説明

高周波電源装置

【課題】 出力周波数とは異なる他の高周波電源装置の出力周波数成分が反射波に含まれるような場合に、内部にある増幅素子等を反射波から保護するために、反射波のレベルを低減させる。
【解決手段】 高周波電力の供給源となる高周波出力手段を備え、負荷にプラズマ発生用の高周波電力を供給する高周波電源装置において、高周波電源装置の出力端における進行波電圧および反射波電圧を検出する方向性結合器14と、第1発振信号を出力する第1発振部19と、第2発振信号を出力する第2発振部21と、反射波電力値を演算する反射波電力演算部16と、第2発振信号の位相を調整する位相調整部22と、第2発振信号の変調指数を調整する変調指数調整部23と、前記第1発振信号を位相及び変調指数が調整された前記第2発振信号で周波数変調した被変調信号を出力する変調部24とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラズマエッチング、プラズマCVDを行うプラズマ処理装置等の負荷に電力を供給する高周波電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波電力を用いて発生させたプラズマを利用してウエハ、液晶基板等の被加工物に加工(プラズマエッチング、プラズマCVD等)を行うプラズマ処理システムとして、図6に示すように、異なる周波数の高周波電力を用いるプラズマ処理システムがある。
【0003】
図6は、異なる周波数の高周波電力を用いるプラズマ処理システムの接続関係を示すブロック図である。
【0004】
図6において、従来の第1の高周波電源装置50は、伝送線路2及び第1の整合器3及び接続部4を介して、負荷5に第1の高周波電力(以下、第1高周波という)を供給するための電源装置である。この第1の高周波電源装置50の出力周波数を第1周波数f1とし、第1周波数の周期をt1とする。また、第2の高周波電源装置6は、伝送線路2及び整合器3及び負荷5接続部4を介して、負荷5に第2の高周波電力(以下、第2高周波という)を供給するための電源装置である。この第2の高周波電源装置6の出力周波数を第2周波数f2とし、第2周波数の周期をt2とする。なお、第1周波数は、第2周波数よりも周波数が高い。例えば、第1周波数は、13.56MHz,27.12MHz,40.68MHz等の周波数が用いられる。また、第2周波数は、400kHz,2MHz等の周波数が用いられる。このように、一般にこの種の高周波電源装置では、数百kHz以上の周波数の高周波電力を出力している。
【0005】
第1の高周波電源装置50から出力する第1高周波は、負荷5においてプラズマを発生させるための主となるものである。また、第2の高周波電源装置6から出力される第2高周波は、負荷5における加工(プラズマエッチング、プラズマCVD等)を効率よく行うためのバイアス用として用いられる。これら2つの高周波電源装置から出力される2種類の高周波が重畳されて負荷5内の電極に印加される。
【0006】
高周波電源装置の出力制御は、夫々が出力する進行波電力を一定に制御する方法あるいは進行波電力から反射波電力を減じた負荷側電力を一定に制御する方法が用いられる。
【0007】
以下、高周波電源装置50、整合器3、負荷5を中心にして説明する。
整合器3は、整合器3の入力端301から伝送線路2を経由し高周波電源装置50側を見た電源側インピーダンスZo(通常は50Ω)と、整合器3の入力端から負荷5側を見た負荷側インピーダンスZL(整合器3及び負荷5接続部4及び負荷5のインピーダンス)とを整合させることによって、高周波電源装置と負荷5との間をインピーダンス整合させる目的で用いられる装置である。
【0008】
この整合器3は、内部に図示しない可変インピーダンス素子(例えば、可変コンデンサ、可変インダクタ等)を備えていて、高周波電源装置50と負荷5との間がインピーダンス整合するように、上記の可変インピーダンス素子のインピーダンスを変化させる機能を有する。より具体的には、例えば高周波電源装置50の出力端501から高周波電源装置50側を見たインピーダンス(出力インピーダンス)が、例えば50Ωに設計され、高周波電源装置が、特性インピーダンス50Ωの伝送線路2でインピーダンス整合器3の入力端に接続されているとすると、インピーダンス整合器3は、当該インピーダンス整合器3の入力端301から負荷5側を見た負荷側インピーダンスZLを50Ωに変換するように可変インピーダンス素子のインピーダンスを変化させる。
【0009】
負荷5は、一般的にプラズマ処理装置と呼ばれるものであり、内部に電極を有するチャンバーを備え、このチャンバーの内部に搬入したウエハ、液晶基板等の被加工物を加工(エッチング、CVD等)するための装置である。この負荷5は、被加工物を加工するために、チャンバー内にプラズマ放電用ガスを導入し、内部の電極に2つの高周波電源装置から供給される高周波電力(電圧)を印加することによって、電極間に高周波電界を生じさせて、上記のプラズマ放電用ガスを放電させてプラズマ状態にしている。そして、このプラズマを利用して被加工物を加工している。
【0010】
次に高周波電源装置50の構成について説明する。
図7は、一般的な高周波電源装置の構成例を示すブロック図である。増幅部52は、直流電源部51から供給される直流電力を利用して、発振部59から出力する発振信号Vinを増幅し、無線周波数帯域の出力周波数を有する高周波電力を出力するものである。増幅部52において増幅された高周波電力は、主に高調波を除去するためのフィルタ部53、方向性結合器54を介して負荷5に供給される。また、方向性結合器54で検出した進行波電圧に基づいて、進行波電力演算部55において進行波電力値PFが演算される。出力電力制御部58は、出力電力設定部57において設定された高周波電力の出力電力設定値Psetと、進行波電力演算部において演算された進行波電力値Pfとを比較し、両者が等しくなるように、発振部の発振信号Vinの出力レベルを制御するものである。つまり、出力電力制御部は、発振部の発振信号Vinの出力レベルを制御することにより、高周波電力の出力が一定になるように制御するものである。なお、方向性結合器54で検出する反射波電圧から反射波電力値Prを演算し、進行波電力演算値Pfから反射波電力演算値Prを減じた負荷側電力演算値を一定に制御するように高周波電源装置を構成してもよい。このような高周波電源装置としては、特許文献1に記載のようなものがある。
【特許文献1】特開2003−143861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図8は、負荷5のチャンバー内にプラズマが生じたときのイメージ図である。この図7に示すように、チャンバー内の電極に2つの高周波電源装置から高周波電力(電圧)を印加してプラズマを生じさせた場合、電極間には導電性のプラズマとともに絶縁性のシースが生じる。なお、図8では、プラズマの周囲を取り囲む長方形の図形をアース側電極としている。
【0012】
図9は、チャンバー内にプラズマが生じたときの負荷5の電気的等価回路である。上述したように、プラズマは導電性であり、シースは絶縁性であるので、図8に示すように、プラズマでの損失分を抵抗として表し、シースをコンデンサとして表すことができる。
【0013】
以下、この図9の電気的等価回路を用いて、出力周波数の異なる複数(例えば2つ)の高周波電源装置50,6が、1つの負荷5に高周波電力を供給した場合の状態について説明する。
【0014】
通常、2つの高周波電源装置を用いる場合、バイアス用の第2高周波の周波数(第2周波数)は、第1高周波の周波数(第2周波数)よりも低い周波数となる。このような場合、2つの高周波電源装置の出力周波数に大きな差異があると、第2高周波が原因となって、第1の高周波電源装置50側に大きな反射波が生じてしまう。
【0015】
具体的には、図9の等価回路に示すように、シースをコンデンサと見なすと、双方の高周波電源装置50,6から出力される高周波の影響を受けて、コンデンサの両端電圧が変化するが、第1周波数の方が第2周波数よりも周波数が高いので、コンデンサの両端電圧は、あたかも第2周波数で変調したような変化をする。また、この影響で、シースの厚みが第2周波数と同じ周期で変動する。この現象は、図9の等価回路で考えると、コンデンサの電極間距離が変動することに相当するので、コンデンサの容量が変化することになる。
【0016】
また、シースの状態変動とともに、プラズマの状態も変動するので、負荷5のインピーダンスが第2周波数で変調したように変化する。そのために、第1の高周波電源装置50から出力された進行波の一部は、上記第2周波数と同じ周期の変調の影響により反射されるので、反射波が生じる。
【0017】
このとき、第1の整合器3が、第2周波数の変調に追従してインピーダンス整合できればよいが、上述したように、可変インピーダンス素子(例えば、可変コンデンサ、可変インダクタ等)を駆動させてインピーダンス整合を行うために、第2周波数の変調のような高速な変化には追従できず、反射波を低減させることができない。よって、発生した反射波が第1の高周波電源装置50側に戻ってしまう。
【0018】
また、この反射波は、第1高周波を第2高周波で変調したような現象によって生じているので、反射波の周波数成分をみると、第1周波数を主成分とし、スプリアスとして第2周波数の成分が乗っている状態となる。そのため、反射波の周波数成分は、第1周波数および第1周波数周辺の周波数で大部分を占めることになる。
【0019】
図10は、出力周波数の異なる2つの高周波電源装置が、1つの負荷5に高周波電力を供給した場合に、出力周波数の高い第1の高周波電源装置50側の出力端で検出する進行波と反射波とをシミュレーションした一例である。なお、第1の高周波電源装置50から出力する進行波電力の設定値は、3000[W]である。
【0020】
この図10において、同図(a)は、第1の高周波電源装置50の出力端における進行波電圧を示すものであり、同図(b)は、第1の高周波電源装置50の出力端における反射波電圧を示すものであり、同図(c)は、同図(a)で示した進行波電圧の周波数成分の内、第1周波数付近のものを示したものであり、同図(d)は、同図(b)で示した反射波電圧の周波数成分の内、第1周波数付近のものを示したものである。
【0021】
上述したように、出力周波数の異なる複数の高周波電源装置が、1つの負荷5に高周波電力を供給すると、出力周波数の高い高周波電源装置側に、例えば、図10(b)に示すような反射波電圧が生じる。このときの反射波電力は、あるモデルによると、約950[W]であり、出力電力の約30%という非常に大きな割合になる。
【0022】
また、この際、進行波にも影響が生じて、図10(a)に示すような進行波電圧となる。
【0023】
また、このような場合、進行波電圧および反射波電圧の周波数成分は、図10(c)、図10(d)のようになる。すなわち、この図10の例の場合、進行波電圧の周波数成分は、第1周波数が大部分を占めていることが分かる。一方、反射波電圧の周波数成分は、上述したように、第1周波数を主成分とし、スプリアスとして第2周波数の成分が乗っている状態であることが分かる。その結果、図10(b)に示すように、反射波電圧は、第2周波数の周期t2で変動することになる。
【0024】
ところで、高周波電源装置には、通常、図7に示すように、出力側にフィルタ部53が設けられている。しかし、このフィルタ部53は、主となる第1周波数に対する高調波成分を除去するローパスフィルタであるので、第1周波数周辺の周波数成分は除去できない。そのために、主成分である第1周波数に、スプリアスとして乗っている第2周波数の成分を除去することができない。
【0025】
したがって、発生した反射波が、第1の高周波電源装置50のフィルタを通過して高周波電源装置50の内部に浸入してしまうので、高周波電源装置内の増幅素子に悪影響を及ぼす。しかも、発生する反射波電力は、上述したように、出力の30%程度になることもあるので、その影響は大きく、場合によっては、高周波電源装置内の増幅素子等を破壊しまうことがある。
【0026】
一方、第2の高周波電源装置6から見ると、第1周波数の周波数成分を有する反射波が高周波電源装置側に戻る。しかし、高周波電源装置に設けられたフィルタは、主となる第2周波数に対する高調波成分を除去するローパスフィルタであるので、第1周波数の周波数成分を除去できる。そのために、第2の高周波電源装置6側は、第1の高周波電源装置50から出力する第1高周波の影響を殆ど受けない。
【0027】
このように、出力周波数の異なる複数の高周波電源装置が1つの負荷5に高周波電力を供給しているときには、高い出力周波数の方の高周波電源装置が低い出力周波数の高周波電源装置の影響による反射波のために、内部の増幅素子に悪影響を受けるという問題があった。
【0028】
本発明は、上記事情のもとで考え出されたものであって、出力周波数とは異なる他の高周波電源装置の出力周波数成分が反射波に含まれるような場合に、内部にある増幅素子等を反射波から保護するために、反射波のレベルを低減させる高周波電源装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0029】
第1の発明によって提供される高周波電源装置は、
高周波電力の供給源となる高周波出力手段を備え、負荷にプラズマ発生用の高周波電力を供給する高周波電源装置において、
高周波電源装置の出力端における進行波電圧および反射波電圧を検出して、進行波電圧に対応する進行波信号および反射波電圧に対応する反射波信号を出力する高周波検出手段と、
予め定められた第1周波数で発振させた信号を第1発振信号として出力する第1発振手段と、
予め定められた第2周波数帯域内の周波数で発振させた信号を第2発振信号として出力する第2発振手段と、
前記高周波検出手段から出力された反射波信号に基づいて反射波電力値を演算する反射波電力演算手段と、
前記第2発振手段から出力された第2発振信号の位相を調整する位相調整手段と、
前記第2発振手段から出力された第2発振信号の変調指数を調整する変調指数調整手段と、
前記第1発振信号を位相及び変調指数が調整された前記第2発振信号で周波数変調した被変調信号を出力する変調手段と、
前記変調手段から出力する被変調信号または被変調信号の出力レベルを制御した信号を増幅して出力する高周波出力手段と、
を備えたことを特徴としている。
【0030】
第2の発明によって提供される高周波電源装置は、
前記位相調整手段が、手動により前記第2発振信号の位相を調整する操作部を備え、前記変調指数調整手段が、手動により前記第2発振信号の変調指数を調整する操作部を備えたことを特徴としている。
【0031】
第3の発明によって提供される高周波電源装置は、
前記第2発振手段は、前記高周波検出手段から出力された進行波信号のうち予め定められた第2周波数帯域の成分を入力信号とする電圧制御型発振部を備えたことを特徴としている。
【0032】
第4の発明によって提供される高周波電源装置は、
前記電圧制御型発振部は、入力信号の状態を保持する機能を有し、入力信号の振幅レベルが予め定められたレベル未満になると、その状態を入力信号の振幅レベルが予め定められたレベル以上になるまで保持する機能を有することを特徴としている。
【0033】
第5の発明によって提供される高周波電源装置は、
前記第2発振手段は、予め定められた第2周波数で発振する発振器を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0034】
第1の発明によれば、第1発振信号を第2発振信号で周波数変調させて出力するので、出力波形を変動させることができる。この変動の度合いは、第2発振信号の位相および変調指数の少なくとも一方を調整可能とすることで変更できる。そのために、反射波が生じた場合、その反射波を打ち消すように調整することによって、反射波電力を低減させることができる。そのため、高周波出力手段を構成する増幅素子等の損傷の危険性を低減することができる。また、反射波を考慮して、耐圧や耐温度等の大きい素子を選定する必要がなくなるので、素子の小型化とコスト低減を図ることができる。
【0035】
異なる出力周波数の他の高周波電源装置の高周波によって反射波が生じても、本発明によれば、位相及び変調指数を調整することによって、反射波を低減させることができる。
通常、負荷のプラズマの状態が安定していれば、異なる出力周波数の他の高周波電源装置の高周波の影響によって反射波が生じても、その反射波の状態は、あまり変動しない。そのために、本発明によって、一旦、変調波となる発振信号の位相と変調指数を調整して反射波を低減させてしまえば、頻繁に位相及び変調指数の調整度合いを変更しなくても、反射波を低減させた状態を保つことができる。
そこで、第2の発明によれば、手動によって位相と変調指数とを調整可能な操作部を設けているので、複雑な制御を必要とせずに、簡易的に反射波を低減させることが可能となる。
【0036】
第3の発明によれば、他の高周波電源装置の出力周波数と同期させた発振信号を被変調信号とすることができるので、発振周波数の調整をしなくてもよいという利点がある。
【0037】
上記第3の発明では、発振周波数の調整を必要としない利点があるが、第2発振信号の振幅レベルが小さくなって、同期させるための信号して使用できない場合がある。このような場合にも、第4の発明のように、以前の状態を保持する機能を持たせることによって、上記第3の発明の効果を保持できるようになる。
【0038】
第5の発明によれば、他の高周波電源装置の出力周波数と第2発振信号の周波数とを同期させることはできないが、その分、フィルタや保持する回路が不要となるので、構成を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の詳細を図面を参照して説明する。
【0040】
図1は、本発明に係る高周波電源装置1の構成を示すブロック図である。
高周波電源装置1は、図1に示すように、直流電源部11と、増幅部12と、フィルタ部13と、方向性結合器14と、進行波電力演算部15と、反射波電力演算部16と、出力電力設定部17と、出力電力制御部18と、第1発振部19と、第2周波数フィルタ20と、第2発振部21と、位相調整部22と、変調指数調整部23と、変調部24とを備えている。なお、従来の高周波電源装置50と同様に、第1の高周波電源装置1から出力する第1の高周波電力を第1高周波とし、第1の高周波電源装置の出力周波数を第1周波数f1とし、第1周波数の周期をt1とする。
【0041】
直流電源部11は、後述する増幅部12に直流電力を供給するものである。
【0042】
増幅部12は、直流電源部11から供給された直流電力を利用して、後述する出力電力制御部18から出力される発振信号Vfm2を増幅し、高周波電源装置の出力端101を介して高周波電力を出力するものである。増幅部12において増幅された高周波電力は、フィルタ部13、方向性結合器14を介して負荷5に供給される。この増幅部12は、例えば、FETを用いたプッシュプル方式の増幅回路で構成されている。なお、増幅部12は、本発明の高周波出力手段の一例である。また、増幅部12から出力されて負荷5に向かう電力を進行波電力といい、負荷5側から反射されてくる電力を反射波電力という。また、進行波電力の電圧成分を進行波電圧、電流成分を進行波電流という。同様に、反射波電力の電圧成分を反射波電圧、電流成分を反射波電流という。
【0043】
フィルタ部13は、高調波を除去するためのフィルタである。
【0044】
方向性結合器14は、高周波電源装置1の出力端において、高周波電力(進行波電力および反射波電力)の進行波電圧および反射波電圧を検出するものであり、
検出信号として、進行波電圧に対応した進行波電圧信号Vf、および反射波電圧に対応した反射波電圧信号Vrを出力する。なお、方向性結合器14は、本発明の高周波検出手段の一例である。
【0045】
進行波電力演算部15は、方向性結合器14から出力された進行波電圧信号Vfから進行波電力を演算するものであり、演算された進行波電力を進行波電力信号Pfとして出力する。
【0046】
反射波電力演算部16は、方向性結合器14から出力された反射波電圧信号Vrから反射波電力を演算するものであり、演算された反射波電力を反射波電力信号Prとして出力する。この反射波電力信号Prは、高周波電源装置の外部にあるもモニタに送られる。なお、反射波電力演算部16は、本発明の反射波電力演算手段の一例である。
【0047】
出力電力設定部17は、負荷5に供給する高周波電力の出力電力値を設定するためのものである。なお、図1では省略しているが、出力電力設定部17には、高周波電力の出力電力設定値を設定するための出力電力設定スイッチや高周波電力の供給の開始を指示する出力開始スイッチを備えた操作部等が設けられている。出力電力設定部17において設定された高周波電力の出力電力設定値Psetは、出力電力制御部18に送られる。なお、出力電力設定値等は、外部の装置から入力してもよい。
【0048】
出力電力制御部18は、出力電力設定部17において設定された高周波電力の出力電力設定値Psetと、進行波電力演算部15において測定された進行波電力信号Pfとを比較し、両者が等しくなるように、後述する変調部24から出力される被変調信号Vfm2の出力レベルを制御するものである。つまり、出力電力制御部18は、被変調信号Vfm2の出力レベルを制御することにより、高周波電力の出力が一定になるように制御するものである。変調部24等については、後述する。
【0049】
なお、本実施形態では、上述したように、高周波電源装置1の出力制御が、進行波電力を一定にする制御であるとして説明しているが、これに限定されるものではなく、負荷側電力を一定に制御する方法を採用してもよい。
【0050】
第1発振部19は、増幅部12に対して第1周波数の交流の発振信号Vin1を出力するものである。なお、第1発振部19は、本発明の第1発振手段の一例である。
【0051】
第2周波数フィルタ20は、方向性結合器14から出力する進行波電圧信号Vfを入力として、この進行波電圧信号Vfに含まれる第2周波数の周波数成分を取り出すフィルタである。このフィルタの出力を第2進行波電圧信号Vf2とする。
【0052】
第2発振部21は、第2周波数フィルタ20の出力を入力として、入力した第2進行波電圧信号Vf2の周波数に同期した周波数の第2発振信号Vin2を出力する電圧制御型の発振回路である。なお、この第2発振部21は、入力信号の状態を保持する機能を有し、入力信号の振幅レベルが予め定められたレベル未満になると、その状態を入力信号の振幅レベルが予め定められたレベル以上になるまで保持する機能を有している。なお、第2発振部21は、本発明の第2発振手段の一例である。
【0053】
位相調整部22は、第2発振部21から出力された第2発振信号の位相を調整するものであり、位相指令値に対応する外部からの指令信号θosによって、位相を調整する機能を有する。なお、位相調整部22は、本発明の位相調整手段の一例である。
【0054】
変調指数調整部23は、第2発振部21から出力された第2発振信号の変調指数を調整するものであり、変調指数指令値に対応する外部からの指令信号Gによって、変調指数を調整する機能を有する。なお、変調指数調整部23は、本発明の変調指数調整手段の一例である。
【0055】
なお、この実施形態では、位相調整部22の後に変調指数調整部23を設けているが、この順番を逆にしてもよい。また、本明細書では、位相調整部22と変調指数調整部23との順番に関わらず、位相調整部22で調整する対象となる信号は、第2発振部21から出力された第2発振信号であり、変調指数調整部23で調整する対象となる信号は、第2発振部21から出力された第2発振信号であるとしている。例えば、位相調整部22の後に変調指数調整部23を設けている場合、変調指数調整部23で変調指数を調整する発振信号は、厳密には、位相調整部22から出力された発振信号であるが、便宜上、第2発振信号の位相を調整するという表現を用いる。
【0056】
変調部24は、第1発振信号を位相及び変調指数が調整された第2発振信号で周波数変調した被変調信号Vfm1を出力するものである。この被変調信号Vfm1は式(1)で表すことができる。
VSf1=A・cos(ω1t+G・sin(ω2t+θos)) ・・・(1)
ただし、「ω1t」は、第1発振信号の角周波数ω1を時間t倍したものであり、「w2t」は、第2発振信号の角周波数ω2を時間t倍したものであり、「A」は、第1発振信号の振幅レベルで定まる定数であり、「θos」は、位相調整部22で位相を調整する際に用いられる位相オフセットであり、「G」は、変調指数調整部23で変調指数を調整する際に用いられるゲインである。なお、変調部24は、本発明の変調手段の一例である。
【0057】
すなわち、変調部24の出力の振幅は、第1発振信号の振幅レベルを有するが、発振周波数は、第1発振信号の周波数ではなく、第2発振信号の周波数で変調されているので変動する。この被変調信号Vfmが、前述したように、出力電力制御部18で出力レベルが制御されて増幅部12に入力される。
【0058】
次に、この高周波電源装置を用いた動作を説明する。
図2は、位相調整部22において、位相を変化させたときの反射波電力を示すシミュレーションである。なお、変調指数を1としている。この図から、位相を調整することによって、反射波電力が低減できることが分かる。この例の場合、位相を100度にしたときに、反射波電力が約20[W]となって最小となる。また、位相を280度にしたときに、反射波電力が約2590[W]となって最大となる。図10で示したシミュレーションの場合は、反射波電力が約950[W]であったので、位相の調整によって、大幅に反射波電力が低減できる。
【0059】
この反射波電力が最小となる位相(100度)と、最大となる位相(0度)とで、進行波、反射波の状態を見ると、図3、図4のようになる。
【0060】
図3は、図2で反射波電力が最小となる位相(100度)の場合における出力周波数の高い高周波電源装置側の出力端で検出する進行波と反射波とをシミュレーションした一例である。
図4は、図2で反射波電力が最大となる位相(0度)の場合における出力周波数の高い高周波電源装置側の出力端で検出する進行波と反射波とをシミュレーションした一例である。
【0061】
なお、図3、図4ともに、図10と同様に、高周波電源装置から出力する進行波電力の設定値は、3000[W]である。また、この図3、図4ともに、図(a)は、高周波電源装置の出力端における進行波電圧を示すものであり、図(b)は、高周波電源装置の出力端における反射波電圧を示すものであり、図(c)は、図(a)で示した進行波電圧の周波数成分の内、第1周波数付近のものを示したものであり、図(d)は、図(b)で示した反射波電圧の周波数成分の内、第1周波数付近のものを示したものである。
【0062】
このように、第2発振信号の位相を調整し、この第2発振信号で第1発振信号を周波数変調した場合、図3、図4の図(c)に示すように、進行波には、第2発振信号の周波数成分がスプリアスとして乗ってくる。そのために、図(b)、図(d)に示すように、反射波の状態が変化する。このとき、図3に示すように、反射波を打ち消すように位相を調整できると、反射波のレベルを低減させることができる。
【0063】
図5は、変調指数調整部23において、変調指数を変化させたときの反射波電力を示すシミュレーションである。なお、位相=100度とし、変調指数=0〜2としている。この図から、変調指数を調整することによって、反射波電力が低減できることが分かる。この例の場合、変調指数を1にしたときに、反射波電力が約16[W]となって最小となる。また、変調指数を2にしたときに、反射波電力が1033[W]となって最大となる。図10で示したシミュレーションの場合は、反射波電力が約950[W]であったので、変調指数の調整によっても、大幅に反射波電力が低減できる。
【0064】
このように、位相、変調指数の調整によって、反射波電力を低減させることができる。なお、図2、図5では、位相または変調指数のどちらかを調整する例を示したが、双方を組み合わせて調整してもよい。
【0065】
そこで、本実施形態では、2MHz発振部の後段に位相調整部22と変調指数調整部23とを設けて、2MHz発振部から出力された発振信号の位相と変調指数とを調整できるように構成している。これによって、他の高周波電源装置の影響によって反射波が生じた場合であっても、反射波のレベルを低減することができるので、高周波電源装置内の増幅素子を反射波から保護できるようになる。
【0066】
なお、本実施形態では、第2周波数フィルタ20によって、方向性結合器14から出力する進行波電圧信号Vfに含まれる第2周波数の周波数成分を取り出し、取り出した第2進行波電圧信号Vf2を第2発振部21に入力していた。これによって、他の高周波電源装置の出力周波数と同期させた発振信号を被変調信号とすることができるので、発振周波数の調整をしなくてもよいという利点がある。
【0067】
しかし、これに限定されるものではなく、例えば、予め定められた第2周波数で発振する発振器を備えた構成の第2発振部21にしてもよい。この場合、他の高周波電源装置の出力周波数と第2発振信号の周波数とを同期させることはできないが、その分、フィルタや保持する回路が不要にできる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、本発明に係る高周波電源装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、位相調整部22において、位相を変化させたときの反射波電力を示すシミュレーションである。
【図3】図3は、図2で反射波電力が最小となる位相(100度)の場合における出力周波数の高い高周波電源装置側の出力端で検出する進行波と反射波とをシミュレーションした一例である。
【図4】図4は、図2で反射波電力が最大となる位相(0度)の場合における出力周波数の高い高周波電源装置側の出力端で検出する進行波と反射波とをシミュレーションした一例である。
【図5】図5は、変調指数調整部23において、変調指数を変化させたときの反射波電力を示すシミュレーションである。
【図6】図6は、異なる周波数の高周波電力を用いるプラズマ処理システムの接続関係を示すブロック図である。
【図7】図7は、一般的な高周波電源装置の構成例を示すブロック図である。
【図8】図8は、負荷5のチャンバー内にプラズマが生じたときのイメージ図である。
【図9】図9は、チャンバー内にプラズマが生じたときの負荷5の電気的等価回路である。
【図10】図10は、出力周波数の異なる2つの高周波電源装置が、1つの負荷5に高周波電力を供給した場合に、出力周波数の高い第1の高周波電源装置50側の出力端で検出する進行波と反射波とをシミュレーションした一例である。
【符号の説明】
【0069】
1 本発明に係る高周波電源装置
2 伝送線路2
3 第1の整合器
4 負荷接続部
5 負荷5
6 第2の高周波電源装置
7 伝送線路2
8 第1の整合器
9 負荷接続部
11 直流電源部
12 増幅部
13 フィルタ部
14 方向性結合器
15 進行波電力演算部
16 反射波電力演算部
17 出力電力設定部
18 出力電力制御部
19 第1発振部
20 第2周波数フィルタ
21 第2発振部
22 位相調整部
23 変調指数調整部
24 変調部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電力の供給源となる高周波出力手段を備え、負荷にプラズマ発生用の高周波電力を供給する高周波電源装置において、
高周波電源装置の出力端における進行波電圧および反射波電圧を検出して、進行波電圧に対応する進行波信号および反射波電圧に対応する反射波信号を出力する高周波検出手段と、
予め定められた第1周波数で発振させた信号を第1発振信号として出力する第1発振手段と、
予め定められた第2周波数帯域内の周波数で発振させた信号を第2発振信号として出力する第2発振手段と、
前記高周波検出手段から出力された反射波信号に基づいて反射波電力値を演算する反射波電力演算手段と、
前記第2発振手段から出力された第2発振信号の位相を調整する位相調整手段と、
前記第2発振手段から出力された第2発振信号の変調指数を調整する変調指数調整手段と、
前記第1発振信号を位相及び変調指数が調整された前記第2発振信号で周波数変調した被変調信号を出力する変調手段と、
前記変調手段から出力する被変調信号または被変調信号の出力レベルを制御した信号を増幅して出力する高周波出力手段と、
を備えたことを特徴とする高周波電源装置。
【請求項2】
前記位相調整手段が、手動により前記第2発振信号の位相を調整する操作部を備え、前記変調指数調整手段が、手動により前記第2発振信号の変調指数を調整する操作部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項3】
前記第2発振手段は、
前記高周波検出手段から出力された進行波信号のうち予め定められた第2周波数帯域の成分を入力信号とする電圧制御型発振部を備えたことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の高周波電源装置。
【請求項4】
前記電圧制御型発振部は、入力信号の状態を保持する機能を有し、入力信号の振幅レベルが予め定められたレベル未満になると、その状態を入力信号の振幅レベルが予め定められたレベル以上になるまで保持する機能を有することを特徴とする請求項3に記載の高周波電源装置。
【請求項5】
前記第2発振手段は、予め定められた第2周波数で発振する発振器を備えたことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の高周波電源装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−103102(P2007−103102A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289437(P2005−289437)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】