説明

頚椎装具

【課題】簡単な構造でありながら、顎載置部の顎支持姿勢と顎支持解除姿勢への切り替え操作を簡単、容易に行い得るとこと。
【解決手段】胸部に着脱自在に装着される胸部装着部と、頚部に装着される顎載置部とから成り、前記顎載置部と前記胸部装着部が傾動機構を介して連設し、前記顎載置部が顎支持姿勢と前方に傾動した顎支持解除姿勢で、切り替え自在に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頚椎装具に関するもので、具体的には、顎載置部を前方側に傾動できるところの頚椎装具に関する。
【背景技術】
【0002】
頚椎装具は、脊椎の中立状態への姿勢矯正のために開発されてきたものであり、患者の個々の体型スペック(顎の位置等)に合わせた固有のサイズの装具或いは微調整可能な構成のものが必要とされる。
このような個々の患者の体型に合わせた装具を準備するとなると、非常なコスト高となり、そこで、最近においては、顎の支持位置を調節できるような機能を備えた頚椎装具の開発が提案されている。
【0003】
こうした顎の高さ、姿勢調節が可能な頚椎装具の従来技術としては、例えば、次の文献を挙げることができる。
【特許文献1】特開平7−250854
【特許文献2】特開2000−14686
【特許文献3】特表2009−502326
【0004】
こうした提案によって、顎の高さ調節が可能となったが、更に、もう一つの要求がある。即ち、頚椎装具を装備した患者が食事を摂る際には、その顎載置部を取り外す必要がある。
通常、頚椎装具は、その一部が人体の胸部に装着され、また、顎載置部は、ベルト等を用いて頚部、頭部にも装着されるものであるので、その顎載置部を取り外してしまうと、再装着が困難となり、高さ調整が煩雑になる。
【0005】
例えば、上記特許文献1においては、食事に際して、顎の部分の面ファスナーを外してやることで、顎はフリーの状態になるが、枢支構造が採用されている為に、頭部はその枢軸周りの回動として傾動が可能となるだけであり、自由な食事姿勢を得ることが難しい。
また、顎は、ベルト状体で面ファスナーによる固定であるので、顎を顎載置部に載置した状態で支持するものではなく、安定性に欠ける。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の頚椎装具は、患者が食事に際して顎載置部を取り除くことができるが、装着・調整に手間を要するものであり、簡便な方法がないものか模索されてきた。
例えば、支持部材の相対変位とピン位置の変更により顎載置部の高さ調節を行う構造が存在するが、そのピン挿脱により顎載置部をフリーとすることで、食事に際して、顎載置部を顎から外すことは可能である。
尤も、こうした構造は、顎載置部の高さ調節の構成を利用して食事の際の顎載置部の顎からの外しを可能にするというものに過ぎない。
そして、ピンの挿脱構造であるが故にピン嵌合(遊びが必要)によるガタつきは常に存在し、安定した顎載置部の姿勢保持が出来難いという問題は残る。
【0007】
尚、前述のピン連結に代えて、ボールの弾性嵌合により、顎載置部を顎から外す構造も提案されている。このようなボール嵌合方式では、過大の顎の下方圧力によって、嵌合が外れる虞もある。ピンの挿脱方式やボール嵌合方式は、何れにしても、食事に際して容易に顎載置部を顎から外し、再び、元の位置に復元できるという効果は期待できないものであった。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑み、胸部に着脱自在に装着される胸部装着部と、頚部に装着される顎載置部とからなる頚椎装具であって、顎載置部の顎支持姿勢と顎支持解除姿勢への切り替えを簡単、容易に行うことが出来、以って、顎載置部を前方側に傾動させて患者の食事に対応させ、また、食事が終わったときに、顎載置部を元の顎支持姿勢に復帰させて、所定高さで顎を安定良く支持することができるところの頚椎装具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる頚椎装具は、上記目的を達成するために、胸部に着脱自在に装着される胸部装着部(1)と、頚部に装着される顎載置部(2)とからなる頚椎装具であって、
前記顎載置部(2)と前記胸部装着部(1)が傾動機構(3)を介して連設し、前記顎載置部(2)が顎支持姿勢と前方に傾動した顎支持解除姿勢とに切り替え自在に構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に言う頚椎装具とは、人体の頚部に装備し、顎を適正高さに支持して脊椎を正しい姿勢(配列状態)に矯正し、維持させるためのものであって、原因となる頚椎のトラブルの種類自体(原因乃至治療目的)は問題としない。
また、胸部装着部(1)の胸部への取り付け、或いは顎載置部(2)の頚部への取り付けと固定手段は、通常、ベルト等の手段を用いるが、面ファスナー、紐による連結など、その手段を問うものではない。
そして、胸部装着部(1)は、その形状、素材等は適宜のものを用いて良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる頚椎装具によれば、顎載置部の顎支持姿勢と顎支持解除姿勢への切り替えを簡単、容易に行うことが出来、以って、患者が食事を摂る際に、簡単、容易に顎載置部を前方側に傾動させることができ、また、食事が終わったときに、簡単、容易に顎載置部を元の位置に復帰させ、所定高さで顎を安定良く支持することができる効果を奏する。
この際、顎載置部が胸部装着部から完全に離れるものではないので、傾動と復元操作に際して手間を要しない。
本発明にかかるその他の効果は、以下の実施例の説明から明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においては、前記傾動機構(3)に、横軸心の1本の枢支ピン(4)が備えられ、前記顎載置部(2)と前記胸部装着部(1)とが枢支連結されているのが好ましい。
このように、1本の枢支ピンによる枢支連結であるので、構造が非常に簡単であり、作動上のトラブルも回避し易い。
ここに言う1本の枢支ピンとは、同一軸心のピンを指すもので、枢支構造の形状によっては、ピンが2分割されている場合もあり得るもので、軸心が同一であれば所定の枢支回動が可能であるという意味において、本発明に含まれるものである。
【0013】
更に、前記傾動機構(3)に、横軸心を持つ蝶番(5)が備えられ、前記顎載置部(2)と前記胸部装着部(1)とが枢支連結されていることが好ましい。
このように、蝶番を用いた枢支連結とすることで、対向部、即ち、前記顎載置部(2)と前記胸部装着部(1)の対向部は、枢支ピンを設ける加工の必要もなく、両部材に跨って蝶番(5)を固定すれば済むので、構造も簡潔で、既製の蝶番(5)を用いて製作可能であり、コスト低減を図れると共に傾動も自動的に180度の範囲内(実際にはそれよりも小さい角度)で自在に得ることができる。
【0014】
また、前記傾動機構(3)は、前記顎載置部(2)と前記胸部装着部(1)とが可撓性素材(10)により連結されることで構成されていることが好ましい。
このように、可撓性素材(10)を用いて前記顎載置部(2)と前記胸部装着部(1)とを連結することで、前記顎載置部(2)の傾動姿勢(顎支持解除姿勢)を得ることができる。
【0015】
こうした可撓性素材(10)としては、可撓性を有する合成樹脂、例えば、軟性ポリエチレン等を用いたり、不織布、織布などの板状体或いはベルト状体を用いたりしても良い。
このような素材の部材であっても、図13、図14に示されるように、上下の長さが比較的短く20mm程度、また、所定の幅40mm程度があれば、十分に顎乗せ荷重を支持できるものである(実施例では、1枚板を用いているが幅方向で複数枚に分割されていてもよい)。
【0016】
更に、前記傾動機構(3)が、前記顎載置部(2)を、その所要の顎支持姿勢で、前記胸部装着部(1)に対して固定及び固定解除する回動操作部(6)を胸部前面側に位置させて備えていることが好ましい。
このように、回動操作部(6)を設けることで、前記顎載置部(2)の傾動に際して、回動という簡単な操作でもって、食事姿勢に移行できる利点がある。
また、回動操作部(6)が胸部前面側に位置されているので、患者自身でも容易に回動操作して前記顎載置部(2)の傾動を行うことができる。
【0017】
また、前記傾動機構(3)が、前記顎載置部(2)の高さ位置を調節する高さ調節機構(7)を介して前記胸部装着部(1)に取り付けられていることが好ましい。
このように、高さ調節機構(7)を備えることで、前記顎載置部(2)を前方側に傾動させる際に、必要とあれば、該顎載置部(2)を下方に位置をずらせてから前方に傾動させることが可能であり、顎に引っ掛かる虞のない状態でスムースに傾動させることができる。
【0018】
また、前記高さ調節機構(7)が、前記顎載置部(2)を、その所要の高さ位置で、前記胸部装着部(1)に対して固定及び固定解除する摘み部材(7A)を胸部前面側に位置させて備えていることが好ましい。
このように、前記顎載置部(2)の高さ調節に際して、摘み部材(7A)の回動操作によって、容易に高さ調節を行い得ると共に摘み部材(7A)が胸部前面側に位置させて備えられていることで、患者自身でも容易に回動操作を行って、高さ位置を調節することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる頚椎装具を装着した状態の正面図。
【図2】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部を傾動させた斜視図。
【図3】本発明にかかる頚椎装具の傾動機構の要部の拡大正面図。
【図4】本発明にかかる頚椎装具の傾動機構の一作用状態を示す要部の拡大正面図。
【図5】本発明にかかる頚椎装具の傾動機構の要部の分解斜視図。
【図6】本発明にかかる頚椎装具の傾動機構の要部の分解側面図。
【図7】本発明にかかる頚椎装具の傾動機構の要部の組み立て正面図。
【図8】本発明にかかる頚椎装具の傾動機構の別態様1の要部の拡大正面図。
【図9】本発明にかかる頚椎装具の傾動機構の別態様1の一作用状態を示す要部の拡大正面図。
【図10】本発明にかかる頚椎装具の傾動機構の別態様1の要部の分解斜視図。
【図11】本発明にかかる頚椎装具の傾動機構の別態様1の要部の分解側面図。
【図12】本発明にかかる頚椎装具の傾動機構の別態様1の要部の組み立て正面図。
【図13】本発明にかかる頚椎装具の傾動機構の別態様2の要部の側面図。
【図14】本発明にかかる頚椎装具の傾動機構の別態様2の要部の斜視図。
【図15】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部の別態様1を示す斜視図。
【図16】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部の別態様1の傾動状態を示す斜視図。
【図17】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部の別態様1の全体の一作用状態を示す斜視図。
【図18】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部の別態様1の全体の一作用状態を示す斜視図。
【図19】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部の別態様1の要部の分解斜視図。
【図20】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部の別態様1の要部の一作用状態を示す縦断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胸部に着脱自在に装着される胸部装着部(1)と、頚部に装着される顎載置部(2)とからなる頚椎装具であって、
前記顎載置部(2)と前記胸部装着部(1)とを傾動機構(3)を介して連設し、前記顎載置部(2)が顎支持姿勢と前方に傾動した顎支持解除姿勢とに切り替自在に構成されていることを特徴とする頚椎装具。
【請求項2】
前記傾動機構(3)は、横軸心の1本の枢支ピン(4)が備えられ、前記顎載置部(2)と前記胸部装着部(1)とが枢支連結されて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の頚椎装具。
【請求項3】
前記傾動機構(3)は、横軸心を持つ蝶番(5)が備えられ、前記顎載置部(2)と前記胸部装着部(1)とが枢支連結されて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の頚椎装具。
【請求項4】
前記傾動機構(3)は、前記顎載置部(2)と前記胸部装着部(1)とが可撓性素材(10)により連結されることで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の頚椎装具。
【請求項5】
前記傾動機構(3)が、前記顎載置部(2)を、その所要の顎支持姿勢で、前記胸部装着部(1)に対して固定及び固定解除する回動操作部(6)を胸部前面側に位置させて備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項4何れか1項に記載の頚椎装具。
【請求項6】
前記傾動機構(3)が、前記顎載置部(2)の高さ位置を調節する高さ調節機構(7)を介して前記胸部装着部(1)に取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の頚椎装具。
【請求項7】
前記高さ調節機構(7)が、前記顎載置部(2)を、その所要の高さ位置で、前記胸部装着部(1)に対して固定及び固定解除する摘み部材(7A)を胸部前面側に位置させて備えていることを特徴とする請求項6に記載の頚椎装具。

【図20】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部の別態様1の要部の一作用状態を示す縦断面図。
【図21】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部の別態様1の要部の一作用状態を示す縦断面図。
【図22】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部の別態様1の要部の一作用状態を示す側面図。
【図23】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部の別態様1の要部の一作用状態を示す側面図。
【図24】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部の別態様2の全体の一作用状態を示す斜視図。
【図25】本発明にかかる頚椎装具の顎載置部の別態様2の図24におけるA−A矢視断面図。
【実施例】
【0020】
本発明にかかる頚椎装具の好適実施例について、図面を参照して以下に詳述する。
図1乃至図7に示すように、この頚椎装具は、胸部に着脱自在に装着される胸部装着部1と、頚部に装着される顎載置部2とからなる頚椎装具であって、前記顎載置部2と前記胸部装着部1とを傾動機構3を介して連設し、前記顎載置部2が顎載置姿勢と前方に傾動した顎載置解除姿勢とに切り替え自在に構成されている。
【0021】
上記胸部装着部1は、合成樹脂製で、ここでは、素材として、ポリエチレンを用いて成型されたものである。尤も、装着を好適に行うために、実際には、パッド等の保護部材を備えている。
そして、胸部への装着は、胸部装着部1の上下左右に固定されたベルト部材9によって背後で緊締されるが、こうした構成については、従来技術に属するものであるので、ここでの詳細説明は省略する。
【0022】
上記顎載置部2についても、合成樹脂製で、ここでは、ポリエチレンによって成型されたものである。同様に、装着を好適に行うために、実際には、パッド等の保護部材を備えている。
【0023】
そして、前記傾動機構3に、横軸心の1本の枢支ピン4が備えられ、前記顎載置部2と前記胸部装着部1とが枢支連結されている。
この前記傾動機構3は、具体的には次のように構成されている。
前記顎載置部2に固定される上側の傾動部材3Aと、前記胸部装着部1に固定されることになる下側の固定部材3Bとから成り、前記傾動部材3Aは、その左右に固定用片3Cが設けられており、ここに、前記顎載置部2の支持片2aがそこに形成された取付用孔2bを介してボルト止めされる。
【0024】
そして、前記傾動部材3Aの上部には、上側に開口したU字切り欠き部3Dが設けられており、その下方には、枢支用突部3Eが設けられていて、上記枢支ピン4は、この枢支用突部3Eを貫通する構成とされている。
更に、下側の固定部材3Bは、上部に上向きに開口するU字型の嵌合部3Fが設けられており、同様に、上記枢支ピン4の挿通用の孔が貫通されており、このU字型の嵌合部3Fに前記枢支用突部3Eがはめ込まれ、上記枢支ピン4が両者を貫通して挿通されることで枢支連結が成されている。この枢支ピン4は、この実施例では、一端にネジ頭が存在し、他端は、ナットで抜け止めされる構造のものであるが、適宜のピン構造のものを用いてよい。
【0025】
更に、前記下側の固定部材3Bは、胸側に位置されるベース部材3Gにネジによって固定されており、且つ、このベース部材3Gは、前記傾動部材3Aの上端部にまで伸び、その上端部には、枢支連結部3Hが設けられ、回動操作部6の螺軸6Aが横軸芯のピン(図示省略)によって、上方へ回動できるように枢支連結されている。前記螺軸6Aは、前記U字切り欠き部3Dを通って上方に抜けるように伸びる。前記回動操作部6は、前記顎載置部2を、その所要の顎支持姿勢で、前記胸部装着部1に対して固定及び固定解除するもので、胸部前面側に位置させて備えられている。
【0026】
そして、前記螺軸6Aには、回動操作部6の摘み部材6Bが螺合されており、この摘み部材6Bの締め付けによって、前記傾動部材3Aを固定部材3Bに固定できる構成とされている。前記摘み部材6Bは、前記螺軸6Aに螺合する止めネジ6Cによって、抜け止め防止されている。
【0027】
更に、前記傾動機構3は、前記顎載置部2の高さ位置を調節する高さ調節機構7を介して前記胸部装着部1に取り付けられており、この高さ調節機構7は、前記顎載置部2を、その所要の高さ位置で、前記胸部装着部1に対して固定及び固定解除する摘み部材7Aを胸部前面側に位置させて備えている。
具体的には、前記胸部装着部1にビス止めされた取り付け金具7Bに、上下方向に所定の間隔をもってネジ孔7Cが複数個形成され、ここに摘み部材7Aの螺軸7D(ネジ図示省略)が螺合される。
【0028】
そして、前記傾動機構3の下側の固定部材3Bに、長孔7Eが上下の方向に形成され、ここを前記螺軸7Dが貫通して前記取り付け金具7Bに螺合されており、摘み部材7Aを緩めて長孔7Eに沿って前記傾動機構3の下側の固定部材3Bを上下の方向に移動させ、所定高さ位置で摘み部材7Aを締め付けることで、位置固定する。
【0029】
(作用)
上記構成の頚椎装具は、高さ調節機構7の操作によって顎位置に合わせて、所定の高さ位置に顎載置部2を位置、固定させ、顎支持姿勢で使用される。
そして、食事時などで、顎載置部2を顎から外す必要が生じた際に、上記回動操作部6の摘み部材6Bを回動操作し、締め付けを緩めて、その螺軸6Aの横軸芯のピンによる枢動により、前記U字切り欠き部3Dを用いて上側に回動させ、前記傾動部材3Aをフリーの状態とする。
【0030】
これにより、前記傾動部材3を、此れに連結された前記顎載置部2と共に枢支ピン4によって下側の固定部材3Bに対して前方に回動させ、以って、顎載置部2を顎から外し、顎支持解除姿勢とすることができる。
また、再度、顎載置部2を原状位置に復元する場合には、この顎載置部2を、枢支ピン4の軸周りに上方に回動させ、しかる後に摘み部材6Bを回動して締め付け、位置固定すればよい。
【0031】
(傾動機構の別態様1)
ここでは、上記傾動機構3の別態様について、図8乃至図12に基づいて述べる。即ち、上記実施例と異なる点は、顎載置部2の傾動に、蝶番を用いた構成としている点である。
尚、共通する部材については、同一部材番号を用いて説明し、その一部説明、及び図面を援用によって省略する。
【0032】
前記傾動機構3に、横軸心を持つ蝶番5が備えられ、前記顎載置部2と前記胸部装着部1とが枢支連結されている(全体構成は図1援用)。
そして、前記傾動機構3が、前記顎載置部2を、その所要の顎支持姿勢で、前記胸部装着部1に対して固定及び固定解除する回動操作部6を胸部前面側に位置させて備えていること、前記傾動機構3が、前記顎載置部2の高さ位置を調節する高さ調節機構7を介して前記胸部装着部1に取り付けられていること、前記高さ調節機構7が、前記顎載置部2を、その所要の高さ位置で、前記胸部装着部1に対して固定及び固定解除する摘み部材7Aを胸部前面側に位置させて備えている
【0033】
更に、具体的には、傾動機構3が、前記顎載置部2に固定される上側の傾動部材3Aと、前記胸部装着部1に固定されることになる下側の固定部材3Bとから成り、前記傾動部材3Aは、その左右に固定用片3Cが設けられており、ここに、前記顎載置部2の支持片2aがボルト止めされ、前記傾動部材3Aの上部には、上側に開口したU字切り欠き部3Dが設けられている点は同じであるが、その下方には、枢支用突部3Eは存在せず、従って、下側の固定部材3Bにも、上部に上向きに開口するU字型の嵌合部3Fが存在しない。
【0034】
従って、顎載置部2の傾動の作用についても、その操作手順は上記実施例と同じであり、その前方への回動が蝶番5の連結によるものであるということで、他は変わりない。
【0035】
(傾動機構の別態様2)
更に別の態様の傾動機構について、図13及び図14に基づいて述べる。
ここでは、上記実施例及び別態様の枢支ピン4及び蝶番5に代わり、前記傾動機構3は、前記顎載置部2と前記胸部装着部1とが可撓性素材10により連結されることで構成されているのである。
具体的には、ここでは、長さ20mm、幅40mm、厚さ1mmの板状の可撓性素材10を、ビスによって、前記顎載置部2と前記胸部装着部1に止め付けることで実施している。
【0036】
こうした可撓性素材10としては、ここでは、可撓性を有する合成樹脂であるが用いられている。かかる素材は、脆性破壊を生じないもので、屈曲、弯曲が頻繁に繰り返される部材要素として既知のものである。
【0037】
しかし、このような合成樹脂素材に代え、不織布、織布、皮革などの板状体或(ベルト状体)を用いて良い。
かかる可撓性素材10を用いて前記顎載置部2と前記胸部装着部1とを連結することで、上述の枢支ピン4及び蝶番5と略同等の傾動作用を得ることが出来る。
尚、傾動機構の別態様2の他の構成、部材番号について、上記実施例と共通のものについては、その説明を省略する。
【0038】
(顎載置部の別態様1)
次に、顎載置部2の別の態様について、図15乃至図23に基づいて述べる。
ここでは、かかる顎載置部2が、顎の高さ調節の機能を備えているもので、上記実施例の高さ調節機構7とは別に顎の高さ位置を調節できるもので、両者の組み合わせによって、微細の高さ、傾斜等の調節ができる。図15は、顎載置部2の傾動前の状態、図16は、顎載置部2を傾動させた状態を示す。
【0039】
図17及び図18に示すように、ここでは、顎載置部2は、顎載置本体部材2Aと顎載置取付部材2Bとからなり、その顎載置取付部材2Bが、上記実施例と同様の逆U字状に形成され、左右下端部が、上記実施例の支持片2aに構成されており、ここに、前記傾動部材3Aを固定用片3Cに取り付けるための取付用孔2bが形成されている。また、図18に示すように、顎載置取付部材2Bを顎載置本体部材2Aから取り外すと、顎載置本体部材2Aの下部は、正面視、U字状に形成されており、その中央前部、左右側部に、前記顎載置取付部材2Bをビスで取り付けるための取付用孔3Jが形成されている。勿論、これらの取付用孔3Jに対応する前記顎載置取付部材2Bにも、同様に、取付用孔3Kが形成されている。
【0040】
次に、この顎載置部2の高さ調節を可能にする構成について、以下、図17乃至図23に基づいて述べる。但し、上記実施例と共通する構成について、その説明を引用し、ここでの詳細説明を省略する。
この顎載置部2は、次の構成を含む。即ち、頚部を前方側から囲うように平面視略U字状を呈する支持本体11と、弾性を有する合成樹脂素材により形成され、前記支持本体11の内側に位置し、且つ、その左右後端部近傍で、その一端部が夫々枢支ピン12,12により回動自在に枢着された左右一対の顎支持部材13,13、該顎支持部材13,13の前端部に設けられた顎載置用部材14とからなる。
【0041】
そして、前記支持本体11の少なくとも一側部に、上下の方向で、且つ、前記枢支ピン12,12を中心とした円弧状の調節係止孔15が設けられると共に該調節係止孔15には複数段部16が形成され、前記左右一対の顎支持部材13,13の少なくとも一方に、前記複数段部16に係合可能な係合突起17を備えた係合部材18が舌片状に切り出し成形で設けられると共に該係合部材18が、その顎支持部材13の弾性により常時前記支持本体11の側に附勢されて前記調節係止孔15に係合するように構成され、前記係合部材18の前記調節係止孔15に対する弾性係合を解除する解除機構19が設けられている。
【0042】
更に、具体的には、前記複数段部16が形成された調節係止孔15が、前記支持本体11の両側部に同様に設けられ、前記複数段部16に係合可能な係合突起17も前記左右一対の顎支持部材13,13の両方に同様に設けられている。
【0043】
そして、前記左右一対の顎支持部材13,13には、前記係合部材18よりも前記枢支ピン12,12の側に、該枢支ピン12,12を中心とした円弧状の後側ガイド孔20,20が形成されると共に該ガイド孔20にはガイドピン21,21が挿通され、且つ、前記支持本体11には前記調節係止孔16よりも前側に、前記枢支ピン12,12を中心とした円弧状の前側ガイド孔22,22が形成されると共に該ガイド孔22,22にはガイドピン23,23が挿通されている。
【0044】
更に、前記解除機構19が、前記係合部材18に設けられ、前記調節係止孔16に挿通される保持部材25が、前記支持本体11の外側に位置され、前記保持部材25に螺合する回動操作用ノブ26と、該回動操作用ノブ26を貫通し、前記保持部材25に螺合する止めピン27とから構成されている。
前記回動操作用ノブ26の一方向回動によって前記係合部材18の弾性変形を可能にして、前記係合突起17の前記複数段部16に対する係合を一時解除し、その他方向回動によって前記係合部材18の弾性復元を可能にして前記係合突起17の前記複数段部16に対する係合を行うように構成されている。
【0045】
上記構成の作用について述べると、この頚椎装具の顎支持部材13,13の高さ調節は、次のようにして行われる。ここでは、便宜上、一側方の顎支持部材13について説明する。
この頚椎装具の非装着時(常時)は、次の状態となっている。即ち、前記係合突起17が、前記複数段部16の適宜の位置に嵌合して、所定の高さ位置で固定させている。この場合、図22又は図23に示すように、最下段位置或いは最上段位置に位置されていてもよい。
【0046】
こうした状態(図22に示す最下段位置の状態が好ましい)から、先ず、患者の頚部に対して前方側から装置を装着し、その患者の顎の高さに合致させるべく、前記解除機構19の回動操作用ノブ26を一方向(ここでは、左or反時計回り方向)に回動させ、前記顎支持部材13と支持本体11との締め付け状態を解除する。次いで、止めピン27を押し付けて、これに連結された前記保持部材25を押し込み(頚部側に)、舌片状の前記係合部材18を弾性変形させる。この際、前記顎支持部材13が板状体であるので、その合成樹脂の弾性により、この前記顎支持部材13自体も僅かに変形することになる。尤も、この顎支持部材13は、前記両ガイドピン21,23によって、前記支持本体11に対して位置保持されているので、両ガイドピン21,23との間での僅かの変形ということになる。
【0047】
これにより、この前記係合部材18に設けられた係合突起17が前記複数段部16の特定位置への係合を解除し、前記顎支持部材13の前記枢支ピン12を中心とした回動変位を可能にする。
そして、患者の顎位置にフィットする位置まで、その顎支持部材13を、前記枢支ピン12を中心として上方に回動変位させるのである。この場合、図23に示す最大上昇位置まで調節可能である。
【0048】
このようにして、前記顎支持部材13が所定高さ位置に調節されると、前記係合突起17が、前記複数段部16の特定位置の段部に係合される。この係合は、前記係合部材18の弾性復元力によって行われる。
その後、前記回動操作用ノブ26を他方向(ここでは、右or時計回り方向)に回転させ、前記顎支持部材13と支持本体11との締め付け状態を再現し、調節した高さ位置を固定するのである。
【0049】
(顎載置部の別態様2)
更に、上記顎載置部の別態様(上記別態様1の一部変形)について、図24及び図25に基づいて述べる。
図24及び図25に示すように、ここでは、上記顎支持部材13,13のスムース、且つ安定した回動変位を得るために、上述した実施例の後側ガイド孔20,20及び前側ガイド孔22,22に代え、溝状ガイド部28,28が採用される。
即ち、前記支持本体11の前部近傍位置に、前記左右一対の顎支持部材13,13の前部をガイドする溝状ガイド部28,28が形成され、前記左右一対の顎支持部材13,13の前記枢支ピン12,12を中心とした回動を案内支持するように構成されている。
上述した、溝状ガイド部28,28は、支持本体11,11の成型時に形成されるが,その成型後に、接着、溶着でもって付設される方式で構成されてもよい。
【産業上の利用分野】
【0050】
本発明にかかる頚椎装具は、顎載置部の傾動を容易に行い、且つ、固定姿勢も安定して維持できるもので、その適用範囲は広いものである。
【符号の説明】
【0051】
1:胸部装着部
2:顎載置部
3:傾動機構
4:枢支ピン
5:蝶番
6:回動操作部
7:高さ調節機構
7A:摘み部材
10:可橈性素材
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−235993(P2012−235993A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119706(P2011−119706)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(398055439)株式会社洛北義肢 (10)
【出願人】(509278210)サカモト有限会社 (6)
【Fターム(参考)】