説明

【課題】甲ベルトが着用者の足の動きを阻害せず、履き心地が良好であるだけでなく、甲ベルトを外さなくても履いたり脱いだりすることが可能でありながら、着用時に甲被から甲ベルトが外れたとしても、甲ベルトが垂れ下がった状態とならないベルト式の靴を提供する。
【解決手段】靴を、甲の締付状態を調節するための甲ベルト10を備え、甲ベルト10の付根付近における所定区間αが伸縮素材11で形成されたものとし、甲ベルト10を通すためのベルト通し30を甲被20に形成し、甲ベルト10における所定区間αの外面のうち少なくとも一部をベルト通し30によって覆った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲の締付状態を調節するための甲ベルトが備えられたベルト式の靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
甲の締付状態を靴紐によって調節する靴(いわゆる紐靴)は、履いたり脱いだりする際に靴紐を解かなければならない。また、着用時に靴紐が緩むと、靴紐を締めなおさなければならず、非常に煩わしい。このため、紐靴を敬遠する者も多く、甲の締付状態を甲ベルトで調節することができるようにした靴(以下において、この種の靴を「ベルト式の靴」と呼ぶことがある。)が普及している。
【0003】
ベルト式の靴にも、様々な種類があるが、甲ベルトの一端(基端)が甲被に固定された固定端とされ、甲ベルトの他端(先端)が甲被から着脱自在な自由端とされ、甲被に対する甲ベルトの先端を留める位置を調節することにより、甲の締付状態を調節することができるようにしたものが主流となっている。
【0004】
この種のベルト式の靴において、甲ベルトの先端を甲被に留めるための手段は様々であるが、操作の簡便さや製造コストの安さなどを考慮して、甲被の外面と、甲ベルトの先端の内面(甲ベルトの先端を甲被に留めた際に内側を向く面)のうち、いずれか一方に雄の面ファスナを設け、他方に雌の面ファスナを設けたもの(面ファスナ型)が一般的となっている。
【0005】
ベルト式の靴には、面ファスナ型のほか、甲被に支持されたピンを、甲ベルトの先端に所定間隔で設けられた複数の孔のうちいずれか1つに挿し込むようにしたもの(ピンバックル型)や、甲被に支持された一対のプレートの間に甲ベルトを挟みこませるようにしたもの(プレートバックル型)や、甲被に支持された複数のリングの間に甲ベルトを挟み込むようにしたもの(リングバックル型)や、スナップボタンなどのボタンを用いて甲ベルトを甲被に留めるようにしたもの(ボタン型)などがある。
【0006】
ベルト式の靴は、紐靴に比べて、容易に履いたり脱いだりすることができるため、様々な用途の靴で採用されていた。しかし、ベルト式の靴は、甲ベルトの先端を甲被に留めると、甲の締付具合が一様であった(例えば、甲ベルトをきつく締めた状態で留めると、靴を脱ぐまで甲がきつく締められたままとなる)ため、履き心地がよいものが少なかった。また、ベルト式の靴は、紐靴と比較して、容易に履いたり脱いだりできるものの、それでもなお、甲ベルトの先端を甲被から外さなければ履いたり脱いだりすることができなかった。
【0007】
このような実状に鑑みてか、これまでには、甲ベルトの全体を伸縮素材で形成したベルト式の靴(例えば、特許文献1〜3を参照)や、甲ベルトの付根付近における所定区間が伸縮素材で形成された靴(例えば、特許文献4、5を参照)が提案されている。これにより、甲ベルトを足の動きなどに応じて伸縮させることが可能になるので、靴の履き心地が向上するだけでなく、甲ベルトの先端を甲被から外さなくても、靴を履いたり脱いだりすることも可能になる。
【0008】
ところが、ベルト式の靴は、その着用者が激しい動作を行った際などに、甲ベルトの先端が甲被から外れることがあった。このような場合において、図6に示すように、甲ベルト10に伸縮素材11が用いられていると、図7に示すように、甲被20から甲ベルト10が外れた際には、伸縮素材11がそれよりも先端側の甲ベルト10を支持することができず、甲ベルト10の全体が甲被20から垂れ下がったままの状態となりやすかった。
【0009】
このため、甲ベルト10に伸縮素材11が用いられたベルト式の靴の着用者は、甲被20から外れた甲ベルト10を自ら踏んで躓くおそれがあった。したがって、甲ベルト10に伸縮素材11が用いられたベルト式の靴は、その履き心地や履きやすさの反面、ちょっと躓いただけでも転倒するおそれのある小さな子供や、高齢者や、リハビリを受ける患者などが着用するものとしては、必ずしも好適なものとはなっていなかった。
【0010】
履き心地が良好であるだけでなく、甲ベルトを外さなくても履いたり脱いだりすることが可能でありながら、着用時に甲被から甲ベルトが外れたとしても、甲ベルトが垂れ下がった状態とならないベルト式の靴があればよいのであるが、これらの課題を解決したベルト式の靴は、これまでに見当たらなかった。
【0011】
【特許文献1】実開昭56−009203号公報
【特許文献2】実登第3035815号公報
【特許文献3】特開2000−116409号公報
【特許文献4】実開昭56−142603号公報
【特許文献5】特開2008−188312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、甲ベルトが着用者の足の動きを阻害せず、履き心地が良好であるだけでなく、甲ベルトを外さなくても履いたり脱いだりすることが可能でありながら、着用時に甲被から甲ベルトが外れたとしても、甲ベルトが垂れ下がった状態とならないベルト式の靴を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、甲の締付状態を調節するための甲ベルトが備えられ、甲ベルトの付根付近における所定区間αが伸縮素材で形成された靴であって、甲ベルトを通すためのベルト通しが甲被に形成され、甲ベルトにおける所定区間αの外面のうち少なくとも一部が前記ベルト通しによって覆われたことを特徴とする靴を提供することによって解決される。
【0014】
これにより、甲被から甲ベルトの先端が外れて甲ベルトが開こうとした際に、前記ベルト通しの上縁で甲ベルトを垂れ下がらないように支持するだけでなく、甲ベルトにおける前記ベルト通しの上縁で折り曲げられた部分(折れ曲がり部)の表裏に生ずる応力の差によって、甲ベルトを自然に初期位置に復帰させることも可能になる。したがって、甲ベルトの先端が甲被から一旦外れたとしても、甲ベルトの先端を自動的に甲被に留めることが可能になる。甲ベルトの表裏に生ずる応力の差については、後で詳しく説明する。
【0015】
ところで、「甲被」という語は、狭義には、靴における足を覆う部分のうち、足首よりも爪先側の地面に接しない部分(甲)を覆う部分を意味することがある。しかし、本明細書において、「甲被」という語は、靴における足を覆う部分のうち、靴底を除いた部分という意味で用いている。したがって、靴における足を覆う部分のうち、足首の真下を覆う部分や、足首よりも踵側を覆う部分にベルト通しが形成された靴であっても、本発明の技術的範囲に含まれるものとする。
【0016】
また、「甲被」という語は、狭義には、靴における足を覆う部分であって、連続した面材で形成された部分を意味することがある。しかし、本明細書において、「甲被」という語は、靴における足を覆う部分が連続した面材で形成されている場合に限定されず、開口部を有する面材や、その他、帯や紐や網など、あるいはこれらを組み合わせて形成された場合であっても、その概念に含まれるものとする。
【0017】
上記の靴において、前記ベルト通しは、甲ベルトにおける所定区間α(伸縮素材で形成された区間)の外面のうち、少なくとも一部を覆うように形成されていれば特に限定されないが、甲ベルトにおける所定区間αの外面の実質的に全体を覆うように形成されていると好ましい。これにより、甲ベルトにおける伸縮素材で形成された部分を汚れにくくするだけでなく、当該部分が日光や雨水などによって劣化するのを防止して、靴の寿命を長くすることも可能になる。
【0018】
ここで、「甲ベルトにおける所定区間αの外面の実質的に全体」とは、甲ベルトにおける所定区間αが自然長である(甲ベルトの長手方向に沿って伸縮素材が伸び縮みしていない)ときの所定区間αの外面に対して実質的に全体という意味である。また、「実質的に全体が前記ベルト通しによって覆われ」とは、該当部分の全体の面積に対して80%以上の範囲が前記ベルト通しによって覆われていることをいい、好適には85%以上、より好適には90%以上、さらに好適には95%以上の範囲が前記ベルト通しによって覆われていることをいう。
【0019】
また、上記の靴において、前記ベルト通しは、その形成方法を特に限定されるものではなく、例えば、甲被に一対のスリットを設けることなどにより形成されたものであってもよい。しかし、この場合には、前記スリットなどを起点として甲被が裂けやすくなるおそれがある。したがって、前記ベルト通しは、甲ベルトの幅よりも長い長さの帯状材を甲ベルトに対して略垂直となるように重ね、該帯状材の両端を甲被に対して固着することにより形成すると好ましい。これにより、甲被を裂けにくくすることが可能になり、靴の寿命を長くすることが可能になる。
【0020】
さらに、上記の靴において、甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材(所定区間α)の長さは、靴の用途や伸縮素材の種類などによっても異なり、特に限定されない。しかし、甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の長さが短すぎると、甲ベルトに所望の伸縮性を付与することが困難になる。このため、甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の長さは、通常、3mm以上とされる。甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の長さは、5mm以上であると好ましく、7mm以上であるとより好ましい。
【0021】
一方、甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の長さが長すぎると、前記ベルト通しを配する場所を確保しにくくなるおそれがある。また、甲ベルトが伸びやすくなりすぎて、甲ベルトによる甲の締付力が低下するおそれもある。さらに、靴の見た目が悪くなるおそれもある。このため、甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の長さは、通常、30mm以下とされる。甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の長さは、25mm以下であると好ましく、20mm以下であるとより好ましい。
【0022】
ここで、「甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の長さ」とは、甲ベルトにおける所定区間αが自然長であるときの甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の長さ(該長さが場所によって異なる場合はその最小値)を意味している。
【0023】
さらにまた、甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の伸び率は、靴の用途や伸縮素材の長さなどによっても異なり、特に限定されない。しかし、甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の伸び率が小さすぎると、甲ベルトに所望の伸縮性を付与することが困難になる。このため、甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の伸び率は、通常、130%以上とされる。伸縮素材の伸び率は、150%以上であると好ましく、170%以上であるとより好ましい。
【0024】
一方、甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の伸び率が大きすぎると、甲ベルトが伸びやすくなりすぎて、甲ベルトによる甲の締付力が低下するおそれがある。また、甲ベルトの強度を維持するのが困難になるおそれもある。このため、甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の伸び率は、通常、400%以下とされる。甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の伸び率は、300%以下であると好ましく、250%以下であるとより好ましい。
【0025】
ここで、甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の「伸び率」とは、「JIS L 1018」に規定される定荷重法に準拠して測定された定荷重時伸び率(%)を意味している。
【0026】
ところで、上記課題は、甲の締付状態を調節するための甲ベルトが備えられ、甲ベルトの付根付近における所定区間αが伸縮素材で形成された靴であって、甲ベルトを通すためのベルト通しが甲被に形成され、甲ベルトにおける所定区間αよりも先端側の外面のうち少なくとも一部が前記ベルト通しによって覆われたことを特徴とする靴を提供することによっても解決される。
【0027】
これによっても、甲被から甲ベルトの先端が外れて甲ベルトが開こうとした際に、前記ベルト通しの上縁で甲ベルトを垂れ下がらないように支持するだけでなく、甲ベルトにおける前記ベルト通しの上縁で折り曲げられた部分(折れ曲がり部)の表裏に生ずる応力の差によって、甲ベルトを自然に初期位置に復帰させることも可能になる。したがって、甲ベルトの先端が甲被から一旦外れたとしても、甲ベルトの先端を自動的に甲被に留めることが可能になる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明によって、甲ベルトが着用者の足の動きを阻害せず、履き心地が良好であるだけでなく、甲ベルトを外さなくても履いたり脱いだりすることが可能でありながら、着用時に甲被から甲ベルトが外れたとしても、甲ベルトが垂れ下がった状態とならないベルト式の靴を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
1.0 第一実施態様の靴
本発明の靴の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、本発明の靴の好適な実施態様(第一実施態様)を示した斜視図である。図2は、本発明の第一実施態様の靴におけるベルト通し周辺を、甲被に垂直でベルト通しの長手方向に沿った中心線を含む面で切断した状態を示した拡大断面図(図1におけるA−A断面図)である。図3は、本発明の第一実施態様の靴における甲ベルトを閉じた際のベルト通し周辺を、甲被に垂直でベルト通しの短手方向に沿った中心線を含む面で切断した状態を示した拡大断面図(図1におけるB−B断面図)である。図4は、本発明の第一実施態様の靴における甲ベルトを開いた際のベルト通し周辺を、甲被に垂直でベルト通しの短手方向に沿った中心線を含む面で切断した状態を示した拡大断面図(図1におけるB−B断面図に相当する断面図)である。図1〜図4において、靴は、右足用のもののみを図示しているが、左足用の靴においては、右足用の靴と左右対称な構成を採用することができる。
【0030】
本発明の第一実施態様の靴は、図1に示すように、甲の締付状態を調節するための甲ベルト10を備え、甲ベルト10の付根(基端)付近における所定区間αが伸縮素材11で形成されたものとなっている。甲被20の外面には、甲ベルト10を通すためのベルト通し30が形成されており、甲ベルト10における伸縮素材11で形成された所定区間αの外面の実質的に全体がベルト通し30によって覆われた状態となっている。
【0031】
1.1 甲ベルト(所定区間α)
甲ベルト10の所定区間αを形成する伸縮素材11は、伸縮性を有する素材であればその種類は特に限定されない。伸縮素材11としては、合成ゴム単体や天然ゴム単体からなるもののほか、これらのゴムからなる繊維を他の繊維と織製したゴム入り織物などが例示される。第一実施態様の靴において、伸縮素材11は、甲ベルト10の長手方向に沿う経糸としてゴムからなる伸縮性を有する繊維を用い、甲ベルト10の短手方向に沿う緯糸として非伸縮性の繊維を用いたゴム入り織物によって形成している。
【0032】
このように、伸縮素材11をゴム入り織物とすることによって、伸縮素材11を甲ベルト10の長手方向のみに伸縮して、甲ベルト10の短手方向には伸縮しないようにすることが可能になる。したがって、伸縮素材11の伸縮性を維持しながらも、伸縮素材11の引張強度を増大させることが可能になる。また、伸縮素材11を日光や雨水などによって劣化しにくくするだけでなく、靴全体を水洗いすることもできるようになる。
【0033】
甲ベルト10の長手方向に沿った方向での伸縮素材11の長さや伸び率は、上述の通り、特に限定されないが、第一実施態様の靴においては、甲ベルト10の長手方向に沿った方向での伸縮素材11の長さが約10mmとなっており、甲ベルト10の長手方向に沿った方向での伸縮素材11の伸び率が約200%となっている。このため、甲ベルト10は、自然長のときよりも10mm程度は伸長することができるようになっている。
【0034】
また、甲ベルト10の短手方向に沿った方向での伸縮素材11の長さ(伸縮素材11が自然長であるときの長さ)は、甲ベルト10における伸縮素材11で形成された所定区間α以外の部分の幅などによっても異なり、特に限定されない。しかし、甲ベルト10の短手方向に沿った方向での伸縮素材11の長さが短すぎると、伸縮素材11の強度を確保しにくくなる。このため、甲ベルト10の短手方向に沿った方向での伸縮素材11の長さは、通常、10mm以上とされる。甲ベルト10の短手方向に沿った方向での伸縮素材11の長さは、15mm以上であると好ましく、20mm以上であるとより好ましい。
【0035】
一方、甲ベルト10の短手方向に沿った方向での伸縮素材11の長さが長すぎると、伸縮素材11に所望の伸縮性を付与しにくくなるおそれがある。また、靴の見た目が悪くなるおそれもある。このため、甲ベルト10の短手方向に沿った方向での伸縮素材11の長さは、通常、50mm以下とされる。甲ベルト10の短手方向に沿った方向での伸縮素材11の長さは、45mm以下であると好ましく、40mm以下であるとより好ましい。第一実施態様の靴において、甲ベルト10の短手方向に沿った方向での伸縮素材11の長さは、30mm強となっている。
【0036】
さらに、伸縮素材11の厚さ(伸縮素材11が自然長であるときの厚さ。伸縮素材11が織地からなる場合は、「JIS L 1018」に規定される厚さ。)は、靴の用途や、甲ベルト10における伸縮素材11で形成された所定区間α以外の部分の厚さなどによっても異なり、特に限定されない。しかし、伸縮素材11が薄すぎると、伸縮素材11の強度を確保しにくくなる。このため、伸縮素材11の厚さは、通常、0.5mm以上とされる。伸縮素材11の厚さは、0.8mm以上であると好ましく、1mm以上であるとより好ましい。
【0037】
一方、伸縮素材11が厚すぎると、伸縮素材11に所望の伸縮性を付与しにくくなるおそれがある。また、甲ベルト10における所定区間α以外の部分の厚さよりも伸縮素材11が厚くなって、靴の見た目が悪くなるおそれがある。このため、伸縮素材11の厚さは、通常、4mm以下とされる。伸縮素材11の厚さは、3mm以下であると好ましく、2.5mm以下であるとより好ましい。第一実施態様の靴において、伸縮素材11の厚さは、約1.5mmとなっている。
【0038】
1.2 甲ベルト(所定区間α以外の部分)
甲ベルト10の付根(基端)は、甲被20の外側縁側(着用者の足の小指に近い側)に配してもよいが、この場合には、甲ベルト10の先端が甲被20の内側縁側(着用者の足の親指に近い側)に配されるようになる。したがって、歩行時などに甲ベルト10の先端に着用者の他方の足が接触するなどして、甲ベルト10の先端が甲被20から外れやすくなるおそれがある。このため、第一実施態様の靴において、甲ベルト10の付根は、図1に示すように、甲被20の内側縁側に配している。
【0039】
甲ベルト10の先端を甲被20に留めるための手段は特に限定されない。該手段としては、面ファスナや、ピンバックルや、プレートバックルや、リングバックルや、ボタンなどが例示される。特に、面ファスナを採用すると好適である。面ファスナは、着脱が容易であるだけでなく、甲ベルト10の先端を留める箇所を連続的に変化させることも可能である。また、面ファスナは、ピンバックルなどと比較して、外れやすく、本発明の構成を採用する意義も高まる。
【0040】
さらに、甲ベルト10の先端と甲被20とを面ファスナによって留めるようにしておくと、甲ベルト10の先端が甲被20から一旦外れて初期位置に再び戻ってきた際に、人為的に力を加えなくても、そのときの弾みで甲ベルト10の先端が甲被20に自然と留まるようにすることも可能になる。第一実施態様の靴は、甲被20の外面に雄の面ファスナ(図示省略)を固着し、甲ベルト10の先端内面に雌の面ファスナ(図示省略)を固着した面ファスナ型のものとなっている。
【0041】
甲ベルト10における伸縮素材11で形成された所定区間α以外の部分の素材は、靴の用途などによっても異なり、特に限定されない。甲ベルト10における所定区間α以外の部分は、甲ベルト10に一般的に用いられる各種素材を用いることができる。具体的には、合成皮革や天然皮革、合成樹脂や天然樹脂のほか、合成繊維や天然繊維からなる織布や不織布などが例示される。
【0042】
第一実施態様の靴においては、甲ベルト10の基端部12と、甲ベルト10の先端部の前側縁部13は、合成皮革で形成しているものの、甲ベルト10の先端部の後側縁部14は、柔軟で弾力性を有する厚手の織布をメッシュシートで被覆することにより形成しており、靴を履いたり脱いだりする際や歩行する際などに、甲ベルト10から着用者の甲に過度の圧迫感が加えられないようにしている。
【0043】
1.3 ベルト通し
ベルト通し30は、甲ベルト10の長手方向の移動を阻害しない状態(甲ベルト10の長手方向に沿った方向での伸縮素材11の伸縮を阻害しない状態)で甲ベルト10における所望の箇所を通すことができる形態のものであれば特に限定されない。例えば、甲被20に一対の平行なスリットを所定間隔で設けることなどにより、ベルト通し30を形成してもよい。
【0044】
第一実施態様の靴において、ベルト通し30は、図2に示すように、甲ベルト10における伸縮素材11の幅(甲ベルト10の短手方向に沿った方向での伸縮素材11の長さ)よりも長い長さの帯状材31を甲ベルト10に対して略垂直となるように重ねた状態で、帯状材31の両端を甲被20に対して縫着(図2における縫着部P,Qで縫着)することにより形成している。
【0045】
このように、ベルト通し30を帯状材31で形成することによって、甲ベルト10の基端を甲被20に固定した後にベルト通し30を形成することが可能になるので、甲ベルト10の先端部の幅が広かったり、甲ベルト10の先端部が厚かったりしても、甲ベルト10における所望の箇所をベルト通し30に容易に通すことが可能になる。
【0046】
したがって、甲ベルト10における所定区間α以外の部分を所定区間αよりも幅広にしたり、甲ベルト10における所定区間α以外の部分を所定区間αよりも厚くしたりするとともに、ベルト通し30によって形成されるループを、甲ベルト10における所定区間αのみをぎりぎり通すことができる寸法とすることも可能になる。このため、例え故意であっても、甲ベルト10の先端をベルト通し30から基端側へ引き抜くことができないようにすることが可能になる。
【0047】
ベルト通し30を形成する帯状材31の厚さは、特に限定されない。しかし、帯状材31を薄くしすぎると、ベルト通し30の強度を維持できなくなるおそれがある。また、甲ベルト10(第一実施態様の靴においては伸縮素材11)におけるベルト通し30の上縁で折り曲げられた部分(折れ曲がり部)の表裏に生ずる応力の差が小さくなり、甲ベルト10が自然と初期位置に復帰しにくくなるおそれもある。このため、帯状材31の厚さは、通常、0.3mm以上とされる。帯状材31の厚さは0.5mm以上であると好ましく、0.7mm以上であるとより好ましい。
【0048】
一方、ベルト通し30を形成する帯状材31を厚くしすぎると、甲ベルト10の先端を甲被20に留めた際に、帯状材31の表面が甲ベルト10における所定区間α以外の部分の表面よりも外側に大きく突出した形となり、靴の見た目が悪くなるおそれがある。このため、帯状材31の厚さは、通常、5mm以下とされる。帯状材31の厚さは、4mm以下であると好ましく、3mm以下であるとより好ましい。第一実施態様の靴において、帯状材31の厚さは約1mmとなっている。
【0049】
また、ベルト通し30を形成する帯状材31の素材も、特に限定されない。第一実施態様の靴において、帯状材31は、甲ベルト10の基端部12や甲ベルト10の先端部の前側縁部13と同じ合成皮革によって形成している。このように、甲ベルト10に使用されている素材を帯状材31にも使用することで、甲ベルト10をシンプルに見せて、靴のデザインに一体感を与えることが可能になる。
【0050】
1.4 その他
第一実施態様の靴における甲被20など、上記で説明した以外の部分については、本発明の趣旨に反しない限り、一般的な靴で採用されている各種の構成を採用することができる。
【0051】
1.5 甲ベルトの動作
続いて、甲ベルト10の動作について説明する。第一実施態様の靴において、甲ベルト10の先端を甲被20に留めた状態(甲ベルト10を閉じた状態)にあっては、伸縮素材11は、図3に示すように、その外面をベルト通し30の帯状材31で押さえ込まれており、その全体が甲被20に沿った状態となっている。
【0052】
図3に示す状態から、着用者が走り回った弾みなどで、甲ベルト10の先端が甲被20から外れて、甲ベルト10の先端側が甲ベルト10の基端側へ折り返されると、図4に示すように、伸縮素材11が図3の状態よりも伸長し、伸縮素材11の先端側も甲ベルト10の基端側に折り返される。このとき、甲ベルト10若しくは伸縮素材11は、ベルト通し30の帯状材31の上縁で支持された状態となっており、甲ベルト10の先端側は、ある程度折り返された時点でそれ以上下がらなくなる。
【0053】
図4に示す状態において、伸縮素材11は、自然長よりも伸長した状態となっているため、伸縮素材11には、収縮しようとする応力が働いている。しかし、伸縮素材11における帯状材31の上縁で折り曲げられた部分(折れ曲がり部)では、伸縮素材11の裏面(図3の状態において甲被20に対向していた面)側の方が伸縮素材11の表面(図3の状態において帯状材31に対向していた面)側よりも大きく伸長した状態となっている。
【0054】
このため、伸縮素材11の前記折れ曲がり部においては、伸縮素材11の裏面側を収縮しようとする応力(図4における矢印b)が、伸縮素材11の表面側を収縮しようとする応力(図4における矢印a)よりも大きくなっている。伸縮素材11の表裏に生ずるこの応力の差によって、伸縮素材11は、再び図3の状態に復帰する。このとき、甲ベルト10の先端側も、図4に示す矢印cの向きに移動して自然と初期位置に復帰する。
【0055】
初期位置に戻ってきた甲ベルト10の先端は、そのときの勢いによって甲被20に衝突する。したがって、甲ベルト10の先端部に設けられていた雌の面ファスナと、甲被20に設けられていた雄の面ファスナとが、再び絡み合って固着した状態となる。このように、第一実施態様の靴は、甲ベルト10の先端が甲被20から一旦外れたとしても、甲ベルト10を再び初期位置に復帰させ、甲ベルト10の先端を自然と甲被20に留めることが可能なものとなっている。
【0056】
2.0 第二実施態様の靴
続いて、本発明の靴の他の実施態様(第二実施態様)について説明する。図5は、本発明の靴の他の実施態様(第二実施態様)を示した斜視図である。図5において、靴は、右足用のもののみを図示しているが、左足用の靴においては、右足用の靴と左右対称な構成を採用することができる。
【0057】
第二実施態様の靴は、図5に示すように、甲の締付状態を調節するための甲ベルト10を備え、甲ベルト10の付根(基端)付近における所定区間αが伸縮素材11で形成されたものとなっている。甲被20の外面には、甲ベルト10を通すためのベルト通し30が形成されており、甲ベルト10における伸縮素材11で形成された所定区間αよりも先端側のうち一部がベルト通し30によって覆われた状態となっている。
【0058】
上記「1.5 甲ベルトの動作」で説明した応力の差は、甲ベルト10における所定区間α以外の部分(伸縮素材11で形成されていない部分)でも発生しうるため、図5に示すように、甲ベルト10における伸縮素材11で形成された所定区間αよりも先端側のうち一部をベルト通し30で覆っておけば、甲ベルト10の先端が甲被20から一旦外れたとしても、甲ベルト10を再び初期位置に復帰させ、甲ベルト10の先端を自然と甲被20に留めることが可能である。
【0059】
第二実施態様の靴において、他の構成については、第一実施態様の靴と略同様の構成を採用することができるため、説明を割愛する。
【0060】
3.0 用途
本発明の靴は、ベルト式の靴であるならばその用途を特に限定されず、その構成は、幅広い種類の靴に採用することができる。例えば、運動靴、リハビリシューズ、通学靴、通勤靴、作業靴、上靴(上履き)、ドレスシューズなどに好適に採用することができる。また、甲ベルトを有する形態のものであるならば、長靴やサンダルなどにも採用することができる。特に、甲被から外れた甲ベルトを着用者が踏まないようにして、着用者が転倒するのを防止するという観点からは、子供向けの靴や、リハビリ用の靴や、高齢者向けの靴に好適に採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の靴の好適な実施態様(第一実施態様)を示した斜視図である。
【図2】本発明の第一実施態様の靴におけるベルト通し周辺を、甲被に垂直でベルト通しの長手方向に沿った中心線を含む面で切断した状態を示した拡大断面図(図1におけるA−A断面図)である。
【図3】本発明の第一実施態様の靴における甲ベルトを閉じた際のベルト通し周辺を、甲被に垂直でベルト通しの短手方向に沿った中心線を含む面で切断した状態を示した拡大断面図(図1におけるB−B断面図)である。
【図4】本発明の第一実施態様の靴における甲ベルトを開いた際のベルト通し周辺を、甲被に垂直でベルト通しの短手方向に沿った中心線を含む面で切断した状態を示した拡大断面図(図1におけるB−B断面図に相当する断面図)である。
【図5】本発明の靴の他の実施態様(第二実施態様)を示した斜視図である。
【図6】従来のベルト式の靴において甲ベルトを閉じた状態を示した斜視図である。
【図7】従来のベルト式の靴において甲ベルトを開いた状態を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
10 甲ベルト
11 伸縮素材
12 甲ベルトの基端部
13 甲ベルトの先端部の前側縁部
14 甲ベルトの先端部の後側縁部
20 甲被
30 ベルト通し
31 帯状材
α 所定区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲の締付状態を調節するための甲ベルトが備えられ、甲ベルトの付根付近における所定区間αが伸縮素材で形成された靴であって、
甲ベルトを通すためのベルト通しが甲被に形成され、甲ベルトにおける所定区間αの外面のうち少なくとも一部が前記ベルト通しによって覆われたことを特徴とする靴。
【請求項2】
甲ベルトにおける所定区間αの外面の実質的に全体が前記ベルト通しによって覆われた請求項1記載の靴。
【請求項3】
ベルト通しが、甲ベルトの幅よりも長い長さの帯状材を甲ベルトに対して略垂直となるように重ね、該帯状材の両端を甲被に対して固着することにより形成されたものである請求項1記載の靴。
【請求項4】
甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の長さが3〜30mmであり、かつ甲ベルトの長手方向に沿った方向での伸縮素材の伸び率が130〜400%である請求項1記載の靴。
【請求項5】
甲の締付状態を調節するための甲ベルトが備えられ、甲ベルトの付根付近における所定区間αが伸縮素材で形成された靴であって、
甲ベルトを通すためのベルト通しが甲被に形成され、甲ベルトにおける所定区間αよりも先端側の外面のうち少なくとも一部が前記ベルト通しによって覆われたことを特徴とする靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−99179(P2010−99179A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271972(P2008−271972)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(592160607)日進ゴム株式会社 (7)
【Fターム(参考)】