説明

電子写真感光体の製造方法

【課題】高品質な画像形成に必要な濃度ムラに対する要求基準を満たすことができる電子写真感光体を提供する。
【課題を解決するための手段】切削した円筒状の基体の表面に感光層を形成してなる電子写真感光体の製造方法において、基体を切削するときの基体切削温度を、電子写真感光体を画像形成装置の内部で加熱手段により加熱して使用するときの基体使用温度と略同一にして基体の切削を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体の製造方法に関し、特に、電子写真感光体や現像剤担持体等に用いられる高精度な基体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真方式を採用した画像形成装置は、一般的に、電子写真感光体と、帯電手段と、露光手段と、現像手段と、転写手段とを有する。帯電手段は、電子写真感光体を帯電する。露光手段は、帯電された電子写真感光体に静電潜像を形成する。現像手段は、電子写真感光体に形成された静電潜像を現像剤担持体に担持された現像剤により現像して現像剤像を形成する。転写手段は、電子写真感光体に形成された現像剤像を転写材(紙等)に転写する。
【0003】
このような画像形成装置において、高画質の画像を得るためには、電子写真感光体と現像剤担持体(現像ローラーや現像スリーブ等)との距離が一定に保たれていることが必要である。そして、電子写真感光体と現像剤担持体との距離を一定に保つためには、電子写真感光体および現像剤担持体の寸法精度が高くなければならない。
【0004】
電子写真感光体は一般的に円筒状の基体が使用される。基体の端部には軸または軸受部を有する端部係合部材(ギヤやフランジ等)が係合され、基体を回転可能にする。端部係合部材を係合するために基体の端部にインロー加工が施されることもある。
基体の精度を高める方法の一つとして、押出、引抜加工後、所定の長さに切断された円筒状金属素管に、切削装置での切削加工を施す方法が知られている。切削加工では、円筒状金属素管の両端部に、外径に対して直角の端部加工面を形成する端面切削加工、円筒状金属素管の外径を所定の精度、面粗さに仕上げる外径切削加工等が知られている。
【0005】
円筒状素管の外径にセンターレス研磨加工を施した後、両端内面に外径を加工基準としたインロー加工を施し、更にこのインロー加工面を加工基準にして、外径に切削加工を施すことで高精度化する方法も提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−162078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、従来の電子写真感光体の製造方法において前述のごとく基体の寸法精度を向上させる方法が追求されてはいるが、切削および切削した基体の寸法測定は室温で行なわれている。そのため、室温時に規定の寸法精度で切削ができたとしても、画像形成装置内での所定の基体使用温度の下では電子写真感光体が室温と基体使用温度の差により変形し規定の寸法精度に納まらなくなる場合があった。この電子写真感光体の変形は電子写真感光体と現像剤担持体(現像ローラーや現像スリーブ等)との距離が変動する要因となり、現像ムラを生じる。その結果わずかであるが印刷物の濃度ムラをもたらす場合があった。近年では電子写真感光体を用いる画像形成装置が写真などを含む文書の高品質画像形成に使用されることが広まりつつあり、印刷物の濃度ムラに対する要求基準は厳しさを増している。本発明はこの濃度ムラに対する要求基準を満たすことができる電子写真感光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明に係る電子写真感光体の製造方法は、切削した円筒状基体の表面に感光体層を形成してなる電子写真感光体の製造方法において、基体を切削するときの基体の温度を、電子写真感光体を画像形成装置の内部で加熱手段により加熱して使用するときの基体の温度と略同一にして基体の切削を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば実際に画像形成装置の内部で使用するときの電子写真感光体の寸法精度が向上する。その結果濃度ムラを抑制した高品質の印刷物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の電子写真感光体の製造方法を示す流れ図
【図2】本発明の電子写真感光体の製造方法で用いることができる切削装置の一例
【図3】本発明の電子写真感光体の製造方法で用いることができる高周波プラズマCVD装置の一例
【図4】本発明の電子写真感光体の層構成の一例
【図5】本発明の電子写真感光体を使用する画像形成装置の模式図
【図6】実施例2で用いられる切削装置
【図7】実施例3で用いられる切削装置
【図8】実施例4で用いられる切削装置
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電子写真感光体の製造方法は、切削した円筒状の基体の表面に感光体層を形成してなる電子写真感光体の製造方法において、基体を切削するときの基体切削温度を、電子写真感光体を画像形成装置の内部で加熱手段により加熱して使用するときの基体使用温度と略同一にして、基体の切削を行うことを特徴とする。基体を基体使用温度まで加熱すると基体の偏肉(基体厚さの不均一)や端部のインロー加工の影響を受けて不均等に膨張、変形する。本発明ではこの状態で外周の切削を行うことにより、使用時における電子写真感光体の外径精度を向上させることができる。なお、切削加工後に基体温度が室温に戻ると基体の外径は規定の寸法精度からずれが生じる可能性があるが、実用上は加熱された実使用時の寸法精度が重要なので、室温時の寸法精度は規定値から外れても問題ない。
【0012】
基体切削温度に関しては、切削時にバイトが当接して切削加工を施している微視的な加工点ではそれ以外の部分と基体温度が異なる可能性があるが、本発明でいう基体切削温度とは微視的な加工点以外で略一様となっているところの基体の温度を指す。
本発明でいう基体使用温度とは、基体の表面に感光体層を形成してなる電子写真感光体を画像形成装置の内部で加熱手段により加熱して使用するときの基体の温度を指す。
基体使用温度は40℃以上45℃以下の範囲が好ましい。40℃未満の場合、前述の吸湿が発生して電子写真感光体の表面に形成された静電潜像がぼやけてしまう「画像流れ」現象が発生しやすい。40℃以上であれば効果的に画像流れを抑制することができるが、必要以上の高温たとえば45℃を超えると加熱手段を動作させるための電力が浪費されることになり好ましくない。
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。図1に示すように本発明の電子写真感光体の製造方法は、試行切削工程、測定工程、および本切削工程を有することが好ましい。
【0014】
[試行切削工程]
図1(a)で示される試行切削工程では基体を切削するときの基体切削温度を、電子写真感光体を画像形成装置の内部で加熱手段により加熱して使用するときの基体の温度(以下「基体使用温度」と呼ぶ)と略同一にして基体の試行切削を行う。
【0015】
(実施形態1)
基体を切削するときの基体切削温度を基体使用温度と略同一にする方法としては、基体及び切削装置の周囲の雰囲気温度を前記基体使用温度と略同一に保って切削する方法を用いることができる。この場合、基体及び切削装置の周囲の雰囲気温度を基体使用温度と略同一の温度に保つ手段としてはヒートポンプなどを用いた空調装置を用いることができ、結果として基体および切削装置も略同一の温度に保たれる。具体的な実施形態としては、まず基体を基体使用温度と略同一の室温に保たれた加工室に放置する。基体の温度が室温と等しくなってから、加工室内に配置された切削装置に基体をセットする。このとき基体の内部にはウレタンゴムからなる円筒状の振れ止め部材が嵌装される。そして所定の回転数、送り速度、および切込み量で切削がなされる。
【0016】
(実施形態2)
基体を切削するときの基体切削温度を基体使用温度と略同一にする方法としては、加熱手段を用いて基体を基体使用温度に保って切削する方法も用いることができる。この場合の加熱手段としては基体の外面近傍あるいは内面に設置されたカーボンヒーター、ハロゲンヒーターなどを用いることができる。加熱手段は基体の長手方向全体を加熱できるように配置されることが好ましい。基体温度は基体近傍に配置された熱電対等の測温手段を用いて計測され、測定値は加熱手段にフィードバックされる。このようにして基体温度が一定になるように加熱手段が制御される。この方法によれば切削時の作業環境を比較的良好に保つことができ、基体を加熱するためのエネルギー効率も優れている。なお、測温手段は必ずしも基体に接触していなくても良いが、接触せずに基体近傍を測温する場合は接触して測定した真の基体の温度と基体近傍の温度との関係をあらかじめ調べておき、対応づけて制御することが望ましい。
具体的な実施形態としては、まず基体を切削装置にセットし基体を加熱手段により基体使用温度と略同一の温度に加熱する。このとき基体の内部にはウレタンゴムからなる円筒状の振れ止め部材が嵌装される。そして所定の回転数、送り速度、および切込み量で切削がなされる。
【0017】
(実施形態3)
基体を切削するときの基体切削温度を基体使用温度と略同一にする方法としては、基体の内部に基体使用温度と略同一の温度に加熱された蓄熱材を配置しても良い。蓄熱材は基体の内部に充填しても良く、または基体を切削する際に基体の振れ止めのために基体内部に嵌装される振れ止め部材に含浸させても良い。蓄熱材としてはn−パラフィンやポリエチレングリコールを用いることができる。具体的な実施形態としては、まず基体を切削装置にセットし基体内部に基体使用温度と略同一の温度になるように加熱された蓄熱材を充填する。そして所定の回転数、送り速度、および切込み量で切削がなされる。
【0018】
(実施形態4)
基体を切削するときの基体切削温度を基体使用温度と略同一にする方法としては、切削前に基体を加熱炉などの予熱手段にストックして基体使用温度と略同一の温度に加熱しておいてから切削装置にセットし切削する方法も用いることができる。この場合基体の放冷を抑制するために前述したヒーターのような加熱手段や蓄熱材を併用しても良い。基体を基体使用温度に予熱することにより、旋盤に設置してから加熱する場合と比べてタクトタイムが短くなる効果がある。具体的な実施形態としては、まず切削装置にセットする前に基体を加熱炉などの予熱手段にストックして基体使用温度と略同一の温度に加熱する。基体の温度が基体使用温度と略同一の温度になったら切削装置に基体をセットする。このとき基体の内部にはウレタンゴムからなる円筒状の振れ止め部材が嵌装される。そして所定の回転数、送り速度、および切込み量で切削がなされる。
【0019】
(実施形態5)
基体を切削するときの基体切削温度を基体使用温度と略同一にする方法としては、切削油を基体使用温度に加熱して基体に供給する方法も用いることができる。この場合、切削油は基体全体に噴射してもよく、切削がなされていない部分に噴射して切削の完了した部位には噴射しないようにしても良い。具体的な実施形態としては、まず基体を切削装置にセットし基体使用温度と略同一の温度になるように加熱された切削油を基体に噴射する。このとき基体の内部にはウレタンゴムからなる円筒状の振れ止め部材が嵌装される。そして所定の回転数、送り速度、および切込み量で切削がなされる。
基体を切削するときの基体切削温度を基体使用温度と略同一にする方法としては、上記列挙した方法を適宜組合わせて適用しても良い。
【0020】
[測定工程]
次に、図1(b)で示される測定工程では試行切削後の基体寸法と規定寸法との差異を、基体使用温度と略同一の基体測定温度の下で測定する。本発明でいう基体測定温度とは基体寸法を測定するときの基体の温度を指す。加熱された実使用時の寸法精度を保証するために測定工程においても基体使用温度と略同一の基体測定温度の下で測定する必要がある。測定装置としてはノギスあるいは三次元測定機などの自動機を用いることができる。
【0021】
試行切削後の基体寸法と規定寸法との差異を、基体使用温度と略同一の基体測定温度の下で測定する方法としては、試行切削工程と同様の方法を用いることができる。すなわち、基体及び測定装置の周囲の雰囲気温度を前記基体使用温度と略同一に保って測定する方法、加熱手段を用いて基体を前記基体使用温度に保って測定する方法、測定前にシリンダーを加熱炉などの予熱手段にストックして基体使用温度に加熱しておく方法、基体の内部に基体使用温度に加熱された蓄熱材を配置する方法などを用いることができる。具体的な実施形態としては、自動測定が可能な真円度測定器に基体をセットし、基体が基体使用温度と略同一の基体測定温度になったら基体の外径寸法を基体の長手方向に連続的に測定しその測定値を記録する。そして測定値と規定寸法との差異を算出する。
【0022】
[本切削工程]
次に、図1(c)で示される本切削工程では測定工程で測定された基体寸法と規定寸法との差異に基づいて、本切削後の基体寸法と規定寸法との差異が基体使用温度の下において所定の範囲内に収まるように切削に用いるバイト位置を制御して、試行切削工程と同じ基体切削温度の下で基体の本切削を行う。試行切削工程と同じ基体切削温度の下で基体の本切削を行う方法としては試行切削工程と同様の方法を用いることができる。バイト位置は一旦調整した後は基体の径方向に対して固定のままでも良く、または規定寸法との差異に対応して数値制御により基体の径方向に対して相対的に移動するようにしても良い。
【0023】
本発明の電子写真感光体の基体の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、金、銀、白金、鉛、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、チタン、ステンレス等を用いることができる。中でも、加工性や製造コストを考慮すると、アルミニウムが最適である。この場合、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金のいずれかを用いることが好ましい。
【0024】
基体を製造する方法は、精度やコストなどが考慮されて決定されるが、アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いる場合、押出、引抜、矯正等の工程を経て製造された管材を所定の長さに切断する方法が一般的である。このように製造された基体内部には、押出、引抜、矯正等の工程で多少の残留応力が生じている。このままの状態で基体の切削加工を施したり、または基体の表面に感光層を形成する際の加熱工程で残留応力が開放されたりすると、基体が変形してしまう。したがって残留応力を除去するために、管材切断後基体に加熱処理(焼鈍)が行われる。加熱処理の温度は通常300〜430℃程度の温度である。
【0025】
図2に示す切削装置20は、床面等に固定されたベッド21と、ベッド21に固定されたテーブル22と、テーブル22に沿って移動可能なバイトホルダ23と、バイトホルダ23に固定されたバイト24を有している。ベッド21には主軸ポスト25と芯押しポスト26が固定されており、それぞれ主軸ヤトイ27および芯押しヤトイ28を備えている。被切削物である基体1は主軸ヤトイ27と芯押しヤトイ28のテーパー面で左右から挟持され、主軸ヤトイ27の回転により回転され、バイト24により切削加工される。測温装置29は基体1の近傍の温度を計測する。
【0026】
(感光体層の形成方法)
電子写真感光体は、基体の外周面に感光体層が形成されてなる。感光体層としてはCVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成したアモルファスシリコン(以下「a−Si」とも記す)感光体のような無機感光体や、電荷発生材料と電荷輸送材料とを組み合わせ塗布形成した有機感光体等があげられる。一例としてa−Si感光体の製造方法の概要について図3を参照して説明する。
a−Si感光体は、一般的に高周波プラズマCVD法により製造される。図3に示す装置は、堆積装置A、原料ガス供給装置および排気装置(ともに不図示)を備える。
【0027】
堆積装置Aは、縦型の真空容器であってカソード電極を兼ねた反応容器2を有し、この反応容器2の中には容器の縦方向に延びる原料ガス導入管3が複数本配設され、ガス導入管3の側面には、長手方向に沿って多数の細孔が設けられている。反応容器2の内部の中心には、ヒーター4が設けられている。電子写真感光体の基体となる基体1は、基体ホルダ5に装着された状態で、反応容器2の上部の蓋6を開けて挿入され、ヒーター4を内側にして反応容器2の中に縦方向に設置される。また、反応容器2の側面からマッチングボックス7を介して高周波電源14より高周波電力が供給される。
【0028】
反応容器2の下部には、原料ガス導入管3に接続された原料ガス供給管8が取り付けられ、この供給管8は、供給バルブ9を介して図示しないガス供給装置に接続されている。また、反応容器2の下部には排気管10が取り付けられ、この排気管10は排気バルブ11を介して図示しない排気装置(真空ポンプ)に接続されている。反応容器2の下部には、他に、基体1が装着された基体ホルダ5を回転可能にするモータ12、真空計13が取り付けられている。
【0029】
上記の装置を用いた高周波プラズマCVD法によるa−Si感光体は次のように形成される。まず、反応容器2の中に電子写真感光体の基体となる基体1が装着された基体ホルダ5をセットし蓋6を閉じる。図示しない排気装置により容器2の中を所定の圧力まで排気する。以後排気を続けながら、モータ12により基体1が装着された基体ホルダ5を回転させる。ヒーター4により基体1を内側から加熱して、基体1を所定の温度に制御する。基体1が所定の温度に維持されたら、所望の原料ガスをそれぞれの流量制御器(不図示)により調節しながら、原料ガス導入管3を通って反応容器2の中に導入する。導入された原料ガスは反応容器2の中を満たした後、排気管10を通って容器2の外に排気される。
【0030】
原料ガスが満たされた反応容器2の中が所定の圧力になって安定したことを真空計13により確認したら、高周波電源14(例えば13.56MHzのRF帯域)により、高周波を所望の投入電力量で反応容器2の中に導入し、反応容器2の中にグロー放電を発生させる。このグロー放電のエネルギーによって、原料ガスが分解してプラズマイオンが生成され、基体1の表面にケイ素を主体としたa−Si堆積膜が形成される。
【0031】
このようにして、基体1の表面にa−Si堆積膜が所望の膜厚で形成されたら、高周波電力の供給を止め、供給バルブ9等を閉じて、反応容器2の中への原料ガスの導入を停止し、一層分のa−Si堆積膜の形成を終える。ガス種、ガス導入量、ガス導入比率、圧力、基体温度、投入電力、膜厚などのパラメータを調整することにより様々な特性のa−Si堆積膜を形成することができ、電子写真感光体としての特性を制御することができる。同様の操作を複数回繰り返すことにより所望の構造のa−Si感光体が製造される。
【0032】
(画像形成装置)
本発明の電子写真感光体を使用することができる画像形成装置について、図5の概略構成図を参照して説明する。この画像形成装置は、表面に静電潜像が形成され、この静電潜像上にトナーが付着されてトナー像が形成される円筒形状の電子写真感光体101を有している。電子写真感光体101の周りには、電子写真感光体101の表面を所定の極性・電位に一様に帯電させる1次帯電器102と、帯電された電子写真感光体101の表面に画像露光光(潜像形成光照射)103を照射して静電潜像を形成する画像露光装置とが配置されている。
【0033】
形成された静電潜像上にトナーを付着させて現像する現像器として、ブラックトナーを付着させる第1現像器104aと、カラートナーを付着させて現像する第2現像器104bが配置されている。第2現像器104bは、イエロートナーを付着させる現像器とマゼンタトナーを付着させる現像器とシアントナーを付着させる現像器とが内蔵された回転型の現像器である。
また、感光ドラムの表面でトナー像を形成しているトナーの電荷を均一にし、安定した転写を行うようにするための転写前帯電器105が設けられている。さらに、中間転写ベルト106にトナー像を転写した後、電子写真感光体101の表面をクリーニングする感光体クリーナ107および電子写真感光体101の除電を行う除電光源108が設けられている。
【0034】
中間転写ベルト106は、電子写真感光体101に当接ニップ部を介して駆動するように配置されており、内側には電子写真感光体101の表面に形成されたトナー像を中間転写ベルト106に転写するための一次転写ローラ109が配備されている。
一次転写ローラ109には、電子写真感光体101の表面のトナー像を中間転写ベルト106に転写するための一次転写バイアスを印加するバイアス電源(不図示)が接続されている。中間転写ベルト106の周りには、中間転写ベルト106に転写されたトナー像を記録材112にさらに転写するための二次転写ローラ110が、中間転写ベルト106の下面部に接触するように設けられている。二次転写ローラ110には、中間転写ベルト106の表面のトナー像を記録材112に転写するための二次転写バイアスを印加するバイアス電源(不図示)が接続されている。また、中間転写ベルト106の表面のトナー像を記録材112に転写した後、中間転写ベルト106の表面上に残留した転写残トナーをクリーニングするための中間転写ベルトクリーナ111が設けられている。
【0035】
また、この画像形成装置は、画像が形成される複数の記録材112を保持する給紙カセット113と、記録材112を給紙カセット113から中間転写ベルト106と二次転写ローラ110との当接ニップ部を介して搬送する搬送機構とが設けられている。記録材112の搬送経路上には、記録材112上に転写されたトナー像を記録材112の表面に定着させる定着器114が配置されている。電子写真感光体101の内部にはヒーター115が配置されており、電子写真感光体を40℃から45℃の基体使用温度に加熱する。
画像露光装置としては、カラー原稿画像の色分解・結像露光光学系や、画像情報の時系列電気デジタル画素信号に対応して変調されたレーザビームを出力するレーザスキャナによる走査露光系が用いられる。このような露光系により、画像パターンに従って、複数行、複数列の画素マトリックスの画素ごとに、レーザまたはLEDを光源とする光ビームを照射して静電潜像を感光体の表面に形成することができる。
【0036】
次に、この画像形成装置の動作について説明する。まず電子写真感光体101が、反時計方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動され、中間転写ベルト106が、時計方向に、電子写真感光体101と同じ周速度で回転駆動される。
電子写真感光体101は、回転過程で、一次帯電器102により所定の極性・電位に一様に帯電処理される。次いで、画像露光光103を受け、これにより電子写真感光体101の表面上には、目的のカラー画像の第1の色成分像(例えばマゼンタ成分像)に対応した静電潜像が形成される。次いで、第2現像器104bが回転し、マゼンタトナーを付着させる現像器が所定の位置にセットされ、その静電潜像が第1色であるマゼンタトナーにより現像される。この時、第1現像器104aは、作動オフになっていて電子写真感光体101には作用せず、第1色のマゼンタトナー像に影響を与えることはない。
【0037】
一次転写バイアスがバイアス電源(不図示)から一次転写ローラ109に印加され、電子写真感光体101と中間転写ベルト105との間に電界が形成される。この電界の作用により、感光体101の表面に形成担持された第1色のマゼンタトナー像は、感光体101と中間転写ベルト106とのニップ部を通過する過程で、中間転写ベルト106外周面に順次中間転写される。
中間転写ベルト106に第1色のマゼンタトナー像を転写し終えた感光体101の表面は、感光体クリーナ107によりクリーニングされる。次に、感光体101の清掃された表面上に、第1色のトナー像の形成と同様に、第2色のトナー像(例えばシアントナー像)が形成され、この第2色のトナー像が、第1色のトナー像が転写された中間転写ベルト106の表面上に重畳転写される。以下同様に、第3色のトナー像(例えばイエロートナー像)、第4色のトナー像(例えばブラックトナー像)が中間転写ベルト106の表面に順次重畳転写され、目的のカラー画像に対応した合成カラートナー像が形成される。
【0038】
次に、給紙カセット113から中間転写ベルト106と二次転写ローラ110との当接ニップ部に所定のタイミングで記録材112が給送される。二次転写ローラ110が中間転写ベルト106に当接されると共に、二次転写バイアスがバイアス電源(不図示)から二次転写ローラ110に印加される。この結果、中間転写ベルト106の表面に重畳転写された合成カラートナー像が、第2の画像担持体である記録材112に転写される。記録材112へのトナー像の転写終了後、中間転写ベルト106の表面の転写残トナーは中間転写ベルトクリーナ111によりクリーニングされる。トナー像が転写された記録材112は定着器114に導かれ、ここで記録材112の表面にトナー像が加熱定着される。
【実施例】
【0039】
以下の実施例および比較例では、切削加工される基体としてマグネシウムを2.5重量%含有したAl−Mg合金の引抜管であって、380℃で2時間の焼鈍処理を行った円筒状金属素管を用いた。基体にはあらかじめ前加工として端面切削およびインロー加工が施されている。インロー加工の精度も重要なので、インロー加工時の基体切削温度についても電子写真感光体を画像形成装置の内部で加熱手段により加熱して使用するときの基体使用温度と略同一にして基体の切削を行うことが好ましい。基体の全長は381mmとされている。また基体の外周は粗切削が施されており、外径は室温25℃での測定で84.14mmとされている。試行切削工程および本切削工程で用いられる切削装置20はエグロ社製RL-550EXを用い、バイト24として先端形状が5Rのダイヤモンドバイトを用いる。切削油として炭化水素系合成油ポリブデン(新日本石油(株)、商品名;日石ポリブデンLV−7)を用いる。測定装置としてミツトヨ社製ラウンドテストRA−2100DHを用いる。基体切削温度および基体測定温度は基体使用温度と略同一の42℃とする。
【0040】
(実施例1)
試行切削工程を実施形態1に記載した方法で行なった。未切削の基体および切削装置の置かれた空間全体を42℃に保った。基体の内周部を保持した状態で基体を3000rpmで回転させ、バイト送り0.12mm/回転、切込み量0.15mmで外周切削加工を行った。
次に測定工程を基体の内部にカーボンヒーターを挿入して基体を42℃に加熱する方法で行なった。基体の内部にカーボンヒーターを挿入して基体を42℃に加熱し、規定寸法(外径83.93mm)との差異を記録した。本例では試行切削後の外径は84.05mmだった。
【0041】
次に本切削工程を試行切削工程と同様に行なった。本切削工程では測定工程で記録された差異に基づいて切削装置のバイトの位置を調整して切込み量を0.12mmとした。前記試行切削工程を経た基体の内周部を保持した状態で基体を3000rpmで回転させ、バイト送り0.12mm/回転で外周切削加工を行った。基体使用温度で念のため測定工程と同様の方法で基体の外径を測定したところ83.93mmだった。
つづいて基体を以下のように洗浄した。洗浄液として40℃に加熱したアルミ用低侵食低起泡性液状脱脂剤(ヘンケルジャパン(株)、商品名;almeco CT−29)を純水で30倍に希釈した洗浄液を用いた。この洗浄液に基体を浸漬させ、超音波を印加して120秒洗浄した。次に常温の純水に基体を100秒浸漬させ基体をすすいだ。次に50℃に加熱した純水に円筒状基体101を20秒浸漬させた後、600mm/minの速度で溶媒から引き上げ乾燥させた。
【0042】
この基体の表面にa−Si堆積膜を形成し、図4に示す層構成の電子写真感光体50を作製した。電子写真感光体50は基体1の表面に形成された下部阻止層51、光導電層52、表面層53からなる。それぞれのa−Si堆積膜は図3に示すプラズマCVD装置を用いて、表1に示す条件で形成した。
【0043】
【表1】

【0044】
このようにして得られた電子写真感光体を画像形成装置(キヤノン社製複写機iRC6880Nを改造した装置)にセットした。このとき電子写真感光体はヒーターによって42℃に加熱して使用される。この画像形成装置で、電位設定は自動制御で画像濃度0.3のハーフトーン原稿を用いてA3紙の全面にマゼンタハーフトーン画像を形成した。濃度一様性を以下のように評価した。軸方向5点、周方向5点の計25点の画像濃度を濃度計(X−RITE社製 X−RITE530)で測定し、最大値と最小値の濃度差を算出する。本実施例の濃度差は下記の比較例の濃度差の40%と良好な結果が得られ、本発明の効果が実証された。
【0045】
(比較例)
実施例1において加工室の室温および測定室の室温を25℃としたほかは実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、画像評価を行なった。濃度一様性を実施例1と同様の方法で評価した。
【0046】
(実施例2)
未切削の基体および切削装置の置かれた空間全体を42℃に保ち、切削装置のバイトのセッティングは実施例1において本切削工程が終了した状態に保った。そして、未切削の基体の内周部を保持した状態で基体を3000rpmで回転させ、バイト送り0.12mm/回転で外周切削加工を行った。実施例1の測定工程と同様の方法で基体の外径を測定したところ83.93mmだった。
この基体を用いて実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、画像評価を行なった。濃度一様性を実施例1と同様の方法で評価したところ、本実施例の濃度差は比較例の濃度差の40%と良好な結果が得られ、本発明の効果が実証された。
【0047】
(実施例3)
試行切削工程を実施形態2に記載した方法で行なった。本例の切削装置20は図6に示すように、基体1から50mm離れた位置に全長420mmのカーボンヒーター30を配置した。基体1の近傍には測温装置29が配置されカーボンヒーターの出力30を制御し、基体1の温度を42℃に制御する。基体1の内周部を保持した状態で基体1を3000rpmで回転させ、バイト送り0.12mm/回転、切込み量0.15mmで外周切削加工を行った。
次に測定工程を実施例1と同様に行なった。本例では試行切削後の外径は84.03mmだった。
【0048】
次に本切削工程を試行切削工程と同様に行なった。本切削工程では測定工程で記録された差異に基づいて切削装置のバイトの位置を調整して切込み量を0.10mmとした。基体1の内周部を保持した状態で基体1を3000rpmで回転させ、バイト送り0.12mm/回転で外周切削加工を行った。基体使用温度で念のため測定工程と同様の方法で基体1の外径を測定したところ83.92mmだった。
この基体1を用いて実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、画像評価を行なった。濃度一様性を実施例1と同様の方法で評価したところ、本実施例の濃度差は比較例の濃度差の60%と良好な結果が得られ、本発明の効果が実証された。
【0049】
(実施例4)
試行切削工程を実施形態3および4に記載した方法で行なった。本例の切削装置20は図7に示すように、芯押しヤトイ28の内部に液体流路31が設けられており、フィッティング32を介して蓄熱材を注入できるようになっている。まず基体を炉内温度42℃に保たれた加熱炉に放置した。基体の温度が炉内温度と等しくなってから加熱炉から取り出し、切削装置に基体をセットした。基体の内部には蓄熱材として42℃に加温されたポリエチレングリコールが液体流路31を経由して注入され封止された。ポリエチレングリコールは重合度を調整することにより凝固温度が41℃であるように設定した。基体の内周部を保持した状態で基体を3000rpmで回転させ、バイト送り0.12mm/回転、切込み量0.15mmで外周切削加工を行った。
【0050】
次に測定工程を実施例1と同様に行った。本例では試行切削後の外径は84.08mmだった。
次に本切削工程を試行切削工程と同様に行った。本切削工程では測定工程で記録された差異に基づいて切削装置のバイトの位置を調整して切込み量を0.15mmとした。基体1の内周部を保持した状態で基体1を3000rpmで回転させ、バイト送り0.12mm/回転で外周切削加工を行った。基体使用温度で念のため測定工程と同様の方法で基体1の外径を測定したところ83.94mmだった。
この基体1を用いて実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、画像評価を行なった。濃度一様性を実施例1と同様の方法で評価したところ、本実施例の濃度差は比較例の濃度差の60%と良好な結果が得られ、本発明の効果が実証された。
【0051】
(実施例5)
試行切削工程を実施形態5に記載した方法で行った。本例の切削装置20は図8に示すように切削油噴射器33が設けられ、基体1の全長にわたって加温された切削油を噴射するようになっている。基体の内周部を保持した状態で基体を3000rpmで回転させ、液温42℃に加温された切削油を基体の全長にわたって毎分20リットル噴射する。基体温度が切削油の液温と等しくなってからバイト送り0.12mm/回転、切込み量0.15mmで外周切削加工を行った。
次に測定工程を実施例1と同様に行った。本例では試行切削後の外径は84.00mmだった。
【0052】
次に本切削工程を試行切削工程と同様に行った。本切削工程では測定工程で記録された差異に基づいて切削装置のバイトの位置を調整して切込み量を0.07mmとした。基体1の内周部を保持した状態で基体を3000rpmで回転させ、バイト送り0.12mm/回転で外周切削加工を行った。基体使用温度で念のため測定工程と同様の方法で基体の外径を測定したところ83.93mmだった。
この基体を用いて実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、画像評価を行なった。濃度一様性を実施例1と同様の方法で評価したところ、本実施例の濃度差は比較例の濃度差の60%と良好な結果が得られ、本発明の効果が実証された。
【符号の説明】
【0053】
1 基体
20 切削装置
29 測温装置
30 ヒーター
31 液体流路
33 切削油噴射器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削した円筒状の基体の表面に感光層を形成してなる電子写真感光体の製造方法において、基体を切削するときの基体切削温度を、電子写真感光体を画像形成装置の内部で加熱手段により加熱して使用するときの基体使用温度と略同一にして、前記基体の切削を行うことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記基体切削温度を前記基体使用温度と略同一にして前記基体の試行切削を行う工程と、
試行切削後の基体寸法と規定寸法との差異を前記基体使用温度と略同一の基体測定温度の下で測定する工程と、
前記差異に基づいて切削に用いるバイト位置を制御し、かつ前記基体切削温度を前記基体使用温度と略同一にして前記基体の本切削を行う工程とを有することを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記基体及び切削装置の周囲の雰囲気温度を前記基体使用温度と略同一にして切削することを特徴とする請求項1又は2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
加熱手段を用いて前記基体切削温度を前記基体使用温度と略同一にして切削することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−230989(P2010−230989A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78656(P2009−78656)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】