説明

高温溶融物の撹拌装置

【目的】 高温溶融物の流路の左右側壁の浸食を防ぎ、気泡の発生を抑制しつつ高温溶融物の均質化が図られる撹拌装置を提供する。
【構成】 高温溶融物Mを撹拌するための撹拌ユニット11を、流路12の中心線に対して左右対称に偶数対配置し、撹拌ユニット11の撹拌羽根14の外周端と左右側壁12a,12bとの隙間sを、左右側壁12a,12b間の距離Wの0.04〜0.1倍とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、流路の左右側壁内を流れる溶融ガラスの如き高温溶融物を、均質化し、気泡の発生を抑制すべく、撹拌する高温溶融物の撹拌装置に関する。
【0002】
【従来の技術】溶融ガラスの如き高温溶融物の撹拌のため、撹拌ユニットを流路の左右中心線に対して左右対称に偶数対配置して、左右に隣接する撹拌ユニットの撹拌羽根が互いに大略噛み合い状態で回転するようにした粘性体の混合装置は、特開昭59−130524号として知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記撹拌ユニット1は図6(a) に平面図で、図6図(b) に図6(a) のX矢視図で示すように、撹拌羽根2の回転接線方向Aに対して回転方向前方から回転方向後方に向かって上向きに傾斜する作用面2aと、下向きに傾斜する作用面2bとをもつ傾斜状で、作用面2aと撹拌ユニット1の回転軸3との交角αを45°としている。撹拌羽根2は、図(b) のようにX矢視(正面視) で、端面形状が平行四辺形となっている。
【0004】上記混合装置では、高温溶融物の流路4の左右側壁4a,4aと撹拌羽根2の外周端2bとの隙間tを、1.27〜2.54cmとしている。しかし、この隙間tは狭すぎるため、左右側壁4a,4aを構成している煉瓦が高温溶融物の流れにより浸食されて、浸食された煉瓦の成分が高温溶融物内に混入し、高温溶融物から製造されたガラス製品の品質が劣化したり、攪拌による波立ちが大きくて気泡が混入し易いため、気泡混入による不良品発生率が高くなるという問題点があった。
【0005】また、撹拌羽根2の交角αが45°程度では、高温溶融物を上方又は下方へポンピングする作用が効果的に得られず、高温溶融物への気泡の巻き込みを十分に防止できないという問題点があった。
【0006】したがって、本発明の目的は、上記粘性体の混合装置のこれらの問題を解決して、流路の左右側壁である煉瓦の浸食を防止してガラス製品の品質を向上させると共に、気泡の混入を防止しながら高温溶融物の均質化が十分に図られるようにした、高温溶融物の撹拌装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明の高温溶融物の撹拌装置は、流路の左右側壁内を流れる高温溶融物を撹拌するための撹拌ユニットを、上記流路の左右中心線に対して左右対称に偶数対配置して、左右に隣接する撹拌ユニットの撹拌羽根が互いに大略噛み合い状態で回転する高温溶融物の撹拌装置において、左右側壁と撹拌羽根の外周端との隙間を、左右側壁間の距離の0.04〜0.1倍としたことを特徴とする。
【0008】本発明によれば、流路の左右側壁と撹拌羽根の外周端との隙間を、左右側壁間距離の0.04倍以上としたので、左右側壁の浸食が抑えられ、ガラス製品の品質に悪影響を及ぼすことが防止されると共に、攪拌による波立ちを小さくして気泡混入を防止することができる。また、流路の左右側壁と撹拌羽根の外周端との隙間を、左右側壁間距離の0.1倍以下としたので、高温溶融物中の異質素地の通り抜けを防止して、十分な撹拌による均質化を維持することができる。
【0009】本発明の好ましい態様によれば、撹拌羽根は、回転接線方向における断面形状が回転方向前方から回転方向後方に向かって上向きに傾斜する作用面をもつ楔形をなしている。撹拌羽根を、上向きに傾斜する作用面をもつ楔形とすることにより、上向き傾斜の作用面により高温溶融物を上方へポンピングする作用が得られ、楔形により撹拌羽根の背面での渦流が少なくなるので、攪拌力を向上させると共に、気泡発生を減少させることができる。
【0010】本発明の更に好ましい態様によれば、撹拌羽根は、その作用面と撹拌ユニットの回転軸との交角を55〜80°に形成されている。撹拌羽根の作用面と撹拌ユニットの回転軸との交角を55〜80°とすることにより、上向きにポンピングする作用がより向上し、十分な撹拌による均質化が図られる。
【0011】本発明の更に好ましい態様によれば、攪拌羽根は、左右側壁間の距離の40%以下の直径を有するものとされる。攪拌羽根の大きさを上記の範囲に限定することにより、攪拌による波立ちを小さくして気泡をより少なくすることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】図1〜5には、本発明による高温溶融物の撹拌装置の一実施形態が示されている。図1は同撹拌装置の撹拌ユニットが流路に配置された状態の正面図、図2は同撹拌装置の撹拌ユニットが流路に配置された状態の平面図、図3は同攪拌装置の攪拌羽根を示し、同図(a)は図2におけるX−X矢示図、同図(b)は拡大平面図、図4は同攪拌装置の全体を示す正面図、図5は同攪拌装置の駆動機構を示す一部切欠き正面図である。
【0013】高温溶融物Mは、左右側壁12a、12b、底壁12cで囲まれた流路12内を、図1では紙面表面から裏面方向に、図2では矢線F方向に、流れる。
【0014】回転軸13には、羽根ユニット14Uが、上下方向に等間隔で複数段(図示例では4段) 設けられている。各羽根ユニット14Uは、放射状に伸びるように取付けられた複数枚(図示例では4枚) の撹拌羽根14からなる。図2に示すように、上下に隣接する羽根ユニット14Uは、撹拌羽根14の回転軸13に対する取付位相を、互いに45°だけずらせている。
【0015】回転軸13に羽根ユニット14Uを取付けてなる撹拌ユニット11は、図1の上記流路12の左右中心線Cに対して左右対称に偶数対(図示例では4対) を配置して、左右に隣接する撹拌ユニット11の撹拌羽根14は、互いに逆方向に、大略噛み合い状態で回転するようになっている。ここで大略噛み合い状態で回転するとは、左右に隣接する攪拌ユニット11の攪拌羽根14どうしが、回転方向における位相をずらして互いの先端が干渉しないようにかつ相手方の羽根と羽根の間に入り込んだ状態で回転することを意味する。偶数対の撹拌ユニット11が上記のように大略噛み合い状態で回転することによって、撹拌羽根14,14間の高温溶融物Mのすり抜けが効果的に防止される。
【0016】また、各回転軸13に羽根ユニット14Uを上下に複数段設置したことにより流路12の深さに対処させ、上下方向で隣接する羽根ユニット14Uの撹拌羽根14の上記取付位相のずらし配置により、流路12の深さ方向各位置における攪拌作用の均一性を維持している。
【0017】図5に示すように、回転軸13には、互いに噛み合う駆動ギヤ16が取付けてあり、一つの回転軸13( 図示例では左位の回転軸13) に従動スプロケット17が取付けられ、モータ18の電機支軸に取付けた駆動スプロケット19と従動スプロケット17とに駆動チエン20を掛け回している。
【0018】図3(a)に示すように、撹拌羽根14は、回転接線方向Aにおける断面形状が回転方向前方から回転方向後方に向かって上向きに傾斜する作用面14aをもち、下面14bは大略水平状で、作用面14aと下面14bとの間は後面14cで接続されている。このように、撹拌羽根14は、作用面14aと下面14bとにより楔形に形成されている。
【0019】撹拌羽根14の回転方向は、作用面14aが撹拌羽根14の回転接線方向Aに対して前方側となるように設定されているので、作用面14aにより矢線Uで模型的に示す上向きのポンピングが、高温溶融物Mに作用する。この場合、作用面14aと撹拌ユニット11の回転軸13の軸芯とのなす交角φが、55〜80°とされるのが好ましい。それによって、上記ポンピング作用とそれによる攪拌作用をより効果的に得ることができる。上記交角φが上記範囲よりも大きくても小さくても、攪拌力が低下する。
【0020】なお、前述したように、左右に隣接する撹拌ユニット11の撹拌羽根14は、互いに逆方向に回転するが、いずれも作用面14aが撹拌羽根14の回転接線方向Aに対して前方側となるように設定されているので、同一の上向きのポンピングが、高温溶融物Mに作用することになる。
【0021】本発明の最大の特徴は、流路12の左右側壁12a,12bと撹拌羽根14の外周端との隙間sを、左右側壁12a,12b間の距離Wの0.04〜0.1倍としたことにある。隙間sが上記範囲よりも狭いと、左右側壁4a,4aを構成している煉瓦が高温溶融物Mの流れFと攪拌により浸食されて、浸食された煉瓦の成分が高温溶融物M内に混入し、高温溶融物Mにて製造されたガラス等の製品の品質が劣化し、そのうえ、攪拌による波立ちが大きくて気泡が混入し易くなる。逆に隙間sが上記範囲よりも広いときは、撹拌羽根14外周端と左右側壁12a,12bと間での高温溶融物Mの通り抜け量が増加して、撹拌羽根14による撹拌作用が低下し、高温溶融物の均質性が低下する。
【0022】また、攪拌羽根14の直径Lは、左右側壁12a,12b間の距離Wの40%以下となるようにすることが好ましい。攪拌羽根14の直径Lが上記よりも大きいと、波立ちにより泡が混入しやすくなる。更に、隣接する攪拌ユニット11どうしの攪拌羽根14のオーバラップOLは、攪拌羽根14の直径Lの20%前後とすることが好ましい。
【0023】したがって、この攪拌装置によれば、溶融ガラス等の高温溶融物Mが流路12を通って攪拌装置を通り抜けようとするときに、回転する攪拌羽根14の作用面14aによって上向きのポンピング作用を付与し、それによって高温溶融物Mを効果的に攪拌し、均質化することができる。
【0024】この場合、流路12の左右側壁12a,12bと撹拌羽根14の外周端との隙間sを、左右側壁12a,12b間の距離Wの0.04〜0.1倍としたことにより、攪拌作用を弱めることなく、波立ちを抑えて泡の混入を防止し、かつ、左右側壁12a,12bの浸食を低減することができる。
【0025】また、攪拌羽根14の形状を前述したような楔形とし、作用面14aと撹拌ユニット11の回転軸13の軸芯とのなす交角φが、55〜80°としたことにより、攪拌作用を高めつつ、波立ちによる泡の混入を少なくすることができる。
【0026】その結果、十分に均質化され、泡の混入の少ない高品質の溶融ガラス等の高温溶融物Mを得ることができ、該高温溶融物から製造されるガラス製品等の品質や歩留りを向上させることができる。
【0027】
【実施例】実施例1、比較例1、2、3図1〜5に示した攪拌装置と同じ構造の1/4の大きさのモデルを作製し、透明な水槽で形成した流路に設置すると共に、溶融ガラスと同様な流動特性を有するポリブテンの液を流して、攪拌作用に関する模擬試験を行った。
【0028】すなわち、上記流路にポリブテンの液を流すと共に、攪拌装置のモデルの上流側からトレーサ液(インク)を滴下して、流路の表層、中層、底層における攪拌効果を見た。なお、評価は、◎…100%攪拌し、攪拌後のトレーサ筋なし、○…100%攪拌するが、攪拌後のトレーサ筋あり、△…一部すり抜け、×…100%すり抜けという基準で行った。
【0029】なお、サンプルとして、流路12の左右側壁12a,12bと撹拌羽根14の外周端との隙間sを、左右側壁12a,12b間の距離Wの0.05倍としたもの(実施例1)、羽根の形状を断面楔形ではなく、図6R>6(b)に示すような断面平行四辺形とし、上記隙間sを上記距離Wの0.05倍としたもの(比較例1)、羽根の形状を断面平行四辺形とし、上記隙間sを上記距離Wの0.02倍としたもの(比較例2)、羽根の形状を断面平行四辺形とし、上記隙間sを上記距離Wの0.12倍としたもの(比較例3)の4種類のものを作製し、それぞれ試験した。この結果を表1に示す。
【0030】
【表1】


【0031】実施例2、比較例4図1〜5に示した本発明による攪拌装置を用いて溶融ガラスを処理し、ブラウン管を製造した(実施例2)。一方、図6に示した従来の攪拌装置を用いて同様にブラウン管を製造した(比較例4)。そして、両者の泡混入による不良品発生率を測定したところ、実施例2の不良品発生率は、比較例4の半分に減少することができた。
【0032】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、流路の左右側壁と撹拌羽根の外周端との隙間を、左右側壁間距離の0.04倍以上としたので、左右側壁の浸食が抑えられ、ガラス製品の品質に悪影響を及ぼすことが防止されると共に、攪拌による波立ちを小さくして気泡混入を防止することができる。また、流路の左右側壁と撹拌羽根の外周端との隙間を、左右側壁間距離の0.1倍以下としたので、高温溶融物の通り抜けを防止して、十分な撹拌による均質化を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による撹拌装置の撹拌ユニットが流路に配置された状態の正面図である。
【図2】同撹拌装置の撹拌ユニットが流路に配置された状態の平面図である。
【図3】同攪拌装置の攪拌羽根を示し、(a)は図2におけるX−X矢示図、(b)は拡大平面図である。
【図4】同攪拌装置の全体を示す正面図である。
【図5】同攪拌装置の駆動機構を示す一部切欠き正面図である。
【図6】従来の撹拌装置の一例を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のX矢視図である。
【符号の説明】
11 撹拌ユニット
12 流路
12a,12b 左右側壁
13 回転軸
14 撹拌羽根
14a 作用面
M 高温溶融物
W 幅(距離)
φ 交角

【特許請求の範囲】
【請求項1】 流路の左右側壁内を流れる高温溶融物を撹拌するための撹拌ユニットを、上記流路の左右中心線に対して左右対称に偶数対配置して、左右に隣接する撹拌ユニットの撹拌羽根が互いに大略噛み合い状態で回転する高温溶融物の撹拌装置において、左右側壁と撹拌羽根の外周端との隙間を、左右側壁間の距離の0.04〜0.1倍としたことを特徴とする高温溶融物の撹拌装置。
【請求項2】 撹拌羽根は、回転接線方向における断面形状が回転方向前方から回転方向後方に向かって上向きに傾斜する作用面をもつ楔形である請求項1の高温溶融物の撹拌装置。
【請求項3】 撹拌羽根は、その作用面と撹拌ユニットの回転軸との交角を55〜80°に形成されている請求項1又は2記載の高温溶融物の撹拌装置。
【請求項4】 攪拌羽根は、左右側壁間の距離の40%以下の直径を有するものである請求項1〜3のいずれか1つに記載の高温溶融物の攪拌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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