説明

電磁変換器

【課題】ボイスコイルを横切る磁束の磁束密度を高め、安価で高能率の電磁変換器を得る。
【解決手段】電磁変換器1は、表面にボイスコイル9が形成された振動板8と、振動板8の両側に位置する永久磁石層6,7と、永久磁石層6,7の永久磁石が取り付けられると共に振動板8を厚み方向に変位可能に挟持するフレーム2,3とから構成される。永久磁石層6,7の永久磁石の断面は、振動板8に対向する上辺の長さUが、フレーム2,3に取り付けられる側である底辺の長さBより長い台形状に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、永久磁石と振動板とを組み合わせてオーディオ信号から音声再生を行う電磁変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、永久磁石と振動板とを組み合わせた電磁変換器については、様々な技術が提案されている。この種の電磁変換器は、例えば特許文献1および2のように、永久磁石板と、その永久磁石板に対向するように配置された振動板とを備えている。これら永久磁石板および振動板は固定部材で支持されており、永久磁石板が機械的に強固に固定されるのに対して、振動板は厚み方向へ自由に変位できるように取り付けられている。
【0003】
ここで、永久磁石板は、帯状の異なる磁極が一定の間隔を置いて交互に形成されたものである。また、振動板は、永久磁石板の異なる磁極同士の間隙部分に対向する位置に、蛇行形状の導体パターンからなるボイスコイルが形成される。
【0004】
ガムーゾン型と呼ばれる平面スピーカでは、ポリエステル、ポリイミド等からなる薄膜に銅、アルミ箔等を貼り付け、ボイスコイルの導体パターンをエッチングして振動板としていた(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
この種の電磁変換器では、隣り合う永久磁石間においてN極からS極へ向かう磁束がボイスコイルの導体パターン直線部を横切っている。そのボイスコイルにオーディオ信号である電流が流れると、ボイスコイルと永久磁石とが電磁的に結合し、フレミングの法則に従って振動板にオーディオ振動が生じ、音波が発生する。
【0006】
【特許文献1】特開平9−331596号公報
【特許文献2】国際公開WO2003/073787号公報
【非特許文献1】山本武夫編著、スピーカ・システム、ラジオ技術社、1977年7月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の電磁変換器は以上のように構成されているので、ボイスコイルを横切る磁束の磁束密度が低く、磁束密度に比例する音圧レベルも小さいという課題があった。
一方、高い磁束密度を得るようにネオジム磁石等の高価な希土類磁石を用いた場合または永久磁石を大きくした場合には、音圧レベルが上がる半面、電磁変換器が高価になってしまうという課題があった。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、ボイスコイルを横切る磁束の磁束密度を高め、安価で高能率の電磁変換器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る電磁変換器は、所定の間隔をあけて交互に異なる極性で並べられた、台形断面を有する帯状の永久磁石と、永久磁石の長手方向に平行な直線部を有する蛇行パターンのボイスコイルが表面上に形成された振動板と、永久磁石が取り付けられると共に、永久磁石に対向する位置に振動板を挟持するフレームとを備えるようにした。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、永久磁石を台形断面に形成することにより、ボイスコイルを横切る磁束密度を高め、安価で高能率の電磁変換器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る電磁変換器を示し、図1(a)は外観を示す全体斜視図であり、図1(b)は構成を示す分解斜視図である。図2は、図1(a)に示すAA線に沿って切断した電磁変換器の断面図である。
電磁変換器1は、振動板8と、振動板8の表裏両面側に配置される永久磁石層6,7と、これらを挟持するフレーム2,3とを備える。
【0012】
フレーム2,3は鉄等の磁性部材からなり、内部で発生した音波を外部へ放音するための放音孔4,5がそれぞれ複数ずつ穿設されている。
永久磁石層6,7は、複数の帯状の永久磁石を、所定の間隔をあけて平行に並べてなる。これら永久磁石の断面は台形状とする。図2に示すように、永久磁石層6の複数の永久磁石は、交互に異なる磁極(N極、S極)が振動板8に対面する向き、かつ一定の極ピッチPp間隔で、フレーム2の内側に設置されている。永久磁石層7の複数の永久磁石は、振動板8を挟んで対面する永久磁石層6の永久磁石の磁極と同じになるようにフレーム3の内側に設置されている。帯状の永久磁石を短手方向に沿って切断した断面において、振動板8に対向する辺の長さを上辺の長さUとし、上辺とは反対側の、フレーム取り付け側の辺の長さを底辺の長さBとする。また、底辺から上辺までの距離をLとする。
【0013】
永久磁石層6,7が対向する磁石表面間の中間位置、即ち永久磁石上面から距離Dの位置に、薄い高分子樹脂シートからなる振動板8が配置されている。この振動板8は、フレーム2,3によって厚み方向に変位可能に挟持されている。振動板8の表裏両面には、永久磁石の長手方向に平行する直線部9aを有する蛇行パターンのボイスコイル9が形成されている。直線部9aは、永久磁石層6,7の異なる磁極同士の間隙部分にコイルピッチPcの間隔で配置される。ひとつの永久磁石から左右方向に出た磁束10は弧状の磁束線を描き、ボイスコイル9の直線部9aを横切って他極に至る。
【0014】
このような構成により、電磁変換器1においてボイスコイル9にオーディオ信号である電流が流れると、ボイスコイル9を横切る磁束10によって振動板8が厚み方向上下に振動する。振動板8の振動によって発生した音波は、フレーム2,3の放音孔4,5を通して外部へ放音される。このとき、磁束10の磁束密度が高ければ、再生音の音圧レベルが大きくなる。そこで本実施の形態では高い磁束密度を得ることを目的として、永久磁石の台形断面の上辺と底辺の長さの比(上辺底辺比)と磁束密度との関係を解析した。
【0015】
図3は、電磁変換器1を構成する永久磁石形状の例を示す断面図であり、図3(a)は上辺底辺比が大きい場合を示し、図3(b)は上辺底辺比が小さい場合を示す。図3では電磁変換器1の一部分の構成を抜き出して示す。永久磁石の台形断面の上辺底辺比を変更するために上辺の長さUおよび底辺の長さBが調整されるが、その際、台形断面の断面積、極ピッチPp、コイルピッチPcは固定とし、断面積一定で上辺底辺比を変更するために底辺から上辺までの距離Lは可変とした。また、永久磁石とボイスコイル9との距離の違いによる磁束密度の不公平さを無くすため、永久磁石7上面から振動板8までの距離Dは一定とした。
【0016】
図3に示すように永久磁石断面の上辺底辺比を調整して、ボイスコイル9を横切る磁束10の磁束密度(水平方向成分)を計測した結果を図4に示す。図4において、横軸は永久磁石断面の上辺底辺比であり、縦軸はボイスコイル9の直線部9aを横切る磁束10の磁束密度である。ここでは、ボイスコイル9のコイルピッチPcおよび極ピッチPpを4mm一定とし、台形断面積3mm2、4mm2、5mm2それぞれで上辺底辺比を変更した場合の磁束密度曲線を示す。図4において、各磁束密度曲線に付与された記号のAは台形断面積を表し、Dは永久磁石7上面から振動板8までの距離Dを表す。例えば、磁束密度曲線A5D1は、台形断面積Aを5mm2かつ距離Dを1.0mmで固定し、上辺底辺比を1.0〜2.7に変化させた場合の磁束密度を示す。
【0017】
図4より、断面積が3mm2、4mm2、5mm2のいずれであっても、上辺底辺比に応じて磁束密度は変化する。磁束密度が最高値となる上辺底辺比は2.3であり、それ以上の上辺底辺比になると磁束密度は低下する傾向がみられる。ただし、上辺底辺比が1.0以上であれば、同じ台形形状でも1.0より小さい時より大きな磁束密度が得られ、電磁変換器1の設計上、許容範囲内の音圧レベルを実現することができる。
【0018】
図5は、極ピッチPpを5mm一定、かつ永久磁石7上面から振動板8までの距離Dを1.5mm一定とし、台形断面積3mm2、4mm2、5mm2それぞれで上辺底辺比を変更した場合の磁束密度曲線を示す。図5においても、図4と同様に各磁束密度曲線に付与された記号のAは台形断面積を表し、Dは永久磁石7上面から振動板8までの距離Dを表す。
図5と図4との比較より、極ピッチPpが変化しても、上辺底辺比に応じて磁束密度が変化する傾向は変わらない。また、上辺底辺比が1.0以上であれば、同じ台形形状でも1.0より小さい時より大きな磁束密度が得られる。
【0019】
このように、永久磁石を上辺底辺比1.0以上の台形断面形状、即ち底辺より上辺が長い台形断面形状にすることにより、ボイスコイル9の直線部9aを横切る磁束10の磁束密度を高めることが可能となる。また、磁束密度が高まり高能率となるため、永久磁石の断面積を小さくしても設計上必要となる磁束密度を確保することができ、安価な電磁変換器1を得ることが可能となる。
【0020】
また、永久磁石の台形断面の底辺の長さBを上辺の長さUより短くしたので、永久磁石の底面側の間隔が広くなり、フレーム2,3の放音孔4,5を大きく穿設することができる。この結果、電磁変換器1を、振動板8の振動によって発生する音波を外部に放音しやすい構成にすることができる。
【0021】
なお、振動板8と永久磁石層6,7との間で電磁力を効率良く発生させるためには、ボイスコイル9が異なる磁極同士の間隙部分に位置している必要がある。そのため、電磁変換器1を、隣接する永久磁石同士が接することなく、かつ永久磁石の上辺の長さUをボイスコイル9のコイルピッチPc以下に構成することが好ましい。永久磁石台形断面の上辺の長さUの上限値がコイルピッチPcによって規定されることにより、上辺底辺比の上限値も自動的に規定されることとなる。
【0022】
以上のように、実施の形態1によれば、電磁変換器1は台形断面を有する永久磁石を用いる構成とした。そのため、ボイスコイル9の直線部9aを横切る磁束10の磁束密度を高めることが可能となる。上辺の長さUと底辺の長さBとの比を1.0以上に構成した場合に、特に高い磁束密度を得ることができる。
また、永久磁石の台形断面の上辺底辺比を最適に調整することにより磁束密度が高まって高能率となるため、永久磁石の断面積を小さくすることが可能となる。従って、安価で高能率な電磁変換器1を得ることができる。
【0023】
また、実施の形態1によれば、永久磁石台形断面の上辺の長さUを、ボイスコイル9のコイルピッチPc以下に構成した。そのため、永久磁石台形断面を、上辺の長さUがコイルピッチPc以下となる上辺底辺比にすることで、ボイスコイル9の直線部9aを横切る磁束10の磁束密度を高めることが可能となる。
【0024】
なお、上記実施の形態1では、永久磁石層6,7が台形断面を有する永久磁石のみで構成されたが、これに限定されるものではなく、台形断面を有する永久磁石と矩形断面を有する永久磁石とが混在する構成であってもよい。例えば、放音孔4,5の周辺に設置される永久磁石は台形断面を有する永久磁石にし、その他の部位に設置される永久磁石は矩形断面を有する永久磁石とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器を示し、図1(a)は外観を示す全体斜視図であり、図1(b)は構成を示す分解斜視図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器を図1(a)のAA線に沿って切断した断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器の永久磁石形状の例を示す断面図であり、図3(a)は上辺底辺比が大きい場合を示し、図3(b)は上辺底辺比が小さい場合を示す。
【図4】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器(極ピッチ4mm)の永久磁石台形断面の上辺底辺比と磁束密度の関係を示すグラフである。
【図5】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器(極ピッチ5mm)の永久磁石台形断面の上辺底辺比と磁束密度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
1 電磁変換器、2,3 フレーム、4,5 放音孔、6,7 永久磁石層、8 振動板、9 ボイスコイル、9a 直線部、10 磁束、L 底辺から上辺までの距離、B 底辺の長さ、U 上辺の長さ、D 永久磁石上面から振動板までの距離、Pp 極ピッチ、Pc コイルピッチ(ボイスコイルの直線部間の長さ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔をあけて、交互に異なる極性で並べられた、台形断面を有する帯状の永久磁石と、
前記永久磁石の長手方向に平行な直線部を有する蛇行パターンのボイスコイルが表面上に形成された振動板と、
前記永久磁石が取り付けられると共に、前記永久磁石に対向する位置に前記振動板を挟持するフレームとを備えた電磁変換器。
【請求項2】
永久磁石の台形断面は、振動板に対向する上辺とフレームに取り付けられる底辺の長さの比が1.0以上であることを特徴とする請求項1記載の電磁変換器。
【請求項3】
永久磁石の台形断面は、振動板に対向する上辺の長さがボイスコイルの直線部間の長さ以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電磁変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−56755(P2010−56755A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218281(P2008−218281)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(591036457)三菱電機エンジニアリング株式会社 (419)
【Fターム(参考)】