説明

電子レンジ加熱ドリップパウチ

【課題】コーヒーと水がセットされていて電子レンジで水を加熱するだけで、手軽に雑味のない本格的なドリップコーヒーが愉しめる電子レンジ加熱ドリップパウチを提供すること。
【解決手段】周囲をシールされた上下2室からなるパウチ(1)で、上方室に水(10)が収納できる空間を有し、下方室に被抽出物(11)が収納され、これらの2室間は低温ヒートシール領域(6)を含む領域で区切られ、下方室の被抽出物底部にはフィルター(7)が配置され、さらにその下部はシールで密封されている。使用時に下方室の下部をノッチより開封して開き、カップにセット出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子レンジでパウチの上方に収納された水を加熱してそのお湯を手間をかけずに下方の被抽出物に注ぎ、カップにドリップすることができるパウチに関する。とくに、珈琲、紅茶、お茶などを風味良く抽出出来るドリップパウチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえばレギュラーコーヒーの抽出方式としてはドリップ式がある。この抽出方式は、飲用カップの上に直接抽出器具を載せ、濾紙等をセットし、コーヒー粉を載置した後、熱水を注入して抽出を行うものである。ここでコーヒー抽出液の香味等を左右する要因の一つが濾紙等のフィルターや抽出器具からの雑味成分の移行であり、これらを最小限に抑えることがおいしいコーヒーを淹れるために必要なことと考えられている。
【0003】
電子レンジを用いてドリップ式で直接コーヒー等を抽出するための装置は少なく、多くの場合電子レンジは、単に抽出済みのコーヒーを温めなおすのに用いられているに過ぎない。
【0004】
電子レンジを用いて直接コーヒー等を抽出する装置はたとえば特許文献1および特許文献3に提案されている。これらの装置は抽出用水を収容する抽出用容器において、少なくとも一部に通液性の通路を有する部材と常温で固形性を有し、前記通路を閉塞するワックス、硬化油、脂肪酸、乳化剤等の油性物質とからなる底部を有している。そして電子レンジによる加熱で前記抽出用水の温度が前記油性物質の溶融温度以上に達するときにのみ開通する。
【0005】
また、特許文献2には、コーヒー抽出器として、コーヒー抽出用水を収容するための容器と、該容器の下部に連設され少なくとも一部が濾材から成りコーヒー粉を収容する抽出部とから構成されるものが提案されている。また、前記容器の底部材は熱によって可溶化、軟化、または液化する物質により閉鎖される欠切部を有し、該欠切部は該閉鎖が解除されるときには前記容器内に収容される水の圧力により前記欠切部において段差を形成し得る形状を有している。
【0006】
以上に提案された方法においてはいずれも、抽出時に抽出用の水が加温されたお湯が、通路を閉塞するワックス、硬化油、脂肪酸、乳化剤等の油性物質と接触することによって微妙な香りが抽出されたコーヒーに転移することは避けられなかった。
【0007】
また、電子レンジで使用する場合にカップに抽出用の容器をセットしてから水を加える構造のためにセット時に水がこぼれやすいという問題もあった。
【0008】
電子レンジを用いてコーヒー等の抽出物を簡易に得るための方法としては、他にも、例えば特許文献4には、電子レンジを用いて一定量の美味しいコーヒーを簡単に抽出することができる電子レンジ用コーヒーメーカーとして、抽出されたコーヒーを受け入れるカップと、コーヒー粉を収容してカップ上に載置されるマイクロ波不透過性のドリッパーと、このドリッパーの上部を覆ってマイクロ波を遮断するマイクロ波遮蔽部材と、一定量の水を収容して前記ドリッパー上に載置される非金属製の湯沸器とを備え、前記湯沸器内には、上端の流入口が水面よりわずかに上方に位置し、下端の流出口が湯沸器の底より下方に位置する流出管が、底板を上下に貫通するように立設され、この流出管には、湯沸器の底面及び流出管の外周との間に水の流通間隙を残して、キャップが被挿され、このキャップ内の流出管の上部には、わずかな空間が形成されるようにしたことを特徴とする電子レンジ用コーヒーメーカーが提案されている。
【0009】
上記の装置においては、電子レンジで使用する場合にカップに抽出用の容器をセットしてから水を加える構造のためにセット時に水がこぼれやすいという問題とともに、構造が複雑であり簡便に使用することが難しいという問題もあった。
【0010】
さらに、特許文献5には、珈琲豆から美味しい珈琲を誰でも簡単に作ることができ、特にアイス珈琲を短時間に作ることができる飲用珈琲の製法として、珈琲豆から珈琲エキスを抽出することにより飲用珈琲を作る方法であって、焙煎され且つ挽かれた珈琲豆に、飲用珈琲の全量よりも少ない量の水を加えてマイクロ波照射した後、前記珈琲豆を抽出用の水に浸すことにより珈琲エキスを抽出する飲用珈琲の製法が提案されている。
【0011】
高温の抽出液を低温の水で薄めるこの方法は、特にアイス珈琲を短時間に作ることができる飲用珈琲の製法及び電子レンジ抽出用珈琲パックとして有用ではあるがホットコーヒーには向かない。
【0012】
特許文献6には、電子レンジ用飲料抽出フィルターとして、電子レンジを用いて、コーヒー、紅茶、緑茶等の飲料の抽出を簡便に行えるようにし、かつ、抽出かすが速やかに抽出液から分離されるようにするために、電子レンジ用飲料抽出フィルターを、第1の不織布層と、第2の不織布層との疎水性熱融着性繊維から構成された積層構造とする。第1の不織布層上に常温水と抽出材料を保持できるようにし、それを電子レンジ加熱することにより昇温した抽出液を得、かつ該抽出液のフィルターに対する表面張力が電子レンジ加熱前の常温水に比して低下し、抽出液がフィルターを通液できるようにするフィルターが提案されている。
【0013】
この、温度による水の表面張力の差を利用して加熱時に初めて抽出液がフィルターを通過できるようにすることによって抽出液と抽出かすを分離する方法は、通常コーヒー等の抽出に用いられる水の表面張力のばらつきやフィルター材料の形状や表面性のばらつきによって一定条件での確実な通液を保証することが難しい。
【0014】
特許文献7に記載の電子レンジ用コーヒーメーカーでは、容器内部の液体が所定の温度に達したときに自動的に開口する、形状記憶合金からなる弁体部を、水を収容しておく容器の底部に設け、電子レンジの作用によって容器内の水が所定の温度に達したときにその弁体が開き、濾過体上のコーヒー粉に注がれ、抽出液が下部の容器に溜まるようにしているが、このコーヒーメーカーは構造が複雑であり、一杯分〜数杯分のコーヒーを入れる使い捨てのドリッパーとしては使用することができない。
【0015】
上記のような従来の方法では、電子レンジで使用する場合にカップに抽出用の容器をセットしてから水を加える構造のためにセット時に水がこぼれやすいという問題があり、より簡便に用いるために、水も含めてワンセットでカップに装着できてそのまま電子レンジで加熱することで雑味のない飲用抽出液が得られるようなパウチの出現が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開昭62−213712号公報
【特許文献2】特開平1−49514号公報
【特許文献3】特開平3−149009号公報
【特許文献4】実開平2−67932号公報
【特許文献5】特開2003−52307号公報
【特許文献6】特開2002−142991号公報
【特許文献7】特開平3−258222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
電子レンジでパウチの上部に収納された水を加熱するだけで、そのお湯を手間をかけず、下方の被抽出物に注ぎ、手軽に雑味のない本格的なドリップコーヒーが愉しめる電子レンジ加熱ドリップパウチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題に鑑み、本発明者等は、使用前の保管運搬時にはパウチの内部で混ざり合うことがなく保存され、電子レンジでの加熱によって初めて加温された水とコーヒー粉等の被抽出物が接触するパウチの構造を検討した。
【0019】
その結果、パウチ内部を2室に分けて境界部分を一定温度以上で剥離し易くなる低温ヒートシールでシールすることによって、常温では水とコーヒー粉等の被抽出物が分離した状態で収納され、電子レンジでの加熱によって初めて低温ヒートシール部が剥離して、加温された水が被抽出物に接触する現象を利用して上記の目的を達成することが出来ることを見出し本発明の完成に至った。
【0020】
本発明の請求項1の発明は、周囲をシールされた上下2室からなるパウチで、上方室に水が収納できる空間を有し、下方室に被抽出物が収納され、これらの2室間は低温ヒートシール領域を含む領域で区切られ、下方室の被抽出物底部にはフィルターが配置され、さらにその下部はシールで密封され、使用時に下方室の下部をノッチより開封して開き、カップにセット出来ることを特徴とする電子レンジ加熱ドリップパウチである。
【0021】
本発明の請求項2の発明は、上方室の空間に水がすでに収納されていることを特徴とする請求項1に記載の電子レンジ加熱ドリップパウチである。
【0022】
本発明の請求項3の発明は、底部のフィルターはガゼット折りされていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子レンジ加熱ドリップパウチである。
【0023】
本発明の請求項4の発明は、2室を仕切っている低温ヒートシール領域を含む領域の形状は、中央部が上側に山状となった、山型、あるいはW型をした帯状領域からなり、上方室の空間の大きさは、その幅よりも高さが小さい請求項1から3のいずれか1項に記載の電子レンジ加熱ドリップパウチである。
【0024】
本発明の請求項5の発明は、低温ヒートシール領域が幅方向に複数配置されていることを特徴とする請求項4に記載の電子レンジ加熱ドリップパウチである。
【0025】
本発明の請求項6の発明は、下方室の下部をノッチより開封して開くための、ミシン目またはハーフカットによるカット線が設けられ、該カット線は左右対称の位置に複数の凹みを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子レンジ加熱ドリップパウチである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の請求項1の発明の電子レンジ加熱ドリップパウチは、周囲をシールされた上下2室からなるパウチで、上方室に水が収納できる空間を有し、下方室に被抽出物が収納され、これらの2室間は低温ヒートシール領域を含む領域で区切られ、下方室の被抽出物底部にはフィルターが配置され、さらにその下部はシールで密封され、使用時に下方室の下
部をノッチより開封して開き、カップにセット出来ることを特徴とする電子レンジ加熱ドリップパウチであるから、電子レンジでパウチの上部に収納された水を加熱するだけで、そのお湯を手間をかけず、下方の被抽出物に注ぎ、手軽に雑味のない本格的なドリップコーヒーが愉しめる電子レンジ加熱ドリップパウチを提供することが可能になる。
【0027】
本発明の請求項2の発明の電子レンジ加熱ドリップパウチは、上方室の空間に水がすでに収納されていることによって抽出時に水を入れる手間が省けるだけでなく、電子レンジへの装入等の作業時に水や熱水がこぼれることがなく手軽に抽出作業が行える。
【0028】
さらに、上方室の空間が密閉されていることによって収納された水の温度だけでなく温度上昇による圧力増加の応力により低温ヒートシール領域が剥離して熱水が下方室の被抽出物に注ぎ易くなるという効果も大きい。
【0029】
本発明の請求項3の発明の電子レンジ加熱ドリップパウチは、底部のフィルターが通常の自立性パウチと同様にガゼット折りされていることによって、使用時に下方室の下部をノッチより開封して開き、カップにセットしたときに倒れないようにすることが可能になる。
【0030】
さらに、抽出時に下方室の下部を開封して開くまでは折り畳まれていたフィルターを開くことによって、下方室の底部フィルターの有効面積を拡大して抽出をより均一にするという効果も期待できる。
【0031】
本発明の請求項4の発明の電子レンジ加熱ドリップパウチは、2室を仕切っている低温ヒートシール領域を含む領域の形状は、中央部が上側に山状となった、山型、あるいはW型をした帯状領域からなっているので、電子レンジでの加熱時に応力の集中する上方室の中央部の低温ヒートシール領域から剥離開通することによって2室間の貫通を容易にすることが出来る。
【0032】
また、上方室の空間の大きさは、その幅よりも高さを小さくすることによって電子レンジでの加熱時に応力の集中する上方室の中央部の低温ヒートシール領域に偏在した応力をかけることが可能になるだけでなく、安定した自立姿勢の保持にも効果的である。
【0033】
本発明の請求項5の発明の電子レンジ加熱ドリップパウチは、低温ヒートシール領域が幅方向に複数配置されていることによって、加熱時にパウチ中央部だけでなく幅方向に均一に熱水がかかり安定した効果的な抽出が実現できる。
【0034】
低温ヒートシール領域が上方室と下方室の境界領域に全幅にわたって設けられている場合でも、その上下いずれかの位置に通常のヒートシール領域が幅方向に複数配置することでも、構造がやや複雑になるが、幅方向に均一に熱水がかかるという同様な効果を得ることが出来る。
【0035】
本発明の請求項6の発明の電子レンジ加熱ドリップパウチは、下方室の下部をノッチより開封して開くための、ミシン目またはハーフカットによるカット線が設けられていることによって、下方室の下部を開封する場合に、容易に予定通りの形状で開封することが出来る。
【0036】
さらに、該カット線は左右対称の位置に複数の凹みを有することで下方室の下部を開封した場合に、セットするカップの円周状の口縁部に開封した下部の凹みを引っ掛けてパウチのカップへの固定を容易にすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチの一例の略図
【図2】本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチの抽出時の一例の略図
【図3】本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチのカット線形状の例(A)凹みが4箇所の場合の開封前の正面略図(B)凹みが6箇所の場合の開封前の正面略図
【図4】本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチの抽出時の一例の略図(図3(A)の形状の場合)
【図5】本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチに用いる(a)積層フィルム(b)バリアフィルムの構成例
【図6】本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチに用いる(c)易剥離性テープの構成例
【図7】本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチの低温ヒートシール領域形状の例(A)山型の一例(B)W型の一例
【図8】本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチの低温ヒートシール領域配置の例
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明の実施形態の例について必要に応じて図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチの一例の略図であり(A)はパウチ開封前の状態を、(B)はパウチ底部をノッチから開封後の状態を模式的に示している。
図2は本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチの抽出時の一例の略図であり図1(B)の開封したパウチの底部を広げてカップ上に載置し、電子レンジで加熱して抽出を行う状態を模式的に示したものである。
【0039】
本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチは図1に示すように、表裏重ねた積層材料の周囲を通常のヒートシール等でシールされた上下2室からなるパウチ(1)であって、トップシール(2)側の上方室に水(10)が収納できる空間を有し、ボトムシール側の下方室に被抽出物(11)が収納され、これらの2室間は低温ヒートシール領域(6)を含む境界シール領域(5)の領域で区切られ、下方室の被抽出物(11)底部にはフィルター(7)が配置され、さらにその下部はボトムシール(4)で密封され、使用時に下方室の下部をノッチ(8)よりカット線(9)に沿って開封して開き、カップにセットして電子レンジ加熱により抽出が出来ることを特徴とする電子レンジ加熱ドリップパウチである。
【0040】
本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチは、パウチ内部を2室に分けて上方室に水を、下方室にコーヒー粉等の被抽出物を収納して、上下2室の境界部分を一定温度以上で剥離し易くなる低温ヒートシールでシールすることによって、常温では水とコーヒー粉等の被抽出物が分離した状態で収納され、電子レンジでの加熱により高温になった水の温度と圧力により初めて低温ヒートシール部が剥離して上下2室が連絡し、加温された水が被抽出物に接触することによって抽出液(14)が得られてフィルター(7)を通過してカップ(13)に滴下して簡単に抽出を行うことが出来る。
【0041】
本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチは、内容物収納時に上方室の空間(10)に水がすでに収納されてトップシールがシールされていることで上記の抽出の簡便さをさらに強調した効果が得られる。
【0042】
底部のフィルター(7)は下方室のノッチからカット線に沿って開封したときにボトム開口部(12)を広げてカップ(13)の上で自立することが容易になるように、通常のスタンディングパウチと同様にガゼット折りされていることが望ましい。
同様の理由で上方室の空間(10)の幅(a)は高さ(b)よりも大きいことが望ましい。
【0043】
上方室で加熱された水が下方室のフィルター(7)上にある被抽出物に均等にかかるよ
うにするための、上下2室を区分する領域に設けられる低温ヒートシール(6)の領域の形状と配置について、図7および図8により説明する。
【0044】
図7は本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチの低温ヒートシール領域形状の例を示しており、図7(A)は該領域が上方に凸の山型の場合、図7(B)は中央部が上方に凸のW型の場合を示している。
【0045】
加熱による水の膨張と水蒸気の圧力は上方室の内部(10)の中央部で最も大きくなり基本的には低温ヒートシール領域(6)は中央部から剥離して開通を始めるが、このことをより確実にするために応力が集中する中央部の低温ヒートシール領域の形状を中央部で上に凸になる形状としたのが図7に示した例である。
【0046】
図7の(A)に示した、低温ヒートシール領域(6)の形状が上方に凸の山型の場合には電子レンジで加熱した場合に低温ヒートシール領域は山型の頂点(図示せず)から剥離を始めて加熱された水は上方室の中央部からフィルター(7)上の被抽出物(11)に滴下して抽出が開始される。熱水の流れが中央部から始まることで端部の被抽出物の少ない位置に偏在することが避けられて濃度のある均一な抽出が可能になる。
図7には典型的な例のみ図示したが、低温ヒートシール領域の形状が中央部で上に凸になる形状であれば必ずしもこの例の形状にはこだわらない。
【0047】
図8は本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチの低温ヒートシール領域(6)の配置の例を示した。低温ヒートシール領域(6)が幅方向に複数配置されていることによって、上方室で加熱された水が下方室のフィルター(7)上にある被抽出物(11)に徐々にかつ均等にかかるようにすることが出来るだけでなく、保存や輸送中の境界シール領域(5)の剥離を防止する効果も期待できる。
【0048】
開封したパウチの底部を広げてカップ上に載置し、電子レンジで加熱して抽出を行う場合にカップ上に安定して載置するために本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチにおいては開封時のカット線の形状によってボトム開口部にカップ上端縁の食い込む凹部を形成することが出来る。
【0049】
図3は本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチのカット線形状の例であり、図3(A)が凹みが4箇所の場合の開封前の正面略図であり図3(B)が凹みが6箇所の場合の開封前の正面略図である。
図4には図3(A)の形状の場合の本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチの抽出時の一例の略図を示した。
【0050】
図3(A)においてボトム開口部(12)の下端縁(121)となる、ミシン目やハーフカット線等で設けられたカット線(9)には幅方向の対称な2箇所に凹み(91)が設けられており、ノッチ(8)からカット線に沿ってカットしていくと、ボトム開口部下端縁(121)の表面裏面の計4箇所に凹みがあるパウチ底部が形成される。
【0051】
図4に図3(A)の場合の抽出時の略図を示したように、抽出時にはカット線(9)に沿って形成されたカット線凹み(91)が4箇所あるボトム開口部下端縁(121)の凹みにカップ(13)の上端縁(131)を嵌め込む形で固定することによって、フィルター(7)を含むパウチ底部を広げた状態で抽出中にパウチがカップから外れて倒れる等の危険を防ぐことが出来、抽出作業をより安全に行うことが可能になる。
【0052】
図3(B)の場合も図3(A)の場合とカット線凹み(91)の数が異なるだけで同様に使用出来、同様の効果がある。カット線により形成される凹みの数と形状はパウチがカ
ップに固定することの出来るものであればここに例示した場合にこだわらない。
【0053】
本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチに用いる材料としては、パウチ本体を構成する積層フィルムとして、たとえば、図5(a)に断面を示したような構成のフィルムを用いることが出来る。
【0054】
図5(a)において、積層フィルム(101)は少なくとも外側基材(102)とシーラント層(105)からなり、必要に応じて印刷層(103)と接着層(104)その他が介在する構成となっている。
【0055】
外側基材(102)は通常包装材料として用いられるプラスチックフィルム例えば、延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルム、延伸ナイロン(Ny)等のポリアミドフィルム、延伸ポリプロピレン(OPP)単体もしくは必要に応じて機械的強度を補いあるいはバリア性を高めるための他のフィルムあるいは層のドライラミネート法や押出しラミネート法、場合によっては蒸着法による積層体からなる。
【0056】
シーラント層(105)を構成する熱融着可能な接着性熱可塑性樹脂としては、主にポリオレフィン樹脂たとえば、無延伸ポリプロピレン(CPP)樹脂単体あるいはプロピレン系重合体(コポリマーやターポリマー)や、LLDPEと称される直鎖状低密度ポリエチレンからなる層が好適に用いられる。シーラント層(105)はフィルムのラミネートもしくは押出し法により形成され、厚みは、20〜150μmとすることが多い。
【0057】
必要に応じて積層フィルム(101)に設けられる印刷層(103)はその設けられる層の表面性に応じて適宜選択されたインキを用いてグラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法等の周知の方法で設けることが出来る。
【0058】
接着層(104)はドライラミネート法による場合は公知のウレタン系接着剤により形成され、押出しラミネート法による場合はラミネートされる層の表面に応じた熱接着性樹脂により形成される。
【0059】
積層フィルム(101)を構成する外側基材フィルム(102)を構成する要素としては酸素あるいは水蒸気等のバリア性を向上させるための中間フィルムの積層以外に、酸化アルミニウムや酸化チタン等の無機酸化物の蒸着被膜の形成や蒸着被膜を形成したフィルムのラミネートなどの方法が適用できる。
【0060】
図5(b)にはバリアフィルムとしての無機酸化物の蒸着フィルムの層構成の一例を示した。バリアフィルム基材(17)の表面にプライマー層(18)を介して無機酸化物蒸着層(19)が形成されておりさらにその上からガスバリア性被膜層(20)が積層されている。
【0061】
バリアフィルム基材(17)は外側基材フィルム(102)でもよくその内側に積層される中間フィルム(図示せず)でもよく材質も同様であればよい。通常バリアフィルム基材に対する無機酸化物蒸着層の密着性を上げるためにイソシアネート系等のプライマー層を塗工することが必要な場合が多い。
【0062】
無機酸化物の蒸着層(19)を形成する方法としては通常真空蒸着法が用いられ、100nm程度の酸化アルミニウムや酸化チタンの薄膜層を設ける。電子レンジを使用することを想定した本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチにおいては金属アルミニウム等の導電性被膜を含む構成は、加熱時にスパークを起こす危険があるので採用することが出来ない。
【0063】
本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチの本体の材料構成の例としては、無機酸化物蒸着PET/Ny/CPPまたはPE、Ny/PEまたはCPP、紙/Ny/PEまたはCPP、PETまたはOPP/紙/Ny/PEまたはCPP、PETまたはOPP/Ny/PEまたはCPPのような構成が挙げられる。
【0064】
本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチフィルターに用いる底部のフィルター(7)は被抽出物が透過しないものであることが必要であり、材料としては、坪量5〜30g/mのポリプロピレン系不織布が好適であるが、被抽出物の形態がコーヒー粉等の粉体ではなく、紅茶等のサイズの大きいものであれば、直径1mm以下の穴をあけたフィルムでも構わない。
【0065】
底部のフィルター(7)はスタンディングパウチのようにガゼット折りで配置され、その底の下は本体の積層フィルムがボトムシール(4)の位置で通常温度のヒートシールにより密封される
【0066】
本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチのトップシール(2)、サイドシール(3)及びボトムシール(4)はシーラント層(105)同士を面々で合わせてヒートシールすることにより接着される。
【0067】
これらのシール部分の接着および低温ヒートシール領域(6)以外の境界シール領域(5)の接着は必要な耐熱性を有する通常のヒートシール温度で行われ、電子レンジ加熱時にも容易に剥離することがない。
【0068】
これに対して低温ヒートシール領域(6)は高温での剥離強度が他のシール領域よりも小さくなるようにパウチ作成時に他の領域のヒートシール温度よりも低い温度でシールすることによって作成される。
【0069】
このシール温度は、たとえばシーラント層(105)が直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の場合は、通常シールが180〜220℃程度であるのに対して、低温ヒートシールは120〜160℃程度であり、同様に無延伸ポリプロピレン樹脂の場合は、通常シールが230〜250℃程度であるのに対して、低温ヒートシールは170〜210℃程度である。
【0070】
その他、たとえばエチレン系アイオノマー樹脂であるハイミランNT07018(三井デュポン製)の場合は、通常シールが190〜230℃程度であるのに対して低温ヒートシールは120〜160℃程度で必要な強度差をつけることが出来る等シーラント層の材質と厚みによって適宜調整することによって、電子レンジでパウチの上部に収納された水を加熱するだけで、そのお湯を手間をかけず、下方の被抽出物に注ぎ、手軽に雑味のない本格的なドリップコーヒー等を愉しむことが出来るようになった。
【0071】
また、本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチにおいては加熱時の熱水の滴下分布を均一にするために低温ヒートシール領域の下方にさらに幅方向に複数の未シール部を有する通常の温度でのパターンシールを設けても構わない。
【0072】
低温ヒートシールと同様の効果を得るために若干複雑になるが上記パターンシールの下方または上方の位置に易剥離性テープを挿入しても構わない。
【0073】
本発明において使用される易剥離性テープ(23)としては、例えば、図6(c)に示すように、シーラント層に対して接着性を示す接着性樹脂層(24)と包装容器を加熱し
て発生する蒸気の蒸気圧により易剥離性を示す易剥離性樹脂層(25)との2層からなるテープ材等を挙げることができる。
【0074】
シーラント層に対して接着性を示す接着性樹脂層(24)としては、積層フィルム(101)の内面シーラント層(105)を構成する熱融着可能な接着性熱可塑性樹脂をそのまま使用することができるが、CPPと称されるプロピレン系重合体(コポリマーやターポリマー)や、LLDPEまたはLLDと称される直鎖状低密度ポリエチレンからなる層が好適に用いられる。そしてその厚みは、20〜150μmとすることが多い。
【0075】
また、上記の易剥離性を示す易剥離性樹脂層(25)としては、例えば、ブロックポリプロピレン系コポリマー、ランダムポリプロピレン系コポリマー、エチレン/酢酸ビニル等のエチレン系共重合体などが好適に用いられる。エチレン系共重合体としては、特にエチレン成分含有量が85〜98重量%の共重合体が望ましい。
【0076】
ここで、ブロックポリプロピレン系コポリマーの代表例はポリプロピレン−ポリエチレンブロックコポリマー、ランダムポリプロピレン系コポリマーの代表例はプロピレン−エチレンランダムコポリマーである。
【0077】
上記の接着性樹脂層(24)と易剥離性樹脂層(25)の積層方法は、特に限定されず、例えば、ドライラミネート、エクストルージョンコーティング、共押出などの周知の方法が挙げられる。
【0078】
本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチは本体を形成する積層フィルムの内面同士を重ね合わせてスタンディングパウチ製袋機にて底テープ材にフィルター用不織布を用いて両側のサイドシールを行い両側面とボトムのみがシールされた四角形状のスタンディングパウチを作成する。
【0079】
そのパウチ内に充填機にて被抽出物(コーヒー粉など)を充填し、その上部を低温でヒートシールして低温ヒートシール領域(6)を設けて、上室にさらに水を充填し、その上部のトップシール(2)部分を通常シール温度でヒートシールするとレンジドリップパウチが完成する。
なお、このパウチは上室に水を封入する工程を省いて水を別個にあとから入れる方法でも使うことが出来る。
【0080】
以上のように、本発明の電子レンジ加熱ドリップパウチによれば、電子レンジでパウチの上部に収納された水を加熱するだけで、そのお湯を手間をかけず、下方の被抽出物に注ぎ、手軽に雑味のない本格的なドリップコーヒーが愉しめる電子レンジ加熱ドリップパウチが提供出来る。
【符号の説明】
【0081】
1…電子レンジ加熱ドリップパウチ
2…トップシール
3…サイドシール
4…ボトムシール
5…境界シール領域
6…低温ヒートシール領域
7…フィルター
8…ノッチ
9…カット線
91…カット線凹み
10…水(熱水)
11…被抽出物
12…ボトム開口部
121…ボトム開口部下端縁
13…カップ
131…カップ上端縁
14…抽出液
17…バリアフィルム基材
18…プライマー層
19…蒸着薄膜層
20…ガスバリア性被膜
21…バリアフィルム
23…易剥離性テープ
24…接着性樹脂層
25…易剥離性樹脂層
101…積層フィルム
102…外側基材
103…印刷インキ層
104…接着剤
105…シーラント層
a…上室幅
b…上室高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲をシールされた上下2室からなるパウチで、上方室に水が収納できる空間を有し、下方室に被抽出物が収納され、これらの2室間は低温ヒートシール領域を含む領域で区切られ、下方室の被抽出物底部にはフィルターが配置され、さらにその下部はシールで密封され、使用時に下方室の下部をノッチより開封して開き、カップにセット出来ることを特徴とする電子レンジ加熱ドリップパウチ。
【請求項2】
上方室の空間に水がすでに収納されていることを特徴とする請求項1に記載の電子レンジ加熱ドリップパウチ。
【請求項3】
底部のフィルターはガゼット折りされていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子レンジ加熱ドリップパウチ。
【請求項4】
2室を仕切っている低温ヒートシール領域を含む領域の形状は、中央部が上側に山状となった、山型、あるいはW型をした帯状領域からなり、上方室の空間の大きさは、その幅よりも高さが小さい請求項1から3のいずれか1項に記載の電子レンジ加熱ドリップパウチ。
【請求項5】
低温ヒートシール領域が幅方向に複数配置されていることを特徴とする請求項4に記載の電子レンジ加熱ドリップパウチ。
【請求項6】
下方室の下部をノッチより開封して開くための、ミシン目またはハーフカットによるカット線が設けられ、該カット線は左右対称の位置に複数の凹みを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子レンジ加熱ドリップパウチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−25951(P2011−25951A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172031(P2009−172031)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】