説明

電気又は電子機器用ハウジング

【課題】ハーフミラーを形成する金属膜が著しく剥がれ難い電気又は電子機器用ハウジングを提供する。
【解決手段】少なくとも一部がポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含む成形体、及び該成形体の少なくとも一つの表面に密着している金属膜から構成されて、ハーフミラーを形成しているところの電気又は電子機器用ハウジング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気又は電子機器用ハウジングに関する。
【背景技術】
【0002】
発光することにより情報を表示する発光表示手段、例えば、発光ダイオード(LED)から構成される表示手段又は液晶とバックライトとを組み合わせた表示手段等をハウジング内に有する電気・電子機器において、発光表示手段が発光していない状態では、ハウジング外部から該表示手段が見えない方がデザイン的に好まれる。発光表示手段が発光していない状態において内部にある表示手段が透けて見えることを防止するために、ハーフミラーが通常使用されている。例えば、ハーフミラーを形成する金属膜(1’’)を片面に施与した透明プラスチックシート(8’’)を、発光表示手段(3’’)の情報表示部分(4’’)に対向する透明なハウジング構成部品(2’’)の表面に張り付けたものがある(図3)。しかし、張り付けたシートが剥がれたり又は金属膜自体が剥がれたりすると言う欠点があった。シートの剥がれを解決するために、情報表示部分(4’)に対向するハウジング構成部品(2’)を透明な樹脂で形成し、該ハウジング構成部品(2’)の表面にハーフミラーを形成する金属膜(1’)を直接施与することが考えられた。該方法ではシート自体を使用しないのでシートの剥がれはないが、ハーフミラーを形成する金属膜(1’)が剥がれ易いと言う欠点はなお解決することができなかった。そこで、従来は、施与された金属膜を保護するために、その上に更に透明なハウジング構成部品(6’)を設けてハウジングを二重構造にしていた(図2)。図3のハウジングでは、予めハーフミラー状のシートを作成してハウジングに張り付けるので部品数及び組立工数が増え、デザイン上の一体感もなく、情報表示部分に対向するハウジング部の形状も平面に限られ、かつシート端とハウジングとの間に隙間が生じてここにごみや水分がたまると言う欠点も有していた。図2のハウジングでは、二重構造にすることから部品数及び組立工数が増え、更に、薄型化、軽量化が困難となり、かつ透過率が低下すると言う欠点も有していた。また、金属膜を施与するに際して、予めハウジング構成部品(2’)の表面を荒らすと言う処理が必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ハーフミラーを形成する金属膜が著しく剥がれ難い電気又は電子機器用ハウジングを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記従来の電気又は電子機器用ハウジングの有する欠点を解決すべく種々検討した。その結果、現存する多数の光透過性樹脂の中から、ポリエーテルイミド及びポリエーテルスルホンを選び出し、そしてこれらの樹脂により、ハウジングの一部分、即ち、ハウジング内部にある発光表示手段の情報表示部分に対抗するハウジング部分を形成し、かつ該ハウジング部分の表面に金属膜を施与してハーフミラーを形成すれば、従来使用していたポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート等の樹脂とは異なり、金属膜の樹脂への接着性が著しく良好となり、従って、ハウジングを二重構造にしなくてよい及び金属膜施与に際してハウジングの金属膜施与部分を予め荒らすという操作が不要であるなどの種々の利点が得られることを見出した。
【0005】
即ち、本発明は、
(1)少なくとも一部がポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含む成形体、及び該成形体の少なくとも一つの表面に密着している金属膜から構成されて、ハーフミラーを形成しているところの電気又は電子機器用ハウジングである。
【0006】
好ましい態様として、
(2)ポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含む成形体が着色剤を含むところの上記(1)記載の電気又は電子機器用ハウジング、
(3)金属膜が、スパッタリング法、真空蒸着法又はイオンプレーティング法により施与されているところの上記(2)又は(3)記載の電気又は電子機器用ハウジング、
(4)金属膜がアルミニウムであるところの上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の電気又は電子機器用ハウジング、
(5)発光することにより情報を表示する発光表示手段をハウジング内部に有し、かつ成形体の外側表面に金属膜を有し、該発光表示手段が発光している状態において、該光が該金属膜及び該成形体を透過して、ハウジング外部から表示された情報が見え、該発光表示手段が発光していない状態において、ハウジング外部からの光が該金属膜で反射されて、ハウジング外部から該金属膜が見えるところの上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の電気又は電子機器用ハウジング、
(6)発光することにより情報を表示する発光表示手段をハウジング内部に有し、かつ成形体の内側表面に金属膜を有しかつ成形体が着色剤を含まず、該発光表示手段が発光している状態において、該光が該金属膜及び該成形体を透過して、ハウジング外部から表示された情報が見え、該発光表示手段が発光していない状態において、ハウジング外部からの光が該金属膜で反射されて、ハウジング外部から該金属膜が見えるところの上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の電気又は電子機器用ハウジング、
(7)成形体が着色剤を含み、該発光表示手段が発光していない状態において、ハウジング外部からの光が成形体及び金属膜の両方で反射されて、ハウジング外部から成形体の色及び金属膜の両方が見えるところの上記(6)記載の電気又は電子機器用ハウジング、
(8)発光表示手段の情報表示部分に対向するハウジング部分がポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含むところの上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の電気又は電子機器用ハウジング、
(9)金属膜が、ポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含む成形体の外側表面又は内側表面に施与されているところの上記(1)〜(8)のいずれか一つに記載の電気又は電子機器用ハウジング、
(10)ポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含む成形体が、成形体質量に対して50質量%以上のポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含むところの上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の電気又は電子機器用ハウジング、
(11)ポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含む成形体が、成形体質量に対して70質量%以上のポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含むところの上記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の電気又は電子機器用ハウジング
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電気又は電子機器用ハウジングは、ハーフミラーを形成する金属膜が著しく剥がれ難い。従って、従来のようにハウジングを二重構造にしなくても金属膜が剥がれることなく、長期間の使用に耐えることができる。故に、電気又は電子機器の薄型化、軽量化が可能である。従来は金属膜を施与するに際して、金属膜と樹脂との接着強度を高めるために樹脂表面を荒らすなどの表面処理が必須であったが、本発明ではこのような表面処理をしなくても、十分な接着強度を得ることができる。上記のことから、本発明のハウジングでは、部品数及び組立工数を大幅に減少することが可能である。また、デザイン的にも自由度が増し、三次元曲面を有するハウジングも自由に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の電気又は電子機器用ハウジングを構成する成形体の少なくとも一部は、光透過性樹脂であるポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含む。電気又は電子機器用ハウジングは、その内部に、発光することにより情報を表示する発光表示手段を有し、かつ該発光表示手段の情報表示部分に対向するハウジング部分がポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含む。ポリエーテルイミドとして、例えば、日本ジーイープラスチックス株式会社製ウルテム(ULTEM)(商標)を使用することができる。ポリエーテルスルホンとして、例えば住友化学株式会社製スミカエクセルPESを使用することができる。これら以外の光透過性樹脂、例えば、現在、小型ミュージックプレーヤー等のハウジングに広く使用されているポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂等では、これら樹脂の表面にハーフミラーを形成する金属膜を施与した際、該金属膜が剥がれ易いと言う欠点を生ずる。また、これら従来の樹脂では、金属膜を施与する前に樹脂表面を予め荒らす等の表面処理を施す必要がある。また、ハウジングが所望の色に見えるように、ポリエーテルイミド及びポリエーテルスルホンを含む成形体は着色剤を含むことができる。着色剤としては、ポリエーテルイミド及びポリエーテルスルホンを含む成形体の光透過性を保持し得るものであれば制限はなく、公知のものを使用することができる。ポリエーテルイミド及びポリエーテルスルホンを含む成形品の光線透過率は好ましくは20%以上である。ここで、ポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含むとは、本発明の効果を失わない限りにおいて、ポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホン以外の他の樹脂とのブレンド及びコポリマーも包含する意味である。ポリエーテルイミド及びポリエーテルスルホンを含む成形体は、他の樹脂とのブレンドにあってはポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホン樹脂を、又は他の樹脂とのコポリマーにあってはポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホン単位を成形体質量に対して好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上含む。
【0009】
ハーフミラーを形成する金属膜は公知である。例えば、アルミニウム、金、銀、ニッケル、銅、白金等の金属、これら金属の化合物、及びこれらの金属を含む合金等が挙げられる。金属膜は、これら金属、金属化合物又は金属合金の単層膜又は多層膜であり得る。金属膜の厚さは所望する透過率を得るように適宜変更することができる。例えば、着色剤を含まない成形体にアルミニウム膜を施した場合においては、膜の厚みが20〜25nm程度の成形体で透過率が12〜18%程度であり、膜の厚みが15nm程度の成形体で透過率が20〜25%程度である。ここで、透過率は可視光による全光線透過率を意味する。通常、金属膜の厚みは、発光表示手段が発光していない状態において、ハウジング外部から発光表示手段が殆ど又は全く見えない透過率を得るように定められる。該金属膜は、発光表示手段の情報表示部分に対向するハウジング部分を構成するポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含む成形体の外側表面に施与されてもよく又は内側表面に施与されてもよい。また、金属膜の傷付きを防止すべく、ハードコートやクリアコート等の保護膜を金属膜上に施与することもできる。
【0010】
ハーフミラーを形成する金属膜を施与する方法は公知である。例えば、スパッタリング法、真空蒸着法又はイオンプレーティング法を使用することができる。このうち、スパッタリング法が好ましい。
【0011】
電気又は電子機器に使用する、発光することにより情報を表示する発光表示手段は公知である。該発光表示手段はその表面の一部に情報表示部分を有する。該発光表示手段として、例えば、発光ダイオード(LED)から構成される表示手段、又は液晶とバックライトとを組み合わせた表示手段等が挙げられる。
【0012】
本発明のハウジングAを、図1を使用して説明する。1はハーフミラーを形成する金属膜であり、2はポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含むハウジング構成部品であり、3は発光表示手段であり、4は情報表示部分であり、かつ5はハウジング構成部品である。ハウジング構成部品2はポリエーテルイミド若しくはポリエーテルスルホン、又はポリエーテルイミド若しくはポリエーテルスルホンを含むブレンド又はコポリマーから射出成形、押出成形等により製造することができる。成形品の好ましい厚みは1〜3mm程度である。一方、ハウジング構成部品5の材質に特に制限はなく、樹脂、金属等が使用されるが、軽量化が求められる場合には樹脂が好ましく使用される。該樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂等が使用される。ハウジング構成部品5も上記と同様に、射出成形、押出成形等により製造することができる。ハーフミラーを形成する金属膜1は、上記のようにして製造されたハウジング構成部品2の表面に、スパッタリング法、真空蒸着法又はイオンプレーティング法により施与される。次いで、発光表示手段3及び所定の電気又は電子機器を製造するために必要な部品等を、ハウジング構成部品2とハウジング構成部品5との間の所定の位置に収納して、両者のハウジング構成部品を結合する。該電気又は電子機器は、発光表示手段が発光している状態では、該発光表示手段からの光が、金属膜1及びハウジング構成部品2を透過して、ハウジング外部から表示された情報、例えば、文字、図形等が見える。一方、発光表示手段が発光していない状態では、ハウジング外部から発光表示手段は殆ど又は全く見えない。即ち、成形体の外側表面に金属膜を有する場合には、又は成形体の内側表面に金属膜を有しかつ成形体が着色剤を含まない場合には、ハウジング外部からの光が該金属膜で反射されて、ハウジング外部から金属膜が見える。成形体の内側表面に金属膜を有しかつ成形体が着色剤を含む場合には、ハウジング外部からの光が成形体及び金属膜の両方で反射されて、ハウジング外部から成形体の色及び金属膜の両方が見える。
【0013】
(実施例)
ポリエーテルイミド(ウルテム1000、商標、日本ジーイープラスチックス株式会社製)を使用して、ハウジング構成部品2を射出成形により製造した。次いで、スパッタリング法及び真空蒸着法を使用して、夫々、ハウジング構成部品2の外側表面に厚みが15nmとなるようにアルミニウム金属膜を施与した。
【0014】
(比較例)
ポリカーボネート(レキサン121、商標、日本ジーイープラスチックス株式会社製)及びポリエチレンテレフタレート(ルミラー、商標、東レ株式会社、及びテトロン、マイラー、メリネックス、商標、帝人デュポンフィルム株式会社)を使用した以外は上記の実施例と同一に実施した。但し、真空蒸着に先立ってハウジング構成部品2の表面を荒らす処理をした。スパッタリング法においては温度上昇によりポリカーボネート及びポリエチレンテレフタレートが変質及び変形したので、金属膜の施与はできなかった。
【0015】
各金属膜の接着強度をクロスカット法(JIS K5600-5-6)を使用して測定した。実施例の金属膜は、比較例の金属膜に比べて著しく良好な接着強度を有していた。また、実施例において、スパッタリング法を使用して施与した金属膜は、真空蒸着法を使用して施与した金属膜に比べて良好な接着強度を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の電気又は電子機器用ハウジングは、例えば、ウォークマン(商標、ソニー株式会社製)、iPod(商標、アップルコンピューターインコーポレーテッド製)等の小型ミュージックプレーヤー、時計、電話、携帯電話、ゲーム機、計算機、電子辞書、ノートPC、DVDプレーヤー、リモコン、スケール、家電表示部、調理器具、厨房機器、船舶・鉄道・航空機・自動二輪・自動車用機器、店舗什器の表示具、医療機器等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明のハウジングの概略断面図を示す。
【図2】図2は、二重構造のハウジングを有する従来型ハウジングの概略断面図を示す。
【図3】図3は、シートを張り付けた従来型ハウジングの概略断面図を示す。
【符号の説明】
【0018】
A:本発明のハウジング
1:ハーフミラーを形成する金属膜
2:ポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含むハウジング構成部品
3:発光表示手段
4:発光表示手段の情報表示部分
5:ハウジング構成部品
B:二重構造の従来型ハウジング
1’:ハーフミラーを形成する金属膜
2’:光透過性樹脂から作られた内側のハウジング構成部品
3’:発光表示手段
4’:発光表示手段の情報表示部分
5’:内側のハウジング構成部品
6’:光透過性樹脂から作られた外側のハウジング構成部品
7’:外側のハウジング構成部品
C:シートを張り付けた従来型ハウジング
1’’:ハーフミラーを形成する金属膜
2’’:光透過性樹脂から作られたハウジング構成部品
3’’:発光表示手段
4’’:発光表示手段の情報表示部分
5’’:ハウジング構成部品
8’’:透明プラスチックシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部がポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含む成形体、及び該成形体の少なくとも一つの表面に密着している金属膜から構成されて、ハーフミラーを形成しているところの電気又は電子機器用ハウジング。
【請求項2】
ポリエーテルイミド又はポリエーテルスルホンを含む成形体が着色剤を含むところの請求項1記載の電気又は電子機器用ハウジング。
【請求項3】
発光することにより情報を表示する発光表示手段をハウジング内部に有し、かつ成形体の外側表面に金属膜を有し、該発光表示手段が発光している状態において、該光が該金属膜及び該成形体を透過して、ハウジング外部から表示された情報が見え、該発光表示手段が発光していない状態において、ハウジング外部からの光が該金属膜で反射されて、ハウジング外部から該金属膜が見えるところの請求項1又は2記載の電気又は電子機器用ハウジング。
【請求項4】
発光することにより情報を表示する発光表示手段をハウジング内部に有し、かつ成形体の内側表面に金属膜を有しかつ成形体が着色剤を含まず、該発光表示手段が発光している状態において、該光が該金属膜及び該成形体を透過して、ハウジング外部から表示された情報が見え、該発光表示手段が発光していない状態において、ハウジング外部からの光が該金属膜で反射されて、ハウジング外部から該金属膜が見えるところの請求項1記載の電気又は電子機器用ハウジング。
【請求項5】
成形体が着色剤を含み、該発光表示手段が発光していない状態において、ハウジング外部からの光が成形体及び金属膜の両方で反射されて、ハウジング外部から成形体の色及び金属膜の両方が見えるところの請求項4記載の電気又は電子機器用ハウジング。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate