説明

高架橋の耐震補強構造

【課題】下部構造の地上部分を耐震補強する際、地下部分の耐震補強を不要にし又は合理化する。
【解決手段】本発明に係る高架橋の耐震補強構造1は、高架橋2の上部構造3を支持するラーメン架構4と、基礎構造としてのフーチング5及び杭6と、立体ブレース7とからなる。立体ブレース7は、全体形状が四角錐状になるように、4本のブレース本体10の上端を、上部構造3の下面所定位置にそれぞれ接合するとともに、それらの下端を柱8が立設されたフーチング5にそれぞれ接合して構成してある。4本のブレース本体10は、外筒部材42の外周面にそれらの上端を固定するとともに、その内側に、上部構造3の下面に突設された履歴減衰材からなる内筒部材41を嵌め入れてあり、内筒部材41及び外筒部材42はダンパー機構43として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として鉄道用に係る高架橋の耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道用高架橋の下部構造は、通常、鉄筋コンクリートのラーメン架構として構築されることが多いが、その設計施工の際には、地震時における高架橋の耐震性が十分検討されなければならない。特に、橋軸直交方向については、列車の脱線を未然に防止できるよう、同方向の剛性を十分に高めておく必要がある。
【0003】
かかる状況下、鉄筋コンクリートのラーメン架構内にダンパーブレースを配設した高架橋の下部構造が研究開発され、耐震性の向上が図られてきた。
【0004】
ここで、既設の高架橋にダンパーブレースを配置する場合には、地上に構築される部分のみならず、地下部分についても耐震性を向上させる必要があるところ、基礎梁の再施工には多額の費用と時間を要する。
【0005】
そのため、ラーメン架構を支持する既設の杭から離間した位置にあらたな杭を増し杭として設けるとともに、該増し杭の杭頭と梁の両端近傍又は柱の頭部近傍とをブレースを介して相互に連結する耐震補強構造が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−020228号公報
【特許文献2】特開2004−270168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した耐震補強構造によれば、鉛直荷重は従前通り、既設の杭で支持する一方、地震時水平力については、その一部をブレースを介して増し杭に伝達させることが可能となり、かくして高架橋の下部構造を地上部分のみならず地下部分についても耐震補強することが可能となる。
【0008】
しかしながら、かかる耐震補強構造であっても、増設される杭を大断面杭としなければならないため、経済性の観点では未だ開発の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、下部構造の地上部分を耐震補強する際、地下部分の耐震補強を不要にし又は合理化することが可能な高架橋の耐震補強構造を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る高架橋の耐震補強構造は請求項1に記載したように、高架橋の上部構造を支持するラーメン架構と、該ラーメン架構を構成する柱が立設された基礎構造と、複数のブレース本体からなる立体ブレースとを備え、該立体ブレースは、全体形状が角錐状になるように前記複数のブレース本体の上端を前記上部構造の下面所定位置にそれぞれ接合するとともにそれらの下端を前記柱の脚部又は該柱の立設位置近傍にそれぞれ接合してなるものである。
【0011】
また、本発明に係る高架橋の耐震補強構造は、前記ブレース本体の上端と前記上部構造との間にダンパー機構を介在させたものである。
【0012】
また、本発明に係る高架橋の耐震補強構造は、前記ダンパー機構を、履歴減衰材で形成され前記上部構造の下面から下方に向けて突設された内筒部材と該内筒部材が嵌め込まれ前記複数のブレース本体の上端が周面に固定された外筒部材とで構成したものである。
【0013】
また、本発明に係る高架橋の耐震補強構造は、前記外筒部材及び前記内筒部材を、それらの鉛直相対移動が拘束されるように構成したものである。
【0014】
ラーメン架構を耐震補強する場合においては、ラーメン架構を耐震補強した分だけ、基礎構造により多くの水平地震力が伝達される。そのため、耐震補強による荷重増加分を安全確実に地盤に伝達させる技術が重要になるところ、増し杭に水平地震力の一部を負担させる方法が知られていることは既に述べた通りである。
【0015】
しかしながら、増し杭の構築は、用地の確保やあらたな杭打ちが必要になるなど、経済面での負担が大きい。
【0016】
ここで、従来の高架橋下部構造を支持する基礎構造においては、水平地震力が特定の部位に集中しても、基礎構造の健全性が十分に確保されるよう、かなりの余裕をもって安全側に耐震設計されている。
【0017】
本出願人は、このような基礎構造の耐震余裕をうまく利用することができないかに着眼して研究開発を行った結果、高架橋上部構造からの水平地震力をラーメン架構に全て流すのではなく、その一部を立体ブレースを介して基礎構造に分散伝達させる技術の開発に成功した。
【0018】
すなわち、本発明に係る高架橋の耐震補強構造においては、複数のブレース本体からなる立体ブレースを備えており、該立体ブレースは、全体形状が角錐状になるように複数のブレース本体の上端を上部構造の下面所定位置にそれぞれ接合するとともにそれらの下端を柱の脚部又は該柱の立設位置近傍にそれぞれ接合してなる。
【0019】
このようにすると、高架橋上部構造からの水平地震力の一部、主としてラーメン架構を耐震補強したことによる荷重増加分が複数のブレース本体を介して基礎構造に分散伝達され、立体ブレースは、ラーメン架構を耐震補強する役割だけではなく、上部構造からの地震時水平力の一部を基礎構造に分散伝達する役割をも果たす。
【0020】
すなわち、ラーメン架構を耐震補強したことの荷重増加分は、従前のように基礎構造の特定部位に集中することなく、基礎構造全体に広く分散伝達されるとともに、その結果として、基礎構造の構成要素である杭やフーチングが負担すべきそれぞれの荷重増加分はわずかで済む。
【0021】
そのため、ラーメン架構の耐震補強による荷重増加分を、基礎構造が潜在的に保有していた耐震余裕で概ね吸収することが可能となり、かくして既存の基礎構造をあえて耐震補強する必要がなくなり、又は仮に基礎構造を耐震補強する必要が生じたとしても、その補強規模を大幅に軽減することが可能となる。
【0022】
ちなみに、ラーメン架構の構面内にブレースを設置する従前の耐震補強構造で地震時水平力を基礎構造に均等に伝達させようとすると、ブレースをラーメン架構ごとに設置せねばならない、言い換えると、多数のブレースを橋軸方向に沿って設置せねばならないため、経済面で現実的ではない。
【0023】
本願発明に係る立体ブレースは、高架橋を橋軸方向に沿って合理的に耐震補強することが可能な手段であって、従前のブレースより格段に経済性に優れたブレースであると云える。
【0024】
立体ブレースは、全体形状が角錐状になるように、ブレース本体の上端を上部構造の下面所定位置にそれぞれ接合し、下端を、柱の脚部又は該柱の立設位置近傍にそれぞれ接合する限り、どのように構成するかは任意であり、例えば、矩形隅部に相当する4カ所に立設された4本の柱の脚部に4本のブレース本体の下端をそれぞれ接合するとともに、これら4本のブレース本体の上端を、矩形中心を水平位置とする上部構造の下面位置に接合する例が考えられる。この場合、立体ブレースはピラミッド(四角錐)状となる。
【0025】
ブレース本体の上端は、上部構造の下面に直接固定してもかまわないが、これらの間にダンパー機構を介在させたならば、上部構造と立体ブレースの頂点との間に生じる相対変形がダンパー機構に強制変形として入力され、変形方向に沿った振動が減衰する。
【0026】
例えば、橋軸直交方向の水平振動を減衰させたいのであれば、該橋軸直交方向で減衰が効くようにダンパー機構を構成し、橋軸方向の水平振動を減衰させたいのであれば、該橋軸方向で減衰が効くようにダンパー機構を構成すればよい。また、車両走行時に生じる鉛直振動を抑制したいのであれば、鉛直方向で減衰が効くようにダンパー機構を構成すればよい。
【0027】
具体的には、ダンパー機構を、履歴減衰材で形成され上部構造の下面から下方に向けて突設された内筒部材と、該内筒部材が嵌め込まれ複数のブレース本体の上端が周面に固定された外筒部材とで構成することが考えられる。
【0028】
かかる構成によれば、水平2軸の相対変形が強制変形として内筒部材に作用するので、該内筒部材を形成する履歴減衰材による減衰効果が期待できる。
【0029】
これに加えて、外筒部材及び内筒部材を、それらの鉛直相対移動が拘束されるように構成したならば、鉛直方向の相対変形も強制変形として内筒部材に作用するため、車両走行時の鉛直振動も抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る高架橋の耐震補強構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0031】
図1乃至図3は、本実施形態に係る高架橋の耐震補強構造を示した図である。これらの図でわかるように、本実施形態に係る高架橋の耐震補強構造1は、高架橋2の上部構造3を支持するラーメン架構4と、基礎構造としてのフーチング5及び杭6と、立体ブレース7とからなる。
【0032】
ラーメン架構4は、橋軸直交方向に沿って対向配置された一対の柱8,8、それらの柱頭に架け渡された梁9a及び橋軸方向に沿って対向配置された柱8,8の柱頭に架け渡された梁9bからなり、柱8は、既設の杭6の杭頭に設置されたフーチング5の上に立設してある。
【0033】
立体ブレース7は、全体形状が四角錐状になるように、4本のブレース本体10の上端を、上部構造3の下面所定位置にそれぞれ接合するとともに、それらの下端を柱8が立設されたフーチング5にそれぞれ接合して構成してある。
【0034】
ここで、4本のブレース本体10は図4に示すように、鋼製パイプで形成された外筒部材42の外周面にそれらの上端を溶接等で固定するとともに、その内側に、上部構造3の下面に突設された履歴減衰材からなる内筒部材41を嵌め入れてあり、内筒部材41及び外筒部材42は、上部構造3と立体ブレース7の頂点との間に生じる水平2軸の相対変形が強制変形として入力されたとき、該強制変形の方向に沿った振動を減衰させるダンパー機構43として機能する。
【0035】
内筒部材41は、4本の柱8の立設位置を矩形隅部としたときの該矩形中心が平面位置となるように、上部構造3の下面に突設するのがよい。
【0036】
ブレース本体10は例えばH鋼で構成することができる。
【0037】
本実施形態に係る高架橋の耐震補強構造1においては、複数のブレース本体10からなる立体ブレース7を備えており、該立体ブレースは、全体形状が四角錐状になるように4本のブレース本体10の上端を上部構造3の下面側に接合するとともに、下端を、柱8が立設された4つのフーチング5にそれぞれ接合してある。
【0038】
このようにすると、上部構造3からの水平地震力の一部、主としてラーメン架構4を耐震補強したことによる荷重増加分は、複数のブレース本体10を介してフーチング5に分散伝達され、立体ブレース7は、ラーメン架構4を耐震補強する役割だけではなく、上部構造3からの地震時水平力の一部をフーチング5に分散伝達する役割をも果たすこととなる。
【0039】
それに対し、従前の耐震補強方法においては、経済性あるいは合理性の観点から、すべてのラーメン架構4にブレースを設置することが困難であって数スパンごとにブレースを設置せざるを得ないところ、かかる配置構成では、結果として剛性が高い箇所、すなわちブレースが配置されたフーチング5に地震時水平力が集中してしまう。
【0040】
本実施形態に係る立体ブレース7は、このような従来のブレースとは異なり、高架橋2を橋軸方向に沿って合理的に耐震補強することが可能な手段であって、従前のブレースより格段に経済性に優れたブレースであると云える。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係る高架橋の耐震補強構造1によれば、ラーメン架構4を耐震補強したことの荷重増加分は、従前のように特定のフーチング5に集中するのではなく、4つのフーチング5に均等に分散伝達されるとともに、その結果として、各フーチング5が負担すべきそれぞれの荷重増加分はわずかで済む。
【0042】
そのため、ラーメン架構4を耐震補強したことによる荷重増加分を、フーチング5及び杭6が潜在的に保有している耐震余裕で概ね吸収することが可能となり、かくして既存のフーチング5又は杭6をあえて耐震補強する必要がなくなり、又は、仮に既存のフーチング5又は杭6を耐震補強する必要が生じたとしても、その補強規模を大幅に軽減することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態に係る高架橋の耐震補強構造1によれば、ブレース本体10と上部構造3との間に、内筒部材41及び外筒部材42からなるダンパー機構43を介在させるようにしたので、上部構造3と立体ブレース7の頂点との間に生じる水平2軸の相対変形に沿った振動に対し、これを減衰させることが可能となる。
【0044】
本実施形態では特に言及しなかったが、ダンパー機構43に代えて、内筒部材41に上段鍔部51aと下段鍔部51bとを設け、該上段鍔部及び下段鍔部によって内筒部材41に対する外筒部材42の鉛直相対移動が拘束されるように構成されたダンパー機構43aとしてもよい。
【0045】
かかる変形例によれば、鉛直方向の相対変形も強制変形として内筒部材41に作用するため、車両走行時の鉛直振動も抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態に係る耐震補強構造1の橋軸方向から見た矢視図。
【図2】図1のA−A線方向から見た矢視図。
【図3】図2のB−B線に沿った水平断面図。
【図4】ダンパー機構43を示した詳細図。
【図5】ダンパー機構43aを示した詳細図。
【符号の説明】
【0047】
1 高架橋の耐震補強構造
2 高架橋
3 上部構造
4 ラーメン架構
5 フーチング(基礎構造)
6 杭(基礎構造)
7 立体ブレース
8 柱
9a,9b 梁
10 ブレース本体
41 内筒部材
42 外筒部材
43,43a ダンパー機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高架橋の上部構造を支持するラーメン架構と、該ラーメン架構を構成する柱が立設された基礎構造と、複数のブレース本体からなる立体ブレースとを備え、該立体ブレースは、全体形状が角錐状になるように前記複数のブレース本体の上端を前記上部構造の下面所定位置にそれぞれ接合するとともにそれらの下端を前記柱の脚部又は該柱の立設位置近傍にそれぞれ接合してなることを特徴とする高架橋の耐震補強構造。
【請求項2】
前記ブレース本体の上端と前記上部構造との間にダンパー機構を介在させた請求項1記載の高架橋の耐震補強構造。
【請求項3】
前記ダンパー機構を、履歴減衰材で形成され前記上部構造の下面から下方に向けて突設された内筒部材と該内筒部材が嵌め込まれ前記複数のブレース本体の上端が周面に固定された外筒部材とで構成した請求項2記載の高架橋の耐震補強構造。
【請求項4】
前記外筒部材及び前記内筒部材を、それらの鉛直相対移動が拘束されるように構成した請求項3記載の高架橋の耐震補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−243091(P2009−243091A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89244(P2008−89244)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】