説明

非水系ゲル電解質およびその製造方法、並びにその利用

【課題】リチウムイオン伝導性を持ち、液体系の電解質と同等あるいはそれ以上の高出力特性を有する非水系ゲル電解質を実現する。
【解決手段】キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩と、イオン液体と、リチウム塩と、を含む非水系ゲル電解質は、リチウムイオン伝導性を持ち、液体系の電解質と同等あるいはそれ以上の高出力特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系ゲル電解質およびその製造方法、並びにその利用に関するものであり、特に、リチウムイオンを利用する蓄電デバイスに好適に用いられる非水系ゲル電解質およびその製造方法、並びにその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来携帯電話等の小型電池として用いられてきたが、他の二次電池と比較してエネルギー密度が高いことから、近年電気自動車やハイブリッド自動車用の電源としての用途に期待が寄せられている。かかる用途においては、リチウムイオン二次電池の大型化が求められるため、エネルギー密度および出力密度を向上するための研究開発が盛んに行われている。
【0003】
現時点において、自動車用電源としては、有機溶媒にリチウム塩を溶解した液体系の電解質を用いるリチウムイオン二次電池が実用化されている。しかし、かかるリチウムイオン二次電池は、電解質に有機溶媒を使用しているために誤動作時の発火の危険性があり、破損時の漏液の可能性があるため、安全性の向上が求められる。
【0004】
前記有機溶媒を含む液体系の電解質を用いる場合の安全性の問題を解決するために、難揮発性且つ難燃性であるイオン液体を溶媒として用いる技術(例えば、特許文献1参照)、さらに、イオン液体とイオン液体の流動性を抑制するための高分子化合物とを含むゲル電解質を使用する技術(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−97922号公報(2010年4月30日公開)
【特許文献2】特開2009−277413号公報(2009年11月26日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、安全性を向上するための前記従来の技術を用いる方法は、いまだ十分であるとはいえない。
【0007】
特許文献1に記載のイオン液体を溶媒として用いる技術は、難揮発性且つ難燃性である点で安全性は向上しているが、液体系の電解質であるため、なお破損時の漏液の問題がある。
【0008】
また、ゲル電解質は一般に高分子化合物の存在によりイオン伝導率が低下することが知られており、液体系の電解質と同等あるいはそれ以上の高出力特性を実現するという点では十分ではない。従来のイオン液体とイオン液体の流動性を抑制するための高分子化合物とを含むゲル電解質では、高いリチウムイオン伝導性を持たせることが困難であった。前記特許文献2では、非水電解液に特定のアニオン成分を含むイオン液体を用いることで、架橋性ポリマーとイオン液体との溶解性を向上し、ポリマーの添加量を少量とすることで電解質への固体化の影響を少なくすることが開示されている。
【0009】
本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、リチウムイオン伝導性を持ち、液体系の電解質と同等あるいはそれ以上の高出力特性を有する非水系ゲル電解質を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る非水系ゲル電解質は、前記課題を解決するために、高分子化合物と、イオン液体と、リチウム塩と、を含み、前記高分子化合物は、キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩であることを特徴としている。
【0011】
前記の構成によれば、リチウムイオン伝導性を持ち、液体系の電解質と同等あるいはそれ以上の高出力特性を有する非水系ゲル電解質を実現することができる。
【0012】
本発明に係る非水系ゲル電解質では、前記高分子化合物は、架橋されていることが好ましい。
【0013】
前記高分子化合物が架橋されていることにより、非水系ゲル電解質の流動性がより抑制され且つ蓄電デバイスにおける電気的特性が低下しにくいというさらなる効果を奏する。
【0014】
本発明に係る非水系ゲル電解質では、非水系ゲル電解質に対する高分子化合物の含有率が50重量%〜95重量%であることが好ましい。
【0015】
非水系ゲル電解質に対する高分子化合物の含有率が50重量%〜95重量%であることにより、より好適に非水系ゲル電解質を形成することができ、且つ、イオン伝導性の低下を防ぐことができるというさらなる効果を奏する。
【0016】
本発明に係る非水系ゲル電解質では、非水系ゲル電解質に対するイオン液体の含有率が5重量%〜50重量%であることが好ましい。
【0017】
非水系ゲル電解質に対するイオン液体の含有率が5重量%〜50重量%であることにより、非水系ゲル電解質の蓄電デバイスにおける電気的特性をより十分なものにし得るというさらなる効果を奏する。さらにイオン液体の利用を最小限に抑えることができ、コスト面での優位性も得られる。
【0018】
本発明に係る非水系ゲル電解質では、含有するイオン液体に対するリチウム塩の含有濃度が0.2 mol/kg〜1.5mol/kgであることが好ましい。
【0019】
含有するイオン液体に対するリチウム塩の含有濃度が0.2mol/kg〜1.5mol/kgであることにより、リチウムイオン伝導に適し、実用的な充放電特性が得られる。
【0020】
本発明に係る蓄電デバイスは、正極、負極および前記非水系ゲル電解質を含む。
【0021】
これにより、従来のイオン液体とイオン液体の流動性を抑制するための高分子化合物とを含むゲル電解質では、困難であった良好なリチウムイオン伝導性を持たせた蓄電デバイスを実現することができる。
【0022】
本発明に係る蓄電デバイスは、リチウム電池、リチウムイオン二次電池またはリチウムイオンキャパシタであることが好ましい。
【0023】
本発明に係る非水系ゲル電解質の製造方法は、前記課題を解決するために、キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩を含むゲル膜を形成する工程と、当該ゲル膜を、リチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬する工程と、浸漬と同時または浸漬後に、リチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬したゲル膜を乾燥する工程と、を含むことを特徴としている。
【0024】
前記の構成によれば、リチウムイオン伝導性を持ち、液体系の電解質と同等あるいはそれ以上の高出力特性を有する非水系ゲル電解質を製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る非水系ゲル電解質は、以上のように、高分子化合物と、イオン液体と、リチウム塩と、を含み、前記高分子化合物は、キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩である構成を備えているので、リチウムイオン伝導性を持ち、液体系の電解質と同等あるいはそれ以上の高出力特性を有する非水系ゲル電解質を実現することができるという効果を奏する。
【0026】
本発明に係る非水系ゲル電解質の製造方法は、以上のように、前記課題を解決するために、キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩を含むゲル膜を形成する工程と、当該ゲル膜を、リチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬する工程と、浸漬と同時または浸漬後に、リチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬したゲル膜を乾燥する工程と、を含む構成を備えているので、リチウムイオン伝導性を持ち、液体系の電解質と同等あるいはそれ以上の高出力特性を有する非水系ゲル電解質を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1で得られた非水系ゲル電解質について、炭素系負極の充放電特性を評価した結果を示す図であり、(a)は充放電曲線を、(b)はサイクル特性を示す。
【図2】実施例1で得られた非水系ゲル電解質について、炭素系負極のレート特性を評価した結果を示す図であり、(a)は充放電曲線を、(b)はレート特性を示す。
【図3】電解質について、交流インピーダンス測定による炭素系負極との接触抵抗の評価を行った結果を示す図であり、(a)は液体系の電解質を用いたときのインピーダンス測定の結果を、(b)は実施例1で得られた非水系ゲル電解質を用いたときのインピーダンス測定の結果を示す。
【図4】実施例1で得られた非水系ゲル電解質について、層状酸化物系正極の充放電特性を評価した結果を示す図であり、(a)は充放電曲線を、(b)はサイクル特性を示す。
【図5】実施例1で得られた非水系ゲル電解質について、層状酸化物系正極のレート特性を評価した結果を示す図であり、(a)は充放電曲線を、(b)はレート特性を示す。
【図6】実施例1で得られた非水系ゲル電解質について、オリビン系正極の充放電特性を評価した結果を示す図であり、(a)は充放電曲線を、(b)はサイクル特性を示す。
【図7】実施例1で得られた非水系ゲル電解質について、オリビン系正極のレート特性を評価した結果を示す。
【図8】実施例2で得られた非水系ゲル電解質について、層状酸化物系正極の充放電特性を評価した結果を示す図であり、(a)は充放電曲線を、(b)はサイクル特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0029】
〔I〕非水系ゲル電解質
本発明者らは前記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の高分子化合物を用いて、イオン液体とイオン液体の流動性を抑制するための高分子化合物とを含むゲル電解質を作製したところ、リチウムイオン伝導性を持ち、液体系の電解質と同等あるいはそれ以上の高出力特性を有する非水系ゲル電解質を実現することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0030】
すなわち、本発明に係る非水系ゲル電解質は、高分子化合物と、イオン液体と、リチウム塩と、を含み、前記高分子化合物は、キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩を含む。
【0031】
これにより、従来のイオン液体とイオン液体の流動性を抑制するための高分子化合物とを含むゲル電解質では、困難であった高いリチウムイオン伝導性を持たせることができる。また、出力特性を改善(1Cレート以上)することができ、さらにイオン液体単体と同等の性能を発揮することができる。
【0032】
さらには、本発明の非水系ゲル電解質を用いたリチウムイオン電池では、炭素を含む電極において電解質との界面抵抗を低減することができることが見出された。
【0033】
また、本発明の非水系ゲル電解質は、難燃性に優れるとともに破損時に漏液がない。それゆえ、車両や自然エネルギー蓄電などに用いたときの安全性に優れ、また耐久性に優れる。さらに、ゲル電解質を用いることにより、柔軟性および加工性に優れ、薄層デバイスの構築も容易である。
【0034】
さらには、リチウムイオン二次電池に用いられる高価なセパレータを省くことを可能とし、リチウムイオン二次電池の低コスト化を図ることができる。つまり、本発明の非水系ゲル電解質は従来の高分子化合物よりも安価な前記高分子化合物を利用することにより、低コストとなり、さらに単独での利用を可能とする強度を有しているため、セパレータの利用は必要ない。
【0035】
(I−1)高分子化合物
本発明に係る非水系ゲル電解質は、高分子化合物として、キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩を含んでいればよいが、非水系ゲル電解質に対する高分子化合物の含有率は、50重量%〜95重量%であることが好ましく、80重量%〜95重量%であることがより好ましい。非水系ゲル電解質に対する高分子化合物の含有率が50重量%以上であることにより、好適に非水系ゲル電解質を形成することができるため好ましい。また、非水系ゲル電解質に対する高分子化合物の含有率が95重量%以下であることにより、イオン液体が一定量以上含まれるため、イオン伝導性の低下を防ぐことができる。
【0036】
また、イオン液体は通常高価であるため、高分子化合物を含み、イオン液体の含有率を低減できる本発明の非水系ゲル電解質は低コストでの製造が可能である。さらに、前記高分子化合物は天然高分子であるキトサンまたはアルギン酸をベースとするものである。このため、本発明の非水系ゲル電解質は、安価で製造可能であり、さらに資源が枯渇するおそれもない。
【0037】
<キトサンまたはキチン或いはこれらの塩>
本発明に係る非水系ゲル電解質に含まれる高分子化合物は、本発明の一実施形態ではキトサンまたはキチン或いはこれらの塩を含んでいる。
【0038】
キトサンは、天然多糖類であるキチンが部分的又は完全に脱アセチル化したものである。キチンは、基本的にはβ−1,4−ポリ−N−アセチル−D−グルコサミンであるが、一部脱アセチル化されていてもよい。キトサンは、キチンが部分的に脱アセチル化されることにより、D−グルコサミンおよびN−アセチル−D−グルコサミンが構成単位としてβ−1,4結合してなる構造を有していてもよいし、キチンが完全に脱アセチル化されることによりβ−1,4−ポリ−D−グルコサミンとなっていてもよい。
【0039】
本発明において、キトサンとは下記式(1)で表わされる脱アセチル化度が50%以上であるものをいう。また、本発明において、キチンとは、下記式(1)で表わされる脱アセチル化度が50%未満であるものをいう。非水系ゲル電解質の製造過程において前記高分子化合物を溶媒に対して容易に溶解させるという観点、および、成形の観点から、前記脱アセチル化度が40%以上、50%未満のキチン、または、前記脱アセチル化度が55%〜100%のキトサンを用いることがより好ましい。
【0040】
脱アセチル化度(%)=(高分子化合物中のD−グルコサミン構成単位の割合/高分子化合物中のN−アセチル−D−グルコサミン構成単位の割合とD−グルコサミン構成単位の割合との合計)×100 ・・・式(1)
キトサンおよびキチンの分子量は特に限定されるものではないが、0.5%酢酸溶液の20℃におけるB型粘度計が示す粘度が、20mP・s〜200mP・sに相当する分子量であることが好ましく、40mP・s〜90mP・sに相当する分子量であることがより好ましい。0.5%酢酸溶液の20℃におけるB型粘度計が示す粘度が前記の範囲であることにより、ゲル構造をより容易に形成することができる。
【0041】
また、キトサンまたはキチンは、アミノ基がイオン化していない遊離のキトサンまたはキチンであってもよいし、キトサン塩またはキチン塩の形であってもよい。なお、アミノ基の対イオンとなる陰イオンは、イオン液体に含まれる陰イオンと同じであることが好ましい。
【0042】
また、キトサンまたはキチン或いはこれらの塩は、本発明の効果に悪影響を与えない限りにおいて、架橋体であってもよい。かかる架橋体としては、特に限定されるものではなく、キトサンまたはキチン或いはこれらの塩の架橋剤として従来公知の有機または無機の架橋剤により架橋された架橋体を用いることができる。
【0043】
前記高分子化合物は、キトサンまたはキチンまたはこれらの塩を主成分として含んでいればよい。ここで、本明細書において「主成分として」とは、具体的には、含有率が50重量%〜100重量%であることを意味し、より好ましくは80重量%〜100重量%であり、さらに好ましくは90重量%〜100重量%であり、特に好ましくは95重量%〜100重量%である。なお、キトサンの原料であるキチンの由来は特に限定されないが、カニ、エビ、イカ、貝などを原料とすることができる。
【0044】
また、本実施形態において、前記高分子化合物は、1質量%以上のキトサン水溶液またはキチン水溶液を用いて調製されたものであることが好ましく、2質量%以上のキトサン水溶液またはキチン水溶液を用いて調製されたものであることがより好ましい。また、5質量%以下のキトサン水溶液またはキチン水溶液を用いて調製されたものであることが好ましい。キチンまたはキトサンが1質量%〜5質量%、より好ましくは2質量%〜3質量%のキトサン水溶液またはキチン水溶液を用いて調製されたものであることにより、電気化学デバイスにおける非水系ゲル電解質の強度および電気的特性の低下がより抑制され得るという利点がある。
【0045】
<アルギン酸またはアルギン酸塩>
本発明に係る非水系ゲル電解質に含まれる高分子化合物は、本発明の他の一実施形態ではアルギン酸またはアルギン酸塩を含んでいる。
【0046】
アルギン酸は、β−D−マンヌロン酸と、α−L−グルロン酸とが1,4結合した高分子多糖類の基本分子構造を有するものである。なお、アルギン酸の由来は特に限定されないが、コンブ、ワカメ、カジメなどの褐藻類植物由来のものを用いることができる。
【0047】
アルギン酸は、カルボキシル基が遊離酸の形をとっている遊離のアルギン酸であってもよいし、アルギン酸塩の形であってもよい。前記アルギン酸塩としては、アルギン酸一価塩、二価以上の金属イオンとの塩であるアルギン酸多価塩が挙げられる。
【0048】
前記アルギン酸一価塩としては、アルギン酸カリウム、アルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸アルカリ金属塩;アルギン酸アンモニウム塩等が挙げられる。
【0049】
前記アルギン酸一価塩は、1%(W/V)水溶液の20℃における粘度が300〜2000mPa・Sであるものが好ましく、500〜1000mPa・Sであるものがより好ましい。
【0050】
なお、かかる粘度は、回転式粘度計(ブルックフィールド社製)により、RV−1スピンドルを用いて、20℃で回転数60rpm、測定時間1分の条件で測定したときの値である。
【0051】
前記アルギン酸多価塩としては、具体的には例えば、アルギン酸カルシウム、アルギン酸マグネシウムなどのアルギン酸アルカリ土類金属塩;アルギン酸鉄などのアルギン酸遷移金属塩等が挙げられる。
【0052】
また、前記アルギン酸アルカリ土類金属塩としては、電気化学デバイスにおける非水系ゲル電解質の電気的特性が比較的高温で優れたものになり得るという点で、アルギン酸カルシウムがより好ましい。
【0053】
また、前記アルギン酸またはアルギン酸塩は、架橋されていても、架橋されていなくてもよいが、流動性がより抑制され且つ蓄電デバイスにおける電気的特性が低下しにくいという点で、架橋物(以下、本明細書において、「アルギン酸架橋物」と称することがある。)であることがより好ましい。
【0054】
前記アルギン酸架橋物としては、アルギン酸の架橋物、アルギン酸一価塩の架橋物、アルギン酸多価塩の架橋物等を挙げることができる。また、前記アルギン酸またはアルギン酸塩を架橋するための架橋剤としても特に限定されるものではないが、例えば、硫酸等を好適に用いることができる。したがって、前記架橋物には、アルギン酸、アルギン酸一価塩、アルギン酸多価塩などを硫酸により架橋したアルギン酸硫酸架橋物などが挙げられる。なかでも、前記アルギン酸架橋物としては、電気化学デバイスにおける非水系ゲル電解質の電気的特性がより優れたものになり得るという点で、アルギン酸多価塩の架橋物がより好ましい。
【0055】
本実施形態において、前記高分子化合物は、アルギン酸一価塩の水溶液を用いて調製されたものであることがより好ましく、さらに好ましくは、アルギン酸一価塩の水溶液を用いて調製されたアルギン酸架橋物(アルギン酸一価塩の架橋物)である。
【0056】
また、本実施形態において、前記高分子化合物は、1質量%以上のアルギン酸一価塩の水溶液を用いて調製されたものであることが好ましく、2質量%以上のアルギン酸一価塩の水溶液を用いて調製されたものであることがより好ましい。また、5質量%以下のアルギン酸一価塩の水溶液を用いて調製されたものであることが好ましい。アルギン酸が1質量%〜5質量%、より好ましくは2質量%〜3質量%のアルギン酸一価塩の水溶液を用いて調製されたものであることにより、電気化学デバイスにおける非水系ゲル電解質の強度および電気的特性の低下がより抑制され得るという利点がある。
【0057】
前記高分子化合物は、アルギン酸、アルギン酸塩またはこれらの架橋体を主成分として含んでいればよい。
【0058】
(I−2)リチウム塩
本発明に係る非水系ゲル電解質は、上述した高分子化合物と、イオン液体と、リチウム塩とを含んでいればよいが、非水系ゲル電解質中に存在するイオン液体に対するリチウム塩の含有濃度が0.2mol/kg〜1.5mol/kgであることが好ましく、0.3mol/kg〜1.0mol/kgであることがより好ましい。非水系ゲル電解質中に存在するイオン液体に対するリチウム塩の含有濃度が0.2mol/kg以上であることにより、充放電における十分なキャリヤ密度を確保できるため好ましい。また、非水系ゲル電解質中に存在するイオン液体に対するリチウム塩の含有濃度が1.5mol/kg以下であることにより、粘度増加による出力低下を抑制できるため好ましい。
【0059】
本発明において使用されるリチウム塩は、特に限定されるものではないが、例えば、LiN(CFSO(ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドリチウム;LiTFSI)、LiN(FSO(ビス(フルオロスルフォニル)イミドリチウム;LiFSI)、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、リチウムビスオキサラトボラート(LiBOB)、LiN(CSO等を挙げることができる。中でも前記リチウム塩としては、LiTFSI、LiFSIがより好ましい。なお、前記リチウム塩は単独で用いてもよいし2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
また、本発明に係る非水系ゲル電解質は、上述した高分子化合物と、イオン液体と、リチウム塩とを含んでいればよいが、本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、リチウム塩に加えて、さらにLi塩以外の電解質塩を含んでいてもよい。
【0061】
(I−3)イオン液体
本発明に係る非水系ゲル電解質は、前記高分子化合物と、イオン液体と、前記リチウム塩とを含んでいればよく、前記イオン液体が非水系ゲル電解質に含まれる量としては、特に限定されるものではない。しかしながら、非水系ゲル電解質の蓄電デバイスにおける電気的特性をより十分なものにし得るという点で、非水系ゲル電解質に対するイオン液体の含有率は、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。また、前記非水系ゲル電解質に対するイオン液体の含有率は、50重量%以下である。したがって、非水系ゲル電解質に対するイオン液体の含有率は、5重量%〜50重量%とすることができ、より好ましくは、5重量%〜20重量%とすることができる。
【0062】
ここで、イオン液体とは、アニオンとカチオンとを含む100℃未満で液体状の塩であれば特に限定されるものではなく、どのようなものであってもよい。
【0063】
イオン液体のアニオンとしては、例えば、BF、NO、PF、SbF、CHCHOSO、CHCO、(FSO(ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン)、フルオロアルキル基含有アニオン等が挙げられる。
【0064】
前記フルオロアルキル基含有アニオンとしては、例えば、CFCO、パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオン等が挙げられる。
【0065】
前記パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンとしては、例えば、CFSO、(CFSO(ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)、(CFSO等が挙げられる。
【0066】
前記イオン液体のカチオンとしては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピラゾリウム、又はホスホニウム等が挙げられる。
【0067】
前記イミダゾリウムとしては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、1−アリル−3−エチルイミダゾリウム、1−ア
リル−3−ブチルイミダゾリウム、1,3−ジアリルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0068】
また、前記ピリジニウムとしては、例えば、1−プロピルピリジニウム、1−ブチルピリジニウム、1−エチル−3−(ヒドロキシメチル)ピリジニウム、1−エチル−3−メチルピリジニウム等が挙げられる。
【0069】
前記ピロリジニウムとしては、例えば、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム、N−メチル−N−ブチルピロリジニウム、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム等が挙げられる。
【0070】
また、前記ピペリジニウムとしては、例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム等が挙げられる。
【0071】
また、前記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム等が挙げられる。
【0072】
また、前記ピラゾリウムとしては、例えば、1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−ブチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム等が挙げられる。
【0073】
前記イオン液体としては、これら各種アニオンの少なくとも1種とこれら各種カチオンの少なくとも1種とを組み合わせたものを採用することができる。なかでも、蓄電デバイスにおける電気的特性がより優れたものとなり、且つ、該電気的特性の低下が抑制されるという点および入手し易く電解液の有する電気的特性の低下が蓄電デバイスにおいてより抑制され、取扱が容易であるという点では、ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオンあるいはビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドを含むことが好ましい。具体的な化合物としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルフォニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、N,N-ジメチル-N-メチル-N-(メトキシエチル)アンモニウム ビス(フルオロスルフォニル)イミドなどが挙げられる。
【0074】
また、前記イオン液体としては、比較的低粘度であり、イオン伝導性に優れ、電気化学的な安定性に優れるという点で、イミダゾリウムカチオン又はピロリジニウムカチオンを含むイオン液体が好ましい。
【0075】
具体的には、前記イオン液体としては、アニオンとしてのビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン又はビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドと、カチオンとしてのイミダゾリウムとの塩が好ましく、より具体的には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルフォニル)イミド、又は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドが好ましい。なお、前記イオン液体は、単独で、または2種以上を組み合わされて用いられ得る。
【0076】
(I−4)その他の成分
本発明に係る非水系ゲル電解質には、前記高分子化合物、イオン液体およびリチウム塩以外に、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で添加剤が含まれていてもよい。
【0077】
かかる添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジメチルエーテル、フルオロエチレンカーボネートなどのフッ素置換体、スルホランなどのスルホン系化合物等を挙げることができる。
【0078】
〔II〕非水系ゲル電解質の製造方法
本発明に係る非水系ゲル電解質の製造方法は、前記非水系ゲル電解質を製造することができる方法であれば、特に限定されるものではない。本発明に係る非水系ゲル電解質の製造方法の一例として、例えば、キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩を含むゲル膜を形成する工程と、当該ゲル膜を、リチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬する工程と、浸漬と同時または浸漬後にリチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬したゲル膜を乾燥する工程と、を含む方法を好適に用いることができる。
【0079】
キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩を含むゲル膜を形成する工程では、キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩を含む溶液を調製し、例えば基材上に塗布すればよい。ここで、用いられる基材としては、例えば、ガラス基材、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、テフロン(登録商標)等を挙げることができる。かかる基材上に塗布されたゲル膜は剥離されて、蓄電デバイスに用いる場合には電極に張りあわせることができる。
【0080】
当該工程はさらに、キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩を含むゲル膜を架橋する工程を含んでいてもよい。
【0081】
得られたゲル膜は、必要に応じて、洗浄、アルコールによる脱水等を行った後、リチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬する工程により、イオン液体と、リチウム塩とを含むゲル膜とすることができる。
【0082】
リチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬したゲル膜は、浸漬と同時または浸漬後の乾燥工程で、アルコールや水分が除去される。
【0083】
以下により具体的な例により、本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0084】
まず、前記高分子化合物として例えばキトサンを用いた場合の本発明に係る非水系ゲル電解質の製造方法の一例について説明する。本製造方法では、始めにキトサンを酸水溶液に溶解させてキトサンの酸水溶液を調製する。酸水溶液にキトサンを溶解するという観点から、酸水溶液におけるキトサンの濃度は、1重量%〜5重量%であることが好ましい。ここで用いられる酸水溶液は、有機酸の水溶液であっても、無機酸の水溶液であってもよい。前記有機酸としては、例えば、酢酸、ギ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸等を挙げることができる。また、前記無機酸としては塩酸、硝酸等を用いることができる。例えば、酸水溶液として酢酸水溶液を用いる場合、酢酸水溶液における酢酸濃度は、0.5重量%〜5重量%であることが好ましい。
【0085】
その後、キトサンの酸水溶液に水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液等の塩基性水溶液を添加することにより、キトサンゲルを調製する。水酸化カルシウム水溶液の水酸化カルシウム濃度、または、水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウム濃度は、1重量%〜40重量%であることが好ましい。
【0086】
さらに、キトサンゲルを成膜してゲル膜を形成する。成膜はバーコーター、スピンコートなどを用いて行うことができる。続いて、ゲル膜を洗浄する。洗浄には、水、アルコールなどを用いることができる。
【0087】
その後、洗浄したゲル膜をアルコールに浸漬することにより、ゲル膜を脱水する。アルコールとしては、メタノール、エタノール等を用いればよい。アルコールへの浸漬は常温(例えば、20℃)あるいは常温以上の加熱条件下で行えばよく、減圧条件下で行う必要はない。概して、アルコールへの浸漬時間は、30分〜90分である。
【0088】
そして、アルコールを含有したゲル膜を、リチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬させて非水系ゲル電解質を得る。浸漬を効率良く行うため、減圧条件下にて浸漬することが好ましい。浸漬時の圧力条件は、10−3Pa〜10−1Paにて浸漬を行うことができる。また、必要に応じて浸漬時の温度条件を、常温〜100℃とすればよい。
【0089】
リチウム塩をイオン液体に溶解するときの、リチウム塩の濃度は、0.2mol/kg〜1.5mol/kgであることが好ましい。リチウム塩の濃度は、0.2mol/kg以上であることにより充放電における十分なキャリヤ密度を確保できるため好ましい。また、リチウム塩の濃度が、1.5mol/kg以下であることにより粘度増加による出力低下を抑制できるため好ましい。
【0090】
前記キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩としては、市販されているものを用いることができ、例えば、コーヨーキトサンFH−80F(甲陽ケミカル社製)、chitosan1000(和光純薬工業製)などを用いることができる。
【0091】
また、前記高分子化合物として例えばキトサンを用いた場合の本発明に係る非水系ゲル電解質の製造方法は、上記方法に限定されるものではなく、例えば、キトサンを酸水溶液に溶解させてキトサンの酸水溶液を調製し、得られた酸水溶液を基材上に塗布してもよい。
【0092】
或いは、前記キチンまたはキトサン、キトサン塩が非架橋物である場合、例えば、リチウム塩を予め溶解したイオン液体とキトサン非架橋物とを攪拌混合し、それを基材上に塗布して成膜することにより製造してもよい。
【0093】
次に、前記高分子化合物として例えばアルギン酸カルシウム塩、またはアルギン酸ナトリウムの酸硫酸架橋物を用いた場合の本発明に係る非水系ゲル電解質の製造方法を説明する。
【0094】
まず、アルギン酸ナトリウムを水に溶解させてアルギン酸ナトリウム水溶液を調製し、このアルギン酸ナトリウム水溶液をガラスプレート上にキャストする。キャストしたアルギン酸ナトリウム水溶液に塩化カルシウム水溶液または硫酸水溶液を加えることにより、アルギン酸カルシウム架橋物、またはアルギン酸の硫酸架橋物からなるゲル状膜を作製する。そして、このゲル状膜をエタノール等に浸漬することにより、含まれる水や遊離イオンを除去する。さらに、含まれる水や遊離イオンを除去したゲル状膜を、リチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬して減圧下でエタノール等を除去することにより、イオン液体と、リチウム塩と、アルギン酸カルシウム架橋物、またはアルギン酸の硫酸架橋物とを含む非水系ゲル電解質を製造することができる。なお、リチウム塩をイオン液体に溶解するときの、リチウム塩の濃度は、キトサンを用いた場合と同じである。また、リチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬したゲル膜を乾燥する圧力条件、温度条件についてもキトサンを用いた場合と同じである。かかる圧力条件、温度条件は、浸漬と同時に前記ゲル膜の乾燥を行う場合は、浸漬時の圧力条件、温度条件であるとも言える。
【0095】
また、前記非水系ゲル電解質は、例えば、次のようにしても製造できる。即ち、アルギン酸ナトリウム水溶液を冷凍させることにより固化させた後、その固化物の上に例えば硫酸水溶液を加え、アルギン酸の硫酸架橋物を生成させながら自然解凍させる。自然解凍によって得られたゲル状体をエタノール等に浸漬して脱水操作を行い、さらにリチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬する。そして、減圧下に置くことにより、エタノールを除去し、イオン液体と、リチウム塩と、アルギン酸の硫酸架橋物とを含む電解質を製造できる。
【0096】
前記アルギン酸ナトリウムとしては、市販されているものを用いることができ、例えば、商品名「ダックアルギン(登録商標)」(フードケミファ社製)、アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業製)などを用いることができる。
【0097】
なお、前記非水系ゲル電解質は、前記アルギン酸またはアルギン酸塩が非架橋物である場合、例えば、リチウム塩を予め溶解したイオン液体とアルギン酸非架橋物(アルギン酸またはアルギン酸塩)とを攪拌混合し、それを基材上に塗布して成膜することにより製造することができる。
【0098】
〔III〕非水系ゲル電解質の利用
本発明に係る非水系ゲル電解質は、固体電解質であり、且つ、リチウムイオン伝導性を持ち、液体系の電解質と同等あるいはそれ以上の高出力特性を有する非水系ゲル電解質を実現することができるので、リチウム電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等のリチウムイオン伝導を利用する蓄電デバイスに好適に用いることができる。それゆえ本発明には、前記非水系ゲル電解質を用いた蓄電デバイスも含まれる。
【0099】
本発明にかかるリチウム電池、リチウムイオン二次電池は、正極と負極と、本発明に係る非水系ゲル電解質とを含むリチウム電池、リチウムイオン二次電池である。
【0100】
正極および負極の材料としては特に限定されるものではなく、リチウム電池、リチウムイオン二次電池に通常用いられる構成を適宜選択して用いることができる。例えば、特許文献1、2等に記載の構成を用いてもよい。
【0101】
特に、本発明に係る非水系ゲル電解質は、一般的な正極活物質;グラファイト、ハードカーボンなどの活物質材料;グラファイト、ハードカーボンなどの活物質材料と非炭素系負極活物質との混合電極;カーボンコーティングされた正極あるいは負極活物質;アセチレンブラックやケッチャンブラック等カーボン系導電助剤;リチウムイオンキャパシタ用活性炭電極などの炭素負極および炭素含有電極を用いる場合に、液体系の電解質よりも、正極および負極との接触性が良好であるため好ましい。
【実施例】
【0102】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0103】
〔実施例1〕
<非水系ゲル電解質の製造>
以下に示す原料を用いて非水系ゲル電解質を製造した。
・イオン液体:1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルフォニル)イミド(以下、本明細書において、「EMImFSI」と称することがある。第一工業製薬社製)
・キトサン:FH80(甲陽ケミカル株式会社)
・リチウム塩:リチウム ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(以下、本明細書において、「LiTFSI」と称することがある。関東化学社製)
2重量%の酢酸水溶液に、キトサン粉末(FH80・甲陽ケミカル株式会社)を溶解させて、キトサン濃度が2重量%のキトサンの酢酸水溶液を得た。この2重量%のキトサンの酢酸水溶液をガラス板上に塗布し、これを10重量%NaOH水溶液に30分浸漬することによりキトサンゲル膜とした。そして、得られたキトサンゲル膜を蒸留水により洗浄した後、メタノールに6時間浸漬することにより脱水した。
【0104】
LiTFSIを、濃度が0.32mol/kgとなるようにEMImFSIに溶解した。メタノールを含有したキトサンゲル膜を、前記LiTFSIを溶解させたEMImFSIに浸漬し、その後、10−2Paの減圧条件下、70℃で48時間乾燥することにより、ゲル状且つシート形状の非水系ゲル電解質を製造した。得られた非水系ゲル電解質は無色透明であり、厚みは約100μmであった。
【0105】
<炭素系負極の充放電特性の評価>
実施例1で得られた非水系ゲル電解質について、単極評価セルにより炭素系負極の充放電特性を評価した。
【0106】
グラファイト負極に対し、対極を金属リチウムとした二極式の試験セルを作製した。電解質としては、前記実施例1で作製した非水系ゲル電解質を用いた。作製した試験セルを用いて充放電試験を行った。初回は充放電レートを0.1Cとし、2回目以降は充放電レートを1.0C(1C=350mAg−1)として、充電終止電圧を0.005Vとし、放電終止電圧を1.5Vとする充放電試験を30サイクル行った。
【0107】
図1中、(a)に充放電曲線を、(b)にサイクル特性を示す。図1(a)、(b)に示されるように、実施例1で得られた非水系ゲル電解質は、30サイクルにわたり液体系電解質と同様の挙動を示した。すなわち、30サイクルにわたり、非水系ゲル電解質自身の劣化、セルの性能の劣化がおこらず安定に充放電することが可能なことが示された。
【0108】
<炭素系負極のレート特性の評価>
実施例1で得られた非水系ゲル電解質について、前記試験セルにより炭素系負極のレート特性を評価した。
【0109】
作製した試験セルを用いて、充放電レートを0.1C、0.3C、0.5C、1.0C、2.0C、3.0C、5.0Cと変化させて、充電終止電圧を0.005Vとし、放電終止電圧を1.5Vとする充放電試験を行った。
【0110】
図2中、(a)に充放電曲線を、(b)にレート特性を示す。図2(b)に示すように、本発明に係る非水系ゲル電解質は、ゲル電解質であるにもかかわらず、液体系の電解質とレート特性が同等であることが示された。かかる結果から、キトサンゲルは、非水系ゲル電解質内部でリチウムイオンの移動を妨げておらず、液体中と同様の移動を可能とすると考えられる。
【0111】
<交流インピーダンス測定によるグラファイト負極との接触抵抗の評価>
実施例1で得られた非水系ゲル電解質について、前記試験セルを用いて交流インピーダンス測定によるグラファイト負極との接触抵抗の評価を行った。
【0112】
交流インピーダンスの測定は、電気化学測定システム装置(ソーラートロン社製、1287型)と周波数応答アナライザー装置(ソーラートロン社製、1260型)とを用いて、交流振幅100000−0.01Hz、印加電圧4.2Vにて行った。
【0113】
図3中、(a)に液体系の電解質を用いたときのインピーダンス測定結果を、(b)に実施例1で得られた非水系ゲル電解質を用いたときのインピーダンス測定結果を、ナイキストプロットとして示す。図3の(a)、(b)に示されるように、接触抵抗を示す高周波数側の実軸との切片の値が、液体系の電解質では2.67であるのに対し、非水系ゲル電解質では2を下回っており、非水系ゲル電解質を用いたときの方が、接触抵抗が小さいことが判る。これは本発明の非水系ゲル電解質が、液体系の電解質よりも、グラファイト負極との接触性が良好であり、電極表面上の活性点、つまりキャリア密度の増加により、見掛け上抵抗値が下がっていると考えられ、通常の高分子化合物では見受けられない顕著な効果であるということができる。
【0114】
<層状酸化物系正極の充放電特性の評価>
実施例1で得られた非水系ゲル電解質について、単極評価セルにより層状酸化物系正極の充放電特性を評価した。
【0115】
LiNi1/3Mn1/3Co1/3を作用極として用い、対極を金属リチウムとした二極式の試験セルを作製した。電解質としては、前記実施例1で作製した非水系ゲル電解質を用いた。
【0116】
作製した試験セルを用いて充放電試験を行った。初回は充放電レートを0.1Cとし、2回目以降は充放電レートを1.0Cとして、充電終止電圧を3.0Vとし、放電終止電圧を4.5Vとする充放電試験を30サイクル行った。
【0117】
図4中、(a)に充放電曲線を、(b)にサイクル特性を示す。図4(a)、(b)に示されるように、実施例1で得られた非水系ゲル電解質は、30サイクルにわたり、非水系ゲル電解質自身の劣化、セルの性能の劣化がおこらず安定に充放電することが可能なことが示された。
【0118】
<層状酸化物系正極のレート特性の評価>
実施例1で得られた非水系ゲル電解質について、前記試験セルにより層状酸化物系正極のレート特性を評価した。
【0119】
作製した試験セルを用いて、充放電レートを0.1C、0.3C、0.5C、1.0C、2.0C,3.0C、5.0Cと変化させて、充電終止電圧を4.5Vとし、放電終止電圧を3.0Vとする充放電試験を行った。各レートでは3サイクルの充放電を行っている。
【0120】
図5中、(a)に充放電曲線を、(b)にレート特性を示す。図5(b)に示すように、本発明に係る非水系ゲル電解質は、ゲル電解質であるにもかかわらず、液体系の電解質とレート特性が0.1Cレートから1Cレートまでは重なっており、2Cレートにおいてもほぼ同等であり、且つ、3Cレート以上では液体系の電解質を上回る特性を示した。かかる結果から、キトサンゲルは、非水系ゲル電解質内部でリチウムイオンの移動を妨げておらず、液体中と同様の移動を可能とすると考えられる。さらに、本発明に係る非水系ゲル電解質は、層状酸化物系正極との親和性が高く、高い出力特性を可能とすると考えられ、これは通常の高分子化合物では見受けられない顕著な効果であるといえる。
【0121】
<オリビン系正極の充放電特性の評価>
実施例1で得られた非水系ゲル電解質について、単極評価セルによりオリビン系正極の充放電特性を評価した。
【0122】
LiFePOを作用極として用い、対極を金属リチウムとした二極式の試験セルを作製した。電解質としては、前記実施例1で作製した非水系ゲル電解質を用いた。
【0123】
作製した試験セルを用いて充放電試験を行った。初回は充放電レートを0.1Cとし、2回目以降は充放電レートを1.0Cとして、充電終止電圧を2.5Vとし、放電終止電圧を3.8Vとする充放電試験を50サイクル行った。
【0124】
図6中、(a)に充放電曲線を、(b)にサイクル特性を示す。図6(a)、(b)に示されるように、実施例1で得られた非水系ゲル電解質は、50サイクルにわたり、非水系ゲル電解質自身の劣化、セルの性能の劣化がおこらず安定に充放電することが可能なことが示された。
【0125】
また、図7にレート特性を示す。図7に示すように、本発明に係る非水系ゲル電解質は、ゲル電解質であるにもかかわらず、液体系の電解質とレート特性が1Cレートまでは重なっていることから同等であり、且つ、3Cレート以上では液体系の電解質を上回る特性を示した。かかる結果から、キトサンゲルは、非水系ゲル電解質内部でリチウムイオンの移動を妨げておらず、液体中と同様の移動を可能とすると考えられる。さらに、オリビン系正極との親和性が高く、高い出力特性を可能とすると考えられ、これは通常の高分子化合物では見受けられない顕著な効果であるといえる。
【0126】
〔実施例2〕
<非水系ゲル電解質の製造>
以下に示す原料を用いて非水系ゲル電解質を製造した。
・イオン液体:EMImFSI
・アルギン酸ナトリウム:1(w/v)%水溶液の粘度(20℃):1000mPa・S、フードケミファ社製商品名「ダックアルギンNSPH2」
・リチウム塩:LiTFSI
3重量%アルギン酸ナトリウム水溶液(フードケミファ社製、商品名:ダックアルギンNSPH2)をガラス板上に塗布し、これを15重量%CaCl水溶液に30分浸漬することにより、アルギン酸カルシウムゲル膜とした。そして、得られたアルギン酸カルシウムゲル膜をメタノールに6時間浸漬することにより脱水した。
【0127】
メタノールを含有したアルギン酸カルシウムゲル膜を、前記LiTFSIを実施例1と同様にして溶解させたEMImFSIに浸漬し、その後、10−2Paの減圧条件下、70℃で48時間乾燥することにより、ゲル状且つシート形状の非水系ゲル電解質を製造した。得られた非水系ゲル電解質は無色透明であり、厚みは約100μmであった。
【0128】
<炭素系負極の充放電特性の評価>
実施例2で得られた非水系ゲル電解質について、単極評価セルにより層状酸化物系正極の充放電特性を評価した。
【0129】
LiNi1/3Mn1/3Co1/3を作用極として用い、対極を金属リチウムとした二極式の試験セルを作製した。電解質としては、前記実施例2で作製した非水系ゲル電解質を用いた。
【0130】
作製した試験セルを用いて充放電試験を行った。初回は充放電レートを0.1Cとし、2回目以降は充放電レートを1.0Cとして、充電終止電圧を3.0Vとし、放電終止電圧を4.5Vとする充放電試験を50サイクル行った。
【0131】
図8中、(a)に充放電曲線を、(b)にサイクル特性を示す。図7(a)、(b)に示されるように、実施例2で得られた非水系ゲル電解質は、50サイクルにわたり、非水系ゲル電解質自身の劣化、セルの性能の劣化がおこらず安定に充放電することが可能なことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明に係る非水系ゲル電解質は、固体電解質であり、且つ、リチウムイオン伝導性を持ち、液体系の電解質と同等あるいはそれ以上の高出力特性を有する非水系ゲル電解質を実現することができる。それゆえリチウム電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等のリチウムイオン伝導を利用する蓄電デバイスに好適に用いることができる。さらには、電気自動車、ハイブリッド自動車、より大型のバス・トラック等の自動車、電車、または、クレーンやフォークリフト等の産業用機械等に用いることができる。
【0133】
また、本発明に係る蓄電デバイスは、風力発電や太陽光発電等の自然エネルギーを利用する発電における蓄電システムにも利用することができ非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物と、イオン液体と、リチウム塩と、を含み、
前記高分子化合物は、キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩であることを特徴とする非水系ゲル電解質。
【請求項2】
前記高分子化合物は、架橋されていることを特徴とする請求項1に記載の非水系ゲル電解質。
【請求項3】
非水系ゲル電解質に対する高分子化合物の含有率が50重量%〜95重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の非水系ゲル電解質。
【請求項4】
非水系ゲル電解質に対するイオン液体の含有率が5重量%〜50重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水系ゲル電解質。
【請求項5】
前記イオン液体に対するリチウム塩の含有濃度が0.2mol/kg〜1.5mol/kgであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水系ゲル電解質。
【請求項6】
正極、負極および請求項1〜5の何れか1項に記載の非水系ゲル電解質を含むことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項7】
リチウム電池、リチウムイオン二次電池またはリチウムイオンキャパシタであることを特徴とする請求項6に記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
キトサンまたはキチン、キトサン塩またはキチン塩、アルギン酸、或いは、アルギン酸塩を含むゲル膜を形成する工程と、
当該ゲル膜を、リチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬する工程と、
浸漬と同時または浸漬後に、リチウム塩を予め溶解したイオン液体に浸漬したゲル膜を乾燥する工程と、
を含むことを特徴とする非水系ゲル電解質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−58365(P2013−58365A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195478(P2011−195478)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ・刊行物名 キチン・キトサン研究 第17巻第2号[2011]第25回 シンポジウム特集 発行日 2011年 7月 1日 発行所 日本キチン・キトサン学会
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】