説明

電気抵抗炉用電極の傾きと電極に加わる外力を検出する方法及び装置

【課題】電極の傾きを定量的に検出して、吊りロッドの切損による水漏れ、ブスチューブの切損によるスパークなど電極が傾くことによって生ずるトラブルを解消することができる電気抵抗炉用電極の傾きを検出する方法。
【解決手段】電気抵抗炉に複数のワイヤを介して吊持される電極に対し、該電極を中間部において昇降かつ前後左右に傾動可能に支持する支点よりも炉内と反対側の上方で横方向に位置をずらして配置され、電極までの変位を計測する2個の変位センサーと、該センサーによって計測された変位と、上記支点から変位センサーによる計測点までの距離とから電極の傾きと、傾きの方向を算出する演算部と、該演算部によって算出された電極の傾きと方向を示す表示手段とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気抵抗炉に用いる電極の傾き及び電極に外力が横方向から加わったときの外力を検出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気抵抗炉には、3相交流電力を使用する場合、電極が3個配置されている。図1は、電気抵抗炉に用いる電極1の支持装置について示すもので、二本のワイヤ2によって吊持される保持装置3に電極1を弛緩可能にクランプする電極ホルダー4が三本の吊りロッド5によって連結され、ワイヤ2をウインチにより巻取り、或いは巻戻すことにより保持装置3及び電極ホルダー装置4が電極1と共に昇降するようになっている。
【0003】
吊りロッド5には冷却管が通され、これより電極ホルダー4を通って循環する冷却水で電極ホルダー4の冷却が行われるようになっており、電極ホルダー4には図示していないが、電気配線を通したブスチューブが連結されている。
【0004】
電極1は円筒状の電極ケース1aと、電極ケース1aに充填される炭素質のペースト状電極材からなり、この電極材は電極ホルダー4に供給される電流のジュール熱と炉内からの熱により焼成され、硬化かつ強化されるようになっている。図中、1bは硬化部分を示す。
【0005】
電極1はまた、吊りロッド5と共に耐熱材で構成されるフロア6の貫通孔7、8に遊びを持たせて嵌挿されている。そしてフロア6上で周方向に等間隔で設けた3個のガイドローラ9により昇降可能に三点支持され、上記遊びの範囲内でガイドローラ9を支点として前後左右に傾動しうるようになっている。図中、11は保持装置3上方において電極1に側方より当てられ、電極1を支持するガイドローラで、該ガイドローラは3個の各電極1に対し、図2に示すように配置されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1に示す電極1は、保持装置3を吊持する二本のワイヤ2のうち、一方が他方に対し緩み或いは引張られることによりガイドローラ9を支点として傾き、この傾きは、原料の吹上げ防止や電極長測定のため、電極を昇降操作する際に生じ易い。
【0007】
こうした電極の傾きは、大きいと目視による判断ができるが、小さければ傾きを認識することができず、小さな傾きでもこれと共に傾く吊ロッド5がフロア6の貫通孔7の孔縁に当ってスパークを生じ、これにより水漏れを起したり、ブスチューブが本来接触してはならない箇所に接触して切損し、電気配線がスパークするなどの事故を発生させることがある。
【0008】
電極はまた、電気抵抗炉内に降下させ、或いは繰出したとき、先端が図3に示すように電気抵抗炉13内に残る硬い溶け残り原料14に当って図の矢印方向に押出されようとする外力を受けて傾くことがある。電極1の傾きにより上述する問題が生ずるほか、電極1下端部に横方向からの外力が加わると、焼成が進んでいない強度の弱い箇所との境目で電極が折損して、その下の部分が抜け落ちることがあり、抜け落ちると、その上の焼成していない電極が最悪の場合には電極ケース1aから流れ出る、いわゆる中抜けと証される事故を生ずることがある。こうした問題は、図4に示すように開放型の電気抵抗炉13において、原料投入シュート15より炉内に投入された原料16が山盛りになったとき、熊手状の均し器17で原料均しを行う場合にも同様に生ずる。すなわち均し器17で原料16を押込んで均す際、電極1に横方向の力が加わりがちである。
【0009】
本発明は、電極の傾きを定量的に検出して、吊りロッドの切損による水漏れ、ブスチューブの切損によるスパークなど電極が傾くことによって生ずるトラブルを解消することを第1の目的とし、電極先端部に横方向からの外力が加わったときの外力を検出して電極の折損によるトラブルを解消することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係わる発明は、第1の目的を達成する方法に関するもので、電気抵抗炉に複数のワイヤを介して吊持される電極に対し、該電極を中間部において昇降かつ前後左右に傾動可能に支持する支点よりも炉内と反対側の上方に変位センサーを横方向に位置をずらして複数、好ましくは2個配置し、各変位センサーから電極までの変位を計測して電極の傾きと、その方向を求めて表示手段に表示することを特徴とする。
【0011】
本発明で用いる表示手段は、以下の発明においても同様であるが、CRT、液晶等のディスプレイからなるものである。
【0012】
本発明において用いられる変位センサーは、電極までの距離を計測するセンサーで、好ましくは超音波センサー、レーザセンサーなどの非接触型センサーである。このセンサーは後述の荷重センサー又は圧力センサーもそうであるが、好ましくはエアパージ等の粉塵対策及び絶縁対策が取られ、絶縁対策としては例えば床、架台等に固定するのに絶縁ゴムシートを介して固定され、信号ケーブルにも絶縁のため被覆される。
【0013】
変位センサーは上述するように複数配置されるが、2個配置する場合、各センサーは例えば平行又は直交して配置される。平行に配置する場合の電極の傾きと、その方向は次のようにして求めることができる。図5において、電極1が傾いていない実線位置の状態で、変位センサーA及びBがそれぞれ電極1までの変位を求め、計測点a及びbでの座標(x、y)(x、y)を求める。ここでy−yは両変位センサーA、B間の距離である。a、b点での座標が求められると、a及びb点から電極1の半径Rの交点である電極中心Oの座標(x、y)が求められる。電極1が傾いて一点鎖線位置になったとする。このときの計測点c及びdの座標は変位センサーA及びBによる計測により同様にして(x、y)(x、y)として求められ、電極中心O´の座標(x´、y´)が求められる。そして予め求めておいた上記支点における電極中心O0の座標(x0、y0)とO´の座標(x´、y´)から電極1の傾きと、傾きの方向が求められる。すなわちOO間の長さはx=xであるからy−yであり、OO´間の長さδは、下記数1式より求められ、電極の傾きθは下記数2式から求められる。
【0014】
【数1】

【0015】
【数2】

【0016】
また電極の傾きの方向である図5に示す角γは、下記数3式より求められる。
【0017】
【数3】

請求項2に係わる発明は、第1の目的を達成する装置に関するもので、電気抵抗炉に複数のワイヤを介して吊持される電極に対し、該電極を中間部において昇降かつ前後左右に傾動可能に支持する支点よりも炉内と反対側の上方で横方向に位置をずらして配置され、電極までの変位を計測する複数、好ましくは2個の変位センサーと、該センサーによって計測された変位と、上記支点から変位センサーによる計測点までの距離とから電極の傾きと、傾きの方向を算出する演算部と、該演算部によって算出された電極の傾きと方向を示す表示手段とからなることを特徴とする。
【0018】
本発明の演算部は、パソコンにより構成され、図5に例示される方法の場合、電極中心O´の座標、電極1の傾きと、その方向を算出する。
【0019】
請求項3に係わる発明は、請求項2に係わる発明に画像処理手段を設け、演算部で算出されたデータを画像処理してディスプレイに電極の三次元画像を表示することを特徴とする。
【0020】
請求項4に係わる発明は、請求項2に係わる発明において、しきい値を格納する記憶部と、演算部で演算された電極の傾きと、前記記憶手段に格納されたしきい値を比較する比較部と、警報ランプ、ブザー等の警報手段よりなり、演算部で演算された電極の傾きが記憶部に格納されたしきい値を超えたとき、比較部からの出力に基づいて警報手段が警報表示することを特徴とする。
【0021】
請求項5に係わる発明は、第2の目的を達成する方法に関するもので、請求項1に係わる発明において、適宜の角度で交差する方向のうち、少なくとも一方の方向から電極に当るガイドローラにロードセル等の荷重センサー又は圧力センサーを設け、該荷重センサー又は圧力センサーで電極から押付けられる押付力又は圧力を計測して電極が傾く方向の押付力又は圧力を求めることを特徴とする。
【0022】
請求項6に係わる発明は、第2の目的を達成する装置に関するもので、請求項2又は3に係わる発明において、適宜の角度で交差する方向のうち、少なくとも一方の方向から電極に当てられるガイドローラと、該ガイドローラに押付けられる電極の押付力又は圧力を計測するロードセル等の荷重センサー又は圧力センサーを設け、該荷重センサー又は圧力センサーからの出力に基づいて表示手段に押付力又は圧力が表示されることを特徴とする。
【0023】
請求項7に係わる発明は、請求項6に係わる発明において、しきい値を格納する記憶部と、荷重センサーで検出した荷重又は圧力と記憶部に格納されたしきい値を比較する比較部と、警報ランプ、ブザー等の警報手段よりなり、荷重センサー又は圧力センサーで検出した荷重又は圧力が記憶部に格納されたしきい値を超えたとき比較部からの出力に基づいて警報手段が警報表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1及び2に係わる発明によると、電極の傾きやその方向を表示手段から定量的に把握することができ、傾きの程度によって、例えばワイヤ操作をしたり、図6に示すように炉内に原料を投入する原料投入シュート15の位置や向き及び投入される原料の量を変え、或いは電極の昇降をガイドするガイドローラの水平方向の位置調整により傾き調整を行い、もって吊りロッドの切損による水漏れ、耐熱チューブの切損によるスパークなどのトラブルを未然に防ぐことができる。
【0025】
請求項3に係わる発明によると、表示手段に電極が三次元表示されることにより、電極の傾きやその方向の確認をより一層容易に行い、傾き調整をより容易に行うことができる。
【0026】
請求項4に係わる発明によると、電極が一定量以上傾いたとき、警報手段から警報されることにより電極が傾くことによって生ずる上述のトラブルをより確実に防ぐことができる。
【0027】
請求項5及び6に係わる発明によると、電極の傾き及びその方向と共に、電極から受ける荷重又は圧力により、電極先端部に横方向から加わる外力を把握することができ、外力の程度を見ながらワイヤ操作により電極を昇降或いは傾斜させたり、原料投入の向き及びその量を変え、或いは電極を昇降するガイドローラの水平方向の位置調整をすることで電極に加わる外力を軽減させ、これにより電極の折損によるトラブルを防ぐことができる。
【0028】
請求項7に係わる発明によると、電極に一定量以上の外力が加わったとき、警報手段から警報されることにより電極の折損によるトラブルをより確実に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面により説明する。
本発明が適用される電極の支持装置は、図1に示す電極1の支持装置において、ガイドローラ11に荷重センサーであるロードセルを設けて電極1がガイドローラ11に押付けられるときの押付力を計測し、またロードセルと同じ水平面上に変位センサーであるレーザセンサーを2個、図5に示す変位センサーA、Bのように配置して電極1までの距離を計測するようにしている。
【0030】
図7は、電極1の傾きと電極1に加わる外力を検出する装置について示すもので、記憶部21には、ガイドローラ9による支点での電極中心Oの座標(x、y)と、電極1が傾いていない状態でのレーザセンサーと同レベルにおける電極中心Oの座標(x、y)が予め求めておいて格納されると共に、前述の数1〜数3式が格納され、また電極1の傾きと、電極1がガイドロール11を押付けるときの押付力に関するしきい値が格納されている。
【0031】
演算部22は、レーザセンサー23により計測された電極1までの距離から、電極中心O´の座標(x´、y´)を演算し、ついで記憶部21に格納された電極中心Oの座標x、yを読み出して数1式によりδを演算する。次に記憶部21から読み出した電極中心Oの座標(x、y)と電極中心Oの座標(x、y)からy−yを求め、数2式から電極1の傾きθを演算する。そして数3式から電極1の傾きの方向γを演算する。
【0032】
画像処理部24は、電極中心Oの座標(x、y)と電極の傾きθ及び傾きの方向γから三次元画像を求め、制御部25に出力する。
【0033】
比較部26は、演算部22で演算された電極1の傾きθと記憶部21から読み出したしきい値及びロードセル27により計測された電極1のガイドローラ11への押付力と記憶部21から読み出したしきい値を比較し、それぞれしきい値を超えたとき制御部25に出力するようになっている。
【0034】
制御部25は、記憶部21、演算部22、画像処理部24、比較部26を制御し、演算部22で演算された電極の傾きθ及び傾きの方向γを液晶ディスプレイよりなるモニター28に表示すると共に、画像処理部24からのデータ出力により電極1を三次元表示するようになっており、また比較部26からの出力により警報手段であるブザー29に出力して警報音を発生させるようになっている。そしてこれら制御部25、記憶部21、演算部22、画像処理部24及び比較部26はパソコンを構成されている。
【0035】
本実施形態によると、年に数回発生していた電極の折損事故が年に1回以下に抑えることができた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】吊持された電極の概略正面図。
【図2】電極とガイドローラの配置図。
【図3】電極が溶け残り原料に接触した状態を示す図。
【図4】電気抵抗炉内の原料を均すときの状態を示す図。
【図5】電極の変位を求める線図。
【図6】原料投入の態様を示す図。
【図7】本発明に係わるブロック図。
【符号の説明】
【0037】
1・・電極
2・・ワイヤ
3・・保持装置
4・・電極ホルダー装置
5・・吊りロッド
6・・フロア
7、8・・貫通孔
9、11・・ガイドローラ
13・・電気抵抗炉
14・・溶け残り原料
15・・原料投入シュート
16・・原料
17・・均し器
21・・記憶部
22・・演算部
23・・レーザセンサー
24・・画像処理部
25・・制御部
26・・比較部
27・・ロードセル
28・・モニター
29・・ブザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気抵抗炉に複数のワイヤを介して吊持される電極に対し、該電極を中間部において昇降かつ前後左右に傾動可能に支持する支点よりも炉内と反対側の上方に変位センサーを横方向に位置をずらして複数配置し、各変位センサーから電極までの変位を計測して電極の傾きと、その方向を求めて表示手段に表示することを特徴とする電極の傾きを検出する方法。
【請求項2】
電気抵抗炉に複数のワイヤを介して吊持される電極に対し、該電極を中間部において昇降かつ前後左右に傾動可能に支持する支点よりも炉内と反対側の上方で横方向に位置をずらして配置され、電極までの変位を計測する複数の変位センサーと、該センサーによって計測された変位と、上記支点から変位センサーによる計測点までの距離とから電極の傾きと、傾きの方向を算出する演算部と、該演算部によって算出された電極の傾きと方向を示す表示手段とからなることを特徴とする電極の傾きを検出する装置。
【請求項3】
画像処理手段を設け、演算部で算出されたデータを画像処理して表示手段に電極の三次元画像を表示することを特徴とする請求項2記載の電極の傾きを検出する装置。
【請求項4】
しきい値を格納する記憶部と、演算部で演算された電極の傾きと、前記記憶手段に格納されたしきい値を比較する比較部と、警報ランプ、ブザー等の警報手段よりなり、演算部で演算された電極の傾きが記憶部に格納されたしきい値を超えたとき、比較部からの出力に基づいて警報手段が警報表示することを特徴とする請求項2記載の電極の傾きを検出する装置。
【請求項5】
適宜の角度で交差する方向のうち、少なくとも一方の方向から電極に当るガイドローラにロードセル等の荷重センサー又は圧力センサーを設け、該荷重センサー又は圧力センサーで電極から押付けられる押付力又は圧力を計測して電極が傾く方向の押付力又は圧力を求めることを特徴とする請求項1記載の電極の傾きを検出する方法。
【請求項6】
適宜の角度で交差する方向のうち、少なくとも一方の方向から電極に当てられるガイドローラと、該ガイドローラに押付けられる電極の押付力又は圧力を計測するロードセル等の荷重センサー又は圧力センサーを設け、該荷重センサー又は圧力センサーからの出力に基づいて表示手段に押付力又は圧力が表示されることを特徴とする請求項2又は3記載の電極の傾きを検出する装置。
【請求項7】
しきい値を格納する記憶部と、荷重センサーで検出した荷重又は圧力と記憶部に格納されたしきい値を比較する比較部と、警報ランプ、ブザー等の警報手段よりなり、荷重センサー又は圧力センサーで検出した荷重又は圧力が記憶部に格納されたしきい値を超えたとき比較部からの出力に基づいて警報手段が警報表示することを特徴とする請求項6記載の電極の傾きを検出する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−255877(P2007−255877A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84817(P2006−84817)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】