説明

電気接続箱の固定構造

【課題】衝突の発生の初期から終期まで適切に移動方向を定めることができる電気接続箱の固定構造を提供すること。
【解決手段】本発明による電気接続箱の固定構造は、車両側の構造部材Sに中間部材2を介して固定される電気接続箱1の固定構造であって、中間部材2に電気接続箱1を固定する第一固定部3と、中間部材2を構造部材Sに固定する第二固定部4とを含み、電気接続箱1は第一固定部3の周囲に第一強度調整部1asを有し、第一強度調整部1asは電気接続箱1の第一強度調整部1as以外の部分よりも低い強度を有し、電気接続箱1は頂面部1aと中間部材2側に面する側面1bとにより構成される角部1abを有し、中間部材2は角部1abに対向する対向面部2aを有し、対向面部2aは頂面部1aに対して傾斜していることを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源供給端子や信号端子等を集約したコネクタを一方側と他方側にそれぞれ含み、コネクタ相互間を電気的に連結するとともに、ヒューズブロックやリレーボックス、ECU等の電子装置を収納する機能を選択的に有するジャンクションブロックすなわち電気接続箱に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電源供給線や信号線を適宜集約し分配する配電箱又は電気接続箱として、例えば、特許文献1に記載されているような電気接続箱が提案されている。このような電気接続箱においては、車体側の構造部材への取り付けに用いられる脚にスリットや切り欠きを有する破壊誘発部を具備しており、車両衝突時の衝撃力が作用すると破壊が誘発されて、電気接続箱をある移動方向に退避させて、電気接続箱が有する剛性により、車両前部のエンジンルームの衝撃吸収性能を損なわないことを確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−233357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このような電気接続箱においては、上述した脚が有するスリットや切り欠きにより電気接続箱の移動方向を定めており、衝突の初期における脚の破壊時においてのみしか、移動方向を定めることができない。
【0005】
すなわち、車両衝突時の初期以降、換言すれば、脚の破壊時である初期から最終的に電気接続箱が車両前部内の床面に近接又は落下するまでの終期まで、電気接続箱の挙動を管理し、衝突前の初期位置から最終的に電気接続箱を移動させるべき目標位置までの移動方向を定めることが困難であるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、衝突の発生の初期から終期まで適切に移動方向を定めることができる電気接続箱の固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題を解決するため、本発明の電気接続箱は、
車両側の構造部材に中間部材を介して固定される電気接続箱の固定構造であって、
前記中間部材に前記電気接続箱を固定する第一固定部と、
前記中間部材を前記構造部材に固定する第二固定部と、を含み、
前記電気接続箱は前記第一固定部の周囲に第一強度調整部を有し、
当該第一強度調整部は前記電気接続箱の当該第一強度調整部以外の部分よりも低い強度を有し、
前記電気接続箱は頂面部と前記中間部材側に面する側面とにより構成される角部を有し、
前記中間部材は前記角部に対向する対向面部を有し、当該対向面部は前記頂面部に対して傾斜していることを特徴とする。
【0008】
すなわち、衝突の発生の初期において前記第一強度調整部を境界として、前記電気接続箱が前記中間部材から離脱されるとともに、離脱後の前記電気接続箱を前記対向面部と前記角部との衝突に伴う入力によっての当接に基づいて、初期から終期に至るまで適切に案内することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、衝突の発生の初期から終期まで適切に前記電気接続箱の移動方向を定めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る実施例1のジャンクションボックス1(電気接続箱)とブラケット2(中間部材)を含む固定構造の一実施形態を右前方から視て示す模式斜視図である。
【図2】実施例1のジャンクションボックス1の頂面部1aの環状溝部1asの態様を示す模式図である。
【図3】実施例1のジャンクションボックス1の脚部5の根元の溝部5aの態様を示す模式図である。
【図4】実施例1のジャンクションボックス1とブラケット2を後方から視て示す模式図である。
【図5】実施例1のジャンクションボックス1とブラケット2を左方LHから視て示す模式図である。
【図6】実施例1のジャンクションボックス1がブラケット2から離脱する態様を右下方から視て示す模式図である。
【図7】実施例1のジャンクションボックス1に作用する入力Fに対する移動方向Mの相対関係を示す模式図である。
【図8】本発明に係る実施例2のジャンクションボックス1とブラケット2を含む固定構造の一実施形態を後方から視て示す模式図である。
【図9】実施例2のジャンクションボックス1とブラケット2を右前方から視て示す模式斜視図である。
【図10】実施例2のジャンクションボックス1とブラケット2を左方LHから視て示す模式図である。
【図11】実施例2のジャンクションボックス1に作用する入力Fに対する移動方向Mの相対関係を示す模式図である。
【図12】本発明に係る実施例3のジャンクションボックス1とブラケット2を含む固定構造の一実施形態を後方から視て示す模式図である。
【図13】実施例3のジャンクションボックス1とブラケット2を右前方から視て示す模式斜視図である。
【図14】実施例3のジャンクションボックス1とブラケット2を左方LHから視て示す模式図である。
【図15】実施例3のジャンクションボックス1がブラケット2から離脱する態様を右下方から視て示す模式図である。
【図16】実施例3のジャンクションボックス1に作用する入力Fに対する移動方向Mの相対関係を示す模式図である。
【図17】本発明に係る実施例4のジャンクションボックス1とブラケット2を含む固定構造の一実施形態を右前方から視て示す模式斜視図である。
【図18】実施例4のジャンクションボックス1とブラケット2を後方から視て示す模式図である。
【図19】実施例4のジャンクションボックス1とブラケット2を左方LHから視て示す模式図である。
【図20】実施例4のジャンクションボックス1に作用する入力Fに対する移動方向Mの相対関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0012】
図1に示すように、本実施例1の電気接続箱であるジャンクションボックス1は、複数の箱形を適宜組み合わせた多面体形状をなす、例えば合成樹脂からなる筐体を有しており、図示は省略するが、電源の供給、信号の授受、分配を適宜可能とする導体により構成される所定のパターンを具備する基板と、対応するコネクタ、リレーユニット、ヒューズユニット、ECUユニット等を適宜具備している。なお、以下の図中において、FRは車両の前方を、LHは車幅方向の左方を、UPは上下方向の上方を指す。
【0013】
本実施例1の電気接続箱の固定構造は、車両側の構造部材であるインパネリンフォースSに中間部材であるブラケット2を介して固定される電気接続箱の固定構造である。この固定構造は、ブラケット2にジャンクションボックス1の頂面部1aを固定する第一固定部3と、ブラケット2をインパネリンフォースSに固定する第二固定部4とを含む。第一固定部3はボルト3aと対応するナット3bとにより構成され、第二固定部4もボルトと対応するナットとにより構成される。ボルト3aの頭部はジャンクションボックス1の筐体の頂面部1a内に成型段階にて埋設されており、ボルト3aの雄ネジ部は筐体の頂面部1aから露出されている。
【0014】
図2に示すように、頂面部1aは第一固定部3のボルト3aの周囲に環状溝部1asを有し、この環状溝部1asは環状溝部1as以外の頂面部1aよりも強度の低い第一強度調整部を構成する。頂面部1aの環状溝部1asの内周側には円環部1acが形成され、円環部1acの外周縁はボルト3aの頭部の例えば六角形の投影形状に外接する又投影形状を外包する形態を有する。
【0015】
また、ジャンクションボックス1は、図1に示すように、頂面部1aとブラケット2側に面する側面1bとにより構成される角部1abを有し、ブラケット2は角部1abに対向する対向面部2aを有し、対向面部2aは頂面部1aに対して平行又は垂直をなさずに傾斜している。ここでは、頂面部1aは上方UPに対して垂直をなし、対向面部2aは、前下方つまり前方FRかつ下方に法線が指向するように傾斜している。
【0016】
ブラケット2は、図1に示されるように、対向面部2aの前端から前方に延びて、第一固定部3のボルト3aが挿通される穴部を有する前端平板部2bと、前端平板部2b及び対向面部2aの左端から下方に所定高さだけ延在する左ガイド部2cと、対向面部2aの右端から上方に延びる三角形状板部2dと、前端平板部2bの右端と三角形状板部2dの上端を連結するとともに三角形状板部2dよりも後方に突出する梁部2eを備えている。梁部2eの後端部が第二固定部4を構成するボルトが挿通される穴部を具備している。対向面部2aの前端近傍は前端平板部2bに対してスムーズに連結されるように曲面形状部が形成されている。ブラケット2は圧延鋼板等の金属製の母材を適宜プレス加工や折り曲げ加工することにより構成される。
【0017】
なお、図1中において、ブラケット2の上方側に位置するくの字状の車両側の構造部材は、上述した構造部材Sに連結されるものであり、上述したインパネリンフォースSに図示しないダッシュパネルを結合する部材である。また斜めに延びるアームはインパネ内の部品をインパネリンフォースSに連結する部材である。
【0018】
図3に示すように、ジャンクションボックス1は車両側の床部材にボルト6と対応する図示しないナット又は雌ネジ部により固定されるL字平板状の脚部5を有し、脚部5は根元に複数の溝部5aを有している。溝部5aはここでは脚部5のジャンクションボックス1の筐体との境界部分にジャンクションボックス1の表面に沿う方向に複数並列される。この複数の溝部5aは、溝部5aが設けられる箇所以外の脚部5の部分に対して強度の低い第二強度調整部を構成する。
【0019】
図4に示すように、角部1abは凸形状部1abaを有し、対向面部2aは凸形状部1abaの移動方向を規制するスリット部2abを有する。スリット部2abは対向面部2aに沿うとともに前後方向に延在する。凸形状部1abaは頭頂部1abahを有し、スリット部2abの内縁部は頭頂部1babhを上下方向に支持する。
【0020】
本実施例1では、ジャンクションボックス1の頂面部1aに埋設されたボルト3aをブラケット2の前端平板部2bの穴部に挿通して、ボルト3aの雄ネジ部にナット3bを螺合した後、スリット部2abの上側から、凸形状部1abaを角部1abに嵌合又は接着等の適宜の接合手段により後付けで取り付けて、図5に示すような、ジャンクションボックス1とブラケット2を含むアッシーを構成する。この一体化されたアッシーの後端が第二固定部4のボルトとナットにより車両側の構造部材Sに固定され、アッシーが含むジャンクションボックス1の脚部5がボルト6により車両側の床部材に固定される。
【0021】
このようにジャンクションボックス1がブラケット2を介して車両側に固定される。ここで、車両の前方に他の障害物が衝突した場合を考える。この場合には、車両の前方からジャンクションボックス1に入力が作用し、この入力により、図2に示した、ジャンクションボックス1とブラケット2との固定箇所である第一固定部3の周囲に位置する環状溝部1asは、その他の頂面部1aに対して低強度であることに起因して破壊され、図2の右図に示すように、第一固定部3のボルト3aの頭部は頭部に対応するワッシャと円環部1acとともに、頂面部1aから破断されて離脱される。
【0022】
同様に、ジャンクションボックス1の車両側の床部材への固定箇所である脚部5についても、根元の複数の溝部5aが設けられた箇所は、その他の箇所の脚部5よりも低強度であることに起因して破壊され、図3の右図に示すように、脚部5は床部材に固定されたまま、根元において脚部5からジャンクションボックス1は破断され離脱される。なお、図3の右図において5Rは破断した後に残る付け根部を指す。
【0023】
この態様を右下方から視て示す図6に示すように、ジャンクションボックス1は、ブラケット2及び床部材の双方から拘束を受けなくなり、上述した衝突時の入力に基づいて、角部1abが対向面部2aに当接され案内されつつ、上述した凸形状部1abaがスリット部2abの延在する方向に案内され、かつ、左ガイド部2cにより左方への移動が拘束されながら、ジャンクションボックス1は後方かつ下方に移動され、凸形状部1abaがスリット部2abの後端に到達した所で停止される。
【0024】
つまり、図7に示すように、車両の前方からの衝突時の入力Fに対して、ジャンクションボックス1の移動方向Mは、後方かつ下方へと、衝突の初期から終期まで厳密に管理されることとなる。なお、図7においては図示の便宜状、凸形状部1abaを分離して示している。
【0025】
すなわち、第二固定部4の周囲の環状溝部1asや脚部5の根元の溝部5aの破壊される衝突の初期だけではなく、破壊された後の中期及び後期においても、対向面部2aと角部1abとの当接と、凸形状部1abaとスリット部2abとの相対移動可能な嵌合の双方による案内作用に基づいて、ジャンクションボックス1の移動方向Mは正確に管理され、車両の前部のエンジンルーム内での他の車載機器との干渉を防止することができる。
【0026】
また、ブラケット2の左ガイド部2cによりジャンクションボックス1の左方への移動をより強固に拘束することができる。なお、図7において頂面部1aはボルト3aが外れた後には円環部1acが離脱されて円孔状の痕跡部1Hが残る。また、図3と同様に、脚部5の根元には付け根部5Rが残る。
【0027】
これにより、特にエンジンルーム内でジャンクションボックス1が衝突時の入力Fにより移動することに伴い、他の車載機器と干渉することでインパネよりも車室内側にこの車載機器がはみ出して、車室内空間に干渉してしまうことを防止することができる。
【0028】
特に本実施例1に示した形態においては、スリット部2abは凸形状部1abaの頭頂部1abahを上下方向に初期から終期にわたって支持しており、ジャンクションボックス1が後方に移動を終了した後においても、ジャンクションボックス1を上下方向に支持することができる。このため、ジャンクションボックス1を衝突の終期においてもブラケット2により保持して、ジャンクションボックス1の底面が床面に接触することを防止することができる。
【0029】
また、初期においてジャンクションボックス1の第二固定部4の周囲の環状溝部1asと脚部5の根元の溝部5aが破壊されることとして、ジャンクションボックス1のブラケット2に対する相対移動を許容することとしても、ジャンクションボックス1の底面よりも真っ直ぐ下方に位置する他の車載機器には干渉することがないため、ジャンクションボックス1の下方に配置できる車載機器の選択自由度を高めることができる。
【0030】
上述した実施例1においては、凸形状部1abaをジャンクションボックス1の角部1abに対して、アッシーを構成した後で後付けする形態を示したが、凸形状部1abaを一体成形にてジャンクションボックス1が具備することとしてもよい。以下それについての実施例2について述べる。
【実施例2】
【0031】
ジャンクションボックス1及びブラケット2の基本的な構成は実施例1に示したものと同様である。すなわち、図8に示すように、ジャンクションボックス1の角部1abは凸形状部1abaを一体的に有し、ブラケット2の対向面部2aは凸形状部1abaの移動方向を規制する凹形状部2abaを有する。
【0032】
また、凸形状部1abaは頭頂部1abahを有し、凹形状部2abaは頭頂部1abahを上下方向に支持するためのT字状の断面形状空間を有している。すなわち本実施例2においては、図9に示すように、対向面部2aの凹形状部2abaを前上から視ると、実施例1の図1とは相違しスリット状の穴を構成せず、上に突出する凸条部を構成する。
【0033】
本実施例2では、ジャンクションボックス1の角部1abに予め設けられた凸形状部1abaを凹形状部2abaの前端部の図示しない挿入口から挿入した後、頂面部1aに埋設された第一固定部3のボルト3aをブラケット2の前端平板部2bの穴部に挿通して、ボルト3aの雄ネジ部にナット3bを螺合した後、図10に示すような、ジャンクションボックス1とブラケット2を含むアッシーを構成する。この一体化されたアッシーは実施例1と同様に、後端側が第二固定部4のボルトとナットにより車両側の構造部材Sに固定され、アッシーが含むジャンクションボックス1の脚部5がボルト6により車両側の床部材に固定される。
【0034】
衝突が発生すると実施例1と同様に、車両の前方からジャンクションボックス1に後方に向かう入力が作用し、この入力により、ジャンクションボックス1の環状溝部1asは破壊され、第一固定部3のボルト3aの頭部はワッシャと円環部1acとともに、頂面部1aから破断されて離脱される。ジャンクションボックス1についても、脚部5は床部材に固定された状態で、溝部5aが位置する根元において脚部5からジャンクションボックス1は破断され離脱される。
【0035】
このようにして実施例2のジャンクションボックス1は、ブラケット2及び床部材の双方から拘束を受けなくなり、上述した衝突時の入力に基づいて、角部1abが対向面部2aに当接されつつ、上述した凸形状部1abaが凹形状部2abaの延在する方向に案内されるとともに、左ガイド部2cにより左方への移動が拘束されながら、ジャンクションボックス1は後方かつ下方に移動されて、凸形状部1abaが凹形状部2abaの後端部に到達した所で停止される。
【0036】
すなわち、図11に示すように、車両の前方からの衝突時の入力Fに対して、ジャンクションボックス1の移動方向Mは、後方かつ下方へと、衝突の初期から終期まで厳密に管理されることとなり、環状溝部1asや溝部5aの破壊される衝突の初期だけではなく、破壊された後の中期及び後期においても、対向面部2aと角部1abと当接と、凸形状部1abaと凹形状部2abaとの相対移動可能な嵌合の双方による案内作用に基づいて、ジャンクションボックス1の移動方向Mは正確に管理される。従って、車両の前部のエンジンルーム内での他の車載機器との干渉を防止することができる。
【0037】
これにより、特にエンジンルーム内でジャンクションボックス1が衝突時の入力Fにより移動することに伴い、他の車載機器と干渉することでインパネよりも車室内側にこの車載機器がはみ出して、車室内空間に干渉してしまうことを防止することができる。
【0038】
特に本実施例2に示した形態においては、凹形状部2abaは凸形状部1abaの頭頂部1abahを上下方向に初期から終期にかけてより強固に支持しており、ジャンクションボックス1が後方に移動を終了した後においても、ジャンクションボックス1を上下方向により強固に支持することができる。このため、ジャンクションボックス1を衝突の終期においてもブラケット2によって比較的強固に保持して、ジャンクションボックス1の底面が床面に接触することを防止することができる。
【0039】
また、初期においてジャンクションボックス1の環状溝部1asと溝部5aが破壊されることとして、ジャンクションボックス1のブラケット2及び床部材に対する相対移動を開始させても、ジャンクションボックス1の底面の真下に位置する他の車載機器には干渉させないことができる。このため、ジャンクションボックス1の下方に位置する車載機器を保護することができる。
【0040】
上述した実施例2に示した固定構造においては、凸形状部1abaを前後方向に一条設ける構成としているが、複数条、例えば三条設け、両側の凸形状部については実施例1と同様のスリット部をブラケット2側に設け、中央の凸形状部に対して実施例2と同様の凹形状部を具備させることとすることもできる。以下それについての実施例3について述べる。
【実施例3】
【0041】
本実施例3のジャンクションボックス1及びブラケット2の基本的な構成は実施例2に示したものと同様であって図12に示すように、ジャンクションボックス1の角部1abは凸形状部1abaを有し、ブラケット2の対向面部2aは凸形状部1abaの移動方向を規制する凹形状部2abaを有する。また、凸形状部1abaは頭頂部1abahを有し、凹形状部2abaは頭頂部1abahを上下方向に支持するためのT字状の断面形状空間を有している。
【0042】
これに加えて、本実施例3のジャンクションボックス1においては、凸形状部1abaの左方にL字形状の凸形状部1abcを有し、凸形状部1abaの右方に逆L字形状の凸形状部1abdを有している。
【0043】
これに対応して、本実施例3のブラケット2の対向面部2aは、凸形状部1abcの根元部を挿通するスリット部2abcを凹形状部2abaの左方に有し、凸形状部1abdの根元部を挿通するスリット部2abdを凹形状部2abaの右方に有している。
【0044】
つまり、図13に示すように、対向面部2aの凹形状部2abaの上側は上に突出する凸条部を構成するとともに、その両側にスリット部2abc、2abdが形成され、スリット部2abcには凸形状部1abcが、スリット部2abdには凸形状部2abdが挿通され係合される。
【0045】
本実施例3では、ジャンクションボックス1の角部1abに予め設けられた凸形状部1aba、1abc、1abdをそれぞれ凹形状部2aba、スリット部2abc、2abdの前端部の図示しない挿入口から挿入し係合した後、頂面部1aに埋設されたボルト3aをブラケット2の前端平板部2bの穴部に挿通して、ボルト3aの雄ネジ部にナット3bを螺合した後に、図14に示すような、ジャンクションボックス1とブラケット2を含むアッシーを構成する。
【0046】
この一体化されたアッシーは実施例2と同様に、後端側が第二固定部4のボルトとナットにより車両側の構造部材Sに固定され、アッシーが含むジャンクションボックス1の脚部5がボルト6により車両側の床部材に固定される。
【0047】
衝突が発生すると、車両の前方からジャンクションボックス1に後方に向かう入力が作用し、この入力により、ジャンクションボックス1の環状溝部1asは破壊され、第一固定部3のボルト3aの頭部はワッシャと円環部1acとともに、図15に示すように、頂面部1aから破断されて離脱される。ジャンクションボックス1の脚部5についても床部材に固定された状態で、根元において脚部5からジャンクションボックス1は破断されて離脱される。
【0048】
こうして実施例3のジャンクションボックス1は、ブラケット2及び床部材の双方から拘束を受けなくなり、上述した衝突時の入力に基づいて、角部1abが対向面部2aに当接されながら、上述した凸形状部1abaが凹形状部2abaの延在する方向に案内されるとともに、さらに、左右一対の凸形状部1abc、1abdがスリット部2abc、2abdにより案内されて、左ガイド部2cにより左方への移動が拘束されながら、ジャンクションボックス1は後方かつ下方に移動されて、凸形状部1abaが凹形状部2abaの後端部に到達した所で停止される。
【0049】
すなわち、図16に示すように、車両の前方からの衝突時の入力Fに対して、ジャンクションボックス1の移動方向Mは、後方かつ下方へと、衝突初期から終期まで正確に管理されて、衝突の初期のみならず中期及び後期においても、対向面部2aと角部1abと当接と、凸形状部1abaと凹形状部2abaとの相対移動可能な嵌合及び凸形状部1abc、1abdとスリット部2abc、2abdの係合の双方による案内作用に基づいて、ジャンクションボックス1の移動方向Mは正確に管理される。
【0050】
特に本実施例3に示した形態においては、凹形状部2abaは凸形状部1abaの頭頂部1abahを上下方向に初期から終期にかけてより強固に支持するとともに、さらに一対の凸形状部1abc、1abdを一対のスリット部2abc、2abdにより二重に支持し、かつ凸形状部1abc、1abdはスリット部2abc、2abdの間の対向面部2aを左右方向から挟持しているため、ジャンクションボックス1が後方に移動を終了した後においても、ジャンクションボックス1を上下方向により強固に支持することができる。このため、ジャンクションボックス1を衝突の終期においてもブラケット2によってより強固に保持して、ジャンクションボックス1の底面が床面に接触することを防止することができる。
【0051】
上述した実施例1〜3の形態に加えて、又は換えて、ブラケット2の前端平板部2bから舌片部を設け、舌片部に対応する孔部をジャンクションボックス1の頂面部1aの前端部に設けて、舌片部と孔部を組み合わせることによって案内機能を具備させることもできる。以下それについての実施例4について述べる。
【実施例4】
【0052】
本実施例4においては、図17に示すように、実施例3の構成に加えて、ブラケット2の前端平板部2bはジャンクションボックス1に向けて延びる舌片部2bbを有し、ジャンクションボックス1の頂面部1aは前端部に舌片部2bbを挿通可能な孔部1bbを有している。
【0053】
孔部1bbの上下方向の寸法は、舌片部2bbの上下方向の厚みよりも、図18に示すように、数倍程度大きく設定される。孔部1bbの左右方向の寸法は舌片部2bbの左右方向の寸法よりもわずかに大きく設定される。
【0054】
また、図17に示す、上述した衝突の初期以前の状態において、舌片部2bbの前端を孔部1bbの後端の位置よりも前方にわずかに突出させて前後方向にオーバーラップさせ、衝突の後期において、舌片部2bbの前端の位置が、孔部1bbの前端の位置に一致させるように、舌片部2bbと孔部1bbの長さが設定される。
【0055】
本実施例4によれば、図19に示すように、衝突後、環状溝部1as及び溝部5a近傍の脚部5が破断した後に、舌片部2bbにより孔部1bbを上下方向に支持し左右方向に拘束することとなるので、ジャンクションボックス1の前端側を有効に保持することができる。これにより、凸形状部1abaに作用する荷重を軽減してジャンクションボックス1の設計自由度を高めることができる。
【0056】
また、舌片部2bbの厚みに比べて孔部1bbの上下方向寸法を十分大きなものとしているので、ジャンクションボックス1の特には下方への移動を吸収しつつ、孔部1bbが舌片部2bbを上下方向に支持し、左右方向に拘束することができる。
【0057】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができ、実施例相互間を適宜組み合わせた形態を採用することもできる。
【0058】
例えば上述した実施例においては、ジャンクションボックス1の頂面部1aの長手方向が車両の前方FRに一致する場合を示しているが、完全に一致することは必須ではなく、衝突時の入力Fが長手方向に対して分力を有する程度の傾斜角度を有していてもよい。
【0059】
また、上述した実施例においては、ジャンクションボックス1の移動方向を後方に一致させる形態としているが、例えば、実施例1において、スリット部2abの前端に対して後端を右方又は左方にオフセットさせ、前後方向にスリット部2abを傾斜させることにより、ジャンクションボックス1を衝突の初期から終期に後方に移動させるとともに、右方又は左方へも移動させることもできる。さらに、衝突の終期においてブラケット2がジャンクションボックス1を床面から離隔して保持することは必須ではなく、脱落させることも可能である。
【0060】
またブラケット2が固定される対象はインパネリンフォースS等の車体そのものの構造部材に限られるものではなく、電気接続箱つまりジャンクションボックス1側から視て車両側の構造部材であればよい。すなわち、固定対象はエアコン及びコンプレッサーを支持する構造部材や、ECU等の電装機器を支持する構造部材であってもよい。さらに、第一固定部3の個数や設置箇所、脚部5の個数や設置箇所は上述した実施例の形態に限られるものでなく、適宜設定し変更することが可能である。
【0061】
加えて第一強度調整部、第二強度調整部の形態についても上述した実施例の形態に限られるものではなく、その他の部分に対して強度を低下する機能を有する形状であれば、溝以外の形態を用いることももちろん可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明による電気接続箱の固定構造によれば、衝突発生時の車両の前部において、電気接続箱に対して車両前方から後方に衝撃的な入力が作用した場合でも、電気接続箱を後方かつ下方に適切に移動させて、その移動方向を移動初期から終期まで適切に保持し、前部内部の他の周辺機器との干渉を避けるとともに、前部の衝撃吸収性能を確保することができる。従って本発明の電気接続箱の固定構造は通常の乗用車、トラック、バス等の様々な車両に適用して有益なものである。
【符号の説明】
【0063】
1 ジャンクションボックス(電気接続箱)
1a 頂面部
1as 環状溝部(第一強度調整部)
1ac 円環部
1ab 角部
1aba 凸形状部
1abc 凸形状部(左:L字)
1abd 凸形状部(右:逆L字)
2 ブラケット(中間部材)
2a 対向面部
2ab スリット部
2aba 凹形状部
2abc スリット部(左)
2abd スリット部(右)
2b 前端平板部
2c 左ガイド部
2d 三角形状板部
2e 梁部
3 第一固定部
3a ボルト
3b ナット
4 第二固定部
5 脚部
5a 溝部(第二強度調整部)
6 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両側の構造部材に中間部材を介して固定される電気接続箱の固定構造であって、前記中間部材に前記電気接続箱を固定する第一固定部と、前記中間部材を前記構造部材に固定する第二固定部とを含み、前記電気接続箱は前記第一固定部の周囲に第一強度調整部を有し、当該第一強度調整部は前記電気接続箱の当該第一強度調整部以外の部分よりも低い強度を有し、前記電気接続箱は頂面部と前記中間部材側に面する側面とにより構成される角部を有し、前記中間部材は前記角部に対向する対向面部を有し、当該対向面部は前記頂面部に対して傾斜していることを特徴とする電気接続箱の固定構造。
【請求項2】
前記電気接続箱は前記車両側の床部材に固定される脚部を有し、当該脚部は根元に第二強度調整部を有し、当該第二強度調整部は前記脚部の当該第二強度調整部以外の部分よりも低い強度を有することを特徴とする請求項1に記載の電気接続箱の固定構造。
【請求項3】
前記角部は凸形状部を有し、前記対向面部は当該凸形状部の移動方向を規制するスリット部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電気接続箱の固定構造。
【請求項4】
前記凸形状部は頭頂部を有し、前記スリット部は当該頭頂部を上下方向に支持することを特徴とする請求項3に記載の電気接続箱の固定構造。
【請求項5】
前記角部は凸形状部を有し、前記対向面部は当該凸形状部の移動方向を規制する凹形状部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電気接続箱の固定構造。
【請求項6】
前記凸形状部は頭頂部を有し、前記凹形状部は当該頭頂部を上下方向に支持することを特徴とする請求項5に記載の電気接続箱の固定構造。
【請求項7】
前記中間部材は前記電気接続箱に向けて延びる舌片部を有し、前記電気接続箱は当該舌片部を挿通可能な孔部を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電気接続箱の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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