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば複数シーケンスから取得したX線像の同一領域を正確に抽出し、散布図等の相関処理を正しく行なうことができる。
【符号の説明】
【0044】
1:電子銃、2:集束レンズ、3:試料、4:電子線走査コイル、
5:2次電子検出器、6:2次電子信号処理回路、7:WDS、8:分光器
9:X線検出器、10:分光器制御部、11:X線信号処理回路、12:制御回路
13:データメモリ、14:データ処理手段、15:表示部、16:コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EPMAを用いて試料の同一領域について異なるタイミングでそれぞれX線像のデータを取得して記憶する場合において、各タイミングで前記領域についての2次電子又は反射電子検出に基づく電子像データを併せて取得して記憶し、異なるタイミングで取得した電子像データを比較して位置ずれ量を算出し、算出した位置ずれ量に基づき、前記異なるタイミングで得た各X線像データに対して、各X線像データに共通して存在する領域を切り出す処理を施すことを特徴とするEPMAにおけるX線像データ処理方法。
【請求項2】
前記異なるタイミングで取得した電子像データからの位置ずれ量の算出は、フーリエ変換により行なうことを特徴とする請求項1記載のEPMAにおけるX線像データ処理方法。
【請求項3】
前記各X線像データに共通して存在する領域を切り出す処理を施した後の各X線データに基づき、散布図を求めるようにした請求項1又は2記載のEPMAにおけるX線像データ処理方法。
【請求項4】
試料の同一領域について異なるタイミングでX線像のデータを取得して記憶するEPMAにおいて、各タイミングで前記同一領域についての2次電子又は反射電子検出に基づく電子像データを併せて取得して記憶する手段と、異なるタイミングで取得した電子像データを比較して位置ずれ量を算出する算出手段と、算出した位置ずれ量に基づき、前記異なるタイミングで得た各X線像データに対して、各X線データに共通して存在する領域を切り出す処理を施すデータ処理手段を備えたことを特徴とするEPMA。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−149910(P2012−149910A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6935(P2011−6935)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】