説明

電磁ブレーキ付作業車両

【課題】電磁ブレーキ付作業車両において、左右の電磁ブレーキのうち、一方の電磁ブレーキの異常発生時でも、運転者の意図しない旋回を有効に防止することである。
【解決手段】電磁ブレーキ付作業車両である芝刈車両10は、左右の電磁ブレーキ32,36と、共通ブレーキ解除手段であるブレーキリレーと、ECUとを含む。ECUは、左右の電磁ブレーキの通電状態を比較し、比較部で比較した通電状態の差が許容上限を超える場合に、バッテリと左右の電磁ブレーキ32,36との電気的接続を遮断して左右車輪18,20を制動させるようにブレーキリレーを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右車輪と、作業機と、左右車輪に対応してそれぞれ設けられる左右の電磁ブレーキとを備える電磁ブレーキ付作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
芝刈り作業や、耕うん等の対地作業を行うために駆動される作業機を備える対地作業車両が、従来から知られている。また、このような対地作業車両において、それぞれ電動モータや油圧モータ等のモータにより独立に走行駆動される主駆動輪である左右車輪と、キャスタ輪等の操向輪とを備える電動対地作業車両も考えられている。
【0003】
例えば、作業車両として、作業機である芝刈り機を搭載し、作業者が乗り込んで走行と芝刈の操縦を車上で行う自力走行が可能な芝刈り車両があり、これは乗用型芝刈車両と呼ばれる。芝刈り機としては、例えば、芝刈回転工具等がある。乗用型芝刈車両は、もっぱら庭等のいわゆるオフロードで用いられ、芝刈作業のために地表を移動するものである。
【0004】
例えば、特許文献1には、内燃機関のエンジンシャフトに発電機のロータを連結したエンジン・発電機一体型を搭載するハイブリッド動力装置が開示されている。動力装置として例示されている芝刈機は、複数の駆動輪にそれぞれ独立の電気モータが連結され、それぞれの駆動輪を独立的に可変速度で制御でき、これによって芝刈機の始動、停止、速度変更、方向転換を行うことができると述べられている。駆動輪の独立速度変更による旋回の例としては、いずれも左右後輪にそれぞれ電気モータが連結されているものが述べられている。なお、本発明に関連する先行技術文献として、特許文献1の他に特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−507789号公報
【特許文献2】特開平9−210106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたような、左右車輪を独立の左右モータにより駆動する芝刈り車両において、左右車輪を制動するために左右の電磁ブレーキをそれぞれ設けて、電磁ブレーキ付作業車両とすることが考えられる。また、電磁ブレーキ付作業車両において、電源から通電されることにより左右車輪の制動解除動作を行い、電源からの通電が遮断されることにより左右車輪の制動動作を行う左右の電磁ブレーキを採用することが考えられる。また、左右の電磁ブレーキにより同時に左右車輪を制動するために、左右の電磁ブレーキと電源との通電及びその遮断を切り換える左右の電磁ブレーキで共通の切換手段を設けることも考えられる。ただし、左右の電磁ブレーキに電源から通電する際に、電源と各電磁ブレーキとを含む回路に断線等の異常が生じたり、左右の一方の電磁ブレーキの制動部に異常が生じて、左右の電磁ブレーキのうち、他方の電磁ブレーキのみが電源から通電される等の一方の電磁ブレーキの異常発生時に、車両が運転者の意図しない旋回動作をする可能性がある。例えば、一方の電磁ブレーキが電源から通電されるのに、他方の電磁ブレーキが電源から通電されない場合、左右車輪の走行状態に差が生じる可能性がある。この場合、車両がいずれかの方向に旋回して運転者の意図しない方向に進行する可能性がある。このため、左右の電磁ブレーキのうち、一方の電磁ブレーキの異常発生時でも、運転者の意図しない旋回を有効に防止する面から改良の余地がある。
【0007】
これに対して、特許文献2には、ブレーキ電源回路により動作するマグネットブレーキの異常診断装置において、ブレーキ電源回路からブレーキのコイルに供給される電流値を検出し、増幅後の検出信号からブレーキの動作状態が分かる信号を抽出し、抽出した値と記憶した判定値とを比較し、ブレーキのアーマチュアの動作不良を判定する装置が記載されている。このような特許文献2に記載された装置では、アーマチュアの動作不良を判定する装置が開示されているだけであり、左右の電磁ブレーキの一方の電磁ブレーキに異常が発生した場合でも、運転者の意図しない旋回を有効に防止する手段は開示されていない。
【0008】
本発明の目的は、電磁ブレーキ付作業車両において、左右の電磁ブレーキのうち、一方の電磁ブレーキの異常発生時でも、運転者の意図しない旋回を有効に防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電磁ブレーキ付作業車両は、左右の走行用モータによりそれぞれ走行駆動される駆動輪である左右車輪と、対地作業を行うために駆動される作業機と、前記左右車輪に対応してそれぞれ設けられる左右の電磁ブレーキであって、それぞれ電源から通電されることにより前記左右車輪の制動解除動作を行い、前記電源からの通電が遮断されることにより前記左右車輪の制動動作を行う前記左右の電磁ブレーキと、制動解除指令が取得された場合に、前記電源と前記左右の電磁ブレーキとを電気的に接続し、前記電源から前記左右の電磁ブレーキに通電させる、前記左右の電磁ブレーキで共通の共通ブレーキ解除手段と、前記共通ブレーキ解除手段を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記左右の電磁ブレーキの通電状態を比較し、比較した通電状態の差が許容上限を超える場合に、前記電源と前記左右の電磁ブレーキとの電気的接続を遮断して前記左右車輪を制動させるように前記共通ブレーキ解除手段を制御することを特徴とする電磁ブレーキ付作業車両である。なお、本発明に係る上記構成において、走行用モータは、電動モータの他、油圧モータ等であってもよい。
【0010】
また、本発明に係る電磁ブレーキ付作業車両において、好ましくは、前記制御部は、前記左右の電磁ブレーキの通電状態を比較する比較部と、前記比較部で比較した通電状態の差が許容上限を超える場合に、前記電源と前記左右の電磁ブレーキとの電気的接続を遮断して前記左右車輪を制動させるように前記共通ブレーキ解除手段を制御する共通解除制御部とを含む。
【0011】
また、本発明に係る電磁ブレーキ付作業車両において、好ましくは、前記左右の電磁ブレーキに対する通電量をそれぞれ検知する左ブレーキ電流センサ及び右ブレーキ電流センサを備え、前記比較部は、前記各電流センサの検知信号から前記左右の電磁ブレーキの通電状態を比較する。
【0012】
また、本発明に係る電磁ブレーキ付作業車両において、好ましくは、前記制御部は、前記左右の電磁ブレーキに対する通電状態である、左右ブレーキ通電電流の時間的変化を記憶する記憶部を含み、前記比較部は、記憶部で記憶された前記左右ブレーキ通電電流の時間的変化を比較する。
【0013】
また、本発明に係る電磁ブレーキ付作業車両において、好ましくは、前記左右の電磁ブレーキは、それぞれ対応する前記車輪に連動して回転する回転部材と、前記回転部材に対し押し付け可能な押圧部材と、前記押圧部材に対し前記回転部材を押し付ける方向に付勢力を付与する付勢手段と、前記電源からの通電により前記押圧部材を前記付勢力に抗して前記回転部材から離すコイルとを含み、それぞれ前記電源からの通電が遮断されることにより、前記押圧部材が前記回転部材に押し付けられて制動のための押圧動作を行い、前記電源から通電されることにより前記押圧部材が前記回転部材から離れて制動解除のための押圧解除動作を行う。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電磁ブレーキ付作業車両によれば、左右の電磁ブレーキのうち、一方の電磁ブレーキの異常発生時に、左右の電磁ブレーキの通電状態に差が生じるため、この差が許容上限を超えた場合に、制御部が電源と左右の電磁ブレーキとの電気的接続を遮断して左右車輪を制動させるように共通ブレーキ解除手段を制御する。このため、一方の電磁ブレーキの異常発生時でも、運転者の意図しない旋回を有効に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の電磁ブレーキ付作業車両である、芝刈車両の構成を上方から見た略図である。
【図2】図1の芝刈車両において、主要部の回路構成を示す図である。
【図3】図1の芝刈車両において、制御部であるECUの構成を示す図である。
【図4】図2の回路構成において、制御部により左右の電磁ブレーキの通電を制御する構成を詳しく示す図である。
【図5】図1の芝刈車両において、左右の電磁ブレーキの通電を制御する方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】図1の動力発生ユニットのA−A断面図である。
【図7】本発明に係る第2の実施の形態の電磁ブレーキ付作業車両である、芝刈車両において、(A)は正常時の右電磁ブレーキのコイル電流の時間経過の例を示す図であり、(B)は正常時の右電磁ブレーキのブレーキストロークの時間経過の例を示す図であり、(C)は異常発生時の左電磁ブレーキのコイル電流の時間経過の例を示す図であり、(D)は異常発生時の左電磁ブレーキのブレーキストロークの時間経過の例を示す図である。
【図8】第2の実施の形態において、左右の電磁ブレーキの通電を制御する方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1の発明の実施の形態]
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。なお、以下では、電磁ブレーキ付作業車両として、作業機として芝刈り機を備える芝刈車両の場合を説明するが、本発明に係る電磁ブレーキ付作業車両は、これに限定するものではない。例えば作業機として、地面に対する作業、すなわち対地作業を行う作業機、例えば、耕うん機、苗植作業機、地ならし作業機、穴掘り作業機等を備える車両であってもよい。
【0017】
図1から図6は、本発明の第1の実施の形態を示している。図1に示すように、電磁ブレーキ付作業車両であり、乗用型対地作業車両である芝刈車両10は、芝刈に適した自走型のオフロード用車両であり、車体であるメインフレーム12の前後方向(図1の左右方向)に離れた位置に、2個の左右キャスタ輪14,16と、2個の左右車輪18,20とを支持して設けている。左右のキャスタ輪14,16は、前側車輪であり、操向輪である。2個の左右車輪18,20は、後側車輪であり、主駆動輪である。左右車輪18,20のそれぞれは、左右車輪18,20のそれぞれの側に設けられた左右の動力発生ユニット22,24により、独立して走行駆動される。左の動力発生ユニット22は、ケーシング26内に歯車等を含む動力伝達機構(図示せず)を含み、ケーシング26に左の電動モータである走行用モータ30のモータケースが固定されている。また、ケーシング26の左の走行用モータ30と反対側に左の電磁ブレーキ32のブレーキケースが固定されている。
【0018】
同様に、右の動力発生ユニット24は、ケーシング28内に歯車等を含む動力伝達機構(図示せず)を含み、ケーシング28に右の電動モータである走行用モータ34のモータケースが固定されている。また、ケーシング28の右の走行用モータ34と反対側に右の電磁ブレーキ36のブレーキケースが固定されている。図示の例では、各走行用モータ30,34が車両の幅方向(図1の上下方向)中央寄りに配置され、各電磁ブレーキ32,36が車両の幅方向外側に配置されている。また、各車輪18,20に結合固定され、各動力発生ユニット22,24のケーシング26,28から突出する車軸38,40よりも前側(図1の左側)に各走行用モータ30,34及び各電磁ブレーキ32,36が配置されている。このように電磁ブレーキ32,36が左右に2個別れて配置されているので、レイアウトや組み付け性の自由度の向上を図れる。なお、図1の例とは異なり、左右の電磁ブレーキ32,36を共通の単一のケーシング内に配置し、ケーシングをメインフレーム12に支持することもできる。
【0019】
なお、図1の例とは異なり、車軸38,40に対して、走行用モータ30,34及び電磁ブレーキ32,36が配置される前後方向の側を、左右の動力発生ユニット22,24同士で逆にすることもできる。この場合には、車両の幅方向中央寄りの走行用モータ30,34の位置を、前後方向に関してずらすことができるため、各動力発生ユニット22,24同士の間の空間を小さくすることができる。
【0020】
各車輪18,20は、対応する走行用モータ30,34から動力伝達機構及び車軸38,40を介して動力が伝達され、各車輪18,20同士で独立して駆動される。走行用モータ30,34により、左右車輪18,20の回転速度を一致させることで、車両が直進走行し、左右車輪18,20の回転速度差を発生させることで、車両が旋回走行する。
【0021】
また、動力伝達機構は、例えば1段または複数段の減速歯車装置等の減速機構を含んでもよい。各動力発生ユニット22,24のケーシング26,28は、メインフレーム12に支持されている。また、キャスタ輪14,16は、鉛直方向(図1の表裏方向)の軸を中心とする360度以上の自由操向を可能としている。なお、キャスタ輪14,16は、2個以外、例えば、1個のみを芝刈車両10に設けることもでき、また、3個以上の複数個のキャスタ輪を芝刈車両10に設けることもできる。また、本実施の形態では、主駆動輪である左右車輪18,20を後輪として、キャスタ輪14,16を前輪としているが、主駆動輪である左右車輪18,20を前輪として、キャスタ輪14,16を後輪とすることもできる。
【0022】
また、メインフレーム12は、鋼材等の金属材料を使用し、梁構造等に成形されたものを用いることができる。メインフレーム12は、上側(図1の表側)に、動力発生ユニット22,24の大部分の上側を覆うように設けられた、図示しない横板部(horizontal plate)を含む。そして横板部の上側に、運転者が座る図示しない座席が設けられている。
【0023】
なお、本明細書で、前側は、図1の左側となる車両の前側を言い、後側は、図1の右側となる車両の後側を言う。また、芝刈車両10は、作業機である芝刈り機(モア)42を備え、芝刈り機42は、メインフレーム12の下側で、前後方向に関してキャスタ輪14,16と車輪18,20との間に支持されている。芝刈り機42では、モアデッキ44の内側に芝刈り回転工具である図示しない芝刈り用ブレードが設けられている。また、モアデッキ44に補助輪46が支持されている。芝刈り用ブレードは、鉛直方向(図1の表裏方向)に向いた回転軸を有し、回転軸の周りに複数のブレードが配置され、ブレードを回転することで芝等を破断して刈り取り可能とする。
【0024】
また、芝刈車両10には、電源ユニットであり、二次電池であるバッテリ48(図2)がメインフレーム12の上側または下側に支持されており、バッテリ48の電力を各走行用モータ30,34に供給することで、各走行用モータ30,34を駆動可能としている。バッテリ48は、図示しないコネクタ等を介して、外部の商用電源である交流電源等から電力の供給を受けて充電されることができる。
【0025】
また、芝刈車両10は、図示しないエンジン及び発電機を搭載したいわゆるハイブリッド式とすることができる。この場合、エンジンの動力を用いて発電機を発電させ、発電させた電力をバッテリ48に供給可能とすることができる。なお、電源ユニットとして、外部から充電電力の供給を受けるバッテリ48以外に、燃料電池、太陽電池等のように自己発電機能を有するものを使用することもできる。また、電源ユニットとして、バッテリ48の代わりにキャパシタ等の他の蓄電部を用いることもできる。
【0026】
また、芝刈り機42は、図示しないモアスイッチがオンされることにより、図2に示すバッテリ48から電力が供給される。この場合、芝刈車両10が備える制御部であるECU(Electronic Control Unit)50がモアスイッチのオンオフを表す信号を受け、その信号に応じて芝刈り機42(図1)の作動を制御する。芝刈り機42の芝刈りブレード駆動用のモータには、バッテリ48から図示しないモア用ドライバーを介して電力が供給される。このような芝刈り機42は、対地作業を行うために駆動される。
【0027】
また、図1に示すように、芝刈り機42で刈り取られた草は、モアデッキ44内から車両の幅方向の片側または両側に排出される。ただし、芝刈車両10に図示しない集草タンクを搭載するとともに、集草タンクとモアデッキ44の端部とを図示しないダクトにより接続し、ダクトの内部に設けられたファンを駆動することで、刈り取られた草を、ダクトを通じて集草タンクに集めることもできる。
【0028】
また、走行用モータ30,34は、バッテリ48(図2)から電力が供給された場合に、車輪18,20に対し回転駆動力を出力する機能を有するが、車輪18,20に対し制動がかけられるときに回生エネルギを回収する発電機としての機能を持たせてもよい。走行用モータ30,34は、例えば三相の同期電動モータまたは誘導電動モータ等とする。
【0029】
なお、芝刈り機である芝刈用回転工具として、芝刈り用ブレード型以外に、地表に平行に回転軸を有するシリンダに例えばらせん状の刃を配置し、芝等を挟み取って刈り取る芝刈用リール型を用いることもできる。
【0030】
また、図2に示すように、ECU50は、走行用モータ30,34の動作を総合的に制御する。ECU50は電気回路であるので、芝刈車両10に複数個所に分散配置することもできる。芝刈車両10にECU50を1個だけ設けることもできるが、ECU50を複数の要素に分散して、信号ケーブル等で相互に接続することもできる。ECU50は、CPUやメモリ等の記憶部76(図3)等を有する制御回路部を含む。また、ECU50は、制御回路部と、走行用モータ30,34を駆動するインバータ回路等のドライバー回路とを含む構成としてもよい。
【0031】
図1に示すメインフレーム12の上面側には、座席の他に、旋回指示子であるステアリング操作子(図示せず)と、加速指示子であるアクセルペダル(図示せず)と、制動指示子であるブレーキペダル52(図2)とが設けられている。ステアリング操作子は、左右のいずれかの方向に回転可能なステアリングホイールであり、ステアリング操作子の操舵角度である旋回指示量が操舵量センサ(図示せず)により検出され、検出された旋回指示量が信号としてECU50に出力される。なお、旋回操作子として、モノレバー式の構造を用いることもできる。また、アクセルペダルの操作量である踏込量である加速指示量は、アクセルセンサ(図示せず)により検出され、検出された加速指示量が信号としてECU50に出力される。また、アクセルペダルは、前進用と後進用とで分かれた2個を設けることもできるが、単一のアクセルペダルで前側の踏込で前進加速を、後側の踏込で後進加速を指示することもできる。
【0032】
なお、旋回操作子として、加速操作子の機能も有する、座席の左右に分かれて2個設けられた左右レバー(図示せず)を用いることもできる。左右レバーは、前後方向に揺動可能で、前側に倒すことで対応するレバー側の走行用モータ30(または34)の前進方向の加速を指示することができ、後側に倒すことで対応するレバー側の走行用モータ30(または34)の後進方向の加速を指示することができる。
【0033】
このような芝刈車両10では、アクセルペダルを踏み込むことで、前進側または後進側に車両を加速させることができる。また、アクセルペダルの操作時または非操作時に、ステアリング操作子を操舵することで車両をステアリング操作子の操舵方向に応じて旋回させることができる。例えば、ステアリング操作子を直進状態を指示する中立位置として前進側のアクセルペダルを踏み込むと、車輪18,20を前進側に回転させ、踏み込み量が大きいほど車輪18,20の回転数が高くなり、前進速度が高くなる。このように構成するためにECU50(図2)は、入力された旋回指示量及び加速指示量に応じて、左右の走行用モータ30,34を独立して制御する。すなわち、図2に示すように、ECU50は、右走行用モータ34用のドライバー回路54に制御信号を出力することで、右走行用モータ34の駆動を制御し、左走行用モータ30用のドライバー回路56に制御信号を出力することで、左走行用モータ30の駆動を制御する。
【0034】
また、バッテリ48は、メインスイッチ58及びDC/DCコンバータ60を介してECU50に接続されており、バッテリ48の電圧がDC/DCコンバータ60で降圧されてECU50に供給される。例えば、バッテリ48が48Vである場合に、DC/DCコンバータ60で12Vに降圧されてECU50に供給され、ECU50が作動する。
【0035】
また、図1、図2に示すように、芝刈車両10の制動のために、左右車輪18,20のそれぞれに対応して上記の左右の電磁ブレーキ32,36が設けられている。各電磁ブレーキ32,36は、電源であるバッテリ48から通電、すなわち電力供給されることにより、対応する車輪18,20の制動解除動作を行い、バッテリ48からの通電が遮断されることにより、対応する車輪18,20の制動動作を行う。すなわち、図2に示すように、バッテリ48に、共通ブレーキ解除手段であるブレーキリレー62を介して左右の電磁ブレーキ32,36が接続されている。ブレーキリレー62は、左右の電磁ブレーキ32,36で共通に接続され、ECU50から出力される制御信号によりオンオフが制御される。すなわち、芝刈車両10の電源スイッチであるメインスイッチ58がオフされたり、ブレーキペダル52が操作される、すなわちオンされる等の場合、ECU50から出力され、ブレーキリレー62で取得される制御信号は0となる。この場合、ブレーキリレー62はオフされて、バッテリ48から左右の電磁ブレーキ32,36への通電は遮断され、車輪18,20(図1)が制動する。なお、ブレーキペダル52がオンされた場合、ブレーキペダル52の周辺部に設けられたブレーキセンサ64からブレーキがオンされたことを表す信号がECU50に出力され、ブレーキペダル52がオフされた場合、ブレーキセンサ64からブレーキがオフされたことを表す信号がECU50に出力される。
【0036】
これに対して、メインスイッチ58がオンされるとともに、予め設定された所定の特定条件であって、ブレーキペダル52が非操作である、すなわち踏まれていないことを含む特定条件が成立した場合には、ECU50から制御信号として制動解除指令信号CR0が出力され、制動解除指令信号CR0を取得したブレーキリレー62はオンされて、バッテリ48から左右の電磁ブレーキ32,36に通電され、車輪18,20(図1)の制動が解除される。
【0037】
各電磁ブレーキ32,36の詳細構造を図6を参照しつつ説明する。図6は図1の動力発生ユニット24のA−A断面図である。図6は右側の動力発生ユニット24を示しているが、左側の動力発生ユニット22も右側の動力発生ユニット24に対し左右が逆になるだけで同様の構成を有する。電磁ブレーキ36のカバー300内において、対応する車輪18,20(図1)に連動して回転する回転部材である摩擦プレート301と、摩擦プレート301を挟んで両側に配置されたスチールプレート302,303及びコイル313とを含む。スチールプレート302,303は、係止ピン304を介し軸方向摺動自在でかつ回転不能にブレーキケース305に支持される。コイル313は、一対のスチールプレート302,303の一方のスチールプレート302に対向し、通電されることで、該プレート302を吸引可能である。また、該プレート302が、コイル313の非通電時に摩擦プレート301を、一対のスチールプレート302,303の他方のスチールプレート303と共働して挟んで押圧するよう、ブレーキケース305にはバネ306が備えられる。307は他方のスチールプレート303の軸方向移動を制限する受止板である。左右の電磁ブレーキ32,36(32は図1参照)を構成する摩擦プレート301は、例えば、走行用モータ30,34(30は図1参照)のモータ軸に継手を介して連結した回転軸311のケース外端寄り位置に結合固定される。回転軸311の中央位置には前述した動力伝達機構を構成する小ギア312が刻設される。
【0038】
各電磁ブレーキ32,36において、コイル313は、バッテリ48からの通電により電磁力を発生させることで、一方のスチールプレート302をバネ306の付勢力に抗して吸引する。そして、ブレーキペダル52(図2)がオンされたり、メインスイッチ58(図2)がオフされる等により、各電磁ブレーキ32,36において、バッテリ48(図2)からコイル313への通電が遮断された場合には、一方のスチールプレート302がバネ306の付勢力により摩擦プレート301に押し付けられて、対応する車輪18,20の制動のための押圧動作を行い、摩擦プレート301がスチールプレート302、303の間で挟持される。この場合、対応する車輪18,20が制動する。
【0039】
これに対して、各電磁ブレーキ32,36において、バッテリ48からコイル313へ通電された場合には、一方のスチールプレート302がバネ306の付勢力に抗して、摩擦プレート301から離れて、対応する車輪18,20の制動解除のための押圧解除動作を行う。この場合、対応する車輪18,20の制動が解除され、走行用モータ30,34の駆動による走行が可能となる。
【0040】
なお、上記の受止板307は、その中心部に、カバー300に回転自在に保持された制動解除軸308の内端側にスプライン嵌合すると共に、他方のスチールプレート303と対向する面には周方向で深さの異なるカム溝309を有する。他方のスチールプレート303は、カム溝309と対向する位置にピン310を軸方向摺動自在に案内保持し、該ピン310の一端をカム溝309の深部に突入させ他端を一方のスチールプレート302に当接させる。制動解除軸308の外端側はカバー300より外方へ突出させてあり所定の工具を用いて人為的に回転操作することによりピン310の一端がカム溝309の浅部に乗り上げピン310の他端が、バネ306の付勢力に抗して一方のスチールプレート302を押し返し、走行用モータ30,34(30は図1参照)並びにコイル313への通電が不能に陥っても摩擦プレート301の押圧を強制解除して車輪18,20(図1)を空転可能として牽引することができる。なお、電磁ブレーキは、このような構成に限定するものではなく、電源から通電されることにより左右車輪18,20の制動解除動作を行い、電源からの通電が遮断されることにより左右車輪18,20の制動動作を行うものであれば、種々の構成を採用できる。
【0041】
また、図3に示すように、ECU50は、制動解除指令生成部66と、右ブレーキ電流センサ68と、左ブレーキ電流センサ70と、比較部72と、共通解除制御部74と、記憶部76とを含む。制動解除指令生成部66は、ECU50に入力される、メインスイッチ58(図2)がオンされたことを表す信号や、ブレーキセンサ64(図2)等のセンサやスイッチ等から入力される信号等に応じて、制動解除を指示する制動解除指令信号を生成する。なお、以下の説明では、図1、図2、図6に示した要素と同一の要素には同一の符号を付して説明する。ECU50で生成された制動解除指令信号は、ECU50からブレーキリレー62に出力される。このため、ブレーキリレー62がオンされ、左右の電磁ブレーキ32,36にバッテリ48から電力が供給されて、左右の電磁ブレーキ32,36の制動が解除される。また、図4に示すように、ECU50で生成された制動解除指令信号は、ECU50とは別に設けられた指令信号出力部78を介して、ブレーキリレー62に出力することもできる。
【0042】
また、図3に戻り、左右のブレーキ電流センサ68,70は、左右の電磁ブレーキ32,36に対応して設けられたもので、右の電磁ブレーキ36への通電量が右ブレーキ電流センサ68で、電流検出信号1(図4)として検知される。また、左の電磁ブレーキ32への通電量が左ブレーキ電流センサ70で、電流検出信号2(図4)として検知される。このため、図4に示すように、左右の電磁ブレーキ32,36がECU50に接続されている。なお、左右のブレーキ電流センサは、ECU50とは別の部分に設けて、左右のブレーキ電流センサの検出信号をECU50に出力することもできる。
【0043】
また、図3に示す比較部72は、左右の電磁ブレーキ32,36の通電状態であり、それぞれの検知信号である、電流検出信号1,2を比較する。
【0044】
また、共通解除制御部74は、比較部72で比較した通電状態の差である、左右のブレーキ電流センサ70,68の電流検出信号1,2の間の差が許容上限を超えると判定されると、ブレーキリレー62への制動解除指令信号CR0の出力を停止することで、バッテリ48と左右の電磁ブレーキ32,36との電気的接続を遮断し、左右車輪18,20をバネ306により制動させるように、ブレーキリレー62を制御する。例えば、上記の「許容上限」は0とすることもできる。すなわち、電流検出信号1,2の間の差が0より大きいと判定された場合に、共通解除制御部74は、バッテリ48と左右の電磁ブレーキ32,36との電気的接続を遮断し、左右車輪18,20を制動させるようにブレーキリレー62を制御することもできる。
【0045】
例えばブレーキリレー62に制動解除指令信号CR0が出力されているのにもかかわらず、左右の電磁ブレーキ32,36の一方の電磁ブレーキである右電磁ブレーキ36とバッテリ48とを接続する回路に断線等の異常が生じていると、右電磁ブレーキ36は通電されず、電流検出信号1は0となる。これに対して、左右の電磁ブレーキ32,36の他方の電磁ブレーキである左電磁ブレーキ32とバッテリ48とを接続する回路が正常であると、電流検出信号1,2の間で差が生じる。このため、上記の共通解除制御部74の構成を備えないとすると、走行中に異常が発生した右電磁ブレーキ36のみが作動し、右車輪20が制動するため、車両が右に旋回し、運転者の意図しない方向に車両が進行する。これに対して、本実施の形態によれば、上記の共通解除制御部74を備えるので、走行中に、電流検出信号1,2の間で差が生じた場合に、共通解除制御部74は、ブレーキリレー62をオフするように制御し、左右車輪18,20の両方を制動させるため、車両は旋回せず、停止する。左右の電磁ブレーキ32,36で異常、正常が逆の場合でも左右が逆になるだけで同様である。なお、本実施形態では、DC/DCコンバータ60を設けることで、ECU50用のバッテリと、左右電磁ブレーキ32,36用のバッテリとを、単一のバッテリ48で共通化しているが、ECU50用のバッテリと、左右電磁ブレーキ32,36用のバッテリとを、出力電圧が異なる互いに別のバッテリとすることもできる。
【0046】
図5は、本実施の形態の芝刈車両において、左右の電磁ブレーキ32,36の通電を制御する方法を説明するためのフローチャートである。まず、ECU50で、ステップS(以下、単に「S」として説明する。)10,12で、メインスイッチ58がオンされ、ブレーキペダル52が非操作であることを含む、予め設定した特定条件が成立したと判定されると、S14で制動解除指令信号CR0がブレーキリレー62に出力されたか否かが判定される。制動解除指令信号CR0が出力されたと判定された場合には、S16で、比較部72において、各ブレーキ電流センサ68,70の電流検出信号1,2が比較され、電流検出信号1,2に許容上限を超える差があるか否かで、左右電磁ブレーキ32,36の一方のみが通電されたか否かが判定される。そして、共通解除制御部74は、左右の電磁ブレーキ32,36の一方のみが通電されたと判定された場合に、S18でブレーキリレー62をオフし、バッテリ48から左右の電磁ブレーキ32,36への通電を解除し、左右車輪18,20の両方を制動させ、車両を停止させる(S20)。
【0047】
これに対して、共通解除制御部74は、S16で、左右の電磁ブレーキ32,36の一方のみが通電されたと判定されない場合、すなわち、両方が通電されたと判定された場合、ブレーキリレー62をオンした状態のままとし、バッテリ48から左右の電磁ブレーキ32,36へ通電させたままで、左右車輪18,20の両方の制動を解除したままとする。
【0048】
このような本実施の形態によれば、左右の電磁ブレーキ32,36のうち、一方の電磁ブレーキ32(または36)の異常発生時に、左右の電磁ブレーキ32,36の通電状態に差が生じるため、この差が許容上限を超えた場合に、共通解除制御部74がバッテリ48と左右の電磁ブレーキ32,36との電気的接続を遮断して左右車輪18,20を制動させるようにブレーキリレー62を制御する。このため、一方の電磁ブレーキ32(または36)の異常発生時でも、運転者の意図しない旋回を有効に防止できる。なお、ECU50の上記の機能構成は、プログラムで実現することもできるが、ハード的に実現することもできる。例えば、本実施形態では、ブレーキリレー62を制御する制御部は、CPU、記憶部を有するECU50に限定するものではなく、例えば、電流検出信号1,2が0ではなく、電流検出信号1,2間に差がないときにブレーキリレー62をオンし、電流検出信号1,2間に差があるときに、ブレーキリレー62をオフする回路構成により構成されてもよい。
【0049】
[第2の発明の実施の形態]
図7、図8は、本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の芝刈車両において、ECU50(図3)の一部を除く構成は、上記の第1の実施の形態と同様である。このため、上記の図1から図4、図6の要素と同等の要素、または対応する要素には、同一の符号を付して、以下、図1から図4、図6を参照しつつ説明する。
【0050】
本実施の形態では、ECU50が有する記憶部76は、左右の電磁ブレーキ32,36に対する通電状態である、左右ブレーキ通電電流であるコイル電流の時間的変化を記憶する。図7は、本実施の形態において、(A)は正常時の右電磁ブレーキ36のコイル313に流す電流であるコイル電流の時間経過の例を示す図であり、(B)は正常時の右電磁ブレーキ36のブレーキストロークである、一方のスチールプレート302の摩擦プレート301から離れる方向へのストローク量、すなわち変位量の時間経過の例を示す図であり、(C)は異常発生時の左電磁ブレーキ32のコイル電流の時間経過の例を示す図であり、(D)は異常発生時の左電磁ブレーキ32のブレーキストロークの時間経過の例を示す図である。
【0051】
図7に示すように、車両の制動状態から、制動解除指令信号CR0がブレーキリレー62に出力されることによって、左右の電磁ブレーキ32,36がバッテリ48から通電される場合を考える。この場合、図7(A)(C)に示すように、各電磁ブレーキ32,36への通電により時間的にコイル電流が、コイル313のインダクタンスとインピーダンス等から上下に振れながら徐々に上昇し、コイル電流の上昇にしたがってコイル313による一方のスチールプレート302の吸引力も上昇する。この場合、図7(B)に示すように、正常な右電磁ブレーキ36でも一方のスチールプレート302がコイル313に吸引される力がバネ306の付勢力を上回らない限りは、一方のスチールプレート302が摩擦プレート301から離れず、ブレーキストロークは一定のままである。ただし、時間t1の経過時に一方のスチールプレート302がコイル313に吸引される力がバネ306の付勢力を上回ってブレーキストロークが変化し、一方のスチールプレート302が摩擦プレート301から離れて制動が解除される。この場合、一方のスチールプレート302がコイル313に急激に近づくことでコイル電流に大きな電流乱れαが発生する。
【0052】
これに対して、図7(C)に示すように、左電磁ブレーキ32に異常が発生して、コイル313に電流が流れても何らかの原因により摩擦プレート301に一方のスチールプレート302が押し付けられたままとなる場合が生じる可能性がないとはいえない。この場合、コイル電流が初期時に右電磁ブレーキ36の場合と同様に徐々に上昇しても、時間t1経過時にコイル電流の大きな電流乱れが発生しない。そして、図7(D)に示すように、ブレーキストロークは、時間t1経過後でも経過前と同じに一定のまま維持される。このため、図7(A)(C)の比較から明らかなように、左右の電磁ブレーキ32,36の一方の電磁ブレーキ32(または36)に異常が発生した場合、左右電磁ブレーキ32,36のコイル電流の時間的変化に違いが生じる。
【0053】
本実施の形態では、このような理由から記憶部76に、左右の電磁ブレーキ32,36のコイル電流の時間的変化を記憶させ、比較部72で比較するようにしている。例えば、電磁ブレーキ32,36の制動動作状態から制動解除動作に移行する場合にのみ、左右の電磁ブレーキ32,36のコイル電流を左右のブレーキ電流センサ70,68により検知して、その時間的変化を記憶させ、比較部72でその時間的変化を比較することもできる。そして、共通解除制御部74は、比較部72で比較した通電状態である、左右の電磁ブレーキ32,36の通電電流の時間的変化の差が許容上限を超えると判定された場合、例えば左右の電磁ブレーキ32,36のコイル電流の時間的変化に差があると判定された場合には、バッテリ48と左右の電磁ブレーキ32,36との電気的接続を遮断して、左右車輪18,20を制動させるようにブレーキリレー62を制御する。
【0054】
図8は、本実施において、左右の電磁ブレーキ32,36の通電を制御する方法を説明するためのフローチャートである。図8のフローチャートにおいて、S16以外は、上記の図5に示した第1の実施形態のフローチャートと同様である。図8に示すように、S14で制動解除指令信号CR0がブレーキリレー62に出力されたと判定された場合には、S16で、比較部72において、左右電磁ブレーキ32,36への通電電流である各コイル電流の時間的変化が比較され、各コイル電流の時間的変化に許容上限を超える差があると判定された場合には、S18に移行する。そして、S18で、共通解除制御部74は、ブレーキリレー62をオフし、バッテリ48から左右の電磁ブレーキ32,36への通電を解除し、左右車輪18,20の両方を制動させ、車両を停止させる(S20)。
【0055】
このような本実施の形態でも、上記の第1の実施形態と同様に、左右の電磁ブレーキ32,36のうち、一方の電磁ブレーキ32(または36)の異常発生時でも、運転者の意図しない旋回を有効に防止できる。その他の構成及び作用は、上記の第1の実施形態と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0056】
なお、本実施の形態において、各電磁ブレーキ32,36のスチールプレート302,303または摩擦プレート301の摩耗量を検出し、その摩耗量の検出値の違いに応じて各コイル電流の時間的変化を補正し、補正後の各コイル電流の時間的変化を比較部72で比較することもできる。この場合には、スチールプレート302,303または摩擦プレート301の摩耗量が左右の電磁ブレーキ32,36で異なる場合でも、異常発生時にのみ左右車輪18,20を制動できる、より有効な構成を実現できる。
【0057】
なお、本実施の形態では、左右電磁ブレーキ32,36のコイル電流の時間的変化を比較する場合を説明したが、例えば制動状態から制動解除状態に移行する際の各コイル電流の時間的変化において、単位時間当たりのコイル電流の変化(すなわち、コイル電流の時間的変化率)の最大値と、最大電流変化幅αとを、左右の電磁ブレーキ32,36の通電状態として記憶部76に記憶させることもできる。この場合、比較部で左右電磁ブレーキ32,36同士で、単位時間当たりのコイル電流の変化の最大値と最大電流変化幅αとをそれぞれ比較し、コイル電流の変化最大値または最大電流変化幅αまたはその両方が、許容上限を超える場合に、共通解除制御部74によりブレーキリレー62をオフし、左右車輪18,20を制動させることもできる。また、本実施の形態の制御と、第1の実施の形態の制御とを組み合わせて実行されるようにすることもできる。
【0058】
また、図示は省略するが、本発明の第3の実施の形態として、左右のブレーキ電流センサのバックアップとして、それぞれに対応する別のブレーキ電流センサを設けることもできる。例えば、上記の図1から図6に示した第1の実施形態において、左右の電磁ブレーキ32,36に、左右のブレーキ電流センサ70,68とは別の部分に、左右の第2ブレーキ電流センサをECU50内、またはECU50外に接続することもできる。そして、通常時には、左右の第2ブレーキ電流センサと左右の電磁ブレーキ32,36とのそれぞれの間に、オフされた状態のリレー等のバックアップスイッチを接続しておく。そして各ブレーキ電流センサ68,70のいずれかに異常が発生した場合に、対応するバックアップスイッチをオンして、第2ブレーキ電流センサの検出信号を比較部72での比較に使用する。また、ECU50で、予め設定した電流検出特定条件の成立時に、バックアップスイッチをオンすることで、各ブレーキ電流センサ68,70と、各第2ブレーキ電流センサとで通電電流を検出させ、右のブレーキ電流センサ68及び第2ブレーキ電流センサ同士と、左のブレーキ電流センサ70及び第2ブレーキ電流センサ同士とを、それぞれ比較する。そして右または左で、ブレーキ電流センサ68,70及び第2ブレーキ電流センサ同士の検出電流の差が許容上限を超えると判定された場合に、いずれかのブレーキ電流センサに異常が発生したとして、各ブレーキ電流センサ68,70の検出電流同士の差や、各第2ブレーキ電流センサの検出電流同士の差等にかかわらず、共通解除制御部74でブレーキリレー62をオフするようにブレーキリレー62を制御する。
【0059】
このような第3の実施の形態でも、左右の電磁ブレーキ32,36のうち、一方の電磁ブレーキ32,36の異常発生時でも、運転者の意図しない旋回を有効に防止でき、さらに電流センサのいずれかに異常が発生した場合に無理に走行させることなく制動させることができる。
【0060】
また、上記の各実施の形態では、駆動輪である車輪18,20の回転速度差により車両を旋回させる場合を説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、例えば、左右のキャスタ輪の代わりに、ステアリング操作子にラックピニオン機構等を介して作動的に連結される左右の操舵輪を設けて、ステアリング操作子の操舵に応じて左右の操舵輪の向きを変えるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0061】
10 芝刈車両、12 メインフレーム、14,16 キャスタ輪、18,20 車輪、22,24 動力発生ユニット、26,28 ケーシング、30 走行用モータ、32 電磁ブレーキ、34 走行用モータ、36 電磁ブレーキ、38,40 車軸、42 芝刈り機(モア)、44 モアデッキ、46 補助輪、48 バッテリ、50 ECU、52 ブレーキペダル、54,56 ドライバー回路、58 メインスイッチ、60 DC/DCコンバータ、62 ブレーキリレー、64 ブレーキセンサ、66 制動解除指令生成部、68 右ブレーキ電流センサ、70 左ブレーキ電流センサ、72 比較部、74 共通解除制御部、76 記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の走行用モータによりそれぞれ走行駆動される駆動輪である左右車輪と、
対地作業を行うために駆動される作業機と、
前記左右車輪に対応してそれぞれ設けられる左右の電磁ブレーキであって、それぞれ電源から通電されることにより前記左右車輪の制動解除動作を行い、前記電源からの通電が遮断されることにより前記左右車輪の制動動作を行う前記左右の電磁ブレーキと、
制動解除指令が取得された場合に、前記電源と前記左右の電磁ブレーキとを電気的に接続し、前記電源から前記左右の電磁ブレーキに通電させる、前記左右の電磁ブレーキで共通の共通ブレーキ解除手段と、
前記共通ブレーキ解除手段を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記左右の電磁ブレーキの通電状態を比較し、比較した通電状態の差が許容上限を超える場合に、前記電源と前記左右の電磁ブレーキとの電気的接続を遮断して前記左右車輪を制動させるように前記共通ブレーキ解除手段を制御することを特徴とする電磁ブレーキ付作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁ブレーキ付作業車両において、
前記制御部は、
前記左右の電磁ブレーキの通電状態を比較する比較部と、
前記比較部で比較した通電状態の差が許容上限を超える場合に、前記電源と前記左右の電磁ブレーキとの電気的接続を遮断して前記左右車輪を制動させるように前記共通ブレーキ解除手段を制御する共通解除制御部とを含むことを特徴とする電磁ブレーキ付作業車両。
【請求項3】
請求項2に記載の電磁ブレーキ付作業車両において、
前記左右の電磁ブレーキに対する通電量をそれぞれ検知する左ブレーキ電流センサ及び右ブレーキ電流センサを備え、
前記比較部は、前記各電流センサの検知信号から前記左右の電磁ブレーキの通電状態を比較することを特徴とする電磁ブレーキ付作業車両。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の電磁ブレーキ付作業車両において、
前記制御部は、前記左右の電磁ブレーキに対する通電状態である、左右ブレーキ通電電流の時間的変化を記憶する記憶部を含み、
前記比較部は、記憶部で記憶された前記左右ブレーキ通電電流の時間的変化を比較することを特徴とする電磁ブレーキ付作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−18386(P2013−18386A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153763(P2011−153763)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000125853)株式会社 神崎高級工機製作所 (210)
【Fターム(参考)】