説明

静脈注射用グロブリン製剤

【課題】長期保存安定性がさらに改善された静脈注射用グロブリン製剤、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】非化学修飾完全分子型γ−グロブリンが含有されてなるグロブリン液状組成物が、プラスチック容器中に入れられてなる静脈注射用グロブリン製剤。また、室温で長期保存可能である静脈注射用グロブリン製剤。グロブリン二量体の含有量が7重量%以下である静脈注射用グロブリン製剤。さらに、非化学修飾完全分子型γ−グロブリンが含有されてなるグロブリン液状組成物を、プラスチック容器中に入れることを特徴とする静脈注射用グロブリン製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期保存安定性に優れた静脈注射用グロブリン製剤、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血漿蛋白成分であるグロブリンのうち、特にIgGを主成分とするγ−グロブリンはこれまで広く各種感染症の予防および治療に役立てられてきた。γ−グロブリンは、溶液状態において不安定であるため、従来まで凍結乾燥の態様で用いられていた。しかし、液状組成物は乾燥組成物に比べると注射用蒸留水等への溶解の必要性もなく、簡単に投与できる等の利点がある。
【0003】
そこで、溶液状態においても安定性のある静脈注射用のグロブリン液状組成物の開発が試みられている。例えば、特許文献1には、低電導度、pH5.5±0.2および安定化剤としてのソルビトール使用の組み合わせにより、溶液状態においても安定性のある静脈注射用のグロブリン液状組成物が提案されている。
【0004】
また、一般に、γ−グロブリンの凝集によって、特に分別操作の間に生じる変性の結果として、抗補体性と呼ばれるγ−グロブリンの補体結合能力が著しく増加し、人体に投与すると血清補体濃度の低下を生じることが知られている。特許文献2においては、免疫グロブリンの凝集物を実質的に含有せず、免疫血清グロブリンの単量体濃度が約90%よりも大である免疫グロブリン組成物を得るために、免疫血清グロブリン溶液のイオン強度を約0.001未満に、pHを3.5〜5.0にすることが開示されている。
【0005】
このように、グロブリンは本来不安定な蛋白質であるため、液状組成物を調製する際、その安定性が最も懸念される課題の一つである。よって、さらに安定性に優れ、長期保存が可能な静脈注射用グロブリン液状組成物、静脈注射用グロブリン製剤が求められている。
【特許文献1】特開昭63−192724号公報
【特許文献2】特開昭58−43914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、長期保存安定性がさらに改善された静脈注射用グロブリン製剤、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく検討を行った結果、グロブリン液状組成物をプラスチック容器中に保存することにより、グロブリン液状組成物の長期保存安定性を改善できることを見出して、本発明を完成した。
即ち、本発明は、非化学修飾完全分子型γ−グロブリンが含有されてなるグロブリン液状組成物が、プラスチック容器中に入れられてなる静脈注射用グロブリン製剤に関する。また、本発明は、室温で長期保存可能である上記静脈注射用グロブリン製剤に関する。本発明は、グロブリン二量体の含有量が7重量%以下である上記静脈注射用グロブリン製剤に関する。さらに、本発明は、非化学修飾完全分子型γ−グロブリンが含有されてなるグロブリン液状組成物を、プラスチック容器中に入れることを特徴とする静脈注射用グロブリン製剤の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、グロブリン自体の安定性が向上し、不溶性異物の生成がなく、グロブリン二量体が増加しない等の効果を有し、γ−グロブリン液状組成物の長期保存安定性をさらに改善することができる。また、プラスチック容器を用いているため、製剤の取扱が容易であり、特にソフトバッグ等を用いる場合にはエア針が不要となり、エア針からの汚染の危険性がなくなる等の利点もある。従って、安定でかつ安全な液状の静脈注射用グロブリン製剤を臨床の場に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における静脈注射用グロブリン液状組成物に含まれる非化学修飾完全分子型γ−グロブリンとは、
(1)自然のままで何らの修飾や変化も受けておらず、従ってγ−グロブリンのフラグメントであるFab、F(ab’)、Fc等を含まない;
(2)抗体価の低下がなく、同時に抗体スペクトルの低下もない;
(3)抗補体作用(補体結合性)が日本国生物学的製剤基準で安全とみなされる20単位(CH50値)よりも十分に低い;
という諸性状を備えたものをいう。
【0010】
非化学修飾完全分子型γ−グロブリンを含有してなる静脈注射用のグロブリン液状組成物は、例えば特開昭53−20415号公報、特開昭58−43194号公報、特開昭60−42336号公報、特開昭63−192724号公報等に開示されている方法等により製造することができる。また、市販の静脈注射用の非化学修飾完全分子型γ−グロブリン液状組成物を利用することもできる。具体的には、非化学修飾完全分子型γ−グロブリン含有の低電導度の溶液にソルビトールが含有されpHが5.5±0.2であるグロブリン液状組成物(特開昭63−192724号公報参照)や、ポリエチレングリコール処理が施された非化学修飾完全分子型γ−グロブリンからなるグロブリン液状組成物(商品名ヴェノグロブリン−IH、(株)ミドリ十字製)等が例示される。
【0011】
当該非化学修飾完全分子型γ−グロブリンを含有してなる静脈注射用グロブリン液状組成物において、グロブリン全体に対するグロブリン二量体の含有量は7重量%以下であることが好ましく、より好ましくは4重量%以下である。また、プラスチック容器中に保存後の静脈注射用グロブリン液状組成物においても、グロブリン二量体の含有量は7重量%以下であることが好ましい。
【0012】
本発明で用いられるプラスチック容器とは、従来公知のプラスチック材料よりなる容器であって、医療上安全性が確認されているものであれば特に限定されず、その形状も特に限定されない。プラスチック材料としては、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。また、透明性に優れているもの、通気性が少ないものが好ましい。容器の形状としては、例えばボトル型、バッグ型、バイアル型等が挙げられる。また、外袋(包装用袋)を装着することもできる。
【0013】
本発明の静脈注射用グロブリン製剤は、非化学修飾完全分子型γ−グロブリンが含有されてなるグロブリン液状組成物を、プラスチック容器中に入れることによって製造することができる。
【0014】
本発明においては、静脈注射用グロブリン液状組成物はプラスチック容器中で保存されるが、この保存条件は、通常の保存条件であれば特に限定されない。例えば、塩酸、酢酸、クエン酸等によりグロブリン液状組成物のpHを3.4〜5に調整し、0〜10℃で保存することができる。また、pHを5〜6に調整し、0〜30℃で保存することもできる。プラスチック容器に保存された本発明の静脈注射用グロブリン製剤は、例えばpH5〜
6に調整した場合、室温(15〜30℃)で約6か月〜2年間の長期保存が可能である。
【実施例】
【0015】
以下の実施例、実験例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0016】
参考例1
コーン画分II+III ペースト1kgを蒸留水10リットルにて懸濁し、pHを5.5に調整した後、遠心分離を行い、上清を回収し、上清100mlあたりソルビトールを50g(終濃度33w/v%)添加し、60℃で10〜20時間加熱処理した。加熱処理後、pHを5.5に調整した後、ポリエチレングリコール(PEG#4000)を終濃度が6%になるように添加し、2℃で遠心分離を行った。得られた上清を1N−水酸化ナトリウムを用い、pH8.0とした後、PEG#4000を終濃度が12%になるように加え、2℃で遠心分離を行い、沈澱画分にIgG画分を得た。この画分を蒸留水に溶解し、このIgG溶液100mlを蒸留水で平衡化したヒト血液型物質フォルミルセルロファインカラム3mlを通過させ、ヒト血液型抗体を吸着除去した。この工程での吸着により血液型抗体は1:32〜1:2に低下した。この溶液をpH5.5に調整した上で、DEAE−セファデックスを添加(50ml溶液あたり1ml)し、0〜4℃の条件下、約1時間接触処理し、処理後遠心分離(7000rpm 、約20分間)して、上清(IgG溶液)を回収した。このIgG溶液を蒸留水で5%IgG溶液に調整し、酢酸ナトリウムで溶液のpHを約5.5にし、さらにソルビトールを終濃度5%まで添加した。この水溶液(電導度約1mmho)を除菌濾過し、静脈注射用グロブリン液状組成物を得た。
【0017】
この液状組成物は調整時には次の性状を有するものであった。
外観性状 :無色透明
重合体含量:0.00(重量%)
二量体含量:7(重量%)以下
抗補体価 :8(CH50/ml)
麻疹抗体価:32(IU)
【0018】
実施例1〜5、比較例1
表1記載の各種プラスチック容器およびガラス瓶に、参考例1の静脈注射用グロブリン液状組成物を無菌的に分注し、静脈注射用グロブリン製剤を得た。
【0019】
容器のより詳細な説明は以下のとおり。
(1)ポリエチレン(PE)製ボトル:(株)クラレ製
高密度PE、容器平均厚み800μm
(2)エバールを挟んだPE製ボトル:(株)クラレ製
内外層:高密度PE、バリアー層:エチレン−ビニルアルコールのランダムコポリマー(品番EVAL EP-F101)、容器平均厚み800μm
(3)ポリプロピレン(PP)製ブローバッグ:三菱油化(株)製
PP:品番SPX8620L
(4)PE製ソフトバッグ:昭和電工(株)製
PE:品番HHA-N7、内層:高密度PE(10μm)、
中間層:低密度PE(225 μm)、外層:中密度PE(15μm)
(5)ポリオレフィン製バイアル:(株)大協ゴム精工製
品番:CZバイアル
(6)ガラス瓶
自動軟質ガラス瓶
【0020】
実験例
上記実施例および比較例で得られた静脈注射用グロブリン製剤を、25℃、75%RHの条件下で6箇月間保存した後、各グロブリン液状組成物について、不溶性異物に関する試験を行い、経時安定性を調べた。また、不溶性異物は肉眼的に観察し、以下の基準により評価した。
○:不溶性異物を認めなかった、×:不溶性異物を認めた
試験結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
また、プラスチック容器中で保存したいずれの態様であっても、グロブリン液状組成物において、外観(無色透明)、pH(5.5)、免疫反応(異常な沈降線を認めず)、重合体含量(0重量%)、二量体含量(7重量%以下)、グロブリンG含量、抗補体価、麻疹抗体価に関しては、実験前(分注前)と全く変動がなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非化学修飾完全分子型γ−グロブリンが含有されてなるグロブリン液状組成物が、プラスチック容器中に入れられてなる静脈注射用グロブリン製剤。
【請求項2】
室温で長期保存可能である請求項1記載の静脈注射用グロブリン製剤。
【請求項3】
グロブリン二量体の含有量が7重量%以下である請求項1記載の静脈注射用グロブリン製剤。
【請求項4】
非化学修飾完全分子型γ−グロブリンが含有されてなるグロブリン液状組成物を、プラスチック容器中に入れることを特徴とする静脈注射用グロブリン製剤の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非化学修飾完全分子型γ−グロブリンを含有し、pHが3.4〜6であるグロブリン液状組成物が、ポリオレフィン系樹脂よりなる容器に入れられてなる静脈注射用グロブリン製剤。
【請求項2】
ソルビトールを含有してなる請求項1記載の静脈注射用グロブリン製剤。
【請求項3】
非化学修飾完全分子型γ−グロブリン含有てなるグロブリン液状組成物を、ポリオレフィン系樹脂よりなる容器に入れることを特徴とする静脈注射用グロブリン製剤の製造方法。


【公開番号】特開2006−22117(P2006−22117A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274391(P2005−274391)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【分割の表示】特願平6−237917の分割
【原出願日】平成6年9月30日(1994.9.30)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】