説明

靴および靴の製造方法

【課題】屈曲性があり靴の履き心地がよく、かつ、堅牢な作りを実現できる靴および靴の製造方法を提供する。また、通気性を有し、しかも通気溝などの特殊な構造を靴底に設ける必要がなくコストを抑えることができる靴および靴の製造方法を提供する。
【解決手段】つま先部14において甲皮4の下端周縁部4aと中敷材5の周縁部5aとを縫着して袋状とし、この袋状のアッパー6の下端周縁部6aに裾テープ7の幅方向一端部7aを縫着するとともに、裾テープ7の他端部7bを前部中底8aに吊り込み、中底8と中敷材5とのあいだに中物9を介在させて、前部中底8aに表底10が固着する。さらに、土踏まず部15および踵部16において、アッパー6の吊り込み代4bが後部中底8bに接着され吊り込まれ、後部中底8bの下面に表底10を接着剤で固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履き心地が良好で、かつ、堅牢な靴と靴の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、靴および靴の製法としては、吊り込み製法(セメント式製法)と言われる製法およびその製法により製造された靴が一般的である。具体的には、まず靴の原型となる1つの靴型(ラスト)を基に、中底を靴型に仮止めして甲皮を靴型を被うようにして甲皮の端部を中底に接着して釣込み、次いで、靴の底部を形成するため、表底を中底と釣込んだ甲皮にその裏面から接着し、機械によりプレスして圧着する。その後、靴型を型抜きをして抜きとり、ヒールを表底に靴内部から釘打ちして取り付け、中底に中敷きを貼った後、熱風を当てたり、アイロン(こて)を当てて甲皮を整えて完成した靴とする製法である。
【0003】
その他、靴の製法には、甲皮の下端全周縁部と中敷材の全周縁部とを縫着し袋状にした後、これら周縁部の全周に裾テープを縫い付け、裾テープを巻き込み、中物(クッション材)を詰め靴底を貼り付ける製法(カリフォルニア式製法)がある。この製法では、例えば図10に示すように、アッパー106を構成する甲皮104および中敷材105の下端周縁部104a・105aと中底108とが当接した状態で縫い付けられて製造されるので、糸を使わず接着のみによる前記セメント式製法に比べ、柔軟で屈曲性に富み、履き心地が良好である靴が製造できる。なお、符号109は中物を示し、符号110は表底を示している。
【0004】
また、アッパーに対し袋状に縫い付ける中敷において、足裏のつま先部および土踏まず部あたりと対応する箇所にそれぞれ通気孔を設けるとともに、その通気孔に銅付き鳩目を取り付け、中物として合成樹脂製の線条材を織製するか、もしくは編製するか、あるいは溶着することにより、扁平な立体形状からなり弾力性と通気性を有するエアークッションを中敷の下に配置し、そのエアークッションの周囲を、アッパーに縫い付けた帯状の巻革で包み、エアークッションの下に断熱性を有する中底を当て、その中底の下にアウトソールを積層した靴が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
さらに、靴底の下面において踵部分とその他の部分との間に段差が設けられており、靴底の上面に長手方向に延びる複数の通気溝が靴幅方向に所定の間隔で形成されており、各通気溝の踵側端部はそれぞれ、踵部に形成されている通気口の一端に連通し、当該通気口の他端が前記段差に面して開口されている靴底を備え、当該靴底には各通気溝に対応する位置に複数の通気孔が形成されている中底が載置され、当該中底の前踏部の上面には不織布が積層されており、さらにその上面に撥水処理されたサランシートが積層されている靴が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】登録実用新案第3005269号公報(第1頁〜第3頁、図1)
【特許文献2】実開平06−045502号公報(第4頁〜第5頁、図1・図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
・前記セメント式製法により製造された靴は、糸の縫い目が全くなく、接着剤で固定されているため堅牢な作りである一方、足から出る汗などの排湿性に劣り、足にも馴染みにくいというデメリットがある。
【0008】
・前記カリフォルニア式製法により製造された靴は、柔軟で屈曲性に富み、履き心地が良好である反面、強度が弱いというデメリットがある。
【0009】
・前記特許文献1に記載の靴は、アッパー内と外部との空気の出入が履き口のみで行われるため、熱気がこもりやすい足裏の蒸れが解消されにくいというデメリットがある。
【0010】
・前記特許文献2に記載の靴は、靴長方向に通気溝を設けているため靴底の屈曲性が損なわれるおそれがあるとともに、通気溝付きの靴底を形成するための特殊な金型が必要で製造コストが高くなるデメリットがある。
【0011】
そこで本発明の靴および靴の製造方法は、上記に鑑み、柔軟で屈曲性に富み、履き心地が良好であり、かつ、堅牢な作りを実現できる靴および靴の製造方法を提供することを目的としている。さらに、これに加え、熱気がこもりやすい足裏の蒸れを靴の履き心地を損なうことなく解消することができ、しかも通気溝などの特殊な構造を靴底に設ける必要がなくコストを抑えることができる靴および靴の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る靴は、靴幅方向縦断面において甲皮の両下端縁部と中敷材の周縁部とが縫着されているアッパーを備えた靴であって、前記中敷材が、つま先部と土踏まず部および踵部の何れか1箇所または2箇所に設けられ、当該箇所において前記アッパーの下端縁部に裾テープの幅方向一端縁部が縫着され、当該裾テープの他端部は前記中敷材の下側に配置されている中底に吊り込まれ、当該中底と前記中敷材とのあいだには中物が介在されており、前記アッパーの下縁部と前記中底の縁部とのあいだには前記中物の縁部が介在した状態になっていて、表底が前記中底の下面に一部を固着させて前記アッパーと一体になっていることを特徴とする。
【0013】
このようにすれば、前記つま先部、前記土踏まず部、前記踵部のいずれか1箇所または2箇所が、前記甲皮と前記中敷材と前記中底とを縫着する所謂カリフォルニア式製法を用い、それ以外の箇所については、前記中底と釣込んだ前記甲皮の下面より前記表底を圧着するセメント式製法を用いるため、靴の一部が柔軟で屈曲性に富み、履き心地を良好とし、同時に、それ以外の箇所について堅牢な作りとすることができる。
【0014】
また、前記中敷材や前記裾テープは、布材を用いて形成したり多数の穴を設けた皮革などで形成したりすることができる。前記中物には連続気泡の発泡体や不織布、複数の凹凸が上面に形成されている弾性体などを用いることができるし、複数のシート材を重ねて積層構造にすることも可能である。
【0015】
請求項2に係る靴は、前記中敷材が前記つま先部に設けられ、前記裾テープの他端縁部が前記中底としての前部中底に吊り込まれており、前記甲皮の前記土踏まず部および前記踵部には吊り込み代が設けられ、当該吊り込み代は後部中底に吊り込まれており、前記前部中底は前記後部中底よりも柔軟性を有し、前記表底が前記後部中底の下面にも一部が固着されて前記アッパーと一体になっていることを特徴とする。
【0016】
このようにすれば、靴を履いている時の足の動きが比較的大きい前記つま先部に屈曲性を持たせ、動きが比較的小さい前記土踏まず部および前記踵部を堅牢で靴の安定性を保持することができる。
【0017】
請求項3に係る靴は、前記中敷材と前記中物および前記裾テープに通気性を有する素材を用いることを特徴とする。
【0018】
このようにすれば、前記中敷材と前記中物および前記裾テープがいずれも通気性を有するように構成し、かつ前記アッパーの下端周縁部と前記中底とのあいだに前記中物の周縁部が介在した状態にすることで、熱気がこもりやすい足裏の換気を良くすることができる。つまり、靴内部と外部とが前記中敷材、前記中物、前記裾テープを通じて連通し、この経路を通じて靴内部の空気の換気が行えるようになるため、靴内部の底の空気が入れ代わりやすくなるからである。
【0019】
請求項4に係る靴は、前記裾テープに複数の通気孔が設けられていることを特徴とする。
【0020】
このようにすれば、より靴内の通気性が増し換気機能の向上を図ることができる。
【0021】
請求項5に係る靴は、前記通気孔が、前記裾テープの幅方向の中心位置に、長手方向に所定の間隔をあけて設けられていることを特徴とする。
【0022】
このようにすれば、前記裾テープに通気孔を設ける加工が容易であり、また通気孔が整然と設けられているため、靴の外観が美しく、デザイン性に優れ、かつ、通気孔へ後加工する際にも便利である。
【0023】
請求項6に係る靴は、前記各通気孔に、防水性の糸を順に貫通させて縫着したことを特徴とする。
【0024】
このようにすれば、前記裾テープに設けられた複数の通気孔から靴内に流入する水を防水糸が防ぎ、靴内への水の流入を防止できる。これにより、通気性を確保しつつ、防水性の高い靴を提供することができる。
【0025】
請求項7に係る靴の製造方法は、つま先部と土踏まず部および踵部の何れか1または2箇所において甲皮の下縁部に裾テープの幅方向一端部を縫着する工程と、前記箇所に中敷材を配設して当該中敷材の縁部と前記甲皮の下縁部とを縫着してアッパーを形成する工程と、前記箇所において前記中敷材の下側に中底を配置するとともに、当該中底と前記中敷材とのあいだに通気性を有する中物を配置して、当該中物の縁部を前記アッパーの下縁部と前記中底の縁部とのあいだに介在させた状態にし、前記裾テープの他端部を前記中底に吊り込む工程と、表底を前記中底の下面に一部を固着させて前記アッパーと一体にする工程とを備えることを特徴とする。
【0026】
このようにすれば、前記つま先部、前記土踏まず部、前記踵部のいずれか1箇所または2箇所が、前記甲皮と前記中敷材と前記中底とを縫着する所謂カリフォルニア式製法を用い、それ以外の箇所については、前記中底と釣込んだ前記甲皮の下面より前記表底を圧着するセメント式製法を用いるため、靴の一部が柔軟で屈曲性に富み、履き心地を良好とし、同時に、それ以外の箇所について堅牢な作りとする靴を製造することができる。また、前記つま先部と前記土踏まず部および前記踵部の何れか1箇所または2箇所において、靴内部と外部とが、通気性を有する中敷材、前記中物、前記裾テープを通じて連通し、この経路を通じて靴内部の換気が行える靴を製造することができる。即ち、前記靴は、前記箇所において使用者の足裏が当接して熱気がこもりやすい靴内部の底の空気が入れ代わりやすく、足の蒸れを効果的に抑えることができる。
【0027】
請求項8に係る靴の製造方法は、つま先部において甲皮の下縁部に裾テープの幅方向一端部を縫着する工程と、前記つま先部に中敷材を配設して当該中敷材の縁部と前記甲皮の下縁部とを縫着してアッパーを形成する工程と、前記つま先部において前記中敷材の下側に中底を配置するとともに、当該中底と前記中敷材とのあいだに通気性を有する中物を配置して、当該中物の縁部を前記アッパーの下縁部と前記中底の縁部とのあいだに介在させた状態にし、前記裾テープの他端部を前記中底に吊り込む工程と、表底を前記中底の下面に一部を固着させて前記アッパーと一体にする工程とを備えることを特徴とする。
【0028】
このようにすれば、靴を履いている時の足の動きが比較的大きい前記つま先部に屈曲性を持たせ、動きが比較的小さい前記土踏まず部および前記踵部を堅牢で靴の安定性を保持することができる。また、足の動きが大きく熱気がこもりやすいつま先部において、靴内部と外部とが、通気性を有する中敷材、前記中物、前記裾テープを通じて連通し、この経路を通じて靴内部の換気が行える靴を製造することができ、熱気がこもりやすい靴内部の底の空気が入れ代わりやすく、足の蒸れを効果的に抑えることができる。
【0029】
請求項9に係る靴は、甲皮の下端周縁部と中敷材の周縁部とが縫着されて袋状をなし、この袋状のアッパーの下端周縁部に裾テープの幅方向一端縁部が縫着されるとともに、当該裾テープの他端部が中底に吊り込まれ、当該中底と前記中敷材とのあいだには中物が配設されており、前記中底の下面に表底が固着されている靴において、前記中敷材と前記中物および前記裾テープがいずれも通気性を有し、前記中物の周縁部が前記アッパーの下端周縁部と前記中底の周縁部とのあいだに介在した状態になっていることを特徴とする。
【0030】
このようにすれば、前記中敷材と前記中物および前記裾テープがいずれも通気性を有するように構成し、かつ前記アッパーの下端周縁部と前記中底とのあいだに前記中物の周縁部が介在した状態にすることで、熱気がこもりやすい足裏の換気を良くすることができる。つまり、靴内部と外部とが前記中敷材、前記中物、前記裾テープを通じて連通し、この経路を通じて靴内部の空気の換気が行えるようになるため、使用者の足裏が当接する靴内部の底の空気が入れ代わりやすくなるからである。
【0031】
請求項10に係る靴の製造方法は、甲皮の下端周縁部に通気性を有する裾テープの幅方向一端部を縫着する工程と、前記甲皮の下端周縁部と通気性を有する中敷材の周縁部とを縫着して袋状のアッパーを形成する工程と、前記中敷材の下側に中底を配置するとともに、当該中底と前記中敷材とのあいだに通気性を有する中物を配置し、当該中物の周縁部を前記アッパーの前記下端周縁部と前記中底の周縁部とのあいだに介在させた状態にして前記裾テープの他端部を前記中底に吊り込む工程と、当該中底の下面に表底を固着する工程とを備えることを特徴とする。
【0032】
このようにすれば、靴内部と外部とが、通気性を有する前記中敷材、前記中物、前記裾テープを通じて連通し、この経路を通じて靴内部の換気が行える靴を製造することができる。即ち、前記靴は、使用者の足裏が当接して熱気がこもりやすい靴内部の底の空気が入れ代わりやすく、足の蒸れを効果的に抑えることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る靴は、ソフトな履き心地を備えているため疲れにくく、長時間快適に履くことができると同時に、安定した堅牢性を兼ね備え、耐久性の高い靴を実現できる。また、靴底に通気溝やエアポンプなどを設けた特殊な靴とは違ってシンプルな構造であるため製造コストを抑えることができ、付加価値の高い靴の供給が可能になる。
【0034】
さらに、通気性を備えることで、熱気がこもりやすい足裏の蒸れが解消される。
【0035】
本発明に係る靴の製造方法は、ソフトな履き心地と安定した堅牢性を兼ね備え、熱気がこもりやすい足裏の蒸れを解消できる快適な履き心地の靴を、従来に近い製造方法で簡単に製造することができる。しかも、既存の製造設備を使用して製造できるため、新しい設備を導入したり既存設備を改造したりするコストが不要で、付加価値の高い靴を製造可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る靴の斜視図である。
【図2】本発明に係る靴の長手方向縦断面図(図1のα−α線断面図)である。
【図3】(a)は、本発明に係る靴の靴幅方向の断面図(図1のβ−β線断面図)、(b)は(a)におけるA部の部分拡大図、(c)は(b)におけるB部の部分拡大図である。
【図4】本発明に係る靴の製造方法に係る製造工程を示すフロー図である。
【図5】本発明に係る靴を婦人靴に適用した実施形態である。
【図6】(a)は、本発明に係る靴において、各通気孔を順に貫通するように、防水糸が縫着された靴の斜視図である。(b)は、同靴の靴幅方向断面図の部分拡大図である。
【図7】(a)は、本発明に係る靴の別の実施形態を示す斜視図である。(b)は、同長手方向縦断面図((a)のα−α線断面図)である(実施例2)。
【図8】(a)は、本発明に係る靴の靴幅方向の断面図(図7のβ−β線断面図)、(b)は(a)におけるA部の部分拡大図、(c)は(b)におけるB部の部分拡大図である(実施例2)。
【図9】本発明に係る靴の製造方法の別の実施形態における製造工程を示すフロー図である(実施例2)。
【図10】従来のカリフォルニア式製法による靴の靴幅方向縦断面の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る靴および靴の製造方法の実施形態について図1〜図9を参照して説明する。
【実施例1】
【0038】
図1は本発明に係る紳士靴の斜視図を示し、図2は同紳士靴の長手方向縦断面図(図1のα−α線断面図)を示す。図3の(a)は同紳士靴の靴幅方向縦断面図(図1のβ−β線断面図)を示しており、(b)は(a)におけるA部の部分拡大図を示し、(c)は(b)におけるB部の部分拡大図を示している。図4は本発明に係る靴の製造工程を示すフロー図である。図5(a)は本発明を婦人靴に適用した実施形態の斜視図であり、図5の(b)および(c)は中物を変更した靴幅方向縦断面図を示す。
【0039】
紳士靴1Mは、つま先部14をカリフォルニア式製法で形成し、土踏まず部15および踵部16を中底にアッパーを吊り込むセメント式製法で形成したものである。
【0040】
具体的には、図2および図3に示すように、つま先部14が表革2と裏革3とを重ねて縫製された甲皮4の下端周縁部4aと、中敷材5の周縁部5aとが縫着されて袋状をなし、このアッパー6(甲皮4と中敷材5を合わせたもの)の下端周縁部6aに裾テープ7の幅方向一端部7aが縫着されており、裾テープ7の他端部7bが中敷材5の下側に配置されている前部中底8aに吊り込まれている。裾テープ7には多数の通気孔7cが散在して設けられている。そして、前部中底8aと中敷材5とのあいだにクッション材の中物9が配設されており、前部中底8aの下面に表底10が固着されている。中物9は上下二層になっており、上の中物11は下の中物12よりも小さく形成され、アッパー6の下端周縁部6aの内側に収まった状態になっている。一方、下の中物12は中底8aと同様の大きさで形成されていて、その周縁部12aがアッパー6の下端周縁部6aと前部中底8aの周縁部とのあいだに介在した状態になっている。
【0041】
また、土踏まず部15および踵部16においては、アッパー6の吊り込み代4bが後部中底8bに接着され吊り込まれており、さらに後部中底8bの下面に表底10が接着剤で固定された状態となっている。
【0042】
このような構造となっているため、紳士靴1Mは、つま先部14において、屈曲性を有しソフトな履き心地を実現し、土踏まず部15および踵部16において、堅牢で耐久性に富む靴となっている。
【0043】
次に、紳士靴1Mの製造方法について図4を中心に説明する。図4に示すように、つま先部14を除く土踏まず部15と踵部16とに吊り込み代4bを設けた甲皮4を縫製する(工程I)。そして、甲皮4のつま先部14の下端縁部4aに裾テープ7の幅方向一端部7aを、他端部7bを上に向けた状態で縫着し(工程II)、次に、つま先部14にメッシュ構造の不織布からなる中敷材5を配置して、甲皮4の下端縁部4aと中敷材5の周縁部5aとを縫着することにより、つま先部14が袋状になったアッパー6を形成する(工程III)。このアッパー6に靴型13を挿入し、中敷材5の下側には後述する前部中底8aと同様の大きさで、かつ通気性を有するクッション材の中物9を配置し、さらにその下側に前部中底8aを配置する。これに加えて、アッパー6の土踏まず部15と踵部16とに対応する大きさを有する後部中底8bを靴型13の裏面に貼着する。なお、前部中底8aは後部中底8bよりも柔軟性を有している。次に、裾テープ7の他端部7bを下方に折り返して前部中底8aに吊り込むとともに、アッパー6の吊り込み代4bを後部中底8bに吊り込む(工程IV)。それから、前部中底8aと後部中底8bとの下面に表底10を接着剤で固定する(工程V)。
【0044】
こうして製造された紳士靴1Mは、つま先部14において、アッパー6の下端周縁部6aと前部中底8aとのあいだに中物9の周縁部、つまり、下の中物12の周縁部12aが介在した状態になっている(図3参照)。これにより、靴内部が中敷材5、中物9、裾テープ7を通じて外部と連通可能となり、この経路を通じて換気が行われる(第図(c)参照)。これは、使用中において熱気がこもりやすい足裏が当接する靴内部の底の空気が入れ代わりやすいことを示している。つまり、靴内部の空気は中敷材5を通過し中物9を経由して裾テープ7の通気孔7cから外部に排出される。一方、外部の空気は排出の場合と逆の経路で靴内部に流入する。このような靴内部への空気の出入によって、熱気がこもりやすい足裏の蒸れが解消され、夏場でも快適な履き心地を保つことができる。そして、つま先部14はカリフォルニア式製法で形成しているため履き心地がソフトで、しかも前部中底8aが後部中底8bよりも柔らかいため屈曲性が良く使用感にすぐれ、土踏まず部15と踵部16とは通常の吊り込み式で形成されているため安定感があり歩きやすく、堅牢である。
【0045】
また、前部中底8aおよび後部中底8bの他の実施形態としては、例えば、材料を靴型に型抜きしたのち、つま先部以外の土踏まず部と踵部とにシャンクを設けて、つま先部を柔軟性のある前部中底8aとし、土踏まず部と踵部とを硬さを有した後部中底8bとして構成することもできる。
【0046】
なお、本発明は紳士靴に限らず、図5に示すようにヒールの高い婦人靴1Wにも適用することができる。この図5において図1〜図3で示した紳士靴1Mと構成上相当するものには同一の符号を付しており、符号6、7、10はそれぞれアッパー、裾テープ、表底を示している。また、本発明は短靴以外にも使用することができ、熱気のこもりやすいブーツタイプの靴には特に好適である。中物9については、図3(a)〜(c)に示すように上下2層の構造を採用することもできるし、一体構造とすることもできる。例えば、図5(b)では中物9に一体構造のものを採用し、図5(c)では、下層に靴長方向Xの縦断面が波型のシート材12を用いた2層構造としており、クッション性や通気性が阻害されることがない。
【0047】
さらに、図6に示すように、裾テープ7に例えば0.3cm〜3cmといった所定の間隔で通気孔7dを設け、各通気孔7dを順に貫通するように撥水性の防水糸7eを縫着することもできる。このようにすれば、屈曲性と通気性を確保しつつ、かつ、防水糸7eによって通気孔7dからの水の侵入を防ぐことができ、雨の日などにおいても快適に歩行ができる。そして、防水糸7eが裾テープ7にステッチ状に配置されるので、外観が良好でデザイン的にも優れている。
【0048】
また、防水糸7eを縫着する方法は、ミシン目のピッチを各通気孔7dの間隔に合わせ、裾テープ7eの表面側からミシンの針が各通気孔7dを通るようにミシンにより、防水糸7eをステッチ状に縫着する。
【0049】
なお、防水糸7eを縫着するタイミングは、(1)裾テープ7の裏面にメッシュ生地(図示せず)を合わせ、この裾テープ7とメッシュ生地を合わせたものにあらかじめ防水糸7eを縫着しておき、その後に甲皮4のつま先部14の下端縁部4aに当該裾テープ7を縫着してもよいし(図4の製造工程II)、(2)甲皮4のつま先部14の下端縁部4aに裾テープ7の幅方向一端部7aを、他端部7bを上に向けた状態で縫着し、裾テープ7の他端部7bを下方に折り返して前部中底8aに吊り込むとともに、アッパー6の吊り込み代4bを後部中底8bに吊り込んだ後、裾テープ7の表面から甲皮4と共に防水糸7eを縫着してもよい(図4の製造工程IV)。(3)そして、場合によっては、靴1Mが完成した後に、手縫い等により、各通気孔7dを順に貫通するように、防水糸7eを縫着することもできる。(4)また、上記した以外にも、裾テープ7に通気孔7dをあらかじめ設けることをせず、裾テープ7に所定のミシン目で防水糸7eを裾テープ7に直接縫い付けることも可能である。このようにすれば、防水糸7eを裾テープ7に縫着すると同時に、ミシンの針によって裾テープ7にあけられた孔(縫い孔)を通気孔7dとすることができ、通気孔7dと防水糸7eを同時に設けることができる。これにより、通気孔7dを別途設けるといった工程を省略することができ、コストの削減が可能となる。
【実施例2】
【0050】
次に、本発明に係る靴および靴の製造方法の別の実施形態について図7〜図9を参照しつつ説明する。図7は紳士靴の斜視図および靴の長手方向縦断面図であり、図8は靴幅方向横断面図であり、図9はその製造工程を示すフロー図である。
【0051】
紳士靴1M’は、カリフォルニア式製法で形成されている。即ち、図8に示すように、表革2’と裏革3’とを重ねて縫製された甲皮4’の下端周縁部4a’と、中敷材5’の周縁部5a’とが縫着されて袋状をなし、このアッパー6’の下端周縁部6a’に裾テープ7’の幅方向一端部7a’が縫着されており、裾テープ7’の他端部7b’が中敷材5’の下側に配置され、中底8’に吊り込まれている。裾テープ7’には多数の通気孔7c’が散在して設けられている。そして、中底8’と中敷材5’とのあいだにクッション材の中物9’が配設されており、中底8’の下面に表底10’が固着されている。中物9’は上下二層になっており、上の中物11’は下の中物12’よりも小さく形成され、アッパー6’の下端周縁部6a’の内側に収まった状態になっている。一方、下の中物12’は中底8’と同様の大きさで形成されていて、その周縁部12a’がアッパー6’の下端周縁部6a’と中底8’の周縁部とのあいだに介在した状態になっている。
【0052】
続いて、紳士靴1M’の製造方法について図9を参照しつつ説明する。材料の皮革から表革2’を裁断するとともに、メッシュ構造の不織布から裏革3’と中敷材5’とをそれぞれ裁断し、表革2’と裏革3’とを重ねて縫製することで甲皮4’を製造する(工程I)。なお、表革2’や裏革3’の材料としては、天然皮革や合成皮革、ファブリックなどを使用することができ、表革2’と裏革3’とをあいだにシート状のクッション材を挟むことで、甲皮4’の足当りを良くすることもできる。
【0053】
この甲皮4’の下端周縁部4a’の外面に、裾テープ7の幅方向一端部7a’を縫着する(工程II)。この際、裾テープ7は、他端部7b’を上方に向けた状態で縫着し、縫着後に他端部7b’を下方に折り返す。この裾テープ7’には多数の通気孔7c’を散在させて設けた革を用いる。次に、甲皮4’の下端周縁部4a’と中敷材5’の周縁部5a’とを縫製することで袋状のアッパー6’を形成する(工程III)。このとき、中敷材5’の周縁部5a’を下方に折り込み、周縁部5a’を甲皮4’の下端周縁部4a’の内面と当接させた状態にして、周縁部5a’と下端周縁部4a’とを縫い合わせる(図8参照)。
【0054】
そして、アッパー6’に靴型13’を挿入して中敷材5’の下側にレザーやパルプ等のボード材からなる中底8’を配置するとともに、中敷材5’と中底8’とのあいだに中物9’を配置する。この中物9’は、連続気泡のスポンジ材やフェルトなど通気性を有する材料で形成されており、上の中物11’をアッパー6’の下端周縁部6a’の内側に収まるように配置するとともに、その下側に下の中物12’を重ねて配置する。
【0055】
次に、裾テープ7’の他端部7b’を中底8’に吊り込み(工程IV)、表底10’を中底8’に接着剤で固着する(工程V)。
【0056】
こうして製造された紳士靴1M’は、アッパー6’の下端周縁部6a’と中底8’とのあいだに中物9’の周縁部、つまり、下の中物12’の周縁部12a’が介在した状態になっている(図8(a)参照)。これにより、靴内部が中敷材5’、中物9’、裾テープ7’を通じて外部と連通可能となり、この経路を通じて換気が行われる(図8(c)参照)。これは、使用中において熱気がこもりやすい足裏が当接する靴内部の底の空気が入れ代わりやすいことを示している。つまり、靴内部の空気は中敷材5’を通過し中物9’を経由して裾テープ7’の通気孔7c’から外部に排出される。一方、外部の空気は排出の場合と逆の経路で靴内部に流入する。このような靴内部への空気の出入によって、熱気がこもりやすい足裏の蒸れが解消され、夏場でも快適な履き心地を保つことができる。しかも、従来のプラット式製法による屈曲性が損なわれないため、履き心地がソフトで歩きやすく、長時間歩いても疲れにくい。また、紳士靴1M’は従来の通気靴に見られるように、靴底に設けた通気孔により靴内部の換気を行っていないため、雨天時でも水が靴内部に浸入しにくい。
【0057】
また、前記実施例1の靴と同様、短靴以外にも使用することができ、熱気のこもりやすいブーツタイプの靴には特に好適である。中物9については、前記実施例1の靴と同様、図5(b)に示すように一体構造を採用することもできるし、上下の層で構造を異ならせることもできる。さらに、図5(c)に示すように、下層に靴長方向Xの縦断面が波型のシート材12’を用いる。こうすれば、クッション性や通気性が阻害されることがない。
【符号の説明】
【0058】
1M、1M’紳士靴
1W、1W’婦人靴
2 表革
3 裏革
4、4’ 甲皮
4a、4a’下端周縁部
4b 吊り込み代
5、5’ 中敷材
5a、5a’周縁部
6、6’ アッパー
6a 下端周縁部
7、7’ 裾テープ
7a、7a’一端部
7b、7b’他端部
7c 通気孔
7d 通気孔
7e 防水糸
8 中底
8a 前部中底
8b 後部中底
9、9’ 中物
10 表底
11 中物(上)
12 中物(下)
12a 周縁部
13 靴型
14 つま先部
15 土踏まず部
16 踵部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴幅方向縦断面において甲皮の両下端縁部と中敷材の周縁部とが縫着されているアッパーを備えた靴であって、
前記中敷材が、つま先部と土踏まず部および踵部の何れか1箇所または2箇所に設けられ、当該箇所において前記アッパーの下端縁部に裾テープの幅方向一端縁部が縫着され、当該裾テープの他端部は前記中敷材の下側に配置されている中底に吊り込まれ、当該中底と前記中敷材とのあいだには中物が介在されており、前記アッパーの下縁部と前記中底の縁部とのあいだには前記中物の縁部が介在した状態になっていて、表底が前記中底の下面に一部を固着させて前記アッパーと一体になっていることを特徴とする靴。
【請求項2】
前記中敷材が前記つま先部に設けられ、前記裾テープの他端縁部が前記中底としての前部中底に吊り込まれており、前記甲皮の前記土踏まず部および前記踵部には吊り込み代が設けられ、当該吊り込み代は後部中底に吊り込まれており、前記前部中底は前記後部中底よりも柔軟性を有し、前記表底が前記後部中底の下面にも一部が固着されて前記アッパーと一体になっていることを特徴とする請求項1記載の靴。
【請求項3】
前記中敷材と前記中物および前記裾テープが通気性に通気性を有する素材を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の靴。
【請求項4】
前記裾テープに複数の通気孔が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の靴。
【請求項5】
前記通気孔が、前記裾テープの幅方向の中心位置に、長手方向に所定の間隔をあけて設けられていることを特徴とする請求項4に記載の靴。
【請求項6】
前記各通気孔に、防水性の糸を順に貫通させて縫着したことを特徴とする請求項5に記載の靴。
【請求項7】
つま先部と土踏まず部および踵部の何れか1または2箇所において甲皮の下縁部に裾テープの幅方向一端部を縫着する工程と、前記箇所に中敷材を配設して当該中敷材の縁部と前記甲皮の下縁部とを縫着してアッパーを形成する工程と、前記箇所において前記中敷材の下側に中底を配置するとともに、当該中底と前記中敷材とのあいだに通気性を有する中物を配置して、当該中物の縁部を前記アッパーの下縁部と前記中底の縁部とのあいだに介在させた状態にし、前記裾テープの他端部を前記中底に吊り込む工程と、表底を前記中底の下面に一部を固着させて前記アッパーと一体にする工程とを備えることを特徴とする靴の製造方法。
【請求項8】
つま先部において甲皮の下縁部に裾テープの幅方向一端部を縫着する工程と、前記つま先部に中敷材を配設して当該中敷材の縁部と前記甲皮の下縁部とを縫着してアッパーを形成する工程と、前記つま先部において前記中敷材の下側に中底を配置するとともに、当該中底と前記中敷材とのあいだに通気性を有する中物を配置して、当該中物の縁部を前記アッパーの下縁部と前記中底の縁部とのあだに介在させた状態にし、前記裾テープの他端部を前記中底に吊り込む工程と、表底を前記中底の下面に一部を固着させて前記アッパーと一体にする工程とを備えることを特徴とする靴の製造方法。
【請求項9】
甲皮の下端周縁部と中敷材の周縁部とが縫着されて袋状をなし、この袋状のアッパーの下端周縁部に裾テープの幅方向一端縁部が縫着されるとともに、当該裾テープの他端部が中底に吊り込まれ、当該中底と前記中敷材とのあいだには中物が配設されており、前記中底の下面に表底が固着されている靴において、
前記中敷材と前記中物および前記裾テープがいずれも通気性を有し、前記中物の周縁部が前記アッパーの下端周縁部と前記中底の周縁部とのあいだに介在した状態になっていることを特徴とする靴。
【請求項10】
甲皮の下端周縁部に通気性を有する裾テープの幅方向一端部を縫着する工程と、前記甲皮の下端周縁部と通気性を有する中敷材の周縁部とを縫着して袋状のアッパーを形成する工程と、前記中敷材の下側に中底を配置するとともに、当該中底と前記中敷材とのあいだに通気性を有する中物を配置し、当該中物の周縁部を前記アッパーの前記下端周縁部と前記中底の周縁部とのあいだに介在させた状態にして前記裾テープの他端部を前記中底に吊り込む工程と、当該中底の下面に表底を固着する工程とを備えることを特徴とする靴の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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