説明

露光装置用遮光板

【課題】 マスクに向かって照射される照明光を間欠的に遮光して照明光量を調節する照明光量調節手段が設けられている露光装置に用いる遮光板であって、軽量で剛性に優れ、なおかつ熱膨張が小さい露光装置用遮光板を提供する。
【解決手段】 露光装置内に配置される遮光板を、Al合金マトリックス中にSiC強化材を30〜80体積%含有する金属基複合材料により形成する。このようにして、軽量で剛性に優れ、なおかつ熱膨張が小さい露光装置用遮光板を得る。このようにすると従来の鉄により遮光板を用いた露光装置よりも高精度でリソグラフィーを行うことが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィー技術分野に属し、詳しくは、半導体集積素子の回路パターン、液晶素子の回路パターン、カラーフィルタのパターン等を被転写体に転写するのに使用されるマスクを照明するための露光装置に関するものである。さらに詳しくは、 マスクに向かって照射される照明光を間欠的に遮光して照明光量を調節する照明光量調節手段が設けられている露光装置に用いる遮光板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体集積素子等における微細な回路パターン等は、その集積度及び複雑さの度合いを増しており、回路パターンを転写する露光装置にはその微細なパターンを転写できるように露光量を微妙に調整制御することが求められている。
照明光源からの照明光量が増大すると、光路中に設けられているレンズや偏向手段等の光学部品は劣化しやすくなる。こうした問題点を解決するために、マスクに向かって照射される照明光を間欠的に遮光して照明光量を調節する照明光量調節手段を設けた露光装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図1に本発明に係わる露光装置の照明光量調節手段の概略構成図を示した。
図示した照明光量調節手段では、光源1から発せられた露光光はミラー2で反射してマスクに向かって照射される。その際に、照明光を間欠的に遮光して照明光量を調節する照明光量調節手段を経てインテグレータレンズにより集光され、その集光された露光光がステージ上に置かれたマスクと基板に転写されて、フォトリソグラフィーを行うことができる。
【0004】
ここで図示した照明光量調節手段は、本発明の遮光板3と遮光板を回転させるモーター4とからなり、モーター4の回転速度を調整することにより照明光量を調節できる。
従来から、この遮光板3には鉄などの金属が用いられてきた。
【特許文献1】特開平11−87220号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年照明光源の光量が増大する傾向にあり、遮光板は必要不可欠なものとなっている。さらにこの遮光板は光路を横切るように主に回転運動、あるいは往復運動をして遮光を行っている。露光量を微妙に調整制御するためにはこの遮光板を高速で運動させる必要がある。遮光板を高速で運動させると必然的に振動が発生する。この振動は遮光板の微妙な制御に影響するため振動は小さい方が良い。なお、振動の大きさは部材の比剛性と相関があり、比剛性が大きいほど振動の大きさは小さくなる。また、高速で運動するには部材質量は小さい方が良い。
さらに、照明光源の光量が増大すると遮光板が照明光を遮断しているときには熱を浴び、膨張する。この膨張は遮光板の微妙な制御に影響するため熱膨張は小さい方が良い。
遮光板として鉄を用いると重量が重く、精密な運動制御がしにくくなる。また、比重の小さいアルミニウムを用いると、熱膨張が大きく剛性が低いため遮光板の形状の点でやはり精密な光量制御ができなくなるという問題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、軽量で剛性に優れ、なおかつ熱膨張が小さい露光装置用遮光板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、遮光板を有する露光装置において、金属基複合材料を用いることにより部材の軽量化、低熱膨張化と高剛性化が同時に達成でき、上記課題を解決できることを見出した。
即ち本発明の目的は、下記する手段により達成される。
(1)マスクに向かって照射される照明光を間欠的に遮光して照明光量を調節する照明光量調節手段が設けられている露光装置に用いる遮光板であって、該遮光板が金属基複合材料で形成されてなることを特徴とする露光装置用遮光板。
(2)前記金属基複合材料がAl合金マトリックス中にSiC強化材が複合されたものであり、かつ、該金属基複合材料中のSiC強化材の含有率が30〜80体積%であることを特徴とする特徴とする(1)記載の露光装置用遮光板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に詳細に説明する通り、金属基複合材料を用いることにより露光装置用遮光板の軽量化、低熱膨張化と高剛性化が同時に達成することが可能となる。
したがって、半導体、液晶等の基板に高精度なフォトリソグラフィーを行うことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
本発明では、マスクに向かって照射される照明光を間欠的に遮光して照明光量を調節する照明光量調節手段が設けられている露光装置に用いる遮光板であって、該遮光板が金属基複合材料で形成されてなることを特徴とする露光装置用遮光板を提案している。(請求項1)
【0010】
金属基複合材料の熱膨張係数は、例えば、強化材がSiC、マトリックスがAl合金の複合材料においては、強化材の含有率を30〜80体積%に変更することによって、熱膨張係数を14.4〜5.0×10-6/℃の範囲で任意に設計変更できる。
【0011】
従来の露光装置用遮光板には鉄などの金属が使用されており、たとえば、炭素鋼(熱膨張係数11.7×10-6)やステンレス鋼(熱膨張係数17.3×10-6)のように熱膨張係数が大きかった。
金属基複合材料を使用すれば、熱膨張係数が小さいため、周囲が温度変化した場合であっても、寸法の変化が小さいため高精度な露光を行えるという効果がある。
【0012】
また、近年半導体露光装置に使用する投影光学系では、より高い解像度を達成するために、遮光板の自重変形量も精度ずれに影響を与えるようになってきている。
【0013】
そこで、露光装置用遮光板に金属基複合材料を用いれば、軽量化・高剛性化につながり、遮光板の変形を抑制できる。例えば、強化材がSiC、マトリックスがAl合金の金属基複合材料(構成比率SiC70体積%/Al合金30体積%)では、密度3.0g/cm3、ヤング率265GPaとなり、炭素鋼(密度7.9g/cm3、ヤング率206GPa)やステンレス鋼(密度7.9g/cm3、ヤング率210GPa)の場合と比較すると、本発明の金属基複合材料が遮光板として良好な軽量性・高剛性を有している。
さらに、金属基複合材料は、鉄と比べて放熱性の点でも優れている。例えば、強化材がSiC、マトリックスがAl合金構成比率SiC70体積%/Al合金30体積%)の複合材料(熱伝導率170W/mK)は、炭素鋼(熱伝導率59W/mK)やステンレス鋼(熱伝導率16W/mK)と比較して、放熱性に優れており好適である。
【0014】
また、本発明では、前記金属基複合材料がAl合金マトリックス中にSiC強化材が複合されたものであり、かつ、該金属基複合材料中のSiC強化材の含有率が30〜80体積%であることを特徴とする露光装置用遮光板を提案している。(請求項2)
【0015】
ここで、SiC強化材の含有率を30〜80体積%に限定したのは、SiC含有率が30体積%より少ないと、マトリックスがAl合金の複合材料ではヤング率が120GPa以下に低下し制振性が低下するため好ましくないためである。
また、SiC強化材の含有率を80体積%以下とする理由は、これよりSiC含有率が多いと緻密な金属基複合材料が得られなくなるからである。
【0016】
次に、本発明の製造方法を述べると、先ず強化材としてSiC粉末を、マトリックス金属としてAl合金を用意する。用意したSiC粉末とAl合金を慣用の方法で複合化する。
SiC粉末はAl合金との濡れ性が悪いため、複合化が困難である。これまでは高圧鋳造法や粉末冶金法などによって複合化していた。また、これら以外の製造方法として、最近米国ランクサイド社が開発した非加圧金属浸透法がある。
この方法は、SiC粉末で形成されたプリフォームに、Al合金を接触させ、窒素雰囲気中で700〜900℃の温度で加熱処理し、溶融したAl合金をプリフォーム中に浸透させる方法であるが、これは、化学反応を利用して溶融したAl合金のSiC粉末への濡れ性を改善し、機械的な加圧を行わなくてもAl合金がプリフォーム中に浸透できるという特徴を持つ。
【0017】
本発明では、慣用の複合化方法としてこの方法を採用することとした。すなわち、先ず用意したSiC粉末で30〜80体積%の充填率を有するプリフォームを形成する。プリフォームの形成方法としては、公知の方法が用いられ、例えば、SiC粉末に有機バインダーを添加し、プレスにより形成する方法や、SiC粉末に水などの溶媒を加え、フィルタープレスにより形成する方法などが挙げられる。
【0018】
次いで、得られたプリフォームをAl合金と共に窒素雰囲気中で700〜900℃の温度で加熱処理し、溶融したAl合金を非加圧でプリフォーム中に浸透させて複合材料を作製する。得られた複合材料を必要に応じて機械加工を施し露光装置用の遮光板を作製する。
以上の方法で遮光板を作製すれば、軽量であって、剛性が高く、熱膨張の小さい遮光板とすることがで、高性能の露光装置を得ることができる。
【0019】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
(実施例1)
(1)遮光板用の複合材料の作製
市販のSiC粉末(信濃電気精錬社製、平均粒径10μm)100重量部に、有機バインダーとしてPVB(ポリビニルブチラール)を5重量部添加し、これをプレスして200×200×20mmのサイズの、50体積%の充填率を有するプリフォームを形成した。得られたプリフォームをAl合金(JIS H 5202,AC8A)と共に炉内に設置し、窒素雰囲気中で800℃の温度で加熱処理してAl合金を溶融し、溶融したAl合金をプリフォーム中に非加圧で浸透させ、冷却して金属基複合材料中のSiC強化材の含有率が50体積%の複合材料を作製した。
【0020】
(2)評価
得られた複合材料の嵩密度をJIS R 1634記載の方法で求めた。また、得られた複合材料から3×4×40mmの試験片を切り出し、その試験片でヤング率を求めた。 さらに、得られた複合体から5×5×20mmの試験片を切り出し、JIS R 1618記載の方法で熱膨張係数を求めた。それらの結果を表1に示す。
【0021】
(実施例2)
SiC粉末として市販の平均粒径10μmのSiC粉末(信濃電気精錬社製)30重量%と市販の平均粒径70μmのSiC粉末(信濃電気精錬社製)60重量%を混合し、70体積%の充填率を有するプリフォームを形成した他は実施例1と同様に複合材料(金属基複合材料中のSiC強化材の含有率は70体積%である。)を作製し、評価した。その結果も表1に示す。
【0022】
(実施例3)
実施例1において、プレス圧を低くして30体積%の充填率を有するプリフォームを形成した以外は実施例1と同様に複合材料(金属基複合材料中のSiC強化材の含有率は30体積%である。)を作製し、評価した。その結果も表1に示す。
【0023】
(比較例1)
比較のために比較例1では、Al合金(JIS H 5202,AC8A 鋳造品)を実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0024】
(比較例2)
比較のために比較例2では、炭素鋼(S55C)を実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1、2および3により得られた金属基複合材料は、従来例の比較例2と比較して軽量であり、剛性も十分であり、熱膨張係数は比較例1より小さいことが分かった。また、比較例1は、従来例より比重は小さく軽いが、剛性が小さいため遮光板としては不適であることが分かった。
本発明の実施例1、2および3により得られた複合材料により露光装置用遮光板を作成し露光照度を調整したところ、照度のばらつきが約半分になった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係わる露光装置の照明光量調節手段の概略構成図である。
【符号の説明】
【0028】
1;光源
2;ミラー
3;遮光板
4;モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクに向かって照射される照明光を間欠的に遮光して照明光量を調節する照明光量調節手段が設けられている露光装置に用いる遮光板であって、該遮光板が金属基複合材料で形成されてなることを特徴とする露光装置用遮光板。
【請求項2】
前記金属基複合材料がAl合金マトリックス中にSiC強化材が複合されたものであり、かつ、該金属基複合材料中のSiC強化材の含有率が30〜80体積%であることを特徴とする請求項1記載の露光装置用遮光板。

【図1】
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