説明

電気自動車用の空調制御装置

【課題】内燃機関の燃料よりもバッテリ電力を優先して使用することと、走行可能距離を拡大させることとの両立を図る。
【解決手段】バッテリの電力で走行する電気自動車であって、車室内の空調用駆動源として機能する内燃機関が搭載され、バッテリ電力で空調するバッテリ空調モードと、内燃機関の燃焼エネルギで車室内を空調する機関空調モードとを切り替え可能に構成する。そして、例えば暖房運転時において、バッテリ残容量が所定の閾値TH3未満になればバッテリ空調モードから機関空調モードに切り替える。但し、外気温度(要求暖房負荷)が所定値THc未満であれば、バッテリ残容量の値に拘わらず機関空調モードに切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの電力で走行する電気自動車であって、車室内の空調用駆動源として機能する内燃機関が搭載された電気自動車に適用された空調制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電気自動車では、1充電当たりの走行可能距離を延ばすことが重要課題である。例えば、走行開始前に商用電源(例えば100V)からバッテリを充電しておくプラグイン方式の電気自動車について言えば、満充電状態で走行を開始して途中で充電することなく走行可能な距離を延ばすことが望まれている。
【0003】
これに対し特許文献1では、空調用駆動源として用いる小型のエンジン(内燃機関)を搭載し、エンジン出力で空調する機関空調モードと、バッテリ電力で空調するバッテリ空調モードとを切り替え可能に構成している。例えば、機関空調モードでは、エンジン出力軸の回転トルクで冷凍サイクルの冷媒圧縮機を駆動させて冷房し、エンジン排熱で暖房する。また、バッテリ空調モードでは、バッテリ電力で冷媒圧縮機を駆動させて冷房し、電気ヒータで暖房する。
【0004】
但し、この種のエンジン搭載の電気自動車の場合には、エンジンの燃料をできるだけ用いずにバッテリに充電された電力を用いることが望まれる。そのため、特許文献1記載の発明では、走行に伴いバッテリ残容量が低下して所定量以下になった場合に、エンジンを始動させ、バッテリ空調モードから機関空調モードに切り替えている。要するに、バッテリ残容量に余裕が有るときにはバッテリ空調モードとし、走行距離が長くなるにつれ残容量に余裕が無くなってくると機関空調モードに切り替えることで、1充電当たりの走行可能距離の拡大を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−12970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したエンジン搭載の電気自動車では、エンジンを始動させるタイミングをバッテリ残容量に基づき判定している。しかしながら、例えば車室内を冷房するにあたり、要求される冷房負荷が小さい場合(例えば、車室内の設定温度が高めに設定されている場合や外気温度が低い場合)には、エンジン燃料より優先してバッテリ電力を使用するという観点では、エンジン始動開始時期を遅くした方が望ましい場合がある。逆に、要求される冷房負荷が大きい場合には、走行可能距離を拡大させるという観点で、エンジン始動開始時期を早くした方が望ましい場合がある。
【0007】
また、車室内を暖房する場合にも同様にして、バッテリ電力を優先して使用することと走行可能距離を拡大させることとの両立を図る上で最適なエンジン始動開始時期は、バッテリ残容量のみならず暖房負荷の大きさに応じても異なってくる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、内燃機関の燃料よりもバッテリ電力を優先して使用することと、走行可能距離を拡大させることとの両立を図った、電気自動車用の空調制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0010】
請求項1記載の発明では、バッテリの電力で走行する電気自動車であって、車室内の空調用駆動源として機能する内燃機関が搭載され、前記バッテリの電力で車室内を空調するバッテリ空調モードと、前記内燃機関の燃焼エネルギで車室内を空調する機関空調モードとが切り替え可能に構成された電気自動車に適用されることを前提とする。
【0011】
そして、前記バッテリの残容量を検出する残容量検出手段と、車室内の空調設定温度および外気温度の少なくとも一方に基づき、要求空調負荷を算出する要求空調負荷算出手段と、前記要求空調負荷および前記残容量に基づき、前記バッテリ空調モードと前記機関空調モードとを切り替える空調モード切替制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上記発明によれば、バッテリ残容量に基づいてバッテリ空調モードと機関空調モードを切り替えるので、例えば、走行に伴いバッテリ残容量が少なくなってくれば内燃機関を始動させて機関空調モードに切り替えることができる。よって、走行可能距離を拡大できる。
【0013】
さらに上記発明によれば、バッテリ残容量のみならず要求空調負荷にも基づいて空調モードを切り替えるので、例えば、機関空調モードに切り替えるタイミング(内燃機関を始動させるタイミング)を、要求空調負荷が大きいほど早くするようにできる。また、例えば外気温度が氷点下であるような極低温時に暖房する場合には、電気ヒータで暖房するとバッテリ消費量が著しく多くなる。そのため、極低温時の如く要求暖房負荷が著しく大きい場合には、エネルギ効率の良い機関空調モードへ早めに切り替えるようにできる。
【0014】
よって、内燃機関の燃料よりもバッテリ電力を優先して使用することと、走行可能距離を拡大させることとの両立を図る上で最適なタイミングで、内燃機関を始動させて機関空調モードに切り替えるようにできる。
【0015】
なお、機関空調モードの具体例を以下に説明すると、内燃機関の機関出力軸(クランク軸)の回転トルクで冷凍サイクルの圧縮機を駆動させて空調風を冷却する冷房運転、内燃機関の燃焼熱(例えば排ガスの熱や冷却水の熱)で空調風を加熱する暖房運転が挙げられる。また、バッテリ空調モードの具体例を以下に説明すると、バッテリ電力で冷凍サイクルの圧縮機を駆動させて空調風を冷却する冷房運転、バッテリ電力で電気ヒータを作動させて空調風を加熱する暖房運転が挙げられる。
【0016】
請求項2記載の発明では、前記バッテリ空調モードおよび前記機関空調モードに加え、前記内燃機関の燃焼エネルギおよび前記バッテリの電力の両方で車室内を空調するハイブリッド空調モードにも切り替え可能に構成され、前記空調モード切替制御手段は、前記要求空調負荷および前記残容量に基づき、前記バッテリ空調モードと前記機関空調モードと前記ハイブリッド空調モードとを切り替えることを特徴とする。
【0017】
ところで、機関空調モードでの暖房運転時において、内燃機関の排熱で暖房するとともに、機関出力軸(クランク軸)の回転トルクで発電機を駆動させて発電し、その発電電力で走行させる場合が想定される。この場合、低速走行時や停車時には要求される発電電力が少なくなるので内燃機関の出力を低下させることが望ましい。すると、外気温度が極低温である場合等、排熱による暖房だけでは要求暖房負荷を満たすことができなくなることが懸念される。
【0018】
この懸念に対し上記発明では、内燃機関の燃焼エネルギおよびバッテリ電力の両方で空調するハイブリッド空調モードにも切り替え可能に構成されている。そのため、上述の如く機関空調モードでは要求空調負荷を満たすことができなくなった場合に、ハイブリッド空調モードに切り替えることで上記懸念を解消できる。
【0019】
請求項3記載の発明では、前記空調モード切替制御手段は、前記要求空調負荷および前記残容量に加え、目的地までの残り走行距離にも基づき前記各モードを切り替えることを特徴とする。
【0020】
ところで、機関空調モードでの暖房運転時において、内燃機関の排熱で暖房するとともに、機関出力軸(クランク軸)の回転トルクで発電機を駆動させて発電し、その発電電力で走行させる場合が想定される。この場合、例えば点火時期を進遅角させる等により、排熱温度と出力軸トルクとの割合を制御することができる。つまり、内燃機関の燃焼エネルギのうち暖房に用いる熱エネルギと、発電機の駆動に用いる発電エネルギとの割合を制御できると言える。そしてこの場合、バッテリ電力の優先使用および走行可能距離拡大の両立を図る上で、残り走行距離によっては、遅めに内燃機関を始動して、その分、機関空調モード時の発電エネルギの割合を大きくする等、内燃機関の最適始動時期が異なってくる。
【0021】
この点を鑑みた上記発明では、要求空調負荷およびバッテリ残容量に加え、残り走行距離にも基づいて各空調モードを切り替えるので、内燃機関を最適な始動時期にすることを向上できる。
【0022】
なお、上記「残り走行距離」を推定する具体例として以下の手段が挙げられる。すなわち、現在位置から目的地までの経路の情報に基づき運転者を案内するナビゲーション装置が搭載された電気自動車においては、ナビゲーション装置が有する情報に基づき残り走行距離を推定する。或いは、内燃機関を停止させたままバッテリ走行させる予定距離を運転者が乗車時に入力し、その入力した予定距離に基づき残り走行距離を推定する。
【0023】
請求項4記載の発明では、前記空調モード切替制御手段は、前記電気自動車が目的地に到達した時の前記残容量が目標値となるよう、前記各モードを切り替えることを特徴とする。
【0024】
ここで、内燃機関の燃料よりもバッテリ電力を優先して使用することが望まれていることは先述した通りであり、具体的には、目的地に到達した時のバッテリ残容量ができるだけ少なくなっていることが望まれる。この点を鑑みた上記発明では、目的地に到達した時のバッテリ残容量が目標値(例えばSOCの最適使用範囲の下限値)となるように各空調モードを切り替えるので、内燃機関の燃料よりもバッテリ電力を優先して使用することを促進できる。
【0025】
請求項5記載の発明では、前記内燃機関の燃焼エネルギにより発電機を駆動させて、前記バッテリへ充電可能に構成されており、前記機関空調モードでの運転時において、前記内燃機関の燃焼エネルギのうち空調に用いるエネルギと、前記発電機の駆動に用いるエネルギとの割合を、前記要求空調負荷、前記残容量および走行負荷の少なくとも1つに基づき制御する空調発電割合制御手段を備えることを特徴とする。
【0026】
前記「空調発電割合制御手段」の具体例を以下に説明する。すなわち、暖房運転時においては、内燃機関の排熱で暖房するとともに、機関出力軸(クランク軸)の回転トルクで発電機を駆動させて発電し、その発電電力で走行させる場合において、点火時期を進遅角させる等により、排熱温度と出力軸トルクとの割合を制御する。また、冷房運転時においては、内燃機関の機関出力軸(クランク軸)の回転トルクで冷凍サイクルの圧縮機を駆動させるとともに、前記回転トルクで発電機を駆動させて発電し、その発電電力で走行させる場合において、圧縮機の運転出力(例えば可変容量型の圧縮機における冷媒吐出量)を可変設定する等により、冷房出力と発電量との割合を制御する。
【0027】
そして例えば、要求暖房負荷が大きい場合には排熱温度を高くする割合に制御し、バッテリ残容量が少ない場合や走行負荷が大きい場合には出力軸トルクを大きくする割合に制御することが、バッテリ電力の優先使用および走行可能距離拡大の両立を図る上で望ましい。また、要求冷房負荷が大きい場合には冷房出力を大きくする割合に制御し、バッテリ残容量が少ない場合や走行負荷が大きい場合には発電量を大きくする割合に制御することが、バッテリ電力の優先使用および走行可能距離拡大の両立を図る上で望ましい。
【0028】
この点を鑑みた上記発明では、要求暖房負荷、バッテリ残容量および走行負荷の少なくとも1つに基づき、空調に用いるエネルギと発電に用いるエネルギとの割合を制御するので、バッテリ電力の優先使用および走行可能距離拡大の両立を促進できる。
【0029】
請求項6記載の発明では、前記空調発電割合制御手段は、前記電気自動車が目的地に到達した時の前記残容量が目標値となるよう、前記割合を制御することを特徴とする。
【0030】
ここで、内燃機関の燃料よりもバッテリ電力を優先して使用することが望まれていることは先述した通りであり、具体的には、目的地に到達した時のバッテリ残容量ができるだけ少なくなっていることが望まれる。この点を鑑みた上記発明では、目的地に到達した時のバッテリ残容量が目標値(例えばSOCの最適使用範囲の下限値)となるように、空調に用いるエネルギと発電に用いるエネルギ(出力軸トルク)との割合を制御するので、内燃機関の燃料よりもバッテリ電力を優先して使用することを促進できる。
【0031】
請求項7記載の発明では、前記空調発電割合制御手段は、前記電気自動車が目的地に到達するまでにおける前記内燃機関の燃料消費量が最小となるよう、前記割合を制御することを特徴とする。
【0032】
上記発明によれば、先述したように目的地に到達した時のバッテリ残容量が目標値となることよりも優先して、燃料消費量が最小となるように空調に用いるエネルギと発電に用いるエネルギ(出力軸トルク)との割合を制御する。そのため、燃料タンクへ燃料を供給(給油)する頻度を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態にかかる電気自動車、およびその空調制御装置を示す図。
【図2】図1の空調制御装置による、空調モードの切替制御を説明する制御マップ。
【図3】図2に示す各空調モードの作動を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態にかかる電気自動車(以下、車両EVと記載)、およびその空調制御装置を示す図である。
【0035】
電気自動車EVには、走行用モータ(以下、走行用MG10と記載)およびバッテリ11が搭載されており、バッテリ11の電力により走行用MG10を駆動させ、走行用MG10により車両EVの駆動輪10aを駆動させて走行する。バッテリ11は、走行開始前に商用電源(例えば100V)から充電しておくプラグイン方式である。但し、走行用MG10を発電機として機能させることもでき、減速走行時には車両EVの減速エネルギにより走行用MG10にて発電させた回生電力をバッテリ11へ充電させることも可能である。
【0036】
バッテリ11の電力は、走行用MG10の他にも、車両EVに搭載された各種補機へも供給される。補機の一つには、車室内を空調する空調装置20を構成する圧縮機21および電気ヒータ22等が挙げられる。次に、空調装置20のハード構成について説明する。
【0037】
空調装置20は、車室内に配置された空調ユニット23を有して構成されており、空調ユニット23は、蒸発器23a、ヒータコア23bおよびブロワ23c等を空調ケース23d内に収容して構成されている。ブロワ23cはバッテリ11からの電力により駆動するものであり、冷房運転時には、ブロワ23cにより送風された空気を蒸発器23a内の冷媒(例えばHFC134a)と熱交換して冷却し、その冷風を、空調ケース23dの冷風吹出口23eを通じて車室内へ吹き出す。暖房運転時には、ブロワ23cにより送風された空気をヒータコア23b内の熱媒体(例えば水)と熱交換して加熱し、その温風を、空調ケース23dの温風吹出口23fを通じて車室内へ吹き出す。
【0038】
蒸発器23a内の冷媒は、圧縮機21→凝縮器24→膨張弁(図示せず)→蒸発器23a→圧縮機21の順に冷凍サイクルを循環する。圧縮機21から吐出された高温気体の冷媒は、凝縮器24にて外気と熱交換して凝縮し、その後、膨張弁にて膨張した低温液体の冷媒は、蒸発器23aにてブロワ23cによる送風空気と熱交換して蒸発する。
【0039】
圧縮機21は、電動モータ(以下、補機用MG25と記載)により駆動される。補機用MG25は、基本的にはバッテリ11から供給される電力により駆動するが、車両EVには、補機用の小型エンジン26(内燃機関)、およびエンジン26の燃料に用いる燃料を貯蔵する燃料タンク26Tが搭載されており、エンジン26での燃焼エネルギにより補機用MG25を駆動させることも可能である。
【0040】
補機用MG25とエンジン26の出力軸とは、電磁クラッチ27等を介して機械的に連結されており、エンジン運転時には電磁クラッチ27をオン作動させて出力軸により補機用MG25を駆動させ、エンジン停止時には電磁クラッチ27をオフ作動させて前記連結を遮断する。この時には、バッテリ11の電力で補機用MG25を駆動させる。なお、上述の如くエンジン26で補機用MG25を駆動させている時には、補機用MG25は発電機として機能し、その発電電力はバッテリ11へ充電される。
【0041】
ちなみに、図1の例では可変容量型の圧縮機21が採用されており、1回転当りの冷媒吐出容量を可変制御できる。したがって、この吐出容量をゼロに制御すれば、エンジン出力の全てを補機用MG25での発電に用いることができる。つまり、圧縮機21の吐出容量を制御することで、エンジン出力のうち発電に用いられる出力(発電量)と冷房に用いられる出力(冷房出力)との割合を制御できる。
【0042】
ヒータコア23b内の熱媒体は、ヒータコア23bおよび蒸発器28から構成されるヒートサイクルを循環する。蒸発器28内の熱冷媒は、電気ヒータ22により加熱されて蒸発し、その後、ヒータコア23bにてブロワ23cによる送風空気と熱交換して凝縮する。このヒートサイクルはサーモサイフォン式であり、ヒータコア23bで凝縮した液体の熱冷媒は、重力により蒸発器28へ還流する。
【0043】
蒸発器28にて熱冷媒を加熱するにあたり、電気ヒータ22で加熱することに替え、エンジン26の排熱により加熱することも可能である。つまり、エンジン26の排気管29を流れる排ガスと蒸発器28内の熱冷媒とで熱交換させることにより、熱冷媒を加熱して蒸発させることも可能である。ちなみに、図1の例では、排気管29に接続された触媒装置29aとマフラー29bの間に蒸発器28を配置している。
【0044】
バッテリECU30は、バッテリ11の放電量および充電量を制御する。具体的には、要求走行負荷に基づき走行用MG10への電力供給量を制御し、要求冷房負荷に基づき補機用MG25への電力供給量を制御し、要求暖房負荷に基づき電気ヒータ22への電力供給量を制御する。また、走行用MG10による充電量を制御するとともに、エンジン運転時においては補機用MG25からの充電量を制御する。
【0045】
なお、バッテリ11の残容量SOC(State of charge:満充電時の充電量に対する実際の充電量の割合)には最適範囲があり、最適範囲の上限(例えば95%)を超えて充電する過充電の状態になったり、最適範囲の下限(例えば10%)を超えて放電する過放電の状態になったりすると、バッテリ11の劣化が促進されてしまう。そこでバッテリECU30は、過充電とならないように走行用MG10や補機用MG25からの充電を制限する機能を有する。また、走行中にSOCが低下していき下限値に達した場合には、過放電とならないようにエンジン26を始動させる等により放電を制限する機能を有する。
【0046】
エンジンECU31は、エンジン26の作動を制御する。具体的には、エンジン26が有する燃料噴射弁から噴射される燃料の噴射量やその噴射時期、吸気量、点火時期等を、エンジン出力軸の回転速度および要求走行負荷等に基づき制御する。さらにエンジンECU31は、空調装置20の作動をも制御する。具体的には、電磁クラッチ27の接続状態、圧縮機21の吐出容量、ブロワ23cの作動等を、要求冷房負荷および要求暖房負荷に基づき制御する。
【0047】
なお、これらの要求冷房負荷および要求暖房負荷(以下、これらをまとめて「要求空調負荷」と記載)は、外気温度センサ31aにより検出される外気温度と、車両乗員により設定される車室内の設定温度(空調設定温度)とに基づき、エンジンECU31が算出する。ちなみに、これらの空調制御をエンジンECU31が実施することに替え、バッテリECU30が空調制御を実施してもよいし、空調制御専用のECUを設けるようにしてもよい。
【0048】
また、これらのバッテリECU30およびエンジンECU31は相互に通信するように構成されており、これらのECU30,31および先述の空調制御用ECUの少なくとも1つが、以下に説明する空調モードの切替制御を実施する。
【0049】
図2に示すように、本実施形態にかかる空調モードには、空調装置20により車室内を冷房するバッテリ冷房モードおよび機関冷房モードと、空調装置20により車室内を暖房するバッテリ暖房モード、機関暖房モードおよびハイブリッド暖房モード(ハイブリッド空調モード)とがある。機関冷房モードおよび機関暖房モードは機関出力で空調する機関空調モードに相当し、バッテリ冷房モードおよびバッテリ暖房モードはバッテリ出力で空調するバッテリ空調モードに相当する。そしてこれらの空調モードは、要求空調負荷およびバッテリ残容量SOCに応じて切り替えるように制御(空調モード切替制御)される。
【0050】
図2の例では、要求空調負荷として外気温度を用いている。すなわち、冷房運転時においては外気温度が高いほど要求冷房負荷が高くなり、暖房運転時においては外気温度が低いほど要求暖房負荷が高くなる。但し、冷房運転時での空調設定温度が高く設定されるほど要求冷房負荷は低くなり、暖房運転時での空調設定温度が低く設定されるほど要求暖房負荷は低くなる。そのため、外気温度および空調設定温度の両パラメータに基づき算出された要求空調負荷を、空調モード切替制御に用いる要求空調負荷として採用してもよい。
【0051】
また、バッテリECU30(残容量検出手段)は、バッテリ11の端子電圧をバッテリ電圧として検出し、充放電を実施していない時のバッテリ電圧に基づき残容量SOCを推定する。或いは、バッテリ11に流れる電流をバッテリ電流として検出し、バッテリ電流の積算値に基づき残容量SOCを推定してもよいし、バッテリ電流の積算値およびバッテリ電圧に基づき推定してもよい。
【0052】
バッテリ冷房モードは、エンジン26を停止させた状態でバッテリ11の電力により走行するEV走行時に、空調装置20を冷房運転させるモードである。このモードでは、バッテリ11から補機用MG25へ電力供給して圧縮機21を駆動させる。つまり、バッテリ電力で圧縮機21を駆動させて冷房する(図3(a)参照)。
【0053】
機関冷房モードは、エンジン26を運転させて補機用MG25により発電させながらバッテリ11の電力により走行するエンジン発電走行時に、空調装置20を冷房運転させるモードである。このモードでは、エンジン26の出力軸の回転トルク(機関出力)により補機用MG25を駆動させて圧縮機21を駆動させる。つまり、エンジン26の燃焼エネルギによる機関出力で圧縮機21を駆動させて冷房する(図3(b)参照)。
【0054】
バッテリ暖房モードは、エンジン26を停止させた状態でバッテリ11の電力により走行するEV走行時に、空調装置20を暖房運転させるモードである。このモードでは、バッテリ11から電気ヒータ22へ電力供給してヒータコア23bの熱媒体を加熱することで、送風空気を温風にする。つまり、バッテリ電力で暖房する(図3(c)参照)。
【0055】
機関暖房モードは、エンジン26を運転させて補機用MG25により発電させながらバッテリ11の電力により走行するエンジン発電走行時に、空調装置20を暖房運転させるモードである。このモードでは、エンジン26の排熱(排ガス温度)によりヒータコア23bの熱媒体を加熱することで、送風空気を温風にする。つまり、エンジン26の燃焼エネルギによる熱で熱媒体を加熱して暖房する(図3(d)参照)。
【0056】
ハイブリッド暖房モードは、エンジン26を運転させて補機用MG25により発電させながらバッテリ11の電力により走行するエンジン発電走行時に、空調装置20を暖房運転させるモードである。このモードでは、エンジン26の排熱および電気ヒータ22の両方でヒータコア23bの熱媒体を加熱する。つまり、エンジン26の燃焼エネルギによる熱とバッテリ電力の両方で熱媒体を加熱して暖房する。
【0057】
なお、エンジン26を停止させていることを前提とするバッテリ冷房モード時およびバッテリ暖房モード時には、電磁クラッチ27を遮断作動させておく。また、エンジン26を運転させていることを前提とする機関冷房モード時、機関暖房モード時およびハイブリッド暖房モード時には、電磁クラッチ27を連結作動させておく。また、エンジン運転中であっても冷房運転を実施しない時には、圧縮機21の吐出容量をゼロに設定しておく。
【0058】
次に、これら各モードを切り替える空調モード切替制御について、図2を用いて説明する。図2の縦軸は外気温度を示す。但し、この縦軸を、要求空調負荷に置き換えてもよいし、要求空調負荷と相関のある物理量(例えば空調設定温度等)に置き換えてもよい。外気温度センサ31aの検出値等に基づき、図2の縦軸のパラメータを算出している時のECU30,31は「要求空調負荷算出手段」に相当する。
【0059】
図2の横軸はバッテリ残容量SOCを示す。ここで、車両EVの走行開始前にバッテリ11を商用電源により満充電状態にしておけば、走行開始時点でのSOCは100%或いは先述した最適使用範囲の上限(例えば95%)になっている筈であり、その後、走行を継続させて走行距離が長くなるほどSOCは低下していく。したがって、図2の横軸を走行距離に置き換えることもできるし、走行継続時間に置き換えることもできる。
【0060】
空調モード切替制御では、先ず、外気温度に応じて暖房モードおよび冷房モードのいずれに切り替えるかを判定する。例えば、外気温度が所定温度THa以上であれば冷房モードに切り替え、所定温度THa未満であれば暖房モードに切り替える。
【0061】
次に、その時のSOCに応じてエンジン26を作動させるか否かを判定する。つまり、SOCが所定の閾値TH1〜TH4以上であれば、エンジン26を停止させるバッテリ冷房モードおよびバッテリ暖房モードを選択し、SOCが所定の閾値TH1〜TH4未満であれば、エンジン26を運転させる機関冷房モードおよび機関暖房モードを選択する。但し、外気温度(要求空調負荷)に応じて前記閾値TH1〜TH4を可変設定する。
【0062】
例えば、冷房モード運転時において、外気温度が所定温度THb以上であれば、バッテリ冷房モードおよび機関冷房モードのいずれを選択するかの閾値を、TH1からTH2に変更する(TH2>TH2)。この制御を実施している時のECU30,31は「空調モード切替制御手段」に相当する。
【0063】
また、暖房モード運転時において、外気温度が所定温度THc以上であれば、バッテリ暖房モードおよび機関暖房モードのいずれを選択するかの閾値を、TH3からTH4に変更する(TH4>TH3)。この制御を実施している時のECU30,31は「空調モード切替制御手段」に相当する。
【0064】
要するに、要求空調負荷が大きいほど、バッテリ残容量SOCを多く残した状態でエンジン26を始動させてエンジン出力で空調する。また、外気温度が所定温度THc未満であり、かつ、バッテリ残容量SOCが所定量TH4以上である場合には、ハイブリッド暖房モードに切り替える。
【0065】
例えば、車両EVの走行を開始する時点ではバッテリ残容量が十分残っていることが通常であるため、エンジン26を停止させたバッテリ冷房モードまたはバッテリ暖房モードで車両EVの走行を開始する。走行距離が長くなってくることに伴いバッテリ残容量が低下してくると、機関冷房モードまたは機関暖房モードに切り替えることとなる。但し、外気温度が高温(THb以上)である場合や設定空調温度が低めに設定してある場合(冷房負荷が大きい場合)や、外気温度が極低温(THc未満)である場合や設定空調温度が高めに設定してある場合(暖房負荷が大きい場合)には、早めにエンジン26を始動させてバッテリ11の電力消費量が著しく低下することを回避する。
【0066】
以上により、本実施形態によれば、バッテリ残容量のみならず要求空調負荷にも基づいて空調モードを切り替えるので、エンジン26の燃料よりもバッテリ電力を優先して使用することと、走行可能距離を拡大させることとの両立を図る上で最適なタイミングで、エンジン26を始動させて機関暖房モードまたは機関冷房モードに切り替えるようにできる。
【0067】
また、極低温時には、バッテリ容量に余裕があれば排熱に加えて電気ヒータ22を作動させて熱媒体を加熱するので、極低温時において車室内を迅速に目標温度にまで暖房することができる。
【0068】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0069】
・車両EVの目的地までの残り走行距離に応じて、モード切替判定に用いる前記閾値TH1〜TH4を可変設定してもよい。これによれば、走行可能距離を最大にする最適のタイミングでエンジン26を始動させることができる。
【0070】
なお、この残り走行距離は、車両EVに搭載されたナビゲーション装置が有する現在位置情報および目的地情報に基づいて算出すればよい。或いは、エンジン26を停止させたままEV走行させる予定距離を運転者が乗車時に入力し、その入力した予定距離および現時点までの走行距離に基づき残り走行距離を推定してもよい。
【0071】
・車両EVが目的地に到達した時のバッテリ残容量SOCが目標値(例えばSOCの最適使用範囲の下限値)となるよう、モード切替判定に用いる前記閾値TH1〜TH4を可変設定してもよい。これによれば、エンジン燃料よりもバッテリ電力を優先して使用することを促進させるように空調モードを切り替えることもできる。
【0072】
・エンジンECU31(空調発電割合制御手段)は、機関暖房モードおよびハイブリッドモードの如く、エンジン26を運転させた暖房モード運転時において、エンジン26の燃焼エネルギのうち蒸発器28にて熱媒体の加熱に用いるエネルギ(暖房エネルギ)と、補機用MG25の駆動に用いるエネルギ(発電エネルギ)との割合を、要求暖房負荷、バッテリ残容量および走行負荷に基づき制御してもよい。これによれば、バッテリ電力の優先使用および走行可能距離拡大の両立を図ることを促進できる。
【0073】
例えば、エンジン26の点火時期を遅角させることで排熱温度を上昇させて、発電エネルギに対する暖房エネルギの割合(暖房出力比)を高くすることができる。よって、要求暖房負荷、バッテリ残容量および走行負荷に基づき、点火時期を制御して前記暖房出力比を制御すればよい。
【0074】
・エンジンECU31(空調発電割合制御手段)は、機関冷房モード時において、エンジン26の燃焼エネルギのうち圧縮機21の駆動に用いるエネルギ(冷房エネルギ)と、補機用MG25の駆動に用いるエネルギ(発電エネルギ)との割合(冷房出力比)を、要求暖房負荷、バッテリ残容量および走行負荷に基づき制御してもよい。これによれば、バッテリ電力の優先使用および走行可能距離拡大の両立を図ることを促進できる。
【0075】
例えば、圧縮機21の吐出容量を大きくすることで蒸発器23aでの冷房能力を上昇させて、発電エネルギに対する冷房エネルギの割合を高くすることができる。よって、要求暖房負荷、バッテリ残容量および走行負荷に基づき、圧縮機21の吐出容量を制御して前記冷房出力比を制御すればよい。
【0076】
・上述の如く暖房出力比および冷房出力比を制御するにあたり、車両EVが目的地に到達した時のバッテリ残容量SOCが目標値となるように制御してもよいし、目的地に到達するまでにおけるエンジン26での燃料消費量が最小となるように制御してもよい。
【0077】
・バッテリ11の出力は残容量SOCの低下に伴い低下していくが、さらに、残容量SOCが同じであってもその時のバッテリ温度が低いほどバッテリ11の出力は低下していく。したがって、外気温度が低いほどバッテリ出力が低下して所望の走行出力が得られなくなることが懸念される。この点を鑑みて、モード切替判定に用いる前記閾値TH1〜TH4を、外気温度に応じて可変設定してもよい。つまり、外気温度が低くバッテリ出力が低下している状況であるほど前記閾値TH1〜TH4を高い値に設定して、早めにエンジン26を始動させる。
【0078】
・図1に示す空調装置20では、圧縮機21を駆動させるにあたり、エンジン出力軸の回転トルクでの駆動とバッテリ電力での駆動とを切り替え可能に構成している。つまり、機関冷房モード時にはエンジン出力トルクで駆動させ、バッテリ冷房モード時にはバッテリ電力で駆動させている。これに対し、電動圧縮機を採用し、圧縮機21をバッテリ電力でのみ駆動するように構成してもよい。この場合、機関冷房モード時にはエンジン出力により発電した電力を駆動源とする。
【0079】
・図1に示す空調装置20では、ヒータコア23bの熱媒体は、ヒータコア23bおよび蒸発器28を循環するよう構成されているが、エンジンおよびラジエータを循環するエンジン冷却水をヒータコア23bの熱媒体として採用してもよい。
【符号の説明】
【0080】
11…バッテリ、26…エンジン(内燃機関)、…(発電機)、30…バッテリECU(要求空調負荷算出手段、空調モード切替制御手段、残容量検出手段)、31…エンジンECU(要求空調負荷算出手段、空調モード切替制御手段、空調発電割合制御手段、)、EV…電気自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの電力で走行する電気自動車であって、
車室内の空調用駆動源として機能する内燃機関が搭載され、前記バッテリの電力で車室内を空調するバッテリ空調モードと、前記内燃機関の燃焼エネルギで車室内を空調する機関空調モードとが切り替え可能に構成された電気自動車に適用され、
前記バッテリの残容量を検出する残容量検出手段と、
車室内の空調設定温度および外気温度の少なくとも一方に基づき、要求空調負荷を算出する要求空調負荷算出手段と、
前記要求空調負荷および前記残容量に基づき、前記バッテリ空調モードと前記機関空調モードとを切り替える空調モード切替制御手段と、
を備えることを特徴とする電気自動車用の空調制御装置。
【請求項2】
前記バッテリ空調モードおよび前記機関空調モードに加え、前記内燃機関の燃焼エネルギおよび前記バッテリの電力の両方で車室内を空調するハイブリッド空調モードにも切り替え可能に構成され、
前記空調モード切替制御手段は、前記要求空調負荷および前記残容量に基づき、前記バッテリ空調モードと前記機関空調モードと前記ハイブリッド空調モードとを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用の空調制御装置。
【請求項3】
前記空調モード切替制御手段は、前記要求空調負荷および前記残容量に加え、目的地までの残り走行距離にも基づき前記各モードを切り替えることを特徴とする請求項1または2に記載の電気自動車用の空調制御装置。
【請求項4】
前記空調モード切替制御手段は、前記電気自動車が目的地に到達した時の前記残容量が目標値となるよう、前記各モードを切り替えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電気自動車用の空調制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関の燃焼エネルギにより発電機を駆動させて、前記バッテリへ充電可能に構成されており、
前記機関空調モードでの運転時において、前記内燃機関の燃焼エネルギのうち空調に用いるエネルギと、前記発電機の駆動に用いるエネルギとの割合を、前記要求空調負荷、前記残容量および走行負荷の少なくとも1つに基づき制御する空調発電割合制御手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の電気自動車用の空調制御装置。
【請求項6】
前記空調発電割合制御手段は、前記電気自動車が目的地に到達した時の前記残容量が目標値となるよう、前記割合を制御することを特徴とする請求項5に記載の電気自動車用の空調制御装置。
【請求項7】
前記空調発電割合制御手段は、前記電気自動車が目的地に到達するまでにおける前記内燃機関の燃料消費量が最小となるよう、前記割合を制御することを特徴とする請求項5に記載の電気自動車用の空調制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−236513(P2012−236513A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107015(P2011−107015)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】