説明

電極カテーテル

【課題】先端偏向操作に伴ってカテーテルチューブのルーメンに血液が浸入することを確実に防止できる電極カテーテルを提供すること。
【解決手段】先端可撓部分を有するチューブ部材10と、チューブ部材10の先端可撓部分の外周面に各々が離間して固定されたリング状電極32と、チューブ部材10のルーメンに偏心して延在する引張ワイヤ50と、リング状電極32の各々に接続されたリード線42とを備えてなり;チューブ部材10の先端可撓部分の管壁には、リード線42をルーメンに進入させるための側孔15が形成され、リング状電極32の電極幅(w)に対する側孔15の直径(d)の比率(d/w)が0.3〜1.0であり、引張ワイヤ50の偏心方向と、チューブ部材10の中心軸(O)と側孔15の中心を結ぶ直線とのなす角度(α)が100°以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブレーションカテーテルなどの電極カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば動脈血管を通して心臓の内部まで挿入される電極カテーテルなどでは、心臓内に挿入されたカテーテルの遠位端(先端)の向きを、体外に配置されるカテーテルの近位端(後端または手元側)に装着された制御ハンドルを操作して変化(偏向)させる必要性が生じる。
【0003】
このようにカテーテルの遠位端を手元側で操作して偏向させるための機構として、従来では、例えば、柔軟性を持つカテーテルの先端部分の内部に、スプリング力を有する支持板(板バネ)および引張ワイヤなどを装着したものが知られている。その機構では、引張ワイヤを手元側で操作することにより、板バネを曲折させ、その結果、カテーテルの遠位端部を、所定の方向に向きを変えることが可能である。
【0004】
図5は、そのような電極カテーテルの先端部における縦断面図であり、図6は、図5のVI−VI断面図である。
【0005】
この電極カテーテルは、先端に可撓部分を有するシングルルーメンタイプのカテーテルチューブ16と、カテーテルチューブ16の可撓部分を撓ませるための偏向機構(引張ワイヤ50および板バネ55)と、カテーテルチューブ16の先端に固定された先端電極31と、先端電極31に接続されたリード線41と、カテーテルチューブ16の可撓部分に接着固定されたリング状電極37と、リング状電極37の各々に接続されたリード線42とを備えている。
【0006】
偏向機構を構成する板バネ55は、カテーテルチューブ16の中心軸(O)に沿って、カテーテルチューブ16の可撓部分におけるルーメンに延在し、板バネ55の先端は、内部に充填したはんだ60によって先端電極31に固定されている。
また、偏向機構を構成する引張ワイヤ50は、カテーテルチューブ16の中心軸(O)から偏心してカテーテルチューブ16のルーメンに延在している。引張ワイヤ50の先端も、内部に充填したはんだ60によって先端電極31に固定され、引張ワイヤ50の後端は引張可能となっている。引張ワイヤ50の後端を引張操作することにより、カテーテルチューブ16の可撓部分を、引張ワイヤ50の偏心方向(図5および図6において、矢印Aで示す方向)に撓ませることができる。
【0007】
カテーテルチューブ16の可撓部分の管壁には、カテーテルチューブ16の外周面からルーメンに至る側孔18が、リング状電極37の固定位置に対応して配列形成されている。リード線42の各々は、その先端部分においてリング状電極37の内周面に溶接されることによってリング状電極37に接続されているとともに、側孔18の各々からカテーテルチューブ16のルーメンに進入し、カテーテルチューブ16のルーメンに延在している。
【0008】
側孔18の開口(外周面における開口)は、これを覆うようにカテーテルチューブ16の外周面に接着固定されたリング状電極37によって液密に塞がれ、これにより、側孔18の開口から血液が浸入することを防止している。
【0009】
図5および図6に示すように、カテーテルチューブ16のルーメンにおいて、引張ワイヤ50と、リング状電極37に接続されたリード線42の各々とは、板バネ55を挟んで対向する位置に延在している。これにより、引張操作(先端偏向操作)時において、軸方向に移動する引張ワイヤ50とリード線42との干渉(摺動)を回避することができる。 ここに、リード線42をこのように配置するためには、リード線42をルーメンに進入させるための側孔18を、引張ワイヤ50の偏心方向とは反対側の管壁に形成すればよい。
【0010】
上記のものに限らず、先端偏向操作可能な従来公知の電極カテーテルでは、リング状電極のリード線をカテーテルチューブのルーメンに進入させるための側孔は、引張ワイヤの偏心方向(電極カテーテルの撓み方向)とは反対側の管壁に形成されており、カテーテルチューブのルーメンにおいて、引張ワイヤと、リング状電極のリード線とは、互いに離間または隔離した状態で延在している(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−284537(図1および図2)
【特許文献2】特開2007−181690(図4b)
【特許文献3】特開2006−192293(図1および図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図5および図6に示したような従来公知の電極カテーテルにおいて、引張ワイヤ50の後端を引張操作して、先端の可撓部分を、矢印Aで示す撓み方向に撓ませたときに、引張ワイヤ50の偏心方向と反対側の管壁に配列形成された側孔18の各々は、撓み形状であるカーブの外側に位置される。
ここに、カーブの外側に位置する側孔18(当該側孔18の周囲における管壁領域)には、比較的大きな管軸方向の引張力が作用するため、この引張力によって側孔18の各々は管軸方向に拡がろうとする。
【0013】
このとき、側孔18の直径に対してリング状電極37の電極幅が十分に大きい(リング状電極37によって側孔18の開口が十分な余裕をもって覆われている)場合には問題とならないが、そうでない場合には、管軸方向に拡がった側孔の開口の一部が、開口を覆っていたリング状電極からはみ出して外周面に露出してしまい、この結果、露出した開口の一部からカテーテルチューブのルーメンに血液が浸入するおそれがある。
また、側孔18の周囲の管壁領域に作用する引張力によって、リング状電極37を固定していた接着剤(開口の周囲に形成された接着層)が剥離して、側孔18の開口を液密に塞ぐことができなくなり、この結果、カテーテルチューブ10のルーメンに血液が浸入することも考えられる。
そして、カテーテルチューブ10のルーメンに血液が浸入してしまうと、例えば、心電図のベースラインが不安定になる現象(ドリフト現象)が発生する。
【0014】
カテーテルチューブ10に配列形成された側孔18からルーメン(シングルルーメン)に進入したリード線42の各々は、側孔18が配列形成されている側(引張ワイヤの偏心方向と反対側)の管壁の内周面に沿ってルーメンに延在している。
このため、引張ワイヤ50の後端を引張操作して、先端の可撓部分を矢印Aで示す方向(引張ワイヤの偏心方向)に撓ませたときに、リード線42の各々は、撓み形状であるカーブの外側における管軸部分の内周面に沿ってルーメンに延在することになるので、リード線42の各々には比較的大きな引張力が作用し、このリード線42によって、リング状電極37の各々が後端側に引っ張られる。この結果、側孔18の開口の露出(リング状電極37からのはみ出し)、および開口の周囲における接着剤の剪断剥離、延いては、カテーテルチューブ10へのルーメンへの血液の浸入が促進される。
さらに、リード線42の各々に作用する引張力によって、リード線42が断線することも考えられる。
【0015】
本発明は、以上のような事情に基いてなされたものであり、本発明の目的は、先端偏向操作に伴ってカテーテルチューブのルーメンに血液が浸入することを確実に防止することができ、リード線などが断線するおそれもない電極カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明の電極カテーテルは、先端に可撓部分(以下、「先端可撓部分」という。)を有するチューブ部材と、
前記チューブ部材の基端側に接続された制御ハンドルと、
前記チューブ部材の先端可撓部分を撓ませるために、前記チューブ部材の中心軸から偏心して前記チューブ部材のルーメンに延在し、その後端が引張可能である引張ワイヤと、 前記チューブ部材の先端可撓部分の外周面に各々が離間して固定された複数のリング状電極と、
前記複数のリング状電極の各々に接続された複数のリード線とを備えてなり;
前記チューブ部材の先端可撓部分の管壁には、当該チューブ部材の外周面からルーメンに至る複数の側孔が、前記リング状電極の固定位置に対応して形成され、
前記複数のリード線の各々は、その先端部分において前記リング状電極の内周面に接合されることによって当該リング状電極に接続されているとともに、前記複数の側孔の各々から前記チューブ部材のルーメンに進入し、当該チューブ部材のルーメンおよび前記制御ハンドルの内孔に延在する電極カテーテルであって;
前記リング状電極の電極幅(w)が0.3〜4.0mm、前記側孔の直径(d)が0.2〜3.0mm、両者の比率(d/w)が0.3〜1.0であり、
前記複数の側孔の各々が形成されている前記チューブ部材の先端可撓部分を、当該チューブ部材の中心軸に垂直な平面で切断したときの断面視において、
前記チューブ部材の中心軸と前記引張ワイヤの中心軸を結ぶ直線(当該引張ワイヤの偏心方向)と、
前記チューブ部材の中心軸と前記側孔の中心を結ぶ直線とのなす角度(α)が100°以下であることを特徴とする。
【0017】
このような構成の電極カテーテルにおいて、引張ワイヤの後端を引張操作して先端可撓部分を引張ワイヤの偏心方向に撓ませたときに、上記の角度(α)が100°以下である位置に形成されている側孔には、これを管軸方向に拡げるような引張力は作用しない。従って、リング状電極によって側孔の開口が十分な余裕をもって覆われていない場合〔前記比率(d/w)が0.3以上〕であっても、側孔の開口の一部がリング状電極からはみ出して外周面に露出するようなことはない。
また、引張ワイヤの後端を引張操作して先端可撓部分を引張ワイヤの偏心方向に撓ませたときに、上記の角度(α)が100°以下である位置に形成された側孔の周囲における管壁領域には、リング状電極を固定する接着剤(開口の周囲に形成された接着層)を剥離するような引張力は作用しない。
これにより、上記の角度(α)が100°以下である位置に形成されている側孔から、カテーテルチューブのルーメンに血液が浸入することはなく、これに伴うドリフト現象の発生を確実に防止することができる。
【0018】
また、引張ワイヤの後端を引張操作して先端可撓部分を引張ワイヤの偏心方向に撓ませても、上記の角度(α)が100°以下である位置に形成されている側孔からルーメンに進入したリード線には、これを断線するような大きな引張力が作用することはない。
【0019】
(2)本発明の電極カテーテルにおいて、シングルルーメン構造である前記チューブ部材の先端可撓部分を一方向に撓ませるために、前記チューブ部材の中心軸から偏心して前記チューブ部材のルーメンに延在し、その後端が引張可能である1本の引張ワイヤを備えていることが好ましい。
【0020】
このように、先端可撓部分が一方向にのみ撓むことのできる電極カテーテルであっても、先端偏向操作に伴うカテーテルチューブのルーメンへの血液の浸入やリード線の断線を確実に防止することができる。
【0021】
(3)上記(2)の電極カテーテルにおいて、前記角度(α)が20°以下であることが好ましい。
(4)また、前記角度(α)が実質的に0°であることが特に好ましい。
【0022】
このような電極カテーテルによれば、先端可撓部分を撓ませる偏向機構として板バネを使用する態様においても、リード線の延在スペースを十分に確保することができる。
【0023】
(5)また、前記角度(α)が80〜100°であってもよい。
このような構成の電極カテーテルにあっては、先端偏向操作に伴う、側孔および周囲の管壁領域の伸縮変形量がきわめて小さいので、接着剤(開口の周囲に形成された接着層)の剥離などを確実に防止することができる。
【0024】
(6)本発明の電極カテーテルにおいて、前記チューブ部材の先端可撓部分を両方向に撓ませるために、前記チューブ部材の中心軸を挟んで互いに対向するように前記チューブ部材のルーメンに延在し、それぞれの後端が引張可能である2本の引張ワイヤを備えていることが好ましい。
【0025】
このように、先端可撓部分が二方向に撓むことのできる電極カテーテルであっても、先端偏向操作に伴うカテーテルチューブのルーメンへの血液の浸入やリード線の断線を確実に防止することができる。
なお、対向配置された2本の引張ワイヤを備えた電極カテーテルにおいて、前記角度(α)は80〜100°の範囲となり、側孔および周囲の管壁領域の伸縮変形量がきわめて小さいので、接着剤(開口の周囲に形成された接着層)の剥離などを確実に防止することができる。
【0026】
(7)また、上記(6)の電極カテーテルにおいて、前記角度(α)が実質的に90°であることが好ましい。
【0027】
このような電極カテーテルによれば、何れの引張ワイヤの後端を引張操作する場合でも、側孔および周囲の管壁領域の伸縮変形量が理論上は0となるので、接着剤(開口の周囲に形成された接着層)の剥離などを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の電極カテーテルによれば、先端偏向操作に伴うカテーテルチューブのルーメンへの血液の浸入を防止することができ、血液の浸入に起因するドリフト現象を発生させることがなく、リード線が断線するおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る電極カテーテルを示す斜視図である。
【図2】図1に示した電極カテーテルの先端部における縦断面図である。
【図3A】図2の IIIA− IIIA断面図である。
【図3B】図2の IIIB− IIIB断面図である。
【図3C】図2の IIIC− IIIC断面図である。
【図4A】本発明の他の実施形態に係る電極カテーテルの先端部における横断面図である。
【図4B】本発明の更に他の実施形態に係る電極カテーテルの先端部における横断面図である。
【図4C】本発明の更に他の実施形態に係る電極カテーテルの先端部における横断面図である。
【図5】先端偏向操作可能な従来公知の電極カテーテルの先端部における縦断面図である。
【図6】図5のVI−VI断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の電極カテーテルについて図面を用いて説明する。
<第1実施形態>
図1、図2、図3A、図3B、図3Cに示す本実施形態の電極カテーテルは、例えば、心臓における不整脈の診断または治療に用いられるものである。
【0031】
本実施形態の電極カテーテルは、先端可撓部分を有するシングルルーメン構造のカテーテルチューブ10(チューブ部材)と、このカテーテルチューブ10の基端側に接続された制御ハンドル20と、制御ハンドルの基端側に接続されたコネクタ70と、カテーテルチューブ10の先端に固定された先端電極31と、この先端電極31に接続されたリード線41と、カテーテルチューブ10の中心軸(O)に沿って、カテーテルチューブ10の先端可撓部分におけるルーメンに延在し、その先端が、はんだ60によって先端電極31に固定されている板バネ55と、カテーテルチューブ10の中心軸(O)から偏心してカテーテルチューブ10のルーメンに延在し、その先端が、はんだ60によって先端電極31に固定され、その後端が引張可能となっている引張ワイヤ50と、カテーテルチューブ10の先端可撓部分の外周面に各々が離間して接着固定された3個のリング状電極32と、リング状電極32の各々に接続された3本のリード線42とを備えてなり;カテーテルチューブ10の先端可撓部分の管壁には、カテーテルチューブ10の外周面からルーメンに至る側孔15が、リング状電極32の固定位置に対応して3箇所に形成され、3本のリード線42の各々は、その先端部分においてリング状電極32の内周面に溶接されることによってリング状電極32の各々に接続されているとともに、側孔15の各々からカテーテルチューブ10のルーメンに進入し、カテーテルチューブ10のルーメンおよび制御ハンドル20の内孔に延在する電極カテーテルであって;リング状電極32の電極幅(w)が0.3〜4.0mm、側孔15の直径(d)が0.2〜3.0mm、両者の比率(d/w)が0.3〜1.0であり、側孔15の各々が形成されているカテーテルチューブ10の先端可撓部分を、カテーテルチューブ10の中心軸に垂直で、かつ、側孔15の中心(軸)を含む平面で切断したときの断面視(図3A,図3B,図3C)において、カテーテルチューブ10の中心軸(O)と引張ワイヤ50の中心軸を結ぶ直線(引張ワイヤ50の偏心方向)と、カテーテルチューブ10の中心軸(O)と側孔15の中心を結ぶ直線とが一致している(両直線のなす角度(α)が0°である)電極カテーテルである。
【0032】
カテーテルチューブ10は、中空のチューブ部材から構成されたシングルルーメン構造のチューブである。
カテーテルチューブ10は、軸方向に沿って同じ特性のチューブで構成してもよいが、比較的可撓性に優れた遠位端部分と、遠位端部分に対して軸方向に一体に形成され、遠位端部分よりも比較的に剛性のある近位端部分とを有していることが好ましい。カテーテルチューブ10の構成材料としては、例えばポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリウレタンなどの合成樹脂を挙げることができる。
【0033】
カテーテルチューブ10の先端領域は先端可撓部分となっている。
ここに、「先端可撓部分」とは、引張ワイヤ50を引っ張ることによって撓む(曲がる)ことのできるカテーテルチューブ10の先端部分をいう。
【0034】
カテーテルチューブ10の外径は、通常0.6〜3.0mmとされ、好ましくは1.3〜3.0mmとされる。
カテーテルチューブ10の内径は、通常0.5〜2.5mmとされ、好ましくは1.0〜1.5mmとされる。
カテーテルチューブ10の長さは、通常400〜1500mmとされ、好ましくは700〜1200mmとされる。
先端可撓部分の長さは、例えば30〜200mmとされる。
【0035】
カテーテルチューブ10の基端側には制御ハンドル20が接続されている。
図1において、21はグリップ、22はノブである。
制御ハンドル20のノブ22を、図1に示すX方向(先端側または後端側)にスライドさせることにより、引張ワイヤ50の後端が引っ張られ、カテーテルチューブ10の先端可撓部分が図1に示すA方向に撓ませることができる。また、制御ハンドル20を回転させることにより、その回転トルクをカテーテルチューブ10に伝達することができる。
従って、制御ハンドル20を操作することにより、カテーテルチューブ10の先端部分(先端可撓部分)を目的部位に誘導することができる。
【0036】
カテーテルチューブ10の先端には先端電極31が固定されている。
先端電極31は、例えばアルミニウム、銅、ステンレス、金、白金など、熱伝導性の良好な金属で構成される。なお、X線に対する造影性を良好に持たせるためには、白金などで構成されることが好ましい。先端電極31の外径は、特に限定されないが、カテーテルチューブ10の外径と同程度であることが好ましい。
先端電極31の外径は特に限定されないが、カテーテルチューブ10の外径と同程度であることが好ましく、通常0.6〜3mm程度である。
先端電極31にはリード線41が接続されている。先端電極31に接続されたリード線41は、カテーテルチューブ10のルーメン、制御ハンドル20の内孔に延在し、コネクタ70から引き出される。
【0037】
先端電極31の内側凹部には、リード線41、板バネ55および引張ワイヤ50を先端電極31に接続固定するためのはんだ60が充填されている。
はんだ60の材質は特に限定されるものではなく、例えばSn−Pbが一般的に用いられるが、Sn−Pb−AgやSn−Pb−Cuが用いられてよく、更にPbフリーのSn−Ag−Cu、Sn−Cu、Sn−Ag、Sn−Ag−Cu−Biなどを用いることができる。
【0038】
本実施形態の電極カテーテルは、カテーテルチューブ10の可撓部分を撓ませるための偏向機構として、板バネ55および引張ワイヤ50を備えている。
偏向機構を構成する板バネ55は、撓み方向に変形可能な首振り部材である。
板バネ55は、カテーテルチューブ10の中心軸(O)に沿って、カテーテルチューブ10の可撓部分におけるルーメンに延在し、その先端は、内側凹部に充填したはんだ60によって先端電極31に固定されている。
板バネ55の軸方向長さは、特に限定されず、例えば40〜300mmである。板バネ55の幅は、カテーテルチューブ10の内部に収まる程度であれば特に限定されるものではない。
板バネ55の材質も特に限定されず、例えばステンレス、Ni−Ti合金、Co−Ni合金などの金属材料、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂などの高分子材料などを挙げることができる。
【0039】
また、偏向機構を構成する引張ワイヤ50は、カテーテルチューブ10の中心軸(O)から偏心し、かつ、軸方向に移動自在にカテーテルチューブ10のルーメンに延在している。引張ワイヤ50の先端は、内側凹部に充填されたはんだ60によって先端電極31に固定されている。なお、引張ワイヤ50の先端は板バネ55の先端部に固定されていてもよい。
引張ワイヤ50の後端は、制御ハンドル20の内部に固定され、引張可能となっている。
引張ワイヤ50は、例えばステンレスやNi−Ti系超弾性合金製などの金属で構成することができるが、必ずしも金属で構成する必要はなく、例えば、高強度の非導電性ワイヤなどで構成してもよい。引張ワイヤを非導電性ワイヤで構成することにより、高周波ノイズの原因を低減することができる。
【0040】
オペレータが制御ハンドル20のノブ22をX方向(先端側または後端側)にスライドさせると、制御ハンドル20内の図示しないピストン機構によって、カテーテルチューブ10に対して引張ワイヤ50の後端が引っ張られる。これにより、カテーテルチューブ10の先端可撓部分を、図2および図3A〜図3Cにおいて矢印Aで示す方向(引張ワイヤ50の偏心方向)に撓ませることができる。
なお、偏向機構は、このようなものに限定されるものではないことは勿論である。
【0041】
カテーテルチューブ10の先端可撓部分の外周面には、3個のリング状電極32が接着固定されている。
リング状電極32の構成材料としては、先端電極31の構成材料として例示したものと同一の金属を挙げることができる。
リング状電極32の外径は特に限定されないが、カテーテルチューブ10の外径と同程度であることが好ましく、通常0.6〜3mm程度である。
なお、カテーテルチューブ10の先端可撓部分に装着されるリング状電極の数は3個に限定されるものでないことは勿論である。
【0042】
リング状電極32の各々にはリード線42が接続されている。リード線42は、金属芯線を樹脂被覆してなる。
カテーテルチューブ10の先端可撓部分の管壁には、カテーテルチューブ10の外周面からルーメンに至る側孔15が、リング状電極32の固定位置に対応して形成されている。リード線42の各々は、その先端部分における被覆樹脂を剥離して金属芯線を露出させた後、リング状電極32の内周面にスポット溶接されることによってリング状電極32の各々に接続されているとともに、側孔15の各々からカテーテルチューブ10のルーメンに進入し、カテーテルチューブ10のルーメンおよび制御ハンドル20の内孔に延在し、コネクタ70から引き出される。
【0043】
本実施形態の電極カテーテルにおいて、リング状電極32の電極幅(w)(カテーテルチューブ10の軸方向における長さ)は、電極の目的などによっても異なるが、0.3〜4.0mmとされ、好適な一例を示せば1.0mmである。
また、カテーテルチューブ10の先端可撓部分の管壁に形成された側孔15の直径(d)は0.2〜3.0mmとされ、好適な一例を示せば0.8mmである。
そして、両者の比率(d/w)が0.3〜1.0、好ましくは0.6〜0.9であり、好適な一例を示せば0.8(0.8mm/1.0mm)である。この場合、リング状電極32の端部から側孔15の開口縁までの距離は僅か0.1mmである。このように、リング状電極によって側孔の開口を十分な余裕をもって塞ぐことができない場合に、本発明を採用する意義がある。
【0044】
比率(d/w)が0.3未満である場合、すなわち、側孔に対して電極幅が十分に大きい場合には、本発明の射程外となる。一方、比率(d/w)が1.0を超える場合には、リング状電極によって側孔の開口を塞ぐことができなくなる。
なお、側孔の直径(d)が過小であるとリード線の挿通操作が困難となる。一方、側孔の直径(d)が過大となると、リング状電極によって側孔の開口を確実に塞ぐことが困難となる場合がある。
【0045】
図3A〜図3Cは、カテーテルチューブ10の先端可撓部分を、カテーテルチューブ10の中心軸に垂直で、かつ、側孔15の中心(軸)を含む平面で切断したときの断面図(横断面図)である。
【0046】
図3A〜図3Cにおいて、カテーテルチューブ10の中心軸(O)と引張ワイヤ50の中心軸を結ぶ直線(引張ワイヤ50の偏心方向)と、カテーテルチューブ10の中心軸(O)と側孔15の中心を結ぶ直線とが一致している(両直線のなす角度(α)が0°である)。
すなわち、本実施形態の電極カテーテルにおいて、カテーテルチューブ10の先端可撓部分に配置された3つの側孔15は、何れも、引張ワイヤ50の偏心方向と同じ側の管壁に形成されている。
【0047】
このような構成の本実施形態の電極カテーテルにおいて、引張ワイヤ50の後端を引張操作して、先端可撓部分を矢印Aで示す方向(引張ワイヤ50の偏心方向)に撓ませたときに、引張ワイヤ50の偏心方向と同じ側の管壁に配列形成された側孔15の各々は、撓み形状であるカーブの内側に位置することになる。
ここに、カーブの内側に位置する側孔15(当該側孔15の周囲における管壁領域)には、管軸方向の圧縮力が作用し、引張力は作用しない。
従って、リング状電極32によって側孔15の開口が十分な余裕をもって覆われていない場合〔前記比率(d/w)が0.3以上〕であっても、先端偏向操作時において、側孔15が管軸方向に拡がることはないので、側孔15の開口の一部がリング状電極32からはみ出して外周面に露出するようなことはない。
また、カテーテルチューブ10の外周面にリング状電極32を固定する接着剤(開口の周囲に形成された接着層)が剥離することもない。
このように、撓み形状であるカーブの内側に位置するように引張ワイヤ50の偏心方向と同じ側の管壁に配列形成された側孔15から、カテーテルチューブ10のルーメンに血液が浸入することはなく、これに伴うドリフト現象の発生を確実に防止することができる。
【0048】
また、先端可撓部分を矢印Aで示す撓み方向に撓ませたときに、リード線42の各々は、撓み形状であるカーブの内側における管軸部分の内周面に沿ってルーメンに延在することになるので、リード線42の各々に引張力は作用せず、従って、リード線42が断線するおそれもない。
【0049】
また、本実施形態の電極カテーテルによれば、従来の電極カテーテルのように、先端偏向操作時の側孔15の拡がりを考慮してリング状電極32の厳密な位置合わせを行う必要はないので、その製造効率を格段に向上させることができる。
【0050】
<第2実施形態>
本実施形態の電極カテーテルは、図1に示したものと同様の外観を有する。
図4Aは、本実施形態に係る電極カテーテルの先端部における横断面図(第1実施形態において図3Aに相当する横断面図)であり、側孔15aの各々が形成されているカテーテルチューブ10aの先端可撓部分を、カテーテルチューブ10aの中心軸に垂直で、かつ、側孔15aの中心(軸)を含む平面で切断したときの断面を示している。
なお、第1実施形態と同一または対応する構成要素には、同一の符号を付している。
図4Aにおいて、カテーテルチューブ10aの中心軸(O)と引張ワイヤ50の中心軸を結ぶ直線(引張ワイヤ50の偏心方向)と、カテーテルチューブ10aの中心軸(O)と側孔15aの中心を結ぶ直線とのなす角度(α)は45°である。
【0051】
このような構成の本実施形態の電極カテーテルにおいて、カテーテルチューブ10aの先端可撓部分を矢印Aで示す方向(引張ワイヤ50の偏心方向)に撓ませたときに、引張ワイヤ50の偏心方向から45°の角度間隔をもって管壁に配列形成された側孔15aの各々は、撓み形状であるカーブの内側に位置することになり、側孔15aおよびその周囲における管壁領域には、管軸方向の圧縮力が作用して引張力は作用しない。
従って、リング状電極32によって側孔15aの開口が十分な余裕をもって覆われていない場合〔前記比率(d/w)が0.3以上〕であっても、先端偏向操作時に、側孔15aが管軸方向に拡がることはないので、側孔15aの開口の一部がリング状電極32からはみ出して外周面に露出することはない。また、カテーテルチューブ10aの外周面にリング状電極32を固定する接着剤(開口の周囲に形成された接着層)が剥離することもない。
従って、カテーテルチューブ10aの管壁に配列形成された側孔15aから、カテーテルチューブ10aのルーメンに血液が浸入することはなく、これに伴うドリフト現象の発生を確実に防止することができる。
【0052】
<第3実施形態>
本実施形態の電極カテーテルは、図1に示したものと同様の外観を有する。
図4Bは、本実施形態に係る電極カテーテルの先端部における横断面図(第1実施形態において図3Aに相当する横断面図)であり、側孔15bの各々が形成されているカテーテルチューブ10bの先端可撓部分を、カテーテルチューブ10bの中心軸に垂直で、かつ、側孔15bの中心(軸)を含む平面で切断したときの断面を示している。
なお、第1実施形態と同一または対応する構成要素には、同一の符号を付している。
図4Bにおいて、カテーテルチューブ10bの中心軸(O)と引張ワイヤ50の中心軸を結ぶ直線(引張ワイヤ50の偏心方向)と、カテーテルチューブ10bの中心軸(O)と側孔15bの中心を結ぶ直線とのなす角度(α)は90°である。
【0053】
このような構成の本実施形態の電極カテーテルにおいて、カテーテルチューブ10bの先端可撓部分を矢印Aで示す方向(引張ワイヤ50の偏心方向)に撓ませたときに、引張ワイヤ50の偏心方向から90°の角度間隔をもって管壁に配列形成された側孔15bの各々は、撓み形状であるカーブの内側と外側の中間に位置することになり、側孔15bおよびその周囲における管壁領域には、管軸方向の引張力は作用しない。
従って、リング状電極32によって側孔15bの開口が十分な余裕をもって覆われていない場合〔前記比率(d/w)が0.3以上〕であっても、先端偏向操作時に、側孔15bが管軸方向に拡がることはないので、側孔15bの開口の一部がリング状電極32からはみ出して外周面に露出することはない。また、本実施形態の電極カテーテルにおいては、先端偏向操作時における側孔15bの周囲の管壁領域の伸縮変形量がきわめて小さいので、カテーテルチューブ10bの外周面にリング状電極32を固定する接着剤(開口の周囲に形成された接着層)の剥離を確実に防止することができる。
【0054】
<第4実施形態>
本実施形態の電極カテーテルは、図1に示したものと同様の外観を有する。
図4Cは、本実施形態に係る電極カテーテルの先端部における横断面図(第1実施形態において図3Aに相当する横断面図)であり、側孔15cの各々が形成されているカテーテルチューブ10cの先端可撓部分を、カテーテルチューブ10cの中心軸に垂直で、かつ、側孔15cの中心(軸)を含む平面で切断したときの断面を示している。
なお、第1実施形態と同一または対応する構成要素には、同一の符号を付している。
【0055】
本実施形態の電極カテーテルは、カテーテルチューブ10cの先端可撓部分を、矢印A1および矢印A2で示す両方向に撓ませることのできるものである。
このため、本実施形態の電極カテーテルは、カテーテルチューブ10cの中心軸(O)を挟んで互いに対向するようにカテーテルチューブ10cのルーメンに延在し、それぞれの後端が引張可能である引張ワイヤ51および引張ワイヤ52を備えている。
【0056】
図4Cにおいて、カテーテルチューブ10cの中心軸(O)と引張ワイヤ51の中心軸を結ぶ直線(引張ワイヤ51の偏心方向)と、カテーテルチューブ10cの中心軸(O)と側孔15cの中心を結ぶ直線とのなす角度(α1 )は90°である。
また、カテーテルチューブ10cの中心軸(O)と引張ワイヤ52の中心軸を結ぶ直線(引張ワイヤ52の偏心方向)と、カテーテルチューブ10cの中心軸(O)と側孔15cの中心を結ぶ直線とのなす角度(α2 )も90°である。
【0057】
このような構成の本実施形態の電極カテーテルにおいて、カテーテルチューブ10cの先端可撓部分を矢印A1で示す方向(引張ワイヤ51の偏心方向)に撓ませたときに、引張ワイヤ51の偏心方向から90°の角度間隔をもって管壁に配列形成された側孔15cの各々は、そのときの撓み形状であるカーブの内側と外側の中間に位置することになり、側孔15cには、管軸方向の引張力は作用しない。
また、カテーテルチューブ10cの先端可撓部分を矢印A2で示す方向(引張ワイヤ52の偏心方向)に撓ませたときに、引張ワイヤ52の偏心方向から90°の角度間隔をもって管壁に配列形成された側孔15cの各々は、そのときの撓み形状であるカーブの内側と外側の中間に位置することになり、側孔15cには、管軸方向の引張力は作用しない。
【0058】
従って、リング状電極32によって側孔15cの開口が十分な余裕をもって覆われていない場合〔前記比率(d/w)が0.3以上〕であっても、カテーテルチューブ10cの先端可撓部分を矢印A1または矢印A2で示す方向に撓ませる際に、側孔15cが管軸方向に拡がることはないので、側孔15cの開口の一部がリング状電極32からはみ出して外周面に露出することはない。また、本実施形態の電極カテーテルにおいては、先端偏向操作時における側孔15cの周囲の管壁領域の伸縮変形量がきわめて小さいので、カテーテルチューブ10cの外周面にリング状電極32を固定する接着剤(開口の周囲に形成された接着層)の剥離を確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 カテーテルチューブ
10a カテーテルチューブ
10b カテーテルチューブ
10c カテーテルチューブ
15 側孔
15a 側孔
15b 側孔
15c 側孔
20 制御ハンドル
21 グリップ
22 ノブ
31 先端電極
32 リング状電極
41 リード線
42 リード線
50 引張ワイヤ
51 引張ワイヤ
52 引張ワイヤ
55 板バネ
60 はんだ
70 コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に可撓部分を有するチューブ部材と、
前記チューブ部材の基端側に接続された制御ハンドルと、
前記チューブ部材の可撓部分を撓ませるために、前記チューブ部材の中心軸から偏心して前記チューブ部材のルーメンに延在し、その後端が引張可能である引張ワイヤと、
前記チューブ部材の可撓部分の外周面に各々が離間して固定された複数のリング状電極と、
前記複数のリング状電極の各々に接続された複数のリード線とを備えてなり;
前記チューブ部材の可撓部分の管壁には、当該チューブ部材の外周面からルーメンに至る複数の側孔が、前記リング状電極の固定位置に対応して形成され、
前記複数のリード線の各々は、その先端部分において前記リング状電極の内周面に接合されることによって当該リング状電極に接続されているとともに、前記複数の側孔の各々から前記チューブ部材のルーメンに進入し、当該チューブ部材のルーメンおよび前記制御ハンドルの内孔に延在する電極カテーテルであって;
前記リング状電極の電極幅(w)が0.3〜4.0mm、前記側孔の直径(d)が0.2〜3.0mm、両者の比率(d/w)が0.3〜1.0であり、
前記複数の側孔の各々が形成されている前記チューブ部材の可撓部分を、当該チューブ部材の中心軸に垂直な平面で切断したときの断面視において、
前記チューブ部材の中心軸と前記引張ワイヤの中心軸を結ぶ直線と、
前記チューブ部材の中心軸と前記側孔の中心を結ぶ直線とのなす角度(α)が100°以下であることを特徴とする電極カテーテル。
【請求項2】
シングルルーメン構造である前記チューブ部材の可撓部分を一方向に撓ませるために、前記チューブ部材の中心軸から偏心して前記チューブ部材のルーメンに延在し、その後端が引張可能である1本の引張ワイヤを備えていることを特徴とする請求項1に記載の電極カテーテル。
【請求項3】
前記角度(α)が20°以下であることを特徴とする請求項2に記載の電極カテーテル。
【請求項4】
前記角度(α)が実質的に0°であることを特徴とする請求項3に記載の電極カテーテル。
【請求項5】
前記角度(α)が80〜100°であることを特徴とする請求項2に記載の電極カテーテル。
【請求項6】
前記チューブ部材の可撓部分を両方向に撓ませるために、前記チューブ部材の中心軸を挟んで互いに対向するように前記チューブ部材のルーメンに延在し、それぞれの後端が引張可能である2本の引張ワイヤを備えていることを特徴とする請求項1に記載の電極カテーテル。
【請求項7】
前記角度(α)が実質的に90°であることを特徴とする請求項6に記載の電極カテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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