説明

麦類のマイコトキシン汚染抑制方法

小麦の生産現場における品質および消費者に対する健康被害リスク上、重要懸念事項となっている小麦中のマイコトキシン汚染量を抑制する栽培方法を探索する。本発明は、亜リン酸及び亜リン酸エステルの、アンモニウム塩、第1〜4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及び多価金属塩よりなる群から選択される1種又は2種以上の化合物Aを麦類に施用することを特徴とする、麦類中のマイコトキシン汚染量を抑制する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
亜リン酸及び亜リン酸エステルの、アンモニウム塩、第1〜4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及び多価金属塩よりなる群から選択される1種又は2種以上の化合物Aを有効成分として含有する農園芸用組成物を用いて麦類の植物病原性真菌が産生するマイコトキシン(以下「DON」と表記する)の麦類への汚染量を軽減することを意図した処理方法に関するものである。
【背景技術】
麦類の赤かび病は、出穂期から乳熟期にかけて曇天、小雨が続き、しかも高温の場合に多く発生し(尾関 幸男、佐々木 宏、天野 洋一:北海道の畑作技術−麦類編−、農業技術普及協会刊行、1978年、P.209)、収量・品質等の面から麦類に大きな被害をもたらす植物病害であり、登熟期間中に降水量の多い我が国では避けることが出来ない。その主要病原性真菌としてはFusarium graminearum、Fusarium culmorum、F.avenaceumおよびMicrodochium nivaleが特定されており、気候条件や地域により占有率に差があるものの病害発生圃場では複合感染が認められる場合が多い(岸 国平:日本植物病害大辞典、全国農村教育協会刊行、1998年、P.74)。
この病害の原因となる植物病原性真菌はマイコトキシンと称される複数の有毒代謝物を産生し耕種中の作物を汚染し、収穫物や加工食品への移行を経て人間や家畜による摂取の危険性をもたらしている。欧州、北米および東アジアといった麦類栽培の盛んな地域におけるマイコトキシンに関する研究の歴史は古く、毒性・汚染量の両面から人畜への影響が最も懸念される毒物としてDONが特定され世界的に注目を集めている。DONに汚染された食品の摂取は、嘔吐・下痢を中心とした消化器症状を主症状とする急性中毒を引き起こす。すでに欧州並びに北米では穀物中におけるDON汚染量の自主規制値を設定し、監視強化の体制を整えつつある。このようにDON監視の機運が国際的に高まる中で、2002年、我が国でも厚生労働省が小麦中DON汚染量の暫定基準値1.1ppmを設定し、市場に流通する小麦の安全性を確保する旨通達を行った(食発第0521001号)。これに関連して、飼料安全法上の指導通知として農林水産省は3ヶ月齢以上の牛に給与される飼料中のデオキシニバレノールの暫定許容値4.0ppm、それ以外の家畜には1.0ppmを設定した(プレスリリース)。かび産生毒素としてDONが注目される以前は、玄麦出荷段階における目視検査で赤かび病被害粒混入率を1%未満とする法規制を行うことで、かび毒による健康的リスクから国民を守ってきた。このため麦類生産現場では麦類赤かび病原性真菌に有効な殺菌剤を施用することで赤かび病害を軽減・抑制する努力が行われてきた。
現在汎用されている麦類赤かび病原性真菌に有効な薬剤は、その作用機講および有効成分の化学構造から数種のグループへ分類される(農薬ハンドブック2001年版、日本植物防疫協会刊行)。真菌の生体膜成分として普遍的に存在するステロールの生合成阻害を特徴とするSBI剤としては、(RS)−1−p−クロロフェニル−4,4−ジメチル−3−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル)ペンタン−3−オール(一般名:テブコナゾール)、(1RS,5RS)−5−(4−クロロベンジル)−2,2−ジメチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル)シクロペンタノール(一般名:メトコナゾール)、1−[2−(2,4−ジクロロフェニル)−4−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−イルメチル]−1H−1,2,4−トリアゾール(一般名:プロピコナゾール)が挙げられ、化学構造的にはトリアゾール骨格を有することを特徴とする。低薬量での効力発揮、植物体内への迅速な浸透性による耐雨性および、訪花昆虫に対する低毒性等の理由から幅広く使用されており、麦類赤かび病原生真菌に対する防除効果も高い。抗かび性抗生物質でメトキシアクリル酸エステルを構造的特長とするストロビルリンの誘導体として開発されたメチル=(E)−2−{2−[6−(2−シアノフェノキシ)ピリミジン−4−イルオキシ]フェニル}−3−メトキシアクリレート(一般名:アゾキシストロビン)、メチル=(E)−2−メトキシイミノ[α−(o−トリルオキシ)−o−トリル]アセテート(一般名:クレソキシムメチル)はメトキシアクリレート系殺菌剤に分類される。前者は菌の呼吸活動の阻害、後者はミトコンドリア内のチトクローム電子伝達系の阻害により防除効果を発揮する。その他合成殺菌剤としては1,1’−イミノジ(オクタメチレン)ジグアニジウム=トリアセテート(一般名:イミノクタジン酢酸塩)が挙げられるが、その塩構造に由来する界面活性剤的性質より、菌類の膜脂質二重層構造の破壊を引き起こすことが作用機作として考えられている。更に、病原性真菌と薬効の関連性についても研究が行われ、F.graminearum、F.culmorum、F.avenaceumの3種にはトリアゾール剤、M.nivaleにはメトキシアクリレート剤が卓効を示すことも明らかにされている。先にも述べたが、病害発生には複数の病原性真菌の混在を伴うことが多い為、各剤の特徴を活かしたローテンション散布を行うことで病害発生の予防並びに抑制が行われている。
DONへの注目に伴いその汚染濃度の分析が進むにつれ赤かび病罹病程度とDON汚染量の間に直接的な関連性がないことが明らかになりつつある(Bai,G−H,Plattner,R and Desjardins,A.:Relationship between Visual Scab Ratings and Deoxynivalenol in Wheat Cultivars,The 1998 NATIONAL FUSARIUM HEAD BLIGHT FORUM,CHAPTER 2、P.21−25)。又、F.graminearum、F.culmorumはDON生産能を有するが、F.avenaceum、M.nivaleはDONを生産しないことも近年明らかにされ、メトキシアクリレート剤でM.nivaleを防除すると拮抗するF.graminearum、F.culmorumの増加をもたらし、結果としてDON汚染量の増加を助長するといった報告もなされているように、殺菌剤施用による病害防除だけではDON汚染を十分防ぐことはできていない。更に麦類生産現場では各種殺菌剤の複合施用による麦類赤かび病の防除を行っても1.1ppmを超えるDONが検出されるといった事例が頻出し、生産者にとっては悩みの種となっている。つまり、従来の技術であるマイコトキシン産生能を有する病原性真菌類の防除だけではDON汚染量を十分抑制することはできないのである。本請求書記載のホセチルに関しても植物病原性真菌に対する殺菌効果(米国特許第4139616号公報(1979年)及び特開昭62−87504号公報)は公知のものとなっているが、マイコトキシンによる植物汚染への効果、影響については一切触れられていない。このような状況の下、麦類の生産現場においては実質的なDON汚染量を抑制する方法の確立が強く望まれているのが現状である。
本発明者らは、小麦のマイコトキシン汚染、特にDONによる汚染量を1.1ppm以下若しくは、可能な限り低汚染量へと抑制する農業用組成物を検討した結果、亜リン酸及び亜リン酸エステルの、アンモニウム塩、第1〜4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及び多価金属塩よりなる群から選択される1種又は2種以上の化合物Aを有効成分として開発された農園芸用組成物が、麦類赤かび病原性真菌に対する防除効果は低いがマイコトキシン汚染、特にDON汚染に対し優れた汚染抑制効果を有することを見出し、本発明を完成した。
また、本発明者らは、他の農園芸用殺菌剤との混用処理により、基準値1.1ppmを超える高濃度のDON汚染が観測された殺菌剤との混用においては基準値以下へのDON汚染量の低減、また元々低い汚染レベルを示す殺菌剤との混用でもDON汚染量の更なる抑制効果を示し、農園芸殺菌剤の単独処理時に比してDON汚染量を低減する効果を併せて見出し、本発明を完成した。
【発明の開示】
本発明は、亜リン酸及び亜リン酸エステルの、アンモニウム塩、第1〜4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及び多価金属塩よりなる群から選択される1種又は2種以上の化合物Aを麦類に施用することを特徴とする、麦類中のマイコトキシン(特に、デオキシニバレノール)汚染量を抑制する方法である。
また、本発明は、前記化合物A及び1種又は2種以上の農園芸用殺菌活性成分(以下、化合物Bとする)を組み合わせて(好適には、両者を有効成分として含有する組成物として)麦類に施用することを特徴とする、麦類中のマイコトキシン(特に、デオキシニバレノール)汚染量を抑制する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
図1は、亜リン酸誘導体及びアルキル亜リン酸誘導体によるDON汚染抑制効果の試験結果(実施例1)を表す。
図2は、亜リン酸カリウムと各種殺菌剤の混用効果の試験結果(実施例3)を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の提供する亜リン酸から誘導されかつ亜リン酸並びに亜リン酸エステルのアンモニウム塩、第1〜4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および多価金属塩としては、マイコトキシン、特にDONによる汚染を抑制するものであれば特に限定されるものではないが、例えば亜リン酸及び亜リン酸エステルのアルカリ金属塩および多価金属塩を挙げることができ、好適には亜リン酸カリウム及びトリス(エチルホスホナート)のアルミニウム塩(一般名、ホセチル)である。
本発明の小麦のマイコトキシン汚染、特にDON汚染抑制効果を検定する方法としては、野外で耕種した小麦に対し亜リン酸および亜リン酸エステル誘導体の単独処理及び他の殺菌剤組成物の混用処理を行ったものと、薬剤処理を行わない対象群とのDONによる汚染濃度、小麦赤かび病発病穂率および発病小穂率の比較を行うことにより判定若しくは測定する方法を挙げることが出来る。
このような方法により、亜リン酸から誘導されかつ亜リン酸並びに亜リン酸エステルのアンモニウム塩、第1〜4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および多価金属塩が麦類病原性真菌の防除とは無関係にマイコトキシン汚染、特にDON汚染に対し優れた抑制効果を有することが確認された。
本発明において化合物Bは、通常の農園芸用殺菌活性化合物であればよく、好適には、例えば、トリアゾール骨格を有するステロール生合成阻害(SBI)剤、アゾキシストロビン、クレソキシムメチル及びイミノクタジンのような、麦赤かび病に有効な殺菌活性化合物である。
【実施例】
以下に本発明の有効成分である化合物Aとして亜リン酸カリウムおよびトリス(エチルホスホナート)のアルミニウム塩(一般名、ホセチル)を用いた試験例を挙げ本発明のさらに具体的な説明を行うが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1 単用(±慣行防除)効果
小麦(品種:ハルユタカ)を2002年4月19日に播種し、慣行の栽培基準(平成7年、北海道農務部)に従って栽培し、1区6.75mの試験区(3反復)を設けた。化合物Aとして亜リン酸カリウムおよびトリス(エチルホスホナート)のアルミニウム塩(一般名、ホセチル)を供して、Pとして0.038〜0.120%の水溶液を調製し10a当たり100Lをつぎの生育時期に葉面散布を行った。即ち第1回目(6月28日:開花期)、第2回目(7月8日:開花10日後)、第3回目(7月18日:開花20日後)である。なお植物病害虫の防除を目的とした慣行防除を併せて行った。即ち第1回目[6月20日:アゾキシストロビン(2000倍希釈)+フェニトロチオン(1000倍希釈)]、第2回目[6月28日:テブコナゾール(2000倍希釈)+スミチオン(1000倍希釈)]、第3回目[7月8日:プロピコナゾール(2000倍希釈)+フェニトロチオン(1000倍希釈)]、第4回目[7月17日:テブコナゾール(2000倍希釈)+フェニトロチオン(1000倍希釈)]である。対象として、慣行防除のみを施した試験区及び全く防除を行わない無防除試験区を設けた。収穫は8月9日(出穂後52日)に試験区内から4m分を刈り取った。収穫後2.2mmの縦目篩にかけた整粒を高速粉砕機で粉砕しその全粒粉を分析用試料とした。DON汚染濃度は市販のr−biopharm社製RIDA SCREEN FAST DONを用いELISA法により分析した。
分析試料液の調整並びに分析手順について簡単に述べる。
・全粒粉5gに水100mlを加え、10分間激しく攪拌しDON抽出液とする。
・DON抽出液を高速遠心処理し、その上澄み液をELISA分析に供した。
・ELISAキット記載の方法に従い各種試薬を加えた後、各試験溶液の吸光度を測定した。
・各試験溶液のDON濃度はDON標準溶液を用いて作成した検量線から読み取った。
・赤かび病発病穂率は、各区1m中の穂数とその中に含まれる罹病穂数を数えて算出した。
本試験の結果を表1に示す。

無防除区並びに麦類赤かび病防除用の殺菌剤組成物を用いた慣行防除区からは厚生労働省の提示した暫定的基準値1.1ppmをはるかに上回る高汚染水準のDONが検出された。一方、亜リン酸カリウムおよびトリス(エチルホスホナート)のアルミニウム塩(一般名、ホセチル)処理区では処理濃度依存的なDON汚染抑制が見られ、その汚染レベルも1.1ppmを下回った。特筆すべきは、慣行防除を行わない無防除区においても亜リン酸カリウムを施用することによりDON汚染濃度が十分抑制されていることである。さらに正リン酸の塩であるリン酸カリウムを施用してもDON抑制効果は低く、亜リン酸およびアルキル亜リン酸誘導体が重要な役割を果たしていることは明らかである。また赤かび病罹病穂率が同程度であっても亜リン酸カリウム無処理区からは高濃度のDONが検出された。このように亜リン酸ならびにアルキル亜リン酸及びその誘導体の処理によるDON汚染濃度抑制効果は明らかである。
実施例2 実施例1のうち麦類赤かび病被害種子での毒素抑制効果
実施例1で得た玄麦粒より健全粒および麦類赤かび病被害粒を選別し、その全粒粉のDON汚染濃度を実施例1同様、ELISA法により分析した。
本試験の結果を表2に示す。

健全粒のDON汚染濃度は概ね低レベルで推移した。一方、赤かび病被害粒からは予想通り非常に高濃度のDONが検出された。しかし、同じ被害粒と判断された玄麦でもDON汚染濃度には差が見られた。つまり亜リン酸カリウム処理区で見ると、亜リン酸カリウムの施用濃度に依存しDON汚染濃度も減少した。このように亜リン酸カリウムの施用が麦類赤かび病被害の有無や程度とは関係なく小麦中のDON汚染濃度を抑制すること、更にDON汚染の抑制程度は亜リン酸カリウムの施用濃度に依存していることは明らかである。
実施例3 混用▲1▼
小麦(品種:ハルユタカ)を2002年4月23日に播種し、慣行の栽培基準(平成7年、北海道農務部)に従って栽培し、1区10mの試験区(3反復)を設けた。展着剤(グラミンS:北海三共社製)と水からなる液体混合物中に亜リン酸カリウム及び各種殺菌剤を含む懸濁液を調製した。化合物Aとして亜リン酸カリウムを供して、Pとして0.070%、化合物Bとして麦用の農園芸用殺菌剤を供して、0.006〜0.025%含む水溶液を調製し10a当たり100Lをつぎの生育時期に葉面散布を行った。即ち第1回目(6月24日:出穂期)、第2回目(6月30日:開花期)、第3回目(7月9日)である。収穫は8月12日(出穂後50日)に試験区内から3.4m分を刈り取った。収穫後2.2mmの縦目篩にかけた整粒を高速粉砕機で粉砕しその全粒粉を分析用試料とした。DON汚染濃度は厚生労働省が示した公定法の中からHPLC−UV法を用い分析した。なお定量分析は各試験区につき3反復で行い定量値はその平均値とした。
分析試料液の調整並びに分析手順について簡単に述べる。
・全粒粉50gに85%アセトニトリルを加え30分間激しく攪拌した後、10分間超音波処理を行った
・濾紙により不溶物を除去した後、濾液を前処理カラムMultiSep #227で精製し分析用溶液とした。
・分析用試験溶液を高速液体クロマトグラフィーに注入し、紫外線によりDONを検出した。
・各試験溶液のDON濃度はDON標準溶液を用いて作成した検量線から読み取った。
・赤かび病発病穂率および発病小穂率は各区100穂について調査した。
本試験結果を表3に示す。

実施例4 混用▲2▼
小麦(品種:ハルユタカ)を2003年5月4日に播種し、慣行の栽培基準(平成7年、北海道農務部)に従って栽培し、1区10mの試験区(3反復)を設けた。展着剤(グラミンS:北海三共社製)と水からなる液体混合物中に亜リン酸カリウム及び各種殺菌剤を含む懸濁液を調製した。化合物Aとして亜リン酸カリウムを供して、Pとして0.070%、化合物Bとして麦用の農園芸用殺菌剤を供して、0.030〜0.125%含む水溶液を調製して10a当たり100Lをつぎの生育時期に葉面散布を行った。即ち第1回目(開花期:7月1日)、第2回目(7月7日)、第3回目(7月14日)である。収穫は8月25日に試験区内の全部を刈り取った。収穫後、均分器により均分化し、2.2mmの縦目篩にかけた整粒を高速粉砕機で粉砕しその全粒粉を分析試料とした。DON汚染濃度は実施例1同様、ELISA法により分析した。


実施例3同様、いずれの農園芸用殺菌剤との混用でも単独処理時に比して発病穂率、発病小穂率とも高い値を示したが、DON汚染量は抑制される結果となった。特筆すべきは、化合物Aの単剤処理区の結果であり、麦類赤かび病の罹病率が高いにもかかわらずDON汚染量は低いレベルとなった。
実施例5 菌の増殖と毒素産生への影響▲1▼
亜リン酸カリウムを5.600%含む水溶液を調製しガス滅菌を施した小麦種子「ホクシン」に吸水後、DON生産能を有する麦類赤かび病原性真菌Fusarium graminearumを接種し27℃で培養した。培養7日、14日、21日28日目にそれぞれ麦粒に存在する麦類赤かび病原性真菌量とDON生産量を分析した。
エルゴステロール分析試料液の調製並びに分析手順について簡単に述べる。
・培養物5gにエタノール80mlを加え、高速粉砕機で粉砕する。
・培養物の粉砕物を含むエタノール溶液を30分間激しく振とうしエルゴステロールを抽出する。
・濾紙により不溶物を除去した後、濾液を減圧濃縮、乾固し、エタノール10mlに再溶解したものを分析試料液とした。
・分析試料液を高速液体クロマトグラフィーに注入し、紫外線によりエルゴステロールを検出した。
DON分析試料液の調製並びに分析手順について簡単に述べる。
・培養物4gに蒸留水80mlを加え、高速粉砕機で粉砕する。
・培養物の粉砕物を含む水溶液を30分間激しく振とうしDONを抽出する。
・抽出液の一部を遠心処理し上澄み液をELISA分析に供した。
・ELISAキット記載の方法に従い各種試薬を加えた後、各試験溶液の吸光度を測定した。
・各試験溶液のDON濃度はDON標準溶液を用いて作成した検量線から読み取った。

菌体量の指標となるエルゴステロール量は、無処理では培養期間中継続的な増加を見せるのに対し、亜リン酸カリウム処理では21日目に頭打ちとなった。DON生産量については、無処理では培養初期よりDONの生産は始まっており、培養28日目に極端な増加を見せた。これに対し、亜リン酸カリウム処理では、培養期間を通じてDONを検出するには至らなかった。亜リン酸カリウムの施用は麦類赤かび病菌の有無や増殖程度とは関係なく、DON生産抑制効果が高いことは明らかである。
実施例6 菌の増殖と毒素産生への影響▲2▼
亜リン酸カリウムを0.056〜2.800%含む水溶液を調製しガス滅菌を施した小麦種子「ホクシン」に吸水後、DON生産能を有する麦類赤かび病原性真菌Fusarium graminearumを接種し27℃で培養した。培養28日目にそれぞれ麦粒に存在する麦類赤かび病原性真菌量とDON生産量を実施例5と同様の方法により分析した。

エルゴステロール量を菌体量の指標と考えると亜リン酸カリウム0.056〜0.560%水溶液の処理は無処理(水のみ)に比べて中程度から同程度の菌量抑制効果を、亜リン酸カリウム2.800%水溶液の処理で顕著な菌量抑制効果を示した。DON量については亜リン酸カリウム水溶液濃度0.056〜2.800%の範囲で、無処理に比較して有意に低かった。亜リン酸カリウムの施用は麦類赤かび病菌の有無や増殖程度とは関係なく、DON生産抑制効果が高いことは明らかである。
【産業上の利用可能性】
本発明により、亜リン酸及び亜リン酸エステルの、アンモニウム塩、第1〜4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及び多価金属塩よりなる群から選択される1種又は2種以上の化合物Aを生育中の小麦に散布することで、麦類赤かび病原性真菌に対する防除効果は低いが、麦類赤かび病害の有無や程度とは関係なくマイコトキシン汚染、特にDON汚染に対し優れた汚染抑制効果を有することを明らかにした。また他の農園芸用殺菌剤との混用処理により、殺菌剤の単独処理時よりもマイコトキシンによる汚染量を低減する効果を併せて明らかにした。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜リン酸及び亜リン酸エステルの、アンモニウム塩、第1〜4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及び多価金属塩よりなる群から選択される1種又は2種以上の化合物Aを麦類に施用することを特徴とする、麦類中のマイコトキシン汚染量を抑制する方法。
【請求項2】
マイコトキシンがデオキシニバレノールである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化合物Aがトリス(エチルホスホナート)のアルミニウム塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
化合物Aが亜リン酸カリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
化合物A及び1種又は2種以上の農園芸用殺菌活性成分を組み合わせて麦類に施用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
化合物A及び1種又は2種以上の農園芸用殺菌活性成分を有効成分として含有する組成物を麦類に施用することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
農園芸用殺菌活性成分が、テブコナゾール、メトコナゾール、プロピコナゾール、アゾキシストロビン、クレソキシムメチル、イミノクタジン酢酸塩、トリフロキシストロビン、イミノクダジンアルベシル酸塩及びイオウからなる郡より選択される、請求項5又は6に記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/049805
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【発行日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556910(P2004−556910)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015543
【国際出願日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【出願人】(303020956)三共アグロ株式会社 (70)
【出願人】(391011076)北海三共株式会社 (6)
【Fターム(参考)】