説明

香味油エマルション

少なくとも1種の香味油、および安定エマルションを生成するのに十分な量で存在する水溶性セルロースエーテル、を含む香味油エマルションを記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本件は、米国仮出願第61/086,926号(2008年8月7日出願)の利益を主張する。
【0002】
分野
本件は飲料の加工および配合に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
多くの飲料(炭酸入りソフトドリンク、炭酸なしフルーツドリンク、スポーツドリンク、およびジュースが挙げられる)では香味油を入れて飲料に香味を添え、そしてある場合には外観上の特性を飲料に与える。典型的には、飲料は、より大量の水性画分を、香味油を含有するエマルション濃縮物と組合せることによって形成する。香味油に加え、エマルション濃縮物は通常、水、保存料、酸味料、増量剤および安定剤(ハイドロコロイド)を含有してエマルションを経時的に均一に維持する。安定剤は、エマルションおよび希釈後の最終飲料の両者で分離を防止することが極めて重要である。しかし、全ての安定剤が等しく良好に働くわけではない。安定剤はエマルションの低pH条件および飲料の比較的より高いpH条件の両者で有効でなければならないからである。更に、安定剤は摂取に対して安全でなければならない。
【0004】
長年、アラビアガムは産業界において好ましい安定剤である。しかし、アラビアガムは、揮発性物質を与える等の幾つかの不都合を被る。アラビアガムは、いわゆる「ゴムベルト」アフリカ諸国(チャド、スーダン、ニジェール、およびセネガルのような)(これらは干ばつおよび社会不安を経験してきた)のアカシアの木に由来する。よって、アラビアガムと同等の性能を有する香味油エマルション用の安定剤が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
要約
一態様において、本発明は、少なくとも1種の香味油、および安定エマルションを生成するのに十分な量で存在する、水溶性セルロースエーテル;を含む、香味油エマルションを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
説明
一態様において、本発明は、少なくとも1種の香味油、および安定エマルションを生成するのに十分な量で存在する、水溶性セルロースエーテル;を含む、香味油エマルションを提供する。「安定エマルション」は、エマルションが分離しない(すなわち水が下部にたまって観察される可能性がないか、または油が上部を形成しない)ものである。全ての水溶性セルロースエステルが安定エマルションを形成するわけではなく、形成しないものは特許請求の範囲によって網羅されることを意図しない。一態様において、エマルションは少なくとも30日間、好ましくは少なくとも60日間、より好ましくは少なくとも90日間、最も好ましくは少なくとも120日間、安定な状態を保つ。
【0007】
重大な特徴ではないが、更に顕著な粘度低下を示すが安定な状態を保つエマルションが存在するため、一態様において、エマルションは少なくとも120日間に亘っての粘度低下5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満を示す。
【0008】
好ましい態様において、水溶性セルロースエーテルは、メチルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースの少なくとも1つである。一態様において、水溶性セルロースエーテルは、25℃での水中2%溶液についてのブルックフィールド粘度が約4000cps未満、好ましくは約1000cps未満を有するものから選択される。好ましい態様において、水溶性セルロースエーテルは、25℃での水中2%溶液についてのブルックフィールド粘度が好ましくは約150cps未満、好ましくは約100cps未満、より好ましくは約25cps未満を有するものから選択される。
【0009】
一態様において、水溶性セルロースエーテルは、MS約15〜約25およびDS約5〜約15を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0010】
一態様において、水溶性セルロースエーテルは、The Dow Chemical Companyから商標名METHOCEL K3で市販で入手可能である。一態様において、水溶性セルロースエーテルは、The Dow Chemical Companyから商標名METHOCEL A15 FGで公に入手可能である。一態様において、水溶性セルロースエーテルは、The Dow Chemical Companyから商標名METHOCEL SGA 7C FGで公に入手可能である。一態様において、水溶性セルロースエーテルは、The Dow Chemical Companyから商標名METHOCEL SGA 150 FGで公に入手可能である。
【0011】
一態様において、水溶性セルロースエーテルは、エマルション形成性組成物の約0.1質量%〜約15質量%の量、好ましくは約0.5質量%〜約10質量%の量、より好ましくは約1質量%〜約7質量%の量で存在する。
【0012】
香味油は、任意の消費できる疎水性成分であって味、におい、または両者を与えるものであることができる。一態様において、香味油は:シトラス油;ナッツ油;コーヒー油;コーラ油;スペアミント、ウィンターグリーン、およびペパーミントを包含するミント油;ならびにバニラ、アーモンド、シナモン、クローブ、および月桂樹を包含するスパイス油;ならびにこれらのブレンド物からなる群から選択される。一態様において、香味油は柑橘皮から得られる。一態様において、香味油は、エマルション形成性組成物の約1質量%〜約30質量%の量、好ましくは約5質量%〜約15質量%の量、より好ましくは約11質量%〜約13質量%の量で存在する。
【0013】
香味油エマルションは、追加の従来の含有成分,例えば水、保存料、酸味料、または増量剤を含むことができる。保存料の例としては、安息香酸ナトリウム、サルファイト、二酸化硫黄、亜硝酸塩および硝酸塩、ソルビン酸、ナタマイシン、グリセリルエステル、プロピオン酸、およびピロ炭酸ジエチルが挙げられる。酸味料の例としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、アジピン酸、安息香酸、フマル酸、プロピオン酸、コハク酸、酒石酸、リン酸、および炭酸が挙げられる。一態様において、増量剤は、臭素化植物油、エステルガム、スクロースジアセテートヘキサイソブチレート、精製ダンマルゴム(gum dammar)、ガヌアバワックス(ganuaba wax)、ベンジルベンゾエート、ポリグリセリルエステル、またはグリセリルトリベンゾエートの少なくとも1種である。任意含有成分の、このような含有成分によって与えられる所望の特性を実現するのに有効な量は、当業者によって容易に評価できる。
【0014】
本発明の香味油エマルションは従来のエマルション形成方法によって製造できる。
【0015】
かなり高濃度(20%以上)のアラビアガムは、その表面活性特性(天然タンパク質含有物による)および良好な酸安定性により、従来のエマルションに対する好ましい安定剤である。一態様において、本発明は、エマルションにおけるアラビアガムに対する少なくとも一部の置換を提供する。よって、一態様において、香味油エマルションは、約10%未満、好ましくは約7%未満、好ましくは約5%未満、好ましくは約3%未満、好ましくは約1%未満、より好ましくは約0.1%未満、最も好ましくは0.0001%未満のアラビアガムを含有する。
【0016】
一態様において、本発明の香味油エマルションは、より大量の水性画分と組合せて飲料(例えば炭酸入りソフトドリンク、炭酸なしフルーツドリンク、シトラス風味飲料、スポーツドリンク、またはジュース)を形成できるが、飲料加工温度が水溶性セルロースエーテルの熱ゲル化温度よりも低いことを条件とする。よって、一態様において、飲料は室温で加工する。
【0017】
香味油は、最終飲料における濁りを実現し、天然フルーツジュースのイメージまたは外観を与える助けとなる。曇りは、最終飲料の水性相全体に亘る精油滴の微分散によって生じる。しかし、比重の香味油(<0.9g/ml)と最終水性飲料(>1.00g/ml)との間の非親和性に起因し、安定性の問題,例えば分離(容器の首部周りの油のリンギング効果または容器の底部の明澄液体によって検証される)が生じる可能性がある。飲料は何らの分離も示さないことが望ましい。一態様において、飲料は少なくとも200日間安定な状態を保つ。
【0018】

以下の例は例示の目的のみであり、本発明の範囲の限定を意図しない。参考のため、水溶性セルロースエーテルは、およそ表1に示すブルックフィールド粘度を、水中2%溶液について25℃にて示す。
【0019】
【表1】

【0020】
例1
例示の本発明に係る香味油エマルションは表1Aおよび1Bに列挙する成分を含有する。
【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
表1Aおよび1Bの単位は質量%である。表1Aにおけるセルロースエーテルの量(12%香味油を有する)は、目的の配合物粘度250〜450cpsを有するように選択する。表1Bにおけるセルロースエーテルの量(8%香味油を有する)は、目的の配合物粘度25〜80cpsを有するように選択する。
【0024】
配合のために、エステルガムをオレンジ油中に溶解させる。別個に、クエン酸、安息香酸ナトリウム、およびセルロースエーテルをドライブレンドする。このドライブレンドを次いで油に添加し、そして混合して均一スラリーを形成する。水(65°F)をスラリーに添加し、約3分間Silversonミキサーにて1200rpmで混合してプレエマルションを形成する。プレエマルションを次いでMICROFLUIDICSホモジナイザーを用いて3000psiで均質化する。
【0025】
例2
例示の本発明に係る香味油エマルションは表2Aおよび2Bに列挙する成分を含有する。
【0026】
【表4】

【0027】
【表5】

【0028】
バッチは例1で説明した手順に従って調製できる。
【0029】
例3(比較)
比較組成物は表3に列挙する成分を含有する。
【0030】
【表6】

【0031】
バッチAおよびBにおけるアラビアガムの量は、目的の配合物粘度、それぞれ250〜450cpsおよび25〜80cpsを有するように選択する。上記のように、配合のために、エステルガムをオレンジ油中に溶解させる。別個に、クエン酸、安息香酸ナトリウム、およびアラビアガムをドライブレンドする。このドライブレンドを次いで油に添加し、そして混合して均一スラリーを形成する。水(65°F)をスラリーに添加し、約3分間Silversonミキサーにて1200rpmで混合してプレエマルションを形成する。プレエマルションを次いでMICROFLUIDICSホモジナイザーを用いて3000psiで均質化する。
【0032】
例4
例1および3で上記した手順に実質的に従って形成したエマルションを形成した。これを表4に列挙する。
【0033】
【表7】

【0034】
全てのエマルションは初期には安定であった。エマルションの後均質化の後の粘度を評価した。エマルションをガラス瓶に移してベンチトップ上にて室温(約70°F)にて貯蔵した。4ヶ月後、最終粘度、更に分離の目視観察を評価した。
【0035】
例5
例2および3で上記した手順に実質的に従って形成したエマルションを形成した。これを表5に列挙する。
【0036】
【表8】

【0037】
全てのエマルションは初期には安定であった。エマルションの後均質化の後の粘度を評価した。エマルションをガラス瓶に移してベンチトップ上にて室温(約70°F)にて貯蔵した。1ヶ月後、30日粘度、更に分離の目視観察を評価した。
【0038】
バッチ11(低粘度METHOCEL A15を含有する)は優れたエマルション安定性を与えた。用いたMETHOCELセルロースの粘度が増大するに従って(グレード4C、15Cおよび4M)、対応するエマルションバッチ(12、13および14)は30日後に安定ではない。
【0039】
バッチ15および16(METHOCEL SGA150およびSGA7Cを含有する)は良好なエマルション安定性を与えた。用いたMETHOCELセルロースの粘度が増大するに従って(グレードSGA16MおよびSGA50M)、対応するエマルションバッチ(17および18)は30日後に安定ではない。
【0040】
バッチ19は、METHOCEL A15とMETHOCEL SGA150とのブレンド物を含有し、30日間において優れた安定性を示す。
【0041】
比較バッチA(アラビアガムを含有する)もまた良好なエマルション安定性を示す。
【0042】
例6
本発明および比較例に係る飲料は、表6に列挙する成分を含有する。
【0043】
【表9】

【0044】
エマルションを除く全成分を室温で組合せる。エマルションを次いで添加して約1分間テーブルスプーン等で混合する。
【0045】
例7
本発明および比較例に係る飲料は、表7に列挙する成分を含有する。
【0046】
【表10】

【0047】
飲料は、例6に記載した手順に従って調製できる。
【0048】
例8
例6において上記した手順に実質的に従って形成した飲料を形成した。これを表8に列挙する。
【0049】
【表11】

【0050】
飲料は、香味エマルションを用いて1週間以内の形成で調製した。飲料が適正な曇り効果を経時的に保持する能力を、Nippon Senshoku COH−300A Color−Oil−Haze測定装置を用いて濁り(ヘイズ%および/または固形分mg/L)を測定することによって調べた。サンプルを80mlサンプルセル内に充填し、ブランクセル測定に対しての光透過/散乱を評価した。Methocel K3含有香味エマルションは7ヶ月後に良好な安定性を示したが、対応する飲料(飲料5)は配合物の不透明性の顕著な低下を有した。そしてこれは許容可能ではない。一方、Methocel A15,Methocel SGA 150およびアラビアガムは、香味エマルションに対する許容可能な安定性(バッチ3,4および比較バッチA)、そして許容可能な曇り効果(飲料3,4および比較飲料A)を与えた。
【0051】
例9
例7で上記した手順に実質的に従って形成した飲料を形成した。これを表9に列挙する。
【0052】
【表12】

【0053】
飲料は、香味エマルションを用いて1週間以内の形成で調製した。初期のヘイズ、30日後のヘイズ、飲料安定性、および目視で許容可能な不透明性を、これらのバッチについて評価した。全ての飲料サンプルは許容可能な目視の曇り効果を、1ヶ月貯蔵後に有する。曇りは、液滴の融合に関係すると考えられるが、飲料安定性とは完全には相関しない。飲料安定性はエマルション安定性に従うと考えられた。
【0054】
本発明は、本明細書において具体的に開示および例示した態様に限定されないことが理解される。本発明の種々の改変が当業者に明らかとなろう。このような変更および改変は特許請求の範囲の範囲から逸脱することなくなすことができる。
【0055】
更に、各々の列挙した範囲は、範囲、更にこれに含まれる具体的な数値の全ての組合せおよび下位組合せを包含する。加えて、本明細書で引用または説明される各々の文献の開示は参照によりその全部を本明細書に組入れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の香味油;および
安定エマルションを生成するのに十分な量で存在する、水溶性セルロースエーテル;
を含む、香味油エマルション。
【請求項2】
香味油が:シトラス油;コーヒー油;コーラ油;スペアミント、ウィンターグリーン、およびペパーミントを包含するミント油;ならびにバニラ、アーモンド、シナモン、クローブ、および月桂樹を包含するスパイス油;またはこれらのブレンド物からなる群から選択される、請求項1に記載の香味油エマルション。
【請求項3】
香味油が、エマルション形成性組成物の約1質量%〜約30質量%の量、好ましくは約5質量%〜約15質量%の量、より好ましくは約11質量%〜約13質量%の量で存在する、請求項1に記載の香味油エマルション。
【請求項4】
エマルションが、少なくとも30日間、好ましくは少なくとも60日間、より好ましくは少なくとも90日間、最も好ましくは少なくとも120日間、安定した状態を保つ、請求項1に記載の香味油エマルション。
【請求項5】
エマルションが受ける少なくとも120日間に亘っての粘度低下が、5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満である、請求項1に記載の香味油エマルション。
【請求項6】
水溶性セルロースエーテルが、メチルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースの少なくとも1種である、請求項1に記載の香味油エマルション。
【請求項7】
水溶性セルロースエーテルが、25℃での水中2%溶液についてのブルックフィールド粘度が約4000cps未満、好ましくは約1000cps未満、好ましくは約150cps未満、好ましくは約100cps未満、より好ましくは約25cps未満を有するものから選択される、請求項6に記載の香味油エマルション。
【請求項8】
水溶性セルロースエーテルが、MS約15〜約25およびDS約5〜約15を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースである、請求項6に記載の香味油エマルション。
【請求項9】
水溶性セルロースエーテルが、エマルション形成性組成物の約0.1質量%〜約15質量%の量、好ましくは約0.5質量%〜約10質量%の量、より好ましくは約1質量%〜約7質量%の量で存在する、請求項1に記載の香味油エマルション。
【請求項10】
水、保存料、酸味料、または増量剤の少なくとも1種を更に含む、請求項1に記載の香味油エマルション。
【請求項11】
増量剤が、臭素化植物油、エステルガム、スクロースジアセテートヘキサイソブチレート、精製ダンマルゴム、ガヌアバワックス、ベンジルベンゾエート、ポリグリセリルエステル、またはグリセリルトリベンゾエートの少なくとも1種である、請求項10に記載の香味油エマルション。
【請求項12】
香味油エマルションが、約10%未満、好ましくは約7%未満、好ましくは約5%未満、好ましくは約3%未満、好ましくは約1%未満、より好ましくは約0.1%未満、最も好ましくは0.0001%未満のアラビアガムを含有することを条件とする、請求項1に記載の香味油エマルション。
【請求項13】
請求項1に記載の香味油エマルションから製造される飲料であって、飲料加工温度が水溶性セルロースエーテルの熱ゲル化温度よりも低いことを条件とする、飲料。
【請求項14】
室温で加工されている、請求項13に記載の飲料。
【請求項15】
炭酸入り飲料である、請求項13に記載の飲料。
【請求項16】
炭酸入り飲料ではない、請求項13に記載の飲料。
【請求項17】
シトラス風味飲料である、請求項13に記載の飲料。
【請求項18】
少なくとも200日間安定した状態を保つ、請求項13に記載の飲料。

【公表番号】特表2011−530292(P2011−530292A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522257(P2011−522257)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/053079
【国際公開番号】WO2010/017435
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】