電気機器稼動状況推定システム及びプログラム
【課題】 学習の必要がない効率的な推定が可能な電気機器稼動状況推定システムを提供する。
【解決手段】 本発明は、同一の給電線に接続された複数の電気機器の稼働状況を推定する電気機器稼動状況推定システムに関する。そして、給電線に流れる電流波形の情報を抽出する特徴量抽出手段と、各電気機器について、その電気機器だけが稼働しているときの電流波形の情報を格納している個別機器情報記憶手段とを有する。さらに、複数の電気機器の稼働状況の組み合わせを個体の遺伝子配列とし、個体の遺伝子配列に基づいて、個別機器情報記憶手段から1又は複数の電流波形の情報を得て、抽出された給電線に流れる電流波形の情報と比較する情報を形成して評価する遺伝的アルゴリズムを実行し、複数の電気機器の稼動状況の推定結果を得る電気機器稼動状況推定手段を有する。
【解決手段】 本発明は、同一の給電線に接続された複数の電気機器の稼働状況を推定する電気機器稼動状況推定システムに関する。そして、給電線に流れる電流波形の情報を抽出する特徴量抽出手段と、各電気機器について、その電気機器だけが稼働しているときの電流波形の情報を格納している個別機器情報記憶手段とを有する。さらに、複数の電気機器の稼働状況の組み合わせを個体の遺伝子配列とし、個体の遺伝子配列に基づいて、個別機器情報記憶手段から1又は複数の電流波形の情報を得て、抽出された給電線に流れる電流波形の情報と比較する情報を形成して評価する遺伝的アルゴリズムを実行し、複数の電気機器の稼動状況の推定結果を得る電気機器稼動状況推定手段を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気機器稼動状況推定システム及びプログラムに関し、例えば、複数の電気機器や電子機器(以下、電気機器や電子機器を合わせて電気機器と呼ぶ)に共通の給電線に取り付けられたセンサの情報から、複数の電気機器の稼動状況を推定する場合に適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
昨今のようなエコロジーが叫ばれる時代においては、家庭や事業所等で、各電気機器がどのように稼働されているかを把握しておくとは重要である。しかしながら、各電気機器毎に、稼働状況を検出するためのセンサ等を設けることは、費用負担が多大となり、実際的ではない。
【0003】
そのため、従来、電力需要家で使われている複数の電気機器の稼動状況を推定する方法として、1個のセンサによって、複数の電気機器の稼動状況を推定する特許文献1に記載のシステムが既に提案されている。このシステムにおいては、電源幹線部に電源電流、電源電圧等を測定する測定センサを設置し、各電気機器の稼動状況に応じた高調波成分等の特徴量を用いて各電気機器の稼動状態を推定する。より具体的に言えば、このシステムでは、測定センサから得られる電源電圧及び電源電流の高調波とその位相差を基に、ニューラルネットワークを用いたパターン認識によって各電気機器の稼動状況を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−292465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のシステムでは、各電気機器が単独で稼動する場合の種々の動作状態の組み合わせについて、予め測定した高調波電流とそれらの電圧に対する位相に関するデータと、そのときの解答である電気機器の動作状態を、教師データとして、ニューラルネットワークを事前に学習させる必要がある。さらに、新しい電気機器が増設される毎に、このニューラルネットワークを再学習させる必要ある。このため、ニューラルネットワークの構築に掛かる処理時間が膨大であるという課題がある。
【0006】
本発明は、以上のような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、学習の必要がないか若しくはごく少ない、効率的な推定が可能な電気機器稼動状況推定システム及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の本発明は、同一の給電線に接続された複数の電気機器の稼働状況を推定する電気機器稼動状況推定システムにおいて、(1)上記給電線に流れる電流波形の情報を抽出する特徴量抽出手段と、(2)上記各電気機器について、その電気機器だけが稼働しているときの電流波形の情報を格納している個別機器情報記憶手段と、(3)複数の電気機器の稼働状況の組み合わせを個体の遺伝子配列とし、個体の遺伝子配列に基づいて、上記個別機器情報記憶手段から1又は複数の電流波形の情報を得て、上記特徴量抽出手段が抽出した上記給電線に流れる電流波形の情報と比較する情報を形成して評価する遺伝的アルゴリズムを実行し、複数の電気機器の稼動状況の推定結果を得る電気機器稼動状況推定手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
第2の本発明は、同一の給電線に接続された複数の電気機器の稼働状況を推定する電気機器稼動状況推定プログラムであって、コンピュータを、(1)上記給電線に流れる電流波形の情報を抽出する特徴量抽出手段と、(2)上記各電気機器について、その電気機器だけが稼働しているときの電流波形の情報を格納している個別機器情報記憶手段と、(3)複数の電気機器の稼働状況の組み合わせを個体の遺伝子配列とし、個体の遺伝子配列に基づいて、上記個別機器情報記憶手段から1又は複数の電流波形の情報を得て、上記特徴量抽出手段が抽出した上記給電線に流れる電流波形の情報と比較する情報を形成して評価する遺伝的アルゴリズムを実行し、複数の電気機器の稼動状況の推定結果を得る電気機器稼動状況推定手段として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、学習の必要がないか若しくはごく少ない、効率的な推定が可能な電気機器稼動状況推定システム及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係る電気機器稼動状況推定システムの機能的構成を示すブロック図である。
【図2】電子レンジの動作モード毎の電流波形を示す電流波形図である。
【図3】電気機器毎の個別電流波形と、給電線を流れる総電流波形とを示す電流波形図である。
【図4】第1の実施形態における遺伝子配列の説明図である。
【図5】第1の実施形態における電気機器稼動状況推定部が利用している遺伝的アルゴリズムの処理の概要を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態における個体の初期集団の生成処理の説明図である。
【図7】第1の実施形態における選択処理(トーナメント選択処理)の説明図である。
【図8】第1の実施形態における1点交叉処理の説明図である。
【図9】類似している蛍光灯及びテレビの電流波形を示す電流波形図である。
【図10】第1の実施形態における突然変異処理の説明図である。
【図11】第2の実施形態に係る電気機器稼動状況推定システムの機能的構成を示すブロック図である。
【図12】テレビについての電流波形の周波数特性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(A)第1の実施形態
以下、本発明による電気機器稼動状況推定システム及びプログラムの第1の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、第1の実施形態の電気機器稼動状況推定システムが家庭に設けられているとして説明するが、電気機器稼動状況推定システムの設置対象は家庭に限定されないことは勿論である。
【0012】
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態に係る電気機器稼動状況推定システムの機能的構成を示すブロック図である。
【0013】
図1において、第1の実施形態の電気機器稼動状況推定システム1は、複数台(図1ではN台)の電気機器2−1、…、電気機器2−Nの稼働電流が重畳して流れる給電線3の位置に介挿されている。
【0014】
電気機器稼動状況推定システム1が介挿されている給電線3の位置は、例えば、家屋全体に対する給電線の位置であっても良く、また、1階、2階等、家屋を複数の区画で構成されていると見た場合におけるいずれかの区画用の給電線の位置であっても良い。また、例えば、ブレーカシステム等の給電スイッチ4の近傍に電気機器稼動状況推定システム1を設置するようにしても良く、また、ブレーカシステムと融合させて電気機器稼動状況推定システム1を構成したものであっても良い。
【0015】
電気機器2−n(nは1〜N)は、当該機器のプラグをコンセントへ差し込むことによって給電線3から給電が可能となるものだけでなく、家屋に当初から据え付けられたものであっても良い。例えば、掃除機、電子レンジ、ヘアードライヤー、アイロン、トースター、テレビ(テレビジョン受像機)、冷蔵庫、蛍光灯、エアコン等を挙げることができる。但し、電気機器2−nの種類は、後述する電気機器特徴量データベース(電気機器特徴量DB)14に、基準波形パターンが登録されているものであることを要する。なお、この第1の実施形態の場合、例えば、テレビが2台ある場合には、それぞれのテレビが異なる電気機器となる。
【0016】
電気機器稼動状況推定システム1は、機能的には、測定センサ11、特徴量抽出部12、電気機器稼動状況推定部13、電気機器特徴量DB14及び推定結果出力部15を有する。ここで、特徴量抽出部12は、アナログ/ディジタル変換部(AD変換部)21及び波形情報抽出部22を有する。
【0017】
波形情報抽出部22、電気機器稼動状況推定部13、電気機器特徴量DB14及び推定結果出力部15の全て又は一部は、プログラムとそれを実行するコンピュータとによって実現されたものであっても良い。
【0018】
測定センサ11は、電気機器2−1、…、電気機器2−Nの稼働電流が重畳して流れる給電線3の位置の電流及び電圧を測定して、電流波形信号及び電圧波形信号をそれぞれ特徴量抽出部12へ出力するものである。
【0019】
特徴量抽出部12は、その時点で稼働状態にある電気機器の組み合わせに応じた特徴量(後述する稼働時電流波形の重畳波形)を抽出するものである。
【0020】
特徴量抽出部12におけるAD変換部21は、測定センサ11からのアナログ信号でなる電流波形信号及び電圧波形信号をそれぞれ、ディジタル信号に変換するものである。ここで、サンプリングレートは任意であるが、電気機器毎の個別の稼働電流の中で、最も高い意味が有る高周波数成分を有する稼働電流を考慮して選定すれば良い。
【0021】
波形情報抽出部22は、電圧波形信号(ディジタル信号)の0クロス点に同期した電流波形信号(ディジタル信号)の時点から、電圧波形信号(ディジタル信号)の次の0クロス点に同期した電流波形信号(ディジタル信号)の時点までの電流波形パターンを、その時点で稼働状態にある電気機器の組み合わせに応じた特徴量として抽出するものである。
【0022】
電気機器2−1〜2−Nの中には容量性負荷もあれば誘導性負荷もあり、そのため、稼働状態にある電気機器の組み合わせで定まる稼働電流の重量電流(重畳稼働電流)の位相は、供給電圧の位相に対して一定ではなく、稼働状態にある電気機器の組み合わせに対して変化する。また、全ての電気機器2−1〜2−Nのそれぞれについての稼働電流波形は、電源電圧周波数の波形が含有しているという性質を有する。そのため、重畳稼働電流そのものの変化から波形を切り出すよりも、50Hz又は60Hzの安定した正弦波波形の電圧波形に基づいて、重畳稼働電流からの切り出し期間を定めて切り出すこととし、切出し精度の向上を図っている。
【0023】
ここで、波形情報抽出部22は、期間(電圧波形の相前後する0クロス間の期間)が異なる複数の電流波形パターンを得、これらの複数の電流波形パターンの時間軸を揃えて合成したり平均を求めたりして雑音を低減し、雑音低減後の電流波形パターンを、その時点で稼働状態にある電気機器の組み合わせに応じた特徴量として抽出するようにしても良い。
【0024】
また、波形情報抽出部22は、合成又は平均に供する複数の電流波形パターンが、所定の類似度(例えば差分二乗和が閾値以内)を有することを確認して、合成又は平均に供するようにしても良く、また、合成処理や平均処理を実行しない場合であっても、特徴量とする抽出する電流波形パターンと、その直前期間や直後期間の電流波形パターンとが、所定の類似度を有することを確認して抽出を有効とするようにしても良い。多くの電気機器は、オンからオフへの変化時やオフからオンへの変化時においては、過渡現象により通常時とは異なる波形の電流が流れる。このような過度期間の影響を排除するように、波形情報抽出部22が特徴量(電流波形パターン)を得ることが好ましい。
【0025】
電気機器特徴量DB14には、各電気機器2−1、…、2−Nについての個別電流波形パターンが格納されている(後述する図3(A1)〜図3(A3)参照)。個別電流波形パターンは、その電気機器2−nだけが稼働している場合に得られた電流波形から、電圧波形の0クロスに基づいて切り出された部分のパターン(ディジタル信号)である。電気機器特徴量DB14に格納しておく個別電流波形パターンは、電気機器2−nのメーカーや消費者団体等から提供を受けたものであっても良く、また、電気機器稼動状況推定システム1を学習モードに設定し、学習対象の電気機器2−nだけを稼働状態にし(他の電気機器は非稼働状態)、そのとき、波形情報抽出部22から出力された電流波形パターンであっても良い。波形情報抽出部22が複数期間の電流波形パターンを合成又は平均したものを特徴とするものであれば、電気機器特徴量DB14に格納しておく個別電流波形パターンも、そのような処理に応じたものとする。
【0026】
電気機器の中には、強弱などの動作モードによって電流波形が大きく異なるものがある。例えば、 電子レンジは、図2に示すように、「1500W」モードと「500W」モードとでは電流波形の振幅などが大きく異なるものである。この第1の実施形態の場合、動作モードによって電流波形が大きく異なる電気機器については、動作モード毎の個別電流波形パターンを電気機器特徴量DB14に格納しておくこととしている。
【0027】
電気機器2−1〜2−Nの中に全く同じ製品(同じメーカーの同じ種類の同じ製造番号の製品)がある場合には、電気機器特徴量DB14に存在する数だけ同一の個別電流波形パターンを格納しておくようにしても良く、また、電気機器特徴量DB14に一つの個別電流波形パターンを格納しておき、稼働状態の数に応じて、その個別電流波形パターンを繰り返し読み出すようにしても良い。
【0028】
電気機器特徴量DB14としては、電気機器稼動状況推定システム1毎に備えるものを意図している。しかしながら、外部のサーバ等が電気機器特徴量DB14を有し、複数の電気機器稼動状況推定システム1がその電気機器特徴量DB14を共用するものであっても良い。
【0029】
電気機器稼動状況推定部13は、波形情報抽出部22が抽出した電流波形パターン(特徴量)が、電気機器特徴量DB14に格納されている複数の個別電流波形パターンをどのように組み合わせたときに最も類似しているかを探索することを通じて、稼働状態にある電気機器の組み合わせを推定するものである。
【0030】
この第1の実施形態の場合、電気機器稼動状況推定部13が推定処理に遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm;GA)を利用していることを特徴としている。電気機器稼動状況推定部13における推定処理(遺伝的アルゴリズム)の詳細については、「動作の説明」の項で明らかにする。
【0031】
推定結果出力部15は、電気機器稼動状況推定部13が得た稼働状態にある電気機器の組み合わせ(推定結果)を出力するものである。出力方法は、表示出力、印刷出力、記憶出力、他装置(例えば上位の監視装置)への送信出力等のいずれであっても良く、複数以上の出力方法が適用されていても良い。
【0032】
例えば、電気機器毎(動作モードが複数のものは動作モード毎)に対応するLED等の表示素子を用意しておき、稼働状態にある電気機器の表示素子だけを点灯させるようにしても良い。
【0033】
また例えば、当該電気機器稼動状況推定システム1の推定動作を所定時間(例えば1分)間隔で定期的に実行する場合においては、各時刻での推定結果をそのまま記憶するようにしても良く、これに代え、各電気機器毎(動作モードが複数のものは動作モード毎)に、オン状態の開始時刻とオン状態の終了時刻とを記録するようにしても良い。
【0034】
なお、有線や無線で接続されたパソコン端末や、テレビ等の家電機器や、リモコンや携帯電話等に転送して、転送先の機器で表示や記憶を実行させるようにしても良い。また、電力制御機器などの制御機器に送出するようにしても良い。例えば、エアコンに送出し、推定結果と予め定められている条件との照合によって、風量を「強」から「弱」へ変更させるようにしても良い。さらに、ネットワークを介して電気事業者や種々のモニタリングサーバ等に送出するようにしても良い。
【0035】
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態に係る電気機器稼動状況推定システムの動作を、図面を参照しながら説明する。
【0036】
電気機器稼動状況推定システム1は、オペレータが図示しない推定起動キーを操作したときに推定動作を開始する。また、所定周期(例えば1分毎)で自動的に推定動作を開始するようになっている場合には、電気機器稼動状況推定システム1は、内蔵する図示しないタイマの計時時刻が新たな推定動作の開始時刻になると推定動作を開始する。
【0037】
電気機器稼動状況推定システム1が新たな推定動作を開始したときには、測定センサ11によって、稼働状態にある全ての電気機器の電流が重畳して流れる給電線3の位置の電流及び電圧が測定されて特徴量抽出部12へ出力される。特徴量抽出部12のAD変換部21によって、測定センサ11からのアナログ信号でなる電流波形及び電圧波形はそれぞれ、ディジタル信号に変換された後、特徴量抽出部12の波形情報抽出部22によって、測定された電圧波形に同期した電圧波形の1周期の期間の電流波形を表す電流波形パターンが特徴量として抽出されて電気機器稼動状況推定部13に与えられる。
【0038】
第1の実施形態の電気機器稼動状況推定部13は、抽出された電流波形パターン(特徴量)が、電気機器特徴量DB14に格納されている複数の個別電流波形パターンをどのように組み合わせたときに最も類似しているかを、遺伝的アルゴリズムを利用して探索し、稼働状態にある電気機器の組み合わせを推定する。
【0039】
すなわち、電気機器稼動状況推定部13は、どの電気機器2−nが使用されて稼働状態にあるかを、給電線3に流れる総電流を測定することにより推定するものである。この際、測定される総電流は、オン状態(稼働状態)にある各電気機器に流れる電流の総和であり、各電気機器の稼働状態を合成した情報を持つことになる。この総電流の情報から電気機器個別の稼働状態を把握するためには、出力結果(総電流の情報)から入力(各電気機器の稼働状態)を推定する逆問題を解く必要がある。
【0040】
図3(A1)〜(A3)はそれぞれ、掃除機(VC)、ヘアードライヤー(HD)及びテレビ(TV)についての個別電流波形パターンを示している。仮に、これら3種類の電気機器(VC、HD、TV)だけが稼働状態にあれば、給電線3に流れる総電流についての電流波形パターンは、図3(A1)〜(A3)に示す個別電流波形パターンを合成した図3(B)に示すような電流波形パターンとなる。電気機器稼動状況推定部13への入力は、図3(B)に示すような電流波形パターンであり、電気機器稼動状況推定部13は、図3(B)に示すような電流波形パターンから、その電流波形パターンの要素となっている個別電流波形パターンを、言い換えると、その個別電流波形パターンを有する電気機器を定めるものである。
【0041】
電気機器の電流波形は、以下のような多様な性質(a)〜(e)を有し、稼働している電気機器毎に固有の特性を持っている。
【0042】
(a)電気機器に組み込まれた部品によって波形が類似する
(b)電気機器によって振幅 (電流値) が大きく異なる
(c)強弱などの動作モードによって波形が大きく変化
(d)電源周波数が全ての電気機器の波形に含有
(e)電気機器によって電源周波数の奇数次高調波成分を含有
そのため、総電流の電流波形パターンから、要素となっている個別電流波形パターンを決定するのは容易ではなく、最適解を探索するアルゴリズムを適用する。組み合わせの対象となる電気機器の数(N)がかなり多いこと(例えば、1つの家庭での電気機器の数は30〜40程度)や、学習処理が不要又は簡単であることや、データベースの記憶容量を抑えることができる等に鑑み、この第1の実施形態では、総電流の電流波形パターンから、要素となっている個別電流波形パターンを決定するのに、遺伝的アルゴリズムを適用することとした。
【0043】
例えば、N個の電気機器のオンオフの組み合わせ数、言い換えると総電流の種類数は2Nである。データベースに総電流についての基準波形を記憶して、照合する場合には、2N種類の基準波形を記憶しなければならず、実際、記憶することができない程度に基準波形の種類数は多い。上述したように、遺伝的アルゴリズムを適用するこの第1の実施形態の場合、電気機器特徴量DB14に格納する個別電流波形パターンの数は、電気機器の数であるNである。強弱などの動作モードによって電流波形が大きく異なる電気機器の場合には、動作モード毎の個別電流波形パターンを電気機器特徴量DB14に格納するが、このようにしても電気機器特徴量DB14に必要な記憶容量は実際上問題とならない程度である。
【0044】
図4は、遺伝的アルゴリズムで必要な個体を特定する遺伝子配列の説明図である。第1の実施形態の場合、遺伝子配列は、「0」(非稼働状態を表す)又は「1」(稼働状態を表す)をとるビット列(以下、遺伝子ビット列と呼ぶ)となっている。動作モードを持たない電気機器や、動作モードはあるが電流波形が動作モードでほとんど変化しない電気機器については、遺伝子ビット列の中の1ビットが割り当てられている。動作モードによって電流波形が大きく異なる電気機器については、動作モードの数に等しいビット数が、遺伝子ビット列の中に割り当てられている。このような電気機器の場合、稼働状態か否かを捉えているのではなく、非稼働状態か、それともどの動作モードでの稼働状態かを検出していることになる。
【0045】
第1の実施形態の場合、遺伝子ビット列は、例えば、左に行くに従い、電流波形の振幅が大きい電気機器(若しくはある電気機器の動作モード)となっており、右に行くに従い、電流波形の振幅が小さい電気機器(若しくはある電気機器の動作モード)となっている。電流波形の振幅に応じた配列は、後述する交叉処理の容易性を高めるためである。例えば、図3(A1)〜(A3)に示す掃除機(VC)、ヘアードライヤー(HD)及びテレビ(TV)はそれぞれ、振幅が35〜−35[A]、18〜−18[A]、4〜−4[A]であるので、これら3種類の中では、掃除機についてのビット位置はヘアードライヤーについてのビット位置より左側に位置し、ヘアードライヤーについてのビット位置はテレビについてのビット位置より左側に位置する。
【0046】
図5は、電気機器稼動状況推定部13が実行する遺伝的アルゴリズムの処理の概要を示すフローチャートである。遺伝的アルゴリズムは、生物進化のメカニズムを模倣したアルゴリズムであり、選択・淘汰、交叉、突然変異という遺伝子操作が含まれている。
【0047】
電気機器稼動状況推定部13が実行する遺伝的アルゴリズムにおいても、 まず初めに、初期集団として解候補となる個体を複数生成し(ステップS101)、複数の個体の中に、入力(総電流の電流波形パターン)に適合していると評価し得る個体が存在するか否かを評価する(ステップS102)。そのような個体が得られると、遺伝的アルゴリズムを終了する。そのような個体が得られないと、そのような個体が得られるまで、選択(ステップS103)、交叉(ステップS104)、突然変異(ステップS105)という遺伝子操作を繰り返して、集団を遺伝的に変化させ、最適解の個体を探索する。選択、交叉及び突然変異は、新たな個体集団の生成処理になっている。
【0048】
図5における各ステップの処理を詳述する。以下の処理ステップの説明では、説明の簡単化のため、遺伝子ビット列が8ビットでなり、各ビット位置が左側からそれぞれ、掃除機(VC)、電子レンジ(MO)、ヘアードライヤー(HD)、アイロン(IR)、トースター(TO)、テレビ(TV)、冷蔵庫(RF)、蛍光灯(FL)の稼働/非稼働状態を表しているとする(電気機器数を実際の家庭より少なく、動作モードの相違を反映させないこととしている)。
【0049】
初期集団生成(ステップS101)
初期集団として予め定められた数の個体の集合を生成する。初期集団に属する個体は、例えば、乱数の発生によって定める。図6は、初期集団の生成の説明図である。遺伝子配列として、上述した遺伝子ビット列を適用するので、2進数の乱数発生器を利用して初期集団を形成しても良い。しかし、2進数の乱数発生器は少ないので、図6に示すように、入手が容易な10進数の乱数発生器で10進数の乱数を発生させた後、それを2進数に変換して2進数の乱数(個体の遺伝子ビット列)を得るようにしても良い。
【0050】
図6では、初期集団に属する個体の数が5の場合を示しているが、初期集団に属する個体数がこれに限定されないことは勿論である。例えば、図6の「個体1」は、掃除機(VC)、ヘアードライヤー(HD)、アイロン(IR)、テレビ(TV)、冷蔵庫(RF)が稼働状態で、電子レンジ(MO)、トースター(TO)、蛍光灯(FL)が非稼働状態を表している。
【0051】
図6では、乱数を利用して初期集団に属する全ての個体を生成するものを示したが、全て又は一部の個体を、乱数を利用しないで生成するようにしても良い。第1の実施形態の電気機器稼動状況推定システム1が、所定周期(例えば1分毎)で自動的に推定動作を開始するようになっている場合には、直前の推定結果の個体や、直前の推定結果の個体に対し、交叉や突然変異等の遺伝子操作を行った個体等を、初期集団に属する個体に含めるようにしても良い。
【0052】
個体の評価(ステップS102)
現在の処理対象の集団に属する各個体について、波形情報抽出部22によって抽出された電流波形パターン(以下、特徴電流波形パターンと呼ぶ)に適合しているかを評価する。
【0053】
評価対象個体(ビット列)において値が「1」である、全ての電気機器(若しくは動作モード)の個別電流波形パターンを電気機器特徴量DB14から取り出して合成する(図3参照)。個別電流波形パターンを合成したものを、合成電流波形パターンと呼ぶ。そして、波形情報抽出部22によって抽出された特徴電流波形パターンと、合成電流波形パターンとから適合度を算出する。適合度は、任意に定めて良いものであるが、例えば、以下のような算出式を適用することができる。
【数1】
【0054】
(1)式に示すように、各時刻tの特徴電流波形パターンfe(t)と合成電流波形パターンfd(t)との差分絶対値の時間平均値を類似度を表す値xとし、この値xに、(2)式に示す正規化関数を適用することで適合度fを得る。このようにして得られた適合度fは0〜1の値であり、1が特徴電流波形パターンと合成電流波形パターンとの完全一致を表している。
【0055】
(1)式に示す差分絶対値の時間平均値に代え、差分二乗の時間平均値の平方根を類似度を表す値として用いることも考えられるが、このような類似度に(2)式の正規化関数を適用した場合には、上述した適合度fより、類似度がさほど高くなくても1に近い値を取り易い傾向があり、評価精度を高めるため、(1)式及び(2)式を適用した適合度fを用いることとした。(2)式のμは、固定パラメータである。
【0056】
各個体についての適合度の中に、特徴電流波形パターンと合成電流波形パターンとが一致していると捉えても良い値に定められた閾値を超えたものがあるかを判別する。適合度が閾値を超えた個体が1つでもあれば、最大適合度の個体を推定結果とする。推定結果の個体のビット列において「1」が付与されているビット位置に対応する電気機器(若しくは電気機器の動作モード)が稼働状態であると推定したことになる。
【0057】
全ての個体についての適合度が閾値を超えていなければ選択処理(ステップS103)へ移行する。
【0058】
なお、ステップS102の実行回数が、予め設定されている上限回数に達しても、適合度が閾値を超えた個体を発見できない場合にも、図5に示す一連の処理を終了するようにしても良い。この場合、推定できない旨を推定結果とするようにしても良く、また、最後のステップS102の処理で得られた最大適合度の個体を推定結果とするようにしても良く、さらには、各回のステップS102の処理で得られた最大適合度の中の最大のものに係る個体を推定結果とするようにしても良い。
【0059】
選択(ステップS103)
選択(再生とも呼ばれる)とは、生物の自然淘汰をモデル化したもので、適合度に基づき集団内で相対的に良いと判断できる個体を次世代へと残す操作である。選択方法として、ルーレット選択、期待値選択、ランキング選択、トーナメント選択、エリート保存選択等があり、いずれの選択方法を適用しても良い。さらに、世代が進むごとに特定の解に個体が集中することで、局所解へ落ち着いてしまう可能性がある場合には、シェアリング等の方法を用いることで、この問題を回避することも可能である。以下では、トーナメント選択方法を利用する場合を説明する。
【0060】
図7は、トーナメント選択処理の説明図である。トーナメント選択方法は、今までの個体集団から個体の組み合わせをランダムに作成し、この組み合わせの中から適合度の高い個体を選択する手法である。予め定められている選択数(トーナメントサイズ)を2とする。この場合、図7(A)に示す今までの個体集団から、ランダムに個体を取り出し、図7(B)に示すような2つのトーナメントを作成し、各トーナメントについて最も適合度の高い個体を選択する。
【0061】
交叉(ステップS104)
交叉は、選択で選ばれた個体の中から2つの個体を取り出して掛け合わせ、掛け合わす前の個体より、適合度が高くなることもあり得る個体を発生させる操作である。交叉方法として、1点交叉、多点交叉、一様交叉等があり、いずれの交叉方法を適用しても良い。以下では、1点交叉と多点交叉とを利用する場合を説明する。
【0062】
1点交叉とは、交叉ポイントを1か所(1点)定め、元となる個体(親個体)におけるポイントの前半部分はそのままコピーし、後半部分を他の親個体の後半部分に置き換え、新たな個体(子供個体)を生成する操作である。図8は、1点交叉の説明図である。
【0063】
図8に示す例では、交叉ポイントとして、下位3ビット目と下位2ビット目の間が選定されており、親個体PAの下位2ビットと、親個体PBの下位2ビットとを交換して、2つの子供個体CA及びCBを生成している。個体集団には、親個体だけでなく、子供個体も含まれ、個体数が増大する。ここで、交叉ポイントは予め定めておいたものであっても良く、乱数等によってその都度定めるようにしても良い。
【0064】
上述したように、遺伝子ビット列は、右に行くに従い、電流波形の振幅が小さい電気機器(若しくはある電気機器の動作モード)となっている。ステップS102〜S105でなる処理ループを何回か繰り返していくと、給電線3を流れる総電流(言い換えると波形情報抽出部22によって抽出された特徴電流波形パターン)に対する寄与率が高い、電流波形の振幅が大きい電気機器のビット列部分については概ね正解となっていて、電流波形の振幅が小さいビット列部分が誤っている可能性が高くなる。1点交叉を利用しつつ、下位ビット列部分を変更した個体を生成することは、電流波形の振幅が小さいビット列部分だけが異なる個体を多数生成でき、最適個体の探索を速めることが期待できる。
【0065】
多点交叉とは、交叉ポイントを複数箇所(多点)定め、元となる個体(親個体)における、奇数番目のポイントとその次の偶数番目のポイント(その次の偶数番目のポイントがない場合はビット列の終了位置)との間だけを他の親個体の同一部分に置き換え、新たな個体(子供個体)を生成する操作である。多点交叉における交叉ポイントも、予め定めておいたものであっても良く、乱数等によってその都度定めるようにしても良い。
【0066】
電気機器の電流波形の性質に鑑み、多点交叉における交叉ポイントとして、予め定めておいたものを適用することが好ましい。電気機器の電流波形の一性質として、電気機器に組み込まれた部品(例えば、放電管、熱源)によって波形が類似するという性質がある。図9(A)は蛍光灯の電流波形を示し、図9(B)はテレビの電流波形を示している。図示は省略しているが、トースター(の第1モード)、ドライヤー(の第1モード)、アイロンの電流波形も類似している。ステップS102〜S105でなる処理ループを何回か繰り返していくと、正解に近付くが、振幅が異なるとは言え、波形が類似した電気機器が探索の邪魔になっている可能性がある。そのため、電流波形が類似した電気機器のビット位置を共に含むように、交叉ポイントを予め定めて多点交叉により新たな個体を生成することは好ましい。
【0067】
突然変異(ステップS105)
突然変異とは、ある個体のビット列を無造作に選び、その情報を変更する操作である。突然変異を行う目的は、個体が局所的最適解に落ち着いてしまうことを防ぎ、より幅広い範囲で最適解を探索するためである。図10は、突然変異の説明図である。交叉までの処理によって生成された全ての個体又は乱数等を用いて定めた所定数の個体のそれぞれについて、乱数等によって定めた数及びビット位置の値を反対の値に変更する。図10は、元の個体PXの3ビット目及び7ビット目のビット値が反転されて、突然変異された個体PYが生成されている。個体PX及びPYが共に、個体集団の要素となる。
【0068】
選択、交叉及び突然変異によって、新たな個体集団が生成されると、再び、ステップS102の評価が実行される。
【0069】
上述したように、動作モードによって電流波形が大きく異なる電気機器については、遺伝子ビット列に動作モード毎のビットをそれぞれ設ける。このような動作モード毎の複数のビットは同時に「1」(稼働状態)をとることがあり得ないものである。交叉や突然変異によって新たに生成した個体において、動作モード毎の複数のビットが同時に「1」をとっている場合の取り扱いを予め定めておき、それに従って、新たに生成した個体を取り扱う。例えば、そのような個体を集団の要素としないようにしても良い。また例えば、乱数等を適用して定めた動作モードについて「1」を維持し、他の動作モードの「1」を「0」に強制的に変換し、このような操作後の個体を集団に含めるようにしても良い。
【0070】
以上のようにして推定結果(稼働状態にある電気機器の組み合わせ)が得られると、推定結果出力部15によって、推定結果が出力される。
【0071】
(A−3)第1の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、給電線に流れる観測された総電流の波形と、電気機器特徴量DBに登録された電気機器固有の電流波形とを用い、遺伝的アルゴリズムを適用して、稼働状態にある電気機器を推定するようにしたため、推定にニューラルネットワークを利用した場合のようなパラメータ学習を不要とすることができる。
【0072】
また、対象とする電気機器が追加された場合にも、電気機器特徴量データベースに追加電気機器の電流波形を追加すると共に、遺伝子ビット列のビット長を長くし各ビット位置の割当を変更することで容易に対応することができる。因みに、推定にニューラルネットワークを利用する方法では、追加時、多大な計算を必要とする再学習が必要となっており、容易に追加できないものであった。
【0073】
さらに、第1の実施形態によれば、小型化を行い、給電線や電気機器との接続を自由に行える携帯型のシステムとすることが可能である。
【0074】
さらにまた、電気機器特徴量DBに対してダウンロード可能な公開用サーバを設け、登録した電気機器の数等を登録者毎に公開する等を行うことにより、電力需要家や製造業者が積極的に登録を行うような環境を構築することも可能である。
【0075】
(B)第2の実施形態
次に、本発明による電気機器稼動状況推定システム及びプログラムの第2の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0076】
第1の実施形態では、稼動状態に応じた電気機器の特徴量として電流波形を用いたものであったが、この第2の実施形態は、稼動状態に応じた電気機器の特徴量として、電流波形の周波数成分毎のパワー(周波数特性)を適用したものである。
【0077】
図11は、第2の実施形態に係る電気機器稼動状況推定システムの機能的構成を示すブロック図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0078】
図11において、第2の実施形態の電気機器稼動状況推定システム1Aは、測定センサ11、特徴量抽出部12A、電気機器稼動状況推定部13、電気機器特徴量DB14及び推定結果出力部15を有し、特徴量抽出部12Aは、アナログ/ディジタル変換部(AD変換部)21及び周波数情報抽出部23を有する。以下では、第1の実施形態との相違点を説明する。
【0079】
第2の実施形態の測定センサ11は給電線3に流れる電流を測定し、アナログ/ディジタル変換部21は、アナログ信号でなる電流波形をディジタル信号に変換する。
【0080】
周波数情報抽出部23は、ディジタル信号に変換された電流波形信号に対してフーリエ変換を行い、周波数成分毎のパワーを算出する。このような周波数成分毎のパワーの分布が、観測された特徴量となる。
【0081】
第2の実施形態の電気機器特徴量DB14は、各電気機器2−1、…、2−Nについての個別電流波形に対してフーリエ変換を行って得た周波数成分毎のパワー(周波数特性)が格納されている。図12は、テレビ(TV)についての周波数特性を示している。
【0082】
第2の実施形態の電気機器稼動状況推定部13は、周波数情報抽出部23が抽出した周波数特性(特徴量)が、電気機器特徴量DB14に格納されている複数の個別周波数特性をどのように組み合わせたときに最も類似しているかを探索することを通じて、稼働状態にある電気機器の組み合わせを推定するものである。特徴量が第1の実施形態とは異なっているが、電気機器稼動状況推定部13は、第1の実施形態の場合と同様な遺伝的アルゴリズムによって推定結果を得る。
【0083】
第2の実施形態における遺伝子ビット列に割り当てる電気機器の並びは、第1の実施形態と同様に電流波形の振幅に応じて定めるようにしても良く、周波数成分毎のパワーの中の最大パワーの大きさに応じた並びとするようにしても良い。
【0084】
推定結果出力部15は、第1の実施形態のものと同様なものである。
【0085】
以上のように特徴量は、第1の実施形態と異なっているため、特徴量の抽出処理等が異なるが、全体の動作は、第1の実施形態と同様であるため、第2の実施形態における動作の説明は省略する。
【0086】
第2の実施形態によっても、遺伝的アルゴリズムを適用したことに伴う効果は、第1の実施形態と同様である。
【0087】
第2の実施形態によれば、電流波形が有する周波数成分毎のパワー(周波数特性)を特徴量として処理しているため、波形の切り出しにおいて位相成分を考慮する必要がなく、特徴量の抽出処理が簡易になるという効果を得ることができる。
【0088】
また、第2の実施形態によれば、電流波形が有する周波数成分毎のパワー(周波数特性)を特徴量としているため、処理に供する周波数成分をフィルタ処理によって選択することも可能であり、このような選択によって特徴量におけるSNを向上させ、推定精度を高めることも可能である。
【0089】
(C)他の実施形態
上記実施形態の説明においても、種々変形実施形態に言及したが、さらに、以下に例示するような変形実施形態を挙げることができる。
【0090】
上記各実施形態においては、個体集団を新たに生成させる遺伝子操作が交叉及び突然変異のものを示したが、他の遺伝子操作であっても良い。例えば、ある個体の2つのビット位置間で値を交換して、新たな個体を生成させるようにしても良い。
【0091】
また、上記各実施形態においては、遺伝子配列が「0」又は「1」のビット列であり、動作モード毎のビット位置も用意されているものを示したが、他の遺伝子配列を適用するようにしても良い。例えば、遺伝子配列の要素数として電気機器の数を適用し、各要素で取り得る値を、最も多くの動作モードを有する電気機器の動作モード数に応じた値とする。例えば、3種類の動作モードを有する電気機器が最も多くの動作モードを有する電気機器であれば、「0」、「1」、「2」、「3」を配列要素で取り得る値とし、動作モードが1種類の電気機器については「0」、「1」及び「2」を非稼働状態、「3」を稼働状態と扱い、動作モードが2種類の電気機器については「0」及び「1」を非稼働状態、「2」を第1の動作モードでの稼働状態、「3」を第2の動作モードでの稼働状態として扱い、動作モードが3種類の電気機器については「0」を非稼働状態、「1」を第1の動作モードでの稼働状態、「2」を第2の動作モードでの稼働状態、「3」を第3の動作モードでの稼働状態として扱い、電気機器特徴量DB14からの個別特徴量の取り出しを行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0092】
1、1A…電気機器稼動状況推定システム、2−1〜2−N…電気機器、3…給電線、11…測定センサ、12、12A…特徴量抽出部、13…電気機器稼動状況推定部、14…電気機器特徴量データベース(電気機器特徴量DB)、22…波形情報抽出部、23…周波数情報抽出部。
【技術分野】
【0001】
本発明は電気機器稼動状況推定システム及びプログラムに関し、例えば、複数の電気機器や電子機器(以下、電気機器や電子機器を合わせて電気機器と呼ぶ)に共通の給電線に取り付けられたセンサの情報から、複数の電気機器の稼動状況を推定する場合に適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
昨今のようなエコロジーが叫ばれる時代においては、家庭や事業所等で、各電気機器がどのように稼働されているかを把握しておくとは重要である。しかしながら、各電気機器毎に、稼働状況を検出するためのセンサ等を設けることは、費用負担が多大となり、実際的ではない。
【0003】
そのため、従来、電力需要家で使われている複数の電気機器の稼動状況を推定する方法として、1個のセンサによって、複数の電気機器の稼動状況を推定する特許文献1に記載のシステムが既に提案されている。このシステムにおいては、電源幹線部に電源電流、電源電圧等を測定する測定センサを設置し、各電気機器の稼動状況に応じた高調波成分等の特徴量を用いて各電気機器の稼動状態を推定する。より具体的に言えば、このシステムでは、測定センサから得られる電源電圧及び電源電流の高調波とその位相差を基に、ニューラルネットワークを用いたパターン認識によって各電気機器の稼動状況を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−292465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のシステムでは、各電気機器が単独で稼動する場合の種々の動作状態の組み合わせについて、予め測定した高調波電流とそれらの電圧に対する位相に関するデータと、そのときの解答である電気機器の動作状態を、教師データとして、ニューラルネットワークを事前に学習させる必要がある。さらに、新しい電気機器が増設される毎に、このニューラルネットワークを再学習させる必要ある。このため、ニューラルネットワークの構築に掛かる処理時間が膨大であるという課題がある。
【0006】
本発明は、以上のような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、学習の必要がないか若しくはごく少ない、効率的な推定が可能な電気機器稼動状況推定システム及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の本発明は、同一の給電線に接続された複数の電気機器の稼働状況を推定する電気機器稼動状況推定システムにおいて、(1)上記給電線に流れる電流波形の情報を抽出する特徴量抽出手段と、(2)上記各電気機器について、その電気機器だけが稼働しているときの電流波形の情報を格納している個別機器情報記憶手段と、(3)複数の電気機器の稼働状況の組み合わせを個体の遺伝子配列とし、個体の遺伝子配列に基づいて、上記個別機器情報記憶手段から1又は複数の電流波形の情報を得て、上記特徴量抽出手段が抽出した上記給電線に流れる電流波形の情報と比較する情報を形成して評価する遺伝的アルゴリズムを実行し、複数の電気機器の稼動状況の推定結果を得る電気機器稼動状況推定手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
第2の本発明は、同一の給電線に接続された複数の電気機器の稼働状況を推定する電気機器稼動状況推定プログラムであって、コンピュータを、(1)上記給電線に流れる電流波形の情報を抽出する特徴量抽出手段と、(2)上記各電気機器について、その電気機器だけが稼働しているときの電流波形の情報を格納している個別機器情報記憶手段と、(3)複数の電気機器の稼働状況の組み合わせを個体の遺伝子配列とし、個体の遺伝子配列に基づいて、上記個別機器情報記憶手段から1又は複数の電流波形の情報を得て、上記特徴量抽出手段が抽出した上記給電線に流れる電流波形の情報と比較する情報を形成して評価する遺伝的アルゴリズムを実行し、複数の電気機器の稼動状況の推定結果を得る電気機器稼動状況推定手段として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、学習の必要がないか若しくはごく少ない、効率的な推定が可能な電気機器稼動状況推定システム及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係る電気機器稼動状況推定システムの機能的構成を示すブロック図である。
【図2】電子レンジの動作モード毎の電流波形を示す電流波形図である。
【図3】電気機器毎の個別電流波形と、給電線を流れる総電流波形とを示す電流波形図である。
【図4】第1の実施形態における遺伝子配列の説明図である。
【図5】第1の実施形態における電気機器稼動状況推定部が利用している遺伝的アルゴリズムの処理の概要を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態における個体の初期集団の生成処理の説明図である。
【図7】第1の実施形態における選択処理(トーナメント選択処理)の説明図である。
【図8】第1の実施形態における1点交叉処理の説明図である。
【図9】類似している蛍光灯及びテレビの電流波形を示す電流波形図である。
【図10】第1の実施形態における突然変異処理の説明図である。
【図11】第2の実施形態に係る電気機器稼動状況推定システムの機能的構成を示すブロック図である。
【図12】テレビについての電流波形の周波数特性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(A)第1の実施形態
以下、本発明による電気機器稼動状況推定システム及びプログラムの第1の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、第1の実施形態の電気機器稼動状況推定システムが家庭に設けられているとして説明するが、電気機器稼動状況推定システムの設置対象は家庭に限定されないことは勿論である。
【0012】
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態に係る電気機器稼動状況推定システムの機能的構成を示すブロック図である。
【0013】
図1において、第1の実施形態の電気機器稼動状況推定システム1は、複数台(図1ではN台)の電気機器2−1、…、電気機器2−Nの稼働電流が重畳して流れる給電線3の位置に介挿されている。
【0014】
電気機器稼動状況推定システム1が介挿されている給電線3の位置は、例えば、家屋全体に対する給電線の位置であっても良く、また、1階、2階等、家屋を複数の区画で構成されていると見た場合におけるいずれかの区画用の給電線の位置であっても良い。また、例えば、ブレーカシステム等の給電スイッチ4の近傍に電気機器稼動状況推定システム1を設置するようにしても良く、また、ブレーカシステムと融合させて電気機器稼動状況推定システム1を構成したものであっても良い。
【0015】
電気機器2−n(nは1〜N)は、当該機器のプラグをコンセントへ差し込むことによって給電線3から給電が可能となるものだけでなく、家屋に当初から据え付けられたものであっても良い。例えば、掃除機、電子レンジ、ヘアードライヤー、アイロン、トースター、テレビ(テレビジョン受像機)、冷蔵庫、蛍光灯、エアコン等を挙げることができる。但し、電気機器2−nの種類は、後述する電気機器特徴量データベース(電気機器特徴量DB)14に、基準波形パターンが登録されているものであることを要する。なお、この第1の実施形態の場合、例えば、テレビが2台ある場合には、それぞれのテレビが異なる電気機器となる。
【0016】
電気機器稼動状況推定システム1は、機能的には、測定センサ11、特徴量抽出部12、電気機器稼動状況推定部13、電気機器特徴量DB14及び推定結果出力部15を有する。ここで、特徴量抽出部12は、アナログ/ディジタル変換部(AD変換部)21及び波形情報抽出部22を有する。
【0017】
波形情報抽出部22、電気機器稼動状況推定部13、電気機器特徴量DB14及び推定結果出力部15の全て又は一部は、プログラムとそれを実行するコンピュータとによって実現されたものであっても良い。
【0018】
測定センサ11は、電気機器2−1、…、電気機器2−Nの稼働電流が重畳して流れる給電線3の位置の電流及び電圧を測定して、電流波形信号及び電圧波形信号をそれぞれ特徴量抽出部12へ出力するものである。
【0019】
特徴量抽出部12は、その時点で稼働状態にある電気機器の組み合わせに応じた特徴量(後述する稼働時電流波形の重畳波形)を抽出するものである。
【0020】
特徴量抽出部12におけるAD変換部21は、測定センサ11からのアナログ信号でなる電流波形信号及び電圧波形信号をそれぞれ、ディジタル信号に変換するものである。ここで、サンプリングレートは任意であるが、電気機器毎の個別の稼働電流の中で、最も高い意味が有る高周波数成分を有する稼働電流を考慮して選定すれば良い。
【0021】
波形情報抽出部22は、電圧波形信号(ディジタル信号)の0クロス点に同期した電流波形信号(ディジタル信号)の時点から、電圧波形信号(ディジタル信号)の次の0クロス点に同期した電流波形信号(ディジタル信号)の時点までの電流波形パターンを、その時点で稼働状態にある電気機器の組み合わせに応じた特徴量として抽出するものである。
【0022】
電気機器2−1〜2−Nの中には容量性負荷もあれば誘導性負荷もあり、そのため、稼働状態にある電気機器の組み合わせで定まる稼働電流の重量電流(重畳稼働電流)の位相は、供給電圧の位相に対して一定ではなく、稼働状態にある電気機器の組み合わせに対して変化する。また、全ての電気機器2−1〜2−Nのそれぞれについての稼働電流波形は、電源電圧周波数の波形が含有しているという性質を有する。そのため、重畳稼働電流そのものの変化から波形を切り出すよりも、50Hz又は60Hzの安定した正弦波波形の電圧波形に基づいて、重畳稼働電流からの切り出し期間を定めて切り出すこととし、切出し精度の向上を図っている。
【0023】
ここで、波形情報抽出部22は、期間(電圧波形の相前後する0クロス間の期間)が異なる複数の電流波形パターンを得、これらの複数の電流波形パターンの時間軸を揃えて合成したり平均を求めたりして雑音を低減し、雑音低減後の電流波形パターンを、その時点で稼働状態にある電気機器の組み合わせに応じた特徴量として抽出するようにしても良い。
【0024】
また、波形情報抽出部22は、合成又は平均に供する複数の電流波形パターンが、所定の類似度(例えば差分二乗和が閾値以内)を有することを確認して、合成又は平均に供するようにしても良く、また、合成処理や平均処理を実行しない場合であっても、特徴量とする抽出する電流波形パターンと、その直前期間や直後期間の電流波形パターンとが、所定の類似度を有することを確認して抽出を有効とするようにしても良い。多くの電気機器は、オンからオフへの変化時やオフからオンへの変化時においては、過渡現象により通常時とは異なる波形の電流が流れる。このような過度期間の影響を排除するように、波形情報抽出部22が特徴量(電流波形パターン)を得ることが好ましい。
【0025】
電気機器特徴量DB14には、各電気機器2−1、…、2−Nについての個別電流波形パターンが格納されている(後述する図3(A1)〜図3(A3)参照)。個別電流波形パターンは、その電気機器2−nだけが稼働している場合に得られた電流波形から、電圧波形の0クロスに基づいて切り出された部分のパターン(ディジタル信号)である。電気機器特徴量DB14に格納しておく個別電流波形パターンは、電気機器2−nのメーカーや消費者団体等から提供を受けたものであっても良く、また、電気機器稼動状況推定システム1を学習モードに設定し、学習対象の電気機器2−nだけを稼働状態にし(他の電気機器は非稼働状態)、そのとき、波形情報抽出部22から出力された電流波形パターンであっても良い。波形情報抽出部22が複数期間の電流波形パターンを合成又は平均したものを特徴とするものであれば、電気機器特徴量DB14に格納しておく個別電流波形パターンも、そのような処理に応じたものとする。
【0026】
電気機器の中には、強弱などの動作モードによって電流波形が大きく異なるものがある。例えば、 電子レンジは、図2に示すように、「1500W」モードと「500W」モードとでは電流波形の振幅などが大きく異なるものである。この第1の実施形態の場合、動作モードによって電流波形が大きく異なる電気機器については、動作モード毎の個別電流波形パターンを電気機器特徴量DB14に格納しておくこととしている。
【0027】
電気機器2−1〜2−Nの中に全く同じ製品(同じメーカーの同じ種類の同じ製造番号の製品)がある場合には、電気機器特徴量DB14に存在する数だけ同一の個別電流波形パターンを格納しておくようにしても良く、また、電気機器特徴量DB14に一つの個別電流波形パターンを格納しておき、稼働状態の数に応じて、その個別電流波形パターンを繰り返し読み出すようにしても良い。
【0028】
電気機器特徴量DB14としては、電気機器稼動状況推定システム1毎に備えるものを意図している。しかしながら、外部のサーバ等が電気機器特徴量DB14を有し、複数の電気機器稼動状況推定システム1がその電気機器特徴量DB14を共用するものであっても良い。
【0029】
電気機器稼動状況推定部13は、波形情報抽出部22が抽出した電流波形パターン(特徴量)が、電気機器特徴量DB14に格納されている複数の個別電流波形パターンをどのように組み合わせたときに最も類似しているかを探索することを通じて、稼働状態にある電気機器の組み合わせを推定するものである。
【0030】
この第1の実施形態の場合、電気機器稼動状況推定部13が推定処理に遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm;GA)を利用していることを特徴としている。電気機器稼動状況推定部13における推定処理(遺伝的アルゴリズム)の詳細については、「動作の説明」の項で明らかにする。
【0031】
推定結果出力部15は、電気機器稼動状況推定部13が得た稼働状態にある電気機器の組み合わせ(推定結果)を出力するものである。出力方法は、表示出力、印刷出力、記憶出力、他装置(例えば上位の監視装置)への送信出力等のいずれであっても良く、複数以上の出力方法が適用されていても良い。
【0032】
例えば、電気機器毎(動作モードが複数のものは動作モード毎)に対応するLED等の表示素子を用意しておき、稼働状態にある電気機器の表示素子だけを点灯させるようにしても良い。
【0033】
また例えば、当該電気機器稼動状況推定システム1の推定動作を所定時間(例えば1分)間隔で定期的に実行する場合においては、各時刻での推定結果をそのまま記憶するようにしても良く、これに代え、各電気機器毎(動作モードが複数のものは動作モード毎)に、オン状態の開始時刻とオン状態の終了時刻とを記録するようにしても良い。
【0034】
なお、有線や無線で接続されたパソコン端末や、テレビ等の家電機器や、リモコンや携帯電話等に転送して、転送先の機器で表示や記憶を実行させるようにしても良い。また、電力制御機器などの制御機器に送出するようにしても良い。例えば、エアコンに送出し、推定結果と予め定められている条件との照合によって、風量を「強」から「弱」へ変更させるようにしても良い。さらに、ネットワークを介して電気事業者や種々のモニタリングサーバ等に送出するようにしても良い。
【0035】
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態に係る電気機器稼動状況推定システムの動作を、図面を参照しながら説明する。
【0036】
電気機器稼動状況推定システム1は、オペレータが図示しない推定起動キーを操作したときに推定動作を開始する。また、所定周期(例えば1分毎)で自動的に推定動作を開始するようになっている場合には、電気機器稼動状況推定システム1は、内蔵する図示しないタイマの計時時刻が新たな推定動作の開始時刻になると推定動作を開始する。
【0037】
電気機器稼動状況推定システム1が新たな推定動作を開始したときには、測定センサ11によって、稼働状態にある全ての電気機器の電流が重畳して流れる給電線3の位置の電流及び電圧が測定されて特徴量抽出部12へ出力される。特徴量抽出部12のAD変換部21によって、測定センサ11からのアナログ信号でなる電流波形及び電圧波形はそれぞれ、ディジタル信号に変換された後、特徴量抽出部12の波形情報抽出部22によって、測定された電圧波形に同期した電圧波形の1周期の期間の電流波形を表す電流波形パターンが特徴量として抽出されて電気機器稼動状況推定部13に与えられる。
【0038】
第1の実施形態の電気機器稼動状況推定部13は、抽出された電流波形パターン(特徴量)が、電気機器特徴量DB14に格納されている複数の個別電流波形パターンをどのように組み合わせたときに最も類似しているかを、遺伝的アルゴリズムを利用して探索し、稼働状態にある電気機器の組み合わせを推定する。
【0039】
すなわち、電気機器稼動状況推定部13は、どの電気機器2−nが使用されて稼働状態にあるかを、給電線3に流れる総電流を測定することにより推定するものである。この際、測定される総電流は、オン状態(稼働状態)にある各電気機器に流れる電流の総和であり、各電気機器の稼働状態を合成した情報を持つことになる。この総電流の情報から電気機器個別の稼働状態を把握するためには、出力結果(総電流の情報)から入力(各電気機器の稼働状態)を推定する逆問題を解く必要がある。
【0040】
図3(A1)〜(A3)はそれぞれ、掃除機(VC)、ヘアードライヤー(HD)及びテレビ(TV)についての個別電流波形パターンを示している。仮に、これら3種類の電気機器(VC、HD、TV)だけが稼働状態にあれば、給電線3に流れる総電流についての電流波形パターンは、図3(A1)〜(A3)に示す個別電流波形パターンを合成した図3(B)に示すような電流波形パターンとなる。電気機器稼動状況推定部13への入力は、図3(B)に示すような電流波形パターンであり、電気機器稼動状況推定部13は、図3(B)に示すような電流波形パターンから、その電流波形パターンの要素となっている個別電流波形パターンを、言い換えると、その個別電流波形パターンを有する電気機器を定めるものである。
【0041】
電気機器の電流波形は、以下のような多様な性質(a)〜(e)を有し、稼働している電気機器毎に固有の特性を持っている。
【0042】
(a)電気機器に組み込まれた部品によって波形が類似する
(b)電気機器によって振幅 (電流値) が大きく異なる
(c)強弱などの動作モードによって波形が大きく変化
(d)電源周波数が全ての電気機器の波形に含有
(e)電気機器によって電源周波数の奇数次高調波成分を含有
そのため、総電流の電流波形パターンから、要素となっている個別電流波形パターンを決定するのは容易ではなく、最適解を探索するアルゴリズムを適用する。組み合わせの対象となる電気機器の数(N)がかなり多いこと(例えば、1つの家庭での電気機器の数は30〜40程度)や、学習処理が不要又は簡単であることや、データベースの記憶容量を抑えることができる等に鑑み、この第1の実施形態では、総電流の電流波形パターンから、要素となっている個別電流波形パターンを決定するのに、遺伝的アルゴリズムを適用することとした。
【0043】
例えば、N個の電気機器のオンオフの組み合わせ数、言い換えると総電流の種類数は2Nである。データベースに総電流についての基準波形を記憶して、照合する場合には、2N種類の基準波形を記憶しなければならず、実際、記憶することができない程度に基準波形の種類数は多い。上述したように、遺伝的アルゴリズムを適用するこの第1の実施形態の場合、電気機器特徴量DB14に格納する個別電流波形パターンの数は、電気機器の数であるNである。強弱などの動作モードによって電流波形が大きく異なる電気機器の場合には、動作モード毎の個別電流波形パターンを電気機器特徴量DB14に格納するが、このようにしても電気機器特徴量DB14に必要な記憶容量は実際上問題とならない程度である。
【0044】
図4は、遺伝的アルゴリズムで必要な個体を特定する遺伝子配列の説明図である。第1の実施形態の場合、遺伝子配列は、「0」(非稼働状態を表す)又は「1」(稼働状態を表す)をとるビット列(以下、遺伝子ビット列と呼ぶ)となっている。動作モードを持たない電気機器や、動作モードはあるが電流波形が動作モードでほとんど変化しない電気機器については、遺伝子ビット列の中の1ビットが割り当てられている。動作モードによって電流波形が大きく異なる電気機器については、動作モードの数に等しいビット数が、遺伝子ビット列の中に割り当てられている。このような電気機器の場合、稼働状態か否かを捉えているのではなく、非稼働状態か、それともどの動作モードでの稼働状態かを検出していることになる。
【0045】
第1の実施形態の場合、遺伝子ビット列は、例えば、左に行くに従い、電流波形の振幅が大きい電気機器(若しくはある電気機器の動作モード)となっており、右に行くに従い、電流波形の振幅が小さい電気機器(若しくはある電気機器の動作モード)となっている。電流波形の振幅に応じた配列は、後述する交叉処理の容易性を高めるためである。例えば、図3(A1)〜(A3)に示す掃除機(VC)、ヘアードライヤー(HD)及びテレビ(TV)はそれぞれ、振幅が35〜−35[A]、18〜−18[A]、4〜−4[A]であるので、これら3種類の中では、掃除機についてのビット位置はヘアードライヤーについてのビット位置より左側に位置し、ヘアードライヤーについてのビット位置はテレビについてのビット位置より左側に位置する。
【0046】
図5は、電気機器稼動状況推定部13が実行する遺伝的アルゴリズムの処理の概要を示すフローチャートである。遺伝的アルゴリズムは、生物進化のメカニズムを模倣したアルゴリズムであり、選択・淘汰、交叉、突然変異という遺伝子操作が含まれている。
【0047】
電気機器稼動状況推定部13が実行する遺伝的アルゴリズムにおいても、 まず初めに、初期集団として解候補となる個体を複数生成し(ステップS101)、複数の個体の中に、入力(総電流の電流波形パターン)に適合していると評価し得る個体が存在するか否かを評価する(ステップS102)。そのような個体が得られると、遺伝的アルゴリズムを終了する。そのような個体が得られないと、そのような個体が得られるまで、選択(ステップS103)、交叉(ステップS104)、突然変異(ステップS105)という遺伝子操作を繰り返して、集団を遺伝的に変化させ、最適解の個体を探索する。選択、交叉及び突然変異は、新たな個体集団の生成処理になっている。
【0048】
図5における各ステップの処理を詳述する。以下の処理ステップの説明では、説明の簡単化のため、遺伝子ビット列が8ビットでなり、各ビット位置が左側からそれぞれ、掃除機(VC)、電子レンジ(MO)、ヘアードライヤー(HD)、アイロン(IR)、トースター(TO)、テレビ(TV)、冷蔵庫(RF)、蛍光灯(FL)の稼働/非稼働状態を表しているとする(電気機器数を実際の家庭より少なく、動作モードの相違を反映させないこととしている)。
【0049】
初期集団生成(ステップS101)
初期集団として予め定められた数の個体の集合を生成する。初期集団に属する個体は、例えば、乱数の発生によって定める。図6は、初期集団の生成の説明図である。遺伝子配列として、上述した遺伝子ビット列を適用するので、2進数の乱数発生器を利用して初期集団を形成しても良い。しかし、2進数の乱数発生器は少ないので、図6に示すように、入手が容易な10進数の乱数発生器で10進数の乱数を発生させた後、それを2進数に変換して2進数の乱数(個体の遺伝子ビット列)を得るようにしても良い。
【0050】
図6では、初期集団に属する個体の数が5の場合を示しているが、初期集団に属する個体数がこれに限定されないことは勿論である。例えば、図6の「個体1」は、掃除機(VC)、ヘアードライヤー(HD)、アイロン(IR)、テレビ(TV)、冷蔵庫(RF)が稼働状態で、電子レンジ(MO)、トースター(TO)、蛍光灯(FL)が非稼働状態を表している。
【0051】
図6では、乱数を利用して初期集団に属する全ての個体を生成するものを示したが、全て又は一部の個体を、乱数を利用しないで生成するようにしても良い。第1の実施形態の電気機器稼動状況推定システム1が、所定周期(例えば1分毎)で自動的に推定動作を開始するようになっている場合には、直前の推定結果の個体や、直前の推定結果の個体に対し、交叉や突然変異等の遺伝子操作を行った個体等を、初期集団に属する個体に含めるようにしても良い。
【0052】
個体の評価(ステップS102)
現在の処理対象の集団に属する各個体について、波形情報抽出部22によって抽出された電流波形パターン(以下、特徴電流波形パターンと呼ぶ)に適合しているかを評価する。
【0053】
評価対象個体(ビット列)において値が「1」である、全ての電気機器(若しくは動作モード)の個別電流波形パターンを電気機器特徴量DB14から取り出して合成する(図3参照)。個別電流波形パターンを合成したものを、合成電流波形パターンと呼ぶ。そして、波形情報抽出部22によって抽出された特徴電流波形パターンと、合成電流波形パターンとから適合度を算出する。適合度は、任意に定めて良いものであるが、例えば、以下のような算出式を適用することができる。
【数1】
【0054】
(1)式に示すように、各時刻tの特徴電流波形パターンfe(t)と合成電流波形パターンfd(t)との差分絶対値の時間平均値を類似度を表す値xとし、この値xに、(2)式に示す正規化関数を適用することで適合度fを得る。このようにして得られた適合度fは0〜1の値であり、1が特徴電流波形パターンと合成電流波形パターンとの完全一致を表している。
【0055】
(1)式に示す差分絶対値の時間平均値に代え、差分二乗の時間平均値の平方根を類似度を表す値として用いることも考えられるが、このような類似度に(2)式の正規化関数を適用した場合には、上述した適合度fより、類似度がさほど高くなくても1に近い値を取り易い傾向があり、評価精度を高めるため、(1)式及び(2)式を適用した適合度fを用いることとした。(2)式のμは、固定パラメータである。
【0056】
各個体についての適合度の中に、特徴電流波形パターンと合成電流波形パターンとが一致していると捉えても良い値に定められた閾値を超えたものがあるかを判別する。適合度が閾値を超えた個体が1つでもあれば、最大適合度の個体を推定結果とする。推定結果の個体のビット列において「1」が付与されているビット位置に対応する電気機器(若しくは電気機器の動作モード)が稼働状態であると推定したことになる。
【0057】
全ての個体についての適合度が閾値を超えていなければ選択処理(ステップS103)へ移行する。
【0058】
なお、ステップS102の実行回数が、予め設定されている上限回数に達しても、適合度が閾値を超えた個体を発見できない場合にも、図5に示す一連の処理を終了するようにしても良い。この場合、推定できない旨を推定結果とするようにしても良く、また、最後のステップS102の処理で得られた最大適合度の個体を推定結果とするようにしても良く、さらには、各回のステップS102の処理で得られた最大適合度の中の最大のものに係る個体を推定結果とするようにしても良い。
【0059】
選択(ステップS103)
選択(再生とも呼ばれる)とは、生物の自然淘汰をモデル化したもので、適合度に基づき集団内で相対的に良いと判断できる個体を次世代へと残す操作である。選択方法として、ルーレット選択、期待値選択、ランキング選択、トーナメント選択、エリート保存選択等があり、いずれの選択方法を適用しても良い。さらに、世代が進むごとに特定の解に個体が集中することで、局所解へ落ち着いてしまう可能性がある場合には、シェアリング等の方法を用いることで、この問題を回避することも可能である。以下では、トーナメント選択方法を利用する場合を説明する。
【0060】
図7は、トーナメント選択処理の説明図である。トーナメント選択方法は、今までの個体集団から個体の組み合わせをランダムに作成し、この組み合わせの中から適合度の高い個体を選択する手法である。予め定められている選択数(トーナメントサイズ)を2とする。この場合、図7(A)に示す今までの個体集団から、ランダムに個体を取り出し、図7(B)に示すような2つのトーナメントを作成し、各トーナメントについて最も適合度の高い個体を選択する。
【0061】
交叉(ステップS104)
交叉は、選択で選ばれた個体の中から2つの個体を取り出して掛け合わせ、掛け合わす前の個体より、適合度が高くなることもあり得る個体を発生させる操作である。交叉方法として、1点交叉、多点交叉、一様交叉等があり、いずれの交叉方法を適用しても良い。以下では、1点交叉と多点交叉とを利用する場合を説明する。
【0062】
1点交叉とは、交叉ポイントを1か所(1点)定め、元となる個体(親個体)におけるポイントの前半部分はそのままコピーし、後半部分を他の親個体の後半部分に置き換え、新たな個体(子供個体)を生成する操作である。図8は、1点交叉の説明図である。
【0063】
図8に示す例では、交叉ポイントとして、下位3ビット目と下位2ビット目の間が選定されており、親個体PAの下位2ビットと、親個体PBの下位2ビットとを交換して、2つの子供個体CA及びCBを生成している。個体集団には、親個体だけでなく、子供個体も含まれ、個体数が増大する。ここで、交叉ポイントは予め定めておいたものであっても良く、乱数等によってその都度定めるようにしても良い。
【0064】
上述したように、遺伝子ビット列は、右に行くに従い、電流波形の振幅が小さい電気機器(若しくはある電気機器の動作モード)となっている。ステップS102〜S105でなる処理ループを何回か繰り返していくと、給電線3を流れる総電流(言い換えると波形情報抽出部22によって抽出された特徴電流波形パターン)に対する寄与率が高い、電流波形の振幅が大きい電気機器のビット列部分については概ね正解となっていて、電流波形の振幅が小さいビット列部分が誤っている可能性が高くなる。1点交叉を利用しつつ、下位ビット列部分を変更した個体を生成することは、電流波形の振幅が小さいビット列部分だけが異なる個体を多数生成でき、最適個体の探索を速めることが期待できる。
【0065】
多点交叉とは、交叉ポイントを複数箇所(多点)定め、元となる個体(親個体)における、奇数番目のポイントとその次の偶数番目のポイント(その次の偶数番目のポイントがない場合はビット列の終了位置)との間だけを他の親個体の同一部分に置き換え、新たな個体(子供個体)を生成する操作である。多点交叉における交叉ポイントも、予め定めておいたものであっても良く、乱数等によってその都度定めるようにしても良い。
【0066】
電気機器の電流波形の性質に鑑み、多点交叉における交叉ポイントとして、予め定めておいたものを適用することが好ましい。電気機器の電流波形の一性質として、電気機器に組み込まれた部品(例えば、放電管、熱源)によって波形が類似するという性質がある。図9(A)は蛍光灯の電流波形を示し、図9(B)はテレビの電流波形を示している。図示は省略しているが、トースター(の第1モード)、ドライヤー(の第1モード)、アイロンの電流波形も類似している。ステップS102〜S105でなる処理ループを何回か繰り返していくと、正解に近付くが、振幅が異なるとは言え、波形が類似した電気機器が探索の邪魔になっている可能性がある。そのため、電流波形が類似した電気機器のビット位置を共に含むように、交叉ポイントを予め定めて多点交叉により新たな個体を生成することは好ましい。
【0067】
突然変異(ステップS105)
突然変異とは、ある個体のビット列を無造作に選び、その情報を変更する操作である。突然変異を行う目的は、個体が局所的最適解に落ち着いてしまうことを防ぎ、より幅広い範囲で最適解を探索するためである。図10は、突然変異の説明図である。交叉までの処理によって生成された全ての個体又は乱数等を用いて定めた所定数の個体のそれぞれについて、乱数等によって定めた数及びビット位置の値を反対の値に変更する。図10は、元の個体PXの3ビット目及び7ビット目のビット値が反転されて、突然変異された個体PYが生成されている。個体PX及びPYが共に、個体集団の要素となる。
【0068】
選択、交叉及び突然変異によって、新たな個体集団が生成されると、再び、ステップS102の評価が実行される。
【0069】
上述したように、動作モードによって電流波形が大きく異なる電気機器については、遺伝子ビット列に動作モード毎のビットをそれぞれ設ける。このような動作モード毎の複数のビットは同時に「1」(稼働状態)をとることがあり得ないものである。交叉や突然変異によって新たに生成した個体において、動作モード毎の複数のビットが同時に「1」をとっている場合の取り扱いを予め定めておき、それに従って、新たに生成した個体を取り扱う。例えば、そのような個体を集団の要素としないようにしても良い。また例えば、乱数等を適用して定めた動作モードについて「1」を維持し、他の動作モードの「1」を「0」に強制的に変換し、このような操作後の個体を集団に含めるようにしても良い。
【0070】
以上のようにして推定結果(稼働状態にある電気機器の組み合わせ)が得られると、推定結果出力部15によって、推定結果が出力される。
【0071】
(A−3)第1の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、給電線に流れる観測された総電流の波形と、電気機器特徴量DBに登録された電気機器固有の電流波形とを用い、遺伝的アルゴリズムを適用して、稼働状態にある電気機器を推定するようにしたため、推定にニューラルネットワークを利用した場合のようなパラメータ学習を不要とすることができる。
【0072】
また、対象とする電気機器が追加された場合にも、電気機器特徴量データベースに追加電気機器の電流波形を追加すると共に、遺伝子ビット列のビット長を長くし各ビット位置の割当を変更することで容易に対応することができる。因みに、推定にニューラルネットワークを利用する方法では、追加時、多大な計算を必要とする再学習が必要となっており、容易に追加できないものであった。
【0073】
さらに、第1の実施形態によれば、小型化を行い、給電線や電気機器との接続を自由に行える携帯型のシステムとすることが可能である。
【0074】
さらにまた、電気機器特徴量DBに対してダウンロード可能な公開用サーバを設け、登録した電気機器の数等を登録者毎に公開する等を行うことにより、電力需要家や製造業者が積極的に登録を行うような環境を構築することも可能である。
【0075】
(B)第2の実施形態
次に、本発明による電気機器稼動状況推定システム及びプログラムの第2の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0076】
第1の実施形態では、稼動状態に応じた電気機器の特徴量として電流波形を用いたものであったが、この第2の実施形態は、稼動状態に応じた電気機器の特徴量として、電流波形の周波数成分毎のパワー(周波数特性)を適用したものである。
【0077】
図11は、第2の実施形態に係る電気機器稼動状況推定システムの機能的構成を示すブロック図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0078】
図11において、第2の実施形態の電気機器稼動状況推定システム1Aは、測定センサ11、特徴量抽出部12A、電気機器稼動状況推定部13、電気機器特徴量DB14及び推定結果出力部15を有し、特徴量抽出部12Aは、アナログ/ディジタル変換部(AD変換部)21及び周波数情報抽出部23を有する。以下では、第1の実施形態との相違点を説明する。
【0079】
第2の実施形態の測定センサ11は給電線3に流れる電流を測定し、アナログ/ディジタル変換部21は、アナログ信号でなる電流波形をディジタル信号に変換する。
【0080】
周波数情報抽出部23は、ディジタル信号に変換された電流波形信号に対してフーリエ変換を行い、周波数成分毎のパワーを算出する。このような周波数成分毎のパワーの分布が、観測された特徴量となる。
【0081】
第2の実施形態の電気機器特徴量DB14は、各電気機器2−1、…、2−Nについての個別電流波形に対してフーリエ変換を行って得た周波数成分毎のパワー(周波数特性)が格納されている。図12は、テレビ(TV)についての周波数特性を示している。
【0082】
第2の実施形態の電気機器稼動状況推定部13は、周波数情報抽出部23が抽出した周波数特性(特徴量)が、電気機器特徴量DB14に格納されている複数の個別周波数特性をどのように組み合わせたときに最も類似しているかを探索することを通じて、稼働状態にある電気機器の組み合わせを推定するものである。特徴量が第1の実施形態とは異なっているが、電気機器稼動状況推定部13は、第1の実施形態の場合と同様な遺伝的アルゴリズムによって推定結果を得る。
【0083】
第2の実施形態における遺伝子ビット列に割り当てる電気機器の並びは、第1の実施形態と同様に電流波形の振幅に応じて定めるようにしても良く、周波数成分毎のパワーの中の最大パワーの大きさに応じた並びとするようにしても良い。
【0084】
推定結果出力部15は、第1の実施形態のものと同様なものである。
【0085】
以上のように特徴量は、第1の実施形態と異なっているため、特徴量の抽出処理等が異なるが、全体の動作は、第1の実施形態と同様であるため、第2の実施形態における動作の説明は省略する。
【0086】
第2の実施形態によっても、遺伝的アルゴリズムを適用したことに伴う効果は、第1の実施形態と同様である。
【0087】
第2の実施形態によれば、電流波形が有する周波数成分毎のパワー(周波数特性)を特徴量として処理しているため、波形の切り出しにおいて位相成分を考慮する必要がなく、特徴量の抽出処理が簡易になるという効果を得ることができる。
【0088】
また、第2の実施形態によれば、電流波形が有する周波数成分毎のパワー(周波数特性)を特徴量としているため、処理に供する周波数成分をフィルタ処理によって選択することも可能であり、このような選択によって特徴量におけるSNを向上させ、推定精度を高めることも可能である。
【0089】
(C)他の実施形態
上記実施形態の説明においても、種々変形実施形態に言及したが、さらに、以下に例示するような変形実施形態を挙げることができる。
【0090】
上記各実施形態においては、個体集団を新たに生成させる遺伝子操作が交叉及び突然変異のものを示したが、他の遺伝子操作であっても良い。例えば、ある個体の2つのビット位置間で値を交換して、新たな個体を生成させるようにしても良い。
【0091】
また、上記各実施形態においては、遺伝子配列が「0」又は「1」のビット列であり、動作モード毎のビット位置も用意されているものを示したが、他の遺伝子配列を適用するようにしても良い。例えば、遺伝子配列の要素数として電気機器の数を適用し、各要素で取り得る値を、最も多くの動作モードを有する電気機器の動作モード数に応じた値とする。例えば、3種類の動作モードを有する電気機器が最も多くの動作モードを有する電気機器であれば、「0」、「1」、「2」、「3」を配列要素で取り得る値とし、動作モードが1種類の電気機器については「0」、「1」及び「2」を非稼働状態、「3」を稼働状態と扱い、動作モードが2種類の電気機器については「0」及び「1」を非稼働状態、「2」を第1の動作モードでの稼働状態、「3」を第2の動作モードでの稼働状態として扱い、動作モードが3種類の電気機器については「0」を非稼働状態、「1」を第1の動作モードでの稼働状態、「2」を第2の動作モードでの稼働状態、「3」を第3の動作モードでの稼働状態として扱い、電気機器特徴量DB14からの個別特徴量の取り出しを行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0092】
1、1A…電気機器稼動状況推定システム、2−1〜2−N…電気機器、3…給電線、11…測定センサ、12、12A…特徴量抽出部、13…電気機器稼動状況推定部、14…電気機器特徴量データベース(電気機器特徴量DB)、22…波形情報抽出部、23…周波数情報抽出部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の給電線に接続された複数の電気機器の稼働状況を推定する電気機器稼動状況推定システムにおいて、
上記給電線に流れる電流波形の情報を抽出する特徴量抽出手段と、
上記各電気機器について、その電気機器だけが稼働しているときの電流波形の情報を格納している個別機器情報記憶手段と、
複数の電気機器の稼働状況の組み合わせを個体の遺伝子配列とし、個体の遺伝子配列に基づいて、上記個別機器情報記憶手段から1又は複数の電流波形の情報を得て、上記特徴量抽出手段が抽出した上記給電線に流れる電流波形の情報と比較する情報を形成して評価する遺伝的アルゴリズムを実行し、複数の電気機器の稼動状況の推定結果を得る電気機器稼動状況推定手段と
を備えたことを特徴とする電気機器稼動状況推定システム。
【請求項2】
上記電流波形の情報は、電流波形の時間変化のパターンであることを特徴とする請求項1に記載の電気機器稼動状況推定システム。
【請求項3】
上記電流波形の情報は、電流波形の周波数特性であることを特徴とする請求項1に記載の電気機器稼動状況推定システム。
【請求項4】
上記遺伝子配列における要素への電気機器の対応付けは、その電気機器の電流波形が上記給電線に流れる電流波形に及ぼす寄与率の高低に応じた並びとなっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気機器稼動状況推定システム。
【請求項5】
上記遺伝子配列は、稼働状態と非稼働状態とで異なる論理値をとるビット列であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電気機器稼動状況推定システム。
【請求項6】
電流波形の情報が異なる複数の動作モードを有する電気機器に対しては、上記遺伝子配列を構成しているビット列の中に、上記各動作モードに対応したビットが用意されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電気機器稼動状況推定システム。
【請求項7】
同一の給電線に接続された複数の電気機器の稼働状況を推定する電気機器稼動状況推定プログラムであって、
コンピュータを、
上記給電線に流れる電流波形の情報を抽出する特徴量抽出手段と、
上記各電気機器について、その電気機器だけが稼働しているときの電流波形の情報を格納している個別機器情報記憶手段と、
複数の電気機器の稼働状況の組み合わせを個体の遺伝子配列とし、個体の遺伝子配列に基づいて、上記個別機器情報記憶手段から1又は複数の電流波形の情報を得て、上記特徴量抽出手段が抽出した上記給電線に流れる電流波形の情報と比較する情報を形成して評価する遺伝的アルゴリズムを実行し、複数の電気機器の稼動状況の推定結果を得る電気機器稼動状況推定手段として機能させる
ことを特徴とする電気機器稼動状況推定プログラム。
【請求項1】
同一の給電線に接続された複数の電気機器の稼働状況を推定する電気機器稼動状況推定システムにおいて、
上記給電線に流れる電流波形の情報を抽出する特徴量抽出手段と、
上記各電気機器について、その電気機器だけが稼働しているときの電流波形の情報を格納している個別機器情報記憶手段と、
複数の電気機器の稼働状況の組み合わせを個体の遺伝子配列とし、個体の遺伝子配列に基づいて、上記個別機器情報記憶手段から1又は複数の電流波形の情報を得て、上記特徴量抽出手段が抽出した上記給電線に流れる電流波形の情報と比較する情報を形成して評価する遺伝的アルゴリズムを実行し、複数の電気機器の稼動状況の推定結果を得る電気機器稼動状況推定手段と
を備えたことを特徴とする電気機器稼動状況推定システム。
【請求項2】
上記電流波形の情報は、電流波形の時間変化のパターンであることを特徴とする請求項1に記載の電気機器稼動状況推定システム。
【請求項3】
上記電流波形の情報は、電流波形の周波数特性であることを特徴とする請求項1に記載の電気機器稼動状況推定システム。
【請求項4】
上記遺伝子配列における要素への電気機器の対応付けは、その電気機器の電流波形が上記給電線に流れる電流波形に及ぼす寄与率の高低に応じた並びとなっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気機器稼動状況推定システム。
【請求項5】
上記遺伝子配列は、稼働状態と非稼働状態とで異なる論理値をとるビット列であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電気機器稼動状況推定システム。
【請求項6】
電流波形の情報が異なる複数の動作モードを有する電気機器に対しては、上記遺伝子配列を構成しているビット列の中に、上記各動作モードに対応したビットが用意されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電気機器稼動状況推定システム。
【請求項7】
同一の給電線に接続された複数の電気機器の稼働状況を推定する電気機器稼動状況推定プログラムであって、
コンピュータを、
上記給電線に流れる電流波形の情報を抽出する特徴量抽出手段と、
上記各電気機器について、その電気機器だけが稼働しているときの電流波形の情報を格納している個別機器情報記憶手段と、
複数の電気機器の稼働状況の組み合わせを個体の遺伝子配列とし、個体の遺伝子配列に基づいて、上記個別機器情報記憶手段から1又は複数の電流波形の情報を得て、上記特徴量抽出手段が抽出した上記給電線に流れる電流波形の情報と比較する情報を形成して評価する遺伝的アルゴリズムを実行し、複数の電気機器の稼動状況の推定結果を得る電気機器稼動状況推定手段として機能させる
ことを特徴とする電気機器稼動状況推定プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−17674(P2011−17674A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163926(P2009−163926)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(800000068)学校法人東京電機大学 (112)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(800000068)学校法人東京電機大学 (112)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
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