説明

電子写真感光体の製造方法

【課題】端部における軸方向及び周方向の電位ムラを改善し、濃度ムラのない高品位な画像が得られる電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】上部及び/又は下部に補助基体を設けた円筒状基体を、減圧にし得る反応容器の内部に設置し、気相成長法により前記円筒状基体の上に堆積膜を形成する電子写真感光体の製造方法において、前記補助基体の端面又は前記円筒状基体の端面の少なくとも一方が凸部を有し、前記円筒状基体と前記補助基体を前記反応容器の内部に設置する際に、前記補助基体の端面と前記円筒状基体の端面とが接近する方向に圧力を加えて、前記凸部を対向する端面に押しつけることにより、前記凸部又は前記凸部に対向する端面の平坦部の少なくとも一方が塑性変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化アモルファスシリコン(以下、「a-Si:H」とも称する。)からなる電子写真感光体(以下、「a-Si感光体」とも称する。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置では、感光層が設けられた電子写真感光体の外周面を一様に帯電させ、ついで被複写体の被複写像を露光させることにより電子写真感光体の外周面上に静電潜像を形成する。さらに電子写真感光体上にトナーを付着させることでトナー像を形成し、これを複写用紙などに転写させて画像形成が行なわれる。
近年画像の高画質化のために、電子写真感光体の面内特性ムラに対する要求が従来以上に高まってきた。即ち、面内での特性ムラ、例えば帯電能ムラがあると、例えば広い面積でのハーフトーンを描画する場合などで微妙な濃淡が発生する可能性があった。特に軽印刷などのプリントオンデマンド(以下、「POD」と略する)市場やピクトリアル分野においては、画像濃度均一性に対する要求は著しく、その要求に応えていくために製品の歩留まりが低下する場合があった。
【0003】
上記の問題を解決するための対策として、特許文献1では、堆積膜形成方法において、互いに隣接する基体同士を連結部材を介して連結した状態で堆積膜を形成することが提案されている。このことにより、基体同士の連結部分での段差が生じることを抑え、段差での放電ムラに伴う膜厚ムラを抑制し、画像ムラを抑制することが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−270221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の方法に開示されるように、端部ズレに起因する膜厚ムラを改善することにより特性ムラが抑制されてきた。しかしながら、画質に対する市場の要求は更に高まってきている。特に軽印刷などのPOD市場やピクトリアル分野においてはその要求は著しく、この分野では特性の面内均一性に対する要求が厳しい。周方向の特性ムラは特許文献1にあるような機械的な精度の向上によって達成しやすいが、軸方向の特性ムラは、特許文献1の考え方では不十分であることが分かった。
【0006】
帯電能の軸方向ムラは、特に中央部より端部の方が顕著であり、端部の特性が軸方向の特性ムラを悪化させる場合が多いことが分かった。この原因について調査したところ、基体のアース状態が不十分であることが原因であることが分かった。これは補助基体と感光層が形成される基体とを金属板で結合してアースを強化することで確認できた。しかし、余計な金属板が成膜時にダスト源になったり、端部における膜形成の妨げになるなど、電気的接触を強化しながら正常に感光体を作製することが難しいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電子写真感光体の製造方法は、上部及び/又は下部に補助基体を設けた円筒状基体を、減圧にし得る反応容器の内部に設置し、気相成長法により前記円筒状基体の上に堆積膜を形成する電子写真感光体の製造方法であって以下の特徴を有する。
前記補助基体の端面又は前記円筒状基体の端面の少なくとも一方が凸部を有する。前記円筒状基体と前記補助基体を前記反応容器の内部に設置する際に、前記補助基体の端面と前記円筒状基体の端面とが接近する方向に圧力を加えて、前記凸部を対向する端面に押しつける。前記凸部又は前記凸部に対向する端面の平坦部の少なくとも一方が塑性変形する。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明では、電子写真感光体の製造方法において、円筒状基体の端面又は補助基体の端面に凸部を設け、圧力を加えて凸部又はその対向部を塑性変形させることを特徴とする。このことにより、金属板などの膜堆積や放電空間(成膜空間)に悪影響を及ぼす部材を用いることなく、確実な電気的接触が得られ、端部での特性ムラの改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明及び従来技術の円筒状基体、補助基体とその組み合わせを説明する模式図である。
【図2】本発明の凸部の種類と配置、その組み合わせを説明する模式図である。
【図3】本発明の凸部の周方向の配置を説明する模式図である。
【図4】本発明の凸部の高さ、底部の角度、円筒状基体同士を結合する部材を説明した模式図である。
【図5】本発明によって製造されるa-Si感光体の層構成を説明する模式図である。
【図6】本発明に用いられるa-Si:H感光層を円筒状基体上に堆積させる製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明においては、上部及び/又は下部に補助基体を設けた円筒状基体を、減圧にし得る反応容器の内部に設置し、気相成長法により前記円筒状基体の上に堆積膜を形成する。
図1に、本発明及び従来技術の円筒状基体、補助基体とその組み合わせを説明する模式図を示す。円筒状基体101が補助基体であるホルダー102とキャップ103とで保持された状態で、例えば図6に示したような高周波プラズマCVD装置にセットされる構成である。この円筒状基体と補助基体のセットは、放電空間内でアースに接続され、アース電極として放電に晒され、表面に感光層が形成される。
【0011】
本発明者らは、従来のように補助基体と円筒状基体とを単純に積む構造では、円筒状基体と補助基体との間の直流的な導通はとれているにも関わらず、高周波的には導通性が不十分な場合があり、その場合には膜の均一性が低下する場合があることを突き止めた。
例えば感光体作製に13.56MHzのような高周波を用いたCVD法を使う場合には、電極における高周波の伝播ムラは放電の均一性に大きく影響する。アース電極として働く補助基体と円筒状基体との接合面において高周波的な導通が不十分、即ち高周波に対するインピーダンスの不連続面があると、アース電極における高周波の伝播に不均一が生じることとなる。この結果、端部と中央部での放電の均一性が損なわれて、端部での帯電能と中央部での帯電能との差が大きくなる現象が起こると考えられる。
【0012】
本発明者らは、拡大領域(d)のような場合、基体の端面や補助基体の端面における接触が部分的であり高周波的な導通が不十分であると考えた。即ち、基体の端面や補助基体の端面は、ある程度平坦ではあるものの微視的には凹凸があり、巨視的には面での接触であるものの、微視的には点での接触となっていると思われる。また、これらの面には、場合によっては酸化膜や汚れの如き絶縁性物質が存在する場合もある。このことから、直流的には導通が取れているように見えても、点接触や絶縁性物質のため不安定であり、高周波的にはきちんとした導通が取れていないと思われる。例えば拡大領域(d)のような接触形態の場合には、成膜後に取り出した際に基体の端面を観察してみると、端面に膜が付いていることがある。これは端面に放電が回りこんでいるためであると考えられ、点接触のために導通が不十分となり、高周波の反射面が形成され、放電が集中したためではないかと予想される。
【0013】
そこで、上述した考察を確認するため、端部での高周波的な導通を強化し、その効果を調べた。例えば図1の拡大領域(f)に示したように、円筒状基体と補助基体(キャップやホルダー)とを、高周波でも十分に導通が取れるように金属板108でネジ止めして接続した場合には、端部での帯電能が中央部とあまり変わらなかった。しかしこの方法では、放電空間に金属板108やネジが露出しているため、円筒状基体101と金属板108、あるいはホルダー102と金属板108、あるいはキャップ103と金属板108の如き段差部分が存在する。この段差部分があると、異常放電や異常成長の核となるダストを生成する可能性があり、このような構成は好ましくはない。一方、金属板108を内側からネジ止めする方法も考えられるが、内側だと作業性が悪いばかりか、その設置を行う際にダストが円筒状基体101の表面に付着しやすくなるため、好ましくない。そこで、このような金属板を用いずとも高周波に対する導通性を確実に確保する必要がある。
【0014】
そこで、本発明者らは、円筒状基体又は補助基体又はその両方の端面に小さな凸部を形成し、円筒状基体の端面と補助基体の端面とが接近する方向に圧力をかけることで凸部又はその対向部又はその両方を塑性変形させることで電気的導通を強化出来ることを見出し、本発明に至った。
特に、塑性変形を伴う凸部の侵入が重要であることが分かった。例えば特許文献1のようなピンと穴とからなる位置決め機構でも、見かけ上接触する面積が増えるため良好な結果となりそうであるが、どの接触面でも点接触であることは変わりない。一方、圧力を加えて凸部を侵入させ、塑性変形を起こすということは、表面の微視的な凹凸や、微視的に形成された酸化膜や汚れの如き絶縁性物質を超えて金属と金属の接触が強化される。これらのことが電気的導通を確実にした原因であると推察される。
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
<本発明の突起部についての説明>
本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明及び従来技術の円筒状基体、補助基体とその組み合わせを説明する模式図である。(a)〜(c)は本発明及び従来技術の円筒状基体及び補助基体を示し、(d)と(f)は従来技術の円筒状基体を示し、(e)と(g)は本発明の円筒状基体を示す。
円筒状基体101が、補助基体であるホルダー102、別の補助基体であるキャップ103とで保持されて反応容器内にセットされる。ホルダー102と円筒状基体101とは端面106で接しており、キャップ103と円筒状基体101とも端面106で接する構造である。円筒状基体101の端部には、回転中心からの距離精度の高い面を形成するためのインロー部109を設け、この部分に位置決めを目的としたリング状部材104を入れることがある。また、ホルダー102のように、円筒状基体101の端部との位置決め可能な、位置決め部105を形成してもよい。
【0016】
本発明の凸部は、拡大領域(e)に示したように、一例としてキャップ103やホルダー102に凸部107を形成すればよい。円筒状基体101とキャップ103を接触させ更にキャップ103の上面から圧力をかけて円筒状基体101の端面に凸部107を侵入させる。このことにより、拡大領域(g)に示したように凸部107の反対側の端面106が変形部110のように塑性変形する。この塑性変形によって、表面に微小な凹凸や、酸化膜や汚れの如き絶縁構造があったとしても、これを越え、又は破壊し、金属と金属が密に接触する部分が形成され、導電性が強化される。また、放電空間には露出した付加部材がない状態で端部での電気的接触を強化することができる。この方法により、高周波に対する円筒状基体101端部のインピーダンス不連続をなくすことができ、円筒状基体101端部で高周波の反射や放電の集中が起こらず、端部での放電が均一化すると考えられる。この結果として、電子写真感光体を形成した場合には端部の帯電能が中央部の帯電能に近く、電子写真感光体の軸方向電位ムラが低減できることが分かった。
【0017】
図2に、図1(e)における端面106と凸部107について、例を示した。
円筒状基体101とキャップ103とが接する部分において、凸部を形成するのは、図2(a)〜(c)のようにキャップ103側でもよいし、図2(d)〜(f)のように円筒状基体101側でもよい。また、図(g)、(h)のように両方に形成してもよい。この場合、凸部が断面方向からみて互い違いになるようにすることがより好ましい。また、円筒状基体101とホルダー102が接する部分においては図2(j)〜(l)のように突起を形成するのはホルダー102側でも良いし、図2(m)〜(o)のように円筒状基体101側でも良い。また、図(p)、(q)のように両方に形成してもよい。この場合、凸部が断面方向からみて互い違いになるようにすることがより好ましい。
【0018】
また、図2(a)、(d)、(g)〜(i)、(j)、(m)、(p)〜(r)に示したように、凸部の断面形状は三角形でも良いし、図2(b)、(e)、(k)、(n)のようにかまぼこ状のような楕円の一部や半円でも良いし、図2(c)、(f)、(l)、(o)のように矩形でもよい。凸部を侵入させて塑性変形させることを考えると、断面形状は三角形ないしはそれに近いものがより好ましい。
また、凸部は比較的高さ、幅とも小さいため問題が起こりにくいが、場合によっては凸部が侵入することにより円筒状基体の端部の外径や内径に影響が及ぶことが考えられる。そこで、図2(i)、図2(r)に示したように、凸部による変形を逃がすための溝を形成してもよい。図2(i)、(r)では凸部が侵入する部分よりも外側に溝を形成してあるため、凸部の侵入の影響により円筒状基体の端部の外径が広がることがない。よって外径寸法を厳密に一定に保つことができるため、より好ましい。端部部分は非画像部ではあるが、現像器との距離を保つためのコロ(ベアリング)を付き当てるために使用されることが多く、寸法精度は重要である。この寸法に狂いが生じると、現像器のスリーブと感光体との距離が変わってしまう可能性がある。端部の外径寸法は正確であることが、狙い通りの現像特性を得るためにはより好ましい。なお、上記例では溝により凸部に対向する端部の変形を吸収したが、凸部が積極的に塑性変形する形状とすることにより対向する端部の変形を抑制してもよい。
【0019】
図3は凸部が形成された領域の円周方向への分布を模式的に示している。図3(b)、(d)はこの模式図の表記について説明したものである。図3(a)〜(c)の太線が凸部301を示しており、図3(b)のOA断面を取ると図3(d)上図のように凸部301と平坦部302が混在する構造になっている。またOB断面を取ると図3(d)の下図のような平坦部302のみの構造となっている。図3(a)のように平坦部302と凸部301が離散的に形成されていてもよく、図3(b)のようにさらに密に分布させてもよい。これらのように離散的に分布させる場合には、等間隔であることが望ましい。さらに好ましくは、図3(c)のように円周方向に切れ目なく分布している(連続的に形成されている)方がよい。このようにすることで、円周方向で均一に高周波的な導通が確保できるため、周方向の放電ムラがより抑えられると考えられる。実際に感光体を作成した際にも軸方向、周方向を含む面内電位ムラを非常に小さくできることが分かった。
【0020】
このような凸部の断面形状を拡大したものを図4(a)に示す。凸部の高さ401は、通常の旋盤加工で形成される端面の粗さ程度以上あることが望ましい。あまり低すぎると電気的な接触が強化出来ない場合が発生することがある。よって0.05mm以上とすることが好ましい。一方、あまり高すぎると圧力をかけても凸部を完全に侵入させにくく、円筒状基体とキャップ、円筒状基体とホルダーとの間に隙間があいてしまう恐れがある。隙間が開くと、放電が回りこんだり集中したりしやすくなるため2mm以下とすることが好ましい。
【0021】
また、凸部の侵入しやすさに関しては、あまり尖った形状では耐久性が悪くなる可能性があったり、あまり平坦に近い形状では圧力をかけても侵入しにくかったり、安定した電気的導通の面では不利になる場合がある。先鋭度を測る指標としては、図4(a)に示したように凸部の底辺に近い部分での斜度402を基準とする。実験的な事実として、斜度402が10度以上のとき、圧力をかけた際の侵入のしやすさ、導通の確実性からより好ましい。また、凸部の断面形状が図2(a)のような三角形である場合には、60度以下のとき、耐久性の点からより好ましいことが分かった。
【0022】
また、凸部の断面方向の幅403としては特に制限はないが、端面の幅404に対して1/2程度より少ない方がより好ましい。あまり凸部の幅が広すぎると、端面の平坦部同士が密着しにくくなることがあり、隙間が開いてしまう可能性がある。
また、上述した例はホルダーに円筒状基体を一本組み付けて成膜する場合だが、2本以上の円筒状基体をホルダーに組み付けて成膜する場合には、円筒状基体の端面のどちらか一方に凸部を形成したり、両方に凸部が互い違いになるように形成すればよい。即ち、円筒状基体の端面のどちらかに凸部を形成した例としては、図2(a)〜(f)のキャップ103に当たる部分を円筒状基体101の端部としたものが相当する。また、互い違いになるように形成した例としては、図2(g)、(h)のキャップ103に当たる部分を円筒状基体101の端部としたものが相当する。あるいは、図4(b)に示すように、円筒状基体405aと円筒状基体405bとの端面の間に凸部を持つ部材406をはさみ、部材406の凸部を円筒状基体405aの端面と円筒状基体405bの端面に侵入させることで電気的接触を強化してもよい。
【0023】
このような凸部を形成するには、円筒状基体101、ホルダー102、キャップ103、ないしは部材406を一般的に使用される市販の旋盤に取り付けて端面を加工すればよい。これらの接する面のどちらかないしは両方に凸部が形成され、端面を接触させた後に圧力をかけて凸部を侵入させ、相手を塑性変形させることが出来ればどのような加工装置を用いてもよい。
また、本発明のように凸部やその対向部を塑性変形させる際には、キャップ103やホルダー102の側に凸部を形成し常に円筒状基体の側を塑性変形させる方が、凸部を形成した部材を繰り返し使えて、凸部の加工にかかるコストを削減出来るため好ましい。この場合、凸部が形成された部材(キャップ、ホルダー)の硬さが、侵入される側の部材(円筒状基体)の硬さよりも硬い方が、凸部の耐久性を考えてより好ましい。ここでいう硬さとは、圧子を試験面に一定の力で一定時間押し当てた後、荷重を除いたあとに残った永久くぼみの面積を測定することで得られるブリネル硬さ(JIS Z 2243:2008)を指標とすることができる。ブリネル硬さの大きい材料でできた部材に凸部を形成し、ブリネル硬さの小さい材料の平坦面に侵入させることにより、凸部の鈍りがより抑えられて凸部の耐久性が確保しやすくなるため、より好ましい。
【0024】
硬さの違う材質の一例を具体的に説明する。凸部を形成する側をホルダー102、キャップ103とし、円筒状基体101の端面にキャップやホルダーの凸部が侵入する場合がある。この時、円筒状基体101の材料としてはJIS5000系のアルミニウムないしはJIS6000系のアルミニウムが好ましい例として挙げられる。ホルダー102やキャップ103の材料としてはJIS7000系のアルミニウムが耐久性が良好であり、好ましい例としてあげられる。その他、円筒状基体101より硬度の大きい金属ないし合金であれば、例えば鉄、ニッケル、コバルト、クロム、チタン、銅及びそれらの合金や、JIS G 4305:2005に記載されるSUS304、SUS316の如きステンレス鋼も好適に使用できる。
【0025】
次に、圧力を加えて凸部を他方に侵入させ、端面を塑性変形させて密着させる手順を説明する。まず、図1(a)に示すように、ホルダー102、円筒状基体101、位置決め部材104を挿入したキャップ103を順に組み立てる。この時、それぞれの端面106には図2の(a)〜(r)に示したいずれかのような、凸部と平坦部を組み合わせた加工が施されている。次に、キャップ103の上方から圧力を加える。このとき、加える圧力としては、端面106はしっかりと塑性変形し、且つ端部の外径が不要な変形をしないように、凸部の形状やお互いの材質(硬度)を考慮して適宜決めればよい。
【0026】
図5は、本発明に係る電子写真感光体の層構成を説明するための模式的構成図であり、導電性の円筒状基体501の上に下部注入阻止層502、光導電層503、表面層504が順に積層された電子写真感光体である。光導電層503は水素を含むa−Siからなる。
図5に示した各層の形成は、例えば13.56MHzのRF帯を用いた高周波プラズマCVD法によって、所望特性が得られるように適宜成膜パラメーターの数値条件が設定されて作製される。
【0027】
(円筒状基体)
円筒状基体501の材質としては金属が好ましく、中でも加工性や製造コストを考慮するとアルミニウムが優れている。この場合、Al−Mg系合金(JIS5000系)、Al−Mg−Si系合金(JIS6000系)、Al−Mn系合金(JIS3000系)のいずれかを用いることが好ましいが、特にJIS5000系、6000系合金がより好適である。これらの合金を用いることで、適度な塑性変形が得られる。
【0028】
次に、電子写真感光体の表面を平滑、清浄面とする目的で、また中心からの外周面精度を得る目的で、上記円筒状基体の外周面を切削加工する。一例としては、旋盤を用いた切削加工が挙げられる。
旋盤は、切削加工用刃物(バイト)が取り付け可能な刃物台(タレット)を有するとともに、円筒状基体を回転させながら切削加工を行うことができるものである。
【0029】
まず、円筒状基体を不図示の旋盤にセットする。ここで、円筒状基体の外面を加工するためには、円筒状基体をその内側から保持する必要がある。内側から保持するための保持手段の一例としてはコレットチャックが挙げられる。
コレットチャックの如き保持手段にて保持した状態で、旋盤にセットし、外面切削加工工程を実施する。具体的には、円筒状基体を例えば2000rpmで回転させつつ、所定のバイト送り速度、バイト切り込み量にてバイトを円筒状基体の母線方向に移動させて、外面を切削する。
【0030】
また、図2〜図4に示したような端面の凸部の加工も行う。円筒状基体の場合には、内側をチャックし、端部専用のバイトを用いて端部加工を行えばよい。バイトを移動させる際、円筒状基体の母線方向の移動量で凸部の高さを、径方向の移動速度で凸部の幅を調整することが可能である。
【0031】
(下部注入阻止層)
円筒状基体501と光導電層503との間にシリンダー側からの電荷の注入を阻止する働きを有する下部注入阻止層502を設けることが効果的である。下部注入阻止層502には伝導性を制御する原子を含有させる。
伝導性を制御するために下部注入阻止層502に含有させる原子としては、帯電極性に応じて第13族原子又は第15族原子を用いることができる。
【0032】
更に、下部注入阻止層502には、炭素原子、窒素原子および酸素原子のうち少なくとも1種の原子を含有させることにより、下部注入阻止層502と円筒状基体501との間の密着性の向上を図ることが可能となる。
下部注入阻止層502の膜厚は、所望の電子写真特性が得られること及び経済的効果等の点から、好ましくは0.1μm以上10.0μm以下、より好ましくは0.3μm以上5.0μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上3.0μm以下とされる。膜厚を0.1μm以上とすることにより、円筒状基体501からの電荷の注入阻止能を十分に有することができ、好ましい帯電能を得ることができる。一方、10.0μm以下とすることにより、作製時間の延長による製造コストの増加を防ぐことができる。
【0033】
(光導電層)
光導電層502はa-Si:Hからなり、適宜伝導性をコントロールする為の不純物原子として第13族原子、第15族原子を添加しても良い。また、抵抗値の如き特性を調整する為に、酸素、炭素、窒素の如き原子を適宜添加しても良い。
水素原子(H)の含有量の合計は、ケイ素原子と水素原子の和に対して10原子%以上、特に15原子%以上であることが好ましく、また、30原子%以下、特に25原子%以下であることが好ましい。また、水素原子と同様の効果を得る目的で、フッ素の如きハロゲン原子を水素原子に加えて用いることも出来る。
【0034】
光導電層502の膜厚は、所望の電子写真特性が得られること、経済的効果等の点から適宜所望にしたがって決定される。よって、15μm以上、特に20μm以上とすることが好ましく、また、60μm以下、特に50μm以下、さらには40μm以下とすることが好ましい。15μm以上とすることで所望の帯電能が得られやすい。また、製造コストの点から60μm以下とすることがより好ましい。
【0035】
(表面層)
表面層504は、連続繰り返し使用耐性、耐湿性、使用環境耐性、電気特性に関して良好な特性を得るために設けられている。
表面層504の材質は、例えばシリコン原子と炭素原子を母体する非単結晶材料が好適に使用できる。また、水素原子及び/又はハロゲン原子を膜中に適宜含んでいてもよい。また、窒素原子、酸素原子を適宜含んでもよく、a-SiCON系の材料としても構わない。
【0036】
また、表面層504中に水素原子が含有されることが好ましいが、水素原子はシリコン原子の未結合手を補償し、層品質の向上、特に光導電性特性および電荷保持特性を向上させる。
ここではa-SiC系の材料を一例として挙げたが、これに限定されるものではなく、所望の特性が得られれば他の材料を用いても構わない。
表面層の層厚としては、通常0.01μm以上3μm以下、好適には0.05μm以上2μm以下、最適には0.1μm以上1μm以下とされるのが望ましいものである。層厚を、0.01μm以上とすることにより使用中に磨耗により表面層が失われることを避けることができ、3μm以下とすることにより残留電位の増加の如き電子写真特性の低下を防止することができる。
【0037】
<本発明の電子写真感光体を製造するための製造装置及び製造方法>
図6は、高周波電源を用いたRFプラズマCVD法による電子写真感光体の成膜装置の一例を模式的に示した図である。
この装置は大別すると、成膜装置6100、原料ガスの供給装置6200、反応容器6110内を減圧する為の排気装置(図示せず)から構成されている。反応容器6110内にはアースに接続されたホルダー6112b、円筒状基体6111、キャップ6112aがこの順で積み上げられて設置される。この時、一例としてホルダー6112bとキャップ6112aには円筒状基体6111と接する端面に凸部が設けられている。キャップ6112aの上部から圧力を加えることによりホルダー6112bとキャップ6112aの端面の凸部が円筒状基体6111の端面に侵入し、円筒状基体6111の端面が塑性変形した状態となる。このようにすることで、キャップ6112a、円筒状基体6111はホルダー6112bを介してアースに着実に接続され、高周波インピーダンス的にも一体化した状態となっている。このホルダー6112bの内側には加熱用ヒーター6113が設置され、反応容器6110内にはガス導入管6114が設置されている。更に高周波マッチングボックス6115を介して高周波電源6120が接続されている。
ガス供給装置6200は、原料ガスボンベ6221〜6226とヘッダバルブ6231〜6236、流入バルブ6241〜6246、流出バルブ6251〜6256及びマスフローコントローラ6211〜6216から構成される。各構成ガスのボンベは補助バルブ6260とガス供給管6116を介して反応容器6110内のガス導入管6114に接続されている。
【0038】
以下、図6の装置を用いた電子写真感光体の形成方法の手順の一例について説明する。
反応容器6110内に圧力を加えて密着させたキャップ6112a、円筒状基体6111、ホルダー6112bを設置し、不図示の排気装置(例えば真空ポンプ)により反応容器6110内を排気する。
次に、ガス供給装置6200より堆積膜形成に用いるガスを反応容器6110に供給する。すなわち、補助バルブ6260を開けて、必要に応じヘッダバルブ6231〜6236、流入バルブ6241〜6246、流出バルブ6251〜6256を開き、マスフローコントローラ6211〜6216の流量設定を行う。各マスフローコントローラ6211〜6216の流量が安定したところで、真空計6119の表示を見ながらメインバルブ6118を操作し、反応容器6110内の圧力が所望の圧力になるように調整する。反応容器6110内の圧力を調整するためには例えばメカニカルブースターポンプの回転数を操作することやメインバルブ6118の開度を操作することが挙げられる。
【0039】
内圧が安定したところで、高周波電源6120を所望の電力に設定する。例えば、周波数1MHz〜50MHz、より具体的には例えば13.56MHzの高周波電力を高周波マッチングボックス6115を通じて反応容器6110の壁面であるカソード電極に供給し高周波グロー放電を生起させる。この放電エネルギーによって反応容器6110内に導入させた各原料ガスが分解され、円筒状基体6111上に所望のアモルファスシリコンを主成分とする光導電層が積層される。
【0040】
所望の膜厚の形成がおこなわれた後、高周波電力の供給を止め、各流出バルブ6251〜6256を閉じて反応容器6110への各原料ガスの流入を止め、光導電層の積層を終える。
続いて表面層504を積層する場合や、光導電層503と円筒状基体501(図6の6111)の間に下部注入阻止層502を積層する場合も基本的には上記と同様の操作を行えばよい。
このような方法で円筒状基体6111上に各層を成膜した後、反応容器6110内にN2ガスの如き不活性ガスを流入させ、反応容器6110内を大気圧まで戻し、電子写真感光体を反応容器6110から取り出す。
【実施例】
【0041】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
<実施例1>
アルミニウム(JIS合金名5052-O)製の円筒状基体を旋盤にセットし、外径が83.9mmになるように切削加工を行った。端部の肉厚、即ち端面の直径方向の厚さは2.08mmとした。
次に、端面にバイトを当て、長さを381mmになるように加工した。このとき、端面を平坦に加工したものと、端面に凸部やくぼみを形成したものを作製した。
【0042】
次にキャップとホルダーもアルミニウム(JIS合金名5052-O)製とし、旋盤にセットして切削加工を行った。キャップの端面の肉厚は円筒状基体の端面の肉厚と同じ2.08mmとし、ホルダーの端面(円筒状基体の端面と接する部分)の幅は2.09mmとした。キャップとホルダーの放電空間に面する部分の外径は円筒状基体と同一とした。円筒状基体と同様に、端面を平坦に加工したものと、端面に凸部を形成したものを作製した。
【0043】
このように円筒状基体、キャップ及びホルダーの端面の加工を表2に示したような組み合わせとなるよう、9セット作製した。
端面の凸部は断面方向の幅403が0.20mm、高さ401を0.10mmで統一した。
(g)、(p)に関しては、キャップとホルダーの凸部の中心位置は外面(放電空間側の面)から0.75mm、円筒状基体の凸部の中心位置は外面から1.33mmとして、各々の凸部が互い違いに配置されるようにした。
(h)、(q)に関しては、キャップとホルダーの凸部の中心位置は外面から1.33mm、円筒状基体の凸部の中心位置は外面から0.75mmとして、各々の凸部が互い違いに配置されるようにした。
【0044】
(i)、(r)に関しては円筒状基体側にくぼみを、くぼみの中心が外面から0.75mmの位置となるように、幅0.2mm、深さ0.2mmで形成した。キャップとホルダー側に凸部を、凸部の中心が外面から1.33mmの位置となるように配置した。
(a)〜(f)、(j)〜(o)のタイプに関しては凸部の配置は端面の厚さ方向(端面の幅404)の中央とした。また、どの凸部も、円周方向には切れ目なく連続的に1周分形成した。
このように表2に示す組み合わせで端部を形成して積み上げ、キャップの上から500Nの加重を加えて凸部を他方の部材に侵入させ、確実に塑性変形が生じ、且つ端部が密着するようにした。
【0045】
次に、この密着させたホルダー、円筒状基体、キャップを、図6に示したような成膜装置に設置し、ホルダーをアースにしっかりと接続した。その後、真空排気してArガスを導入しながらホルダー内のヒーターにて所定の温度まで加熱し、表1に示した膜堆積条件で感光層を形成し、電子写真感光体を完成させた。
得られた電子写真感光体について、以下のような評価を行った。
【0046】
(端部の電位軸ムラの測定)
それぞれの電子写真感光体を、電子写真装置(キヤノン製iRC6800を実験用に改造したもの)に設置し、ロータリー現像器の位置に電位計(Trek社製電位計344)のプローブを感光体軸方向に可動な状態で設置して軸方向の電位分布を測定した。この時、帯電能が軸方向に傾いている場合には帯電器の帯電ワイヤーと電子写真感光体との間隔の調整を行うことで、軸方向の帯電能の傾きを補正した。このような補正をしても残る端部の軸方向電位ムラ成分について評価した。具体的には、まず中央から-130mm〜+130mmの領域において約450Vとなるように帯電器のワイヤー高さの補正や、帯電器に流れる帯電電流の調整や、帯電器のグリッドに印加する電圧を調整する。次に、中央から±150mmより外側の領域を端部とみなし、中央から+150mm〜+170mmの端部領域及び-150mm〜-170mmの端部領域での平均電位を求める。そして中央から-130mm〜+130mmの領域での平均電位である約450Vからの差が大きい方の端部領域の平均電位をVbとした時、|Vb-450|/450(単位:%)を端部の電位軸ムラと定義する。
【0047】
この端部の電位軸ムラについて、比較例1(A)の感光体を基準として以下のように区分した。
A…端部の電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して50%より小さい
B…端部の電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して50%以上、75%より小さい
C…端部の電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して75%以上、105%より小さい
D…端部の電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して105%以上
この評価においては、ランクB以上で本発明の効果が得られていると判断した。
【0048】
(端部の電位周ムラの測定)
端部の電位軸ムラの測定と同様の手順により端部の電位周ムラの測定をした。中央から±160mmの位置での周方向の電位を9度毎にドラム10周分記録し、各角度での平均電位を求めた。この周方向電位データの最大値をVmax、最小値をVmin、1周の平均値をVaveとした時、(Vmax-Vmin)/Vave(単位:%)を計算し、両端の結果のうち大きい方を端部の電位周ムラと定義する。
【0049】
この端部の電位周ムラについて、比較例1(A)の感光体を基準として以下のように区分した。
A…端部の電位周ムラが比較例1(A)の感光体に対して50%より小さい
B…端部の電位周ムラが比較例1(A)の感光体に対して50%以上、75%より小さい
C…端部の電位周ムラが比較例1(A)の感光体に対して75%以上、105%より小さい
D…端部の電位周ムラが比較例1(A)の感光体に対して105%以上
この評価においては、ランクB以上で本発明の効果が得られていると判断した。
得られた結果を比較例1の結果と合わせて表2に示した。
【0050】
<比較例1>
キャップ、円筒状基体、ホルダーの全ての端面を平坦に加工し、積み上げただけの構成としたもの(比較例1(A))、更にキャップの上から500Nの加重を加えたもの(比較例1(B))、の2通りを準備した。他の条件は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。得られた電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
得られた結果を実施例1の結果と合わせて表2に示した。
【0051】
実施例1では、全ての組み合わせにおいて端部の電位ムラは軸方向、周方向共に大きく改善していた。端部での放電が一様で安定していたことが予想される結果となった。
一方、比較例1では端部の電位ムラが存在していた。これは、高周波に対する円筒状基体と補助基体の高周波的導通が不十分であり、円筒状基体の端部に高周波の反射面が形成されたと予想される。そのために円筒状基体の端部での放電が不均一になり端部の軸方向も周方向も電位ムラが発生した可能性がある。
以上の結果から、円筒状基体又は補助基体(キャップ、ホルダー)の少なくとも一方の端面に凸部があり、これらに圧力を加えて一方の凸部を他方に侵入させ塑性変形させることにより、端部の電位軸ムラ及び電位周ムラが軽減されることが確かめられた。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
<実施例2>
アルミニウム(JIS合金名5052-O)製の円筒状基体を旋盤にセットし、実施例1と同様の方法で切削加工を行った。端面は平坦加工とした。
次にキャップとホルダーもアルミニウム(JIS合金名5052-O)製とし、実施例1と同様に旋盤にセットして切削加工を行った。端面には凸部を形成した。
端面の凸部は断面形状が三角形、断面方向の幅403が0.10mm、高さ401を0.05mmとした。
このとき、凸部の周方向の分布としては、図3(a)のように4か所に凸部があるもの、図3(b)のように8か所に凸部があるもの、図3(c)のように1周に亘り凸部があるものの3種類を作製して比較した。図3(a)、(b)に関しては、各凸部は長さ303が14mmとなるように形成されており、残りの部分で平坦になるように加工した。具体的には、旋盤で1周に亘り凸部を形成したのち、平坦にしたい部分を微細加工可能なグラインダーで除去した。
【0055】
このように端部を形成したものを組み合わせて積み上げ、キャップの上から250Nの加重を加えてキャップ、ホルダー上に形成した凸部を円筒状基体の端面に侵入させ、確実に塑性変形が生じ、且つ端部が密着するようにした。
次に、この密着させたホルダー、円筒状基体、キャップを、図6に示したような成膜装置に設置し、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を完成させた。
得られた電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。表3に結果を示した。
表3に示したとおり、全ての場合において比較例1に比べて効果はあったが、凸部を1周分形成したものが最も周方向のムラが改善されており、より好ましいことが分かった。
【0056】
【表3】

【0057】
<実施例3>
キャップ、ホルダーをJIS 5052-O合金製のものに加え、JIS7N01-T4合金製、JIS7075-T6合金製、JIS7001-T6合金製のものを作製した。これらを旋盤にセットし、実施例1と同様に端面に凸部を形成した。凸部は底部の幅(図4の403に相当)が0.30mm、高さ(図4の401に相当)を0.15mmとした。凸部の断面形状は半径0.15mmの半円とした。凸部の配置は端面の厚さ方向の中央とした。周方向には切れ目なく1周分形成した。
【0058】
このように凸部を端部に形成したものを組み合わせて積み上げ、耐久性の評価として以下のような加速耐久試験を行った。
JIS合金5052-O製の円筒状基体を用意し、端面を実施例1と同様に平坦に処理したものを作製し、上述した計3種類のキャップとホルダーに1500Nの加重で押し当てた。一度押し当てた円筒状基体は廃棄し、常に新しい円筒状基体の平坦面に凸部が押し込まれるようにし、1組のキャップ、ホルダーに対して50回繰り返してこの操作を行い、計4種類の材質組み合わせによる比較を行った。
【0059】
この加速耐久試験を行った後に再度そのキャップとホルダーを用いて成膜を行った。円筒状基体はJIS5052合金を用い、実施例1と同様に加工した。このとき、円筒状基体の端面は平坦に加工した。これらを順に積み上げて端面に1500Nの加重をかけて密着させ、図6の装置に設置し、表1に示した条件で実施例1と同様に電子写真感光体を作製した。
また、JIS合金6063-O製の円筒状基体を用い、上述したものと同様の4種類の合金で作製したキャップ、ホルダーを用い、同様の加速耐久試験を行った。加速耐久試験に続いて、JIS6063-O合金の円筒状基体を用いて同様に電子写真感光体を作製した。
【0060】
得られた感光体に対して実施例1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
表4に示したように、全ての合金の組み合わせにおいて、比較例1に比べて良好な評価結果であった。特に、キャップ、ホルダーをJIS7000系(7N01、7075、7001)で作製したものは、JIS5052で作製したものに比べ50回の加速耐久試験の後の特性が良好であることが分かった。
【0061】
これはキャップ及びホルダーのブリネル硬さ(JIS Z 2243、HBS 10/500)が、円筒状基体の硬さより硬かったためと考えられる。「アルミニウムハンドブック」(軽金属協会、1994)によれば、それぞれのブリネル硬さは、JIS5052-Oが47、JIS6063-Oが25であるのに対し、7N01-T4では95、7075-T6では150、7001-T6では160である。このように硬度に差があるために凸部が劣化しにくく、50回の押しつけによる加速耐久試験を経ても特性改善の効果が維持できたと考えられる。
以上の結果から、円筒状基体のブリネル硬さがキャップ、ホルダーのブリネル硬さより小さいことがより好ましいことが分かった。また円筒状基体がJIS5000系ないしは6000系の材料を用いており、キャップ、ホルダーがJIS7000系の材料を用いる方がより好ましいことが分かった。
【0062】
【表4】

【符号の説明】
【0063】
101 円筒状基体
102 ホルダー
103 キャップ
104 リング状部材
105 位置決め部
106 端面
107 凸部
108 金属板
109 インロー部
110 変形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部及び/又は下部に補助基体を設けた円筒状基体を、減圧にし得る反応容器の内部に設置し、気相成長法により前記円筒状基体の上に堆積膜を形成する電子写真感光体の製造方法において、
前記補助基体の端面又は前記円筒状基体の端面の少なくとも一方が凸部を有し、前記円筒状基体と前記補助基体を前記反応容器の内部に設置する際に、前記補助基体の端面と前記円筒状基体の端面とが接近する方向に圧力を加えて、前記凸部を対向する端面に押しつけることにより、前記凸部又は前記凸部に対向する端面の平坦部の少なくとも一方が塑性変形することを特徴とする、電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記凸部が、前記補助基体の端面又は前記円筒状基体の端面の円周方向に連続的に形成されている請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記円筒状基体のブリネル硬さ(JIS Z 2243:2008)が前記補助基体のブリネル硬さよりも小さい請求項1または2に記載の電子写真感光体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−237775(P2012−237775A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104778(P2011−104778)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】