非水系二次電池用セパレータ及びこれを用いた電池
【課題】 適正厚みの範囲(20μmから40μm)で高い空隙率、高い吸液性能、高い耐熱性を備えた非水系二次電池用セパレータを提供する。
【解決手段】 無機材料から構成される微多孔シートの内部に、前記微多孔シートの表面に沿う方向に不連続で扁平な空隙を有する樹脂微多孔体が形成されていることを特徴とする。
【解決手段】 無機材料から構成される微多孔シートの内部に、前記微多孔シートの表面に沿う方向に不連続で扁平な空隙を有する樹脂微多孔体が形成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水系二次電池に使用され、耐熱性、吸液性に優れ、高い空隙率を有する非水系二次電池用セパレータ及びこれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系二次電池用セパレータに必要とされる条件として以下の(1)〜(3)がある。
(1)適正な厚みを有するものであること
セパレータ厚みは、小型化(高エネルギー密度化)や低抵抗化の観点からはより薄い方が好ましいが、自動車用、定置型用などの大型電池での安全性(短絡・微短絡防止)を重視する場合にはより厚い方が好ましく、汎用小型携帯電話用電池用セパレータの厚み(Celgard LLC製の「Celgard(登録商標)#2500」では25μm)と同等もしくは若干厚くなる範囲の20μm〜40μmが実用的な厚みとされている。
【0003】
(2)微多孔を備えたものであること
非水系電池では設計電極間隔において電極同士の短絡又は微短絡(ここでは完全に接触してショートするわけではないが電場印加時に微弱な電流が流れる現象を「微短絡」と呼ぶ。)が生じないよう、セパレータに(a)隔壁機能が求められる。リチウムイオン電池の場合はリチウムイオンの移動が可能で且つ電極同士が接触しないための隔壁機能が求められる。
リチウムイオン電池の電極はアルミ箔又は銅箔の集電体と、活物質粒子をバインダーで固めた活物質層で構成され、電池内部において、ある確率で活物質粒子(導電性)の脱落が生じる。また、電池で充放電を繰り返す中でバインダーが劣化して活物質粒子が脱落する可能性がある。リチウムイオン以外の導電性異物が正極―負極間を自由に移動しないように、セパレータには(b)フィルター機能が求められる。また、負極からの金属リチウム針状結晶(デンドライド)が発生しセパレータを貫通して正極に達するのを防止する機能、いわゆる(c)デンドライド抑制機能が求められる。セパレータにイオン伝導性を持たせながら(a)隔壁機能、(b)フィルター機能、(c)デンドライド抑制機能を付与するためには実用的な厚みを持ったセパレータが微多孔を有することが効果的とされている。
リチウムイオン電池の場合、現在の活物質粒子径が数μmから数十μmが主体でありサブミクロンメートルサイズの活物質も存在することがあること、今後、活物質粒子の微細化が進みサブミクロンサイズのものの割合が多くなることを考えると、隔壁機能やフィルター機能には少なくともサブミクロンオーダーの均一な微多孔膜が必要になる。また、デンドライドは直径がミクロンサイズのものが問題になるが、サブミクロンの太さのデンドライドも存在し、デンドライド成長を抑制するためにはサブミクロンオーダー以下の均一な微多孔膜を用いることが有効である。
【0004】
(3)実用的な機械強度を有すること
一方、量産工程におけるセパレータは通常は、ロールの形状で提供され、電池組み立て工程において所定張力で引張り加工がされる。電池組み立て装置やライン速度によってセパレータにかかる力は異なるが、組み立て工程でのセパレータ破損を避けるためには、目安としてターゲット厚み20μm〜40μmのセパレータにおける引張強度が10N/25mm以上であることが求められる。
【0005】
上記(1)〜(3)の条件に関して、従来のオレフィン系樹脂セパレータでは、適正厚みの範囲(20μm〜40μm)で、サブミクロンオーダーの均一な微多孔膜が形成され、実用的な機械強度(引張り強度10N/25mm以上)を有しているので、セパレータとしての必要条件を満たすものの、電池の大型化・高性能化が進む中、以下の(4)〜(6)の特性は不十分であった。
【0006】
(4)空隙率を高くすること
電池性能向上の観点からセパレータ抵抗はより低いことが好ましく、セパレータ抵抗(=単位厚み当たりのセパレータ抵抗×セパレータ厚み)、単位厚み当たりのセパレータ抵抗(=電解液抵抗×空隙率×(イオン経路長/膜厚)2)で記述され、適正厚み(20μm〜40μm)のセパレータにおいて空隙率を高くすることがセパレータ抵抗の低減に効果的と考えられる。セパレータ抵抗が小さいとより急速な充電が可能になる。また、空隙率を高くすることで放熱特性が良くなる。セパレータ抵抗が小さくなると同じ電流を流した際に、充放電中の発熱が少なくなり、電池系内の温度上昇が抑えられ、電池作動温度上昇を抑えることで電池寿命向上に繋がる。電池が大型化されるほど電池内部で発生する熱の放熱効率が悪くなり、発熱が少ないことが求められる。
空隙率は、特許文献1に記載のオレフィン樹脂微多孔膜セパレータは70%未満(40から60%程度)で十分とはいえず、より高い空隙率、例えば70%超、90%超が望まれる。空隙率が高い構造体としては特許文献2に記載のセルロースエアロゲル等のエアロゲルを使用した構造体があるがシート形状に加工されたエアロゲル単体は機械強度が小さいという問題がある。
【0007】
(5)高い吸液性能を有すること
非水系電池は、充放電時に負極及び正極の活物質層が膨張と収縮を繰り返す。活物質層膨張に伴い電極間距離が縮まると、セパレータが圧縮されてセパレータに保持されていた電解液がセパレータから滲み出る。セパレータから滲み出した電解液は、主に電池のデッドスペース(端部の隙間)に一時的に貯蔵され、活物質層収縮時(電極間距離が広がる際)にセパレータに戻る。充電時に膨張した活物質層が放電時に収縮する際に、セパレータから滲み出した液が完全に戻らず局所的にセパレータが乾燥する現象(液枯れ現象)が起こると、電解集中等が起こり、活物質への局所的な負荷が増大する、或いはデンドライドが発生するといったことに繋がり、それらは容量低下やサイクル寿命低下などさまざまな問題を引き起こす。
充放電時の電解液の液枯れを防ぐためには、充電時にセパレータから滲み出した電界液を放電時に速やかにセパレータに戻す機能(吸液機能)が重要となる。特許文献1に記載のオレフィン樹脂微多孔膜セパレータは電解液に対する濡れ性が悪いため吸液性能に問題がある。電池の大型化に伴い電極面積、セパレータ面積が大きくなると、充放電中にセパレータから滲み出して端部近傍に存在する電解液がきちんとセパレータ内部まで戻らない、つまり吸液性能が不十分であるという問題がある。オレフィン系樹脂の電解液に対する濡れ性をよくするために界面活性剤が使用されることがあるが、界面活性剤の使用は、界面活性剤の劣化や脱離が起こると局所的な液枯れに繋がるので電池寿命の観点から好ましくない。
【0008】
(6)耐熱性を有すること
リチウムイオン電池では異常発熱時に電池が発火に至らずに安全に壊れることが切望されており、セパレータが溶けて短絡することで熱暴走に拍車をかけることが危惧されており、高温域での隔壁機能、即ち、防火壁機能が望まれる。しかしながら、現在の携帯電池用セパレータ(オレフィン樹脂微多孔膜)では樹脂の溶融温度近傍で熱収縮が起こり、或いは大きな孔があくといった問題があり、樹脂融点以上の高温域での防火壁機能がない。ポリエチレン樹脂で120℃〜130℃、ポリプロピレン樹脂で170℃〜180℃よりも高温域で熱収縮、溶融による穴あきが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3305006号公報
【特許文献2】特開2008−231258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は適正厚みの範囲(20μmから40μm)で高い空隙率、高い吸液性能、高い耐熱性を備えた非水系二次電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、図1に示すように、無機材料から構成される微多孔シート1の内部に、微多孔シート1の厚さ方向Tと直交する方向において、不連続で、且つ、同方向に延びるようにして扁平な空隙2を有する樹脂微多孔体3を形成することにより、適正な厚みの範囲(20μmから40μm)で、サブミクロンオーダー(0.1μm未満)の均一な微多孔を備えたシートとなり、実用的な機械強度(引張り強度10N/25mm以上)を有する、といったセパレータとしての必要条件を満たしつつ、「高い空隙率」、「高い吸液性能」、「高い耐熱性」を付与したセパレータが得られることを見出した。
【0012】
無機材料から構成される微多孔シートは、電解液に対する濡れ性がよく、高温で熱収縮が生じず自立した隔壁機能を維持でき、且つ、実用的な機械強度を有するものであれば特に限定されないが、主成分が二酸化珪素のガラス繊維やアルミナ繊維からなる不織布を好適に使用できる。主成分が二酸化珪素のガラス繊維やアルミナ繊維からなる不織布は、適正厚み範囲(20μm〜40μm)において実用的な機械強度(引張り強度10N/25mm以上)を有し、90%以上の高い空隙率のものを抄紙法などによって作製することができ、繊維自体の電解液に対する濡れ性がよいため、高い吸液性能を有する。
しかしながら、例えば、ガラス繊維やアルミナ繊維単独からなる不織布は、セパレータの適正厚み範囲(20μm〜40μm)のものは、大きな孔が存在し(サブミクロンオーダーの均一な微多孔が必要であるセパレータとしての要件を満たしておらず)電池組みした際に初期短絡或いは微短絡が起こるという不具合があった。短絡・微短絡の対策としてサブミクロンオーダーの微多孔体で面を覆いつくす方法はいくつかあるが、例えば、極細の無機繊維や極細の有機繊維で充填する方法では、厚さ20μm〜40μmでサブミクロンオーダーの微多孔を有するセパレータが得られた際の空隙率が70%未満となりセパレータ抵抗が大きくなり好ましくない。
70%以上の高い空隙率を維持しつつサブミクロンオーダーの微多孔を付与するには、無機材料から構成される微多孔シートをガラス繊維からなる不織布から構成することが好ましく、この内部にセルロースや、PVDF・HFP、ポリエチレン等の樹脂を使用して微多孔を形成する。樹脂微多孔形成は自己組織化を用いた三次元網目形成の手法を用いて行う。自己組織化を用いた三次元網目形成により、造孔材を用いる方法で得られた多孔体に比べて樹脂の充填量を小さくすることができ(高い空隙率になる)、更にガラス繊維表面を電解液との濡れ性が悪い樹脂が被覆する面積が小さくなる効果があり、結果的に吸液性に優れるセパレータが得られることになる。
【0013】
また、発明者らが吸液性能について詳細に研究した結果、電池が大型化される、或いは、電池容量増加を目指して活物質層の厚みが厚くなる際に(それらはより液枯れが起こり易くなる方向であるが)、短時間域での吸液速度及び吸液速度の異方性がより重要になることが分かった。短時間域での吸液速度と吸液速度の異方性について更に詳しく説明する。
電池の種類は捲回型電池とラミネート型電池に大別されるが、何れの電池においてもセパレータは電極シート(集電体+活物質層)よりも大きなサイズのものが用いられ、端部において電極シート同士が接触しないよう留意されている。電極シートと交互に何層にも積層されたセパレータ端部はセパレータ同士が重なっており、重なったセパレータ端部近傍は完全に板状ではなく、やや変形したり(例えば、同じ方向に曲がったり)しており、電解液が一旦端部のデッドスペースに出されるとセパレータ同士の積層により局所的に厚くなった部分を介して電解液が戻らなければならない状況が出てくる場合がある。また、充電時に重力方向下部に電解液が偏る傾向があり上部で液枯れが起こり易い。局所的に厚くなったセパレータ部分を介しての電解液戻りや、電解液が偏った状態から電解液がセパレータ内部まで均等に戻らなければならないといった困難さを想定した、吸液機能の設計が重要になる。電池が大型化される、或いは電池の容量向上を目指して活物質層の厚みが厚くなることは、液枯れが起こり易くなる方向であり、より速やかに且つ均一に吸液させる機能をセパレータに持たせる必要がある。つまり短時間域における吸液速度の適正な設計が重要となる。吸液量はルーカス−ウォッシュバーン(Lucas-Washburn)式によって記述され、吸液量は短時間領域では時間の平方根に比例する。時間の平方根に対して吸液量をプロットさせたグラフの傾きから吸液速度を定義することができる。また、シート状のセパレータが異方性を持つこと(セパレータの厚さ方向に垂直な面上のx−y(MD−TD)方向の長さが、厚さzの長さに比べて非常に大きいこと)と、局所的に厚くなったセパレータ部分を介しての液戻り、電解液が偏った状態からの液戻りといった、より液が戻りにくいケースが想定されることを鑑みると、セパレータのx−y方向の吸液速度を、厚さz方向の吸液速度に比べてより大きくすること(吸液速度の異方性)かつ、Z方向の液戻りも想定してZ方向にも適切な吸液速度を有する(Z方向の吸液速度が極端に小さくなるのはZ方向の液戻りが不十分になりよくない。現在市販されているポリオレフィン系セパレータと同等以上が好適)ように設計することが、速やか且つ均一な吸液に重要になる。
【0014】
本発明者らは、セパレータのx−y方向の吸液速度を、Z方向にも現在市販されているポリオレフィン系セパレータ“Celgard#2500”と同等以上の吸液速度を有するようにし、かつ厚さz方向の吸液速度に比べてより大きくする(吸液速度の異方性を出す)ために、ミクロンオーダー以上のサイズの不連続で扁平な空隙を有する微多孔シートを形成した。横向き(シート表面に平行)の繊維の密度が縦向き(シート表面に垂直)の繊維の密度よりも大きいガラス繊維不織布を用い、樹脂量を適宜調整することで、シート表面と裏面はサブミクロンの微多孔樹脂で覆われ、シート断面にミクロンオーダー以上のサイズの不連続で扁平な空隙を有する、所望のセパレータを得ることができる。シート断面写真で観察される不連続で扁平な空隙は、面方向の吸液速度増大(空隙半径増大による吸液速度の増加、ガラス繊維表面に付着する樹脂量の減少による吸液速度の増加)、空隙率増大(樹脂量が少なくなることによる)といった効果がある。尚、充填する樹脂量を単純に減らして空隙を設けることは、機械強度の必要条件であるシートの平面方向の引張強度が実用的であることや、デンドライド抑制に必要な面方向でサブミクロンの微多孔で覆われていることを損なうことが懸念されるが、本発明のように不連続で扁平な空隙をあけると実用的な機械強度を有し、デンドライド防止機能が維持されることが分かった。
【0015】
本発明の非水系二次電池用セパレータは、前記知見に基づきなされたもので、請求項1に記載の通り、無機材料から構成される微多孔シートの内部に、前記微多孔シートの表面に沿う方向に不連続で扁平な空隙を有する樹脂微多孔体が形成されていることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータにおいて、前記樹脂微多孔体は、前記微多孔シートの厚さ方向において層状に形成されることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は2に記載の非水系二次電池用セパレータにおいて、前記樹脂微多孔体は、網目状であることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の非水系二次電池用セパレータにおいて、前記微多孔シートがガラス繊維不織布であることを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の非水系二次電池用セパレータにおいて、前記微多孔シートの厚さ方向の電解液に対する吸液速度をVzとし、前記厚さ方向と直交する方向の前記電解液に対する吸液速度をVxとし、Vxが2.0以上且つ吸液速度比Vx/Vzが2以上とし、空隙率が70%以上、透気度が5秒以上500秒以下であることを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータにおいて、前記電解液の吸液速度Vxが2.5以上、且つ、前記吸液速度比Vx/Vzが4.5以上とし、前記空隙率が90%以上、前記透気度が5秒以上100秒以下であることを特徴とする。
また、本発明の非水系二次電池は、請求項7に記載の通り、請求項1乃至6の何れか1項に記載のセパレータを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、無機材料から構成される微多孔シートの内部に、前記微多孔シートの表面に沿う方向に不連続で扁平な空隙を有する樹脂微多孔体を形成するようにしたため、適正厚みの範囲(20μmから40μm)で高い空隙率、高い吸液性能、高い耐熱性を備えた非水系二次電池用セパレータが得られ、また、このセパレータを用いることにより短絡がなく、内部電池抵抗が小さくて、ハイレート特性の優れた非水二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のセパレータの概念図
【図2】造孔法で作製した多孔体の概念図
【図3】自己組織化で作製した網目の概念図
【図4】相分離法で形成されたラメラ構造の概念図
【図5】相分離法で形成されたシリンダー構造の概念図
【図6】吸液速度の指標(吸液係数Ka)の説明図
【図7】改良ラローズ法の説明図
【図8】実施例3のSEM像(セパレータ断面)
【図9】実施例3のSEM像(セパレータ表面)
【図10】実施例8(PVDF・HFP系)のセパレータ表面のSEM像
【図11】実施例11(PE系)のセパレータ表面のSEM像
【図12】実施例1〜11並びに比較例1及び2の試験結果を示す表
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の非水系二次電池用セパレータは、無機材料から構成される微多孔シートの内部に、前記微多孔シートの表面に沿って不連続で扁平な空隙を有する樹脂微多孔体を形成したもので、セパレータとしての適正厚み20−40μm(2.0N加圧時)で、シート表面から見て或いはシートを剥離した表面から見てサブミクロンの均一な微多孔が形成されており、実用的な引張り強度が10N/25mm以上を有する。このようなセパレータとしての必要要件を満たしつつ、高い空隙率、優れた吸液性、高い耐熱性能を有する。
【0019】
無機材料から構成される微多孔シートに用いられる無機材料は、電解液に対する濡れ性がよく、高温で熱収縮が起こらず自立した隔壁機能を維持でき、且つ実用的な機械強度を有するものであれば特に限定されないが、主成分が二酸化珪素のガラス繊維やアルミナ繊維からなる不織布を好適に使用できる。主成分が二酸化珪素のガラス繊維やアルミナ繊維からなる不織布は、適正厚み範囲(20μmから40μm)において実用的な機械強度(引張り強度10N/25mm以上)を有し、90%以上の高い空隙率のものを抄紙法などによって作製することができ、繊維自体の電解液に対する濡れ性がよいため、高い吸液性能を有する。ガラス繊維を用いたシート状構造体としては、ガラス織物(ガラスクロス)とガラス不織布が挙げられるが、ガラス不織布はガラスクロスよりも安価に製造でき、且つ高い空隙率が得られるので好ましい。
ガラス不織布の構成は、ガラス不織布内部に、ガラス不織布の厚さ方向と直交する方向において、不連続で扁平な空隙を有する樹脂微多孔体を形成するのに適するように、横向き(シート表面に平行)の繊維の密度が縦向き(シート表面に垂直)の繊維密度よりも大きいことが好ましい。このような構造体を形成する方法としては公知の不織布を製造する技術を用いて製造することができる。すなわち、湿式、乾式、乾式パルプ式、メルトブロー式などにより製造することができる。特に、傾斜単網方式や長網方式の湿式抄紙法は、走行する網に沿っては繊維を配向するさせるのが容易であり、横向き(シート表面に平行)の繊維の密度が縦向き(シート表面に垂直)の繊維密度よりも大きい構造体を得ることができるのでより好ましい。また、前記ガラス不織布におけるガラスは主成分が二酸化珪素のガラスが好適に使用できる。SiO2以外の成分に関してはガラス形成に適した成分であれば特に限定されないが、Li2O、Na2O、K2O、CaO、MgO、BaO、B2O3、Al2O3、ZrO2等を挙げることができる。ここでNa2O、K2Oのアルカリ成分は電解液中に溶出すると電池のイオン伝導を阻害する或いは電池の耐久性に悪影響を及ぼす可能性があるので、それらが溶出しない組成が好ましい。例えば、無アルカリガラスを用いることが好ましい。ガラス繊維の繊維径は、平均繊維径が0.1から5μmのものを好適に使用できる。平均繊維径が0.1から5μmのガラス繊維を単独配もしくは異なった繊維径のものを組み合わせて抄紙することで、セパレータ厚みが20から40μmで、機械強度と厚み均一性に優れたガラス不織布シートを作製することができる。
【0020】
無機材料から構成される微多孔シートの内部に形成する樹脂微多孔体は、微多孔を形成できる樹脂であれば特に限定されないが、非延伸の状態で自己組織化により微多孔を形成できる樹脂がより好ましい。樹脂単体で微多孔シートを作製する場合は、延伸により微多孔を形成する方法が好まれて用いられるが、無機材料から構成される微多孔シートは変形しないため、その内部に更に樹脂微多孔を形成するためには、非延伸の状態で微多孔を形成する必要がある。微多孔形成方法には造孔剤を用いてそれを後から抽出などで除去する方法(造孔材法)や自己組織化プロセスを用いて自発的に網目構造を形成する方法(自己組織化法)、相分離を利用して構造体(ラメラ、シリンダー)を形成する方法があるが、同じ均一な孔を作製する場合、自己組織化法は造孔材法に比べて空隙率が大きく、廉価でできるのでより好ましい。図2に造孔材法で作製した多孔体の概念図を、図3に自己組織化で作製した網目状多孔体の概念図を示す。自己組織化で作製した網目状多孔体は造孔材法で作製した多孔体に比べて空隙率を大きくできることが分かる。尚、相分離を利用してつくられるラメラ構造やシリンダー構造は、高い空隙率を保ちながら、イオンが通過可能でデンドライドを抑制する形状を提供できない。図4にラメラ構造(板状の層が並ぶ構造)を、図5にシリンダー構造(柱が一方向に並ぶ構造)を示した。
無機材料から構成される微多孔シートの内部に形成する樹脂微多孔体に使用される樹脂の種類は特に限定されないが、耐熱性に優れるセルロース、電気化学的な耐久性に優れるPVDF、現在の電池で使用実績のあるオレフィン樹脂などを好適に使用することができる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明のセパレータの実施例について比較例とともに説明するが、これら実施例、比較例の評価指標は以下の通りである。
(1)空隙率
セパレータ抵抗の指標である空隙率(=100−固体占有率(%))を、無機材料から構成される構造体の質量W1と比重ρ1、樹脂微多孔体の質量W2と比重ρ2とセパレータ厚みd(2N加圧時)を用いて算出した。
(2)透気度
セパレータ厚み方向のイオン流の流れ易さの代用指標として空気の透過し易さを評価した。透気度(気体の透過性)は、JIS P 8117に準じる方法で求めた。体積300cm2の空気がセパレータを通過するのに要した時間(秒)を透気度とした。透気度は、セパレータ抵抗や、短絡に関わる大きな孔の有無の指標として用いられる。
(3)吸液速度(Vx)
吸液量は時間の平方根に比例する。主要因子である(i)毛管輸送(Lucas-Washburn式に従う)、(ii)細孔内の蒸気拡散輸送や(iii)表面拡散(ii、iiiはFick型拡散則に従う)は何れも時間の平方根に比例する。短時間領域の吸液速度の指標Kaは以下の方法で算出した。サンプル端部を液体に接触させてからの経過時間Tの平方根に対して吸液量Vをプロットすると、図6に示すようなグラフが得られる。このとき、縦軸Vは吸液量(サンプルのサイズを固定したときは吸液高さに変換できる)、縦軸方向のずれVrは表面凹凸を埋めるのに必要な液量に相当する。横軸(接触してからの時間Tの平方根)のずれはブリストーらによって提唱された濡れ時間Twでサンプルが液で濡れるまでに要する時間である。電池系内では湿潤状態での吸液挙動を取り扱うので、前記VrやTmの影響を除いたKaが重要な指標となる。
【0022】
Lucas-Washburn式は、
V=(r*γ*cosθ*t/2/η)1/2
(V:吸液量、r:毛管半径、γ:液体の表面自由エネルギー、θ:接触角、η:粘度、t:時間)
で記述され、これに補正因子Vr、Twを加味した式は以下で記述される。
【0023】
V=Vr+Ka・(T−Tw)1/2
(V:吸液量、Vr:粗さ係数、T:サンプルが液に接触してから経過した時間、Tw:濡れ時間、Ka吸収係数)
【0024】
尚、吸液量/時間の平方根(100・(ms)1/2当たりの吸液高さ)を指標として用いた。液はリチウムイオン電池で用いられる炭酸エステル系溶剤の代表例としてEC(エチレンカーボネート)/DMC(ジメチルカーボネート)=1/2の溶媒を用いた。
【0025】
x−y方向の吸液速度Vx、Vyは、JIS L-1907 バイレック法/繊維、JIS P-8141 クレム法/紙と同様の装置を用い、25mm幅の短冊状サンプルの液に浸漬したときを測定開始時間として、時間の平方根に対して吸液高さをプロットした曲線の初期勾配Kaを用いた。Kaは100((ms)1/2)当たりの吸液高さmmの値を用いた。
Z方向の吸液速度Vzは、セパレータ厚みが薄く、短時間で吸い上げが完了するため、短時間域の測定に適している改良ラローズ法を用いた。図7に改良ラローズ法の原理を示した。改良ラローズ法では、液体充填容器4により抱水されたガラスフィルター5上に、サンプル6を押圧し、サンプル6が吸い上げた水の量を、液体充填容器4に接続されたガラス管7のメニスカス8の移動を読み取る方法で短時間域の吸液量を求めた。時間の平方根に対して吸液量をプロットした曲線の初期勾配を吸液速度とした。尚、定型に切り出したセパレータサンプルは隙間がないように積層し、端部からの液回り込みを避けるためのシール処理を施した。サンプルと液が接触する際に積層したサンプル間に隙間があかないよう適度にサンプルを押さえつけながら吸液測定を行った。
【0026】
(4)吸液速度比(Vx/Vz)
吸液速度比(吸液速度の異方性)は、上記(3)の吸液速度Vx、Vzを用いて、Vx/Vzとして定義した。
【0027】
(5)短絡試験
HSセル及び20mAhラミネートセルを用いて、LIB電池のサイクル試験を行い初期短絡及びサイクル試験中の微短絡を評価した。短絡又は微短絡ありを×印で、短絡・微短絡なしを○印で表記した。短絡、又は微短絡が起こることは実用的な電池として作動しないことを意味する。
【0028】
(6)セパレータ抵抗評価
マンガン酸リチウム正極シートとセパレータとグラファイト負極シートを積層し、電解液としてEC(エチレンカーボネート)/DMC(ジメチルカーボネート)/DEC(ジエチルカーボネート)=25/60/15(体積比)を溶媒として電解質LiPF6を濃度が1mol/Lになるように溶解させたものを使用した。20mAhラミネートセルを作製した。作製したラミネートセルを電池として安定させるために以下の充電・放電操作を施した。ラミネートセルを25℃雰囲気下で、3.2mA(約0.2C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、合計5時間充電を行う。そして3.2mAの電流値で電池電圧2.5Vまで放電する。この充電・放電操作を3回繰り返した。セパレータ抵抗は、交流インピーダンス法を用いてコールコールプロットから算出した。以下に説明する比較例1(セルガード#2500)に比べてセパレータ抵抗が10%以上良化(低減)したものを◎印、5%以上良化(低減)したものを○印、良化(低減)が5%未満の増加に留まったものを×印で表記した。尚、電池の内部抵抗が低いということは、より急速な充電が可能になり、また、放熱特性が良くなることを意味する。
【0029】
(7)ハイレート試験
ハイレート特性とは、バッテリーの性能を表す指標のひとつで、エンジン始動のような高負荷に強い特性のことである。20mAhラミネートセルを用いて、作製したラミネートセルを電池として安定させるために0.2C充電+2.5Vまでの放電操作を3回繰り返したのちに、0.2C、1.0C、3.0Cのハイレート試験を行い、放電容量比率の低下度を評価した。
ハイレート試験の具体的な方法を以下に示す。25℃雰囲気下、3.2mA(約0.2C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、電流値が0.8mA(0.05C)になるまで放電を行う。このときの放電容量を0.2Cでの放電容量A(0.2)mAhとする。25℃雰囲気下、16mA(約1C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、電流値が0.8mA(0.05C)になるまで放電を行う。このときの放電容量を1.0Cでの放電容量A(1.0)mAhとする。25℃雰囲気下、48mA(約3C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、電流値が0.8mA(0.05C)になるまで放電を行う。このときの放電容量を3.0Cでの放電容量A(3.0)mAhとする。0.2Cの放電容量A(0.2)を基準にA(x)、x=1.0、3.0の容量比率B(x)%をB(x)=A(x)/A(0.2)×100で定義した。
比較例1(セルガード#2500)に比べて容量比率B(1.0)、B(3.0)の両者ともにで3%以上の優位性がある(低下率低い)ものを◎印で表記した。容量比率B(1.0)、B(3.0)の両者ともに1%以上の優位性があるものを○印で表記した。差が1%未満のもの或いは優位性がないものを×印で表記した。
【0030】
以下に、実施例1〜11及び比較例1,2の具体的な構成について説明する。
[実施例1]
以下AからDの工程を順に行い実施例1のサンプルとした。
A:無機材から構成される微多孔シートを作製する工程
B:無機材から構成される微多孔シートに樹脂溶液をコーティングする工程
C:コーティングされた樹脂を微多孔化する工程
D:その内部に微多孔化された樹脂が形成された、無機材から構成される微多孔シートを乾燥する工程
工程A
平均繊維径0.5から1.0μmのガラス繊維を用いて、湿式抄紙法にて厚さ30μm(押し圧2.0N)空隙率94%のシート状ガラス不織布を作製した。
工程B
8wt%水酸化リチウムと15wt%尿素を含む水溶液に1.5wt%相当のろ紙パルプ(アドバンテック製)を入れて攪拌したものを凍結させたのち、室温にて解凍処理を施して1.5wt%セルロース水溶液を得た。1.5wt%セルロース水溶液をリップコート法で工程Aで作製したシート状ガラス不織布に塗布し、シート状ガラス不織布の内部にセルロース水溶液を充填した。
工程C
工程Bにてシート状ガラス不織布に充填したセルロース水溶液から網目状セルロースを析出させるための凝固浴として、25℃の硫酸・メタノール浴(60wt%硫酸/メタノール=60/40(重量比))を用いた。セルロース水溶液が充填されたシート状ガラス不織布を前記凝固浴に浸漬させてセルロース樹脂微多孔を析出させた後、水洗浄を行い、アルカリ塩などセルロースとガラス以外の成分を除去した。
工程D
凍結乾燥は、ヘプタフルオロシクロペンテン(日本ゼオン製“ゼオローラH”)を用いて行った。凍結乾燥の前処理として、試料が含む液体を水からゼオローラHに置換する処理を行った。最初にエタノール浴に浸漬し、水とゼオローラHの両者に相溶性があるエタノールに置換し、次に水を系内から排除するために脱水エタノール浴に浸漬した。エタノールを含んだ試料をゼオローラH浴に浸漬し、試料に含まれる液体をエタノールからゼオローラHに溶媒置換した。試料に含まれる液を水からゼオローラHに置換したのちに凍結乾燥処理を施し、実施例1のセパレータとした。
【0031】
[実施例2]
実施例1の工程Bのセルロース水溶液の濃度を2.0wt%にしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い実施例2のセパレータとした。
【0032】
[実施例3]
実施例1の工程Bのセルロース水溶液の濃度を3.0wt%にしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い実施例3のセパレータとした。
【0033】
[実施例4]
実施例3の工程Cのセルロース凝固浴を25℃の20wt%硫酸にしたこと以外は、実施例3と同様の処理を行い実施例4のセパレータとした。
【0034】
[実施例5]
実施例1の工程Bのセルロース水溶液の濃度を1.5wt%にし、工程Cのセルロース再生浴を25℃のメタノールにしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い実施例5のセパレータとした。
【0035】
[実施例6]
実施例1の工程Bのセルロース水溶液の濃度を2.0wt%にし、工程Cのセルロース再生浴を25℃のメタノールにしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い実施例6のセパレータとした。
【0036】
[実施例7]
実施例1の工程Bのセルロース水溶液の濃度を3.0wt%にし、工程Cのセルロース再生浴を25℃のメタノールにしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い実施例7のセパレータとした。
【0037】
[実施例8]
以下AからDの工程を順に行い実施例8のサンプルとした。
A:無機材から構成される微多孔シートを作製する工程
B:無機材から構成される微多孔シートに樹脂溶液をコーティングする工程
C:コーティングされた樹脂を微多孔化する工程
D:その内部に微多孔化された樹脂が形成された、無機材から構成される微多孔シートを乾燥する工程
工程A及びDは実施例1と同じで、工程B及びCは以下の操作を行った。
工程B
PVDF・HFP溶液は、フッ化ビニリデン(PVDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体(アルケマ製KYNAR FLEX 2800)をNメチルピロリドン(NMP)に溶解し、PVDF・HFPの4.0wt%溶液を得た。4.0wt%PVDF・HFP溶液をリップコート法で工程Aで作製したシート状ガラス不織布に塗布し、シート状ガラス不織布の内部にPVDF・HFP溶液を充填した。
工程C
工程Bにてシート状ガラス不織布に充填したPVDF・HFP溶液から網目状PVDF・HFPを析出させるための凝固浴として0℃の水浴を用いた。PVDF・HFP溶液が充填されたシート状ガラス不織布を前記凝固浴に浸漬させてPVDF・HFP樹脂微多孔を析出させた後、水洗浄を行いNMPを除去した。
【0038】
[実施例9]
実施例1の工程Bのセルロース水溶液の濃度を4.0wt%にし、工程Cのセルロース再生浴を25℃のメタノールにしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い実施例9のセパレータとした。
【0039】
[実施例10]
実施例3の工程Bから工程Dまでの操作を2回繰り返して実施例10のセパレータとした。
【0040】
[実施例11]
平均繊維径0.5から1.0μmのガラス繊維を用いて、湿式抄紙法にて厚さ30μm(押し圧2.0N)空隙率94%のシート状ガラス不織布を作製した。つぎに、このシート状ガラス不織布に、20wt%ポリエチレン溶液(フタル酸イソデシル溶液)を200℃で塗布した後、180℃で一旦保持した後に80℃の温水浴に浸漬させて、シート状ガラス不織布の内部にポリエチレン樹脂微多孔を析出させた。その後エタノール洗浄、90℃での加熱乾燥処理を施し、実施例11のセパレータとした。
【0041】
[比較例1]
ポリオレフィン系セパレータ(Celgard LLC製 Celgarad#2500、ポリプロピレン製)を比較例1とした。
【0042】
[比較例2]
実施例1〜11において使用した厚さ30μm(押し圧2.0N)、空隙率94%のシート状ガラス不織布を比較例2とした。
【0043】
実施例1〜11及び比較例1及び2について、空隙率、透気度、吸液特性(Vx、Vx/Vz)、電池特性(短絡試験、電池内部抵抗、ハイレート試験)を試験して、その結果を表にまとめ、図12として添付した。
【0044】
セルロース系微多孔の代表例として実施例3におけるSEM像を図8及び図9に示した。これらのSEM像から、微多孔シートの内部に、微多孔シートの厚さ方向と直交する方向において、不連続で扁平な空隙を有する微多孔体が形成されていることが分かった。
樹脂系(PVDF・HFP系)微多孔の例として実施例8におけるSEM像(セパレータ表面)を図10に示した。このSEM像からも、微多孔シートの内部に、微多孔シートの厚さ方向と直交する方向において、不連続で扁平な空隙を有する微多孔体が形成されていることが分かった。
また、樹脂系(ポリエチレン微多孔)の例として実施例11におけるSEM像(セパレータ表面)を図11に示した。このSEM像からも、微多孔シートの内部に、微多孔シートの厚さ方向と直交する方向において、不連続で扁平な空隙を有する微多孔体が形成されていることが分かった。
また、図9、図10及び図11から自己組織化によりサブミクロンの微多孔が形成されていることが分かった。
【0045】
図12として添付した表から明らかな通り、本発明の実施例1乃至11は全て、空隙率、透気度、吸液性、電池特性(短絡、電池内部抵抗、ハイレート)において、良好な値を示していることが分かった。
実施例11と比較例2の空隙率、透気度及び電池内部抵抗の比較から、空隙率が70%以上、透気度が500秒以下が電池内部抵抗が低くなり好ましいことが分かる。実施例5と比較例2の透気度と短絡試験結果の比較から微短絡防止の観点からセパレータの透気度が5秒以上が好ましいことが分かった。
実施例11と比較例1の吸液速度Vx、吸液速度比Vx/Vz及びハイレート試験結果の比較から、電解液の吸液速度Vxが2.0、且つ、吸液速度比Vx/Vzが2以上が好ましいことが分かった。
実施例1〜8と実施例9〜11とを、電池内部抵抗及びハイレート試験結果から比較すると、空隙率が90%以上、透気度が5秒以上100秒以下、電解液の吸液速度Vxが2.5以上、且つ、吸液速度比Vx/Vzが4.5以上であることがより好ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0046】
1 微多孔シート
2 不連続で扁平な空隙
3 樹脂微多孔体
4 液体充填容器
5 ガラスフィルター
6 サンプル
7 ガラス管
8 メニスカス
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水系二次電池に使用され、耐熱性、吸液性に優れ、高い空隙率を有する非水系二次電池用セパレータ及びこれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系二次電池用セパレータに必要とされる条件として以下の(1)〜(3)がある。
(1)適正な厚みを有するものであること
セパレータ厚みは、小型化(高エネルギー密度化)や低抵抗化の観点からはより薄い方が好ましいが、自動車用、定置型用などの大型電池での安全性(短絡・微短絡防止)を重視する場合にはより厚い方が好ましく、汎用小型携帯電話用電池用セパレータの厚み(Celgard LLC製の「Celgard(登録商標)#2500」では25μm)と同等もしくは若干厚くなる範囲の20μm〜40μmが実用的な厚みとされている。
【0003】
(2)微多孔を備えたものであること
非水系電池では設計電極間隔において電極同士の短絡又は微短絡(ここでは完全に接触してショートするわけではないが電場印加時に微弱な電流が流れる現象を「微短絡」と呼ぶ。)が生じないよう、セパレータに(a)隔壁機能が求められる。リチウムイオン電池の場合はリチウムイオンの移動が可能で且つ電極同士が接触しないための隔壁機能が求められる。
リチウムイオン電池の電極はアルミ箔又は銅箔の集電体と、活物質粒子をバインダーで固めた活物質層で構成され、電池内部において、ある確率で活物質粒子(導電性)の脱落が生じる。また、電池で充放電を繰り返す中でバインダーが劣化して活物質粒子が脱落する可能性がある。リチウムイオン以外の導電性異物が正極―負極間を自由に移動しないように、セパレータには(b)フィルター機能が求められる。また、負極からの金属リチウム針状結晶(デンドライド)が発生しセパレータを貫通して正極に達するのを防止する機能、いわゆる(c)デンドライド抑制機能が求められる。セパレータにイオン伝導性を持たせながら(a)隔壁機能、(b)フィルター機能、(c)デンドライド抑制機能を付与するためには実用的な厚みを持ったセパレータが微多孔を有することが効果的とされている。
リチウムイオン電池の場合、現在の活物質粒子径が数μmから数十μmが主体でありサブミクロンメートルサイズの活物質も存在することがあること、今後、活物質粒子の微細化が進みサブミクロンサイズのものの割合が多くなることを考えると、隔壁機能やフィルター機能には少なくともサブミクロンオーダーの均一な微多孔膜が必要になる。また、デンドライドは直径がミクロンサイズのものが問題になるが、サブミクロンの太さのデンドライドも存在し、デンドライド成長を抑制するためにはサブミクロンオーダー以下の均一な微多孔膜を用いることが有効である。
【0004】
(3)実用的な機械強度を有すること
一方、量産工程におけるセパレータは通常は、ロールの形状で提供され、電池組み立て工程において所定張力で引張り加工がされる。電池組み立て装置やライン速度によってセパレータにかかる力は異なるが、組み立て工程でのセパレータ破損を避けるためには、目安としてターゲット厚み20μm〜40μmのセパレータにおける引張強度が10N/25mm以上であることが求められる。
【0005】
上記(1)〜(3)の条件に関して、従来のオレフィン系樹脂セパレータでは、適正厚みの範囲(20μm〜40μm)で、サブミクロンオーダーの均一な微多孔膜が形成され、実用的な機械強度(引張り強度10N/25mm以上)を有しているので、セパレータとしての必要条件を満たすものの、電池の大型化・高性能化が進む中、以下の(4)〜(6)の特性は不十分であった。
【0006】
(4)空隙率を高くすること
電池性能向上の観点からセパレータ抵抗はより低いことが好ましく、セパレータ抵抗(=単位厚み当たりのセパレータ抵抗×セパレータ厚み)、単位厚み当たりのセパレータ抵抗(=電解液抵抗×空隙率×(イオン経路長/膜厚)2)で記述され、適正厚み(20μm〜40μm)のセパレータにおいて空隙率を高くすることがセパレータ抵抗の低減に効果的と考えられる。セパレータ抵抗が小さいとより急速な充電が可能になる。また、空隙率を高くすることで放熱特性が良くなる。セパレータ抵抗が小さくなると同じ電流を流した際に、充放電中の発熱が少なくなり、電池系内の温度上昇が抑えられ、電池作動温度上昇を抑えることで電池寿命向上に繋がる。電池が大型化されるほど電池内部で発生する熱の放熱効率が悪くなり、発熱が少ないことが求められる。
空隙率は、特許文献1に記載のオレフィン樹脂微多孔膜セパレータは70%未満(40から60%程度)で十分とはいえず、より高い空隙率、例えば70%超、90%超が望まれる。空隙率が高い構造体としては特許文献2に記載のセルロースエアロゲル等のエアロゲルを使用した構造体があるがシート形状に加工されたエアロゲル単体は機械強度が小さいという問題がある。
【0007】
(5)高い吸液性能を有すること
非水系電池は、充放電時に負極及び正極の活物質層が膨張と収縮を繰り返す。活物質層膨張に伴い電極間距離が縮まると、セパレータが圧縮されてセパレータに保持されていた電解液がセパレータから滲み出る。セパレータから滲み出した電解液は、主に電池のデッドスペース(端部の隙間)に一時的に貯蔵され、活物質層収縮時(電極間距離が広がる際)にセパレータに戻る。充電時に膨張した活物質層が放電時に収縮する際に、セパレータから滲み出した液が完全に戻らず局所的にセパレータが乾燥する現象(液枯れ現象)が起こると、電解集中等が起こり、活物質への局所的な負荷が増大する、或いはデンドライドが発生するといったことに繋がり、それらは容量低下やサイクル寿命低下などさまざまな問題を引き起こす。
充放電時の電解液の液枯れを防ぐためには、充電時にセパレータから滲み出した電界液を放電時に速やかにセパレータに戻す機能(吸液機能)が重要となる。特許文献1に記載のオレフィン樹脂微多孔膜セパレータは電解液に対する濡れ性が悪いため吸液性能に問題がある。電池の大型化に伴い電極面積、セパレータ面積が大きくなると、充放電中にセパレータから滲み出して端部近傍に存在する電解液がきちんとセパレータ内部まで戻らない、つまり吸液性能が不十分であるという問題がある。オレフィン系樹脂の電解液に対する濡れ性をよくするために界面活性剤が使用されることがあるが、界面活性剤の使用は、界面活性剤の劣化や脱離が起こると局所的な液枯れに繋がるので電池寿命の観点から好ましくない。
【0008】
(6)耐熱性を有すること
リチウムイオン電池では異常発熱時に電池が発火に至らずに安全に壊れることが切望されており、セパレータが溶けて短絡することで熱暴走に拍車をかけることが危惧されており、高温域での隔壁機能、即ち、防火壁機能が望まれる。しかしながら、現在の携帯電池用セパレータ(オレフィン樹脂微多孔膜)では樹脂の溶融温度近傍で熱収縮が起こり、或いは大きな孔があくといった問題があり、樹脂融点以上の高温域での防火壁機能がない。ポリエチレン樹脂で120℃〜130℃、ポリプロピレン樹脂で170℃〜180℃よりも高温域で熱収縮、溶融による穴あきが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3305006号公報
【特許文献2】特開2008−231258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は適正厚みの範囲(20μmから40μm)で高い空隙率、高い吸液性能、高い耐熱性を備えた非水系二次電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、図1に示すように、無機材料から構成される微多孔シート1の内部に、微多孔シート1の厚さ方向Tと直交する方向において、不連続で、且つ、同方向に延びるようにして扁平な空隙2を有する樹脂微多孔体3を形成することにより、適正な厚みの範囲(20μmから40μm)で、サブミクロンオーダー(0.1μm未満)の均一な微多孔を備えたシートとなり、実用的な機械強度(引張り強度10N/25mm以上)を有する、といったセパレータとしての必要条件を満たしつつ、「高い空隙率」、「高い吸液性能」、「高い耐熱性」を付与したセパレータが得られることを見出した。
【0012】
無機材料から構成される微多孔シートは、電解液に対する濡れ性がよく、高温で熱収縮が生じず自立した隔壁機能を維持でき、且つ、実用的な機械強度を有するものであれば特に限定されないが、主成分が二酸化珪素のガラス繊維やアルミナ繊維からなる不織布を好適に使用できる。主成分が二酸化珪素のガラス繊維やアルミナ繊維からなる不織布は、適正厚み範囲(20μm〜40μm)において実用的な機械強度(引張り強度10N/25mm以上)を有し、90%以上の高い空隙率のものを抄紙法などによって作製することができ、繊維自体の電解液に対する濡れ性がよいため、高い吸液性能を有する。
しかしながら、例えば、ガラス繊維やアルミナ繊維単独からなる不織布は、セパレータの適正厚み範囲(20μm〜40μm)のものは、大きな孔が存在し(サブミクロンオーダーの均一な微多孔が必要であるセパレータとしての要件を満たしておらず)電池組みした際に初期短絡或いは微短絡が起こるという不具合があった。短絡・微短絡の対策としてサブミクロンオーダーの微多孔体で面を覆いつくす方法はいくつかあるが、例えば、極細の無機繊維や極細の有機繊維で充填する方法では、厚さ20μm〜40μmでサブミクロンオーダーの微多孔を有するセパレータが得られた際の空隙率が70%未満となりセパレータ抵抗が大きくなり好ましくない。
70%以上の高い空隙率を維持しつつサブミクロンオーダーの微多孔を付与するには、無機材料から構成される微多孔シートをガラス繊維からなる不織布から構成することが好ましく、この内部にセルロースや、PVDF・HFP、ポリエチレン等の樹脂を使用して微多孔を形成する。樹脂微多孔形成は自己組織化を用いた三次元網目形成の手法を用いて行う。自己組織化を用いた三次元網目形成により、造孔材を用いる方法で得られた多孔体に比べて樹脂の充填量を小さくすることができ(高い空隙率になる)、更にガラス繊維表面を電解液との濡れ性が悪い樹脂が被覆する面積が小さくなる効果があり、結果的に吸液性に優れるセパレータが得られることになる。
【0013】
また、発明者らが吸液性能について詳細に研究した結果、電池が大型化される、或いは、電池容量増加を目指して活物質層の厚みが厚くなる際に(それらはより液枯れが起こり易くなる方向であるが)、短時間域での吸液速度及び吸液速度の異方性がより重要になることが分かった。短時間域での吸液速度と吸液速度の異方性について更に詳しく説明する。
電池の種類は捲回型電池とラミネート型電池に大別されるが、何れの電池においてもセパレータは電極シート(集電体+活物質層)よりも大きなサイズのものが用いられ、端部において電極シート同士が接触しないよう留意されている。電極シートと交互に何層にも積層されたセパレータ端部はセパレータ同士が重なっており、重なったセパレータ端部近傍は完全に板状ではなく、やや変形したり(例えば、同じ方向に曲がったり)しており、電解液が一旦端部のデッドスペースに出されるとセパレータ同士の積層により局所的に厚くなった部分を介して電解液が戻らなければならない状況が出てくる場合がある。また、充電時に重力方向下部に電解液が偏る傾向があり上部で液枯れが起こり易い。局所的に厚くなったセパレータ部分を介しての電解液戻りや、電解液が偏った状態から電解液がセパレータ内部まで均等に戻らなければならないといった困難さを想定した、吸液機能の設計が重要になる。電池が大型化される、或いは電池の容量向上を目指して活物質層の厚みが厚くなることは、液枯れが起こり易くなる方向であり、より速やかに且つ均一に吸液させる機能をセパレータに持たせる必要がある。つまり短時間域における吸液速度の適正な設計が重要となる。吸液量はルーカス−ウォッシュバーン(Lucas-Washburn)式によって記述され、吸液量は短時間領域では時間の平方根に比例する。時間の平方根に対して吸液量をプロットさせたグラフの傾きから吸液速度を定義することができる。また、シート状のセパレータが異方性を持つこと(セパレータの厚さ方向に垂直な面上のx−y(MD−TD)方向の長さが、厚さzの長さに比べて非常に大きいこと)と、局所的に厚くなったセパレータ部分を介しての液戻り、電解液が偏った状態からの液戻りといった、より液が戻りにくいケースが想定されることを鑑みると、セパレータのx−y方向の吸液速度を、厚さz方向の吸液速度に比べてより大きくすること(吸液速度の異方性)かつ、Z方向の液戻りも想定してZ方向にも適切な吸液速度を有する(Z方向の吸液速度が極端に小さくなるのはZ方向の液戻りが不十分になりよくない。現在市販されているポリオレフィン系セパレータと同等以上が好適)ように設計することが、速やか且つ均一な吸液に重要になる。
【0014】
本発明者らは、セパレータのx−y方向の吸液速度を、Z方向にも現在市販されているポリオレフィン系セパレータ“Celgard#2500”と同等以上の吸液速度を有するようにし、かつ厚さz方向の吸液速度に比べてより大きくする(吸液速度の異方性を出す)ために、ミクロンオーダー以上のサイズの不連続で扁平な空隙を有する微多孔シートを形成した。横向き(シート表面に平行)の繊維の密度が縦向き(シート表面に垂直)の繊維の密度よりも大きいガラス繊維不織布を用い、樹脂量を適宜調整することで、シート表面と裏面はサブミクロンの微多孔樹脂で覆われ、シート断面にミクロンオーダー以上のサイズの不連続で扁平な空隙を有する、所望のセパレータを得ることができる。シート断面写真で観察される不連続で扁平な空隙は、面方向の吸液速度増大(空隙半径増大による吸液速度の増加、ガラス繊維表面に付着する樹脂量の減少による吸液速度の増加)、空隙率増大(樹脂量が少なくなることによる)といった効果がある。尚、充填する樹脂量を単純に減らして空隙を設けることは、機械強度の必要条件であるシートの平面方向の引張強度が実用的であることや、デンドライド抑制に必要な面方向でサブミクロンの微多孔で覆われていることを損なうことが懸念されるが、本発明のように不連続で扁平な空隙をあけると実用的な機械強度を有し、デンドライド防止機能が維持されることが分かった。
【0015】
本発明の非水系二次電池用セパレータは、前記知見に基づきなされたもので、請求項1に記載の通り、無機材料から構成される微多孔シートの内部に、前記微多孔シートの表面に沿う方向に不連続で扁平な空隙を有する樹脂微多孔体が形成されていることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータにおいて、前記樹脂微多孔体は、前記微多孔シートの厚さ方向において層状に形成されることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は2に記載の非水系二次電池用セパレータにおいて、前記樹脂微多孔体は、網目状であることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の非水系二次電池用セパレータにおいて、前記微多孔シートがガラス繊維不織布であることを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の非水系二次電池用セパレータにおいて、前記微多孔シートの厚さ方向の電解液に対する吸液速度をVzとし、前記厚さ方向と直交する方向の前記電解液に対する吸液速度をVxとし、Vxが2.0以上且つ吸液速度比Vx/Vzが2以上とし、空隙率が70%以上、透気度が5秒以上500秒以下であることを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータにおいて、前記電解液の吸液速度Vxが2.5以上、且つ、前記吸液速度比Vx/Vzが4.5以上とし、前記空隙率が90%以上、前記透気度が5秒以上100秒以下であることを特徴とする。
また、本発明の非水系二次電池は、請求項7に記載の通り、請求項1乃至6の何れか1項に記載のセパレータを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、無機材料から構成される微多孔シートの内部に、前記微多孔シートの表面に沿う方向に不連続で扁平な空隙を有する樹脂微多孔体を形成するようにしたため、適正厚みの範囲(20μmから40μm)で高い空隙率、高い吸液性能、高い耐熱性を備えた非水系二次電池用セパレータが得られ、また、このセパレータを用いることにより短絡がなく、内部電池抵抗が小さくて、ハイレート特性の優れた非水二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のセパレータの概念図
【図2】造孔法で作製した多孔体の概念図
【図3】自己組織化で作製した網目の概念図
【図4】相分離法で形成されたラメラ構造の概念図
【図5】相分離法で形成されたシリンダー構造の概念図
【図6】吸液速度の指標(吸液係数Ka)の説明図
【図7】改良ラローズ法の説明図
【図8】実施例3のSEM像(セパレータ断面)
【図9】実施例3のSEM像(セパレータ表面)
【図10】実施例8(PVDF・HFP系)のセパレータ表面のSEM像
【図11】実施例11(PE系)のセパレータ表面のSEM像
【図12】実施例1〜11並びに比較例1及び2の試験結果を示す表
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の非水系二次電池用セパレータは、無機材料から構成される微多孔シートの内部に、前記微多孔シートの表面に沿って不連続で扁平な空隙を有する樹脂微多孔体を形成したもので、セパレータとしての適正厚み20−40μm(2.0N加圧時)で、シート表面から見て或いはシートを剥離した表面から見てサブミクロンの均一な微多孔が形成されており、実用的な引張り強度が10N/25mm以上を有する。このようなセパレータとしての必要要件を満たしつつ、高い空隙率、優れた吸液性、高い耐熱性能を有する。
【0019】
無機材料から構成される微多孔シートに用いられる無機材料は、電解液に対する濡れ性がよく、高温で熱収縮が起こらず自立した隔壁機能を維持でき、且つ実用的な機械強度を有するものであれば特に限定されないが、主成分が二酸化珪素のガラス繊維やアルミナ繊維からなる不織布を好適に使用できる。主成分が二酸化珪素のガラス繊維やアルミナ繊維からなる不織布は、適正厚み範囲(20μmから40μm)において実用的な機械強度(引張り強度10N/25mm以上)を有し、90%以上の高い空隙率のものを抄紙法などによって作製することができ、繊維自体の電解液に対する濡れ性がよいため、高い吸液性能を有する。ガラス繊維を用いたシート状構造体としては、ガラス織物(ガラスクロス)とガラス不織布が挙げられるが、ガラス不織布はガラスクロスよりも安価に製造でき、且つ高い空隙率が得られるので好ましい。
ガラス不織布の構成は、ガラス不織布内部に、ガラス不織布の厚さ方向と直交する方向において、不連続で扁平な空隙を有する樹脂微多孔体を形成するのに適するように、横向き(シート表面に平行)の繊維の密度が縦向き(シート表面に垂直)の繊維密度よりも大きいことが好ましい。このような構造体を形成する方法としては公知の不織布を製造する技術を用いて製造することができる。すなわち、湿式、乾式、乾式パルプ式、メルトブロー式などにより製造することができる。特に、傾斜単網方式や長網方式の湿式抄紙法は、走行する網に沿っては繊維を配向するさせるのが容易であり、横向き(シート表面に平行)の繊維の密度が縦向き(シート表面に垂直)の繊維密度よりも大きい構造体を得ることができるのでより好ましい。また、前記ガラス不織布におけるガラスは主成分が二酸化珪素のガラスが好適に使用できる。SiO2以外の成分に関してはガラス形成に適した成分であれば特に限定されないが、Li2O、Na2O、K2O、CaO、MgO、BaO、B2O3、Al2O3、ZrO2等を挙げることができる。ここでNa2O、K2Oのアルカリ成分は電解液中に溶出すると電池のイオン伝導を阻害する或いは電池の耐久性に悪影響を及ぼす可能性があるので、それらが溶出しない組成が好ましい。例えば、無アルカリガラスを用いることが好ましい。ガラス繊維の繊維径は、平均繊維径が0.1から5μmのものを好適に使用できる。平均繊維径が0.1から5μmのガラス繊維を単独配もしくは異なった繊維径のものを組み合わせて抄紙することで、セパレータ厚みが20から40μmで、機械強度と厚み均一性に優れたガラス不織布シートを作製することができる。
【0020】
無機材料から構成される微多孔シートの内部に形成する樹脂微多孔体は、微多孔を形成できる樹脂であれば特に限定されないが、非延伸の状態で自己組織化により微多孔を形成できる樹脂がより好ましい。樹脂単体で微多孔シートを作製する場合は、延伸により微多孔を形成する方法が好まれて用いられるが、無機材料から構成される微多孔シートは変形しないため、その内部に更に樹脂微多孔を形成するためには、非延伸の状態で微多孔を形成する必要がある。微多孔形成方法には造孔剤を用いてそれを後から抽出などで除去する方法(造孔材法)や自己組織化プロセスを用いて自発的に網目構造を形成する方法(自己組織化法)、相分離を利用して構造体(ラメラ、シリンダー)を形成する方法があるが、同じ均一な孔を作製する場合、自己組織化法は造孔材法に比べて空隙率が大きく、廉価でできるのでより好ましい。図2に造孔材法で作製した多孔体の概念図を、図3に自己組織化で作製した網目状多孔体の概念図を示す。自己組織化で作製した網目状多孔体は造孔材法で作製した多孔体に比べて空隙率を大きくできることが分かる。尚、相分離を利用してつくられるラメラ構造やシリンダー構造は、高い空隙率を保ちながら、イオンが通過可能でデンドライドを抑制する形状を提供できない。図4にラメラ構造(板状の層が並ぶ構造)を、図5にシリンダー構造(柱が一方向に並ぶ構造)を示した。
無機材料から構成される微多孔シートの内部に形成する樹脂微多孔体に使用される樹脂の種類は特に限定されないが、耐熱性に優れるセルロース、電気化学的な耐久性に優れるPVDF、現在の電池で使用実績のあるオレフィン樹脂などを好適に使用することができる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明のセパレータの実施例について比較例とともに説明するが、これら実施例、比較例の評価指標は以下の通りである。
(1)空隙率
セパレータ抵抗の指標である空隙率(=100−固体占有率(%))を、無機材料から構成される構造体の質量W1と比重ρ1、樹脂微多孔体の質量W2と比重ρ2とセパレータ厚みd(2N加圧時)を用いて算出した。
(2)透気度
セパレータ厚み方向のイオン流の流れ易さの代用指標として空気の透過し易さを評価した。透気度(気体の透過性)は、JIS P 8117に準じる方法で求めた。体積300cm2の空気がセパレータを通過するのに要した時間(秒)を透気度とした。透気度は、セパレータ抵抗や、短絡に関わる大きな孔の有無の指標として用いられる。
(3)吸液速度(Vx)
吸液量は時間の平方根に比例する。主要因子である(i)毛管輸送(Lucas-Washburn式に従う)、(ii)細孔内の蒸気拡散輸送や(iii)表面拡散(ii、iiiはFick型拡散則に従う)は何れも時間の平方根に比例する。短時間領域の吸液速度の指標Kaは以下の方法で算出した。サンプル端部を液体に接触させてからの経過時間Tの平方根に対して吸液量Vをプロットすると、図6に示すようなグラフが得られる。このとき、縦軸Vは吸液量(サンプルのサイズを固定したときは吸液高さに変換できる)、縦軸方向のずれVrは表面凹凸を埋めるのに必要な液量に相当する。横軸(接触してからの時間Tの平方根)のずれはブリストーらによって提唱された濡れ時間Twでサンプルが液で濡れるまでに要する時間である。電池系内では湿潤状態での吸液挙動を取り扱うので、前記VrやTmの影響を除いたKaが重要な指標となる。
【0022】
Lucas-Washburn式は、
V=(r*γ*cosθ*t/2/η)1/2
(V:吸液量、r:毛管半径、γ:液体の表面自由エネルギー、θ:接触角、η:粘度、t:時間)
で記述され、これに補正因子Vr、Twを加味した式は以下で記述される。
【0023】
V=Vr+Ka・(T−Tw)1/2
(V:吸液量、Vr:粗さ係数、T:サンプルが液に接触してから経過した時間、Tw:濡れ時間、Ka吸収係数)
【0024】
尚、吸液量/時間の平方根(100・(ms)1/2当たりの吸液高さ)を指標として用いた。液はリチウムイオン電池で用いられる炭酸エステル系溶剤の代表例としてEC(エチレンカーボネート)/DMC(ジメチルカーボネート)=1/2の溶媒を用いた。
【0025】
x−y方向の吸液速度Vx、Vyは、JIS L-1907 バイレック法/繊維、JIS P-8141 クレム法/紙と同様の装置を用い、25mm幅の短冊状サンプルの液に浸漬したときを測定開始時間として、時間の平方根に対して吸液高さをプロットした曲線の初期勾配Kaを用いた。Kaは100((ms)1/2)当たりの吸液高さmmの値を用いた。
Z方向の吸液速度Vzは、セパレータ厚みが薄く、短時間で吸い上げが完了するため、短時間域の測定に適している改良ラローズ法を用いた。図7に改良ラローズ法の原理を示した。改良ラローズ法では、液体充填容器4により抱水されたガラスフィルター5上に、サンプル6を押圧し、サンプル6が吸い上げた水の量を、液体充填容器4に接続されたガラス管7のメニスカス8の移動を読み取る方法で短時間域の吸液量を求めた。時間の平方根に対して吸液量をプロットした曲線の初期勾配を吸液速度とした。尚、定型に切り出したセパレータサンプルは隙間がないように積層し、端部からの液回り込みを避けるためのシール処理を施した。サンプルと液が接触する際に積層したサンプル間に隙間があかないよう適度にサンプルを押さえつけながら吸液測定を行った。
【0026】
(4)吸液速度比(Vx/Vz)
吸液速度比(吸液速度の異方性)は、上記(3)の吸液速度Vx、Vzを用いて、Vx/Vzとして定義した。
【0027】
(5)短絡試験
HSセル及び20mAhラミネートセルを用いて、LIB電池のサイクル試験を行い初期短絡及びサイクル試験中の微短絡を評価した。短絡又は微短絡ありを×印で、短絡・微短絡なしを○印で表記した。短絡、又は微短絡が起こることは実用的な電池として作動しないことを意味する。
【0028】
(6)セパレータ抵抗評価
マンガン酸リチウム正極シートとセパレータとグラファイト負極シートを積層し、電解液としてEC(エチレンカーボネート)/DMC(ジメチルカーボネート)/DEC(ジエチルカーボネート)=25/60/15(体積比)を溶媒として電解質LiPF6を濃度が1mol/Lになるように溶解させたものを使用した。20mAhラミネートセルを作製した。作製したラミネートセルを電池として安定させるために以下の充電・放電操作を施した。ラミネートセルを25℃雰囲気下で、3.2mA(約0.2C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、合計5時間充電を行う。そして3.2mAの電流値で電池電圧2.5Vまで放電する。この充電・放電操作を3回繰り返した。セパレータ抵抗は、交流インピーダンス法を用いてコールコールプロットから算出した。以下に説明する比較例1(セルガード#2500)に比べてセパレータ抵抗が10%以上良化(低減)したものを◎印、5%以上良化(低減)したものを○印、良化(低減)が5%未満の増加に留まったものを×印で表記した。尚、電池の内部抵抗が低いということは、より急速な充電が可能になり、また、放熱特性が良くなることを意味する。
【0029】
(7)ハイレート試験
ハイレート特性とは、バッテリーの性能を表す指標のひとつで、エンジン始動のような高負荷に強い特性のことである。20mAhラミネートセルを用いて、作製したラミネートセルを電池として安定させるために0.2C充電+2.5Vまでの放電操作を3回繰り返したのちに、0.2C、1.0C、3.0Cのハイレート試験を行い、放電容量比率の低下度を評価した。
ハイレート試験の具体的な方法を以下に示す。25℃雰囲気下、3.2mA(約0.2C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、電流値が0.8mA(0.05C)になるまで放電を行う。このときの放電容量を0.2Cでの放電容量A(0.2)mAhとする。25℃雰囲気下、16mA(約1C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、電流値が0.8mA(0.05C)になるまで放電を行う。このときの放電容量を1.0Cでの放電容量A(1.0)mAhとする。25℃雰囲気下、48mA(約3C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、電流値が0.8mA(0.05C)になるまで放電を行う。このときの放電容量を3.0Cでの放電容量A(3.0)mAhとする。0.2Cの放電容量A(0.2)を基準にA(x)、x=1.0、3.0の容量比率B(x)%をB(x)=A(x)/A(0.2)×100で定義した。
比較例1(セルガード#2500)に比べて容量比率B(1.0)、B(3.0)の両者ともにで3%以上の優位性がある(低下率低い)ものを◎印で表記した。容量比率B(1.0)、B(3.0)の両者ともに1%以上の優位性があるものを○印で表記した。差が1%未満のもの或いは優位性がないものを×印で表記した。
【0030】
以下に、実施例1〜11及び比較例1,2の具体的な構成について説明する。
[実施例1]
以下AからDの工程を順に行い実施例1のサンプルとした。
A:無機材から構成される微多孔シートを作製する工程
B:無機材から構成される微多孔シートに樹脂溶液をコーティングする工程
C:コーティングされた樹脂を微多孔化する工程
D:その内部に微多孔化された樹脂が形成された、無機材から構成される微多孔シートを乾燥する工程
工程A
平均繊維径0.5から1.0μmのガラス繊維を用いて、湿式抄紙法にて厚さ30μm(押し圧2.0N)空隙率94%のシート状ガラス不織布を作製した。
工程B
8wt%水酸化リチウムと15wt%尿素を含む水溶液に1.5wt%相当のろ紙パルプ(アドバンテック製)を入れて攪拌したものを凍結させたのち、室温にて解凍処理を施して1.5wt%セルロース水溶液を得た。1.5wt%セルロース水溶液をリップコート法で工程Aで作製したシート状ガラス不織布に塗布し、シート状ガラス不織布の内部にセルロース水溶液を充填した。
工程C
工程Bにてシート状ガラス不織布に充填したセルロース水溶液から網目状セルロースを析出させるための凝固浴として、25℃の硫酸・メタノール浴(60wt%硫酸/メタノール=60/40(重量比))を用いた。セルロース水溶液が充填されたシート状ガラス不織布を前記凝固浴に浸漬させてセルロース樹脂微多孔を析出させた後、水洗浄を行い、アルカリ塩などセルロースとガラス以外の成分を除去した。
工程D
凍結乾燥は、ヘプタフルオロシクロペンテン(日本ゼオン製“ゼオローラH”)を用いて行った。凍結乾燥の前処理として、試料が含む液体を水からゼオローラHに置換する処理を行った。最初にエタノール浴に浸漬し、水とゼオローラHの両者に相溶性があるエタノールに置換し、次に水を系内から排除するために脱水エタノール浴に浸漬した。エタノールを含んだ試料をゼオローラH浴に浸漬し、試料に含まれる液体をエタノールからゼオローラHに溶媒置換した。試料に含まれる液を水からゼオローラHに置換したのちに凍結乾燥処理を施し、実施例1のセパレータとした。
【0031】
[実施例2]
実施例1の工程Bのセルロース水溶液の濃度を2.0wt%にしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い実施例2のセパレータとした。
【0032】
[実施例3]
実施例1の工程Bのセルロース水溶液の濃度を3.0wt%にしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い実施例3のセパレータとした。
【0033】
[実施例4]
実施例3の工程Cのセルロース凝固浴を25℃の20wt%硫酸にしたこと以外は、実施例3と同様の処理を行い実施例4のセパレータとした。
【0034】
[実施例5]
実施例1の工程Bのセルロース水溶液の濃度を1.5wt%にし、工程Cのセルロース再生浴を25℃のメタノールにしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い実施例5のセパレータとした。
【0035】
[実施例6]
実施例1の工程Bのセルロース水溶液の濃度を2.0wt%にし、工程Cのセルロース再生浴を25℃のメタノールにしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い実施例6のセパレータとした。
【0036】
[実施例7]
実施例1の工程Bのセルロース水溶液の濃度を3.0wt%にし、工程Cのセルロース再生浴を25℃のメタノールにしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い実施例7のセパレータとした。
【0037】
[実施例8]
以下AからDの工程を順に行い実施例8のサンプルとした。
A:無機材から構成される微多孔シートを作製する工程
B:無機材から構成される微多孔シートに樹脂溶液をコーティングする工程
C:コーティングされた樹脂を微多孔化する工程
D:その内部に微多孔化された樹脂が形成された、無機材から構成される微多孔シートを乾燥する工程
工程A及びDは実施例1と同じで、工程B及びCは以下の操作を行った。
工程B
PVDF・HFP溶液は、フッ化ビニリデン(PVDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体(アルケマ製KYNAR FLEX 2800)をNメチルピロリドン(NMP)に溶解し、PVDF・HFPの4.0wt%溶液を得た。4.0wt%PVDF・HFP溶液をリップコート法で工程Aで作製したシート状ガラス不織布に塗布し、シート状ガラス不織布の内部にPVDF・HFP溶液を充填した。
工程C
工程Bにてシート状ガラス不織布に充填したPVDF・HFP溶液から網目状PVDF・HFPを析出させるための凝固浴として0℃の水浴を用いた。PVDF・HFP溶液が充填されたシート状ガラス不織布を前記凝固浴に浸漬させてPVDF・HFP樹脂微多孔を析出させた後、水洗浄を行いNMPを除去した。
【0038】
[実施例9]
実施例1の工程Bのセルロース水溶液の濃度を4.0wt%にし、工程Cのセルロース再生浴を25℃のメタノールにしたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い実施例9のセパレータとした。
【0039】
[実施例10]
実施例3の工程Bから工程Dまでの操作を2回繰り返して実施例10のセパレータとした。
【0040】
[実施例11]
平均繊維径0.5から1.0μmのガラス繊維を用いて、湿式抄紙法にて厚さ30μm(押し圧2.0N)空隙率94%のシート状ガラス不織布を作製した。つぎに、このシート状ガラス不織布に、20wt%ポリエチレン溶液(フタル酸イソデシル溶液)を200℃で塗布した後、180℃で一旦保持した後に80℃の温水浴に浸漬させて、シート状ガラス不織布の内部にポリエチレン樹脂微多孔を析出させた。その後エタノール洗浄、90℃での加熱乾燥処理を施し、実施例11のセパレータとした。
【0041】
[比較例1]
ポリオレフィン系セパレータ(Celgard LLC製 Celgarad#2500、ポリプロピレン製)を比較例1とした。
【0042】
[比較例2]
実施例1〜11において使用した厚さ30μm(押し圧2.0N)、空隙率94%のシート状ガラス不織布を比較例2とした。
【0043】
実施例1〜11及び比較例1及び2について、空隙率、透気度、吸液特性(Vx、Vx/Vz)、電池特性(短絡試験、電池内部抵抗、ハイレート試験)を試験して、その結果を表にまとめ、図12として添付した。
【0044】
セルロース系微多孔の代表例として実施例3におけるSEM像を図8及び図9に示した。これらのSEM像から、微多孔シートの内部に、微多孔シートの厚さ方向と直交する方向において、不連続で扁平な空隙を有する微多孔体が形成されていることが分かった。
樹脂系(PVDF・HFP系)微多孔の例として実施例8におけるSEM像(セパレータ表面)を図10に示した。このSEM像からも、微多孔シートの内部に、微多孔シートの厚さ方向と直交する方向において、不連続で扁平な空隙を有する微多孔体が形成されていることが分かった。
また、樹脂系(ポリエチレン微多孔)の例として実施例11におけるSEM像(セパレータ表面)を図11に示した。このSEM像からも、微多孔シートの内部に、微多孔シートの厚さ方向と直交する方向において、不連続で扁平な空隙を有する微多孔体が形成されていることが分かった。
また、図9、図10及び図11から自己組織化によりサブミクロンの微多孔が形成されていることが分かった。
【0045】
図12として添付した表から明らかな通り、本発明の実施例1乃至11は全て、空隙率、透気度、吸液性、電池特性(短絡、電池内部抵抗、ハイレート)において、良好な値を示していることが分かった。
実施例11と比較例2の空隙率、透気度及び電池内部抵抗の比較から、空隙率が70%以上、透気度が500秒以下が電池内部抵抗が低くなり好ましいことが分かる。実施例5と比較例2の透気度と短絡試験結果の比較から微短絡防止の観点からセパレータの透気度が5秒以上が好ましいことが分かった。
実施例11と比較例1の吸液速度Vx、吸液速度比Vx/Vz及びハイレート試験結果の比較から、電解液の吸液速度Vxが2.0、且つ、吸液速度比Vx/Vzが2以上が好ましいことが分かった。
実施例1〜8と実施例9〜11とを、電池内部抵抗及びハイレート試験結果から比較すると、空隙率が90%以上、透気度が5秒以上100秒以下、電解液の吸液速度Vxが2.5以上、且つ、吸液速度比Vx/Vzが4.5以上であることがより好ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0046】
1 微多孔シート
2 不連続で扁平な空隙
3 樹脂微多孔体
4 液体充填容器
5 ガラスフィルター
6 サンプル
7 ガラス管
8 メニスカス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料から構成される微多孔シートの内部に、前記微多孔シートの表面に沿う方向に不連続で扁平な空隙を有する樹脂微多孔体が形成されていることを特徴とする非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記樹脂微多孔体は、前記微多孔シートの厚さ方向において層状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記樹脂微多孔体は、網目状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記微多孔シートがガラス繊維不織布であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記微多孔シートの厚さ方向の電解液に対する吸液速度をVzとし、前記厚さ方向と直交する方向の前記電解液に対する吸液速度をVxとし、Vxが2.0以上且つ吸液速度比Vx/Vzが2以上とし、空隙率が70%以上、透気度が5秒以上500秒以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
前記電解液の吸液速度Vxが2.5以上、且つ、前記吸液速度比Vx/Vzが4.5以上とし、前記空隙率が90%以上、前記透気度が5秒以上100秒以下であることを特徴とする請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載のセパレータを有することを特徴とする非水系二次電池。
【請求項1】
無機材料から構成される微多孔シートの内部に、前記微多孔シートの表面に沿う方向に不連続で扁平な空隙を有する樹脂微多孔体が形成されていることを特徴とする非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記樹脂微多孔体は、前記微多孔シートの厚さ方向において層状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記樹脂微多孔体は、網目状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記微多孔シートがガラス繊維不織布であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記微多孔シートの厚さ方向の電解液に対する吸液速度をVzとし、前記厚さ方向と直交する方向の前記電解液に対する吸液速度をVxとし、Vxが2.0以上且つ吸液速度比Vx/Vzが2以上とし、空隙率が70%以上、透気度が5秒以上500秒以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
前記電解液の吸液速度Vxが2.5以上、且つ、前記吸液速度比Vx/Vzが4.5以上とし、前記空隙率が90%以上、前記透気度が5秒以上100秒以下であることを特徴とする請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載のセパレータを有することを特徴とする非水系二次電池。
【図6】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−221756(P2012−221756A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86644(P2011−86644)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】
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