説明

高熱伝導性熱可塑性樹脂及び組成物

【課題】熱伝導性に優れた熱可塑性樹脂であって、高熱伝導性無機物を大量に配合しなくても樹脂組成物の高熱伝導性を維持し、かつ樹脂組成物が汎用射出成形用金型でも容易に射出成形可能となるような熱可塑性樹脂及び組成物を提供すること。
【解決手段】 樹脂成分中に規定モル%のジカルボン酸ユニット、ジオールユニットおよび芳香族ヒドロキシカルボン酸ユニットを有する、熱可塑性を示す熱伝導性樹脂。およびこれを少なくとも含有する熱可塑性樹脂組成物。分子の配向性が高く、樹脂の結晶化率が高くなり、0.45W/mK以上の優れた熱伝導性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性に優れた放熱材料であって、射出成形可能な熱可塑性樹脂及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂組成物をパソコンやディスプレーの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装、など種々の用途に使用する際、プラスチックは金属材料など無機物と比較して熱伝導性が低いため、発生する熱を逃がしづらいことが問題になることがある。このような課題を解決するため、高熱伝導性無機物を大量に熱可塑性樹脂中に配合することで、高熱伝導性樹脂組成物を得ようとする試みが広くなされている。高熱伝導性無機化合物としては、グラファイト、炭素繊維、アルミナ、窒化ホウ素、等の高熱伝導性無機物を、通常は30体積%以上、さらには50体積%以上もの高含有量で樹脂中に配合する必要がある。しかしながら、無機物を大量に配合するために、汎用金型での成形が困難となるため、熱可塑性樹脂の優れた成形性を損なうことなく高熱伝導性を付与することは困難な課題であった。そこで無機物の配合量を減らす目的で樹脂自体の熱伝導性の向上が求められている。
【0003】
有機材料で高熱伝導率を達成する方法として、特開昭61−296068号公報に、超高度に配向したポリマー繊維を充填した高熱伝導性を有するプラスチックコンパウンドが開示されている。これは、POLYMER、Vol.19、155頁(1978年)に記載されている超高度に配向したポリマー繊維が、その繊維軸方向に熱伝導率が向上するという性質を利用したものである。しかしながら、超高度に配向したポリマー繊維は、その繊維軸に垂直な方向には熱伝導率が低下するため、有機絶縁組成物中にポリマー繊維をランダムに分散させても、熱伝導率はほとんど向上しない。有機絶縁組成物中にポリマー繊維を一方向に配列させることにより、配列方向には熱伝導率の優れた有機絶縁材料を得ることができるが、それ以外の方向には熱伝導率は逆に低下してしまうという問題がある。
【0004】
また、ADVANCED MATERIALS、Vol.5、107頁(1993年)、および、ドイツ国特許第4226994号には、メソゲン基を有するジアクリレート等のモノマーを、ある一方向に配向させた後に架橋反応させることで、分子鎖の並んだフィルムの面内方向の熱伝導率が高い異方性材料が記載されている。しかし、それ以外の方向、特に、フィルムの厚さ方向の熱伝導率は低くなってしまう。一般に、フィルム材料の熱の移動方向は、厚さ方向の場合が圧倒的に多く、このような材料では効果が小さい。
【0005】
厚さ方向に分子鎖を並べる手法に関する検討もある。特開平1−149303号公報、特開平2−5307号公報、特開平2−28352号公報、特開平2−127438号公報には、静電圧を印可した状態でのポリオキシメチレンやポリイミドのような有機材料の製法が記載されている。また、特開昭63−264828号公報には、ポリプロピレンやポリエチレン等の分子鎖が配列したシートを、配列方向が重なるように積層後、固着した積層物を、配向方向に垂直な方向に薄切りすることで、垂直方向に分子鎖が配列した材料が記載されている。これらの手法では確かにフィルムの厚さ方向の熱伝導率が高い材料となるが、成形が非常に煩雑になってしまい、使用できる材料が限られてしまう。
【0006】
特開2003−268070号公報に記載のエポキシ樹脂、又は特開2007−224060号公報に記載のビスマレイミド樹脂は、等方的にある程度熱伝導性を有する一方、分子構造が複雑であり、製造が困難であるという欠点を有する。また、これらは熱硬化性樹脂であるため、射出成形、押出成形など熱可塑性樹脂で一般的な成形方法には適さない。
【特許文献1】特開昭61−296068号公報
【特許文献2】ドイツ国特許第4226994号
【特許文献3】特開平1−149303号公報
【特許文献4】特開平2−5307号公報
【特許文献5】特開平2−28352号公報
【特許文献6】特開平2−127438号公報
【特許文献7】特開昭63−264828号公報
【特許文献8】特開2003−268070号公報
【特許文献9】特開2007−224060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、熱伝導性に優れた熱可塑性樹脂であって、高熱伝導性無機物を大量に配合しなくても樹脂組成物の高熱伝導性を維持し、かつ樹脂組成物が汎用射出成形用金型でも射出成形可能となるような熱可塑性樹脂及び組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、特定の一次構造を有する熱可塑性樹脂が高い熱伝導性と優れた成形性を有することを見出し、本発明にいたった。
即ち、本発明は、下記1)〜6)である。
【0009】
1)主鎖の構造が一般式(1)
−OC−R1−CO− (1)
(式中、R1は主鎖原子数4〜20の脂肪族炭化水素鎖またはオキシ炭化水素鎖を示す。)で表されるジカルボン酸ユニット(A)10〜25モル%、
一般式(2)
−O−Ar1−O− (2)
(式中、Ar1はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を示す。)で表される芳香族ジオールユニット(B)10〜25モル%、
および一般式(3)
−O−Ar2−CO− (3)
(式中、Ar2はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を示す。)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸ユニット(C)50〜80モル%(ただしユニット(A),(B),(C)の合計を100モル%とする)からなり、
ユニット(B)に対するユニット(A)の割合(モル比)が1≦(A)/(B)≦1.1であり、
ユニット(B)に対するユニット(C)の割合(モル比)が2≦(C)/(B)≦8であることを特徴とし、0.45W/mK以上の熱伝導性を有する熱可塑性樹脂。
【0010】
2)主鎖の構造が一般式(4)
−OC−Ar3−CO− (4)
(式中、Ar3はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を示す。)で表されるジカルボン酸ユニット(D)10〜25モル%、
一般式(5)
−O−R2−O− (5)
(式中、R2は主鎖原子数4〜20の脂肪族炭化水素鎖またはオキシ炭化水素鎖を示す。)で表されるグリコールユニット(E)10〜25モル%、
および一般式(3)
−O−Ar2−CO− (3)
(式中、Ar2はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を示す。)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸ユニット(C)50〜80モル%(ただしユニット(C),(D),(E)の合計を100モル%とする)からなり、
ユニット(D)に対するユニット(E)の割合(モル比)が1≦(E)/(D)≦1.1であり、
ユニット(D)に対するユニット(C)の割合(モル比)が2≦(C)/(D)≦8であることを特徴とし0.45W/mK以上の熱伝導性を有する熱可塑性樹脂。
【0011】
3)1)、2)のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂(I)および無機充填剤(II
)を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
4)無機充填剤(II)が、グラファイト、導電性金属粉、軟磁性フェライト、炭素繊維、導電性金属繊維、酸化亜鉛、からなる群より選ばれる1種以上の高熱伝導性無機化合物であることを特徴とする、3)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
5)無機充填剤(II)が、単体での熱伝導率が20W/m・K以上の電気絶縁性高熱伝導性無機化合物であることを特徴とする、3)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
6)無機充填剤(II)が、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、ダイヤモンド、からなる群より選ばれる1種以上の高熱伝導性無機化合物であることを特徴とする、3)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明は樹脂そのものが等方的に高熱伝導性を示す熱可塑性樹脂に関するものであり、高熱伝導性無機充填剤を高充填しなくても高い熱伝導性を示し、樹脂組成物は汎用射出成形用金型でも容易に射出成形可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂が高熱伝導性を有するためには、前記熱可塑性樹脂の主鎖の構造が一般式(1)
−OC−R1−CO− (1)
(式中、R1は主鎖原子数4〜20の脂肪族炭化水素鎖またはオキシ炭化水素鎖を示す。)で表されるジカルボン酸ユニット(A)10〜25モル%、
一般式(2)
−O−Ar1−O− (2)
(式中、Ar1はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を示す。)で表される芳香族ジオールユニット(B)10〜25モル%、
および一般式(3)
−O−Ar2−CO− (3)
(式中、Ar2はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を示す。)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸ユニット(C)50〜80モル%からなる重縮合物(ただしユニット(A),(B),(C)の合計を100モル%とする)であり、
ユニット(B)に対するユニット(A)の割合(モル比)が1≦(A)/(B)≦1.1であり、
ユニット(B)に対するユニット(C)の割合(モル比)が2≦(C)/(B)≦8であることが好ましい。
【0017】
あるいは前記熱可塑性樹脂の主鎖の構造が一般式(4)
−OC−Ar3−CO− (4)
(式中、Ar3はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を示す。)で表されるジカルボン酸ユニット(D)10〜25モル%、
一般式(5)
−O−R2−O− (5)
(式中、R2は主鎖原子数4〜20の脂肪族炭化水素鎖またはオキシ炭化水素鎖を示す。)で表されるグリコールユニット(E)10〜25モル%、
および一般式(3)
−O−Ar2−CO− (3)
(式中、Ar2はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を示す。)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸ユニット(C)50〜80モル%からなる重縮合物(ただしユニット(C),(D),(E)の合計を100モル%とする)であり、
ユニット(D)に対するユニット(E)の割合(モル比)が1≦(E)/(D)≦1.1であり、
ユニット(D)に対するユニット(C)の割合(モル比)が2≦(C)/(D)≦8であることが好ましい。
【0018】
ユニット(A)および(E)が屈曲性基として作用するので、ユニット(B)(C)および(D)が形成するメソゲン基の配向が容易になり、そのため結晶の形成を容易にする。また屈曲性基の存在が結晶間を結ぶタイ分子の形成を容易にするため、結晶間の熱伝導が効率的となる。またユニット(C)の割合が(B)もしくは(D)に対して2〜8であることは、メソゲン基の構造の秩序性を向上させ、結晶の形成を容易にし、熱伝導を阻害する構造欠陥を減らすことができるため、熱伝導率が高くなる。
【0019】
本発明で用いられるジカルボン酸ユニット(A)におけるR1の主鎖原子数については、樹脂の熱伝導性、耐熱性を高めるためには4〜20であることが好ましく、4〜12であることがより好ましく、さらには4〜10であることが特に好ましい。主鎖原子数が3以下である場合、樹脂の結晶化率が低くなる場合があり、樹脂自体の熱伝導率を低下させる場合がある。また分子の配向性および結晶化を容易にするためには主鎖原子数は偶数であることが好ましい。さらにR1は分岐を含まない直鎖の脂肪族炭化水素鎖またはオキシ炭化水素鎖であることが望ましい。分岐を含む場合、樹脂の結晶化率の低下を促し、樹脂自体の熱伝導率を低下させる場合がある。また、炭化水素鎖は飽和でも不飽和でもよいが、飽和であることが望ましい。不飽和結合を含む場合、充分な屈曲性が発現されず、熱伝導率を低下させる場合がある。
【0020】
ジカルボン酸ユニット(A)を主鎖に導入するための原料としては、具体的にはアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、イコサン二酸、ドコサン二酸のような脂肪族ジカルボン酸が例示される。これらは1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
本発明で用いられる芳香族ジオールユニット(B)におけるAr1は、ハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよいが無置換であることが好ましい。置換基が導入されるほど、置換基が大きくなるほど、芳香族分子のスタッキングの障害となり、樹脂の結晶化率の低下を促すため、樹脂自体の熱伝導率を低下させる場合がある。Ar1全体の炭素数は、置換基を含めて6〜18であることが好ましく、6〜12であることが特に好ましい。
【0022】
芳香族ジオールユニット(B)を主鎖に導入するための原料としては、具体的には、ハイドロキノン、レゾルシノールのようなベンゼンジオール類、2,6−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオールのようなナフタレンジオール類、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、3,4'−ジヒドロキシビフェニルのようなジヒドロキシビフェニル類等が例示される。これらは1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0023】
本発明で用いられる芳香族ヒドロキシカルボン酸ユニット(C)におけるAr2は、ハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよいが無置換であることが好ましい。置換基が導入されるほど、置換基が大きくなるほど、芳香族分子のスタッキングの障害となり、樹脂の結晶化率の低下を促すため、樹脂自体の熱伝導率を低下させる場合がある。Ar2全体の炭素数は、置換基を含めて6〜18であることが好ましく、6〜12であることが特に好ましい。
【0024】
芳香族ヒドロキシカルボン酸ユニット(C)を主鎖に導入するための原料としては、具体的には、p−ヒドロキシ安息香酸のようなヒドロキシ安息香酸類、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−5−ナフトエ酸のようなヒドロキシナフトエ酸類、4'−ヒドロキシビフェニル−4−カルボン酸、3'−ヒドロキシビフェニル−3−カルボン酸のようなヒドロキシビフェニルカルボン酸等が例示される。これらは1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0025】
本発明で用いられるジカルボン酸ユニット(D)におけるAr3は、ハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよいが無置換であることが好ましい。置換基が導入されるほど、置換基が大きくなるほど、芳香族分子のスタッキングの障害となり、樹脂の結晶化率の低下を促すため、樹脂自体の熱伝導率を低下させる場合がある。Ar3全体の炭素数は、置換基を含めて6〜18であることが好ましく、6〜12であることが特に好ましい。
【0026】
ジカルボン酸ユニット(D)を主鎖に導入するための原料としては、具体的にはテレフタル酸、メトキシテレフタル酸、エトキシテレフタル酸、フルオロテレフタル酸、クロロテレフタル酸、メチルテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、メトキシイソフタル酸、ジフェニルメタン4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルメタン3,3′−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル4,4′−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4′−ジカルボン酸、ナフタリン−2,6−ジカルボン酸、ナフタリン1,5ジカルボン酸、ナフタリン1,4ジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸が例示される。これらは1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
本発明で用いられるグリコールユニット(E)におけるR2の主鎖原子数については樹脂の熱伝導性、耐熱性を高めるためには4〜20であることが好ましく、4〜12であることがより好ましく、さらには4〜10であることが特に好ましい。主鎖原子数が3以下である場合、樹脂の結晶化率が低くなる場合があり、樹脂自体の熱伝導率を低下させる場合がある。また分子の配向性および結晶化を容易にするためには主鎖原子数は偶数であることが好ましい。またR2は分岐を含まない直鎖の脂肪族炭化水素鎖またはオキシ炭化水素鎖であることが望ましい。分岐を含む場合、樹脂の結晶化率の低下を促し、樹脂自体の熱伝導率を低下させる場合がある。さらに、炭化水素鎖は飽和でも不飽和でもよいが、飽和であることが望ましい。不飽和結合を含む場合、充分な屈曲性が発現されず、熱伝導率を低下させる場合がある。
【0028】
グリコールユニット(E)を主鎖に導入するための原料としては、具体的には1 ,4 − ブタンジオール、1 ,5 − ペンタンジオール、1 ,6 − ヘキサンジオール、1 ,7− ヘプタンジオール、1 ,8 − オクタンジオール、1 ,9 − ノナンジオール、1 ,1 0 − デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0029】
ユニット(B)に対するユニット(A)の割合(モル比)は
1≦(A)/(B)≦1.1であることが好ましく、1≦(A)/(B)≦1.05であることがより好ましく、さらには1≦(A)/(B)≦1.01であることが好ましい。(A)/(B)が1に近いほど、モルバランスが優れ、分子量が向上する傾向がある。
【0030】
ユニット(B)に対するユニット(C)の割合(モル比)は2≦(C)/(B)≦8であることが好ましく、2.5≦(C)/(B)≦6であることがより好ましく、さらには3≦(C)/(B)≦5であることが好ましい。(C)/(B)が2未満の場合樹脂の結晶化率が低く、熱伝導率が低下する場合があり、8より大きい場合は融点が高くなるため、重合が困難になり重合度が高められないか、射出成形が困難になる場合がある。
【0031】
ユニット(D)に対するユニット(E)の割合(モル比)は
1≦(D)/(E)≦1.1であることが好ましく、1≦(D)/(E)≦1.05であることがより好ましく、さらには1≦(D)/(E)≦1.01であることが好ましい。(D)/(E)が1に近いほど、モルバランスが優れ、分子量が向上する傾向がある。
【0032】
ユニット(D)に対するユニット(C)の割合(モル比)は2≦(C)/(D)≦8であることが好ましく、3≦(C)/(D)≦7であることがより好ましく、さらには4≦(C)/(D)≦6であることが好ましい。(C)/(D)が2未満の場合樹脂の結晶化率が低く、熱伝導率が低下する場合があり、8より大きい場合は融点が高くなるため、重合が困難になり重合度が高められないか、射出成形が困難になる場合がある。
【0033】
ユニット(A)(B)(C)からなる熱可塑性樹脂の製造方法の一例としては、これらの芳香族ジオールユニット(B)、芳香族ヒドロキシカルボン酸ユニット(C)の末端に水酸基を有する化合物を無水酢酸等の低級脂肪酸を用いてそれぞれ個別に、または一括して酢酸エステルとした後、別の反応槽または同一の反応槽で、ジカルボン酸ユニット(A)と脱酢酸重縮合反応させる方法が挙げられる。重縮合反応は、実質的に溶媒の存在しない状態で、通常270〜380℃好ましくは280〜350℃の温度で、窒素等の不活性ガスの存在下、常圧または減圧下に、0.5〜5時間行われる。反応温度が270℃より低いと反応の進行は遅く、380℃より高い場合は分解等の副反応が起こりやすい。多段階の反応温度を採用してもかまわないし、場合により昇温中あるいは最高温度に達したらすぐに反応生成物を溶融状態で抜き出し、回収することもできる。得られた芳香族ポリエステルはそのままでも使用してもよいし、未反応原料を除去したり、物性をあげる意味から固相重合を行なうこともできる。固相重合を行なう場合には、得られた芳香族ポリエステルを3mm以下好ましくは1mm以下の粒径の粒子に機械的に粉砕し、固相状態のまま250〜350℃で窒素等の不活性ガス雰囲気下、または減圧下に1〜20時間処理することが好ましい。ポリマー粒子の粒径が3mm以上になると、処理が十分でなく、物性上の問題を生じるため好ましくない。固相重合時の処理温度や昇温速度は、芳香族ポリエステル粒子が融着を起こさないように選ぶことが好ましい。
【0034】
本発明における熱可塑性樹脂の製造に用いられる低級脂肪酸の酸無水物としては,炭素数2〜5個の低級脂肪酸の酸無水物,たとえば無水酢酸,無水プロピオン酸、無水モノクロル酢酸,無水ジクロル酢酸,無水トリクロル酢酸,無水モノブロム酢酸,無水ジブロム酢酸,無水トリブロム酢酸,無水モノフルオロ酢酸,無水ジフルオロ酢酸,無水トリフルオロ酢酸,無水酪酸,無水イソ酪酸,無水吉草酸,無水ピバル酸等が挙げられるが,無水酢酸,無水プロピオン酸,無水トリクロル酢酸が特に好適に用いられる。低級脂肪酸の酸無水物の使用量は,用いる芳香族ジオールユニット(B)および、芳香族ヒドロキシカルボン酸ユニット(C)の水酸基の合計に対し1.01〜1.50倍当量,好ましくは1.02〜1.2倍当量である。
【0035】
ユニット(C)(D)(E)からなる熱可塑性樹脂の製造方法の一例としては、まず芳香族ヒドロキシカルボン酸ユニット(C),低級脂肪酸の酸無水物及びジカルボン酸ユニット(D)とジオールユニット(E)から構成されるポリエステルを不活性雰囲気下,好ましくは300℃以下,特に好ましくは100〜250℃,さらに好ましくは100〜150℃で混合する。本発明においては,ついで不活性雰囲気下,混合物が均一な状態になるまで加熱溶解する。加熱溶解は,通常210〜300℃で数十分〜数時間,好ましくは250〜300℃で5〜120分,最適には250〜280℃で30〜60分間行われる。すなわち,三者を100〜150℃で混合したのち,100〜150℃で少なくとも30分間撹拌混合し,次いで250〜280℃まで遅くとも5時間かけて昇温し,均一な状態になるまで加熱溶解するのが特に好ましい。250〜280℃までの昇温時間が5時間をこえると,オキシ芳香族カルボン酸のホモポリマーの生成が優先して行われ,ポリマー中に異物として残るという問題が生じることがあるので好ましくない。
【0036】
重縮合反応は,通常200〜300℃,好ましくは250〜300℃の温度下,徐々に減圧し,最終的には10torr未満,好ましくは1.0torr未満の減圧下に数十分〜数時間行えばよい。また,通常重縮合反応には触媒が用いられるが,本発明の方法によりポリエステルを製造する際には,たとえば,各種金属化合物あるいは有機スルホン酸化合物の中から選ばれた1種以上の化合物が用いられる。かかる金属化合物としては,アンチモン,チタン,ゲルマニウム,スズ,亜鉛,アルミニウム,マグネシウム,カルシウム,マンガン,ナトリウムあるいはコバルトなどの化合物が用いられ,一方,有機スルホン酸化合物としては,スルホサリチル酸,o−スルホ無水安息香酸(OSB)などの化合物が用いられるが三酸化アンチモン(CS)やOSBが特に好適に用いられる。前記触媒の添加量としては,ポリエステルの構成単位1モルに対し通常0.1×104〜100×104モル,好ましくは0.5×104〜50×104モル、最適には1×104〜10×104モル用いられる。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂の末端の構造はとくに限定されないが、射出成形に適した樹脂が得られるという観点からは、水酸基、カルボキシル基、アシル基、アルコキシ基などで末端が封止されていることが好ましい。末端にエポキシ基、マレイミド基などの反応性が高い官能基を有する場合は、樹脂が熱硬化性となり、射出成形性が損なわれることがある。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂は固相から液晶相に転移する点(Tm)と液晶相から等方相に転移する点(Ti)をもつ。Tmは150〜300℃であることが好ましく、170〜280℃であることがより好ましい。Tmが150℃未満である場合、耐熱性の点で電子部品用途には好ましくない。また300℃以上である場合、射出成形困難となる。このようなTmの熱可塑性樹脂であれば、汎用金型でも射出成形が容易な熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0039】
成形条件によって、成形体が有する結晶化度が変わるため、熱伝導率も変わる。成形する際の樹脂の溶融温度はTm以上、Ti以下の温度の液晶相であることが好ましく、さらにはTm+10〜40℃であることがより好ましい。Ti以上の温度で溶融させる場合等方相となり、分子が配向していないため成形体の結晶化度が高められず熱伝導率が低下することがある。溶融温度を液晶相とするためには液晶相の温度幅が広い方が成形条件の観点で好ましく、即ちTiの上限は特に限定されないが、下限はTi−Tmが5℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、さらには50℃以上であることが好ましい。
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂は分子の配向性が高く、形成される高次構造が緻密となるため、優れた熱伝導性を有し、その熱伝導率は0.45W/(m・K)以上となることを特徴とする。熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましいが、射出成形可能な融点を有し、成形時に磁場、電圧印加、ラビング、延伸等の物理的処理を施さなければ、一般的には30W/(m・K)以下、さらには10W/(m・K)以下となる。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂は、厚み方向と面方向とで異なる熱伝導率を示すように成形してもよく、全ての方向が同じ熱伝導率となるように成形してもよい。方向によって熱伝導率が異なる場合、いずれの方向も0.45W/mK以上となるように成形することが好ましい。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂を、成形体の体積の50%以上が厚み1.3mm以下となるように射出成形することにより、樹脂を構成する分子を成形体の面方向に配向させることができる。このことにより面方向で測定された熱伝導率が厚み方向で測定された熱伝導率の1.3倍以上とすることが可能であるが、本発明の熱可塑性樹脂はこのような薄肉成形体において厚み方向にも0.45W/mK以上の熱伝導率を有することを特徴とする。面方向のみでなく厚み方向にも高熱伝導性であることは、例えば電子機器内部のホットスポットの冷却効果をより向上させる。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂は、さらに充填剤や他の樹脂などを配合して高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物として用いることができる。
【0044】
本発明の樹脂組成物には、無機充填剤(II)を含有することができる。本発明の樹脂組成物における無機充填剤(II)の使用量は、好ましくは熱可塑性樹脂(I)100重量部に対し10〜70重量部であり、より好ましくは20〜60重量部であり、特に好ましくは30〜50重量部である。10重量部未満では熱伝導率が満足に得られないことがある。70重量部を超えると機械物性が低下することがある。
【0045】
無機充填剤(II)としては、公知の充填剤を広く使用できるが、得られる組成物が熱伝導性に優れるという観点からは、高熱伝導性無機化合物であることが好ましい。本発明の樹脂組成物に配合する、高熱伝導性無機化合物は、単体での熱伝導率が10W/m・K以上のものを用いることができる。10W/m・K未満では、組成物の熱伝導率を向上させる効果に劣ることがある。単体での熱伝導率は、好ましくは12W/m・K以上、さらに好ましくは15W/m・K以上、最も好ましくは20W/m・K以上、特に好ましくは30W/m・K以上のものが用いられる。高熱伝導性無機化合物単体での熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましいが、一般的には3000W/m・K以下、さらには2500W/m・K以下、のものが好ましく用いられる。
【0046】
組成物として特に電気絶縁性が要求されない用途に用いる場合には、高熱伝導性無機化合物としては金属系化合物や導電性炭素化合物等が好ましく用いられる。これらの中でも、熱伝導性に優れることから、グラファイト、炭素繊維、等の導電性炭素材料、各種金属を微粒子化した導電性金属粉、各種金属を繊維状に加工した導電性金属繊維、各種フェライト類、酸化亜鉛、等の金属酸化物、を好ましく用いることができる。
【0047】
組成物として電気絶縁性が要求される用途に用いる場合には、高熱伝導性無機化合物としては電気絶縁性を示す化合物が好ましく用いられる。電気絶縁性とは具体的には、電気抵抗率1Ω・cm以上のものを示すこととするが、好ましくは10Ω・cm以上、より好ましくは105Ω・cm以上、さらに好ましくは1010Ω・cm以上、最も好ましくは1013Ω・cm以上のものを用いるのが好ましい。電気抵抗率の上限には特に制限は無いが、一般的には1018Ω・cm以下である。本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体の電気絶縁性も上記範囲にあることが好ましい。
【0048】
高熱伝導性無機化合物のうち、電気絶縁性を示す化合物としては具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅、等の金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、等の金属窒化物、炭化ケイ素等の金属炭化物、炭酸マグネシウムなどの金属炭酸塩、ダイヤモンド、等の絶縁性炭素材料、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、等の金属水酸化物、を例示することができる。
【0049】
中でも電気絶縁性に優れることから、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、等の金属窒化物、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、等の金属酸化物、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、等の金属水酸化物、ダイヤモンド、等の絶縁性炭素材料、をより好ましく用いることができる。これらは単独あるいは複数種類を組み合わせて用いることができる。
【0050】
高熱伝導性無機化合物の形状については、種々の形状のものを適応可能である。例えば粒子状、微粒子状、ナノ粒子、凝集粒子状、チューブ状、ナノチューブ状、ワイヤ状、ロッド状、針状、板状、不定形、ラグビーボール状、六面体状、大粒子と微小粒子とが複合化した複合粒子状、液体、等種々の形状を例示することができる。またこれら高熱伝導性無機化合物は天然物であってもよいし、合成されたものであってもよい。天然物の場合、産地等には特に限定はなく、適宜選択することができる。これら高熱伝導性無機化合物は、1種類のみを単独で用いてもよいし、形状、平均粒子径、種類、表面処理剤等が異なる2種以上を併用してもよい。
【0051】
これら高熱伝導性無機化合物は、樹脂と無機化合物との界面の接着性を高めたり、作業性を容易にしたりするため、シラン処理剤等の各種表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。表面処理剤としては特に限定されず、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、等従来公知のものを使用することができる。中でもエポキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、及び、アミノシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、ポリオキシエチレンシラン、等が樹脂の物性を低下させることが少ないため好ましい。無機化合物の表面処理方法としては特に限定されず、通常の処理方法を利用できる。
【0052】
本発明の樹脂組成物には、前記の高熱伝導性無機化合物以外にも、その目的に応じて公知の有機および無機充填剤を広く使用できる。充填剤としては、例えば前記の高熱伝導性無機化合物に加え、ケイソウ土粉;塩基性ケイ酸マグネシウム;焼成クレイ;微粉末シリカ;石英粉末;結晶シリカ;カオリン;タルク;三酸化アンチモン;微粉末マイカ;二硫化モリブデン;ロックウール;セラミック繊維;アスベストなどの無機質繊維;紙、パルプ、木料;ポリアミド繊維、アラミド繊維、ボロン繊維などの合成繊維;ポリオレフィン粉末等の樹脂粉末;およびガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスクロス、溶融シリカ等ガラス製充填剤が挙げられる。これら充填剤を用いることで、例えば熱伝導性、機械強度、または耐摩耗性など樹脂組成物を応用する上で好ましい特性を向上させることが可能となる。強度に優れるという観点からは、これらのうち、無機の充填剤を用いることが好ましい。
【0053】
本発明の熱可塑性樹脂(I)および樹脂組成物には、本発明の効果の発揮を失わな
い範囲で、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ウレタン樹脂等いかなる公知の樹脂も含有させて構わない。好ましい樹脂の具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ナイロン6、ナイロン6,6等が挙げられる。樹脂の好ましい使用量は、通常樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂(I)100重量部に対し、0〜50重量部の範囲である。
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂(I)および樹脂組成物には、上記樹脂や充填剤以外の添加
剤として、さらに目的に応じて他のいかなる成分、例えば、補強剤、増粘剤、離型剤、カップリング剤、難燃剤、耐炎剤、顔料、着色剤、その他の助剤等を本発明の効果を失わない範囲で、添加することができる。これらの添加剤の使用量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、合計で0〜20重量部の範囲であることが好ましい。
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては特に限定されるものではない。例えば、上述した成分や添加剤等を乾燥させた後、単軸、2軸等の押出機のような溶融混練機にて溶融混練することにより製造することができる。また、配合成分が液体である場合は、液体供給ポンプ等を用いて溶融混練機に途中添加して製造することもできる。
【0056】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形加工法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、プレス成形、カレンダー成形等が利用できる。これらの中でも成形サイクルが短く生産効率に優れること、本組成物が射出成形時の流動性が良好であるという特性を有していることなどから、射出成形法により射出成形することが好ましい。
【0057】
このようにして得られた複合材料は、樹脂フィルム、樹脂成形品、樹脂発泡体、塗料やコーティング剤、等さまざまな形態で、電子材料、磁性材料、触媒材料、構造体材料、光学材料、医療材料、自動車材料、建築材料、等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。本発明で得られた高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物は、現在広く用いられている射出成形機や押出成形機等の一般的なプラスチック用成形機が使用可能であるため、複雑な形状を有する製品への成形も容易である。特に優れた成形加工性、高熱伝導性、という優れた特性を併せ持つことから、熱伝導性材料または放熱材料として有用であり、とくに発熱源を内部に有する携帯電話、ディスプレー、コンピューター等の筐体用樹脂として、非常に有用である。
【0058】
本発明の高熱伝導性樹脂組成物は、家電、OA機器部品、AV機器部品、自動車内外装部品、等の射出成形品等に好適に使用することができる。特に多くの熱を発する家電製品やOA機器において、外装材料として好適に用いることができる。
さらには発熱源を内部に有するがファン等による強制冷却が困難な電子機器において、内部で発生する熱を外部へ放熱するために、これらの機器の外装材として好適に用いられる。これらの中でも好ましい装置として、ノートパソコンなどの携帯型コンピューター、PDA、携帯電話、携帯ゲーム機、携帯型音楽プレーヤー、携帯型TV/ビデオ機器、携帯型ビデオカメラ、等の小型あるいは携帯型電子機器類の筐体、ハウジング、外装材用樹脂として非常に有用である。また自動車や電車等におけるバッテリー周辺用樹脂、家電機器の携帯バッテリー用樹脂、ブレーカー等の配電部品用樹脂、モーター等の封止用材料、としても非常に有用に用いることができる。
【0059】
本発明の高熱伝導性樹脂組成物は従来良く知られている組成物に比べて、高熱伝導性無機物の配合量を減らすことができるため成形加工性が良好であり、上記の用途における部品あるいは筐体用として有用な特性を有するものである。
【実施例】
【0060】
次に、本発明の熱可塑性樹脂および組成物について、実施例および比較例を挙げさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。なお、以下にあげる各試薬は特に特記しない限り和光純薬工業(株)製の試薬を用いた。
【0061】
[実施例1]
還流冷却器、温度計、窒素導入管および攪拌棒を備え付けた密閉型反応器に、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、セバシン酸、p−ヒドロキシ安息香酸および無水酢酸をモル比でそれぞれ1:1:3.5:6の割合で仕込み、窒素ガスを緩やかに流しながら、内容物を攪拌しつつ還流温度まで昇温した。還流温度で5時間保温した後、還流冷却器をリービッヒ冷却器と交換し、さらに200℃まで昇温しながら酢酸を留去した。さらに1℃/分の速度で320℃まで昇温し、320℃で生じる酢酸を留去しながら1時間30分重合させた。酢酸の留出量が理論酢酸生成量の90%に到達した時点で引き続きその温度を保ったまま、約20分かけて0.5torr以下に減圧し、高分子量まで溶融重合を行った。1時間後、不活性ガスで常圧に戻し、生成したポリマーを取り出した。得られたポリマーを230℃にて溶融し、射出成形にて厚み6mm×20mmφのサンプルおよび厚み1mm×25.4mmφの円盤状サンプルを得た。
【0062】
[実施例2、3]
実施例1の4,4'−ジヒドロキシビフェニル、セバシン酸、p−ヒドロキシ安息香酸および無水酢酸をモル比でそれぞれ1:1:2.5:5、または1:1:2:4.5にする以外は同様の方法によって合成しポリマーを得た。得られたポリマーを230℃にて溶融し、射出成形にて厚み6mm×20mmφのサンプルを得た。
【0063】
[比較例1、2]
実施例1の4,4'−ジヒドロキシビフェニル、セバシン酸、p−ヒドロキシ安息香酸および無水酢酸をモル比でそれぞれ1:1:1:2.3、または1:1:0.1:3.3にする以外は同様の方法によって合成しポリマーを得た。得られたポリマーを230℃にて溶融し、射出成形にて厚み6mm×20mmφのサンプルを得た。
【0064】
[実施例4]
エステル交換反応装置にテレフタル酸のジメチルエステルと1,4ブタンジオールを仕込み,220℃の温度でエステル交換反応させてメタノールを留出させた後,この反応物をバッチ式の重合反応装置に仕込み,触媒としてTBT(テトラブチルチタネート)をポリエステルの構成単位1モルに対し5×10-4モル添加し,1.0torの減圧下,240℃で3時間重縮合反応を行った。
このポリエステルのテレフタル酸ユニットと1,4ブタンジオールユニットに対し、p−ヒドロキシ安息香酸および無水酢酸をモル比で1:1:6:6.6の割合で混合し,窒素雰囲気下270℃で1時間撹拌したところ,反応混合物は均一な溶液状態になった。次いで,徐々に減圧し,最終的には1.0torで5時間重縮合反応を行った。そののち不活性ガスで常圧に戻し、生成したポリマーを取り出した。得られたポリマーを230℃にて溶融し、射出成形にて厚み6mm×20mmφのサンプルおよび厚み1mm×25.4mmφの円盤状サンプルを得た。
【0065】
[実施例5、6]
実施例4のポリエステルのテレフタル酸ユニットと1,4ブタンジオールユニットに対し、p−ヒドロキシ安息香酸および無水酢酸のモル比を1:1:4:4.4、または1:1:2:2.2にする以外は同様の方法によって合成しポリマーを得た。得られたポリマーを230℃にて溶融し、射出成形にて厚み6mm×20mmφのサンプルを得た。
【0066】
[実施例7]
実施例1の4,4'−ジヒドロキシビフェニルをハイドロキノンに変更し、ハイドロキノン、セバシン酸、p−ヒドロキシ安息香酸および無水酢酸をモル比でそれぞれ1:1:2.5:5にする以外は同様の方法によって合成しポリマーを得た。得られたポリマーを230℃にて溶融し、射出成形にて厚み6mm×20mmφのサンプルを得た。
【0067】
[実施例8]
実施例4の1,4ブタンジオールをジエチレングリコールに変更し、生成したポリエステルのテレフタル酸ユニットとジエチレングリコールユニットに対し、p−ヒドロキシ安息香酸および無水酢酸をモル比で1:1:6:6.6の割合にする以外は同様の方法によって合成しポリマーを得た。得られたポリマーを230℃にて溶融し、射出成形にて厚み6mm×20mmφのサンプルを得た。
【0068】
[比較例3、4]
実施例4のポリエステルのテレフタル酸ユニットと1,4ブタンジオールユニットに対し、p−ヒドロキシ安息香酸および無水酢酸のモル比を1:1:1:1.1、または1:1:0.5:0.6にする以外は同様の方法によって合成しポリマーを得た。得られたポリマーを230℃にて溶融し、射出成形にて厚み6mm×20mmφのサンプルを得た。
【0069】
[比較例5]
エステル交換反応装置にテレフタル酸のジメチルエステルとエチレングリコールを仕込み,220℃の温度でエステル交換反応させてメタノールを留出させた後,この反応物をバッチ式の重合反応装置に仕込み,触媒としてTBT(テトラブチルチタネート)をポリエステルの構成単位1モルに対し5×10-4モル添加し,1.0torの減圧下,240℃で3時間重縮合反応を行った。
このポリエステルのテレフタル酸ユニットとエチレングリコールユニットに対し、p−ヒドロキシ安息香酸および無水酢酸をモル比で1:1:6:6.6の割合で混合し,窒素雰囲気下270℃で1時間撹拌したところ,反応混合物は均一な溶液状態になった。次いで,徐々に減圧し,最終的には1.0torで5時間重縮合反応を行った。そののち不活性ガスで常圧に戻し、生成したポリマーを取り出した。得られたポリマーを280℃にて溶融し、射出成形にて厚み6mm×20mmφのサンプルを得た。
【0070】
[実施例9]
実施例1に従って合成した熱可塑性樹脂(I)および高熱伝導性無機化合物(II)である六方晶窒化ホウ素粉末(h−BN)(モメンティブマテリアルパフォーマンス製PT110、平均粒子径45μm、電気絶縁性、体積固有抵抗1014Ω・cm)を表2の組成で混合したものを準備した。これにフェノール系安定剤であるAO−60(ADEKA製)を熱可塑性樹脂(I)に対して0.2重量部加え、ラボプラスト
ミル(東洋精機製作所製 30C150)にて270℃、7分の条件で溶融混合し、評価用樹脂組成物を得た。上記樹脂組成物を射出成形機にて厚み1mm×25.4mmφの円盤状サンプルに成形し、熱伝導率を測定した。
【0071】
[比較例6]
本発明の熱可塑性樹脂(I)の代わりに、ポリエチレンテレフタレートを用いる以外は、実施例9と同様の方法により厚み1mm×25.4mmφの円板状サンプルを作成し、熱伝導率を測定した。
【0072】
[評価方法]
熱物性測定:示唆走査熱量分析(島津製作所;Shimadzu DSC−50)、昇温速度:10℃/min で測定し、吸熱のピークトップの温度を融点とした。
試験片成形:得られた各サンプルを乾燥した後、射出成形機にて熱伝導率測定用に厚み6mm×20mmφのサンプルを成形した。また薄肉成形体の厚み方向と面方向の熱伝導率を区別して確認するために厚み1mm×25.4mmφの円盤状サンプルを成形した。
熱伝導率:厚み6mm×20mmφのサンプルにて、京都電子工業製ホットディスク法熱伝導率測定装置で4φのセンサーを用い、熱伝導率を算出した。
また、厚み1mm×25.4mmφの円盤状サンプルについてはサンプル表面にレーザー光吸収用スプレー(ファインケミカルジャパン製ブラックガードスプレーFC−153)を塗布し乾燥させた後、XeフラッシュアナライザーであるNETZSCH製LFA447Nanoflashを用い、厚み方向及び面方向の熱伝導率を測定した。
【0073】
実施例1〜8、比較例1〜5の樹脂について、モノマー組成比を表1に、射出成形条件および得られた成形体の各種物性を表2および3に、また実施例9および比較例6の結果について表4に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
本発明の熱可塑性樹脂は等方的に高熱伝導性を有し、高熱伝導性無機物を大量に配合しなくても樹脂組成物の高熱伝導性を維持するため、樹脂組成物は汎用射出成形用金型でも射出成形可能となる。このような組成物は電気・電子工業分野、自動車分野、等さまざまな状況で熱対策素材として用いることが可能で、工業的に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖の構造が一般式(1)
−OC−R1−CO− (1)
(式中、R1は主鎖原子数4〜20の脂肪族炭化水素鎖またはオキシ炭化水素鎖を示す。)で表されるジカルボン酸ユニット(A)10〜25モル%、
一般式(2)
−O−Ar1−O− (2)
(式中、Ar1はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を示す。)で表される芳香族ジオールユニット(B)10〜25モル%、
および一般式(3)
−O−Ar2−CO− (3)
(式中、Ar2はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を示す。)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸ユニット(C)50〜80モル%(ただしユニット(A),(B),(C)の合計を100モル%とする)からなり、
ユニット(B)に対するユニット(A)の割合(モル比)が1≦(A)/(B)≦1.1であり、
ユニット(B)に対するユニット(C)の割合(モル比)が2≦(C)/(B)≦8であることを特徴とし、0.45W/mK以上の熱伝導性を有する熱可塑性樹脂。
【請求項2】
主鎖の構造が一般式(4)
−OC−Ar3−CO− (4)
(式中、Ar3はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を示す。)で表されるジカルボン酸ユニット(D)10〜25モル%、
一般式(5)
−O−R2−O− (5)
(式中、R2は主鎖原子数4〜20の脂肪族炭化水素鎖またはオキシ炭化水素鎖を示す。)で表されるグリコールユニット(E)10〜25モル%、
および一般式(3)
−O−Ar2−CO− (3)
(式中、Ar2はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい2価の芳香族基を示す。)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸ユニット(C)50〜80モル%(ただしユニット(C),(D),(E)の合計を100モル%とする)からなり、
ユニット(D)に対するユニット(E)の割合(モル比)が1≦(E)/(D)≦1.1であり、
ユニット(D)に対するユニット(C)の割合(モル比)が2≦(C)/(D)≦8であることを特徴とし0.45W/mK以上の熱伝導性を有する熱可塑性樹脂。
【請求項3】
請求項1、2のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂(I)および無機充填剤(II)
を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
無機充填剤(II)が、グラファイト、導電性金属粉、軟磁性フェライト、炭素繊維、導電性金属繊維、酸化亜鉛、からなる群より選ばれる1種以上の高熱伝導性無機化合物であることを特徴とする、請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
無機充填剤(II)が、単体での熱伝導率が20W/m・K以上の電気絶縁性高熱伝導性無機化合物であることを特徴とする、請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
無機充填剤(II)が、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、ダイヤモンド、からなる群より選ばれる1種以上の高熱伝導性無機化合物であることを特徴とする、請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−150377(P2010−150377A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329762(P2008−329762)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】