青い花作出のための花弁細胞青色化法
【課題】植物における特定の部位を青色化するための新たな技術を提供する。
【解決手段】本発明者らは、青色の花底部で特異的に発現している青色化遺伝子を同定、単離し、この遺伝子を発現させることによってチューリップの花弁の青色化が達成できることを発見した。本発明によって、チューリップがもつ青色化遺伝子を紫色の細胞で発現させることを特徴とする花弁細胞の青色化方法が提供される。本発明はまた、青色化遺伝子と人為的に構築したフェリチン抑制遺伝子を紫色細胞で発現させることを特徴とする花弁細胞の青色化方法も提供する。本発明は、本発明の花弁細胞の青色化方法における使用に有用な花弁特異的プロモーターもまた、提供する。
【解決手段】本発明者らは、青色の花底部で特異的に発現している青色化遺伝子を同定、単離し、この遺伝子を発現させることによってチューリップの花弁の青色化が達成できることを発見した。本発明によって、チューリップがもつ青色化遺伝子を紫色の細胞で発現させることを特徴とする花弁細胞の青色化方法が提供される。本発明はまた、青色化遺伝子と人為的に構築したフェリチン抑制遺伝子を紫色細胞で発現させることを特徴とする花弁細胞の青色化方法も提供する。本発明は、本発明の花弁細胞の青色化方法における使用に有用な花弁特異的プロモーターもまた、提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の花色改変法に関する。詳しくは、チューリップの青色化遺伝子を紫色の細胞で発現させることにより青色に改変する方法に関するものである。また、内在性のフェリチン遺伝子の発現を抑制しかつ青色化遺伝子を発現させることにより、より濃い青色に改変する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
花色は花卉園芸作物において最も重要な形質の一つであり、古くから様々な改良がなされてきた。花色の成分は、主にアントシアニン、カロテノイド、ベタレインがあり、多くの植物がもつ赤色、橙色、紫色はアントシアニンに由来している。アントシアニンは化学構造上母核となるアントシアニジンに糖が結合したものであり、植物種により糖の種類が異なり、さらにはアシル化などの修飾を受ける。アントシアニジンは主にペラルゴニジン(橙色)、シアニジン(赤色)、デルフィニジン(紫色)の3種類が存在し、B環の水酸基の数がそれぞれ1個〜3個と変化するに従い色調が変化する。
【0003】
青色の花の多くはデルフィニジン色素を持つことが知られているが、アントシアニンが局在する植物細胞内の液胞は一般に弱酸性であり、弱酸性下ではデルフィニジンは紫色を示すことが実験的に確かめられている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。そのため青色を呈するためには植物種に特有のメカニズムが存在している。例えば、液胞内pHのアルカリ性化(アサガオ)、金属イオンによる錯体形成(アジサイ、ツユクサ)
、フラボンやフラボノールによるコピグメント効果(キキョウ)などがある。
【0004】
これまで、青色がない植物、特にデルフィニジン色素を持たない植物において新たに青色の花を作出する目的で、切り花に着色剤を吸わせて青くする方法や遺伝子組換え技術を使って、他の植物由来のデルフィニジン合成酵素遺伝子(フラボノイド3’,5’水酸化酵素遺伝子)を導入した遺伝子組換え体を作る試みがなされてきた(非特許文献4;非特許文献5)。例えば、これまで育成された遺伝子組換え技術によって花色が改変されたバラやカーネーション(いわゆる青いバラや青いカーネーション)は、他の植物由来のフラボノイド3’,5’水酸化酵素遺伝子を導入しデルフィニジン色素を新たに作らせることに成功したものである。しかし、花色は青色と紫色の中間色を呈しており、明確に青色と呼べるまでには至っていない。
【0005】
チューリップ花弁の色素としては、ペラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジンをそれぞれ母核とするアントシアニンが存在している(非特許文献6;非特許文献7)。さらに、本発明者らの解析により11種類のフラボノールが存在することも判明している(非特許文献8)。チューリップの花色は主にアントシアニンによる橙色、赤色、紫色およびカロテノイドによる黄色であり、これらが組み合わされて様々な色を呈している。しかしながら、花弁全体が青色の花は存在しない。
【0006】
ところが、チューリップでは花弁内側の底の部分(花底部)が青い品種がいくつか存在している。この花底部に特異的な青色発現は古くから知られ、チューリップの野生種でも見られる現象である。チューリップの育種は16世紀から始まった(非特許文献9)が、その当時から花底部の青色を花弁全体に広げようとする試みがなされてきた。しかしながら、当業者の長年の努力にも関わらず、チューリップ花弁の青色化は未だ実現していない。それは、花底部と花弁上部では未知の異なった生理的メカニズムが存在していることを暗示している。そこで、我々は生理的に何が違うのかを解析したところ、花底部の細胞の液胞内では鉄イオンが花弁上部より約25倍多く含まれており、デルフィニジンと鉄イオンとフラボノールが錯体を形成することで青色を呈することを見出し報告している(非特許文献10)。しかしながら、ツユクサでは鉄イオンとマグネシウムイオンで青色になることが示されており(非特許文献11)、またヤグルマギクでは青色色素の結晶のX線解析から鉄イオンとカルシウムイオンが必要であることが示されている(非特許文献12)ことから、チューリップ花弁の青色化には鉄イオンのみならず、他の複数の因子が関与していると考えられていた。
【0007】
植物において、鉄は生長に不可欠な必須元素であると同時に、鉄は生物体内でヒドロキシラジカルと呼ばれる強力は酸化性物質発生の原因となるため、鉄の過剰な吸収は植物にとって毒性を示すことが知られている(非特許文献13)。そのため、植物体内への吸収や細胞内の濃度は厳密に調節されていることが分かっている。しかしながら、そのメカニズムについては未だ十分には解明されておらず不明な点が多い。現在、モデル植物であるシロイヌナズナやイネでの研究から、土壌中の鉄イオン吸収や植物体内での輸送に関わる遺伝子やタンパク質の解明が進められつつある。このような遺伝子の例として、シロイヌナズナにおけるVIT1遺伝子が挙げられる(非特許文献14)。非特許文献2においては、VIT遺伝子は、種子や芽生えの子葉維管束での発現が最も高いことが示されている。しかしながら、VIT1遺伝子導入により酵母CCC1遺伝子(VIT遺伝子のオルソログ)ノックアウト変異体では液胞への鉄イオン蓄積が3倍上昇したが、シロイヌナズナVIT遺伝子ノックアウト変異体では野性型と比較して種子や子葉での鉄含量に差が見られないことから、鉄イオン濃度の調節はまだまだ未解明の部分が多い。さらに、シロイヌナズナにおいて液胞内から細胞質側へ鉄イオン、マンガンイオン、カドミウムイオンを輸送するトランスポーター(AtNRAMP2,3)等(非特許文献15)、鉄イオンのホメオスタシスには多数の因子が関連することが明らかであった。これらの事実から、液胞内の鉄イオンレベルの人為的調節は到底不可能であると考えられていた(非特許文献16)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Goto,T.,Prog.Chem.Org..Nat.Products 52:113−158,1987
【非特許文献2】Brouillard,R.,In The Flavoids:Advance in Research since 1980,pp.525−538,1988
【非特許文献3】Yoshida,K.,et al.,Plant Cell Physiol.44:262−268,2003
【非特許文献4】Fukui,Y.,et al.,Phytochemistry 63:15−23,2003
【非特許文献5】Katsumoto,Y.,et al.,Plant Cell Physiol.,48:1589−1600,2007
【非特許文献6】Torskangerpoll,K.,et al.,Phytochemistry 52:1687−1692,1999
【非特許文献7】Torskangepoll,K.,et al.,Biochem.Syst.Ecol.33:499−510,2005
【非特許文献8】荘司、他,園芸学研究 6,別(2):310,2007
【非特許文献9】チューリップ・鬱金香 木村敬助著 農文協
【非特許文献10】荘司 和明ら,「Perianth Bottom−Specific Blue Color Development in Tulip cv. Murasakizuisho Requires Ferric Irons」,Plant Cell Physiol.48(2):243−251(2007)
【非特許文献11】Kondo,T.,et al.,Nature 358:515−518,1992
【非特許文献12】Shiono,M.,et al.,Nature 436:791,2005
【非特許文献13】Curie,C.,and Briat,J−F.,Annu.Rev.Plant Biol.54:183−206,2003
【非特許文献14】Sun A.Kimら,「Localization of Iron in Arabidopsis Seed Requires the Vacuolar Membrane Transporter VIT1」,Science,Vol314,2006年11月24日
【非特許文献15】Thomine, S., et al., Plant J. 34: 685−695, 2003
【非特許文献16】Briat,J−F.,et al.,Current Opinion in Plant Biology 2007,10:276−285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このことから、植物における特定の部位を青色化するための新たな技術の開発が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、青色の花底部で特異的に発現している青色化遺伝子を同定、単離し、この遺伝子を発現させることによってチューリップの花弁の青色化が達成できることを予想外に発見し、本発明を完成させた。本発明者らはさらに、チューリップの青色化に関連している別の遺伝子であるフェリチン遺伝子をも同定、単離し、その発現様式を解析することによって、青色化遺伝子とフェリチン遺伝子の発現をコントロールすることによってさらに濃い青色化が達成できることも発見した。上述のように、チューリップの青色発現には鉄イオンを含むいくつかの因子が関与していると考えられていたという事実、および液胞内の鉄イオンレベルの人為的調節は到底不可能であると考えられていたという事実に鑑みると、本願発明によって達成されたチューリップの花弁の青色化という効果は、当業者が容易に想到し得なかった顕著な効果である。本願発明は、当業者が16世紀から試みていたチューリップ花弁の青色化を実現したものであり、この効果はまさに予想外であった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
青色化した植物体作出のための植物細胞の作製方法であって、その植物細胞に、以下:
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
からなる群より選択される核酸を導入する工程を包含し、その核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、方法。
(項目2)
青色化した植物体の作出方法であって、以下:
(i)植物細胞に、以下:
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
からなる群より選択される核酸を導入する工程であって、その核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、工程、ならびに
(ii)工程(i)で作製したその植物細胞から植物体を再生する工程、
を包含する、方法。
(項目3)
青色化した植物体作出のための植物細胞の作製方法であって、その植物細胞に、以下(1)の核酸および(2)の核酸:
(1)以下、(a)〜(d)からなる群から選択される核酸、
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
(2)以下(e)〜(h)からなる群から選択される核酸の発現量を低下させる核酸、
(e)配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(f)配列番号3に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(g)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(h)配列番号4に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
を導入する工程を包含し、その核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、方法。
(項目4)
青色化した植物体の作出方法であって、以下:
(i)植物細胞に、以下(1)の核酸および(2)の核酸:
(1)以下、(a)〜(d)からなる群から選択される核酸、
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
(2)以下(e)〜(h)からなる群から選択される核酸の発現量を低下させる核酸、
(e)配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(f)配列番号3に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(g)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(h)配列番号4に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
を導入する工程であって、その核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、工程、ならびに
(ii)工程(i)で作製したその植物細胞から植物体を再生する工程、
を包含する、方法。
(項目5)
上記花弁特異的プロモーターが、配列番号15の塩基配列を有するMyb転写因子遺伝子プロモーターである、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
(項目6)
上記花弁特異的プロモーターが、配列番号16の塩基配列を有するアントシアニジン合成酵素遺伝子プロモーターである、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)
上記植物体が青色の花弁を有する、項目2または4のいずれか1項に記載の方法。
(項目8)
上記植物がチューリップである、項目1〜7のいずれか1項に記載の方法。
(項目9)
上記チューリップが、紫水晶、夢の紫、プリンスチャールズ、ネグリタ、コートダジュール、ネプチューン、ブルージム、パープルパレス、パープルワールド、パープルフラッグ、ルーブル、ブルーパーロット、アメジスト、カラベラ、パープルマーベル、パンディオン、フランスハルス、アテラ、プリンスチャールズ、紫帽子、およびレリアンスからなる群より選択される、項目8に記載の方法。
(項目10)
青色の花弁を有する植物であって、項目2または4〜6のいずれか1項に記載の方法によって作出された植物。
(項目11)
上記植物がチューリップである、項目10に記載の植物。
(項目12)
上記チューリップが、紫水晶、夢の紫、プリンスチャールズ、ネグリタ、コートダジュール、ネプチューン、ブルージム、パープルパレス、パープルワールド、パープルフラッグ、ルーブル、ブルーパーロット、アメジスト、カラベラ、パープルマーベル、パンディオン、フランスハルス、アテラ、プリンスチャールズ、紫帽子、およびレリアンスからなる群より選択される、項目11に記載の植物。
(項目13)
青色化した植物体作出のための植物細胞であって、項目1、3、5または6のいずれか1項に記載の方法によって作製された、細胞。
(項目14)
配列番号15の塩基配列を有する、核酸。
(項目15)
配列番号16の塩基配列を有する、核酸。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、植物における特定の部位を青色化するための新たな技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、チューリップ品種「紫水晶」の花色およびアントシアニン色素を示す。(a)に示されるように花弁全体は紫色であるが、(b)に示されるように、花底部のみ青色を示す。図1(c)は、この紫色および青色の基となるデルフィニジン3−O−ルチノシド色素の構造を示す。
【図2】図2は、チューリップの花底部から単離された青色化遺伝子の核酸配列(上段;配列番号1)、およびその核酸配列によってコードされるアミノ酸配列(下段;配列番号2)を示す。
【図3】図3は、細胞の青色化に影響を及ぼすチューリップフェリチン遺伝子の核酸配列(上段;配列番号3)およびアミノ酸配列(下段;配列番号4)を示す。遺伝子導入の際には、この遺伝子を改良した抑制遺伝子を用いる。
【図4】図4は、青色化遺伝子およびフェリチン遺伝子の花弁発達過程での発現解析の結果を示す。図4(a)は紫水晶の発達過程における、抱芽期から老化期まで6 stageを示す。図4(b)は、各stageにおける青色化遺伝子の発現を示し、図4(c)は、各stageにおけるフェリチン遺伝子の発現を示す。(b)および(c)における発現は、リアルタイムRT−PCR法によって定量化した。
【図5】図5は、紫水晶の各組織における(a)青色化遺伝子の、(b)フェリチン遺伝子の、発現解析結果を示す。
【図6】図6は、紫水晶以外の他品種における発現解析結果を示す。図6(a)の上段は花底部が青い品種であり、下段は花底部が青くない品種である(いずれも発育stage4のもの)。図6(b)は各品種における青色化遺伝子の発現解析を示し、図6(c)は各品種におけるフェリチン遺伝子の発現解析を示す。
【図7】図7は、本発明において使用される遺伝子導入ベクターを示す。KmR:カナマイシン耐性遺伝子、GFP:緑色蛍光タンパク質遺伝子、TgVIT−A1:チューリップ青色化遺伝子、TgFER1:チューリップフェリチン遺伝子、TgFER1−RNAi:チューリッップフェリチン抑制遺伝子、PNOS:ノパリン合成酵素遺伝子プロモーター、TNOS:ノパリン合成酵素遺伝子ターミネーター、P35S:カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター。
【図8】図8は、図7に示される各遺伝子導入ベクターの導入による、紫色花弁細胞への遺伝子導入結果を示す。遺伝子導入細胞を矢印で示す(写真左)。導入細胞はGFPにより蛍光を発する(写真右)。pBI−BCFは青色化遺伝子導入用ベクターを、pBI−anti−BCFは青色化遺伝子のアンチセンス遺伝子導入用ベクター)を、pBI−FERはフェリチン遺伝子の導入用ベクターを、pBI−FER−RNAiはフェリチンの抑制遺伝子導入用ベクターを、そしてpBI−BCF−FER−RNAiは青色化遺伝子およびフェリチン抑制遺伝子導入用ベクターをそれぞれ示す。
【図9】図9は、フェリチン抑制遺伝子の配列を示す。この配列は、フェリチンcDNAの292−547bpの部分(大文字部分)を含み、間にArabidopsis thaliana WRKY33 gene由来のイントロンとベクターの配列(小文字部分)が挟まれている(配列番号14)。
【図10】図10は、青色化遺伝子導入ベクターpBI−BCFを導入して2日目、2週間目、および3週間目の、カルスの細胞増殖およびGFP蛍光の様子を示す。
【図11】図11は、MYB遺伝子およびANS遺伝子の、種々の組織における発現を示す。対照として、細胞内で恒常的に発現しているGAPDH遺伝子を用いた。
【図12】図12は、花弁特異的プロモーターであるMYB遺伝子プロモーターの塩基配列(配列番号15)を示す。
【図13】図13は、花弁特異的プロモーターであるANS遺伝子プロモーターの塩基配列(配列番号16)を示す。
【図14】図14は、MYB遺伝子プロモーターまたはANS遺伝子プロモーターと、青色化遺伝子(VIT遺伝子)とを繋いで作製された、青色化遺伝子導入用ベクターを示す。青色化遺伝子が導入された紫色細胞において、紫色から青色への細胞の色の変化が観察された。
【図15】図15は、花弁特異的プロモーターのプロモーター活性の確認を示す。
【図16】図16は、花弁特異的プロモーターと青色化遺伝子(VIT遺伝子)とを繋いだベクター(pBT−1またはpBT−11)導入後のカルスの再分化の様子を示す。遺伝子導入されたシュートまたはその一部(丸枠)で、GFP蛍光を確認できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
チューリップには青い花は存在しないが、花底が青い品種は存在している。品種「紫水晶」は、花弁全体が紫色で花底部のみ青色を示す。色素分析の結果、アントシアニン色素は共にデルフィニジンを母核とする同一色素(デルフィニジン3−O−ルチノシド)である(図1)。
【0015】
本発明において、チューリップ「紫水晶」の花弁上部と花底部で発現している遺伝子の解析を網羅的に比較した結果、花底部で特異的に発現している遺伝子の存在を確認し、この遺伝子を青色化遺伝子(配列番号1)と名付けた(図2)。この遺伝子は既知の液胞型鉄イオントランスポーター遺伝子と相同性が高いが、花弁細胞で発現し花色を改変できる機能を持つ新たな遺伝子と言える。
【0016】
さらに、本発明者らは、動物や植物において鉄イオンの貯蔵タンパク質と知られるフェリチンタンパク質に着目し、同じチューリップ花弁の上部からフェリチン遺伝子(配列番号3)を単離した(図3)。これら遺伝子の花弁上部と花底部での発現を花の発育ステージ毎に比較したところ、青色化遺伝子はstage 1〜3で花底部の表皮細胞で強く発現し花弁上部では発現せず、フェリチン遺伝子はstage 4の花弁上部表皮細胞で強く発現し花底部では発現していないことを見出した(図4)。
【0017】
すなわち、青色化遺伝子とフェリチン遺伝子は花弁の紫色細胞と花底の青色細胞では全く逆の発現パターンを示すことを明らかにした。この様な事実はこれまで他の植物においても報告例は無く新たな発見である。理論に束縛されることは意図しないが、これらの事実から、青色細胞では青色化遺伝子が発現しフェリチン遺伝子の発現が抑制されることにより細胞内の鉄イオンは液胞内へ運ばれ、そこでデルフィニジン色素と結合し錯体を形成するために青色を呈するが、一方、紫色細胞ではフェリチン遺伝子が発現し青色化遺伝子の発現が抑制されることにより細胞内の鉄イオンはフェリチンが存在する色素体に運ばれ液胞内へは運ばれないためデルフィニジン色素は紫色を呈することが論理的に推察できた。また、それぞれの遺伝子発現を他の組織でも調べたところ、青色化遺伝子は花底部表皮細胞で最も強く発現していること。また、フェリチン遺伝子も花弁柔組織や茎で発現するものの花弁上部表皮組織で最も強く発現した(図5)。これらの事実は、これらの遺伝子が花色発現と密接な関係を持っていることを強く示唆している。
【0018】
さらに、上記推論をより強固にするため、紫水晶以外の品種で花底部が青い品種と青くない品種で比較したところ、花底部が青い品種すべてにおいて、紫水晶と同様の結果を得たことから花底部における青色発現には、青色化遺伝子の発現とフェリチン遺伝子の発現抑制が関与していることがここでも強く示唆された(図6)。
【0019】
そこで、花弁上部の紫色細胞へ実際に青色化遺伝子を導入するため遺伝子導入用ベクターを構築した(図7)。ここでは、青色化遺伝子発現用ベクター(pBI−BCF)、青色化遺伝子のアンチセンスベクター(pBI−antiBCF)、フェリチン発現用ベクター(pBI−FER)、フェリチン遺伝子抑制用ベクター(pBI−FER−RNAi)、青色化遺伝子発現およびフェリチン遺伝子抑制用ベクター(pBI−BCF−FER−RNAi)を作成した。これらのベクターを花弁上部の紫色細胞へ導入したところ、青色化遺伝子の導入で紫色細胞が青色に変化することを確認した(図8)。さらに、紫色細胞内で発現しているフェリチン遺伝子の発現を抑制するため、RNA干渉技術を使って人為的に構築したフェリチン抑制遺伝子を同時に導入(pBI−BCF−FER−RNAi)すると、実際の花底部の青色に近い濃い青色に改変できることを実証した(図8)。
【0020】
以下に本発明を、必要に応じて、添付の図面を参照して例示の実施例により記載する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0021】
以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきではない。本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは、当業者に明らかである。
【0022】
本明細書において用いられる「植物」とは、植物界に属する生物の総称であり、葉緑体、硬い細胞壁、豊富な永続性の胚的組織の存在、および運動する能力がない生物により特徴付けられる。植物の種類は、例えば、「原色牧野植物大図鑑」(北隆館(1982))などにおいて広範に分類されており、そこに記載されるすべての種類の植物が、本発明において使用され得る。代表的には、植物は、細胞壁の形成・葉緑体による同化作用をもつ顕花植物をいう。「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。単子葉植物としては、ユリ科植物が挙げられる。好ましい単子葉植物としては、チューリップ、ユリ、トウモロコシ、コムギ、イネ、エンバク、オオムギ、ソルガム、ライムギ及びアワが挙げられ、さらに好ましくはチューリップであるが、これらに限定されない。双子葉植物としては、アブラナ科植物、マメ科植物、ナス科植物、ウリ科植物、ヒルガオ科植物が挙げられるが、これらに限定されない。アブラナ科植物としては、ハクサイ、ナタネ、キャベツ、カリフラワーが挙げられるが、これらに限定されない。特に他で示さない限り、植物は、植物体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも意味する。植物器官の例としては、根、葉、茎、および花などが挙げられる。特定の実施形態では、植物は、植物体を意味し得る。本発明において特に好ましい植物はチューリップであり、中でもデルフィニジン色素を作り、かつフェリチンを多く発現している品種(例えば、紫水晶、夢の紫、プリンスチャールズ、ネグリタ、コートダジュール、ネプチューン、ブルージム、パープルパレス、パープルワールド、パープルフラッグ、ルーブル、ブルーパーロット、アメジスト、カラベラ、パープルマーベル、パンディオン、フランスハルス、アテラ、プリンスチャールズ、紫帽子、およびレリアンスなどが挙げられるが、これらに限定されない)が好ましい。
【0023】
別の実施形態において、本発明において使用され得る植物種の例としては、ユリ科、ナス科、イネ科、アブラナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、シソ科、アカザ科、セリ科、ヒルガオ科、キク科などの植物が挙げられる。さらに、本発明において使用され得る植物種の例としては、任意の樹木種、任意の果樹種、クワ科植物(例えば、ゴム)、およびアオイ科植物(例えば、綿花)が挙げられる。
【0024】
ユリ科の植物の例としては、ユリ、オモト、バイモ、カタクリに属する植物が挙げられ、例えば、チューリップ、エンレイソウなどを含む。本発明において特に好ましい植物はチューリップであり、中でも紫水晶、夢の紫、プリンスチャールズ、ネグリタ、コートダジュール、ネプチューン、ブルージム、パープルパレス、パープルワールド、パープルフラッグ、ルーブル、ブルーパーロット、アメジスト、カラベラ、パープルマーベル、パンディオン、フランスハルス、アテラ、プリンスチャールズ、紫帽子、およびレリアンスなど(しかし、これらに限定されない)が好ましい。
【0025】
本明細書において用いられる「植物細胞」とは、上記植物に由来し、再生能を有する任意の細胞をいう。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。
【0026】
本明細書中において使用される「再生能」とは、個体または器官の一部(例えば、細胞)から、元の個体または器官を再生する能力をいう。本発明において「再生能を有する細胞」とは、カルスまたは不定胚などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本明細書において使用される用語「細胞」とは、任意の植物または動物由来であって、自己複製能と分化能とを有する、未分化で幼若な任意の細胞を指し、カルスも含まれる。
【0028】
本発明の方法は、植物細胞(カルスおよび懸濁培養細胞を含む)または植物組織(休眠組織(完熟種子、未熟種子、冬芽、および塊茎を含む)、生殖質、生長点、および花芽を含む)に対して、例えばパーティクルガン、アグロバクテリウム、エレクトロポレーション等の遺伝子導入法によって形質転換を行うことによって実施される。本発明の方法は、好ましくは植物を対象に実施される。
【0029】
本明細書において使用する場合、用語「鉄イオン輸送活性」とは、植物(特に、チューリップ)において液胞に鉄イオンを輸送する活性のことをいう。鉄イオン輸送活性は、例えば、鉄の放射性同位元素59Feを含む水溶液を切り花に吸収させ、液胞内の59Feの取り込みを指標として測定する。あるいは、鉄イオン輸送活性は、導入遺伝子による耐性獲得を指標として、測定することができる。酵母の培養において鉄を含有する培地で鉄感受性変異株を培養すると、変異株は液胞内に鉄を輸送できないので鉄の毒性により致死性を示す。しかし、鉄イオン輸送活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を導入した組換え酵母は、液胞内への鉄輸送活性を持つので鉄は液胞内に蓄積され無毒化するため鉄耐性を示す。本発明において、鉄イオン輸送活性を有する代表的なタンパク質は青色化遺伝子であり、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1に記載の核酸によってコードされるタンパク質である。
【0030】
本明細書において使用する場合、用語「鉄イオン貯蔵活性」とは、植物(特に、チューリップ)においてタンパク質内に鉄イオンを貯蔵する活性のことをいう。鉄イオン貯蔵活性は、例えば以下のように測定することができる。鉄貯蔵が予想されるタンパク質の遺伝子を大腸菌内で発現させ組換えタンパク質を作る。この時、培地中に鉄の合成安定同位体57Feを既知濃度加えておく。作られた組換えタンパク質を精製後、同位体希釈−質量分析法により自然界に最も多く存在する56Feと同位体57Feの比を求める。添加した57Feの量はわかっているので、それから56Fe量が求められる。鉄イオン貯蔵活性があれば精製タンパク質において鉄イオンが検出可能される。あるいは、原始吸光法またはICP法によっても鉄濃度は測定できる。本発明において、鉄イオン貯蔵活性を有する代表的なタンパク質はフェリチンであり、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号3に記載の核酸によってコードされるタンパク質である。本明細書において使用する場合、タンパク質における鉄イオンの「貯蔵」とは、その内部の空洞に鉄イオンを取り込むことをいう。
【0031】
「フェリチン」とは、鉄を含む複合タンパク質の一つである。フェリチンは水溶性タンパク質であり、動物、植物からバクテリアまで広く生体内に存在している。フェリチンは直径約13nmの球殻状タンパク質で、内部に7nmの空洞を持つ。内部の空洞に金属イオンを取り込み、酸化物のコアを形成することができる。生体内ではこの空洞内に鉄を酸化物の形で取り込むことができ、体内の鉄の無毒化や鉄濃度のコントロールの役割を担っている。コアの大きさは内壁の大きさに制限され最大でも7nmである。これは鉄原子4500個分に相当する。鉄以外の金属としてマンガン、コバルト、ニッケル、クロム、インジウムなどがフェリチン内に取り込まれ、コア形成をすることが報告されている。
【0032】
本明細書で使用される場合、「青色化した植物体」とは、その植物体の少なくとも一部(例えば、その植物体の花弁、茎、葉などが挙げられるが、これらに限定されない)が青色化した任意の植物体をいい、その植物体全体が青色化しているものに必ずしも限定されない。「青色化した植物体」における青色化部位は、好ましくは花弁である。「青色化した植物体」における植物体は、好ましくはチューリップである。
【0033】
本明細書で使用される場合、「青色化した植物体作出のための植物細胞」とは、その植物細胞から植物体を再生させたときに、再生した植物体の少なくとも一部が青色化しているような植物細胞をいう。ある実施形態においては、この植物細胞全体が青色化している。ある実施形態においては、この植物細胞の一部のみが青色化している。ある実施形態においては、この植物細胞自体は青色化していない。
【0034】
本発明において、植物体における色は、一般に色を数値として表すCIEL*a*b*表色系による色彩値を指標として判断される。CIEL*a*b*表色系による色彩値は、実体顕微鏡で白色光照明下で得られる画像のCIEL*a*b*値によって表される。CIEL*a*b*表色系では、L軸、a軸、およびb軸の3次元で色を表す。明度をL軸上で0(黒)から100(白)で表し、a軸上では赤が正、緑が負、b軸上では黄が正、青が負を表す。CIEL*a*b*は、赤、緑、黄、青を数値化し、その組み合わせによって色を表現し、さらに明るさの要素も付け加えられる。CIEL*a*b*による色の表現はほぼ無限に存在するといえる。また、色は連続的につながっており、例えば、赤から紫、青、緑に至る変化においても明瞭に区別できるものではなく、必ずその中間色は存在する。本発明では便宜上、以下のとおり紫色および青色、濃い青色の範囲を指定するがこの範囲に収まらない色も存在することは明白である。
紫色 20≦L*≦80, 40≦a*≦90, −50<b*≦−10
青色 20≦L*≦80, −8≦a*≦90, −107≦b*≦−50
濃い青色 5≦L*<20, −8≦a*≦90, −107≦b*≦−50。
【0035】
本明細書において使用する場合、用語「形質転換」、「形質導入」および「トランスフェクション」は、特に言及しない限り互換可能に使用され、宿主細胞への核酸の導入を意味する。本発明においては、パーティクルガン、アグロバクテリウム、エレクトロポレーション等の遺伝子導入法による形質転換が使用される。
【0036】
「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、原核細胞、酵母、植物細胞、植物体、動物細胞、昆虫細胞等が例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。本明細書においては、代表的に、形質転換体は植物細胞または植物体である。
【0037】
本明細書において「再生する」とは、個体の一部分から個体全体が復元される現象を意味する。例えば、再生により、カルスやプロトプラストなどの細胞および葉または根などの組織片から植物体が形成される。
【0038】
形質転換体(例えば、形質転換された植物細胞)を植物体へと再生する方法は当該分野において周知である。そのような方法としては、Rogers et al.,Methods in Enzymology 118: 627−640(1986);Tabata et al.,Plant Cell Physiol.,28:73−82(1987);Shaw,Plant Molecular Biology:A practical approach.IRL press(1988);Shimamoto et al.,Nature 338: 274(1989);Maliga et
al.,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course. Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995);Hiei et al.,Plant
Mol Biol 35:205(1997);Toki et al.,Plant
J 47:969 (2006)などが挙げられる。従って、当業者は、上記当該分野で周知の方法を目的とするトランスジェニック植物に応じて適宜使用することによって、形質転換体(例えば、形質転換された植物細胞)を再生させることができる。チューリップは、例えば、球根りん片を厚さ2〜3mmにスライスし、これをMurashige−Skoog培地(ショ糖20g/L、2,4−D 2mg/L、BA 0.2mg/L)にて、20℃でカルス誘導し、これに目的の遺伝子を導入し、Murashige−Skoog培地(ショ糖20g/L、2,4−D 0.2mg/L)にて、20℃、光照射下で、シュートを誘導することによって再生させることができる。
【0039】
本発明の方法により核酸導入/形質転換された細胞および組織は、当該分野において公知の任意の方法によって、分化、成長および/または増殖され得る。植物種の場合、細胞または組織を分化、成長および/または増殖させる工程は、例えば、その植物細胞もしくは植物組織またはそれらを含む植物体を栽培することによって達成され得る。本明細書では、植物の栽培は当該分野において公知の任意の方法により行うことができる。植物の栽培方法は、例えば、監修 島本功および岡田清,「モデル植物の実験プロトコール−イネ・シロイヌナズナ編−」:細胞工学別冊植物細胞工学シリーズ4;イネの栽培法(奥野員敏)pp.28−32、ならびに、丹羽康夫著,シロイヌナズナの栽培法,pp.33−40に例示されており、当業者であれば容易に実施することができることから本明細書では詳述する必要はない。例えば、シロイヌナズナの栽培は土耕、ロックウール耕、水耕いずれでも行うことができる。白色蛍光灯(6000ルクス程度)の下、恒明条件で栽培すれば播種後4週間程度で最初の花が咲き、開花後16日程度で種子が完熟する。1さやで約40〜50粒の種子が得られ、播種後2〜3ケ月で枯死するまでの間に10000粒程度の種子が得られる。また、例えば、コムギの栽培においては、播種後に一定期間の低温短日条件にさらされなければ、出穂および開花しないことが周知である。従って、例えば、人工環境下(例えば、温室やグロスチャンバー)においてコムギを栽培する場合には、生育初期段階で、コムギ幼植物に低温短日処理(例えば、20℃ 明期8時間(約2000ルクス)および8℃ 暗期16時間での処理など)を行う必要がある。この処理は春化処理(vernalization)と呼ばれる。このような各植物種ごとに必要とされる栽培条件は、当該分野において一般に広く知られており、従って、本明細書中で詳述する必要はない。例えば、チューリップは、20℃で、明期12時間、暗期12時間のサイクルで栽培される。
【0040】
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。
【0041】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
【0042】
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子である、細胞中に存在する核酸の一定の長さの配列をいう。本発明において遺伝子は、遺伝形質を規定するものであっても規定しないものであってもよい。本明細書において、遺伝子は、通常ゲノムに存在するものをさすが、それに限定されず、染色体外の配列、ミトコンドリアの配列なども包含することが理解される。多くの遺伝子は、通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/あるいは「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」をさすことがある。本明細書において遺伝子の「オープンリーディングフレーム」または「ORF」とは、遺伝子の塩基配列を3塩基ずつに区切った時の3通りの枠組の1つであって、開始コドンを有し、そして途中に終止コドンが出現せずある程度の長さを持ち、実際にタンパク質をコードする可能性のある読み枠をいう。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。したがって、例えば、DNAポリメラーゼ遺伝子というときは、通常、DNAポリメラーゼの構造遺伝子ならびにDNAポリメラーゼのプロモーターなどの転写および/または翻訳の調節配列の両方を包含する。本発明では、構造遺伝子のほか、転写および/または翻訳などの調節配列もまた、本発明が対象とする遺伝子として有用であることが理解される。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」ならびに/または「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を指すことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を包含する。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
【0043】
本明細書において遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。また、本明細書において配列(核酸配列、アミノ酸配列など)の同一性とは、2以上の対比可能な配列の、互いに対する同一の配列(個々の核酸、アミノ酸など)の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて相同性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、相同性と類似性とは同じ数値を示す。
【0044】
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて算出される。
【0045】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本明細書において有用なフラグメントの長さは、そのフラグメントの基準となる全長タンパク質の機能のうち少なくとも1つの機能が保持されているかどうかによって決定され得る。
【0046】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
【0047】
本明細書において「ストリンジェントなハイブリダイズ条件」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM
クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1−38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0048】
本明細書では塩基配列の同一性の比較および相同性の算出は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。
【0049】
本明細書において、「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびin situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用されるプロモーターとしては、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応する配列も含まれるべきであることが意図される。
【0050】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0051】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
【0052】
その文字コードは以下のとおりである。
アミノ酸
3文字記号 1文字記号 意味
Ala A アラニン
Cys C システイン
Asp D アスパラギン酸
Glu E グルタミン酸
Phe F フェニルアラニン
Gly G グリシン
His H ヒスチジン
Ile I イソロイシン
Lys K リジン
Leu L ロイシン
Met M メチオニン
Asn N アスパラギン
Pro P プロリン
Gln Q グルタミン
Arg R アルギニン
Ser S セリン
Thr T トレオニン
Val V バリン
Trp W トリプトファン
Tyr Y チロシン
Asx アスパラギンまたはアスパラギン酸
Glx グルタミンまたはグルタミン酸
Xaa 不明または他のアミノ酸。
【0053】
塩基
記号 意味
a アデニン
g グアニン
c シトシン
t チミン
u ウラシル
r グアニンまたはアデニンプリン
y チミン/ウラシルまたはシトシンピリミジン
m アデニンまたはシトシンアミノ基
k グアニンまたはチミン/ウラシルケト基
s グアニンまたはシトシン
w アデニンまたはチミン/ウラシル
b グアニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル
d アデニンまたはグアニンまたはチミン/ウラシル
h アデニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル
v アデニンまたはグアニンまたはシトシン
n アデニンまたはグアニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル、不明、または他の塩基。
【0054】
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長を有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここで具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100、200、300、400、500、600、600、700、800、900、1000およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここで具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
【0055】
本発明において使用されるポリペプチドは、天然型のポリペプチドと実質的に同一の作用を有する限り、アミノ酸配列中の1以上(例えば、1または数個)のアミノ酸が置換、付加および/または欠失していてもよく、糖鎖が置換、付加および/または欠失していてもよい。
【0056】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。親水性指標もまた、改変体作製において考慮される。米国特許第4、554、101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0057】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0058】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトとマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子とβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用であることから、本発明のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0059】
本明細書において「機能的改変体」とは、基準となる配列が担う生物学的活性を保持する改変体をいう。
【0060】
本明細書において「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。核酸においては、保存的置換は、例えば、プロモーター活性を測定しながら確認することができる。
【0061】
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドをコードする遺伝子を作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0062】
本明細書において発現されるべきポリペプチドの核酸形態は、そのポリペプチドのタンパク質形態を発現し得る核酸分子をいう。この核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
【0063】
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変異誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
【0064】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0065】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、原核生物細胞、酵母、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞、植物個体および動物個体等の宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書では、例えば、BACベクターを用いることができる。BACベクターとは、大腸菌のFプラスミドをもとにして作製されたプラスミドで、約300kb以上の巨大なサイズのDNA断片をも大腸菌などの細菌内で安定に保持し増殖させることが可能なベクターである。BACベクターは、少なくともBACベクターの複製に必須の領域を含む。その複製に必須の領域としては、例えば、Fプラスミドの複製開始点であるoriSまたはその改変体が挙げられる。
【0066】
本明細書において「プロモーター」(またはプロモーター配列)とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、通常RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。したがって、本明細書においてある遺伝子のプロモーターの働きを有する部分を「プロモーター部分」という。プロモーターの領域は、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することができる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。
【0067】
本発明において、プロモーターは花弁特異的プロモーターであり得る。花弁特異的プロモーターとしては、アントシアニジン合成酵素遺伝子プロモーターやMyb転写因子遺伝子プロモーターが挙げられる。Myb転写因子遺伝子(MYB遺伝子)プロモーターは、配列番号15の塩基配列を有し、アントシアニジン合成酵素遺伝子(ANS遺伝子)プロモーターは、配列番号16の塩基配列を有する。他の花弁特異的遺伝子プロモーターとして、花色関連遺伝子が考えられ、MYB、ANS以外のプロモーターとして下記遺伝子プロモーターが考えられる。これらはいずれもアントシアニンやフラボノールなどの生合成に関わるものである。
AS(オーレウシジン合成酵素)遺伝子
ANR(アントシアニジン還元酵素)遺伝子
CHI(カルコン異性化酵素)遺伝子
CHS(カルコン合成酵素)遺伝子
DFR(ジヒドロフラボノール4−還元酵素)遺伝子
F3H(フラバノン3−水酸化酵素)遺伝子
F3’H(フラボノイド3’−水酸化酵素)遺伝子
F3’5’H(フラボノイド3’,5’−水酸化酵素)遺伝子
FLS(フラボノール合成酵素)遺伝子
FNS(フラボン合成酵素)遺伝子
GST(グルタチオンS−転移酵素)遺伝子
UF3GT(UDP−グルコース3−O−グリコシル転移酵素)遺伝子。
【0068】
本明細書において「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。プロモーター中のプロモーター活性を強める領域もまたエンハンサーと呼ばれることがある。
【0069】
本明細書において使用する場合、「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0070】
本明細書において使用する場合、「発現ベクター」は、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子など)のような選抜マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、植物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である
本明細書において使用する場合、「導入ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、原核細胞、酵母、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞、植物個体および動物個体等の宿主細胞において自立複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。
【0071】
本明細書において「上流」という用語は、特定の基準点からポリヌクレオチドの5’末端に向かう位置を示す。
【0072】
本明細書において「下流」という用語は、特定の基準点からポリヌクレオチドの3’末端に向かう位置を示す。
【0073】
本明細書において「発現量」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
【0074】
本明細書において使用する場合、「選抜マーカー」とは、目的の核酸構築物、ベクターを含む宿主細胞を選択する指標として機能する遺伝子をいう。選抜マーカーとしては、蛍光マーカー、発光マーカー、および薬剤耐性選抜マーカーが挙げられるが、これらに限定されない。「蛍光マーカー」としては、緑色蛍光プロテイン(GFP)、青色蛍光プロテイン(CFP)、黄色蛍光プロテイン(YFP)および赤色蛍光プロテイン(dsRed)のような蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。「発光マーカー」としては、ルシフェラーゼのような発光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。「薬剤耐性選抜マーカー」としては、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hprt)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、グルタミンシンセターゼ遺伝子、アスパラギン酸トランスアミナーゼ、メタロチオネイン(MT)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、アデノシンデアミナーゼ(AMPD1,2)、キサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ、UMPシンターゼ、P−グリコプロテイン、アスパラギンシンテターゼ、およびオルニチンデカルボキシラーゼなどが挙げられる。除草剤耐性遺伝子としては、ALS(AHAS)遺伝子やPPO遺伝子などが挙げられる。「ネガティブ選抜マーカー」としては、ジフテリア毒素タンパク質A鎖遺伝子(DT−A)、ExotoxinA遺伝子、Ricin toxin A遺伝子、codA遺伝子、シトクロムP−450遺伝子、RNase T1遺伝子およびbarnase遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
(一般生化学・分子生物学)
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associat ES and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0076】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0077】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0078】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0079】
(一般的実施例)
1.植物における、液胞への鉄イオンの輸送活性の測定
鉄イオン輸送活性は、鉄の放射性同位元素59Feを含む水溶液を切り花に吸収させ、液胞内の59Feの取り込みを指標として測定する。あるいは、鉄イオン輸送活性は、導入遺伝子による耐性獲得を指標として、測定することができる。酵母の培養において鉄を含有する培地で鉄感受性変異株を培養すると、変異株は液胞内に鉄を輸送できないので鉄の毒性により致死性を示す。しかし、鉄イオン輸送活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を導入した組換え酵母は、液胞内への鉄輸送活性を持つので鉄は液胞内に蓄積され無毒化するため鉄耐性を示す。
【0080】
2.植物における、鉄イオン貯蔵活性の測定
鉄貯蔵が予想されるタンパク質の遺伝子を大腸菌内で発現させ組換えタンパク質を作る。この時、培地中に鉄の合成安定同位体57Feを既知濃度加えておく。作られた組換えタンパク質を精製後、同位体希釈−質量分析法により自然界に最も多く存在する56Feと同位体57Feの比を求める。添加した57Feの量はわかっているので、それから56Fe量が求められる。鉄イオン貯蔵活性があれば精製タンパク質において鉄イオンが検出可能される。あるいは、原始吸光法またはICP法によっても鉄濃度は測定できる。
【0081】
(実施例1:チューリップ品種「紫水晶」の花弁で発現している遺伝子の解析)
紫水晶の花弁が着色を開始した時期の蕾を花弁上部と花底部に切り分け、それぞれの花弁内側の表皮100mgをピンセットで剥ぎ取り1.5mlマイクロチューブに入れ液体窒素で凍結した。凍結した組織はホモジナイザーペッスルを用いて粉砕し、0.5mlのPlant RNA Rurification Reagent(インビトロジェン)を加え10分間室温にてRNA抽出を行った。抽出後、遠心操作(15,000rpm、5分)により細胞残渣を沈殿し上清液をRNeasy Plant Mini Kit(キアゲン)を用いてマニュアルに従い精製した。次に精製したRNAからFluorescence Differential Display kit ローダミンバージョン(タカラバイオ)により9種類の蛍光下流プライマーを用いて1st cDNAを合成した。さらに、同キットに含まれる24種類の10merプライマーおよび12種類の10mer Primer Set(オペロン社製)をもちいてマニュアルに従いPCR反応(94℃, 2分; 40℃, 1分; 72℃, 1分; 35サイクル)を行った。この反応では9種類の蛍光アンカープライマーおよび36種類の上流プライマーを用いて324通りのPCR反応を花弁上部と花底部それぞれの表皮組織で行った。
【0082】
得られたPCR産物は8%変性ポリアクリルゲルで電気泳動(1500V, 2hr)後、フルオロ・イメージアナライザーFLA−5100(フジフィルム)で読み取り、花弁上部と花底部の増幅バンドを比較した。その結果、花底部だけで発現している6種類の遺伝子の存在が確認された。そこで、それぞれのDNAバンドをゲルから切り出し、1.5mlマイクロチューブに入れ、50μlの滅菌水を加え100℃、10分間抽出を行った。さらに、抽出液1μlと増幅に用いたプライマー組み合わせで再度PCR反応を行い、増幅産物を大腸菌クローニングベクターpT7―Blue Tベクター(タカラバイオ)にサブクローニングした。
【0083】
得られたDNAは常法に従いDNA塩基配列を決定した。さらに、得られた塩基配列情報を基に5’−RACE用プライマーを設計し5’−RACEシステム(インビトロジェン)により5’側のクローニングを行った。また、同様に大腸菌ベクターへサブクローニング後にDNAの塩基配列を決定した。
【0084】
得られたDNA塩基配列情報を基にDNAデータベースで既存の遺伝子との比較を行った結果、タンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)遺伝子、DNA結合活性を持つタンパク質遺伝子、液胞型鉄イオントランスポーター遺伝子等との相同性を持つことが判明した。また、機能未知の遺伝子も存在した。特に、液胞型鉄イオントランスポーター遺伝子は3種類の配列があることが判明した。これらの結果から、花底部の青色化に直接関係していると思われるのは液胞型鉄イオントランスポーターと相同性を持つ遺伝子であると考え、これらを青色化遺伝子と位置づけ、それぞれTgVIT−A1、TgVIT−A2およびTgVIT−B1と命名した。
【0085】
(実施例2:鉄イオン貯蔵タンパク質フェリチンの遺伝子単離)
フェリチンは細胞内で鉄イオンを貯蔵する機能を持つタンパク質として知られている。植物細胞内では葉緑体(色素体)の中に局在し細胞内の鉄イオン濃度の調節に関与していると考えられている。チューリップの花底部における青色化に鉄イオンが必須であることから、花弁細胞内でフェリチン遺伝子が発現しているのか否かを調べる目的で、チューリップのフェリチン遺伝子の単離を試みた。
【0086】
まず、チューリップ花弁から単離、精製したRNAを基に5’−RACEシステム(インビトロジェン)を用いて1st cDNAを合成し、続いて3’端にTdTとdCTPを用いてオリゴdCを付加した。次に、オリゴdCにハイブリダイズするAbrided
Anchor primerと遺伝子配列が既に判明しているダイズ、セイヨウナタネ、シロイヌナズナ、コムギのDNA塩基配列から相同性の高い領域に対するプライマー(5’−CCVASYCKTCKSARYTGRGCNACATAYTC−3’:配列番号5)を合成しPCR反応(94℃,1分;60℃,1分;72℃,1分;35サイクル)により増幅した。ここで、プライマー配列における「R」とはグアニンまたはアデニンを意味し、「Y」とはチミン/ウラシルまたはシトシンを意味し、「M」とはアデニンまたはシトシンを意味し、「K」とはグアニンまたはチミン/ウラシルを意味し、「S」とはグアニンまたはシトシンを意味し、「W」とはアデニンまたはチミン/ウラシルを意味し、「B」とはグアニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシルを意味し、「D」とはアデニンまたはグアニンまたはチミン/ウラシルを意味し、「H」とはアデニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシルを意味し、「V」とはアデニンまたはグアニンまたはシトシンを意味する。その結果、予想されるサイズ(800bp)での増幅が得られた。さらに、この増幅産物がフェリチン遺伝子の一部であることを確認するため、得られたDNA断片の内部に存在するダイズ、セイヨウナタネ、シロイヌナズナ、コムギのDNA塩基配列において相同性の高い領域に対するプライマー(5’−RTBARYGARCARATCAATGTGGARTWCAA−3’:配列番号6)を合成し、再度PCRを行った。その結果、予想されたサイズ(430bp)に増幅断片を得ることができたことから、最初に増幅した800bpのDNAはフェリチン遺伝子の一部であることが示された。さらに、塩基配列の結果フェリチンであることが確認された。また、得られたDNA断片の塩基配列を基にプライマーを合成(5’−TCCCATCCCTTCTCTCTCCACACCCCG―3’:配列番号7)し、oligodTプライマーとの間でてPCR(94℃,30秒;60℃,30秒;72℃,1分;35サイクル)を行いフェリチン遺伝子下流領域のクローン化並びに塩基配列決定を行った。その結果、チューリップフェリチン遺伝子は1,060bpからなり248アミノ酸からなる分子量27,288のタンパク質をコードすることが明らかになった(図3)。また、他植物のフェリチン同様、チューリップのフェリチンはN末端側に葉緑体(色素体)移行シグナル配列を持ち、成熟型タンパク質はシロイヌナズナと77%、イネと74%の相同性を示したことから単離した遺伝子をTgFER1と命名した。
【0087】
(実施例3:青色化遺伝子および鉄イオン貯蔵タンパク質フェリチン遺伝子の花弁発達過程での発現解析)
青色化遺伝子とフェリチン遺伝子が花の発達過程でどのような発現パターンを示すかは、花色発現に関わることであり重要であると考えられる。そこで、紫水晶の抱芽期から老化期まで6段階に分けた花弁(図4a)を材料に、各発育ステージ毎に実施例1同様花弁上部と花底部を切り分け、それぞれの表皮および柔組織から全RNAを単離、精製した。次に得られたRNA2μgを基にSuperScript II(インビトロジェン)により1st cDNA合成をした。TgVITに特異的プライマー(F1:5’−GAGCCTCACGTGTATAATCC−3’,R1(配列番号8):5’−TGCACTCTCTAGTGCTCTCC−3’(配列番号9))およびTgFER特異的プライマー(F1:5’−TGCATACTTTGATCGGGACA―3’,R1(配列番号10):5’−TCGGAGGCATCAGGATAGAC―3’(配列番号11))を用いて定量PCRを行った。内部標準遺伝子として細胞内で恒常的に発現しているGAPDH(glyceraldehydes−3−phosphate dehydrogenase)遺伝子(F1:5’−CAAGTCTGACATCCACATTG−3’,R1(配列番号12):5’−TGCACAGTAGTCATCAAACC−3’(配列番号13))を用い開花期(stage 4)の花弁上部表皮組織で発現しているTgVITまたはTgFERの発現量を1とした相対値で遺伝子発現の相対定量値を求めた。
【0088】
その結果、TgVIT遺伝子の発現は花底部の表皮組織に特異的であり、開花以前の蕾(stage 1〜3)で高く、着色が始まるstage 4以降は抑制されることが明らかになった(図4a)。この現象は、花底部での鉄イオンが開花以前から液胞内に蓄積していることを示唆し、青色発現が紫色を経ずに始まる現象を裏付けている。また、TgFER遺伝子の発現は花弁上部の表皮組織および柔組織で高く、花底部では低い。特に、表皮組織での着色が始まるstage 4で一時的に高くなり、柔組織では抱芽期(stage 1)から着色期(stage 4)にかけて発現が誘導される(図4b)。以上の結果から、理論に束縛されることは意図しないが、花底部ではTgVIT遺伝子が発現し、TgFER遺伝子の発現が抑制されることで、鉄イオンは液胞に蓄積し青色を発現する。花弁上部ではTgVIT遺伝子の発現が抑制され、TgFER遺伝子が発現することで、鉄イオンは色素体に移行し液胞に蓄積されないため紫色を呈するという推測が考えられた。このような現象はこれまで全く知られておらず、今回の実験で初めて明らかにされたものである。
【0089】
(実施例4:青色化遺伝子およびフェリチン遺伝子の組織別発現解析)
青色化遺伝子とフェリチン遺伝子が花弁以外の組織でどう発現しているかを明らかにすることは、これら遺伝子の特性を調べる上で重要であり、組織中の鉄イオンの動態を推察する上でも重要である。そのため、葉、茎、球根(りん片)、根での遺伝子発現量を比較した。その結果、開花期での青色化遺伝子の発現は、葉や茎など他の組織でも若干発現が見られるものの花底部表皮組織で最も高く、花底部に特異性が高いことが判明した(図5a)。すなわち、チューリップの特性を調べたことによってこのような遺伝子の関与が初めて明らかにされたと言える。さらに、同時期のフェリチン遺伝子は花弁上部の表皮組織や柔組織また茎で強く発現している(図5b)。これもチューリップの特性であり、これまで他の植物も含めて花弁上部と花底部での遺伝子発現の違いを調べた例はなく、本発明によって初めて明らかにされた現象である。以上の結果から、開花期において青色化遺伝子およびフェリチン遺伝子の発現は花弁組織での発現が最も高く、花色発現に大きく関係していることが示唆された。
【0090】
(実施例5:青色化遺伝子およびフェリチン遺伝子の他品種での発現)
紫水晶で明らかになった青色化遺伝子とフェリチン遺伝子の花弁での発現パターンが紫水晶に特徴的なものか、あるいは他の品種にも共通する現象かを調べることは青色化メカニズムの不変性を論ずる上で重要なことである。そこで、花底部が青い紫水晶、白雪姫、ミレラ、紫雲、クィーンオブナイトおよび花底部が青くない白雲、メセアポゼラン、黄小町、ゴールデンメロディー、ゴールデンエンパイヤステート、パープルパレス、ネプチューンの蕾(stage4)の花弁上部および花底部表皮組織における遺伝子発現量を定量PCR法にて比較した。
【0091】
その結果、青色化遺伝子の発現は、花底部が青い品種すべてにおいて花弁上部では発現せず花底部のみで発現し、特にミレラやクィーンオブナイトでは紫水晶より強く発現していた(図6b)。また、花底部が青くない品種では黄小町とゴールデンエンパイヤステートの花底部で発現が見られるものの、他の品種では花底部での発現は見られなかった。黄小町とゴールデンエンパイヤステートでは青色化遺伝子の発現により液胞への鉄イオンの蓄積があるが、デルフィニジン色素が作られていないため青くはならないと考えられる。
【0092】
フェリチン遺伝子の発現は、花底部の青い品種すべてにおいて花弁上部の表皮組織で強く発現し花底部での発現は低い。また、花底部が青くない品種ではゴールデンメロディとゴールデンエンパイヤステートが花弁上部で強く発現するものの、他の品種では花弁上部と同程度に花底部でも発現している(図6c)。さらに、パープルパレスやネプチューンは花弁が紫色であるにも関わらず花底部は青くない。これは、花底部で青色化遺伝子が発現せず、フェリチン遺伝子が発現していることによって、鉄イオンが液胞に運ばれないためであると考えられる。
【0093】
以上の結果から、花底部が青い品種においてはいずれも花底部での青色化遺伝子の発現とフェリチン遺伝子の発現抑制が見られることから、これら遺伝子の発現制御がチューリップでは不変的に青色化に深く関わっていることが示された。また、これらの結果から青色化遺伝子は単に液胞への鉄イオン輸送という機能のみならず明確に青色を発現するために機能していると言える。
【0094】
(実施例6:遺伝子導入用ベクターの構築)
青色化遺伝子とフェリチン遺伝子が花弁の青色化に関わることを証明するため、花弁上部の紫色細胞への遺伝子導入を試みた。
【0095】
まず、Gate way システムによりベクターを作成するため、エントリーベクターpENTR/SD/D(インビトロジェン)にマニュアルに従いTgVIT−A1遺伝子またはTgFER1遺伝子またはTgVIT−A1のアンチセンス(逆向き)またはRNA干渉(RNAi)用にTgFER1遺伝子の一部を繋いだエントリーベクターを作製した。RNAiのコンストラクトに使った部分はフェリチンcDNAの292−547bpの部分(図9における大文字部分)であり、間にArabidopsis thaliana WRKY33 gene由来のイントロンとベクターの配列(図9における小文字部分)が挟まれている(配列番号14)(図9を参照のこと)。
【0096】
次にLRクロナーゼ酵素(インビトロジェン)によりディスティネーションベクターpBI−OX−GW(GFP)(インプランタイノベーションズ)に目的遺伝子を移行し遺伝子導入用ベクターpBI−BCF、pBI−antiBCF、pBI−FERを作成し、pBI−sense,antisense−GW(インプランタイノベーションズ)を用いてpBI−FER−RNAiを作成し、さらにpBI−FER−RNAiの制限酵素PmeI部位にpBI−BCFのAvrII−EcoRI部位を末端平滑化後に連結しpBI−BCF−FER−RNAiを作製した(図7)。それぞれのベクターには遺伝子導入の際に標識となるGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子が組み込まれている。
【0097】
(実施例7:紫色花弁細胞への遺伝子導入)
実施例6において作成した遺伝子導入用ベクターをパーティクルガン法によってチューリップ紫水晶の花弁上部紫色細胞へ遺伝子導入し色の変化を観察した。
【0098】
1.5ml用マイクロチューブにパーティクルガン用金粒子(0.6μm)0.3mg(60mg/ml濃度)を入れ、ベクターDNA5μg(1μg/μl濃度)を加えよく混合した。それに更に2.5M塩化カルシウム溶液50μlと0.1Mスペルミジン溶液20μlを順次加えボルテックスミキサーで3分間混合した。それを30分間室温で静置した後、500rpm、3分遠心し金粒子を沈殿した。その上清を捨てた後、70%エタノールを1ml加え金粒子を洗い、遠心後エタノールを除き、さらに100%エタノール1mlで洗浄した。さらに遠心後エタノールを除き、最後に100%エタノール100μlを加え金粒子をよくほぐしながらエタノール中に分散させた。さらに、超音波処理により金粒子を細かく分散させた。これを10μlずつマイクロキャリアディスクの中央に乗せ風乾した。次に、パーティクルガン装置(バイオラッドPDS−1000/Heシステム)を使い28インチHgの真空下で1350psiの圧力で遺伝子導入を行った。
【0099】
遺伝子導入した花弁は20℃に置き2日後に蛍光実体顕微鏡の青色光励起下でGFPタンパク質により緑色蛍光を発する細胞が遺伝子導入された細胞であることからその細胞の色を観察した。
【0100】
その結果、青色化遺伝子を発現するpBI−BCF導入細胞では紫色から青色への改変が見られ、青色化遺伝子を逆向きに挿入したpBI−anti−BCFでは青色化しないことが確かめられた。このことから青色化遺伝子の発現が花底部における青色化に必須であることが示された(図8)。また、フェリチン遺伝子を発現するpBI−FERおよびRNA干渉によってフェリチン遺伝子の発現を抑制するpBI−FER−RNAi導入細胞の花色は紫色のままであることから、フェリチン遺伝子は直接青色化には影響しないと考えられた。ところが、青色化遺伝子を発現しかつフェリチン遺伝子の発現を抑制するpBI−BCF−FER−RNAi導入細胞はpBI−BCF導入細胞より濃い青色を示すことから、フェリチン遺伝子の発現抑制が青色化へ間接的に影響していることが示された(図8)。
【0101】
これは、花底部での青色発現を再現しているものであり、これまでの推論が正しいことを示す結果であるといえる。すなわち、「紫水晶」花底部では青色化遺伝子の発現とフェリチン遺伝子の発現抑制により青色発現が行われており、これら遺伝子の発現を花弁上部の紫色細胞で再現することにより、青色細胞と同程度の青さを紫色細胞でも再現できることを示した最初の例である。
【0102】
ここで改変した青色を客観的に表現するために一般に色を数値として表すCIEL*a*b*表色系による色彩値を求めた。方法は、顕微分光測光法により顕微分光測光計(日本分光MSV-300型)により細胞の色彩をCIEL*a*b*値で表した。その結果、表1
に示す通り青色の数値が得られた。
【0103】
【表1】
上述のように、本発明では、以下のように紫色、青色、および濃い青色を指定する。
紫色 20≦L*≦80, 40≦a*≦90, −50<b*≦−10
青色 20≦L*≦80, −8≦a*≦90, −107≦b*≦−50
濃い青色 5≦L*<20, −8≦a*≦90, −107≦b*≦−50
表1において、紫色の細胞(L=37.9,a=68.8,b=−44.8)は上記の紫色の範囲に含まれ、青色化遺伝子の導入により青色の細胞(L=22.8,a=60.8,b=−82.8)へと変化した。さらに、青色化遺伝子とフェリチン抑制遺伝子を導入した場合の青色細胞(L=7.1,a=26.5,b=−59.5)となり、単に青色化遺伝子を導入した細胞に比べて明るさや赤色が顕著に下がっており濃い青色に変化したことが読み取られる。
【0104】
(実施例8 遺伝子導入ベクターpBI−BCFのカルスへの導入)
カルスに、実施例6において作製した青色化遺伝子導入ベクターpBI−BCFを導入した。
【0105】
(カルスの誘導)
チューリップ球根の外側の外皮を剥き、2〜4分割程度の大きさに切り分けた。それを滅菌した密閉容器に入れ、10%次亜塩素酸ナトリウム溶液を球根が十分浸かる程度に加え5〜10分間超音波をかけた。その後、5〜10分間静置し球根の滅菌を行った。滅菌処理後、クリーンベンチ内において滅菌水で2〜3回球根をすすぎ、濾紙上で球根のりん片を厚さ2mm程度にスライスし、カルス誘導培地に置床した。
【0106】
カルス誘導は、基本培地をMS(Murashige & Skoog)培地とした。ただし、無機塩類は1/2倍濃度で、NH4NO3のみ1/4倍濃度を使用した。以下に、組成および濃度を示す。
(無機塩類)1L当たり、
NH4NO3 0.41g
KNO3 0.95g
KH2PO4 85mg
MnSO4・4H2O 11.15mg
ZnSO4・4H2O 4.3mg
CuSO4・5H2O 0.0125mg
NaMoO4・2H2O 0.125mg
CoCl2・6H2O 0.0125mg
KI 0.415mg
H3BO3 3.1mg
CaCl2・2H2O 220mg
MgSO4・7H2O 185mg
FeSO4・7H2O 13.9mg
Na2−EDTA 18.65mg
(ビタミン類)
ニコチン酸 0.5mg
チアミン塩酸 0.1mg
ピリドキシ塩酸 0.5mg
ミオ−イノシトール 100mg
グリシン 2mg
(糖)
サッカロース 40g
(植物ホルモン)
2,4−D(2,4−Dichlorophenoxyacetic Acid) 1mg
BA(6−Benzyladenine) 1mg
(固化剤)
ゲランガム 2g
(pH調整)
pH5.8 KOH
【0107】
これらの成分を混合した後、121℃、20分間オートクレーブにより滅菌し、60℃程度に冷めたら9cmの滅菌シャーレに分注した。培地上にりん片の切片を置床したらパラフィルムで密閉し、20℃、暗条件で培養した。
【0108】
(遺伝子導入)
上記りん片置床から1〜2ヶ月経過しカルス形成が認められた後、パーティクルガン法によりカルス細胞への遺伝子導入を図った。以下に遺伝子導入条件を示す。
【0109】
金粒子の調製:金粒子(60mg/ml)を1.5mlマイクロチューブに取り、99.5%エタノール1mlを加え激しく懸濁した。その後、7,000rpmで遠心し金粒子を沈殿させ、エタノールを捨てた。そこに滅菌水1mlを加えて洗浄し、遠心後、滅菌水を捨てた。次いで50%グリセロールを加え、よく懸濁した。
【0110】
金粒子へのDNAコーティング:金粒子50μl(0.3mg)を1.5mlマイクロチューブにとり、遺伝子導入ベクター(pBI−BCF)DNA(1μg/μl)5μlを加え、ボルテックスミキサーで激しく混合した。そこに、CaCl2(2.5M)50μlとスペルミジン(0.1M)20μlを順次加え、ボルテックスミキサーで混合した。混合後、室温で30分間静置し、その後、7,000rpmで遠心後上清を取り除き、新たに70%エタノール1mlを加え軽く攪拌した。遠心後エタノールを取り除き、新たに99.5%エタノール1mlを加え軽く攪拌した。遠心後エタノールを除き、新たに99.5%エタノール50μlを加え金粒子をよく懸濁した。その懸濁液10μlずつをマイクロキャリアの中心にのせ、風乾した。以下の条件でカルス細胞への遺伝子導入を行った。
【0111】
遺伝子導入装置:PDS−1000/Heパーティクルデリバリーシステム(バイオラッド製)
遺伝子導入圧力:1,550〜1,800psi
真空度:28inHg
金粒子径:0.6〜1.0μm。
【0112】
遺伝子導入から2日目、2週間目および3週間目の細胞増殖と遺伝子導入細胞におけるGFP発現の様子を示す。図10に示す通り、青色化導入遺伝子ベクターpBI−BCFを導入した細胞は、3週間目以降、カルス細胞がクロロシス(鉄欠乏)になって白化し(図10における矢印を参照のこと)、それ以上増殖しないことが明らかになった。理論に束縛されることを意図しないが、この現象は、青色化遺伝子が発現することにより、鉄が液胞内に輸送され、細胞質内の鉄濃度が極端に減少したためであると考えられる。この事象は、植物体に害を及ぼさずに液胞内の鉄イオンレベルを人為的に調節することが非常に困難であるということを示す一例である。
【0113】
(実施例9 花弁特異的プロモーターの単離)
花弁特異的に遺伝子発現を誘導するプロモーターを新規に単離した。具体的には、ます、花色の発現に関連する遺伝子であるMyb転写因子遺伝子(MYB遺伝子)およびアントシアニジン合成酵素遺伝子(ANS遺伝子)を単離した。MYB遺伝子およびANS遺伝子の発現解析を行ったところ、花弁での発現が最も強く、花弁上部と花底部の両方で発現し、他の組織においてはほとんど発現していないことが明らかになった(図11を参照のこと)。
【0114】
次いで、MYB遺伝子およびANS遺伝子のプロモーターを、以下の方法(RightWalk法)によって単離し、そのDNA塩基配列を決定した。
ゲノムDNAの既知配列(ANS遺伝子とMYB遺伝子)から未知のプロモーター領域をクローニングするため、株式会社ベックスのRightWalkキットを使用した。
【0115】
1.既知配列内に切断箇所を持たない制限酵素を用いてゲノムDNAを処理する。
2.Klenow酵素(3’→5’exo−)を用いて1塩基伸長を行う。
3.アダプターの結合を行う。
4.アダプターに特異的なプライマー(WP1)および既知配列特異的プライマー(SP1)を用いて1回目のPCRを行う。
5.1回目のPCR産物を100倍希釈し、2回目のPCR用の鋳型にする。
6.1回目のPCRに用いたプライマーの内側に位置するアダプターに特異的なプライマー(WP2)および既知配列特異的プライマー(SP2)を用いて2回目のPCRを行う。
7.増幅産物の塩基配列を解析し、一部既知配列を含む未知の配列であることを確かめる。
【0116】
より詳細には、Tokuji Tsuchiya,Nanako Kameya and Ikuo Nakamura(2009)Straight Walk:A modified method of ligation−mediated genome walking for plant species with large genome.Analytical Biochemistry 388:158−160を参照のこと。
【0117】
(MYB遺伝子プロモーターの単離)
1.制限酵素Nhe Iを用いて500ngのゲノムDNAを37℃、1時間処理
<反応液組成>
DNA(500ng) 7.0 uL
10×制限酵素バッファ 2.0 uL
NheI(10U) 1.0 uL
滅菌水 10.0 uL
Total 20.0 uL
【0118】
2.dCTPを基質にKlenow酵素を用いて25℃、15分間の1塩基伸長反応を行った。その後、72℃、20分間の処理によりKlenow酵素を失活させた。
<反応液組成>
ステップ1反応液 10.0 uL
dCTP (1mM) 1.0 uL
Klenow (3’→5’exo−) 1.0 uL
Total 12.0 uL
【0119】
3.RWA−2アダプターをT4 DNA ligaseにより16℃、16時間の結合を行った。
<反応液組成>
ステップ2反応液 12.0 uL
RWA−2 2.0 uL
T4 DNA ligase 2.0 uL
10×ligase バッファ 2.4 uL
滅菌水 5.6 uL
Total 24.0 uL
【0120】
4.ステップ3の反応液24μlに水26μlを加え、その1μlを鋳型に1回目のPCRを行った。
プライマー配列
WP1:CGCAGGCTGGCAGTCTCTTTAG(配列番号17)
SP1:TTCGAGACTGAAGATGAAGATATACCTG(配列番号18)
<反応液組成>
鋳型DNA 1.0 uL
KODポリメラーゼ(5U/uL) 1.0 uL
10×PCRバッファ 5.0 uL
dNTPs(2mM) 5.0 uL
MgSO4(25mM) 2.0 uL
WP1(10pmol) 1.0 uL
SP1(10pmol) 1.0 uL
滅菌水 34.0 uL
Total 50.0 uL
<反応条件>
94℃ 2分 (1サイクル)
94℃ 30秒
65℃ 30秒
68℃ 7分 (35サイクル)
【0121】
5.1回目のPCR産物を1μlを鋳型に2回目のPCRを行った。反応液組成はプライマー以外、ステップ4と同じ。反応条件も同じ。
プライマー配列
WP2:ATGCGGCCGCTCTCTTTAGGGTTACACGATTGCTT(配列番号19)
SP2:TCCATAGTCCATGGTCCTTTCCTAAC(配列番号20)
【0122】
6.1kbp以上のPCR産物の増幅を確認した。
【0123】
7.得られたPCR産物をTOPOベクターにTAクローニングし、塩基配列を解析した。
その結果、MYB遺伝子上流のプロモーターを含むと予想される未知配列1,208bpを得た。
【0124】
(ANS遺伝子プロモーターの単離)
1.制限酵素BamH I を用いて500ngのゲノムDNAを37℃、1時間処理
<反応液組成>
DNA(500ng) 7.0 uL
10×制限酵素バッファ 2.0 uL
BamHI(10U) 1.0 uL
滅菌水 10.0 uL
Total 20.0 uL
【0125】
2.dGTPを基質にKlenow酵素を用いて1塩基伸長反応を行った。
<反応液組成>
ステップ1反応液 10.0 uL
dGTP (1mM) 1.0 uL
Klenow (3’→5’exo−) 1.0 uL
Total 12.0 uL
【0126】
3.RWA−1アダプターのT4 DNA ligaseによる結合を行った。
<反応液組成>
ステップ2反応液 12.0 uL
RWA−1 2.0 uL
T4 DNA ligase 2.0 uL
10×ligase バッファ 2.4 uL
滅菌水 5.6 uL
Total 24.0 uL
【0127】
4.アダプターを結合した反応液24μlに水26μlを加え、その1μlを鋳型に1回目のPCRを行った。
プライマー配列
WP1:CGCAGGCTGGCAGTCTCTTTAG(配列番号21)
SP1:CTCACCTTCTCAATCACCTCTTTTGC(配列番号22)
<反応液組成>
鋳型DNA 1.0 uL
KODポリメラーゼ(5U/uL) 1.0 uL
10×PCRバッファ 5.0 uL
dNTPs(2mM) 5.0 uL
MgSO4(25mM) 2.0 uL
WP1(10pmol) 1.0 uL
SP1(10pmol) 1.0 uL
滅菌水 34.0 uL
Total 50.0 uL
<反応条件>
94℃ 2分 (1サイクル)
94℃ 30秒
65℃ 30秒
68℃ 7分 (35サイクル)
【0128】
5.1回目のPCR産物を1μlを鋳型に2回目のPCRを行った。反応液組成はプライマー以外、ステップ4と同じ。反応条件も同じ。
プライマー配列
WP2:ATGCGGCCGCTCTCTTTAGGGTTACACGATTGCTT(配列番号23)
SP2:TCAACACACTTCGCCCTCTCCTTC(配列番号24)
【0129】
6.1kbp以上のPCR産物の増幅を確認した。
【0130】
7.得られたPCR産物をTOPOベクターにTAクローニングし、塩基配列を解析した。
【0131】
その結果、ANS遺伝子上流のプロモーターを含むと予想される未知配列879bpを得た。
【0132】
上述の方法によって単離したMYB遺伝子プロモーターの塩基配列(配列番号15)を図12に、ANS遺伝子プロモーターの塩基配列(配列番号16)を、図13にそれぞれ示す。
【0133】
単離したMYB遺伝子プロモーターおよびANS遺伝子プロモーターが、実際にプロモーター活性を有しているか否かを試験するために、それぞれのプロモーター領域に青色化遺伝子(VIT遺伝子)を繋いだベクター(pBT−1およびpBT−11)を構築し(図14を参照のこと)、パーティクルガン法により花弁の紫色細胞に遺伝子導入を行った。その結果、青色化遺伝子が導入された紫色細胞において、紫色から青色への細胞の色の変化が観察された(図15を参照のこと)ことから、それぞれのプロモーターが、実際に青色化遺伝子の発現を誘導するプロモーター活性を有していることが明らかになった。
【0134】
(実施例10 花弁特異的プロモーターを用いるカルスへの青色化遺伝子の導入)
実施例9で作製した青色化遺伝子導入用ベクターpBT−1およびpBT−11を、カルスに、実施例8と同様の方法によって導入した。遺伝子導入後、カルス誘導培地で培養を続け、2〜4週間後、カルス誘導培地にビアラホス(50mg/l)加えた培地に移植した。2〜3ヶ月の培養後、以下の再分化培地に移植し再分化を誘導した。再分化条件は、植物ホルモン2,4−D 0.01mg、BA 0.2mgであり、その他はカルス誘導条件と同じであった。ただし、光照射(約2,000lux)で培養した。驚くべきことに、実施例8および図10において観察されたようなカルスの増殖阻害は観察されず、細胞選抜後に再分化することが明らかになった(図16を参照のこと)。遺伝子導入されたシュートまたはその一部(丸枠)で、GFP蛍光を確認できる。
【0135】
(実施例11:青い花弁を有する植物体の作出)
カルスに、花弁特異的プロモーター、青色化遺伝子、および選抜マーカーを含む遺伝子導入ベクターを導入し、次いで例えば選抜薬剤を含む培地中で培養を行って目的の遺伝子が導入された細胞のみを増殖させ、これを再生させることによって、青い花弁を有する植物体を得ることができる。
【0136】
チューリップは、例えば、球根りん片を厚さ2〜3mmにスライスし、これをMurashige−Skoog培地(ショ糖20g/L、2,4−D 2mg/L、BA 0.2mg/L)にて、20℃でカルス誘導し、これに目的の遺伝子を導入し、Murashige−Skoog培地(ショ糖20g/L、2,4−D 0.2mg/L)にて、20℃、光照射下で、シュートを誘導することによって再生させることができる。
【0137】
植物体へと再生はまた、Rogers et al.,Methods in Enzymology 118: 627−640(1986);Tabata et al.,Plant Cell Physiol.,28:73−82(1987);Shaw,Plant Molecular Biology:A practical approach.IRL press(1988);Shimamoto et al.,Nature 338: 274(1989);Maliga et al.,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course. Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995);Hiei et al.,Plant Mol Biol 35:205(1997);Toki et al.,Plant J 47:969 (2006)等に記載される方法に従って行うこともできる。さらに、近年組織培養に必要としない組換え体作出法も開発されており、必ずしも本例に限定されるものではない。
【0138】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【配列表フリーテキスト】
【0139】
配列番号1=青色化遺伝子の核酸配列
配列番号2=青色化遺伝子のアミノ酸配列
配列番号3=フェリチン遺伝子の核酸配列
配列番号4=フェリチン遺伝子のアミノ酸配列
配列番号5=フェリチン相同領域用プライマー
配列番号6=フェリチン相同領域用プライマー
配列番号7=フェリチン用プライマー
配列番号8=TgVIT特異的プライマー
配列番号9=TgVIT特異的プライマー
配列番号10=TgFER特異的プライマー
配列番号11=TgFER特異的プライマー
配列番号12=GAPDH遺伝子用プライマー
配列番号13=GAPDH遺伝子用プライマー
配列番号14=フェリチン遺伝子RNAi
配列番号15=MYB遺伝子プロモーターの塩基配列
配列番号16=ANS遺伝子プロモーターの塩基配列
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の花色改変法に関する。詳しくは、チューリップの青色化遺伝子を紫色の細胞で発現させることにより青色に改変する方法に関するものである。また、内在性のフェリチン遺伝子の発現を抑制しかつ青色化遺伝子を発現させることにより、より濃い青色に改変する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
花色は花卉園芸作物において最も重要な形質の一つであり、古くから様々な改良がなされてきた。花色の成分は、主にアントシアニン、カロテノイド、ベタレインがあり、多くの植物がもつ赤色、橙色、紫色はアントシアニンに由来している。アントシアニンは化学構造上母核となるアントシアニジンに糖が結合したものであり、植物種により糖の種類が異なり、さらにはアシル化などの修飾を受ける。アントシアニジンは主にペラルゴニジン(橙色)、シアニジン(赤色)、デルフィニジン(紫色)の3種類が存在し、B環の水酸基の数がそれぞれ1個〜3個と変化するに従い色調が変化する。
【0003】
青色の花の多くはデルフィニジン色素を持つことが知られているが、アントシアニンが局在する植物細胞内の液胞は一般に弱酸性であり、弱酸性下ではデルフィニジンは紫色を示すことが実験的に確かめられている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。そのため青色を呈するためには植物種に特有のメカニズムが存在している。例えば、液胞内pHのアルカリ性化(アサガオ)、金属イオンによる錯体形成(アジサイ、ツユクサ)
、フラボンやフラボノールによるコピグメント効果(キキョウ)などがある。
【0004】
これまで、青色がない植物、特にデルフィニジン色素を持たない植物において新たに青色の花を作出する目的で、切り花に着色剤を吸わせて青くする方法や遺伝子組換え技術を使って、他の植物由来のデルフィニジン合成酵素遺伝子(フラボノイド3’,5’水酸化酵素遺伝子)を導入した遺伝子組換え体を作る試みがなされてきた(非特許文献4;非特許文献5)。例えば、これまで育成された遺伝子組換え技術によって花色が改変されたバラやカーネーション(いわゆる青いバラや青いカーネーション)は、他の植物由来のフラボノイド3’,5’水酸化酵素遺伝子を導入しデルフィニジン色素を新たに作らせることに成功したものである。しかし、花色は青色と紫色の中間色を呈しており、明確に青色と呼べるまでには至っていない。
【0005】
チューリップ花弁の色素としては、ペラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジンをそれぞれ母核とするアントシアニンが存在している(非特許文献6;非特許文献7)。さらに、本発明者らの解析により11種類のフラボノールが存在することも判明している(非特許文献8)。チューリップの花色は主にアントシアニンによる橙色、赤色、紫色およびカロテノイドによる黄色であり、これらが組み合わされて様々な色を呈している。しかしながら、花弁全体が青色の花は存在しない。
【0006】
ところが、チューリップでは花弁内側の底の部分(花底部)が青い品種がいくつか存在している。この花底部に特異的な青色発現は古くから知られ、チューリップの野生種でも見られる現象である。チューリップの育種は16世紀から始まった(非特許文献9)が、その当時から花底部の青色を花弁全体に広げようとする試みがなされてきた。しかしながら、当業者の長年の努力にも関わらず、チューリップ花弁の青色化は未だ実現していない。それは、花底部と花弁上部では未知の異なった生理的メカニズムが存在していることを暗示している。そこで、我々は生理的に何が違うのかを解析したところ、花底部の細胞の液胞内では鉄イオンが花弁上部より約25倍多く含まれており、デルフィニジンと鉄イオンとフラボノールが錯体を形成することで青色を呈することを見出し報告している(非特許文献10)。しかしながら、ツユクサでは鉄イオンとマグネシウムイオンで青色になることが示されており(非特許文献11)、またヤグルマギクでは青色色素の結晶のX線解析から鉄イオンとカルシウムイオンが必要であることが示されている(非特許文献12)ことから、チューリップ花弁の青色化には鉄イオンのみならず、他の複数の因子が関与していると考えられていた。
【0007】
植物において、鉄は生長に不可欠な必須元素であると同時に、鉄は生物体内でヒドロキシラジカルと呼ばれる強力は酸化性物質発生の原因となるため、鉄の過剰な吸収は植物にとって毒性を示すことが知られている(非特許文献13)。そのため、植物体内への吸収や細胞内の濃度は厳密に調節されていることが分かっている。しかしながら、そのメカニズムについては未だ十分には解明されておらず不明な点が多い。現在、モデル植物であるシロイヌナズナやイネでの研究から、土壌中の鉄イオン吸収や植物体内での輸送に関わる遺伝子やタンパク質の解明が進められつつある。このような遺伝子の例として、シロイヌナズナにおけるVIT1遺伝子が挙げられる(非特許文献14)。非特許文献2においては、VIT遺伝子は、種子や芽生えの子葉維管束での発現が最も高いことが示されている。しかしながら、VIT1遺伝子導入により酵母CCC1遺伝子(VIT遺伝子のオルソログ)ノックアウト変異体では液胞への鉄イオン蓄積が3倍上昇したが、シロイヌナズナVIT遺伝子ノックアウト変異体では野性型と比較して種子や子葉での鉄含量に差が見られないことから、鉄イオン濃度の調節はまだまだ未解明の部分が多い。さらに、シロイヌナズナにおいて液胞内から細胞質側へ鉄イオン、マンガンイオン、カドミウムイオンを輸送するトランスポーター(AtNRAMP2,3)等(非特許文献15)、鉄イオンのホメオスタシスには多数の因子が関連することが明らかであった。これらの事実から、液胞内の鉄イオンレベルの人為的調節は到底不可能であると考えられていた(非特許文献16)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Goto,T.,Prog.Chem.Org..Nat.Products 52:113−158,1987
【非特許文献2】Brouillard,R.,In The Flavoids:Advance in Research since 1980,pp.525−538,1988
【非特許文献3】Yoshida,K.,et al.,Plant Cell Physiol.44:262−268,2003
【非特許文献4】Fukui,Y.,et al.,Phytochemistry 63:15−23,2003
【非特許文献5】Katsumoto,Y.,et al.,Plant Cell Physiol.,48:1589−1600,2007
【非特許文献6】Torskangerpoll,K.,et al.,Phytochemistry 52:1687−1692,1999
【非特許文献7】Torskangepoll,K.,et al.,Biochem.Syst.Ecol.33:499−510,2005
【非特許文献8】荘司、他,園芸学研究 6,別(2):310,2007
【非特許文献9】チューリップ・鬱金香 木村敬助著 農文協
【非特許文献10】荘司 和明ら,「Perianth Bottom−Specific Blue Color Development in Tulip cv. Murasakizuisho Requires Ferric Irons」,Plant Cell Physiol.48(2):243−251(2007)
【非特許文献11】Kondo,T.,et al.,Nature 358:515−518,1992
【非特許文献12】Shiono,M.,et al.,Nature 436:791,2005
【非特許文献13】Curie,C.,and Briat,J−F.,Annu.Rev.Plant Biol.54:183−206,2003
【非特許文献14】Sun A.Kimら,「Localization of Iron in Arabidopsis Seed Requires the Vacuolar Membrane Transporter VIT1」,Science,Vol314,2006年11月24日
【非特許文献15】Thomine, S., et al., Plant J. 34: 685−695, 2003
【非特許文献16】Briat,J−F.,et al.,Current Opinion in Plant Biology 2007,10:276−285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このことから、植物における特定の部位を青色化するための新たな技術の開発が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、青色の花底部で特異的に発現している青色化遺伝子を同定、単離し、この遺伝子を発現させることによってチューリップの花弁の青色化が達成できることを予想外に発見し、本発明を完成させた。本発明者らはさらに、チューリップの青色化に関連している別の遺伝子であるフェリチン遺伝子をも同定、単離し、その発現様式を解析することによって、青色化遺伝子とフェリチン遺伝子の発現をコントロールすることによってさらに濃い青色化が達成できることも発見した。上述のように、チューリップの青色発現には鉄イオンを含むいくつかの因子が関与していると考えられていたという事実、および液胞内の鉄イオンレベルの人為的調節は到底不可能であると考えられていたという事実に鑑みると、本願発明によって達成されたチューリップの花弁の青色化という効果は、当業者が容易に想到し得なかった顕著な効果である。本願発明は、当業者が16世紀から試みていたチューリップ花弁の青色化を実現したものであり、この効果はまさに予想外であった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
青色化した植物体作出のための植物細胞の作製方法であって、その植物細胞に、以下:
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
からなる群より選択される核酸を導入する工程を包含し、その核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、方法。
(項目2)
青色化した植物体の作出方法であって、以下:
(i)植物細胞に、以下:
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
からなる群より選択される核酸を導入する工程であって、その核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、工程、ならびに
(ii)工程(i)で作製したその植物細胞から植物体を再生する工程、
を包含する、方法。
(項目3)
青色化した植物体作出のための植物細胞の作製方法であって、その植物細胞に、以下(1)の核酸および(2)の核酸:
(1)以下、(a)〜(d)からなる群から選択される核酸、
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
(2)以下(e)〜(h)からなる群から選択される核酸の発現量を低下させる核酸、
(e)配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(f)配列番号3に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(g)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(h)配列番号4に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
を導入する工程を包含し、その核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、方法。
(項目4)
青色化した植物体の作出方法であって、以下:
(i)植物細胞に、以下(1)の核酸および(2)の核酸:
(1)以下、(a)〜(d)からなる群から選択される核酸、
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
(2)以下(e)〜(h)からなる群から選択される核酸の発現量を低下させる核酸、
(e)配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(f)配列番号3に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(g)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(h)配列番号4に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
を導入する工程であって、その核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、工程、ならびに
(ii)工程(i)で作製したその植物細胞から植物体を再生する工程、
を包含する、方法。
(項目5)
上記花弁特異的プロモーターが、配列番号15の塩基配列を有するMyb転写因子遺伝子プロモーターである、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
(項目6)
上記花弁特異的プロモーターが、配列番号16の塩基配列を有するアントシアニジン合成酵素遺伝子プロモーターである、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)
上記植物体が青色の花弁を有する、項目2または4のいずれか1項に記載の方法。
(項目8)
上記植物がチューリップである、項目1〜7のいずれか1項に記載の方法。
(項目9)
上記チューリップが、紫水晶、夢の紫、プリンスチャールズ、ネグリタ、コートダジュール、ネプチューン、ブルージム、パープルパレス、パープルワールド、パープルフラッグ、ルーブル、ブルーパーロット、アメジスト、カラベラ、パープルマーベル、パンディオン、フランスハルス、アテラ、プリンスチャールズ、紫帽子、およびレリアンスからなる群より選択される、項目8に記載の方法。
(項目10)
青色の花弁を有する植物であって、項目2または4〜6のいずれか1項に記載の方法によって作出された植物。
(項目11)
上記植物がチューリップである、項目10に記載の植物。
(項目12)
上記チューリップが、紫水晶、夢の紫、プリンスチャールズ、ネグリタ、コートダジュール、ネプチューン、ブルージム、パープルパレス、パープルワールド、パープルフラッグ、ルーブル、ブルーパーロット、アメジスト、カラベラ、パープルマーベル、パンディオン、フランスハルス、アテラ、プリンスチャールズ、紫帽子、およびレリアンスからなる群より選択される、項目11に記載の植物。
(項目13)
青色化した植物体作出のための植物細胞であって、項目1、3、5または6のいずれか1項に記載の方法によって作製された、細胞。
(項目14)
配列番号15の塩基配列を有する、核酸。
(項目15)
配列番号16の塩基配列を有する、核酸。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、植物における特定の部位を青色化するための新たな技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、チューリップ品種「紫水晶」の花色およびアントシアニン色素を示す。(a)に示されるように花弁全体は紫色であるが、(b)に示されるように、花底部のみ青色を示す。図1(c)は、この紫色および青色の基となるデルフィニジン3−O−ルチノシド色素の構造を示す。
【図2】図2は、チューリップの花底部から単離された青色化遺伝子の核酸配列(上段;配列番号1)、およびその核酸配列によってコードされるアミノ酸配列(下段;配列番号2)を示す。
【図3】図3は、細胞の青色化に影響を及ぼすチューリップフェリチン遺伝子の核酸配列(上段;配列番号3)およびアミノ酸配列(下段;配列番号4)を示す。遺伝子導入の際には、この遺伝子を改良した抑制遺伝子を用いる。
【図4】図4は、青色化遺伝子およびフェリチン遺伝子の花弁発達過程での発現解析の結果を示す。図4(a)は紫水晶の発達過程における、抱芽期から老化期まで6 stageを示す。図4(b)は、各stageにおける青色化遺伝子の発現を示し、図4(c)は、各stageにおけるフェリチン遺伝子の発現を示す。(b)および(c)における発現は、リアルタイムRT−PCR法によって定量化した。
【図5】図5は、紫水晶の各組織における(a)青色化遺伝子の、(b)フェリチン遺伝子の、発現解析結果を示す。
【図6】図6は、紫水晶以外の他品種における発現解析結果を示す。図6(a)の上段は花底部が青い品種であり、下段は花底部が青くない品種である(いずれも発育stage4のもの)。図6(b)は各品種における青色化遺伝子の発現解析を示し、図6(c)は各品種におけるフェリチン遺伝子の発現解析を示す。
【図7】図7は、本発明において使用される遺伝子導入ベクターを示す。KmR:カナマイシン耐性遺伝子、GFP:緑色蛍光タンパク質遺伝子、TgVIT−A1:チューリップ青色化遺伝子、TgFER1:チューリップフェリチン遺伝子、TgFER1−RNAi:チューリッップフェリチン抑制遺伝子、PNOS:ノパリン合成酵素遺伝子プロモーター、TNOS:ノパリン合成酵素遺伝子ターミネーター、P35S:カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター。
【図8】図8は、図7に示される各遺伝子導入ベクターの導入による、紫色花弁細胞への遺伝子導入結果を示す。遺伝子導入細胞を矢印で示す(写真左)。導入細胞はGFPにより蛍光を発する(写真右)。pBI−BCFは青色化遺伝子導入用ベクターを、pBI−anti−BCFは青色化遺伝子のアンチセンス遺伝子導入用ベクター)を、pBI−FERはフェリチン遺伝子の導入用ベクターを、pBI−FER−RNAiはフェリチンの抑制遺伝子導入用ベクターを、そしてpBI−BCF−FER−RNAiは青色化遺伝子およびフェリチン抑制遺伝子導入用ベクターをそれぞれ示す。
【図9】図9は、フェリチン抑制遺伝子の配列を示す。この配列は、フェリチンcDNAの292−547bpの部分(大文字部分)を含み、間にArabidopsis thaliana WRKY33 gene由来のイントロンとベクターの配列(小文字部分)が挟まれている(配列番号14)。
【図10】図10は、青色化遺伝子導入ベクターpBI−BCFを導入して2日目、2週間目、および3週間目の、カルスの細胞増殖およびGFP蛍光の様子を示す。
【図11】図11は、MYB遺伝子およびANS遺伝子の、種々の組織における発現を示す。対照として、細胞内で恒常的に発現しているGAPDH遺伝子を用いた。
【図12】図12は、花弁特異的プロモーターであるMYB遺伝子プロモーターの塩基配列(配列番号15)を示す。
【図13】図13は、花弁特異的プロモーターであるANS遺伝子プロモーターの塩基配列(配列番号16)を示す。
【図14】図14は、MYB遺伝子プロモーターまたはANS遺伝子プロモーターと、青色化遺伝子(VIT遺伝子)とを繋いで作製された、青色化遺伝子導入用ベクターを示す。青色化遺伝子が導入された紫色細胞において、紫色から青色への細胞の色の変化が観察された。
【図15】図15は、花弁特異的プロモーターのプロモーター活性の確認を示す。
【図16】図16は、花弁特異的プロモーターと青色化遺伝子(VIT遺伝子)とを繋いだベクター(pBT−1またはpBT−11)導入後のカルスの再分化の様子を示す。遺伝子導入されたシュートまたはその一部(丸枠)で、GFP蛍光を確認できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
チューリップには青い花は存在しないが、花底が青い品種は存在している。品種「紫水晶」は、花弁全体が紫色で花底部のみ青色を示す。色素分析の結果、アントシアニン色素は共にデルフィニジンを母核とする同一色素(デルフィニジン3−O−ルチノシド)である(図1)。
【0015】
本発明において、チューリップ「紫水晶」の花弁上部と花底部で発現している遺伝子の解析を網羅的に比較した結果、花底部で特異的に発現している遺伝子の存在を確認し、この遺伝子を青色化遺伝子(配列番号1)と名付けた(図2)。この遺伝子は既知の液胞型鉄イオントランスポーター遺伝子と相同性が高いが、花弁細胞で発現し花色を改変できる機能を持つ新たな遺伝子と言える。
【0016】
さらに、本発明者らは、動物や植物において鉄イオンの貯蔵タンパク質と知られるフェリチンタンパク質に着目し、同じチューリップ花弁の上部からフェリチン遺伝子(配列番号3)を単離した(図3)。これら遺伝子の花弁上部と花底部での発現を花の発育ステージ毎に比較したところ、青色化遺伝子はstage 1〜3で花底部の表皮細胞で強く発現し花弁上部では発現せず、フェリチン遺伝子はstage 4の花弁上部表皮細胞で強く発現し花底部では発現していないことを見出した(図4)。
【0017】
すなわち、青色化遺伝子とフェリチン遺伝子は花弁の紫色細胞と花底の青色細胞では全く逆の発現パターンを示すことを明らかにした。この様な事実はこれまで他の植物においても報告例は無く新たな発見である。理論に束縛されることは意図しないが、これらの事実から、青色細胞では青色化遺伝子が発現しフェリチン遺伝子の発現が抑制されることにより細胞内の鉄イオンは液胞内へ運ばれ、そこでデルフィニジン色素と結合し錯体を形成するために青色を呈するが、一方、紫色細胞ではフェリチン遺伝子が発現し青色化遺伝子の発現が抑制されることにより細胞内の鉄イオンはフェリチンが存在する色素体に運ばれ液胞内へは運ばれないためデルフィニジン色素は紫色を呈することが論理的に推察できた。また、それぞれの遺伝子発現を他の組織でも調べたところ、青色化遺伝子は花底部表皮細胞で最も強く発現していること。また、フェリチン遺伝子も花弁柔組織や茎で発現するものの花弁上部表皮組織で最も強く発現した(図5)。これらの事実は、これらの遺伝子が花色発現と密接な関係を持っていることを強く示唆している。
【0018】
さらに、上記推論をより強固にするため、紫水晶以外の品種で花底部が青い品種と青くない品種で比較したところ、花底部が青い品種すべてにおいて、紫水晶と同様の結果を得たことから花底部における青色発現には、青色化遺伝子の発現とフェリチン遺伝子の発現抑制が関与していることがここでも強く示唆された(図6)。
【0019】
そこで、花弁上部の紫色細胞へ実際に青色化遺伝子を導入するため遺伝子導入用ベクターを構築した(図7)。ここでは、青色化遺伝子発現用ベクター(pBI−BCF)、青色化遺伝子のアンチセンスベクター(pBI−antiBCF)、フェリチン発現用ベクター(pBI−FER)、フェリチン遺伝子抑制用ベクター(pBI−FER−RNAi)、青色化遺伝子発現およびフェリチン遺伝子抑制用ベクター(pBI−BCF−FER−RNAi)を作成した。これらのベクターを花弁上部の紫色細胞へ導入したところ、青色化遺伝子の導入で紫色細胞が青色に変化することを確認した(図8)。さらに、紫色細胞内で発現しているフェリチン遺伝子の発現を抑制するため、RNA干渉技術を使って人為的に構築したフェリチン抑制遺伝子を同時に導入(pBI−BCF−FER−RNAi)すると、実際の花底部の青色に近い濃い青色に改変できることを実証した(図8)。
【0020】
以下に本発明を、必要に応じて、添付の図面を参照して例示の実施例により記載する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0021】
以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきではない。本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは、当業者に明らかである。
【0022】
本明細書において用いられる「植物」とは、植物界に属する生物の総称であり、葉緑体、硬い細胞壁、豊富な永続性の胚的組織の存在、および運動する能力がない生物により特徴付けられる。植物の種類は、例えば、「原色牧野植物大図鑑」(北隆館(1982))などにおいて広範に分類されており、そこに記載されるすべての種類の植物が、本発明において使用され得る。代表的には、植物は、細胞壁の形成・葉緑体による同化作用をもつ顕花植物をいう。「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。単子葉植物としては、ユリ科植物が挙げられる。好ましい単子葉植物としては、チューリップ、ユリ、トウモロコシ、コムギ、イネ、エンバク、オオムギ、ソルガム、ライムギ及びアワが挙げられ、さらに好ましくはチューリップであるが、これらに限定されない。双子葉植物としては、アブラナ科植物、マメ科植物、ナス科植物、ウリ科植物、ヒルガオ科植物が挙げられるが、これらに限定されない。アブラナ科植物としては、ハクサイ、ナタネ、キャベツ、カリフラワーが挙げられるが、これらに限定されない。特に他で示さない限り、植物は、植物体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも意味する。植物器官の例としては、根、葉、茎、および花などが挙げられる。特定の実施形態では、植物は、植物体を意味し得る。本発明において特に好ましい植物はチューリップであり、中でもデルフィニジン色素を作り、かつフェリチンを多く発現している品種(例えば、紫水晶、夢の紫、プリンスチャールズ、ネグリタ、コートダジュール、ネプチューン、ブルージム、パープルパレス、パープルワールド、パープルフラッグ、ルーブル、ブルーパーロット、アメジスト、カラベラ、パープルマーベル、パンディオン、フランスハルス、アテラ、プリンスチャールズ、紫帽子、およびレリアンスなどが挙げられるが、これらに限定されない)が好ましい。
【0023】
別の実施形態において、本発明において使用され得る植物種の例としては、ユリ科、ナス科、イネ科、アブラナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、シソ科、アカザ科、セリ科、ヒルガオ科、キク科などの植物が挙げられる。さらに、本発明において使用され得る植物種の例としては、任意の樹木種、任意の果樹種、クワ科植物(例えば、ゴム)、およびアオイ科植物(例えば、綿花)が挙げられる。
【0024】
ユリ科の植物の例としては、ユリ、オモト、バイモ、カタクリに属する植物が挙げられ、例えば、チューリップ、エンレイソウなどを含む。本発明において特に好ましい植物はチューリップであり、中でも紫水晶、夢の紫、プリンスチャールズ、ネグリタ、コートダジュール、ネプチューン、ブルージム、パープルパレス、パープルワールド、パープルフラッグ、ルーブル、ブルーパーロット、アメジスト、カラベラ、パープルマーベル、パンディオン、フランスハルス、アテラ、プリンスチャールズ、紫帽子、およびレリアンスなど(しかし、これらに限定されない)が好ましい。
【0025】
本明細書において用いられる「植物細胞」とは、上記植物に由来し、再生能を有する任意の細胞をいう。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。
【0026】
本明細書中において使用される「再生能」とは、個体または器官の一部(例えば、細胞)から、元の個体または器官を再生する能力をいう。本発明において「再生能を有する細胞」とは、カルスまたは不定胚などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本明細書において使用される用語「細胞」とは、任意の植物または動物由来であって、自己複製能と分化能とを有する、未分化で幼若な任意の細胞を指し、カルスも含まれる。
【0028】
本発明の方法は、植物細胞(カルスおよび懸濁培養細胞を含む)または植物組織(休眠組織(完熟種子、未熟種子、冬芽、および塊茎を含む)、生殖質、生長点、および花芽を含む)に対して、例えばパーティクルガン、アグロバクテリウム、エレクトロポレーション等の遺伝子導入法によって形質転換を行うことによって実施される。本発明の方法は、好ましくは植物を対象に実施される。
【0029】
本明細書において使用する場合、用語「鉄イオン輸送活性」とは、植物(特に、チューリップ)において液胞に鉄イオンを輸送する活性のことをいう。鉄イオン輸送活性は、例えば、鉄の放射性同位元素59Feを含む水溶液を切り花に吸収させ、液胞内の59Feの取り込みを指標として測定する。あるいは、鉄イオン輸送活性は、導入遺伝子による耐性獲得を指標として、測定することができる。酵母の培養において鉄を含有する培地で鉄感受性変異株を培養すると、変異株は液胞内に鉄を輸送できないので鉄の毒性により致死性を示す。しかし、鉄イオン輸送活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を導入した組換え酵母は、液胞内への鉄輸送活性を持つので鉄は液胞内に蓄積され無毒化するため鉄耐性を示す。本発明において、鉄イオン輸送活性を有する代表的なタンパク質は青色化遺伝子であり、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1に記載の核酸によってコードされるタンパク質である。
【0030】
本明細書において使用する場合、用語「鉄イオン貯蔵活性」とは、植物(特に、チューリップ)においてタンパク質内に鉄イオンを貯蔵する活性のことをいう。鉄イオン貯蔵活性は、例えば以下のように測定することができる。鉄貯蔵が予想されるタンパク質の遺伝子を大腸菌内で発現させ組換えタンパク質を作る。この時、培地中に鉄の合成安定同位体57Feを既知濃度加えておく。作られた組換えタンパク質を精製後、同位体希釈−質量分析法により自然界に最も多く存在する56Feと同位体57Feの比を求める。添加した57Feの量はわかっているので、それから56Fe量が求められる。鉄イオン貯蔵活性があれば精製タンパク質において鉄イオンが検出可能される。あるいは、原始吸光法またはICP法によっても鉄濃度は測定できる。本発明において、鉄イオン貯蔵活性を有する代表的なタンパク質はフェリチンであり、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号3に記載の核酸によってコードされるタンパク質である。本明細書において使用する場合、タンパク質における鉄イオンの「貯蔵」とは、その内部の空洞に鉄イオンを取り込むことをいう。
【0031】
「フェリチン」とは、鉄を含む複合タンパク質の一つである。フェリチンは水溶性タンパク質であり、動物、植物からバクテリアまで広く生体内に存在している。フェリチンは直径約13nmの球殻状タンパク質で、内部に7nmの空洞を持つ。内部の空洞に金属イオンを取り込み、酸化物のコアを形成することができる。生体内ではこの空洞内に鉄を酸化物の形で取り込むことができ、体内の鉄の無毒化や鉄濃度のコントロールの役割を担っている。コアの大きさは内壁の大きさに制限され最大でも7nmである。これは鉄原子4500個分に相当する。鉄以外の金属としてマンガン、コバルト、ニッケル、クロム、インジウムなどがフェリチン内に取り込まれ、コア形成をすることが報告されている。
【0032】
本明細書で使用される場合、「青色化した植物体」とは、その植物体の少なくとも一部(例えば、その植物体の花弁、茎、葉などが挙げられるが、これらに限定されない)が青色化した任意の植物体をいい、その植物体全体が青色化しているものに必ずしも限定されない。「青色化した植物体」における青色化部位は、好ましくは花弁である。「青色化した植物体」における植物体は、好ましくはチューリップである。
【0033】
本明細書で使用される場合、「青色化した植物体作出のための植物細胞」とは、その植物細胞から植物体を再生させたときに、再生した植物体の少なくとも一部が青色化しているような植物細胞をいう。ある実施形態においては、この植物細胞全体が青色化している。ある実施形態においては、この植物細胞の一部のみが青色化している。ある実施形態においては、この植物細胞自体は青色化していない。
【0034】
本発明において、植物体における色は、一般に色を数値として表すCIEL*a*b*表色系による色彩値を指標として判断される。CIEL*a*b*表色系による色彩値は、実体顕微鏡で白色光照明下で得られる画像のCIEL*a*b*値によって表される。CIEL*a*b*表色系では、L軸、a軸、およびb軸の3次元で色を表す。明度をL軸上で0(黒)から100(白)で表し、a軸上では赤が正、緑が負、b軸上では黄が正、青が負を表す。CIEL*a*b*は、赤、緑、黄、青を数値化し、その組み合わせによって色を表現し、さらに明るさの要素も付け加えられる。CIEL*a*b*による色の表現はほぼ無限に存在するといえる。また、色は連続的につながっており、例えば、赤から紫、青、緑に至る変化においても明瞭に区別できるものではなく、必ずその中間色は存在する。本発明では便宜上、以下のとおり紫色および青色、濃い青色の範囲を指定するがこの範囲に収まらない色も存在することは明白である。
紫色 20≦L*≦80, 40≦a*≦90, −50<b*≦−10
青色 20≦L*≦80, −8≦a*≦90, −107≦b*≦−50
濃い青色 5≦L*<20, −8≦a*≦90, −107≦b*≦−50。
【0035】
本明細書において使用する場合、用語「形質転換」、「形質導入」および「トランスフェクション」は、特に言及しない限り互換可能に使用され、宿主細胞への核酸の導入を意味する。本発明においては、パーティクルガン、アグロバクテリウム、エレクトロポレーション等の遺伝子導入法による形質転換が使用される。
【0036】
「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、原核細胞、酵母、植物細胞、植物体、動物細胞、昆虫細胞等が例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。本明細書においては、代表的に、形質転換体は植物細胞または植物体である。
【0037】
本明細書において「再生する」とは、個体の一部分から個体全体が復元される現象を意味する。例えば、再生により、カルスやプロトプラストなどの細胞および葉または根などの組織片から植物体が形成される。
【0038】
形質転換体(例えば、形質転換された植物細胞)を植物体へと再生する方法は当該分野において周知である。そのような方法としては、Rogers et al.,Methods in Enzymology 118: 627−640(1986);Tabata et al.,Plant Cell Physiol.,28:73−82(1987);Shaw,Plant Molecular Biology:A practical approach.IRL press(1988);Shimamoto et al.,Nature 338: 274(1989);Maliga et
al.,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course. Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995);Hiei et al.,Plant
Mol Biol 35:205(1997);Toki et al.,Plant
J 47:969 (2006)などが挙げられる。従って、当業者は、上記当該分野で周知の方法を目的とするトランスジェニック植物に応じて適宜使用することによって、形質転換体(例えば、形質転換された植物細胞)を再生させることができる。チューリップは、例えば、球根りん片を厚さ2〜3mmにスライスし、これをMurashige−Skoog培地(ショ糖20g/L、2,4−D 2mg/L、BA 0.2mg/L)にて、20℃でカルス誘導し、これに目的の遺伝子を導入し、Murashige−Skoog培地(ショ糖20g/L、2,4−D 0.2mg/L)にて、20℃、光照射下で、シュートを誘導することによって再生させることができる。
【0039】
本発明の方法により核酸導入/形質転換された細胞および組織は、当該分野において公知の任意の方法によって、分化、成長および/または増殖され得る。植物種の場合、細胞または組織を分化、成長および/または増殖させる工程は、例えば、その植物細胞もしくは植物組織またはそれらを含む植物体を栽培することによって達成され得る。本明細書では、植物の栽培は当該分野において公知の任意の方法により行うことができる。植物の栽培方法は、例えば、監修 島本功および岡田清,「モデル植物の実験プロトコール−イネ・シロイヌナズナ編−」:細胞工学別冊植物細胞工学シリーズ4;イネの栽培法(奥野員敏)pp.28−32、ならびに、丹羽康夫著,シロイヌナズナの栽培法,pp.33−40に例示されており、当業者であれば容易に実施することができることから本明細書では詳述する必要はない。例えば、シロイヌナズナの栽培は土耕、ロックウール耕、水耕いずれでも行うことができる。白色蛍光灯(6000ルクス程度)の下、恒明条件で栽培すれば播種後4週間程度で最初の花が咲き、開花後16日程度で種子が完熟する。1さやで約40〜50粒の種子が得られ、播種後2〜3ケ月で枯死するまでの間に10000粒程度の種子が得られる。また、例えば、コムギの栽培においては、播種後に一定期間の低温短日条件にさらされなければ、出穂および開花しないことが周知である。従って、例えば、人工環境下(例えば、温室やグロスチャンバー)においてコムギを栽培する場合には、生育初期段階で、コムギ幼植物に低温短日処理(例えば、20℃ 明期8時間(約2000ルクス)および8℃ 暗期16時間での処理など)を行う必要がある。この処理は春化処理(vernalization)と呼ばれる。このような各植物種ごとに必要とされる栽培条件は、当該分野において一般に広く知られており、従って、本明細書中で詳述する必要はない。例えば、チューリップは、20℃で、明期12時間、暗期12時間のサイクルで栽培される。
【0040】
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。
【0041】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
【0042】
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子である、細胞中に存在する核酸の一定の長さの配列をいう。本発明において遺伝子は、遺伝形質を規定するものであっても規定しないものであってもよい。本明細書において、遺伝子は、通常ゲノムに存在するものをさすが、それに限定されず、染色体外の配列、ミトコンドリアの配列なども包含することが理解される。多くの遺伝子は、通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/あるいは「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」をさすことがある。本明細書において遺伝子の「オープンリーディングフレーム」または「ORF」とは、遺伝子の塩基配列を3塩基ずつに区切った時の3通りの枠組の1つであって、開始コドンを有し、そして途中に終止コドンが出現せずある程度の長さを持ち、実際にタンパク質をコードする可能性のある読み枠をいう。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。したがって、例えば、DNAポリメラーゼ遺伝子というときは、通常、DNAポリメラーゼの構造遺伝子ならびにDNAポリメラーゼのプロモーターなどの転写および/または翻訳の調節配列の両方を包含する。本発明では、構造遺伝子のほか、転写および/または翻訳などの調節配列もまた、本発明が対象とする遺伝子として有用であることが理解される。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」ならびに/または「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を指すことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を包含する。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
【0043】
本明細書において遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。また、本明細書において配列(核酸配列、アミノ酸配列など)の同一性とは、2以上の対比可能な配列の、互いに対する同一の配列(個々の核酸、アミノ酸など)の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて相同性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、相同性と類似性とは同じ数値を示す。
【0044】
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて算出される。
【0045】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本明細書において有用なフラグメントの長さは、そのフラグメントの基準となる全長タンパク質の機能のうち少なくとも1つの機能が保持されているかどうかによって決定され得る。
【0046】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
【0047】
本明細書において「ストリンジェントなハイブリダイズ条件」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM
クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1−38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0048】
本明細書では塩基配列の同一性の比較および相同性の算出は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。
【0049】
本明細書において、「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびin situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用されるプロモーターとしては、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応する配列も含まれるべきであることが意図される。
【0050】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0051】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
【0052】
その文字コードは以下のとおりである。
アミノ酸
3文字記号 1文字記号 意味
Ala A アラニン
Cys C システイン
Asp D アスパラギン酸
Glu E グルタミン酸
Phe F フェニルアラニン
Gly G グリシン
His H ヒスチジン
Ile I イソロイシン
Lys K リジン
Leu L ロイシン
Met M メチオニン
Asn N アスパラギン
Pro P プロリン
Gln Q グルタミン
Arg R アルギニン
Ser S セリン
Thr T トレオニン
Val V バリン
Trp W トリプトファン
Tyr Y チロシン
Asx アスパラギンまたはアスパラギン酸
Glx グルタミンまたはグルタミン酸
Xaa 不明または他のアミノ酸。
【0053】
塩基
記号 意味
a アデニン
g グアニン
c シトシン
t チミン
u ウラシル
r グアニンまたはアデニンプリン
y チミン/ウラシルまたはシトシンピリミジン
m アデニンまたはシトシンアミノ基
k グアニンまたはチミン/ウラシルケト基
s グアニンまたはシトシン
w アデニンまたはチミン/ウラシル
b グアニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル
d アデニンまたはグアニンまたはチミン/ウラシル
h アデニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル
v アデニンまたはグアニンまたはシトシン
n アデニンまたはグアニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル、不明、または他の塩基。
【0054】
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長を有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここで具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100、200、300、400、500、600、600、700、800、900、1000およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここで具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
【0055】
本発明において使用されるポリペプチドは、天然型のポリペプチドと実質的に同一の作用を有する限り、アミノ酸配列中の1以上(例えば、1または数個)のアミノ酸が置換、付加および/または欠失していてもよく、糖鎖が置換、付加および/または欠失していてもよい。
【0056】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。親水性指標もまた、改変体作製において考慮される。米国特許第4、554、101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0057】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0058】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトとマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子とβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用であることから、本発明のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0059】
本明細書において「機能的改変体」とは、基準となる配列が担う生物学的活性を保持する改変体をいう。
【0060】
本明細書において「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。核酸においては、保存的置換は、例えば、プロモーター活性を測定しながら確認することができる。
【0061】
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドをコードする遺伝子を作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0062】
本明細書において発現されるべきポリペプチドの核酸形態は、そのポリペプチドのタンパク質形態を発現し得る核酸分子をいう。この核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
【0063】
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変異誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
【0064】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0065】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、原核生物細胞、酵母、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞、植物個体および動物個体等の宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書では、例えば、BACベクターを用いることができる。BACベクターとは、大腸菌のFプラスミドをもとにして作製されたプラスミドで、約300kb以上の巨大なサイズのDNA断片をも大腸菌などの細菌内で安定に保持し増殖させることが可能なベクターである。BACベクターは、少なくともBACベクターの複製に必須の領域を含む。その複製に必須の領域としては、例えば、Fプラスミドの複製開始点であるoriSまたはその改変体が挙げられる。
【0066】
本明細書において「プロモーター」(またはプロモーター配列)とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、通常RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。したがって、本明細書においてある遺伝子のプロモーターの働きを有する部分を「プロモーター部分」という。プロモーターの領域は、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することができる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。
【0067】
本発明において、プロモーターは花弁特異的プロモーターであり得る。花弁特異的プロモーターとしては、アントシアニジン合成酵素遺伝子プロモーターやMyb転写因子遺伝子プロモーターが挙げられる。Myb転写因子遺伝子(MYB遺伝子)プロモーターは、配列番号15の塩基配列を有し、アントシアニジン合成酵素遺伝子(ANS遺伝子)プロモーターは、配列番号16の塩基配列を有する。他の花弁特異的遺伝子プロモーターとして、花色関連遺伝子が考えられ、MYB、ANS以外のプロモーターとして下記遺伝子プロモーターが考えられる。これらはいずれもアントシアニンやフラボノールなどの生合成に関わるものである。
AS(オーレウシジン合成酵素)遺伝子
ANR(アントシアニジン還元酵素)遺伝子
CHI(カルコン異性化酵素)遺伝子
CHS(カルコン合成酵素)遺伝子
DFR(ジヒドロフラボノール4−還元酵素)遺伝子
F3H(フラバノン3−水酸化酵素)遺伝子
F3’H(フラボノイド3’−水酸化酵素)遺伝子
F3’5’H(フラボノイド3’,5’−水酸化酵素)遺伝子
FLS(フラボノール合成酵素)遺伝子
FNS(フラボン合成酵素)遺伝子
GST(グルタチオンS−転移酵素)遺伝子
UF3GT(UDP−グルコース3−O−グリコシル転移酵素)遺伝子。
【0068】
本明細書において「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。プロモーター中のプロモーター活性を強める領域もまたエンハンサーと呼ばれることがある。
【0069】
本明細書において使用する場合、「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0070】
本明細書において使用する場合、「発現ベクター」は、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子など)のような選抜マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、植物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である
本明細書において使用する場合、「導入ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、原核細胞、酵母、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞、植物個体および動物個体等の宿主細胞において自立複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。
【0071】
本明細書において「上流」という用語は、特定の基準点からポリヌクレオチドの5’末端に向かう位置を示す。
【0072】
本明細書において「下流」という用語は、特定の基準点からポリヌクレオチドの3’末端に向かう位置を示す。
【0073】
本明細書において「発現量」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
【0074】
本明細書において使用する場合、「選抜マーカー」とは、目的の核酸構築物、ベクターを含む宿主細胞を選択する指標として機能する遺伝子をいう。選抜マーカーとしては、蛍光マーカー、発光マーカー、および薬剤耐性選抜マーカーが挙げられるが、これらに限定されない。「蛍光マーカー」としては、緑色蛍光プロテイン(GFP)、青色蛍光プロテイン(CFP)、黄色蛍光プロテイン(YFP)および赤色蛍光プロテイン(dsRed)のような蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。「発光マーカー」としては、ルシフェラーゼのような発光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。「薬剤耐性選抜マーカー」としては、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hprt)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、グルタミンシンセターゼ遺伝子、アスパラギン酸トランスアミナーゼ、メタロチオネイン(MT)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、アデノシンデアミナーゼ(AMPD1,2)、キサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ、UMPシンターゼ、P−グリコプロテイン、アスパラギンシンテターゼ、およびオルニチンデカルボキシラーゼなどが挙げられる。除草剤耐性遺伝子としては、ALS(AHAS)遺伝子やPPO遺伝子などが挙げられる。「ネガティブ選抜マーカー」としては、ジフテリア毒素タンパク質A鎖遺伝子(DT−A)、ExotoxinA遺伝子、Ricin toxin A遺伝子、codA遺伝子、シトクロムP−450遺伝子、RNase T1遺伝子およびbarnase遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
(一般生化学・分子生物学)
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associat ES and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0076】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0077】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0078】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0079】
(一般的実施例)
1.植物における、液胞への鉄イオンの輸送活性の測定
鉄イオン輸送活性は、鉄の放射性同位元素59Feを含む水溶液を切り花に吸収させ、液胞内の59Feの取り込みを指標として測定する。あるいは、鉄イオン輸送活性は、導入遺伝子による耐性獲得を指標として、測定することができる。酵母の培養において鉄を含有する培地で鉄感受性変異株を培養すると、変異株は液胞内に鉄を輸送できないので鉄の毒性により致死性を示す。しかし、鉄イオン輸送活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を導入した組換え酵母は、液胞内への鉄輸送活性を持つので鉄は液胞内に蓄積され無毒化するため鉄耐性を示す。
【0080】
2.植物における、鉄イオン貯蔵活性の測定
鉄貯蔵が予想されるタンパク質の遺伝子を大腸菌内で発現させ組換えタンパク質を作る。この時、培地中に鉄の合成安定同位体57Feを既知濃度加えておく。作られた組換えタンパク質を精製後、同位体希釈−質量分析法により自然界に最も多く存在する56Feと同位体57Feの比を求める。添加した57Feの量はわかっているので、それから56Fe量が求められる。鉄イオン貯蔵活性があれば精製タンパク質において鉄イオンが検出可能される。あるいは、原始吸光法またはICP法によっても鉄濃度は測定できる。
【0081】
(実施例1:チューリップ品種「紫水晶」の花弁で発現している遺伝子の解析)
紫水晶の花弁が着色を開始した時期の蕾を花弁上部と花底部に切り分け、それぞれの花弁内側の表皮100mgをピンセットで剥ぎ取り1.5mlマイクロチューブに入れ液体窒素で凍結した。凍結した組織はホモジナイザーペッスルを用いて粉砕し、0.5mlのPlant RNA Rurification Reagent(インビトロジェン)を加え10分間室温にてRNA抽出を行った。抽出後、遠心操作(15,000rpm、5分)により細胞残渣を沈殿し上清液をRNeasy Plant Mini Kit(キアゲン)を用いてマニュアルに従い精製した。次に精製したRNAからFluorescence Differential Display kit ローダミンバージョン(タカラバイオ)により9種類の蛍光下流プライマーを用いて1st cDNAを合成した。さらに、同キットに含まれる24種類の10merプライマーおよび12種類の10mer Primer Set(オペロン社製)をもちいてマニュアルに従いPCR反応(94℃, 2分; 40℃, 1分; 72℃, 1分; 35サイクル)を行った。この反応では9種類の蛍光アンカープライマーおよび36種類の上流プライマーを用いて324通りのPCR反応を花弁上部と花底部それぞれの表皮組織で行った。
【0082】
得られたPCR産物は8%変性ポリアクリルゲルで電気泳動(1500V, 2hr)後、フルオロ・イメージアナライザーFLA−5100(フジフィルム)で読み取り、花弁上部と花底部の増幅バンドを比較した。その結果、花底部だけで発現している6種類の遺伝子の存在が確認された。そこで、それぞれのDNAバンドをゲルから切り出し、1.5mlマイクロチューブに入れ、50μlの滅菌水を加え100℃、10分間抽出を行った。さらに、抽出液1μlと増幅に用いたプライマー組み合わせで再度PCR反応を行い、増幅産物を大腸菌クローニングベクターpT7―Blue Tベクター(タカラバイオ)にサブクローニングした。
【0083】
得られたDNAは常法に従いDNA塩基配列を決定した。さらに、得られた塩基配列情報を基に5’−RACE用プライマーを設計し5’−RACEシステム(インビトロジェン)により5’側のクローニングを行った。また、同様に大腸菌ベクターへサブクローニング後にDNAの塩基配列を決定した。
【0084】
得られたDNA塩基配列情報を基にDNAデータベースで既存の遺伝子との比較を行った結果、タンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)遺伝子、DNA結合活性を持つタンパク質遺伝子、液胞型鉄イオントランスポーター遺伝子等との相同性を持つことが判明した。また、機能未知の遺伝子も存在した。特に、液胞型鉄イオントランスポーター遺伝子は3種類の配列があることが判明した。これらの結果から、花底部の青色化に直接関係していると思われるのは液胞型鉄イオントランスポーターと相同性を持つ遺伝子であると考え、これらを青色化遺伝子と位置づけ、それぞれTgVIT−A1、TgVIT−A2およびTgVIT−B1と命名した。
【0085】
(実施例2:鉄イオン貯蔵タンパク質フェリチンの遺伝子単離)
フェリチンは細胞内で鉄イオンを貯蔵する機能を持つタンパク質として知られている。植物細胞内では葉緑体(色素体)の中に局在し細胞内の鉄イオン濃度の調節に関与していると考えられている。チューリップの花底部における青色化に鉄イオンが必須であることから、花弁細胞内でフェリチン遺伝子が発現しているのか否かを調べる目的で、チューリップのフェリチン遺伝子の単離を試みた。
【0086】
まず、チューリップ花弁から単離、精製したRNAを基に5’−RACEシステム(インビトロジェン)を用いて1st cDNAを合成し、続いて3’端にTdTとdCTPを用いてオリゴdCを付加した。次に、オリゴdCにハイブリダイズするAbrided
Anchor primerと遺伝子配列が既に判明しているダイズ、セイヨウナタネ、シロイヌナズナ、コムギのDNA塩基配列から相同性の高い領域に対するプライマー(5’−CCVASYCKTCKSARYTGRGCNACATAYTC−3’:配列番号5)を合成しPCR反応(94℃,1分;60℃,1分;72℃,1分;35サイクル)により増幅した。ここで、プライマー配列における「R」とはグアニンまたはアデニンを意味し、「Y」とはチミン/ウラシルまたはシトシンを意味し、「M」とはアデニンまたはシトシンを意味し、「K」とはグアニンまたはチミン/ウラシルを意味し、「S」とはグアニンまたはシトシンを意味し、「W」とはアデニンまたはチミン/ウラシルを意味し、「B」とはグアニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシルを意味し、「D」とはアデニンまたはグアニンまたはチミン/ウラシルを意味し、「H」とはアデニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシルを意味し、「V」とはアデニンまたはグアニンまたはシトシンを意味する。その結果、予想されるサイズ(800bp)での増幅が得られた。さらに、この増幅産物がフェリチン遺伝子の一部であることを確認するため、得られたDNA断片の内部に存在するダイズ、セイヨウナタネ、シロイヌナズナ、コムギのDNA塩基配列において相同性の高い領域に対するプライマー(5’−RTBARYGARCARATCAATGTGGARTWCAA−3’:配列番号6)を合成し、再度PCRを行った。その結果、予想されたサイズ(430bp)に増幅断片を得ることができたことから、最初に増幅した800bpのDNAはフェリチン遺伝子の一部であることが示された。さらに、塩基配列の結果フェリチンであることが確認された。また、得られたDNA断片の塩基配列を基にプライマーを合成(5’−TCCCATCCCTTCTCTCTCCACACCCCG―3’:配列番号7)し、oligodTプライマーとの間でてPCR(94℃,30秒;60℃,30秒;72℃,1分;35サイクル)を行いフェリチン遺伝子下流領域のクローン化並びに塩基配列決定を行った。その結果、チューリップフェリチン遺伝子は1,060bpからなり248アミノ酸からなる分子量27,288のタンパク質をコードすることが明らかになった(図3)。また、他植物のフェリチン同様、チューリップのフェリチンはN末端側に葉緑体(色素体)移行シグナル配列を持ち、成熟型タンパク質はシロイヌナズナと77%、イネと74%の相同性を示したことから単離した遺伝子をTgFER1と命名した。
【0087】
(実施例3:青色化遺伝子および鉄イオン貯蔵タンパク質フェリチン遺伝子の花弁発達過程での発現解析)
青色化遺伝子とフェリチン遺伝子が花の発達過程でどのような発現パターンを示すかは、花色発現に関わることであり重要であると考えられる。そこで、紫水晶の抱芽期から老化期まで6段階に分けた花弁(図4a)を材料に、各発育ステージ毎に実施例1同様花弁上部と花底部を切り分け、それぞれの表皮および柔組織から全RNAを単離、精製した。次に得られたRNA2μgを基にSuperScript II(インビトロジェン)により1st cDNA合成をした。TgVITに特異的プライマー(F1:5’−GAGCCTCACGTGTATAATCC−3’,R1(配列番号8):5’−TGCACTCTCTAGTGCTCTCC−3’(配列番号9))およびTgFER特異的プライマー(F1:5’−TGCATACTTTGATCGGGACA―3’,R1(配列番号10):5’−TCGGAGGCATCAGGATAGAC―3’(配列番号11))を用いて定量PCRを行った。内部標準遺伝子として細胞内で恒常的に発現しているGAPDH(glyceraldehydes−3−phosphate dehydrogenase)遺伝子(F1:5’−CAAGTCTGACATCCACATTG−3’,R1(配列番号12):5’−TGCACAGTAGTCATCAAACC−3’(配列番号13))を用い開花期(stage 4)の花弁上部表皮組織で発現しているTgVITまたはTgFERの発現量を1とした相対値で遺伝子発現の相対定量値を求めた。
【0088】
その結果、TgVIT遺伝子の発現は花底部の表皮組織に特異的であり、開花以前の蕾(stage 1〜3)で高く、着色が始まるstage 4以降は抑制されることが明らかになった(図4a)。この現象は、花底部での鉄イオンが開花以前から液胞内に蓄積していることを示唆し、青色発現が紫色を経ずに始まる現象を裏付けている。また、TgFER遺伝子の発現は花弁上部の表皮組織および柔組織で高く、花底部では低い。特に、表皮組織での着色が始まるstage 4で一時的に高くなり、柔組織では抱芽期(stage 1)から着色期(stage 4)にかけて発現が誘導される(図4b)。以上の結果から、理論に束縛されることは意図しないが、花底部ではTgVIT遺伝子が発現し、TgFER遺伝子の発現が抑制されることで、鉄イオンは液胞に蓄積し青色を発現する。花弁上部ではTgVIT遺伝子の発現が抑制され、TgFER遺伝子が発現することで、鉄イオンは色素体に移行し液胞に蓄積されないため紫色を呈するという推測が考えられた。このような現象はこれまで全く知られておらず、今回の実験で初めて明らかにされたものである。
【0089】
(実施例4:青色化遺伝子およびフェリチン遺伝子の組織別発現解析)
青色化遺伝子とフェリチン遺伝子が花弁以外の組織でどう発現しているかを明らかにすることは、これら遺伝子の特性を調べる上で重要であり、組織中の鉄イオンの動態を推察する上でも重要である。そのため、葉、茎、球根(りん片)、根での遺伝子発現量を比較した。その結果、開花期での青色化遺伝子の発現は、葉や茎など他の組織でも若干発現が見られるものの花底部表皮組織で最も高く、花底部に特異性が高いことが判明した(図5a)。すなわち、チューリップの特性を調べたことによってこのような遺伝子の関与が初めて明らかにされたと言える。さらに、同時期のフェリチン遺伝子は花弁上部の表皮組織や柔組織また茎で強く発現している(図5b)。これもチューリップの特性であり、これまで他の植物も含めて花弁上部と花底部での遺伝子発現の違いを調べた例はなく、本発明によって初めて明らかにされた現象である。以上の結果から、開花期において青色化遺伝子およびフェリチン遺伝子の発現は花弁組織での発現が最も高く、花色発現に大きく関係していることが示唆された。
【0090】
(実施例5:青色化遺伝子およびフェリチン遺伝子の他品種での発現)
紫水晶で明らかになった青色化遺伝子とフェリチン遺伝子の花弁での発現パターンが紫水晶に特徴的なものか、あるいは他の品種にも共通する現象かを調べることは青色化メカニズムの不変性を論ずる上で重要なことである。そこで、花底部が青い紫水晶、白雪姫、ミレラ、紫雲、クィーンオブナイトおよび花底部が青くない白雲、メセアポゼラン、黄小町、ゴールデンメロディー、ゴールデンエンパイヤステート、パープルパレス、ネプチューンの蕾(stage4)の花弁上部および花底部表皮組織における遺伝子発現量を定量PCR法にて比較した。
【0091】
その結果、青色化遺伝子の発現は、花底部が青い品種すべてにおいて花弁上部では発現せず花底部のみで発現し、特にミレラやクィーンオブナイトでは紫水晶より強く発現していた(図6b)。また、花底部が青くない品種では黄小町とゴールデンエンパイヤステートの花底部で発現が見られるものの、他の品種では花底部での発現は見られなかった。黄小町とゴールデンエンパイヤステートでは青色化遺伝子の発現により液胞への鉄イオンの蓄積があるが、デルフィニジン色素が作られていないため青くはならないと考えられる。
【0092】
フェリチン遺伝子の発現は、花底部の青い品種すべてにおいて花弁上部の表皮組織で強く発現し花底部での発現は低い。また、花底部が青くない品種ではゴールデンメロディとゴールデンエンパイヤステートが花弁上部で強く発現するものの、他の品種では花弁上部と同程度に花底部でも発現している(図6c)。さらに、パープルパレスやネプチューンは花弁が紫色であるにも関わらず花底部は青くない。これは、花底部で青色化遺伝子が発現せず、フェリチン遺伝子が発現していることによって、鉄イオンが液胞に運ばれないためであると考えられる。
【0093】
以上の結果から、花底部が青い品種においてはいずれも花底部での青色化遺伝子の発現とフェリチン遺伝子の発現抑制が見られることから、これら遺伝子の発現制御がチューリップでは不変的に青色化に深く関わっていることが示された。また、これらの結果から青色化遺伝子は単に液胞への鉄イオン輸送という機能のみならず明確に青色を発現するために機能していると言える。
【0094】
(実施例6:遺伝子導入用ベクターの構築)
青色化遺伝子とフェリチン遺伝子が花弁の青色化に関わることを証明するため、花弁上部の紫色細胞への遺伝子導入を試みた。
【0095】
まず、Gate way システムによりベクターを作成するため、エントリーベクターpENTR/SD/D(インビトロジェン)にマニュアルに従いTgVIT−A1遺伝子またはTgFER1遺伝子またはTgVIT−A1のアンチセンス(逆向き)またはRNA干渉(RNAi)用にTgFER1遺伝子の一部を繋いだエントリーベクターを作製した。RNAiのコンストラクトに使った部分はフェリチンcDNAの292−547bpの部分(図9における大文字部分)であり、間にArabidopsis thaliana WRKY33 gene由来のイントロンとベクターの配列(図9における小文字部分)が挟まれている(配列番号14)(図9を参照のこと)。
【0096】
次にLRクロナーゼ酵素(インビトロジェン)によりディスティネーションベクターpBI−OX−GW(GFP)(インプランタイノベーションズ)に目的遺伝子を移行し遺伝子導入用ベクターpBI−BCF、pBI−antiBCF、pBI−FERを作成し、pBI−sense,antisense−GW(インプランタイノベーションズ)を用いてpBI−FER−RNAiを作成し、さらにpBI−FER−RNAiの制限酵素PmeI部位にpBI−BCFのAvrII−EcoRI部位を末端平滑化後に連結しpBI−BCF−FER−RNAiを作製した(図7)。それぞれのベクターには遺伝子導入の際に標識となるGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子が組み込まれている。
【0097】
(実施例7:紫色花弁細胞への遺伝子導入)
実施例6において作成した遺伝子導入用ベクターをパーティクルガン法によってチューリップ紫水晶の花弁上部紫色細胞へ遺伝子導入し色の変化を観察した。
【0098】
1.5ml用マイクロチューブにパーティクルガン用金粒子(0.6μm)0.3mg(60mg/ml濃度)を入れ、ベクターDNA5μg(1μg/μl濃度)を加えよく混合した。それに更に2.5M塩化カルシウム溶液50μlと0.1Mスペルミジン溶液20μlを順次加えボルテックスミキサーで3分間混合した。それを30分間室温で静置した後、500rpm、3分遠心し金粒子を沈殿した。その上清を捨てた後、70%エタノールを1ml加え金粒子を洗い、遠心後エタノールを除き、さらに100%エタノール1mlで洗浄した。さらに遠心後エタノールを除き、最後に100%エタノール100μlを加え金粒子をよくほぐしながらエタノール中に分散させた。さらに、超音波処理により金粒子を細かく分散させた。これを10μlずつマイクロキャリアディスクの中央に乗せ風乾した。次に、パーティクルガン装置(バイオラッドPDS−1000/Heシステム)を使い28インチHgの真空下で1350psiの圧力で遺伝子導入を行った。
【0099】
遺伝子導入した花弁は20℃に置き2日後に蛍光実体顕微鏡の青色光励起下でGFPタンパク質により緑色蛍光を発する細胞が遺伝子導入された細胞であることからその細胞の色を観察した。
【0100】
その結果、青色化遺伝子を発現するpBI−BCF導入細胞では紫色から青色への改変が見られ、青色化遺伝子を逆向きに挿入したpBI−anti−BCFでは青色化しないことが確かめられた。このことから青色化遺伝子の発現が花底部における青色化に必須であることが示された(図8)。また、フェリチン遺伝子を発現するpBI−FERおよびRNA干渉によってフェリチン遺伝子の発現を抑制するpBI−FER−RNAi導入細胞の花色は紫色のままであることから、フェリチン遺伝子は直接青色化には影響しないと考えられた。ところが、青色化遺伝子を発現しかつフェリチン遺伝子の発現を抑制するpBI−BCF−FER−RNAi導入細胞はpBI−BCF導入細胞より濃い青色を示すことから、フェリチン遺伝子の発現抑制が青色化へ間接的に影響していることが示された(図8)。
【0101】
これは、花底部での青色発現を再現しているものであり、これまでの推論が正しいことを示す結果であるといえる。すなわち、「紫水晶」花底部では青色化遺伝子の発現とフェリチン遺伝子の発現抑制により青色発現が行われており、これら遺伝子の発現を花弁上部の紫色細胞で再現することにより、青色細胞と同程度の青さを紫色細胞でも再現できることを示した最初の例である。
【0102】
ここで改変した青色を客観的に表現するために一般に色を数値として表すCIEL*a*b*表色系による色彩値を求めた。方法は、顕微分光測光法により顕微分光測光計(日本分光MSV-300型)により細胞の色彩をCIEL*a*b*値で表した。その結果、表1
に示す通り青色の数値が得られた。
【0103】
【表1】
上述のように、本発明では、以下のように紫色、青色、および濃い青色を指定する。
紫色 20≦L*≦80, 40≦a*≦90, −50<b*≦−10
青色 20≦L*≦80, −8≦a*≦90, −107≦b*≦−50
濃い青色 5≦L*<20, −8≦a*≦90, −107≦b*≦−50
表1において、紫色の細胞(L=37.9,a=68.8,b=−44.8)は上記の紫色の範囲に含まれ、青色化遺伝子の導入により青色の細胞(L=22.8,a=60.8,b=−82.8)へと変化した。さらに、青色化遺伝子とフェリチン抑制遺伝子を導入した場合の青色細胞(L=7.1,a=26.5,b=−59.5)となり、単に青色化遺伝子を導入した細胞に比べて明るさや赤色が顕著に下がっており濃い青色に変化したことが読み取られる。
【0104】
(実施例8 遺伝子導入ベクターpBI−BCFのカルスへの導入)
カルスに、実施例6において作製した青色化遺伝子導入ベクターpBI−BCFを導入した。
【0105】
(カルスの誘導)
チューリップ球根の外側の外皮を剥き、2〜4分割程度の大きさに切り分けた。それを滅菌した密閉容器に入れ、10%次亜塩素酸ナトリウム溶液を球根が十分浸かる程度に加え5〜10分間超音波をかけた。その後、5〜10分間静置し球根の滅菌を行った。滅菌処理後、クリーンベンチ内において滅菌水で2〜3回球根をすすぎ、濾紙上で球根のりん片を厚さ2mm程度にスライスし、カルス誘導培地に置床した。
【0106】
カルス誘導は、基本培地をMS(Murashige & Skoog)培地とした。ただし、無機塩類は1/2倍濃度で、NH4NO3のみ1/4倍濃度を使用した。以下に、組成および濃度を示す。
(無機塩類)1L当たり、
NH4NO3 0.41g
KNO3 0.95g
KH2PO4 85mg
MnSO4・4H2O 11.15mg
ZnSO4・4H2O 4.3mg
CuSO4・5H2O 0.0125mg
NaMoO4・2H2O 0.125mg
CoCl2・6H2O 0.0125mg
KI 0.415mg
H3BO3 3.1mg
CaCl2・2H2O 220mg
MgSO4・7H2O 185mg
FeSO4・7H2O 13.9mg
Na2−EDTA 18.65mg
(ビタミン類)
ニコチン酸 0.5mg
チアミン塩酸 0.1mg
ピリドキシ塩酸 0.5mg
ミオ−イノシトール 100mg
グリシン 2mg
(糖)
サッカロース 40g
(植物ホルモン)
2,4−D(2,4−Dichlorophenoxyacetic Acid) 1mg
BA(6−Benzyladenine) 1mg
(固化剤)
ゲランガム 2g
(pH調整)
pH5.8 KOH
【0107】
これらの成分を混合した後、121℃、20分間オートクレーブにより滅菌し、60℃程度に冷めたら9cmの滅菌シャーレに分注した。培地上にりん片の切片を置床したらパラフィルムで密閉し、20℃、暗条件で培養した。
【0108】
(遺伝子導入)
上記りん片置床から1〜2ヶ月経過しカルス形成が認められた後、パーティクルガン法によりカルス細胞への遺伝子導入を図った。以下に遺伝子導入条件を示す。
【0109】
金粒子の調製:金粒子(60mg/ml)を1.5mlマイクロチューブに取り、99.5%エタノール1mlを加え激しく懸濁した。その後、7,000rpmで遠心し金粒子を沈殿させ、エタノールを捨てた。そこに滅菌水1mlを加えて洗浄し、遠心後、滅菌水を捨てた。次いで50%グリセロールを加え、よく懸濁した。
【0110】
金粒子へのDNAコーティング:金粒子50μl(0.3mg)を1.5mlマイクロチューブにとり、遺伝子導入ベクター(pBI−BCF)DNA(1μg/μl)5μlを加え、ボルテックスミキサーで激しく混合した。そこに、CaCl2(2.5M)50μlとスペルミジン(0.1M)20μlを順次加え、ボルテックスミキサーで混合した。混合後、室温で30分間静置し、その後、7,000rpmで遠心後上清を取り除き、新たに70%エタノール1mlを加え軽く攪拌した。遠心後エタノールを取り除き、新たに99.5%エタノール1mlを加え軽く攪拌した。遠心後エタノールを除き、新たに99.5%エタノール50μlを加え金粒子をよく懸濁した。その懸濁液10μlずつをマイクロキャリアの中心にのせ、風乾した。以下の条件でカルス細胞への遺伝子導入を行った。
【0111】
遺伝子導入装置:PDS−1000/Heパーティクルデリバリーシステム(バイオラッド製)
遺伝子導入圧力:1,550〜1,800psi
真空度:28inHg
金粒子径:0.6〜1.0μm。
【0112】
遺伝子導入から2日目、2週間目および3週間目の細胞増殖と遺伝子導入細胞におけるGFP発現の様子を示す。図10に示す通り、青色化導入遺伝子ベクターpBI−BCFを導入した細胞は、3週間目以降、カルス細胞がクロロシス(鉄欠乏)になって白化し(図10における矢印を参照のこと)、それ以上増殖しないことが明らかになった。理論に束縛されることを意図しないが、この現象は、青色化遺伝子が発現することにより、鉄が液胞内に輸送され、細胞質内の鉄濃度が極端に減少したためであると考えられる。この事象は、植物体に害を及ぼさずに液胞内の鉄イオンレベルを人為的に調節することが非常に困難であるということを示す一例である。
【0113】
(実施例9 花弁特異的プロモーターの単離)
花弁特異的に遺伝子発現を誘導するプロモーターを新規に単離した。具体的には、ます、花色の発現に関連する遺伝子であるMyb転写因子遺伝子(MYB遺伝子)およびアントシアニジン合成酵素遺伝子(ANS遺伝子)を単離した。MYB遺伝子およびANS遺伝子の発現解析を行ったところ、花弁での発現が最も強く、花弁上部と花底部の両方で発現し、他の組織においてはほとんど発現していないことが明らかになった(図11を参照のこと)。
【0114】
次いで、MYB遺伝子およびANS遺伝子のプロモーターを、以下の方法(RightWalk法)によって単離し、そのDNA塩基配列を決定した。
ゲノムDNAの既知配列(ANS遺伝子とMYB遺伝子)から未知のプロモーター領域をクローニングするため、株式会社ベックスのRightWalkキットを使用した。
【0115】
1.既知配列内に切断箇所を持たない制限酵素を用いてゲノムDNAを処理する。
2.Klenow酵素(3’→5’exo−)を用いて1塩基伸長を行う。
3.アダプターの結合を行う。
4.アダプターに特異的なプライマー(WP1)および既知配列特異的プライマー(SP1)を用いて1回目のPCRを行う。
5.1回目のPCR産物を100倍希釈し、2回目のPCR用の鋳型にする。
6.1回目のPCRに用いたプライマーの内側に位置するアダプターに特異的なプライマー(WP2)および既知配列特異的プライマー(SP2)を用いて2回目のPCRを行う。
7.増幅産物の塩基配列を解析し、一部既知配列を含む未知の配列であることを確かめる。
【0116】
より詳細には、Tokuji Tsuchiya,Nanako Kameya and Ikuo Nakamura(2009)Straight Walk:A modified method of ligation−mediated genome walking for plant species with large genome.Analytical Biochemistry 388:158−160を参照のこと。
【0117】
(MYB遺伝子プロモーターの単離)
1.制限酵素Nhe Iを用いて500ngのゲノムDNAを37℃、1時間処理
<反応液組成>
DNA(500ng) 7.0 uL
10×制限酵素バッファ 2.0 uL
NheI(10U) 1.0 uL
滅菌水 10.0 uL
Total 20.0 uL
【0118】
2.dCTPを基質にKlenow酵素を用いて25℃、15分間の1塩基伸長反応を行った。その後、72℃、20分間の処理によりKlenow酵素を失活させた。
<反応液組成>
ステップ1反応液 10.0 uL
dCTP (1mM) 1.0 uL
Klenow (3’→5’exo−) 1.0 uL
Total 12.0 uL
【0119】
3.RWA−2アダプターをT4 DNA ligaseにより16℃、16時間の結合を行った。
<反応液組成>
ステップ2反応液 12.0 uL
RWA−2 2.0 uL
T4 DNA ligase 2.0 uL
10×ligase バッファ 2.4 uL
滅菌水 5.6 uL
Total 24.0 uL
【0120】
4.ステップ3の反応液24μlに水26μlを加え、その1μlを鋳型に1回目のPCRを行った。
プライマー配列
WP1:CGCAGGCTGGCAGTCTCTTTAG(配列番号17)
SP1:TTCGAGACTGAAGATGAAGATATACCTG(配列番号18)
<反応液組成>
鋳型DNA 1.0 uL
KODポリメラーゼ(5U/uL) 1.0 uL
10×PCRバッファ 5.0 uL
dNTPs(2mM) 5.0 uL
MgSO4(25mM) 2.0 uL
WP1(10pmol) 1.0 uL
SP1(10pmol) 1.0 uL
滅菌水 34.0 uL
Total 50.0 uL
<反応条件>
94℃ 2分 (1サイクル)
94℃ 30秒
65℃ 30秒
68℃ 7分 (35サイクル)
【0121】
5.1回目のPCR産物を1μlを鋳型に2回目のPCRを行った。反応液組成はプライマー以外、ステップ4と同じ。反応条件も同じ。
プライマー配列
WP2:ATGCGGCCGCTCTCTTTAGGGTTACACGATTGCTT(配列番号19)
SP2:TCCATAGTCCATGGTCCTTTCCTAAC(配列番号20)
【0122】
6.1kbp以上のPCR産物の増幅を確認した。
【0123】
7.得られたPCR産物をTOPOベクターにTAクローニングし、塩基配列を解析した。
その結果、MYB遺伝子上流のプロモーターを含むと予想される未知配列1,208bpを得た。
【0124】
(ANS遺伝子プロモーターの単離)
1.制限酵素BamH I を用いて500ngのゲノムDNAを37℃、1時間処理
<反応液組成>
DNA(500ng) 7.0 uL
10×制限酵素バッファ 2.0 uL
BamHI(10U) 1.0 uL
滅菌水 10.0 uL
Total 20.0 uL
【0125】
2.dGTPを基質にKlenow酵素を用いて1塩基伸長反応を行った。
<反応液組成>
ステップ1反応液 10.0 uL
dGTP (1mM) 1.0 uL
Klenow (3’→5’exo−) 1.0 uL
Total 12.0 uL
【0126】
3.RWA−1アダプターのT4 DNA ligaseによる結合を行った。
<反応液組成>
ステップ2反応液 12.0 uL
RWA−1 2.0 uL
T4 DNA ligase 2.0 uL
10×ligase バッファ 2.4 uL
滅菌水 5.6 uL
Total 24.0 uL
【0127】
4.アダプターを結合した反応液24μlに水26μlを加え、その1μlを鋳型に1回目のPCRを行った。
プライマー配列
WP1:CGCAGGCTGGCAGTCTCTTTAG(配列番号21)
SP1:CTCACCTTCTCAATCACCTCTTTTGC(配列番号22)
<反応液組成>
鋳型DNA 1.0 uL
KODポリメラーゼ(5U/uL) 1.0 uL
10×PCRバッファ 5.0 uL
dNTPs(2mM) 5.0 uL
MgSO4(25mM) 2.0 uL
WP1(10pmol) 1.0 uL
SP1(10pmol) 1.0 uL
滅菌水 34.0 uL
Total 50.0 uL
<反応条件>
94℃ 2分 (1サイクル)
94℃ 30秒
65℃ 30秒
68℃ 7分 (35サイクル)
【0128】
5.1回目のPCR産物を1μlを鋳型に2回目のPCRを行った。反応液組成はプライマー以外、ステップ4と同じ。反応条件も同じ。
プライマー配列
WP2:ATGCGGCCGCTCTCTTTAGGGTTACACGATTGCTT(配列番号23)
SP2:TCAACACACTTCGCCCTCTCCTTC(配列番号24)
【0129】
6.1kbp以上のPCR産物の増幅を確認した。
【0130】
7.得られたPCR産物をTOPOベクターにTAクローニングし、塩基配列を解析した。
【0131】
その結果、ANS遺伝子上流のプロモーターを含むと予想される未知配列879bpを得た。
【0132】
上述の方法によって単離したMYB遺伝子プロモーターの塩基配列(配列番号15)を図12に、ANS遺伝子プロモーターの塩基配列(配列番号16)を、図13にそれぞれ示す。
【0133】
単離したMYB遺伝子プロモーターおよびANS遺伝子プロモーターが、実際にプロモーター活性を有しているか否かを試験するために、それぞれのプロモーター領域に青色化遺伝子(VIT遺伝子)を繋いだベクター(pBT−1およびpBT−11)を構築し(図14を参照のこと)、パーティクルガン法により花弁の紫色細胞に遺伝子導入を行った。その結果、青色化遺伝子が導入された紫色細胞において、紫色から青色への細胞の色の変化が観察された(図15を参照のこと)ことから、それぞれのプロモーターが、実際に青色化遺伝子の発現を誘導するプロモーター活性を有していることが明らかになった。
【0134】
(実施例10 花弁特異的プロモーターを用いるカルスへの青色化遺伝子の導入)
実施例9で作製した青色化遺伝子導入用ベクターpBT−1およびpBT−11を、カルスに、実施例8と同様の方法によって導入した。遺伝子導入後、カルス誘導培地で培養を続け、2〜4週間後、カルス誘導培地にビアラホス(50mg/l)加えた培地に移植した。2〜3ヶ月の培養後、以下の再分化培地に移植し再分化を誘導した。再分化条件は、植物ホルモン2,4−D 0.01mg、BA 0.2mgであり、その他はカルス誘導条件と同じであった。ただし、光照射(約2,000lux)で培養した。驚くべきことに、実施例8および図10において観察されたようなカルスの増殖阻害は観察されず、細胞選抜後に再分化することが明らかになった(図16を参照のこと)。遺伝子導入されたシュートまたはその一部(丸枠)で、GFP蛍光を確認できる。
【0135】
(実施例11:青い花弁を有する植物体の作出)
カルスに、花弁特異的プロモーター、青色化遺伝子、および選抜マーカーを含む遺伝子導入ベクターを導入し、次いで例えば選抜薬剤を含む培地中で培養を行って目的の遺伝子が導入された細胞のみを増殖させ、これを再生させることによって、青い花弁を有する植物体を得ることができる。
【0136】
チューリップは、例えば、球根りん片を厚さ2〜3mmにスライスし、これをMurashige−Skoog培地(ショ糖20g/L、2,4−D 2mg/L、BA 0.2mg/L)にて、20℃でカルス誘導し、これに目的の遺伝子を導入し、Murashige−Skoog培地(ショ糖20g/L、2,4−D 0.2mg/L)にて、20℃、光照射下で、シュートを誘導することによって再生させることができる。
【0137】
植物体へと再生はまた、Rogers et al.,Methods in Enzymology 118: 627−640(1986);Tabata et al.,Plant Cell Physiol.,28:73−82(1987);Shaw,Plant Molecular Biology:A practical approach.IRL press(1988);Shimamoto et al.,Nature 338: 274(1989);Maliga et al.,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course. Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995);Hiei et al.,Plant Mol Biol 35:205(1997);Toki et al.,Plant J 47:969 (2006)等に記載される方法に従って行うこともできる。さらに、近年組織培養に必要としない組換え体作出法も開発されており、必ずしも本例に限定されるものではない。
【0138】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【配列表フリーテキスト】
【0139】
配列番号1=青色化遺伝子の核酸配列
配列番号2=青色化遺伝子のアミノ酸配列
配列番号3=フェリチン遺伝子の核酸配列
配列番号4=フェリチン遺伝子のアミノ酸配列
配列番号5=フェリチン相同領域用プライマー
配列番号6=フェリチン相同領域用プライマー
配列番号7=フェリチン用プライマー
配列番号8=TgVIT特異的プライマー
配列番号9=TgVIT特異的プライマー
配列番号10=TgFER特異的プライマー
配列番号11=TgFER特異的プライマー
配列番号12=GAPDH遺伝子用プライマー
配列番号13=GAPDH遺伝子用プライマー
配列番号14=フェリチン遺伝子RNAi
配列番号15=MYB遺伝子プロモーターの塩基配列
配列番号16=ANS遺伝子プロモーターの塩基配列
【特許請求の範囲】
【請求項1】
青色化した植物体作出のための植物細胞の作製方法であって、該植物細胞に、以下:
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
からなる群より選択される核酸を導入する工程を包含し、該核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、方法。
【請求項2】
青色化した植物体の作出方法であって、以下:
(i)植物細胞に、以下:
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
からなる群より選択される核酸を導入する工程であって、該核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、工程、ならびに
(ii)工程(i)で作製した該植物細胞から植物体を再生する工程、
を包含する、方法。
【請求項3】
青色化した植物体作出のための植物細胞の作製方法であって、該植物細胞に、以下(1)の核酸および(2)の核酸:
(1)以下、(a)〜(d)からなる群から選択される核酸、
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
(2)以下(e)〜(h)からなる群から選択される核酸の発現量を低下させる核酸、
(e)配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(f)配列番号3に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(g)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(h)配列番号4に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
を導入する工程を包含し、該核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、方法。
【請求項4】
青色化した植物体の作出方法であって、以下:
(i)植物細胞に、以下(1)の核酸および(2)の核酸:
(1)以下、(a)〜(d)からなる群から選択される核酸、
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
(2)以下(e)〜(h)からなる群から選択される核酸の発現量を低下させる核酸、
(e)配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(f)配列番号3に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(g)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(h)配列番号4に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
を導入する工程であって、該核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、工程、ならびに
(ii)工程(i)で作製した該植物細胞から植物体を再生する工程、
を包含する、方法。
【請求項5】
前記花弁特異的プロモーターが、配列番号15の塩基配列を有するMyb転写因子遺伝子プロモーターである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記花弁特異的プロモーターが、配列番号16の塩基配列を有するアントシアニジン合成酵素遺伝子プロモーターである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記植物体が青色の花弁を有する、請求項2または4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記植物がチューリップである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記チューリップが、紫水晶、夢の紫、プリンスチャールズ、ネグリタ、コートダジュール、ネプチューン、ブルージム、パープルパレス、パープルワールド、パープルフラッグ、ルーブル、ブルーパーロット、アメジスト、カラベラ、パープルマーベル、パンディオン、フランスハルス、アテラ、プリンスチャールズ、紫帽子、およびレリアンスからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
青色の花弁を有する植物であって、請求項2または4〜6のいずれか1項に記載の方法によって作出された植物。
【請求項11】
前記植物がチューリップである、請求項10に記載の植物。
【請求項12】
前記チューリップが、紫水晶、夢の紫、プリンスチャールズ、ネグリタ、コートダジュール、ネプチューン、ブルージム、パープルパレス、パープルワールド、パープルフラッグ、ルーブル、ブルーパーロット、アメジスト、カラベラ、パープルマーベル、パンディオン、フランスハルス、アテラ、プリンスチャールズ、紫帽子、およびレリアンスからなる群より選択される、請求項11に記載の植物。
【請求項13】
青色化した植物体作出のための植物細胞であって、請求項1、3、5または6のいずれか1項に記載の方法によって作製された、細胞。
【請求項14】
配列番号15の塩基配列を有する、核酸。
【請求項15】
配列番号16の塩基配列を有する、核酸。
【請求項1】
青色化した植物体作出のための植物細胞の作製方法であって、該植物細胞に、以下:
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
からなる群より選択される核酸を導入する工程を包含し、該核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、方法。
【請求項2】
青色化した植物体の作出方法であって、以下:
(i)植物細胞に、以下:
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
からなる群より選択される核酸を導入する工程であって、該核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、工程、ならびに
(ii)工程(i)で作製した該植物細胞から植物体を再生する工程、
を包含する、方法。
【請求項3】
青色化した植物体作出のための植物細胞の作製方法であって、該植物細胞に、以下(1)の核酸および(2)の核酸:
(1)以下、(a)〜(d)からなる群から選択される核酸、
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
(2)以下(e)〜(h)からなる群から選択される核酸の発現量を低下させる核酸、
(e)配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(f)配列番号3に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(g)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(h)配列番号4に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
を導入する工程を包含し、該核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、方法。
【請求項4】
青色化した植物体の作出方法であって、以下:
(i)植物細胞に、以下(1)の核酸および(2)の核酸:
(1)以下、(a)〜(d)からなる群から選択される核酸、
(a)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン輸送活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
(2)以下(e)〜(h)からなる群から選択される核酸の発現量を低下させる核酸、
(e)配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(f)配列番号3に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸;
(g)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸;および
(h)配列番号4に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、付加、または置換を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、鉄イオン貯蔵活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
を導入する工程であって、該核酸は、花弁特異的プロモーターに作動可能に連結されている、工程、ならびに
(ii)工程(i)で作製した該植物細胞から植物体を再生する工程、
を包含する、方法。
【請求項5】
前記花弁特異的プロモーターが、配列番号15の塩基配列を有するMyb転写因子遺伝子プロモーターである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記花弁特異的プロモーターが、配列番号16の塩基配列を有するアントシアニジン合成酵素遺伝子プロモーターである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記植物体が青色の花弁を有する、請求項2または4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記植物がチューリップである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記チューリップが、紫水晶、夢の紫、プリンスチャールズ、ネグリタ、コートダジュール、ネプチューン、ブルージム、パープルパレス、パープルワールド、パープルフラッグ、ルーブル、ブルーパーロット、アメジスト、カラベラ、パープルマーベル、パンディオン、フランスハルス、アテラ、プリンスチャールズ、紫帽子、およびレリアンスからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
青色の花弁を有する植物であって、請求項2または4〜6のいずれか1項に記載の方法によって作出された植物。
【請求項11】
前記植物がチューリップである、請求項10に記載の植物。
【請求項12】
前記チューリップが、紫水晶、夢の紫、プリンスチャールズ、ネグリタ、コートダジュール、ネプチューン、ブルージム、パープルパレス、パープルワールド、パープルフラッグ、ルーブル、ブルーパーロット、アメジスト、カラベラ、パープルマーベル、パンディオン、フランスハルス、アテラ、プリンスチャールズ、紫帽子、およびレリアンスからなる群より選択される、請求項11に記載の植物。
【請求項13】
青色化した植物体作出のための植物細胞であって、請求項1、3、5または6のいずれか1項に記載の方法によって作製された、細胞。
【請求項14】
配列番号15の塩基配列を有する、核酸。
【請求項15】
配列番号16の塩基配列を有する、核酸。
【図2】
【図3】
【図5】
【図7】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図4】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図15】
【図16】
【図3】
【図5】
【図7】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図4】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−22365(P2010−22365A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142812(P2009−142812)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】
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