説明

静磁波素子および静磁波装置

【課題】 共振特性に優れた磁波素子および静磁波装置を提供する。
【解決手段】 素子基板3と、素子基板3の主面上に位置する磁性膜2と、一部が磁性膜2上に位置する励振電極5とを備えた静磁波素子1である。励振電極5は、素子基板3の主面上に位置した第1バスバー6と、第1バスバー6に対向するようにして素子基板3の主面上に位置した第2バスバー7と、一方端が第1バスバー6に接続されて第1バスバー6から第2バスバー7に向かう第1方向に伸びている少なくとも1つの第1電極指8と、一方端が第2バスバー7に接続されて第1方向と反対方向に伸びている少なくとも1つの第2電極指9とを含み、磁性膜2が第1領域T1にのみ設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタを構成する共振子などに使用される静磁波素子および静磁波装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より携帯電話をはじめとする無線通信機器などには、特定の周波数帯域の電気信号の取り出しなどを行うデバイスとして弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)を
利用したものが広く使用されている。
【0003】
SAWデバイスは、圧電基板上にIDT(InterDigital Transducer)電極を形成した
構造をなしている。
【0004】
近年、無線通信機器などではより高周波の電気信号を利用するようになってきており、例えば、2.5GHz以上の周波数帯域を利用するようなものも考えられている。それに伴い携帯電話に使用されるフィルタなどにも高周波化に対応したものが求められる。
【0005】
しかしながら、SAWを利用したデバイスにおいて、2.5GHzを超えるような高周波に対応させようとすると、IDT電極を構成する電極指間の間隔を非常に狭くしなければならず、歩留まり良くSAWデバイスを製造することが困難となってくる。また、電極指自体が小さくなることによって電気抵抗が増大し、例えば、フィルタの挿入損失などの要求特性を満たすことが困難となってくる。
【0006】
一方、SAWを利用したものでなく磁性膜中を伝搬する静磁波を利用したデバイスが従来から知られている。静磁波を利用したデバイスは、素子基板と素子基板の主面に形成された磁性膜と、磁性膜上に形成された励振電極とから構成されている(例えば、特許文献1の図7参照)。
【0007】
かかる静磁波を利用したデバイスは、静磁波の伝搬速度がSAWよりも速いため、SAWを利用したデバイスよりも高周波化に対応しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−220923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら従来の静磁波を利用したデバイスにおいては、フィルタを構成するための共振子として使用する観点からの十分な考察がなされておらず、いずれも十分な共振特性が得られるものとはいいがたい。
【0010】
したがって十分な共振特性が得られる静磁波素子および静磁波装置が提供されることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様としての静磁波素子は、素子基板と、前記素子基板の主面上に位置する磁性膜と、一部が前記磁性膜上に位置する励振電極と、を備えた静磁波素子であって、前記励振電極は、前記素子基板の主面上に位置した第1バスバーと、前記第1バスバーと対
向するようにして前記素子基板の主面上に位置した第2バスバーと、一方端が前記第1バスバーに接続されて前記第1バスバーから前記第2バスバーに向かう第1方向に伸びている少なくとも1つの第1電極指と、一方端が前記第2バスバーに接続されて前記第1方向と反対方向に伸びている少なくとも1つの第2電極指とを含み、前記素子基板の主面のうち、前記第1バスバーと前記第2バスバーとの間の領域および前記第1バスバーと前記第2バスバーとの間の領域を前記第1方向と直交する第2方向に延長した領域を第1領域とし、該第1領域以外の領域を第2領域としたときに、前記磁性膜が前記第1領域にのみ設けられているものである。
【0012】
本発明の一態様としての静磁波装置は、上記の静磁波素子と、前記静磁波素子が実装された実装基板と、前記静磁波素子を被覆する樹脂層とを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
上記の構成からなる静磁波素子および静磁波装置は、磁性膜が第1バスバーと第2バスバーとの間の領域である第1領域にのみ設けられていることから、第1バスバーおよび第2バスバーの直下の領域における不要な磁気共鳴の発生、あるいは別のモードの静磁波の発生が抑制され、共振特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る静磁波素子の平面図である。
【図2】図1のA−A’線における断面図である。
【図3】(a)から(c)は、図1の静磁波素子の製造方法を説明する断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る静磁波装置の断面図である。
【図5】第1の実施形態の変形例に係る静磁波素子の平面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る静磁波素子の平面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る静磁波素子の断面図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る静磁波素子の平面図である。
【図9】図9に示す静磁波素子のiX−iX線における断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る静磁波素子および静磁波装置について図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0016】
第2の実施形態以降において、既に説明された実施形態と共通または類似する構成については、既に説明された実施形態と共通の符号を用い、図示や説明を省略することがある。
【0017】
<第1の実施形態>
(静磁波素子の構成)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る共振子としての静磁波素子1の平面図であり、図2は図1のA−A’線における断面図である。
【0018】
静磁波素子1は、素子基板3と、素子基板3の主面3a上に設けられた磁性膜2と、素子基板3の主面3aおよび磁性膜2の主面2aに設けられた励振電極5とを有している。また、素子基板3の主面3aには、励振電極5と電気的に接続されるパッド4、励振電極5とパッド4との接続を行う接続配線11が形成されている。なお、図1では素子基板3の主面3aに1つの励振電極5が設けられている例を示しているが、素子基板3の主面3aには複数の励振電極5が形成されてよい。
【0019】
素子基板3は、例えば、シリコン基板、ガドリウム−ガリウム−ガーネット(GGG)基板などの非磁性材料からなる基板である。素子基板3は、例えば、直方体状に形成されている。素子基板3の大きさは適宜に設定されてよいが、例えば、厚さ(Z方向)は0.2mm〜0.5mmであり、1辺の長さ(x方向またはy方向)は0.5mm〜3mmである。
【0020】
素子基板3の主面3aには、磁性膜2が形成されている。磁性膜2は、例えば、ニッケル鉄合金(パーマロイ)、イットリウム−鉄−ガーネット(YIG)などからなる。磁性膜2の厚みは、例えば、20nm〜100nmである。磁性膜2には所定の方向に直流磁場が印加されており、これによって磁性膜2は磁化している。
【0021】
磁性膜2は後述するように素子基板3の主面3aのうち特定の領域にのみ形成されている。
【0022】
励振電極5は、例えば、IDT(Interdigital Transducer)電極であり、一対の櫛歯
状電極を有している。具体的には、励振電極5はx方向に伸びている第1バスバー6と、第1バスバー6に対向して配置され、x方向に伸びている第2バスバー7と、一方端が第1バスバー6に接続されて第1バスバー6から第2バスバー7に向かう第1方向(y方向)に伸びている複数の第1電極指8と、一方端が第2バスバー7に接続されて第2バスバー7から第1バスバー6に向かう方向(−y方向)に伸びている複数の第2電極指9を有している。
【0023】
静磁波素子1において、複数の第1電極指8と複数の第2電極指9とは、x方向にみたときに第1電極指8と第2電極指9とが1本ずつ交互に位置するように配列されている。換言すれば、第1バスバー6および複数の第1電極指8からなる櫛歯状電極と、第2バスバー7および複数の第2電極指9からなる櫛歯状電極とが、それぞれの電極指が互いに噛み合うようにして配置されている。
【0024】
磁性膜2を伝搬する静磁波の波長をλとすると第1電極指8と第2電極指9の中心間距離pは、例えば、λ/2に設定されている。具体的に中心間距離pは、例えば、2.5μm〜12.5μmである。また、静磁波素子1の使用時において第1バスバー6と第2バスバー7には異なる電位が印加される。
【0025】
なお、図1などは模式図であることから数本の電極指を有する1対の櫛歯状電極を示しているが、実際にはこれよりも多数の電極指を有する複数対の櫛歯状電極が設けられてよい。
【0026】
励振電極5は、例えば、Al、Al−Cu合金等のAl合金、Cuなどの導電性材料からなる。励振電極5の厚みは、例えば、100〜500nmである。
【0027】
ここで素子基板3の主面3aのうち、第1バスバー6と第2バスバー7との間の領域および第1バスバー6と第2バスバー7との間の領域をx方向と平行な方向に延長した領域を第1領域T1としたときに磁性膜2は、第1領域T1にのみ設けられている。第1領域T1に磁性膜2が設けられていることによって、第1電極指8および第2電極指9はそのほとんどが磁性膜2の上に配置されていることになる。
【0028】
所定の方向に磁化された磁性膜2の主面2aにおいて、所定の間隔で配置された複数の第1電極指8および複数の第2電極指9に電流が流れると各電極指の周りに高周波磁界が発生する。そうすると磁性膜2において、電子スピンによる磁気モーメントに歳差運動が
発生し、その歳差運動を介してx方向に伝搬する静磁波が発生する。
【0029】
静磁波には、表面静磁波モード(MSSW:MagnetoStatic Surface Wave)、体積前進静磁波モード(MSFVW:MagnetoStatic Forward Volume Wave)、体積後退静磁波モ
ード(MSBVW:MagnetoStatic Backward Volume Wave)の3つの基本モードが存在するが、直流磁場の方向を選択することによっていずれかのモードを選択することができる。具体的には、直流磁場の方向を磁性膜2の膜面(xy平面)に平行で、かつ静磁波の伝搬方向(x方向)に対し垂直な方向(y方向)に選ぶとMSSWの静磁波が発生する。また、直流磁場の方向を膜面に対し垂直で、かつ静磁波の伝搬方向に対しても垂直な方向(z方向)に選ぶとMSFVWの静磁波が発生する。また、直流磁場の方向を膜面に対し平行で、かつ静磁波の伝搬方向に対しても平行な方向(x方向)に選ぶとMSBVWの静磁波が発生する。
【0030】
静磁波素子1においてはMSSWを利用している。すなわち直流磁場はy方向に印加されている。直流磁場は、例えば、静磁波素子1の製造プロセスにおいて磁性膜2に対して印加される。あるいは静磁波素子1を搭載した静磁波装置に磁性膜2を挟む位置に一対の磁石を設けるようにしてもよい。
【0031】
静磁波素子1では、磁性膜2が第1領域T1にのみ形成されていることから、第1バスバー6および第2バスバー7は素子基板3の主面3aのうち第1領域T1以外の領域である第2領域T2に位置することになる。すなわち、第1バスバー6と第2バスバー7の下には磁性膜2が存在しない。仮に第1バスバー6および第2バスバー7の下にも磁性膜2が形成されているとすると、その部分の磁性膜2にはMSSWとは異なるモードの静磁波が発生したり、不要な磁気共鳴が発生したりすることが懸念される。MSSWとは異なるモードの静磁波や不要な磁気共鳴は、リップルなどの発生要因となり共振特性の劣化を招く。
【0032】
これに対し、静磁波素子1によれば磁性膜2が第1領域T1にのみ形成されていることから、第1、第2バスバーの直下領域においてMSSWとは異なるモードの静磁波の発生、あるいは不要な磁気共鳴の発生が抑制されるため共振特性の劣化を抑制することができる。よってこのような静磁波素子1を用いてフィルタを構成することによって損失を小さく抑えることができるなどフィルタの特性を向上させることができる。
【0033】
また磁性膜2のx方向における端部は、複数の第1電極指8および複数の第2電極指9のうちx方向において端に位置する電極指の中心からλ/4だけ外側に位置している。すなわち、図1における距離dはλ/4である。これによって磁性膜2のx方向における端において定在波が発生しやすいように静磁波の反射が起こり、静磁波素子1の共振を大きくすることができる。なお、距離dはλ/4+nλ(nは正の整数)の範囲で変更されてよい。
【0034】
図2は図1のA−A’線における断面図である。同図に示すように励振電極5は保護層10によって被覆されている。保護層10は、例えば、酸化珪素(SiOなど)、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化珪素、またはシリコンによって形成されている。保護層10の厚さは、例えば、励振電極5の厚さの1/10程度(10〜30nm)、または励振電極5よりも厚く、200nm〜1500nmである。これによって励振電極5の腐食等が抑制される。
【0035】
(静磁波素子の製造方法)
図3(a)乃至図3(c)は、静磁波素子1の製造方法を説明する断面図である。なお、図3(a)乃至図3(c)の断面図は、図1のA−A’線に対応する断面図である。
【0036】
静磁波素子1の製造方法に対応する図3(a)乃至図3(c)の工程は、いわゆるウエハプロセスにおいて実現される。すなわち、分割されることによって素子基板3となる母基板を対象に、薄膜形成やフォトリソグラフィー法などが行われ、その後、ダイシングされることにより、多数個分の静磁波素子1が形成される。ただし、図3(a)乃至図3(c)では、1つの静磁波素子1に対応する部分のみを図示する。
【0037】
図3(a)に示すように、まず、素子基板3の主面3a上には、磁性膜2が形成される。例えば、素子基板3がシリコンからなり、磁性膜2がパーマロイからなる場合には、磁性膜2に対応する開口部を有するレジスト層を素子基板3の主面3aに形成し、その上からスパッタリング法、蒸着法などの薄膜形成方法によって、パーマロイの膜を形成する。その後、レジスト層を除去することにより磁性膜2が形成される。なお磁性膜2の形成方法はこれに限らず、メタルマスクを使用する方法、ドライエッチングを利用する方法なども可能である。
【0038】
このように磁性膜2を形成した段階において、素子基板3を例えば一対の電磁石の間に配置するなどして磁性膜2の磁化を行う。このときに印加される磁場の大きさは、例えば、2Oe〜1000Oeである。
【0039】
次に、図3(b)に示すように、励振電極5が形成される。具体的には、まず、スパッタリング法、蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法などの薄膜形成法に
よって、素子基板3の主面3aおよび磁性膜2の主面2aに金属層が形成される。次に、金属層に対して、縮小投影露光機(ステッパー)とRIE(Reactive Ion Etching)装置とを用いたフォトリソグラフィー法などによりパターニングが行われる。これにより、素子基板3の主面3aに第1バスバー6および第2バスバー7が形成され、磁性膜2の主面2aに第1電極指8および第2電極指9が形成され、励振電極5が完成する。なお、励振電極5の形成と同時にパッド4および接続配線11の形成も行なわれる。
【0040】
次に、図3(c)に示すように、保護層10が形成される。具体的には、まず、適宜な薄膜形成法により保護層10となる薄膜が形成される。薄膜形成法は、例えば、スパッタリング法もしくはCVDである。次に、パッド4が露出するようにRIE等によって薄膜の一部が除去される。これにより保護層10が形成される。以上の工程を経て静磁波素子1が完成する。
【0041】
(静磁波装置の構成)
図4は、静磁波素子1が実装された本発明の第1実施形態に係る静磁波装置51を示す断面図である。
【0042】
静磁波装置51は、実装基板53と、実装基板53の実装面上に設けられたパッド55と、パッド55上に配置されたバンプ57と、バンプ57を介して実装面に実装された静磁波素子1と、静磁波素子1を封止する樹脂層59とを有している。静磁波装置51は、静磁波素子1によって構成されるフィルタを少なくとも1つ備えたデュプレクサを構成している。
【0043】
実装基板53は、例えば、セラミック基板、プリント配線板などからなり、1層板であってもよいし、2層以上の多層板であってもよい。実装基板53の内部には内部配線52が形成されている。内部配線52は、例えば、インダクタンス、キャパシタンスなどを形成している。このインダクタンスおよびキャパシタンスは、例えば、デュプレクサの整合回路を構成する。
【0044】
実装基板53の下面には、外部接続端子56が設けられている。外部接続端子56と静磁波素子1とは、実装基板53の内部に形成されたビア導体54などを介して電気的に接続されている。
【0045】
バンプ57は、静磁波素子1のパッド4および実装基板53のパッド55の両方に当接している。バンプ57は、加熱によって溶融してパッド4に接着される金属によって形成されている。バンプ57は、例えば、はんだからなる。はんだは、Pb−Sn合金はんだ等の鉛を用いたはんだであってもよいし、Au−Sn合金はんだ、Au−Ge合金はんだ、Sn−Ag合金はんだ、Sn−Cu合金はんだ等の鉛フリーはんだであってもよい。
【0046】
樹脂層59は、例えば、エポキシ樹脂、硬化材およびフィラーを主成分としている。樹脂層59は、静磁波素子全体を覆うようにして、静磁波素子1と実装基板53との間にも充填されている。
【0047】
なお、静磁波装置51としては、例えば、実装基板53に静磁波素子1以外にもIC等が実装されることによってデュプレクサモジュールを構成してもよい。
【0048】
(変形例)
図5は第1の実施形態における静磁波素子1の変形例を示す平面図である。
【0049】
この変形例にかかる静磁波素子1は、第1電極指8の他方端が第2バスバー7に接続され、第2電極指9の他方端が第1バスバー6に接続されている。よって、励振電極5は全体でみるとはしご型の形状になっている。このときの第1電極指8と第2電極指9との中心間距離p4はλ(λは静磁波の波長)に設定され、例えば、4μmである。
【0050】
<第2の実施形態>
図6は、第2の実施形態の静磁波素子20を示す平面図である。静磁波素子20は、磁性膜2の形成領域が第1の実施形態の静磁波素子1とは異なっている。
【0051】
具体的には、静磁波素子20では、磁性膜2が第1領域T1の中の第1電極指8と第2電極指9との交差領域T3にのみ設けられている。このように磁性膜2を交差領域T3にのみ形成することによって、第1電極指8と第2電極指9との非交差領域(第1領域T1から交差領域T3を除いた領域)において所望のモード(静磁波素子20ではMSSW)と異なるモードの静磁波が発生するのが抑制され、共振特性をより向上させることができる。なお、交差領域とは、第1電極指8を静磁波の伝搬方向(x方向)に延長したときに第2電極指9と重なる領域のこという。
【0052】
<第3の実施形態>
図7は、第3の実施形態の静磁波素子30を示す、図2に対応する断面図である。
【0053】
静磁波素子30は、第1電極指8および第2電極指9と磁性膜2との間に介在した絶縁層31をさらに有するものである。絶縁層31は、例えば、SiOなどの絶縁材料からなり、磁性膜2の全体を被覆している。絶縁層31を設けることによって、第1電極指8および第2電極指9に流れる電流の磁性膜2への漏れが抑制される。これによって静磁波素子30の共振特性を向上させることができる。かかる絶縁層31は、磁性膜2がパーマロイなどの導電性を有する磁性材料からなる場合に特に有効である。
【0054】
<第4の実施形態>
図8は、第3の実施形態の静磁波素子40を示す平面図である。静磁波素子40は、励振電極5のx方向に沿った両端に一対の枠状電極15を有している。
【0055】
枠状電極15は第1電極指8および第2電極指9のうち端に位置する電極指に隣接する位置にある第1線状部16と、第1線状部16に隣接する第2線状部17と、第1線状部16と第2線状部17との両端同士を接続する接続部18とから構成されており、全体として閉じた枠状の電極となっている。
【0056】
第1線状部16および第2線状部17のx方向の幅は、例えば、第1電極指8および第2電極指9の幅と同じである。また、第1線状部16および第2線状部17のy方向の長さは、例えば、第1電極指8と第2電極指9との交差幅以上である。
【0057】
枠状電極15の第1線状部16は、第1線状部16に隣接する電極指から静磁波の1波長分の間隔をあけて配置されている。この位置に第1線状部16を配置することによって静磁波素子40の共振特性が向上すると考えられる。この理由を図9を用いて説明する。
【0058】
図9は図8のiX−iX線に対応する部分の断面模式図である。図9において、線Lはある瞬間における磁性膜2を伝わる静磁波であり、磁性膜2に記した「+」は、静磁波の山に当たる部分であり、「−」は静磁波の谷に当たる部分である。一方、第1電極指8、第2電極指9、第1線状部16および第2線状部17に示した「±」は、その瞬間における電流の向きであり、「+」の向きの電流と「−」の向きの電流とは互いに反対方向に流れていることを示す。なお、第1電極指8および第2電極指9に流れる電流は交流であり、たえずその向きが交互に変化している。
【0059】
第1電極指8とこれに隣接する第2電極指9との中心間距離pは、第1の実施形態と同様に、静磁波の半波長に相当する距離、すなわち、λ/2に設定されている。第1電極指8と第2電極指9とをこのように配置することによって、図9に示すように1次モードの静磁波が励振される。このとき「+」の方向に電流が流れている電極指(図9における第2電極指9)が磁性膜中に形成する磁場は、その電極指の下に山が位置している静磁波と強く結合する。同様に「−」の方向に電流が流れている電極指(図9における第1電極指8)が磁性膜中に形成する磁場は、その電極指の下に谷が位置している静磁波と強く結合する。電極指が磁性膜2に形成する磁場と静磁波との結合が強いほど、換言すれば、電極指が磁性膜2に形成する磁場と静磁波との重なり積分が大きいほど共振が大きくなる。
【0060】
一方、枠状電極15の第1線状部16には、その第1線状部16に隣接する第2電極指9に流れる電流とは逆方向に電流が流れる。この第1線状部16に流れる電流は、第1電極指8および第2電極指9の周囲に形成される磁場の変化による誘導電流である。
【0061】
ここで第1線状部16は、隣接する第2電極指9からλ(=2p)だけ離れて位置している。換言すれば、第1線状部16と第2電極指9との中心間距離はλである。この場合には、「−」の方向に電流が流れている第1線状部16の下には静磁波の山が位置することになり、第1線状部16が磁性膜2に形成する磁場と静磁波との結合は弱くなる。すなわち、この部分における第1線状部16が形成する磁場と静磁波との重なり積分は小さくなる。このような場所では磁性膜2に発生した静磁波が外部に漏れにくくなるため、伝搬損失が小さくなり、共振子の共振特性が向上すると考えられる。
【0062】
また、第1線状部16に接続された第2線状部17の第1線状部16からの間隔をλ/2(=p)としておけば、第2線状部17の下側でも磁場と静磁波との重なり積分が小さくなるため、静磁波の漏れをさらに抑制できると考えられる。
【0063】
図8では磁性膜2に1つの共振子が配置されている例を示したが、磁性膜2に複数の共振子を配置する場合には、隣接する共振子の間に枠状電極15を配置しておけば、一方の
共振子の静磁波が他方の共振子側に伝搬するのを枠状電極15で抑制することができ、共振子間において静磁波が干渉するのを抑制することができる。
【0064】
なお、静磁波素子40では第1線状部16を隣接する第2電極指9からλだけ離れた位置に配置したが、mλ(mは正の整数)だけ離れた位置に配置すれば同様の効果が得られると考えられる。
【0065】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよく、また上述した実施形態は、適宜に組み合わされてよい。
【0066】
例えば、第1実施形態における変形例は、第2実施形態の静磁波素子20および第3実施形態の静磁波素子30にも適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1・・・静磁波素子
2・・・磁性膜
3・・・素子基板
4・・・パッド
5・・・励振電極
6・・・第1バスバー
7・・・第2バスバー
8・・・第1電極指
9・・・第2電極指
10・・・保護層
T1・・・第1領域
T2・・・第2領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子基板と、該素子基板の主面上に位置する磁性膜と、一部が該磁性膜上に位置する励振電極とを備えた静磁波素子であって、
前記励振電極は、前記素子基板の主面上に位置した第1バスバーと、該第1バスバーに対向するようにして前記素子基板の主面上に位置した第2バスバーと、一方端が前記第1バスバーに接続されて前記第1バスバーから前記第2バスバーに向かう第1方向に伸びている少なくとも1つの第1電極指と、一方端が前記第2バスバーに接続されて前記第1方向と反対方向に伸びている少なくとも1つの第2電極指とを含み、
前記素子基板の主面のうち、前記第1バスバーと前記第2バスバーとの間の領域および前記第1バスバーと前記第2バスバーとの間の領域を前記第1方向と直交する第2方向に延長した領域を第1領域とし、該第1領域以外の領域を第2領域としたときに、前記磁性膜が前記第1領域にのみ設けられている静磁波素子。
【請求項2】
前記磁性膜が、前記第1領域のうち前記第1電極指と前記第2電極指との交差領域にのみ設けられている請求項1に記載の静磁波素子。
【請求項3】
前記第1電極指と該第1電極指に隣接する第2電極指との電極指間隔がλ/2(λは前記磁性膜を伝搬する静磁波の波長)であり、前記磁性膜の前記第2方向における端部が、前記第1電極指および前記第2電極指のうち前記第2方向において端に位置する電極指からλ/4+nλ(nは正の整数)だけ外側に位置している請求項1または2に記載の静磁波素子。
【請求項4】
前記第1電極指および前記第2電極指と前記磁性膜との間に介在した絶縁層をさらに備えた請求項1乃至3のいずれか1項に記載の静磁波素子。
【請求項5】
前記励振電極の前記第2方向における両端の少なくとも一方側に配置された枠状電極をさらに備え、
前記第1電極指と該第1電極指に隣接する第2電極指との電極指間隔がλ/2(λは前記磁性膜を伝搬する静磁波の波長)であり、
前記枠状電極は、前記第1電極指および前記第2電極指のうち該枠状電極が配置された側の端に位置する電極指に隣接するとともに前記第1方向に伸びている第1線状部を有し、該第1線状部と前記枠状電極が配置された側の端に位置する前記電極指との間隔がmλ(mは正の整数)である請求項1に記載の静磁波素子。
【請求項6】
前記枠状電極は、前記第1線状部に対して前記励振電極が配置された側とは反対側に隣接するとともに前記第1方向に伸びている第2線状部を有しており、
前記第1線状部と前記第2線状部との間隔がλ/2である請求項5に記載の静磁波素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の静磁波素子と、
該静磁波素子が実装された実装基板と、
前記静磁波素子を被覆する樹脂層とを備えた静磁波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−110735(P2013−110735A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−210436(P2012−210436)
【出願日】平成24年9月25日(2012.9.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】