説明

高濃度酸素気泡水供給装置とこれを用いた植物栽培装置

【課題】簡易な構成で高い溶存酸素濃度と大量の微細気泡を含む気泡水を供給することが可能な高濃度酸素気泡水供給装置、およびこの装置を用いた植物栽培装置を提供する。
【解決手段】植物栽培装置は、酸素を含有する気体と液体とを加圧下において混合し、液体中に気体を溶解させて気泡水を生成する気泡水生成装置1と、気泡水生成装置1から供給される気泡水を一時的に貯蔵する気泡水貯蔵タンク2とを備えている。気泡水生成装置1は、液体を導入するベンチュリー管11と、その下流側の拡がり部12において加圧下で液体と気体を溶解混合する部分と、さらにその後方に設けられたノズル部15とを含み、前記溶解混合した液体の流速を前記ノズル部15で加速させることによって液体中に溶解した気体を放出させ、多数の微細気泡を含む気泡水を生成する。気泡水貯蔵タンク2から高濃度酸素の気泡水を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸素を含有する気体(例えば空気)と水等の液体とを加圧下で混合し、溶存酸素濃度の大きい高濃度酸素水を供給する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類の養殖や植物の育成分野においては、供給する水の酸素濃度が十分な値を維持するように管理することが必要な場合がある。例えば、植物の生育に必要な潅水においては、根の部分に十分な酸素を供給できるように水の酸素濃度を高めることが要求される。特に、一般の土壌とは異なる培地を使用して多数の植物を栽培するときには酸欠状態を起こしやすくなり、結果として根の成長を妨げてしまう。この現象は、水温の上昇により溶存酸素濃度が低下する夏場において特に顕著である。
【0003】
この問題を解決するには、土壌や培地に給水パイプを通し、この給水パイプにより、継続的に高濃度酸素養液(液肥の混合されたもの)を根の部分に供給することが望まれる。そこで、一定の圧力下で水と酸素を混合することで高濃度酸素養液を生成し、これを給水パイプを介して植物の根の部分に継続して供給する種々の装置が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の装置では、加圧ミキシングタンクに酸素と水を供給し、供給された水に酸素の一部を溶解することで高濃度酸素水を生成するようにしている。
【特許文献1】特開2001−211770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示される装置は、水に酸素を高効率で混合させる必要性から加圧ミキシングタンク内を常時加圧しておく必要があり、装置全体として構造が複雑であり、また、加圧条件が変化すると溶存酸素濃度も変動するため安定した物理状態の高濃度酸素養液を供給することが困難である。また、タンクは酸素と水を混合するためのバッファとして使用しているすぎないため、タンク内の溶存酸素濃度を一定値に保つことも困難である。
【0006】
この発明は、簡易な構成で高い溶存酸素濃度と大量の微細気泡を含む気泡水を効率よく安定して供給することが可能な高濃度酸素気泡水供給装置、およびこの装置を用いた植物栽培装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、酸素を含有する気体と液体とを加圧下で混合し、液体中に気体を溶解させて気泡水を生成する気泡水生成装置と、
前記気泡水生成装置から供給される気泡水を一時的に貯蔵する気泡水貯蔵タンクと、を備え、前記気泡水貯蔵タンクから高濃度酸素の気泡水を供給することを特徴とする。
【0008】
気泡水生成装置としては、導入した液体をベンチュリー管やオリフィス等で絞る「絞り部」と、その下流側の「拡がり部」において加圧下で液体と気体を溶解混合する部分と、さらにその下流側に設けられた「ノズル部」とを含み、前記溶解混合した液体の流速を前記「ノズル部」で加速させることによって液体中に溶解した気体を放出させ多数の微細気泡を含む気泡水を生成するように構成したものが望ましい。
【0009】
この発明では、気体としては例えば空気または酸素が使用され、液体としては例えば水が使用される。また、この発明で気泡水とは気泡が含まれる液体を意味する。この発明を上記のように構成することにより、気泡水生成装置において、溶存酸素濃度が高く微細気泡を多く含む気泡水が生成されるため、気泡水生成のためにその下流側に加圧した気泡水貯蔵タンクを必要としない。また、気泡水生成装置をベンチュリー管やオリフィス等を含む上記のように構成することで、小型の装置で溶存酸素濃度が高く、微細気泡を多量に含み、気泡寿命の長い気泡水を安定して生成することができる。
【0010】
この発明の別の実施態様では、前記気泡水貯蔵タンクに貯蔵している気泡水の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素計と、前記タンクと前記気泡水生成装置とを繋ぐことにより前記タンクに貯蔵される気泡水を前記気泡水生成装置に導入する循環系統と、前記溶存酸素計で測定した溶存酸素濃度に応じて前記循環系統を運転することにより、前記タンク内の気泡水の溶存酸素濃度に応じて前記循環系統から溶存酸素濃度の低下した気泡水を気泡水生成装置に導入し、高濃度溶存酸素の気泡水として前記タンクに循環供給する制御部と、を備えている。
【0011】
このような構成によれば、タンク内に貯蔵している気泡水の液相面から気泡が放出して溶存酸素濃度が低下するような挙動を示しても、溶存酸素計がこれを検知して循環系統を運転し、高濃度溶存酸素を含む気泡水を前記タンクに供給することができるため、タンク内の気泡水の溶存酸素濃度を一定に維持することができる。また、気泡水生成装置を連続運転することなく効率的に溶存酸素濃度の高い気泡水を安定して植物栽培装置等に供給することができる。
【0012】
この発明のさらに他の実施態様では、前記気泡水貯蔵タンクの内部圧力を検出するタンク内圧検出手段とこのタンク内圧の低下を検出してタンク内の液面上方に圧縮空気等の気体を供給する加圧装置を備えている。
【0013】
上記構成によれば、気泡水供給により、タンクの気泡水液面が低下し、タンク内圧が低下すると前記加圧装置が作動して、圧縮空気等をタンクに供給してタンク内圧力を一定に維持できるため、気泡水液面からの気泡放出を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、溶存酸素濃度が高く微細気泡を多く含む気泡水は気泡水生成装置で生成されるために、構造が単純化され、その生成された気泡水は気泡水貯蔵タンクで一旦貯蔵してから植物栽培装置等の外部に供給されるため、気泡水生成装置を連続運転することなく、効率的に溶存酸素濃度の高い気泡水を安定的に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、この発明の実施形態である植物栽培装置の全体の構成図である。
【0016】
水はバルブV1を介して溶存酸素濃度の高い気泡水を生成する気泡水生成装置(以下、本明細書ではGALF(登録商標)と称する)1に導入され、このGALF1内で大気中の空気と水とを混合する。GALF1は、その構成について特許2554608号公報に詳細に示されているように、ベンチュリー管やオリフィス等の絞り部に導入した水をその下流側の拡がり部において加圧下で溶解混合し、さらにその下流側に設けられたノズル部で混合流速を加速させることによって液体中に溶解した気体を放出させ、多数の微細気泡を含む気泡水を生成する。
【0017】
図2は、このGALF1の断面構成図である。
【0018】
このGALF1は、絞り部である、のど部10が中央部に設けられたベンチュリー管11を備えている。このベンチュリー管11の下流側の拡がり部12には、のど部10のわずか下流側に、気体(大気)を流路中に混合させるための気体流入口13が形成されている。
【0019】
拡がり部12の下流側には、気体流入口13から流入した気体と流路中の水とを混合する混合部14が設けられている。混合部14は、外径を加圧の程度に応じて任意に設定することができる。この例では、拡がり部12の最大径から延長した形状に設定され、この混合部14の下流側先端にノズル口15が形成されている。
【0020】
以上の構成のGALF1では、導入部16に流入した水は、ベンチュリー管11ののど部10で加速され、拡がり部12で流速が遅くなり静圧が増大する。このとき、気体が流路中に流入して水と混合する。混合した気体は気泡となり混合部14内に流れ、混合部14の静圧がのど部10より高いので水に溶解していく。そして、気体が溶解された水は溶解しきらない気泡とともに混合水としてノズル口15に達する。ノズル口15では混合水の流速は再び加速されるので静圧は低くなり、水に溶解していた気体が微小気泡として放出する。さらに、溶解しきらない気泡も、ノズル口15で加速される際に、水流の乱れにより気泡のせん断、細分化現象が生じる。その結果、ノズル口15からは、溶存酸素濃度が高く、且つ大量の微細気泡が含まれる気泡水が出力される。
【0021】
このように、GALF1により、溶存酸素濃度が高く、且つ、微細気泡が大量に含まれた水が外部に供給されるようになる。
【0022】
GALF1で生成された気泡水は、一旦気泡水貯蔵タンク2に供給される。
【0023】
気泡水貯蔵タンク2は、GALF1で生成される気泡水の溶存酸素濃度を培地や植物栽培装置の稼働状況に左右されることなく安定に維持するとともに、気泡生成装置の運転を間歇的に効率よく行うものである。
【0024】
気泡水貯蔵タンク2内では、時間の経過とともに一部の微細気泡同士が合体することで視認可能な大きさの気泡となり、且つその気泡は液相の上面まで上昇して放出消滅するが、その場合でも液相部は高い溶存酸素濃度を維持している。溶存酸素濃度は、典型的には、夏場を想定(水温30度)した場合でも2時間後で10〜16ppm程度である。
【0025】
気泡水貯蔵タンク2に貯蔵された気泡水は、ポンプ3により適宜下流側に送られる。ポンプ3の後方にはモータにより弁開閉が可能なモータバルブ4が設けられ、このバルブ4 を通して供給される気泡水は給水パイプ5により、調整弁6とチューブ15を介して培地7に送られる。給水パイプ5には複数の調整弁6が設けられ、また、必要に応じてこの調整弁6の追加も可能である。
【0026】
GALF1と給水パイプ5との間に気泡水貯蔵タンク2が設けられることにより、給水パイプ5に接続されるチューブ15の数が変化しても、GALF1の出力側(ノズル口15側)の条件に変動はないため、GALF1で生成される気泡水は溶存酸素濃度や微細気泡量が変動しない物理的に安定したものとなる。
前記モータバルブ4と、最初の調整弁6との間には、電気伝導率センサ8と流量計9が設けられている。電気伝導率センサ8は電気伝導計10に接続され、ここで計測した電気伝導率は液肥タンク11、12に接続されたモータバルブ13、14に出力される。電気伝導率は、液肥濃度に相関するため、簡易的にセンサ8により電気伝導率を計測することにより給水パイプ5を流れる気泡水の液肥濃度を計測し、この値が一定になるようにモータバルブ13、14をコントロールする。モータバルブ13、14で流量調整された液肥はモータバルブ4と電気伝導率センサ8の間で気泡水と混合される。
【0027】
以上の構成で、溶存酸素濃度が高く、且つ微細気泡が大量に含まれる気泡水は複数に分離されている各培地7に供給され、その気泡水の溶存酸素濃度や微細気泡の量、および液肥混合量は常に安定したものとなる。
【0028】
培地7に供給された気泡水は、多量の微細気泡を含んでおり、この微細気泡は培地や植物の根に付着して視認できる程度の大きさの気泡として長時間存在するとともに、気泡水は高濃度の溶存酸素濃度を維持しているため、根の生育に必要な酸素を供給することが可能になる。図3は、培地や根に気泡が付着している状態を写した写真画像である。図において、円形状に見えるものが気泡であり、気泡の周囲に培地や根があることがわかる。
【0029】
発明者等の実験によれば、気泡水貯蔵タンク2から数十メートル離れた培地7においても、培地や培地内の根に多数の気泡が付着していることが観察され、また、この気泡は夏場の高温環境下(30度)においても5時間以上保持されることが確認された。通常、液肥の混合された水を潅水する場合、1時間に2回程度(概ね30分毎)であることが多いため、本実施形態の装置を使用することにより潅水間隔を広げても上記に述べた機能を十分に実現することが可能である。
【0030】
以上の構成からなる植物栽培装置では、夏場等、植物根域の酸素濃度が低下しやすい環境下でも、潅水中も含めて酸素欠乏状態に陥ることがなく、連続して溶存酸素濃度の高い気泡水を培地に供給することができる。また、培地や根に直接気泡を付着させることができるため、潅水の浸透に応じて培地の深層部まで高濃度の酸素を供給でき、且つ長時間にわたってこの状態を維持することが可能である。
【0031】
図4は、この発明の他の実施形態を示している。
【0032】
この実施形態では、GALF1と気泡水貯蔵タンク2間にモータバルブV2を接続した気泡水循環路20と、気泡水貯蔵タンク2内に貯蔵されている気泡水の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素計21とを設けている。
【0033】
気泡水貯蔵タンク2内に貯蔵されている気泡水の液相部は高い溶存酸素濃度を維持しているが、長時間放置するとその値は低下していく。そこで、液相部の溶存酸素濃度を溶存酸素計21で計測しておき、この値が一定値以下になればモータバルブV2を駆動して気泡水循環路20により、気泡水貯蔵タンク2内の気泡水をGALF1に戻してやる。このようにすることで、気泡水貯蔵タンク2内に貯蔵されている気泡水の溶存酸素濃度や微細気泡の混合量を安定した状態にすることができる。
【0034】
図5は、この発明のさらに他の実施形態を示している。
【0035】
この実施形態では、気泡水貯蔵タンク2に加圧装置22を接続し、タンク2内の気体部の圧力を検出するセンサ23を設けている。この加圧装置22は、センサ23により、気泡水貯蔵タンク2の液相面への圧力が一定値以下に低下したこと検出すると、タンク2内に気体を供給して圧力低下を防ぐ。タンク2内の圧力は大気圧よりやや高めに設定する。気体は空気でも酸素でも良い。
【0036】
気泡水貯蔵タンク2から下流側への気泡水の供給量が、GALF1側から供給される気泡水生成量を上回ると前記タンク2内の気泡水液面が低下し、タンク内の内圧が低下するため、液相からの気泡上昇、放出が増え、液相中の微細気泡数が減少する。しかし、タンク内に加圧装置22から圧縮気体を供給することにより、液相面からの気泡放出を抑制することができ、液相中の微細気泡の減少を抑制することができる。また、このときの加圧装置22の圧力はタンク2からの気泡水供給に対して有利に作用する。なお、タンク内の圧力は、大気圧よりもやや高めに設定するのが望ましい。
【0037】
以上の実施形態では、気泡水の供給先を培地としたが、通常の土壌であっても良い。また、水に代えて液肥の混合した溶液を気泡水生成装置に供給することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の実施形態である植物栽培装置の全体の構成図である。
【図2】上記植物栽培装置に使用する気泡水生成装置の構成図である。
【図3】培地や根に気泡が付着している状態を写した写真画像を示す図である。
【図4】この発明の他の実施形態である植物栽培装置の一部構成図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態である植物栽培装置の一部構成図である。
【符号の説明】
【0039】
1−GALF(気泡水生成装置)
2−気泡水貯蔵タンク
7−培地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を含有する気体と液体とを加圧下で混合し、液体中に気体を溶解させて気泡水を生成する気泡水生成装置と、
前記気泡水生成装置から供給される気泡水を一時的に貯蔵する気泡水貯蔵タンクと、を備え、前記気泡水貯蔵タンクから高濃度酸素の気泡水を供給することを特徴とする高濃度酸素気泡水供給装置。
【請求項2】
前記気泡水生成装置は、導入した液体を絞る絞り部と、その下流側に設けられた拡がり部において加圧下で液体と気体を溶解混合する部分と、さらにその下流側に設けられたノズル部とを含み、前記溶解混合した液体の流速を前記ノズル部で加速させることによって液体中に溶解した気体を放出させ、多数の微細気泡を含む気泡水を生成する、請求項1記載の高濃度酸素気泡水供給装置。
【請求項3】
前記気泡水貯蔵タンクに貯蔵している気泡水の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素計と、前記タンクと前記気泡水生成装置とを繋ぐ循環系統と、前記溶存酸素計で測定した溶存酸素濃度に応じて前記循環系統を運転する制御部と、を備えてなる請求項1または2記載の高濃度酸素気泡水供給装置。
【請求項4】
前記気泡水貯蔵タンク内の圧力を検出する内圧検出手段と、この内圧検出手段で検出した圧力に応じてタンク内の気泡水上面に加圧された気体を供給し、タンク内圧を一定に維持する加圧装置とを備えてなる請求項1〜3のいずれかに記載の高濃度酸素気泡水供給装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の高濃度酸素気泡水供給装置と、この装置から供給される気泡水を培地又は土壌に送る給水パイプとを備え、培地又は土壌内で気泡を捕捉させた状態で植物の栽培を行う植物栽培装置。
【請求項6】
液肥を貯蔵する液肥タンクと、この液肥タンクから供給される液肥を前記給水パイプ内で気泡水と混合させる手段とを備える請求項5記載の植物栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−304714(P2006−304714A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132881(P2005−132881)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000000309)IDEC株式会社 (188)
【出願人】(505162386)グローバリーテック株式会社 (3)
【Fターム(参考)】