説明

黄銅材料及び黄銅材料の製造方法

【解決課題】JBMA法のような厳しい指標に対して、十分な耐脱亜鉛腐食性能を発揮しつつ、且つ加工性び切削性も優れている黄銅材料を提供すること。
【解決手段】Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有し、且つα相とβ相の2相からなり、β相がα相で分断されている組織を有し、α相の結晶粒径が25μm以下であり、β相の結晶粒径が15μm以下であり、β相に対するα相の相対比率が90%以上であること、を特徴とする黄銅材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐脱亜鉛腐食性、加工性及び切削性に優れた黄銅材料及び黄銅鍛造材並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Cu−Zn合金にPbを添加した黄銅は、鋳造性、熱間及び冷間加工性、機械加工性に優れているため、水栓金具、バルブ部品などとして使用されているが、腐食性の水質環境下あるいは温水の下で使用すると、亜鉛が選択的に溶出する脱亜鉛腐食を起こすという問題があった。
【0003】
Cu含有量の高いα黄銅においては、As、P、Sbなどを添加することにより脱亜鉛腐食を防止すること、すなわち、耐脱亜鉛腐食性を高くすることができるが、α黄銅は、理論上67.5%以上のCuを含有し、α+β黄銅に比較して溶解温度が高く、且つ熱間加工時の変形抵抗が大きい。そのため、α黄銅を熱間加工するには、熱間加工温度を高くしなければならず、従ってエネルギーコストが高くなるという問題があった。また、α黄銅は、機械加工時に切削屑が長くつながる傾向があるため、自動旋盤加工に適さないという難点もあった。
【0004】
一方、ある一定量のCu(54.5〜67.5%Cu)を含有するα+β黄銅は、α相中にβ相を均一に分散させることにより、機械加工時の切削屑が細かく分断され、また熱間加工時の変形抵抗も著しく低減されるが、α黄銅において耐脱亜鉛腐食性の向上に効果のあるAs、P、Sbを添加しても、β相の脱亜鉛腐食を抑制することができない。
【0005】
そこで、α+β黄銅のうち、61〜67.5%のCuを含むものは、適当な熱処理を施すことにより、α黄銅に変態させることができることに着目し、まずα+β黄銅にAs、P、Sbを添加し、次いで、熱処理によりα黄銅に変態させることによって、耐脱亜鉛腐食性を高める手法が提案されている。しかしながら、マトリックス組織中のβ相の割合が多い場合には、β相が長手方向に連続して連なっているため、α組織に変態させるための熱処理に長時間を要するという問題があった。
【0006】
このような問題を改善し、耐脱亜鉛腐食性と快削性をそなえ、熱間加工も容易な黄銅として、例えば、特開2001−294956号公報(特許文献1)には、Cu:60.0〜63.0%、Pb:2.0〜3.7%、P:0.02〜0.07%、Sn:0.20〜0.50%、Fe:0.10〜0.20%を含有し、残部Znおよび不可避不純物からなる組成を有し、組織制御されたα+β黄銅材料が開示されている。
【0007】
特許文献1には、従来からの耐脱亜鉛腐食性の指標であったISO法に対しては、特許文献1に開示されている黄銅材料が有効であることが示されており、該黄銅材料は、耐脱亜鉛腐食性黄銅として一定の性能を示すものではある。しかし、近年、日本の実環境を模擬する耐脱亜鉛腐食性の指標として適用される日本伸銅協会法(以下、JBMA法と記載する。)においては、より厳しい脱亜鉛腐食性が求められるようになってきており、引用文献1に開示されている黄銅材料であっても、十分な耐脱亜鉛腐食性能を発揮しないことが明らかとなってきた。
【0008】
【特許文献1】特開2001−294956号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、このような、より厳しい指標に対して、十分な耐脱亜鉛腐食性能を発揮しつつ、且つ加工性及び切削性も優れている黄銅材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、黄銅材料の組成及び組織の組み合わせ、及びその製造条件について、鋭意研究を重ねた結果、黄銅材料の組成及び組織を、特定の範囲とすることにより、耐脱亜鉛腐食性能、加工性及び切削性に優れた黄銅材料が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有し、
且つα相とβ相の2相からなり、β相がα相で分断されている組織を有し、α相の結晶粒径が25μm以下であり、β相の結晶粒径が15μm以下であり、β相に対するα相の相対比率が90%以上であること、
を特徴とする黄銅材料を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する黄銅材であるビレットを、700℃以下の温度で熱間押出し、熱間押出材を得る熱間押出工程と、
該熱間押出材、又は該熱間押出材を冷間加工して得られる冷間加工材を、350〜650℃の温度で熱処理する熱処理工程と、
を有することを特徴とする黄銅材料の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する黄銅材であるビレットを、700℃以下の温度で熱間押出し、熱間押出材を得る熱間押出工程と、
該熱間押出材を、10℃/秒以下の冷却速度で徐冷する冷却工程と、
を有することを特徴とする黄銅材料の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(4)は、Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する黄銅材である被鍛造材を、熱間鍛造し、熱間鍛造材を得る熱間鍛造工程と、
該熱間鍛造材を350〜650℃の温度で熱処理する熱処理工程と、
を有することを特徴とする黄銅材料の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(5)は、Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する黄銅材である被鍛造材を、熱間鍛造し、熱間鍛造材を得る熱間鍛造工程と、
該熱間鍛造材を10℃/秒以下の冷却速度で徐冷する冷却工程と、
を有することを特徴とする黄銅材料の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の黄銅材料によれば、JBMA法のような厳しい指標に対しても耐脱亜鉛腐食性能を発揮できるという、優れた耐脱亜鉛腐食性を有しつつ、且つ加工性及び切削性も優れている黄銅材料を提供することができる。また、本発明の黄銅材料の製造方法によれば、優れた耐脱亜鉛腐食性、加工性及び切削性を備えた黄銅材料を、比較的容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の黄銅材料は、Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有し、
且つα相とβ相の2相からなり、β相がα相で分断されている組織を有し、α相の結晶粒径が25μm以下であり、β相の結晶粒径が15μm以下であり、β相に対するα相の相対比率が90%以上であること、
を特徴とする黄銅材料である。
【0018】
本発明の黄銅材料は、Cuの含有量が60.0〜63.0質量%であるCu−Zn合金であり、添加元素として、Pbを0.9〜3.7質量%、Pを0.08〜0.13質量%、Snを0.10〜0.50質量%、Feを:0.10〜0.50質量%含有する。
【0019】
Cuは、Znより高価であるから、その含有量を出来るだけ低減させることが望ましく、その他の含有成分の影響を考慮し、いずれの温度範囲においてもα相とβ相の2相からなるマトリックスが形成されるように、本発明の黄銅材料中のCuの含有量を63.0質量%以下とする。また、耐脱亜鉛腐食性及び切削性を向上させるためには、熱間加工(熱間押出又は熱間鍛造)の後の熱処理又は徐冷によりβ相を微細に分断させる必要がある。そのためには、該熱間加工後の状態で、β相に対するα相の相対比率を50%以上にすることが好ましいが、Cu含有量が60質量%未満では、その後の冷却条件、熱処理条件を工夫しても、β相を微細に分断させ、且つβ相に対するα相の相対比率を90%以上とすることが困難である。よって、本発明の黄銅材料中のCuの含有量を60.0質量%以上とする。
【0020】
Pbは、黄銅材料のマトリックス中に固溶せず分散粒子として存在し、銅の切削性を向上させるために添加される元素である。本発明の黄銅材料中のPbの含有量は、0.9〜3.7質量%である。該Pbの含有量が、0.9質量%未満だと、Pbによる十分な切削性向上効果が得られず、また、3.7質量%を超えると、機械的性質が低くなり、脆化を生じる傾向がある。
【0021】
Pは、黄銅材料の耐脱亜鉛腐食性を向上させるために添加される元素であり、Pの添加により、特に、α相の耐脱亜鉛腐食性を向上させることができる。JBMA法のような厳しい指標に対して、十分な耐脱亜鉛腐食性を得るためには、本発明の黄銅材料中のPの含有量は、0.08〜0.13質量%であることが必要である。黄銅材料中のPの含有量が0.02質量%以上であれば、一定の耐脱亜鉛腐食性を示すが、JBMA法のような厳しい指標を満足するためには、Pの含有量は0.08質量%以上であることが必要である。一方、黄銅材料中のPの含有量が多過ぎると、材料の機械的性質が低くなったり、脆化し冷間加工性を阻害する。これはPの一部が、硬くて脆いCu3 P相として存在するためである。そのため、本発明の黄銅材料中のPの含有量の上限は、0.13質量%である必要がある。また、Pは、鋳塊の結晶粒を微細化する元素としても機能する。
【0022】
Snは、α相及びβ相の耐脱亜鉛腐食性を向上させるために添加される元素であり、Snの添加により、α相の脱亜鉛腐食を抑制するだけでなく、β相の脱亜鉛腐食を抑制することができる。本発明の黄銅材料中のSnの含有量は、0.20〜0.50質量%の範囲である。該Snの含有量が、0.20質量%未満だと、Snの添加効果が小さく、また、0.50質量%を超えると、熱処理又は徐冷を行ってもβ相の連なりが分断されないことがあり、また、熱処理条件によっては硬くて脆いγ相が析出する場合がある。
【0023】
Feは、機械的性質を安定化させるために添加される元素であり、Feの添加により、α相の粗大化を抑制して機械的性質を安定化させることができる。本発明の黄銅材料中のFeの含有量は、0.10〜0.50質量%の範囲である。該Feの含有量が、0.10質量%未満だと、Feの添加効果が十分でなく、また、0.50質量%を超えると、通常のα+β黄銅の加工温度より高い温度に長時間保持しないと固溶せず、Feが部分的に結晶粒の成長を妨害し、結晶粒径が大小混粒となり易く、機械的性質のばらつきの原因となる。Feが固溶せず残留した場合には抽伸破断の原因となる。
【0024】
本発明の黄銅材料では、Cu、Pb、P、Sn及びFe以外の残部は、Zn及び不可避不純物である。本発明の黄銅材料には、通常、快削黄銅に不可避不純物として含まれる、例えば、0.005%以下のSi、0.03%以下のAl、0.03%以下のMnなどが含有されていても、本発明の効果に影響を与えることはない。
【0025】
Biは、銅合金中に固溶しない等、Pbと似た性質を有し、Pbと同様に、黄銅材料の切削性を向上させる元素として機能するため、本発明の黄銅材料では、PbをBiに置き換えることも可能であり、その場合、本発明の黄銅材料中のBiの含有量は、0.9〜3.7質量%である。
【0026】
本発明の黄銅材料の組織は、(i)黄銅材料のマトリックスがα相とβ相の2相からなり、(ii)β相がα相で分断されている組織を有し、(iii)α相の結晶粒径が25μm以下であり、(iv)β相の結晶粒径が15μm以下であり、(v)β相に対するα相の相対比率(%)が90%以上である。なお、本発明において、β相に対するα相の相対比率A(%)は、JIS H 0501に規定されている切断法により断面観察を行い、下記式:
A(%)={α相の面積/(α相の面積+β相の面積)}×100
で求められる値である。
【0027】
本発明の黄銅材料は、β相がα相で分断されている組織を有すること、すなわち、β相が、P及びSnの添加によって耐脱亜鉛腐食性が向上したα相で包み込まれるような組織形態とすることにより、脱亜鉛腐食が進行し難くなるので、耐脱亜鉛腐食性が高くなる。なお、本発明において、β相がα相で分断されているとは、黄銅材料中の各β相が、α相で囲まれているようにして存在しており、β相が隣合い粒子群を形成していたとしても、そのβ相粒子群の最大長さが、15μm以下であることを指す。
【0028】
本発明の黄銅材料は、更に、α相の結晶粒径が25μm以下であり、β相の結晶粒径が15μm以下であり、且つβ相に対するα相の相対比率が90%以上である。
【0029】
本発明の黄銅材料は、上記組織を有すること、すなわち、黄銅材料の組織が上記(i)〜(v)を満たす必要があり、組織が上記(i)〜(v)を満たすことにより、JBMA脱亜鉛試験において、「基準である最大侵食深さ(全面腐食深さに脱亜鉛腐食深さを加えた深さ)が100μm以下であること」を満足することができる。一方、黄銅材料のα相の結晶粒径が25μmを超えると、最大侵食深さのうち、全面腐食深さが深くなり、最大侵食深さが100μmを超える。また、黄銅材料のβ相の結晶粒径が15μmを超えると、最大侵食深さのうち、脱亜鉛腐食深さが深くなり、最大侵食深さが100μmを超える。また、β相に対するα相の相対比率が90%未満だと、β相の結晶粒径が15μmを超える場合と同様、最大侵食深さのうち、全面腐食深さが深くなり、最大侵食深さが100μmを超える。
【0030】
本発明の黄銅材料を製造する方法としては、特に制限されないが、以下にその形態例を示す。本発明の黄銅材料の製造方法の第一の形態例(以下、本発明の黄銅材料の製造方法(1)とも記載する。)では、先ず、Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する黄銅材であるビレットを、700℃以下の温度で、熱間押出し、熱間押出材を得る熱間押出工程(1)を行う。
【0031】
該熱間押出工程(1)に係る該ビレットは、上記の組成を有する合金を造塊して得られる黄銅材である。該造塊の方法としては、特に制限されない。
【0032】
該熱間押出工程(1)では、700℃以下で熱間押出しを行うことにより、共晶融解を抑止することが可能となるだけでなく、押出段階で、連続したβ相の量を少なくすることが可能である。そして、押出中に発生する加工発熱により、結果的に共晶温度714℃を超えることが懸念されるため、該熱間押出工程(1)では、680℃以下の温度で熱間押出を行うことが望ましい。
【0033】
該熱間押出工程(1)に係る該ビレットは、Cuの含有量が低く、常にα相、β相の2相からなるので、押出加工は容易であり、押出直後の組織は、α+β相からなり、β相は連続した状態で存在している。
【0034】
後述する熱処理工程(1)を行なった後の黄銅材料が、α相の結晶粒径が25μm以下であり、且つβ相の結晶粒径が15μm以下であることを達成するためには、該熱間押出工程(1)を行い得られる該熱間押出材の結晶粒径を、できるだけ小さくすることが望ましいが、これには、該熱間押出工程(1)に係る該ビレットの結晶粒度、押出温度、押出比(ビレット断面積(押出前)/熱間押出材断面積(押出後))などの条件が影響を与える。そして、該ビレットの結晶粒度は、該ビレットのP含有量の影響を受け易く、該ビレットのP含有量が0.08〜0.13質量%であると、該ビレットの結晶粒度を微細化し易くなる。また、該ビレットの結晶粒微細化が十分であると低い温度での押出が可能であり、更にこれに加え高い押出比とすることによって、該熱間押出材の結晶粒径を効果的に微細化することができる。
【0035】
なお、該熱間押出工程(1)では、押出比が大きいことは、結晶粒の微細化に有効であるが、大き過ぎると押出加工が難しくなる。押出温度を上げることで、押出比が大きい場合の押出加工の困難性を回避することができるが、押出温度が高過ぎると、結晶粒が大きくなり過ぎるので、該熱間押出工程(1)では、押出比及び押出温度が適度にバランスした条件であることが望まれる。そして、該熱間押出工程(1)は、押出温度が700℃以下であり、且つ鋳塊の結晶粒の微細化が、0.08〜0.13質量%のPを含有する鋳塊中で行われているという条件にあり、この条件では、押出比は250〜500であることが望ましい。
【0036】
本発明の黄銅材料の製造方法(1)では、次いで、該熱間押出材、又は該熱間押出材を冷間加工して得られる冷間加工材を、350〜650℃の温度で熱処理する熱処理工程(1)を行う。該熱処理工程(1)を行うことにより、Cu−Zn状態図に基づく金相学上の原理に従って、β相の一部がα相に変化して、組織中のα相の存在比率が増大し、その結果、残留したβ相はα相によって分断されα相に包み込まれたような形態となり、α相の結晶粒径が25μm以下、β相の結晶粒径が15μm以下、β相に対するα相の相対比率が90%となる。
【0037】
該熱処理工程(1)において、熱処理温度が、350℃未満だと、β相の分断効果が十分に得られず、また、650℃を越えると、α相からβ相への変態が生じ、β相が増えて連続相となり、耐脱亜鉛腐食性が低くなる。
【0038】
本発明の黄銅材料の製造方法(1)では、該熱処理工程(1)を行った後、熱処理された材料に、更に、抽伸加工、矯正仕上げ加工などを施すことができる。
【0039】
すなわち、本発明の黄銅材料の製造方法(1)は、Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する黄銅材である該ビレットを、700℃以下の温度で、熱間押出し、該熱間押出材を得る熱間押出工程(1)と、
該熱間押出材、又は該熱間押出材を冷間加工して得られる冷間加工材を、350〜650℃の温度で熱処理する熱処理工程(1)と、
を有する黄銅材料の製造方法である。
【0040】
本発明の黄銅材料の製造方法の第二の形態例(以下、本発明の黄銅材料の製造方法(2)とも記載する。)では、先ず、熱間押出工程(2)を行い、熱間押出材を得る。該熱間押出工程(2)は、本発明の黄銅材料の製造方法(1)に係る該熱間押出工程(1)と同様であり、押出比についても同様である。
【0041】
本発明の黄銅材料の製造方法(2)では、次いで、該熱間押出材を10℃/秒以下の冷却速度で徐冷する冷却工程(2)を行う。
【0042】
該冷却工程(2)では、700℃以下で熱間押出した該熱間押出材を、10℃/秒以下の冷却速度で徐冷することにより、Cu−Zn状態図に基づく金相学上の原理に従って、β相の一部がα相に変化して、組織中のα相の存在比率が増大し、その結果、残留したβ相はα相によって分断されα相に包み込まれたような形態となり、α相の結晶粒径が25μm以下、β相の結晶粒径が15μm以下、β相に対するα相の相対比率が90%となる。
【0043】
一方、該冷却工程(2)において、冷却速度が10℃/秒を超えると、650℃を超える高温領域では、β相からβ+α相への変態が生じるため、拡散距離が短範囲で足りるから問題ないが、650℃以下の温度領域では、β相からα相への変態が生じるため、長範囲の拡散が必要となり、冷却速度に拡散速度が追随し切れず、β相の分断が不十分となり、耐脱亜鉛腐食性が低くなる。
【0044】
本発明の黄銅材料の製造方法(2)では、該冷却工程(2)を行った後、熱処理された材料に、更に、抽伸加工、矯正仕上げ加工などを施すことができる。
【0045】
すなわち、本発明の黄銅材料の製造方法(2)は、Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する黄銅材である該ビレットを、700℃以下の温度で、熱間押出し、該熱間押出材を得る熱間押出工程(2)と、
該熱間押出材を、10℃/秒以下の冷却速度で徐冷する冷却工程(2)と、
を有する黄銅材料の製造方法である。
【0046】
本発明の黄銅材料の製造方法の第三の形態例(以下、本発明の黄銅材料の製造方法(3)とも記載する。)では、先ず、Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する黄銅材である被鍛造材を、熱間鍛造し、熱間鍛造材を得る熱間鍛造工程(3)を行う。
【0047】
該熱間鍛造工程(3)に係る該被鍛造材としては、上記の組成を有する合金を造塊し、次いで、熱間押出した黄銅材や、熱間押出後引抜加工された黄銅材等が挙げられる。該被鍛造材は、α相とβ相の混合組織であるため、熱間加工性に優れ、熱間鍛造に供すること、特に金型鍛造に供することに適している。該金型鍛造とすることにより、共晶温度よりも高い温度での熱間鍛造が可能となる。
【0048】
該熱間鍛造工程(3)において、鍛造温度は、鍛造時の塑性流動性や、鍛造後組織の耐食性への影響を考慮すると、600〜850℃が好適である。
【0049】
本発明の黄銅材料の製造方法(3)では、次いで、該熱間鍛造材を、350〜650℃の温度で熱処理する熱処理工程(3)を行う。該熱処理工程(3)を行うことにより、Cu−Zn状態図に基づく金相学上の原理に従って、β相の一部がα相に変化して、組織中のα相の存在比率が増大し、その結果、残留したβ相はα相によって分断されα相に包み込まれたような形態となり、α相の結晶粒径が25μm以下、β相の結晶粒径が15μm以下、β相に対するα相の相対比率が90%となる。
【0050】
該熱処理工程(3)において、熱処理温度が、350℃未満だと、β相の分断効果が十分に得られず、また、650℃を越えると、α相からβ相への変態が生じ、β相が増えて連続相となり、耐脱亜鉛耐食性が低くなる。
【0051】
本発明の黄銅材料の製造方法(3)では、該熱処理工程(3)を行った後、熱処理された材料に、更に、抽伸加工、矯正仕上げ加工などを施すことができる。
【0052】
すなわち、本発明の黄銅材料の製造方法(3)は、Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する該被鍛造材を、熱間鍛造し、該熱間鍛造材を得る熱間鍛造工程(3)と、
該熱間鍛造材を、350〜650℃の温度で熱処理する熱処理工程(3)と、
を有する黄銅材料の製造方法である。
【0053】
本発明の黄銅材料の製造方法の第四の形態例(以下、本発明の黄銅材料の製造方法(4)とも記載する。)では、先ず、熱間鍛造工程(4)を行い、熱間鍛造材を得る。該熱間鍛造工程(4)は、本発明の黄銅材料の製造方法(3)に係る該熱間鍛造工程(3)と同様である。
【0054】
本発明の黄銅材料の製造方法(4)では、次いで、該熱間鍛造材を、10℃/秒以下の冷却速度で徐冷する冷却工程(4)を行う。
【0055】
該冷却工程(4)では、600〜850℃で熱間鍛造した該熱間鍛造材を、10℃/秒以下の冷却速度で徐冷することにより、Cu−Zn状態図に基づく金相学上の原理に従って、β相の一部がα相に変化して、組織中のα相の存在比率が増大し、その結果、残留したβ相はα相によって分断されα相に包み込まれたような形態となり、α相の結晶粒径が25μm以下、β相の結晶粒径が15μm以下、β相に対するα相の相対比率が90%となる。
【0056】
一方、該冷却工程(4)において、冷却速度が10℃/秒を超えると、650℃を超える高温領域では、β相からβ+α相への変態が生じるため、拡散距離が短範囲で足りるから問題ないが、650℃以下の温度領域では、β相からα相への変態が生じるため、長範囲の拡散が必要となり、冷却速度に拡散速度が追随し切れず、β相の分断が不十分となり、耐脱亜鉛腐食性が低くなる。
【0057】
本発明の黄銅材料の製造方法(4)では、該冷却工程(4)を行った後、熱処理された材料に、更に、抽伸加工、矯正仕上げ加工などを施すことができる。
【0058】
本発明の黄銅材料の製造方法(3)及び本発明の黄銅材料の製造方法(4)は、特に、熱間鍛造工程の前工程である押出工程にて、十分な押出比がとれず、押出材におけるα相、β相の結晶粒が十分に微細化されない場合等において、該熱間鍛造工程(3)又は該熱間鍛造工程(4)を採用することにより、α相、β相の結晶粒の微細化が十分に図れるため、本発明の黄銅材料の製造に有効である。
【0059】
本発明の黄銅材料、及び本発明の黄銅材料の製造方法により得られた黄銅材料は、水栓金具や、炭酸ガス冷媒給湯機の継手等に、好適に用いられる。
【0060】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明するとともに、それに基づいてその効果を実証する。なお、これらの実施例は、本発明の好ましい一実施態様を説明するためのものであって、これにより本発明が制限されるものではない。
【実施例】
【0061】
<実施例1及び比較例1・・・合金成分の比較>
(実施例1)
切りくず等の再生原料を主原料とし、これに新地金を混合して添加元素の濃度を調整し、表1に示す組成の合金を溶解、鋳造し、直径294mmのビレットに造塊した。
得られた鋳塊を、640℃の温度で直径18mmの棒材に押出加工した後、断面減少率10%で抽伸加工し、次いで、480℃、2時間の条件で熱処理し、さらに断面減少率20%で抽伸した後、矯正仕上げ加工した。なお、電気炉を使用して所定温度に所定時間保持した後、徐冷することにより熱処理を行った。押出比は約270であった。
矯正仕上げ加工後、No.1〜11の試験材を得た。
【0062】
【表1】

1)表中、Znの組成の「R」は、残部がZnであることを指す。
【0063】
(比較例1)
実施例1と同様に、切りくず等の再生原料を主原料とし、これに新地金を混合して添加元素の濃度を調整し、表2に示す組成の合金を溶解、鋳造し、直径294mmのビレットに造塊した。
得られた鋳塊を、640℃の温度で直径18mmの棒材に押出加工した後、断面減少率10%で抽伸加工し、次いで、480℃、2時間の条件で熱処理し、さらに断面減少率20%で抽伸した後、矯正仕上げ加工した。なお、電気炉を使用して所定温度に所定時間保持した後、徐冷することにより熱処理を行った。押出比は約270であった。
矯正仕上げ加工後、No.12〜21の試験材を得た。
【0064】
【表2】

1)表中、Znの組成の「R」は、残部がZnであることを指す。
【0065】
矯正仕上げ加工後の試験材について、下記の方法により組織観察し、また、加工性、耐脱亜鉛腐食性、切削性を評価した。評価結果を、実施例1について表3、比較例1について表4に示す。
【0066】
(1)組織観察
矯正仕上げ加工後の試験材の縦断面を顕微鏡で観察し、β相が連続状か分断状かを確認した。表3及び表4において、βcはβ相が連続状のものを示し、βdはβ相が分断状のものを示す。なお、断面観察において、β相が隣合い粒子群を形成していたとしても、そのβ相粒子群の最大長さが、15μm以下である場合を「分断状」と、そうでない場合を「連続状」とした。
また、JIS H 0501に規定された切断法により、α相粒径及びβ相粒径並びにβ相に対するα相の相対比率A(%)を測定した。
A(%)={α相の面積/(α相の面積+β相の面積)}×100
【0067】
(2)加工性
押出加工及び抽伸加工中に、破断あるいは割れが生じたものを不合格(×)、欠陥を生じることなく加工できたものを合格(○)とした。
【0068】
(3)耐脱亜鉛腐食性の評価
耐脱亜鉛腐食性を、JBMA−T303法により評価した。その手順は下記のとおりであるが、試験標準に範囲として規定されている条件を、一部固定して行った。
曝露試験面は棒の加工方向に直角な断面として、暴露面積は150mmとした。エポキシ系樹脂に埋込んだ後、試験片に接着固定したビニール被覆銅線を、アクリル系保護管を通して樹脂側面から取り出し、曝露試験面を研磨、水洗した(以下、電極試料と記載する。)。
1000mLの水に重炭酸ナトリウム0.40g及び塩化ナトリウム29.22gを溶解して試験液とし、60±2℃に調整した恒温水槽内に試験液1000mLを入れ、混合ガスCO+O+N(10:20:70)を通して飽和させた(pH6.5〜7.5)。なお、試験中は飽和状態を維持するため、混合ガスを連続注入した。試験槽中に白金電極と電極試料をセットし、定電流発生装置に連結し、電流密度1.0mA/cmで24時間電流を印加した。試験終了後、暴露面に対し垂直な断面の観察を行い、最大侵食深さの測定を行った。なお、最大侵食深さとは、全面溶解深さと脱亜鉛深さとの合計深さをいう。
脱亜鉛腐食深さ100μm以下(すなわち、実用上、脱亜鉛腐食の問題が生じない深さ)のものを合格(○)、脱亜鉛腐食深さが100μmを超えるものを不合格(×)とした。
【0069】
(4)切削性
一定の条件で切削加工を行い、切粉が細かく分断して切削性が優れていたものを合格(○)、切屑が連続したものを不合格(×)とした。
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
表3にみられるように、実施例1の試験材No.1〜11はいずれも、β相がα相で分断された組織形態を示し、熱間加工性及び冷間加工性は良好であり、優れた切削性、耐脱亜鉛腐食性を示した。
【0073】
一方、表4に示すように、比較例1の試験材No.12はCu含有量が低いため、高温長時間の熱処理を行ってもβ相が分断されず脱亜鉛腐食性が改善されない。また、β相存在率が高いため冷間加工性が劣り、抽伸加工で破断が生じた。
試験材No.13はCu量が多いため、β相存在率が低く熱間加工時の変形抵抗が高くなり、押し詰まりが生じた。700℃まで温度を上昇させても押出しすることはできなかった。
試験材No.14はPb含有量が低いため、切削屑が螺旋状に連なり十分な切削性が得られなかった。
試験材No.15はPb量が多いため、熱間加工時にPbの溶融に起因して割れが生じ、割れを抑制するためには押出速度を低下させなければならなかった。また、Pbを起点として抽伸時に破断が生じた。
試験材No.16は、Pの含有量が少ないため、100μmを越える深さの脱亜鉛腐食が生じた。
試験材No.17はP量が多いため、熱間押出し時に共晶割れが発生し、以後の試験に供することができなかった。
試験材No.18はSn含有量が低いため、β相の脱亜鉛腐食を抑制する効果が不十分となり100μmを越える深さの脱亜鉛腐食が生じた。
試験材No.19はSn量が多いため、γ相が析出しγ相を起点として抽伸時に破断が生じた。
試験材No.20はFe含有量が低いため、高温の熱処理においてα相の粗大化が生じ、抽伸加工時の延性不足に起因して割れが生じた。また粒界腐食により、耐食性も満足することができなかった。
試験材No.21はFe量が多いため、押出温度の640℃ではFeが完全に固溶せず、残留したFeが起点となって抽伸時に破断が生じた。
【0074】
<実施例2及び比較例2・・・熱間押出後の冷却速度・熱処理条件の比較>
(実施例2)
切りくず等の再生原料を主原料とし、これに新地金を混合して添加元素の濃度を調整し、表5に示す組成の合金を溶解、鋳造し、直径294mmのビレットに造塊した。
No.22及びNo.23では、得られた鋳塊を、640℃の温度で直径18mmの棒材に押出加工した後、断面減少率10%で冷間抽伸加工し、次いで、No.22では350℃、5時間の条件で、No.23では650℃、1時間の条件で、熱処理し、更に断面減少率20%で冷間抽伸加工した後、矯正仕上げ加工した。なお、電気炉を使用して所定温度に所定時間保持した後、徐冷することにより熱処理を行った。押出比は約270であった。
また、No.24では、得られた鋳塊を、640℃の温度で直径18mmの棒材に押出加工した後、冷却速度10℃/秒で冷却し、断面減少率20%で冷間抽伸加工した後、矯正仕上げ加工した。押出比は約270であった。
矯正仕上げ加工後、No.22〜24の試験材を得た。
【0075】
【表5】

1)表中、Znの組成の「R」は、残部がZnであることを指す。
【0076】
(比較例2)
実施例2と同様に、切りくず等の再生原料を主原料とし、これに新地金を混合して添加元素の濃度を調整し、表6に示す組成の合金を溶解、鋳造し、直径294mmのビレットに造塊した。
No.25及びNo.26では、得られた鋳塊を、640℃の温度で直径18mmの棒材に押出加工した後、断面減少率10%で冷間抽伸加工し、次いで、No.25では340℃、5時間の条件で、No.26では660℃、1時間の条件で、熱処理し、さらに断面減少率20%で冷間抽伸加工した後、矯正仕上げ加工した。なお、電気炉を使用して所定温度に所定時間保持した後、徐冷することにより熱処理を行った。押出比は約270であった。
また、No.27では、得られた鋳塊を、640℃の温度で直径18mmの棒材に押出加工した後、冷却速度11℃/秒で冷却し、断面減少率20%で冷間抽伸加工した後、矯正仕上げ加工した。押出比は約270であった。
また、No.28では、得られた鋳塊を、710℃の温度で直径18mmの棒材に押出加工した後、断面減少率10%で冷間抽伸加工し、ついで、480℃、2時間の条件で、熱処理し、さらに断面減少率20%で冷間抽伸加工した後、矯正仕上げ加工した。なお、電気炉を使用して所定温度に所定時間保持した後、徐冷することにより熱処理を行った。押出比は約270であった。
また、No.29では、得られた鋳塊を、640℃の温度で直径50mmの棒材に押出加工した後、冷却速度10℃/秒で冷却し、断面減少率20%で冷間抽伸加工した後、矯正仕上げ加工した。押出比は約35であった。
矯正仕上げ加工後、No.25〜29の試験材を得た。
【0077】
【表6】

1)表中、Znの組成の「R」は、残部がZnであることを指す。
【0078】
矯正仕上げ加工後の試験材について、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を実施例2について表7、比較例2について表8に示す。
【0079】
【表7】

【0080】
【表8】

【0081】
表7にみられるように、実施例2の試験材No.22〜24はいずれも、β相がα相で分断された組織形態を示し、熱間加工性及び冷間加工性は良好であり、優れた切削性、耐脱亜鉛腐食性を示した。
【0082】
一方、表8に示すように、比較例2の試験材No.25は、熱処理温度が低いため、β相が完全に分断されず十分な耐脱亜鉛腐食性が得られなかった。また、熱処理後のβ相存在率が高いため抽伸時に破断が生じた。
試験材No.26は、熱処理温度が高いため、β相存在率が高くなり脱亜鉛腐食が顕著となり、抽伸時の破断発生率も大きくなった。
試験材No.27は、押出後の冷却速度が大きいためα相の析出が不十分となり、β相存在率が高く且つβ相がα相により分断されず、十分な耐脱亜鉛腐食性が得られなかった。また、抽伸時の破断発生率も大きくなった。
試験材No.28は、熱間押出し温度が高いために割れが発生し、以後の試験に供することができなかった。
試験材No.29は、押出比が低いため、α相、β相の結晶粒度が大きく、十分な耐脱亜鉛腐食性は得られなかった。
【0083】
<実施例3及び比較例3・・・・熱間押出後の冷却速度・熱処理条件の比較>
(実施例3)
試験材No.5を用い、呼び径20Aの水栓バルブを750℃で熱間鍛造し、No.30では350℃、6時間の条件で熱処理を行い、No.31では650℃、1時間の条件で熱処理を行い、No.32では冷却速度10℃/秒で冷却を行って、No.30〜32の試験材を得た。
また、試験材No.27を用い、呼び径20Aの水栓バルブを750℃で熱間鍛造し、350℃、6時間の条件で熱処理を行って、No.33の試験材を得た。
なお、No.30、31及び33の試験材については、電気炉を使用して所定温度に所定時間保持した後、徐冷することにより熱処理を行った。
【0084】
【表9】

1)表中、Znの組成の「R」は、残部がZnであることを指す。
【0085】
(比較例3)
実施例3と同様、試験材No.5を用い、呼び径20Aの水栓バルブを750℃で熱間鍛造し、No.34では340℃、6時間の条件で熱処理を行い、No.35では660℃、1時間の条件で熱処理を行い、No.36では冷却速度11℃/秒で冷却を行って、No.34〜36の試験材を得た。なお、No.34及び35の試験材についは、電気炉を使用して所定温度に所定時間保持した後、徐冷することにより熱処理を行った。
【0086】
【表10】

1)表中、Znの組成の「R」は、残部がZnであることを指す。
【0087】
熱間鍛造後の試験材について、実施例1と同様の評価を行った。ただし、加工性の評価は熱間のみとし、熱間鍛造中に割れが生じたものを不合格(×)、欠陥を生じることなく加工できたものを合格(○)とした。
評価結果を実施例3について表11、比較例3について表12に示す。
【0088】
【表11】

【0089】
【表12】

【0090】
表11にみられるように、実施例3の試験材No.30〜33はいずれも、β相がα相で分断された組織形態を示し、熱間加工性は良好であり、優れた切削性、耐脱亜鉛腐食性を示した。
【0091】
一方、表12に示すように、比較例3の試験材No.34は、熱処理温度が低いため、α相比率が90%を下回り、十分な耐脱亜鉛腐食性が得られなかった。
試験材No.35は、熱処理温度が高いため、β相比率が10%を超え、且つβ相粒径が15μmを超えたため、脱亜鉛腐食が顕著となった。
試験材No.36は、熱間鍛造後の冷却速度が大きいためα相の析出が不十分となり、β相比率が10%を超え、且つβ相粒径が15μmを超えたため、十分な耐脱亜鉛腐食性が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有し、
且つα相とβ相の2相からなり、β相がα相で分断されている組織を有し、α相の結晶粒径が25μm以下であり、β相の結晶粒径が15μm以下であり、β相に対するα相の相対比率が90%以上であること、
を特徴とする黄銅材料。
【請求項2】
Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する黄銅材であるビレットを、700℃以下の温度で熱間押出し、熱間押出材を得る熱間押出工程と、
該熱間押出材、又は該熱間押出材を冷間加工して得られる冷間加工材を、350〜650℃の温度で熱処理する熱処理工程と、
を有することを特徴とする黄銅材料の製造方法。
【請求項3】
Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する黄銅材であるビレットを、700℃以下の温度で熱間押出し、熱間押出材を得る熱間押出工程と、
該熱間押出材を、10℃/秒以下の冷却速度で徐冷する冷却工程と、
を有することを特徴とする黄銅材料の製造方法。
【請求項4】
Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する黄銅材である被鍛造材を、熱間鍛造し、熱間鍛造材を得る熱間鍛造工程と、
該熱間鍛造材を350〜650℃の温度で熱処理する熱処理工程と、
を有することを特徴とする黄銅材料の製造方法。
【請求項5】
Cu:60.0〜63.0質量%、Pb:0.9〜3.7質量%、P:0.08〜0.13質量%、Sn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.10〜0.50質量%を含有し、残部Zn及び不可避不純物からなる組成を有する黄銅材である被鍛造材を、熱間鍛造し、熱間鍛造材を得る熱間鍛造工程と、
該熱間鍛造材を10℃/秒以下の冷却速度で徐冷する冷却工程と、
を有することを特徴とする黄銅材料の製造方法。

【公開番号】特開2009−74156(P2009−74156A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246751(P2007−246751)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(301073392)サンエツ金属株式会社 (9)
【Fターム(参考)】