説明

電気化学式センサの使用方法及び電気化学式センサを用いた警報装置

【課題】電気化学式センサを用いた警報装置において、点検用ガスが吹き付けられた場合でも誤った判定をすることがないとともに、通常利用時には故障の虞があることを正常に判定可能な電気化学式センサの使用方法を確立することを目的とする。
【解決手段】検知極及び対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、検知対象ガスが検知極に拡散律速で接触させるための拡散制御手段とを備えた電気化学式センサ100を用い、対極から検知極へ外部短絡回路を介して流れる電流をプラス電流、逆方向に流れる電流をマイナス電流として、マイナス電流が流れる場合にセンサに異常があると判定する判定手段211bで、プラス電流が検出された後、マイナス電流が検出された場合に、マイナス電流の検出後、判定停止所定期間、判定手段211bによる判定を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知対象ガスが反応する検知極及び酸素が反応する対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備えた電気化学式センサを用い、前記対極から前記検知極へ外部短絡回路を介して流れる電流をプラス電流、逆方向に流れる電流をマイナス電流として、前記マイナス電流が流れる場合にセンサに異常があると判定する判定手段を備えた警報装置における電気化学式センサの使用方法に関する。また、そのような使用方法を実施する電気化学式センサを用いた警報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
警報装置等に搭載されるセンサの一つとして、例えば、一酸化炭素ガスを検知するCOセンサがある。また、このCOセンサの検知方式として、特許文献1に示すような電気化学式のものが知られている。電気化学式センサは、一般に、電解質溶液又は固体電解質を検知極及び対極で挟み込んで構成される。
なお、本明細書において説明する電気化学式センサは、特に、電解質溶液、電極、及びガス透過膜を含むものとする。この電気化学式センサの検知原理を、一酸化炭素ガスを検知するCOセンサを例に挙げて説明する。
【0003】
COセンサの検知極に検知対象ガスである一酸化炭素が接触すると、下記(1)に示すように、検知極では一酸化炭素と水とが反応して二酸化炭素を生成するとともにプロトン(H+)及び電子(e-)が発生する。
CO + H2O → CO2 + 2H+ + 2e- ・・・ (1)
上記(1)の反応は、今回の様に拡散制御孔等がある条件下では、測定雰囲気中において一酸化炭素が拡散する速度に依存した拡散律速反応である(酸素と一酸化炭素が共存する検知極の混成電位付近においては一酸化炭素の酸化反応は拡散律速となる。)。
【0004】
また、検知極で発生したプロトン(H+)は電解質を通過して対極の側へ移動する。さらに、検知極で発生した電子(e-)は外部回路を通過して対極へと移動し、下記(2)に示すように、対極に導入される酸素及び電解質中の水と反応し、水酸基(OH-)を生成する。尚、検知極には酸素も存在するので、一般的には一酸化炭素の約半分は検知極の酸素で酸化され、残りの半分が対極の酸素で酸化される。
1/2・O2 + H2O + 2e- → 2OH- ・・・ (2)
【0005】
このように上記反応に伴って検知極側から対極側へと外部回路を流れる電子(上記したプラス電流が流れる状態に相当)の電気的特性を、例えば、短絡電流値として検知することで、測定雰囲気中の一酸化炭素の濃度を測定することができる、又は、検知極、対極を開路状態としてその開路電圧を検知することで、測定雰囲気中の一酸化炭素の濃度を測定することができる。
【0006】
ところで、警報装置は保安機器であるため、例えば、電源が入らなくなる、ガスセンサの感度が劣化する、回路が故障するといった問題が生じ、警報を正常に行わなくなる状態になることは、極力避ける必要がある。そのため、近年、警報装置に、警報装置自身が通電状態においてセンサや回路の故障の予兆を検知し、故障の虞があることを知らせる自己診断機能が搭載されている。
【0007】
上述の電気化学式センサの場合、センサの特性及び検知回路の構成上、正常にガスを検知したときには、正負のいずれか一方向にのみ信号を出力する(以下では、正常な場合の信号をプラスとする)。このため、電気化学式センサを用いる警報装置においては、センサの自己診断機能として、正常に機能している場合に比べ正負が反転した出力(マイナスとする)があった場合に、センサに故障の虞があることを知らせるように構成されているものが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−279293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、電気化学式センサを用いる警報装置は、例えば、警報装置の点検時などに、当該センサが検知対象とするガスとは異なる種類の点検用ガスが吹き付けられることがある。このとき、電気化学式センサによっては、プラスの出力をした後、一時的にマイナスの出力をすることを発明者らは実験的に見出した。ここで、電気化学式COセンサの場合には、その点検ガスは水素ガスであり、通常その濃度は高濃度である。
【0010】
このような場合、センサ自体は故障していないにも関わらず、警報装置は上述の自己診断機能によってセンサに故障の虞があると判定してしまうので、利用者は警報装置を交換する必要があると誤認してしまう虞がある。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電気化学式センサを用いた警報装置において、点検用ガスが吹き付けられた場合でも誤った判定をすることがないとともに、通常利用時には故障の虞があることを正常に判定可能な電気化学式センサの使用方法を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る電気化学式センサの使用方法の特徴構成は、検知対象ガスが反応する検知極及び酸素が反応する対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備えた電気化学式センサを用い、前記対極から前記検知極へ外部短絡回路を介して流れる電流をプラス電流、逆方向に流れる電流をマイナス電流として、前記マイナス電流が流れる場合にセンサに異常があると判定する判定手段を備えた警報装置における電気化学式センサの使用方法であって、前記検知極に検知対象ガスが接触した状態で、前記プラス電流が検出された後、前記マイナス電流が検出された場合に、前記マイナス電流の検出後、判定停止所定期間、前記判定手段による判定を停止することにある。
【0013】
発明者らの鋭意研究の結果、電気化学式センサと点検用ガスとの関係について次のことが分かった。拡散制御手段を備えた電気化学式センサを用いる警報装置において、拡散制御手段によってセンサ手段に侵入する気体の流入量を制御した場合でも、検知対象ガスよりも拡散速度の速い点検用ガスが浸入してきた場合には、検知極側に加えて対極側にも当該点検用ガスが回り込む。これにより、検知極と対極との双方において酸化反応が生じ、これによりセンサ手段のガスに対する感度が極端に低減する。特に、点検ガスは一般に高濃度のものが用いられるため、この現象が起こり易い。従って、点検用ガスにセンサ手段が曝露された場合には、排気開始直後には、対極側に当該ガスが滞留している。また、排気時には検知極側から当該ガスが抜けて行く。そのため、しばらくの間、対極側の方が検知極側よりも当該ガスと多く反応し、対極側から検知極側へと電流が流れる(マイナス電流が流れる)ことが判明した。
【0014】
この点、本願特徴構成においては、プラス電流が検出された後に、マイナス電流が検出されると、マイナス電流の検出後、判定停止所定期間、判定手段による判定を停止する。このため、点検用ガスが吹き付けられた場合でも、プラス電流の後一時的に生じるマイナス電流によってセンサに故障の虞があると誤検知することがない。また、このような構成とすれば、通常利用時にセンサに故障が生じた場合、出力がない状態からマイナス電流が流れるので、故障の虞があることを正常に検知することが可能である。
【0015】
本発明に係る電気化学式センサの使用方法において、前記電気化学式センサの電源投入時に、電源投入後所定期間、前記判定手段による判定を停止することが好ましい。
【0016】
本構成の電気化学式センサの使用方法によれば、電源投入時においては、電気化学式センサの出力に関わらず、電源投入後所定期間、判定手段による判定が停止される。
従って、本構成では、例えば、警報装置を家屋に設置する際などにおいて電源投入後、所定期間内に、電磁波などの外的要因によってマイナス電流が流れても、センサに故障の虞があると誤検知することがない。また、このような構成においては、電源投入から所定期間を過ぎれば、判定手段により、マイナス電流が流れる場合にセンサに異常があると判定するので、通常利用時には故障の虞があることを正常に判定することが可能である。
【0017】
また、本発明に係る電気化学式センサの使用方法において、前記判定手段が、判定所定期間、前記マイナス電流が流れ続けた場合に、前記電気化学式センサが異常であると判定することが好ましい。
【0018】
本構成の電気化学式センサの使用方法によれば、マイナス電流が流れた場合に即座に警報装置が故障していると判定せず、判定所定期間マイナス電流が流れ続けることを確認した後に、センサに異常があると判定する。
従って、本構成では、故障によりマイナス電流が流れ続ける場合のみセンサに異常があると判定し、判定所定期間より短い間マイナス電流が流れただけの場合には異常であるとは判定しなくなるので、例えば、警報装置外部からのノイズにより一時的にマイナス電流が流れた場合などに誤判定する虞が軽減でき、より高精度にセンサに異常があることを判断できる。
【0019】
本発明に係る警報装置の特徴構成は、検知対象ガスが反応する検知極及び酸素が反応する対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備えた電気化学式センサを用いて構成され、前記対極から前記検知極へ外部短絡回路を介して流れる電流をプラス電流、逆方向に流れる電流をマイナス電流として、前記マイナス電流が流れる場合にセンサに異常があると判定する判定手段を備えた警報装置であって、前記検知極に検知対象ガスが接触した状態で、前記プラス電流が検出された後、前記マイナス電流が検出された場合に、前記マイナス電流の検出後、判定停止所定期間、前記判定手段による判定を停止する停止手段を備えることにある。
【0020】
上記特徴構成においては、停止手段により、プラス電流が検出された後に、マイナス電流が検出されると、マイナス電流の検出後、判定停止所定期間、判定手段による判定を停止することができる。このため、点検用ガスが吹き付けられた場合でも、プラス電流の後一時的に生じるマイナス電流によってセンサに故障の虞があると誤検知することがない。また、このような構成とすれば、通常利用時にセンサに故障が生じた場合、出力がない状態からマイナス電流が流れるので、故障の虞があることを正常に検知することが可能である。
【0021】
本発明に係る警報装置において、前記電気化学式センサの電源投入時に、電源投入後所定期間、前記判定手段による判定を停止する電源投入時停止手段を備えることが好ましい。
【0022】
本構成の警報装置によれば、電源投入時においては、電源投入時停止手段により、電気化学式センサの出力に関わらず、電源投入後所定期間、判定手段による判定が停止される。
従って、本構成では、例えば、警報装置を家屋に設置する際などにおいて電源投入後所定期間内に、電磁波などの外的要因によってマイナス電流が流れても、センサに故障の虞があると誤検知することがない。また、このような構成においては、電源投入から所定期間を過ぎれば、判定手段により、マイナス電流が流れる場合にセンサに異常があると判定するので、通常利用時には故障の虞があることを正常に判定することが可能である。
【0023】
また、前記判定手段が、判定所定期間、前記マイナス電流が流れ続けた場合に、前記電気化学式センサが異常であると判定することが好ましい。
【0024】
本構成の警報装置によれば、判定手段により、マイナス電流が流れた場合に即座に電気化学式センサが故障していると判断せず、判定所定期間マイナス電流が流れ続けることを確認した後に、電気化学式センサが異常である、すなわち故障していると判定する。
従って、本構成では、故障によりマイナス電流が流れ続ける場合のみセンサに異常があると判定し、判定所定期間より短い間マイナス電流が流れただけの場合には異常であるとは判定しなくなるので、例えば、警報装置外部からのノイズにより一時的にマイナス電流が流れた場合などに誤判定する虞が軽減でき、より高精度にセンサに異常があることを判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態における警報装置の外観を示す概略図
【図2】本実施形態における電気化学式センサの全体構成を示す縦断面図
【図3】電気化学式センサの要部であるセンサ本体の縦断面図
【図4】二極式の電気化学式センサを用いた基本測定回路図
【図5】予備試験の結果を示すグラフ
【図6】電気化学式センサにおけるアノード極(検知極)及びカソード極(対極)の電位の高低差を示す図
【図7】電気化学式センサの特性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明による実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されるものではなく、種々の改変が可能である。
【0027】
1.装置の機械的構成
〔警報装置の外観構成〕
本実施形態における警報装置60の外観を図1(a)に示す。警報装置60は、概略直方体の筐体61を備え、筐体61内部には、電気化学式センサ100やメタンセンサ101などの各種センサ及び、センサからの出力信号に基づいて後述する各種処理を行うためのマイクロコンピュータ205が含まれている。筐体61の一面には、各種センサに点検用のガスを吹き付けるための点検口62が設けられている。
【0028】
警報装置60の内部構成を、図1(b)に示す。点検口62の軸方向に見て(図1の表裏方向視で)、点検口62と隣接する位置に、電気化学式センサ100及びメタンセンサ101が配置されている。このため、点検口62から侵入した点検用のガスは、電気化学式センサ100及びメタンセンサ101の双方に吹き付けられる。センサの位置関係は、より具体的には、点検口62の軸方向に見て、点検口62と重複する位置にメタンセンサ101が配置されている。そして、メタンセンサ101に隣接するように電気化学式センサ100が配置されている。
【0029】
〔電気化学式センサの基本構造〕
図2は、本発明の電気化学式センサの使用方法で使用する電気化学式センサ100の全体構成を示す縦断面図である。図3は、電気化学式センサ100の要部であるセンサ本体10の縦断面図である。
【0030】
本実施形態の電気化学式センサ100は、具体的には、一酸化炭素を検知対象ガスとしたCOセンサであり、その基本構造として、センサ本体10、水タンク20、フィルタ部30、ワッシャ40、及びガスケット50等を備える。
【0031】
センサ本体10は、図3に示すように、電解質層1の両側(上下面)に検知極としてのアノード極2と対極としてのカソード極3とが夫々接続された積層構造を有するセンサ手段11と、後述する導電疎水膜4,5と、拡散制御板6とを備えている。
電解質層1は、後述するように、アノード極2での一酸化炭素の酸化反応に伴って発生するプロトン(H+)等のカチオンがカソード極3に移動する(あるいはカソード極3か
らOH-等のアニオンがアノード極2に移動する)際の媒質として機能し、例えば、濾紙
等の基体に下記の化学式で示される芳香族スルホン酸塩(重合体)を含む電解液を含浸させて構成することができる。
【化1】

なお、電解質層1には、図示しない参照電極を介在させても構わない。この場合、電解質層1を上下二層に分割し、両層の間に参照電極を挟み込む。
【0032】
アノード極2は、一酸化炭素を二酸化炭素へと酸化する電極触媒であり、一般に白金触媒等が使用される。カソード極3も、実質的にアノード極2と同様の構成を有している。本実施形態では、アノード極2、カソード極3の膜厚は夫々約0.05〜0.2mmに設定されている。
【0033】
アノード極2の上側及びカソード極3の下側には、導電疎水膜4,5が夫々設けられる。この導電疎水膜4,5は、アノード極2又はカソード極3での反応に関わるガス(一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気、及び酸素)を透過可能なガス透過膜として構成される。
【0034】
アノード極2の上側の導電疎水膜4の上方には、拡散制御板6が設けられる。この拡散制御板6は、外気に含まれる一酸化炭素ガスがアノード極2に拡散律速で接触するように外気の流入量を制御する。具体的には、拡散制御板6には拡散制御孔6aが形成され、この拡散制御孔6aを経てアノード極2へと供給される外気及び一酸化炭素分子の供給量が制御される。従って、外気に含まれる一酸化炭素の濃度が高く、仮にそのままの状態で一酸化炭素をアノード極2に導入すれば、過剰な一酸化炭素のためにアノード極2での酸化反応が追いつかなくなるような場合でも、拡散制御板6に設けた拡散制御孔6aの作用により、アノード極2ですべての一酸化炭素の酸化反応を完了させることができる。
なお、本実施形態では、拡散制御板6はステンレス等の金属からなる薄板で形成され、拡散制御孔6aは打ち抜き等の任意の方法で形成されている。
【0035】
また、センサ本体10のカソード極3の側の下方には、水タンク20が接続される。水タンク20は、その外壁21の一部にくびれ部22が形成され、そのくびれ部22に、中央部に孔部41が形成されたワッシャ40が係留されている。外壁21とワッシャ40とによって包囲される空間Xには、水又は水を吸収させた吸水性樹脂23が収容されている。空間Xに存在する水は、水蒸気の状態でワッシャ40の孔部41を通り、センサ本体10のカソード極3を通して電解質層1に供給される。
【0036】
一方、センサ本体10のアノード極2の側の上方には、フィルタ部30が設けられる。フィルタ部30は、第1通気孔31aが形成された上半部31に第2通気孔32aが形成された下半部32をかしめて中空部Yを形成し、その中空部Yに活性炭フィルタ33を充填した構成となっている。この構成において、外気に含まれる一酸化炭素は第1通気孔31aから侵入し、活性炭フィルタ33で不純物等が取り除かれた後、第2通気孔32aからセンサ本体10のアノード極2へと供給される。
【0037】
フィルタ部30と水タンク20の外壁21との間には、水タンク20から蒸発した水蒸気が外部に漏出しないように、ガスケット50が設けられる。
【0038】
本発明の電気化学式センサ100では、水タンク20の底面24及び上半部31の上面31bが電極端子として機能する。従って、フィルタ部30の上半部31及び下半部32、センサ本体10の拡散制御板6、ワッシャ40、ならびに水タンク20の外壁21は、金属等の導電性材料で構成される。一方、ガスケット50は、絶縁材料で構成される。
【0039】
〔測定回路〕
このように構成された電気化学式センサ100は、例えば、図4に示すような基本測定回路200に組み込まれる。この基本測定回路200は、電気化学式センサ100を二極式とした場合の測定方法に使用される。
【0040】
電気化学式センサ100のセンサ本体10から発生した微小な電流(短絡電流)は、オペアンプ201、抵抗202、及びコンデンサ203によって増幅処理及び変換処理がなされ、出力端子204から電圧Vout(電気化学式センサの出力)として出力される。そして、この出力結果から、電気化学式センサ100において外気に含まれる一酸化炭素の濃度の検知が行われる。短絡電流は、電解質中をアノード極2からカソード極3に流れ、外部回路中をカソード極3からアノード極2へ流れる。通常、一酸化炭素濃度が増加するに従って、電圧Voutは増加する。前述の拡散制御孔6aが開孔している本願で言う正常状態では、大気中に存在する一酸化炭素等の還元性ガスの影響によりわずかにプラス電流(一酸化炭素を検出した時と同じ方向をプラスとする)が流れる状態となる。
【0041】
2.電気化学式センサの異常状態
拡散制御板6を備えた電気化学式センサ100においては、検知対象ガスの濃度を正確に検知するためには、拡散制御孔6aを健全な状態に維持しておくことが重要である。ところが、例えば、気温変化が大きい環境下等では、結露水によって拡散制御孔6aが塞がれて拡散制御孔6aが部分的に又は完全に閉塞して拡散性が低下する虞がある。
【0042】
先ず、電気化学式センサ100の拡散制御板6について、拡散制御孔6aの有無によって出力電圧にどのような違いが生じるかを確認する予備試験を行った。試験結果を図5に示す。図5では、(a)が拡散制御板6に拡散制御孔6aを設けたものであり、拡散制御孔6aが部分的に又は完全に閉塞していない正常状態(完全開口状態)に対応する。また、(b)が拡散制御板6に拡散制御孔6aを設けないものであり、拡散制御孔6aが部分的に又は完全に閉塞して拡散性が低下している異常状態(不完全開口状態、完全閉状態)に対応する。
【0043】
ここで、予備試験では、拡散制御板6に拡散制御孔6aを設けた電気化学式センサについて、20個の電気化学式センサを用いて行っている。そして、図5(a)では、20個の電気化学式センサのうち、出力電圧が最大の電圧値を示したもの、出力電圧が最小の電圧値を示したもの、出力電圧が最大と最小との間の電圧値を示したものの一部を示しており、残りのものは省略している。また、予備試験では、拡散制御板6に拡散制御孔6aを設けない電気化学式センサについても、20個の電気化学式センサを用いて行っている。そして、図5(b)では、20個の電気化学式センサのうち、出力電圧が最大の電圧値を示したもの、出力電圧が最小の電圧値を示したもの、出力電圧が最大と最小との間の電圧値を示したものの一部を示しており、残りのものは省略している。
【0044】
正常状態に対応する図5(a)では、20個の電気化学式センサの全ての出力電圧はベースラインである1Vよりも常に上回っていた(すなわち、プラスの短絡電流が発生)。一方、拡散性が低下している状態に対応する図5(b)では、20個の電気化学式センサの全ての出力電圧はベースラインである1Vよりも常に下回っていた(すなわち、マイナスの短絡電流が発生)。これらの結果から、電気化学式センサ100の出力電流をモニタリングすることで、拡散性が低下しているか否かを判定することができると考えられる。
なお、この予備試験では、電気化学式センサ100の電極間の電気的特性として出力電圧をモニタリングしているが、出力電流であっても同様の結果が得られる。
【0045】
電気化学式センサ100において、アノード極2とカソード極3との間に電位差が生じると、両電極間に電流(短絡電流)が流れることになる。ここで、一般大気雰囲気中におけるアノード極2及びカソード極3で生じる反応は、下記(3)で表される平衡反応となる。
2 + 2H2O + 4e- ←→ 4OH- ・・・ (3)
ちなみに、この反応は、従来技術の項目で説明した(2)の式に相当する。ここで、図6(a)は、拡散性が低下していない正常状態において、アノード極2の平衡電位とカソード極3の平衡電位との高低を示しており、図6(b)は、拡散性が低下している状態において、アノード極2の平衡電位とカソード極3の平衡電位との高低を示している。ちなみに、上記(3)の反応による平衡電位Eeqは、酸素分圧をPO2、OH-の活量をaOH-、aOH=1及びPO2=1のときの電位をE0とすると、ネルンストの式から下記(4)のように表される(温度25℃の時)。
【数1】

【0046】
図6(a)に示すように、拡散性が低下していない正常状態では、アノード極2の平衡電位はカソード極3の平衡電位よりも低くなっている。これは大気中の微量な一酸化炭素等の還元性ガスの酸化反応の影響によるものである。ところが、上記(4)において、酸素分圧PO2が低下すると(すなわち、反応する酸素が欠乏すると)、平衡電位が低下するが、アノード極2よりもカソード極3での方が影響が大きい。これは、拡散性の低下によって、センサ本体内の湿度が上昇し、アノード極2(上側)よりカソード極3(下側)の方がより水タンク20に近いため、カソード極3及びそれに接する導電疎水膜中での結露が優先的に起こり酸素分圧(PO2)がより低くなるためと考えられる。その結果、カソード極3での平衡電位の低下が大きく、図6(b)に示すように、アノード極2の平衡電位はカソード極3の平衡電位よりも高くなっている。よって、図6(a)にて示された正常状態と、図6(b)にて示された拡散性が低下している状態とでは、アノード極2の平衡電位とカソード極3の平衡電位との高低関係が逆転しており、アノード極2とカソード極3との間を流れる短絡電流は、正常時がプラス電流となるのに対し、拡散性が低下した後はマイナス電流となる(電解質中をアノード極2からカソード極3に流れる方向をプラスとしている)。
【0047】
従って、通常利用時においては、アノード極2とカソード極3との間に流れる短絡電流を検知し、マイナス電流が流れる場合にセンサに異常があると判定することが可能である。
【0048】
本願発明に係る警報装置は、検知対象ガスを検知して、その濃度を測定するガス検知測定機能を有するとともに、上述のマイナス電流が流れることにより電気化学式センサ100の異常を検知する異常検知機能を備えている。これらガス検知機能及び異常検知機能は、原則として、警報装置の動作において、その電源が投入されている限り働くように構成されている。
本願発明は、この異常検知機能に関して、点検作業時或いは電源投入直後の一定期間に、異常検知機能が働かないようにすることにある。
【0049】
以下、このような異常検知機能の停止が必要となる原因及びその状況において発生する現象に関して、警報装置の構造とともに説明する。
【0050】
図4に示すように、電気化学式センサ100は上記基本測定回路200に組み込まれると共に、出力端子204間にマイクロコンピュータ205が接続され、警報装置60内に備えられている。図4では、理解を容易にするために、マイクロコンピュータを別個に描いている。マイクロコンピュータ205は、ソフトウェア上での演算により、短絡電流のプラス、マイナス及びその大きさを計測する計測ステップを実行する計測手段(上記検知計測機能を果たす)211a、上記異常を有無を判定する判定ステップを実行する判定手段(上記異常検知機能を果たす)211b、及び判定停止ステップを実行する判定停止手段212、電源投入時停止ステップを実行する電源投入時停止手段213、を備えて構成されている。(各ステップについては、後述する)。
【0051】
3.電気化学式センサの特性
図7(a)に、本実施形態に係る電気化学式センサ100としてのCOセンサに、一酸化炭素ガスを吹き付けた場合の出力(アノード極2とカソード極3との間にかかる電圧値)を示す。図7(a)のデータを取るにあたり、119個の電気化学式センサを用い、30、100、300、650、3000ppmの濃度の一酸化炭素ガスを段階的に吹き付けた。図7(a)では、119個の電気化学式センサのうち、出力電圧が最大の電圧値を示したもの、出力電圧が最小の電圧値を示したもの、出力電圧が最大と最小との間の電圧値を示したものの一部を示しており、残りのものは省略している。
【0052】
図7(a)から分かるように、本実施形態に係る電気化学式センサに一酸化炭素ガスを吹き付けた場合は、濃度に依らず安定した1V(基準電位)より上のプラス出力が得られている。
上記計測手段211aは、この出力からCOの検知及び濃度特定を実行する。
【0053】
図7(b)に、本実施形態に係る電気化学式センサとしてのCOセンサに、一般に点検用ガスとして使用されるH2ガスを吹き付けた場合の出力を示す。図7(b)のデータを取るにあたり、119個の電気化学式センサを用い、30、100、300、650、3000ppmの濃度のH2ガスを段階的に吹き付けた。図7(b)では、119個の電気化学式センサのうち、出力電圧が最大の電圧値を示したもの、出力電圧が最小の電圧値を示したもの、出力電圧が最大と最小との間の電圧値を示したものの一部を示しており、残りのものは省略している。
【0054】
図7(b)から分かるように、本実施形態に係る電気化学式センサにH2ガスを吹き付けた場合、3000ppmの高濃度のH2ガスを吹き付けた直後に、1V以下の出力を示す電気化学式センサが存在した。なお、図示していないが、119個の電気化学式センサのうち、大多数のセンサで1V以下の出力が確認された。この実験では、3000ppmのH2ガスが吹き付けられた直後(図7(b)横軸における1680s)から、図7(b)横軸における3120sまでの、約1500sの間、1V以下のマイナス出力が確認された。
【0055】
すなわち、発明が解決しようとする課題の項目、及び解決するための手段の項目において説明したように、点検用ガスが吹き付けられた場合において、センサが故障していないにもかかわらず、一時的にマイナス電流が流れることがあることが判明した。
そこで、判定手段211bの判定を一時的に停止する判定停止手段212を設ける。
【0056】
4.異常検知機能の停止
本願に係る警報装置では、上記異常検知機能に関連して、以下の<1>〜<3>のステップを所定間隔ごとに繰り返し実行する。
<1>計測手段211aが、アノード極2とカソード極3との間に流れるショート電流の状態を計測する計測ステップ。
<2>判定停止手段212が、1つ前の計測ステップにより計測された電流の状態がプラス電流であった場合、計測ステップにより計測された電流の状態がマイナス電流であっても、マイナス電流の検出後、判定停止所定期間、次に述べる<3>の判定ステップにおける判定を停止する判定停止ステップ。このステップは、言い換えると、プラス電流を検出した直後にマイナス電流が検出された場合に、判定停止所定期間、下記の判定ステップをスキップする。そして、判定停止所定期間の経過後は、下記の判定ステップを実行することとなる。
<3>判定手段211bが、マイナス電流が継続的に判定所定期間流れた場合に、電気化学式センサ100に異常が生じていると判定する判定ステップを実行する。
【0057】
<2>の判定停止ステップにおける判定停止所定期間としては、電気化学式センサ100が点検用ガスを検出した際にマイナス電流が発生する時間に基づいて設定すると好適である。ここで、判定停止所定期間としては、例えば60分を採用することが可能である。
【0058】
この実施形態では、<3>の判定ステップにおいて、判定所定期間、マイナス電流が流れ続けた場合にのみ、電気化学式センサ100が異常であると判定する。すなわち、マイナス電流が流れ始めてから所定期間に満たないうちに、プラス電流が検知された場合には、異常ではないと判定する。ここで、判定所定期間としては、例えば120分を採用することが可能である。
【0059】
上記<1>において、「ショート電流」は電気的特性の一つに該当するものである。この「ショート電流」は、アノード極2とカソード極3とをショート(短絡)したときの電流である。
また、上記<2>において、「1つ前の計測ステップにより計測された電流の状態」は、例えば、図示しないメモリ等に格納しておくことができる。
【0060】
また、この実施形態では、<4>電源投入時停止手段213が、電気化学式センサの電源投入時には、電気化学式センサ100に電源を投入してから電源投入後所定期間、無条件に判定ステップにおける判定を停止する電源投入時停止ステップを実行する。言い換えると、電源投入直後は、電源投入後所定期間、上記の<1>、<2>、<3>のステップの実行時に、<3>の判定ステップが強制的にスキップされる。
【0061】
電源投入時停止ステップにおける電源投入後所定期間としては、例えば、電気化学式センサ100を家屋に設置し、電源を投入した際に行う電気化学式センサ100の点検に要する時間以上を設定すると好適である。ここで、電源投入後所定期間としては、例えば25分を採用することが可能である。
【0062】
このように、本発明の電気化学式センサ100の使用方法は、点検用ガスが吹き付けられた場合に、プラス電流から一時的にマイナス電流に転じるという電気化学式センサ100に特有の特性を利用するものである。特に、本実施形態における電気化学式センサ100としてのCOセンサに、点検用のガスとして高濃度のH2ガスを吹き付けた場合に誤判定が生じることを効果的に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、検知対象ガスが反応する検知極及び酸素が反応する対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備えて構成された電気化学式センサを用い、前記対極から前記検知極へ外部短絡回路を介して流れる電流をプラス電流、逆方向に流れる電流をマイナス電流として、前記マイナス電流が流れる場合にセンサに異常があると判定する判定手段を備えた警報装置に適応可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 電解質層
2 アノード極(検知極)
3 カソード極(対極)
6 拡散制御板(拡散制御手段)
6a 拡散制御孔
11 センサ手段
60 警報装置
100 電気化学式センサ
211b 判定手段
212 判定停止手段
213 電源投入時停止手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象ガスが反応する検知極及び酸素が反応する対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備えた電気化学式センサを用い、前記対極から前記検知極へ外部短絡回路を介して流れる電流をプラス電流、逆方向に流れる電流をマイナス電流として、前記マイナス電流が流れる場合にセンサに異常があると判定する判定手段を備えた警報装置における電気化学式センサの使用方法であって、
前記検知極に検知対象ガスが接触した状態で、前記プラス電流が検出された後、前記マイナス電流が検出された場合に、
前記マイナス電流の検出後、判定停止所定期間、前記判定手段による判定を停止する電気化学式センサの使用方法。
【請求項2】
前記電気化学式センサの電源投入時に、電源投入後所定期間、前記判定手段による判定を停止する請求項1に記載の電気化学式センサの使用方法。
【請求項3】
前記判定手段が、判定所定期間、前記マイナス電流が流れ続けた場合に、前記電気化学式センサが異常であると判定する請求項1又は2に記載の電気化学式センサの使用方法。
【請求項4】
検知対象ガスが反応する検知極及び酸素が反応する対極を電解質層の両側に接続したセンサ手段と、外気に含まれる前記検知対象ガスが前記検知極に拡散律速で接触するように前記外気の流入量を制御する拡散制御孔を形成した拡散制御手段とを備えた電気化学式センサを用いて構成され、
前記対極から前記検知極へ外部短絡回路を介して流れる電流をプラス電流、逆方向に流れる電流をマイナス電流として、前記マイナス電流が流れる場合にセンサに異常があると判定する判定手段を備えた警報装置であって、
前記検知極に検知対象ガスが接触した状態で、前記プラス電流が検出された後、前記マイナス電流が検出された場合に、
前記マイナス電流の検出後、判定停止所定期間、前記判定手段による判定を停止する判定停止手段を備える警報装置。
【請求項5】
前記電気化学式センサの電源投入時に、電源投入後所定期間、前記判定手段による判定を停止する電源投入時停止手段を備える請求項4に記載の警報装置。
【請求項6】
前記判定手段が、判定所定期間、前記マイナス電流が流れ続けた場合に、前記電気化学式センサが異常であると判定する請求項4又は5に記載の警報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−15463(P2013−15463A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149518(P2011−149518)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】