説明

2−フェニルピリジン系化合物及び液晶組成物

【課題】 本発明は、種々の液晶化合物と混合可能で、熱的に安定であり、液晶表示素子に使用した場合に電流値の増加がおきにくい新規な液晶化合物及び液晶組成物を提供する。
【解決手段】式(I):
【化1】


(式中Xはトリフルオロメチル基又はジフルオロメチル基であり、Yはハロゲン原子であり、Zは炭素数2〜12のアルキル基又は炭素数2〜12のアルコキシ基であり、mは0〜2の整数である。)で表される2-フェニルピリジン系化合物及びそれらの少なくとも1種を含有する液晶組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子に使用される液晶組成物の成分として有用な新規なネマティック液晶化合物とその液晶組成物及びそれを用いた液晶表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、少なくとも一方が透明な2枚の基板間に挟持した液晶組成物の液晶分子を予め所定の初期配向状態に配列せしめ、ここに外部場(一般には電場)を印加することによって前記液晶分子の配列変化を利用して表示を行うものである。なお、前記2枚の基板の外面には、偏光板及び又は必要に応じて位相差板が所定の軸関係で設置されており、これらの素子によって、前記2枚の基板間の液晶分子(液晶層)の光学的変化が可視化されて表示が行われる。
【0003】
液晶表示素子に利用される電気光学効果には、動的散乱効果型(DSM効果)、ゲスト・ホスト型(GH型)、ねじれネマティック型(TN型)、超ねじれネマティック型(STN型)、垂直配向型(VA型)、平面内スイッチング型(IPS型)、複屈折型(ECB型)、強誘電(FLC型)または反強誘電型(AFLC型)、光学補償ベンド型(OCB型)等多くのタイプが知られている。
またこれらの表示モードの駆動方式として、スタティック駆動方式、パッシブ(マルチプレクス)駆動方式、2周波駆動方式あるいはアクティブマトリクス駆動方式(TFT駆動方式)等が採用されている。
現在、市場でもっとも広く利用されているものは、例えば大型液晶テレビや携帯用情報端末用にアクティブマトリクス駆動のTN型、VA型あるいはIPS型やマルチプレクス駆動型のSTN型である。
【0004】
また、液晶表示素子に使用される液晶材料には、スメクティック液晶、コレステリック液晶及びネマティック液晶等があり、これらそれぞれの液晶材料は、利用される電気光学効果と初期の液晶分子配列の種類に応じて、誘電異方性(Δε)が正または負のものが選択される。例えば、GH型を初期に基板面にほぼ水平に(homogeneous)配列させた場合には正の誘電異方性液晶組成物が、一方、初期に基板面に垂直に(homeotropic)配列させた場合には負の誘電異方性液晶組成物が、それぞれ使用される。
【0005】
液晶表示素子は、その他の平面型表示素子(フラットパネルディスプレイ)に較べ、駆動電圧が低く消費電力が小さいこと 非発光型素子で消費電力が小さく、また目が疲れにくいこと等のために、リストウオッチ、電卓、オーディオ機器、計測器等に広く利用されてきている。そしてさらに最近ではパーソナルコンピュータ、高精細カラーテレビ、個人情報端末(PDA)、携帯電話等にもさらにその用途が広がりつつある。このような用途の拡大にともない液晶材料に要求される特性もさらに高度化しつつある。例えば、1)光、熱あるいは電気・化学的に安定なこと、2)電気光学特性のしきい電圧や駆動電圧が低いこと、3)電圧−光透過率特性が急峻なこと、4)しきい電圧やレスポンスの温度依存性が小さいこと、5)視角範囲が広いこと等である。
【0006】
しかしながら、上述の諸特性を同時に満足することははなはだ困難である。
すなわち情報端末機器においては広い動作温度範囲とともに低電圧駆動と高速応答性が、パーソナルコンピュータ等OA機器では高精細表示、高コントラスト、広視角あるいは高速応答性が望まれており、これらはいずれかの特性を改善しようとすると他のいずれかの特性が犠牲になるという傾向がある。
【0007】
そして多くの要求特性を同時に満足する単一の液晶化合物はほとんど存在せず、多くの特性を満足させるために、通常は数種類以上のネマティック液晶化合物あるいは非液晶化合物を混合した液晶組成物を用いている。従って、種々の液晶化合物との相溶性も重要な性質である。
【0008】
例えば特許文献:特開昭51−80870号公報に記載の液晶化合物では、低しきい電圧値と高速応答の目的で、フェニルピリミジン系化合物が開示されている。この化合物系の特に正の誘電異方性を有するもの(フェニル末端基にシアノ基が導入されている。)は、低いしきい電圧値と電圧−光透過率特性の急峻性を特徴にして利用されてきた。しかし、視角と相関のある屈折率の異方性:Δn、低温度域での粘度変化が大きい傾向を示している。
【0009】
その改善策として、粘度(液晶表示パネルでは、バルク粘度よりも特に「回転粘度:ν1」なる値がレスポンスと強い相関があることが知られている。)及びその温度依存性を小さくするために、多くの材料が開発されてきた。例えば、特許文献:特開昭58−10552号公報には、2つのシクロへキサン環(ビシクロ)を有するシアノフェニル系液晶化合物が、また特開昭59−152362号公報には、このビシクロシアノフェニル系化合物のフェニル基にシアノ基とオルト位にフッ素原子がさらに導入された液晶化合物が開示されている。このように3環系にすることにより、広い温度範囲を得るとともに、低粘性と比較的小さな屈折率異方性を実現しているが、前記化合物系では、電圧―光透過率特性における急峻性やその他の液晶化合物との相溶性が必ずしも良くない傾向にある。
【0010】
【特許文献1】特開昭51−80870号公報
【特許文献2】特開昭58−10552号公報
【特許文献3】特開昭59−152362号公報
【0011】
また、これまでに述べた一連のシアノ基を末端に導入した構造の化合物では、しきい電圧値を下げるには有効であるものの、反面原料不純物や合成段階で生ずる副生成物等を通常の化学的生成法で除去することが困難である(その要因は、これらの化合物では、その分子内の極性が著しく強いため、不純物や副生成物が強く会合しているためと考えられている。)。そして、表示素子の動作・保存温度が高くなった場合に、それら不純物によって消費電流値が増加し、極端な場合には電位降下のために表示消えが発生することもある。
【0012】
ここで、液晶表示素子に使用される液晶組成物の物性値と表示素子の特性との関係を、しきい電圧の例を取り上げてより詳しく説明する。
【0013】
しきい電圧は、一般に下記式(1)のように、基板間に挟まれた液晶分子の初期配列状態で決まる弾性定数と誘電異方性との比で表される。そのため、しきい電圧を下げる(駆動電圧を下げることにつながる)ためには、大きな誘電異方性と小さな弾性定数が必要とされる。
【0014】
種々の液晶表示モードに対しては、一般に式(1)
【0015】
【数1】

但し K :初期の液晶分子配向で決まる弾性定数
ε0:真空の比誘電率
|Δε|:液晶の誘電異方性の絶対値
例)TNの場合
K=K11+1/4(K33−2K22)
K11:広がり (splay)
K22:ねじれ (twist)
K33:曲がり (bend) の弾性定数
で表されるが、単純マトリクス駆動の場合と、TFTアクティブマトリクス駆動の場合とでは、若干要求特性が異なっている。つまり、TN単純マトリクス駆動の場合、コントラストを良くするにはK33/K11の比が小さいものが好ましいが、一方TFTアクティブマトリクス駆動の場合には、中間調を再現性良く表示するためにK33/K11の比が大きい系が好ましいとされる。
【0016】
なお、一般にΔεが大きい分子では、一般に屈折率nも増大し(一般にマックスウェルの方程式の関係から、n∝√ε)、且つ分子間相互作用も強くなるため、ほとんどの化合物では粘度も同時に増加してしまう。
【0017】
さらに屈折率が増大することにより、液晶表示素子の重要な特性である視角特性にも影響を与える。液晶表示素子面に垂直入射する光の透過強度は、一般に下記式(2)で表される。
【0018】
【数2】

但し I :出射光強度
I0:入射光強度
θ :初期配向軸と偏光板の軸のなす角
Δn :液晶の屈折率異方性 =n−n
但し n:異常光屈折率
:通常光屈折率
d :液晶層の厚み
λ :可視光波長
【0019】
したがって、ある波長における液晶層の透過率は液晶のΔnにほぼ比例して変化するため、Δnが大きい場合、上記(2)式に示す{ }内のパラメータの変化が大きくなり、さらに法線からはずれた方向から観察する場合には観察方向によってコントラスト・色調が大きく変化する。すなわち、(2)式において、屈折率異方性Δn=n−nを、
【0020】
【数3】

で置き換えた形となる。(但し、法線方向からのずれ角度を90°−αとする。)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
このように、液晶表示素子の要求特性に大きな影響を及ぼす物性値(屈折率異方性、誘電異方性、弾性定数、粘度或いはこれらの温度依存性等)はそれぞれ独立して制御しにくく、且つ相反する傾向を示すことが多い。そのため、他の液晶化合物との相溶性が良く、また理想的には相反する性質を示さないか、或いはこれらの物性値を独立して制御可能な新規液晶化合物が強く望まれている。
【0022】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、液晶表示素子に使用される液晶組成物の成分として有用な新規なネマティック液晶化合物とその液晶組成物及びおよびそれを用いた液晶表示素子を与えるものであり、種々の液晶化合物と混合可能で、熱的に安定であり、液晶表示素子に使用した場合に電流値の増加がおきにくい新規な液晶化合物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、式(I)
【0024】
【化1】

(式中Xはトリフルオロメチル基又はジフルオロメチル基であり、Yはハロゲン原子であり、Zは炭素数2〜12のアルキル基又は炭素数2〜12のアルコキシ基であり、mは0〜2の整数である。)で表される2-フェニルピリジン系化合物は、種々の液晶化合物と混合可能で、熱的に安定であり、液晶表示素子に使用した場合に電流値の増加がおきにくい新規な液晶化合物が提供される。さらに、本発明の2-フェニルピリジン系化合物を液晶表示素子の液晶組成物に用いると、基板に対し数度のプレティルト角が発現しやすい、あるいは粘度の温度依存性が小さい傾向にあるという付随効果もある。
【発明の効果】
【0025】
本発明の2-フェニルピリジン系液晶化合物とそれを含む液晶組成物及びそれを用いた液晶表示素子においては、種々の既存の液晶化合物、例えばビフェニル系、フェニルエステル系、ピリミジン系、フェニルシクロへキサン系、ビシクロヘキサン系等と混合可能である。また、これらの既存液晶化合物を溶解した場合、熱的に安定で高温でも消費電流値の増加が少ない傾向を示す。これは、本発明の化合物が、フッ素原子を含む末端基を有すること、適度な極性を持つことと関連があると考えられる。或いはまた、本発明の化合物は、混合される母液晶の種類に多少依存するものの、ラビング法によって基板界面で数度のプレティルト角が得られやすい傾向にある。従って、表面にミクロンレベルの凹凸形状があるマトリクスタイプの基板にも、逆ティルト(reverse tilt)ドメインが抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る2-フェニルピリジン系化合物の製造方法について記載する。
本発明に係る化合物は、例えば、次のようなA:或いはB:のルートによって製造することができる。
【0027】
【化2】

【0028】
(式中X、Y、Z及びmは前述の通りであり、nは2〜12の整数である)
上記A或いはBの方法のS1では、化合物1と2又は2'とを炭酸カリウム等の塩基の存在下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム或いは酢酸パラジウムとトリフェニルホスフィンからなるパラジウム触媒及びエチレングリコールジメチルエーテル等の溶媒と共に窒素雰囲気下、室温〜160℃、1〜24時間反応させる。この反応は通常スズキカップリング反応と呼ばれている反応である。次いでBの方法のS2では、得られた化合物3'を臭化水素酸と共に酢酸中で室温〜150℃、1〜30時間、攪拌・反応させる。その後、化合物4とブロモアルカンとを炭酸カリウム等の塩基と共にアセトン等の溶媒中で室温〜還流温度で、1〜24時間反応させる。
【実施例】
【0029】
具体的な合成例を記載する。
合成例1
2-(4-メトキシフェニルl)-5-トリフルオロメチルピリジン の調製
水67 mlに2-クロロ-5-トリフルオロメチルピリジン(3.0 g, 1.65 mmol)、4-メトキシフェニルボロン酸 (2.50 g, 1.25 mmol)、炭酸カリウム(6.67 g, 3.33 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.17 g, 0.085 mmol)及びエチレングリコールジメチルエーテル(50 ml)を加え、その混合物を窒素雰囲気下 80 ℃で3時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却し、100 mlの水で希釈した。トルエンで抽出し、無水MgSO4.で乾燥した。固形残渣を濾去し、ヘキサンで洗浄した後、濾液の溶媒を留去して、3.734g(89%)の淡黄色結晶を得た。分析用にその一部分を真空中で昇華した。融点120 ℃ EI-MS (m/z): 254 (M++1, 16%), 253 (M+, 100%), 238 (M+-Me, 25%). 1H-NMR δ: 3.89 (3H, s), 7.02 (d, 2H, J=9.2), 7.93 (1H, dd, J=2.2, 8.4), 8.01 (2H, d, J=9.2), 8.89 (1H, d, J=2.2)
【0030】
2-(4-ヒドロキシフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジンの調製
2-(4-メトキシフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジン (1) (300 mg, 1.19 mmol)を48% 臭化水素酸3 mlと共に酢酸3 ml中で攪拌した(100℃で15時間)。反応混合物を冷水中に注ぎ、NaOHでpH 11-12とし、エーテルで洗浄した。アルカリ水溶液をpH 6以下の酸性とし、一晩静置した。析出した固形物を濾取し、冷水で洗浄した後、乾燥した。収量は219 mg (77%)であった。分析用に一部を真空中で昇華した。融点132 ℃。EI-MS (m/z): 240 (M++1, 15%), 239 (M+, 100%), 170 (M+-CF3, 19%). 1H-NMR δ: 6.91 (2H, d, J=8.6), 7.76 (1H, d, J=8.6), 7.91 (2H, d, J=8.6), 7.95 (1H, d, J=8.6), 8.89 (1H, s)
【0031】
2-(4-ペンチルオキシフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジンの調製
2-(4-ヒドロキシフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジン(2) (500 mg, 2.1 mmol)とn-ペンチルブロマイド (378 mg, 2.5 mmol)の混合物を炭酸カリウム(428 mg, 3.1 mmol)と共に 40 mlのアセトン中で、14時間加熱還流した。アセトンを溜去後、残渣をイソプロピルエーテルで抽出し、無水MgSO4で乾燥した後、イソプロピルエーテルを溜去した。残渣をヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。分析用に一部を真空中で昇華した。収量は525 mg (81%)であった。融点91-92℃。EI-MS (m/z): 310 (M++1, 19%), 309 (M+, 74%), 240 (M+-CF3, 19%), 239 (M+-C5H11, 100%). 1H-NMR δ: 0.94 (3H, t, J=9.9), 1.37-1.57 (4H, m), 1.80-1.85 (m, 2H), 4.03 (2H, t, J=6.6), 7.00 (2H, d, J=8.8), 7.77 (1H, d, J=8.4), 7.92 (1H, dd, J=1.7/8.4), 7.99 (2H, d, J=8.8), 8.89 (1H, d, J=1.7).
【0032】
次に、前記式(I)で表される本発明化合物の代表例を表1に、それらの物性を表3に挙げるが、これら化合物は前記合成例或は前記した本発明化合物の種々の製造方法に基づいて合成することができる。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
以下、本発明の液晶化合物について、種々の特性を説明する。
表4は、本発明及び従来から知られている典型的な液晶化合物の構造に関するパラメータを比較したものである。(構造計算には、半経験的方法によるMOPAC Ver.6及び構造最適化モデルAM1を用いた。)
表4からわかるように、本発明の液晶化合物は、シアノ基が存在しないにも関わらず、それに準ずる中位の双極子モーメントを有する。
【0037】
【表4】

【0038】
試験例1
図1は、本発明の液晶化合物をシクロヘキサン系母液晶に5%混合し、アンチパラレル配向処理したhomogenousセルに封入し、ECBモードにおける電圧−光透過強度特性を示す。典型的な水平配向ECBの特性を示すことがわかった。
【0039】
表5は、同様の母液晶に5%混合した液晶組成物の、基板表面におけるプレティルト角を示す。本発明の液晶化合物を混合した系では、明らかにプレティルト角が約0.4〜0.5°上昇していた。
なお、フェニルビシクロヘキサン系或いはフェニルエステル系液晶に5〜10%混合し、同様の計測をしたところ、いずれも0.4°〜0.5°プレティルト角が上昇していた。(N=10回の平均)
【0040】
【表5】

セル :アンチパラレル配向
ギャップ7.1μm
ポリイミド系配向膜
25℃
計測機:LCD7000(大塚電子製)および透過率法専用ソフト
【0041】
試験例2
表6は、同様にアンチパラレル配向セルに、本発明の液晶化合物を封入し、電圧−静電容量特性から求めた、フレデリック転移電圧(Vc,セル内の液晶分子が電場トルクにより、基板界面から立ち上がる時の電圧)及び弾性(スプレイ)定数K11の値を示す。このように、混合により、弾性定数が数%上昇した。
【0042】
【表6】

但し、
Vc :フレデリック転移電圧
11 :拡がり(splay)弾性定数 ・・・・よく知られた電界法により計算
ここでは、絶対値でなく、ZLI2293のセルNo.1の値を1.00として規格化値で表わした。
セル :アンチパラレル配向
ポリイミド系配向膜(プレティルト角4.8°)
測定機 :HP(ヒューレットパッカード)製インピーダンスメータ 4284
周波数 1kHz
【0043】
試験例4
図2に示す様に、ガラス基板1及び2の上に透明電極(例えばITO膜:Indium Tin Oxide膜)からなる電極3を形成し、この上に加熱縮合型ポリイミドの配向膜4をスピンコートした(膜厚約600Å)。次いで、レーヨン製ラビング布によって配向膜表面をラビング処理し、更にガラス基板1及び2を、エポキシ系シール材6を枠状に印刷・硬化させて接着することにより、空セルを作成した。
この空隙間に表7に示す液晶組成物7を封入し(基板間のギャップは6.5μm)、セルのガラス基板外面に偏光板及び位相差板の積層体を貼り付けて240°ツイストSTN液晶表示素子とした。この液晶表示素子を交流スタティック駆動し、20℃で急峻性及びしきい値(Vth 及びVsat)を、計測した(電機光学特性計測装置モデルLCD7000、大塚電子製)。
但し急峻性(γ)及びしきい値の定義は下記の通りである。
γ=V10(θ=90°、T=20℃)/V90(θ=90°、T=20℃)
(視角90°方向で、透過率10%と90%を与える電圧値の比)
Vth:透過率10%電圧値=V10 Vsat:透過率90%電圧値=V90
尚、θは視角方向の極角を表し、90°はパネル面の法線方向を表す。
【0044】
【表7】

得られた組成物の物性値を表8、電気光学特性を表9に示す。
【0045】
【表8】

【0046】
【表9】

【0047】
試験例5
試験例4で作成したセルを、60℃(常湿)の温度条件下で、無通電で500時間保存し、室温に取り出してセルの電流値を測定(100Hz,0.1V印加)したところ
高温保存前の初期値に対し、2%程度の上昇率でほとんど変化がなかった。
【0048】
試験例6
試験例4に示したセルの電圧保持率を室温(約23℃)で計測したところ、97.5%であった(電圧保持率計測システム モデルVHR、東陽テクニカ製)。なお、本発明の化合物を混合しないZLI−2293の値は、98.5%であった。
【0049】
試験例7
母液晶組成物をZLI−2293の代わりにZLI−1565(フェニルシクロヘキサン系含有組成物、メルク社製)を用い、パネルをTN型にする以外は試験例4と同様に液晶表示素子を作成したところ、良好な電気光学特性を得た。
【0050】
上述した実施形態では単純マトリクス型のSTN及びTN型の液晶表示素子の例について説明したが、本発明はTFT或いはMIM、ダイオード等の非線形スイッチング素子を用いたIPS、OCB等のアクティブマトリックス型にも適用することも可能で、この場合においても本発明の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の化合物は液晶素子に使用される液晶材料として有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明に係る試験例1のECBモードにおける電圧-光透過強度特性を示すグラフである。
【図2】図2は、液晶表示素子(液晶セル)の構造を示す例である。
【符号の説明】
【0053】
1,2…ガラス基板、3…電極、4…加熱縮合型ポリイミドの配向膜、6…エポキシ系シール材、7…液晶組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】


(式中Xはトリフルオロメチル基又はジフルオロメチル基であり、Yはハロゲン原子であり、Zは炭素数2〜12のアルキル基又は炭素数2〜12のアルコキシ基であり、mは0〜2の整数である。)で表される2-フェニルピリジン系化合物
【請求項2】
Xがトリフルオロメチル基であり、Zが炭素数2〜12のアルコキシ基であり、mが0である請求項1に記載の2-フェニルピリジン系化合物。
【請求項3】
前記請求項1に記載の2−フェニルピリジン系化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする液晶組成物。
【請求項4】
前記請求項3に記載の液晶組成物を所定の配向処理をなした基板間に挟持したことを特徴とする液晶表示素子。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−77005(P2006−77005A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231842(P2005−231842)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】