説明

電解沈殿銅の処理方法

【課題】電解沈殿銅から銅、ヒ素、ビスマス、アンチモン等を分離・回収するための利便性の高い方法の提供。
【解決手段】(1)電解沈殿銅を水洗した後に、硫酸酸性中の電解沈殿銅に酸素含有ガスを導入しながらAs成分を5価に酸化して硫酸浸出を行い、次いでSb及びBi成分を含有する浸出残渣と5価のAs成分を含有する硫酸浸出液に固液分離する第一工程と、(2)該硫酸浸出液に3価の鉄を添加して結晶性スコロダイトを生成させ、該結晶性スコロダイトを含有する残渣と脱砒後液とに固液分離する第二工程と、(3)該脱砒後液にアルカリを添加してFe塩を生成し、As成分をFe塩と共沈させ、次いでFe塩及びAs成分を含有する沈殿物と脱鉄後液とに固液分離する随意的な第三工程と、(4)該脱鉄後液にアルカリを添加してCu塩を沈殿させ、次いでCu塩を含有する沈殿物と脱銅後液とに固液分離する第四工程とを含む電解沈殿銅の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅の製錬工程で産出する電解沈殿銅の処理方法に関する。より詳細には、本発明は電解沈殿銅から銅、ヒ素、ビスマス、アンチモン等をそれぞれ分離・回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅鉱石中には種々の不純物が混入しており、そのような不純物としてはヒ素(As)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)等が挙げられる。これら不純物の大部分は銅製錬の乾式工程で高熱によって揮発分離されるが、一部は粗銅に混入して銅の電解精製工程へ持ち込まれることとなる。
粗銅(銅陽極)に含まれるAs、Sb、Bi等は電解液に一部溶出し、未溶出分はアノードスライムとして電解槽底部に沈殿する。また、陰極に析出する銅量よりも陽極から溶出する銅量の方が一般に多いので、電解液中の銅濃度は次第に増大する。そのため、電解液の一部を別の電解槽に抜き出して電解液の品質を制御している。抜き出した電解液に対しては脱銅電解を行い、陰極にCu及び上記不純物を析出させ、また、電解槽底部にこれらを沈殿させることでCu及び上記不純物を分離回収する。斯界では、これら電解槽底部に沈殿するものと陰極に析出するものを併せて電解沈殿銅と呼んでいる。
【0003】
電解沈殿銅は銅製錬工程に繰り返されるのが通常であるが、そのためには電解沈殿銅から不純物を分離しておくのが好ましい。また、As、Sb、Bi等は有価物として利用する道も残されている。従って、電解沈殿銅からCu、As、Sb、Bi等をそれぞれ分離・回収する技術が望まれる。
【0004】
例えば、特開2002−249827号公報には湿式法により電解沈殿銅からビスマス及びアンチモンを分離する方法が記載されている。具体的には、酸化銅及びビスマス、アンチモンを含む電解沈殿銅のアルカリ処理物を液温40〜90℃、処理時間2〜5時間、50〜200g/Lの硫酸で浸出し、銅、砒素、ニッケル等を溶出させ、ビスマスとアンチモンを残渣に残すことにより、ビスマス、アンチモンと銅等を分離している。一方、硫酸で浸出された銅、砒素、ニッケルの回収は、例えば中和処理後に銅製錬の乾式工程に繰り返すことができる旨が記載されている。
【0005】
また、特許第3212875号公報には製錬中間物からヒ素を回収する方法が記載されている。具体的には、ヒ素を含む水溶液に、銅及び銅酸化物もしくは銅又は銅酸化物を添加し、かつ、酸化によりヒ酸を生成する工程を含むヒ素の回収方法である。ヒ酸は消石灰によってヒ酸カルシウムの沈殿として回収される。
【特許文献1】特開2002−249827号公報
【特許文献2】特許第3212875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、銅製錬工程に繰り返す電解沈殿銅中に不純物が多いと乾式工程や電錬への負担増となることは避けられないことや、ヒ素についてもヒ酸カルシウムよりも長期保存に適した形態で回収することができればより望ましいといった種々の課題が未だ存在する。すなわち、従来提案されてきた電解沈殿銅の処理システムでは分離手順、回収物質の安定性、リサイクル性といった観点から最適なシステムということはできず、改良の余地が未だ存在する。
【0007】
そこで、本発明の課題の一つは電解沈殿銅から銅、ヒ素、ビスマス、アンチモン等をそれぞれ分離・回収するためのより利便性の高い方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために、電解沈殿銅の処理システムを鋭意検討したところ、一連の操作を組み合わせた以下の処理システムが予想以上に電解沈殿銅の処理に効果的であることを見出した。
すなわち、本発明は一側面において、
(1)電解沈殿銅を随意的に水洗処理した後に、硫酸酸性中の電解沈殿銅に酸素含有ガスを導入しながら、電解沈殿銅中に含まれるAs成分の90wt.%以上を5価に酸化するのに充分な液温及び時間で該溶液を撹拌することを含む硫酸浸出を行い、次いでSb成分及びBi成分を含有する浸出残渣と5価のAs成分を含有する硫酸浸出液に固液分離する第一工程と、
(2)該硫酸浸出液に3価の鉄を添加して結晶性スコロダイト(FeAsO4・2H2O)を生成させることによって、該結晶性スコロダイトを含有する残渣と脱砒後液とに固液分離する第二工程と、
(3)該脱砒後液に未反応のFe又は未反応のFe及びAsが残存している場合に、アルカリを添加してFe塩を生成し、As成分が残存している場合はAs成分をFe塩と共沈させ、次いでFe塩及びAs成分(As成分が残存している場合)を含有する沈殿物と脱鉄後液とに固液分離する随意的な第三工程と、
(4)該脱鉄後液にアルカリを添加してCu塩を沈殿させ、次いでCu塩を含有する沈殿物と脱銅後液とに固液分離する随意的な第四工程と、
を含む電解沈殿銅の処理方法である。
【0009】
本発明の一実施形態においては、第一工程における硫酸浸出は70〜95℃で4.5〜11時間撹拌することを伴う。
【0010】
本発明の一実施形態においては、第一工程における硫酸浸出は外部から加熱せずに行う。
【0011】
本発明の一実施形態においては、第一工程における酸素含有ガスは空気である。
【0012】
本発明の一実施形態においては、第一工程における酸素含有ガスの導入及び/又は撹拌はジェット噴射により行う。
【0013】
本発明の一実施形態においては、第一工程における硫酸浸出液は0.3〜2.2のpHである。
【0014】
本発明の一実施形態においては、第一工程における硫酸浸出によりAs成分は95wt.%以上が5価に酸化する。
【0015】
本発明の一実施形態においては、第二工程における結晶性スコロダイトは60〜95℃に加熱することにより生成する。
【0016】
本発明の一実施形態においては、第二工程における3価の鉄は硫酸第二鉄として提供される。
【0017】
本発明の一実施形態においては、第二工程における結晶性スコロダイトはpH0.4〜1.2で生成する。
【0018】
本発明の一実施形態においては、第三工程におけるアルカリは脱砒後液のpHが2.2〜4.0の範囲となるまで添加する。
【0019】
本発明の一実施形態においては、第四工程におけるアルカリは脱鉄後液のpHが4.0〜8.0の範囲となるまで添加する。
【0020】
本発明の一実施形態においては、第三工程及び/又は第四工程におけるアルカリは炭酸カルシウムとして提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電解沈殿銅からCu、As、Bi及びSbがそれぞれ分離・回収できる。この際、Asは安定なスコロダイトとして固定される。これは、砒酸カルシウムよりも水に対する溶解性が低く、安定で長期間保管に適した形態である。Cuは不純物が軽減された状態で銅製錬工程に戻すことができ、乾式工程や電錬の浄化能力に起因する繰り返し量の制限も大幅に軽減される。そのため、中間品としての電解沈澱銅中の銅の製錬工程内滞留時間が短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
電解沈殿銅
本発明に係る処理方法の対象原料は上で説明した通り銅製錬工程で産出される電解沈殿銅を主とするが、電解沈殿銅と実質的に同一の組成を有する物質であれば本発明に係る処理方法を適用することができる。従って、本発明でいう「電解沈殿銅」にはその起源を問わず、電解沈殿銅と実質的に同一の組成を有する化学物質も含まれることとする。例えば、電解沈殿銅はCu:30〜70wt.%、As:20〜50wt.%、Bi:0.1〜6wt.%、Sb:0.5〜8wt.%、Pb:0.1〜10wt.%等を含有するのが一般的であり、このような組成を有する物質は電解沈殿銅として本発明の処理対象となる。
【0023】
水洗処理
第一工程の前には電解沈殿銅に対して水洗処理を随意的に行ってもよい。水洗処理は電解沈殿銅を水でリパルプし、0.5〜6時間撹拌して、電解沈澱銅の製造時に付着した電解液(硫酸銅、Ni、Fe等を含む)や、電解沈殿銅に含まれる微量のNi及びFe等を溶解させた後に、スラリーをろ過し、固液分離することで実施することができる。この工程では電解沈殿銅からFe及びNiの大部分を分離することができる。
しかしながら、この操作は、電解沈澱銅中の銅量の中で、硫酸銅を排除した0価の(水に溶解しない)銅量を明らかにして、次工程で行う電解沈澱銅の硫酸浸出に必要な硫酸量をより正確に求めるために行うことを主目的とする操作である。NiやFe等の微量元素を特に気にしない場合や、硫酸銅の含有量が既知であったり電解沈澱銅への電解液の持込が少なかったりする場合は、この工程を行う必要はない。
【0024】
第一工程
第一工程では硫酸酸性中の電解沈殿銅に酸素含有ガスを導入しながら、電解沈殿銅中に含まれるAs成分の90wt.%以上を5価に酸化するのに充分な液温及び時間で該溶液を撹拌することを含む硫酸浸出を行い、次いでSb成分及びBi成分を含有する浸出残渣と5価のAs成分を含有する硫酸浸出液に固液分離する。
【0025】
このときに起きる浸出反応は一般に次式に従い、CuはCu2+まで、AsはAs+5まで酸化される。
Cu + H2SO4 + 1/2O2 → CuSO4 + H2O ・・・・ (1)
2As + 5/2O2 + 3H2O → 2H3AsO4 ・・・・ (2)
硫酸使用量は、Cu量に対し好ましくは1.0〜1.2当量である。1.0当量未満の場合浸出液が弱酸性になり、Cu3AsO4等の沈澱物が生成しCu、Asの浸出率が低下する。1.2当量を超える場合は、Cu、Asの浸出率に影響しないが、使用硫酸量が多くなる。Cu、Asの硫酸溶液中の濃度は特に制限はないが、溶解度を越えるとCu、Asの浸出率が低下するので、Cu2+、As5+の溶解度以下が好ましい。
また、硫酸浸出液のpHとしては、この後、第二工程で生成する結晶性スコロダイトの溶解度がpH0.3以下で急速に増大して、結晶性スコロダイトの生成を阻害する。さらにpH2.2以上では添加した鉄が水酸化鉄となって沈澱してしまい、鉄が有効にスコロダイトの合成に使われない。これらの理由により0.3〜2.2の範囲のpHとするのが好ましく、0.4〜1.2の範囲とするのがより好ましい。
【0026】
硫酸浸出では、例えば70〜95℃で4.5〜11時間、好ましくは80〜95℃で7〜11時間撹拌することにより確実にAsの酸化が進み、As成分の90wt.%以上、好ましくは95wt.%以上、より好ましくは98wt.%以上を5価に酸化することができる。硫酸浸出は発熱反応であるため特に外部から加熱しないで行うことも可能である。撹拌時間は更に長く行っても良く、経済性と効果との兼ね合いで適宜決定すればよい。
Asの酸化効率を高めるためには、導入する酸素含有ガスの気泡を細かくして充分な量(例えば銅に対して酸素10当量/7時間)供給した方がよい。そこで、撹拌を激しく行うのが好ましく、例えば酸素含有ガスの導入及び/又は撹拌はジェット噴射により行うのが好都合である。この値は、ジェット噴射(ジェットアジター商品名)場合であり、通常のタービン翼を用いた撹拌機の場合反応効率は低下し、酸素含有ガス量をこの3.5倍以上導入しても、2倍以上の反応時間が必要となる。この段階でAsの価数制御を行うことで、第二工程でのスコロダイト生成が容易となる。また、Cu2+もAsの酸化を促進する効果がある。
【0027】
酸素含有ガスとしては上記反応に有意な悪影響を与えない限り特に制限はないが、例えば純酸素、酸素と不活性ガスの混合物を使用することができる。取扱い性やコストの観点からは空気とするのが好ましい。
【0028】
また、電解沈殿銅からSb及びBiを効率的に分離するためには硫酸浸出液へのSb及びBiの溶解度が一定であることから、(1)硫酸浸出時の電解沈澱銅パルプ濃度を増加させる、(2)Sb及びBi品位の高い電解沈澱銅を用いること等が好ましい。電解沈殿銅から分離されたBi及びSbは更に、例えば電気炉処理により個別に分離回収可能である。
【0029】
第二工程
第二工程では、第一工程で得られた硫酸浸出液に3価の鉄を添加して結晶性スコロダイト(FeAsO4・2H2O)を生成させ、次いで該結晶性スコロダイトを含有する残渣と脱砒後液とに固液分離する。
【0030】
結晶性スコロダイトは例えば大気圧下で60〜95℃に加熱することにより生成させることができ、例えば8〜72時間反応させることにより充分な量のスコロダイトが生成する。第一工程においてAsを充分に5価まで酸化させているため、3価の鉄と高い反応効率で結晶性のスコロダイトが生成する。スコロダイトは化学的に安定であり、長期保存にも適している。
【0031】
3価の鉄としては、酸化鉄、硫酸鉄、塩化鉄等が挙げられるが、3価の鉄は水溶液中での反応を行う観点から酸性水溶液の形態で提供されるのが好ましく、脱鉄後液を電錬の電解液に戻す事が最も有効である観点から硫酸第二鉄(Fe2(SO43)の水溶液の形態で提供されるのが好ましい。また、廃水処理等で使用される、ポリ硫酸第二鉄水溶液も使用可能である。この際、該水溶液を添加した硫酸浸出液のpHが0.3〜2.2、好ましくは0.4〜1.2に維持されるようなpHとして添加するのがスコロダイト合成上の観点から有利である。第一工程においてAsを充分に5価に酸化しているため、このように低いpHでもスコロダイトが容易に生成する。また、この段階でpHを上げる必要がないために苛性ソーダ等のアルカリを添加する必要がなくなるメリットもある。従って、本発明に係る電解沈殿銅の処理方法においては、第一工程と第二工程の間で無駄のないスムーズな連携が可能となる。
【0032】
3価鉄の使用量はAsを除去するという観点からは、As量に対して1.0当量以上必要であり、経済的な観点から1.1〜1.5当量であるのが好ましい。
【0033】
第三工程
第三工程は該脱砒後液に未反応のFe又は未反応のFe及びAsが残存している場合に行う随意的な工程であり、アルカリを添加してFe塩を生成し、As成分が残存している場合にはAs成分をこれと共沈させ、次いでFe塩及びAs成分(As成分が残存している場合)を含有する沈殿物と脱鉄後液とに固液分離する。
【0034】
使用するアルカリとしては、不溶性のFe塩(Asが残存している場合にはAsを共沈させることのできる不溶性のFe塩)を生成することのできるものであれば特に制限はないが、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
反応後液を電錬の電解液に戻す事が銅製錬工程にとって最も有効であり、その点を考慮すると、電解液中のナトリウムは除去が困難なため、使用は好ましくない。一方カルシウムは、共存する硫酸と石膏を生成して、除去されるため、強い制限を受けない。この観点からアルカリとして炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等のカルシウム化合物を使用するのが好ましく、特にpHの制御が容易なことから、炭酸カルシウムが好ましい。
【0035】
アルカリは、水酸化鉄の沈澱が顕著となるpHが2.2であり、4.0を超えると銅が沈澱し易くなるため、脱砒後液のpHが2.2〜4.0の範囲となるまで添加するのがFe塩の沈殿効率やCu塩の沈殿回避の理由から好ましく、pHが3.0〜3.5の範囲となるまで添加するのがより好ましい。
【0036】
この沈殿は、硫酸で溶解させた後に第二工程に戻し、鉄源及び処理対象のAs(As成分が残存している場合)として再利用することができる。また、脱鉄後液に主として含まれるのは硫酸銅であり、不純物が少ないので、電錬の電解液としての利用が可能である。但し、脱鉄後液は更に次の第四工程によってCuを沈殿物として回収してもよい。
【0037】
第四工程
第四工程はCuを沈殿物として回収する場合に実施する随意的な工程であり、脱鉄後液にアルカリを添加してCu塩を沈殿させ、次いでCu塩を含有する沈殿物と脱銅後液とに固液分離する。濾過性を向上させる為には、例えば40〜70℃で30〜90分間加熱して沈澱を熟成することが有効である。
【0038】
使用するアルカリとしては、不溶性のCu塩を生成することのできるものであれば特に制限はないが、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。カルシウム塩を用いると石膏が混入し、沈澱中の銅品位が低下するため、沈殿物を少なくするためには、ナトリウム系のアルカリ、コストを重視するならば安価に入手できるカルシウム系のアルカリを使用するのが好ましい。
アルカリは、脱鉄後液のpHが4.0〜8.0の範囲となるまで添加するのが、Cu塩の沈殿効率やアルカリ費用、沈殿物中の銅品位、排水基準等の理由から好ましく、pHを5.0〜7.0の範囲となるまで添加するのがより好ましい。
【0039】
脱銅後液は中和に使用したカルシウム又はナトリウム及び硫酸根が主成分であり、重金属が除去されているので、一般的な総合排水として処理することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を記載するが、本発明はそれらに限定されることはない。
図1に本発明の処理フローの一態様を示す。
【0041】
電解沈澱銅の水洗処理
表1に示す組成を有する電解沈澱銅1000g(湿重量)を2000mlの水でリパルプし、4時間撹拌して、電解沈澱銅の製造時に付着した電解液(硫酸銅、ニッケル、鉄他)を溶解した後に、スラリーをろ過し、固液分離した。得られた残渣は乾燥してから第一工程に導いた。乾燥後の残渣重量は733.2gであった。Ni及びFeはほぼ完全に除去することができた。残渣の分析値もあわせて表1に示す。
【0042】
第一工程:電解沈澱銅の硫酸浸出
水洗処理を行った電解沈澱銅200g(乾重量)に98%の濃硫酸を228.6g(電解沈澱銅に含まれる銅に対して1.1当量)加え、更に水を加えて、スラリー量を2000mlとした(反応開始前pH0.07)。
700ml/分で空気を導入しながら、7時間撹拌して浸出した。空気の導入、撹拌にはジェットアジター(SHIMAZAKI社製 JET AJITER)を使用した。尚、液温は特に制御しなかったが、硫酸浸出が、発熱反応であるため、浸出開始4時間後には88℃まで液温は上昇し、その後徐々に低下し、7時間後には70℃であった。反応により、液の色は黒から青に変化した(反応終了後pH0.85)。硫酸浸出後に、浸出物をろ過し、固液分離した。残渣は、水で洗浄し、その洗浄水は、硫酸浸出液に加えた。得られた硫酸浸出液、硫酸浸出残渣の物量を表2に示す。
残渣の物量から見ると、電解沈澱銅中の87.1%のビスマスが残渣として、浸出液から除去できた。また、1.6%のヒ素、0.4%の銅しか残渣に残存していないことから、反応効率は高い。
【0043】
第二工程:スコロダイトの合成
第一工程で得られた硫酸浸出液425mlに硫酸第2鉄液(硫酸第2鉄試薬(n水塩、第2鉄含有率21.3%)43gを温水で溶解した液、硫酸浸出液に含まれるヒ素に対して第2鉄が1.45当量)225mlを加え、液量を650mlとした後、95℃まで加熱し、24時間スコロダイトの合成を行った。
硫酸浸出液と硫酸第2鉄溶液を室温で混ぜ合わせた直後は、反応は進行しないが、加熱に伴い、60℃前後でスコロダイトの沈澱が観察された。合成液のpHは反応開始前で0.63(室温)であったが、反応終了後は0.58(室温)であった。スコロダイトの合成後に、スコロダイト結晶をろ過し、固液分離した。
スコロダイト結晶は、水で洗浄し、その洗浄水は、脱砒後液に加えた。得られたスコロダイト結晶、脱砒後液の物量を表3に示す。得られたスコロダイト結晶のXRDを図2に示す。ヒ素の溶出が少なく、安定な結晶性スコロダイトが得られている。
尚、この合成によって得られたスコロダイトからのヒ素の溶出は0.2mg/L(TCLP pH5の酢酸緩衝溶液使用)であり、ヒ素が安定であることが確認された。スコロダイト結晶の物量から見ると、98.0%のヒ素がスコロダイト結晶に分配していることから、反応効率は高い。
3価のヒ素がスコロダイト合成に寄与しないことを考えれば、電解沈澱銅の硫酸浸出によって、溶解したヒ素の98%以上が5価となっていると言える。電解沈澱銅の硫酸浸出液をスコロダイト合成の原料とすることが有効であることを示した。
【0044】
第三工程:脱鉄中和
第二工程で得られた脱砒後液1370mlに炭酸カルシウム26.6g(Ca量で10.64g)を加え、pH3.48まで中和して、ヒ素および鉄は水酸化鉄として共沈させた。その後ろ過性を向上させる為に60℃、30分間加熱して沈澱を熟成した。この沈澱には、ヒ素を共沈させた水酸化鉄及び、中和の際に加えた炭酸カルシウムと硫酸根によって生成した石膏が含まれる。
この沈殿物をろ過して、固液分離した。沈殿物は水で洗浄し、その洗浄水は脱鉄後液に加えた。得られた沈殿物(以降、脱鉄泥と呼ぶ。)、脱鉄後液の物量を表4に示す。脱鉄後液からは、ヒ素は検出されず、効率よく除去されている。一方脱鉄泥中の銅は、0.3%しか分配しておらず、脱鉄後液に残存していることを示している。
なお、pH依存性を調べるためにpHを変えて脱鉄中和を行ったときの結果を図3に示す。
【0045】
第四工程:脱銅中和
第三工程で得られた脱鉄後液2315mlに炭酸カルシウム9.2g(Ca量で3.68g)を加え、pH5.59まで中和して、水酸化銅として沈澱させた。その後ろ過性を向上させる為に60℃、30分間加熱して沈澱を熟成した。この沈殿物をろ過して、固液分離した。得られた沈殿物(以降、脱銅泥と呼ぶ。)、脱銅後液の物量を表5に示す。銅は高い回収率と共に、ビスマス、ヒ素から良く分離できている。
なお、pH依存性を調べるためにpHを変えて脱銅中和を行ったときの結果を図4に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の処理フローの一態様を示す。
【図2】実施例で得られたスコロダイト結晶のXRDである。
【図3】脱鉄中和のpH依存性を表す図である。
【図4】脱銅中和のpH依存性を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)電解沈殿銅を随意的に水洗処理した後に、硫酸酸性中の電解沈殿銅に酸素含有ガスを導入しながら、電解沈殿銅中に含まれるAs成分の90wt.%以上を5価に酸化するのに充分な液温及び時間で該溶液を撹拌することを含む硫酸浸出を行い、次いでSb成分及びBi成分を含有する浸出残渣と5価のAs成分を含有する硫酸浸出液に固液分離する第一工程と、
(2)該硫酸浸出液に3価の鉄を添加して結晶性スコロダイト(FeAsO4・2H2O)を生成させることによって、該結晶性スコロダイトを含有する残渣と脱砒後液とに固液分離する第二工程と、
(3)該脱砒後液に未反応のFe又は未反応のFe及びAsが残存している場合に、アルカリを添加してFe塩を生成し、As成分が残存している場合はAs成分をFe塩と共沈させ、次いでFe塩及びAs成分(As成分が残存している場合)を含有する沈殿物と脱鉄後液とに固液分離する随意的な第三工程と、
(4)該脱鉄後液にアルカリを添加してCu塩を沈殿させ、次いでCu塩を含有する沈殿物と脱銅後液とに固液分離する随意的な第四工程と、
を含む電解沈殿銅の処理方法。
【請求項2】
第一工程における硫酸浸出は70〜95℃で4.5〜11時間撹拌することを伴う請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
第一工程における硫酸浸出は外部から加熱せずに行う請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
第一工程における酸素含有ガスは空気である請求項1〜3の何れか一項に記載の処理方法。
【請求項5】
第一工程における酸素含有ガスの導入及び/又は撹拌はジェット噴射により行う請求項1〜4の何れか一項に記載の処理方法。
【請求項6】
第一工程における硫酸浸出液は0.3〜2.2のpHである請求項1〜5の何れか一項に記載の処理方法。
【請求項7】
第一工程における硫酸浸出によりAs成分は95wt.%以上が5価に酸化する請求項1〜6の何れか一項に記載の処理方法。
【請求項8】
第二工程における結晶性スコロダイトは60〜95℃に加熱することにより生成する請求項1〜7の何れか一項に記載の処理方法。
【請求項9】
第二工程における3価の鉄は硫酸第二鉄として提供される請求項1〜8の何れか一項に記載の処理方法。
【請求項10】
第二工程における結晶性スコロダイトはpH0.4〜1.2で生成する請求項1〜9の何れか一項に記載の処理方法。
【請求項11】
第三工程におけるアルカリは脱砒後液のpHが2.2〜4.0の範囲となるまで添加する請求項1〜10の何れか一項に記載の処理方法。
【請求項12】
第四工程におけるアルカリは脱鉄後液のpHが4.0〜8.0の範囲となるまで添加する請求項1〜11の何れか一項に記載の処理方法。
【請求項13】
第三工程及び/又は第四工程におけるアルカリは炭酸カルシウムとして提供される請求項1〜12の何れか一項に記載の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−81784(P2008−81784A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262766(P2006−262766)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】