説明

電気化学型表示素子の駆動方法

【課題】金属イオンを還元酸化することにより消発色を行う電気化学型表示素子の駆動方法であって、黒ブツの発生を防止することで素子寿命を長くすることに加え、応答速度が良好な駆動方法を提供する。
【解決手段】負電極上で、金属イオンが金属に還元され電極上に析出する発色工程と、電極が極性反転して負電極から正電極となり、電極上に析出した前記金属を金属イオンに酸化し電解液に溶解させる消色工程を有し、発色工程における負の電圧印加波形が電圧V1を印加する初期電圧印加ステップと、電圧V2を印加する実電圧印加ステップとの少なくとも2ステップの電圧ステップから成り、電圧V1と電圧V2との絶対値を0<|V1|<|V2|とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学型表示素子の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射光を利用する視認性が高い表示素子として、電圧印加により、固体や液体に生じる可逆的な色相の変化を利用する電気化学型表示素子が知られている。本素子では表示方式によっては発色表示の際の色相がクリアで視野角依存性もない優れた表示を行うことが可能である。電気化学型表示素子の中でも、金属イオンを透明電極上で還元析出させることにより発色を行い、析出した金属を金属イオンに酸化溶解させることで消色を行う、エレクトロクロミック型の表示素子は他の消発色材料では困難とされている色相が良好な黒を発色することができるため、広く研究が行われている。
【0003】
これらの表示素子では、金属イオンの電極上への析出状態や析出速度は金属イオンを金属に還元する際の駆動方法に依存するため、駆動方法すなわち駆動波形の制御は素子の性能に大きな影響を与える。通常、表示素子にはセグメント駆動であれ、各種マトリクス駆動であれ、表示面に透明電極が設置された部分と透明電極が設置されていない部分とがあり、透明電極の有無による境界線が存在する。特に金属析出型の電気化学型表示素子では該境界線付近の透明電極では電界及び発色金属イオンが集中するエッジ効果により、発色金属の還元が他の部分よりも生じやすくなる。その結果、該部分に黒ブツ欠陥と呼ばれる消色しにくい金属粒子が析出する欠陥が生じやすい。一旦その欠陥が生じると、金属粒子の先端部分にさらに電界が集中することや、析出金属による自己触媒作用により金属粒子が析出しつづけ、金属粒子が粗大化することにより素子外観を損ねる。更にこの状態で素子の駆動を続行すると、最終的には表示素子内の電極間が短絡し素子が破損する。これらの問題を引き起こす金属析出反応のエッジ効果の生じやすさは素子内の電流値の絶対値に正比例するといわれている。
【0004】
一般に電気化学型表示素子の駆動波形としては矩形波が用いられている。これは本波形が1サイクルの間に駆動に最適な酸化電圧、還元電圧とも最も長時間印加できることにより消発色を高速で行えることに加えて、波形発生も容易であるためである。しかし、矩形波で駆動を行うと金属を析出させる還元側の波形では電圧立ち下がりの50ミリ秒以内の短い時間内に、還元が定常的に生じる電流よりも2倍以上の大過剰な初期ピーク電流が流れる現象が見られる。この電流により前述の金属析出のエッジ効果を促進してしまうことにより、エッジ近傍の透明電極のみに過剰に金属が析出することにより黒ブツ欠陥が発生しやすくなる問題がある。
【0005】
エッジ効果を促進しうる初期ピーク電流値を抑えた状態で素子を駆動させうる波形としては三角波やサイン波等の急峻な電圧の立ち上がりがない波形を例示することができる。しかし、これらの波形では発色反応が始まる電圧(以降、閾値電圧と称する場合有り)以下の発色に寄与しない電圧領域を経由する時間が長いため応答速度が遅くなる問題や、1サイクルに占める発色に最適な電圧値を印加できる時間が限定されるため、発色を十分に行うためには絶対値が高い電圧が必要となり、その結果電気化学的な副反応が起こるため素子寿命が低下する問題点がある。さらに、発色速度が遅くなると、発色速度が速い場合に比べ発色金属核が成長しやすく粗大化する傾向があり、その結果金属核が溶解しにくくなり黒ブツ欠陥が生じやすくなる可能性がある。
【0006】
黒ブツ欠陥の発生の抑制による表示素子の長寿命化と高応答速度とを両立するために、例えば特許文献1では電極の所定の箇所に絶縁膜を設置する方法が提案されている。しかし本方法では透明電極の末端部分にのみ絶縁膜としての透明樹脂を設置するという極めて難易度の高い工程がある上、本工程に伴い大幅なコスト増は免れない。また絶縁膜の設置位置がずれ、透明電極の画素部分を覆った場合には所望の表示が得られなくなり、逆に透明電極の末端部を1箇所でも被覆できていなかったり、ピンホール等の欠陥があったりした場合にはその末端の露出部分に電界が集中することによりエッジ効果を逆に促進し素子寿命を低下させる恐れがある。
【0007】
また、特許文献2ではマトリクス表示素子の各画素電極に印加する電極の電圧印加時間を制御することで階調表示を行う技術について記載されているが、その中で表示の書き込み時に矩形波の初期電圧を恒常的に加える電圧よりも高くした強調パルス電圧を印加する駆動波形についての記載がある。本方法では、応答速度の内発色速度は速くできるものの、該パルス電圧により還元(書き込み)初期に高い初期ピーク電流が流れることにより、エッジ効果が促進され通常の矩形波にくらべ金属の過剰析出が生じやすくなるため、黒ブツ欠陥が生じやすくなると推測される。
【0008】
【特許文献1】特開2005-031649号公報
【特許文献2】特開2004-170850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、金属イオンを還元酸化することにより消発色を行う電気化学型表示素子の駆動方法において、黒ブツの発生を防止することで素子寿命を長くすることに加え、応答速度が良好な駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、金属イオンを還元酸化することにより消発色を行う表示素子の駆動方法において、金属発色に最適である還元電位(V2)を印加するにあたり、矩形波のように非常に短い時間で急激に電圧を変動させ電圧を印加するのではなく、V2よりも絶対値が小さい初期電位(V1)を経由したのち、V2の電圧を印加することにより、還元時に流れる初期ピーク電流値の絶対値の最大値を低減することができ、これにより還元時のエッジ効果を低減することにより、透明電極と電極が無い部分との境界近傍の透明電極部分のみに過剰に金属が析出しにくくすることで消色しない金属析出物(黒ブツ)の発生を防止させ表示素子を長寿命化することができることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、負電極上で、金属イオンが金属に還元され電極上に析出する発色工程と、電極が極性反転して負電極から正電極となり、電極上に析出した前記金属を金属イオンに酸化し電解液に溶解させる消色工程を有する電気化学型表示素子の駆動方法であって、
発色工程における負の電圧印加波形が
電圧V1を印加する初期電圧印加ステップと、
電圧V2を印加する実電圧印加ステップとの少なくとも2ステップの電圧ステップを有し、
電圧V1と電圧V2との絶対値が0<|V1|<|V2|である、
駆動電圧波形を印加することを特徴とする電気化学型表示素子の駆動方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、金属還元時に、流れる初期ピーク電流値の最大値を低減することができ、これにより還元時のエッジ効果を低減することにより、透明電極と電極が無い部分との境界近傍の透明電極部分の過剰な金属析出を防止することで消色しない金属析出物(黒ブツ)の発生を防止することで表示素子を長寿命化させることができ、且つ素子の応答速度が速い駆動波形を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の駆動波形について詳細に説明する。
本発明の駆動波形は、金属イオンを還元酸化することで表示を行う電気化学型表示素子に於いて、その還元波形(負の電圧印加波形)が
電圧V1を印加する初期電圧印加ステップと、
電圧V2を印加する実電圧印加ステップとの少なくとも2ステップの電圧ステップを有し、
電圧V1とV2との絶対値が0<|V1|<|V2|であることを特徴としている。
ここで、実電圧印加ステップの電圧V2とは、金属の還元を良好に生じさせることができ、電圧を印加し続けることによっても素子を劣化させることが無い範囲で絶対値が大きい電圧のことである。この電圧を印加することにより、高応答速度で発色を行うことができる。また、V1とは絶対値で0<|V1|<|V2|の関係を満たす任意の電圧である。本発明ではV2に電圧を印加する過程でV1を経由することで、矩形波のように酸化側もしくは0の電圧から短時間でV2にまで電圧を移動させることにより生じやすくなる、エッジ効果による金属の偏析出を防止することができる。
【0014】
ここで、V1は一定電圧でもよく、絶対値が0<|V1|<|V2|の間で時間とともに変化するものでもよく特に限定はされない。V1が時間とともに三角波やサイン波のように変化する場合は、V1からV2への電圧変化で生じる電気二重層の再配列にともなう急激な電流が発生しにくくなるメリットがある。一方、V1が一定電圧である場合は、波形を矩形波の組み合わせとして作製できるため、駆動回路に負担がかからない上、パッシブマトリクス駆動に応用しやすいという利点があるため特に好ましい。また、V2にいたるまでの電圧の間に、V1−1、V1−2、・・といった一定電圧の組み合わせからなる階段状の波形としても差し支えない。V1が一定電圧からなる1ステップである場合V1とV2があまりに近いと、V2に電圧を直接上げた状態と差がなくなるため過剰電流を低減させる効果が小さくなる。また、0VとV1とがあまりに近いとV1とV2との差が大きくなるため、0VからV1へと直接電圧を上げた場合とほぼ同じ電圧の印加状態になってしまうため、同様に効果が低くなる。V1は、V2又は0Vとは0.2V以上の差があることが好ましく、最も好ましくは、V1はV2の半分程度の値である。たとえば、|V1|は、0.2|V2|〜0.8|V2|が好ましい例として挙げることができる。
【0015】
金属の還元反応に於いて、金属イオンが還元される閾値電圧がある場合これの電圧をV3とすると、V1は|V3|≦|V1|を満たすことが更に好ましい。V3の電圧について具体的に説明するために、図1に本発明の駆動試験に用いられる表示素子の2電極系(透明電極側;作用極接続、対向電極側;参照極、対向極接続、掃印速度0.1V/秒、電極面積0.3cm)でのサイクリックボルタモグラムを例示した。0からマイナス側に電圧絶対値を高くするとしばらくは電流が流れず、発色反応が生じていないが−0.4V弱で還元電流が急激に流れ始め、黒発色が生じはじめる。この還元電流が流れ始める電圧をV3(閾値電圧)と定義する。印加電圧の絶対値が閾値電圧以下では金属の還元反応は殆ど生じないため、この領域の電圧を加えることは発色反応には寄与しない。そのため、V1が|V3|≦|V1|の関係を満たしていると、V1が一定電圧の場合にはV1を印加している間もV2よりは少ないが発色反応を生じ、応答速度の高速化にある程度寄与する。またV1が時間とともに変化する場合でも同様であるため、好ましく用いられる。
【0016】
V1を印加する時間は10ミリ秒〜100ミリ秒であることが好ましく、更に好ましくは40ミリ秒〜80ミリ秒である。電気二重層が形成されるのに要する時間は約30ミリ秒であるといわれており、この時間よりもやや長いV1を印加することで、電気二重層の形成(再配列)に伴う電流と、還元反応の開始に伴い発生する電流とを完全に分割することができ最大電流の抑制効果が高くなる。そのため、V1の印加時間が10ミリ秒よりも短いとV1を入れる効果が少なくなり、100ミリ秒より長いと発色に最適なV2電圧を印加するまでに要する時間が長くなるため応答速度が遅くなる問題が生じる。
【0017】
黒ブツの発生を低減するためには、電圧印加した際の初期ピーク電流の絶対値の最大値が、前記初期電圧印加ステップなしに、電圧V2を印加した際の初期ピーク電流の絶対値の最大値の60%以下であるように初期電圧印加ステップの印加時間及びV1の値を決めることが好ましい。
【0018】
以下に本発明の波形により駆動させる電気化学型表示素子の例を具体的に示す。
【0019】
本発明の駆動用に用いられる表示素子は、少なくとも消発色に用いられる金属イオンを有する電解液、透明電極、対向電極、電解液の漏洩を防止するための封止剤とから構成される。また電解液を保持し、素子に白色等の色を与えるための媒体を有していても良い。本発明の電気化学型表示素子の一実施形態を示す概略断面図を図2に示した。図2では電気化学型表示素子は、透明基板1と、その上に設けられた透明電極3と、透明電極3の上に設けられた表示媒体5と、対向基板2と、その上に設けられた対向電極4と、封止材7とから概略構成されている。
【0020】
(透明電極、透明基板)
表示素子に用いられる電極としては、視面側に位置する電極3は透明である必要がある。このような電極3としては、現在最も広く用いられているITO(インジウム・スズ酸化物)の他にATO(アンチモン・スズ酸化物)、TO(酸化スズ)、ZO(酸化亜鉛)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、FTO(フッ素・スズ酸化物)等を例示することができる。また、透明電極を保持する透明基板1としては前述の対向基板中で例示したものの内、可視光の透過性が高い、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネートに加え、ガラス板等を例示することができる。
【0021】
(対向電極、対向基板)
一方、透明電極と対向する対向電極は必ずしも透明である必要はない、そのため上記金属酸化物の他、電気化学的に安定な金属類、たとえば、白金、金、コバルト、銀、銅、パラジウム等や炭素材料を用いることもできる。また、対向基板としても表面が平滑なものであれば差し支えなく、上記透明基板のほかに各種プラスチック類やゴム等を用いることができる。また金属基板を電極と兼用する形で用いても良い。
【0022】
(封止材)
封止材7は、透明電極3と対向電極4間のギャップを保持すると共に、表示媒体5に空気中の水分、酸素や二酸化炭素が混入することを防止する役割を有する。例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂といった熱や紫外線による圧着硬化が可能で、ガスバリア性を有する樹脂等が挙げられる。
【0023】
(表示媒体)
表示素子に用いられる表示媒体は、電解液と該電解液を保持する媒体とから構成される。本発明で提供される諸効果は、必ずしも電解液保持用の媒体を必要とせず、透明電極と対向電極との間に直接電解液を封入した素子でも発現する。しかしながら、表示素子の実用面から考えると素子破損の際の電解液の漏洩防止の観点と黒非表示時に白表示を行うために、電解液を保持可能な白色材料に電解液を保持させてシート化したもの(表示媒体)を用いることが好ましい。
【0024】
(電解液)
表示素子に用いられる電解液は、消発色金属イオンと、支持電解質とこれらを溶解させる溶媒とから構成されている。
(金属イオン)
還元されることで、電極上に析出発色する金属イオンとしては銀、ビスマス、銅、鉄、クロム、ニッケル等のイオンが例示でき、ハロゲン化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、過ハロゲン酸塩等を電解液中に溶解させることでイオン化させ、該電解液を発色剤として用いることができる。たとえば、銀化合物を溶解させた電解液を用いた場合には、電極に駆動電圧を印加すると、Ag+e→Agの還元反応が負電極側で生じて、このAg析出物により電極上が黒色に変化する。上記金属のうちビスマス、銀が、電解液に溶解させた状態でほぼ透明である上に、析出物の色が濃く、消着色の可逆反応が良好であることより特に好ましく用いられる。また、これらの金属イオンは2種以上組み合わせて用いても良い。また消発色の可逆性を向上させるために、銅イオンを電解液中に共存させてもよい。
【0025】
(消発色金属イオンを供給する金属化合物)
金属イオン源となる銀化合物としては塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀等のハロゲン化銀の他に、過塩素酸銀、塩素酸銀、酢酸銀、臭素酸銀、ヨウ素酸銀、炭酸銀、酸化銀、硫酸銀、硫化銀、硝酸銀、亜硝酸銀等を例示できる。
【0026】
またビスマス化合物としては塩化ビスマス、臭化ビスマス、ヨウ化ビスマス等のハロゲン化ビスマスの他、硝酸ビスマス、硫酸ビスマス、炭酸ビスマス、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、オキシ過塩素酸ビスマス、オキシ硫酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、オキシ酢酸ビスマス等が例示できる。
【0027】
また、消発色の可逆性を向上させるための銅化合物としては塩化銅(II)、臭化銅(II)等のハロゲン化銅の他、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)、炭酸銅(II)、水酸化銅(II)、酸化銅(II)、過塩素酸銅(II)等が例示できる。以上列記した銀、ビスマス、銅化合物とも2種以上を併用してもよい。
【0028】
(溶媒)
表示素子中の電解液を構成する溶媒としては通常電気化学で溶媒として用いられるものの内、消発色金属イオンの供給源である各種金属化合物や支持電解質溶解しうるものであれば特に制限はない。例として水の他、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類に加えプロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、2−エトキシエタノール、2−メトキシメタノール、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ブチロニトリル、グルタロニトリル、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、プロピレングリコール等を例示することができる。これらは単独で用いても、2種類以上を混合して用いても良い。
【0029】
(支持電解質)
また、電解液を構成する支持電解質としては通常支持電解質として用いられている材料の内、消発色金属イオンを供給する金属化合物と同時に溶解させることができるものであれば特に限定されない。例示すると、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、過塩素酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、ホウフッ化リチウム等のリチウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム等のカリウム塩、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ホウフッ化テトラエチルアンモニウム、ホウフッ化テトラブチルアンモニウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム等のアンモニウム塩等や硫酸、ホウフッ化水素酸、過塩素酸、塩酸等の酸類を例示することができる。
【0030】
(その他の添加剤)
その他、消発色の可逆性を良くすること等を目的として、めっき用薬剤として用いられる、光沢剤、錯化剤、緩衝剤、pH調整剤等を添加してもよい。
【0031】
(表示媒体用の電解液保持剤)
表示素子の電解液を保持して表示媒体として用いるための材料としては、電解液中の各物質と反応せず、且つ電解液を極力イオン伝導度を低下させない状態で保持させることができるものであれば特に限定されない。水系電解液をゲル状に保持することができる材料としては、ポリビニルアルコールの他にメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体やそのアルカリ金属塩やポリアリルアミン等の水溶性樹脂を例示することができる。一方、有機系の電解液をゲル状に保持させることができる材料としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等を例示することができる。また、表示素子として白色度が重要である場合はこれらに酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化鉛等の白色顔料を混合させて用いることもできる。本材料を用いて表示素子を作成する場合は、例えば電解液中に前述の固体樹脂を一定量添加し、攪拌溶解する等の方法や、予め固体樹脂を電解液と同一の溶媒に溶解させた樹脂溶液を作製したのち、電解液を添加する方法等により作製した塗工液を、例えばアプリケーターやバーコーター、テーブルコーター等の枚様型塗工装置や、スピンコート、ディップコート等の手法を用いて一方の電極上に塗工したのち、もう一方の電極を設置することで作製することができる。
【0032】
特に、電解液保持用の媒体として、シリカ、金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の無機化合物の微粒子を含有する、ポリアミド、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機ポリマーのパルプ状微粒子(以下、有機無機複合体と言う場合有り。)を用いた場合には、該有機ポリマーが高い白色度と紙的な質感を有している上、抄紙により媒体のシートを作製することが容易であり、更に電解液に用いられる極性溶媒を漏洩することなく多量に保持することで高いイオン伝導度を維持することができるため、特に好ましく用いられる。本材料を用いて表示媒体を作成する方法としては、あらかじめ調製した電解液中にパルプ状複合体を投入し、十分に分散させた後に濾過することで余剰な電解液を除くことや、電解液を複合体に流通させることで電解液を含浸させる方法、複合体を電解液中で分散させた後、元から含有している極性溶媒を留去する方法等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0033】
(電気化学型表示装置)
図2で示された表示素子に電源部、回路部や必要に応じてシール層、筐体等を設けることにより、表示装置とすることができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。特に断らない限り、「部」は「質量部」を表す。
【0035】
(電解液の調製)
溶媒として超純水17部に、消発色剤としてオキシ過塩素酸ビスマス・一水和物を0.33部と過塩素酸銅(II)・六水和物0.18部、支持電解質として過塩素酸の60質量%溶液を1.02部、過塩素酸ナトリウム・一水和物0.87部を、消色促進化合物としてヒドロキノン0.21部を、室温で攪拌して溶解させ、均質透明な電解液を調製した。
【0036】
(表示媒体の作製)
上記方法で作製した電解液に大日本インキ化学工業(株)製、有機無機複合体「セリルS−50」(固形分8.6質量%、有機成分ポリアミド、無機成分シリカ、シリカ含有率55質量%)を2.89部入れ、室温下で30分間攪拌することにより、複合体パルプが均一に分散したスラリーを得た。該スラリーを60mmφの桐山ロートで0.02MPaで20秒間減圧濾過することにより厚さ約700μm、固形分率約15質量%の電解液を多量に保持したウエットケーキシート状の表示媒体1を得た。
【0037】
(表示素子の作製)
上記方法で得られた表示媒体1を1cm角の正方形に切断した。これを4cm×2cmの大きさで3mmの幅のストライプ状のITO透明電極が基板の長手方向に走ったガラス基板上の、透明電極側長手方向の中央部分に設置し密着させた。該表示媒体上に背面電極に相当する2cm×4cm角で0.5mm厚の無酸素銅板を銅版の長手方向が透明電極の長手方向に垂直になるように設置した後、加圧硬化装置LP−320(株式会社イーエッチシー製)を用いて、2枚の電極間を加圧することにより密着させた。次いで、ウエットケーキの周囲をエポキシ樹脂で封止後、透明電極側にはストライプの両末端にリード線を、銅電極側には銅と接続できる任意の場所にリード線を接続することで、厚さ2mmの電気化学型表示素子を作製した(以下、表示素子1という)。表示素子1の透明電極側からみた概略図を図3に示した。本素子は、1cm角の表示媒体(ウエットケーキ)の内、中心部分に1cm×3mm(電極面積0.3cm)のストライプ状の表示部分を有しており、表示媒体中に表示部分と非表示部分との境界部分があるために、この部分にエッジ効果により金属の過剰析出が生じ易いことが特徴である。本表示素子を用いて各種波形での駆動試験を行った。
【0038】
(表示素子のサイクリックボルタモグラムの測定と、該測定からの駆動電圧の決定及び、発色閾値電圧の測定)
表示素子1でのサイクリックボルタモグラムをファンクションジェネレーター付ポテンシオスタット(北斗電極製HAB−151)を用いて以下の条件で測定を行った(透明電極側;作用極(W1,W2)接続、対向電極側;参照極、対向極接続、初期電位0V、掃引速度0.1V/分、電圧範囲+1.0V〜−0.9V)。図1のサイクリックボルタモグラムは本測定により得られた結果である。表示素子1では−0.9Vまでの還元電圧の印加により、表示素子は十分な黒色度が得られたため、矩形波での駆動でも−0.9Vよりもわずかに絶対値の大きい電圧を印加すれば十分であると判定し、矩形波での発色電圧(実電圧印加ステップ)を−1.0Vとした。また、本表示素子は繰り返し駆動を十分に行うためには、酸化側に還元側よりも多い絶対値電圧必要であることが明らかとなっているので酸化側電圧としては1.25Vを用いることとした。
また還元電流が流れ始め、黒発色が生じはじめたのが約−0.39Vであったため。この電圧をV3(閾値電圧)とした。
【0039】
(波形の作成、評価装置)
表示素子の駆動に用いる波形データを任意波形作成ソフトで作製し、該波形をHIOKI製ファンクションジェネレーター7075に読み込ませた。該ファンクションジェネレーターをポテンシオスタット(北斗電極製HA−501)に接続し、その出力ラインを透明電極側には作用極(W1,W2)を、対向電極側には参照極、対向極を接続することにより駆動試験を行った。
【0040】
(実施例1)
本発明の駆動波形として、還元側の波形として−0.6Vの電圧(V1)を60ミリ秒印加したのち、−1.0V(V2)に電圧を上昇させ940ミリ秒印加する還元波形を印加したのち、消色電圧として1.25Vを1秒印加する波形を作成し駆動波形1とした。この駆動波形を繰り返すことで表示素子の駆動試験を行った。図4に駆動波形1の1サイクルを示した。また、その際に発生した電流曲線を図6に示した。
本波形を印加することにより十分な黒発色と、発色した黒の完全な消色が繰り返し観察された。ここでいう十分な黒発色とは黒発色側は表示素子の光学濃度値(OD値)を反射濃度計マクベスRD−918により測定し、該測定値より下記式に基づいて反射率を算出し、この反射率が10%以下まで到達した場合を意味する。
また、完全な消色とは黒発色が10%以下の状態を経由したのちプラス電圧を印加し、素子の反射率が黒発色前の初期状態の値まで完全に戻った場合を意味する。
【0041】
【数1】

【0042】
還元側の波形としてー0.6Vまで電圧を上げた後、60ミリ秒かけてー1.0V(V2)に電圧絶対値を上昇させた以外は実施例1と同様な波形で表示素子の駆動試験を行った。本波形では−0.6V〜−1.0Vの電圧範囲がV1に相当する。本波形を駆動波形2として、図5に示した。本波形の印加によっても実施例1同様に十分な黒発色と完全な消色とが観察された。
【0043】
(比較例1)
一般的な駆動波形として発色電圧として−1.0V、消色電圧として1.25Vを各1秒ずつ印加する波形を作成し、駆動波形3とした。本波形の印加によっても実施例1同様に十分な黒発色と完全な消色とが観察された。また、その際に発生した電流曲線を図7に示した。
【0044】
(比較例2)
発色電位として−1.0V、消色電圧として1.25Vの間を三角波で駆動する波形において、黒発色時の反射率が実施例1,2及び、比較例1と同様に生じる掃引速度を測定したところ、0.6V/秒となった。そこで、本掃引速度での三角波波形を駆動波形4とした。尚、本駆動波形での1サイクルあたりに要する時間は7.5秒である。
【0045】
各実施例及び、比較例での駆動波形で前述の評価装置により表示素子を駆動させ、以下の方法に従って表示素子の評価を行った。
【0046】
(表示素子の評価−1、初期ピーク電流値測定)
駆動中の素子をデジタルオシロスコープ(HIOKI8808)に接続し駆動に伴う電流値の変化を測定した。前述の図6及び図7は本測定より得たものである。本測定より還元電圧を印加した際に流れる電流値の最大値を読み取り、これを還元最大電流値とした。
【0047】
(表示素子の評価−2、連続駆動試験)
金属が完全に消色しない黒ブツ欠陥が発生するまでの連続駆動回数を測定した。連続駆動回数の評価方法は、表示媒体の外周部より1mm以上内側の部分(これを素子表示部分とする)に、目視可能な黒ブツ(大きさ約50μm)が1点でも発生した時点で劣化したと判定した。
【0048】
以上実施例及び、比較例で用いた駆動波形で以上の項目の評価結果及び、各駆動波形の特徴について、表1に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
一般の駆動波形(比較例1)である矩形波で駆動した素子では、図7に示したとおり還元時に高いピーク電流が発生した。また、本波形では表示素子の透明電極と透明電極が無い部分の境界線の透明電極のエッジ部分から強い金属光沢を伴う黒発色が見られ、そこから透明電極の中央部に向けて黒発色が進む様子が観察され、極めて強いエッジ効果による金属の過剰析出が生じていることが示唆された。また、本波形で駆動を連続させていると10万回で透明電極の境界線より消色しきらない黒ブツが発生することにより素子が劣化した。
【0051】
一方、本発明での駆動方法である実施例1及び2の、還元時に初期電位(V1)を導入した駆動波形を用いた駆動では、表1、図6に示した通り、還元時に発生する初期ピーク電流が単純矩形波の60%以下に低減され、実電圧V2を印加した際に生じる電流値に近い絶対値の電流しか流れなくなった。これに伴い、矩形波で見られた透明電極の境界部より過剰に強く発色する現象が低減され、透明電極全体からほぼ同時に黒発色が生じる傾向が見られた。そのため、矩形波と比べ駆動速度がほとんど遅くならずに素子の駆動が生じた。また、透明電極の境界線より黒ブツが発生しにくくなったことで駆動素子の寿命が大幅に向上した。
【0052】
しかし、通常の三角波(比較例2)では、矩形波のような透明電極エッジ部分からの過剰析出は観察されなかったものの駆動波形1〜3と同様な黒発色を得るためには1サイクルあたりに長時間を要し駆動が遅い上、透明電極と電極のない部分との境界部に限らないランダムな領域より黒ブツが発生したことにより素子の寿命も大きくは向上しなかった。
【0053】
以上のように、本発明の駆動方法は比較的単純な波形でありながら素子の高応答速度と素子の長寿命とを両立したものであることが明確となった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に用いられる表示素子の2電極系(透明電極側;作用極接続、対向電極側;参照極、対向極接続、電極面積1cm)でのサイクリックボルタモグラムの一例である。
【図2】本発明に用いられる2枚の電極板間に本発明の電解液を保持した表示媒体を挟持した電気化学型表示素子の模式図である。
【図3】本発明の効果を明確にするための試験に用いた、透明電極と透明電極が無い部分との境界線を有する表示素子の模式図である。
【図4】本発明の駆動方法である、駆動波形1の電圧曲線である。
【図5】本発明の駆動方法である、駆動波形2の電圧曲線である。
【図6】本発明の駆動方法である、駆動波形1で表示素子を駆動させた際の電流曲線である。
【図7】一般的な矩形波で表示素子を駆動させた際の電流曲線である。
【符号の説明】
【0055】
1 透明基板
2 対向基板
3 透明電極
4 対向電極
5 表示媒体
6 銅板(対向電極)
7 封止材
8 リード線



【特許請求の範囲】
【請求項1】
負電極上で、金属イオンが金属に還元され電極上に析出する発色工程と、電極が極性反転して負電極から正電極となり、電極上に析出した前記金属を金属イオンに酸化し電解液に溶解させる消色工程を有する電気化学型表示素子の駆動方法であって、
発色工程における負の電圧印加波形が
電圧V1を印加する初期電圧印加ステップと、
電圧V2を印加する実電圧印加ステップとの少なくとも2ステップの電圧ステップを有し、
電圧V1と電圧V2との絶対値が0<|V1|<|V2|である、
駆動電圧波形を印加することを特徴とする電気化学型表示素子の駆動方法。
【請求項2】
金属イオンが還元される閾値電圧をV3としたときに、電圧V1の絶対値が|V3|≦|V1|である請求項1に記載の電気化学型表示素子の駆動方法。
【請求項3】
前記電圧V1を印加する初期電圧印加ステップの時間が10ミリ秒〜100ミリ秒である請求項1または2に記載の電気化学型表示素子の駆動方法。
【請求項4】
前記初期電圧印加ステップが、電圧V1を一定電圧として印加する請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気化学型表示素子の駆動方法。
【請求項5】
電圧印加した際の初期ピーク電流の絶対値の最大値が、前記初期電圧印加ステップなしに、電圧V2を印加した際の初期ピーク電流の絶対値の最大値の60%以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気化学型表示素子の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−34158(P2007−34158A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220677(P2005−220677)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】