説明

飼料添加剤

【課題】優れた増殖抑制効果を示し、同時に動物の成長を促進する新規な飼料添加剤を提供すること。
【解決手段】バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)に属するJA−ZK株(受託番号:FERM AP-21100)が、サルモネラ、大腸菌などの有害細菌に対して優れた増殖抑制効果を示し、さらに該菌株を飼料に混合して飼育動物に給与することで、該飼育動物体内に存在する病原性細菌数が減少し、該飼育動物の体重及び飼料要求率が改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼育動物体内の病原性細菌、または畜産物に由来する食中毒原因菌の増殖を抑制するため、さらには該動物の体重増加、及び飼料要求率を改善するためのバチルス・サブチルスJA‐ZK株、受託番号(FERM P-21100)を有効成分とする飼料添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
サルモネラ属菌や大腸菌は、飼育動物に下痢などの感染症を引き起こす病原性細菌である一方、例えば該飼育動物が家畜又は家禽であるような場合には、該飼育動物を原材料とする食品及びその加工品等を介してヒトへと感染する食中毒の原因となる菌である。該飼育動物体内でのこれら細菌の増殖を抑制することにより、該飼育動物の健康を維持することができ、さらには該飼育動物の畜産加工物等を経由した食中毒発生のリスクを低下させることが可能になる。
【0003】
動物飼育の場で一般的に用いられる方法としては、抗生物質などの抗菌性物質を飼料に配合して投与することで細菌増殖を制御する方法が挙げられる。しかしながら、抗菌性物質を用いる方法では、過剰投与による、畜産物への該抗菌性物質の残留や、耐性菌の発現などの問題が指摘され、これらに代わる病原性細菌の増殖抑制法が求められている。
【0004】
抗菌性物質に代わる病原性細菌の増殖抑制法としては、従来において、バチルス・ズブチリスの一種であるAS2株を経口投与等により摂取させ、動物体内の病原性細菌数を減少させる方法(特許文献1参照)や、バチルス・サブチリスAT−3株を飼料添加剤として主に鳥類の体内に存在するサルモネラ等の繁殖を抑える方法(特許文献2参照)が存在する。また、鳥類についてはバチルス・ズブチリスC−3102株を飼料に添加して病原菌増殖を抑制する方法が知られている(特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、依然として飼育動物体内の病原性細菌に起因する種々の問題が存在しており、優れた増殖抑制能を有する飼料添加剤が必要とされる。また、同時に動物体内の病原性細菌の増殖を抑制するのみならず、該動物の健康を改善し、成長を促進する機能を兼ね備えた飼料添加剤の開発が待たれる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−285378号公報
【特許文献2】特開平11−332555号公報
【特許文献3】特開平5−146260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる状況に鑑み、本発明は、優れた増殖抑制効果を示し、同時に動物の成長を促進する新規な飼料添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)に属するJA−ZK株が、サルモネラ、大腸菌などの有害細菌に対して優れた増殖抑制効果を示し、さらに該菌株を飼料に混合して飼育動物に給与することで、該飼育動物体内に存在する病原性細菌数が減少し、該飼育動物の体重及び飼料要求率が改善することを実験的に確認して本願発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、バチルス・サブチルスJA‐ZK株(受託番号:FERM P-21100)を有効成分として含有する飼料添加剤を提供する。また、本発明は、上記本発明の飼料添加剤を含む飼料を提供する。さらに、本発明は、バチルス・サブチルスJA‐ZK株(受託番号:FERM P-21100)を動物に給与することを含む、該動物体内の病原性細菌の増殖を抑制する方法を提供する。さらに、本発明は、バチルス・サブチルスJA‐ZK株(受託番号:FERM P-21100)を動物に給与することを含む、該動物の体重を増加させる方法を提供する。さらに本発明は、バチルス・サブチルスJA‐ZK株(受託番号:FERM P-21100)を動物に給与することを含む、該動物の飼料要求率を改善させる方法を提供する。
【0010】
なお、バチルス・サブチルスJA‐ZK株は、産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号はFERM P‐21100である。本明細書中では、バチルス・サブチルスJA‐ZK株を、便宜上単にJA‐ZK株を略記することがある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の飼料添加剤を飼育動物に給与することで、該飼育動物体内のサルモネラ、大腸菌等の有害細菌の増殖が抑制され、これら有害細菌に起因する感染症の発生を低下させることで健康な飼育が可能となり、従って、畜産物への細菌感染を抑制することで食中毒のリスクを低減することも可能となる。さらには、動物の成長を促進することで飼育動物の増体や飼料要求率を改善することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る飼料添加剤の有効成分であるバチルス・サブチルスJA‐ZK株は、日本国千葉県の土壌から分離されたグラム陽性の桿菌であり、嫌気的条件下では細胞増殖活動が停止し、芽胞を形成することを特徴とする。また、JA‐ZK株は、遺伝学的性状として16SリボソームRNAが、配列番号1に示す塩基配列を有する。これらの菌学的性質及び配列番号1に示す16SリボソームRNAの塩基配列より、この菌株がバチルス・サブチルスに属することが同定された。なお、JA‐ZK株は、16SリボソームRNAが、配列番号1に示す塩基配列を有するが、該塩基配列は実質的にその病原性細菌に対する増殖抑制能が変化しない範囲内で、一部(好ましくは1個ないし数個)のヌクレオチドが置換、欠失又は付加等による変異を有してもよい。
【0013】
バチルス・サブチルスJA‐ZK株を有効成分とする本発明の飼料添加剤は、好ましくは、培養したJA‐ZK株菌体を回収して、乾燥させ、菌数を調整することによって得ることができる。JA‐ZK株の培養の詳細は特に限定されないが、通常のバチルス・サブチルスの培養方法で培養することができ、一般的にペプトンや酵母エキスなどを成分とする培地を用い、培養は温度が20〜45℃、好ましくは30〜37℃、pHが5〜9、好ましくはpH6〜8の好気的条件下で、培養時間は12〜96時間、好ましくは24〜72時間にて行う。菌体の回収方法は特に限定されず、本発明の属する技術分野で公知となっている技術により可能であり、一般的に培養液から遠心分離又はろ過などの方法が広く用いられる。菌体の乾燥方法も特に限定されないが、本発明の属する技術分野で公知となっている技術により可能であり、一般的に上記回収された菌体を凍結乾燥、減圧乾燥、流動層乾燥などにより乾燥する方法が広く用いられる。乾燥させた菌体の菌数を調整する方法は、特に限定されず、本発明の属する技術分野で公知となっている技術により可能であり、一般的に乳糖、デンプン、脱脂ヌカなどを用いて菌数を調整する方法が広く用いられる。
【0014】
JA‐ZK株を有効成分とする飼料添加剤を添加した本発明の飼料は、上記のように菌数を調整したJA‐ZK株を市販の飼料に10〜10 個/g、好ましくは10〜10個/gの範囲で混合することで得ることができる。
【0015】
上記JA‐ZK株を動物に給与することで、該動物体内の病原性細菌の増殖を抑制する本発明の方法、さらに該JA‐ZK株を動物に給与することで、該動物の体重を増加させる方法、並びに該JA‐ZK株を動物に給与することで、該動物の飼料要求率を改善させる方法は、上記のように調製されたJA‐ZK株を有効成分とする飼料添加剤を、飼育動物に経口投与する方法や、該飼料添加剤を添加した飼料を該飼育動物に摂取させることで可能である。下記実施例に示すように、JA‐ZK株は、動物体内の病原性細菌の増殖を抑制する効果、動物の体重を増加させる効果、及び動物の飼料要求率を改善させる効果を兼ね備えており、JA‐ZK株を有効成分とする飼料添加剤を動物に給与すれば、これら三つの効果は同時に発揮される。給与される動物は特に限定されないが、例えば牛、豚、馬、羊、山羊、ウサギ等の家畜や、鶏、アヒル、七面鳥、ウズラ、鴨、ダチョウ等の家禽、鯛、ひらめ、サザエなどの養殖魚介類、又は犬、猫、観賞用魚類などのペット類や、さらには動物園やサファリパーク等の施設で観賞用に飼育されるゾウ、キリン、ライオン等の動物等の飼料に添加することができる。
【0016】
本発明に係る飼料添加剤は、実施例に示すサルモネラ・エンテリティディス、浮腫病由来大腸菌、大腸菌O157の他にもウェルシュ菌やサルモネラ・ティフィムリウムに対する増殖抑制効果を示す。
【0017】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
バチルス・サブチルスJA‐ZK株の創製
バチルス・サブチルスJA‐ZK株は、千葉県の土壌から分離した。分離した菌株は、グラム陽性の桿菌であり、嫌気的条件下では細胞増殖活動が停止し、芽胞を形成するものであった。
【0019】
分離した菌株を、SCDブイヨン培地(組成:トリプトン1.7%、ソイペプトン0.3%、ブドウ糖0.25%、塩化ナトリウム0.5%、リン酸2二カリウム0.25%、pH7.3)中、37℃で48時間培養した。このようにして得られた培養液を遠心分離して菌体を集め、凍結乾燥により乾燥し、乳糖により菌数を調整した。
【実施例2】
【0020】
サルモネラ・エンテリティディスとの混合培養
SCDブイヨン培地を用いて、サルモネラ・エンテリティディスのみの単独培養区と、サルモネラとJA‐ZK株と混合した混合培養区を設定した。培養は37℃で48時間行い、24時間ごとにサルモネラ菌数を測定した。測定されたサルモネラ菌数を常用対数で表した結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示す結果から、サルモネラはJA‐ZK株と混合培養した条件下では、細胞増殖が抑制されることが確認された。
【実施例3】
【0023】
浮腫病由来大腸菌との混合培養
SCDブイヨン培地を用いて、浮腫病由来大腸菌のみの単独培養区と、該大腸菌とJA‐ZK株と混合した混合培養区を設定した。培養は37℃で48時間行い、24時間ごとに大腸菌菌数を測定した。測定された浮腫病由来大腸菌数を常用対数で表した結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2に示す結果から、JA‐ZK株と混合培養された浮腫病由来大腸菌は、単独培養された浮腫病由来大腸菌に対して増殖が10分の1に抑えられており、JA‐ZK株が浮腫病由来大腸菌に対する強い増殖抑制効果を示すことが確認された。
【実施例4】
【0026】
大腸菌O157との混合培養
SCDブイヨン培地を用いて、大腸菌O157のみの単独培養区と、大腸菌O157とJA‐ZK株と混合した混合培養区を設定した。培養は37℃で48時間行い、24時間ごとに大腸菌菌数を測定した。測定された大腸菌数を常用対数で表した結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
表3に示す結果から、JA‐ZK株は大腸菌O157の細胞増殖を抑制し、大腸菌O157に対する強い増殖抑制効果を示すことが確認された。
【実施例5】
【0029】
鶏での感染試験
市販の鶏用飼料にJA‐ZK株を有効成分とする飼料添加剤を菌数として10個/gになるように混合し、サルモネラ・エンテリティディス培養液を生理食塩水に懸濁し、ゾンデを用いて被験鶏のそ嚢内に投与した。その後、定期的に該被験鶏の糞を採取し、DHL寒天培地を用いてサルモネラの菌数を測定した。測定されたサルモネラ菌数を常用対数で表した結果を図1に示す。
【0030】
図1に示す結果から、本発明に係るJA‐ZK株を有効成分とする飼料添加剤を鶏に給与することにより、該鶏の体内でのサルモネラの増殖を抑制できることが確認された。
【実施例6】
【0031】
子豚での飼養試験
市販の豚用飼料にJA‐ZK株を有効成分とする飼料添加剤を菌数として10個/gになるように混合し、離乳後の子豚に給与した。2週後の増加体重と飼料摂取量を測定した。その結果を表4に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
表4に示す結果より、JA‐ZK株を有効成分とする飼料添加剤を子豚に給与することにより、該子豚の体重を増加し、さらに飼料要求率を改善することが確認された。
【実施例7】
【0034】
ブロイラーでの飼養試験
市販の鶏用飼料に飼料添加剤を菌数として10個/gになるように混合し、初生のブロイラーに給与した。8週後の増体重と飼料摂取量を測定した。結果を表5に示す。
【0035】
【表5】



【0036】
表5に示す結果より、JA‐ZK株を有効成分とする飼料添加剤をブロイラーに給与することにより、該ブロイラーの体重を増加し、さらに飼料要求率を改善することが確認された。
【実施例8】
【0037】
JA‐ZK株の遺伝学的性状の解析
JA‐ZK株の16SリボソームRNAの部分塩基配列を解析した。JA‐ZK株の平板培地上の集落を釣菌してゲノムDNAを抽出した後に、鋳型を調製してPCRにより16SrRNAのうち5‘末端側約500bpの領域を増幅し、増幅された塩基配列をシーケンシングし部分塩基配列を得た。前記PCR増幅には菌類の16SリボソームRNAの部分塩基配列同定に広く用いられているMicroSeq 500 16S rDNA Bacterial Identification Kit(Applied Biosystems, CA, USA)を使用した。プライマーは前記キットに付属のオリゴヌクレオチド・プライマーを使用し、PCR条件は同キットのプロトコルに従って設定した。
【0038】
塩基配列を解析した結果を配列表の配列番号1に示す。
【0039】
本発明の飼料添加剤は飼育動物由来食材又はその加工品に存在する病原性細菌を原因とする食中毒の発生を低下させ、飼育動物を健康に飼育し、かつ該飼育動物の成長を促進させ、さらに安全な畜産物の生産を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の飼料添加剤によるサルモネラに対する作用を示した実施例4の結果を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス・サブチルスJA‐ZK株(受託番号:FERM P-21100)を有効成分として含有する飼料添加剤。
【請求項2】
前記バチルス・サブチルスJA‐ZK株が乾燥状態にある請求項1記載の飼料添加剤。
【請求項3】
動物体内に存在する病原性細菌の増殖抑制用である請求項1又は2記載の飼料添加剤。
【請求項4】
動物の体重増加用である請求項1又は2記載の飼料添加剤。
【請求項5】
動物の飼料要求率改善用である請求項1又は2記載の飼料添加剤。
【請求項6】
前記動物が家畜又は家禽である請求項3ないし5のいずれか1項に記載の飼料添加剤。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の飼料添加剤を含む飼料。
【請求項8】
前記バチルス・サブチルスJA‐ZK株を菌数として10〜10 個/gになるように添加した請求項7記載の飼料。
【請求項9】
バチルス・サブチルスJA‐ZK株を菌数として10〜10個/gになるように添加した請求項6記載の飼料。
【請求項10】
バチルス・サブチルスJA‐ZK株(受託番号:FERM P-21100)を動物に給与することを含む、該動物体内の病原細菌の増殖を抑制する方法。
【請求項11】
バチルス・サブチルスJA‐ZK株(受託番号:FERM P-21100)を動物に給与することを含む、該動物の体重を増加させる方法。
【請求項12】
バチルス・サブチルスJA‐ZK株(受託番号:FERM P-21100)を動物に給与することを含む、該動物の飼料要求率を改善させる方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−187929(P2008−187929A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23700(P2007−23700)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000201641)全国農業協同組合連合会 (69)
【Fターム(参考)】