説明

電気二重層キャパシタ

【課題】85℃での使用においても安定したキャパシタ特性を有する電気二重層キャパシタを提供する。
【解決手段】一対の分極性電極体と、これらの分極性電極体の間に配置された電解液を保持したセパレータと、を有する電気二重層キャパシタにおいて、電解液の溶媒としてγ−ブチロラクトンを主体とする有機溶媒を使用し、この電解液の水分含有率を電解液全体の1000質量ppm以下とすることにより、85℃での使用においても安定したキャパシタ特性を有する電気二重層キャパシタが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液を用いた電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、一般に、アルミニウム箔などの集電体上に分極性電極層(例えばカーボン層)が設けられた一対の分極性電極体の間にセパレ−タを介在させて巻回又は積層することによりキャパシタセルを得、このキャパシタセルに電解液を含浸させて金属ケ−ス内に収納し、開口端部を密封することにより製造される。
【0003】
このような電気二重層キャパシタには、高い容量と優れた長期信頼性が要求されるが、従来の電気二重層キャパシタでは、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒を使用した非水電解液が用いられてきた。カーボネート系溶媒の使用により、高容量で、しかも高温下での負荷特性に優れる電気二重層キャパシタを得ることができるからである。
【0004】
ところが、カーボネート系溶媒を含む電解液を高温下で用いると、溶媒の分解により一酸化炭素(CO)ガスが発生するため、分極性電極体や電解液等を収容している容器の内圧が上昇するという問題が生じる。このため、このような電気二重層キャパシタの最高使用温度は60℃が限界であり、70〜85℃というさらなる高温使用には対応することができないという問題点があった。これに対して、電気分解によるガス発生が起こりにくいγ−ブチロラクトンを溶媒として用いることにより、電気二重層キャパシタの70℃での使用を可能にしようという試みがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−217150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された電気二重層キャパシタは、70℃で分極性電極体間に2.5Vを印加する高温負荷試験において、キャパシタ内の内圧が増加していない。しかしながら、発明者らが検討した結果、γ−ブチロラクトンを溶媒とした非水電解液を用いた電気二重層キャパシタについて、85℃での負荷試験を行うと、耐久性のばらつきが大きく、キャパシタ特性が劣化するものが多かった。
【0007】
そこで、本発明は、この問題を解決し、85℃で使用可能な電気二重層キャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、鋭意検討した結果、γ−ブチロラクトンを主溶媒とした非水電解液を用いた電気二重層キャパシタの85℃負荷試験の耐久性のばらつきは、電解液の水分含有率のばらつきに起因し、水分含有率の低い電解液を使用することにより、耐久性のばらつきを抑制することができ、85℃負荷試験においてもキャパシタ特性の安定な電気二重層キャパシタが得られることを発見した。
【0009】
したがって、本発明は、一対の分極性電極体とこれらの分極性電極体の間に配置された電解液を保持したセパレータとを有する電気二重層キャパシタにおいて、上記電解液の溶媒がγ−ブチロラクトンを含む有機溶媒であり、上記電解液の水分含有率が電解液全体の1000質量ppm以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の電気二重層キャパシタでは、γ−ブチロラクトンを主溶媒とした電解液を使用しているため、溶媒の電気分解によるキャパシタ特性の劣化が抑制され、電解液の水分含有率が極めて低いため、水分が原因となる劣化が抑制され、その結果、85℃負荷試験においても安定したキャパシタ特性が得られる。本発明の電気二重層キャパシタの電解液における1000質量ppm以下の水分含有率は、電気二重層キャパシタの組み立てにおいて使用する分極性電極体(両極)の水分含有率を分極性電極体全体の150ppm以下に低下させることにより、好適に達成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、γ−ブチロラクトンを主溶媒とした電解液が使用されており、さらに電解液に含まれる水分が極めて低濃度であるため、溶媒の電気分解によるキャパシタ特性の劣化が抑制される上に、水分が原因となるキャパシタ特性の劣化も抑制され、85℃での使用においても安定したキャパシタ特性を有する電気二重層キャパシタが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電気二重層キャパシタは、アルミニウム箔などの集電体上に分極性電極層が設けられた一対の分極性電極体をセパレータを介して対向させてキャパシタセルを作製し、このキャパシタセルに電解液を含浸させた状態で外装ケース内に収容する工程により得られる。本発明の電気二重層キャパシタは、コイン型、巻回型、積層型等の公知の形状のいずれであっても良い。
【0013】
集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼などの導電性薄膜を用いることができ、アルミニウムエッチング箔を好適に用いることができる。アルミニウム箔としては、純度99.9%以上の高純度のアルミニウム箔であって、通常10〜50μm程度の厚さのアルミニウム箔を用いる。
【0014】
この集電体に分極性電極層を形成することにより分極性電極体を得る。本発明では、例えば、活性炭粉末と導電助剤とバインダとを有機溶剤或いは水などの溶媒と混合して得たペーストを集電体に塗布し、100〜300℃で10〜60分間乾燥することにより、分極性電極体を得ることができる。また、上記ペーストをシート状に成形し、このシートを集電体に圧接し、100〜300℃で10〜60分間乾燥することにより、分極性電極体とすることができる。
【0015】
分極性電極層を構成する活性炭の原料は、植物系の木材、のこくず、ヤシ殻、パルプ廃液、化石燃料系の石炭、石油重質油、或いはそれらを熱分解した石炭及び石油系ピッチ、石油コークス等である。活性炭は、これらの原料を炭化後、賦活処理することにより得られる。
【0016】
導電助剤としては、導電性を有する炭素材料である、カーボンブラック、グラファイトを用いることができる。カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられる。これらは、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。特に、中空シェル構造を有するケッチェンブラックを使用するのが好ましい。グラファイトとしては、例えば、天然グラファイト、人造グラファイト等が挙げられる。
【0017】
バインダとしては、通常用いられるものであればいずれであっても良く、例えばフッ素系ゴム、ジエン系ゴム、スチレン系ゴム等のゴム類、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素ポリマー、その他、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。これらは、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。
【0018】
本発明において、電気二重層キャパシタの組み立てにおいて使用する分極性電極体の水分含有率は、分極性電極体全体の150質量ppm以下であり、好ましくは120質量ppm以下である。分極性電極体の水分含有率が150質量ppmを超えると、この水分が電解液中に移行し、水分が原因となるキャパシタ特性の劣化が顕著になる。分極性電極体の水分含水率は少ないほど良いが、上述した製法によると、通常70質量ppm程度の水分が含まれる。分極性電極体の水分含有率は、分極性電極体をカールフィッシャー装置の水分気化装置内に配置し、加熱して水分を気化させ、気化させた水分を乾燥した不活性ガスでカールフィッシャー滴定セルに導入することによって測定することができる。
【0019】
本発明において、非水電解液の溶媒として、γ−ブチロラクトンを含有する有機溶媒を用いる。溶媒がγ−ブチロラクトンのみであるのが好ましいが、本発明の効果を損なわない限り、他の有機溶媒との混合溶媒を使用しても良い。副溶媒として、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソランなどのオキソラン類;アセトニトリルやニトロメタンなどの含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの有機酸エステル類;リン酸トリエステルや炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピルのような炭酸ジエステルなどの無機酸エステル類;ジグライム類;トリグライム類;スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等のスルホン類;3−メチル−2−オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、ナフタスルトンなどのスルトン類等を用いることができる。これらの副溶媒は、単独で使用されていても良く、2種以上が使用されていても良い。溶媒におけるγ−ブチロラクトンの含有率は、溶媒全体の一般的には90質量%以上、好ましくは98質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0020】
上記溶媒中に溶解する電解質としては、金属の陽イオン、4級アンモニウムカチオン、カルボニウムカチオン等のカチオンと、BF-、PF-、ClO-、AsF-、SbF-、AlCl-、又はRfSO-、(RfSO-、RfCO-(Rfは炭素数1〜8のフルオロアルキル基)から選ばれるアニオンの塩を挙げることができる。これらは、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。
【0021】
本発明では、γ−ブチロラクトンを主体とする有機溶媒に電解質を溶解した電解液の水分含有率は、電解液全体の1000質量ppm以下、好ましくは500質量ppm以下である。電解液の水分含有率が電解液全体の1000質量ppmを超えると、水分が原因となるキャパシタ特性の劣化が顕著になる。電解液の水分含水率は少ないほど良いが、一般には10質量ppm程度の水分が含まれている。電解液の水分含有率は、組み上げられた電気二重層キャパシタを分解した後、電解液を含有している状態のキャパシタセルを遠心分離にかけることによって電解液を採集し、採集した電解液についてカールフィッシャー滴定を行うことによって測定することができる。
【0022】
本発明の電気二重層キャパシタは、溶媒の電気分解によるキャパシタ特性の劣化が抑制される上に、水分が原因となるキャパシタ特性の劣化も抑制され、85℃負荷試験においても安定したキャパシタ特性を示す。
【実施例】
【0023】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0024】
1:電気二重層キャパシタの作成
実施例1
カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液中で活性炭とケッチェンブラックとを攪拌し、その溶液にアクリル系エラストマーを混合することによりスラリーを作製し、得られたスラリーを、塗工機を用いて、集電体であるアルミニウムエッチング箔の両面に乾燥後の塗膜片面の厚みがそれぞれ160μmになるように塗布し、シートを作製した。さらに、このシートに対して塗膜片面の厚みが150μmになるようにロールプレスを施し、空気中、150℃で20分間乾燥し、正極・負極となる分極性電極体を得た。得られた分極性電極体をカールフィッシャー装置の水分気化装置内に配置し、200℃で60分間加熱して水分を気化させ、気化させた水分を乾燥した不活性ガスでカールフィッシャー滴定セルに導入することによって、分極性電極体の水分含有率を測定したところ、100質量ppmであった。
【0025】
次いで、分極性電極体に接続端子を接続し、正極・負極のシート状の2枚の分極電極体を対向するように配置し、その間にセルロース系セパレータを介在して巻回し、キャパシタセルを作成した。
【0026】
このキャパシタセルに、電解液として、1.5M四フッ化ホウ素トリエチルメチルアンモニウム/γ−ブチロラクトン溶液を含浸させ、さらに開口端部を有する円筒状のアルミニウム製外装ケースに挿入し、封口部材で開口部を封止し、分極性電極体のアルミニウムエッチング箔に設けられた接続端子を封口部材の外部端子に接合した。電圧を印加してエージングした後に放電させ、直径35mm、長さ105mmの電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタを分解し、電解液を含有している状態のキャパシタセルを遠心分離にかけることによって電解液を採集し、採集した電解液についてカールフィッシャー滴定を行うことにより、電解液の水分含有率を測定したところ、100質量ppmであった。
【0027】
実施例2〜3、比較例1〜3
乾燥条件の異なる分極性電極体を使用して実施例1の手順を繰り返した。比較例3は、分極性電極体の乾燥処理を行わなかった例である。以下の表1に、電気二重層キャパシタ作成時に使用した分極性電極体の水分含有率と、電気二重層キャパシタを分解して採集した電解液の水分含有率とをまとめて示す。分極性電極体の水分含有率が増加すると、電解液の水分含有率も増加する傾向にあるが、実施例1と実施例2では、分極性電極体の水分含有率が同じであるものの電解液の水分含有率が異なっており、比較例1と比較例2では、電解液の水分含有率が同じであるものの分極性電極体の水分含有率が異なっている。これは、電気二重層キャパシタの作成工程において電解液に混入した水分量の差を反映したものと考えられる。
【0028】
実施例4
アクリル系エラストマーの代わりにスチレンブタジエン系エラストマーを使用し、実施例2で使用した分極性電極体を使用して、実施例1の手順を繰り返した。以下の表1に、電気二重層キャパシタ作成時に使用した分極性電極体の水分含有率と、電気二重層キャパシタを分解して採集した電解液の水分含有率とを示す。
【0029】
実施例5
アクリル系エラストマーの代わりにスチレンブタジエン系エラストマーを使用し、実施例3で使用した分極性電極体を使用して、実施例1の手順を繰り返した。以下の表1に、電気二重層キャパシタ作成時に使用した分極性電極体の水分含有率と、電気二重層キャパシタを分解して採集した電解液の水分含有率とを示す。
【0030】
(従来例)
電解液として、1M四フッ化ホウ素テトラエチルアンモニウム/プロピレンカーボネート溶液を用い、実施例1と同様の電気二重層キャパシタを作製した。
【0031】
2:85℃負荷試験
上記の方法により得られた実施例1〜3、比較例1〜3及び従来例の電気二重層キャパシタについて、85℃で2.3Vを印加する負荷試験を行った。従来例の電気二重層キャパシタについては、60℃で2.5Vを印加する負荷試験も行った。負荷試験開始から500時間後及び1000時間経過後の静電容量(Cap)の増加率、直流内部抵抗(DCIR)の増加率を測定した。結果を表1に示す。
【表1】

【0032】
従来例の電気二重層キャパシタは、85℃負荷試験では全数が開弁した。表1における従来例の電気二重層キャパシタの静電容量(Cap)の増加率、直流内部抵抗(DCIR)の増加率の値は、60℃負荷試験における値である。
【0033】
表1から把握されるように、本発明の電気二重層キャパシタは、85℃負荷試験において、電解液中の水分含有率が電解液全体の1000ppm以下であり、また分極性電極体の水分含有率が電極体全体の150ppm以下であると、従来例の電気二重層キャパシタの60℃負荷試験時の特性安定性と同等の優れた特性安定性を示した。したがって、本発明により、電気二重層キャパシタの使用温度が85℃まで向上したことがわかる。また、バインダとして、スチレンブタジエン系エラストマーを使用する(実施例4,5)と、アクリル系エラストマーを使用した場合(実施例2,3)に比較して、直流内部抵抗(DCIR)の増加が抑制されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、85℃でも使用可能な電気二重層キャパシタが提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の分極性電極体と、これらの分極性電極体の間に配置された電解液を保持したセパレータと、を有する電気二重層キャパシタにおいて、
前記電解液の溶媒が、γ−ブチロラクトンを含む有機溶媒であり、
前記電解液の水分含有率が、電解液全体の1000質量ppm以下である
ことを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【請求項2】
前記分極性電極体として、水分含有率が分極性電極体全体の150質量ppm以下である分極性電極体が使用される、請求項1に記載の電気二重層キャパシタ。

【公開番号】特開2010−109355(P2010−109355A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229052(P2009−229052)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)
【Fターム(参考)】