説明

電磁誘導加熱装置

【課題】防水シートを固定部材へ確実に固定できる電磁誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】導電性を有する導電性層の上面に熱可塑性を有する熱可塑性層が積層されてなる固定部材54の上に、熱可塑性素材からなる防水シート52を介して載置された状態で用いられ、磁束Mを発生させることで固定部材54の導電性層に渦電流を発生させて、該導電性層を加熱することによって、固定部材54の熱可塑性層に防水シート52を加熱融着させるための電磁誘導加熱装置1において、固定部材54に対して防水シート52を介して押し当てられる押し当て面15と、押し当て面15に平行または略平行な面上に配置された渦巻き状のコイル22と、コイル22に交流電流を供給する電流供給部34とを設け、コイル22の芯部23に軟磁性体28を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の躯体表面に固定された固定部材に、躯体表面および固定部材の上に敷設された防水シートを加熱融着させるための電磁誘導加熱装置に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
建物の屋上の床面に防水シートを敷設する際、何らかの方法により防水シートを床面に固定する必要があり、その方法の一つとして、電磁誘導加熱装置を用いた方法が知られている。
【0003】
電磁誘導加熱装置を用いた方法により防水シートを敷設する際、先ず、鋼板の表面に熱可塑性樹脂(例えば塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂等)が被覆されてなる円盤状の固定部材を、床面に複数散在させて配置し、各固定部材をビス等の固定具により床面に固定した後、床面と固定部材の上に防水シートを敷設する。続いて、固定部材の設置部分に生じた防水シートの段差を目視することで、固定部材の設置位置を確認し、防水シートを介して固定部材の上に電磁誘導加熱装置を載置する。
【0004】
固定部材の上に載置した電磁誘導加熱装置の電源をオンにすると、装置の内部に設けられたコイルに交流電流が流れ、これに伴ってコイルの芯部および周辺部に磁束が発生する。コイルの芯部を通る磁束は固定部材を通過し、固定部材の鋼板に渦電流が流れて、この鋼板が加熱される。鋼板が加熱されると、鋼板表面の熱可塑性樹脂と防水シートが溶融し、これにより、防水シートが固定部材に加熱融着される。なお、電磁誘導加熱装置を用いて防水シートを固定部材に加熱融着させる技術は、例えば特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2006−233469号公報
【0005】
固定部材に対して電磁誘導加熱装置を正確に位置決めした場合、コイルの芯部を通る磁束は、固定部材の中心周辺部を通り、固定部材の鋼板には、磁束が通る部分の周辺、すなわち中心周辺部のさらに周辺の部分に渦電流が発生する。これにより、固定部材は、渦電流が発生した部分、すなわち中心とその周辺部を除く部分が加熱され、この加熱部分に防水シートが融着される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、従来は、防水シートが固定部材の中心部に融着されず、固定部材の外側の部分にのみ融着される。特に、電磁誘導加熱装置を固定部材に対して位置ずれした状態で使用した場合、固定部材の加熱部分がずれてしまうため、固定部材に対して防水シートが融着される強度と面積が極めて小さくなる恐れがあった。
【0007】
そこで、本発明は、防水シートを固定部材へ確実に固定できる電磁誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る電磁誘導加熱装置は、
導電性を有する導電性層の上面に熱可塑性を有する熱可塑性層が積層されてなる固定部材の上に、熱可塑性素材からなる防水シートを介して載置された状態で用いられ、磁束を発生させることで上記固定部材の上記導電性層に渦電流を発生させて、該導電性層を加熱することによって、上記固定部材の上記熱可塑性層に上記防水シートを加熱融着させるための電磁誘導加熱装置であって、
上記固定部材に対して上記防水シートを介して押し当てられる押し当て面と、
該押し当て面に平行または略平行な面上に配置された渦巻き状のコイルと、
該コイルに交流電流を供給する電流供給部とを備え、
上記コイルの芯部に軟磁性体が配置されていることを特徴とする。
【0009】
ここで、「軟磁性体」とは、透磁力が大きく保磁力が小さい部材を指し、具体的には例えばフェライトコアが挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電磁誘導加熱装置は、コイルに交流電流が供給されることで発生する磁束が、コイルの芯部に配置された軟磁性体を通るため、コイルの中心に極めて近い部分に磁束を集中させることができる。したがって、小さな範囲に集中させた磁束を固定部材に通すことができ、固定部材における渦電流の発生部分に囲まれた部分、すなわち非加熱部分の範囲を極めて小さくできるため、固定部材のほぼ全面を加熱できる。
【0011】
それゆえ、固定部材のほぼ全面に防水シートを融着できるため、防水シートを固定部材に確実に固定できる。また、電磁誘導加熱装置を固定部材に対して多少位置ずれした状態で使用しても、固定部材に対して防水シートを十分な強度で融着できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る電磁誘導加熱装置1の装置本体2を示し、図2は、装置本体2に電気的に接続された操作ボックス4を示している。
【0014】
電磁誘導加熱装置1は、コイル22に交流電流を供給して磁束を発生させることで、加熱対象物に渦電流を発生させ、加熱対象物を加熱するものである。
【0015】
図3は、電磁誘導加熱装置1の具体的な使用例を示す。図3に示すように、電磁誘導加熱装置1は、防水シート52を固定部材54に加熱融着させるために用いられる。
【0016】
防水シート52を敷設する際、図6に示すように、先ず、建物の躯体の表面(例えば屋上の床面)に、円盤状の固定部材54を複数散在させて配置し、各固定部材54をビス60により躯体50に固定した後、躯体50と固定部材54の上に防水シート52を敷設し、電磁誘導加熱装置1を用いて防水シート52を固定部材54に加熱融着させる。これにより、防水シート52は、固定部材54を介して躯体50の表面に固定される。
【0017】
かかる工法に用いられる固定部材54は、図7に示すように、導電性を有する導電性層55の上面と下面に、熱可塑性を有する熱可塑性層56,57が積層されてなるものである。導電性層55としては、例えば鋼板が用いられる。上側の熱可塑性層56の素材としては、防水シート52と熱融着可能な素材が用いられ、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、またはホットメルト系接着剤等が用いられる。下側の熱可塑性層57の素材としては、導電性層55を保護可能な素材が用いられ、例えば塩化ビニル樹脂等が用いられる。
【0018】
防水シート52の素材としては、固定部材54の上面の熱可塑性層56と熱融着可能な熱可塑性素材が用いられ、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂またはオレフィン樹脂等が用いられる。
【0019】
図3に戻って、電磁誘導加熱装置1の装置本体2は、防水シート52を介して固定部材54の上に載置された状態で用いられ、磁束Mを発生させることで固定部材54の導電性層55に渦電流を発生させて、導電性層55を加熱することによって、固定部材54の上面の熱可塑性層56に防水シートが加熱融着される。
【0020】
図1に戻って、装置本体2は、コイル22を収容するハウジング8を備えている。ハウジング8は、例えば円筒形の側板10と、側板10の上端開口部を塞ぐ天板12と、側板10の下端開口部を塞ぐ底板14とを備えている。
【0021】
側板10と天板12の素材は特に限定されないが、例えば塩化ビニル樹脂が用いられる。底板14の素材としては、耐熱性および電気絶縁性に優れた素材が用いられ、例えばベークライト、エポキシガラスまたは人工大理石等が用いられる。
【0022】
側板10には電気ケーブル32の一端部が取り付けられている。天板12の上面には把手16が取り付けられている。また、天板12には、コイル22の通電時に点灯する通電確認ランプ18が取り付けられている。通電確認ランプ18としては、例えば発光ダイオードが用いられる。通電確認ランプ18には、図5に示すようにコイル19が接続されており、コイル19の周囲に磁束M1が発生すると、コイル19に交流電流が発生し、ランプ18が点灯するようになっている。
【0023】
装置本体2には、コイル22の通電時に断続的若しくは継続的にブザー音を発生させるか、またはコイル22の通電終了時にブザー音を発生させる図示しないブザーが収容されている。
【0024】
図3に戻って、底板14の下面は、加熱対象物である固定部材54に防水シート52を介して押し当てられる押し当て面15となっている。
【0025】
底板14の上面は、押し当て面15に平行または略平行な面とされ、底板14の上面に、渦巻き状のコイル22が取り付けられている。コイル22は、上方から見てコイル22の中心と押し当て面15の中心が合致するように配置されている。コイル22の外径は、固定部材54の外径よりもやや大きい径とされている。具体的に、固定部材54の外径が65mmであるとき、コイル22の外径は例えば80mmとされ、コイル22の内径、すなわちコイル22の芯部の径は例えば20mmとされる。コイル22の両端は、操作ボックス4に収められた電流供給部34に、電気ケーブル32を介して接続されている。
【0026】
コイル22の材料としては、例えば、より合わせた複数の細い銅線を絶縁性部材で被覆してなるリッツ線が用いられ、特に、扁平となるように銅線をより合わせてなるリッツ線が好適に用いられる。扁平なリッツ線を巻回してコイル22を構成することで、単位面積当たりのリッツ線の巻き回数を多く確保できる。したがって、コイル22の小径化を実現でき、装置本体2の小型化を図ることができる。
【0027】
図3と図4に示すように、コイル22の芯部23に、第1の軟磁性体28が例えば複数配置されている。実施形態において、第1の軟磁性体28は棒状の部材である。第1の軟磁性体28の上端部は、コイル22の上面よりも上側に突出しており、後述する第2の軟磁性体24で囲まれた空間30に配置されている。
【0028】
コイル22の芯部23の周辺部には、押し当て面15とは反対側に第2の軟磁性体24が配置されている。
【0029】
第2の軟磁性体24は例えば円環状の部材であり、コイル22の上面に取り付けられている。第2の軟磁性体24で囲まれた空間30とコイル22の芯部23とは上下方向に互いに連続した空間となっている。
【0030】
実施形態において、第2の軟磁性体24は、比較的大径の円環状の磁性体27の内側に、比較的小径の円環状の磁性体26が内嵌されて構成されている。ただし、第2の軟磁性体24は、必ずしも2つの磁性体26,27で構成する必要はなく、1つの磁性体で構成したり、3つ以上の磁性体を組み合わせて構成したりしてもよい。
【0031】
内側の磁性体26の内径、すなわち第2の軟磁性体24の内径は、コイル22の芯部23の径と略等しく、例えば20mmとされている。内側の磁性体26の外径は、外側の磁性体27の内径と比較して等しいか又は僅かに小さな径とされ、例えば34mmとされている。
【0032】
外側の磁性体27の内径は例えば35mmとされている。外側の磁性体27の外径、すなわち第2の軟磁性体24の外径は、コイル22の外径よりも小さな径とされ、例えば60mmとされている。
【0033】
第2の軟磁性体24とコイル22との当接部分の幅、すなわち、第2の軟磁性体24の外周面と内周面との距離L1は、コイル22の外周面と内周面との距離L2よりも小さく、距離L2の1/2よりも大きい距離とされている。
【0034】
第1の軟磁性体28および第2の軟磁性体24としては、フェライトコアが好適に用いられる。ただし、第1の軟磁性体28および第2の軟磁性体24として、フェライトコア以外の軟磁性体を用いてもよく、例えば、センダスト(登録商標)等の圧粉鉄心を用いてもよい。
【0035】
図2に戻って、操作ボックス4の正面には、電源スイッチ66、加熱強度切り替え用つまみ70,72が設けられ、操作ボックス4の上面には把手62が取り付けられている。また、操作ボックス4には電源コード68が取り付けられている。
【0036】
操作ボックス4の側面にはヒートシンク64が設けられており、ボックス4の内部で発生した熱はヒートシンク64から放出される。このように、操作ボックス4はヒートシンク64を備えているため、冷却ファンを設けなくても十分に放熱できる。そのため、冷却ファン設置用の開口部をボックス4の側面に設ける必要がなく、操作ボックス4の防水性が高められている。
【0037】
操作ボックス4の内部には、装置本体2のコイル22に高周波の交流電流を供給する電流供給部34が設けられている。
【0038】
以上の構成からなる電磁誘導加熱装置1を使用する際、操作ボックス4の電源コード68を交流電源(例えば電圧100V、周波数50Hzまたは60Hz)に接続するとともに、加熱強度切り替え用つまみ70,72を、固定部材54が所望の加熱強度で加熱されるように操作しておく。また、装置本体2を、図3に示すように、固定部材54の上に防水シート52を介して載置しておく。このとき、装置本体2は、上方から見て押し当て面15の中心が固定部材54の中心に概ね合致するように位置決めする。
【0039】
かかる状態において、操作ボックス4の電源スイッチ66をオンにすると、交流電源46から供給される交流電流が、電流供給部34により、高周波の交流電流に変換される。
【0040】
電流供給部34により変換された高周波の交流電流は、装置本体2のコイル22を予め設定された所定時間(例えば10秒)流れる。
【0041】
コイル22に高周波の交流電流が流れると、図3の破線で示すように、コイル22の芯部23およびその周辺に磁束Mが発生する。磁束Mは固定部材54を通るため、固定部材54において磁束Mの周辺に渦電流が発生し、渦電流の発生部分が加熱されて、固定部材54に防水シート52が加熱融着される。
【0042】
このとき、磁束Mは、コイル22の芯部23に配置された第1の軟磁性体28を通るため、図8に示すようにコイル22の芯部23に軟磁性体を配置しない場合の構成と比較して、コイル22の中心に近い部分を磁束Mが通る。また、磁束Mは、コイル22の芯部23の周辺部に配置された第2の軟磁性体24を通るため、図8に示す構成と比較して、コイル22の周囲への磁束Mの拡がりを軽減できる。このように磁束Mの拡がりが軽減されることで、磁束Mは、コイル22の中心に一層近い部分を通ることとなる。したがって、固定部材54における渦電流の発生部分で囲まれた部分、すなわち非加熱部分を縮小でき、固定部材54の加熱ムラを大幅に軽減できるため、防水シート52を固定部材54に確実に加熱融着できる。
【0043】
なお、コイル22の通電時において、コイル22の周辺部から漏れた磁束M1が、図5に示すように、通電確認ランプ18に接続されたコイル19の周囲に達し、コイル19に交流電流が流れる。これにより、ランプ18が点灯し、コイル22の通電を確認できる。また、コイル22の通電中に鳴るブザーを設けた場合は、ブザーが鳴り止むことによりコイル22の通電終了を確認でき、コイル22の通電終了と同時に鳴るブザーを設けた場合は、ブザーが鳴ることによりコイル22の通電終了を確認できる。
【0044】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0045】
例えば、上述の実施形態では、第2の軟磁性体24が円環状の部材である場合について説明したが、第2の磁性体24は、その他の形状であってもよい。したがって、例えば、円盤状に形成された第2の軟磁性体を、コイル22の芯部23およびその周辺部を上側から覆うように配置してもよい。
【実施例】
【0046】
(試験1)
実施例、比較例1、比較例2および比較例3の各電磁誘導装置を用いて、固定部材への防水シートの加熱融着を行い、それぞれの融着状態を確認する試験を行った。
【0047】
実施例としては、上述の実施形態に係る電磁誘導加熱装置を用い、比較例1としては、上述の実施形態に係る電磁誘導加熱装置から第1の軟磁性体(棒状のフェライトコア)を取り外したものを用い、比較例2としては、上述の実施形態に係る電磁誘導加熱装置から第2の軟磁性体(円環状のフェライトコア)のうち外側の磁性体を取り外したものを用い、比較例3としては、上述の実施形態に係る電磁誘導加熱装置から第2の軟磁性体(円環状のフェライトコア)のうち内側の磁性体を取り外したものを用いた。
【0048】
第1の軟磁性体としては、寸法が4mm×6mm×22mmである角柱状のフェライトコアを用いた。第2の軟磁性体の内側の磁性体としては、外径が60mmであり内径が35mmであるフェライトコアを用い、外側の磁性体としては、外径が34mmであり内径が20mmであるフェライトコアを用いた。
【0049】
コイルへの通電時間は10秒に設定し、電流供給部から供給される電流の電力値(10秒間の通電により消費される電力値)としては、低いものから順に設定値1、設定値2、設定値3および設定値4の4つの電力値を設定した。
【0050】
融着状態の評価は、固定部材の表面全体が完全に融着されている融着状態を「A」、固定部材の表面の大部分が融着されている融着状態を「B」、固定部材の表面の1/3程度が融着不良である融着状態を「C]、固定部材の表面の2/3程度が融着不良である融着状態を「D]で表した(図9参照)。
【0051】
試験結果を図9に示す。
【0052】
図9に示すように、比較例1では、設定値1〜設定値4のいずれにおいても融着不良が発生した。これは、比較例1ではコイルの芯部に磁性体が配置されていないため、コイルの芯部を通る磁束がコイルの中心付近に集中せず、固定部材における渦電流の発生部分で囲まれた部分、すなわち非加熱部分の範囲が大きくなってしまうためだと考えられる。
【0053】
比較例2では、設定値2〜設定値4のときに融着不良は生じなかったが、良好な融着状態を実現できた設定出力は設定値4のみであり、設定値1のときには融着不良が発生した。すなわち、比較例2では、設定出力の大きさによっては融着不良を防止できるが、良好な融着状態を実現できる設定出力の範囲が限られてしまうことを確認できた。これは、比較例2では、第2の軟磁性体(円環状のフェライトコア)の外側の磁性体が設けられていないため、第2の軟磁性体の外周面と内周面との距離(図3に示すL1)が、コイルの外周面と内周面との距離(図3に示すL2)と比較して顕著に小さくなり、磁束が第2の軟磁性体を通過する距離が著しく小さくなってしまうことから、磁束の拡がりを十分に軽減できず、固定部材の非加熱部分の範囲を十分に縮小できないためだと考えられる。
【0054】
比較例3では、設定値3と設定値4のときに融着不良は生じなかったが、良好な融着状態を実現できた設定出力は設定値4のみであり、設定値1と設定値2のときには融着不良が発生した。すなわち、比較例3においても、比較例2と同様、設定出力の大きさによっては融着不良を防止できるが、良好な融着状態を実現できる設定出力の範囲が限られてしまうことを確認できた。これは、比較例3では、第2の軟磁性体(円環状のフェライトコア)の内側の磁性体が設けられていないため、コイルの芯部と第2の軟磁性体との距離が大きく、磁束を第2の軟磁性体へ十分に導くことができないことから、磁束の拡がりを十分に軽減できず、固定部材の非加熱部分の範囲を十分に縮小できないためだと考えられる。
【0055】
これらに対して、実施例では、設定値1〜設定値4のいずれにおいても良好な融着状態を実現でき、特に設定値2と設定値3のときは優れた融着状態を実現できた。これは、第1の軟磁性体と第2の軟磁性体によって、磁束をコイルの中心付近に導くことができ、固定部材における非加熱部分の範囲を十分に縮小できたためだと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】電磁誘導加熱装置の装置本体を示す斜視図である。
【図2】電磁誘導加熱装置の操作ボックスを示す斜視図である。
【図3】電磁誘導加熱装置の使用例を示す断面図である。
【図4】コイルおよび軟磁性体を示す斜視図である。
【図5】通電確認ランプへ電流が供給される構成を示すブロック図である。
【図6】防水シートの施工手順を示す図である。
【図7】固定部材を示す拡大断面図である。
【図8】図3に示す電磁誘導加熱装置から軟磁性体を除いた構成を示す断面図である。
【図9】試験1の結果を示す表である。
【符号の説明】
【0057】
1:電磁誘導加熱装置、
22:コイル、
24:第2の軟磁性体、
28:第1の軟磁性体、
34:電流供給部、
52:防水シート、
54:固定部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する導電性層の上面に熱可塑性を有する熱可塑性層が積層されてなる固定部材の上に、熱可塑性素材からなる防水シートを介して載置された状態で用いられ、磁束を発生させることで上記固定部材の上記導電性層に渦電流を発生させて、該導電性層を加熱することによって、上記固定部材の上記熱可塑性層に上記防水シートを加熱融着させるための電磁誘導加熱装置であって、
上記固定部材に対して上記防水シートを介して押し当てられる押し当て面と、
該押し当て面に平行または略平行な面上に配置された渦巻き状のコイルと、
該コイルに交流電流を供給する電流供給部とを備え、
上記コイルの芯部に軟磁性体が配置されていることを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項2】
上記コイルの芯部の周辺部において、上記押し当て面とは反対側に軟磁性体が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁誘導加熱装置。
【請求項3】
上記軟磁性体は、フェライトコアであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の電磁誘導加熱装置。
【請求項4】
上記コイルの芯部の周辺部に配置された上記軟磁性体は、円環状の部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電磁誘導加熱装置。
【請求項5】
上記コイルの芯部に配置された軟磁性体の一部が、上記円環状の軟磁性体に囲まれた空間に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の電磁誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−127973(P2008−127973A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318022(P2006−318022)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(591000506)早川ゴム株式会社 (110)
【出願人】(301051149)株式会社立売堀製作所大阪工場 (1)
【Fターム(参考)】