説明

魚類のタンパク質節約剤及びタンパク質節約方法

【課題】魚類が糖や脂質から効率的にエネルギーを生産できるようにし、エネルギー源としてのアミノ酸への依存を小さくする魚類のタンパク質節約剤を提供する。
【解決手段】フェニル基を有するプロピオン酸誘導体にトリテルペンアルコ−ルがエステル結合した基本構造をしており、代表的な化合物としてはフェニル基の2つの置換基がヒドロキシ基およびメトキシ基であるγ−オリザノ−ルやフェニル基の2つの置換基がいずれもヒドロキシ基であるジヒドロキシ桂皮酸トリテルペンアルコ−ルエステルがある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物性食魚類を対象とした魚類のタンパク質節約剤及びこれを用いた魚類のタンパク質節約方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在養殖されている魚は、食性が動物性のものが多い。一般的に、動物性食の魚類は、炭水化物の消化率が悪く、糖質よりもアミノ酸からエネルギーを得る傾向が強いとされる[Moon,T.W.(2001)Glucose in teleost fish:fact or fiction Comp.Biochem.Physiol.,129B,243-249.Hemre,G.-I.,Mommsen,T.P.,Krogdahl,A.(2002)Carbohydrates in fish nutrition:effects on growth,glucose metabolism and hepatic enzymes.Aquacult.Nutr.,8,175-194. Krogdahl,A.,Hemre,G.-I., Mommsen,T.P.(2005)Carbohydrates in fish nutrition:digestion and absorption in postlarval stages. Aquacult.Nutr.,11,103-122.]。
このため、動物性食魚類は陸上生物よりもタンパク質要求量が多い。
【0003】
しかしながら、養殖産業においてはタンパク質含有量の多い飼料はコストが高くつき、また、排泄物中の窒素及びリンの含有量が増加して水圏環境が悪化し易いので、たんぱく質に代わるエネルギー源として脂質を添加した飼料を多く使用している。
このような飼料を用いた養殖魚は、天然魚に比べて筋肉中の脂質含有量が多くなり、風味を損なうだけでなく、貯蔵時の品質低下を加速することから、市場での価値が上がらないばかりか、健康志向の高まりに伴って消費者から敬遠される傾向にある。
なお、筋肉中の脂質含有量を減らすために、強制運動設備を用いた脂質異化促進法が考案されているが、莫大な費用を要するので実用化には到っていない。
【0004】
さらに、魚類の養殖において発生する様々な問題点を抑制する薬剤が知られている。例えば、特許文献1には、養殖フグのストレスによる噛み傷や共食いを防ぐために、γ−オリザノールを用いた養殖フグのストレス抑制剤が開示されている。
また、特許文献2では、米糠に含まれるフェルラ酸及びγ−オリザノールを有効成分とするマダイ等の養殖魚の体色改善剤が提案されている。
しかし、動物性食魚類が主としてタンパク質からエネルギーを得ることによる上記問題を改善するための薬剤は知られていない。
【0005】
【特許文献1】特開2007−68527号公報
【特許文献2】特開2005−176799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、魚類が糖や脂質から効率的にエネルギーを生産できるようにし、エネルギー源としてのアミノ酸への依存を少なくする魚類のタンパク質節約剤及び魚類のタンパク質節約方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の魚類のタンパク質節約剤は、下記化1の化学構造式で表される化合物またはその塩類を有効成分とする。この化学構造式中、R1はヒドロキシ基を示し、R2はヒドロキシ基、メトキシ基あるいはアルコキシ基を示し、R3はステロール等のトリテルペン骨格を示す。
【0008】
【化1】

【0009】
この化合物は、フェニル基を有するプロピオン酸誘導体にトリテルペンアルコールがエステル結合した基本構造をしている。
化1で示される代表的な化合物としては、R1がヒドロキシ基、R2がメトキシ基、R3がトリテルペンであるγ−オリザノールや、R1がヒドロキシ基、R2がヒドロキシ基、R3がトリテルペンであるジヒドロキシ桂皮酸トリテルペンアルコールエステルがある。
【0010】
本発明のタンパク質節約剤の投与対象となる魚類は、サケ科魚類(アトランチックサーモン(Salmo salar)、キングサーモン(Oncorhynchus tshawytscha)、銀ザケ(Oncorhynchus kisutsh)、ブラウントラウト(Salmo trutta)、サーモントラウト(Oncorhynchus mykiss)、ニジマス(Oncorhynchus mykiss)、イワナ(Salvelinus leucomaenis)など)、スズキ目魚類(マダイ(Pagrus major)、スズキ(Lateolabrax japonicus)、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)など)等がある。
また、本発明の魚類のタンパク質節約方法は、例えば、サケ科魚類であれば、上記魚類のタンパク質節約剤を、体重1kg及び1日当たり8μg〜40μg投与する。
投与する際には、魚類にストレスを与えないように、飼料を担体として経口投与するのが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、魚類が糖や脂質から効率的にエネルギーを生産することができるようになり、エネルギー源としてアミノ酸への依存が少なくなるため、餌料のコストを低廉に抑えることができると共に、排泄物中のリンや窒素による水質汚染を抑制できる。
また、筋肉中の脂質含有量が低下し、脂質に比べて単位重量の大きいたんぱく質が消費されずに増加するため、歩留まりが向上するだけでなく、風味が損なわれず、貯蔵時における脂質酸化による品質劣化も改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
魚類のタンパク質節約剤としてγ−オリザノールを用い、ニジマスを対象としてタンパク質節約効果を試験により検証した。
ニジマスに与えるために、飼料1(コントロール)、飼料2(γ−オリザノール含有量2mg/kg)及び飼料3(γ−オリザノール含有量10mg/kg)を調製した。飼料1〜3の1kg中の成分組成を表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
まず、ニジマスを6個の水槽に、重量が水槽ごとに同一となるよう無作為に15匹ずつ分けて収容し、全ての群に飼料1を与えて2週間飼育した後、試験を開始した。
試験開始時のニジマスの体重、筋肉中の脂質含量、及び、筋肉中のタンパク質含量を測定し、その平均値を求めた。
試験開始時のニジマスの平均体重は127gであった。
【0015】
また、脂質含量及びタンパク質含量の測定にはニジマスの腹部筋肉を用いた。
採取したニジマスの腹部筋肉をホモジナイザー(株式会社NISEI製)にてホモジナイズ(12,000rpm、5分間)した後、Bligh&Dyer法にて脂質の抽出を行い、得られた脂質抽出液について質量法にて脂質含有量を算出した結果、その平均値は3.0%であった。
さらに、採取したニジマスの腹部筋肉に対し、ケールダール法によりたんぱく質含量を測定した結果、その平均値は17.2%であった。
【0016】
試験では、水槽2個ずつにそれぞれ飼料1、飼料2及び飼料3を給餌して飼育した。
異なる飼料を与えてからの飼育期間は、同じ飼料を与えた2槽の内、一方は1ヶ月で、他方は2ヶ月であり、その間、毎日朝・夕に各飼料を飽食給餌した。
この結果、ニジマスに対する体重1kg及び1日当たりのγ−オリザノールの投与量は、飼料2を与えた群では8μgとなり、飼料3を与えた群では40μgとなった。
【0017】
1ヵ月間試験飼育を行ったニジマス5匹の体重を測定し、その平均値を図1に示す。また、試験開始時からの体重変化を図2に示す。
図1及び図2から明らかなように、飼料1を投与した群に比べて、飼料2及び飼料3を投与した群では有意に体重が増加した。
また、1ヶ月間試験飼育を行ったニジマス5匹の腹部筋肉について、試験開始時と同様にして脂質含有量を測定した。
図3に、各群の筋肉中脂質含量の平均値を示す。図3からわかるように、飼料1を与えた群に比べて飼料2及び飼料3を与えた群では、有意に筋肉中脂質含量が低かった。
さらに、1ヶ月間試験試験を行ったニジマス5匹の腹部筋肉について、試験開始時と同様にしてタンパク質含量を測定し、その平均値を求めた(図4)。
図4からは、飼料1を投与した群に比べて飼料2及び飼料3を投与した群では、有意に筋肉中たんぱく質含量が多いことが分かる。
【0018】
1ヶ月間試験飼育を行った各群のニジマスから採血し、アークレイ社製スポットケムEZ SP-4430により血中グルコース濃度を測定した。その平均値を求めて図5に示す。
図5からわかるように、試験開始後1ヶ月では、飼料2及び飼料3を投与した群の血中グルコース濃度は、飼料1を与えた群に比べて血中グルコース濃度が低く、飼料3を給餌した群が最も低かった。
【0019】
また、2ヶ月間試験飼育を行ったニジマスの血中グルコース濃度を同様にして測定し、その平均値を求めた(図6)。
試験開始後2ヶ月では、飼料2を投与した群の血中グルコース濃度が最も低かった。飼料3を与えた群でも血中グルコース濃度は低下したが、その効果は飼料2に比べて小さかった。このことから、40μg/kg/dayは本発明のタンパク質節約剤の投与量としてほぼ上限値であると考えられる。
【0020】
以上の試験結果から、γ−オリザノールを投与することによって、飼料に含まれる脂質及び糖質の効率的な代謝が促進され、飼料中の糖質が効果的に体細胞に取り込まれてエネルギー生産されると共に、脂肪酸からのエネルギー生産も促進され、結果的に筋肉中のたんぱく質含量が増加することが明らかになった。
また、比重の大きいたんぱく質が筋肉中に蓄積されることによって、体重も重くなり、飼料の魚体への転換効率が高まることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】各群の平均体重を示す図。
【図2】各群の体重変化を示す図。
【図3】各群の筋肉中脂質含量を示す図。
【図4】各群の筋肉中タンパク質含量を示す図。
【図5】試験開始後1ヶ月における各群の血中グルコース濃度を示す図。
【図6】試験開始後2ヶ月における各群の血中グルコース濃度を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化1の化学構造式(該式中、R1はヒドロキシ基を示し、R2はヒドロキシ基、メトキシ基あるいはアルコキシ基を示し、R3はトリテルペンを示す)で表される化合物またはその塩類を有効成分とする魚類のタンパク質節約剤。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載の魚類のタンパク質節約剤を、体重1kg及び1日当たり8μg〜40μg投与することを特徴とする魚類のタンパク質節約方法。
【請求項3】
前記魚類がサケ科魚類である請求項2に記載の魚類のタンパク質節約方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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