魚介類養殖用餌とその製造方法
【課題】魚貝類、例えば稚貝、稚魚等のいわゆる種苗を育成する養殖用餌料として用いて、これらを良好に安定して成長させ、かつ環境汚染の問題の解決をはかるものである。
【解決手段】魚肉ゲルによる芯材ゲル2の表面に形成された生分解高分子ゲルによる壁材ゲル3とによって構成された生分解性ハイブリッドゲル粒子より構成することによって魚肉ゲルによる養殖効果の向上、摂の効率の向上、さらには、環境汚染の回避がはかられるものである。
【解決手段】魚肉ゲルによる芯材ゲル2の表面に形成された生分解高分子ゲルによる壁材ゲル3とによって構成された生分解性ハイブリッドゲル粒子より構成することによって魚肉ゲルによる養殖効果の向上、摂の効率の向上、さらには、環境汚染の回避がはかられるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アワビ、ウニ、ナマコ、サザエ等の水産動物すなわち魚介類の養殖、特に魚介類の稚貝、稚魚等の、いわゆる種苗の養殖に好適な、魚介類養殖用餌料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水産動物、いわゆる魚介類は、日本国において、現在、食用の動物性蛋白質の約38%を占めている。
ところが、昨今、その収穫量は落ち込む一方であり、これに伴い、その種苗の生産、すなわち高い種苗効率を得る魚介類の養殖、なかんずく魚介類貝類の種苗の養殖の重要性が高まっている。
例えばアワビ、ウニ、サザエ等の種苗の養殖用餌としては、例えば培養されたコンブの葉状部を用いる(例えば特許文献1参照)ことをはじめとして、種々の材料、製造方法の提案がなされている。
しかし、現在行われている例えばアワビの稚貝の養殖を例に挙げれば、卵から稚貝に孵すのは、例えば100%に近い高い効率を示すが、この稚貝から放流種苗を得るに至るまでに成長させることができる収率は、5%程度という低い値を示し、また、その成長速度は低く、さらに成長のばらつきが大きいという問題がある。
【0003】
一方、例えば大中型施網漁業、底曳き網漁業においては、目的としない魚、例えば通常の食用等に利用されない未利用の魚、あるいは味、臭気、毒性等に問題があり、利用しにくい魚等は、海中もしくは海浜に廃棄するということが多くなされている。
これは、場合によっては腐敗によって赤潮発生などを来たして、魚介類の餌となる藻、海藻を死滅させ、ひいては魚介類の育成を阻害し、その収穫、漁獲の低下を来たす。
【特許文献1】特開2004−135562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明による魚介類養殖用餌料とその製造方法は、上述したアワビ、ウニ、サザエ等の例えば稚貝、稚魚等のいわゆる種苗を育成する養殖用餌料として用いて、これらを良好に安定して成長させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による魚介類養殖餌料は、魚肉を主成分とする魚肉ゲルによる芯材ゲルと、該芯材ゲルの表面に形成された生分解性高分子ゲルによる壁材ゲルとによって構成された生分解性ハイブリッドゲル粒子より成ることを特徴とする。
【0006】
本発明は、上述した魚介類養殖餌料にあって、上記魚肉ゲルに芯材ゲルに栄養剤ないしは薬剤が添加されて成ることを特徴とする。
本発明は、上述した魚介類養殖餌料にあって、上記壁材ゲルが、生分解性ポリウレタンより成ることを特徴とする。
本発明は、上述した魚介類養殖餌料にあって、上記請求項1に記載の生分解性ハイブリッドゲル粒子を多数個、人工海藻餌料に保持させて成ることを特徴とする。
【0007】
本発明による魚介類養殖用餌料の製造方法は、魚肉に1%〜8%(重量)好ましくは1%〜4%(重量)の食塩を添加し、擂潰して調製したゾルを加熱処理および冷却して魚肉ゲルを得る工程と、該魚肉ゲルを主成分とする魚肉ゲルを粒子化する粒子化工程と、該粒子化によって得た魚肉ゲル粒子に生分解性高分子ゲルを被着させる工程とを経て上記魚肉ゲル粒子による芯材ゲル表面に生分解性高分子ゲルによる壁材ゲルが形成され生分解性ハイブリッドゲル粒子より成る魚介類養殖用餌料を得ることを特徴とする。
【0008】
本発明は、上述した魚介類養殖餌料の製造方法にあって、人工海藻餌料の製造工程を有し、該人工海藻餌料の製造工程中もしくは製造後に、該人工海藻餌料に、上記生分解性ハイブリッドゲル粒子保持させて成ることを特徴とする。
【0009】
本発明は、上述した魚介類養殖餌料の製造方法にあって、上記人工海藻餌料が養殖用餌料より成り、該人工海藻餌料の製造工程が脱塩海藻類を溶解し成分調整して後、所要形状に展延硬化させる工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上述した本発明による生分解性ハイブリッドゲル粒子による魚介類養殖用餌料は、その芯材の魚肉ゲルが、魚介類、例えばアワビの種苗の餌となるものであり、この魚肉ゲルは、後述するように、魚介類の種苗の成長が促進することが確認された。
【0011】
しかし、この魚肉ゲル自体は、水中で膨潤が速いことから、これに水溶性成分等を添加した場合,それが水中に分散する。したがって魚肉ゲルを直接的に水中に投餌することは、魚介類やその種苗が有効に摂餌することができない。
これに対し、本発明においては、この魚肉ゲルを芯材ゲルとしてその表面に壁材を形成した、いわばハイブリッドゲルのカプセル構造としたことから、この壁材ゲルの生分解特性の選定、厚さ等の被着状況の選定によって、魚肉ゲルの膨潤を制御できる。すなわち、魚肉ゲル中の水溶性成分の水中への分散を防止することができて、投餌から摂餌に所要のタイムラグをもたせることができ、有効な摂餌がなされるようにすることができるものである。
また、このように壁材を設けるものであるが、この壁材が生分解性高分子ゲルであることから、カプセル全体が生分解され、これらが、特に壁材が、水中にいつまでも残存することによる環境汚損も回避されるものである。
【0012】
さらに、上述したように、本発明による魚介類養殖用餌料として、上述した魚肉ゲルと生分解性高分子ゲルとのハイブリッドゲル粒子を多数個、保持体としての人工海藻餌保持させた構成とするときは、このハイブリッドゲル粒子が、超微粒子構成であっても、水中もしくは水上に浮遊分散してしまうことを回避できることから、種苗魚介類といえども、その摂餌を効率よく行うことができる。
また、この場合、ハイブリッドゲル粒子を保持させる保持体が、魚介類養殖用餌料であることにより養殖魚介類は、ハイブリッドゲル粒子と共に人工海藻餌をも、食むことからき、効果的摂餌ができるものである。
【0013】
また、本発明による魚介類養殖用餌料の製造方法によれば、その原料は、天然の海藻類を用いることができることから、特段の原料を調達する必要がないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による魚介類養殖用餌およびその製造方法の実施の形態例について説明する。
しかしながら、本発明は、この実施の形態例に限定されるものではないことはいうまでもない。
図1は、本発明による粒子状の魚介類養殖用餌料1の1粒子の模式的断面図である。
この魚介類養殖餌料1は、図1に示すように、魚肉を主成分とするゲルによる芯材ゲル2と、この芯材ゲル2の表面に形成された生分解高分子による壁材ゲル3とによる生分解性ハイブリッドゲル粒子、特に生分解性ハイブリッドカプセルとされる。
この粒子1は、球状もしくは不定形粒子であり、その平均の大きさ、例えば平均粒径が、100μm〜300μmのハイブリッドゲルミクロカプセルとされる。
芯材ゲル2の魚肉ゲルは、魚肉蛋白質成分の架橋によって生成する。
また、生分解性ハイブリッドカプセルは、芯材ゲル2の魚肉ゲルと例えばポリウレタンから合成した生分解性壁材ゲル3あるいはポリエステル、ポリビニルアルコール等による生分解性壁材ゲル3の合成生分解性ハイブリッドカプセルによって構成することができる。
【0015】
図2は、上述した粒状の魚介類養殖餌料1を多数個集合的に担持すなわち保持させた構成とした本発明による魚介類養殖餌料11の模式的平面図を示す。
この魚介類養殖餌料11は、上述した粒子状の魚介類養殖餌料1を多数個、担持体(保持体)としての人工海藻12に配置した構成とする。この場合、粒子状の魚介類養殖餌料1は、その多くの魚介類養殖餌料1が、人工海藻2の表面に臨むように保持されて成るものである。
【0016】
本発明による魚介類養殖餌とその製造方法を説明する。
先ず、芯材ゲル2の魚肉ゲルを、その製造方法と共に説明する。
《魚肉ゲル》
魚肉ゲルの形成は、その原料として例えばグチ、あるいは未利用魚のアイゴ等を用い、これから取り出した筋肉に1〜8重量%好ましくは1〜4重量%の食塩を添加し,擂潰して調製したゾルの加熱冷却によって得るものであり、この過程での魚肉蛋白質成分の架橋によって形成することができる。ここで、食塩1〜8重量%の添加、より好ましくは1〜4重量%の添加は、この量の添加によってゲル化が良好になされることが認められたことによる。
【0017】
次に、この魚肉ゲルの形成について、実施例をあげて説明する。
(魚肉ゲルの実施例1)
この例では、原料として未利用魚のアイゴを用いた。
因みに、アイゴ(Sigannus fuscens)は、チョウチョウウオやニザダイに近い魚で、関東以南の暖海に生息する。背ビレは13〜14棘があり、ヒレの先端には毒がある。毒を持つため漁獲対象になりにくく、さらに成魚は海藻の柔らかい部分を好む雑食性であるため、磯焼けの原因のひとつである食害の対象になっている。
【0018】
魚肉ゲルの調整は、原料の魚、すなわちこの実施例では、アイゴについて、その頭部および内臓を除去し、二枚におろし、冷水中で洗浄した。
次にスタンプ式採肉機(穴径5mm)を用いて落し身を得た。
【0019】
この落し身を清水晒した。
この、清水晒は、魚肉落し身に対し5倍量の冷蒸留水を加えてよく洗浄した。この操作は3回繰り返した。晒した後の晒肉は、濾布を用いて余剰の水分を除き、脱水機にかけて脱水を行った。そして、水分含量を80%に調整し、この落し身に対して3%のNaClを添加し、擂潰機で30分間擂潰して魚肉ゾルを得た。
この魚肉ゾルを袋に充填して結紮後、30℃から90℃まで10℃間隔で、温槽内で20分間および120分間加熱した。加熱終了後のゲルは直ちに氷水中で急冷してから室温に戻した。
このようにして魚肉ゲルを得た。
【0020】
(魚肉ゲルの実施例2)
この実施例2においても、上述した実施例1と同様の原料を用い、同様の方法によって魚肉ゲルを得たが、この実施例2においては、実施例1における落し身に対する清水晒に換えてアルカリ塩水晒とした。
このアルカリ塩水晒は、この晒しは、1回目を0.15% NaHCO3+0.1% NaClによって行い、2回目および3回目を0.3% NaClを用いて行った。
このようにして魚肉ゲルを得た。
【0021】
(魚肉ゲルの実施例3)
この実施例3においては、実施例1と同様の原料および方法によったものであるが、この場合、落し身に対する晒しは行わなかった。
このようにして魚肉筋原繊維蛋白質ゲルを得た。
【0022】
(魚肉ゲルの実施例4)
この実施例4では、原料としてグチを用いて魚肉ゲルを作製した。その作製方法は、実施例1または実施例2の方法を採ることができるが、この場合、加熱処理は、10℃の間隔で、50℃〜90℃の温度範囲で1時間加熱を行った後、氷水中で30分間急冷した。
このようにすることによって魚肉ゲルを得た。
【0023】
次に、生分解性ハイブリッド粒子1、すなわち魚肉ゲルと合成高分子による、生分解性ハイブリッドミクロカプセルの実施例を、その調製方法、すなわち製造方法と共に説明する。
【0024】
《生分解性ハイブリッドミクロカプセル》
芯材ゲル2の魚肉ゲルとして、前述したアイゴ、グチそのほかの魚肉ゲルを用いることができる。
壁材ゲル3の生分解性高分子の原料には、生分解性のポリオール、ジイソシアネート、食品添加物の低分子多価アルコールを用いることができる。また、魚肉ゲルへの添加剤としてビタミン剤や安全とされる薬等を用いことができる。
生分解性ハイブリッドミクロカプセルを例示するが、この例に限定されるものではない。
【0025】
(生分解性ハイブリッドミクロカプセルの実施例)
壁材を構成するポリウレタンの原料であるポリオールとジイソシアネートを所定量秤量し、これに低分子多価アルコールを一定モル比で加え、溶媒で希釈した。
ポリオールにはポリカプロラクトン、ポリエステル、ポリビニルアルコール等の生分解性オリゴポリオール、ジイソシナートにはリジン誘導体イソシアナネート等の脂肪族イソシアナート、低分子多価アルコールには食品添加剤として認定されている多価アルコールを用いた。
この希釈溶液に微粉末状魚肉ゲルを投入し、室温で24時間攪拌した後、攪拌を続けながら溶媒を除去し、生分解性ハイブリッドミクロカプセルを得た。ポリウレタンの原料と魚肉ゲルの重量比を変化させることにより芯材ゲルと壁材ゲルの厚み比を調節した。
一方、ビタミン剤を埋包させたハイブリッドゲルミクロカプセルは、粉末状の魚肉ゲルに溶媒に溶解させたビタミン剤を加え、溶媒が蒸散するまで擂潰後、減圧乾燥を行い、このようにして得た粉末をカプセル芯材とし、以下上述したと同様の方法によって生分解性ハイブリッドミクロカプセルを得た。
【0026】
次に、このようにして得た生分解性ハイブリッドミクロカプセルの特性評価を行なった。
(特性評価):
ATR法(全反射測定法)によるフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトル測定、示差熱重量分析(TGA)、レーザ回折法と顕微鏡法による粒度分布測定、紫外可視分光光度法によるビタミン剤の水への溶出試験によった。
【0027】
上述した生分解性ハイブリッドミクロカプセルのFT-IRスペクトルには、2900および1730 cm-1付近に、それぞれCH2伸縮振動(nCH2)やC=O伸縮振動(nC=O)に由来するピークが観察された。これらのピークは、魚肉ゲルでは確認されず、生分解性ハイブリッドミクロカプセルおよびポリウレタン試料においてのみ確認された。
また、魚肉ゲル、ポリウレタンおよび生分解性ハイブリッドミクロカプセルのTGA曲線において、魚肉ゲルは、室温から250 °C付近まで、なだらかな重量減少した。一方、ポリウレタンは250 °C付近まで重量減少せず、250〜470 °Cで急激な重量減少した。生分解性ハイブリッドミクロカプセルは、室温から250 °C付近までなだらかに重量減少し、さらに340〜590 °Cで著しく重量減少した。以上のことから、生分解性ハイブリッドミクロカプセルにおいての魚肉ゲル表面をポリウレタン膜が被覆しカプセル化していることが明らかになった。
【0028】
また、粒度分布をレーザ回折法と顕微鏡法により算出した。魚肉ゲルは、レーザ回折法測定の前処理である蒸留水中での試料を拡散時、試料が膨潤し精度の良い測定が行えなかった。顕微鏡法により求めた魚肉ゲル試料の平均粒径は約60〜100μmであった。
そして、魚肉ゲルに対するポリウレタンの仕込み比(ウレタン原料/魚肉ゲル)の異なる2種類のカプセル試料MC-PU1およびMC-PU2について粒度分布を測定した。その測定結果を図3に示す。カプセル化試料の平均粒径は110μm、310μm、とウレタン原料/魚肉ゲル比が大きくなるほど増加した。これは、仕込みポリウレタン量の増加によって魚肉ゲル表面に、より厚いポリウレタン膜が形成されたためと、合成時におけるカプセル同士の凝集もその要因であると考えられる。粒径と粒度分布は魚肉ゲルの粉砕の程度により調整できる。
微粉末の魚肉ゲルは水により簡単に膨潤し水溶性添加物を容易に放出するが、カプセル化試料においては水溶性添加物の溶出量は押さえられ、試料投入時より30〜90分後に最高値に達し、その後は、ほぼ一定の値となった。
また、カプセル化試料において仕込みポリウレタン量が増加するにつれ、溶出速度と溶出量は次第に減少した。これは、仕込みポリウレタン量が増加するにつれ、より厚いポリウレタン膜が形成され、魚肉ゲル内の水溶性埋包物質が溶出しにくくなったためである。
【0029】
これらのことから、例えばアワビ餌料に適した粒径100μm等、目的とする養殖対象、環境等に応じて例えば100μm〜300μmの大きさの粒子状生分解性ハイブリッドミクロカプセルを形成することができ、また要求される水溶性添加物の放出ないしは溶出性、すなわち徐放性を選定することができる。
【0030】
次に、魚肉ゲルとポリウレタンから合成した生分解性ハイブリッドゲルハイブリッドミクロカプセルの生分解について考察した。
まず、ポリウレタン薄膜試料を作製した。この試料の作製は、ミクロカプセル壁材としたポリウレタンの原料であるポリオールとジイソシアネートの所定量を秤量し、これに低分子多価アルコールを一定モル比で加え反応させ、反応混合物を鋳型に流し込み加熱硬化させること(試料A,B)により行なった。対照試料として、汎用ポリウレタンであるポリ(オキシテトラメチレングリコール)-4,4’-ジフェニル目異端メタンジイソシナネート-トリメチロールプロパン(試料C)を用いた。これに対して酵素分解試験と土壌埋設試験とを行なった。
【0031】
酵素分解試験:
ミクロカプセル壁材であるポリウレタンのフィルムの酵素分解試験は、酵素にCandida cylindracealipase(和光純薬工業(株)製)を用い、緩衝液にリン酸緩衝液(1/15 mol/l、pH=7.0)を用い、酵素分解液は、酵素/リン酸緩衝液=1.5mg/mlに調整した。そして、この分解試験は約37℃で行った。分解試験の間、フィルムは定期的に取り出し、蒸留水で洗浄後、減圧乾燥し重量を測定した。酵素による分解は、フィルムの重量損失、膨潤度で評価した。
【0032】
土壌埋設試験:
土壌埋設試験は、土壌の微生物が判明している関東地域の試験場にて行った。埋没期間は7月から11月の4ヶ月である。生分解性の評価は、ラクトフェノールコットンブルー染色法、実体顕微鏡観察、EDX-SEM観察、FT-IRスペクトルにより評価した。
【0033】
図4に酵素分解試験における異なるポリウレタンの重量損失を示す。各試料ともに重量損失は、時間とともに増加し、生分解性ポリオール系ポリウレタン(A),(B)は大きい重量損失を示したが、汎用ポリウレタン(C)は重量損失を全く示さなかった。
【0034】
また、土壌埋設試験において生分解性ポリオール系ポリウレタンでは、形状の崩れ、表面の荒れ、白色化が観察され、著しく分解作用を受けていた。汎用ポリウレタン(C)では、形状および表面の変化はほとんど見られなかった。指示薬コットンブルーと微生物の細胞壁の糖質が反応すると鮮やかなブルーに変色することにより、微生物の有無を確認する方法を用いると、生分解性ポリオールを基材とするポリウレタンは、全体的に鮮やかなブルーに染色され、特に白色化した部分および空孔化した場所において鮮やかに染色した。このことから微生物活動は白色化部分および空孔部分において最も活発な微生物活動が行われ、空孔はその結果形成されたとものと考えることができるのである。
【0035】
図5(a)(b)(c)(d)は、走査型電子顕微鏡(SEM)による生分解性ポリオールを基材とするポリウレタン(試料A)の当初の表面、埋設4ヶ月後における表面、45°、断面の各SEM写真である。このように、生分解性ポリオールを基材とするポリウレタンにおいて当初平滑な表面であったのに対し、埋設4ヶ月後、試料表面には凹凸が見られ形状の劣化が激しく、大小様々な空孔が見られた。表面形状の変化から、試料表面の凹凸が進行し、その凹凸部分の連結およびさらなる凹凸部分における活発な微生物活動の結果、空孔が形成されることがわかる。また、断面および斜め45°の走査型電子顕微鏡写真から見て取れるように空孔は試料内部まで進行しており、空孔によっては試料を貫通していた。この試料内部への空孔の進行は、微生物分解によるものと考えられる。
【0036】
分析走査型電子顕微鏡による表面分析において生分解性ポリオールを基材とするポリウレタンにはAl、Fe、Ca、Cu、Znの各金属元素がみられた。このことは、土壌埋設試験での生分解過程において、劣化過程で発生するヒドロペルオキシドをFe、Al等の金属イオンがレドックス的に接触分解するため、フィルムを貫通する微少な空孔部分にFe、Al、Caなどの金属元素が集中し存在することが明らかになっていることから考えると、生成されるC=C二重結合の酸化分解を金属イオンが促進し、間接的に微生物分解が促進されると考えられる。
生分解性ポリオールを基材とするポリウレタンの埋設前と埋設後のFT-IRスペクトルにおいて大きな違いが見られ、埋設前ウレタン基とエステル基に基づき重なり合った1721cm-1のカルボニル伸縮振動と1160cm-1のC-O伸縮振動は、分解後では1160cm-1のC-O伸縮振動のピーク強度は減少し、1700cm-1にみられるウレタン基に起因するカルボニル伸縮振動がピークとして現れた。
これはエステル基に由来するカルボニル伸縮振動の影響が小さくなることを示唆しており、言い換えれば主にウレタン基よりもエステル基の方が分解作用を受けていることが分かる。
以上のことより、酵素分解試験および土壌埋設試験から、ハイブリッドゲルミクロカプセルの調製に用いたポリウレタンは生分解性を持っていることが明らかとなった。
【0037】
上述した生分解性ハイブリッドミクロカプセルは、人工海藻に保持させることによって摂餌効果を高めることができる。
《人工海藻保持による魚介類養殖餌》
この人工海藻保持による魚介類養殖餌の人工海藻は、対象とする養殖の餌としての機能を有する人工海藻とすることが望ましい。
次に、このように、人工海藻に対して生分解性ハイブリッドミクロカプセルを保持させた魚介類養殖餌の実施例を挙げて説明するが、この実施例に限定されるものではない。
【0038】
(人工海藻保持による魚介類養殖餌の実施例)
この実施例においては、人工海藻の、海藻シート(基質)に生分解性ハイブリッドミクロカプセルを埋め込み、これをアワビ種苗生産の養殖用餌とした場合である。
この場合の人工海藻は、原料として、ワカメ,コンブ,ヒジキ,アカモクおよびアナアオサを用いた。
ここで、ワカメおよびコンブは、塩蔵加工(生原料をボイルしたのち,食塩をまぶすもの)した後、-25℃で冷凍保存したものを用い、ヒジキは、天日乾燥後、蒸煮し、熱風乾燥を行なったものを用い、アカモクは-25℃で冷凍保存したものを用い、アナアオサは塩蔵加工したのち-25℃で冷凍保存したものを用いた。
【0039】
そして、上述した原料のヒジキを除く、上記4種の海藻を半日流水中に晒し、脱塩ののち温風乾燥し、これを粉砕機(メッシュ1mm)で粉末化した。
次にこれを、海藻粉末:アルギン酸ナトリウム:水=4:1:15の重量比で、脱気擂潰機を用いて混合した。混合物は薄板状に引き延ばし(厚さ1mm)、5%塩化カルシウム水溶液中に3時間浸漬して凝固させ、塩化ビニル袋に入れ密閉し、5℃で保存し、順次投餌した。コントロールは水分含量が海藻餌料と同じになるように、アルギン酸ナトリウム:水=1:3の重量比で混合し、海藻餌料と同様の処理を行った。
【0040】
このようにして作製した人工海藻保持による魚介類養殖餌によって、アワビの種苗、すなわち稚貝を約1ヶ月間飼育した。
この飼育は直径10cmの塩化ビニル製筒の下部に1辺が0.5mm程度のメッシュの網を張り、上部からは4-5箇所から50cc/分程度の速度で濾過海水を滴下して行なった。塩化ビニル筒1個に対して40個体のアワビを飼育した。餌料は、上記方法で調製したシート状のものを、0.25g/個体で与え、翌日残餌を除去し、新たに投餌した。飼育水温は20°Cでほぼ一定であった。
【0041】
一般成分の分析:
水分は、試料10gを精秤後、105℃で恒量にして求めた。試料を600℃で灰化後恒量にして粗灰分とした。粗タンパク質含量はKjeldahl法で全窒素量を求めたのち6.25を乗じて求めた。粗脂肪含量はFolchらの方法で求めた。
【0042】
脂肪酸組成の測定:
上記の方法で抽出した粗脂肪30mgを精秤後、3〜5滴の塩酸を滴下した30mlのメタノール中で3時間煮沸した。
冷却後、ヘキサン(和光特級)を加えて分液ロート中で激しく振り混ぜた後ヘキサン層のみを得た。
これをシリカゲル(Merk & Co Ltd製 Kieselgel 60、 70-230 mesh)で精製後、得られたメチルエステルをガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所製GC17A-MSQP5000型、カラムはSUPELCOWAX-10)で分析した。分析条件は、インジェクターとディテクターの温度はともに250℃、カラムは、初期温度200℃で14分間保持したのち3℃/minで250℃まで昇温した。スプリット比は25:1であった。
【0043】
タンパク質構成アミノ酸の測定:
試料20mgを精秤後、6N HClを1ml加えて110°Cで22時間加水分解した。この一部をクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 2.2)で10倍に希釈してアミノ酸自動分析計(島津製作所製ALC-1000型、カラムはNa型)を用いて遊離アミノ酸を測定した。
【0044】
物性の測定:
調製した上記人工海藻保持によるアワビ餌料は、レオメーター(不動工業製NRM-2003J型)を用いて破断試験を行なった。すなわち、厚さ0.5mm、幅10mmに切り出した試料を、安全剃刀刃を装着したプランジャー、試料台上昇速度6cm/minで測定し、破断したときの荷重を破断応力(g)とした。6回測定分の平均値を結果に示した。
【0045】
アルギン酸ナトリウムゾルの凝固速度の測定:
直径27mm、長さ100mmのアルギン酸ナトリウムゾルを、5%塩化カルシウム水溶液に浸漬し、経時的に輪切りにして凝固距離を測定した。また、このとき、アルギン酸ナトリウムゾル中のアルギン酸ナトリウム濃度は、2.5%、5.0%、7.5および10.0%の4種類のものを調製した。
【0046】
上述した人工海藻保持による魚介類養殖餌に対する考察:
海藻粉末の栄養成分について検討した結果、稚貝の成長に最も必要であると想定される粗タンパク質含量は、固形物換算で、アナアオサに最も多く、次いでワカメであることが明らかになった。さらに、粗脂肪含量についてはワカメが最も多く、次いでコンブであった。炭水化物含量はアカモクに最も多く含まれていた。
上記海藻5種の間では、粗脂肪の大小関係は、ワカメ>コンブ>アカモク=アナアオサ>ヒジキの順であり、粗タンパク質の大小関係は、アナアオサ≫ワカメ>ヒジキ>コンブ>アカモクであり、炭水化物の大小関係では、ヒジキ>アカモク>コンブ>アナアオサ>ワカメの順であった。
【0047】
飽和酸では、いずれの海藻粉末もC16:0(炭素数16、二重結合0)を最も多く含み、モノエン酸には優勢な脂肪酸は見あたらなかった。ポリエン酸は、どの海藻もC22:5 n-3(DPA)(炭素数22、二重結合5、末端から数えた炭素の数で二重結合がはじめて出てくる位置が3)を含まなかった。海産魚類の必須脂肪酸として明らかにされているC20:5 n-3(EPA)はいずれの海藻粉末にも認められたが、組成比および絶対量ともにワカメおよびコンブが多く含んだ。C22:6 n-3もEPAと同じく必須脂肪酸として重要視されているが、これらはヒジキ、ワカメおよびコンブには認められなかった。以上、海藻の種類による組成比に大きな違いは認められなかったことから、これら海藻粉末の制限アミノ酸およびタンパクスコアに差は無いものと考えられた。
【0048】
また、上記各海藻について、アルギン酸ナトリウムゾルの凝固速度の検討の結果、いずれのアルギン酸ナトリウム濃度においても浸漬時間に対する凝固距離は相関関係にあり、それは直線で示された。また、アルギン酸ナトリウム濃度が高いほど、回帰直線の傾きは大きく、塩化カルシム溶液の浸透および凝固が速いことが示唆された。また、厚さ5mm以下の基質であれば、24時間浸漬すれば十分凝固することが明らかになった。基質物性の変化において、ヒジキの崩壊率が最も高く、アナオサのそれが最も小さかった。
【0049】
また、上記各海藻について、アワビ稚貝の殻長、重量の変化、成長率および増重率の変化を検討した。結果、殻の成長率の大小関係は、アナアオサ>ワカメ>コンブ≫ヒジキ>コントロール>アカモクの順であった。
また、増重率においては、コンブ>アナアオサ≒ワカメ≫ヒジキ>≒コントロール≒アカモク順であり、基質に用いる海藻粉末としては、アナアオサ、ワカメおよびコンブが優れていることが明らかになった。
また、飼育時の斃死個体数は、対照試料1個体、アカモク0個体、アナアオサ1個体、ヒジキ1個体、ワカメ2個体、コンブ3個体であり、餌料種の違いによる大きな差は見られなかった。
【0050】
また、アワビの一般成分を検討した。餌料の違いによる、一般成分の組成比に大きな違いは見られなかった。ワカメおよびコンブ飼育のものに若干粗脂肪含量が高い傾向が見られたが、これは餌料の粗脂肪含量が高いことに起因していると思われる。
【0051】
以上の結果から、
・アナアオサ、コンブおよびワカメが、基質に用いられる海藻として適当であることが明らかになった。
・厚さ5mm以下の基質の凝固液(5%塩化カルシウム)の浸漬時間は24時間であれば十分であることが確認された。
【0052】
更に、人工海藻の有効性、特に、アワビ餌料とした場合の特性、すなわち、水溶性成分の基質からの溶出状況、加工工程中のワカメ脂質酸化について以下のように検討した。
水溶性成分の基質からの溶出:
塩蔵ワカメは流水中で1時間洗浄して塩抜き後、これに対して2%の炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業製 食品添加物用)を加え、アルカリ加熱溶解後、総重量に対して5%のアルギン酸ナトリウム(和光純薬工業製 一級、以下Na-Arg)および5%のグルタミン酸ナトリウムを添加後、5%塩化カルシウム水溶液中に3時間浸漬して凝固させ、3cm×3cm×1mmの板状(基質)にした。これを、15Lの容器に入れ、30mL/minの海水を換水させて経時的に基質を取り出し、Kjeldahl法で基質中の窒素量を算出した。
【0053】
図6に海水浸漬中における基質中の水溶性成分の変動を示した。この場合、基質凝固前のペースト中のエキス窒素量を100とし、相対値で表した。図6が示すとおり、基質からの水溶性成分の流出は、海藻ペーストを塩化カルシウム溶液中で凝固させる段階から始まり(この時点で、もとの85%)、海水に45分間浸漬後ですでに半減していた。
速度は低下したもののその後も溶出は続き、4時間後にはもとの20%、16時間後には全てが溶出した。
これにより、アワビの稚貝が投餌して摂餌するまでに長時間を要することを考慮すると、ハイブリッドゲルによる水溶性成分のカプセル化の必要性が大きいことが確認された。
【0054】
加工工程中のワカメ脂質酸化:
生ワカメを、80°Cで5分間加熱し、これに対して15%の塩化ナトリウムを混合して48時間放置後、遠心分離脱水装置で脱水し、さらに総重量に対して10%の塩化ナトリウムを加え、一部に真空凍結乾燥を行い、一般成分および脂肪酸組成を測定した。表1に加工工程中の一般成分の変化を、表2に脂肪酸組成の変化を示した。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
工程中に塩分由来の粗灰分が増えることを含め、一般成分に変化は見られず、また脂肪酸組成にも変化は無かった。これにより、塩蔵ワカメをアワビ餌料として用いるのに、脂質の酸化劣化による問題は生じないことが分かる。
【0057】
次に、上述した人工海藻にハイブリッドミクロカプセルを保持した、人口海藻による魚介類養殖餌料のアワビ稚貝、すなわちアワビ種苗に対する影響について検討した。
《人工海藻保持によるアワビ餌料のアワビ稚貝への影響》
ハイブリッドゲルミクロカプセル添加餌料およびビタミンを内包したハイブリッドゲルミクロカプセル添加餌料をアワビ稚貝に与え、成長・生残等への影響を検討した。
この場合、100μm〜200μmのハイブリッドゲルミクロカプセルを添加した餌料をアワビ稚貝に与え、成長・生残等への影響を検討した。
そして、この場合、塩蔵ワカメを用いて既述の方法で100μm〜200μmのハイブリッドゲルカプセルを埋包した餌料を調製した。
このとき、ハイブリッドゲルミクロカプセルの添加量を3%,7%と変化させた。
また、ハイブリッドゲルを添加しないものを対照として用いた。
【0058】
アワビ稚貝は、1ヶ月間飼育を行った。飼育は直径10cmの塩化ビニル製筒の下部に1辺が0.5mm程度のメッシュの網を張り、上部からは4-5箇所から50cc/分程度の速度で濾過海水を滴下して行なった。塩化ビニル筒1個に対して40個体のアワビを飼育した。餌料は、上記方法で調製したシート状のものを、0.25g/個体与え、翌々日残餌を除去し、新たに投餌した。
【0059】
一般成分の分析:
水分は、試料10gを精秤後、105℃で恒量にして求めた。試料を600℃で灰化後恒量にして粗灰分とした。粗タンパク質含量はKjeldahl法で全窒素量を求めたのち6.25を乗じて求めた。粗脂肪含量はFolchらの方法で求めた。
【0060】
過酸化物価、酸価、および脂肪酸組成の測定:
過酸化物価および酸価の測定は常法により行った。上記の方法で抽出した粗脂肪30mgを精秤後、3〜5滴の塩酸を滴下した30mlのメタノール中で3時間煮沸した。冷却後、ヘキサン(和光特級)を加えて分液ロート中で激しく振り混ぜた後ヘキサン層のみを得た。これをシリカゲル(Merk & Co Ltd製 Kieselgel 60、 70-230 mesh)で精製後、得られたメチルエステルをガスクロマトグラフ (島津製作所製GC17A、カラムはSUPELCO OMEGAWAX-250)で分析した。インジェクター、カラムおよびディテクターの温度はそれぞれ、250,205および250°Cであった。スプリット比は25:1であった。
【0061】
統計解析:
平均値の比較は、Scheffeの検定法を用いて行った。
図7および図8に、ハイブリッドゲルマイクロカプセルを添加した基質で飼育したアワビの全重量および殻長を示した。
対照で飼育したアワビには増重は認められなかったが、ハイブリッドゲル添加基質を与えたものは、いずれも増重が認められた。
また、ハイブリッドゲルの3%と7%添加の餌料では、その増重効果に有意差は認められなかった。殻長においては、対照で飼育したアワビは開始時に比較して大きかったが、その増大効果はハイブリッドゲル添加の基質には劣り、また、ハイブリッドゲルの3%と7%添加の餌料では、その効果に有意差は認められなかった。
【0062】
以上の結果より、ハイブリッドゲルはアワビの増重および殻の成長に寄与することが明らかになった。
また、表3に示すように、ハイブリッドゲル添加による日間給餌率および生残率の低下は認められなかった。
【0063】
【表3】
【0064】
さらに、表4に示すように、ハイブリッドゲルを取り込むことによるアワビ稚貝の成分変化は認められなかった。
【0065】
【表4】
【0066】
更に、人工海藻に、水溶性ビタミン含有ハイブリッドゲルミクロカプセルを保持した人口海藻による魚介類養殖餌料のアワビ稚貝に与える影響について検討した。
《人工海藻保持による魚介類養殖餌料のアワビ稚貝に与える影響》
アワビ種苗生産において稚貝から放流できる大きさの稚貝に至る過程での壊死の原因は不明である。これを解決するためには水溶性であるビタミン等の栄養剤、薬剤を摂餌させことが考えられているが、その手法がなくこれまで不可能であったが、本発明による人工海藻保持による魚介類養殖餌料によって可能となった。ここでは、ハイブリッドゲルミクロカプセルに実際に数種のビタミンを包埋させ、これをアワビに投餌し、その影響を調査した。
【0067】
人工海藻:
延縄養殖により生産し、それを塩蔵加工したのち-25℃で冷凍保存したワカメを用いた。
人工海藻保持による魚介類養殖餌料の調製:
塩蔵加工したワカメを半日流水中に晒し、脱塩ののちこれに対して等量の水道水を加え、全量に対して3%の炭酸水素ナトリウムを加え、加熱溶解した(海藻ペースト)。
次にこれに対して10%のアルギン酸ナトリウムを加え、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB12を包埋させたマイクロゲルカプセルをそれぞれ1%および5%添加した。マイクロカプセルゲルは、ビタミンC、ビタミンB1およびビタミンB12をそれぞれ、8.1×10-6 (mol/g)で含んでいる。混合物を薄板状に引き延ばし(厚さ1mm)、5%塩化カルシウム水溶液中に3時間浸漬して凝固させ、塩化ビニル袋に入れ密閉し、順次投餌した。コントロールとしてブランク(ビタミン類を含まない)のマイクロカプセルゲルを所定量添加した。
【0068】
アワビ稚貝の飼育:
約1ヶ月間飼育を行なった。飼育は直径10cmの塩化ビニル製筒の下部に1辺が0.5mm程度のメッシュの網を張り、上部からは4-5箇所から50cc/分程度の速度で濾過海水を滴下して行なった。塩化ビニル筒1個に対して40個体のアワビを飼育した。餌料は、上記方法で調製したシート状の人工海藻保持による魚介類養殖餌料を、0.25g/個体与え、翌々日残餌を除去し、新たに投餌した。
【0069】
アワビ稚貝の全重量、殻長、肥満度に及ぼすビタミン類の影響の測定結果を、それぞれ図9、図10および図11に示す。
これら測定結果によれば、例えば5%添加において、ビタミンCを添加した場合、全重量および肥満度の改善がなされている。
【0070】
上述した例では、ビタミンの添加を例示した場合であるが、ビタミン類に限らず、各種栄養剤、薬剤等を必要に応じて、適宜容易に添加することができるものである。
【0071】
人工海藻の形状は、投餌対象、状況に応じて、その形状、大きさ、厚さ等は、適宜選定できるものである。しかし、この製造時のゲル化反応は、例えばアルギン酸ナトリウムがカルシウムイオンと出会うことによって生じさせることから、その厚さが余り厚い場合、カルシウムイオン溶液の浸透が悪くなり,凝固までに時間を要する。そこで、実用的には、その厚さは、アワビの餌にする場合、例えば海藻程度の100μm程度が好ましい。
【0072】
上述したように、本発明による魚介類養殖用餌料は、その芯材の魚肉筋原繊維蛋白質ゲルが、魚介類、例えばアワビの種苗の餌料となるものであり、この魚肉筋原繊維蛋白質ゲルは、魚介類の種苗の成長を効果的に促進することができる。
そして、この魚肉筋原繊維蛋白質ゲルを芯材ゲルとしてその表面に壁材ゲルの生分解性高分子が形成された合成ハイブリッドゲルのカプセル構造としたことから、芯材の魚肉筋原繊維蛋白質ゲルの水中への引き出しの制御を行うことができ、投餌から摂餌に所要のタイムラグをもたせることができ、有効な摂餌がなされるようにすることができるものである。
そして、このように壁材を設けるにもかかわらず、カプセル全体が生分解され、これらが、特に壁材が、水中にいつまでも残存することによる環境汚損も回避されるものである。
【0073】
さらに、上述したように、本発明による魚介類養殖用餌料として、ハイブリッドゲル粒子人工海藻餌料を保持させた人工海藻保持による魚介類養殖餌料構成とするときは、このハイブリッドゲル粒子が、超微粒子構成であっても、水中もしくは水上に浮遊分散してしまうことを回避できることから、種苗魚介類といえども、その摂餌を効率よく行うことができる。
また、この場合、ハイブリッドゲル粒子を保持させる保持体が、魚介類養殖用餌料であることにより養殖魚介類は、ハイブリッドゲル粒子と共に人工海藻餌料をも、食むことからき、効果的摂餌ができるものである。
また、本発明による魚介類養殖用餌料の製造方法によれば、その原料は、天然の海藻類を用いることができることから、特段の原料を調達する必要がないものであるなど本発明による魚介類餌料は、多くの実用的利点を有するものである。
【0074】
なお、本発明による魚介類養殖用餌料は、上述した例にかぎられるものでなく、詳細構成、構造において、使用状況等に応じて、変更を行うことができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明による魚介類養殖用餌料の一例お1粒子の模式的断面図である。
【図2】本発明による魚介類養殖用餌料の一例の模式的平面図である。
【図3】ハイブリッドゲルマイクロカプセルの粒度分布である。
【図4】ポリウレタンの酵素分解を示す図である。
【図5】生分解性ポリオールを基材とするポリウレタンの4ヶ月土壌埋設分解後のSEM写真図である。
【図6】海水浸漬中における基質中の水溶性成分の変動を示す図である。
【図7】を添加した基質で飼育したアワビの全重量変化を示す図である。
【図8】ハイブリッドゲルマイクロカプセルを添加した基質で飼育したアワビの殻長変化を示す図である。
【図9】ビタミン含有ハイブリッドゲルマイクロカプセルを添加した餌料で飼育したアワビ稚貝の全重量変化を示す図である。
【図10】ビタミン内包ハイブリッドゲルマイクロカプセルを添加した餌料で飼育したアワビ稚貝の殻長変化を示す図である。
【図11】ビタミン内包ハイブリッドゲルマイクロカプセルを添加した餌料で飼育したアワビ稚貝の肥満度を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1,11……魚介類養殖用魚介類養殖餌料、2……芯材ゲル、3……壁材ゲル、12……人工海藻
【技術分野】
【0001】
本発明は、アワビ、ウニ、ナマコ、サザエ等の水産動物すなわち魚介類の養殖、特に魚介類の稚貝、稚魚等の、いわゆる種苗の養殖に好適な、魚介類養殖用餌料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水産動物、いわゆる魚介類は、日本国において、現在、食用の動物性蛋白質の約38%を占めている。
ところが、昨今、その収穫量は落ち込む一方であり、これに伴い、その種苗の生産、すなわち高い種苗効率を得る魚介類の養殖、なかんずく魚介類貝類の種苗の養殖の重要性が高まっている。
例えばアワビ、ウニ、サザエ等の種苗の養殖用餌としては、例えば培養されたコンブの葉状部を用いる(例えば特許文献1参照)ことをはじめとして、種々の材料、製造方法の提案がなされている。
しかし、現在行われている例えばアワビの稚貝の養殖を例に挙げれば、卵から稚貝に孵すのは、例えば100%に近い高い効率を示すが、この稚貝から放流種苗を得るに至るまでに成長させることができる収率は、5%程度という低い値を示し、また、その成長速度は低く、さらに成長のばらつきが大きいという問題がある。
【0003】
一方、例えば大中型施網漁業、底曳き網漁業においては、目的としない魚、例えば通常の食用等に利用されない未利用の魚、あるいは味、臭気、毒性等に問題があり、利用しにくい魚等は、海中もしくは海浜に廃棄するということが多くなされている。
これは、場合によっては腐敗によって赤潮発生などを来たして、魚介類の餌となる藻、海藻を死滅させ、ひいては魚介類の育成を阻害し、その収穫、漁獲の低下を来たす。
【特許文献1】特開2004−135562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明による魚介類養殖用餌料とその製造方法は、上述したアワビ、ウニ、サザエ等の例えば稚貝、稚魚等のいわゆる種苗を育成する養殖用餌料として用いて、これらを良好に安定して成長させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による魚介類養殖餌料は、魚肉を主成分とする魚肉ゲルによる芯材ゲルと、該芯材ゲルの表面に形成された生分解性高分子ゲルによる壁材ゲルとによって構成された生分解性ハイブリッドゲル粒子より成ることを特徴とする。
【0006】
本発明は、上述した魚介類養殖餌料にあって、上記魚肉ゲルに芯材ゲルに栄養剤ないしは薬剤が添加されて成ることを特徴とする。
本発明は、上述した魚介類養殖餌料にあって、上記壁材ゲルが、生分解性ポリウレタンより成ることを特徴とする。
本発明は、上述した魚介類養殖餌料にあって、上記請求項1に記載の生分解性ハイブリッドゲル粒子を多数個、人工海藻餌料に保持させて成ることを特徴とする。
【0007】
本発明による魚介類養殖用餌料の製造方法は、魚肉に1%〜8%(重量)好ましくは1%〜4%(重量)の食塩を添加し、擂潰して調製したゾルを加熱処理および冷却して魚肉ゲルを得る工程と、該魚肉ゲルを主成分とする魚肉ゲルを粒子化する粒子化工程と、該粒子化によって得た魚肉ゲル粒子に生分解性高分子ゲルを被着させる工程とを経て上記魚肉ゲル粒子による芯材ゲル表面に生分解性高分子ゲルによる壁材ゲルが形成され生分解性ハイブリッドゲル粒子より成る魚介類養殖用餌料を得ることを特徴とする。
【0008】
本発明は、上述した魚介類養殖餌料の製造方法にあって、人工海藻餌料の製造工程を有し、該人工海藻餌料の製造工程中もしくは製造後に、該人工海藻餌料に、上記生分解性ハイブリッドゲル粒子保持させて成ることを特徴とする。
【0009】
本発明は、上述した魚介類養殖餌料の製造方法にあって、上記人工海藻餌料が養殖用餌料より成り、該人工海藻餌料の製造工程が脱塩海藻類を溶解し成分調整して後、所要形状に展延硬化させる工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上述した本発明による生分解性ハイブリッドゲル粒子による魚介類養殖用餌料は、その芯材の魚肉ゲルが、魚介類、例えばアワビの種苗の餌となるものであり、この魚肉ゲルは、後述するように、魚介類の種苗の成長が促進することが確認された。
【0011】
しかし、この魚肉ゲル自体は、水中で膨潤が速いことから、これに水溶性成分等を添加した場合,それが水中に分散する。したがって魚肉ゲルを直接的に水中に投餌することは、魚介類やその種苗が有効に摂餌することができない。
これに対し、本発明においては、この魚肉ゲルを芯材ゲルとしてその表面に壁材を形成した、いわばハイブリッドゲルのカプセル構造としたことから、この壁材ゲルの生分解特性の選定、厚さ等の被着状況の選定によって、魚肉ゲルの膨潤を制御できる。すなわち、魚肉ゲル中の水溶性成分の水中への分散を防止することができて、投餌から摂餌に所要のタイムラグをもたせることができ、有効な摂餌がなされるようにすることができるものである。
また、このように壁材を設けるものであるが、この壁材が生分解性高分子ゲルであることから、カプセル全体が生分解され、これらが、特に壁材が、水中にいつまでも残存することによる環境汚損も回避されるものである。
【0012】
さらに、上述したように、本発明による魚介類養殖用餌料として、上述した魚肉ゲルと生分解性高分子ゲルとのハイブリッドゲル粒子を多数個、保持体としての人工海藻餌保持させた構成とするときは、このハイブリッドゲル粒子が、超微粒子構成であっても、水中もしくは水上に浮遊分散してしまうことを回避できることから、種苗魚介類といえども、その摂餌を効率よく行うことができる。
また、この場合、ハイブリッドゲル粒子を保持させる保持体が、魚介類養殖用餌料であることにより養殖魚介類は、ハイブリッドゲル粒子と共に人工海藻餌をも、食むことからき、効果的摂餌ができるものである。
【0013】
また、本発明による魚介類養殖用餌料の製造方法によれば、その原料は、天然の海藻類を用いることができることから、特段の原料を調達する必要がないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による魚介類養殖用餌およびその製造方法の実施の形態例について説明する。
しかしながら、本発明は、この実施の形態例に限定されるものではないことはいうまでもない。
図1は、本発明による粒子状の魚介類養殖用餌料1の1粒子の模式的断面図である。
この魚介類養殖餌料1は、図1に示すように、魚肉を主成分とするゲルによる芯材ゲル2と、この芯材ゲル2の表面に形成された生分解高分子による壁材ゲル3とによる生分解性ハイブリッドゲル粒子、特に生分解性ハイブリッドカプセルとされる。
この粒子1は、球状もしくは不定形粒子であり、その平均の大きさ、例えば平均粒径が、100μm〜300μmのハイブリッドゲルミクロカプセルとされる。
芯材ゲル2の魚肉ゲルは、魚肉蛋白質成分の架橋によって生成する。
また、生分解性ハイブリッドカプセルは、芯材ゲル2の魚肉ゲルと例えばポリウレタンから合成した生分解性壁材ゲル3あるいはポリエステル、ポリビニルアルコール等による生分解性壁材ゲル3の合成生分解性ハイブリッドカプセルによって構成することができる。
【0015】
図2は、上述した粒状の魚介類養殖餌料1を多数個集合的に担持すなわち保持させた構成とした本発明による魚介類養殖餌料11の模式的平面図を示す。
この魚介類養殖餌料11は、上述した粒子状の魚介類養殖餌料1を多数個、担持体(保持体)としての人工海藻12に配置した構成とする。この場合、粒子状の魚介類養殖餌料1は、その多くの魚介類養殖餌料1が、人工海藻2の表面に臨むように保持されて成るものである。
【0016】
本発明による魚介類養殖餌とその製造方法を説明する。
先ず、芯材ゲル2の魚肉ゲルを、その製造方法と共に説明する。
《魚肉ゲル》
魚肉ゲルの形成は、その原料として例えばグチ、あるいは未利用魚のアイゴ等を用い、これから取り出した筋肉に1〜8重量%好ましくは1〜4重量%の食塩を添加し,擂潰して調製したゾルの加熱冷却によって得るものであり、この過程での魚肉蛋白質成分の架橋によって形成することができる。ここで、食塩1〜8重量%の添加、より好ましくは1〜4重量%の添加は、この量の添加によってゲル化が良好になされることが認められたことによる。
【0017】
次に、この魚肉ゲルの形成について、実施例をあげて説明する。
(魚肉ゲルの実施例1)
この例では、原料として未利用魚のアイゴを用いた。
因みに、アイゴ(Sigannus fuscens)は、チョウチョウウオやニザダイに近い魚で、関東以南の暖海に生息する。背ビレは13〜14棘があり、ヒレの先端には毒がある。毒を持つため漁獲対象になりにくく、さらに成魚は海藻の柔らかい部分を好む雑食性であるため、磯焼けの原因のひとつである食害の対象になっている。
【0018】
魚肉ゲルの調整は、原料の魚、すなわちこの実施例では、アイゴについて、その頭部および内臓を除去し、二枚におろし、冷水中で洗浄した。
次にスタンプ式採肉機(穴径5mm)を用いて落し身を得た。
【0019】
この落し身を清水晒した。
この、清水晒は、魚肉落し身に対し5倍量の冷蒸留水を加えてよく洗浄した。この操作は3回繰り返した。晒した後の晒肉は、濾布を用いて余剰の水分を除き、脱水機にかけて脱水を行った。そして、水分含量を80%に調整し、この落し身に対して3%のNaClを添加し、擂潰機で30分間擂潰して魚肉ゾルを得た。
この魚肉ゾルを袋に充填して結紮後、30℃から90℃まで10℃間隔で、温槽内で20分間および120分間加熱した。加熱終了後のゲルは直ちに氷水中で急冷してから室温に戻した。
このようにして魚肉ゲルを得た。
【0020】
(魚肉ゲルの実施例2)
この実施例2においても、上述した実施例1と同様の原料を用い、同様の方法によって魚肉ゲルを得たが、この実施例2においては、実施例1における落し身に対する清水晒に換えてアルカリ塩水晒とした。
このアルカリ塩水晒は、この晒しは、1回目を0.15% NaHCO3+0.1% NaClによって行い、2回目および3回目を0.3% NaClを用いて行った。
このようにして魚肉ゲルを得た。
【0021】
(魚肉ゲルの実施例3)
この実施例3においては、実施例1と同様の原料および方法によったものであるが、この場合、落し身に対する晒しは行わなかった。
このようにして魚肉筋原繊維蛋白質ゲルを得た。
【0022】
(魚肉ゲルの実施例4)
この実施例4では、原料としてグチを用いて魚肉ゲルを作製した。その作製方法は、実施例1または実施例2の方法を採ることができるが、この場合、加熱処理は、10℃の間隔で、50℃〜90℃の温度範囲で1時間加熱を行った後、氷水中で30分間急冷した。
このようにすることによって魚肉ゲルを得た。
【0023】
次に、生分解性ハイブリッド粒子1、すなわち魚肉ゲルと合成高分子による、生分解性ハイブリッドミクロカプセルの実施例を、その調製方法、すなわち製造方法と共に説明する。
【0024】
《生分解性ハイブリッドミクロカプセル》
芯材ゲル2の魚肉ゲルとして、前述したアイゴ、グチそのほかの魚肉ゲルを用いることができる。
壁材ゲル3の生分解性高分子の原料には、生分解性のポリオール、ジイソシアネート、食品添加物の低分子多価アルコールを用いることができる。また、魚肉ゲルへの添加剤としてビタミン剤や安全とされる薬等を用いことができる。
生分解性ハイブリッドミクロカプセルを例示するが、この例に限定されるものではない。
【0025】
(生分解性ハイブリッドミクロカプセルの実施例)
壁材を構成するポリウレタンの原料であるポリオールとジイソシアネートを所定量秤量し、これに低分子多価アルコールを一定モル比で加え、溶媒で希釈した。
ポリオールにはポリカプロラクトン、ポリエステル、ポリビニルアルコール等の生分解性オリゴポリオール、ジイソシナートにはリジン誘導体イソシアナネート等の脂肪族イソシアナート、低分子多価アルコールには食品添加剤として認定されている多価アルコールを用いた。
この希釈溶液に微粉末状魚肉ゲルを投入し、室温で24時間攪拌した後、攪拌を続けながら溶媒を除去し、生分解性ハイブリッドミクロカプセルを得た。ポリウレタンの原料と魚肉ゲルの重量比を変化させることにより芯材ゲルと壁材ゲルの厚み比を調節した。
一方、ビタミン剤を埋包させたハイブリッドゲルミクロカプセルは、粉末状の魚肉ゲルに溶媒に溶解させたビタミン剤を加え、溶媒が蒸散するまで擂潰後、減圧乾燥を行い、このようにして得た粉末をカプセル芯材とし、以下上述したと同様の方法によって生分解性ハイブリッドミクロカプセルを得た。
【0026】
次に、このようにして得た生分解性ハイブリッドミクロカプセルの特性評価を行なった。
(特性評価):
ATR法(全反射測定法)によるフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトル測定、示差熱重量分析(TGA)、レーザ回折法と顕微鏡法による粒度分布測定、紫外可視分光光度法によるビタミン剤の水への溶出試験によった。
【0027】
上述した生分解性ハイブリッドミクロカプセルのFT-IRスペクトルには、2900および1730 cm-1付近に、それぞれCH2伸縮振動(nCH2)やC=O伸縮振動(nC=O)に由来するピークが観察された。これらのピークは、魚肉ゲルでは確認されず、生分解性ハイブリッドミクロカプセルおよびポリウレタン試料においてのみ確認された。
また、魚肉ゲル、ポリウレタンおよび生分解性ハイブリッドミクロカプセルのTGA曲線において、魚肉ゲルは、室温から250 °C付近まで、なだらかな重量減少した。一方、ポリウレタンは250 °C付近まで重量減少せず、250〜470 °Cで急激な重量減少した。生分解性ハイブリッドミクロカプセルは、室温から250 °C付近までなだらかに重量減少し、さらに340〜590 °Cで著しく重量減少した。以上のことから、生分解性ハイブリッドミクロカプセルにおいての魚肉ゲル表面をポリウレタン膜が被覆しカプセル化していることが明らかになった。
【0028】
また、粒度分布をレーザ回折法と顕微鏡法により算出した。魚肉ゲルは、レーザ回折法測定の前処理である蒸留水中での試料を拡散時、試料が膨潤し精度の良い測定が行えなかった。顕微鏡法により求めた魚肉ゲル試料の平均粒径は約60〜100μmであった。
そして、魚肉ゲルに対するポリウレタンの仕込み比(ウレタン原料/魚肉ゲル)の異なる2種類のカプセル試料MC-PU1およびMC-PU2について粒度分布を測定した。その測定結果を図3に示す。カプセル化試料の平均粒径は110μm、310μm、とウレタン原料/魚肉ゲル比が大きくなるほど増加した。これは、仕込みポリウレタン量の増加によって魚肉ゲル表面に、より厚いポリウレタン膜が形成されたためと、合成時におけるカプセル同士の凝集もその要因であると考えられる。粒径と粒度分布は魚肉ゲルの粉砕の程度により調整できる。
微粉末の魚肉ゲルは水により簡単に膨潤し水溶性添加物を容易に放出するが、カプセル化試料においては水溶性添加物の溶出量は押さえられ、試料投入時より30〜90分後に最高値に達し、その後は、ほぼ一定の値となった。
また、カプセル化試料において仕込みポリウレタン量が増加するにつれ、溶出速度と溶出量は次第に減少した。これは、仕込みポリウレタン量が増加するにつれ、より厚いポリウレタン膜が形成され、魚肉ゲル内の水溶性埋包物質が溶出しにくくなったためである。
【0029】
これらのことから、例えばアワビ餌料に適した粒径100μm等、目的とする養殖対象、環境等に応じて例えば100μm〜300μmの大きさの粒子状生分解性ハイブリッドミクロカプセルを形成することができ、また要求される水溶性添加物の放出ないしは溶出性、すなわち徐放性を選定することができる。
【0030】
次に、魚肉ゲルとポリウレタンから合成した生分解性ハイブリッドゲルハイブリッドミクロカプセルの生分解について考察した。
まず、ポリウレタン薄膜試料を作製した。この試料の作製は、ミクロカプセル壁材としたポリウレタンの原料であるポリオールとジイソシアネートの所定量を秤量し、これに低分子多価アルコールを一定モル比で加え反応させ、反応混合物を鋳型に流し込み加熱硬化させること(試料A,B)により行なった。対照試料として、汎用ポリウレタンであるポリ(オキシテトラメチレングリコール)-4,4’-ジフェニル目異端メタンジイソシナネート-トリメチロールプロパン(試料C)を用いた。これに対して酵素分解試験と土壌埋設試験とを行なった。
【0031】
酵素分解試験:
ミクロカプセル壁材であるポリウレタンのフィルムの酵素分解試験は、酵素にCandida cylindracealipase(和光純薬工業(株)製)を用い、緩衝液にリン酸緩衝液(1/15 mol/l、pH=7.0)を用い、酵素分解液は、酵素/リン酸緩衝液=1.5mg/mlに調整した。そして、この分解試験は約37℃で行った。分解試験の間、フィルムは定期的に取り出し、蒸留水で洗浄後、減圧乾燥し重量を測定した。酵素による分解は、フィルムの重量損失、膨潤度で評価した。
【0032】
土壌埋設試験:
土壌埋設試験は、土壌の微生物が判明している関東地域の試験場にて行った。埋没期間は7月から11月の4ヶ月である。生分解性の評価は、ラクトフェノールコットンブルー染色法、実体顕微鏡観察、EDX-SEM観察、FT-IRスペクトルにより評価した。
【0033】
図4に酵素分解試験における異なるポリウレタンの重量損失を示す。各試料ともに重量損失は、時間とともに増加し、生分解性ポリオール系ポリウレタン(A),(B)は大きい重量損失を示したが、汎用ポリウレタン(C)は重量損失を全く示さなかった。
【0034】
また、土壌埋設試験において生分解性ポリオール系ポリウレタンでは、形状の崩れ、表面の荒れ、白色化が観察され、著しく分解作用を受けていた。汎用ポリウレタン(C)では、形状および表面の変化はほとんど見られなかった。指示薬コットンブルーと微生物の細胞壁の糖質が反応すると鮮やかなブルーに変色することにより、微生物の有無を確認する方法を用いると、生分解性ポリオールを基材とするポリウレタンは、全体的に鮮やかなブルーに染色され、特に白色化した部分および空孔化した場所において鮮やかに染色した。このことから微生物活動は白色化部分および空孔部分において最も活発な微生物活動が行われ、空孔はその結果形成されたとものと考えることができるのである。
【0035】
図5(a)(b)(c)(d)は、走査型電子顕微鏡(SEM)による生分解性ポリオールを基材とするポリウレタン(試料A)の当初の表面、埋設4ヶ月後における表面、45°、断面の各SEM写真である。このように、生分解性ポリオールを基材とするポリウレタンにおいて当初平滑な表面であったのに対し、埋設4ヶ月後、試料表面には凹凸が見られ形状の劣化が激しく、大小様々な空孔が見られた。表面形状の変化から、試料表面の凹凸が進行し、その凹凸部分の連結およびさらなる凹凸部分における活発な微生物活動の結果、空孔が形成されることがわかる。また、断面および斜め45°の走査型電子顕微鏡写真から見て取れるように空孔は試料内部まで進行しており、空孔によっては試料を貫通していた。この試料内部への空孔の進行は、微生物分解によるものと考えられる。
【0036】
分析走査型電子顕微鏡による表面分析において生分解性ポリオールを基材とするポリウレタンにはAl、Fe、Ca、Cu、Znの各金属元素がみられた。このことは、土壌埋設試験での生分解過程において、劣化過程で発生するヒドロペルオキシドをFe、Al等の金属イオンがレドックス的に接触分解するため、フィルムを貫通する微少な空孔部分にFe、Al、Caなどの金属元素が集中し存在することが明らかになっていることから考えると、生成されるC=C二重結合の酸化分解を金属イオンが促進し、間接的に微生物分解が促進されると考えられる。
生分解性ポリオールを基材とするポリウレタンの埋設前と埋設後のFT-IRスペクトルにおいて大きな違いが見られ、埋設前ウレタン基とエステル基に基づき重なり合った1721cm-1のカルボニル伸縮振動と1160cm-1のC-O伸縮振動は、分解後では1160cm-1のC-O伸縮振動のピーク強度は減少し、1700cm-1にみられるウレタン基に起因するカルボニル伸縮振動がピークとして現れた。
これはエステル基に由来するカルボニル伸縮振動の影響が小さくなることを示唆しており、言い換えれば主にウレタン基よりもエステル基の方が分解作用を受けていることが分かる。
以上のことより、酵素分解試験および土壌埋設試験から、ハイブリッドゲルミクロカプセルの調製に用いたポリウレタンは生分解性を持っていることが明らかとなった。
【0037】
上述した生分解性ハイブリッドミクロカプセルは、人工海藻に保持させることによって摂餌効果を高めることができる。
《人工海藻保持による魚介類養殖餌》
この人工海藻保持による魚介類養殖餌の人工海藻は、対象とする養殖の餌としての機能を有する人工海藻とすることが望ましい。
次に、このように、人工海藻に対して生分解性ハイブリッドミクロカプセルを保持させた魚介類養殖餌の実施例を挙げて説明するが、この実施例に限定されるものではない。
【0038】
(人工海藻保持による魚介類養殖餌の実施例)
この実施例においては、人工海藻の、海藻シート(基質)に生分解性ハイブリッドミクロカプセルを埋め込み、これをアワビ種苗生産の養殖用餌とした場合である。
この場合の人工海藻は、原料として、ワカメ,コンブ,ヒジキ,アカモクおよびアナアオサを用いた。
ここで、ワカメおよびコンブは、塩蔵加工(生原料をボイルしたのち,食塩をまぶすもの)した後、-25℃で冷凍保存したものを用い、ヒジキは、天日乾燥後、蒸煮し、熱風乾燥を行なったものを用い、アカモクは-25℃で冷凍保存したものを用い、アナアオサは塩蔵加工したのち-25℃で冷凍保存したものを用いた。
【0039】
そして、上述した原料のヒジキを除く、上記4種の海藻を半日流水中に晒し、脱塩ののち温風乾燥し、これを粉砕機(メッシュ1mm)で粉末化した。
次にこれを、海藻粉末:アルギン酸ナトリウム:水=4:1:15の重量比で、脱気擂潰機を用いて混合した。混合物は薄板状に引き延ばし(厚さ1mm)、5%塩化カルシウム水溶液中に3時間浸漬して凝固させ、塩化ビニル袋に入れ密閉し、5℃で保存し、順次投餌した。コントロールは水分含量が海藻餌料と同じになるように、アルギン酸ナトリウム:水=1:3の重量比で混合し、海藻餌料と同様の処理を行った。
【0040】
このようにして作製した人工海藻保持による魚介類養殖餌によって、アワビの種苗、すなわち稚貝を約1ヶ月間飼育した。
この飼育は直径10cmの塩化ビニル製筒の下部に1辺が0.5mm程度のメッシュの網を張り、上部からは4-5箇所から50cc/分程度の速度で濾過海水を滴下して行なった。塩化ビニル筒1個に対して40個体のアワビを飼育した。餌料は、上記方法で調製したシート状のものを、0.25g/個体で与え、翌日残餌を除去し、新たに投餌した。飼育水温は20°Cでほぼ一定であった。
【0041】
一般成分の分析:
水分は、試料10gを精秤後、105℃で恒量にして求めた。試料を600℃で灰化後恒量にして粗灰分とした。粗タンパク質含量はKjeldahl法で全窒素量を求めたのち6.25を乗じて求めた。粗脂肪含量はFolchらの方法で求めた。
【0042】
脂肪酸組成の測定:
上記の方法で抽出した粗脂肪30mgを精秤後、3〜5滴の塩酸を滴下した30mlのメタノール中で3時間煮沸した。
冷却後、ヘキサン(和光特級)を加えて分液ロート中で激しく振り混ぜた後ヘキサン層のみを得た。
これをシリカゲル(Merk & Co Ltd製 Kieselgel 60、 70-230 mesh)で精製後、得られたメチルエステルをガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所製GC17A-MSQP5000型、カラムはSUPELCOWAX-10)で分析した。分析条件は、インジェクターとディテクターの温度はともに250℃、カラムは、初期温度200℃で14分間保持したのち3℃/minで250℃まで昇温した。スプリット比は25:1であった。
【0043】
タンパク質構成アミノ酸の測定:
試料20mgを精秤後、6N HClを1ml加えて110°Cで22時間加水分解した。この一部をクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 2.2)で10倍に希釈してアミノ酸自動分析計(島津製作所製ALC-1000型、カラムはNa型)を用いて遊離アミノ酸を測定した。
【0044】
物性の測定:
調製した上記人工海藻保持によるアワビ餌料は、レオメーター(不動工業製NRM-2003J型)を用いて破断試験を行なった。すなわち、厚さ0.5mm、幅10mmに切り出した試料を、安全剃刀刃を装着したプランジャー、試料台上昇速度6cm/minで測定し、破断したときの荷重を破断応力(g)とした。6回測定分の平均値を結果に示した。
【0045】
アルギン酸ナトリウムゾルの凝固速度の測定:
直径27mm、長さ100mmのアルギン酸ナトリウムゾルを、5%塩化カルシウム水溶液に浸漬し、経時的に輪切りにして凝固距離を測定した。また、このとき、アルギン酸ナトリウムゾル中のアルギン酸ナトリウム濃度は、2.5%、5.0%、7.5および10.0%の4種類のものを調製した。
【0046】
上述した人工海藻保持による魚介類養殖餌に対する考察:
海藻粉末の栄養成分について検討した結果、稚貝の成長に最も必要であると想定される粗タンパク質含量は、固形物換算で、アナアオサに最も多く、次いでワカメであることが明らかになった。さらに、粗脂肪含量についてはワカメが最も多く、次いでコンブであった。炭水化物含量はアカモクに最も多く含まれていた。
上記海藻5種の間では、粗脂肪の大小関係は、ワカメ>コンブ>アカモク=アナアオサ>ヒジキの順であり、粗タンパク質の大小関係は、アナアオサ≫ワカメ>ヒジキ>コンブ>アカモクであり、炭水化物の大小関係では、ヒジキ>アカモク>コンブ>アナアオサ>ワカメの順であった。
【0047】
飽和酸では、いずれの海藻粉末もC16:0(炭素数16、二重結合0)を最も多く含み、モノエン酸には優勢な脂肪酸は見あたらなかった。ポリエン酸は、どの海藻もC22:5 n-3(DPA)(炭素数22、二重結合5、末端から数えた炭素の数で二重結合がはじめて出てくる位置が3)を含まなかった。海産魚類の必須脂肪酸として明らかにされているC20:5 n-3(EPA)はいずれの海藻粉末にも認められたが、組成比および絶対量ともにワカメおよびコンブが多く含んだ。C22:6 n-3もEPAと同じく必須脂肪酸として重要視されているが、これらはヒジキ、ワカメおよびコンブには認められなかった。以上、海藻の種類による組成比に大きな違いは認められなかったことから、これら海藻粉末の制限アミノ酸およびタンパクスコアに差は無いものと考えられた。
【0048】
また、上記各海藻について、アルギン酸ナトリウムゾルの凝固速度の検討の結果、いずれのアルギン酸ナトリウム濃度においても浸漬時間に対する凝固距離は相関関係にあり、それは直線で示された。また、アルギン酸ナトリウム濃度が高いほど、回帰直線の傾きは大きく、塩化カルシム溶液の浸透および凝固が速いことが示唆された。また、厚さ5mm以下の基質であれば、24時間浸漬すれば十分凝固することが明らかになった。基質物性の変化において、ヒジキの崩壊率が最も高く、アナオサのそれが最も小さかった。
【0049】
また、上記各海藻について、アワビ稚貝の殻長、重量の変化、成長率および増重率の変化を検討した。結果、殻の成長率の大小関係は、アナアオサ>ワカメ>コンブ≫ヒジキ>コントロール>アカモクの順であった。
また、増重率においては、コンブ>アナアオサ≒ワカメ≫ヒジキ>≒コントロール≒アカモク順であり、基質に用いる海藻粉末としては、アナアオサ、ワカメおよびコンブが優れていることが明らかになった。
また、飼育時の斃死個体数は、対照試料1個体、アカモク0個体、アナアオサ1個体、ヒジキ1個体、ワカメ2個体、コンブ3個体であり、餌料種の違いによる大きな差は見られなかった。
【0050】
また、アワビの一般成分を検討した。餌料の違いによる、一般成分の組成比に大きな違いは見られなかった。ワカメおよびコンブ飼育のものに若干粗脂肪含量が高い傾向が見られたが、これは餌料の粗脂肪含量が高いことに起因していると思われる。
【0051】
以上の結果から、
・アナアオサ、コンブおよびワカメが、基質に用いられる海藻として適当であることが明らかになった。
・厚さ5mm以下の基質の凝固液(5%塩化カルシウム)の浸漬時間は24時間であれば十分であることが確認された。
【0052】
更に、人工海藻の有効性、特に、アワビ餌料とした場合の特性、すなわち、水溶性成分の基質からの溶出状況、加工工程中のワカメ脂質酸化について以下のように検討した。
水溶性成分の基質からの溶出:
塩蔵ワカメは流水中で1時間洗浄して塩抜き後、これに対して2%の炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業製 食品添加物用)を加え、アルカリ加熱溶解後、総重量に対して5%のアルギン酸ナトリウム(和光純薬工業製 一級、以下Na-Arg)および5%のグルタミン酸ナトリウムを添加後、5%塩化カルシウム水溶液中に3時間浸漬して凝固させ、3cm×3cm×1mmの板状(基質)にした。これを、15Lの容器に入れ、30mL/minの海水を換水させて経時的に基質を取り出し、Kjeldahl法で基質中の窒素量を算出した。
【0053】
図6に海水浸漬中における基質中の水溶性成分の変動を示した。この場合、基質凝固前のペースト中のエキス窒素量を100とし、相対値で表した。図6が示すとおり、基質からの水溶性成分の流出は、海藻ペーストを塩化カルシウム溶液中で凝固させる段階から始まり(この時点で、もとの85%)、海水に45分間浸漬後ですでに半減していた。
速度は低下したもののその後も溶出は続き、4時間後にはもとの20%、16時間後には全てが溶出した。
これにより、アワビの稚貝が投餌して摂餌するまでに長時間を要することを考慮すると、ハイブリッドゲルによる水溶性成分のカプセル化の必要性が大きいことが確認された。
【0054】
加工工程中のワカメ脂質酸化:
生ワカメを、80°Cで5分間加熱し、これに対して15%の塩化ナトリウムを混合して48時間放置後、遠心分離脱水装置で脱水し、さらに総重量に対して10%の塩化ナトリウムを加え、一部に真空凍結乾燥を行い、一般成分および脂肪酸組成を測定した。表1に加工工程中の一般成分の変化を、表2に脂肪酸組成の変化を示した。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
工程中に塩分由来の粗灰分が増えることを含め、一般成分に変化は見られず、また脂肪酸組成にも変化は無かった。これにより、塩蔵ワカメをアワビ餌料として用いるのに、脂質の酸化劣化による問題は生じないことが分かる。
【0057】
次に、上述した人工海藻にハイブリッドミクロカプセルを保持した、人口海藻による魚介類養殖餌料のアワビ稚貝、すなわちアワビ種苗に対する影響について検討した。
《人工海藻保持によるアワビ餌料のアワビ稚貝への影響》
ハイブリッドゲルミクロカプセル添加餌料およびビタミンを内包したハイブリッドゲルミクロカプセル添加餌料をアワビ稚貝に与え、成長・生残等への影響を検討した。
この場合、100μm〜200μmのハイブリッドゲルミクロカプセルを添加した餌料をアワビ稚貝に与え、成長・生残等への影響を検討した。
そして、この場合、塩蔵ワカメを用いて既述の方法で100μm〜200μmのハイブリッドゲルカプセルを埋包した餌料を調製した。
このとき、ハイブリッドゲルミクロカプセルの添加量を3%,7%と変化させた。
また、ハイブリッドゲルを添加しないものを対照として用いた。
【0058】
アワビ稚貝は、1ヶ月間飼育を行った。飼育は直径10cmの塩化ビニル製筒の下部に1辺が0.5mm程度のメッシュの網を張り、上部からは4-5箇所から50cc/分程度の速度で濾過海水を滴下して行なった。塩化ビニル筒1個に対して40個体のアワビを飼育した。餌料は、上記方法で調製したシート状のものを、0.25g/個体与え、翌々日残餌を除去し、新たに投餌した。
【0059】
一般成分の分析:
水分は、試料10gを精秤後、105℃で恒量にして求めた。試料を600℃で灰化後恒量にして粗灰分とした。粗タンパク質含量はKjeldahl法で全窒素量を求めたのち6.25を乗じて求めた。粗脂肪含量はFolchらの方法で求めた。
【0060】
過酸化物価、酸価、および脂肪酸組成の測定:
過酸化物価および酸価の測定は常法により行った。上記の方法で抽出した粗脂肪30mgを精秤後、3〜5滴の塩酸を滴下した30mlのメタノール中で3時間煮沸した。冷却後、ヘキサン(和光特級)を加えて分液ロート中で激しく振り混ぜた後ヘキサン層のみを得た。これをシリカゲル(Merk & Co Ltd製 Kieselgel 60、 70-230 mesh)で精製後、得られたメチルエステルをガスクロマトグラフ (島津製作所製GC17A、カラムはSUPELCO OMEGAWAX-250)で分析した。インジェクター、カラムおよびディテクターの温度はそれぞれ、250,205および250°Cであった。スプリット比は25:1であった。
【0061】
統計解析:
平均値の比較は、Scheffeの検定法を用いて行った。
図7および図8に、ハイブリッドゲルマイクロカプセルを添加した基質で飼育したアワビの全重量および殻長を示した。
対照で飼育したアワビには増重は認められなかったが、ハイブリッドゲル添加基質を与えたものは、いずれも増重が認められた。
また、ハイブリッドゲルの3%と7%添加の餌料では、その増重効果に有意差は認められなかった。殻長においては、対照で飼育したアワビは開始時に比較して大きかったが、その増大効果はハイブリッドゲル添加の基質には劣り、また、ハイブリッドゲルの3%と7%添加の餌料では、その効果に有意差は認められなかった。
【0062】
以上の結果より、ハイブリッドゲルはアワビの増重および殻の成長に寄与することが明らかになった。
また、表3に示すように、ハイブリッドゲル添加による日間給餌率および生残率の低下は認められなかった。
【0063】
【表3】
【0064】
さらに、表4に示すように、ハイブリッドゲルを取り込むことによるアワビ稚貝の成分変化は認められなかった。
【0065】
【表4】
【0066】
更に、人工海藻に、水溶性ビタミン含有ハイブリッドゲルミクロカプセルを保持した人口海藻による魚介類養殖餌料のアワビ稚貝に与える影響について検討した。
《人工海藻保持による魚介類養殖餌料のアワビ稚貝に与える影響》
アワビ種苗生産において稚貝から放流できる大きさの稚貝に至る過程での壊死の原因は不明である。これを解決するためには水溶性であるビタミン等の栄養剤、薬剤を摂餌させことが考えられているが、その手法がなくこれまで不可能であったが、本発明による人工海藻保持による魚介類養殖餌料によって可能となった。ここでは、ハイブリッドゲルミクロカプセルに実際に数種のビタミンを包埋させ、これをアワビに投餌し、その影響を調査した。
【0067】
人工海藻:
延縄養殖により生産し、それを塩蔵加工したのち-25℃で冷凍保存したワカメを用いた。
人工海藻保持による魚介類養殖餌料の調製:
塩蔵加工したワカメを半日流水中に晒し、脱塩ののちこれに対して等量の水道水を加え、全量に対して3%の炭酸水素ナトリウムを加え、加熱溶解した(海藻ペースト)。
次にこれに対して10%のアルギン酸ナトリウムを加え、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB12を包埋させたマイクロゲルカプセルをそれぞれ1%および5%添加した。マイクロカプセルゲルは、ビタミンC、ビタミンB1およびビタミンB12をそれぞれ、8.1×10-6 (mol/g)で含んでいる。混合物を薄板状に引き延ばし(厚さ1mm)、5%塩化カルシウム水溶液中に3時間浸漬して凝固させ、塩化ビニル袋に入れ密閉し、順次投餌した。コントロールとしてブランク(ビタミン類を含まない)のマイクロカプセルゲルを所定量添加した。
【0068】
アワビ稚貝の飼育:
約1ヶ月間飼育を行なった。飼育は直径10cmの塩化ビニル製筒の下部に1辺が0.5mm程度のメッシュの網を張り、上部からは4-5箇所から50cc/分程度の速度で濾過海水を滴下して行なった。塩化ビニル筒1個に対して40個体のアワビを飼育した。餌料は、上記方法で調製したシート状の人工海藻保持による魚介類養殖餌料を、0.25g/個体与え、翌々日残餌を除去し、新たに投餌した。
【0069】
アワビ稚貝の全重量、殻長、肥満度に及ぼすビタミン類の影響の測定結果を、それぞれ図9、図10および図11に示す。
これら測定結果によれば、例えば5%添加において、ビタミンCを添加した場合、全重量および肥満度の改善がなされている。
【0070】
上述した例では、ビタミンの添加を例示した場合であるが、ビタミン類に限らず、各種栄養剤、薬剤等を必要に応じて、適宜容易に添加することができるものである。
【0071】
人工海藻の形状は、投餌対象、状況に応じて、その形状、大きさ、厚さ等は、適宜選定できるものである。しかし、この製造時のゲル化反応は、例えばアルギン酸ナトリウムがカルシウムイオンと出会うことによって生じさせることから、その厚さが余り厚い場合、カルシウムイオン溶液の浸透が悪くなり,凝固までに時間を要する。そこで、実用的には、その厚さは、アワビの餌にする場合、例えば海藻程度の100μm程度が好ましい。
【0072】
上述したように、本発明による魚介類養殖用餌料は、その芯材の魚肉筋原繊維蛋白質ゲルが、魚介類、例えばアワビの種苗の餌料となるものであり、この魚肉筋原繊維蛋白質ゲルは、魚介類の種苗の成長を効果的に促進することができる。
そして、この魚肉筋原繊維蛋白質ゲルを芯材ゲルとしてその表面に壁材ゲルの生分解性高分子が形成された合成ハイブリッドゲルのカプセル構造としたことから、芯材の魚肉筋原繊維蛋白質ゲルの水中への引き出しの制御を行うことができ、投餌から摂餌に所要のタイムラグをもたせることができ、有効な摂餌がなされるようにすることができるものである。
そして、このように壁材を設けるにもかかわらず、カプセル全体が生分解され、これらが、特に壁材が、水中にいつまでも残存することによる環境汚損も回避されるものである。
【0073】
さらに、上述したように、本発明による魚介類養殖用餌料として、ハイブリッドゲル粒子人工海藻餌料を保持させた人工海藻保持による魚介類養殖餌料構成とするときは、このハイブリッドゲル粒子が、超微粒子構成であっても、水中もしくは水上に浮遊分散してしまうことを回避できることから、種苗魚介類といえども、その摂餌を効率よく行うことができる。
また、この場合、ハイブリッドゲル粒子を保持させる保持体が、魚介類養殖用餌料であることにより養殖魚介類は、ハイブリッドゲル粒子と共に人工海藻餌料をも、食むことからき、効果的摂餌ができるものである。
また、本発明による魚介類養殖用餌料の製造方法によれば、その原料は、天然の海藻類を用いることができることから、特段の原料を調達する必要がないものであるなど本発明による魚介類餌料は、多くの実用的利点を有するものである。
【0074】
なお、本発明による魚介類養殖用餌料は、上述した例にかぎられるものでなく、詳細構成、構造において、使用状況等に応じて、変更を行うことができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明による魚介類養殖用餌料の一例お1粒子の模式的断面図である。
【図2】本発明による魚介類養殖用餌料の一例の模式的平面図である。
【図3】ハイブリッドゲルマイクロカプセルの粒度分布である。
【図4】ポリウレタンの酵素分解を示す図である。
【図5】生分解性ポリオールを基材とするポリウレタンの4ヶ月土壌埋設分解後のSEM写真図である。
【図6】海水浸漬中における基質中の水溶性成分の変動を示す図である。
【図7】を添加した基質で飼育したアワビの全重量変化を示す図である。
【図8】ハイブリッドゲルマイクロカプセルを添加した基質で飼育したアワビの殻長変化を示す図である。
【図9】ビタミン含有ハイブリッドゲルマイクロカプセルを添加した餌料で飼育したアワビ稚貝の全重量変化を示す図である。
【図10】ビタミン内包ハイブリッドゲルマイクロカプセルを添加した餌料で飼育したアワビ稚貝の殻長変化を示す図である。
【図11】ビタミン内包ハイブリッドゲルマイクロカプセルを添加した餌料で飼育したアワビ稚貝の肥満度を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1,11……魚介類養殖用魚介類養殖餌料、2……芯材ゲル、3……壁材ゲル、12……人工海藻
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉を主成分とする魚肉ゲルより成る芯材ゲルと、該芯材ゲルの表面に形成された生分解性高分子ゲルによる壁材ゲルとによって構成された生分解性ハイブリッドゲル粒子より成る
ことを特徴とする魚介類養殖用餌料。
【請求項2】
上記魚肉ゲルに栄養剤ないしは薬剤が添加されて成ることを特徴とする請求項1に記載の魚介類養殖用餌料。
【請求項3】
上記壁材ゲルが、生分解性ポリウレタンより成ることを特徴とする請求項1に記載の魚介類養殖用餌料。
【請求項4】
上記請求項1に記載の生分解性ハイブリッドゲル粒子を多数個、人工海藻餌料に保持させて成る
ことを特徴とする魚介類養殖用餌料。
【請求項5】
魚肉に1%〜8%(重量)の食塩を添加し、擂潰して調製したゾルを加熱処理および冷却して魚肉ゲルを得る工程と、
該魚肉ゲルを主成分とする魚肉ゲルを粒子化する粒子化工程と、
該粒子化によって得た魚肉ゲル粒子に生分解性高分子ゲルを被着させる工程とを経て
上記魚肉ゲル粒子による芯材ゲル表面に生分解性高分子ゲルによる壁材ゲルが形成され生分解性ハイブリッドゲル粒子より成る魚介類養殖用餌料を得ることを特徴とする魚介類養殖用餌料の製造方法。
【請求項6】
人工海藻餌料の製造工程を有し、
該人工海藻餌料の製造工程中もしくは製造後に、該人工海藻餌料に、上記生分解性ハイブリッドゲル粒子保持させて成る
ことを特徴とする請求項5に記載の魚介類養殖用餌料の製造方法。
【請求項7】
上記人工海藻餌料が養殖用餌料より成り、該人工海藻餌料の製造工程が脱塩海藻類を溶解し成分調整して後、所要形状に展延硬化させる工程とを有する
ことを特徴とする請求項5に記載の魚介類養殖用餌料の製造方法。
【請求項1】
魚肉を主成分とする魚肉ゲルより成る芯材ゲルと、該芯材ゲルの表面に形成された生分解性高分子ゲルによる壁材ゲルとによって構成された生分解性ハイブリッドゲル粒子より成る
ことを特徴とする魚介類養殖用餌料。
【請求項2】
上記魚肉ゲルに栄養剤ないしは薬剤が添加されて成ることを特徴とする請求項1に記載の魚介類養殖用餌料。
【請求項3】
上記壁材ゲルが、生分解性ポリウレタンより成ることを特徴とする請求項1に記載の魚介類養殖用餌料。
【請求項4】
上記請求項1に記載の生分解性ハイブリッドゲル粒子を多数個、人工海藻餌料に保持させて成る
ことを特徴とする魚介類養殖用餌料。
【請求項5】
魚肉に1%〜8%(重量)の食塩を添加し、擂潰して調製したゾルを加熱処理および冷却して魚肉ゲルを得る工程と、
該魚肉ゲルを主成分とする魚肉ゲルを粒子化する粒子化工程と、
該粒子化によって得た魚肉ゲル粒子に生分解性高分子ゲルを被着させる工程とを経て
上記魚肉ゲル粒子による芯材ゲル表面に生分解性高分子ゲルによる壁材ゲルが形成され生分解性ハイブリッドゲル粒子より成る魚介類養殖用餌料を得ることを特徴とする魚介類養殖用餌料の製造方法。
【請求項6】
人工海藻餌料の製造工程を有し、
該人工海藻餌料の製造工程中もしくは製造後に、該人工海藻餌料に、上記生分解性ハイブリッドゲル粒子保持させて成る
ことを特徴とする請求項5に記載の魚介類養殖用餌料の製造方法。
【請求項7】
上記人工海藻餌料が養殖用餌料より成り、該人工海藻餌料の製造工程が脱塩海藻類を溶解し成分調整して後、所要形状に展延硬化させる工程とを有する
ことを特徴とする請求項5に記載の魚介類養殖用餌料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【公開番号】特開2007−104938(P2007−104938A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297874(P2005−297874)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】
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