説明

電流値依存性の少ない増幅率を有する半導体デバイス

【課題】本発明は、数桁のレベルで変化する電流を、複雑な回路を使わないで一定の増幅率で増幅することを課題とする。
【解決手段】本発明ではこの課題を解決するために、第1導電形の第1半導体領域と、該第1半導体領域に接して設けられた逆導電形の第2半導体領域と、該第2表面で該第2半導体領域と接して設けられた第1導電形の第3半導体領域とを有する半導体デバイスにおいて、該第2半導体と接して該第3半導体領域を離間して囲む該第2半導体領域より高不純物濃度の
第4半導体領域を更に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体デバイス、特に電流増幅率のベース電流またはコレクタ電流依存性の少ないバイポーラトランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバイポーラトラジスタは、微小電流域では電流増幅率は小さく、中電流では大きく、大電流ではhigh level injection 効果により再度小さくなることが知られている。
例えば、非特許文献1の142〜143ページFig.7で、電流増幅率は、コレクタ電流が100pAのとき35であったのが、コレクタ電流の増加に従って約一桁増加し、約100μAで最大400と
なり、それより大きいコレクタ電流に対しては減少する特性例が示されている。
【0003】
一方、ベース外部抵抗を小さく実現し高周波特性を改善するためのグラフトベース(graft base)トランジスタ構造が従来知られていた。この構造は、非特許文献2の106ペー
ジのFig.6.12(A)に示されるように、高濃度ベース領域(グラフトベース127)をエミッタ130外側の側面からエミッタ下へ延在埋設するように設けた構造である。この場合、高濃
度ベース領域をエミッタと離間するとエミッタ中央下の真性ベース(intrinsic base)121までの抵抗が高くなり有効ではない。図1は、非特許文献2のFig.6.12(A)から抽出したグラフトベース構造のトランジスタ断面を示す。図1において、高濃度ベース領域127は、
エミッタの端からエミッタ130下に0.35μm延在埋設されている。図1において、110はコレクタ、121は真性ベース、127はグラフトベース、130はエミッタを示す。これらの数字はFig.6.12(A)に上書きされたものである。
【0004】
このグラフトベーストランジスタは、電流増幅率の電流依存性を改善することを目的として開発されたものではない。このグラフトベーストランジスタは高周波特性の改善のために開発されたものであり、したがって、動作領域も大きな電流が主体で、微小電流領域は重要視していない。
【0005】
このため、グラフトベーストランジスタの高濃度ベース領域の高濃度部分(不純物濃度>1E19原子/cc)がエミッタと接触する構造はエミッタ・ベース間のリーク電流を増大さ
せる。これは、該リーク電流値に近い低電流領域での電流増幅率を減少させる。これにより、増幅度の変化の少ないコレクタ電流範囲が却って狭められてしまう。更に、ベース・エミッタ間耐圧が小さくなり、トランジスタの応用範囲が縮減されるので望ましくない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.M.Sze著, "Physics of Semiconductor Devices", second edition, John Wilyand Son.
【非特許文献2】L.Treitinger, M.Miura-Mattausch, "Ultra-Fast Silicon Bipolar Technology", Springer-Verlag
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、数桁のレベルで変化する電流を、複雑な回路を使わないで一定の増幅率で増幅するためには、電流増幅率(入力電流(ベース電流)に対する出力電流(コレクタ電流またはエミッタ電流)の割合:βまたはhfe)の電流依存性が数桁のレベルに亘って少ない
バイポーラトランジスタが必要である。
【0008】
本発明は、
1)上記従来技術において、電流増幅率の変化を抑えること、
2)かつ、エミッタ・ベース間耐圧を低下させないこと、
を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では上記の課題を解決するために、エミッタから離間してエミッタを囲んでベース表面に高濃度不純物領域を設ける手段をとる。すなわち、これをデバイス構造で記述すると、
(1)
第1表面と第1厚さを有する第1導電形の第1半導体領域と、
第2表面と第2厚さを有し、該第1表面部分で該第1半導体領域に接して設けられた逆導電形の第2半導体領域と、
第3表面と第3厚さを有し、該第2表面部分で該第2半導体領域と接して設けられた第1導
電形の第3半導体領域と、
第4表面と第4厚さを有し、該第2表面部分で該第2半導体と接して設けられた第4半導体
領域と、
から少なくともなり、
該第3半導体領域は、それが接している部分の第2半導体領域より不純物濃度が大きく、
該第4半導体領域は、該第3半導体領域から離間して、該第3半導体領域を囲んで設けら
れ、該第2半導体領域より不純物濃度が大きいことを特徴とする半導体デバイス、
となる。
【0010】
このデバイスは、トランジスタとして使われるだけでなく、リニアリティの良好な増幅形センサなどとして使われるので、『半導体デバイス』と記述される。
【0011】
また、「表面『部分』で接している」という表現は表面上(on)に乗っている場合または表面内(in)に設けられている(後述の図3参照)場合いずれも含む。逆導電形(opposite conductivity)とは、第1導電形がn形(キャリアの場合電子)であればp形(キャリ
アの場合は正孔)、第1導電形がp形(キャリアの場合は正孔)であればn形(キャリアの
場合電子)を指す。
【0012】
本発明では、前記第2半導体領域より不純物濃度の大きい前記第4半導体領域を、前記第3半導体領域から離間することにより、公知例のグラフトベーストランジスタ構造に起因するリーク電流の増大、耐圧の減少を防いでいる。離間の距離は、前記第3半導体領域と
前記第2半導体領域の間の耐圧が大きく減少しない距離、例えば、3V耐圧に対して0.06マ
イクロメータは必要である。
【0013】
従来のトランジスタの前記「微小電流域では電流増幅率は小さい」原因は、前記第2半
導体領域内部のバルク再結合センターにおける少数キャリアのバルク再結合、前記第2半
導体領域の第2表面における表面再結合センターにおける表面再結合であることが知られ
ている。
【0014】
前記第1半導体領域と前記第3半導体領域間を流れる電流(コレクタ電流、エミッタ電流に相当)が大きくなると、これらの再結合の影響は減少するため、前記第2半導体領域に
必要な電流(ベース電流に相当)に対する前記第1半導体領域と前記第3半導体領域間に流れる電流の比(=電流増幅率)は大きくなる。しかし、表面再結合の影響が少なくなる電流領域では、本発明の第4半導体領域が設けられていると、それが電流増幅率の増加を抑
制する。
【0015】
この電流増幅率の増加の抑制の効果を実現するためには、前記第3半導体領域と前記第4半導体領域と距離は前記第2半導体領域の少数キャリアの拡散長より小さいことが望まし
い。半導体がシリコンであり、第2半導体領域の不純物濃度が1E18原子/cc程度であるとき、この距離は20マイクロメータ程度である。少数キャリアのライフタイムは前記第2半導
体領域の欠陥密度(後述の再結合センターの原因)、不純物濃度、デバイス作成時の温度・時間履歴(高温からの冷却速度も含む)により支配されるので、[少数キャリアの拡散定数とライフタイムの積]の平方根で表される拡散長は不純物濃度、デバイス作成時条件により変わる。
【0016】
前記第4半導体領域は閉図形で前記第3半導体領域を囲む必要はない。本発明の半導体デバイスは、
(2)
前記第4半導体領域が、該第3半導体領域を囲む平面図形で開口部を有し、該開口部の最短距離の寸法が前記第3半導体領域を囲む内周辺長の1/10以下以下であることを特徴
とする(1)記載の半導体デバイス、
でもよい。
【0017】
(2)記載の半導体デバイスでは、前記第3半導体領域の周囲において前記第4の半導体領域に完全に囲まれない部分(前記開口部)があっても、前記第4半導体領域から逆導電
形のキャリアが流れだしている部分では、前記電流増幅率の増加を抑えることが出来る。たとえその部分が開口部の距離に至らなくても、開口部の距離が、前記第4半導体領域が
前記第3半導体領域を囲む内周辺長の1/10以下であれば、本発明の効果は十分得られる。
【0018】
(3)
この電流増幅率の増加の抑制を実現するためには、第4半導体領域の不純物濃度が第2半導体領域に対して10倍以上あればよい。
【0019】
電流増幅率を1以上とするためには、第3半導体領域の不純物濃度は、第2半導体領域の不純物濃度より大きい必要がある。
【発明の効果】
【0020】
電流レベルに依存しない一定な増幅度を実現するためには数多くのトランジスタからなるアナログ増幅回路に帰還ループを付加して実現されていたが、本発明の半導体デバイスは、簡単な構造で電流レベルに拘わらずほぼ一定の電流増幅率を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、従来のグラフトベーストランジスタの断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施例の平面図である。
【図3】図3は、図2の実施例の断面図である。
【図4】図4は、図2の実施例の平面図に従って作成された半導体デバイスの増幅度の電流依存性を示す。
【図5】図5は、第4半導体領域の開口を例示する平面図である。
【図6】図6は、本発明を増幅形光電変換素子に適用した実施例である。
【図7】図7は、図6の実施例の特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施例の半導体デバイスの平面図を図2に示す。図3は、図2の平面図で、鎖線1−2部分で切ったときの断面図である。図において、110は、第1半導体領域である。111は、パッシベーションのために第1、第2、第3、第4表面に設けられた絶縁膜である。120は、前記第1半導体領域表面内に接して設けられた第2半導体領域である。130は、前記
第2半導体領域表面内に接して設けられた第3半導体領域である。また、140は、前記第3半導体と離間して前記第2半導体表面内に接して設けられた第4半導体領域である。前記第4
半導体領域は、グラフトベースと異なり前記第3半導体領域の下側には埋設されていない
。133は第3半導体領域への、143は第4半導体領域への前記絶縁膜111に設けられたコンタ
クトホールである。各領域への電極は複雑を避けるために省略してある。
【0023】
前記第1半導体領域110として、n形10〜20Ωcm、(100)面シリコン基板を使用し、前記第2半導体領域120の表面不純物濃度は約1E18原子/cc、第2厚さ(深さ)は約2マイクロメ
ータ、前記第3半導体領域の表面不純物濃度は約9E20原子/cc、第3厚さは0.5マイクロメータ以下のサブマイクロメータ、第4半導体領域140の表面不純物濃度は1E20原子/ccとし、
第4厚さは第3厚さより小さく設定して、CMOSプロセスを使って図2、図3に示す本発明の半導体デバイスを作成した。
【0024】
図4の曲線14は、作成した半導体デバイスの電流増幅率の前記第2半導体領域の電流依
存性を示す。この半導体デバイスでは、1pAから既に電流増幅率が示される。この半導体
デバイスの電流増幅率は、前記第2半導体領域の電流1pAから1000000pA(1μA)までの6桁の電流変化に対して、24から28までしか増加していない。一方、図4の曲線12は、図2で前記第4半導体領域140を除いた構造の半導体デバイスの電流増幅率を示し、該デバイスの電流増幅率は、1pAから1000000pAまでの電流変化に対して、26から54まで2倍以上変化し
ている。この比較により、本発明の第4半導体領域が電流増幅率の変化を大幅に抑制して
いることが実証された。
【0025】
この作成例でクリーンMOSプロセスを使用しているため、前記第4半導体領域のないデバイスでも前記第2半導体領域の電流が1pAですでに電流増幅が実現されている。しかし、第2半導体領域の表面不純物濃度が上記作成条件より小さく、1E17原子/cc程度またはそれ以下か、クリーンMOSプロセスを使用しない場合は、前記第2表面が空乏または反転するため、前記第4半導体領域がないと、前記第3半導体領域の第3表面と前記第1半導体領域の第1
表面間をバイパスするリークチャネルが前記第2半導体領域の第2表面に出来て電流増幅率が1以下等著しく減少する可能性が大きい。第4半導体領域を設けることにより、このリークチャンネルを遮断するので、微小電流領域でも電流増幅利率確保する効果がある。
【0026】
図5は、前記第4半導体領域140が英字Oのように閉じた形状ではなく、英字Cのように開口部を有する平面形状の場合の実施例を示す。図5において図2と同じ符号は同じ領域、機能を示す。44は、開口部の最小寸法を示す。図5に示される半導体デバイスにおいて、図2に関連する上記作成条件では、2〜3マイクロメータ程度の開口部寸法でも前記第4電
流増幅率の電流依存性を抑制する効果は損なわれなかった。
【0027】
図6は、本発明を増幅形光電変換素子に適用した実施例の平面図を示す。図2と同様の設計基準、製造技術を用いて作成した。図6における120-0は、光電変換用の第2半導体領域で、前記第1半導体領域110と、光入力Pを光電流に変換するホトダイオードを形成する
。120-1は、このホトダイオードに連続した第1増幅トランジスタの第2半導体領域(第1ベース)である。130-1は、第3半導体領域(第1エミッタ)である。140-1は、第4半導体領
域である。120-2は、第2増幅トランジスタの第2半導体領域(第2ベース)である。130-2
は、第3半導体領域(第2エミッタ)である。140-2は、第4半導体領域である。
【0028】
前記第1増幅トランジスタの第3半導体領域130-1は、コンタクトホール133-1とコンタクトホール143を通して薄膜配線34により前記第2増幅トランジスタの第4半導体領域140-2へ接続されている。前記第2増幅トランジスタの第2半導体領域120-2(第2ベース)は、前
記第4半導体領域140-2と連続しているから、前記第1増幅トランジスタの第3半導体領域130-1(第1エミッタ)と接続されている。
【0029】
従って、第2半導体領域120-0と第1半導体領域110とで変換された光電流は2つの第1、第2増幅トランジスタで増幅されて前記第3半導体領域130-2、または前記第1半導体領域から得られる。図6では、前記第3半導体領域130-2からコンタクトホール133-2を介して引出
電極32が接続されている。増幅率は個々の増幅トランジスタの電流増幅率の積となる。
【0030】
引出電極32からは増幅された光電流がIout2として取り出される。なお、前記第1半導体領域110と前記第3半導体領域130-2との間をパルス駆動すると、前記第1半導体領域110と
前記第2半導体領域120-0および120-1との間の接合容量から光電流で放電された電荷を再
充電するパルス電流が引出電極32から増幅されて取り出される。
【0031】
図7は、図6の増幅形光電変換素子の光入力エネルギーP(ピコワット)に対する前記
第3半導体領域130-2から得られる直流出力電流Iout2(ピコアンペア)を示す。前記第1半導体領域と第3半導体領域130-2間には1.5Vの電圧与えた。光源はHeNeレーザーである。図7に示されるように、光入力エネルギーPに対してほぼ線形に近い出力電流Iout2が得られている。Iout2をPのn乗に比例するとして表現すると、n=1.07と1に近い特性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の半導体デバイスは、簡単な構造で電流レベルに拘わらずほぼ一定の電流増幅率を実現できる。そのため、本発明の半導体デバイスを用いることによって、小面積で増幅機能を有するセンサを実現することができる。これにより、高感度の増幅形センサセルで大規模なアレイを実現することができる。
【符号の説明】
【0033】
12:第4半導体領域を除いた半導体デバイスの電流増幅率の電流依存性を示す曲線
14:第4半導体領域を設けた本発明の半導体デバイスの電流増幅率の電流依存性を示す曲線
32:電極
34:薄膜配線
44:第4半導体領域開口部最小寸法
110:第1半導体領域
111:第1絶縁膜
120:第2半導体領域
120-0:光電変換用の第2半導体領域
120-1:第1増幅トランジスタの第2半導体領域
120-2:第2増幅トランジスタの第2半導体領域
130:第3半導体領域
130-1:第1増幅トランジスタの第3半導体領域
130-2:第2増幅トランジスタの第3半導体領域
133:第3半導体領域へのコンタクトホール
133-1:第1増幅トランジスタの第3半導体領域へのコンタクトホール
133-2:第2増幅トランジスタの第3半導体領域へのコンタクトホール
140:第4半導体領域
143:第4半導体領域へのコンタクトホール
143-2:第2増幅トランジスタの第4半導体領域へのコンタクトホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面と第1厚さを有する第1導電形の第1半導体領域と、
第2表面と第2厚さを有し、該第1表面部分で該第1半導体領域に接して設けられた逆導電形の第2半導体領域と、
第3表面と第3厚さを有し、該第2表面部分で該第2半導体領域と接して設けられた第1導
電形の第3半導体領域と、
第4表面と第4厚さを有し、該第2表面部分で該第2半導体と接して設けられた第4半導体
領域と、
から少なくともなり、
該第3半導体領域は、それが接している部分の第2半導体領域より不純物濃度が大きく、
該第4半導体領域は、該第3半導体領域から離間して、該第3半導体領域を囲んで設けら
れ、該第2半導体領域より不純物濃度が大きいことを特徴とする半導体デバイス。
【請求項2】
前記第4半導体領域は該第3半導体領域を囲む平面図形で開口部を有し、
該開口部の最短距離の寸法は前記第3半導体領域を囲む内周辺長の1/10以下である
ことを特徴とする請求項1記載の半導体デバイス。
【請求項3】
前記第4半導体領域の表面不純物濃度は前記第2半導体領域の表面不純物濃度の10倍以上であることを特徴とする請求項1記載の半導体デバイス

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−204724(P2012−204724A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69468(P2011−69468)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】