説明

電子機器の固定構造

【課題】1カ所の締め付けでマストに電子機器を固定することができる。
【解決手段】マストMに固定する場合には、係止棒部12Aとネジ棒部12Bとの間にマストMを係合させ、押さえ金具13を回転して係止棒部12Aの係止凹部12Aaに切り欠き13aを係合させた状態とする。この状態でネジ棒部12Bの雄ネジ12Baに蝶ナット14を締め込むと、蝶ナット14の回転方向と、切り欠き13aが係止凹部12Aaに係合する方向とが一致しているので、それらの係合が解除されることなく、蝶ナット14の締め込みができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分配器、ブースター、コンバーター、混合器などの電子機器の固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の固定構造として、ケース本体の背面側に保持部が突出して形成され、その保持部にマスト固定金具が保持され、そのマスト固定金具を介してマストに取り付けられるものにおいて、前記マスト固定金具は、ボルト部材、押さえ金具およびナット部材を備え、前記ボルト部材は、左右のボルト部と、それらの基端を相互に連結する連結部とを有するコ字形状とされると共に、前記連結部が保持部に回動可能に保持され、前記押さえ金具は、両端部に左右のボルト部を挿通する被挿通部が形成され、この被挿通部を貫通するボルト部の雄ネジにナット部材が螺合される構造は知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この構造においては、ケース本体を保持するボルト部材の左右のボルト部の間にマストを挟んで、押さえ金具で押さえ、左右のボルト部(雄ネジ)に螺合したナット部材を締め付けて固定するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−12800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、左右のボルト部(雄ネジ)に螺合したナット部材を締め付けて固定するようにしているので、ナット部材の締め付けによる固定作業を2回繰り返す必要があった。また、2つのナット部材のうち一方のナット部材のみを余分に締め付けたりして、2つのナット部材の締め付け力が異なると、十分に固定されず、ナット部材が緩むおそれもあった。
【0006】
本発明は、前述したような構造において、1つのナット部材の締め付けだけでマストに電子機器を固定できる電子機器の固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、電子機器の機器ケーシングに保持部が形成され、その保持部にマスト固定具が保持され、そのマスト固定具を介してマストに固定され、前記マスト固定具は、ボルト部材、押さえ部材およびナット部材を備える電子機器の固定構造であって、前記ボルト部材は、前記押さえ部材を係止可能である係止凹部が形成されている係止棒部と、この係止棒部と平行に延び前記ナット部材が螺合されるネジ棒部と、それらの基端を相互に連結する連結棒部とを有するコ字形状とされると共に、前記連結棒部を回転軸として前記ボルト部材が前記保持部に回転可能に保持される一方、前記押さえ部材は、各端部に前記係止棒部が係脱可能に係合する切り欠きと前記ネジ棒部が挿通される挿通部がそれぞれ形成され、前記係止凹部は、前記電子機器が固定される前記マストの直径に対応する位置に少なくとも設けられ、前記ネジ棒部は、前記係止棒部が位置する側に前記ナット部材を回転することで締め付けられるようにネジが設けられ、締め付けのための前記ナット部材の回転方向と前記押さえ部材の切り欠きが前記係止凹部に係合する方向とが一致していることを特徴とする。ここで、押さえ金具には、後述する請求項4に記載のもののほか、例えば特開2007−12800号公報に記載されるように、金具本体が、くの字形状に屈曲されているものも含まれる。
【0008】
このようにすれば、電子機器の機器ケーシングの保持部と押さえ部材との間にマストを挟んだ状態で、押さえ部材の一端部は係止棒部の係止凹部によってマストの直径に対応する位置に係止されているので、ナット部材をネジ棒部に対しねじ込むことで押さえ部材の他端部がマストを挟み込む方向に移動せしめられ、固定される。このとき、押さえ部材の一端部は係止棒部の係止凹部によって係止されているので、移動することなく、機器ケーシングの保持部と押さえ部材との間にマストを挟んだ状態で固定される。
【0009】
また、1つのナット部材を締め付けて固定するので、2つのナット部材を締め付けて固定する従来の場合に比べて、作業時間を短縮することができる。それに加えて、従来のように2つのナット部材を用いる場合、一方のナット部材のみを余分に締め付けたりして、2つのナット部材の締め付け力が異なると、十分に固定されず、ナット部材が緩むという不具合があったが、このような不具合も回避される。
【0010】
それに加えて、前記ネジ棒部は、前記係止棒部が位置する側に前記ナット部材を回転することで締め付けられるようにネジが設けられ、締め付けのための前記ナット部材の回転方向と前記押さえ部材の切り欠きが係止凹部に係合する方向とが一致しているので、ナット部材を回転して締め込む際に押さえ部材の切り欠きと係止凹部との係合が解除されるおそれがなくなり、この点からも作業時間の短縮が図れ、作業性の向上を図る上で有利となる。
【0011】
請求項2に記載のように、前記係止凹部は、断面円形状の棒状部分の外周面より外方に突出する2つの突出部の間に設けられている構成とすることができる。
【0012】
このようにすれば、前記係止凹部の構造が簡単であり、前記押さえ部材が前記係止棒部の先端側に移動するのを簡単に規制することができる。特に、ナット部材による締め付け時などにおいて、係止棒部の先端側あるいは基端側に押さえ部材が移動するおそれがなくなり、作業性よく固定することができる。
【0013】
この場合、請求項3に記載のように、前記突出部は、前記係止棒部の一部をつぶして外方に突出させたものであり、前記電子機器が固定される複数種類のマストの直径に対応する位置を含むように一定間隔で設けられているものとすることができる。
【0014】
このようにすれば、係止凹部を、突出部を利用して簡単に形成することができる。また、直径が異なる複数種類のマストに対して電子機器を固定することができる。突出部を一定間隔に設けるので、加工も容易である。
【0015】
また、請求項4に記載のように、前記押さえ部材は、断面コ字形状で、矩形板状の本体部と、この本体部の上下において平行に延びる矩形板状の側板部とを有する構成とすることが望ましい。
【0016】
このようにすれば、押さえ部材をマストに当てる際、矩形板状の本体部を機器ケーシングとほぼ平行に配置しやすくなり、押さえ部材を、機器ケーシングに対して傾けることなく取り付けることができる。
【0017】
さらに、請求項5の発明は、電子機器の機器ケーシングに保持部が形成され、その保持部にマスト固定具が保持され、そのマスト固定具を介してマストに固定され、前記マスト固定具は、ボルト部材、押さえ部材およびナット部材を備える電子機器の固定構造であって、前記ボルト部材は、前記押さえ部材を係止可能である係止凹部が形成されている係止棒部と、この係止棒部と平行に延び前記ナット部材が螺合されるネジ棒部と、それらの基端を相互に連結する連結棒部とを有するコ字形状とされると共に、前記連結棒部を回転軸として前記ボルト部材が前記保持部に回転可能に保持される一方、前記押さえ部材は、各端部に前記係止棒部が係脱可能に係合する切り欠きと前記ネジ棒部が挿通される挿通部がそれぞれ形成され、前記係止凹部は、前記電子機器が固定される前記マストの直径に対応する位置に少なくとも設けられ、前記押さえ部材は、断面コ字形状で、矩形板状の本体部と、この本体部の上下において平行に延びる矩形板状の側板部とを有する構成とされていることを特徴とする。
【0018】
この場合も、押さえ部材をマストに当てる際、矩形板状の本体部を機器ケーシングとほぼ平行に配置しやすくなり、押さえ部材を、機器ケーシングに対して傾けることなく取り付けることができる。
【0019】
これらの場合に、請求項6に記載のように、前記切り欠きは、前記押さえ部材の部材長手方向に長く形成され、前記係止棒部が挿通される挿入開口部、取付状態で前記係止棒部が位置する保持部と、前記挿入開口部および前記保持部を連通する連通部とを有し、前記挿通部は、前記押さえ部材の部材長手方向に長い長穴で、前記切り欠きの挿入開口部、保持部および連通部に対応する位置関係で第1の穴部、第2の穴部および連通穴部とを有する構成とすることができる。
【0020】
このようにすれば、係止棒部が挿通される切り欠きの挿入開口部と、取付状態で係止棒部が保持される保持部とが、押さえ部材の部材長手方向においてずれて位置するので、係止棒部を保持部に位置させて、ナット部材を締め付けるようにすることで、保持部によって係止棒部の押さえ部材の部材長手方向に直交する方向の動きを規制した状態(切り欠きから係止棒部が外れにくくした状態)で、ナット部材の締め付け作業を行うことができる。
【0021】
この場合、請求項7に記載のように、前記切り欠きの保持部は、前記挿入開口部が開口する側とは反対側に延びる延長穴部分を有し、前記挿通部の第2の穴部は、前記延長穴部分に対応する穴部分を有することが望ましい。
【0022】
このようにすれば、保持部によって係止棒部の押さえ部材の部材長手方向に直交する方向だけでなく、押さえ部材の部材長手方向の動きも規制した状態で、ナット部材の締め付け作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、上記のように、1つのナット部材を用いて固定するので、2つのナット部材を用いて固定する従来の場合に比べて、作業時間を短縮することができ、ネジの緩みを防止する上でも有利である。
【0024】
特に、ボルト部材のネジ棒部は、係止棒部が位置する側にナット部材を回転することで締め付けられるようにネジを設け、締め付けのための前記ナット部材の回転方向と押さえ部材の切り欠きが係止凹部に係合する方向とが一致しているので、ナット部材を回転して締め込む際に押さえ部材の切り欠きと係止凹部との係合が解除されるおそれがなくなり、この点からも作業時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る電子機器の固定構造に用いられる電子機器を正面側から見た状態を示す斜視図である。
【図2】同電子機器を背面側から見た状態を示す斜視図である。
【図3】前記電子機器を、マスト取付金具を取り除いた状態で示す底面図である。
【図4】前記電子機器をマストに固定した状態を、正面側から見た斜視図である。
【図5】前記電子機器をマストに固定した状態を、背面側から見た斜視図である。
【図6】前記電子機器をマストに固定した状態を、右側面上方から見た斜視図である。
【図7】前記電子機器をマストに固定した状態の平面図である。
【図8】同底面図である。
【図9】(a)は電子機器からマスト取付金具を取り外した状態を示す分解斜視図、(b)はボルト部材の正面図である。
【図10】前記電子機器の左側面図である。
【図11】図10のB−B方向の断面図である。
【図12】図10のC−C方向の断面図である。
【図13】図8のA−A方向における一部断面図である。
【図14】(a)〜(e)は取付手順の説明図である。
【図15】(a)〜(c)はそれぞれ電子機器の他の実施例を示す図である。
【図16】(a)〜(g)はそれぞれ押さえ金具の別の実施の形態を示す図である。
【図17】(a)〜(c)は図16に示す押さえ金具を用いた場合の取付手順の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。なお、説明においては、本体部4が設けられている側を正面側として、取付部6A,6Bが設けられている側を底面側として説明する。
【0027】
図1〜図4に示すように、電子機器1(例えば2分配器)の機器本体2における機器ケーシング3は、直方体形状の本体部4と、その本体部4の背面側に突出して一体的に設けられ外周部が本体部4の外周部より内方に位置する保持部5とを備えている。この保持部5にマストMに電子機器1を取り付けるためのマスト固定金具11が取り外し可能に保持されている。本体部4の下部には、屋外のマストだけでなく、壁面等の取付面にも電子機器1を取り付けることができるように、取付部6A,6Bが設けられ、その取付部6A,6Bには電子機器を取り付けるための取付ネジ15が設けられている。
【0028】
図1および図2に示す状態では、マスト固定金具11は収納状態にあり、マストMに電子機器1を取り付ける際にはマスト固定金具11の収納が解除され、図4〜図8に示すように、マスト固定金具11を介してマストMに機器ケーシング3を固定することで電子機器1が固定される。なお、この機器ケーシング3の本体部4内には、高周波信号を処理する回路ユニット(図示せず)が収容され、本体部4の下面には信号を入出力するF型コネクタ8(接栓)が下方に突出するように複数設けられている。
【0029】
マスト固定金具11は、図9(a)に示すように、ボルト部材12、押さえ金具13(押さえ部材)および1つの蝶ナット14(ナット部材)によって構成される。
【0030】
ボルト部材12は、図9(b)に示すように、線材がコ字形状に折り曲げて形成されたもので、係止棒部12Aと、この係止棒部12Aと平行に延びるネジ棒部12Bと、係止棒部12Aとネジ棒部12Bとの基端を相互に連結する連結棒部12Cとを備え、連結棒部12Cを回転軸として保持部5に対して回転可能に保持されている。係止棒部12Aには、押さえ金具13の一端部を係止可能である複数の係止凹部12Aa,12Aa、・・・が一定間隔でもって規則的に設けられている。この各係止凹部12Aaは、押さえ金具13の切り欠き13aが係合した状態で、押さえ金具13が係止棒部12Aの先端側あるいは基端側に移動するのを規制する機能を有する。なお、1つの係止凹部12Aaは、断面円形状の棒状部分の外周面より外方に突出する2つの突出部12Abが設けられることで、それらの間に設けられていることになる。この突出部12Abは、係止棒部12Aの一部をつぶして外方に突出させて形成したものであり、機器ケーシング3(電子機器)が固定される複数種類のマストの直径に対応する位置を含むように一定間隔で設けられている。つまり、保持部5はマストMが嵌り込む凹部5aが形成されているので、図7に示すように、マストMの直径が例えばLの場合にはその直径Lに対応する係止凹部12Aaを選択して切り欠き13aを係合させれば、凹部5aと押さえ金具13との間にマストMを挟持して固定することができる。この係止凹部12Aaが、機器ケーシング3(電子機器)が固定されるマストMの直径に対応する位置に少なくとも設けられているからである。
【0031】
押さえ金具13は、矩形板状の金具本体13A(本体部)と、その金具本体13Aの上下両側において同一方向に平行に延びる2つの矩形板状の側板部13B,13Cとにより断面コ字形状に形成されている。この側板部13B,13Cの幅は、金具本体13Aの高さ(幅)よりも小さくなっている。そして、押さえ金具13(金具本体13A)の一方の端部側には、一方の側板部13Cまで延び係止棒部12Aに係脱可能に係合する切り欠き13aが、他方の端部側にはネジ棒部12Bが挿通される挿通穴13b(挿通部)がそれぞれ形成されている。そして、挿通穴13bを貫通して突出するネジ棒部12Bの雄ネジ12Baに蝶ナット14が螺合されている。また、側板部13B,13CにはマストMの外周面に接触する凹部13Ba,13Caが形成されている。なお、金具本体13Aは、中央部に凹み部13cが形成され、必要な剛性が確保されている。
【0032】
よって、押さえ金具13(側板部13B,13C)をマストMに当てる際、矩形板状の金具本体13Aを機器ケーシング3とほぼ平行に配置しやすくなり、蝶ナット14の締め付けが容易となり、また、押さえ金具13を、機器ケーシング3に対して傾けることなく取り付けることができる。つまり、従来のくの字形状の押さえ金具(例えば特開2007−12800号公報参照)の場合には、くの字形状の部分のうち係止棒部12A側の部分がマストに先に当たり、大きく傾く場合(例えばマストの径が小さい場合)があり、そのような場合には蝶ナット14を十分締め込むことができず、最終の取付状態で押さえ金具が斜めになるように取り付けられてしまう可能性が高かったが、前述した押さえ金具13の場合にはそのような事態を回避できる。
【0033】
ネジ棒部12Bは、マストに取り付ける際に係止棒部12Aが位置する側に蝶ナット14を回転することで締め付けられるように雄ネジ12Baが形成されており、締め付けのための蝶ナット14を回転する回転方向R1と押さえ金具13の切り欠き13aが係止凹部12Aaに係合する方向R2とが一致し、同じ方向となっている(図5及び図14(d)参照)。締め付けのための蝶ナット14の回転方向と押さえ金具13の切り欠き13aが係止凹部12Aaに係合する方向とが一致している。具体的には、保持部5に向かって左側にネジ棒部12Bが、右側に係止棒部12Aがそれぞれ配置され、ネジ棒部12Bの雄ネジ12Baは右ネジとなっている。
【0034】
よって、切り欠き13aがいずれかの係止凹部12Aaに係合した状態では、蝶ナット14を回転して締め付ける際に、係止凹部12Aa及びそれの両側の突出部12Abによって押さえ金具13が係止棒部12Aに対し軸線方向に移動したり外れたりするのが防止されるので、作業者が押さえ金具13を手で押さえたりすることなく、固定することができる。保持部5の上端部5eは平坦面(保持面)として形成され、下端部は、本体部4側の凹部5bとそれの外側の受け部5cとして形成されている。この受け部5cには、さらに、ボルト部材12の連結棒部12Cが、収納時に係合する係合凹部5dが形成されている。
【0035】
また、本体部4と取付部6A,6Bとが連結部7A,7Bを介して連結され、その連結部7A,7Bによって取付部6A,6Bと保持部5との間には貫通穴9A,9Bが形成されている。この貫通穴9A,9Bの背面側に位置する連結部7A,7Bの上側には、マストMへの取付状態で、ボルト部材12の係止棒部12Aとネジ棒部12Bとの基端部付近が係合し、両棒部12A,12Bを水平に支持する係合凹部7Aa,7Baが形成されている。
【0036】
これにより、ボルト部材12の係止棒部12Aおよびネジ棒部12Bを下側から貫通穴9A,9Bに挿通させるだけで、ボルト部材12を保持部5に対して取り付けることができ、ボルト部材12の取付けも容易である。そして、ボルト部材12は、図1および図2,図10〜図12に示すように、連結棒部12Cが受け部5cの係合凹部5dに係合し、かつ押さえ金具13が保持部5の上端部5e上に載せられ、蝶ナット14によって固定される収納状態と、図4〜図8および図13に示すように、連結棒部12Cが凹部5b内の支持部5fに接触し係止棒部12Aとネジ棒部12Bとの基端部が連結部7A,7Bの係合凹部7Aa,7Baに係合するマスト取付状態との切り替えを簡単に行うことができるようになっている。なお、このように、ボルト部材12の係止棒部12Aとネジ棒部12Bを水平に支持する際に、係合凹部7Aa,7Baにボルト部材12の係止棒部12Aとネジ棒部12Bとの基端部を係合できるように、凹部5b内の支持部5fに連結棒部12Cが接触した状態で、ボルト部材12を、連結棒部12Cを回転軸としての回転を許容するようになっている。
【0037】
続いて、上記構造を用いてマストMに電子機器1を固定する手順について、図14(a)〜(e)に沿って説明する。
【0038】
取付前は、収納状態にあるので、まず、図14(a)に示すように、蝶ナット14を緩め、押さえ金具13と保持部5の上端部5eとの係合を解除し、ボルト部材12を傾ける。
【0039】
それから、ボルト部材12を、連結棒部12Cを回転軸として凹部5b内で回転させ、ボルト部材12の係止棒部12Aとネジ棒部12Bとの基端部付近を係合凹部7Aa,7Baに係合させ、図14(b)に示すように、両棒部12A,12Bを水平状態に支持させる。このとき、押さえ金具13は、ネジ棒部12Bに垂れ下がった状態で支持されている。
【0040】
ボルト部材12の係止棒部12Aとネジ棒部12Bとの間にマストMが位置するようにマストMにボルト部材12を係合させる。保持部5の凹部5aに、マストMの外周面を接触させる。
【0041】
その後、図14(c)(d)に示すように、押さえ金具13を、ネジ棒部12Bを回転軸として回転させ、切り欠き13aを係止棒部12Aの、固定しようとするマストMの直径に対応する係止凹部12Aaに係止させる(図14(e)参照)。このとき、押さえ金具13はネジ棒部12B上を自由に移動させることができるので、切り欠き13aと係止凹部12Aaとの係合はスムーズに行うことができる。つまり、各係止凹部12Aaの軸線方向の幅Wは、切り欠き13aとの係合が無理なくできる幅とされている(図8参照)。
【0042】
その後、ネジ棒部12Bの雄ネジ12Baに蝶ナット14を締め込み、押さえ金具13と保持部5との間にマストMを挟持して固定することができる。このとき、押さえ金具13が、切り欠き13aと係止凹部12Aa及びそれの両側の突出部12Abとの係合関係で、軸線方向に移動することがないのはもちろん、保持部5に向かって左側にネジ棒部12Bが、右側に係止棒部12Aがそれぞれ配置され、ネジ棒部12Bのネジは右ネジとなっているので、締め付けることにより、蝶ナット14と押さえ金具13との間に摩擦力が作用し、蝶ナット14の回転力が押さえ金具13を、切り欠き13aが係止凹部12Aaに係合する方向に回転させる。よって、蝶ナット14による締め付けの際に、切り欠き13aが係止棒部12Aから外れることはない。
【0043】
このように、1つの蝶ナット14を締め付けるだけで固定することができるので、部品点数の低減が図れるだけでなく、蝶ナット14の締め付け作業が、2つの蝶ナットを締め付ける従来作業の半分の作業で行うことができ、作業者の負担が軽減され、作業時間も短縮される。
【0044】
また、このように1つの蝶ナット14だけで固定するようにしても、係止棒部12Aの係止凹部12Aaに切り欠き13aが係合し、挿通穴13bを貫通するネジ棒部12Bの雄ネジ12Baに蝶ナット14が螺合され締め付けられているので、押さえ金具13がボルト部材12から外れることがない。
【0045】
前記実施の形態では、一方の端部に切り欠き13aを、他方の端部に挿通穴13b(丸穴)をそれぞれ有する押さえ金具13を用いているが、そのような押さえ金具13に代えて、図16(a)〜(g)に示す押さえ金具23を用いることも可能である。この押さえ金具23は、中央部が隆起する矩形板状の金具本体23A(本体部)と、この金具本体23Aの上下において前記隆起する方向と反対方向に平行に延びる側板部23B,23Cとを有する。そして、押さえ金具23においては、金具本体23Aの一方の端部に形成される切り欠き23aが、押さえ金具23(金具本体23A)の金具長手方向に長く他方の端部側に延びるように形成されている。この切り欠き23aは、係止棒部12Aが挿入される挿入開口部23aa、マストMへの固定状態で係止棒部12Aが位置する保持部23abと、挿入開口部23aaおよび保持部23abを連通する連通部23acとを有する。なお、切り欠き23aの挿入開口部23aaが形成されている部分では、側板部23Cが一部切除され、側板部23Bよりも押さえ金具23の金具長手方向の長さが短くなっている。一方、金具本体23Aの他方の端部に形成される挿通穴23bは、押さえ金具23の金具長手方向に長い長穴で、切り欠き23aの挿入開口部23aa、保持部23abおよび連通部23acに対応する位置関係で第1の穴部23ba、第2の穴部23bbおよび連通穴部23bcを有する。
【0046】
そして、切り欠き23aの保持部23abは、挿入開口部23aaが開口する側とは反対側に延びる延長穴部分23adを有し、挿通穴23bの第2の穴部23bbは、延長穴部分23adに対応する穴部分23bdを有する。
【0047】
この場合も、マストMに固定する際には、蝶ナット14を緩め、両棒部12A,12Bを水平状態に支持させ、まず、図17(a)に示すように、ボルト部材12の係止棒部12Aとネジ棒部12Bとの間にマストMが位置するようにマストMにボルト部材12を係合させる。それから、図17(b)に示すように、押さえ金具23を、ネジ棒部12Bを回転中心として回転させ、切り欠き23aの挿入開口部23aaを係止棒部12Aの、固定しようとするマストMの直径に対応する係止凹部12Aaに係合させる。その後、押さえ金具23をY方向(金具長手方向)に移動させる。このとき、図16(a)に示すように係止棒部12A、マストM及びネジ棒部12Bの中心線の位置が、それぞれ、位置Y11,Y21,Y31から位置Y12,Y22,Y32に移動する。それから、図17(c)に示すように、ネジ棒部12Bを第2の穴部23bbに一部が穴部分23bdに位置するように、また、係止棒部12Aを保持部23abに一部が延長穴部分23adに位置するようにそれぞれZ方向に少し移動させ、蝶ナット14を締め付けて固定する。
【0048】
このネジ棒部12Bが第2の穴部23bb(穴部分23bd)に、係止棒部12Aが保持部23ab(延長穴部分23ad)にそれぞれ位置する状態では、係止棒部12Aもネジ棒部12Bも、押さえ金具23の金具長手方向およびそれに直交する方向の動きが規制されるので、切り欠き23aが係止棒部12Aから外れるということがなく、蝶ナット14の締め付け作業を容易に行うことができる。
【0049】
前記実施の形態のほか、本発明を次のように変更して実施することができる。
【0050】
(i)前記実施の形態では、電気機器としての2分配器に適用したものであるが、図15(a)〜(c)に示すように、4分配器にも適用できるのはもちろん、ブースター、コンバーター、混合器にも適用することができる。
【0051】
(ii)前記実施の形態では、直径が異なる複数種類のマストに固定することができるように係止凹部を係止棒部12Aに一定の間隔で複数設けているが、電子部品が固定されるマストが一種類でマストの直径が一定である場合には、係止凹部を複数設ける必要はなく、1つだけ設ければよいのはもちろんである。また、取付けが予定されているマストの直径に対応する複数位置にのみ、係止凹部を設けることもできる。
【0052】
(iii)前記実施の形態では、係止凹部(突出部)を、例えば転造により係止棒部12A
の一部をつぶすことで形成しているが、そのような押しつぶして形成する係止部に制限されることなく、他の加工方法で形成することができる係止部としてもよいのはいうまでもない。また、突出部の形状は、円板形状である必要はなく、切り欠きに係合して押さえ金具を係止できる形状であればよい。よって、係止凹部を全周に形成する必要はなく、一部にのみ形成するだけでも、押さえ金具の軸線方向の移動を規制できる形状であればよい。
【0053】
(iv)前記実施の形態では、押さえ金具13,23の、ネジ棒部12Bが挿通される挿通部を挿通穴13b,23bとしているが、それに限定されるものではなく、切り欠きとして、ボルト部材の一側からボルト部材に対し差し込めるようにすることも可能である。この場合、この係止棒部12Aが挿通される切り欠きは、ネジ棒部12Bが挿通される切り欠きの延びる方向は平行である必要はない。
【0054】
(v)前記実施の形態では、係止棒部12Aやネジ棒部12Bは直線状であるが,必ずしもその必要はなく、マストの外周面に対応させて屈曲形状や湾曲形状とすることも可能である。
【0055】
(vi)前記実施の形態では、押さえ金具は、金具本体が平板状となっているが、本発明はそれに限定されるものではなく、例えば特開2007−12800号公報に記載されるように、くの字形状に屈曲されていてもよいのはいうまでもない。また、ボルト部材を保持する構造も、前記実施の形態のように貫通穴9A,9Bに下側から貫通して保持するものに限らず、特開2007−12800号公報に記載されるように、保持部に形成される幅方向の貫通孔にボルト部材を挿通して保持させる構造とすることも可能である。
【0056】
(vii)前記実施の形態では、マストにマスト取付金具11を用いて取り付ける際に、取付部6A,6Bに取付ネジ15を残しているが、取付ネジ15を取り外してもよいのはもちろんである。また、取付ネジ15を用いて電子機器1を壁面などの取付面に取り付ける場合も、マスト取付金具11を取り外して取り付けてもよいし、マスト取付金具11が保持部5に収納された状態のまま取り外すことなく、取り付けることができるのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0057】
M マスト
1 電子機器
2 機器本体
3 機器ケーシング
4 本体部
5 保持部
11 マスト固定金具
12 ボルト部材
12A 係止棒部
12Aa 係止凹部
12B ネジ棒部
12C 連結棒部
13 押さえ金具
13A 金具本体
13B,13C 側板部
13a 切り欠き
13b 挿通穴(挿通部)
14 蝶ナット(ナット部材)
23 押さえ金具
23a 切り欠き
23aa 挿入開口部
23ab 保持部
23ac 連通部
23b 挿通穴
23ba 第1の穴部
23bb 第2の穴部
23bc 連通穴部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器の機器ケーシングに保持部が形成され、その保持部にマスト固定具が保持され、そのマスト固定具を介してマストに固定され、
前記マスト固定具は、ボルト部材、押さえ部材およびナット部材を備える電子機器の固定構造であって、
前記ボルト部材は、前記押さえ部材を係止可能である係止凹部が形成されている係止棒部と、この係止棒部と平行に延び前記ナット部材が螺合されるネジ棒部と、それらの基端を相互に連結する連結棒部とを有するコ字形状とされると共に、前記連結棒部を回転軸として前記ボルト部材が前記保持部に回転可能に保持される一方、
前記押さえ部材は、各端部に前記係止棒部が係脱可能に係合する切り欠きと前記ネジ棒部が挿通される挿通部がそれぞれ形成され、
前記係止凹部は、前記電子機器が固定される前記マストの直径に対応する位置に少なくとも設けられ、
前記ネジ棒部は、前記係止棒部が位置する側に前記ナット部材を回転することで締め付けられるようにネジが設けられ、
締め付けのための前記ナット部材の回転方向と前記押さえ部材の切り欠きが前記係止凹部に係合する方向とが一致していることを特徴とする電子機器の固定構造。
【請求項2】
前記係止凹部は、断面円形状の棒状部分の外周面より外方に突出する2つの突出部の間に設けられていることを特徴とする請求項1記載の電子機器の固定構造。
【請求項3】
前記突出部は、前記係止棒部の一部をつぶして外方に突出させたものであり、
前記電子機器が固定される複数種類のマストの直径に対応する位置を含むように一定間隔で設けられていることを特徴とする請求項2記載の電子機器の固定構造。
【請求項4】
前記押さえ部材は、断面コ字形状で、矩形板状の本体部と、この本体部の上下において平行に延びる矩形板状の側板部とを有する構成とされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電子機器の固定構造。
【請求項5】
電子機器の機器ケーシングに保持部が形成され、その保持部にマスト固定具が保持され、そのマスト固定具を介してマストに固定され、
前記マスト固定具は、ボルト部材、押さえ部材およびナット部材を備える電子機器の固定構造であって、
前記ボルト部材は、前記押さえ部材を係止可能である係止凹部が形成されている係止棒部と、この係止棒部と平行に延び前記ナット部材が螺合されるネジ棒部と、それらの基端を相互に連結する連結棒部とを有するコ字形状とされると共に、前記連結棒部を回転軸として前記ボルト部材が前記保持部に回転可能に保持される一方、
前記押さえ部材は、各端部に前記係止棒部が係脱可能に係合する切り欠きと前記ネジ棒部が挿通される挿通部がそれぞれ形成され、
前記係止凹部は、前記電子機器が固定される前記マストの直径に対応する位置に少なくとも設けられ、
前記押さえ部材は、断面コ字形状で、矩形板状の本体部と、この本体部の上下において平行に延びる矩形板状の側板部とを有する構成とされていることを特徴とする電子機器の固定構造。
【請求項6】
前記切り欠きは、前記押さえ部材の部材長手方向に長く形成され、前記係止棒部が挿通される挿入開口部、取付状態で前記係止棒部が位置する保持部と、前記挿入開口部および前記保持部を連通する連通部とを有し、
前記挿通部は、前記押さえ部材の部材長手方向に長い長穴で、前記切り欠きの挿入開口部、保持部および連通部に対応する位置関係で第1の穴部、第2の穴部および連通穴部とを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の電子機器の固定構造。
【請求項7】
前記切り欠きの保持部は、前記挿入開口部が開口する側とは反対側に延びる延長穴部分を有し、
前記挿通部の第2の穴部は、前記延長穴部分に対応する穴部分を有することを特徴とする請求項6記載の電子機器の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−155233(P2011−155233A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24560(P2010−24560)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000109668)DXアンテナ株式会社 (394)
【Fターム(参考)】