説明

高温保存特性蓄電デバイス用セパレータ

【課題】優れた高温保存特性を有する蓄電デバイスを作製し得る、高温保存特性蓄電デバイス用セパレータを提供すること。
【解決手段】磁場勾配NMR法によって測定された膜厚み方向の拡散係数D(Z)が、D(Z)≧αT+βを満たす高温保存特性蓄電デバイス用セパレータ。
(ここで、α=−2.5×10−12,β=1.2×10−10,T=透気度(sec/100cc・μm)を示す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温保存特性蓄電デバイス用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ、非水系リチウム蓄電素子等と呼ばれるものも含む)の開発が活発に行われている。蓄電デバイスには通常、微多孔膜(セパレータ)が正負極間に設けられている。このようなセパレータは、正負極間の接触を防ぎ、イオンを透過させる機能を有する。
ここで、セパレータには、蓄電デバイスの良好な安全性確保の観点から、一定以上の物理的強度を備えることが求められる。即ち、蓄電デバイスの充放電に伴ってセパレータには電極からの圧力が加えられる場合があり、電極がセパレータを突き破って電極間の短絡が生じる可能性がある。
また、セパレータには、蓄電デバイスの高出力を達成する観点から、電気抵抗が小さいことも求められる。
【0003】
このような事情のもと、例えば特許文献1には、超高分子量のポリエチレンを使用した微多孔膜が提案されている。また、特許文献2には、無機粒子含有ポリオレフィン微多孔膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2794179号公報
【特許文献2】国際公開2006/025323号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載された微多孔膜はいずれも、セパレータとして用いた場合の高温保存特性の観点からはなお改良の余地を有するものである。
上記事情に鑑み、本発明は優れた高温保存特性を有する蓄電デバイスを作製し得る、高温保存特性蓄電デバイス用セパレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、磁場勾配NMR法によって測定された膜厚み方向の拡散係数D(Z)と膜の透気度Tが特定の関係式を満たす微多孔膜を蓄電デバイスのセパレータとして用いることにより、優れた高温保存特性を有する蓄電デバイスが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
磁場勾配NMR法によって測定された膜厚み方向の拡散係数D(Z)が、D(Z)≧αT+βを満たす高温保存特性蓄電デバイス用セパレータ。
(ここで、α=−2.5×10−12,β=1.2×10−10,T=透気度(sec/100cc・μm)を示す)。
[2]
上記[1]記載の高温保存特性蓄電デバイス用セパレータを備える蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、優れた高温保存特性を有する蓄電デバイスを作製し得る、高温保存特性蓄電デバイス用セパレータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本実施の形態の高温保存特性蓄電デバイス用セパレータは、磁場勾配NMR法によって測定された膜厚み方向の拡散係数D(Z)が、D(Z)≧αT+βの関係式を満たす。
(ここで、α=−2.5×10−12,β=1.2×10−10,T=透気度(sec/100cc・μm)を示す)。
【0011】
本発明者らは、微多孔膜の膜厚み方向の拡散係数D(Z)と、微多孔膜の透気度Tとが上記特定の関係式を満たす場合、セパレータとして用いた場合の蓄電デバイスの高温保存特性が顕著に向上することを発見した。即ち、磁場勾配NMR法によって測定された拡散係数D(Z)と透気度Tとが上記特定の関係式を満たすように各値を制御することにより、優れた高温保存特性を有する蓄電デバイスが得られることを見出した。その理由は詳らかではないが、イオンの透過性と気体の透過性とを規定することで、リチウムデンドライトの成長を抑制し、高温時における内部短絡を防ぎ、高温保存特性を有するものと推定される。
【0012】
本実施の形態の高温保存特性蓄電デバイス用セパレータは、D(Z)≧αT+βの関係式を満たす。D(Z)とTが上記関係式を満たさない、即ち、D(Z)<αT+βであると、十分な高温保存特性を確保できない傾向にある。
【0013】
拡散係数D(Z)の数値範囲は、上記関係式を満たしていれば特に限定されないが、好ましくは1.0×10−13以上、より好ましくは1.0×10−12以上であり、上限としては、好ましくは1.0×10−8以下、より好ましくは1.0×10−9以下である。D(Z)の値が1.0×10−13以下であると、十分な透過性を確保できなくなる傾向にあり、1.0×10−8以上であると、十分な膜強度が得られない傾向にある。
【0014】
拡散係数D(Z)の値を上記特定範囲に調整するための手段としては、延伸条件や熱固定/熱緩和条件の調整等が挙げられる。より具体的には、拡散係数の積の値を大きくするには、延伸工程の際の延伸倍率を大きくとること、熱固定/熱緩和の工程の際に延伸を行い延伸倍率を大きくとること、更には、トータルの延伸倍率として、MD方向とTD方向の延伸倍率が等方的になるよう調整すること、等が挙げられる。一方、拡散係数の積の値を小さくするには、延伸工程の際の延伸倍率を小さくとること、熱固定/熱緩和の工程の際の延伸倍率を小さくとること、更には、トータルの延伸倍率として、MD方向とTD方向の延伸倍率のどちらかが他方に比べて大きくなるよう調整すること、等が挙げられる。
【0015】
また、透気度Tの数値範囲は、上記関係式を満たしていれば特に限定されないが、好ましくは0.5秒/100cc・μm以上、より好ましくは2秒/100cc・μm以上であり、上限としては、好ましくは50秒/100cc・μm以下、より好ましくは30秒/100cc・μm以下、さらに好ましくは20秒/100cc・μm以下である。透気度を0.5秒/100cc・μm以上とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制する観点から好適である。一方、50秒/100cc・μm以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。
【0016】
透気度Tの数値範囲を調整するための手段としては、例えば、後述する延伸工程や熱固定及び熱緩和工程の温度、倍率を調整する方法等が挙げられる。より具体的には、Tを大きくするには、延伸工程にて延伸倍率を大きくとること、熱固定/熱緩和の工程の際に延伸を行い延伸倍率を大きくとること等が挙げられ、Tを小さくするには、延伸工程にて延伸倍率を小さくとること等が挙げられる。なお、磁場勾配NMR法は、後述する実施例に記載された方法に準じて行うことができる。
【0017】
本実施の形態の高温保存特性蓄電デバイス用セパレータ(以下、単に「セパレータ」とも言う。)は、ポリオレフィン樹脂を含むポリオレフィン樹脂組成物から形成される。本実施の形態において使用するポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(ホモ重合体や共重合体、多段重合体等)が挙げられる。これら重合体は1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0018】
また、前記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等を用いてもよい。
【0019】
本実施の形態のセパレータは、例えば、乾燥−延伸法によって製造することができる。乾燥−延伸法とは、非多孔質前駆体を延伸することにより孔形成がなされるプロセスを意味する。
【0020】
本実施の形態のセパレータは、公知の他の成分を含むことができる。これらの他の成分としては、例えば、充填材、帯電防止剤、抗遮断材、抗酸化剤、潤滑剤等が挙げられる。
【0021】
また、セパレータの特性を改良又は増強するために、多くのその他の材料を加えることができる。このようなその他の材料としては、例えば、(1)130℃未満の融点を有するポリオレフィン又はポリオレフィンオリゴマー、(2)カルシウムカーボネート、酸化亜鉛、珪藻土、タルク、カオリン、合成シリカ、マイカ、粘土、窒化ボロン、2酸化シリコン、2酸化チタン、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等、及びこれらの混合物を含み、これに限定されない鉱物充填材、(3)エチレンプロピレン(EPR)、エチレンプロピレンジエン(EPDM)、スチレン−ブタジエン(SBR)、スチレンイソプレン(SIR)、エチニリデンノルボネン(ENB)、エポキシ及びポリウレタン並びにこれらの混合物を含み、これに限定されないエラストマー、(4)エトキシレートアルコール、一次ポリマーカルボン酸、グリコール(例えば、ポリプロピレングリコール及びポリエチレングリコール)、機能化ポリオレフィンを含み、これに限定されない湿潤剤、(5)シリコン、フルオロポリマー、Kemamide(登録商標)、オレアミド、ステアルアミド、エルクアミド、ステアリン酸カルシウム、又は他の金属ステアリン酸塩を含み、これに限定されない潤滑剤、(6)臭化難燃剤、燐酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、アルミナ3水和物、及び燐酸エステルのような難燃剤、(7)架橋又はカップリング剤、(8)ポリマープロセス剤、及び(9)ポリプロピレンのためのベータ核剤を含む核剤(但し、本明細書に引用文献として組み込まれる米国特許第6,602,593号明細書に開示されているベータ核剤ポリプロピレンを特定的に除く。ベータ核剤ポリプロピレンはポリプロピレン中のベータ結晶の生成を引起す物質である。)、等が挙げられる。
【0022】
本実施の形態の多孔質フィルムは、単層で使用してもよいし、積層して使用してもよい。積層品の場合、その内の少なくとも1層が実質的に本実施の形態の多孔質フィルム層であればかまわない。積層方法としては、所望の層を形成するように溶融共押出し成型した後、延伸多孔化して積層多孔質フィルムを得る方法や、所望の層をそれぞれ別々に作製した後に積層多孔化して積層多孔質フィルムを得る方法等を用いることができる。
【0023】
一般的に、前記セパレータの製造プロセスは、非多孔質前駆体を押出す工程、及び、次いで前記非多孔質前駆体を延伸する工程、及び、次いで熱固定及び/又は熱緩和を行う工程を含む。非多孔質前駆体は延伸の前にアニールしてもよい。
【0024】
アニールは、1つの実施態様において、Tm−80℃とTm−10℃の間の温度(Tmはポリマーの融点を意味する。)で実施することができる。いくつかの材料、例えば、ポリブテンのような押出し後に高い結晶性を有するものはアニールを必要としない。
【0025】
延伸の際の延伸方法は1軸延伸法でも2軸延伸法でもよく、2軸延伸法では同時2軸延伸法でも逐次2軸延伸法でもかまわない。
また延伸温度は、使用する熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上融点以下であるのが好ましく、ガラス転移温度以上融点−10℃以下であるのがより好ましい。
この温度範囲で延伸すると原反フィルムが破断等することなく延伸が可能で、かつ孔が高度に連結した多孔質構造になりやすい。
さらに、所望の延伸倍率まで1度に延伸しても、複数回に分けて延伸してもよく、延伸温度もそれぞれで変更することができる。
【0026】
さらに、上記延伸により多孔化した多孔質フィルムに対して熱処理を施すことができる。熱処理温度は使用した熱可塑性樹脂の融点や軟化点以下等の実質的に形状変化が起こらない温度領域で行う必要がある。
【0027】
なお、熱固定工程の後、得られたセパレータに対して後処理を施してもよい。このような後処理としては、例えば、界面活性剤等による親水化処理や、電離性放射線等による架橋処理等が挙げられる。
【0028】
本実施の形態のセパレータの突刺強度は、好ましくは1.6N/20μm以上、より好ましくは2N/20μm以上であり、上限としては、好ましくは20N/20μm以下、より好ましくは10N/20μm以下である。突刺強度を1.6N/20μm以上とすることは、電池捲回時における脱落した活物質等による破膜を抑制する観点から好ましい。また、充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡するリスクを低減し得る観点からも好ましい。一方、20N/20μm以下とすることは、加熱時の配向緩和による幅収縮を低減し得る観点から好ましい。
なお、上記突刺強度は、ポリオレフィン分子量、ポリオレフィン樹脂の割合、及び、延伸温度、延伸倍率を調整する方法等により調節可能である。
ここで、突刺強度は、カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定し、次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、23±2℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより計測された最大突刺荷重(N)の値を言う。
【0029】
本実施の形態のセパレータの気孔率は、透過性確保の観点から、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上である。また、膜強度及び自己放電の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下である。なお、上記気孔率は、延伸工程の倍率を調整する方法、及び/又は、熱固定及び熱緩和工程の温度、倍率を調整する方法等により調節可能である。
【0030】
本実施の形態のセパレータの膜厚は、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、上限としては、好ましくは100μm以下、より好ましくは60μm以下、更に好ましくは50μm以下である。膜厚を2μm以上とすることは、機械強度を向上させる観点から好適である。一方、100μm以下とすることは、セパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向があるので好ましい。
【0031】
本実施の形態の蓄電デバイスは、上述した蓄電デバイス用セパレータと、正極と、負極と、電解液とを含む。
前記蓄電デバイスは、例えば、前記セパレータを幅10〜500mm(好ましくは80〜500mm)、長さ200〜4000m(好ましくは1000〜4000m)の縦長形状のセパレータとして調製し、当該セパレータを、正極―セパレータ―負極―セパレータ、又は負極―セパレータ―正極―セパレータの順で重ね、円又は扁平な渦巻状に巻回して巻回体を得、当該巻回体を電池缶内に収納し、更に電解液を注入することにより製造することができる。
なお、前記蓄電デバイスは、正極―セパレータ―負極―セパレータ、又は負極―セパレータ―正極―セパレータの順に平板状に積層し、袋状のフィルムでラミネートし、電解液を注入する工程を経て製造することもできる。
【0032】
本実施の形態の蓄電デバイスは高温保存特性に優れるので、電気自動車やハイブリッド自動車用として、特に有用である。
【0033】
なお、上述した各種パラメータの測定方法については特に断りの無い限り、後述する実施例における測定方法に準じて測定される。
【実施例】
【0034】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0035】
(1)膜厚
微小測厚器(東洋精機製 タイプKBM)を用いて室温23℃で測定した。
【0036】
(2)気孔率
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、ポリプロピレン微多孔膜については、膜密度を0.91(g/cm)として次式を用いて計算した。
気孔率=(1−質量/体積/0.91)×100
ポリエチレン微多孔膜については、膜密度を0.95(g/cm)として次式を用いて計算した。
気孔率=(1−質量/体積/0.95)×100
【0037】
(3)透気度
JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機製)にて測定した。
【0038】
(4)拡散係数D
多孔性フィルムの内部に、リチウム塩LiN(SOCF(LiTFSI)をエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒に溶解した電解液を浸透させて保持させた状態で、磁場勾配NMR測定法で、30℃におけるリチウムイオンの拡散係数Dを求めた。磁場勾配NMR測定法では観測されるピーク高さをE、磁場勾配パルスを与えない場合のピーク高さをE、核磁気回転比をγ(T−1・s−1)、磁場勾配強度をg(T・m−1)、磁場勾配パルス印加時間をδ(s)、拡散待ち時間をΔ(s)、自己拡散係数をD(m・s−1)とした場合、下式が成り立つ。
Ln(E/E)=D×γ×g×δ×(Δ−δ/3)
上式から、g、δ、Δを変化させてNMRピークの変化を観測することでDが得られる。実際には、NMRシーケンスとしてbpp−led−DOSY法を用い、Δ、及びδを固定してgを0からLn(E/E)≦−3となる範囲で10点以上変化させ、Ln(E/E)をY軸、γ×g×δ×(Δ−δ/3)をX軸としてプロットした直線の傾きからDを得た。Δ、及びδの設定値は任意であるが、測定対象の縦緩和時間をT1(s)、横緩和時間をT2(s)とした場合に下記の条件を満たす必要がある。
10ms<Δ<T1
0.2ms<δ<T2
実際には、Δ=50msとし、δを0.4ms≦δ≦3.2msの範囲の任意の値として、磁場勾配NMR測定を実施した。多孔質フィルムの構造の影響により、自己拡散が阻害を受けると上記のプロットが下に凸の曲線となるが、この場合にはLn(E/E)が0から−2の範囲で曲線を直線近似し、この傾きからDを得た。
【0039】
(5)高温保存試験
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoOを92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となるアルミニウム箔にダイコーターで塗布し、乾燥し、ロールプレス機で圧縮成形して正極を作製した。
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる銅箔にダイコーターで塗布し、乾燥し、ロールプレス機で圧縮成形して負極を作製した。
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/リットルとなるように溶解させて調製した。
d.電池組立て
負極、セパレータ、正極、セパレータの順に重ねて渦巻状に複数回捲回することで電極板積層体を作製した。この電極板積層体を外径が18mmで高さが65mmのステンレス製容器に収納し、正極集電体から導出したアルミニウム製タブを容器蓋端子部に、負極集電体から導出したニッケル製タブを容器壁に溶接した。その後、真空乾燥を行い、アルゴンボックス内にて容器内に前記した非水電解液を注入し、封口することにより電池を組み立てた。
e.前処理
組立てた電池を1/3Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後4.2Vの定電圧充電を5時間行い、その後1/3Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。次に、1Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後4.2Vの定電圧充電を2時間行い、その後1Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。最後に1Cの電流値で4.2Vの定電圧充電をした後に4.2Vの定電圧充電を2時間行い前処理とした。
f.高温保存テスト
eで前処理を行った電池をオーブンに投入し、室温から5℃/minで昇温した後80℃で10日間放置した。その後、電池をオーブンから取り出し室温まで放冷してから1Cの電流で3.0Vまで放電を行い、オーブン投入前の充電量に対する容量維持率を算出した。この容量維持率が85%以上の場合を◎、80%以上の場合を○80%以下の場合を×として、高温保存特性の指標として用いた。
【0040】
以下の実施例は主要構成部品として、押出機、結晶形成部(即ち、温度コントロルが備えられている変速ロール)、及び延伸フレームを含んでなる通常の1軸延伸ラインを表すパイロット装置において行った。結晶形成時におけるロール上での残留時間は、全てのサンプルについて約30秒である。ポリプロピレン樹脂は、ExxonのEscorene PP 4352FI、ベータ核生成剤は、NJ Star NU-100であり、0.2重量%樹脂を使用した。他の条件は以下に示す。
[実施例1]
ポリプロピレン樹脂を2.5インチの押出し機にて220℃にて押出し、溶融したポリマーを吹込空気によって冷却した。次いで、押出された薄膜を125℃で2分間アニール後、室温で20%まで冷間延伸し、次いで150%まで1軸延伸し、その後130℃条件下、2分間の熱処理を行った。得られたセパレータの物性と評価結果を表1に示す。
【0041】
[実施例2]
ポリプロピレン樹脂を2.5インチの押出し機にて220℃にて押出し、溶融したポリマーを吹込空気によって冷却した。次いで、押出された薄膜を127℃で2分間アニール後、室温で20%まで冷間延伸し、次いで300%まで1軸延伸し、その後130℃条件下、2分間の熱処理を行った。得られたセパレータの物性と評価結果を表1に示す。
【0042】
[比較例1]
粘度平均分子量(Mv)が70万のホモポリマーのポリエチレンを47.5質量%、Mv30万のホモポリマーのポリエチレンを47.5質量%、Mv40万のポリプロピレンを5質量%(PPブレンド量 5質量%)を、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリマー等混合物を得た。得られたポリマー等混合物は窒素で置換を行った後に、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10−5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が66質量%となるように(即ち、ポリマー濃度(「PC」と略記することがある)が34質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。
続いて、溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、厚み1300μmのゲルシートを得た。
次に、同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.4倍、設定温度125℃とした。
次に、メチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。
次に、TDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定温度は125℃で、TD緩和率は0.80としてセパレータを得た。得られたセパレータの物性と評価結果を表1に示す。
【0043】
[比較例2]
ゲルシートの厚みを1150μm、二軸延伸温度を122℃、HS温度を122℃、HS倍率を1.5倍にしたこと以外は、比較例1と同様の方法によりセパレータを得た。得られたセパレータの物性と評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から明らかなように、実施例1及び2の、磁場勾配NMR法によって測定された膜厚み方向の拡散係数D(Z)が、D(Z)≧αT+βを満たすセパレータを用いた電池は、いずれも優れた高温保存特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、優れた高温保存特性を有する蓄電デバイスを作製し得る、高温保存特性蓄電デバイス用セパレータを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場勾配NMR法によって測定された膜厚み方向の拡散係数D(Z)が、D(Z)≧αT+βを満たす高温保存特性蓄電デバイス用セパレータ。
(ここで、α=−2.5×10−12,β=1.2×10−10,T=透気度(sec/100cc・μm)を示す)。
【請求項2】
請求項1記載の高温保存特性蓄電デバイス用セパレータを備える蓄電デバイス。

【公開番号】特開2011−81994(P2011−81994A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232639(P2009−232639)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】