説明

面状採暖具の製造方法および面状採暖具の製造装置

【課題】金型を使用しないで面状採暖具の接着加工を可能とし、しかも形状やサイズが異なる面状採暖具に対応可能な製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】加熱工程では、アルミシート411を含む均熱シート410にヒータ線420を配設したヒータユニット400とシート状部材とを積み重ねたワーク110を移動させながら電磁誘導加熱装置721によりアルミシート411を発熱させる。このとき、複数(例えば2個)の加熱コイル722a,722bを用いることで、熱溶融型の接着剤を安定して溶融させることができるので、製造工程の省エネルギー化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気ヒータを発熱源とした面状採暖具の製造方法および面状採暖具の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の面状採暖具は、裏材と、基材にヒータ線を配設したヒータユニットと、表材との三層が積層された構造を有しており、裏材とヒータユニットとの間およびヒータユニットと表材との間が接着剤により貼り付けられている。この種の面状採暖具の製造方法は、裏材またはヒータユニットの一方の主面に接着剤を塗布するとともに、ヒータユニットの他方の主面または表材に接着剤を塗布した上で、裏材、ヒータユニットおよび表材を重ね合わせて積層体を形成する。その後、積層体の外部から加熱して各層間の接着剤を溶融させた上で金型を用いて押圧成型している。
【0003】
しかしながら、この方法では、積層体の外部から加熱しているため、各層間の接着剤を十分溶融させるためにはその外側にある表材または裏材を過度に加熱しなければならない問題がある。表材または裏材を過度に加熱することにより、面状採暖具の使用状況における表材または裏材の耐用温度を超えてしまうと、表材または裏材の品質が劣化してしまう場合がある。特に、表材は表面の意匠や触ったときの感触等のために型押しが施されていたり、柔らかな感触とするために、熱にそれほど強くない素材を用いたりする場合があるため、過度の加熱を行うと、表材の変形や変質が生じ、表材に施された意匠を損ねたり触ったときの感触が悪化したりしてしまうなどの悪影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
これに対し、接着剤を用いずに面状採暖具を製造する方法として、裏材の上にウレタン(urethane)発泡材を塗布し、その上に基材にヒータ線を配設したヒータユニットと表材とを積層し、これらを金型内で押圧成型する方法もある。このときウレタン発泡材が発泡し、発泡圧によりヒータユニットの基材から表材側にウレタン発泡材が滲み出し表材に付着することにより、裏材とヒータユニットと表材とを一体に貼合していることも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図17(a)〜(c)は、特許文献1に記載された従来の面状採暖具を示すもので、図17(a)は面状採暖具の作成順序を示す斜視図を示し、図17(b)は作成順序の側面図を示し、図17(c)は成型後の面状採暖具の断面図を示すものである。図17(a)に示すように、表材901と、ヒータ基材903aにヒータ線903bを配設したヒータユニット903と、ウレタン発泡材904を表面に塗布した裏材905とを用意し、図17(b)に示すようにそれらを積層して図示しない金型内に配置し、金型内で押圧成型することにより、図17(c)に示す面状採暖具が成型されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−041480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、依然として以下のような問題がある。すなわち、特許文献1に記載の製造方法では、押圧成型の加工を行うために金型を準備することが必須であり、しかもその金型は面状採暖具の形状およびサイズ毎に準備する必要がある。特に床面に設置して使用する面状採暖具は多くのサイズを生産するのが一般的であるため、金型の製作に要する費用が多くなるとともに、異なる形状やサイズの面状採暖具を生産する時に金型の交換が必要となると生産効率を向上することが難しい。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、表面材の表面への加熱による悪影響を防止しつつ、金型を使用しないで面状採暖具の生産を可能とし、しかも形状やサイズが異なる面状採暖具に容易に対応可能な製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る面状採暖具の製造方法は、前記の課題を解決するために、金属成分を含有する均熱シートにヒータ線が配設された面状のヒータユニットと、当該ヒータユニットに積層されるシート状部材とを備える面状採暖具の製造方法であって、前記シート状部材と前記ヒータユニットとを、熱溶融型の接着剤の層を介在させた状態で積み重ねた積層体を形成する準備工程と、前記積層体の表裏面の少なくとも一方に近接させて電磁誘導加熱コイルを設置し、前記積層体を予め設定された移動方向に移動させながら、前記電磁誘導加熱コイルにより磁力線を発生させて前記ヒータユニットの前記均熱シートを発熱させることにより前記接着剤を溶融させる加熱工程を含み、前記加熱工程では、前記積層体に面する位置に、複数の前記電磁誘導加熱コイルが隣接して配置されている構成である。
【0010】
また、本発明に係る面状採暖具の製造装置は、前記の課題を解決するために、金属成分を含有する均熱シートにヒータ線が配設された面状のヒータユニットと、当該ヒータユニットに積層されるシート状部材とを備える面状採暖具の製造装置であって、前記シート状部材と前記ヒータユニットとが熱溶融型の接着剤の層を介在させた状態で積み重ねられた積層体を、予め設定された移動方向に搬送する搬送手段と、前記移動方向の下流側に位置し、隣接配置される複数の加熱コイルを含む電磁誘導加熱手段と、制御手段と、を備え、当該制御手段は、前記搬送手段により搬送させた前記積層体の表裏面の少なくとも一方に対して、前記電磁誘導加熱手段により発生させた磁力線を印加することによって、前記ヒータユニットの前記均熱シートを発熱させて、前記接着剤を溶融させるように構成されている。
【0011】
さらに、本発明には、前記製造方法により製造され、金属成分を含有する均熱シートにヒータ線が配設された面状のヒータユニットと、当該ヒータユニットに積層されるシート状部材とを備え、前記ヒータユニットおよび前記シート状部材が、熱溶融型の接着剤の層により互いに接着されて固定されている面状採暖具も含まれる。
【0012】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、および利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の面状採暖具の製造方法および製造装置は、表面材の表面への加熱による悪影響を防止しつつ、金型を使用しないで面状採暖具の生産を可能とし、しかも形状やサイズが異なる面状採暖具に容易に対応可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係る面状採暖具の製造方法において、製造される面状採暖具の外形の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す面状採暖具の本体を組み立てる前の状態の一例を示す斜視図である。
【図3】図2に示す本体の完成状態の一例を示す断面図である。
【図4】図3に示す本体の構成部材の具体的な一例を示す断面図である。
【図5】図4に示す本体が備えているヒータ線の具体的な構成の一例を示す斜視図である。
【図6】図3に示す本体を製造する際の準備工程の一例を示す模式図である。
【図7】(a)および(b)は、図3に示す本体を製造する際の加熱工程および押圧工程の一例を示す模式図である。
【図8】(a)および(b)は、図3に示す本体を製造する際の熱プレス工程の一例を示す模式図である。
【図9】図3に示す本体を製造する際の超音波溶着工程の一例を示す模式図である。
【図10】図3に示す本体を製造する際のトリミング工程の一例を示す模式図である。
【図11】(a)は、図7(a)に示す加熱工程のより好ましい一例を示す模式図であり、(b)は、(a)に示す加熱工程で用いられる2個の電磁誘導加熱コイルの配置を示す模式図である。
【図12】(a)は、図11(a)および(b)に示す加熱工程により面状採暖具の本体を製造した際のアルミシートおよび表面材の温度変化を示すグラフであり、(b)は、(a)の温度変化に対応する電磁誘導加熱コイルの誘導起電力を示すグラフである。
【図13】(a)は、本発明の実施の形態2に係る面状採暖具の製造方法において、本体を製造する際の加熱工程および押圧工程の一例を示す模式図であり、(b)は、(a)に示す加熱工程で用いられる2個の電磁誘導加熱コイルの配置を示す模式図である。
【図14】(a)は、図7(a)に示す電磁誘導加熱コイル1個の場合の加熱工程におけるアルミシートおよび接着シートの温度変化を示すグラフであり、(b)は、図13(a)に示す電磁誘導加熱コイル3個の場合の加熱工程におけるアルミシートおよび接着シートの温度変化を示すグラフである。
【図15】本発明の実施の形態3に係る面状採暖具の製造方法において、加熱工程で用いられる複数個の電磁誘導加熱コイルの配置の一例を示す模式図である。
【図16】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態4に係る面状採暖具の製造装置の一例を示す模式図である。
【図17】(a)は、従来の面状採暖具の製造順序の一例を示す斜視図であり、(b)は、従来の面状採暖具の製造順序の他の例を示す断面図であり、(c)は、従来の面状採暖具の完成状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る面状採暖具の製造方法は、金属成分を含有する均熱シートにヒータ線が配設された面状のヒータユニットと、当該ヒータユニットに積層されるシート状部材とを備える面状採暖具の製造方法であって、前記シート状部材と前記ヒータユニットとを、熱溶融型の接着剤の層を介在させた状態で積み重ねた積層体を形成する準備工程と、前記積層体の表裏面の少なくとも一方に近接させて電磁誘導加熱コイルを設置し、前記積層体を予め設定された移動方向に移動させながら、前記電磁誘導加熱コイルにより磁力線を発生させて前記ヒータユニットの前記均熱シートを発熱させることにより前記接着剤を溶融させる加熱工程を含み、前記加熱工程では、前記積層体に面する位置に、複数の前記電磁誘導加熱コイルが隣接して配置されている構成であればよい。
【0016】
前記構成によれば、熱溶融型の接着剤を溶融するための熱は、面状採暖具の内部にある均熱シートの発熱より得られるため、接着剤を短時間かつ効率的に溶融することができる。特に、電磁誘導加熱コイルが隣接配置されていることにより、同時に広い範囲を加熱することができるので、均熱シートの急激な加熱を回避することができ、発熱源である均熱シートの温度を適度な範囲に制御することができる。それゆえ、シート状部材の接着作業を短時間に実施できるとともに、面状採暖具の外部に無駄な放熱を抑制することができるだけでなく、溶融する接着剤の劣化を抑制することが可能となり、シート状部材の接着状態を好適なものとすることができる。
【0017】
また、電磁誘導加熱コイルが隣接配置されていることにより、それぞれの電磁誘導加熱コイルによる加熱容量を異なるように設定したり、電磁誘導加熱コイルの間の距離を変えたりすることで、面状採暖具の構成に応じた好適な加熱を実現することができる。
【0018】
さらに、面状採暖具の製造工程のうち、シート状部材の接着加工に金型を使用して積層体外部から熱を加える必要がないため、製造工程の省エネルギー化を図ることができることに加え、初期投資費用の抑制と、設計の自由度を向上することができる。
【0019】
前記構成の製造方法においては、前記積層体に含まれる前記接着剤の層は、独立したシート状部材として構成されているか、前記シート状部材に予め一体的に積層されているか、またはその両方である構成である。これにより、接着対象であるシート状部材の材質、厚み、性質等の諸条件に応じて、接着剤の層を適切に設けることができるので、シート状部材の接着状態をより一層好適なものとすることができる。
【0020】
前記構成の製造方法においては、前記シート状部材が、前記面状採暖具の表面を構成する表面材、前記面状採暖具の裏面を構成する裏面材、および、前記ヒータユニットから発生する採暖用熱の前記裏面側への伝熱を抑制する断熱シート、の少なくともいずれかである構成であればよい。これにより、面状採暖具の代表的な基本構成部材である表面材、裏面材および断熱シートの少なくともいずれかを用いて積層体を構成し、加熱工程を行うことになるので、面状採暖具の好適な製造を行うことができる。
【0021】
前記構成の製造方法においては、前記ヒータユニットは、前記均熱シートの表裏面のいずれか一方に前記ヒータ線が配設された構成であり、前記加熱工程では、前記積層体における、前記均熱シートの前記ヒータ線を配設していない側の面が前記電磁誘導加熱コイルに近接するように、当該積層体を設置する構成であればよい。これにより、複数の電磁誘導加熱コイルを均一な平面である均熱シートに対向して配置されることができるので、均熱シートの発熱をより一層均一に安定して行うことができる。
【0022】
前記構成の製造方法においては、前記加熱コイルは、前記積層体の幅よりも長い長板状コイルであり、複数の当該長板状コイルは、その長手方向で並列した状態で前記移動方向に沿って隣接配置されている構成であればよい。これにより、積層体の移動方向に沿って加熱範囲を平行移動させることになり、積層体全体を効率的に均一に加熱することが可能となるだけでなく、隣接した長板状コイルによって広い範囲を均一に加熱することができるので、均熱シートの急激な加熱を有効に回避して、均熱シートの温度をより適度な範囲に制御することができる。
【0023】
前記構成の製造方法においては、前記加熱コイルは、前記積層体の幅よりも短い短板状コイルであり、複数の当該短板状コイルは、前記移動方向に交差して前記積層体の幅全体を覆うように隣接配置されている構成であればよい。これにより、各短板状コイルそれぞれの加熱容量を異なるものとすることで、移動方向に交差する方向において、加熱の程度を変更することが可能となる。それゆえ、例えば、より大きな寸法の面状採暖具を製造するために複数の均熱シートを一部重ねて用いる場合に、積層体内の均熱シートの厚みが部分的に異なっていても、積層体全体において均一な加熱を行うことが可能となる。
【0024】
前記構成の製造方法においては、前記加熱工程の後に行われ、前記積層体全体を押圧する押圧工程をさらに含む構成であればよい。これにより、加熱工程で接着剤の層を溶融させた後に押圧工程により積層体を押圧することになるので、シート状部材を良好に接着することができる。
【0025】
また、本発明に係る面状採暖具の製造装置は、金属成分を含有する均熱シートにヒータ線が配設された面状のヒータユニットと、当該ヒータユニットに積層されるシート状部材とを備える面状採暖具の製造装置であって、前記シート状部材と前記ヒータユニットとが熱溶融型の接着剤の層を介在させた状態で積み重ねられた積層体を、予め設定された移動方向に搬送する搬送手段と、前記移動方向の下流側に位置し、隣接配置される複数の加熱コイルを含む電磁誘導加熱手段と、制御手段と、を備え、当該制御手段は、前記搬送手段により搬送させた前記積層体の表裏面の少なくとも一方に対して、前記電磁誘導加熱手段により発生させた磁力線を印加することによって、前記ヒータユニットの前記均熱シートを発熱させて、前記接着剤を溶融させるように構成されている。
【0026】
前記構成によれば、搬送手段および電磁誘導加熱手段を備えているので、制御手段は、積層体を移動させながら、加熱コイルによって均熱シートを発熱させて接着剤の層を溶融させることになる。それゆえ、シート状部材の接着作業を短時間に実施できるとともに、面状採暖具の外部に無駄な放熱を抑制することができるだけでなく、溶融する接着剤の劣化を抑制することが可能となり、シート状部材の接着状態を好適なものとすることができる。
【0027】
前記構成の製造装置においては、さらに、前記電磁誘導加熱手段における前記移動方向の下流側に隣接して位置し、前記積層体の両面を押圧する押圧手段を備えている構成であればよい。これにより、電磁誘導加熱手段で接着剤の層を溶融させた後に押圧手段により積層体を押圧することになるので、シート状部材を良好に接着することができる。
【0028】
また、本発明には、前記製造方法により製造され、金属成分を含有する均熱シートにヒータ線が配設された面状のヒータユニットと、当該ヒータユニットに積層されるシート状部材とを備え、前記ヒータユニットおよび前記シート状部材が、熱溶融型の接着剤の層により互いに接着されて固定されている構成の面状採暖具も含まれる。
【0029】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0030】
(実施の形態1)
[面状採暖具の構成]
まず、本発明によって製造される面状採暖具の代表的な構成の一例について、図1ないし図5を参照して具体的に説明する。図1は、本発明の実施の形態1における面状採暖具の完成状態の一例を示す斜視図であり、図2は面状採暖具の本体の組み立て前の状態の一例を示す斜視図であり、図3は図2に示す本体の完成状態を示す断面図であり、図4は図3に示す本体を構成する部材の詳細な構成を示す断面図であり、図5は図4に示す本体が備えるヒータ線の具体的な構成の一例を示す斜視図である。
【0031】
図1に示すように、面状採暖具は複数のシート状部材で構成した本体100の一端に制御部101が配設され、制御部101に接続した電源コード102より電力を供給することにより本体100を加熱するよう構成されており、住宅の床面に設置して使用する採暖具として機能する。制御部101は、面状採暖具の本体100の発熱動作を制御するための公知の制御ユニットであり、図示しないスイッチ、温度調節つまみ、発光ダイオード等で構成される表示灯等を備えている。
【0032】
図2に示すように、面状採暖具の本体100は、表面材200と接着シート300とヒータユニット400と断熱シート500と裏面材600とを主な構成部材とし、図2に示すようにそれらを順次積層し、それらのシート状部材を接着加工し、周辺部を圧縮密閉することにより図3に示すような断面形状を有するように形成されている。
【0033】
図4に示すように、表面材200は、面状採暖具の本体100における最表面の部材であり、機械的な強度はもちろん意匠性や耐汚染性や触感等の必要な性能を備えたものである。具体的な構成は特に限定されないが、代表的な一例としては、塩化ビニール樹脂(polyvinyl chloride 以下PVCと表記)を主成分とし、着色および柄付けした表面シート201の裏面にポリエステル(polyester)樹脂を主成分とする不織布202を接着剤203で接着してシート状をなしている構成のものを挙げることができる。この不織布202は、シート状部材が接着加工されて面状採暖具として一体化した後に、表面材200にヒータ線420の線浮きが生じることを防止するために設けられる。
【0034】
接着シート300は、表面材200を貼り付けるための接着部材として機能するものであり、その構成は具体的に限定されないが、代表的な一例としては、ポリエチレン(polyethylene)樹脂をシート状に成形したものであり、常温においては柔軟なシート状をなしているものを挙げることができ、約97℃以上で溶融して接着剤としての機能を発揮する。
【0035】
ヒータユニット400は、面状採暖具の発熱源であり、その構成は具体的に限定されないが、代表的な一例としては、アルミニウム(aluminum)を主成分とする均熱シート410の片面にヒータ線420を蛇行形状に配設したものを挙げることができる。なお、均熱シート410の基材としては、アルミシート411が用いられているが、これに限定されるものではなく、後述するように、電磁誘導加熱装置により発熱できる材料で形成されていればよいので、銅、ステンレス等の他の金属材料であってもよい。
【0036】
均熱シート410は、ヒータ線420で発熱した熱を本体100全面に均一に拡散するために用いられる部材であり、その構成は具体的に限定されないが、代表的な一例としては、熱伝導率が高い金属シートであるアルミニウムを主成分とする厚さ約0.01mmのアルミシート(aluminum sheet)411を基材とし、その両面にポリエチレン樹脂からなる接着樹脂412をコーティングして形成したものを挙げることができる。このポリエチレン樹脂からなる接着樹脂412は、約97℃以上に加熱することにより溶融して接着剤としての機能を発揮する。
【0037】
ヒータ線420の具体的な構成は特に限定されないが、代表的な一例としては、図5に示すように、中心のガラス繊維421の周囲に温度を検知する検知線422を螺旋状に巻回し、その外周にナイロン(nylon)樹脂で絶縁層423を形成し、絶縁層423の外周に発熱線424を螺旋状に巻回し、その外周にPVCの絶縁層425を形成し、絶縁層425の外周にポリエチレン樹脂による接着層426を形成したものを挙げることができる。
【0038】
図2に示すように、ヒータユニット400は、ヒータ線420の始端(一端)を均熱シート410の1つの角部に配置し、均熱シート410の全域をカバーするように蛇行形状に配設し、終端(他端)を始端の近傍に配置している。また、図2に示すように、ヒータ線420を配置した状態で熱を加えることにより、ヒータ線420の接着層426が溶融し、ヒータ線420が均熱シート410に接着固定されている。
【0039】
断熱シート500は、ヒータユニット400で発熱した熱が床面に無駄に伝わるのを抑制するために設けられており、その具体的な構成は特に限定されないが、代表的な一例としては、断熱性の高いシート状の発泡ウレタン樹脂501(発泡ウレタンシート501)の両面にポリエステル樹脂を主成分とする不織布502を接着したものを挙げることができる。この不織布502も前記不織布202と同様に、ヒータ線420の線浮きを防止するための構成である。
【0040】
裏面材600は、面状採暖具の本体100のうち直接床面に接触する部材であり、その具体的な構成は特に限定されないが、代表的な一例としては、オレフィン系エラストマーを主成分とする裏面シート601の上面にポリエチレン樹脂の接着層602をコーティングしたものを挙げることができる。上記オレフィン系エラストマーとしては、熱可塑性オレフィンエラストマー(thermoplastic olefin,以下TPOと略記する。)が好ましい一例として挙げられる。TPOは、機械的強度はもちろん、クッション性や滑りにくさ等の性能を備えており、さらに弾性を備えている。
【0041】
本実施の形態に係る面状採暖具は、上記各構成部材を組み立て形成した本体100の角部に制御部101を設置し、ヒータユニット400の発熱線424の始端と終端とを制御部101に接続するよう構成されている。当該面状採暖具は、図1に示すように、制御部101に接続される電源コード102から電力を供給し、制御部101により発熱動作が制御されることにより、面状採暖具として発熱機能を発揮することができる。
【0042】
なお、本発明で製造される面状採暖具は、本体100、制御部101、および電源コード102以外の構成を備えていてもよいし、本体100を構成する前述した各シート状部材のうち一部のシート状部材が省かれた構成となっていてもよい。また、本体100は、上述したシート状部材以外に、シート状ではない形状の他の部材を含んでもよい。
【0043】
また、本実施の形態に係る面状採暖具に用いられる接着剤は、熱溶融する材料を主成分とする熱溶融型(ホットメルト、hot-melt)であれば、その具体的な種類は特に限定されない。図2および図4に示す構成例では、熱溶融型の接着剤の層として、表面材200に一体的に積層されている接着剤203(表面材接着層)、独立したシート状部材として構成されている接着シート300、ヒータユニット400の均熱シート410の一層として、アルミシート411の両面に積層されている接着樹脂412(均熱シート接着層)が含まれ、これらは、いずれもポリエチレン樹脂、ポリプロピレン(polypropylene)樹脂等のオレフィン系熱可塑性樹脂から少なくとも構成される層となっているが、その他の公知の熱可塑性樹脂を用いてもよいし、樹脂以外の熱可塑性材料を用いてもよい。また、熱溶融型の接着剤が、熱可塑性樹脂を主成分とするものである場合、複数の熱可塑性樹脂を混合したポリマーアロイであってもよいし、樹脂以外の公知の添加剤等を含む熱可塑性樹脂組成物であってもよい。
【0044】
[面状採暖具の製造方法]
次に、上述した本体100を備える面状採暖具の製造方法の代表的な一例について、図6ないし図10を参照して具体的に説明する。図6は本体100の製造過程における準備工程の一例を概略断面図として示す模式図であり、図7(a)および(b)は本体100の加熱工程および押圧工程の一例を概略断面図として示す模式図であり、図8(a)および(b)は裏面材600の接着および本体100の周辺部の成型を行う熱プレス工程の一例を概略断面図として示す模式図であり、図9は本体100の周辺部の溶着を行う超音波溶着工程の一例を概略断面図として示す模式図であり、図10は本体100の周辺部の不要な部分を切断するトリミング工程の一例を概略断面図として示す模式図である。
【0045】
本実施の形態で説明する面状採暖具の製造方法は、準備工程、加熱工程、押圧工程、熱プレス工程、超音波溶着工程、およびトリミング工程を含む製造方法であるが、面状採暖具の具体的な構成(特に本体100の具体的な構成)に合わせて、他の工程を含んでもよいし、一部の工程が省略されてもよい。
【0046】
(1)準備工程
まず、準備工程について説明する。準備工程は、本体100を構成するシート状部材等の材料を積み重ねて積層体を構成する工程である。具体的には、図6に示すように、水平なプラットホーム710上に裏面材600の接着層602を上にして配置し、その上に断熱シート500を積み重ね、その上にヒータ線420が下側になるようにしてヒータユニット400を積み重ね、その上に接着シート300を積み重ね、その上に不織布202が下側になるようにして表面材200を積み重ねる。
【0047】
それゆえ、この準備工程では、本体100を構成するシート状部材、すなわち、表面材200、接着シート300、ヒータユニット400、断熱シート500および裏面材600が、この順で貼り合わせられていない状態でプラットホーム710上に積み重ねられていることになる。これらシート状部材が積み重ねられた状態では、互いのシート状部材が接着していない状態の積層体(あるいは積重ね体)が構成される。この積層体を、説明の便宜上、ワーク(works)110と称する。また、後述する押圧工程、熱プレス工程等を経たワーク110は、シート状部材が貼り合わせられた状態となるが、以下の説明では、本体100として完成する前であればワーク110と称するものとする。
【0048】
この準備工程においては、図4に示すように、ヒータユニット400は他のシート状部材より外形寸法が小さいので、ワーク110においては、断熱シート500の中央にヒータユニット400配置することが重要である。準備工程で積層したワーク110は、次に加熱工程に送られる。
【0049】
なお、面状採暖具の構成によっては、準備工程で準備されるワーク110は、少なくとも1つのシート状部材とヒータユニット400とを、熱溶融型の接着剤の層を介在させた状態で積み重ねられたものであればよい。例えば、表面材200、接着シート300およびヒータユニット400だけでワーク110(積層体)を構成してもよいし、裏面材600、断熱シート500およびヒータユニット400だけでワーク110を構成してもよい。
【0050】
このとき、接着剤の層は、接着シート300のように独立したシート状部材として構成されてもよいし、裏面材600の接着層602のように、他のシート状部材に予め一体的に積層されてもよいし、図6に示す例のように、独立したシート状部材(接着シート300)と、他のシート状部材に予め積層された接着剤の層(接着層602)とが併用されてもよい。
【0051】
また、準備工程では、ヒータユニット400を含むシート状部材を、より効率的に積み重ねるために、シート状部材の位置決めを行うシート状部材位置決め装置が用いられてもよい。当該シート状部材位置決め装置としては、シート状部材が載置可能な作業台(プラットホーム710に相当)と、当該作業台に一体的または着脱自在に設けられる位置決め基準部とを備えていればよい。位置決め基準部は、例えば、シート状部材の角部に対応する位置に設けられる突起、段差、窪み等が挙げられ、さらに、長さを計測するための目盛が付された定規等を含んでもよい。また、シート状部材の積み重ねも、公知の積み重ね装置等を用いることができる。
【0052】
(2)加熱工程
次に加熱工程は、準備工程で準備された積層体(ワーク110)の表裏面の少なくとも一方に近接させて電磁誘導加熱コイルを設置し、当該電磁誘導加熱コイルにより磁力線を発生させることによりワーク110に含まれるヒータユニット400(より具体的には、均熱シート410を構成するアルミシート411)を発熱させて、前記接着剤の層を溶融させる工程である。なお、本実施の形態では、電磁誘導加熱コイルは複数用いられることが非常に好ましいが、この点については後述し、図7(a)においては、単独の電磁誘導加熱コイルを用いた場合を例示して、標準的な加熱工程を説明する。
【0053】
図7(a)に示すように、加熱工程に用いられる設備(加熱装置)としては、本実施の形態では、本体100を載置して、ブロック矢印Aで示すように水平方向に移動させる搬送装置(搬送手段)720と、本体100の幅より大きい長円形の加熱コイル722を備えた電磁誘導加熱装置721とが用いられる。電磁誘導加熱装置721は、加熱対象であるアルミシート411の発熱させるべき領域の一部に配置している。具体的には、電磁誘導加熱装置721は、加熱コイル722が搬送装置720の後端部近傍(後述する押圧ローラ730の近傍)に幅方向にわたって設けられている。
【0054】
加熱コイル722は、ワーク110の幅よりも長い長板状コイル(あるいは長円形コイル)であり、本実施の形態では移動方向(ブロック矢印A方向)に直交する位置で設置されている。そして、加熱コイル722の広がりは、実質的に、当該加熱コイル722によるワーク110の加熱面となる。本実施の形態では、加熱コイル722の加熱面の長手方向の長さは、ワーク110の一辺の幅より大きい。また、加熱コイル722の加熱面は、ワーク110全面を包含するものではなく、ワーク110の長さ方向の一部を加熱するように一次元的に設定されている。
【0055】
準備工程で積層されたワーク110は、搬送装置720でブロック矢印Aで示す水平方向に移動される。ワーク110の移動とともに、上方に配置した電磁誘導加熱装置721の加熱コイル722から磁力線を発生させると、当該磁力線はワーク110に印加されるので、ヒータユニット400のアルミシート411内に渦電流が発生し、渦電流とアルミシート411の抵抗によりアルミシート411自体が発熱昇温する。アルミシート411から発生した熱によりアルミシート411の両面にコーティングしたポリエチレン樹脂からなる接着樹脂412と、ヒータユニット400の上に密着して積層した接着シート300が溶融する。
【0056】
ワーク110は、搬送装置720により所定の速度で搬送されながら加熱コイル722からの磁力線を受けることになるので、ワーク110を構成するアルミシート411の発熱範囲も、所定の速度で順次移動する。その結果、アルミシート411の発熱させるべき全域を発熱させることができる。
【0057】
このように、アルミシート411は、電磁誘導加熱装置721の加熱コイル722から発生する磁力線により接着シート300が溶融するのに十分な温度まで昇温される。このためのアルミシート411の加熱温度は約130℃から175℃程度である。このとき、表面材200には接着シート300を介してアルミシート411から発生した熱が伝達するため、ある程度の温度上昇はあるものの、表面材200の外表面が直接熱に曝されることがないため、表面材200の外表面の温度は表面材200の表面が劣化したり、劣化しないまでも熱により意匠性を損うような変形が生じたりしてしまうようなことのない温度である約120℃以下に抑えられる。したがって、このような方法とすることにより表面材200に加熱による悪影響(意匠性を損なうような変形、変質等)が生じることを有効に防止することができる。
【0058】
また、ポリエチレン樹脂からなる接着樹脂412と接着シート300は数秒間で溶融するため、ワーク110を搬送装置720で所定の速度で移動させながら電磁誘導加熱装置721を作動させれば、接着樹脂412および接着シート300は、ワーク110の移動に伴って、電磁誘導加熱装置721(加熱コイル722)の直下で連続的に溶融していくことになる。その結果、接着樹脂412および接着シート300を全面に亘り溶融させることができる。
【0059】
このとき、電磁誘導加熱装置721の加熱コイル722とアルミシート411との距離(間隔)を一定に保つよう制御することが好ましく、シート状部材を積層したワーク110を軽く押圧し所定の厚みに維持しながら移動させる。
【0060】
また、シート状部材のうちヒータユニット400は、ワーク110においてヒータ線420を下側になるように配置されることが好ましい。つまり、ワーク110における均熱シート410のヒータ線420を配設していない側の面が加熱コイル722に近接するように、当該ワーク110を設置することが好ましい。このようにワーク110が設置されれば、アルミシート411が電磁誘導加熱装置721の加熱コイル722に対向するように配置するため、加熱コイル722とアルミシート411との距離(間隔)を一定に保ちやすくすることができ、それゆえ、アルミシート411全面を均一に発熱させることができる。
【0061】
また、ヒータユニット400を上記のように配置すれば、電磁誘導加熱装置721の加熱コイル722とヒータ線420との間にアルミシート411を介在させることになる。そのため、ヒータ線420自体の発熱を抑制することができるので、温度ムラを抑制することができる。その結果、アルミシート411による加熱作用を、より一層安定的かつ均一的に実現することができる。
【0062】
また、加熱工程においては、図7(a)に示すように、ヒータユニット400は、ヒータ線420の配設方向と搬送装置720の搬送方向(ブロック矢印A方向、移動方向)とが直交するように、ワーク110を配置しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ヒータ線420の配設方向をブロック矢印Aと一致する方向となるようにワーク110を配置してもよい。
【0063】
例えば、搬送方向とヒータ線420の配設方向とが略直交している状態で、電磁誘導加熱装置721によってヒータ線420自体が発熱したときに、当該ヒータ線420の発熱により大きな温度ムラが生じる場合には、ヒータ線420の配設方向を搬送方向に略一致させるようにワーク110を配置すれば、ヒータ線420に対して相互に逆方向の電流を発生させ得るため、ヒータ線420自体の発熱を抑制することが可能となり、温度ムラの発生を抑制することができる場合がある。
【0064】
なお、図7(a)に示す加熱工程は、表面材200とヒータユニット400と断熱シート500との接着に用いられているが、加熱工程の用途はこれに限定されず、断熱シート500と裏面材600との接着にも利用することができる。具体的には、図7(a)において、ワーク110の表裏面を入れ換えて搬送装置720に設置してもよいし、さらには、図7(b)に示すように、上側(表面材200)だけでなく下側(裏面材600側)に電磁誘導加熱装置721を別途設けることで、ワーク110の表裏両面に面するように、一対の加熱コイル722(および電磁誘導加熱装置721)を設置してもよい。
【0065】
この場合、断熱シート500と裏面材600との間に均熱シート410と同様の構成を有するシート状部材430を挟み込んでおけば、表面材200、ヒータユニット400および断熱シート500の接着と、断熱シート500および裏面材600の接着とを単一の加熱工程で行うことができる。それゆえ、例えば、後述する段押のみを別工程を行うことで、後述する熱プレス工程を実質的に省略することが可能となる。
【0066】
(3)押圧工程
次に押圧工程は、本実施の形態では、図7(a)に示すように、加熱工程と連続して一体的に行われる工程となっている。この押圧工程では、押圧装置によって加熱されたワーク110全体を押圧する。押圧工程に用いられる設備は、ワーク110を連続的に押圧することが可能な設備(押圧装置)であればよく、本実施の形態においては、図7(a)に示すように、一対の上ローラ731および下ローラ732を備える押圧ローラ730を用いている。なお、押圧装置の構成は押圧ローラ730に限定されず、例えば、プレス装置等の公知の他の構成であってもよい。
【0067】
押圧ローラ730を構成する上ローラ731および下ローラ732は、それぞれ矢印Bの方向に回転駆動可能となっており、また、これらの間にワーク110が移動可能となっている。さらに、上ローラ731は、黒のブロック矢印Cで示すように、下方に向かって押圧可能となっている。これによって、ワーク110を連続的に押圧することが可能となっている。
【0068】
押圧ローラ730は、アルミシート411の発熱させるべき領域の一部に重複または隣接するような位置に配置されていることが好ましい。具体的には、本実施の形態では、図7(a)に示すように、電磁誘導加熱装置721から見てワーク110の移動方向(ブロック矢印A)の直下流側に押圧ローラ730が設けられている。この位置では、アルミシート411が加熱工程で発熱した箇所に追従して、押圧ローラ730によりワーク110を押圧することができる。
【0069】
押圧ローラ730の駆動速度は加熱工程の加熱時間に連動することが必須であり、加熱工程により溶融した樹脂をできるだけ短時間に押圧できるように、加熱コイル722と近接して配置することが重要である。本実施の形態では、図7(a)に模式的に示すように、加熱工程の設備と押圧工程の設備とを一体的に構成している。押圧工程でワーク110を押圧することにより、表面材200とヒータユニット400と断熱シート500とが接着樹脂412と接着シート300を介して接着される。
【0070】
(4)熱プレス工程
押圧工程の後には、熱プレス工程が行われる。熱プレス工程は、後述するように、2つの異なる作業を同時に行う工程である。具体的には、図8(a)に示すように、熱プレス工程に用いられる設備は、熱プレス装置740である。熱プレス装置740の下型741にはワーク110全面をカバーする下熱板742が配置され、上型745にはワーク110の周辺部を段押成型する上熱板746が設けられている。なお、図8(a)および(b)においては、説明の便宜上、下熱板742および上熱板746には、交差線のハッチングを付している。
【0071】
熱プレス工程では、裏面材600の接着とワーク110の周辺部の段押成型とを同時に行う。そのため、下型741に配置した下熱板742により裏面材600を加熱して、裏面材600の裏面シート601の上面にコーティングした接着層602(図4参照)を溶融する。そして、熱プレス処理によってワーク110を全体的に押圧することにより、裏面材600と断熱シート500とを接着する。また、上型745に備えた上熱板746によりワーク110の周辺部を加熱しながら押圧することにより、ワーク110の周辺部の厚みを中央部より薄くするように段押成型する。段押成型によって、図8(b)に示すように、中央部である採暖面部111の厚みは、段押された段押部112の厚みよりも大きくなっている。
【0072】
なお、上熱板746は、ワーク110の周辺部を段押成型するため、当該周辺部に対応するように、内側が開口となっている略矩形の枠形状となっている。そして、上熱板746の内側の端部(周縁)には、図8(a)に示すように凹曲面747が形成されている。この凹曲面747を設けることにより、図8(b)に示すように、段押成型されて生じる段押部112の内方(中央の採暖面部111から見れば外方)に、段差面ではなく凸曲面113を成型することができる。
【0073】
(5)超音波溶着工程
熱プレス工程の後には、超音波溶着工程が行われる。超音波溶着工程では、熱プレス工程で段押成型したワーク110の周辺部、すなわち段押部112を溶着する。図9に示すように、この工程に用いられる設備は、ワーク110の周辺部(段押部112)に沿って移動するホーン751を備えた超音波溶着機750である。
【0074】
前述したように、ヒータユニット400は他のシート状部材より外形寸法が小さく形成されている。そのため、ワーク110の中央部である採暖面部111にはヒータユニット400が位置するが、ワーク110の周辺部である段押部112には、ヒータユニット400はほとんど位置しない。それゆえ、段押部112は、表面材200と接着シート300と断熱シート500と裏面材600とで構成されるため、結果的に、全て熱可塑性の樹脂材料で形成されることになる。
【0075】
つまり段押部112は、前工程の熱プレス工程の段押成型により、中央部の採暖面部111より薄く成型された部位であることに加え、本体100の周囲で熱可塑性材料により構成された厚みの小さい部位となっている。そこで、この段押部112に対して、ホーン751により超音波を印加することにより、各シート状部材の接合部が発熱溶融して溶着されるので、ワーク110の周囲を十分に溶着固定することができる。
【0076】
なお、超音波を加えるホーン751はワーク110の周辺部(段押部112)上を移動しながら順次溶着を行うように構成されていればよい。また、超音波溶着工程を行うためには、ワーク110は、作業台711に載置されていればよいが、この作業台711は、超音波溶着機750に対して一体的に設けられているものであってもよいし、独立したものとして準備されてもよいし、準備工程で用いられたプラットホーム710や、熱プレス工程で用いられた下型741等を利用してもよい。また、段押部112を適切に溶着固定できるのであれば、超音波溶着機750以外の溶着装置を用いることができる。
【0077】
(6)トリミング工程
トリミング工程は、本実施の形態では最後の工程として行われ、超音波溶着工程の後に行われる本体100の仕上げ工程であり、用いられる設備はトリミング装置である。具体的には、図10に示すように、トリミング工程では、作業台711の上に載置されたワーク110の周辺部(段押部112)の不要な部分を、トリミング装置で切り落として整形する。本実施の形態では、トリミング装置として、円板状の回転カッターを備えるカッター装置760が用いられる。このカッター装置760の構成は特に限定されないが、ワーク110の幅方向の両側となる段押部112を移動しながら同時に切断する2個の回転カッターと、ワーク110の長さ方向に沿って、前後の一方の側となる段押部112を移動しながら切断する1個の回転カッターとを含む構成を挙げることができる。
【0078】
超音波溶着により溶着固定されたワーク110の周辺部(段押部112)の不要部分を、カッター装置760を用いて切り落とすことによって、ワーク110の寸法が予め設定されている所定の範囲となる。これにより、本体100が完成する。なお、トリミング工程を行うためには、ワーク110は、作業台711に載置されていればよいが、この作業台711は、カッター装置760に対して一体的に設けられているものであってもよいし、独立したものとして準備されてもよいし、準備工程で用いられたプラットホーム710や、熱プレス工程で用いられた下型741等を利用してもよいし、超音波溶着工程で用いられた作業台711と同じものであってもよい。
【0079】
(7)その他の工程等
その後、本体100に対して、制御部101および電源コード102が取り付けられ、さらに、必要に応じて本体100に対して後付の装飾加工等を行ったり、必要な他の工程を行ったりすることにより、面状採暖具が完成する。
【0080】
なお、準備工程、加熱工程、押圧工程、熱プレス工程、超音波溶着工程、およびトリミング工程の詳細は、上述した手法に限定されるものではない。例えば、加熱工程および押圧工程は、本体100をブロック矢印Aの移動方向へ移動させながら行っているが、これに限るものではなく、本体100を定位置に固定して、電磁誘導加熱装置721および押圧ローラ730を移動させてもよい。
【0081】
また、加熱工程と同時に押圧工程を実施するようにしてもよい。この方法の場合、押圧工程はプレスにより押圧するのが好適である。この加工方法を採用した場合、電磁誘導加熱装置をさらに小容量化することができ、設備投資を抑制することができる。
【0082】
ここで、上述した面状採暖具の製造方法において、特に電磁誘導加熱装置721を用いた加熱工程が重要となる。加熱工程は、前記のとおり、電磁誘導加熱装置721によりヒータユニット400の構成部材の一つである、アルミシート411自体を発熱させることにより、樹脂を溶融して接着する工程である。
【0083】
加熱工程の最大の特徴は、樹脂の溶融に必要な熱を、樹脂に直接接触しているアルミシート411から発熱させる点であり、発熱源であるアルミシート411を中央にして表面材200と断熱シート500および裏面材600とで挟み込むことにより、外部への無駄な放熱を抑制することができる。これにより、外部から熱を加える加熱方法に比較して格段に少ない熱量で樹脂を溶融することができ、加熱に要する電力が少なく、高い省エネルギーの効果を得ることができる。
【0084】
しかも、本体100の内部から発熱させることにより、本体100の表面部の温度が上昇することがないため、表面部に使用する材料、例えば表面材200は耐熱温度の低いものを使用しても加熱による悪影響(変形、変質等)が生じることを有効に防止することが可能である。
【0085】
また、アルミシート411は、本来、面状採暖具の使用時にヒータ線420で発熱した熱を本体100全面に均一に拡散する目的で本体100に設けられるので、本体100における必須のシート状部材である。それゆえ、本来の機能に加えて製造工程で活用することにより、製造上のコストや工数の点で非常に大きい効果を得ることができる。
【0086】
また、発熱源であるアルミシート411が溶融する樹脂に直接接触しているため、秒単位(約10秒以下、好ましくは約2,3秒程度)の短時間に加熱ができる。したがって、本体100の全面を同時に加熱する必要がなく、本体100を移動させながら、部分的に、加熱、溶融、接着の工程を流れ作業として実施することが可能となる。しかも、部分的に加熱を行うため、加熱に使用する電磁誘導加熱装置721は小容量化および小型化することができ、設備費用を低減させることができるとともに、加工時の最大電気容量を低くすることができる。
【0087】
また、電磁誘導加熱を使用した本発明の製造方法においては、従来必要であった本体100の寸法に対応して準備される加熱工程用の金型が不要となり、電磁誘導加熱装置721として、本体100の最大の寸法に対応する加熱コイル722を準備しておけばよい。これにより、加熱コイル722下にある発熱源であるアルミシート411の幅方向全域を発熱させることができるため、加熱コイル722より幅の小さい本体100であれば同一の設備で加熱することが可能である。したがって、本体100のサイズに合わせて加熱工程の設備を複数準備する必要がなく、この点でも設備費用を低減することができる。
【0088】
[電磁誘導加熱コイルの配置]
ここで、本発明に係る面状採暖具の製造方法では、加熱工程において、ワーク110に面する位置に、複数の加熱コイル722が隣接配置されていることが特に好ましい。この点について、図11(a),(b)および図12(a),(b)を参照して具体的に説明する。
【0089】
図11(a),(b)に示すように、本実施の形態では、ブロック矢印Aで示すワーク110の移動方向を基準として、その上流側に第一電磁誘導加熱装置721aおよび第一加熱コイル722aが設けられ、下流側に第二電磁誘導加熱装置721bおよび第二加熱コイル722bが設けられている。上流側の第一電磁誘導加熱装置721aおよび第一加熱コイル722aは、ワーク110を予備加熱するために用いられ、下流側の第二電磁誘導加熱装置721bおよび第二加熱コイル722bは、予備加熱後のワーク110を本加熱するために用いられる。これら第一電磁誘導加熱装置721aおよび第二電磁誘導加熱装置721b、並びに、押圧ローラ730は、製造装置制御部(制御手段)712の制御により動作する。なお、図11(a)では、製造装置制御部712を単に「制御部」と記載しているが、面状採暖具の制御部101とは異なるものであることは言うまでも無い。
【0090】
第一加熱コイル722aおよび第二加熱コイル722bは、いずれも前述したようにワーク110の幅よりも長い長板状コイル(長円形コイル)であり、移動方向に略垂直方向をなして(直交する位置で)設置されている。また、これら第一加熱コイル722aおよび第二加熱コイル722bは、図11(b)に示すように、その長手方向で平行に隣接配置されている。なお、並列状態は特に限定されないが、本実施の形態では、第一加熱コイル722aおよび第二加熱コイル722bの隣接配置は、長手方向に並列した状態であれば特に限定されず、必要に応じて、一方を傾斜させたり両方を傾斜させたりしてもよい。また、第一加熱コイル722aおよび第二加熱コイル722bは、いずれも同一形状および同一性能であればよいが、それぞれ異なる使用であってもよい。また、第一加熱コイル722aおよび第二加熱コイル722bは、それぞれ電力供給を独立して制御できる構成となっている。
【0091】
加熱工程においては、図7(a)に示すように、単一の電磁誘導加熱装置721を備えていれば、均熱シート410(アルミシート411)を十分に加熱することができる。また、単一の電磁誘導加熱装置721の下方を搬送装置720でワーク110が移動することにより、加熱コイル722は、一次元的に均熱シート410を加熱するだけで、結果的に全体を加熱することができる。
【0092】
ここで、面状採暖具は、近年、より大面積のものが開発されており、また、面状採暖具を「暖房カーペット(carpet)」ではなく簡易型の「床暖房」という利用法が提案されている。前者(面状採暖具の大型化)によれば、面状採暖具がより大面積の均熱シート410を備えることになる。また、後者(簡易型床暖房としての利用)によれば、例えば表面材200には、より床面に近い耐久性、耐水性等が要求され、また内部のシート状部材には、ヒータ線420を保護するための耐荷重性等が要求される傾向にある。
【0093】
このような傾向を考慮した上で、本発明者らが検討したところ、均熱シート410の大型化または本体100の厚みの増大等に対処すべく、電磁誘導加熱装置721の出力を大きくすると、ワーク110の内部に存在する複数の接着剤の層の加熱にばらつきが生じることが明らかとなった。
【0094】
すなわち、均熱シート410全体を加熱するといっても、加熱コイル722による加熱は一次元的であるため、加熱に要する時間は短いものである。そのため、電磁誘導加熱装置721の出力を大きくすると、均熱シート410が急激に高温となるため、複数の接着剤の層(接着シート300、接着剤203、接着樹脂412、接着層602等)のうち、均熱シート410に近い層は急激に加熱されるが、離れた層はなかなか加熱されなくなる。その結果、例えば、均熱シート410の本体であるアルミシート411に一体的に形成されている接着樹脂412の層が溶融温度に到達しても、均熱シート410から離れた接着シート300は溶融温度に到達しておらず、接着シート300が溶融温度に到達すれば、接着樹脂412は耐熱温度以上に加熱されるので、当該接着樹脂412の劣化を招くことになる。
【0095】
そこで、本実施の形態では、例えば、図11(a),(b)に示すように、ワーク110に面する位置に、2個の加熱コイル722を隣接配置している。これにより、第一電磁誘導加熱装置721aおよび第一加熱コイル722aでワーク110が予備加熱され、その後、第二電磁誘導加熱装置721bおよび第二加熱コイル722bでワーク110が本加熱されるので、上記のような接着剤の層の加熱のばらつきが有効に抑制され、各シート状部材を良好に接着できるので、本体100の品質をより一層向上することができる。
【0096】
この点について、具体的な実験結果を参照して説明する。まず、面積が1760mm×880mmであり、厚みが11.5mmである本体100を製造するために、表面材200、接着シート300、ヒータユニット400、断熱シート500および裏面材600を積み重ねた(準備工程)。
【0097】
このとき用いた表面材200は、厚み1.8mmのPVCを主成分とする発泡材シートであり、表面にスキン層を有し、一般にフローリングシート等に用いられるものを採用した。なお、表面材200の下面(ワーク110の内部側となる面)には、ポリエステル樹脂を主成分とする厚み約2.5mmの不織布202を設けた。また、ヒータユニット400に含まれる均熱シート410の本体として、厚み約0.01mmのアルミシート411を用いた。また、表面材200とアルミシート411との間に配される接着シート300としては、ポリエチレン樹脂を主成分とする厚み70μmのものを用いた。
【0098】
さらに、加熱工程での温度計測を行うため、図11(b)に示すように、アルミシート411には、その上側表面の中央部P1および端部P2に熱電対を直接貼り付けるとともに、表面材200の外表面の中央部P1に熱電対を直接貼り付けた上で、ワーク110を作製した。このワーク110を、搬送装置720により搬送速度60mm/sで移動させ、第一電磁誘導加熱装置721aおよび第二電磁誘導加熱装置721bを用いてアルミシート411を加熱した(加熱工程)。このとき、接着シート300の温度を溶融に十分な温度まで上昇させるべく、アルミシート411の温度が130℃以上175℃以下となるように、第一電磁誘導加熱装置721aおよび第二電磁誘導加熱装置721bを制御した。
【0099】
上記加熱工程において、ワーク110を構成するアルミシート411および表面材200の温度の時間的変化をそれぞれ計測した。その結果を図12(a)の温度変化グラフに示す。
【0100】
図12(a)に示すように、アルミシート411の温度は、接着シート300が溶融するのに十分な温度を得るために、中央部P1で最高175℃近傍まで、端部P2でも最高約140℃まで上昇しているが、表面材200の温度は常に120℃を下回る結果となった。また、図12(b)は、第一電磁誘導加熱装置721aおよび第二電磁誘導加熱装置721bによる誘導起電力を示すグラフであって、図中M1が予備加熱を行う第一電磁誘導加熱装置721aの誘導起電力を示し、図中M2が本加熱を行う第二電磁誘導加熱装置721bの誘導起電力を示す。これら誘導起電力M1およびM2に対応するように図12(a)においては、少なくともアルミシート411の中央部P1において、約15秒および約32秒の時点で、温度上昇の極大値が生じている。
【0101】
第一の極大値(約15秒)は、予備加熱に対応して生じており、予備加熱の終了後、アルミシート411の中央部P1では、100℃から若干低下しているものの、アルミシート411の端部P2ではほとんど温度低下が生じず、アルミシート411は、80〜100℃の範囲内となるように予備加熱されていることがわかる。そして、本加熱が行われると第二の極大値(約32秒)が生じるまで急激に温度が上昇するが、175℃を超えるまでに温度上昇することはなく、それゆえ、複数の接着剤の層に加熱のばらつきが生じることは有効に抑制されている。
【0102】
このように、本発明によれば、アルミシート411を第一電磁誘導加熱装置721aの第一加熱コイル722aから発生する磁力線により予備加熱し、その後、第二電磁誘導加熱装置721bの第二加熱コイル722bから発生する磁力線により本加熱することにより、アルミシート411の温度を接着シート300が溶融するのに十分な温度まで昇温させつつ、表面材200の温度を表面材200の表面が熱による変形を生じない温度である約120℃以下に抑えることができる。
【0103】
また、二段階の加熱を行っているため、本加熱でのアルミシート411の温度上昇は175℃以下に抑えられている、そのため、例えば、接着シート300が溶融温度に到達したときでも、接着樹脂412は耐熱温度以上に加熱されることがないので、接着剤の層に加熱のばらつきが生じず、接着材の層の劣化が有効に抑制される。また、アルミシート411は、本実施例で表面材200として用いたPVCの耐熱温度よりも十分低い温度までしか上昇しないので、表面材200が熱劣化することがない。また、表面材200の表面に形成されたスキン層に直接熱が加わらないため、特にスキン層に施しているメカニカルエンボスが熱により取れてしまうという従来方法では生じていた現象が生じることも回避することができる。
【0104】
このように、本発明に係る面状採暖具の製造方法を用いることにより、金型を使用しないで面状採暖具の生産を可能とする方法において、表面材200に加熱による悪影響(意匠性を損なうような変形、変質等)が生じることを有効に防止することができる。
【0105】
なお、本実施の形態では、第一電磁誘導加熱装置721aが第一加熱コイル722aを備え、第二電磁誘導加熱装置721bが第二加熱コイル722bを備えている構成となっているが、本発明はこれに限定されず、単一の電磁誘導加熱装置721が、第一加熱コイル722aおよび第二加熱コイル722bを備える構成であってもよい。また、電磁誘導加熱手段として、好ましくは複数の電磁誘導加熱コイルを備えていれば、当該電磁誘導加熱コイルを駆動制御するコイル制御部は、別の装置として独立して構成されてもよい。
【0106】
また、例えば、本実施の形態で用いられる搬送装置720は、チャッキング(chucking)によりワーク110を固定して搬送するチャッキング搬送装置が用いられるが、コンベヤ装置、マニュピレータを利用した搬送装置等の他の構成の搬送装置を用いることができる。さらに、本実施の形態では、加熱工程および押圧工程が連続して行われるので、第一加熱コイル722aおよび第二加熱コイル722bから見て移動方向の下流に、押圧ローラ730が設けられているが、前述したとおり、ワーク110の両面を押圧できる設備であれば、他の構成の押圧装置が用いられてもよい。
【0107】
つまり、本発明では、面状採暖具の製造に際して、積層体(ワーク110)を予め設定された移動方向に搬送する搬送手段(本実施の形態では搬送装置720)と、移動方向の下流側に位置し、隣接配置される複数の電磁誘導加熱コイル(本実施の形態では第一加熱コイル722aおよび第二加熱コイル722b)を含む電磁誘導加熱手段とを備える構成の製造装置を用いればよく、当該製造装置は、より好ましくは、さらに、電磁誘導加熱手段における移動方向の下流側に隣接して位置し、ワーク110の両面を押圧する押圧手段(本実施の形態では押圧ローラ730)を備えていればよいので、その他の構成は具体的に限定されるものでないことは、言うまでもない。
【0108】
なお、電磁誘導加熱コイルにより磁力線を発生させて均熱シート410を発熱させるときに、ワーク110を搬送手段により搬送せずに、電磁誘導加熱コイルを移動させることも可能である。ただし、面状採暖具の製造効率を考慮すれば、本実施の形態で説明したように、ワーク110を移動させながら電磁誘導加熱コイルで発生させた磁力線を印加することにより、均熱シート410を発熱させる方が好ましい。つまり、本実施の形態では、加熱工程から押圧工程へワーク110を搬送する過程を利用して均熱シート410を加熱することができるので、加熱工程および押圧工程を連続的に行うことができ、それゆえ製造効率を向上させることができる。
【0109】
ここで本発明には、前述した製造方法により製造された面状採暖具も含まれる。具体的には、本発明に係る面状採暖具は、前記製造方法または製造装置により製造され、前述したヒータユニット400、当該ヒータユニット400に積層されるシート状部材、具体的には、表面材200、断熱シート500、および裏面材600を少なくとも備え、ヒータユニット400および前記シート状部材が、熱溶融型の接着剤の層により互いに接着されて固定されている。本発明に係る面状採暖具は、このような構成を有することで、ヒータユニット400を含む各シート状部材が良好に接着固定されており、また、製造過程で外部から熱が加えられることが実質的に無いため、その表裏面の品質を良好なものとすることができる。
【0110】
(実施の形態2)
前記実施の形態では、加熱工程において少なくとも1個の電磁誘導加熱コイルを用いればよく、好ましくは、複数の電磁誘導加熱コイルを用い、より好ましくは、積層体に面する位置に複数の電磁誘導加熱コイルを隣接して配置する構成となっているが、複数の電磁誘導加熱コイルを隣接配置させる構成は特に限定されず、さまざまな配置を採用することができる。また、押圧手段としても押圧ローラ730とは異なる構成を採用することができる。本実施の形態2では、電磁誘導加熱コイルの隣接配置構成および押圧手段の他の構成の一例について、図面を参照して具体的に説明する。
【0111】
[電磁誘導加熱コイルおよびローラユニットの構成]
本実施の形態では、加熱工程において電磁誘導加熱コイルを3個設置するとともに、押圧手段として、より長い押圧時間を確保できるローラユニットを用いている。そこで、電磁誘導加熱コイルおよびローラユニットについて、図13(a),(b)を参照して説明する。図13(a)は、本実施の形態における加熱工程および押圧工程の一例を概略断面図として示す模式図であり、図13(b)は加熱工程における電磁誘導加熱コイルの並列配置を概略平面図として示す模式図である。
【0112】
本実施の形態に係る面状採暖具の構成は前記実施の形態1と同じである。また、本実施の形態に係る面状採暖具の製造方法および製造装置の構成も、前記実施の形態1と基本的に同じであるが、本体100の製造工程のうち加熱工程および押圧工程が一部異なっている。具体的には、加熱工程では、3台の電磁誘導加熱装置721を使用して加熱を行い、押圧工程では、押圧手段として押圧ローラ730ではなくローラユニット735を用いている点が異なっている。
【0113】
3台の電磁誘導加熱装置721は、それぞれワーク110の移動方向の上流側から第一電磁誘導加熱装置721a、第二電磁誘導加熱装置721b、および第三電磁誘導加熱装置721cとなっている。これらは、それぞれ第一加熱コイル722a、第二加熱コイル722bおよび第三加熱コイル722cを備えている。第一〜第三電磁誘導加熱装置721a〜721cは、前記実施の形態1で説明したものと同じであり、これらが備える第一〜第三加熱コイル722a〜722cの具体的な構成も前記実施の形態1で説明したものと同じである。
【0114】
また、第一〜第三加熱コイル722a〜722cは、その長手方向で略平行となるように隣接配置されている。第一〜第三加熱コイル722a〜722cは、前記実施の形態1と同様に、それぞれ同一形状および同一性能であってもよいし、3個がそれぞれ異なる仕様であってもよい。さらに、第一〜第三加熱コイル722a〜722cは、それぞれ電力供給を独立して制御できる構成となっており、ワーク110の搬送速度と連係させて最適な加熱状態を得ることができる。
【0115】
ローラユニット735は、図13(a)に示すように、一対の上ローラユニット735aおよび下ローラユニット735bで構成されており、いずれも3つの回転ローラ737a,737bおよび737cとこれらの外周に巻き回されている回動ベルト736から構成されている。回動ベルト736における、上ローラユニット735aおよび下ローラユニット735bが互いに対向する位置に面する領域は、ワーク110を押圧するための領域となる。そして、回動ベルト736が回転ローラ737a〜737cにより張架されることで、上記領域に略長方形の押圧面が形成されることになる。
【0116】
また、ローラユニット735には、ワーク110を冷却するための冷却手段が設けられている。具体的には、回転ローラ737a,737bおよび737cの回転の中央部には、冷却風路738がそれぞれ設けられており、当該冷却風路738には、冷風を送風する送風装置(図示せず)が接続されている。したがって、図示しない送風装置および冷却風路738により冷却手段が構成される。
【0117】
ここで、本実施の形態で用いられる冷却手段は、冷却風路738および送風装置で構成される空冷式のものであるが、冷却手段はこれに限定されず、水冷式等他の方式の冷却装置であってもよい。また、冷却手段はローラユニット735に必須の構成ではない。例えば、ワーク110の搬送速度を遅くすることで、ローラユニット735を通過する間に接着剤の層が固化する程度に冷却されるのであれば、省略してもよい。
【0118】
ローラユニット735を構成する上ローラユニット735aおよび下ローラユニット735bのうち、下ローラユニット735bは、定位置に固定して設置されている。一方、上ローラユニット735aは、当該上ローラユニット735aを上下方向に移動可能な加圧装置(図示せず)を備えており、搬送装置720により搬送移動されたワーク110を上面からブロック矢印C方向に押圧することができる構成となっている。
【0119】
また、下ローラユニット735bには回転ローラ737a〜737cの少なくともいずれかを回転駆動する駆動装置(図示せず)が備えられており、当該駆動装置で回転ローラ737a〜737cを回転させることにより、回動ベルト736を矢印B方向に回動させ、下ローラユニット735bに載置されたワーク110を所定の速度でブロック矢印Aで示す移動方向に搬送移動させることができる。
【0120】
なお、上ローラユニット735aが加圧装置により下ローラユニット735bに向かって下方移動している状態では、下ローラユニット735bに載置されているワーク110を挟むことになるので、下ローラユニット735bによりワーク110が搬送移動されれば、上ローラユニット735aの回動ベルト736も追従して回転する。したがって、上ローラユニット735aには駆動装置は不要であるが、より大きな力でワーク110を搬送移動させたい場合には、上ローラユニット735aにも駆動装置を設ければよい。
【0121】
ローラユニット735によるワーク110の搬送速度は、加熱工程の搬送装置720による搬送速度と同期した速度に設定すればよいが、必要に応じて、異なる速度に設定することもできる。
【0122】
ここで、本実施の形態においては、ローラユニット735は、回動ベルト736と回転ローラ737a〜737cとで構成されているが、3個の回転ローラ737a〜737cでは、ワーク110を押圧できる程度に回動ベルト736を張架できない場合には、回動ベルト736の裏面に平面状の押圧板を設置し、回動ベルト736の押圧面を略平坦にすればよい。これにより、ワーク110を押圧するときに、押圧面の圧力を全体的に均一にすることができる。
【0123】
また、上記押圧板は、押圧面を略平坦にするだけでなく、上ローラユニット735aの押圧面と下ローラユニット735bの押圧面との間隔(便宜上、押圧間隔と称する。)を一定に保持する機能も有している。さらに、上記押圧板として、ステンレス板等の熱伝導率の高いものを用いれば、ワーク110の熱が回動ベルト736を介して押圧板に伝達され、周囲に放散されるので、冷却手段として機能させることができる。この冷却が接着剤を十分に固化できる程度のものであれば、送風式または水冷式等の冷却手段を設けなくてもよい。
【0124】
また、ローラユニット735の押圧間隔は、移動方向の上流側から下流側まで一定とすればよいが、ローラユニット735による押圧工程は、ワーク110の厚みを小さくする工程でもあるので、ローラユニット735の最も上流側は、押圧間隔を少し大きくしておくと好ましい。これによって、設定されている押圧間隔よりも大きい厚みのワーク110を上ローラユニット735aと下ローラユニット735bとの間に円滑に導入することができ、加熱工程から押圧工程への連続性を向上させることができる。
【0125】
また、前述した第一〜第三電磁誘導加熱装置721a〜721c、ローラユニット735、並びにローラユニット735に設けられる送風装置は、製造装置制御部712の制御により動作する。なお、図13(a)においても、図11(a)と同様に、製造装置制御部712を単に「制御部」と記載しているが、面状採暖具の制御部101とは異なるものであることは言うまでも無い。
【0126】
[加熱工程および押圧工程]
次に、上記構成の面状採暖具の製造装置を用いた製造方法の一例について、図13(a),(b)に加えて、図14(a),(b)を参照して具体的に説明する。図14(a)は加熱工程において1個の電磁誘導加熱コイルで加熱した場合の均熱シート410および接着剤の層の温度変化を示すグラフであり、図14(b)は3個の電磁誘導加熱コイルで加熱した場合の均熱シート410および接着剤の層の温度変化を示すグラフである。
【0127】
本実施の形態では、準備工程は前記実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。次に加熱工程では、準備工程で積み重ねられたワーク110を搬送装置720により移動方向(ブロック矢印Aの方向)に移動させながら、上方に配置した第一〜第三電磁誘導加熱装置721a〜721cから磁力線を発生させてワーク110に印加することにより、ヒータユニット400の均熱シート410(アルミシート411)内に渦電流を発生させ、当該渦電流とアルミシート411の抵抗とによりアルミシート411自体を発熱昇温させる。そして、アルミシート411から発生した熱によりアルミシート411の両面にコーティングされている接着樹脂412と、ヒータユニット400の上に密着して積層されている接着シート300とが溶融する。
【0128】
ここで本実施の形態においては、第一加熱コイル722a、第二加熱コイル722b、および第三加熱コイル722cという3個の電磁誘導加熱コイルを、移動方向と略垂直に並列に配置している。そのため、アルミシート411の同一箇所に対して、第一〜第三加熱コイル722a〜722cにより順次磁力線が供給されるため、加熱時間を長く確保することが可能となる。それゆえ、第一〜第三加熱コイル722a〜722cのそれぞれに供給する電力を少なくすることができるとともに、アルミシート411を急激に昇温させることがないので、時間をかけて穏やかにアルミシート411を発熱させることができる。
【0129】
例えば、図12(a)に示す例は、前記実施の形態1において電磁誘導加熱装置721を1台のみ備える場合の温度変化の例であり、破線がアルミシート411の温度を示し、実線が接着シート300の温度を示す。なお、図中の「耐熱温度」および「溶融温度」は、接着剤(ポリエチレン樹脂)についての温度を指す。1個の加熱コイル722でワーク110を加熱する場合では、アルミシート411は加熱開始から急激に溶融温度まで上昇し、さらに耐熱温度を超えるまでに達する。一方、接着シート300は、アルミシート411の温度上昇に遅れて相対的に緩やかに上昇し、溶融温度まで到達する。
【0130】
このように1個の加熱コイル722を用いる場合は、短時間で急速な加熱が可能となるものの、電磁誘導加熱装置721は加熱コイル722に対して高容量の電力を供給して、短時間に昇温することになる。そのため、加熱時間を短縮できる反面、アルミシート411の温度が耐熱温度以上に上昇するため、アルミシート411の両面に積層された接着樹脂412の劣化を招くことになる。
【0131】
一方、図12(b)に示す例は、本実施の形態すなわち第一〜第三電磁誘導加熱装置721a〜721cを備える構成における温度変化の例である。3個の電磁誘導加熱コイル(第一〜第三加熱コイル722a〜722c)を用いる場合は、加熱時間を長くすることができるので、第一〜第三電磁誘導加熱装置721a〜721cは、それぞれ第一〜第三加熱コイル722a〜722cに供給する電力容量を低くすることができ、アルミシート411の温度上昇も穏やかなものとすることができる。
【0132】
それゆえ、アルミシート411は、溶融温度に達した後、ある程度で温度上昇が止まり、耐熱温度を超えるまで発熱することがない。また、接着シート300は、アルミシート411の温度上昇に遅れて緩やかに温度上昇して溶融温度に到達する。そして、接着シート300が溶融温度に到達した時点では、アルミシート411の温度は耐熱温度まで上昇していないので、均熱シート接着層である接着樹脂412の劣化を有効に抑えることができ、接着樹脂412の接着性能を十分に維持することができる。
【0133】
加熱工程で加熱されたワーク110は、搬送装置720により搬送されて、ローラユニット735に移動する。ローラユニット735は押圧工程を行う押圧装置であり、上ローラユニット735aおよび下ローラユニット735bの間にワーク110が狭持された状態で、下ローラユニット735bが備える駆動装置により、回転ローラ737a〜737cを介して回動ベルト736が回転する。これにより、ワーク110は上ローラユニット735aおよび下ローラユニット735bの間を、移動方法(ブロック矢印Aの方向)に向かって移動を続ける。
【0134】
この移動の間、上ローラユニット735aが備える加圧装置により、上ローラユニット735aがワーク110の上面を連続的に押圧するが、この押圧および移動の間、回転ローラ737a〜737cに設けられた冷却風路738には冷風が送風されているので、接着シート300等の接着剤の層が冷却される。その結果、加熱工程で溶融した接着剤が固化するので、シート状部材(表面材200、ヒータユニット400および断熱シート500)が接着剤の層を介して適切に接着されることになる。
【0135】
このように、本実施の形態においては、電磁誘導加熱コイルを3個備えているので、アルミシート411の温度上昇を十分に抑制することが可能となる。そのため、接着剤の劣化を有効に抑制することが可能となり、得られる面状採暖具の品質を安定的に確保することができる。また、ローラユニット735により、ワーク110の押圧時間をより長く確保することが可能となり、溶融した接着剤の層が十分に固化するまで押圧を維持することができる。その結果、シート状部材の接着性能を良好なものにでき、また、シート状部材の積層の寸法精度を確保することができる。
【0136】
なお、本実施の形態では、加熱工程で第一〜第三電磁誘導加熱装置721a〜721cを用いているので、電磁誘導加熱コイルも3個用いているが、本発明はこれに限定されず、前記実施の形態1の好ましい例のように、電磁誘導加熱コイルを2個用いてもよいし、4個以上用いてもよい。また、前述したように、1台の電磁誘導加熱装置が単一の電磁誘導加熱コイルを備えてもよいし複数の電磁誘導加熱コイルを備えてもよいので、加熱工程で用いられる電磁誘導加熱装置の台数は、電磁誘導加熱コイルの数と一致するわけではない。なお、1台の電磁誘導加熱装置が複数の電磁誘導加熱コイルを備えている場合には、各電磁誘導加熱コイルを個別に制御できる構成であると好ましい。
【0137】
(実施の形態3)
前記実施の形態1および2では、電磁誘導加熱コイルとして、加熱面がワーク110の幅を超える程度の大きさを有する長板状コイルが用いられたが、本発明はこれに限定されず、好ましくは、複数の電磁誘導加熱コイルを隣接配置させる構成となっていれば、より短い形状の電磁誘導加熱コイルを用いることができる。本実施の形態3では、より短い電磁誘導加熱コイルを用いた構成の一例について、図15を参照して具体的に説明する。図15は、本実施の形態3において加熱工程で用いる電磁誘導加熱装置721の電磁誘導加熱コイルの配置の例を概略平面図として示す模式図である。
【0138】
本実施の形態では、図15に示すように、電磁誘導加熱コイルとして、ワーク110の幅方向より短いものを複数用いており、これら電磁誘導加熱コイルは、移動方向に略垂直となる方向に隣接配置されている。具体的には、電磁誘導加熱コイルは全部で9個用いられており、移動方向(ブロック矢印A)の上流側から順に3列となるように配置されている。上流から見て第1列目には、長さの大きい長形加熱コイル722dおよび722fが両側に配置されており、中央に小型の円形加熱コイル722eが配置されている。第2列目も同様に、長形加熱コイル722gおよび722iが両側に配置されており、中央に円形加熱コイル722hが配置されている。第3列目も同様に、長形加熱コイル722jおよび722lが両側に配置されており、中央に円形加熱コイル722kが配置されている。
【0139】
長形加熱コイル722d,722gおよび722jは、移動方向に沿ってこの順で並んでおり、互いに長手方向が揃うように平行に配列している。これら3個の電磁誘導加熱コイルによって1つの加熱領域が構成される。同様に、長形加熱コイル722f,722iおよび722lも、移動方向に沿ってこの順で並んでおり、互いに長手方向が揃うように平行に配列している。これら3個の電磁誘導加熱コイルによって1つの加熱領域が構成される。また、円形加熱コイル722e,722hおよび722kも、移動方向に沿ってこの順で並んでおり、長形加熱コイル722d,722gおよび722jにより構成される加熱領域と、長形加熱コイル722f,722iおよび722lにより構成される加熱領域との間を埋める形で加熱領域を形成している。
【0140】
これら9個の電磁誘導加熱コイルは、それぞれに対する電力供給を独立して制御できるようになっており、搬送装置720によるワーク110の移動速度と連係して、好適な加熱を実現できるように構成されている。
【0141】
なお、これら電磁誘導加熱コイルは、それぞれが1台の電磁誘導加熱装置721に備えられ、全体として9台の電磁誘導加熱装置721が用いられる構成であってもよいし、複数が1台の電磁誘導加熱装置721に備えられ、電磁誘導加熱装置721も複数台用いられる構成であってもよい。したがって、1台の電磁誘導加熱装置721が備える電磁誘導加熱コイルの数は同じでもよい(例えば1台に3個)し、異なってもよいし(例えば1台が5個、もう1台が4個等)。また、全9個が全て1台の電磁誘導加熱装置721に備えられる構成であってもよい。
【0142】
また、本実施の形態で用いられるワーク110の構成も、基本的に前記実施の形態1または2と同様であるが、アルミシート411としては、1枚の大面積のものではなく、より小さい面積のアルミシート411aおよび411bが用いられている。これらアルミシート411a,411bは、ワーク110の面積の半分よりも少し大きい面積を有しており、図15に示すように、一部を重ね合わせて貼り合わせた重複部411cを形成することで、ワーク110に対応する大きさとなるように一体化される。したがって、図中網掛けした重複部411cは、アルミシート411a,411bの他の部分と比べて2倍の厚みを有している。
【0143】
そして、長形加熱コイル722d,722gおよび722jにより構成される加熱領域は、アルミシート411a(図15では図中上側)を加熱対象とし、長形加熱コイル722f,722iおよび722lにより構成される加熱領域は、アルミシート411b(図15では図中下側)を加熱対象としている。また、円形加熱コイル722e,722hおよび722kは、重複部411cの幅と略同寸法を有しており(言い換えれば、円形加熱コイル722e等の幅に合わせて重複部411cを形成し)、当該重複部411cを個別に加熱する。
【0144】
本実施の形態は、大型の面状採暖具の製造に好適なものである。特に、ヒータユニット400が大型化した場合、均熱シート410に使用する幅の広いアルミシート411の調達が難しい傾向にあるため、2枚のアルミシート411a,411bを接合して使用する場合がある。このとき、接合した箇所(重複部411c)はアルミシート411の厚みが大きくなり電流が流れやすくなる。その結果、重複部411cの発熱量が増加して、重複部411cに対応する部位の温度が他の部位よりも高くなるため、部分的に接着剤の劣化が生じやすくなる等の不都合が発生するおそれがある。
【0145】
本実施の形態は、上記の不都合に対応できるものであり、ワーク110を所定の速度で搬送しながら、9個の電磁誘導加熱コイルに電力を供給し、アルミシート411aおよび411bを接合した大アルミシート413を加熱する。このとき、大アルミシート413の中央の重複部411cに対応する小型の円形加熱コイル722e,722hおよび722kへの電力供給を、両側に配置されている長形加熱コイル722d,722gおよび722j、または、長形加熱コイル722f,722iおよび722lへの通電容量より相対的に低くすることにより、大アルミシート413全体を均一に加熱することができる。
【0146】
(実施の形態4)
前記実施の形態1〜3では、いずれも面状採暖具の製造方法を中心として説明したが、本発明は製造方法のみに限定されるものではなく、面状採暖具の製造装置等も含まれる。そこで、面状採暖具の製造装置の一例について、図16(a)〜(c)を参照して具体的に説明する。図16(a)〜(c)は、本発明の実施の形態4に係る面状採暖具の製造装置の一例を示す模式図である。
【0147】
例えば、図16(a)に示す面状採暖具の製造装置700A(以下、単に製造装置と略す。)は、加熱工程を行うためのワーク加熱装置701のみで構成されている。ワーク加熱装置701は、電磁誘導加熱部723a,723bと、加熱部移動機構724と、ワークチャック搬送部725と、搬送支持台726とを備えている。電磁誘導加熱部723a,723bは、前記実施の形態1〜3で説明した電磁誘導加熱装置721と実質的に同じものであるので、その説明は省略する。これら電磁誘導加熱部723a,723bは、それぞれ1個の加熱コイル722a,722bを備えている。したがって、図16(a)に示すワーク加熱装置701は、前記実施の形態1における2個の電磁誘導加熱コイルを備える構成例(図11(a),(b)参照)に対応する。
【0148】
加熱部移動機構724は、電磁誘導加熱部723a,723bの間隔、すなわち加熱コイル722a,722bの間隔(加熱間隔Dと称する。)を調整可能に移動させるものであり、図16(a)の双方向ブロック矢印Eに示すように、電磁誘導加熱部723a,723bを移動方向(ブロック矢印A)に沿って前後に移動可能としている。その具体的な構成は特に限定されず、公知の機械的移動機構を好適に用いることができる。
【0149】
前記実施の形態1で説明したように、上流側の電磁誘導加熱部723aは予備加熱を行い、下流側の電磁誘導加熱部723bは本加熱を行うものであるが、これら電磁誘導加熱部723a,723bの間隔が大きすぎると、予備加熱によって発熱した均熱シート410(アルミシート411)の温度が好ましい温度範囲よりも低くなってしまうおそれがある。一方、間隔が小さすぎると、電磁誘導加熱部723a,723bの加熱領域が重複し、均熱シート410の一部の温度が過剰に高くなってしまうおそれがある。そこで、これら電磁誘導加熱部723a,723bの加熱間隔Dを調整可能とすることにより、加熱工程をより一層適切に行うことが可能となる。
【0150】
ここで、加熱部移動機構724は、本体100の製造開始前に動作して加熱間隔Dを調整してもよいし、本体100の製造の進行中に製造条件等を考慮して加熱間隔Dを調整してもよい。また、加熱部移動機構724は、ワーク加熱装置701のオペレータによって手動で動作してもよいし、図示しない制御部によって自動的に動作するように構成されてもよい。また、加熱部移動機構724は、加熱間隔Dだけでなく、ワーク110の表面と加熱コイル722a,722bとの間隔を調整できるように、電磁誘導加熱部723a,723bを垂直方向に移動可能に構成されてもよい。
【0151】
ワークチャック搬送部725は、搬送装置720と実質的に同じものであり、チャッキングによってワーク110を搬送方向(図中ブロック矢印F、移動方向と同じ方向)に搬送する。搬送支持台726は、加熱部移動機構724、ワークチャック搬送部725等を支持するものである。なお、ワーク加熱装置701は、電磁誘導加熱部723a,723b、加熱部移動機構724、ワークチャック搬送部725、搬送支持台726以外の構成を備えていてもよい。
【0152】
また、図16(b)に示す製造装置700Bは、ワーク加熱装置701に加えて、加圧貼合せ装置702を備えている構成である。すなわち、ワーク加熱装置701及び加圧貼合せ装置702が一体的に組み合わせられることで、製造装置700Bが構成される。加圧貼合せ装置702は、前記実施の形態2で説明したローラユニット735と、当該ローラユニット735を支持するためのローラ支持台734とを備えている。なお、加圧貼合せ装置702は他の構成を備えていてもよい。
【0153】
製造装置700Bにおいては、ワーク110の移動速度を連係させることが好ましいため、ワーク加熱装置701および加圧貼合せ装置702が同一の制御装置で制御されてもよいし、それぞれ独立した制御装置を備えていてもよいが、公知の通信装置等を用いて双方向に通信可能に構成されることにより、それぞれの制御が連係されてもよい。
【0154】
また、図16(c)に示す製造装置700Cは、ワーク加熱装置701および加圧貼合せ装置702に加えて、ワーク準備装置703を備えている構成である。ワーク準備装置703は、前記実施の形態1で説明した準備工程を行うための設備であり、シート状部材を積み重ねたり位置合わせしたりする種々の機構、あるいは、得られるワーク110をワーク加熱装置701に搬送するための搬送機構等を備えていればよい。なお、製造装置700Cにおいても、ワーク加熱装置701、加圧貼合せ装置702、およびワーク準備装置703の制御が連係していると好ましい。
【0155】
以上のように、本発明に係る面状採暖具の製造方法は、表面材と、金属シートの両面に、所定の温度以上で溶融する接着樹脂をコーティングした均熱シートの一方の面に、ヒータ線を配設したヒータユニットと、断熱シートと、を含む面状採暖具の製造方法にあって、前記表面材、前記ヒータユニット、前記断熱シート、の順に積層してこれらの積層体を得る準備工程と、前記積層体のうちの前記表面材および前記断熱シートのどちらか一方の側に近接して電磁誘導加熱装置を設置し、前記電磁誘導加熱装置により前記金属シートを発熱させることにより前記接着樹脂を溶融させる加熱工程と、押圧手段により前記積層体を押圧することにより、前記表面材と前記ヒータユニットと前記断熱シートとを接着させる押圧工程とを含み、前記電磁誘導加熱装置は、複数の加熱コイルを備えた構成であればよい。
【0156】
これにより、接着樹脂を溶融するための熱は、面状採暖具の内部にある金属シートから発熱するため、接着樹脂を短時間に溶融することができるので、接着作業を短時間に実施できるとともに、面状採暖具の外部に無駄な放熱を抑制することができる。そのため、製造工程の省エネルギー化を図ることができる。
【0157】
しかも誘導加熱装置の複数個の加熱コイルを備えたことにより、同時に広い範囲を加熱することができるため、低い加熱容量で長時間加熱することが可能となり、発熱源である金属シートの温度上昇を抑制することができる。そのため、溶融する樹脂の劣化を抑制し、安定した接着性能を得ることができる。また、加工工程に金型を使用しないため、初期投資費用の抑制と、設計の自由度を向上することができる。
【0158】
上記製造方法においては、前記電磁誘導加熱装置の前記加熱コイルは、複数の前記加熱コイルを略平行に並設した構成であってもよい。これにより、広い範囲を同時に均一に加熱するとともに、加熱範囲を平行移動することにより、積層体全体を均一に加熱することが可能となる。
【0159】
上記製造方法においては、前記電磁誘導加熱装置の前記加熱コイルは、前記積層体の幅より短い複数の加熱コイルを連設させて、前記積層体の幅全体を覆う構成であってもよい。これにより、加熱の容量を加熱コイルごとに変更することが可能となり、金属シートの厚さが部分的に異なる場合等の、異なる発熱条件を有する金属シートにおいても均一な発熱を得ることができる。
【0160】
また、本発明に係る面状採暖具の製造装置は、上記製造方法を実現するために、少なくとも複数の加熱コイルと、積層体を搬送する搬送手段とを備える構成である。これにより、初期投資費用が少なく、省エネルギーでかつ高効率に面状採暖具を製造することができる。
【0161】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0162】
以上のように、本発明では、面状採暖具の本体を構成するシート状部材のうち金属材料を含む均熱シートを発熱させることにより、熱溶融型の接着剤を溶融して各シート状部材を接着することが可能になるため、面状採暖具の製造分野に広く利用できるとともに、同様の均熱シートを備える他の暖房器具の製造等の用途にも応用することが可能である。
【符号の説明】
【0163】
100 本体(面状採暖具の本体)
110 ワーク(積層体、積重ね体)
200 表面材(シート状部材)
203 接着剤(接着剤の層、表面材接着層)
300 接着シート(シート状部材、接着剤の層)
400 ヒータユニット(シート状部材)
410 均熱シート(シート状部材)
411 アルミシート(均熱シートの本体)
412 接着樹脂(接着剤の層、均熱シート接着層)
420 ヒータ線
500 断熱シート(シート状部材)
600 裏面材(シート状部材)
712 製造装置制御部(制御手段)
720 搬送装置(搬送手段)
721 電磁誘導加熱装置(電磁誘導加熱手段)
721a〜721c 電磁誘導加熱装置(電磁誘導加熱手段)
722 加熱コイル(電磁誘導加熱コイル、長板状コイル)
722a〜722c 第一〜第三加熱コイル(電磁誘導加熱コイル、長板状コイル)
722d,722f,722g,722i,722j,722l 長形加熱コイル(電磁誘導加熱コイル、短板状コイル)
722e,722h,722k 円形加熱コイル(電磁誘導加熱コイル、短板状コイル)
730 押圧ローラ(押圧手段、押圧装置)
735 ローラユニット(押圧手段、押圧装置)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分を含有する均熱シートにヒータ線が配設された面状のヒータユニットと、当該ヒータユニットに積層されるシート状部材とを備える面状採暖具の製造方法であって、
前記シート状部材と前記ヒータユニットとを、熱溶融型の接着剤の層を介在させた状態で積み重ねた積層体を形成する準備工程と、
前記積層体の表裏面の少なくとも一方に近接させて電磁誘導加熱コイルを設置し、前記積層体を予め設定された移動方向に移動させながら、前記電磁誘導加熱コイルにより磁力線を発生させて前記ヒータユニットの前記均熱シートを発熱させることにより前記接着剤を溶融させる加熱工程を含み、
前記加熱工程では、前記積層体に面する位置に、複数の前記電磁誘導加熱コイルが隣接して配置されていることを特徴とする、
面状採暖具の製造方法。
【請求項2】
前記積層体に含まれる前記接着剤の層は、独立したシート状部材として構成されているか、前記シート状部材に予め一体的に積層されているか、またはその両方であることを特徴とする、
請求項1に記載の面状採暖具の製造方法。
【請求項3】
前記シート状部材が、
前記面状採暖具の表面を構成する表面材、
前記面状採暖具の裏面を構成する裏面材、および、
前記ヒータユニットから発生する採暖用熱の前記裏面側への伝熱を抑制する断熱シート、の少なくともいずれかであることを特徴とする、
請求項2に記載の面状採暖具の製造方法。
【請求項4】
前記ヒータユニットは、前記均熱シートの表裏面のいずれか一方に前記ヒータ線が配設された構成であり、
前記加熱工程では、前記積層体における、前記均熱シートの前記ヒータ線を配設していない側の面が前記電磁誘導加熱コイルに近接するように、当該積層体を設置することを特徴とする、
請求項1に記載の面状採暖具の製造方法。
【請求項5】
前記加熱コイルは、前記積層体の幅よりも長い長板状コイルであり、
複数の当該長板状コイルは、その長手方向で並列した状態で前記移動方向に沿って隣接配置されていることを特徴とする、
請求項1に記載の面状採暖具の製造方法。
【請求項6】
前記加熱コイルは、前記積層体の幅よりも短い短板状コイルであり、
複数の当該短板状コイルは、前記移動方向に交差して前記積層体の幅全体を覆うように隣接配置されていることを特徴とする、
請求項1に記載の面状採暖具の製造方法。
【請求項7】
前記加熱工程の後に行われ、前記積層体全体を押圧する押圧工程をさらに含むことを特徴とする、
請求項1に記載の面状採暖具の製造方法。
【請求項8】
金属成分を含有する均熱シートにヒータ線が配設された面状のヒータユニットと、当該ヒータユニットに積層されるシート状部材とを備える面状採暖具の製造装置であって、
前記シート状部材と前記ヒータユニットとが熱溶融型の接着剤の層を介在させた状態で積み重ねられた積層体を、予め設定された移動方向に搬送する搬送手段と、
前記移動方向の下流側に位置し、隣接配置される複数の加熱コイルを含む電磁誘導加熱手段と、
制御手段と、を備え、
当該制御手段は、前記搬送手段により搬送させた前記積層体の表裏面の少なくとも一方に対して、前記電磁誘導加熱手段により発生させた磁力線を印加することによって、前記ヒータユニットの前記均熱シートを発熱させて、前記接着剤を溶融させるように構成されていることを特徴とする、
面状採暖具の製造装置。
【請求項9】
さらに、前記電磁誘導加熱手段における前記移動方向の下流側に隣接して位置し、前記積層体の両面を押圧する押圧手段を備えていることを特徴とする、
請求項8に記載の面状採暖具の製造装置。
【請求項10】
請求項1に記載の製造方法により製造され、
金属成分を含有する均熱シートにヒータ線が配設された面状のヒータユニットと、当該ヒータユニットに積層されるシート状部材とを備え、
前記ヒータユニットおよび前記シート状部材が、熱溶融型の接着剤の層により互いに接着されて固定されていることを特徴とする、
面状採暖具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−226764(P2011−226764A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26742(P2011−26742)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】