説明

高温処理炉

【課題】高温処理炉の使用条件が過酷で且つ一様ではない場合であっても、天井炉蓋における耐火物層の耐火材料が脱落して落下するおそれを抑制させるのに有利な高温処理炉を提供する。
【解決手段】天井炉蓋4は、天井鉄皮40と、炉室20に対面するように天井鉄皮40の内面に被着された耐火材料で形成された耐火物層42と、上端部が天井鉄皮40に固着され耐火物層42の耐火物と機械的に係合する複数の金属係合部51,52をもつ複数の金属アンカー5と、上端部が天井鉄皮40に固着された補助具63と、補助具63を介して天井鉄皮40に保持され耐火物層42の耐火物と機械的に係合する複数のセラミックス係合部62をもつ複数のセラミックスアンカー6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は灰溶融炉等に連結される高温処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
灰溶融炉等に連結される高温処理炉は、処理物を処理させる炉室と炉室の上面に形成された上面開口とをもつ炉体と、炉体の上面開口に被着された天井炉蓋とを備える。天井炉蓋は、天井鉄皮と、炉室に対面するように天井鉄皮の内面に被着された耐火材料で形成された耐火物層とをもつ。このものによれば、高温処理炉の使用条件は過酷であり且つ高温処理炉毎に一様ではない。高温処理炉の使用条件が過酷で且つ一様でないため、天井炉蓋が様々な条件に対応するのは容易ではなく、天井炉蓋における耐火物層の耐火材料が脱落して落下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−193917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、高温処理炉の使用条件が過酷で且つ一様ではない場合であっても、天井炉蓋における耐火物層の耐火材料が脱落して落下するおそれを抑制させるのに有利な高温処理炉を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)様相1の本発明に係る高温処理炉は、処理物を処理させる炉室と炉室の上面に形成された上面開口とをもつ炉体と、炉体の上面開口に被着された天井炉蓋とを具備する高温処理炉であって、天井炉蓋は、天井鉄皮と、炉室に対面するように天井鉄皮の内面に被着された耐火材料で形成された耐火物層と、上端部が天井鉄皮に吊持状態に固着され耐火物層の耐火物と機械的に係合する複数の金属係合部をもつ複数の金属アンカーと、上端部が天井鉄皮に固着された補助具と、補助具を介して天井鉄皮に吊持状態に保持され耐火物層の耐火物と機械的に係合する複数のセラミックス係合部をもつ複数のセラミックスアンカーとを具備する。
【0006】
本様相によれば、天井炉蓋は、炉室に対面するように天井鉄皮の内面に被着された耐火材料で形成された耐火物層と、上端部が天井鉄皮に固着され耐火物層の耐火物と機械的に係合する複数の金属係合部をもつ複数の金属アンカーと、天井鉄皮に固着された補助具と、補助具を介して天井鉄皮に保持され耐火物層の耐火物と機械的に係合する複数のセラミックス係合部をもつ複数のセラミックスアンカーとを有する。金属アンカーは、スポーリングせず金属自体に亀裂が発生することはないが、高温時に溶融したり、耐火物層に亀裂が発生すると、亀裂を介して耐火物層の内部に進入した腐食性ガスにより腐食が進行したりするおそれがある。セラミックスアンカーは、高温であっても、溶融しないし腐食性のガスにも強いが、長期にわたり使用されると、スポーリングによりセラミックスアンカーには亀裂が発生するおそれがある。このため本様相によれば、金属アンカーの優れた長所とセラミックスアンカーの優れた長所を併用することができる。
【0007】
本様相によれば、金属アンカーは、スポーリングせず金属自体に亀裂が発生することはないが、高温時に溶融したり、腐食性のガスにより腐食したりするおそれがある。殊に、耐火物層に亀裂が発生すると、亀裂から耐火物層の内部に進入した金属アンカーに腐食が進行するおそれが高い。これに対してセラミックスアンカーは、高温であっても、溶融しないし、腐食性のガスにも強いが、スポーリングにより亀裂が発生するおそれがある。このため金属アンカーの優れた長所とセラミックスアンカーの優れた長所とを併用することができる。即ち、金属アンカーが溶融したり腐食により劣化したりするときであっても、セラミックスが作用できる。またセラミックスアンカーにスポーリングにより亀裂が発生するときであっても、金属アンカーが作用できる。このような本様相によれば、高温処理炉の使用条件が一様ではない場合であっても、天井炉蓋における耐火物層の耐火材料が脱落して落下するおそれを抑制させるのに有利な高温処理炉を提供することができる。金属アンカーの材質としては炭素鋼、ステンレスレス鋼などの合金鋼が例示される。セラミックスアンカーの材質として、アルミナ、窒化ケイ素、炭素ケイ素等が上げられる。
【0008】
(2)様相2の本発明に係る高温処理炉によれば、上記様相において、セラミックスアンカーは、中心軸線をもつ棒状部材と、中心軸線の回りにリング状に形成され中心軸線の延びる方向において複数並設された溝状リング部と、中心軸線の回りにリング状に形成され中心軸線の延びる方向において隣設する溝状リング部間に設けられた複数のセラミックス係合部とを具備する。溝状リング部およびセラミックス係合部はセラミックスアンカーの軸長方向の長さのうち70%以上または80%以上に設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温処理炉の使用条件が過酷で且つ一様ではない場合であっても、天井炉蓋における耐火物層の耐火材料が脱落して落下するおそれを抑制させるのに有利な高温処理炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】高温処理炉の炉蓋付近を模式的に示す断面図である。
【図2】炉蓋の要部の断面図である。
【図3】セラミックスアンカーの断面図である。
【図4】金属アンカーの断面図である。
【図5】図1のA−A線に沿って炉蓋の内部を投影して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態に係るゴミ処理用の高温処理炉1は、家庭用ゴミや業務用ゴミや産業用ゴミ等のゴミを焼却させるゴミ焼却処理用の灰溶融炉に連結される。灰溶融炉は焼却灰を約1500℃等の高温で溶融して、再生利用可能なスラグとメタルとに変えるものである。高温処理炉1は、処理物を処理させる炉室と炉室の上面に形成された上面開口とをもつ炉体と、炉体の上面開口に被着された天井炉蓋4とを有する。高温処理炉1は灰溶融炉に連通している。図1は炉蓋4付近を示す。図2はその内部構造の拡大図を示す。図1に示すように、炉蓋4は、天井鉄皮40と、炉室20に対面するように天井鉄皮40の内面に被着された耐火材料で形成された耐火物層42と、天井鉄皮40に吊持された複数の金属アンカー5と、天井鉄皮40に吊持された複数のセラミックスアンカー6とを有する。図2に示すように、耐火物層42は、炉室20に対面するように天井鉄皮40の内面に被着された耐火材料で形成されており、断熱ボードで形成された第1層42fと、断熱ボードで形成された第2層42sと、断熱キャスタブル層で形成された多孔質の第3層42tと、耐火れんがで形成された第4層42eとで形成されている。第3層42tは第4層42eよりも多孔質とされている。第4層42eは第3層42tよりも緻密とされている。なお、耐火物層42に穴を適宜形成して金属アンカー5およびセラミックスアンカー6を耐火物層42に埋設できる。
【0012】
金属アンカー5は、溶接部65で天井鉄皮40にほぼ垂直状態に吊持されており、天井鉄皮40に固着されたL形状に曲成された固着部50と、下端部に形成された耐火物層42の第4層42eの耐火物と機械的に係合する第1金属係合部51と、中間部に形成された耐火物層42の第3層42tの耐火物と機械的に係合する第2金属係合部52とをもつ。第1金属係合部51は、下方向(矢印D方向)に向かうにつれて拡開する下向きのY形状をなしており、耐火物層42のうち最も下層(下側)の第4層42eに機械的に係合する。第2金属係合部52は下方向(矢印D方向)に向かうにつれて拡開する下向きのV形状をなしており、耐火物層42のうち中間層である第3層42tの耐火物と機械的に係合する。このように金属アンカー5の金属係合部51,52は耐火物層42のうち位置が異なる部分(第3層42t,第4層42e)に機械的に係合するため、耐火物層42の脱落を効果的に抑制できる。更に平面視において、金属係合部51,52は互いに異なる方向(矢印W1方向,矢印W2方向,図4参照)に指向しているため、脱落防止の方向性の偏りが抑制される。
【0013】
補助具63の上端部63uは溶接部65で天井鉄皮40に吊持されつつ固着されている。セラミックスアンカー6は、補助具63を介して天井鉄皮40にほぼ垂直状態に吊持されて保持されている。本実施形態によれば、セラミックスアンカー6は、中心軸線Pをもつ棒状部材60と、中心軸線Pが延びる方向に並設された複数の溝状リング部61と、中心軸線Pが延びる方向に並設された複数のセラミックス係合部62と、溝状リング部61およびセラミックス係合部62の間に形成された傾斜面69とを有する。傾斜面69の応力緩和作用により、セラミックスアンカー6における亀裂の生成が抑制される。溝状リング部61は、中心軸線Pの回りにリング状に形成され中心軸線Pの延びる方向において複数並設されている。セラミックス係合部62は、中心軸線Pの回りにリング状に形成されており、中心軸線Pの延びる方向において隣設する溝状リング部61間に設けられている。図2および図3に示すように、中心軸線Pの延びる方向において、溝状リング部61およびセラミックス係合部62は、交互に形成されているため、耐火物層42を構成する耐火物との機械的係合性を高めるのに有利である。
【0014】
セラミックス係合部62は、セラミックスアンカー6の軸長方向(上下方向)において下方向(矢印D方向)に向かうにつれて、幅寸法Daが増加する断面四角形状をなしている。このため、耐火物層42を構成する耐火物がセラミックスアンカー6に係合する割合が増加し、セラミックスアンカー6が耐火物層42を効果的に吊持することができる。更にセラミックス係合部62は、金属アンカー5に比較してコスト高であるものの、セラミックスアンカー6の軸長方向(上下方向)の全長にわたり複数個並設されているため、セラミックスアンカー6が耐火物層42を効果的に吊持することができる。なお、図2から理解できるように、金属アンカー5の全体は耐火物層42に埋設されており、金属アンカー5の先端5eは耐火物層42から露出しない。セラミックスアンカー6に比較して、金属アンカー5は耐熱性が必ずしも充分ではないためである。これに対して、セラミックスアンカー6の下面6uは耐火物層42にほぼ面一状態に露出することができる。セラミックスアンカー6の吊持位置の確認またはマーキングに有利である。ひいては、耐火物層42に埋設されている金属アンカー5の埋設位置の確認に貢献できる。金属アンカー5はセラミックスアンカー6間に配置されるためである。なお、セラミックスアンカー6の下面6uは耐火物層42に被覆されていても良い。
【0015】
図3に示すように、セラミックスアンカー6の平面視において、断面四角形状のセラミックス係合部62は、互いに対向する2つの第1辺62fと、第1辺62fに隣設しつつ互いに対向する2つの第2辺62sとをもつ。断面四角形状の溝状リング部61は、互いに対向する2つの第1辺61fと、互いに対向する2つの第2辺61sとをもつ。
【0016】
図2に示すように、補助具63は、セパレータアンカーのうち上側(最上側)のセラミックス係合部62に係合してセラミックスアンカー6を吊持する。従って、セラミックスアンカー6は補助具63を介して天井鉄皮40にほぼ垂直状態に吊持されて保持されている。セラミックスアンカー6は、耐火物層42の第1層42f、第2層42s、第3層42t、第4層42eに係合する耐火物と機械的に係合する複数のセラミックス係合部62をもつ。
【0017】
図5に示すように、セラミックスアンカー6および金属アンカー5は交互に設けられている。即ち、X方向において隣設するセラミックスアンカー6間に金属アンカー5が位置する。X方向に隣設する金属アンカー5間にセラミックスアンカー6が位置する。同様に、Y方向において隣設するセラミックスアンカー6間に金属アンカー5が位置する。Y方向に隣設する金属アンカー5間にセラミックスアンカー6が位置する。
【0018】
本実施形態によれば、金属アンカー5はセラミックスアンカー6に比較して伝熱性が良く、耐火物層42の熱むらの低減に有利である。金属アンカー5は、スポーリングせず金属自体に亀裂が発生することはないが、高温時に溶融したり、腐食性のガスにより腐食したりするおそれがある。殊に、耐火物層42に亀裂が発生すると、亀裂から耐火物層42の内部に進入した金属アンカー5に腐食が進行するおそれが高い。これに対して、セラミックスアンカー6は、高温であっても、溶融しないし、腐食性のガスにも強いが、スポーリングにより亀裂が発生するおそれがある。このため本実施形態によれば、金属アンカー5の優れた長所とセラミックスアンカー6の優れた長所とを併用することができる。
【0019】
即ち、金属アンカー5が溶融したり腐食により劣化したりするときであっても、セラミックスアンカー6が耐火物層42に作用できる。またセラミックスアンカー6にスポーリングにより亀裂が発生するときであっても、金属アンカー5が耐火物層42に作用できる。しかも金属アンカー5およびセラミックスアンカー6は交互に並設されているため、互いの長所および短所が偏らず、効果的である。このような本実施形態によれば、高温処理炉1の使用条件が過酷で且つ一様ではない場合であっても、天井炉蓋4における耐火物層42の耐火材料が脱落して落下するおそれを抑制させるのに有利な高温処理炉1を提供することができる。
【0020】
上記したようにセラミックスアンカー6および金属アンカー5が併用されているときには、炉蓋4における施工投影面積をS(単位:cm)とする。アンカー5,6が併用される炉蓋4における施工投影面積Sにおいて、セラミックスアンカー6の使用本数をAとし、金属アンカー5の使用本数をBとする。この場合、セラミックスアンカー6の使用本数Aとしては、[(1/10)×S]<[A×π×(25/2)]<[(6/10)×S]の関係が成立することが好ましい。金属アンカー5の使用本数Bとしては、[(1/10)×S]<[B×π×(20/2)]<[(6/10)×S]の関係が成立することが好ましい。πは円周率である。ここで、[(1/10)×S]は、炉蓋4における施工投影面積のうちの10%を意味する。[(6/10)×S]は、炉蓋4における施工投影面積のうちの60%を意味する。ここで、経験的に、1本のセラミックスアンカー6の支え直径は25cm、支え面積は[π×(25/2)]cm、1本の金属アンカー5の支え直径20cm、支え面積は[π×(20/2)]cmとする。
【0021】
(その他)
本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。炉蓋の用途によって、セラミックスアンカー6の使用本数A>金属アンカー5の使用本数Bでも良い。また、用途によって、セラミックスアンカー6の使用本数A<金属アンカー5の使用本数Bでも良い。用途によってセラミックスアンカー6の使用本数A=金属アンカー5の使用本数Bでも良い。セラミックスアンカー6の使用本数A≒金属アンカー5の使用本数Bでも良い。
【符号の説明】
【0022】
1は高温処理炉、2は炉体、20は炉室、21は上面開口、23は炉体用鉄皮、24は炉体用耐火物層、4は炉蓋、40は天井鉄皮、42は耐火物層、5は金属アンカー、50は固着部、51は第1金属係合部、52は第2金属係合部、6はセラミックスアンカー、60は棒状部材、61は溝状リング部、62はセラミックス係合部、63は補助具を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理物を処理させる炉室と前記炉室の上面に形成された上面開口とをもつ炉体と、前記炉体の上面開口に被着された天井炉蓋とを具備する高温処理炉であって、
前記天井炉蓋は、
天井鉄皮と、前記炉室に対面するように前記天井鉄皮の内面に被着された耐火材料で形成された耐火物層と、上端部が前記天井鉄皮に吊持状態に固着され前記耐火物層の耐火物と機械的に係合する複数の金属係合部をもつ複数の金属アンカーと、前記天井鉄皮に固着された補助具と、前記補助具を介して前記天井鉄皮に吊持状態に保持され前記耐火物層の耐火物と機械的に係合する複数のセラミックス係合部をもつ複数のセラミックスアンカーとを具備する高温処理炉。
【請求項2】
請求項1において、前記セラミックスアンカーは、
中心軸線をもつ棒状部材と、前記中心軸線の回りにリング状に形成され前記中心軸線の延びる方向において複数並設された溝状リング部と、前記中心軸線の回りにリング状に形成され前記中心軸線の延びる方向において隣設する溝状リング部間に設けられた複数のセラミックス係合部とを具備する高温処理炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−50262(P2013−50262A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188106(P2011−188106)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】