説明

電解加工方法及び電解加工装置

【課題】ピーク電流値が1000A以上の大電流の供給が必要な電解加工を行う場合であっても、設備投資の増大を十分に抑えつつ、電解加工の加工時間の短縮化を図ること。
【解決手段】電解加工の開始から終了するまで、電極3,5を被加工物Wに対して相対的に送る送り動作と、送り動作の後に電極3,5を被加工物Wに対して相対的に停止する停止動作とを1サイクルとして、電極3,5の加工面の形状を被加工物Wの表面に転写するまで周期的に複数回繰り返すこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極と被加工物との間に電気化学反応を起こして、被加工物の表面を溶出させ、電極の加工面の形状を被加工物の表面に転写する電解加工方法及び電解加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガスタービンエンジンの圧縮機動翼の表面(翼面及びプラットホームを含む)の仕上げ加工として電解加工が用いられており、この電解加工は、放電加工に比べて加工時間が短く、電解加工の概略について説明すると、次のようになる。
【0003】
電極と被加工物(例えばガスタービンエンジンの圧縮機動翼)との間に硝酸ナトリウム溶液等の電解液(電解質溶液)を流通させると共に、直流電源によって電極と被加工物との間に電圧を印可して直流電流を供給する。そして、電極と被加工物との間に電解液を流通させかつ直流電流を供給した状態で、電極と被加工物とのギャップを維持しつつ、電極を被加工物に対して相対的に送る。これにより、電極と被加工物との間に電気化学反応(電解反応)を起こして、被加工物の表面を溶出させ、電極の加工面の形状を前記被加工物の表面に転写することができる。
【0004】
なお、本発明に関連する先行技術として特許文献1〜4に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4452385号公報
【特許文献2】特許第2879124号公報
【特許文献3】特開2001−179543号公報
【特許文献4】特開平9−141528号公報
【特許文献5】特許第2613152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、加工時間の短縮化を図るために、電極の平均送り速度(送り速度)を上げると、電極と被加工物によってスラッジ(溶出物)を挟み込んで、スパークの発生を招くことになる。その対策として、直流電源としてパルス電源を用い、電極と被加工物との間に電流を間欠的に供給すること、換言すれば、電極と被加工物との間への電流の供給を間欠的に停止することによって、電極と被加工物との間からのスラッジの排出を促進して、電極と被加工物によるスラッジの挟み込みを回避する方法も考えられる。
【0007】
しかしがら、ピーク電流値が数100Aの小電流を供給するパルス電源(小電流供給用のパルス電源)は簡易な設備で足りるのの、ピーク電流値が1000A以上の大電流を供給するパルス電源(大電流供給用のパルス電源)は非常に大掛かりな設備になり、例えばガスタービンエンジンの圧縮機動翼の表面の電解加工等、大電流の供給が必要な電解加工を行う場合には、設備投資が大掛かりなものになる。
【0008】
つまり、大電流の供給が必要な電解加工を行う場合に、設備投資の増大を十分に抑えつつ、電解加工の加工時間の短縮化を図ることは困難であるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成の電解加工方法及び電解加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は、前述の課題を解決するために、種々の電解加工試験を繰り返した結果、電極を被加工物に対して相対的に送る送り動作と、送り動作の後に電極を被加工物に対して相対的に停止する停止動作とを1サイクルとして、1サイクルのサイクル時間に対する電極の送り動作の時間の割合を適切に設定した上で、電極の加工面の形状を被加工物の表面に転写するまで周期的に複数回繰り返す場合には、電極と被加工物によるスラッジの挟み込みを回避しつつ、電極の平均送り速度(送り速度)を上げることができるという、新規な知見を得ることができ、本発明を完成するに至った。前述の新規な知見は、停止動作中における被加工物の表面の溶出によって電極と被加工物の距離(極間)が拡がって、電極と被加工物との間からのスラッジの排出を促進できたことによるものと考えられる。
【0011】
本発明の第1の特徴は、電極と被加工物との間に電解液(電解質溶液)を流通させかつ直流電流を供給した状態で、前記電極と前記被加工物とのギャップを維持しつつ、前記電極を前記被加工物に対して相対的に送る(前記被加工物に対して接近する方向へ移動させる)ことにより、前記電極と前記被加工物との間に電気化学反応(電解反応)を起こして、前記被加工物の表面を溶出させ、前記電極の加工面の形状を前記被加工物の表面に転写する電解加工方法であって、前記電極を前記被加工物に対して相対的に送る送り動作と、前記送り動作の後に前記電極を前記被加工物に対して相対的に停止する停止動作とを1サイクルとして、前記電極の加工面の形状を前記被加工物の表面に転写するまで周期的に複数回繰り返すことを要旨とする。
【0012】
第1の特徴によると、前記電極の前記送り動作と前記停止動作とを1サイクルとして、前記電極の加工面の形状を前記被加工物の表面に転写するまで周期的に複数回繰り返すため、前述の新規な知見を適用すると、前記直流電源としてパルス電源を用いなくても、前記電極と前記被加工物によるスラッジ(溶出物)の挟み込みを回避しつつ、前記電極の平均送り速度(送り速度)を上げることができる。
【0013】
本発明の第2の特徴は、電極と被加工物との間に電気化学反応を起こして、前記被加工物の表面を溶出させ、前記電極の加工面の形状を前記被加工物の表面に転写する電解加工装置であって、前記電極を前記被加工物に対して相対的に送る(前記被加工物に対して接近する方向へ移動させる)アクチュエータと、前記電極と前記被加工物との間に直流電圧を印可する直流電源と、前記電極と前記被加工物との間に電解液を流通させる溶液流通ユニットと、前記電極を前記被加工物に対して相対的に送る送り動作と、前記送り動作の後に前記電極を前記被加工物に対して相対的に停止する停止動作とを1サイクルとして、前記電極の加工面の形状を前記被加工物の表面に転写するまで周期的に複数回繰り返すように前記アクチュエータを制御するコントローラと、を具備したことを要旨とする。
【0014】
第2の特徴によると、前記溶液流通ユニットによって前記電極と前記被加工物との間に電解液を流通させる。また、前記直流電源によって前記電極と前記被加工物との間に直流電圧を印可して直流電流を供給する。そして、前記電極と前記被加工物との間に電解液を流通させかつ直流電流を供給した状態で、前記電極と前記被加工物とのギャップを維持しつつ、前記アクチュエータによって前記電極を前記被加工物に対して相対的に送る。これにより、前記電極と前記被加工物との間に電気化学反応を起こして、前記被加工物の表面を溶出させ、前記電極の加工面の形状を前記被加工物の表面に転写することができる。
【0015】
前記被加工物の電解加工中に、前記電極の前記送り動作と前記停止動作とを1サイクルとして、前記電極の加工面の形状を前記被加工物の表面に転写するまで周期的に複数回繰り返すように、前記コントローラによって前記アクチュエータを制御する。これにより、前述の新規な知見を適用すると、前記直流電源としてパルス電源を用いなくても、前記電極と前記被加工物によるスラッジの挟み込みを回避しつつ、前記電極の平均送り速度(送り速度)を上げることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前記直流電源としてパルス電源を用いなくても、前記電極と前記被加工物によるスラッジの挟み込みを回避しつつ、前記電極の送り速度を上げることができるため、大電流の供給が必要な電解加工を行う場合であっても、設備投資の増大を十分に抑えつつ、電解加工の加工時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る電解加工装置の模式正面図である。
【図2】図2は、図1における矢視部IIの拡大図である。
【図3】図3は、電極の送り速度(コントローラからの指令速度)と時間の関係を示す図である。
【図4A】図4Aは、第1実施例に係る電解加工試験の内容を示す模式図である。
【図4B】図4Bは、第1実施例に係る電解加工試験の試験結果を示す図である。
【図4C】図4C(a)は、第1実施例に係る電解加工試験後の試験例6のワークの表面状態を示す図、図4C(b)は、第1実施例に係る電解加工試験後の比較試験例2のワークの表面状態を示す図である。(研究報告書に記載された図4の写真データを送ってください。)
【図5A】図5Aは、第2実施例に係る電解加工試験の内容を示す模式図である。
【図5B】図5Bは、第2実施例に係る電解加工試験の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について図1から図3を参照して説明する。なお、図1及び図2中において、「FF」は前方向、「FR」は後方向、「L」は左方向、「R」は右方向をそれぞれ指している。
【0019】
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態に係る電解加工装置1は、第1電極3とガスタービンエンジンの圧縮機動翼W(被加工物の一例)の背側表面Waとの間に電気化学反応(電解反応)を起こして、圧縮機動翼Wの背側表面Waを溶出させ、第1電極3の加工面3fの形状を圧縮機動翼Wの背側表面Waに転写するものである。また、電解加工装置1は、第2電極5と圧縮機動翼Wの腹側表面Wbとの間に電気化学反応を起こして、圧縮機動翼Wの腹側表面Wbを溶出させ、第2電極5の加工面5fの形状を圧縮機動翼Wの腹側表面Wbに転写するものである。ここで、第1電極3及び第2電極5は、銅又はグラファイト等により構成されている。
【0020】
電解加工装置1は、硝酸ナトリウム水溶液等の電解液(電解質溶液)Sを収容する加工槽7を具備しており、この加工槽7の底部には、圧縮機動翼Wをセットする治具(図示省略)が設けられている。また、加工槽7の左部には、第1電極3を保持する第1電極ホルダ9が設けられており、この第1電極ホルダ9は、治具にセットされた圧縮機動翼Wの背側表面Waに対して接近する第1送り方向D1へ移動可能である。更に、加工槽7の右部には、第2電極5を保持する第2電極ホルダ11が設けられており、この第2電極ホルダ11は、治具にセットされた圧縮機動翼Wの腹側表面Wbに対して接近する第2送り方向D2へ移動可能である。
【0021】
加工槽7の左側近傍には、第1支持フレーム13が配設されており、この第1支持フレーム13の左部には、第1電極3を第1電極ホルダ9と一体的に第1送り方向へ送る(換言すれば、圧縮機動翼Wの背側表面Waに対して接近する方向へ移動させる)第1サーボモータ15が設けられている。また、第1支持フレーム13には、第1送り方向D1に対して平行な方向へ延びた第1ボールネジ17が回転可能に設けられており、この第1ボールネジ17は、第1サーボモータ15の出力軸に連動連結してある。更に、第1電極ホルダ9の基端側には、第1ナット部材19が連結部材21を介して設けられており、この第1ナット部材19は、第1ボールネジ17に螺合してある。
【0022】
加工槽7の右側近傍には、第2支持フレーム23が配設されており、この第2支持フレーム23の右部には、第2電極5を第2電極ホルダ11と一体的に第2送り方向D2へ送る(換言すれば、圧縮機動翼Wの腹側表面Wbに対して接近する方向へ移動させる)第2サーボモータ25が設けられている。また、第2支持フレーム23には、第2送り方向D2に対して平行な方向へ延びた第2ボールネジ27が回転可能に設けられており、この第2ボールネジ27は、第2サーボモータ25の出力軸に連動連結してある。更に、第2電極ホルダ11の基端側には、第2ナット部材29が連結部材31を介して設けられており、この第2ナット部材29は、第2ボールネジ27に螺合してある。
【0023】
加工槽7の近傍には、直流電源33が配設されており、この直流電源33は、陽極側が圧縮機動翼Wに電気的に接続可能かつ陰極側が第1電極3及び第2電極5に接続可能である。そして、直流電源33は、第1電極3と圧縮機動翼Wの背側表面Waとの間及び第2電極5と圧縮機動翼Wの腹側表面Wbとの間に直流電圧を印可して、ピーク電流値が1000A以上(具体的には、2000〜3000A)の直流電流(大電流)を供給するものである。
【0024】
加工槽7の底面側の適宜位置には、溶液流通ユニット35が設けられており、この溶液流通ユニット35は、第1電極3(第1電極3の加工面3f)と圧縮機動翼Wの背側表面Waとの間及び第2電極5(第2電極5の加工面5f)と圧縮機動翼Wの腹側表面Wbとの間に電解液Sを流通させるものであって、溶液流通ユニット35の具体的な構成は、次のようになる。即ち、加工槽7の近傍には、電解液Sを貯留するタンク37が配設されており、加工槽7の前部には、供給配管39の一端部が接続されており、この供給配管39の他端部は、タンク37に接続されている。また、供給配管39の途中には、電解液Sを濾過するフィルタ41、及び電解液Sを加工槽7へ圧送するポンプ43がタンク37側から順次配設されている。更に、加工槽7の後部には、排出配管45の一端が接続されており、この排出配管45の他端部は、タンク37に接続されている。
【0025】
続いて、本発明の実施形態に係る電解加工装置1の要部について説明する。
【0026】
加工槽7の近傍には、コントローラ47が配設されており、このコントローラ47は、モータ駆動回路(図示省略)を介して第1サーボモータ15及び第2サーボモータ25に接続されている。そして、コントローラ47は、図3に示すように、第1電極3を圧縮機動翼Wに対して送る送り動作(換言すれば、第1サーボモータ15を駆動する駆動動作)と、送り動作の後に第1電極3を圧縮機動翼Wに対して停止する停止動作(換言すれば、第1サーボモータ15の駆動を停止する停止動作)とを1サイクルとして、第1電極3の加工面3fの形状を圧縮機動翼Wの背側表面Waに転写するまで(電解加工を開始してから終了するまで)周期的に複数回繰り返すように第1サーボモータ15を制御するものである。また、コントローラ47は、図3に示すように、第2電極5を圧縮機動翼Wに対して送る送り動作(換言すれば、第2サーボモータ25の駆動する駆動動作)と、送り動作の後に第2電極5を圧縮機動翼Wに対して停止する停止動作(換言すれば、第2サーボモータ25の駆動を停止する停止動作)とを1サイクルとして、第2電極5の加工面5fの形状を圧縮機動翼Wの腹側表面Wbに転写するまで(電解加工を開始してから終了するまで)周期的に複数回繰り返すように第2サーボモータ25を制御するものである。
【0027】
ここで、1サイクルのサイクル時間Tに対する電極(第1電極3、第2電極5)の送り動作の時間Taの割合Ta/Tは、75〜95%に設定されている。1サイクルのサイクル時間Tに対する電極3,5の送り動作の時間Taの割合Ta/Tが75%未満であると、1サイクルのサイクル時間Tに対する電極3,5の停止動作の時間Tbの割合Tb/Tが大きくなって、電極3,5の平均送り速度を高めることが困難になるからである。一方、1サイクルのサイクル時間Tに対する電極3,5の送り動作の時間Taの割合Ta/Tが95%越えると、1サイクルのサイクル時間Tに対する電極3,5の停止動作の時間Tbの割合Tb/Tが小さくなりすぎて、停止動作中における圧縮機動翼Wの表面(背側表面Wa、腹側表面Wb)の溶出によって電極3,5と圧縮機動翼Wの距離(極間)を十分に拡げることができず、電極3,5と圧縮機動翼Wとの間からのスラッジの排出が促進されないからである。
【0028】
続いて、本発明の実施形態に係る電解加工方法について説明する。
【0029】
ポンプ43の作動によって加工槽7へ供給配管39を介して圧送することにより、第1電極3と圧縮機動翼Wの背側表面Waとの間及び第2電極5と圧縮機動翼Wの腹側表面Wbとの間に電解液Sを流通させる。また、直流電源33によって第1電極3と圧縮機動翼Wの背側表面Waとの間及び第2電極5と圧縮機動翼Wの腹側表面Wbとの間に直流電圧を印可して、ピーク電流値が1000A以上(具体的には、2000〜3000A)の直流電流(大電流)を供給する。なお、第1電極3と圧縮機動翼Wの背側表面Waとの間及び第2電極5と圧縮機動翼Wの腹側表面Wbとの間を流通した電解液Sは、排出配管45を介してタンク37に回収される。
【0030】
そして、第1電極3と圧縮機動翼Wの背側表面Waとの間に電解液Sを流通させかつ直流電流を供給した状態で、第1電極3と圧縮機動翼Wの背側表面Waのギャップを維持しつつ、第1サーボモータ15の駆動によって第1電極3を第1電極ホルダ9と一体的に第1送り方向D1へ送る。これにより、第1電極3と圧縮機動翼Wの背側表面Waとの間に電気化学反応(電解反応)を起こして、圧縮機動翼Wの背側表面Waの表面を溶出させ、第1電極3の加工面3fの形状を圧縮機動翼Wの背側表面Waの表面に転写することができる。
【0031】
圧縮機動翼Wの背側表面Waの電解加工中に、図3に示すように、第1電極3の送り動作と停止動作とを1サイクルとして、第1電極3の加工面3fの形状を圧縮機動翼Wの背側表面Waに転写するまで周期的に複数回繰り返すように、コントローラ47によって第1サーボモータ15を制御する。
【0032】
同様に、第2電極5と圧縮機動翼Wの腹側表面Wbとの間に電解液Sを流通させかつ直流電流を供給した状態で、第2電極5と圧縮機動翼Wの腹側表面Wbのギャップを維持しつつ、第2サーボモータ25の駆動によって第2電極5を第2電極ホルダ11と一体的に第2送り方向D2へ送る。これにより、第2電極5と圧縮機動翼Wの腹側表面Wbとの間に電気化学反応を起こして、圧縮機動翼Wの腹側表面Wbの表面を溶出させ、第2電極5の加工面5fの形状を圧縮機動翼Wの腹側表面Wbの表面に転写することができる。
【0033】
圧縮機動翼Wの腹側表面Wbの電解加工中に、図3に示すように、第2電極5の送り動作と停止動作とを1サイクルとして、第2電極5の加工面5fの形状を圧縮機動翼Wの腹側表面Wbに転写するまで周期的に複数回繰り返すように、コントローラ47によって第2サーボモータ25を制御する。
【0034】
ここで、1サイクルのサイクル時間Tに対する電極3,5の送り動作の時間Taの割合Ta/Tは、前述のように、75〜95%に設定されている。また、1サイクルのサイクル時間Tは、短いほど好ましく、具体的には、2.00sec以下、より好ましくは、1.00secである。
【0035】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0036】
圧縮機動翼Wの背側表面Waの電解加工中に、第1電極3の送り動作と停止動作とを1サイクルとして、第1電極3の加工面3fの形状を圧縮機動翼Wの背側表面Waに転写するまで周期的に複数回繰り返すため、前述の新規な知見を適用すると、直流電源33としてパルス電源を用いなくても、第1電極3と圧縮機動翼Wによるスラッジ(溶出物)の挟み込みを回避しつつ、第1電極3の平均送り速度(送り速度)を上げることができる。
【0037】
同様に、圧縮機動翼Wの腹側表面Wbの電解加工中に、第2電極5の送り動作と停止動作とを1サイクルとして、第2電極5の加工面5fの形状を圧縮機動翼Wの腹側表面Wbに転写するまで周期的に複数回繰り返すため、前述の新規な知見を適用すると、直流電源33としてパルス電源を用いなくても、第2電極5と圧縮機動翼Wによるスラッジの挟み込みを回避しつつ、第2電極5の平均送り速度(送り速度)を上げることができる。
【0038】
従って、本発明の実施形態によれば、ピーク電流値が1000A以上(具体的には、2000〜3000A)の大電流の供給が必要な電解加工を行う場合であっても、設備投資の増大を十分に抑えつつ、電解加工の加工時間の短縮化を図ることができる。
【0039】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限るものでなく、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【実施例】
【0040】
(第1実施例)
第1実施例について図4A、図4B、図4C(a)(b)を参照して説明する。
【0041】
図4Aに示すように、平坦な加工面を有した電極と平坦な表面を有した板状のワークを用い、電極とワークの間に電解液(硝酸ナトリウム溶液:液温26.5℃、比重1.182、液圧1.6MPa)を流通させつつかつ直流電流を供給した状態で、電極をワークに対して送る電解加工試験(電極とワークとの初期ギャップ:0.2mm、加工距離:2mm)を行い、その際に加工条件を適宜に変更した。そして、第1実施例に係る電解加工試験の結果をまとめると、表1及び図4Bに示すようになる。なお、図4Bにおいては、試験例4〜6及び比較試験例1,2の試験結果のみ表示している。
【表1】

【0042】
即ち、電極の送り動作と停止動作とを1サイクルとして周期的に繰り返す所謂間欠送りの場合には、試験例6に示すように、電極の平均送り速度を3.09mm/minに上げても、電解加工が可能であったのに対して、停止動作を含まない所謂連続送りの場合(Ta/Tが100の場合)には、比較試験例2に示すように、電極の平均送り速度を3.00mm/minに上げると、スパークが発生して電解加工ができなかったことが確認された。
【0043】
また、間欠送りの場合には、Ta/Tが75%以上であると電解加工が可能であることが確認された。但し、Ta/Tが95%越えると、1サイクルのサイクル時間Tに対する電極の停止動作の時間Tbの割合Tb/Tが小さくなりすぎて、停止動作中におけるワークの溶出によって電極とワークの距離(極間)を十分に拡げることができないことが懸念される。
【0044】
更に、間欠送りの場合は、試験例1〜6及び比較試験例1〜4に示すように、連続送りの場合に比べて、ワークの表面粗さを同等レベル以上に仕上げることができたことが確認された。なお、図4C(a)(b)に示すように、電解加工試験後の試験例6のワークの表面状態は、スラッジも付着してなく、良好であるのに対して、電解加工試験後の比較試験例2のワークの表面状態は、スラッジが付着して、不良になることが確認された。
【0045】
(第2実施例)
第2実施例について図5A、図5Bを参照して説明する。
【0046】
図5Aに示すように、側面視L字形状の加工面を有した電極と側面視L字形状の表面を有したワークを用い、電極とワークの間に電解液(硝酸ナトリウム溶液:液温26.5℃、比重1.182、液圧1.6MPa)を流通させつつかつ直流電流を供給した状態で、電極をワークに対して送る電解加工試験(直流電圧:20V、電極とワークとの初期ギャップ:0.2mm、加工距離:2mm)を行い、その際に加工条件を適宜に変更した。そして、第2実施例に係る電解加工試験の結果をまとめると、図5Bに示すようになる。
【0047】
即ち、所謂間欠送りの場合には、電極の平均送り速度を3.00mm/minに上げても、電解加工が可能であったのに対して、連続送りの場合(Ta/Tが100の場合)には、電極の平均送り速度を2.50mm/minに上げると、スパークが発生して電解加工ができなかったことが確認された。
【0048】
また、間欠送りの場合には、Ta/Tが75%以上であると電解加工が可能であることが確認された。但し、Ta/Tが95%越えると、前述と同様に、停止動作中におけるワークの溶出によって電極とワークの距離(極間)を十分に拡げることができないことが懸念される。
【符号の説明】
【0049】
W 圧縮機動翼(被加工物)
Wa 圧縮機動翼の背側表面(被加工物の表面)
Wb 圧縮機動翼の腹側表面(被加工物の表面)
S 電解液
D1 第1送り方向
D2 第2送り方向
T 1サイクルのサイクル時間
Ta 1サイクルにおける電極の送り動作の時間
Tb 1サイクルにおける電極の停止動作の時間
1 電解加工装置
3 第1電極
3f 第1電極の加工面
5 第2電極
5f 第2電極の加工面
7 加工槽
9 第1電極ホルダ
11 第2電極ホルダ
13 第1支持フレーム
15 第1サーボモータ
17 第2ボールネジ
23 第2支持フレーム
25 第2サーボモータ
27 第2ボールネジ
33 直流電源
35 溶液流通ユニット
37 タンク
39 供給配管
41 フィルタ
43 ポンプ
45 排出配管
47 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と被加工物との間に電解液を流通させかつ直流電流を供給した状態で、前記電極と前記被加工物とのギャップを維持しつつ、前記電極を前記被加工物に対して相対的に送ることにより、前記電極と前記被加工物との間に電気化学反応を起こして、前記被加工物の表面を溶出させ、前記電極の前記加工面の形状を前記被加工物の表面に転写する電解加工方法であって、
前記電極を前記被加工物に対して相対的に送る送り動作と、前記送り動作の後に前記電極を前記被加工物に対して相対的に停止する停止動作とを1サイクルとして、前記電極の加工面の形状を前記被加工物の表面に転写するまで周期的に複数回繰り返すことを特徴とする電解加工方法。
【請求項2】
前記1サイクルのサイクル時間に対する前記電極の前記送り動作の時間の割合は、75〜95%に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の電解加工方法。
【請求項3】
電極と被加工物との間に電気化学反応を起こして、前記被加工物の表面を溶出させ、前記電極の加工面の形状を前記被加工物の表面に転写する電解加工装置であって、
前記電極を前記被加工物に対して相対的に送るアクチュエータと、
前記電極と前記被加工物との間に直流電圧を印可する直流電源と、
前記電極と前記被加工物との間に電解液を流通させる溶液流通ユニットと、
前記電極を前記被加工物に対して相対的に送る送り動作と、前記送り動作の後に前記電極を前記被加工物に対して相対的に停止する停止動作とを1サイクルとして、前記電極の加工面の形状を前記被加工物の表面に転写するまで周期的に複数回繰り返すように前記アクチュエータを制御するコントローラと、
を具備したことを特徴とする電解加工装置。
【請求項4】
前記1サイクルのサイクル時間に対する前記電極の前記送り動作の時間の割合は、75〜95%に設定されていることを特徴とする請求項3に記載の電解加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2012−61547(P2012−61547A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206753(P2010−206753)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】