説明

静電荷象現像用トナー

【課題】帯電の立ち上がりが良好であり、高い帯電量を有しており、環境安定性の良いトナーを提供する。
【解決手段】結着樹脂、着色剤、電荷制御剤を含む静電荷像現像用トナーであって、該電荷制御剤が下記一般式[3]で表されるモノアゾ鉄化合物を1種含有し、さらに、別途定義されるモノアゾ鉄化合物から選ばれた1種以上のモノアゾ鉄化合物を含有する、モノアゾ鉄化合物からなる組成物を有効成分とする電荷制御剤であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノアゾ鉄化合物、モノアゾ鉄化合物からなる組成物、またはそれらを含有する静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成プロセスでは、無機又は有機材料からなる感光体に静電潜像を形成し、これをトナーにより現像し、紙やプラスチックフィルム等に転写、定着して可視画像を得る。感光体にはその構成により負帯電性と正帯電性があり、露光により印字部を静電潜像として残す場合は逆符号帯電性トナーにより現像する。一方、印字部を除電して反転現像を行う場合は同符号帯電性トナーにより現像する。
【0003】
トナーは、結着樹脂、着色剤及びその他の添加剤により構成される。望ましい帯電特性を付与するために一般に電荷制御剤が添加される。この電荷制御剤の添加によりトナーの特性は大きく改善される。
従来、提案され実用化された負帯電性の付与効果を有する電荷制御剤としては、1:2型モノアゾ金属錯塩化合物や芳香族オキシカルボン酸等の金属錯体を挙げることができる。
【0004】
しかしながら、電荷制御剤として提案されている1:2型モノアゾ金属錯塩化合物の多くは、一般に安定性に乏しく、例えば、機械的摩擦や衝撃、温度や湿度条件の変化、電気的衝撃や光照射等により、分解又は変質して電荷制御性が失われることとなり易い。
トナーとして高く安定した摩擦帯電量を維持することを目的として特許文献1に1:2モノアゾ鉄錯塩化合物が提案されている。この公報では、当該1:2型モノアゾ鉄錯塩化合物が負帯電性を有し、極めて良好な樹脂相溶性を示し、モノアゾ鉄錯塩化合物ということで、従来のモノアゾクロム錯塩化合物とは異なり、環境に対してもやさしいことが開示されている。
また、特許文献2には、耐環境安定性(湿度、温度の変化に対する電荷制御の安定性)等の改善を目的として特許文献1に記載の1:2型モノアゾ鉄化合物(鉄原子1:配位子2)、2:3型モノアゾ鉄化合物、4:6型モノアゾ鉄化合物からなる組成物が記載されている。
【0005】
近年、電子写真法を応用したプリンターやファクシミリが普及し、年々複写の速度が高速化しており、従来の複写機以上に瞬時に適性帯電を保持する(帯電の立ち上がりが良好な)トナーが要求されるようになってきている。すなわち休止状態から出力状態に入った時に瞬時に適性帯電を保持することが、従来のトナー以上に求められており、特許文献1及び特許文献2に記載のモノアゾ鉄(錯塩)化合物を含有するトナーも例外ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−155464号公報
【特許文献2】特開平9−169919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術に記載したような課題解決を目ざしており、近年のプリンターの高速化に適用できる帯電の立ち上がりが著しく良好で、温度や湿度の変化に対する帯電量の変化が少なくて環境安定性が良く、高い摩擦帯電量を有する静電荷像現像用トナーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、金属化可能な、下記一般式[1]
【0009】
【化1】


【0010】
(式[1]中、A、Bはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表し、Xは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表す。Yは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または置換もしくは無置換の芳香族環基を表す。)で表される2つの水酸基を有するモノアゾ化合物3分子が、鉄2原子に配位してなる下記一般式[2]
【0011】
【化2】

【0012】
(式[2]中、Dは一般式[1]のモノアゾ化合物に基づく配位子を表す。)で表されるモノアゾ鉄化合物である。
【0013】
また、本発明は下記一般式[3]
【0014】
【化3】

【0015】
(式[3]中、A、Bはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表す。Xは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表す。Yは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または置換もしくは無置換の芳香族環基を表す。)で表されるモノアゾ鉄化合物を1種含有し、下記一般式[4]
【0016】
【化4】

【0017】
(式[4]中、A、Bはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表す。Xは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表す。Yは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または置換もしくは無置換の芳香族環基を表す。Jは水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニイウムイオン、またはアルキルアンモニウムイオンを表し、Jにおいてこれらのイオンは2種以上が混合されていてもよい。)で表されるモノアゾ鉄化合物より選ばれた、1種以上のモノアゾ鉄化合物を含有することを特徴とする、モノアゾ鉄化合物からなる組成物である。
【0018】
さらに、本発明は金属化可能な、下記一般式[5]
【0019】
【化5】

【0020】
(式[5]中、Xは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表す。C、Dはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはハロゲン原子を表す。)で表される2つの水酸基を有するモノアゾ化合物3分子が、鉄2原子に配位してなる下記一般式[6]
【0021】
【化6】

【0022】
(式[6]中、Dは一般式[5]のモノアゾ化合物に基づく配位子を表す。) で表されるモノアゾ鉄化合物である。
【0023】
また、本発明は下記一般式[7]
【0024】
【化7】

【0025】
(式[7]中、Xは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表す。C、Dはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはハロゲン原子を表す。)で表されるモノアゾ鉄化合物を1種含有し、下記一般式[8]
【0026】
【化8】

【0027】
(式[8]中、Xは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、ハロゲン原子を表し、C、Dはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはハロゲン原子を表す。Jは水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニイウムイオン、またはアルキルアンモニウムイオンを表し、Jにおいてこれらのイオンは2種以上が混合されていてもよい。)で表されるモノアゾ鉄化合物より選ばれた、1種以上のモノアゾ鉄化合物を含有することを特徴とする、モノアゾ鉄化合物からなる組成物である。
【0028】
本発明においては、前記したようなモノアゾ鉄化合物やモノアゾ鉄化合物からなる組成物を電荷制御剤とすることによって、次の構成のトナーを得ることができる。結着樹脂、着色剤、電荷制御剤を含む静電荷像現像用トナーであって、電荷制御剤は一般式[2]で表されるモノアゾ鉄化合物を有効成分とするか、または一般式[3]で表されるモノアゾ鉄化合物を1種含有し、一般式[4]で表されるモノアゾ鉄化合物から選ばれた1種以上のモノアゾ鉄化合物を含有する、モノアゾ鉄化合物からなる組成物を有効成分とする電荷制御剤であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【0029】
同様にして、前記したようなモノアゾ鉄化合物やモノアゾ鉄化合物からなる組成物を電荷制御剤とすることによって、次の構成のトナーを得ることができる。結着樹脂、着色剤、電荷制御剤を含む静電荷像現像用トナーであって、電荷制御剤は一般式[6]で表されるモノアゾ鉄化合物を有効成分とするか、または一般式[7]で表されるモノアゾ鉄化合物を1種含有し、一般式[8]で表されるモノアゾ鉄化合物から選ばれた1種以上のモノアゾ鉄化合物を含有する、モノアゾ鉄化合物からなる組成物を有効成分とする電荷制御剤であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【発明の効果】
【0030】
本発明のトナーは、帯電の立ち上がりが著しく良好であり、高い帯電量を有しており、温度や湿度の変化に対して安定した帯電量を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】製造例1で得られた組成物のFD−MSスペクトル図である。
【図2】製造比較例で得られた組成物のFD−MSスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
前記した各モノアゾ化合物における配位子Dに対応するモノアゾ化合物、およびモノアゾ鉄化合物からなる組成物の中で、好ましいものは、前記した一般式[5]、一般式[7]および一般式[8]において、置換基Xがメチル基であり、置換基CおよびDが水素原子であるもの、置換基Xがメチル基であり、置換基が水素原子、置換基Dが4−クロロ基であるもの、置換基Xがメチル基であり、置換基が3−クロロ基、置換基Dが4−クロロ基であるものが挙げられる。
【0033】
前記した静電荷像現像用トナーの中で、好ましいものは、前記した一般式[5]、一般式[7]および一般式[8]において、置換基Xがメチル基であり、置換基CおよびDが水素原子であるもの、置換基Xがメチル基であり、置換基が水素原子、置換基Dが4−クロロ基であるもの、置換基Xがメチル基であり、置換基が3−クロロ基、置換基Dが4−クロロ基であるものが挙げられる。
【0034】
本発明のモノアゾ鉄化合物又は組成物は、例えば4−クロロ−2−アミノフェノール(ジアゾ成分)を亜硝酸ナトリウム等でジアゾ化し、3−メチル−1−(4−クロロフェニル)−5−ピラゾロン又は3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン(カップリング成分)等とカップリングし、式[1]で示される金属化可能なモノアゾ化合物を得、更に、前記モノアゾ化合物を塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の鉄錯塩化剤及びサリチル酸等の錯塩化助剤により、水および/または有機溶媒中で反応させることによりモノアゾ鉄化合物(鉄錯塩化合物)を得ることができるが、通常、鉄:モノアゾ化合物=1:2錯塩を得る場合にはモノアゾ化合物の有機溶媒あるいは水の溶液中に鉄錯塩化剤、錯塩化助剤を加えることにより得られやすい。これとは逆に鉄錯塩化剤等の溶解した溶液中にモノアゾ化合物の溶液を加えることにより本発明に係る鉄:モノアゾ化合物=2:3のモノアゾ鉄化合物(組成物)を含む生成物を得ることができる。
【0035】
このような鉄錯塩化に用いる有機溶媒としては、水に可溶なメタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系、エーテル系、グリコール系有機溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスホキシド等の非プロトン性極性溶媒などを挙げることができる。好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミドである。
【0036】
有機溶媒の使用量は、特に限定的でないが、モノアゾ鉄化合物における配位子として用いるモノアゾ化合物(前記Dに対応)に対して質量比で5乃至10倍量とすることができる。
【0037】
塩化第二鉄等の鉄錯塩化剤の使用量は、一般に、配位子となるモノアゾ化合物1当量に対して、金属(鉄)0.5乃至1.0原子当量、好ましくは0.5乃至0.6原子当量が用いられる。
【0038】
特許文献1のように公知の方法でジアゾカップリング、鉄錯塩化し合成すると、通常、1:2型鉄錯塩(式[4])を主体とするモノアゾ鉄化合物が得られるが、前記記載のように、鉄錯塩化剤、サリチル酸等の錯塩化助剤を含有するDMF等の溶液中に、モノアゾ化合物を別に溶かした溶液を添加、分散し、反応、濾過、乾燥を行う方法のように、添加するものと添加されるものを逆にしたり、溶媒の種類、精製方法、反応条件を変えることによって、式[2][D(Fe)]で表される2:3型モノアゾ鉄化合物を含む組成物を得ることができる。
本発明に係る電荷制御剤は、単一化合物である必要はなく、例えば2:3型モノアゾ鉄化合物、1:2型モノアゾ鉄化合物の組成物であってもよい。それぞれの生成物はFD(Field Desorption)−MS分析によって確認できる。
【0039】
一般式[2][D(Fe)]で表される2:3型モノアゾ鉄化合物は、下記式[9]又は[10]のような分子モデルで表すことができる。
【0040】
【化9】

【0041】
【化10】

【0042】
一般式[2][D(Fe)]で表される2:3型モノアゾ鉄化合物を例示すると、下記式[11]及び下記式[12]である。式[11]の分子量は、1195、式[12]の分子量は1092であり、実際にFD−MS法により検出される分子量における幅は、Cl同位体を考慮したものである。
【0043】
【化11】

【0044】
【化12】

【0045】
本発明の静電荷像現像用トナーは、前記モノアゾ鉄化合物又は前記モノアゾ鉄組成物を有効成分とする電荷制御剤、結着樹脂、着色剤を少なくとも含むものである。
【0046】
本発明における電荷制御剤としてのモノアゾ鉄化合物及び組成物の物理的特性及び化学的特性は、特に限定されないが、その平均粒子径は、0.1〜20μm、好ましくは0.5〜10μm、特に好ましくは0.5〜5μmであることが望ましい。
【0047】
本発明の静電荷像現像用トナーは、電荷制御剤として、上記モノアゾ鉄化合物の1種又は2種以上の組成物が、結着樹脂100質量部に対して0.1乃至10質量部配合されたものが望ましい。更に好ましい配合量は、結着樹脂100質量部に対して0.2乃至5質量部である。
【0048】
次に本発明で使用できる静電荷像現像用トナー の具体的な構成材料を示す。結着樹脂としては、公知のものであればいずれも使用できる。
結着樹脂としては、ポリスチレン、ポリp−クロロスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の重合体;スチレン−p−クロロスチレン共重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン−α−クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−インデン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、エポキシ樹脂、エポキシポリオール樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、脂肪族又は脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂、塩素化パラフィン、パラフィンワックスなどが挙げられ、単独あるいは混合して使用できる。
【0049】
着色剤としては、公知の染料及び顔料が全て使用できる。しかしながら、本発明に用いる電荷制御剤は、黒色または青色をしており、好ましくはブラックトナーまたはモノカラートナーに使用するのが良い。例えば、カーボンブラック、ニグロシン染料、鉄黒、酸化鉄及びそれらの組成物が使用できる。使用量は一般に結着樹脂100重量部に対し0.1〜50質量部である。
【0050】
本発明のトナーは、必要に応じて補強のための電荷制御剤を含有してもよい。補強のための電荷制御剤としては公知のものが全て使用でき、例えばニグロシン系染料、トリフェニルメタン系染料、クロム含有金属錯体染料、モリブデン酸キレート顔料、ローダミン系染料、アルコキシ系アミン、4級アンモニウム塩(フッ素変性4級アンモニウム塩を含む)、アルキルアミド、燐の単体または化合物、タングステンの単体または化合物、フッ素系活性剤、サリチル酸金属塩及び、サリチル酸誘導体の金属塩等である。具体的にはニグロシン系染料のボントロン03、第四級アンモニウム塩のボントロンP−51、アゾクロム錯体のボントロンS−34、オキシナフトエ酸系金属錯体のE−82、サリチル酸系亜鉛錯体のE−84、フェノール系縮合物のE−89(以上、オリエント化学工業社製)、サリチル酸系ジルコニウム化合物のTN−105、アゾ鉄錯体のT−77、第四級アンモニウム塩モリブデン錯体のTP−302、TP−415(以上、保土谷化学工業社製)、第四級アンモニウム塩のコピーチャージPSY VP2038、トリフェニルメタン誘導体のコピーブルーPR、第四級アンモニウム塩のコピーチャージ NEG VP2036、コピーチャージ NX VP434(以上、ヘキスト社製)、LRA−901、ホウ素錯体であるLR−147(日本カーリット社製)、銅フタロシアニン、ペリレン、キナクリドン、アゾ系顔料、その他スルホン酸基、カルボキシル基、四級アンモニウム塩等の官能基を有する高分子系の化合物が挙げられる。
【0051】
本発明において補強の電荷制御剤の使用量は、本発明に係る電荷制御剤量、結着樹脂の種類、必要に応じて使用される添加剤の有無、分散方法を含めたトナー製造方法によって決定されるもので、一義的に限定されるものではないが、好ましくは結着樹脂100重量部に対して、0.2〜10質量部の範囲で用いられる。好ましくは、0.2〜5質量部の範囲がよい。
【0052】
トナーに離型性を持たせるために、製造されるトナーの中にワックスを含有させることも可能である。このためのワックスは、その融点が40〜120℃のものであり、特に50〜110℃のものであることが好ましい。ワックスの融点が過大のときには低温での定着性が不足する場合があり、一方融点が過小のときには耐オフセツト性、耐久性が低下する場合がある。なお、ワックスの融点は、示差走査熱量測定法(DSC)によって求めることができる。すなわち、数mgの試料を一定の昇温速度、例えば(10℃/min)で加熱したときの融解ピーク値を融点とする。
【0053】
本発明に用いることができるワックスとしては、例えば固形のパラフィンワックス、マイクロワックス、ライスワックス、脂肪酸アミド系ワックス、脂肪酸系ワックス、脂肪族モノケトン類、脂肪酸金属塩系ワックス、脂肪酸エステル系ワックス、部分ケン化脂肪酸エステル系ワックス、シリコーンワニス、高級アルコール、カルナウバワックスなどを挙げることができる。また低分子量ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンなども用いることができる。特に、環球法による軟化点が70〜150℃のポリオレフィンが好ましく、さらには当該軟化点が120〜150℃のポリオレフィンが好ましい。
【0054】
外添剤としては、無機微粒子を好ましく用いることができる。この無機微粒子の平均一次粒子径は、0.005〜2μmであることが好ましく、特に、0.005〜0.5μmであることが好ましい。
また、BET法による比表面積は、20〜500m/gであることが好ましい。この無機微粒子の使用割合は、トナーの0.01〜5質量%であることが好ましく、特に0.01〜2質量%であることが好ましい。無機微粒子の具体例としては、例えばシリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ベンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素などを挙げることができる。この他、高分子系微粒子、例えばソープフリー乳化重合や懸濁重合、分散重合によって得られるポリスチレン、メタクリル酸エステルやアクリル酸エステル共重合体やシリコーン、ベンゾグアナミン、ナイロンなどの重縮合系、熱硬化性樹脂による重合体粒子が挙げられる。
【0055】
このような流動化剤は表面処理を行って、疎水性を上げ、高湿度下においても流動特性や帯電特性の悪化を防止することができる。例えばシランカップリング剤、シリル化剤、フッ化アルキル基を有するシランカップリング剤、有機チタネート系カップリング剤、アルミニウム系のカップリング剤などが好ましい表面処理剤として挙げられる。
【0056】
感光体や一次転写媒体に残存する転写後の現像剤を除去するためのクリーニング性向上剤としては、例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸など脂肪酸金属塩、例えばポリメチルメタクリレート微粒子、ポリスチレン微粒子などのソープフリー乳化重合などによって製造された、ポリマー微粒子などを挙げることができる。ポリマー微粒子は比較的粒度分布が狭く、体積平均粒径が0.01から1μmのものが好ましい。
【0057】
本発明の静電荷像現像用トナーは、例えば次のように製造される。
すなわち、上記のような結着樹脂、着色剤(好ましくはカーボンブラック)、及び式(2)のモノアゾ鉄化合物を有効成分とする電荷制御剤、並びに必要に応じて磁性材料(例えば、鉄やコバルト等の強磁性金属微粉、フェライト)、流動性改質剤(例えば、シリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン)、オフッセト防止剤(例えば、ワックス、低分子量のオレフィンワックス)などをボールミルその他の混合機により充分混合した後、加熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等の熱混練機を用いて溶融混練し、その混練物を冷却固化させた後、その固化物を粉砕及び分級することにより、体積平均粒径3〜10μmのトナーを得ることができる。
【0058】
粉砕法による製造法を更に詳しく説明すると、初めに結着樹脂と着色剤、電荷制御剤、ワツクス、その他必要な添加剤を均一に混合する。混合には公知の攪拌機、例えばヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ボールミルなどを用いて混合することができる。得られた混合物を、密閉式のニーダー、あるいは1軸、または2軸の押出機を用いて、熱溶融混練する。混練物を冷却後に、クラッシャーやハンマーミルを用いて粗粉砕し、更にジェットミル、高速ローター回転式ミルなどの粉砕機で微粉砕する。更に風力分級機、例えばコアンダ効果を利用した慣性分級方式のエルボジェット、サイクロン(遠心)分級方式のミクロプレックス、DSセパレーターなどを使用し、所定の粒度にまで分級を行う。更に外添剤などをトナー 表面に処理する場合は、トナー と外添剤を高速攪拌機、例えばヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどで攪拌混合する。
【0059】
また、本発明のトナー は、懸濁重合法によっても製造できる。懸濁重合法においては重合性単量体、着色剤及び重合開始剤、電荷制御剤、更に必要に応じて架橋剤、その他添加剤を、均一に溶解または分散させ、単量体組成物を調製した後、この単量体組成物を分散安定剤を含有する連続相、たとえば水相中に適当な攪拌機及び分散機、例えばホモミキサー、ホモジナイザー、アトマイザー、マイクロフルイダイザー、一液流体ノズル、気液流体ノズル、電気乳化機などを用いて分散し、同時に重合反応を行い、所望の粒径を有するトナー 粒子を得ることができる。粒子作製後の外添処理は前記記載の方法が使用できる。
【0060】
本発明のトナーを2成分現像剤として用いる場合には、本発明のトナーをキャリヤー粉と混合して用い、磁気ブラシ現像法等により現像することができる。
キャリヤーとしては、公知のものが全て使用可能である。例示するならば、粒径50〜200μm程度の鉄粉、ニッケル粉、フェライト粉、ガラスビーズ等、及びこれらの表面をアクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、フッ化エチレン系樹脂等でコーティングしたものなどを挙げることができる。
【0061】
本発明のトナーを1成分現像剤として用いる場合には、上記のようにしてトナーを製造する際に、例えば鉄粉、ニッケル粉、フェライト粉等の強磁性材料製の微粉体を適量添加分散させて用いることができる。この場合の現像法としては、例えば接触現像法、ジャンピング現像法等を挙げることができる。
【0062】
なお、式[11]、式[12]のモノアゾ鉄化合物又はモノアゾ鉄組成物は、静電塗装用粉体塗料の電荷増強剤として用いることもでき、電荷増強剤に用いた際に、良好な帯電特性、環境安定性、塗着効率の良い粉体塗料が得られる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例をもって本発明を説明するが、これらは本発明を何ら制限するものではない。なお、以下の記述においては、「質量部」を「部」と略す。
【0064】
[製造例1]
4−クロロ−2−アミノフェノールと3−メチル−1−(4−クロロフェニル)−5−ピラゾロンを用いて一般的なジアゾ化カップリング反応により合成したモノアゾ化合物(式13)7.3部を4%水酸化ナトリウム水溶液50部に分散した溶液を、サリチル酸3.3部、16%水酸化ナトリウム溶液20部、38%塩化第二鉄水溶液18.8部をDMF100部に溶解し、60℃で攪拌した溶液に添加して100℃で3時間反応させた。さらに38%塩化第二鉄水溶液2.6部を加えて2時間反応させた。
この反応液を1.5%塩酸水100部に分散させ、60℃で30分間攪拌した。得られた沈殿物を濾取してこれを水洗し、乾燥させることにより、9.2部の黒色粉末を得た。
【0065】
この粉末についてFD−MS法による分子量の測定を行ったところ、[図1]に示すマススペクトルが得られた。(横軸はM/Z[質量/電荷]、縦軸はRelative Abbundance[存在比]を示す。以下[図2]についても同じ。)
[図1]のマススペクトル図から、主生成物である2:3型モノアゾ鉄化合物[前記式11、M/Z=1195(M)]と共に、1:2型モノアゾ鉄化合物(下記式13)[M/Z=779(M)]が確認された。
【0066】
【化13】

【0067】
なお、FD−MS法による分子量の測定は、次ぎのように行った。製造例2、比較製造例についても同様に測定した。
試料をトルエンに溶解又は分散させて質量分析計(日本電子社製 商品名:MS700)で測定し、試料の分子量を示すマススペクトル図を表した。
FD−MS法(電解脱離イオン化法)の条件
カーボンエミッタ使用
加速電圧:8kV
カソード電圧:2kV
エミッタ電流:2〜50mA、2mA/minのプログラム
【0068】
[製造例2]
4−クロロ−2−アミノフェノールと3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロンを用いて製造例1と同様の操作で黒色粉末を得た。
【0069】
この粉末についてFD−MS法による分子量の測定を行ったところ、製造例1と同様に、主生成物である2:3型モノアゾ鉄化合物[前記式12、M/Z=1092(M)]と共に、1:2型モノアゾ鉄化合物[下記式(14)、M/Z=710(M)]が確認された。
【0070】
【化14】

【0071】
[製造例3]
4−クロロ−2−アミノフェノールと3−メチル−1−(3,4−ジクロロフェニル)−5−ピラゾロンを用いて製造例1と同様の操作で黒色粉末を得た。
【0072】
この粉末についてFD−MS法による分子量の測定を行ったところ、製造例1と同様に、主生成物である2:3型モノアゾ鉄化合物[M/Z=1299(M)]と共に、1:2型モノアゾ鉄化合物[下記式(15)、M/Z=848(M)]が確認された。
【0073】
【化15】

【0074】
[製造比較例]
4−クロロ−2−アミノフェノールとナフトールAS(3−ヒドロキシ−2−ナフトアニリド)を用いて前記特許文献2に記載の方法で下記の構造式[16]の化合物(前記特許文献2に含まれる)を合成し、濾過、水洗、乾燥を行った。この粉末についてFD−MS法による分子量の測定を行ったところ、[図2]に示すマススペクトルが得られた。
[図2]のマススペクトル図から、主生成物である2:3型モノアゾ鉄化合物[下記式(15)、M/Z=1359(M)]と共に、1:2型モノアゾ鉄化合物[M/Z=886(負イオンのM)]が確認された。
【0075】
【化16】

【実施例1】
【0076】
[実施例1]
前記製造例1で得られた主成分がモノアゾ鉄化合物である(と共にモノアゾ鉄組成物である)生成物を電荷制御剤として使用しそれぞれ、下記の割合で配合した。
スチレンーアクリル共重合樹脂 91部
(三井化学社製、商品名CPR−300)
製造例1で得られた組成物 1部
カーボンブラック(三菱化学社製、商品名MA−100) 5部
低分子量ポリプロピレン(三洋化成社製、商品名 ビスコール550P) 3部
【0077】
上記配合物を130℃の加熱混合装置(2軸押出混練機)により溶融混合し、冷却した混合物をハンマーミルで粗粉砕した。更にジェットミルで微粉砕した後、分級して体積平均粒径9±0.5μmの非磁性トナーを得た。得られたトナー4部に対してシリコンコートキャリヤー(パウダーテック社製 商品名:F96−100)100部を混合して現像剤を調製した。得られた現像剤をよく撹拌し、帯電量をブローオフ帯電量測定機にて測定した。結果を表1に示した。
【0078】
また、帯電立ち上がり性の指標である時定数(τ)についても算出した。時定数(τ)は、飽和帯電に達するまでの帯電量を一定時間ごとにブローオフ帯電量測定装置で測定し、(電子写真学会誌、P307、第27巻、第3号(1988))に記載される、次式によってln(qmax−q)を算出し、時間tとln(qmax−q)の関係をグラフにプロットし、時定数τを求めた。結果を表1に示した。

(qmax−q)/(qmax−q)=exp(−t/τ)

ここで、qmaxは飽和帯電量、qは初期帯電量(ここでは帯電時間30秒のときの値)、tが各測定時間であり、そのときの帯電量がqである。
帯電の立ち上がりのよいものは、時定数がより小さな値となる。時定数の単位は秒である。
【0079】
また、帯電の環境安定性についても評価を行った、環境安定性の評価方法は、通常の25℃−50%RH(相対湿度)の環境下での測定に加え、高湿環境(35℃−85%RH)での帯電量測定を行うことにより判定した。
帯電量測定は、各環境下に24時間暴露した現像剤を、その環境においたままで十分に帯電させ、飽和帯電量をブローオフ帯電量測定機により測定した。
2つの環境で帯電量の変動が15%未満であるものを良好(○)、15〜20%であるものをやや不良(△)、20%を超えるものを不良(×)とした。結果を表1に示した。
【実施例2】
【0080】
[実施例2及び比較例]
「製造例1で得られた組成物」の代わりに、「製造例2で得られた組成物」、「製造比較例で得られた組成物」をそれぞれ使用した以外は配合量も含めて実施例1と同様な方法でトナーを調製し、ブローオフ帯電量測定装置による帯電量、時定数、環境安定性を評価し、それぞれ実施例2及び比較例として表1に示した。
なお、表1中、帯電量の単位は、(μC/g)、時定数τの単位は(秒)である。
【0081】
【表1】

【0082】
[表1]から、明らかなように、実施例1及び実施例2のトナーは、従来のトナーである比較例のトナーよりも、時定数τが小さく、速い帯電の立ち上がりを示している。またトナーとして十分な高い帯電量を示しており、環境安定性も良好である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のトナーは、帯電の立ち上がりが著しく良好であり、高い帯電量を有しており、温度や湿度の変化に対して安定した帯電量維持の必要な用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、着色剤、電荷制御剤を含む静電荷像現像用トナーであって、該電荷制御剤が下記一般式[3]
【化1】


(式[3]中、A、Bはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表す。Xは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表す。Yは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または置換もしくは無置換の芳香族環基を表す。)で表されるモノアゾ鉄化合物を1種含有し、下記一般式[4]
【化2】


(式[4]中、A、Bはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表す。Xは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表す。Yは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または置換もしくは無置換の芳香族環基を表す。Jは水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニイウムイオン、またはアルキルアンモニウムイオンを表し、Jにおいてこれらのイオンは2種以上が混合されていてもよい。)で表されるモノアゾ鉄化合物から選ばれた1種以上のモノアゾ鉄化合物を含有する、モノアゾ鉄化合物からなる組成物を有効成分とする電荷制御剤であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
結着樹脂、着色剤、電荷制御剤を含む静電荷像現像用トナーであって、該電荷制御剤が下記一般式[7]
【化3】

(式[7]中、Xは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を表す。C、Dはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはハロゲン原子を表す。)で表されるモノアゾ鉄化合物を1種含有し、下記一般式[8]
【化4】

(式[8]中、Xは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、ハロゲン原子を表し、C、Dはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはハロゲン原子を表す。Jは水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニイウムイオン、またはアルキルアンモニウムイオンを表し、Jにおいてこれらのイオンは2種以上が混合されていてもよい。)で表されるモノアゾ鉄化合物から選ばれた1種以上のモノアゾ鉄化合物を含有する、モノアゾ鉄化合物からなる組成物を有効成分とする電荷制御剤であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記した一般式[7]および一般式[8]において、置換基Xがメチル基であり、置換基CおよびDが水素原子である、請求項2記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記した一般式[7]および一般式[8]において、置換基Xがメチル基であり、置換基Cが水素原子、置換基Dが4−クロロ基である、請求項2記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
前記した一般式[7]および一般式[8]において、置換基Xがメチル基であり、置換基Cが3−クロロ基、置換基Dが4−クロロ基である、請求項2記載の静電荷像現像用トナー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−68644(P2012−68644A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224578(P2011−224578)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【分割の表示】特願2005−41232(P2005−41232)の分割
【原出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】