説明

靴用防滑材および防滑靴底

【課題】雪上、氷結路面用防滑靴の靴底の長期間使用による膨潤や、強度低下を改良し、強度を維持する。
【解決手段】基材であるポリエステル繊維の不織布のシ−トを構成するポリエステル繊維の周囲、およびポリエステル繊維が構成する3次元網目構造の網目内部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させ、さらに、シートの表層部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させシートに成形し、使用に当たって靴底の意匠模様等に応じて任意の形状に裁断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴用防滑材および防滑靴底防滑靴底に関する。より詳細に述べると、本発明は、基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トの3次元網目構造の網目内部及び表層部に、接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子が含浸・固着された靴底用防滑材及びこのような靴底用防滑材を使用した滑靴底に関する。
【背景技術】
【0002】
雨に濡れた歩道、雪が積もった道路、氷結した道路、或いは舟の甲板、魚市場等濡れた路面を歩く場合、滑らないように、ゴム及び/又は熱可塑性合成樹脂を主成分とする靴底に防滑機能を持たせる各種の方法が採用されてきた。
【0003】
最も古典的な方法は、底を厚くして、深いしぼを形成することである。この従来法の場合、雪が深いしぼの溝の中に入り込み、凍結して、防滑効果が低下するという欠点、或いは氷結した道路で防滑効果が低下するという欠点がある。
【0004】
また、別の従来技術として、靴底にスタッドを埋設する方法がある。この従来技術の場合、雪がない道路や氷結していない舗装道路や鉄板の上を歩く時は、逆に滑りやすいという欠点や、靴全体の質量を増加させるという欠点がある。
【0005】
さらに、別の従来技術として、靴底の踵部分に鋼鉄製のフォーク形状のアンカーを埋め込み、必要に応じて、フォークが路面を咬むようにした方法がある。この従来技術の場合、靴に常時防滑機能が備わっていないので、煩わしいという欠点がある。
【0006】
然しながら、「滑る」という物理現象を理論的に考察すると、雨に濡れた歩道、雪が積もった道路、氷結した道路、或いは舟の甲板、魚市場等濡れた路面を歩行する際に使用するゴム及び/又は熱可塑性合成樹脂を主成分とする靴の底に使用する防滑材が防滑機能を満足に奏功するには、その防滑材に、靴の底と路面との界面の水をよく吸収する性質と、強度を維持するという二律背反する性質を同時に付与しなければならないことが理解される。
【0007】
一般に、2つの物体が接触したまま相対運動をしようとするとき、または相対運動をしつつあるときには、その界面で、運動を阻止しようとする力が接線方向に働く、このために発生する相対運動に対する抵抗を摩擦という。摩擦は、(1)みかけの接触面積の内部の何点かで真の接触が起き、そこで両面が凝着し、(凝着は塑性変形に伴って起き、その付近一帯が塑性変形する)相対運動が常にその凝着部の剪断などを伴う場合、(2)運動に伴って、片方が相手の面の凹凸を上下する際に、力学的エネルギーの一部が熱として失われる場合、(3)片方の面の凸部が相手の面を掘り起こしてゆく仕事がある場合に発生する。
【0008】
歩行する場合、ゴム及び/又は熱可塑性合成樹脂を主成分とする靴の底の面と路面が接触して、路面の凸部が靴の底の面を掘り起こしてゆく仕事をする場合に摩擦が発生し、歩行しても滑らなくなる。逆に、靴の底の面と、路面の堅い面との界面に、靴の底を被うような膜が形成され、路面の凸部が靴の底の面を掘り起こしてゆく仕事ができなくなった場合に、摩擦が発生しなくなり、滑るという現象が発生する。
【0009】
ゴム及び/又は熱可塑性合成樹脂を主成分とする靴の底の面と、路面との界面に形成される膜が形成される原因は水である。従って、滑りを防止するには、(イ)靴の底の面と、路面との界面に在る水を迅速に除去して、路面の凸部が靴の底の面を掘り起こしてゆく仕事ができるようにするか、(ロ)靴の底の面の凸部が、路面を掘り起こしてゆく仕事ができるようにすることである。(イ)のためには、靴の底に、迅速に且つ出来るだけ多くの水を吸収する性質を付与することである。(ロ)のためには、靴の底に、路面の硬度よりも高い高度を与え、路面を確実に咬む性質、即ち投錨効果を付与することである。
【0010】
この滑り理論を考察して、種子の殻、果実の核及び皮革の粉砕物の少なくとも一種をジエン系ゴム100重量部に対して3〜30重量部配合したことを特徴とするゴム及び/又は熱可塑性合成樹脂を主成分とする靴の底用ゴム組成物が提案された(特開平5−154005号公報)。
【0011】
然しながら、この従来技術の場合、長期間使用する間に、吸水性の種子の殻、果実の核及び皮革の粉砕物が膨潤して、強度が低下し、防滑機能が低下するという欠点がある。
【0012】
また、この滑り理論を考察して、ゴムおよび/または樹脂100重量部に対して、クルミ殻またはイネ科の穀物類の殻を平均粒子径1.0mm以下に粉砕した粉砕物を0.05重量部以上2.0重量部以下配合する方法が提案された(特許第3270387号公報)。
【0013】
然しながら、この従来技術の場合も、長期間使用する間に、吸水性の種子の殻の粉砕物が膨潤して、強度が低下し、防滑機能が低下するという欠点がある。
【0014】
上述した滑り理論を考察して提案された従来技術の欠点を改良する方法として、本願発明者は、セラミックス粒子の周囲に、籾殻粒子及び/又は果実の核種子粒子を結合させたゴム及び/又は熱可塑性合成樹脂を主成分とする靴底用防滑材と、この靴底用防滑材の所定量を靴底モールド上に載置し、次いで靴底用ゴム及び/又は熱可塑性合成樹脂配合物を充填し、プレスすることを含む防滑底を製造する方法を提案して特許出願した(特開2006−230978)。この従来技術で使用する有機物質である籾殻とは稲、大麦、小麦、燕麦、粟、ヒエ、きび等穀物の外皮の粉砕物であり、果実の核種子粒子とはアプリコット、桃、クルミ、梅等果実の核種子の粉砕粒子である。
【0015】
この従来技術は、セラミックスを使用することにより、靴の底に路面の硬度よりも高い高度を与え、路面を確実に咬む性質、即ち投錨効果を付与することができ、靴の底の面の凸部が、路面を掘り起こしてゆく仕事ができるようにしたこと、及び稲、大麦、小麦、燕麦、粟、ヒエ、きび等穀物の外皮の粉砕物或いはアプリコット、桃、クルミ、梅等果実の核種子の粉砕粒子等吸水性粒子を使用することにより、靴の底に、迅速に且つ出来るだけ多くの水を吸収する性質を付与することができるようにしたので、靴の底と路面との界面の水をよく吸収する性質と、強度を維持するという二律背反する性質を同時に付与することができるという点で優れた防滑靴底を提供することができる。
【0016】
この従来技術は、純技術的には優れた防滑靴底を提供することができるが、生産性、生産コスト、及びマーチャンダイジングの観点から改良の余地がある。
【0017】
そこで、本発明者は、基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを構成する繊維の周囲にセラミックス粒子を固着させた靴底用防滑材を開発して特許出願した(特許文献1)。特許文献1に記載された靴底用防滑材は、防滑性能及び耐久性は申し分ないが、雪面を長時間歩行すると防滑材の表面に雪が固着してセラミックス粒子の防滑効果が著しく低下するという欠点があることが分かった。
【特許文献1】特開平5−154005号公報
【特許文献2】特願2004−64744号
【特許文献3】特許第3270387号公報
【特許文献4】特開2006−289013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを構成する繊維の周囲にセラミックス粒子を固着させた従来の靴底用防滑材の欠点である雪面を長時間歩行すると防滑材の表面に雪が固着してセラミックス粒子の防滑効果が著しく低下することを改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを構成する繊維の周囲にセラミックス粒子を固着させた従来の靴底用防滑材は、シートを構成する繊維の周囲だけにセラミックス粒子が固着されていて、シ−トの3次元網目構造の網目は空洞のままである。従って、このような防滑靴で長時間雪面を歩行すると、シ−トの3次元網目構造の網目の中に雪が入り込み、これが時間と共に氷結して、シートの表面に氷の被膜が形成された状態になる。このために、前述した防滑理論、即ち、(イ)靴の底の面と路面との界面に在る水を迅速に除去して、路面の凸部が靴の底の面を掘り起こしてゆく仕事ができるようにすること、および(ロ)防滑靴底の面に固着されている防滑材(この場合、セラミックス粒子)が、路面を掘り起こしてゆく仕事ができるようにすることの両方が不可能になる。
【0020】
そこで、本発明者は、基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを構成するポリエステル繊維の周りだけではなく、ポリエステル繊維が構成する3次元網目構造の網目内部にも接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させ、さらに、シートの表層部にも接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させることを検討した。
【0021】
従って、本発明によると、上記課題は次ぎのようにして解決される。
1.基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを構成するポリエステル繊維の周囲、およびポリエステル繊維が構成する3次元網目構造の網目内部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させ、さらに、シートの表層部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させたシート状靴用防滑材であって、使用に当たって靴底の意匠模様等に応じて任意の形状に裁断できる靴用防滑材。
【0022】
2.前記1項において、ポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トの厚さを1〜10mmとする。
【0023】
3.前記1又は2項において、接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子をシートの最表面から深さ2〜4mmの範囲で含浸・固着させる。
【0024】
4.前記1〜3のいずれか1項において、セラミックス粒子の粒径を65〜1000μmとする。
【0025】
5.前記1〜4のいずれか1項に記載したシート状靴用防滑材を靴底の意匠模様等に応じて任意の形状に裁断し、靴底モールドに載置し、ついで靴底用ゴム及び/又は熱可塑性合成樹脂配合物を充填し、プレスして製造された防滑靴底。
【発明の効果】
【0026】
請求項1に記載した発明により、下記に例示する効果が得られる。
1.分子末端に水酸基とカルボキシル基を有し、適度の吸水性を備えており、かつ優れた強度、耐摩耗性、耐久性、弾性力があり、ハリ、コシがあり、比熱、熱伝導率が小さく、繊維自体の抵抗力が強く、耐熱性が高い等の優れた物性を有しているポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを基材として、セラミック粒子を防滑材主材として使用するので、靴の底の面と、路面との界面に在る水を迅速に除去して、路面の凸部が靴の底の面を掘り起こしてゆく仕事ができ、同時に、靴の底の面の凸部が、路面を掘り起こしてゆく仕事ができるので、雪が積もった道路、氷結した道路等路面を歩行する際に、防滑機能を理想的に奏功することができる。
【0027】
2.基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを構成するポリエステル繊維の周囲、およびポリエステル繊維が構成する3次元網目構造の網目内部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させ、さらに、シートの表層部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させたので、長時間雪面を歩行しても、シ−トの3次元網目構造の網目の中に雪が入り込むことがない。従って、時間と共に氷結して、シートの表面に氷の被膜が形成されることがないので、靴の底の面と路面との界面に在る水を迅速に除去して、路面の凸部が靴の底の面を掘り起こしてゆく仕事ができ、且つ防滑靴底の面に固着されている防滑材、即ち、セラミックス粒子が、路面を掘り起こしてゆく仕事ができ、長期間にわたって、ほぼ完璧な防滑効果が維持される。
【0028】
3.シート状に製造されているので、使用に当たって靴底の意匠模様等に応じて任意の形状に裁断できるので、靴底の意匠模様に合わせたモールドを用意する必要がなくなる。また、モールドにセラミックス粒子を散在させて製造する従来法に比べて、セラミックス粒子の使用量が少なくて済み、靴底の製造コストを下げる。
【0029】
請求項2に記載した発明により、ポリエステル繊維製の織布または不織布製シートの厚さを1〜10mmとしたので、セラミックス粒子の粒径及び取り込み量も限定されずに防滑効果が奏功され、履用時に安定感をもたせることができる。
【0030】
請求項3に記載した発明により、接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子をシートの最表面から深さ2〜4mmの範囲で含浸・固着させたので、防滑材としての機能が長期間維持される。
【0031】
請求項4に記載した発明により、セラミックス粒子の粒径を65〜1000μmとしたので、防滑効果が低減することなく、ポリエステル繊維製シートとの契合力が安定し、脱落しない。
【0032】
請求項5に記載した発明により、防滑靴底を、請求項1〜4のいずれか1項に記載したシート状靴用防滑材を靴底の意匠模様等に応じて任意の形状に裁断し、靴底モールドに載置し、ついで靴底用ゴム及び/又は熱可塑性合成樹脂配合物を充填し、プレスして製造するので、靴底の意匠模様に合わせたモールドを用意する必要がなくなり、また、モールドにセラミックス粒子を散在させて製造する従来法に比べて、セラミックス粒子の使用量が少なくて済み、靴底の製造コストを下げる。
【0033】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル繊維は、極性基として多量のカルボニル基と分子末端に水酸基とカルボキシル基を有するが、全体としては疎水性が高く、緻密な構造を有しており、ナイロンに次ぐ強度の強さがあり、耐摩耗性、耐久性が高い、弾性力があり、ハリ、コシがあり、比熱、熱伝導率が小さい、繊維自体の抵抗力が強い、耐熱性が高い等の優れた物性を有している。
【0034】
ポリエステル繊維は、一般には、疎水性が高いとされているが、分子末端に水酸基とカルボキシル基を有するので、完全な疎水性ではなく、ある程度の吸湿性を備えている。従って、雨に濡れた歩道、雪が積もった道路、氷結した道路、或いは舟の甲板、魚市場等濡れた路面を歩行する際に使用するゴム及び/又は熱可塑性合成樹脂を主成分とする靴の底に使用する防滑材が防滑機能を満足に奏功するには、その防滑材に、靴の底と路面との界面の水をよく吸収する性質と、強度を維持するという二律背反する性質を同時に付与しなければならないとされる、「滑り」の理論面からも、優れた防滑材といえる。
【0035】
本発明において、ポリエステル繊維の織布または不織布のから成るシ−トの厚さは1〜10mmの範囲が好ましい。ポリエステル繊維の織布または不織布のから成るシ−トの厚さが、1mm以下の場合、容易に摩滅しやすく、10mm以上になると、履用時の安定性や、過剰物性になり、さらにコストを引き上げるので好ましくない。
【0036】
本発明で使用する用語「セラミックス」は、「高温で焼結または溶融して製造された主要構成物質が無機・非金属である固体材料」と定義する。
【0037】
本発明で使用されるセラミックスの例としては、酸化物セラミックスがある。酸化物セラミックスには、アルミナ(酸化アルミニウム)、アルミネイト、ムライト、亜鉛酸化物、希土類酸化物、クロム酸化物、コバルト酸化物、シリカ、ジルコニア、スズ酸化物、タングステン酸化物、ジルコン酸塩等が例示される。
【0038】
本発明で使用されるセラミックスの別の例としては、非酸化物セラミックスがある。非酸化物セラミックスには、窒化物(Si3N4、AlN、BN、TiN等)、炭化物(SiC、TiC、B4C、WC等)、硼化物(LaB6、TiB2、ZrB2等)、硫化物(CdS、MoS2等)、けい化物(MoSi2等)が例示される。
【0039】
本発明では、さらにセラミックスをマトリックスとするセラミックス複合材料、セラミックス中に繊維を配合することによって強度又は靭性を強化した繊維強化セラミックス、セラミックス中に母材と異なる材質の粒子を分散させて強度又は靭性を強化した粒子分散セラミックス、セラミックスと金属との複合材料であるサ−メットも使用することができる。
【0040】
本発明で使用される好ましいセラミックスは、酸化物のアルミナと非酸化物である炭化チタンから成る緻密でビッカース硬さが2000と大きな炭化チタン分散アルミナ、或いはジルコニア微粒子を添加したジルコニア添加アルミナ、部分安定化ジルコニアなどにアルミナを分散させてジルコニアの粒成長を抑制し、強度や靭性を更に改善したアルミナ分散ジルコニア、炭化チタン、炭化タングステン、窒化チタン、硼化チタン、硼化ジルコニウム等である。
【0041】
本発明で使用するセラミックス粒子は、それ自体が在る程度の吸水性能を有していることが好ましい。そのためには、セラミックス粒子の表面に気孔を形成することが好ましい。気孔は、連続気孔より独立気孔の方は好ましい。ただし、100%連続気孔、或いは100%独立気孔の形成は難しく、それぞれが混在している場合が殆どである。気孔を形成するのは、セラミックス製造時に、籾殻や有機繊維を混合して焼成する方法が一般的で、ガラス質が形成されるような温度でこれらがガス化する際、閉気孔をもつ多孔体が製造される。
【0042】
本発明で使用するセラミックス粒子の平均粒径は65〜1000μm、好ましくは500〜1000μmである。セラミックス粒子の平均粒径が65μm以下になると、微細な粉体となり、防滑効果が低減するので好ましくない。逆に、セラミックス粒子の平均粒径が1000μm(1mm)以上になると、ポリエステル系繊維製の織布または不織布から成るシートで加工したシートとの契合力が弱化し、脱落しやすくなるので好ましくない。
【0043】
本発明において、基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを構成するポリエステル繊維の周囲、およびポリエステル繊維が構成する3次元網目構造の網目内部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させ、並びにシートの表層部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させる方法は、セラミックス粒子を含む接着剤の中に浸漬(ジッピング)法、スプレイング法、刷毛塗り法等任意の方法が採用される。
【0044】
基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを構成するポリエステル繊維の周囲、および3次元網目構造の網目内部、並びにシートの表層部に含浸・固着される全セラミックスの量は、シート1cm3当たり0.5〜2gの範囲が好ましい。セラミックス粒子の含浸・固着量が、0.5g以下の場合、容易に摩滅し、防滑効果が低減するので好ましくない。逆に、セラミックス粒子の量が、2g以上になると、防滑効果の点で過剰物性になり、徒にコストを引き上げることになるので好ましくない。
【0045】
本発明の防滑靴底は、上述した方法によって製造した基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを構成するポリエステル繊維の周囲、およびポリエステル繊維が構成する3次元網目構造の網目内部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させ、さらに、シートの表層部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させたシート状靴用防滑材を、靴底の意匠模様等に応じて任意の形状に裁断し、靴底モールドに載置し、ついで靴底用ゴム及び/又は熱可塑性合成樹脂配合物を充填し、プレスして製造される。
【0046】
本発明の防滑靴底に使用する主材は、ゴム又は熱可塑性合成樹脂、或いはゴムと熱可塑性合成樹脂との混合物であり、特段に限定されない。ただし、本発明の防滑靴底に使用する主材としてゴムを使用した場合、比較的柔らかいゴム(硬度45〜70°)であれば、ゴム配合はあまり関係なく製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、発明を実施するための最良の形態を実施例、試験例を参照して具体的に説明する。
【0047】
[実施例1]
基材としてのポリエステル繊維性の不織布としてスリーエムエステー社製の厚さ8mm、長さ255mm、幅115mm、目付量20gのものを用意した。
【0048】
セラミックス粒子として、昭和電工株式会社製のホワイトモランダム電融白色アルミナを使用した。このセラミックス粒子の見掛け比重は1.75、吸水率0%、モース硬度9、標準粒径は65μmである。
【0049】
基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを構成するポリエステル繊維の周囲、およびポリエステル繊維が構成する3次元網目構造の網目内部、さらにシートの表層部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させるための接着剤としてウレタン系接着剤を使用した。接着剤100ccと、前記セラミックス粒子100gを混合して、粘度7500〜9500mPa・Sに調整した。この接着剤とセラミックス粒子との混合液を、ブラッシで、前記シートの表面から深さ3mmまで丹念に刷毛塗りしてシート状の靴用防滑材を製造した。図1は、このシート状の靴用防滑材の断面図である。1はシート状の靴用防滑材を示している。2は接着剤とセラミックス粒子との混合液が含浸している表層部を示している。3はセラミックス粒子を示している。4は接着剤で、シートの表層部から内部にまで浸透している状態を示している。
【0050】
下記の配合で靴底用ゴム配合物を製造した。
成分 質量部
天然ゴム 100
イソプレンラバー 150
シリカ 25
加硫促進剤 M 5.5
加硫促進剤 TS 0.7
ステアリン酸 2.5
酸化亜鉛 12.5
硫黄 6
【0051】
前記のシート状靴底防滑材を、靴底の意匠模様に対応させて裁断して靴底モールドに載置し、次いで上記のゴム配合物100gを充填し従来法により成形して靴底を製造した。図2は、このようにして製造した靴の底面図である。5、6が、前記のシート状靴底防滑材を、靴底の意匠模様に対応させて裁断した部分である。
【0052】
[効果確認試験例1]
本発明の靴底用防滑材の鉄板上の防滑性能を、対照1(防滑材無添加ゴム)及び対照2(セラミックス添加ゴム)のそれと比較して表−1に示す。
【0053】
【表−1】

【0054】
[雪面歩行試験例2]
本発明の防滑材を固着させた靴底を備えた靴(実施例)、防滑材を備えていない靴(比較例1)、およびセラミックスを配合したゴムで製造した靴底を備えた靴(比較例2)を、それぞれ100名のモニターに履かせ、実際に同じ気象条件、環境下で雪面を歩行してもらって、その相対評価を得た。本発明の防滑材を固着させた靴底を備えた靴を試験した100名のモニターは、1時間雪面を歩行したが、靴底面に雪は固着せず、優れた防滑効果を示したとの評価を示した。比較例1の靴を試験した100名のモニターは、10分間の歩行で、靴底面に雪が固着し、防滑効果は無かったとの評価を示した。比較例2の靴を試験した100名のモニターは、30分間の歩行で、靴底面に雪が固着し、防滑効果は、それほど優れたものでは無かったとの評価を示した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のシート状靴用防滑材は、上述した構成なので、下記に例示する産業上の利用可能性がある。
1.分子末端に水酸基とカルボキシル基を有し、適度の吸水性を備えており、かつ優れた強度、耐摩耗性、耐久性、弾性力があり、ハリ、コシがあり、比熱、熱伝導率が小さく、繊維自体の抵抗力が強く、耐熱性が高い等の優れた物性を有しているポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを基材として、セラミック粒子を防滑材主材として使用するので、靴の底の面と、路面との界面に在る水を迅速に除去して、路面の凸部が靴の底の面を掘り起こしてゆく仕事ができ、同時に、靴の底の面の凸部が、路面を掘り起こしてゆく仕事ができるので、雪が積もった道路、氷結した道路等路面を歩行する際に、防滑機能を理想的に奏功することができる。従って、従来にない、強度、防滑効果、耐久性に優れた靴用防滑材を製造することができるという産業上の利用可能性がある。
【0056】
2.基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを構成するポリエステル繊維の周囲、およびポリエステル繊維が構成する3次元網目構造の網目内部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させ、さらに、シートの表層部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させたので、長時間雪面を歩行しても、シ−トの3次元網目構造の網目の中に雪が入り込むことがない。従って、時間と共に氷結して、シートの表面に氷の被膜が形成されることがないので、靴の底の面と路面との界面に在る水を迅速に除去して、路面の凸部が靴の底の面を掘り起こしてゆく仕事ができ、且つ防滑靴底の面に固着されている防滑材、即ち、セラミックス粒子が、路面を掘り起こしてゆく仕事ができ、長期間にわたって、ほぼ完璧な防滑効果が維持される。従って、強度、防滑効果、耐久性に優れた靴用防滑材を製造することができるという産業上の利用可能性がある。
【0057】
3.シート状に製造されているので、使用に当たって靴底の意匠模様等に応じて任意の形状に裁断できるので、靴底の意匠模様に合わせたモールドを用意する必要がなくなる。また、モールドにセラミックス粒子を散在させて製造する従来法に比べて、セラミックス粒子の使用量が少なくて済み、靴底の製造コストを下げることができるという産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のシート状靴用防滑材の断面図。
【図2】本発明のシート状靴用防滑材を固着させた防滑靴の底面図。
【符号の説明】
【0058】
1 シート状靴用防滑材
2 シート状靴用防滑材の表層部
3 セラミックス
4 接着剤
5 靴面に固着させた防滑材
6 靴面に固着させた防滑材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材であるポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トを構成するポリエステル繊維の周囲、およびポリエステル繊維が構成する3次元網目構造の網目内部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させ、さらに、シートの表層部に接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子を含浸・固着させたシート状靴用防滑材であって、使用に当たって靴底の意匠模様等に応じて任意の形状に裁断できる靴用防滑材。
【請求項2】
ポリエステル繊維の織布または不織布のシ−トの厚さが1〜10mmである請求項1に記載したシート状靴用防滑材。
【請求項3】
接着剤を結合媒体とするセラミックス粒子がシートの最表面から深さ2〜4mmの範囲で含浸・固着される請求項1又は2に記載したシート状靴用防滑材。
【請求項4】
セラミックス粒子の粒径が65〜1000μmである請求項1〜3のいずれか1項に記載したシート状靴用防滑材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載したシート状靴用防滑材を靴底の意匠模様等に応じて任意の形状に裁断し、靴底モールドに載置し、ついで靴底用ゴム及び/又は熱可塑性合成樹脂配合物を充填し、プレスして製造された防滑靴底。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−90065(P2009−90065A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285549(P2007−285549)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000167820)広島化成株式会社 (65)
【Fターム(参考)】